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平成 30 年度 修士論文 製材および CLT を用いた鋼板添え板ロングビス 斜め打ち接合のせん断耐力の評価 北海道大学 大学院農学院 環境資源学専攻 修士課程 川村浩勝

製材および CLT を用いた鋼板添え板ロングビス 斜 …lab.agr.hokudai.ac.jp/woosci/timeng/theses/pdf/2017/...CLTとは、直交集成板と呼ばれるもので、ラミナを繊維方向が互いに直交になる

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平成 30年度

修士論文

製材および CLTを用いた鋼板添え板ロングビス

斜め打ち接合のせん断耐力の評価

北海道大学 大学院農学院

環境資源学専攻 修士課程

川村浩勝

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目次

1 緒言 P.2

2 鋼板添え板ロングビス斜め打ち接合の概要 P.4

3 ヨーロッパ型降伏理論

3.1 製材および CLTを対象とした降伏理論 P.5

3.2 接合部係数の導出 P.7

3.3 降伏モード P.10

3.4 打ち込み角度 P.13

4 めり込み試験

4.1 実験概要 P.15

4.2 5%オフセット法 P.17

4.3 解析および結果 P.19

5 引き抜き試験

5.1 実験概要 P.22

5.2 解析および結果 P.24

6 推定値 P.26

7 鋼板添え板ロングビス斜め打ち一面せん断試験

7.1 実験概要 P.28

7.2 解析および結果 P.31

7.3 破壊性状 P.35

8 総括 P.37

9 謝辞 P.38

10 参考文献 P.39

11 付録:降伏モードごとの模式図および推定式

11.1 製材

11.1.1 負の角度 P.40

11.1.2 0° P.42

11.1.3 正の角度 P.44

11.2 CLT

11.2.1 負の角度 P.46

11.2.2 0° P.50

11.2.3 正の角度 P.54

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1 緒言

現在木造建築の接合部では釘やロングビスを用いたものが多くある。中でも

ロングビスは斜め打ちをすることで、せん断力を受ける方向と引き抜きを受け

る方向の両方が効く接合法であるため、ロングビス斜め打ち接合(図 1.1)は接

合部として大変粘り強いといえる。しかしロングビスを用いた接合では引き抜

き抵抗を重視した利用法が多くあるが、降伏理論を用いるせん断性能に関する

研究は多くされていない。

このため本研究では鋼板添え板ロングビス斜め打ち接合のせん断耐力を、降

伏理論を用いて数式として推定し実証することを目的とする。打ち込み角度に

ついては斜め打ち接合例として 30°のものがあるため、打ち込み角度の変動は

0°から 30°までを研究対象とした。推定に用いる物性値としてめり込み試験と

引き抜き試験からそれぞれ支圧強度と引き抜き強度を求める。

そして製材に加えて、近年木造建築に用いられることが期待されている木質

材料の一つである 5 層 CLT(Cross Laminated Timber)についても推定を行った。

CLTとは、直交集成板と呼ばれるもので、ラミナを繊維方向が互いに直交になる

よう接着積層した木質材料である。主に面材料として壁・床への利用を目的に

開発された材料である。(図 1.2)

近年、林野庁は国産材の供給・利用量の増加を目標として、地域材利用拡

大緊急対策事業 1)という政策を掲げた。この政策の内容の一部として、「地域材

利用に対する支援対策」、「CLT建築等の導入促進事業」があるため、CLTを構造

用材として検討する必要があるといえる。このため CLTについても研究対象と

するものとした。なお 5層 CLTについてはシミュレーションとして推定式の誘

導および推定値の導出のみを行った。

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図 1.1 ロングビス斜め打ち接合

図 1.2 CLT(Cross Laminated Timber)

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2 鋼板添え板ロングビス斜め打ち接合の概要

鋼板添え板ロングビス斜め打ち接合とは木質構造物や木造建築において、壁

パネルに鋼板を添え板とし、ロングビスを打ち込むことで床パネルや天井パネ

ルと接合する手法である。

今回は接合具1本当たりのせん断耐力推定を目的とする。

研究の大まかな流れとしては、後述する降伏理論を用いて接合部定数という

打ち込み角度および降伏モードごとの値を求める。この値を用いることでせん

断耐力の推定値を導出する。しかし得られた接合部定数から推定値を導くには

主材として用いられる材の物性値が必要となるため、計算に必要となる支圧強

度と引き抜き強度の値をそれぞれめり込み試験と引き抜き試験を行い求める。

そして求めた物性値と接合部定数を降伏理論式に代入し、接合部のせん断耐

力を推定し、その後に実証実験としてロングビス斜め打ち一面せん断試験を行

い比較検証する。今回研究対象材には北海道で構造用材として使用されている

トドマツを用いる。

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3 降伏理論

3.1 製材および CLT を対象とした降伏理論

今回のせん断耐力の推定にはヨーロッパ型降伏理論(以下 EYTと記述)を用

いた。

EYTとは計算対象を完全剛塑性体と仮定し、さらにその計算対象の降伏モード

すべてについて以下の式から接合部係数を求めるというものである。

ちなみ完全剛塑性体とは、一定荷重まで変形せず、その後塑性変形を起こす

ものを指す。(図 3.1.1)

𝑃𝑦 = 𝐶 ・ 𝐹 ・ 𝑑 ・ 𝑙

Py:降伏荷重(N) C :接合部係数 F : 材の支圧強度(N/mm²)

d :接合具の径(mm) l :材厚(mm)

降伏耐力推定式

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図 3.1.1 完全剛塑性体のモデルグラフ

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3.2 接合部係数の導出

接合部係数の導出について述べる。今回の降伏理論の推定では 0°から 30°

までの打ち込み角度を対象としている。ここで推定式を立てるにあたって以下

のような力がかかる。(図 3.2.1)このため EYT計算にこれらを加味した計算を

する必要がある。製材の場合の立式および計算ついては以下の図(図 3.2.2)に

示す。

さらに今回のもう一つの計算対象である 5 層 CLT は層ごとに面圧強度が異な

るため、繊維平行方向の支圧強度や繊維直交方向の支圧強度、層ごとの材厚に

ついて以下の図(図 3.2.3)のように設定し計算した。

ロングビスは両側から打ち込むため、部材の半分の長さ付近まで到達する必

要がある。このため中央層の半分まで到達すると仮定して計算を行うとよいの

で、計算には最外層から中央層までを計算に用いるものとする。(図 3.2.4)

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図 3.2.1 接合部に働く力の模式図と計算に用いたパラメータ

図 3.2.2 製材における立式の例

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図 3.2.3 CLTの模式図

図 3.2.4 CLTにおける立式の例

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3.3 降伏モード

EYT計算をするにあたって接合具の降伏モードを考える必要がある。今回は大

きく分けて 5つのモードがある。(図 3.3.1 表 3.3.1)

製材では下図のような 5つのモードだが、CLTの場合は回転めり込みが生じる

位置がどの層にあるか、そして接合具の折れがどの層に生じるかを考慮する必

要がある。このため、CLTの降伏モードでは 13のモードを考える。(表 3.3.2 -

表 3.3.3)

製材と CLTの降伏モード模式図と応力分布、接合部係数を付録に添付する。

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製材 モード1 モード2 モード3 モード4 モード5

折れなし ○

境界部折れ ○ ○

主材内折れ ○ ○

回転めり込み ○ ○

図 3.3.1 降伏モード分類

表 3.3.1 製材降伏モード分類表

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CLT モード1 モード2 モード3 モード4 モード5 モード6 モード7

折れなし ○

境界部折れ ○ ○ ○ ○ ○ ○

主材内折れ(1層目) ○

主材内折れ(2層目) ○

主材内折れ(3層目) ○

回転めり込み(1層目) ○

回転めり込み(2層目) ○

回転めり込み(3層目) ○

CLT モード8 モード9 モード10 モード11 モード12 モード13

折れなし

境界部折れ

主材内折れ(1層目) ○

主材内折れ(2層目) ○

主材内折れ(3層目) ○

回転めり込み(1層目) ○

回転めり込み(2層目) ○

回転めり込み(3層目) ○

表 3.3.2 CLT降伏モード分類表Ⅰ

表 3.3.3 CLT降伏モード分類表Ⅱ

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3.4 打ち込み角度

打ち込み角度を考えたとき、斜め打ちにおける EYT計算では加力方向によっ

て、接合具の軸力を加味した立式にすべきかどうかと鋼板と主材の間に摩擦が

生じるかどうかを考える必要がある。このため打ち込み角度の名称を以下の 3

つのパターンに定義した。(図 3.4.1)

今回の EYT計算ではこのパターンごとに、製材では 5つの降伏モード、CLTで

はそれぞれ 13の降伏モードの、合計 54のモードすべてを計算し接合部係数を

求めた。

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図 3.4.1 打ち込み角度分類

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4 めり込み試験

4.1 実験概要

EYT計算に必要な物性値として支圧強度がある。これを実験的に求めることを

目的としてめり込み試験を行った。求める支圧強度は繊維平行方向のものの他

に、今回は CLTに必要な繊維直交方向のものも求める。

試験材料としてトドマツを用いた。試験体数は繊維平行方向に対するもの

(30mm×50mm×100mm)と繊維直交方向に対するもの(30mm×100mm×100mm)を

それぞれ 6体の合計 12体、接合具は Zマーク 四角穴付きタッピンねじ(L : 65

mm Φ :4.2mm)を用いて行った。(図 4.1.1)試験体名について、繊維平行方

向のめり込み試験に用いる試験体を T1から T6とし、繊維直交方向のめり込み

試験に用いる試験体を T’1から T’6とした。

実験にはオルゼン型試験機を使用した。(図 4.1.2)

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図 4.1.1 めり込み試験体

図 4.1.2 試験の様子

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4.2 5%オフセット法

めり込み試験で得られた荷重変位曲線からめり込み荷重を得るための解析法

として、5%オフセット法がある。

5%オフセット法は、荷重変位曲線の直線部分を傾きに持つ直線を接合具の径

の 5%だけ平行移動させ、この直線と荷重変位曲線との交点を降伏耐力とするも

のである。(図 4.2.1)

この解析法は木質構造の解析に多くに使われており、今回の一面せん断試験

の解析にも用いる。

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図 4.1.1 5%オフセット法

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4.3 結果および解析

繊維平行方向と繊維直交方向の荷重変位曲線と、求めた支圧強度をそれぞれ

以下に示す。(図 4.3.1-図 4.3.2 表 4.3.1-表 4.3.2)支圧強度は以下の式(式

4.3.1)から求めた。なお、今回計算に用いる接合具径は 4.2mm、材厚は 30mmで

ある。

それぞれの試験体の支圧強度平均として繊維平行方向で 31.8N/mm²、繊維直交

方向で 18.5N/mm²となった。そしてこの値を推定値の物性値として用いる。

𝑃 = 𝐹𝑑𝑙 (式 4.3.1)

P : 荷重(N)

F : 支圧強度(N/mm²)

d : 接合具の径(mm)

l : 材厚(mm)

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図 4.3.1 荷重変位曲線(繊維平行方向)

図 4.3.2 荷重変位曲線(繊維直交方向)

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表 4.3.1 繊維平行方向支圧強度

表 4.3.2 繊維直交方向支圧強度

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5 引き抜き試験

5.1 実験概要

支圧強度に引き続いて EYT計算に必要な物性値である、引き抜き強度を求め

る。試験体として接合具をそれぞれ 0°、10°、30°に打ち込んだものをそれぞ

れ密度が異なる試験体で 3体ずつ縦型フレーム試験機を使用して行った

試験体はトドマツを用いた。(D1、D2、D3とした)ロングビスはシネジック パ

ネリード X(L=110mm、d=4.4mm)を用いた。試験体の幅は角度によらず 50mmに

統一した。ロングビスの半分以上の長さが試験体打ち込み面の中心に打ち込ま

れるようにし、かつ角度をつけた場合でもロングビスを垂直に引き抜くことが

できるようにするため、以下の図のような木取りにした。(図 5.1.1)。

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図 5.1.1 試験体模式図と引き抜き試験の様子

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5.2 結果および解析

下に軸力に関する式を示す。(式 5.2.1)これに引き抜き試験によって得られ

た最大荷重を代入することで打ち込み角度ごとの引き抜き強度を求める。今回

の接合具の谷径は 4.2mm、打ち込み深さは 51.15mm として計算した。

実験で得られたデータを以下に示す。(表 5.2.1)そして角度ごとの引き抜き

強度から回帰曲線を描き、これを今回の角度ごとの引き抜き強度とする。(図

5.2.1)

𝑁𝜃 = 𝜋𝐹𝜃𝑑𝑡 (式 5.2.1)

Nθ : 実験により得られる打ち込み角度ごとの Pmax(kN)

Fθ : 打ち込み角度ごとの引き抜き強度(𝑘𝑁/𝑚𝑚²)

θ : 打ち込み角度(°)

d : 接合具の谷径(𝑚𝑚)

t : 打ち込み深さ(𝑚𝑚)

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最大荷重 引き抜き強度 最大荷重 引き抜き強度 最大荷重 引き抜き強度 密度

(kN) (kN/mm²) (kN) (kN/mm²) (kN) (kN/mm²) (kg/m³)

D1 7.10 10.53 5.04 7.47 4.23 6.28 328

D2 8.06 11.95 5.58 8.27 6.36 9.42 370

D3 9.28 13.76 8.15 12.08 5.71 8.46 421

平均 12.08 9.27 8.05

0° 10° 30°

表 5.2.1 実験結果

図 5.2.1 引き抜き強度

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6 推定値

ここまでで求めた物性値を接合部係数に代入し、降伏モードごとに-30°から

30°までのせん断耐力推定値を求め、その最小値をグラフ化した。(図 6.1、6.2)

CLTの計算では繊維平行層の支圧強度をめり込み試験で求めた繊維平行方向

の支圧強度で統一した。

推定値として正の角度では CLTが製材の約 3倍となったが 0°と負の角度では

差が出なかった。降伏モードについて、製材では角度によらずモード 4(境界部

では接合具が折れず、主材内部でのみ折れが生じるモード)が起こると推定さ

れた。CLTでは 0°と負の角度でモード 8(境界部では接合具が折れず、主材内

部 1層目でのみ折れが生じるモード)、正の角度でモード 13(境界部では接合具

が折れず、主材内部 3層目で回転めり込みが生じるモード)が起こると推定さ

れる結果となった。

推定値を計算するにあたって、今回の一面せん断試験に用いる製材の試験体情

報や木質構造設計規準、文献値から下記の値を用いた。

f : 接合具曲げモーメント(29.3 kN*mm) μ : 静止摩擦係数(0.3)

d : 接合具の径(4.20 mm) s : 鋼板の厚さ(6.00 mm) l : 主材厚(210 mm)

CLTについてはラミナ 1層あたり 30mmとした。今回は 5層 CLTなので材厚は

150mmとなる。

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図 6.1 製材の打ち込み角度ごとの推定値グラフ

図 6.2 CLTの打ち込み角度ごとの推定値グラフ

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7 鋼板添え板ロングビス斜め打ち一面せん断試験

7.1 実験概要

推定したせん断耐力に対する実証実験として、鋼板添え板ロングビス斜

めうち一面せん断試験を行った。試験体としてトドマツ製材(105mm×210mm×

500mm)を 12体使用した。接合具としてロングビス(シネジック パネリード X

L=110mm、d=4.2mm、e=8.7mm)、添え板に鋼板(寸法は図 7.1.1に示す)を用い

た。

今回は接合具に上記の寸法のロングビスを用いたため、打ち込んだとき材の

半分の長さまで到達するように 105mm正角材 2本を水性高分子イソシアネート

系接着剤で張り合わせたものを試験体として使用することとした。(図 7.1.1)

接合具の打ち込み箇所は試験体の端距離 15d の位置とした。接合具打ち込み

角度は-30°、0°、10°、30°の 4種類で、それぞれ 3体ずつ縦型フレームを

用いて試験を行った。せん断加力中に鋼板間隔が狭まらないように鋼板間にス

ペーサーを入れた。(図 7.1.2)

角度のつけた打ち込みについてはインパクトドライバーに角度計を取り付け

て行った。(図 7.1.3)

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図 7.1.1 試験体

図 7.1.2 実験の様子

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図 7.1.3 角度計を取り付けたインパクトドライバー

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7.2 解析および結果

打ち込み角度ごとのせん断試験結果を以下に示す。(図 7.2.1-図 7.2.4)ここ

で得られた荷重変位曲線について、5%オフセット法で降伏変位を求めた。その

結果を表に示す。(表 7.2.1)この結果より、負の角度のみ幾分推定値が大きく

出たが、実験値と比較してみて概ね推定できたといえる。

さらに加力中に角度によらず、加力開始時はせん断で力を受けて、その後引

き抜きが発生して、鋼板と試験体が離れる向きに変形した。その後接合具の変

形が終わり、接合具が主材にめり込んで再び鋼板と試験体が近づく向きに変形

した。そして最後に主材へのめりこみと、接合具の鋼板へのめり込みが混在し

ているような状態が確認できた。さらにこれは荷重変位曲線を見てみたときに

も勾配の変化として確認できた。例として 0°の場合の荷重変位曲線を挙げる。

(図 7.2.5)

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図 7.2.1 -30°打ち込み試験結果

図 7.2.2 0°打ち込み試験結果

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図 7.2.3 10°打ち込み試験結果

図 7.2.4 30°打ち込み試験結果

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打ち込み角度(°) 推定値 (kN) 実験値 (kN) 推定値/実験値

-30 1.15 0.94 1.23

0 1.33 1.53 0.87

10 3.13 3.32 0.94

30 3.97 4.35 0.91

表 7.2.1 推定値と実験値

図 7.2.5 加力中の接合部変形の変遷

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7.3 破壊性状

最終的な破壊性状と推定した降伏モードを比較した。

加力中に鋼板へのめりこみが起こるため、鋼板と主材の境界部分では折れが

発生してしまうものの、それぞれの角度ごとに以下のような破壊性状で、想定

した降伏モードと近いものとなっていた。(図 7.3.1)

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図 7.3.1 破壊性状

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8 総括

本研究で導出した推定式は実験結果によい適合性が認められた。そしてこの

推定式は物性値を変えることによって様々な材の推定に使用できるため汎用性

という面からみても高いと思われる。さらに破壊性状についても想定した降伏

モードと近いものとなっていたため、破壊性状についても推定できていたとい

える。

実験結果についてで、降伏理論による推定値は下限値を導出するものである

ため推定値のほうが実験値よりも幾分低くなることは考えられる。このため 0°

と正の角度は精度が高く推定できたといえる。

しかし負の角度についてのみ実験値のほうが低くなったのは、打ち込みの際

に角度がついていることで加力中に接合具に曲げと圧縮の複合力が働き、計算

に用いた接合具強度よりも低い応力で接合具が降伏したことが原因だと考えら

れる。

最後に CLTについて、CLTは製材と異なり直交層が存在するためせん断強度的

には高くなるはずが、負の角度で製材と大差がないという結果となった。これ

は推定の最小値が CLTの最外層の繊維平行層で降伏が起こるモードとなるため、

直交層が影響しない結果になったことが原因だと考えられる。破壊性状の推定

でも負の角度については製材の降伏モードと等しくなっているため、大きな原

因と言って良いといえる。

今回正の角度では精度の高い推定ができた。しかし負の角度では概ね推定で

きたとは言えるが、より精度を上げるために加力中の複合力について再考する

必要がある。

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9 謝辞

本研究を行うにあたり、実験器具の使い方や試験体の加工をご協力していた

だいた佐々木義正技官、接合部の解析手法から、実験の方法に至るまで優しく

ご指導してくださった澤田圭講師、ゼミや、試験に関するご相談に親身に応え

てくださった小泉章夫教授に深謝いたします。そして学問的な分野に関わらず、

多くのアドバイスを下さった木材工学研究室の皆様におきましても心から感謝

いたします。ありがとうございました。

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10 参考文献

1) 日本建築学会:木質構造設計規準

2) I BejtkaH、J Blaß (2002) ‘JOINTS WITH INCLINED SCREWS’Germany

3) Journal of Wood Science Volume 52・Number 6・2006

(P.496-502)

4)戸田正彦ほか:北海道産カラマツを用いた CLTの製造と性能評価 その 4

木ネジ留め引張金物およびせん断金物の性能

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11 付録:降伏モードごとの模式図および推定式

11.1 製材

11.1.1 負の角度

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11.1.2 0°

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11.1.3 正の角度

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11.2 CLT

11.2.1 負の角度

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11.2.2 0°

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11.2.3 正の角度

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