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第2回 ERISE セミナー EBRDという小窓から何が見える? (岐路に立つ世界をEBRDの視点から眺める試み) 2019112国際開発研究者協会(SRID) キャリア開発事業担当幹事 東京大学校友会 国際機関銀杏会 共同代表 産業技術大学院大学 経営倫理研究所(ERISE) ユーラシア産業技術研究院(EIIT) 所長 EBRDビシュケク、スコピエ、プリシュティナ、タシケント事務所長 中沢賢治

EBRDという小窓から何が見える? (岐路に立つ世 …...第2回ERISE セミナー EBRDという小窓から何が見える?(岐路に立つ世界をEBRDの視点から眺める試み)

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第2回 ERISEセミナー

EBRDという小窓から何が見える?

(岐路に立つ世界をEBRDの視点から眺める試み)

2019年1月12日

国際開発研究者協会(SRID) キャリア開発事業担当幹事東京大学校友会国際機関銀杏会共同代表

産業技術大学院大学経営倫理研究所(ERISE) ユーラシア産業技術研究院(EIIT) 所長元EBRDビシュケク、スコピエ、プリシュティナ、タシケント事務所長

中沢賢治

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講師紹介

1988年 ペンシルベニア大学行政管理学(MGA)修士課程修了

1991年 国際連合工業開発機関(UNIDO)ウィーン本部環境調整課

1992年 国際連合環境開発会議(UNCED、アースサミット)、UNIDOミッションメンバー

1993年 欧州復興開発銀行(EBRD)入行。電力事業チーム・バンカー

1999年 EBRDタシケント(ウズベキスタン)事務所長

2004年 EBRDスコピエ(マケドニア)事務所長(コソボ事務所長兼務)

2004-07年 プロクレジットマケドニア(マイクロフィイナンス専門バンク)取締役、同コソボ取締役

2007年 EBRDビシュケク(キルギス共和国)事務所長

2010年 キルギス危機国際機関合同アセスメント事務局メンバー

2011年 EBRD本部銀行局中小企業支援チームシニア・マネージャー

2015年 EBRD退職

現在 国際開発研究者協会(SRID) キャリア開発事業担当幹事

産業技術大学院大学経営倫理研究所(ERISE) EIIT所長

東京大学校友会国際機関銀杏会共同代表

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岐路に立つ世界をEBRDという小窓から眺める試み

• EBRD初代総裁ジャック・アタリ氏。

• 経済学者、思想家、作家。

• 仏ミッテラン大統領の側近。1981年から91年まで大統領補佐官。

(写真は2019年1月6日放送のTBSテレビ「サンデーモーニング」より)

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EBRDが経験した4つの時代

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1.冷戦終結後のEU拡大を支援した時代(1991年のEBRD発足から2000年代半ばまで)

• EUはEBRD設立以来の最大株主

• 冷戦終結後のEU拡大の動き(2000年代半ばの第5次EU拡大で鈍化)

➢ 1998年 チェコ、エストニア、ハンガリー、ポーランド、スロべニアの交渉開始。

➢ 2000年 ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキアの交渉開始。

➢ 2004年 チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、スロベニア、バルト3国の8か国がEU加盟。

➢ 2007年 ブルガリア、ルーマニアが加盟。

➢ 同年 チェコはEBRDの活動対象国から卒業。

➢ 2013年 クロアチアがEU加盟。

• アイスランド、トルコ、セルビア、FYRマケドニア、モンテネグロは加盟候補国のまま

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2.EBRDの地理的拡大の時代(2000年半ばからEU拡大ペースの鈍化と並行して現れた動き)

• 2006年 モンゴル

• 2008年 トルコ

➢ 2011年1月、チュニジア、ジャスミン革命

➢ 2011年2月、エジプト、ムバラク政権崩壊

➢ 2011年5月、 G8首脳会議(ドーヴィル)は「アラブ蜂起に関する決議」で、EBRDの適切な地域的拡大を要請)-

• 2012年 エジプト

• 2013年 ヨルダン、モロッコ、チュニジア

• 2014年 キプロス

➢ リビアが加盟国として参加

• 2015年 ギリシャ (2020年までの限定付き)

• 2017年 ウェストバンクとガザ (オペレーションはヨルダン事務所から)

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3.EBRDの質的拡大の時代(世界金融危機以後)

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• 2008 年9月にリーマン・ショックに続き、世界金融危機が発生。

➢ 2009 年1月 EBRDの世界金融危機対応パッケージ発表(20プロジェクト、EUR 800 million)。

➢ 2009年10月 EBRD、EIB、世銀が協調し危機対応。Joint IFIsアクション・プラン(総額 EUR33 billion)。

➢ 西側の銀行と旧ソ連圏の中央銀行・地場銀行に強いネットワークの活用。

➢ EBRDが卒業し始めていた中欧を含む地域で、手じまいを始めた西側の銀行に代わり地場銀行、企業への支援を強化。

(例: 2008年のキルギス共和国では融資額が6倍(USD100 mil)増加)

• 「アラブの春」、「ギリシャ危機」などポスト・クライシス地域での活動が活発化。

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4.欧州複合危機の時代と今後の動向(EBRDは何処へ向かうのか?)

• ユーロ危機、移民・難民危機、同時多発テロを経た欧州の行方?

– EBRD筆頭株主であるEUと加盟各国の動きはEBRDにどう影響する?

– EBRD主要メンバーとしての英国の動向、Brexit交渉の行方?

• 中国のプレゼンスの拡大

– 2015年 中国のEBRD加盟(AIIBとの協調)

– 2016年5月 EBRDとAIIBの協力についてMOU締結(a framework for strategic and operational cooperation)

– 2016年6月 第1号協調融資案件調印。タジキスタンの道路プロジェクト(首都ドシャンベからウズベク国境への道路建設)

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EBRDとは何なのか?

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国際連合システムの一覧図 (出所:外務省資料)(世銀グループ、IMFは国連システムの専門機関、主な地域開銀は安全、危機対応などで連携)

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第二次世界大戦後に設立された主な国際金融機関

1944年: ブレトンウッズ会議 (UN Monetary and Financial Conference with delegates from 44 allied nations at Bretton Woods, New Hampshire)

• 国際通貨基金(IMF) 1945年• 世銀グループ(IBRD 1945年、IFC 1956年、IDA 1960年、MIGA 1988年)

• 米州開発銀行 (IDB) 1959年• アフリカ開発銀行 (AfDB) 1964年• アジア開発銀行 (ADB) 1966年

1989年: ベルリンの壁崩壊1991年12月: 旧ソ連の消滅

• 欧州復興開発銀行(EBRD) 1991年

✓ 他にも多くの多国籍金融機関(AIIB, Eurasian DB, Islamic DB, etc.)が存在。

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国際開発金融機関(MDBs)の分布図 (出所:財務省資料)

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冷戦終結後にEBRDが設立された目的

• 市場経済への移行を支援

• 環境に配慮した持続可能な開発

• 外資の誘致

• 民間セクターの支援と地方自治体サービス業務の改革

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EBRDの活動対象37か国 (最新はキプロス、ウェストバンク&ガザ)

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マケドニア

ウズベキスタン

キルギス共和国

コソボ

アゼルバイジャン

ジョージア

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EBRDの加盟国、資本金、年間投融資額

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• 1991年設立

• 中欧、中央アジア、コーカサス、バルカン、地中海地域の37か国で活動

• 67の株主(65加盟国+EU+EIB)

• 資本金 €30 billion

• 年間投融資額

412件、€9.7 billion (2017年)

• 民間部門比率 71%

EU 27 Countries (1)

58.7%

EBRD region excluding EU

13.8%

Others8.7%

USA10.1%

Japan8.6%

(1) Includes European Community and European Investment Bank

(EIB) each at 3%. Among other EU countries: France, Germany,

Italy, and the UK each holds 8.6%

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EBRDの強み(活動に様々な条件が付く理由)

オペレーションの強み

• 活動対象地域の実態把握(43の現地事務所)

• マイノリティ参加(35%まで)によるパートナーの役割

• リスクの分担(政治リスクを含む)

• 投融資を引き付けるためのカタリストの役割

• 民間・公共の両部門で活動

• 企業統治とコンプライアンスの高いスタンダード

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国際機関としての制度的な強み

• 優良な国際的ビジネス・パートナーとして長期の協力関係

• 活動国政府およびEBRD加盟各国政府との信頼関係

• 民主主義を支援する国際機関としてのレバレッジ効果

• Preferred Creditor Status

• トリプルA 評価 (AAA credit rating)

• 市場のギャップを補完する役割

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EBRDの組織図

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財務局

リスク&リソーシズ局

オペレーションズ・ポリシーズ局

事務総長室

法務局

チーフ・エコノミスト室

内部監査局

チーフ・コンプライアンス・オフィサー室

ガヴァナー(各国代表)

理事会

総裁

コミュニケーションズ局

銀行局株主各国

評価部

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EBRDの実務から: サウンド・バンキングって何?

• サウンド・バンキング=基本に忠実であること

• 財務3表?何を読み取るべきか?

– Income statement

– Balance sheet

– Cash flow statement

• どう表現すべきか?さまざまなstake holderをどう説得できるか?

• 対策の立て方

– 大学で会計学の基礎をおさえておく。

– ビジネススクールで会計学の知識をグローバルなレベルに引き上げる。

• 実務を通じて学ばざるを得ないが基礎がないと苦労する。

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EBRDの実務から: 基本的なチェック項目

• 借り手は誰か?どんな人(法人)か(数字で検証できるか?)

• プロジェクトは実現可能か?

• 製品の市場は存在しているか?

• 競争の状態と見通しは?

• プロジェクトは持続可能か?

• リスクは何か?リスク回避のために何について合意すべきか?

• よくある質問=「どんな金利で貸してくれますか?」

• 金利の基本(調達コスト+営業コスト+リスク)

• benchmark としてのLIBOR (ロンドン銀行間レート)

• リスクアセスメントができなければ金利は決まらない。

– マーケットの水準? (市場からの調達コスト、LIBORがベンチマーク)

– リスクの評価?貸した金は返ってきそうか?(個別案件の判断)

– どのくらいの貸し倒れ率を想定?

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EBRDの実務から: コストについて考えるべき!

• cost recovery はsustainableであるための前提条件。

• コスト割れ融資はグラントであることに注意。

• マイクロファイナンスの金利は何故年利30-40%になるのか?

• 金利を構成するコスト要因

– 金融市場からの調達コスト

– 為替リスクヘッジのコスト

– 営業コスト

– リスクプレミアム

• 海外からの調達コストは高い(調達コスト+リスクヘッジコスト)

• 国内に資金はあるか?

• 銀行の健全性を測る有力指標の一つが預金(deposit)が銀行資産に占める比率である理由は?

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EBRDの実務から: Integrity check とは何か?

• 何をチェックするのか?

– 事業者の資産はどのように形成されたのか?

– 事業者はビジネスの実際のオーナーか?

– 政府トップとの関係は?

– 犯罪、反社会的行為との関わりは?

– メディア上での風評は?

• すべてをチェックするのは不可能。

• 有料で調査機関を使うのが無理なこともある。

– 地域社会やマーケットで既知の情報は確認済か?

– 自分だけが知らなくて皆は知っている状態はNG!

– オンラインでの検索も時には有効

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冷戦終結後にEUが経験した変動・危機

主な出来事 主な帰結

冷戦終結 (1989-91) ベルリンの壁崩壊(1989)旧ソ連消滅(1991)

EU創立 (1993)欧州通貨統合への合意

欧州憲法条約批准否決(2005年)

フランスとオランダで国民投票 欧州統合の機運に歯止め

ロシア・ジョージア戦争(2008)

南オセチアをめぐる対立 冷戦終結後の国境線変更(旧ユーゴ諸国を除くと初)

ユーロ危機 (2009~) 2008年世界金融危機2010年ギリシャ危機

欧州各国で緊縮財政の強化

ウクライナ危機 (2013~) 2014年ロシアのクリミア併合 対ロシア制裁ロシアのシリア危機介入

移民・難民危機 (2015~) 2015年6月マケドニア入管法改正2015年9月溺死写真の世界配信

シェンゲン協定による人の自由移動について不安感

テロ多発危機 (2015~) 2015年11月パリ2016年3月ブリュッセル

ナショナリズムの台頭

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EU加盟の28か国は何処へ向かうのか?

• 60年を超えるEUの歴史

➢ 1952年 欧州石炭鉄鋼共同体を形成 (ベルギー、西ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ルクセンブルグの6か国)。

➢ 1973年 第1次EU拡大(英国、デンマーク、アイルランド加盟)。

• 冷戦終結後の動き

➢ 1993年 マーストリヒト条約(欧州連合条約)の発効によりEU設立。

➢ 1995年 中立を維持してきたオーストリア、スウェーデン、フィンランドが加盟。

➢ 1999年 欧州通貨ユーロの創設。

➢ 2004年 第5次拡大により旧ソ連・東欧諸国が初めてEU加盟(チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、スロベニア、バルト3国の8か国)

➢ 2007年 第5次EU拡大の完結(ブルガリア、ルーマニアの加盟)。

➢ 2013年 クロアチア加盟。

• 旧ソ連圏諸国10ヵ国が2004年から2007年にかけての第5次EU拡大でEUに加盟。

• 21世紀に入りEU新加盟は東欧、旧ユーゴ圏のみ。

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英国とEUの距離感について

第二次大戦後の英国の立場

• 米ソが覇権を競った東西冷戦下で発言力を増すために強いヨーロッパが必要。

• 軍事共同体のNATOに加えて、経済共同体としてのEU。

• 現実的で柔軟な姿勢はチャーチルの時代から一貫。ボリス・ジョンソンは2014年「チャーチル・ファクター」の中でチャーチルの立場を解説。

➢ EU懐疑派も親EU派のどちらにとってもチャーチルは自分たちの先達。

➢ 「主権の一部を委譲すること」については、NATOの例も米との同盟の例もありEU参加に限ったことではない。

➢ 欧州統合は当時のロシアなど対外的な脅威への防波堤として必要。

冷戦下の英国の立場

• 1979年、サッチャー首相就任(主権国家の集まりとしての緩やかな統合を主張)。

• 1988年、ブリュージュ演説(必要以上の統合に反対)。

冷戦終結後の英国の立場

• 1990年のサッチャー退陣後、メージャー首相がマーストリヒト条約に調印(EU加盟合意)。

• 1997年に発足した労働党のブレア首相は、親欧州に方針転換。

• 通貨政策については国家主権(sovereignty)を反映すべく、ユーロ圏に不参加。

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英国のEU離脱 (Brexit) を問う国民投票 2016年6月23日

• 国民投票の背景– 2010年にキャメロン首相の保守党が13年ぶりに政権奪取。– 保守党は伝統的にEU懐疑派が多数。– EUをめぐる対立抗争にけりをつける手段として国民投票を行う方針が浮上。(1975年のEC加盟をめぐる国民投票以来)

– ブレア首相時代から、親EU路線の労働党。– 労働党は残留派多数。コービン党首は保守党との共闘を警戒。

(2014年のスコットランド独立国民投票での教訓)

• 金融危機後の緊縮財政下で医療、教育、住宅状況についてひっ迫感。

• 300万人(英国人口の5%)を越えるEUからの移民の増加により職や生活が影響を受けていると感じる人々が離脱支持。– 55歳以上の57%、65歳以上の60%– 労働者層と低所得者層の64%– 新聞各紙の間での論調の乖離 (読者層に受ける論調に偏る傾向)(開高健のエッセイにも登場する名物フィッシュ&チップスと新聞の関係?)

• 2019年1月現在でもBrexitについての英国の世論は賛否が拮抗。

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冷戦終結後のヨーロッパとわたしのEBRD体験 1

世の中の動き

• 1989年11月、ベルリンの壁崩壊

• 1991年1月、湾岸戦争開始

• 1991年8月、モスクワで強硬派によるクーデター未遂

(旧ソ連圏の国々の独立の動きが加速)

• 1991年12月、旧ソ連の消滅

• 1991年12月、EU設立条約

• 1993年11月、EU発足

わたしの体験

• 1991年1月、UNIDO勤務(ウィーン)

• 1991年4月、EBRD設立

• 1993年1月、EBRD勤務(ロンドン)

• 1994年8月、EBRD電力チームメンバーとしてシュワルナゼ大統領と会見

• 1994年12月、アゼルバイジャンの第1号案件イェニケンド水力発電所プロジェクト調印

• 1994年12月、ジョージア電力リハビリプロジェクト調印

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冷戦終結後のヨーロッパとわたしのEBRD体験 2

世の中の動き

• 1998年8月、ロシア財政危機

• 1999年2月、タシケントで4か所同時爆破テロ発生

• 1999年8月、キルギス邦人人質事件発生

• 1999年、コソボ紛争激化(NATOによる空爆)

• 2001年9月、世界同時多発テロ発生

(アフガニスタン情勢の変化)

わたしの体験

• 1995年3月、バクーでクーデター未遂事件に遭遇

• 1997年2月、キルギス出張。イシク・クル湖経由のクムトー金山への電力供給送電線プロジェクトのモニタリング

• 1997年12月、キルギス・タラス送電線網整備プロジェクト調印

• 1999年3月、グルジアのイングリ・ダム改修工事の発表の朝にアブカジアとジョージアの軍事衝突

• 1999年4月、EBRD事務所長としてタシケントに赴任

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冷戦終結後のヨーロッパとわたしのEBRD体験 3

世の中の動き

• 2003年11月、グルジア・バラ革命

• 2004年3月-7月、タシケントで自爆テロ、ブハラで爆弾テロ

• 2004年、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、 スロベニア、バルト3国がEU加盟

• 2004年11月、ウクライナ・オレンジ革命

• 2005年、マケドニアがEU加盟候補国になる

• 2005年、キルギス・チューリップ革命• 2005年5月、ウズベキスタン・アンディジャ

ン事件

• 2007年、ブルガリア、ルーマニアEU加盟

わたしの体験

• 2003年5月、タシケントでEBRD年次総会(中央アジア初の3千人規模の国際会議)

• 2004年、早期移行国(ETCs)イニシャティブ開始

• 2004年11月、スコピエ事務所長として赴任

• 2006年 モンゴルが活動対象国になる

• 2007年5月、コソボでのインタビューがニュースになる

• 2007年 チェコが活動対象国から卒業

• 2007年11月、ビシュケク事務所長として赴任

• 2008年、西バルカン地元企業ファシリティ開

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冷戦終結後のヨーロッパとわたしのEBRD体験 4

世の中の動き

• 2008年2月、コソボ独立

• 2008年8月、ロシア・グルジア戦争

• 2008年9月、リーマンショック。世界金融危機始まる

• 2010年1月、ギリシャ発でユーロ危機の始まり

• 2010年4月、キルギス政変

• 2011年1月、チュニジア、ジャスミン革命、アラブの春始まる

• 2011年2月、エジプト、ムバラク政権崩壊

わたしの体験

• 2008年、トルコが活動対象国になる

• 2009年、キルギスで12年ぶりに対政府融資案件(ビシュケク下水道整備)を調印

• 2009年、国際金融危機のキルギスへの波及に対応してEBRDの融資額が急増

• 2010年、キルギス政変の前後、AUB銀行事件への対応

• 2011年5月、G8首脳会議(ドーヴィル)がEBRDの地域的拡大を要請

• 2011年、12月本部中小企業支援チームに赴任

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冷戦終結後のヨーロッパとわたしのEBRD体験 5

世の中の動き

• 2013年6月、エジプト政変

• 2014年2月、ウクライナ騒乱と政権交代

• 2014年3月、ロシアによるクリミア併合

• 2014年7月、EUが対ロシア制裁を決定

• 2015年6月、ギリシャ危機の高まり

• 2015年、難民問題の顕在化

• 2015年12月、AIIB設立

わたしの体験

• 2012年、エジプトが活動対象国になる

• 2013年、ジョルダン、モロッコ、チュニジアが活動対象国になる

• 2013年6月、政変直前のカイロ出張

• 2014年、キプロスが活動対象国になる、リビアが加盟

• 2014年7月末、ロシアにおける新規活動を凍結

• 2015年 ギリシャが活動対象国になる(2020年までの限定付き)

• 2015年12月、中国がEBRDに加盟

• 2016年3月、EBRD東京事務所設立

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その他の参考資料

財務省国際機関パンフレット MDBsで働く日本人スタッフの声 (2013年、2014年)https://www.mof.go.jp/international_policy/publication/mdbs2014/10.html

東京大学教養学部2013年度講義 「グローバル時代をどう生きるか:プロフェッショナルが語る新たな可能性」 (2013年7月)http://komex-fye.c.u-tokyo.ac.jp/global/about/%e4%b8%ad%e6%b2%a2%e8%b3%a2%e6%b2%bb7%e6%9c%888%e6%97%a5/

早稲田大学ICCリサーチ・プロジェクト Vol. 5 「知らない領域に飛び込んで世界を広げてみよう」 (2011年12月)http://global.waseda-icc.jp/archives/311

「中央アジア・モンゴルにおける欧州復興開発銀行 (EBRD) の活動について」 第151回中央ユーラシア調査会報告 (2016年4月) http://www.iist.or.jp/2016/h28-eurasia-0404-1/

「キルギス共和国-天山の麓、シルクロードの湖の国」 中央アジアと日本シリーズ第4回 中央ユーラシア調査会報告(2013年7月)http://www.iist.or.jp/jp-m/2013/0221-0898

「欧州復興開発銀行の現場から見た中央アジア」 第114回-1 中央ユーラシア調査会報告(2011年10月)http://www.iist.or.jp/2011/h23-eurasia-1021-1

「SRIDキャリア開発事業について」 SRIDジャーナル12号 (2017年1月)http://www.sridonline.org/career.html

「途上国アルバム 中央アジアの国々」 SRIDジャーナル12号 (2017年1月)http://www.sridonline.org/j/doc/j201701s11a01.pdf#zoo

「SRIDキャリア開発事業: 若者たちからのフィードバック」 SRIDジャーナル13号 (2017年8月)http://www.sridonline.org/j/doc/j201708s03a06.pdf#zoom=100

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