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609 伝統構法木造建物の嵌合型接合 部補強に関するポリカーボネー トの適用可能性 APPLICABILITY OF POLYCARBONATE TO REINFORCE FITTING TYPE JOINT OF TRADITIONAL WOODEN STRUCTURE 日本建築学会技術報告集 第 21 巻 第 48 号,609-614,2015 年 6 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 21, No.48, 609-614, Jun., 2015 多幾山法子——— *1 横田治貴———— *2 林 康裕———— *3 キーワード : 伝統構法木造建物,静的水平加力実験,ポリカーボネート, 込栓・鼻栓,斜め貫 Keywords: Traditional wooden structures, Static loading test, Polycarbonate, Cotter pin, Oblique nuki Noriko TAKIYAMA——— *1 Haruki YOKOTA— ーーー *2 Yasuhiro HAYASHI——— *3 This paper reports the results of study to develop potentialities of polycarbonate as structural materials for fitting type joint of traditional wooden structures. Major findings from the research are as follows: (1) Replaced wooden cotter pin with tusk tenon by polycarbonate, restoring force of joint had nearly equal as that with wooden cotter pin, and cotter pin was hardly breakage. (2) Replaced wooden oblique nuki by polycarbonate, nuki didn’t break and shear force of frame was higher than that with wooden oblique nuki in large deformation. (3) It had high reproducibility in analysis, because of heterogeneous and no anisotropic material. *1 首都大学東京都市環境学部建築都市コース 准教授・博士(工学) (〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1,9 号館 7 階 772 室) *2 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程 *3 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博 *1 Assoc. Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng. *2 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ. *3 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng. 2 試験体詳細一覧 1. はじめに 伝統構法木造建物の嵌合型接合部では,栓やほぞの折損などによ り接合部の抵抗力の低下を招き,同時に架構全体の復元力が著しく 低下するため,接合部に致命的な損傷を生じさせないために材料特 性が接合部復元力に与える影響を確認した先行研究が存在する 1,2) また,木造建物は壁の面内せん断性能で水平力に抵抗させるが,細 長い平面形状を持つ建物などでは,動線や日照などの関係から,壁 などの耐震要素の追加を検討し難く,耐震性に乏しい場合も多い。 以上を踏まえ,変形性能の高い透明な素材に着目し,接合部の損傷 と居住空間に配慮した新しい補強方法を検討したい。 変形性能が高く,安全性,耐久性,加工性に優れた透明素材にポ リカーボネート 3) がある。同じ透明素材である硝子(比重 2.5 )と比 較すると,約半分の比重 1.2 の軽量材料で,曲げ強さはガラスの 2 以上である。耐衝撃強度にも優れ,燃え難く,焼却時は有毒ガスも 発生しない。加工性も高く形状決定の自由度も高い。また,均質で 異方性を持たない材料であるため,復元力推定も容易と推測できる。 本報では,透明素材であるポリカーボネートに着目し,伝統構法 木造建物の柱横架材接合部への適用方法と,その適用可能性を模索 する。接合部への適用方法として, (a) 鼻栓・込栓接合部の栓として の代用, (b) 斜め貫接合部の斜め貫としての代用,の 2 種類を考える。 2. ポリカーボネートの材料特性 25mm x 25mm x 400mm のポリカーボネートの試験片を作成し,JIS Z 2101 を参考に,支点間距離 350mm 3 点曲げ試験を行った。なお, ポリカーボネートは均質材料であるため,12 個以上としている木材 の場合より少ない 3 試験片の平均を材料特性値とする。 荷重-たわみ関係を図 1 に示す。また,実験値を公称値 3) と合わ せて表 1 に示す。ポリカーボネートは高い変形性能を示し,試験結 果と公称値は概ね整合している。 3. 込栓・鼻栓としての代用 本章では,一般的に多く採用されている鼻栓・込栓接合部におけ る栓をポリカーボネートで代用する方法を提案する。まず,ポリ カーボネート製の栓を有する接合部試験体を作成し,正負交番二回 漸増繰返加力実験を実施することで,ポリカーボネートが接合部の 挙動に対して与える影響を把握する。また,既往の手法 2) を用いて 復元力特性を推定し,その補強効果について検討する。 試験体名 部材 材種 密度 (t/m 3 ) ヤング係数 (kN/mm 2 ) 込栓樫 込栓ポリカ 鼻栓樫 鼻栓ポリカ 込栓樫 込栓ポリカ 鼻栓樫 鼻栓ポリカ 込栓樫 0.92 14.7 鼻栓樫 0.96 15.3 込栓ポリカ 鼻栓ポリカ ポリカー ボネート 0.45 10.2 0.56 21.1 米松 14.0 0.48 17.6 1.20 2.5 0.41 1 荷重-たわみ関係 実験値 公称値 密度 * (t/m 3 ) 1.20 (0.0) 1.23 ヤング係数 (kN/mm 2 ) 2.50 (0.2) 2.5 曲げ強度 (N/mm 2 ) 114.0 (11.3) 104.0 1 ポリカーボネート材料特性 実験値の( )内は標準偏差を表す。 0 1 2 3 4 5 0 10 20 30 40 50 60 荷重 (kN) たわみ (mm) ポリカーボネート

伝統構法木造建物の嵌合型接合 APPLICABILITY OF ......610 図3 差鴨居ほぞの形状 (a) 込栓仕様 (b) 鼻栓仕様 図2 試験体架構図 図4 実験装置のメカニズム

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Page 1: 伝統構法木造建物の嵌合型接合 APPLICABILITY OF ......610 図3 差鴨居ほぞの形状 (a) 込栓仕様 (b) 鼻栓仕様 図2 試験体架構図 図4 実験装置のメカニズム

609

伝統構法木造建物の嵌合型接合部補強に関するポリカーボネートの適用可能性

APPLICABILITY OF POLYCARBONATE TO REINFORCE FITTING TYPE JOINT OF TRADITIONAL WOODEN STRUCTURE

日本建築学会技術報告集 第 21 巻 第 48 号,609-614,2015 年 6 月

AIJ J. Technol. Des. Vol. 21, No.48, 609-614, Jun., 2015

多幾山法子———— * 1 横田治貴— ————* 2林 康裕— ————* 3

キーワード :伝統構法木造建物,静的水平加力実験,ポリカーボネート,込栓・鼻栓,斜め貫

Keywords:Traditional wooden structures, Static loading test, Polycarbonate, Cotter pin, Oblique nuki

Noriko TAKIYAMA— ——— * 1 Haruki YOKOTA—ーーー * 2Yasuhiro HAYASHI———— * 3

This paper reports the results of study to develop potentialities of polycarbonate as structural materials for fitting type joint of traditional wooden structures. Major findings from the research are as follows: (1) Replaced wooden cotter pin with tusk tenon by polycarbonate, restoring force of joint had nearly equal as that with wooden cotter pin, and cotter pin was hardly breakage. (2) Replaced wooden oblique nuki by polycarbonate, nuki didn’t break and shear force of frame was higher than that with wooden oblique nuki in large deformation. (3) It had high reproducibility in analysis, because of heterogeneous and no anisotropic material.

*1 首都大学東京都市環境学部建築都市コース 准教授・博士(工学) (〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1,9号館 7階 772 室)*2 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程*3 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博

*1 Assoc. Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng.

*2 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ.*3 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng.

伝統構法木造建物の嵌合型接合部補強に関するポリカーボネートの適用可能性

*1 首都大学東京 都市環境学部 建築都市コース 准教授・博士(工学)

  (〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-1,9 号館 7 階772 室)

*2 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士過程

*3 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博

APPLICABILITY OF POLYCARBON-ATE TO REINFORCE FITTING TYPEJOINT OF TRADITIONAL WOODENSTRUCTURE

多幾山法子   *1  横田治貴  *2 

林 康裕   * 3

キーワード:

伝統構法木造建物,静的水平加力実験,ポリカーボネート,

込栓・鼻栓,斜め貫

keywords:Traditional wooden structures, Static loading test, Polycarbonate, Cotterpin, Oblique nuki

TAKIYAMA Noriko *1 YOKOTA Haruki *2

HAYASHI Yasuhiro *3

This paper reports the results of study to develop potentialities ofpolycarbonate as structural materials for fitting type joint of tradi-tional wooden structures. Major findings from the research are as fol-lows: (1) Replaced wooden cotter pin with tusk tenon by polycarbon-ate, restoring force of joint had nearly equal as that with woodencotter pin, and cotter pin was hardly breakage. (2) Replaced woodenoblique nuki by polycarbonate, nuki didn’t break and shear force offrame was higher than that with wooden oblique nuki in large deforma-tion. (3) It had high reproducibility in analysis, because of heteroge-neous and no anisotropic material.

*1 Associate Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng.

*2 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ.*3 Prof., Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ., Dr. Eng.

表 2 試験体詳細一覧

1 . はじめに

 伝統構法木造建物の嵌合型接合部では,栓やほぞの折損などによ

り接合部の抵抗力の低下を招き,同時に架構全体の復元力が著しく

低下するため,接合部に致命的な損傷を生じさせないために材料特

性が接合部復元力に与える影響を確認した先行研究が存在する 1 , 2 )。

また,木造建物は壁の面内せん断性能で水平力に抵抗させるが,細

長い平面形状を持つ建物などでは,動線や日照などの関係から,壁

などの耐震要素の追加を検討し難く,耐震性に乏しい場合も多い。

以上を踏まえ,変形性能の高い透明な素材に着目し,接合部の損傷

と居住空間に配慮した新しい補強方法を検討したい。

 変形性能が高く,安全性,耐久性,加工性に優れた透明素材にポ

リカーボネート 3 )がある。同じ透明素材である硝子(比重 2 . 5)と比

較すると,約半分の比重 1 .2 の軽量材料で,曲げ強さはガラスの 2 倍

以上である。耐衝撃強度にも優れ,燃え難く,焼却時は有毒ガスも

発生しない。加工性も高く形状決定の自由度も高い。また,均質で

異方性を持たない材料であるため,復元力推定も容易と推測できる。

 本報では,透明素材であるポリカーボネートに着目し,伝統構法

木造建物の柱横架材接合部への適用方法と,その適用可能性を模索

する。接合部への適用方法として,( a )鼻栓・込栓接合部の栓として

の代用,( b )斜め貫接合部の斜め貫としての代用,の 2 種類を考える。

2 .  ポリカーボネートの材料特性

 25mm x 25mm x 400mm のポリカーボネートの試験片を作成し,JIS

Z 2101 を参考に,支点間距離 350mm の 3 点曲げ試験を行った。なお,

ポリカーボネートは均質材料であるため,1 2 個以上としている木材

の場合より少ない 3 試験片の平均を材料特性値とする。

 荷重-たわみ関係を図 1 に示す。また,実験値を公称値 3 )と合わ

せて表 1 に示す。ポリカーボネートは高い変形性能を示し,試験結

果と公称値は概ね整合している。

3 .  込栓・鼻栓としての代用

 本章では,一般的に多く採用されている鼻栓・込栓接合部におけ

る栓をポリカーボネートで代用する方法を提案する。まず,ポリ

カーボネート製の栓を有する接合部試験体を作成し,正負交番二回

漸増繰返加力実験を実施することで,ポリカーボネートが接合部の

挙動に対して与える影響を把握する。また,既往の手法 2 )を用いて

復元力特性を推定し,その補強効果について検討する。

試験体名 部材 材種密度

(t/m3)ヤング係数

(kN /mm2)込栓樫

込栓ポリカ

鼻栓樫

鼻栓ポリカ

込栓樫

込栓ポリカ

鼻栓樫

鼻栓ポリカ

込栓樫 0.92 14.7鼻栓樫 0.96 15.3

込栓ポリカ

鼻栓ポリカ

ポリカーボネート

0.45 10.2

0.56 21.1

柱 杉

梁 米松

14.0

0.48 17.6

1.20 2.5

0.41

図 1 荷重-たわみ関係

実験値 公称値

密度*

(t/m3)1.20(0.0)

1.23

ヤング係数

(kN/mm2)2.50(0.2)

2.5

曲げ強度

(N/mm2)114.0(11.3)

104.0

表 1 ポリカーボネート材料特性

実験値の( )内は標準偏差を表す。

0

1

2

3

4

5

0 10 20 30 40 50 60

荷重

(kN

)

たわみ (mm)

ポリカーボネート

Page 2: 伝統構法木造建物の嵌合型接合 APPLICABILITY OF ......610 図3 差鴨居ほぞの形状 (a) 込栓仕様 (b) 鼻栓仕様 図2 試験体架構図 図4 実験装置のメカニズム

610

図 3 差鴨居ほぞの形状

(b) 鼻栓仕様(a) 込栓仕様

図 2 試験体架構図

図 4 実験装置のメカニズム

加力梁(剛体) 加力方向負正

ロードセル

差鴨居:ピン

:ピンローラー

タイロッド

270

120

3063

126

120

栓穴

12663

30

220

(b) 込栓ポリカ(a) 込栓樫

図 5 M- 関係と損傷の生じたタイミング

(c) 鼻栓樫

-10

-5

0

5

10

-0.2 0 0.2接合部回転角 (rad)

曲げモー

メントM

(kN

m)

0.01rad込栓折損

0.09rad柱の割裂 0.02rad

鼻栓折損

-10

-5

0

5

10

-0.2 0 0.2

曲げモー

メントM

(kN

m)

接合部回転角 (rad)-10

-5

0

5

10

-0.2 0 0.2接合部回転角 (rad)

曲げモー

メントM

(kN

m)

-0.21rad柱の損傷

(d) 鼻栓ポリカ

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

込栓樫込栓ポリカ

曲げモー

メントM

(kN

m)

接合部回転角 (rad)

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

鼻栓樫鼻栓ポリカ

曲げモー

メントM

(kN

m)

接合部回転角 (rad)

差鴨居ほぞ

鼻栓

(b) 鼻栓折損(a) 柱の割裂写真 2 損傷の様子

差鴨居

柱の割裂

(b) 鼻栓仕様(a) 込栓仕様

図 6 M-関係の骨格曲線比較

-10

-5

0

5

10

-0.2 0 0.2接合部回転角 (rad)

曲げモーメントM

(kN

m)

0.07rad柱の割裂

3.1 試験体概要

 図 2 のように,柱・梁・栓の 3 部材で構成される T 字型接合部試

験体を作成する。接合部は図 3 のように,込栓仕様と鼻栓仕様の 2 タ

イプとする。各々の仕様に対して栓の材種を樫とポリカーボネート

の 2 種類用意し,合計 4 試験体とする。試験体は,接合部仕様と栓

の材種を組み合わせ,込栓樫試験体,込栓ポリカ試験体,鼻栓樫試

験体,鼻栓ポリカ試験体と呼ぶ。実験終了後に各材から採取した小

試験片を用いて曲げ試験を実施し,その物性値一覧を表 2 に示す。

3.2 実験概要

 加力装置は,図 4 のように加力梁とタイロッドから成る。試験体

は柱を水平にし,ピン及びピンローラーで反力床及び加力梁に設置

する。試験体両側にタイロッドを配し,差鴨居に生じる変動軸力を

負担する。

 柱と差鴨居の接合界面で生じる角度を接合部回転角とする。アク

チュエータで加力梁を押引し,接合部回転角 1 / 5 r a d 程度まで正負交

番二回漸増繰返加力を行う。アクチュエータから加力梁に作用する

水平荷重,及びタイロッドに生じる軸力をロードセルで計測し,力

の釣合いから差鴨居に生じる軸力を求める。

3.3 実験結果

 代表的な損傷や栓の損傷を写真 1 , 2 に,各試験体の復元力特性を

図 5 に示す。なお,本報では復元力特性として,柱差鴨居接合部の

差鴨居に生じる曲げモーメントM -接合部回転角 関係を示す。

 込栓樫試験体では,正側加力時の接合部回転角 0.01rad 時点で込栓

に曲げ破壊が生じ,復元力上昇の勾配が緩やかになった。その後,

0.09rad で柱に割裂が生じたものの復元力は上昇し続け,0.15rad で最

大耐力 4 . 7 k N m に到達した。負側加力時には,0 . 1 7 r a d で最大耐力

4 . 5 k N m に達した。込栓の破断は試験体解体後に確認した。

 込栓ポリカ試験体では,正側加力時の接合部回転角 0.07rad 時点で

柱が割裂した。その後も復元力は上昇し続け,0.19rad で最大耐力 4.4

kNm に達した。負側加力時には 0.21rad で最大耐力 5.5kNm に達した。

 鼻栓樫試験体では,正側加力時の接合部回転角 0.02rad 時点で鼻栓

に曲げ破壊が生じ,復元力が低下した。その後,0 .17rad 時点で最大

耐力 6.5kNm に達した。負側加力時には,0.20rad で最大耐力 5.4kNm

に達した。込栓の破断は試験体解体後に確認した。

 鼻栓ポリカ試験体では,正側加力開始直後より柱にめり込みを生

じさせながら込栓が変形した。しかし,栓の折損には至らず,復元

力は上昇し続け,0.17rad で最大耐力 7.0kNm に到達した。負側加力時

には,0.21rad で最大耐力 6.8kNm に達した。

 接合部仕様ごとに骨格曲線を比較したものを図 6 に示す。正側加

力時の樫栓折損前は,接合部仕様に関わらず,樫栓の方がポリカー

ボネート栓よりも初期剛性が大きい。込栓試験体では込栓樫試験体

の方が常に込栓ポリカーボネート試験体より大きい値を示すが,鼻

栓試験体では,樫栓折損後に鼻栓樫試験体の復元力が低下し,鼻栓

ポリカ試験体と同程度となった。

 次に,破壊性状を比較する。込栓試験体では両者で柱の割裂が生

じたが,込栓ポリカ試験体の方が込栓樫試験体よりも早期に生じた。

樫栓の場合は,ほぞが引き抜けることで与えられる荷重を自身のせ

290

850

270880

120×270差鴨居(米松)

120×120柱(杉)

120 120

150

15×15栓(樫)

( a )曲げ変形(込栓ポリカ)

( b )折損(鼻栓樫)

写真 1 栓の損傷

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611

ん断変形で負担するのに対し,ポリカーボネート栓の場合は,曲げ

変形することで負担するため,近辺の柱材が割裂し易くなったこと

に起因すると考える。

 鼻栓試験体では,栓材の損傷が顕著であった。樫栓は折損して破

断に至るのに対し,ポリカーボネート栓は変形性能が高く,変形す

るに留まり破断には至らなかった。また,負側加力時の復元力や破

壊性状は栓の材種に依らず同程度となった。回転支点から栓までの

距離が短く,栓の抵抗力が全体のモーメントに及ぼす割合が小さい

ためと考えられる。

3 . 4 復元力特性の算出

 木質構造設計規準(日本建築学会)曲げ降伏型接合具を用いた接

合に記載の降伏モードを改良した降伏モードの推定法 2 )に基づき,

接合部で生じる降伏・破壊モードと復元力特性を求める。

3 .4 .1 降伏・破壊モード推定の概要

 既往の推定式 1 )により算出された降伏モードと実験で生じた接合

部の降伏モードを併せて表 3 に示す。各推定値のうち最小値を降伏

耐力 P y として与え,それに対応する破壊モードが生じると推定する。

なお,曲げ強度,めり込み降伏応力,支圧強度,せん断強度は測定

密度より算出した 3 )。

3.4.2 M - 関係算出の概要

 図 7 に差鴨居に生じる曲げモーメント M の算出方法を示す。差鴨

居接合部内に生じる各抵抗力は,栓の抵抗力 R p,めり込み力 R e 及び

めり込みによる摩擦力 R f とし,差鴨居のほぞ形状に応じてそれぞれ

モデル化する。抵抗力Rp, Re, Rf の点A からの距離を lp , le , lf とし注 1),

点 A 周りの釣合いを考え,差鴨居断面の M を式( 1 )のように算出す

る。なお,導出方法の詳細は文献 2 )を参照されたい。また,差鴨居

に生じる軸力 N は差鴨居中心軸上に作用するとし圧縮力を正とする。

なお,h は差鴨居のせいを示し,負方向加力時も同様に算出する。

)2/(hNlRlRlRM ffeepp (1)

3.4.3 実験結果との比較

 推定結果を実験結果と併せて図 8 に示す。込栓試験体に関しては

実験値と良く整合した。鼻栓に関しては,実験において確認された

復元力が早期に低下する傾向は推定できない場合がある。しかし,

図 8 M-関係評価結果(b) 込栓ポリカ(a) 込栓樫 (b) 鼻栓樫 (d) 鼻栓ポリカ

表 3 降伏・破壊モード一覧

*  下線は,降伏時に生じると推定される破壊モード**   ( )内のモードは,降伏後に生じた破壊モード

M1 M2 M3 M4 M5 M6 M7込栓樫 11.0 19.3 10.3 12.7 8.6* 10.6 15.4 M3**(M6)

込栓ポリカ 15.2 19.3 10.3 12.4 19.7 10.6 15.4 M3 (M6)鼻栓樫 11.8 21.2 9.6 - 9.1 - 17.8 M3

鼻栓ポリカ 17.6 21.2 9.3 - 19.7 - 17.8 M3,5

試験体各破壊モードの破壊荷重計算値 (kN)

実験結果

図 7 評価方法概要

栓をポリカーボネートにした際に初期剛性が低かったことなど,栓

材の違いに即した傾向は推定可能である。

3 . 5  ポリカーボネートの込栓・鼻栓への適用可能性

 込栓仕様接合部の栓としてポリカーボネートを採用した場合,復

元力が低くなり,柱に損傷が生じ易くなる。一方,鼻栓仕様接合部

においては,栓の材種に依らず大変形時の復元力は同程度であり,

ポリカーボネートを用いた方が栓の破断が生じ難い。伝統構法の嵌

合型接合部において栓は接合部を緊結する役割を担うが,栓材の破

断が生じた場合は,接合部の分解が懸念される。以上より,ポリカー

ボネートは込栓としては推奨できないが,鼻栓として使用すること

に対する可能性が示せた。

4 .  斜め貫としての代用

 先行研究において,斜め貫架構の静的加力実験を行い,破壊性状

や復元力特性などが確認された 5 )。斜め貫の折損が架構せん断力の低

下を招いたため,本章では,斜め貫接合部における斜め貫を,変形

性能の高いポリカーボネートで代用する方法を提案する。また,架

構全体で特徴的な挙動を示したため 5 ),本研究においても架構実験を

行う。まず,ポリカーボネート製斜め貫を有する架構試験体の正負

交番二回漸増繰返加力実験を行い,ポリカーボネートが接合部挙動

に与える影響を把握する。また,先行研究と同様のモデル化を行い,

架構せん断力を算出する。

4.1 試験体概要

 架構試験体を図 9 に,接合部の詳細を図 1 0 に示す。柱頭・柱脚は

ピン接合とし,試験体寸法は,ピン間柱高さ 3 , 1 7 8 m m,柱間距離

3,560mm とする。柱の部材断面は 145x145mm,梁は 360x175mm,込

栓は 20x20mm で,柱梁接合部では込栓 2 本挿し仕様とする。斜め貫

は 2 5 mm 厚とし,せい高さを上方が大きくなるよう設計する注 2 )。柱

-斜め貫間角度は 4 0 度とする。柱はヒノキ,梁・斜め貫・込栓はベ

イマツとした試験体を W40 5),斜め貫をポリカーボネートで代用した

試験体を P 4 0 と呼ぶ。また,試験体加力後に各部材から試験片を切

り出し,JIS Z 2101 に基づく 3 点曲げ試験を実施した。ヤング係数

図 9 斜め貫架構試験体

ピン接合

柱(桧)145x145mm

梁(米松)360x175mm

斜め貫(米松)25mm 厚

左柱

1156

mm

(中

2階

)20

22m

m(

1階)

3560mm

右柱

ピン接合

点A

差鴨居

Re Rf

Rp

lf

lp le

点B

M N

Q

V

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

実験値計算値

曲げ

モー

メン

トM

(kN

m)

接合部回転角 (rad)

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

実験値計算値

接合部回転角 (rad)

曲げ

モー

メン

トM

(kN

m)

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

実験値計算値

接合部回転角 (rad)

曲げ

モー

メン

トM

(kN

m)

-10

-5

0

5

10

-0.2 -0.1 0 0.1 0.2

実験値計算値

接合部回転角 (rad)

曲げ

モー

メン

トM

(kN

m)

Page 4: 伝統構法木造建物の嵌合型接合 APPLICABILITY OF ......610 図3 差鴨居ほぞの形状 (a) 込栓仕様 (b) 鼻栓仕様 図2 試験体架構図 図4 実験装置のメカニズム

612

試験体名 部材 材種密度(t/m3)

ヤング係数(kN/mm2)

右柱 0.57 11.4左柱 0.47 10.5梁 0.64 10.9

込栓 0.56 9.8右斜貫 0.59 13.3左斜貫 0.57 11.2右柱 0.54 18.3左柱 0.48 15.5梁 0.62 10.5

込栓 0.56 9.8右斜貫

左斜貫1.20 2.5

W40米松

米松

ポリカーボネート

P40

表 4 試験体詳細一覧

図 11 実験装置のメカニズム

(b) P40(a) W40図 12 復元力特性

(b) P40(a) W40写真 3 損傷の様子

と曲げ強度を表 4 に示す。W40 と P40 では柱のヤング係数が異なる。

4 . 2 加力システムと計測方法

 加力装置を図 1 1 に示す。アクチュエータは反力壁に取り付け

る。試験体の浮上がり防止のため試験体両側にタイロッドを配

し,試験体とともに加力梁に連結し,正負交番繰返加力を行う。

装置が不安定構造物であるため,斜め貫接合部に生じる純粋なせ

ん断力を算出できる。なお,上載重量は加力梁と周辺治具の重量

のみであるが,試験体を設置しない加力を事前に実施し,各加力

で得られた復元力から P 効果を除去し,せん断力を算出できる。

試験体頂部での水平変位 u を柱高さ H (=3,178mm)で除した値を

層間変形角 R=u/H と定義し,R に基づく変位制御による正負交番

漸増繰返加力を行う。変位履歴は R の振幅が 1/120,1/100,1/75,

1/50,1/30,1/20,1/15, 1/10, 1/8, 1/6 rad となるように与え,試験

体が水平抵抗力を喪失するまで加力を行う。ただし,アクチュ

エータのストロークの都合上,R ≧ 1 /10rad の加力サイクルでは,

正側水平変位のみを漸増させる。柱と貫の側面と斜め貫の表裏に

はひずみゲージを貼付し,曲げモーメントや面外変形を確認す

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

水平荷

重 (k

N)

層間変形角 (rad)

1/8rad 左柱割裂,右斜め貫折損

1/20rad 込栓

(左上・右下)折損

-1/10rad 左斜め貫折損

(左下・右上)折損-1/20rad 込栓

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

水平荷

重 (k

N)

層間変形角 (rad)

1/30rad 左上込栓折損

1/20rad 右下込栓折損

1/15rad 両上込栓折損

1/10rad 左梁のほぞの端抜け

柱の割裂1/10rad 左梁下込栓位置で

る。柱梁接合部には接触式変位計を設置し,接合部回転角を計測

すると同時に,斜め貫軸方向の柱及び梁に対する移動量を視覚的

に確認できるように斜め貫に目盛を記入し,移動量が大きい可能

性の高い箇所に最大接合部変形記憶センサー 6 )を設置する。

水平抵抗力はアクチュエータに付けたロードセルで計測する。

また,タイロッドにはロードセルが設置されており,引張力を確

認する。なお,本報中での試験体の柱名称は,加力方向の正側の

柱を左柱,負側の柱を右柱とする。

4.3 実験結果

4 .3 .1 損傷状況と復元力特性の比較

 接合部の損傷の様子を写真 3 に,復元力特性を図 12 に示す。 

 W40 試験体では,正側加力時 1/20rad で梁の左上・右下込栓が損

傷し,負側加力時 1/20rad には梁の左下・右上込栓が損傷した。正

側 1/10rad で最大せん断力 7.7kN に到達し,負側 1/10rad には,左斜

め貫の折損が生じた。正側 1 / 8 ra d で左柱梁接合部の柱に割裂が生

じるとともに,右斜め貫が梁付近で折損し,せん断力が若干低下

した。試験体解体後に,全ての込栓が曲げ破壊後に破断に至った

ことを確認した。左右の斜め貫では梁の上下面,柱の内外面と接

する位置でめり込みが生じた。なお,斜め貫は折損に至るまでの

間,独特の挙動を見せたが,4 . 3 . 2 にて説明する。

 P40 試験体については,負側加力時 1/30rad で梁の左下込栓が損傷

し,正側加力時 1/20rad で梁の右下込栓,正側 1/15rad で梁の右上・左

上込栓が損傷した。正側 1/10rad で大きな損傷音とともに左上込栓位

置で梁のほぞが端抜け,負側 1/10rad で梁の左下込栓の位置で柱が割

裂した。復元力は正側 1/6rad においても低下することなく,6.81kN

に到達した。解体後に全ての込栓の折損が確認された。また,斜め

貫に折損は生じず,めり込み跡もみられなかった。

 図 13 で W40 と P40 の骨格曲線を比較する。W40 の方が大きな水図 10 斜め貫接合部詳細図

 (a ) 接合部全体        (b ) 柱梁接合部詳細

 (a) 加力システム          (b) 実験の様子

折損

柱材軸

梁材軸

斜め貫材軸

462mm

40 度

35

20

360

9090

180

175

2020

2020

2727

10

20 145

90

800m

m

加力梁(剛体)

負正

:ピン

タイロッド

差鴨居

斜め貫

H=

3178

mm

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613

平抵抗力を示すが,W 4 0 の斜め貫折損以降の大変形時には逆転し,

P 4 0 の方が高い値を示している。ポリカーボネートはエネルギー吸

収能力が低いものの,変形性能が高く,折損しないことに起因する。

4.3 .2 斜め貫の挙動の比較

 W 4 0,P 4 0 ともに柱-斜め貫接合部では,繰返加力に応じて斜め

貫が柱に抜き挿しする挙動を繰返し,加力サイクルが進むにつれて

その移動量は増加したが,梁-斜め貫接合部では斜め貫の移動量は

小さかった。両試験体の左柱-斜め貫接合部における斜め貫の移動

量を図 1 4 に示すが,上述の傾向が見て取れる。柱梁間角度が狭まる

場合は斜め貫が柱に挿さり,広がる場合は柱から抜ける(図 1 5)。

 正側加力時 1 / 8 r a d において両試験体の各接合部での移動量と斜め

貫の変形を描いたものを図 15(b )に示すが,どちらも梁-斜め貫接合

部での移動量は,柱-斜め貫接合部における移動量の 1 割にも満た

ないことがわかる。なお,柱と梁の斜め貫との接点を●で示してい

るが,各ほぞ穴でこじれる様に動いていることがわかる。

 両試験体の左斜め貫に生じる軸力を歪ゲージより算出し注 3 ),

図 1 6 に示すが,斜め貫の材質による違いが顕著となった。な

お,W 4 0 の場合は折損前までに限定する。木材の斜め貫では,

柱に挿さる場合は軸力変動が小さく,抜ける場合は大きな引張

力が生じていることから,斜め貫が抜ける場合に柱のほぞ穴と

斜め貫下縁間で大きな摩擦力が生じたと考える。一方,ポリ

カーボネートの斜め貫は 1 / 5 0 r a d までは斜め貫の抜き挿しに応じ

て引張軸力・圧縮軸力が生じており,1 / 5 0 r a d を超えて以降,引

張軸力のみが生じ,残留ひずみが確認された。

4 . 4 せん断耐力の算出

既往の論文 5 )と同様に斜め貫をモデル化し,斜め貫に生じる最

大縁応力度を指標に折損の有無や架構せん断力を推定する。

4 .4 .1 斜め貫のモデル化と縁応力度

以下の仮定に基づき,斜め貫モデルを構築する(図 1 7 )。

a ) 柱と斜め貫は材軸を通る線材,梁は断面を持つ剛体とする。

-15

-10

-5

0

5

10

-0.15-0.1-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

斜め

貫軸力

(kN

)

層間変形角(rad)

圧縮

引張

W40左斜め貫-15

-10

-5

0

5

10

-0.15-0.1-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

斜め貫

軸力

(kN

)

層間変形角(rad)

圧縮

引張

P40左斜め貫

-120

-80

-40

0

40

80

120

-0.15-0.1-0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

W40 P40

変位

(mm

)

層間変形角(rad)

左柱斜め貫接合部

上へ

抜け

る下

へ挿

さる

b ) 込栓は,斜め貫の折損が生じる以前に全て損傷しているため

考慮せず,柱は,点 X を支点として試験体変形角 が柱梁接

合部回転角と等しくなるように線形に変形する。

c ) 点 A , B はピン固定とし,柱接合部の点 C を自由端とする。

d) W40 の斜め貫の変位は,点 A,B,C でのめり込み 7)と斜め貫の

曲げ変形から生じるが,内力の釣合より,反力 P は曲げ変形

に依る変位のみから求められる(図 1 7 ( b ))。めり込みの復元

力は 2 次勾配まで考慮し 7),軸力は摩擦係数を 0 .4 と与える 7)。

なお,P 4 0 に関しては,ポリカーボネートにめり込みを考慮

せず注 4 ),斜め貫と木材の間の摩擦力も 0 . 4 とする 7 )。

e ) 材料特性には,表 4 を用いる。

 以上の手法で斜め貫をモデル化し,点 B に生じる縁応力と部材

の曲げ強度を比較し,斜め貫の折損を推定する。図 1 8 に両試験

体の正側加力時の左右斜め貫に生じる縁応力度の変化を,図 1 9

に左斜め貫に生じる軸力の変化を示す。W 4 0 では実験より小さい

変形角で右斜め貫が折損する結果が得られた注 5 )。P 4 0 では縁応力

度が徐々に増加する傾向が確認できた。また,試験体変形角が大

きくなるに従って増大する荷重 P(図 1 7)によって斜め貫の軸力

も変化するが,W 4 0 の左斜め貫に生じる軸力については,柱梁間

角度が開く際には引張軸力,狭まる際には圧縮軸力が生じ,共に

増加する傾向は概ね捉えられている。P4 0 では,実験においては,

小変形領域の正側加力時には圧縮力が生じ,負側加力時に引張軸

力に転じ,大変形領域では常に引張軸力を受ける結果が得られた

が,解析においては W 4 0 と同様,正側負側で圧縮軸力と引張軸

力が転じ,実験初期と同様の傾向がみられた。

4.4.2 架構せん断力

図 2 0 のように,柱-斜め貫接合部での荷重 P 1(前節の反力 P)

と梁の突張力 P 2 より得られる曲げモーメントに梁のほぞによる

曲げ戻しMb を加え,柱に生じる曲げモーメントを計算する 2,7)。こ

れに基づき,架構せん断力を推定する。

架構に生じるせん断力を比較したものを図 2 1 に示す。W 4 0 に

加力

柱 斜め貫

θ

φ

A

BX

α

C

C’

δδ P

B

C

A

ABC

B

2max

C

L1 L1L2

L2

P柱から受ける 反力

点A,Bのめり込みによる変位

点Cのめり込みによる変位

斜め貫の曲げによる変位

EI

M =PL

δ

図 16 左斜め貫に生じた軸力の変化

(a) W40           (b) P40図 17 斜め貫のモデル化概要

(a ) 柱梁間角度の広がる場合  (b) 点 C で生じる斜め貫の変位

0

2

4

6

8

10

0 0.05 0.1 0.15 0.2

W40P40

水平

荷重

(kN

)

層間変形角 (rad)

1/8rad 左柱割裂 右斜め貫折損

図 13 骨格曲線の比較 図 14 斜め貫の移動量 (a) 斜め貫の挙動  (b) 斜め貫の移動量と損傷比較(+1/8rad)図 15 正側加力時の斜め貫の変形と移動量

移動量少

W40: +3mmP40: -2mm

W40: -47mmP40: -38mm

:斜め貫と周辺フレームの接触点

W40: +53mmP40: +52mm

W40: 折損

W40: -4mmP40: -5.5mm

加力方向

挿さる抜ける

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614

おいては,斜め貫が折損するまでのせん断力の増加傾向は概ね良

好に追跡できているが,最大せん断力は実験結果より小さめに推

定された。一方,最大せん断力到達以降はせん断力が急激に低下

しており,実験結果とは異なる。実験では斜め貫の折損によって

断面欠損が生じたが,解析では逆側の斜め貫が折損していないた

め整合しないと考える。P40 については,1/10rad までは再現精度

が非常に高い。1/10rad 以降は実験において生じた柱の割裂などを

考慮できていないため,精度が低下したと考えられる。

4 . 5  ポリカーボネートの斜め貫への適用可能性

 木材の斜め貫を採用した場合,折損が生じて架構せん断力が低下

するのに対して,木材より変形性能の高いポリカーボネートを使用

した場合,大変形領域においても斜め貫の折損が生じないため急激

な耐力低下が生じない。変形角が小さい範囲では木材の場合よりポ

リカーボネートを用いた方が架構せん断力が高いが,大変形領域に

おいては逆転した。また,不均質材料で異方性を持つ木材の場合と

異なり,高精度で推定可能である。以上より,ポリカーボネートの

斜め貫を耐震補強法の一つとして採用する可能性を示せた。

5 . まとめ

 本報では,伝統構法木造建物の嵌合型接合部において損傷の生じ

易い部材に対し,変形性能の高いポリカーボネートでの代用を試み,

静的加力実験および接合部の復元力特性や架構せん断力の推定を行

い,その適用可能性を模索した。

a ) 柱差鴨居接合部の栓をポリカーボネートで代用した場合,込栓

の場合は柱に割裂破壊が生じやすくなるが,鼻栓の場合は,大変形

時の復元力が木材の場合と同程度であり,栓の破断が生じ難い。

b ) 斜め貫接合部の斜め貫をポリカーボネートで代用した場合,斜

め貫の折損が生じないため,急激な耐力低下が生じず,大変形領域

では木材の場合よりも架構せん断力が高い。

c ) ポリカーボネートは異方性を持たない均質でばらつきの無い材

料であり,解析による再現精度が高いと推察される。

0

20

40

60

80

100

120

0 0.05 0.1 0.15

広がる場合狭まる場合

最大縁応力

(N/m

m2 )

試験体変形角(rad)

斜め貫折損

柱-梁間角度が

実験

0

20

40

60

80

100

120

0 0.05 0.1 0.15

広がる場合狭まる場合

最大

縁応

力(N

/mm

2 )

試験体変形角(rad)

柱-梁間角度が

-20

-10

0

10

20

-0.1 -0.05 0 0.05 0.1

実験 解析

斜め貫

軸力

(kN

)

試験体変形角(rad)

狭まる 広がる柱-梁間角度

圧縮

力引

張力

W40試験体

-20

-10

0

10

20

-0.1 -0.05 0 0.05 0.1

実験 解析

斜め貫

軸力

(kN

)

試験体変形角(rad)

狭まる 広がる柱-梁間角度

圧縮

力引

張力

P40度試験体

0

2

4

6

8

10

0 0.05 0.1 0.15 0.2

実験解析

水平

荷重

(kN

)

層間変形角 (rad)

右斜め貫折損

0

2

4

6

8

10

0 0.05 0.1 0.15 0.2

実験解析

水平

荷重

(kN

)

層間変形角 (rad)

加力

a

b

c

d

P 2

P2

P2

2

L b

L c

L a

L a L b L c

Mb

Mb

Mb

M 1

M 2

P1

P1

P1

δ

a b c d

梁斜め貫より

梁より

柱脚柱頭

梁上端

柱脚柱頭

たわみ

図 20 柱に生じる曲げモーメントの算出

(a ) 柱梁間角度の広がる場合   (b ) モーメント算出方法

図 18 左斜め貫に生じる縁応力 (a) W40   (b) P40

図21 せん断力

(a) W40   (b) P40

図 19 左斜め貫に生じる軸力 (a) W40   (b) P40

謝辞

 本研究は,公益財団法人旭硝子財団平成24年度「地域型木造住宅

の類型化と大地震に備えた保全再生法に関する研究助成」(代表者:

林康裕)の補助の下で遂行した。実験に関して,元京都大学大学院

生 津田沙織氏,京都大学大学院工学研究科建築学専攻建築保全再生

学講座 杉野未奈氏,南部恭広氏,ならびに同講座の大学院生・学部

生から多大な助力を頂いた。ここに記して謝意を表する。

注 1) 点A からの距離 lp は込栓軸芯,le は柱径,lf は差鴨居のせいを与える。

注2) 斜め貫は全長1,998mm,上端135mm,下端122mmのテーパー付とし,上方か

ら叩き込んで緩みの無いよう施工する。

注 3) 斜め貫の軸力を算出するため,ひずみゲージは,梁下端から柱内面までの

中間に,斜め貫上下に向かい合わせで貼付した。

注 4) めり込み強度の推定には全面横圧縮ヤング係数(ヤング係数の 1/50)を用いる。本研究での柱の全面横圧縮ヤング係数は,ポリカーボネート

の 1/10 である。

注 5) めり込みは 2 次勾配まで考慮したが,斜め貫の挙動(図 5(a))と,両

斜め貫でほぞとの接触点が異なる為(図 15(a)),2 次勾配へ移行する縁

応力が異なる。

参考文献

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研究,日本建築学会構造系論文集,Vol.77. No.675, pp.747-754, 2012.5.2) 横田治貴,中川敦嗣,多幾山法子,林康裕:京町家の柱梁接合部における復

元力特性評価に関する実験的研究,日本建築学会近畿支部研究発表会,

pp.233-236,2013.63) 旭硝子株式会社AGC電子カンパニー,CARBOGLASS TWINCARBO TECHNITAL

DATA,2014.5.4) 中井孝,山井良三郎:日本産主要35樹種の強度的性質,林業試験場報告,No.319,

pp.13-46, 1982.1.5) 多幾山法子,南部恭広,渡辺千明,林康裕:斜め貫接合部を有する木造軸組架

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部変形による層間変形角の推定と最大接合部変形記憶センサーの提案,日本

建築学会構造系論文集,第77巻,第673号,pp.475-482,2012.37) 日本建築学会:木質構造接合部設計マニュアル,2009.11

[2014年 10月 15日原稿受理 2015年 1月 6日採用決定]