4
300 200 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 H = ° = ° B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究 建築工学専攻 加藤 優輝 指導 教授 丸田 榮藏 1. はじめに 空気膜構造に関する研究 例えば 1) は古くから行われており,変 形の性状や内圧制御法の基礎的な検討が試みられてきた。 1970 年には設計基準 2) を設け,空気膜構造への設計対応が 図られた。しかし,風圧抵抗に必要な内圧設定では,現在, 境界層乱流に対応した風荷重算定方法が提示され,一般的 となっているのに対し,旧来からの一様流の実験に基づいた 設計方法が踏襲されている。また,風荷重算定に関しては, 空気膜構造が柔構造であるにもかかわらず剛体模型の風洞 実験によるデータを用いることが一般的となっている。 これらを受けて本論文では,柔模型を用いて境界層乱流中 の内圧制御実験および風圧実験を行い,従来の規定値の, 境界層乱流を基本とする現行規準への適用方法,強風時の 必要内圧として地上 10m を基準とする風速管理方法,膜体 変形を考慮した風圧係数の割増について提案している。 2. 実験方法 2.1 使用風洞および実験気流 風洞実験はゲッチンゲン型単帰回流風洞を用いて行った。 実験気流は縮尺 1/250,建築物荷重指針・同解説に示す地 表面粗度区分Ⅳ(α = 0.27)の境界層乱流とした。Fig.1 に平 均風速,乱れの強さに対する鉛直分布を示し,Fig.2 に地盤 高さ 40mm における u.v.w-3 成分の変動風速のパワースペク トル、Fig.3 乱れの積分スケールに対する鉛直分布を示す。 なお,u-成分における変動風速のパワースペクトルは Karman スペクトルとの比較を行っている。 実験気流は、 後述する模型の最大高さ(100mm)2 倍以上の高さ 300mm の範囲において境界層を再現できているものと見なした。 2.2 実験模型 実験模型は B × D = 300 × 200mm の角丸長方形平面で あり,模型ライズを = 1006030mm とした 3 種類の最小 曲面積形態を対象としている (Fig.4) 。また,代表長さを D = 200mmとした時,ライズ比 D 0.50.30.15 であり, 無風時に加圧する柔模型の初期内圧 はそれぞれ 98.168.619.6N/m 2 である。内圧制御実験で用いる柔模型は,膜 t = 0.5mmとした 3 種類のシリコン膜模型を対象としている (Fig.5)。風圧実験用の柔模型は,薄膜に直径 1.5mm の穴を 開け,ニップルと導圧チューブを用いて 49 点の風圧測定 孔を設け,膜体変形時の風圧計測を可能としている(Fig.6)実験模型の詳細については参考文献を参照されたい 3) 2.3 風洞実験の相似性 柔模型を用いた風洞実験において,外力が作用した際の実 現象を把握するためには、変形や膜張力に対し相似条件を 満たす必要がある。このことから,内・外圧と張力の釣り合い 方程式から導かれる(1)4) より風速および時間スケールV T を算定した。実膜材料は、某メーカの四フッ化エチレン樹脂 Study on Wind pressure Acting on Pneumatic Dome and Internal Pressure Control to Stabilize the Structure Yuki KATOH Silicon film Silicon tube Nipple a) Pressure Tap Silicon film (t = 0.5mm) Pressure tap Silicon tube Vinyl tube Nipple Caulking 12.5mm 54.0mm 6.0mm b) Cross-section of model Fig.6 Pressure tap and detail b) View from D a) View from B Fig.5 Flexible dome model Fig.1 Wind profile 0.001 0.01 0.1 1 0.001 0.01 0.1 1 10 Karman Spectrum u-comp v-comp w-comp () Fig.2 Power spectra (Z=40mm) Height above floor Z [m] Integral scale [m] Fig.3 Integral scale 1 10 100 1000 1 10 100 1000 AIJ recommendations Experimentaldata 0 0.2 0.4 0.6 0 50 100 150 200 250 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 5 10 15 20 Turbulence Intensity It Height above ground [m] Height above ground [mm] Wind speed U [m/s] Velocity U α=0.27 Iu=u'/U Iv=v'/U Iw=w'/U AIJ u-comp

空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制 …200 300 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 2.1 H 𝛉= 𝛉 = 𝟗 B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制 …200 300 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 2.1 H 𝛉= 𝛉 = 𝟗 B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

300

200

D 10

0

Fig.4 Dimension of dome model [mm]

300

H

𝛉 = 𝟎°

𝛉=𝟗𝟎°

B

空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

建築工学専攻 加藤 優輝

指導 教授 丸田 榮藏

1. はじめに

空気膜構造に関する研究例えば 1)は古くから行われており,変

形の性状や内圧制御法の基礎的な検討が試みられてきた。

1970 年には設計基準 2)を設け,空気膜構造への設計対応が

図られた。しかし,風圧抵抗に必要な内圧設定では,現在,

境界層乱流に対応した風荷重算定方法が提示され,一般的

となっているのに対し,旧来からの一様流の実験に基づいた

設計方法が踏襲されている。また,風荷重算定に関しては,

空気膜構造が柔構造であるにもかかわらず剛体模型の風洞

実験によるデータを用いることが一般的となっている。

これらを受けて本論文では,柔模型を用いて境界層乱流中

の内圧制御実験および風圧実験を行い,従来の規定値の,

境界層乱流を基本とする現行規準への適用方法,強風時の

必要内圧として地上 10m を基準とする風速管理方法,膜体

変形を考慮した風圧係数の割増について提案している。

2. 実験方法

2.1 使用風洞および実験気流

風洞実験はゲッチンゲン型単帰回流風洞を用いて行った。

実験気流は縮尺 1/250,建築物荷重指針・同解説に示す地

表面粗度区分Ⅳ(α = 0.27)の境界層乱流とした。Fig.1 に平

均風速,乱れの強さに対する鉛直分布を示し,Fig.2 に地盤

高さ 40mmにおける u.v.w-3成分の変動風速のパワースペク

トル、Fig.3に乱れの積分スケールに対する鉛直分布を示す。

なお,u-成分における変動風速のパワースペクトルは

Karmanスペクトルとの比較を行っている。実験気流は、

後述する模型の最大高さ(100mm)の 2 倍以上の高さ 300mm

の範囲において境界層を再現できているものと見なした。

2.2 実験模型

実験模型は B × D = 300 × 200mm の角丸長方形平面で

あり,模型ライズを 𝐻 = 100,60,30mm とした 3種類の最小

曲面積形態を対象としている (Fig.4)。また,代表長さを

D = 200mmとした時,ライズ比 𝐻 D⁄ は 0.5,0.3,0.15 であり,

無風時に加圧する柔模型の初期内圧𝑃𝑖𝑜′ はそれぞれ 98.1,

68.6,19.6N/m2 である。内圧制御実験で用いる柔模型は,膜

厚t = 0.5mmとした 3種類のシリコン膜模型を対象としている

(Fig.5)。風圧実験用の柔模型は,薄膜に直径 1.5mm の穴を

開け,ニップルと導圧チューブを用いて 49 点の風圧測定

孔を設け,膜体変形時の風圧計測を可能としている(Fig.6)。

実験模型の詳細については参考文献を参照されたい 3)。

2.3 風洞実験の相似性

柔模型を用いた風洞実験において,外力が作用した際の実

現象を把握するためには、変形や膜張力に対し相似条件を

満たす必要がある。このことから,内・外圧と張力の釣り合い

方程式から導かれる(1)式 4)より風速および時間スケールV,T

を算定した。実膜材料は、某メーカの四フッ化エチレン樹脂

Study on Wind pressure Acting on Pneumatic Dome and Internal Pressure Control to Stabilize the Structure

Yuki KATOH

Silicon film

Silicon tube

Nipple

a) Pressure Tap

Silicon film (t = 0.5mm) Pressure tap

Silicon tube

Vinyl tube

Nipple

Caulking

12.5mm

54.0

mm

6.0mm

b) Cross-section of model Fig.6 Pressure tap and detail

b) View from D a) View from B

Fig.5 Flexible dome model

Fig.1 Wind profile

0.001

0.01

0.1

1

0.001 0.01 0.1 1 10

Karman Spectrumu-compv-compw-comp

𝐧𝐒(𝐧)𝛔𝟐

𝐧𝐋𝐱 𝐔 ⁄ Fig.2 Power spectra (Z=40mm)

Hei

gh

t ab

ove

floor

Z

[m

]

Integral scale [m]

Fig.3 Integral scale

1

10

100

1000

1 10 100 1000

AIJ recommendationsExperimentaldata

0 0.2 0.4 0.6

0

50

100

150

200

250

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

0 5 10 15 20

Turbulence Intensity It

Hei

gh

t a

bo

ve

gro

un

d [

m]

Hei

gh

t a

bo

ve

gro

un

d [

mm

]

Wind speed U [m/s]

Velocity U

α=0.27

Iu=u'/U

Iv=v'/U

Iw=w'/U

AIJ u-comp

Page 2: 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制 …200 300 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 2.1 H 𝛉= 𝛉 = 𝟗 B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

コーティングガラス繊維布 ( 𝑡 = 0.8mm,ヤング率𝐸𝑟 =

1753(縦糸),1189(横糸) N mm2⁄ )を想定している。また,実験

模型の薄膜は引張載荷試験を行い, E𝑚 = 1.48N mm2⁄ で

あった。例えば,縦糸を採用すると風速および時間スケール

��,��は以下のように得られる。

�� = √�� ∙ ��

��= √

𝟏. 𝟒𝟖𝟏𝟕𝟓𝟑

∙𝟎. 𝟓𝟎. 𝟖

𝟏/𝟐𝟓𝟎=

𝟏

𝟐. 𝟕𝟓(横糸:

𝟏

𝟐. 𝟐𝟕) (1)

�� = �� ×𝟏

��=

𝟏

𝟐𝟓𝟎× 𝟐. 𝟕𝟓 =

𝟏

𝟗𝟎. 𝟗 (2)

ここに,相似率��,��,��は実構造物に対する実験模型のヤン

グ率,膜厚,曲率半径の比である。

2.4 風圧係数の定義

風圧係数は以下の(3)式により定義した。

𝑪 𝒑𝒆 =𝑷 𝒆

𝒒 𝑯 𝑪𝒑𝒆

′ =𝝈𝒑

𝒒 𝑯

��𝒑𝒆 =��𝒆

𝒒 𝑯 ��𝒑𝒆 =

��𝒆

𝒒 𝑯

}

(3)

ここに𝐶��𝑒,𝐶𝑝𝑒′ , ��𝑝𝑒,��𝑝𝑒は平均,変動,最大,最小風圧係

数,��𝑒,��𝑒,��𝑒は作用する平均,最大,最小風圧[N/m2],𝜎𝑝は

作用する風圧変動の標準偏差,��𝐻は模型頂部高さ H相当の

平均速度圧[N/m2]である。

2.5 風圧データの取得方法

実験風速は、内圧制御実験では1~14m/s、風圧実験では5

~13m/s,および後述される必要内圧の限界風速V s40とした。

なお、実験風速は、風洞高さ 40mm での風速である。実験風

向は,θ = 0°(長辺方向に正対する方向)と 90°の 2風向とした。

データ取得に関しては、1msec をサンプリング間隔とする

16384個を 1波として 3波計測としている。計測されたデータ

は、(2)式の時間スケールを基に 1 秒評価時間相当の移動平

均をかけた変動波形とした。なお,風圧実験において計測し

た導圧チューブによる変動風圧の歪みは,あらかじめこれら

の伝達特性を調べ,FFT と IFFTにより補正を行っている。

2.6 模型膜変形の計測方法

風洞実験での膜体変形の計測はレーザー変位計を用いて

計測した。なお,実験模型の膨張は,ミニ・コンプレッサーを

用いて内圧を加えるが,減圧弁とニードルコックを用いること

で内圧の微調整を行っている 3)。

3. 空気膜構造に必要な内圧制御

3.1 膜体の変形と限界風速

膜体の変形は,模型風上面に負の変形が生じる境目を構造

安定限界の変形とし,この時の風速を内圧の加圧が必要と判

断し,限界風速V S40(風洞地盤からの高さ 40mm での風速)と

した。しかし,境界層乱流実験の平均変位による膜体の変形

図では、実験風速の範囲内において負の変形を確認するこ

とが困難であった。旧来、乱流の渦Scaleが物体を全て覆うほ

ど大きい時、流れを瞬間的に一様な流れと見做し風洞実験を

行ってきた。この考えに基づいて、瞬間変位による風上半分

の変形図を作成し、一様流中との比較を行った(Fig.7)。両者

は類似するものであり、境界層乱流中では瞬間変形から作成

した断面図を用いて構造安定限界の変形を求めた。

3.2 構造強度に必要な内圧

空気膜構造設計規準 2)では,暴風時において発生する大変

形に対し,構造強度を維持するために必要な内圧をかけるこ

とを規定している。この内圧の増分∆𝑃𝑖𝑠を、前述した変形に基

づいて、(4)式の定義より求めた。

∆𝑷𝒊𝒔 = 𝑷𝒊𝒔 − 𝑷𝒊′ (4)

ここに𝑃𝑖𝑠は構造強度に必要な内圧量[N/m2],𝑃𝑖

′は風速変化

により変化した内圧[N/m2]である。

Fig.9 a)は(4)式を用いて求めた平均速度圧��40に対する∆𝑃𝑖𝑠

の関係の一例を示している。いま、同図の��40に対する内圧

の増分∆𝑃𝑖𝑠の関係において、近似線の傾きCisをとり、

𝑃𝑖′ = 𝑃𝑖𝑜

′ (初期内圧)としたとき、∆𝑃𝑖𝑠 + 𝑃𝑖𝑜′ = 𝑃𝑖𝑠と考えると、必

要内圧𝑃𝑖𝑠は(5)式で与えられる。

𝑷𝒊𝒔 = 𝐂𝐢𝐬 ∙ 𝒒 𝟒𝟎 (5)

これらの関係は、Fig.9 b)のように模式的に表現することがで

きる。この図は、膜内圧を限界風速V S40 までは初期内圧Pio′ と

するが、それを超える風速ではCis ∙ ��40とする必要があること

を示している。

Table1は、実験で得られた Fig.9 a)の平均速度圧��40に同じ

高さでの風速に対する突風率𝐺𝑣の二乗を乗ずることで求め

た瞬間速度圧 ��40に対する∆𝑃𝑖𝑠の傾斜Cis と限界風速

V S40(∆𝑃𝑖𝑠 = 0を示す��40に対応する風速)を求め、一様流の

実験結果より得られたCiおよびVsと比較している。表より,瞬

Fig.8 Definition of internal pressure need to stabilize the

dangerous deformation

𝑷𝒊′ 𝑷𝒊𝒔

𝒒 𝑯

𝒒 𝟒𝟎

Fig.7 Comparison of deformation in shear flow and uniform flow

min

max

mean

uniform

Shear flow 𝐕 𝟒𝟎=11m/s_mean

Shear flow 𝐕 𝟒𝟎=11m/s_max

Shear flow 𝐕 𝟒𝟎=11m/s_min

Uniform flow V=18m/s

∆𝑷𝒊𝒔

[N

/m2]

𝒒 𝟒𝟎 [N/m2]

a) ∆𝑃𝑖𝑠 and ��40 (θ = 0°) b) 𝑃𝑖𝑠 and Cis ∙ ��40

Fig.9 Internal pressure need to stabilize the pneumatic structure

0

100

200

300

400

500

0 50 100 150

H/D=0.15_0°

H/D=0.3_0°

H/D=0.5_0°

0

5

10

15

20

0 10 20 30

𝑷𝒊𝒐′

PiS [

N/m

2

]

𝟏𝟐 𝝆𝑽 𝑺𝟒𝟎

𝟐 𝒒 𝟒𝟎 [𝐍 𝐦𝟐⁄ ]

𝑷𝒊𝒔 = 𝑪𝒊𝒔 ∙ 𝒒 𝟒𝟎

Page 3: 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制 …200 300 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 2.1 H 𝛉= 𝛉 = 𝟗 B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

間速度圧��40に対応させたCisは、一様流中のCiに近似する

傾向を示した。

さらに,前項のCisに関する近似の結果と3.1項に記述した考

えに基づき、模型に作用する外圧を一様流に等価な速度圧

��𝐻0を(6)式を用いて置き換え,一様流の結果と比較した

(Fig.10)。図より,両者はほぼ一致すると見做された。このこと

から一様流中の実験 5)より得られたCiによって乱流中の構造

安定に必要な内圧への適用が可能であることが見出された。

��𝑯𝟎= 𝒒 𝑯 ∙ (

𝑯𝟎

𝑯)𝟐𝛂

∙ 𝑮𝒗𝑯𝟎 (6)

𝑯𝟎 = (𝟏

𝟐𝛂 + 𝟏)

𝟏𝟐𝛂

∙ 𝑯 (7)

ここに、𝛼は、境界層の速度勾配,𝐻0は一様流に等価な速度

圧を与える高さである。

3.3 設計値への適応と評価

本項では風速スケール��により、実験結果の実風速への

適応を試みた。Table2 は、風洞実験から得られたV s40と

実膜材料に対してV sを求めたものである。

前項までの結果より一様流中の内圧制御実験より,乱流中

における空気膜構造の必要内圧を求めることが可能であるこ

とが見出された。これまで得られた結果から,空気膜構造の

構造強度に必要な内圧は,(8)~(10)式で求められる。(8)式

は、地上 10m における風速を管理することによって、一様流

中の内圧制御実験より強風時の必要内圧(Ciを用いた)を制

御することができることを意味している。なお,(9)式のCisの計

算結果(粗度区分Ⅳ、α = 0.27)は、Table1 の��40に対応させ

たCisの値にほぼ近似することが確認されている。

𝑷𝒊𝒔 = 𝑪𝒊 ∙ 𝑮𝑽𝟐(𝑯𝟎) ∙ (

𝑯

𝟏𝟎)𝟐𝜶

∙𝟏

𝟐𝜶 + 𝟏∙ 𝒒 𝟏𝟎 (8)

𝑪𝒊𝒔 = 𝑪𝒊 ∙ 𝑮𝑽𝟐(𝑯𝟎) ∙ (

𝑯

𝟏𝟎)𝟐𝜶

∙𝟏

𝟐𝛂 + 𝟏 (9)

𝑮𝑽(𝑯𝟎) = 𝟏 + 𝟑. 𝟒 × 𝟎. 𝟏 ∙ (𝑯𝟎

𝒁𝑮

)−𝜶−𝟎.𝟎𝟓

(10)

4. 模型表面に作用する風圧特性

4.1 柔模型の風圧性状

Fig.11 a),b)は,𝐻 D⁄ = 0.5,θ = 0°における V 40 = 8m s⁄

時(限界風速V S近傍)の𝐶��𝑒, 𝐶𝑝𝑒′ のコンター図を示している。

平均風圧係数分布は模型頂部付近の負圧が大きい値を示し、

分布が縞模様であるといった性状は剛体模型による実験 3)で

得られた実験結果に類似している。変動風圧係数分布は,模

型頂部付近で約 0.45 と高い値を示している。Fig.11 c),d),e)

は,θ = 0°における風方向模型中心線上の模型円弧長さ S

と模型端部-風圧測定孔 𝑠 からなる 𝑠 S⁄ における風圧係数を

示し,剛体模型との比較,ライズの差異による影響,および風

速変化による影響について検討している。なお,Fig.11 c),e)

については紙面の都合上𝐻 D⁄ = 0.5のみ記載している。

Fig.11 c)は,柔模型の頂部付近における平均・変動・ピーク

風圧係数𝐶��𝑒,𝐶𝑝𝑒′ ,��𝑝𝑒が剛体模型に比べ大きい値を示して

いる。風上部では、柔模型の𝐶��𝑒が大きい値を示し、模型背

面部では柔模型の方が��𝑝𝑒,��𝑝𝑒が小さい。Fig.11 d)は,頂部

での風圧係数が、ライズ比 𝐻 D⁄ の低下と共に低くなる。風上

の淀み域ではライズによる差異は小さく、後流域では

𝐻 D⁄ = 0.15の��𝑝𝑒が他のライズより大きな値を示している。

Fig.11 e)では,風速変化による風圧性状への影響は��𝑝𝑒で大

きい。しかしながら,淀み域と後流域では風速変形による影

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

𝑪𝒑𝒆

s/S

𝑪 𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

𝑪𝒑𝒆

𝑪𝒑𝒆

s/S s/S

c) Comparison for Solid model and

Flexible model

d) Comparison for rise ratio H/D e) Comparison for wind velocity ��40

Solid Flexible 𝑪 𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆

a) Mean wind pressure coefficient

0.4 0.0 -0.4

-0.8 -1.2

-0.4 0.2

b) Fluctuating wind pressure coefficient

0.3 0.4

0.2

0.2 0.15

Fig.11 Characteristics of wind pressure coefficients of Flexible models

H/D=0.5

H/D=0.5

H/D=0.5 H/D=0.3 H/D=0.15

��𝒑𝒆

��𝒑𝒆

𝑪𝒑𝒆′

𝑪 𝒑𝒆

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′ 𝑪 𝒑𝒆

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′ 𝑪 𝒑𝒆

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′ 𝑪 𝒑𝒆

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′ 𝑪 𝒑𝒆

��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 𝑪𝒑𝒆′ 𝑪 𝒑𝒆 𝑽 𝟒𝟎=5m/s 𝑽 𝟒𝟎=𝑽 𝑺𝟒𝟎 𝑽 𝟒𝟎=13m/s

𝜽 = 𝟎°

𝜽 = 𝟎°

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 200 400 600

Shear Flow

Uniform Flow

0

50

100

150

200

250

300

350

400

0 200 400 600

Shear Flow

Uniform Flow

∆𝑷𝒊𝒔

[N

/m2

]

∆𝑷𝒊𝒔

[N

/m2

]

��𝑯𝟎 [𝐍/𝐦𝟐] ��𝑯𝟎

[𝐍/𝐦𝟐]

Fig.10 Comparison with uniform flow and shear flow (H/D = 0.5)

a) θ = 0° b) θ = 90°

H/D 𝛉 𝐂𝐢𝐬 𝐕 𝐬𝟒𝟎

[m/s]

Uniform flow

𝒒 𝟒𝟎 ��𝟒𝟎 𝐂𝐢 𝐕𝐬[m/s]

0.5 0° 3.19 0.87 7.1 0.60 14.8

90° 3.68 1.00 6.6 0.73 12.0

0.3 0° 2.75 0.75 6.4 0.52 11.8

90° 2.82 0.77 6.4 0.55 10.6

0.15 0° 0.92 0.25 5.9 0.27 7.6

90° 1.00 0.27 5.7 0.20 8.8

Table1 Cis and V s40

H/D 𝛉 = 𝟎° 𝛉 = 𝟗𝟎°

𝐕 𝐬𝟒𝟎 𝟏𝟐.𝟕𝟓 𝟏

𝟐.𝟐𝟕 𝐕 𝐬𝟒𝟎 𝟏𝟐.𝟕𝟓 𝟏

𝟐.𝟐𝟕

0.5 7.1 19.5 16.1 6.6 18.3 15.1

0.3 6.4 17.6 14.6 6.4 17.5 14.4

0.15 5.9 16.2 13.4 5.7 15.7 12.9

Table2 Calculation results of V S in full scale

Page 4: 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制 …200 300 D 100 Fig.4 Dimension of dome model [mm] 300 2.1 H 𝛉= 𝛉 = 𝟗 B 空気膜ドームの作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する研究

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 1000.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

n [Hz]

Fig.12 Power spectra of external pressure for typical pointA,B,C (H/D=0.5)

Point B

Point A

Point C

n [Hz] n [Hz]

Solid model Flexible model (𝐕 𝟒𝟎 = 𝐕 𝐒𝟒𝟎)

Flexible model (𝐕 𝟒𝟎 = 𝟏𝟑𝐦/𝐬)

𝐧𝐒𝐏(𝐧)

𝐧𝐒𝐏(𝐧)

𝐧𝐒𝐏(𝐧)

1st 0.05

0.00 -0.05

-0.10

-0.10 -0.05

-0.15

0.00

0.10

0.10

0.05

0.05

0.00

0.00

0.00

-0.05

-0.05

-0.10

-0.10

-0.15

3rd

1st 0.00

-0.10

-0.10

-0.20

-0.20 -0.30

0.00

0.00

0.00

-0.10

-0.10 -0.20

-0.20

0.10

0.20

0.10

0.20

0.10

2nd

a) Solid V40 = 8m/s b) Flexible V40 = Vs

Fig.13 Eigenvectors distribution of pressure from first

and switching mode (𝐻/D = 0.5)

響は小さく、変動成分も模型頂部以外は大きく変わらない。

4.2 変動風圧のパワースペクトル

Fig.12に、模型表面の代表的な領域(淀み域 A、剥離域 B、

後流域 C)を評価箇所とし,剛体模型 ��40 = 8m/s,柔模型

��40 = V s40(限界風速),柔模型 V 40 = 13m/s の振動数に対

するパワースペクトルを示す。結果から,柔模型はエネルギ

ーピークが剛体模型に比べ高周波域で生じており,膜体の

変形や振動が風圧変動に影響を与えていると推察される。淀

み域では剛体模型で確認されたスイッチングによるものと推

察される振動数は明確に表れていない。これは,膜体変形の

影響による風圧変動のパワーが大きく、現象が表れにくいた

めと考えられる。剥離域では,柔模型は剛体模型に比べ高い

振動数で大きなエネルギーを有していることが確認できる。

後流域では,パワーはさほど大きくないが高い振動数にスペ

クトルが分布しており,膜体は小さな振動を繰り返していると

推察される。これらのことから,柔模型と剛体模型とでは風圧

変動の性状が大きく異なると推察される。

4.3 作用風圧のスイッチング現象についての検討

POD 解析 6)により,柔模型に作用する風圧変動場の組織的

な構造の評価を行った。解析は,風圧係数の変動成分を対

象とし,負担面積を考慮した(11)式より解析を行っている。

[𝑹𝒑][𝐀]{𝝋} = 𝝀{𝝋} (11)

ここで,[𝑅𝑝] は変動風圧の共分散行列,[A] は模型の全面積

に対する各測定孔の負担面積比を対角要素に持つ対角行

列,𝜆 は固有値,{𝜑} は固有ベクトルである。また,本論文で

は文献 3)の実験より得られた剛体模型の変動風圧場におい

ても同様の解析を行い,結果の比較を行っている。Fig.13 に

θ = 0°,剛体模型 V s40 = 8m/s,柔模型 V s40 = V sを対象と

した固有モードの例を示している。結果より,1 次モードは平

均風圧係数分布に類似した傾向を示し,寄与率はいずれの

模型においても約 40%前後の値を示している。剛体模型で

は3次モード,柔模型では2次モードに左右逆対称な分布が

確認でき,分布の形状からスイッチングの固有モードであると

推察される。紙面の都合上記載していないが,規準座標のパ

ワースペクトルより卓越振動数を算定すると約 8~10Hz 前後

であった。また,約 10%程度の寄与率を示しており,風圧変

動場に大きな影響を与えているものと考えられる。

4.4 設計値における風圧係数の割増

風圧係数に関する検討から,膜体変形を考慮すると風圧係

数の割増が必要であると考えられた。Table3 に実験結果から

求めたθ = 0°の𝐶��𝑒,��𝑝𝑒,��𝑝𝑒の割増係数を示す。

5. まとめ

境界層乱流中における構造強度に必要な内圧は,一定の

一様流と等価な瞬間速度圧として置き換えて評価すると、一

様流中で得られた結果に類似した。この結果から、一様流中

の実験を基にした必要内圧係数Ciを用い、境界層乱流を考

慮した地上 10m 高さで観測された平均風速を基準とする構

造強度に必要な内圧の換算方法を提案することができた。

境界層乱流中における膜体変形を伴う柔模型の風圧性状

は,特に膜体頂部において、変形を伴わない剛体模型に比

べ,平均・変動・ピーク風圧係数を問わず大きく生じ、ライズ

比 𝐻 D⁄ の増大と共に大きく、かつ風速の上昇につれ膜変形

の増大や激しい振動により大きな風圧係数を示した。

膜体変形による風圧変動への影響は大きく,膜体変形を考

慮すると風荷重算定で用いられる風圧係数の割増を示した。

表から風荷重算定時に考慮する必要がある𝐶��𝑒,��𝑝𝑒に対

して約 1.5~2.0倍の割増が必要となると考えられる。

参考文献

1)旭岡和安訳,ニューマチック・ストラクチャーの風洞実験,ドイツ郵政省ラジオ・テレビ技術局:G.Beger,太

陽工業,1967.9 2)日本建築センター・空気膜構造協会,ニューマチック構造設計規準・同解説,昭和 45年

3)加藤優輝,丸田榮藏,空気膜構造の作用風圧と構造強度に必要な内圧制御に関する基礎的研究,膜構造

研究論文集,2011,12 4)河村龍馬,気球についての空気力学的考察,気球シンポジウム特集号,1966,3

5) 加藤優輝,丸田榮藏,空気膜構造の構造強度に必要な内圧制御に関する研究,日本建築学会大会学術

講演梗概集,2012,9 6)谷口徹郎・谷池義人・西村宏昭,負担面積と時間遅れを考慮したドーム屋根に面

圧に関する研究,第 14回風工学シンポジウム,1996

𝛉 H/D Sign 𝑪 𝒑𝒆 ��𝒑𝒆 ��𝒑𝒆

0.5 + 1.37 1.00

- 1.71 1.61

0.3 + 1.18 0.81

- 1.76 1.35

0.15 + 0.86 0.57

- 1.89 1.46

Table3 Additional rates of flexible model to solid model value

for external pressure coefficients (θ = 0°)