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ニュートン におけるブラックホール シミュレーション 大学 A04-164 2008 2 13

卒業論文 ニュートン重力理論におけるブラックホール形成の ......1 序論 1.1 背景 アインシュタインによって作られた一般相対性理論では、重力が時空の歪みとして表される。ブラックホールは、非常に強い重力場の存在により光が抜け出すことができない時空領域のこ

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卒業論文ニュートン重力理論におけるブラックホール形成の

シミュレーション

大阪工業大学情報科学部 情報科学科学生番号 A04-164

山田 祐太

2008 年 2 月 13 日

Page 2: 卒業論文 ニュートン重力理論におけるブラックホール形成の ......1 序論 1.1 背景 アインシュタインによって作られた一般相対性理論では、重力が時空の歪みとして表される。ブラックホールは、非常に強い重力場の存在により光が抜け出すことができない時空領域のこ

目 次

1 序論 4

1.1 背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.2 本研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.3 本研究の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.4 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2 アインシュタイン方程式 6

2.1 一般相対性理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 計量テンソルと計量の座標変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.3 スカラー、ベクトル、テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.4 共変微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.5 リーマン曲率テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.6 重力場の方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

3 シュワルツシルド時空 11

3.1 シュワルツシルド解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3.2 動径方向に進む光の振舞い . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.3 エディントン・フィンケルスタイン座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.4 宇宙検閲官仮説 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

4 シミュレーションの方法 15

4.1 Newtonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4.1.1 粒子の運動方程式 (Newtonの運動方程式) . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4.2 Post-Newtonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

4.2.1 Post-Newton近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

4.2.2 格子の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4.2.3 重力ポテンシャルと計量の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4.2.4 計量の微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4.2.5 粒子の運動方程式 (測地線方程式) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5 ブラックホール形成の判定方法 21

5.1 一般論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

5.2 ニュートン力学の脱出速度による判定方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

5.3 光の測地線による判定方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

6 結果 24

6.1 モデル 1:球対称な重力崩壊のシミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

6.1.1 Newtonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

6.1.2 Post-Newtonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

6.1.3 Newtonian、Post-Newtonianプログラムの結果の比較と検証 . . . . . . . 31

6.2 モデル 2:ドーナツ型分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

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7 まとめ 37

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1 序論

1.1 背景

アインシュタインによって作られた一般相対性理論では、重力が時空の歪みとして表される。ブラックホールは、非常に強い重力場の存在により光が抜け出すことができない時空領域のことである。このブラックホールを特徴付けているものが事象の地平線であり、外側の観測者にとっては観測可能な領域を分断する境界面となっている。よって、我々はブラックホールの内部を観測することができない。しかし、これまでの理論的な研究から、ブラックホールの中心には時空特異点が存在することが証明されている。時空特異点とは曲率、密度など様々な物理量が無限大に発散する点であり、物理法則が破綻する点である。そのため、特異点では物理現象を議論することができないが、特異点はブラックホールの内側にあるため、我々は特異点の情報について知ることができず、物理法則には何の影響もない。ペンローズは、時空特異点は必ず事象の地平線によって隠されるという宇宙検閲官仮説 (cosmic censorship hypothesis)を提唱した。この事象の地平線によって隠される特異点とは逆に、観測可能な特異点を裸の特異点と呼ぶ。一般相対性理論には、この裸の特異点を示唆する解が発見されており、また、数値シミュレーションにおいても事象の地平線を持たない特異点が形成されたという研究結果がある。つまり、宇宙検閲官仮説には反例が見つかっており、現在でも仮説の有効限界は不明である。

1.2 本研究の目的

以上の研究の流れの中で、本研究は将来的に宇宙検閲官仮説を数値的に検証することを目的として、その準備となる幾つかのプログラム作成を行った。一つは、2次の Post-Newton近似した計量を用いて、任意の数の粒子を測地線方程式を解くことで時間発展させることである。もう一つは、光の測地線方程式を解き、その軌跡からブラックホール形成の判定を行うことである。また、ニュートンの運動方程式を解いて粒子を時間発展させるプログラムも作成し、測地線方程式を解くプログラムと比較して粒子の動きの違いを検証した。

1.3 本研究の概要

本研究で行うシミュレーションの概要を以下に示す。

• 図 1の様に球対称に粒子を分布させ、粒子の初速度を 0にして時間発展させる。これは、球対称な重力崩壊を想定している。

• 図 2の様にドーナツ型に粒子を分布させ、粒子の初速度を 0にして時間発展させる。これは将来的に、リング状のブラックホール形成を題材にすることを念頭に置いたものである。

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図 1: 初期条件 1

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図 2: 初期条件 2

1.4 本論文の構成

本論文の構成は以下の通りである。まず第 2章では、アインシュタイン方程式について簡単に説明する。第 3章のシュワルツシルド時空では、シュワルツシルド・ブラックホールとシュワルツシルド時空での光の振る舞いについて説明する。そして第 4章では、今回行ったシミュレーション方法について詳しく説明し、それ以降の章ではシミュレーションの結果と考察を述べる。

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2 アインシュタイン方程式この章では、一般相対性理論で使われている数学とアインシュタイン方程式を説明する。尚、この章では、文献 [1, 2]を参照している。

2.1 一般相対性理論

1905年にアインシュタインによって発表された特殊相対性理論には、次の二つの限界があった。一つは座標変換が慣性系の間の変換であるローレンツ変換に限られること、もう一つは重力の法則を特殊相対性理論を満たすように定式化できなかったことである。アインシュタインはこの二つの限界を克服し、一般相対性理論を完成させた。一般相対性理論は、次の二つの主張を前提に創られた。一つは、「物理法則は、すべての座標系で同等である」という一般相対性原理である。これは、物理法則はすべての慣性系で同等であるという特殊相対性原理の一般化といえる。もう一つは、「重力を受けている系と加速度系は局所的には区別できない」という等価原理である。ニュートンの運動方程式は

mId2r

dt2= f (2.1)

と表される。式 (2.1)で左辺にあらわれる質量を慣性質量と呼ぶことにしてmIと書くことにする。また、式 (2.1)の右辺は万有引力の法則では

f = −GmGm′G

r2

r

r(2.2)

と表される。式 (2.2)で重力の法則にあらわれる質量をmGと表記し、重力質量と呼ぶことにする。本来、式 (2.1)の左辺と右辺はまったく独立なはずであるが、mG

mIの値は物体によらず一定

であることが実験でわかっている。また、ある点 rにおける重力加速度を g(r)とすれば

r′ = r − 1

2g(r)t2 (2.3)

とおくことで、すべての物体に対して同時に

mId2r′

dt2= mI

d2r

dt2− mIg(r) = (mG − mI)g(r) = 0 (2.4)

とすることができる。これは、rのまわりの十分小さな領域では重力がないような系 (局所慣性系)が実現可能である。これを等価原理と呼ぶ。例えば、自由落下する座標系の質点は重力を受けないといえる。このように、重力は他の力と性質が異なり、このことは重力は本来、運動方程式の右辺ではなく、左辺に自動的に入り込むという可能性を示唆する。

2.2 計量テンソルと計量の座標変換

一般相対性理論では、リーマン幾何学が用いられている。リーマン幾何学が対象となる空間をリーマン空間と呼び、これは距離が定義された空間である。また、空間と時間を合わせたも

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のを時空と呼び、リーマン幾何学が対象となる時空をリーマン時空と呼ぶ。リーマン時空では座標値が微小量異なる 2点 xµと xµ + dxµの間の距離 dsが

ds2 =3∑

µ=0

3∑ν=0

gµν(x)dxµdxν (2.5)

と定義される。リーマン時空の場合、空間座標 xi(i = 1, 2, 3)と時間座標 x0 ≡ tを合わせて四次元時空の世界点を xµ(µ = 0, 1, 2, 3)と書く。また、この ds2は 4次元時空を考えるなら、世界線のことである。式 (2.5)で、gµν(x)を計量テンソルという。この計量テンソルによって距離が定義され、空間の性質が特徴付けられる。相対論では添え字に関して和をとることが頻繁に起こるため、上下に繰り返された添え字については必ず和をとるというアインシュタインの縮約記法が使われる。すると式 (2.5)は

ds2 = gµν(x)dxµdxν (2.6)

のように書ける。1つのリーマン時空の計量が x座標系で gµνで表されるとき、世界線は式 (2.6)となり、x′座標系で計量が g′

µν(x′)で表されるなら

ds′2 = g′µν(x

′)dx′µdx′ν (2.7)

となる。2点間の距離はどの座標系で表現しても同じ値になる。従って

gµν(x)dxµdxν = g′µν(x

′)dx′µdx′ν (2.8)

でなければならない。この式より、計量テンソルが

g′αβ(x′) = gµν(x)

∂xµ

∂x′α∂xν

∂x′β (2.9)

のように変換されることがわかる。

2.3 スカラー、ベクトル、テンソル

物理量は、一般座標変換に対する変換性から、スカラー、ベクトル、テンソルに分類される。それぞれの量の定義を以下に示す。

• スカラー: 座標による表現とは無関係に定義されている量のこと。x座標系においてS(x)

が定義されているとき、座標変換された関数を S ′(x′)とすると、

S(x) = S ′(x′) (2.10)

でなければならない。

• 反変ベクトル: 式 (2.11)の変換則に従って変換される量を反変ベクトルという。

Aµ′(x′) =

∂xµ′

∂xαAα(x) (2.11)

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• 共変ベクトル: 式 (2.12)の変換則に従って変換される量を共変ベクトルという。

Bµ′(x′) =∂xα

∂xµ′ Bα(x) (2.12)

• テンソル: 座標変換に対して次のように変換するテンソルを n階反変m階共変の混合テンソルという。

T µ′1···µ′

mν′1···ν′

n(x′) =

(∂xµ′

1

∂xα1

)· · ·

(∂xµ′

m

∂xαm

)·(

∂xβ1

∂xν′1

)· · ·

(∂xβn

∂xν′n

)Tα1···αm

β1···βn(x) (2.13)

2.4 共変微分

あるスカラー量 φ(x)が与えられた時、その微分 ∂φ(x)∂xµ はベクトル量であり、変換則から共変

ベクトルであることがわかる。よって、スカラーの微分はテンソル量である。しかし、共変ベクトル Vµの微分はミンコフスキー時空のときのみテンソル量となり、一般的にテンソル量とならない。リーマン時空での微分は、次の式で示す共変微分でなければならない。

∇νVµ =∂Vµ

∂xν− Γα

µνVα (2.14)

これは、共変ベクトルの共変微分である。また、反変ベクトルの共変微分は

∇νVµ =

∂V µ

∂xν+ Γµ

ανVα (2.15)

となる。ここで Γαµν は接続係数であり、いろいろな定義の仕方がありうるが、通常は次の式

の様に計量の偏微分の組み合わせで表現される。

Γαµν =

1

2gαβ

(∂gµβ

∂xν+

∂gνβ

∂xµ− ∂gµν

∂xβ

)(2.16)

これを特にクリストッフェル記号と呼ぶ。また、混合テンソルの共変微分は次の式のようになる。

∇βT µν =

∂T µν

∂xβ+ Γµ

αβTαν − Γα

νβT µα (2.17)

2.5 リーマン曲率テンソル

リーマン曲率テンソルは、ある閉じた経路を一周したときのベクトルの平行移動の差から定義される。ここで、次の様な式を考える。

(∇α∇β −∇β∇α)V µ (2.18)

まず∇α∇βV µを計算すると

∇α∇βV µ = ∂α(∇βV µ) + Γµλα(∇βV λ) − Γν

βα(∇νVµ)

= ∂α∂βV µ + ∂αΓµλβV λ + Γµ

λβ∂αV λ + Γµλα(∇βV λ) − Γν

βα(∇νVµ)

= ∂α∂βV µ + (∂αΓµλβ + Γµ

ραΓρλβ)V λ + (Γµ

λβ∂αV λ + Γµλα∂βV λ) − Γν

βα(∇νVµ)

(2.19)

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となる。最後の式の結果のなかで添字 αと βについて対称でないのは第 2項のみなので、それを反対称化すれば、

(∇α∇β −∇β∇α)V µ = (∂αΓµλβ − ∂βΓµ

λα + ΓµραΓρ

λβ − ΓµρβΓρ

λα)V λ (2.20)

式 (2.20)の括弧内部をリーマン曲率テンソルとして

Rµλαβ ≡ ∂αΓµ

λβ − ∂βΓµλα + Γµ

ραΓρλβ − Γµ

ρβΓρλα (2.21)

のように定義する。また、添字の縮約により次のリッチテンソル

Rαβ ≡ Rµαµβ (2.22)

と、スカラー曲率R ≡ Rµ

µ = gαβRµαµβ (2.23)

が定義される。

2.6 重力場の方程式

アインシュタインは何らかの物質分布を与えたときに、時空の性質を決める計量 gµν を導くことができる方程式があるのではないかという考察から、次のような式を考えた。

Gµν(gαβ) = κTµν  (2.24)

この式で κは定数であり、Tµν はエネルギー運動量テンソルと呼ばれ、物質分布を表す対称テンソルである。式 (2.24)は、物質場のエネルギー運動量の保存則∇νT

µν = 0と無矛盾であるためには、∇νG

µν = 0である必要がある。Gµνはビアンキの恒等式

∇γRµ

ναβ + ∇αRµνβγ + ∇βRµ

νγα = 0 (2.25)

から導くことができる。式 (2.25)において、gγνをかけ νを上添字にして γと縮約し、βを µと縮約すると

∇γRµγ

αµ + ∇αRµγµγ + ∇µR

µγγα = 0 (2.26)

となる。上の式で、第 2項はスカラー曲率の定義より∇αRである。また、リーマン曲率テンソルの対称性

Rαβµν = −Rβαµν (2.27)

Rαβµν = −Rαβνµ (2.28)

より、第 3項は第 1項と等しいことがわかる。するとこの式は共変微分をまとめて

∇β

(Rαβ − 1

2gαβR

)= 0 (2.29)

となる。括弧内部を

Gµν = Rµν − 1

2gµνR (2.30)

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と定義する。このGµν をアインシュタインテンソルと呼ぶ。式 (2.24)で残っている κの値は、非相対論的な場合にニュートン理論での重力場の方程式に帰着することを要請して決定される。最終的に式 (2.24)は次のように書くことができる。

Rµν −1

2gµνR = 8πTµν (2.31)

式 (2.31)をアインシュタイン方程式と呼ぶ。

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3 シュワルツシルド時空この章では文献 [1, 2, 3]を参照している。

3.1 シュワルツシルド解

アインシュタイン方程式から球対称、静的、真空な時空の計量を求める。球対称であるので球座標

x0 = t, x1 = r, x2 = θ, x3 = φ (3.1)

を用いて考える。すると球対称で静的な時空の計量は

ds2 = f1(r)dt2 + f2(r)dr2 + f3(r)(dθ2 + sin2 θdφ2) (3.2)

と書くことができる。仮に dtdθ、dtdφ、drdθ、drdφ などの項が入ると球対称ではなくなり、dtdr、dtdθ、dtdφなどの項が入ると静的ではなくなる。さらに、r′2 = f3(r)で定義される r′

座標を導入するとds2 = h1(r

′)dt2 + h2(r′)dr′2 + r′2(dθ2 + sin2 θdφ2) (3.3)

という計量で表すことができる。h1(r′)、h2(r

′)は r′2 = f3(r)を rについて解いた式、r = g(r′)

を f1(r)、f2(r)に代入したもの、f1(g(r′))、f2(g(r′))である。さらに、微分や積分計算を簡単にするために、h1(r

′) ≡ −eν(r′)、h2(r′) ≡ eλ(r′)とし、新しい関数 ν(r′)、λ(r′)を導入すると計量は

ds2 = −eν(r)dt2 + eλ(r)dr2 + r2(dθ2 + sin2 θdφ2) (3.4)

と書ける。ただし、便宜のため r′を rに置き換えた。式 (3.4)の計量を使って、まず、クリストッフェル記号を求める。クリストッフェル記号の 0

でない成分はΓ0

01 = Γ010 = 1

2ν ′, Γ1

00 = 12eν−λν ′

Γ111 = 1

2λ′, Γ1

22 = −re−λ, Γ133 = −e−λr sin2 θ

Γ212 = Γ2

21 = 1r, Γ2

33 = − sin θ cos θ

Γ313 = Γ3

31 = 1r, Γ3

23 = Γ332 = cot θ

(3.5)

となる。ここで ′は rに関する微分を示している。さらに、リッチテンソルは

R00 = eν−λ

(ν ′′

2+

(ν ′)2

4− ν ′λ′

4+

ν ′

r

)(3.6)

R11 = −ν ′′

2− (ν ′)2

4+

ν ′λ′

4+

λ′

r(3.7)

R22 = 1 − e−λ + re−λ

(λ′

2− ν ′

2

)(3.8)

R33 = R22 sin2 θ (3.9)

となる。

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式 (2.31)の縮約をとると

gµνRνµ − 1

2gµνgνµR = 8πgµνTνµ (3.10)

−R = 8πT (3.11)

となる。式 (3.11)を式 (2.31)に代入すると

Rµν = 8π

(Tµν −

1

2Tgµν

)(3.12)

となり、真空解であるならRµν = 0を解けばよいことになる。まず式 (3.6)、(3.7)から

ν ′ + λ′ = 0 → ν + λ = 0 (3.13)

が得られる。ここで、式 (3.4)は r → ∞でミンコフスキー計量になるとして積分定数は 0とした。次に式 (3.13)を用いて、式 (3.8)から νを消去すると

−1 +d

dr(re−λ) = 0 → e−λ = 1 − C

r(3.14)

となるので、計量は

ds2 = −(

1 − C

r

)dt2 +

(1 − C

r

)−1

dr2 + r2(dθ2 + sin2 θdφ2) (3.15)

と書くことができる。式 (3.15)で積分定数 C は、中心の質点の質量mと関係していると考えられ、遠方での粒子の運動がニュートンの万有引力の法則による運動と近似的に一致しなければならないという条件から定める。質量Mの重力場のポテンシャルはニュートンの万有引力の法則では

φ(r) = −M

r  (3.16)

と表される。ニュートン近似で計量 g00は

g00 = −1 − 2φ (3.17)

と表すことができ、式 (3.17)に式 (3.16)を代入すると

g00 = −1 +2M

r(3.18)

が得られる。式 (3.15)の g00 = −(1−C/r)が r → ∞で式 (3.18)に帰さねばならない条件から、C = 2M でなければならない。よって、球対称、静的、真空な時空の計量は

ds2 = −(

1 − 2M

r

)dt2 +

(1 − 2M

r

)−1

dr2 + r2(dθ2 + sin2 θdφ2) (3.19)

となり、この解はシュワルツシルド解と呼ばれる。式 (3.19)は r À 2M であるなら漸近的にミンコフスキー時空に近づくが、r = 0で時間成分と r成分が、r = 2M で r成分が無限大に発散する。また、r < 2M の領域では gtt > 0、grr < 0となり、時間と空間の性質が逆転する。r = 2M は球対称静的なブラックホールのホライズンと一致することが知られており、シュワルツシルド半径と呼ぶ。(以下 rs)

12

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3.2 動径方向に進む光の振舞い

rsの性質を調べるために、動径方向に進む光を考える。動径方向に進む光は、λを任意のパラメータとして

dλ=

dλ= 0 (3.20)

の条件下で計量を考えればよく、よって式 (3.19)より

dt

dr= ±

(1 − rs

r

)−1

(r > rs) (3.21)

で定まる軌跡に従う。式 (6)を積分すると外側へ向かう光の解

t = r + rs ln|r − rs| + constant (3.22)

と、内側へ向かう光の解t = −(r + rs ln|r − rs| + constant) (3.23)

が得られる。式 (6)より、光が r = r2(> rs)から中心方向にある r = r1(< r2)に到達するためにかかる時間は

∆t = −∫ r1

r2

(1 − rs

r

)−1

dr =

∫ r2

r1

(1 +

rs/r

1 − rs/r

)dr

= r2 − r1 + rs lnr2 − rs

r1 − rs

(3.24)

となる。式 (3.24)より、r2から出た光が rsに到達するまでの時間、rsから出た光が r2に到達するまでの時間は、無限遠にいる観測者の時計ではともに無限大になることがわかる。

r = rsは物理的な特異点ではなく、次の 3.3で説明するエディントン・フィンケルスタイン座標などを用いることで除去できる特異点である。しかし、遠方にいる観測者にとっては観測可能な領域を分断する境界面となっていることから、事象の地平線 (event horizon)と呼ばれる。

3.3 エディントン・フィンケルスタイン座標

式 (3.19)で r = rsが特異点になるのは (t,r,θ,φ)座標を使っているからである。ここで、tを次で定義する t̄に変更する。

t̄ = t + rs ln(r − rs) (3.25)

この (t̄,r,θ,φ)をエディントン・フィンケルスタイン座標と呼ぶ。式 (3.25)と式 (3.23)から、

t̄ = −r + constant (3.26)

dt̄

dr= −1 (3.27)

となり、エディントン・フィンケルスタイン座標では内側へ向かう光の軌跡は−45◦の直線になる。式 (3.25)を全微分することで

dt̄ = dt +rs

r − rs

dr (3.28)

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が得られる。これを式 (3.19)に代入することで、シュワルツシルド計量は

ds2 = −(

1 − 2M

r

)dt̄2 +

4M

rdt̄dr +

(1 +

2M

r

)dr2 + r2(dθ2 + sin2θdφ2) (3.29)

と表すことができる。式 (3.29)は、r = rsで計量が発散しない。

3.4 宇宙検閲官仮説

r = rsは座標特異点であり、座標変換によって除去できることは上で示したが、r = 0はどんな座標変換をしても除去することができない真の特異点となっている。それは、リーマン曲率テンソルのスカラー積

RµνλσRµνλσ = 48M2r−6 (3.30)

からもわかり、r = 0でスカラー積は無限大に発散する。特異点では物理量が無限大に発散しており、特異点が存在すると以後の因果関係を予測することができないので物理法則は破綻する。しかし、ブラックホールは事象の地平線より内部の情報を知ることができないので、特異点の情報も知ることができない。よって、地平線の外側の物理法則に影響はない。これとは反対に、事象の地平線を持たない特異点を裸の特異点と呼ぶ。裸の特異点はブラックホールのそれとは違い、曲率やその他の物理量が無限大に発散している点を観測できることになる。宇宙検閲官仮説は、この裸の特異点は自然界には発生せず、特異点が事象の地平線によって必ず隠されるという仮説であり、ペンローズが 1969年に提唱した。この宇宙検閲官仮説には反例がいくつか見つかっている。1992年にシャピーロ、トイコルスキーが行った軸対称に分布したテスト粒子の崩壊シミュレーションでは、事象の地平線が形成されずに物質の外側でリーマン曲率テンソルのスカラー積が無限大になった (文献 [4])。このことから、裸の特異点が形成されたと考えられた。また、ブラックホール形成の臨界現象の研究を通じても、形成されるホライズン半径と質量の間にスケーリング則が成立することから、質量ゼロの極限で裸の特異点が生じても不思議ではない。宇宙検閲官仮説は反例が見つかっているものの、その一般性はどこまで成立するのか不明であるというのが現状である。本研究では、特異点に関する議論は行っていないが、光の測地線方程式を解くことでのブラックホール形成の判定を行うことを目標とし、物質を多体粒子で表すプログラムを作成した。次の章では、そのシミュレーション方法について詳しく述べる。

14

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4 シミュレーションの方法この章では、シミュレーションの方法について説明する。(本研究では、光速度 c、万有引力定数Gを 1とおいている)

本来の目的としては、Einstein方程式を直接シミュレーションすべきであるが、ここではある程度簡略化したモデルを用いた。よって、粒子の運動は測地線方程式を解くが、時空の歪みはNewton近似した計量を用いる。すなわち、時空の歪みはNewtonianである。まずはNewtonの運動方程式を用いるシミュレーション方法を説明し、次に測地線方程式を用いるシミュレーション方法を説明する。(論文中では、それぞれNewtonian、Post-Newtonian

と書くことにする)

4.1 Newtonian

4.1.1 粒子の運動方程式 (Newtonの運動方程式)

万有引力の大きさF は、二つの物体の質量M、mと物体間の距離を rとして

F = GMm

r2· r

r(4.1)

と表される。ここで rは位置ベクトルである。よって、ニュートンの運動方程式を使って多体問題を解く場合、以下の式を解くことになる。

d2xi

dt2=

N∑j 6=i,1≤j≤N

mj(xj − xi)

(xj − xi)3 (4.2)

ここで、N は粒子の総数、xj、mjはそれぞれの粒子の位置と質量である。式 (4.2)はルンゲ・クッタ法を使って解いた。式 (4.2)は二階微分方程式であるため

dxi

dt= vi (4.3)

dvi

dt=

N∑j 6=i,1≤j≤N

mj(xj − xi)

(xj − xi)3 (4.4)

とすることで、二つの一階微分方程式に置き換えた。プログラムのテストとして、円運動テストと運動量保存則のテストを行った。円運動テストには、まず二つの粒子を用意する。一つを固定し、もう一方の粒子に円運動の初速度を与える。この二つの粒子を太陽と地球とし、G = c = 1、L = 1.5 × 1011[m] = 1AU とおくとプログラムでの質量と時間は次のように決まる。

M =L × c2

G≈ 2.0 × 1038[kg] (4.5)

T =L

c≈ 0.5 × 103[s] (4.6)

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太陽の質量は 2.0 × 1030[kg]であり、1年を約 31536000[s]とすると、プログラム上での太陽の質量と 1年は式 (4.5)、(4.6)から次のようにして求められる。

(2.0 × 1030[kg])/(2.0 × 1038[kg]) = 1.0 × 10−8 (4.7)

(31536000[s])/(0.5 × 103[s]) = 63072 (4.8)

太陽を原点に、x = 1.0、y = 0、z = 0の位置に地球を配置し、円運動の初速度を与えて t = 63072

まで計算した結果、図 3のようになった。(図は 1ヶ月ごとにプロットしている)

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��

����

���

���

���� �� ���� � ��� � ���

図 3: 円運動テスト (Newtonian)

約 1年で 1周していることから、プログラムが正しいことが示された。次に、運動量保存則のテストについて説明する。このテストは、多体問題を解くときに用いる。質点系の全運動量は次式で定義される。

p =N∑

i=1

mivi (4.9)

運動量は、時間発展しても一定でなければならない。運動量の誤差は、

誤差 (%) =

∑Ni=1 mivi∑N

i=1 mi|vi|× 100 (4.10)

で求めることにした。

4.2 Post-Newtonian

4.2.1 Post-Newton近似

Post-Newton近似は一般相対性理論における近似のひとつであり、物質の速度 vの光速度 c

に対する比、ε ≡ (v/c)2 ¿ 1を展開パラメータとして、計量を展開する。1次近似で計量は

g00 = −1 + 2U (4.11)

gij = δij (i, j = 1, 2, 3) (4.12)

16

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となり、2次近似で計量は

g00 = −1 + 2U − 2U2 (4.13)

gij = (1 + 2U)δij (4.14)

となる。上の式で、U = −φであり、φは重力ポテンシャル (3.16)である。これらは物質の運動が小さいときに近似的に成立する式であるが、本研究では、各時刻で重力ポテンシャルを評価することにより、計量をこの形で表現することにする。

4.2.2 格子の設定

測地線方程式を用いて多体問題を解くプログラムでは、まず空間に有限な格子を分布させる。これは領域内の関数分布を離散化し、格子点での重力ポテンシャル、計量とその微分、及びクリストッフェル記号を求めるためである。今回の研究では、(t, x, y, z)座標を使っており、プログラムでは 3次元配列を用いることで格子点を設定している。また、格子点の数は 503個に設定した。論文では、格子点の幅を∆x、∆y、∆z、格子の境界を xmin、xmaxと表記する。

4.2.3 重力ポテンシャルと計量の計算

各格子点での重力ポテンシャルは、各粒子からのポテンシャルの寄与が球対称で計算されると仮定したニュートンの式表現で求めることにし、次の式で求める。

φ(x, y, z) = −N∑

i=1

Mi√(x − xi)2 + (y − yi)2 + (z − zi)2

(4.15)

ここで xi、yi、ziは粒子の位置、Miは質量、N は粒子の総数である。重力ポテンシャルが求まると、式 (4.13)、(4.14)から格子点の計量 gµνを決定することができる。

4.2.4 計量の微分

計量の微分はクリストッフェル記号を求めるために必要であり、本研究では直交座標を用いているため、t、x、y、zでの微分を求める。x、y、zに関する微分は次の中心差分式

∂xf(x, y, z) =f(x + ∆x, y, z) − f(x − ∆x, y, z)

2∆x(4.16)

を使った。また、境界の微分に関しては

∂xf(xmin, y, z) = 2∂xf(xmin + ∆x, y, z) − ∂xf(xmin + 2∆x, y, z) (4.17)

∂xf(xmax, y, z) = 2∂xf(xmax − ∆x, y, z) − ∂xf(xmax − 2∆x, y, z) (4.18)

で求めることにした。

17

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時間微分に関しては、t = 0での計量の時間微分は 0とし、t = ∆tでの計量の微分は次式で求めた。

∂tf(t) =f(t) − f(t − ∆t)

∆t(4.19)

t = 2∆t以降は 2次精度の後退差分式、

∂tf(t) =3f(t) − 4f(t − ∆t) + f(t − 2∆t)

2∆t(4.20)

を使って求めた。

4.2.5 粒子の運動方程式 (測地線方程式)

一般相対性理論では、重力は時空の歪みとし説明され、重力以外の力が働かない場合の質点の軌道は測地線となる。測地線方程式は

d2xα

dτ 2+ Γα

µν

dxµ

dxν

dτ= 0 (4.21)

と書け、計量を求めることにより、粒子の運動を決めることができる。粒子の位置でのクリストッフェル記号の値は、粒子のまわりの 8個の格子点で求めたクリストッフェル記号を用いて次のように決定した。例えば、粒子が (xp, yp, zp)という位置にあるとき、(xp, yp, zp)を含む格子点 8つを選ぶ。8点は (xn, yn, zn)~(xn + ∆x, yn + ∆y, zn + ∆z)で表現されるが、この z一定面を図 4に示す。図 4の a、b、c、dの値はそれぞれ

a = xp − xn (4.22)

b = ∆x − a (4.23)

c = yp − yn (4.24)

d = ∆y − c (4.25)

のように決まる。よって、Γ(xp, yp, zn)は

Γ(xp, yp, zn) =

(Γ(x, y, zn)

b

∆x+ Γ(xn + ∆x, yn, zn)

a

∆x

)d

∆y

+

(Γ(xn, yn + ∆y, zn)

b

∆x+ Γ(xn + ∆x, yn + ∆y, zn)

a

∆x

)c

∆y

(4.26)

となる。同じようにして、Γ(xp, yp, zn + ∆z)は次のようになる。

Γ(xp, yp, zn + ∆z) =

(Γ(xn, yn, zn + ∆z)

b

∆x+ Γ(xn + ∆x, yn, zn + ∆z)

a

∆x

)d

∆y

+

(Γ(xn, yn + ∆y, zn + ∆z)

b

∆x+ Γ(xn + ∆x, yn + ∆y, zn + ∆z)

a

∆x

)c

∆y

(4.27)

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式 (4.26)、式 (4.27)より Γ(xp, yp, zp)は次のように求められる。

Γ(xp, yp, zp) = Γ(xp, yp, zn)zn + ∆z − zp

∆z+ Γ(xp, yp, zn + ∆z)

zp − zn

∆z(4.28)

Γ(xn , y n, zn)

�(xp , y p , zn)

Γ(xn , y n + ∆ y , zn) Γ(xn + ∆ x, y n + ∆ y , zn)

Γ(xn + ∆ x, y n , zn) a b

Γ(xn + a, y n + ∆ y , zn)

c

d

Γ(xn + a, y n , zn)

図 4: クリストッフェル記号の計算例 (z一定面)

式 (4.21)は 4次のルンゲ・クッタ法を使って解いた。式 (4.21)に関してもニュートンの運動方程式と同様、次の様に二つの一階微分方程式に置き換える。

dxα

dt= uα (4.29)

duα

dt= −Γα

µνuµuν (4.30)

シミュレーションでは、x、y、z座標を使っているので、四元速度ベクトル u1、u2、u3はそれぞれ x、y、z方向の速度である。u0に関しては四元ベクトルの定義式

uµuµ = −1  (4.31)

から求める。式 (4.31)は

g00u0u0 + g11u

1u1 + g22u2u2 + g33u

3u3 = −1 (4.32)

と書くことができ、u0は

u0 =

√−1 − g11u1u1 − g22u2u2 − g33u3u3

g00

(4.33)

となる。プログラムのテストはNewtonianと同様、円運動テストと運動量保存則のテストを行った。図 5に円運動テストの結果を示す。(図は 1ヶ月ごとにプロットしている)

19

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図 5: 円運動テスト (Post-Newtonian)

約 1年で 1周していることから、プログラムが正しいことが示された。

20

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5 ブラックホール形成の判定方法

5.1 一般論

ブラックホール形成の判定は、ブラックホールを特徴付けている事象の地平線 (event horizon)

が形成されたかどうかを特定することである。事象の地平線は、光が無限遠に達することができない因果関係の境界として定義される。事象の地平線は球対称、静的な時空では 3章で説明したシュワルツシルド半径と一致する。また、このシュワルツシルド半径はニュートン力学の脱出速度と偶然に一致する。原理的に事象の地平線は、光の測地線方程式を解き、その軌跡から特定することができる。しかし、数値シミュレーションで事象の地平線を特定することは困難なため、領域内で局所的に定義される見かけの地平線 (apparent horizon)が用いられることが多い。見かけの地平線は、空間的な 2次元閉曲面から垂直に光を発し、外向きに光が進まないとき、その 2次元閉曲面を捕獲面と呼び、その捕獲面の最も外側として定義される。時空が非静的な場合、事象の地平線と見かけの地平線は一致しないが、見かけの地平線が存在するならば、その外側に事象の地平線が必ず存在することが証明されている。本研究では、ニュートン力学の脱出速度からブラックホール形成の判定を行うプログラムと、事象の地平線を特定するため、光の測地線方程式を解き、その軌跡から判定を行うプログラムを作成した。

5.2 ニュートン力学の脱出速度による判定方法

本研究では、ブラックホールが形成されたかどうかの判定として、ニュートン力学での脱出速度から行った。脱出速度は第 2宇宙速度とも呼ばれ、質量Mの天体からの脱出速度は次式で求まる。

v =

√2M

r  (5.1)

ここで、rは天体の中心からの距離である。粒子が球対称な分布をしているならば、質量が中心の一点に集中していると考えても良い。よって、ある半径の脱出速度は、その半径内の粒子の数をカウントすることで式 (5.1)で求めることができる。脱出速度 vが v ≥ cなら光でも脱出できないのでブラックホールが形成されたことになる。

5.3 光の測地線による判定方法

測地線方程式を用いるプログラムでは、ニュートンの脱出速度による判定と、光の軌跡からブラックホールの形成を判定する方法を用いた。光の場合に関しても、測地線方程式を解くことで軌跡を求めることができる。粒子との違いは、光は ds2 = 0となるため、固有時間 τ をパラメータにすることができないことである。よって何らかのパラメータを用いて測地線の道のりを特徴づける。例えば λを光線の軌跡の長さと考えても良い。光の測地線方程式は

d2xα

dλ2+ Γα

µν

dxµ

dxν

dλ= 0 (5.2)

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となる。テストとして、シュワルツシルド時空をエディントン・フィンケルスタイン座標で表現した式 (3.29)の計量を使って光の測地線方程式を解く。dθ = dφ = 0とすると式 (3.29)は次式のようになる。

−(

1 − 2m

r

)dt̄2 +

4m

rdt̄dr +

(1 +

2m

r

)dr2 = 0 (5.3)

式 (5.3)を dλ2で割ると

−(

1 − 2m

r

)dt̄2

dλ2+

4m

r

dt̄

dr

dλ+

(1 +

2m

r

)dr2

dλ2= 0 (5.4)

となる。ここで、dt̄

dλ= u0 = 1とおくと、式 (5.4)は

dr

dλ= u1に関する 2次方程式となり、内向

きと外向きの光の速度 u1が求められる。m = 1としたときの結果は図 6のようになった。

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図 6: 外向きの光の軌跡

図 6で、シュワルツシルド半径は r = 2であるが、r = 2より内側からは外に抜け出せないことがわかる。よって、光の軌跡から事象の地平線を特定することができる。さらに、本研究では、backward photon method(文献 [5])を用いた判定も行った。backward

photon methodは、光の測地線方程式を、時間を逆向きにして解く方法である。backward photon

methodでは、dt̄

dλ= u0 = −1とおき、時間発展させる。結果は図 7のようになる。

22

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図 7: backward photon method

図 7をみると、光子が事象の地平線に収束していることがわかる。forward timeで測地線方程式を解くと、図 6からもわかるように事象の地平線から少しずれただけで内側、もしくは外側に進んでしまうため、事象の地平線の特定が困難である。backward photon methodは事象の地平線の位置を正確に特定することができる。しかし、実際の数値シミュレーションで動的に変化する時空での事象の地平線を特定する際には、事象の地平線出現が予想される領域でのデータを蓄積してゆく必要が生じる。

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6 結果

6.1 モデル1:球対称な重力崩壊のシミュレーション

ここでは球対称な重力崩壊を想定したシミュレーションの結果を説明する。t = 0で図 1のような初期配置から始める。粒子は r = 1の範囲に 2500個が一様に分布しているとした。また、粒子の初速度は 0とした。粒子 1個の質量をM = 0.00006に設定し、シュワルツシルド半径 r = 2Mより r = 0.3付近でブラックホールの地平線が形成されると予想した。また、モデル1では時間を free-fall timeで表す。free-fall timeは多体系や星形成などで扱われる時間スケールの一つで、初速度 0で運動を始めさせて、収縮し終わるまでの時間のことである。密度一定の球形の流体が重力ポテンシャルのもとで収縮する自由落下時間 tff は

tff =

√3π

32Gρ(6.1)

となる。以下では tff を典型的な時間スケールとして用いることにする。

6.1.1 Newtonian

まずはニュートンの運動方程式を用いた場合の時間発展の結果を示す。図 9に粒子のスナップショットを、図 8に密度分布の変化を示す。図 9より、時間が経つに連れ粒子が中心付近に集まっていることがわかる。また図 8より、中心付近の密度が短時間で急激に増加していることがわかる (グラフで ρ0は、t = 0での密度分布の平均値である)。

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図 8: 密度分布の変化 (∆r = 0.06)

24

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図 9: ニュートンの運動方程式を用いて時間発展したときの粒子のスナップショット

(粒子分布を xy座標に射影したもの)

25

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ニュートンの運動方程式を解くプログラムでは、脱出速度によるブラックホール形成の判定を行った。図 10は t = 1.05tff での脱出速度を示している。図より、r = 0.2付近で脱出速度が光速に、それより内側で光速を超えていることがわかる。よって、r = 0.2で事象の地平線が形成されたと考えられる。時刻 tff 付近で、且つ、系のシュワルツシルド半径付近でブラックホールの地平線らしき値が得られたことは、この数値コードがほぼ正しく状況を計算していることを示している。

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図 10: t = 1.05tff での脱出速度

また、ニュートンの運動方程式を解くプログラムでは図 11に示すようにほとんど誤差が出ず、精度よく計算を行うことが出来た。

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図 11: Newtonianプログラムで時間発展したときの運動量誤差

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Page 27: 卒業論文 ニュートン重力理論におけるブラックホール形成の ......1 序論 1.1 背景 アインシュタインによって作られた一般相対性理論では、重力が時空の歪みとして表される。ブラックホールは、非常に強い重力場の存在により光が抜け出すことができない時空領域のこ

しかし、ニュートンの運動方程式を用いたプログラムでは、粒子同士が接近することで近接散乱が起こる。また、粒子が狭い範囲に集中することで近接散乱が頻繁に起こるため、図 12のようにブラックホールが形成されたと判定された t = 1.05tff 以降は中心の密度の値が下がっている。粒子が r > 0.3に広がっていることからも本当のブラックホールが出来たとは言えないことになる。

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図 12: t = 1.05tff 以降の密度分布 (∆r = 0.06)

もともとニュートン力学では、ブラックホール形成となる根拠はないので、近接散乱の効果が勝るという結果は、ある意味正しいと考えられる。

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6.1.2 Post-Newtonian

次に、測地線方程式を用いた場合の時間発展の結果を説明する。図 15に粒子のスナップショットを示す。測地線方程式を用いた時間発展に関しても、時間が経つに連れ中心に粒子が集まっていく様子がわかる。ここで、図 13に、座標 (xn, 0, 0)での計量 gxxの移り変わりを示す。図13をみると、特に t = 1.05tff から t = 1.29tff の間で急激な計量の変化が起こっている。これは、t = 1.29tff で原点付近に粒子が集中していることを示している。

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図 13: 計量 gxxの移り変わり

また、この t = 1.29tff で脱出速度が r = 0.3付近で光速度になった (図 14)。よって、ニュートンの運動方程式を用いた場合に比べ、広い範囲で事象の地平線が形成されたと考えられる。

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図 14: t = 1.29tff での脱出速度

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図 15: 測地線方程式を用いて時間発展したときの粒子のスナップショット

(粒子分布を xy座標に射影したもの)

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測地線方程式を用いて時間発展を行うプログラムでは、r = 0.3付近で脱出速度が光速となった t = 1.29tff で、光の測地線方程式を解くことでのブラックホール形成の判定を行った。図 16

は、左から前進時間で測地線方程式を解いた結果と、backward photon methodの結果を示している。前進時間では x = 0から、backward photon methodでは x = 1の位置から光を出す。また、プログラムを簡単にするためどちらも x方向の動きだけを考えた。

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図 16: 光の軌跡によるブラックホール形成の判定方法

図 16より光の軌跡による判定では、光が r = 0.3よりも外側へ抜け出せるという結果となった。また、backward photon methodによる判定でも、事象の地平線が形成されていないという結果になった。この Post-Newton近似による時間発展に関しても、図 17に示すようにブラックホールが形成された t = 1.29tff 以降は中心密度が下がった。r > 0.3に粒子が分布していることからも、本当のブラックホールができたとはいえない。また、図 18は時間ごとの各粒子の速度の平均を示しているが、tff 以降に速度の平均値が光速の 30%に達していることがわかる。これは、Post-Newton近似が正しく粒子の運動を計算できていない可能性を示唆している。Post-Newton

近似の検証については、次の章で詳しく説明する。

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図 17: t = 1.29tff 以降の密度分布 (∆r = 0.06)

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図 18: モデル 1での粒子の速度の平均値

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6.1.3 Newtonian、Post-Newtonianプログラムの結果の比較と検証

二つのプログラムでシミュレーションを行った結果、ニュートン力学での脱出速度による判定ではどちらもブラックホールの地平線が形成された。しかし、粒子の集まり方に違いが見られた。図 19、図 20はNewtonian、Post-Newtonianプログラムで時間発展した場合の中心密度の変化を比較したものである。図 20は原点から r = 0.3の範囲の密度を表しているが、Newtonianプログラムの方がPost-Newtonianプログラムより早い時間で粒子が集まっていくことがわかる。また、Post-Newtonianプログラムの方が中心密度が大きくなっていることがわかる。それに対し、原点から r = 0.1の範囲の密度を表している図 20のグラフを見ると、Newtonianプログラムの方が中心密度がかなり大きくなっている。よって、r = 0.3の範囲でみるとPost-Newtonian

の方が粒子が集まっているといえるが、r = 0.1というより細かい範囲でみるなら Newtonian

プログラムの方が粒子が集まっているといえる。前に示した図 14の脱出速度のグラフからも、Post-Newtonianプログラムでは中心付近での粒子の分布が少ないことがわかる。この原因は、粒子の四元速度 u0 が時間が経つにつれ大きくなるからであると考えられる。四元速度 u0 は

u0 ≡ dt

dτと定義され、プログラムで時間幅 dtは一定であるから、u0が大きくなるということは

dτ は小さくなる。よって、粒子が進まなくなるため、中心に粒子が集まらないと考えられる。

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図 19: |r| ≤ 0.3の平均密度の比較

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図 20: |r| ≤ 0.1の平均密度の比較

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また、Post-Newtonianプログラムでは、脱出速度による判定ではブラックホールの地平線が形成されたが、光の測地線方程式を解くことによる判定では地平線が形成されなかった。この原因としては、ブラックホールが形成されるような強い重力場では、Post-Newton近似によるシミュレーションが正しく時空の発展を追えていないという可能性が考えられる。ここで、次の図 21を示す。図 21は、同じ初期配置から格子幅∆x = 0.06、∆x = 0.125で時間発展したときの vx、vy、vzの運動量誤差 (式 (4.10))の比較である。

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図 21: 運動量誤差の比較

図 21をみると、free-fall timeまでの時間発展の初期段階では、精度良く計算が行われていることがわかる。しかし、free-fall timeをこえてからは誤差が増大している。以上のことが格子幅に関係なくみられたことから、やはり Post-Newton近似が原因である可能性が高い。結論としては、粒子が崩壊していく初期段階ではPost-Newton近似は十分良い精度をだすが、ブラックホールが形成されているような重力崩壊の最終段階の時間発展には、一般相対論による計算が必要であると考えられる。

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6.2 モデル2:ドーナツ型分布

モデル 2では図 2のように粒子 2500個をドーナツ型に分布させたものを時間発展させた。現在、5次元時空でのブラックリング解の存在が知られており、将来的にこのブラックリングの性質を研究するために、モデル 2ではドーナツ型に分布した粒子を考えた。このシミュレーションは、測地線方程式を用いたプログラムで時間発展を行い、モデル 1と同様にブラックホール形成の判定を行う。粒子の質量はモデル 1と同じM = 0.00006とし、粒子の初速度は 0とした。まず始めに、総質量をドーナツ型の体積で割った密度を式 (6.1)に代入し、その free-fall timeを tff0とする。結果として、図 22の粒子のスナップショットと、図 23

の座標 (xn, 0, 0)での計量 gxxを示す。

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図 22: ドーナツ型分布を時間発展したときの粒子のスナップショット (線状に崩壊するまで)

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図 23: 計量 gxxの移り変わり (線状に崩壊するまで)

図 22をみると、ドーナツ型に分布した粒子が時刻 tff0付近で線上に集まっている様子がわかる。また、図 23からも、線状に粒子が集まっている部分で gxxの値が増大しているのがわかる。ドーナツ型分布の場合、まず粒子が線状に崩壊していくことがわかった。次に、モデル 1のように球対称に分布させた場合の free-fall timeを tff1とし、モデル 2のドーナツ型分布した粒子が最終的に一点に崩壊していく free-fall timeを tff = tff0 + tff1とおいた。図 25に粒子のスナップショットと、図 24の座標 (xn, 0, 0)での計量 gxxを示す。

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図 24: 計量 gxxの移り変わり (一点に崩壊するまで)

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図 25: ドーナツ型分布を時間発展したときの粒子のスナップショット (一点に崩壊するまで)

図 25のスナップショットと、図 24の計量 gxxのグラフからもわかるように、時刻 tff 付近で原点に粒子が集中していることがわかる。また、図 26は時刻 t = 1.06tff での脱出速度を示しているが、r = 0.3付近で脱出速度の値が大きくなっている。尚、モデル 2の時間発展で、脱出速度によるブラックホール形成の判定を行ったが、脱出速度が光速を超えることはなかった。

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図 26: t = 1.06tff での脱出速度

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図 27: ドーナツ型分布を時間発展したときの速度の平均値

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図 28: ドーナツ型分布を時間発展したときの運動量誤差

図 27より、モデル 2に関しても tff 以降に速度の平均が光速の 30%を超えた。また、誤差に関しても、モデル 1と同様、図 28より時刻 tff を越えたあたりで運動量誤差が大きくなった。以上のように、時刻 tff 付近で粒子が原点付近に集中し、また、脱出速度の値が大きくなったことから、ドーナツ型分布した粒子を初速度 0で時間発展した場合、まず線状に集まっていき、その後一点に向かって崩壊していくという結果は、ある程度正しいと考えられる。しかし、時刻 tff を過ぎてから運動量誤差が増大したことから、Post-Newton近似でのシミュレーションでは、粒子が集中して強い重力が働くようなケースには対応できないことがわかった。

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7 まとめ本研究で、当初の目的であった 2次のPost-Newton近似した計量を用いて粒子を時間発展するプログラム、光の測地線方程式を解き、その軌跡からブラックホール形成の判定を行うプログラムを作成することができた。シミュレーションの結果、モデル 1のような球対称な粒子分布を想定した場合、ニュートン力学の脱出速度からの判定ではブラックホールが形成されることがわかった。しかし、本当のブラックホールでないことも確かである。また、Post-Newton近似した計量を用いてのブラックホール形成のシミュレーションには、限界があることがわかった。理由のひとつは、重力が強くなっている場所では運動量保存則が成り立っていないということである。もうひとつの理由は、Post-Newton近似した計量を用いての光の軌跡によるブラックホール形成の判定が行えなかったことである。Post-Newton近似はそもそも一般相対性理論の弱場近似であり、テストでも行ったように惑星の運動のシミュレーションなど重力が小さい場合では十分な精度でシミュレーションを行うことができる。また、結果の章でも示したように、時間発展の初期段階ではPost-Newton近似によるシミュレーションは十分な精度で行えることがわかった。しかし、ブラックホールが形成され、強い重力が働くような時空を考える場合に関しては、Post-Newton近似では限界があることがわかった。今後の目標は、今回行ったシミュレーションを一般相対性理論で行うこと、また、宇宙検閲官仮説を検証するため特異点形成の有無を調べることができるコードを開発することである。

参考文献[1] 佐藤勝彦、相対性理論、岩波書店 (1996)

[2] 須藤靖、一般相対論入門、日本評論社 (2005)

[3] Ray d’Inverno、Introducing Einstein’s Relativity、Clarendon Press(1992)

[4] S. L. Shapiro and S. A. Teukolsky, Phys. Rev. Lett. 66, 994(1991)

[5] Peter Anninos et al, Phys. Rev. Lett. 74, 630(1995)

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