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22 tokugikon 2018.1.25. no.288 抄録 審判部第9部門(自動制御)部門長   久保 竜一 審査第四部伝送システム(移動体通信システム)上席審査官   清水 祐樹 欧州における特許審査後の手続き 経済活動のグローバル化に伴い、知財司法分野における国際的な議論が活発になっています。 このような状況において、各国の特許審査後の手続きについても注目が集まっています。特許 庁は2017年5月に、ドイツ特許商標庁、ドイツ連邦特許裁判所、及び、欧州特許庁と特許審 査後の手続きに関して意見交換を行いました。本稿では、当該意見交換で得られた情報も含め、 ドイツの国内手続きと欧州特許庁における手続きについて概説します 。 1. はじめに 経済活動のグローバル化に伴い、知財司法分野に おける国際的な議論が活発になっています。このよ うな状況において、各国の特許審査後の手続きにつ いても注目が集まっています。 欧州における特許審査後の手続きは、特許審査時 に国内特許庁による手続きを選択したか、欧州特許 庁による手続きを選択したかにより異なります。 本稿では、ドイツの国内手続きと欧州特許庁にお ける手続きについて概説します 1) 2. ドイツにおける特許審査後の手続き (1)概要 ドイツにおける特許取得手続きの概要は図 2-1 の とおりです。査定までの流れは、日本と類似してい ますが、ドイツでは日本の拒絶査定不服審判に対応 する拒絶査定に対する抗告(Beschwerde)と、無効 審判に対応する無効訴訟(Nichtigkeitsklage)は、 ドイツ特許商標庁(DPMA: Deutsches Patent- und Markenamt)ではなく、連邦特許裁判所(BPatG: Bundespatentgericht)が取り扱う点が、日本とは大 きく異なります 2) 特許異議申立て(Einspruch)は、DPMAが取り扱 いますが、その決定に対する抗告は、BPatG が担当 します。日本と異なり、維持決定に対しても不服を 1)ドイツの制度全般に関する資料:多田達也、ドイツの特許制度とそれを取り巻く環境、特技懇誌第260号、2011年1月28日 2)特許取得手続きからは離れますが、特許の有効性が侵害裁判所で判断されない点も、日本の制度との大きな違いです。 3)DPMAの特許制度紹介資料の一部を筆者にて和訳、簡略化:https://www.dpma.de/docs/dpma/veroeffentlichungen/1/bro_patente_dt.pdf 図 2-1 ドイツにおける特許出願手続きの流れ 3) 方式審査 -明白な誤りの確認 -分類       特許査定 特許公開 DExxxB3/B4 審査請求 (出願から7年以内) 異議申立て 異議申立手続 維持決定 連邦特許裁判所 審査手続き、技術水準の調査 審査結果通知、ヒアリング 特許 (最大20年) 取消決定 出願公開 DExxxA1 拒絶査定 抗告 あり なし 抗告 抗告 無効訴訟 発明 特許出願

欧州における特許審査後の手続き › gikonshi › 288 › 288tokusyu3.pdftokugikon 22 2018.1.25. no.288抄録 審判部第9部門(自動制御)部門長 久保 竜一審査第四部伝送システム(移動体通信システム)上席審査官

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22tokugikon 2018.1.25. no.288

抄 録

審判部第9部門(自動制御)部門長   久保 竜一審査第四部伝送システム(移動体通信システム)上席審査官   清水 祐樹

欧州における特許審査後の手続き

 経済活動のグローバル化に伴い、知財司法分野における国際的な議論が活発になっています。このような状況において、各国の特許審査後の手続きについても注目が集まっています。特許庁は2017年5月に、ドイツ特許商標庁、ドイツ連邦特許裁判所、及び、欧州特許庁と特許審査後の手続きに関して意見交換を行いました。本稿では、当該意見交換で得られた情報も含め、ドイツの国内手続きと欧州特許庁における手続きについて概説します 。

1. はじめに

 経済活動のグローバル化に伴い、知財司法分野に

おける国際的な議論が活発になっています。このよ

うな状況において、各国の特許審査後の手続きにつ

いても注目が集まっています。

 欧州における特許審査後の手続きは、特許審査時

に国内特許庁による手続きを選択したか、欧州特許

庁による手続きを選択したかにより異なります。

 本稿では、ドイツの国内手続きと欧州特許庁にお

ける手続きについて概説します 1)。

2.ドイツにおける特許審査後の手続き

(1)概要

 ドイツにおける特許取得手続きの概要は図2-1の

とおりです。査定までの流れは、日本と類似してい

ますが、ドイツでは日本の拒絶査定不服審判に対応

する拒絶査定に対する抗告(Beschwerde)と、無効

審判に対応する無効訴訟(Nichtigkeitsklage)は、

ドイツ特許商標庁(DPMA: Deutsches Patent- und

Markenamt)ではなく、連邦特許裁判所(BPatG:

Bundespatentgericht)が取り扱う点が、日本とは大

きく異なります 2)。

 特許異議申立て(Einspruch)は、DPMAが取り扱

いますが、その決定に対する抗告は、BPatGが担当

します。日本と異なり、維持決定に対しても不服を

1)ドイツの制度全般に関する資料:多田達也、ドイツの特許制度とそれを取り巻く環境、特技懇誌第260号、2011年1月28日

2)特許取得手続きからは離れますが、特許の有効性が侵害裁判所で判断されない点も、日本の制度との大きな違いです。

3)DPMAの特許制度紹介資料の一部を筆者にて和訳、簡略化:https://www.dpma.de/docs/dpma/veroeffentlichungen/1/bro_patente_dt.pdf

図2-1 ドイツにおける特許出願手続きの流れ 3)

方式審査-明白な誤りの確認-分類      

特許査定

特許公開DExxxB3/B4

審査請求(出願から7年以内)

異議申立て

異議申立手続

維持決定

連邦特許裁判所

審査手続き、技術水準の調査審査結果通知、ヒアリング

特許(最大20年)

取消決定

出願公開DExxxA1

拒絶査定

抗告

あり

なし

抗告

抗告

無効訴訟

発明 特許出願

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23 tokugikon 2018.1.25. no.288

法 8)(Patentgesetz、以下「特」と省略)65条、植物

品種保護法(Sortenschutzgesetz)第34条)。本稿で

は、その中で、DPMAの決定に対する抗告と特許権

の無効訴訟について説明します。

(3)DPMAにおける手続き:特許異議申立て

 DPMAが付与した特許権に対し、特許公報発行後

9月以内に、DPMAに異議を申し立てることができ

ます(特59条(1))。異議が申し立てられると、2

名の技術系職員を含む3名の合議体が、事件の審理

を行います(特27条(3))。2名の技術系職員は、

原則として、特許査定した審査官と、その技術分野

のグループリーダーになります 10)。

 特許異議申立手続きにおいては、当事者の請求又

は 合 議 体 が 必 要 と 認 め た 場 合 に 口 頭 審 理

(Anhörung)が行われます(特59条(3))。実際に

は9割以上の事件で口頭審理が実施されており、口

頭審理には特許権者だけでなく、異議申立人も参加

します 11)。

申し立てることができます。

 なお、特許異議申立てや無効訴訟の手続きにおい

て、訂正を行うことができますが、それらの手続き

外でも単独で訂正を行うことができます。単独で行

う 場 合 の 訂 正 は DPMAが 取 り 扱 い、 そ の 決 定

(Beschluss)に対しては抗告という形でBPatGに不

服を申し立てることができます。

(2)DPMA及びBPatGについて

 DPMAは、ドイツ国内の特許・実用新案・意匠・

商標等を所管する官庁で、連邦司法・消費者保護省

(BMJV:Bundesministerium der Justiz und für

Verbraucherschutz)の管轄下にあります。本部は

ミ ュ ン ヘ ン に あ り、 イ ェ ナ(Jena)、 ベ ル リ ン

(Berlin)及びハウツェンベルク(Hauzenberg)に支

所があります。職員数は約2,600名で、2016年に

は、約6.8万件の特許出願、5.5万件の意匠出願、6.9

万件の商標出願を受理しており、年予算は約3億

ユーロです 4)。日本国特許庁(JPO)とDPMAとは、

国際審査官協議や PPHなどの実務的な協力を行っ

ています。

 B P a t G は、1961 年 に D P M A の 抗 告 部

(Beschwerdesenat)が独立してできた裁判所で、

DPMAと同じく、BMJVの管轄下にあります 5)。所

在地はミュンヘン、職員数は約200名(うち約半数

が裁判官)、2016年の受理事件数は約1,700件で 6)、

年予算は約2千万ユーロ 7)です。BPatGは、図2-2

に 示 す よ う に、DPMA及 び 連 邦 品 種 庁(BSA:

Bundessortenamt)の決定に対する抗告、権利の無

効訴訟(Nightigkeitsklage)、並びに、強制実施権

(Zwangslizenz)の付与を管轄します(ドイツ特許

4)ドイツ特許商標庁年次報告書(Jahresbericht)2016:https://www.dpma.de/dpma/veroeffentlichungen/jahresberichte/index.html

5) ド イ ツ 連 邦 特 許 裁 判 所 の 紹 介 資 料(第4頁):https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_jap.pdf

6) BPatG年次報告書2016:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Jahresberichte/jahresbericht_2016.pdf

7)ドイツ連邦予算2016:https://www.bundeshaushalt-info.de/fileadmin/de.bundeshaushalt/content_de/dokumente/2016/soll/epl07.pdf

8)ドイツ特許法(ドイツ語、英語):http://www.gesetze-im-internet.de/patg/  ドイツ特許法(日本語):https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/germany/tokkyo.pdf

9) 連 邦 特 許 裁 判 所 の 紹 介 資 料(日 本 語)よ り 抜 粋:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_jap.pdf

10)平成29年5月のDPMAとの意見交換にて聴取

11)脚注10

図2-2 ドイツにおける訴訟の概要 9)

連邦最高裁判所

控訴(事実審査と 法律審査)

法律違反を理由とする抗告(法律審査)

上告

連邦特許裁判所 上級地方裁判所

無効の訴え 抗告 控訴

ドイツ特許商標庁 連邦品種庁 地方裁判所

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24tokugikon 2018.1.25. no.288

イ. 抗告 DPMAの拒絶査定や特許異議申立ての決定に不服

がある場合、その当事者(拒絶査定における出願人、

異議決定における特許権者や異議申立人)は、

DPMAの決定の送達(Zustellung)から1月以内に、

抗告を DPMAに提出することができます(特73条

(2))。抗告が提出されると、DPMAはその内容を

検討し、決定の内容を修正することができます(特

73条(3))。DPMAの検討後、抗告はBPatGに移送

されます。

 DPMAから移送された抗告は、技術抗告事件とし

て、当該技術分野を管轄する部門で審理が行われま

す。技術抗告事件は4名の裁判官による合議体で審

理されます。合議体の構成は、図2-4のとおりです。

 また、特許異議申立ての手続き中には、日本と同

様に、訂正を行うこともできます 12)(特64条)。訂

正は、口頭審理の間を含め、いつでもできます 13)。

 特許異議申立ての結果に不服がある当事者は、そ

の結果に対し、BPatGに抗告を行うことができます

(特65条)。日本においては、維持決定に対しては、

不服を申し立てることはできません(日本特許法

114条5項)が、ドイツでは維持決定と取消決定の

双方に対して、不服を申し立てることができます。

 もう一つ日本と異なる点として、取下げが挙げら

れます。日本では、審理の開始後は申立てを取り下

げることはできない(日本特許法120条の 4)のに

対し、ドイツでは申立てを取り下げることができま

すが、申立てが取り下げられても、DPMAが職権で

審理を続行します(特61条(1))。

 年間の処理件数は、図2-3のとおりです。

(4)BPatGにおける手続き

ア. 管轄 BPatGは27の審理部門から構成され、それぞれの

審理部門には、無効、法律抗告、技術抗告、商標抗告、

意匠抗告、実用新案抗告、植物品種抗告の管轄が定

められています 15)。さらに無効、技術抗告、商標抗

告については、分野毎の管轄も定められています。

12) 社団法人日本国際知的財産保護協会、諸外国における特許権利化後の補正・訂正制度に関する調査研究、平成23年3月:https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken_kouhyou/h22_report_02.pdf

13)脚注10

14)DPMA年次報告書(Jahresbericht)2016:https://www.dpma.de/dpma/veroeffentlichungen/jahresberichte/index.html

15) ドイツにおける裁判所は、審理部門の管轄を業務割当(Geschäftsverteilung)として決定し、一般に公開しています。連邦特許裁判所の業務割当:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Das_Gericht/Organisation/geschaeftsverteilung.pdf

16) 連 邦 特 許 裁 判 所 の 紹 介 資 料(日 本 語)よ り 抜 粋:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_jap.pdf

図2-3 ドイツにおける異議申立ての統計 14)

新受

既済 未済

合計1 内、取消 内、維持又は訂正後維持 合計2

2010 533 890 260 479 2 2152011 414 437 163 137 2 1802012 433 461 189 140 2 1582013 487 538 171 254 2 1092014 257 529 164 254 1 8392015 402 480 162 230 1 7642016 416 445 122 247 1 736

図2-4 技術抗告事件における合議体の構成 16)

陪席判事法律に精通したメンバー1人

陪席判事技術の事前教育を受けたメンバー2人

議長技術の事前教育を受けたメンバー

法律上の抗告部

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25 tokugikon 2018.1.25. no.288

立手続の係属中は提起できません(特81条(2))。

法律上明記されていませんが、無効訴訟は通常は誰

でも提起できると考えられています 21)。

 無効訴訟は、5名の裁判官の合議体によって審理

されます。合議体の構成は、図2-5のとおりです。

 一般的に訴訟提起から1年程度で、合議体による

最初の心証開示が書面にて行われます。そして、当

事者には2月の応答期間が与えられ、それらの応答

に対する反論の機会が 1月与えられます。その後、

6月から 1年程度で口頭審理が行われますが、1往

復の応答と反論で議論が収束しない場合は、引き続

き書面による手続きが継続することもあります。口

頭審理は原則行いますが、被告が適時に応答しな

かった場合や、当事者が同意する場合は、行わない

こともあります(特82条)。口頭審理が法廷で行わ

れることや、公開が原則であることは、抗告事件と

同様です。

 無効訴訟では、当事者からの主張を、時機に遅れ

たものであるとして却下することができます(特

83条)が、時機に遅れなければ、回数の制限なく

訂正を行うことができます。

 無効訴訟においては、BPatGが第一審となり、そ

の結論は判決(Urteil)として出されます(特84条

 事件審理において、当事者の請求、証拠調べ又は

合議体が必要と認めた場合に口頭審理(mündliche

Verhandlung)を行うことができ(特78条)、大半

の事件で行われています 17)。口頭審理は、裁判所内

に設けられている法廷(Sitzungssaal)で行われま

す。口頭審理は原則として一般に公開されており、

誰でも手続きなしで傍聴が可能です。BPatGでは、

技術的な議論を円滑に進めるため、法廷の IT化に

力を入れています。これについては、後述します。

 事 件 の 審 理 が 終 わ る と、 そ の 結 論 は 議 決

(Beschluss)と し て 出 さ れ ま す(特79条(1))。

BPatGは、事件をDPMAに差し戻すこともできます

が、多くの場合直接決定を行います 18)。例えば、

BPatGは、DPMAで拒絶査定された出願に対して、

その拒絶査定を取り消し、直接特許査定を行いま

す。BPatGの議決・判決文はウェブサイトでも公開

されています 19)が、残念ながらその公式な英訳は

公開されていません。

 特定の条件の下で、抗告事件の連邦最高裁判所

(BGH:Bundesgerichtshof)への上告が可能です。

上告が可能な場合は、BPatGが許可した場合(特

100条(1))と、裁判に手続上の瑕疵があったこと

を理由とする場合(特100条(3))です。なお、ド

イツでは、BGHも事件を差し戻すことなく自判で

きるので、BGHから BPatGに差し戻される事件は

ほとんどありません 20)。

ウ. 特許無効訴訟 日本の特許無効審判に相当する特許無効訴訟(以

下、単に「無効訴訟」)は、特許権者を被告として

BPatGに提起します(特81条(1))。無効訴訟は、

ドイツ特許に加え、欧州特許のドイツ部分も対象と

することができます(欧州特許条約(EPC)64条

(1))。無効訴訟は原則としていつでも提起できま

すが、特許異議申立てが可能な期間又は特許異議申

17) ド イ ツ 連 邦 特 許 裁 判 所 の 紹 介 資 料(第17頁):https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_jap.pdf

18)平成27年5月のBPatGとの意見交換にて聴取

19)ドイツ連邦特許裁判所判決:http://juris.bundespatentgericht.de/cgi-bin/rechtsprechung/list.py?Gericht=bpatg&Art=en

20)脚注18

21) 産業構造審議会 知的財産政策部会 第35回特許制度小委員会 参考資料5 第9頁:https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_shiryou035/sankou05seido.pdf Dr. jur. Rudolf Krasser, Dr. jur. Christoph Ann, Patentrecht 第7版(2016), p.625, 124欄

22) 連 邦 特 許 裁 判 所 の 紹 介 資 料(日 本 語)よ り 抜 粋:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_jap.pdf

図2-5 無効訴訟における合議体の構成 22)

無効部

陪席判事法律に精通したメンバー1人

技術の事前教育を受けたメンバー1人

陪席判事技術の事前教育を受けたメンバー2人

議長法律に精通したメンバー

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26tokugikon 2018.1.25. no.288

らないよう、ディスプレイは収納式となっており、

A4資料2枚が同時に閲覧できるようなサイズの

ディスプレイが採用されています。また、BPatGで

は、当事者が発言する際、起立して行うか、着席し

て行うかも自由なため、机の高さも調整可能となっ

ています。

イ. 審理の迅速化 図2-7に、BPatGが受理・処分した事件数を示し

ます。2015年までは減少傾向であった受理事件数

は、2016年に増加傾向に転じています。特許異議

申立事件の審理がDPMAに戻されたこともあり 24)、

全体としては、滞貨が少なくなっているようです。

(1))。BPatGの判決に不服がある場合は、BGHに

控訴することができます(特110条)。控訴には、

抗告の場合のようなBPatGの許可は不要です。そし

て、BGHは法律問題だけでなく、事実問題につい

ても審理を行います。そして、BGHに判決が取り

消された場合は、BPatGに差し戻される(特119条

(3))か、BGHが新たな決定を行う(特119条(5))

ことになります。

(5)BPatGにおける最近の動き

ア. IT法廷(Elektronischer Gerichtssaal) BPatGでは、書類が大量になることが多いことや、

DPMA内で電子化されている情報を再度紙の形にす

ることは非効率であることから、電子的に審理がで

きる体制の構築が進められています。口頭審理にお

いても、当事者を含めて電子データを活用すること

ができるよう、法廷の IT化も順次進められていま

す。このIT化は、ドイツ国内でも先進的な取り組み

だそうです。2017年5月時点で、5つの法廷がIT化

されており、その数はさらに増える見込みです。

 IT化された法廷の様子は、図2-6のとおりです。

裁判官と当事者とのコミュニケーションの妨げとな

23) BPatG年次報告書2016:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Jahresberichte/jahresbericht_2016.pdf

24)特許異議申立ての審理は、DPMAの処理負担軽減のため、2002年1月2日から2006年6月30日まで、BPatGに委託されていました。

25) BPatG年次報告書2016:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Jahresberichte/jahresbericht_2016.pdf

図2-6 BPatGのIT化された法廷 23)

図2-7 事件数の概要 25)

無効部 法律抗告部 技術抗告部 商標・意匠抗告部

実用新案抗告部

植物品種抗告部

合計

1 2 3 4 5 6 7 82012新受既済係属中

新受既済係属中

新受既済係属中

新受既済係属中

新受既済係属中

23925533

660

1191232

15150

26282

30314

---

43545841

201327527533

330

1141162

440

20220

28284

---

44444837

20143423156

440

71701

541

16151

33361

---

47144464

201527727661

330

33340

010

17180

780

---

33734061

201628030239

220

39372

000

13112

30291

---

36438144

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27 tokugikon 2018.1.25. no.288

エ. 国際交流 2016年11月に東京で開催された日欧知的財産

司法シンポジウム201631)に参加のため、BPatGの

シュミット(Beate Schmidt)長官が来日されました。

その際の、特許庁との意見交換をきっかけとして、

2017年5月に、筆者ら JPOの審判官が BPatGを訪

問し、BPatGの裁判官らと実務的な意見交換を行い

ました 32)。この訪問は、JPO審判部とBPatGとの実

務者による最初の意見交換の機会となりました。

 今回御紹介した内容のうち、この意見交換によっ

て明らかになった部分は少なくありません。

 図2-8に、事件の審理期間を示します。無効部の

2016年の審理期間は24.6月で横ばいです。侵害訴

訟は1年程度で結論が出ることが多いので、無効訴

訟も同程度にすることが理想とのことです 26)。技術

抗告部の2016年の審理期間は、38.7月であり、か

なり短縮されてきています。

ウ. 欧州統一特許裁判所(UPC:Unified Patent Court)への対応

 欧州では UPCを創設することが決まっており、

現在準備が進められています 28)。

 BPatGは、EPOによって許可された欧州特許のド

イツ部分の有効無効を判断していますが、今後その

機能はUPCに移ることになります 29)。抗告事件と国

内特許の有効性判断は、引き続きBPatGが担当しま

すが、BPatGの業務は縮小することが想定されます。

 ミュンヘンには、UPCの中央部が設置されること

が決まっていますが、物理的な施設はBPatG内に設

置される予定です 30)。ただし、2017年5月の時点で

は設備の設置作業はまだ始まっていないようでした。

26)平成27年5月のBPatGとの意見交換にて聴取

27) BPatG年次報告書2016:https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/Veroeffentlichungen/Jahresberichte/jahresbericht_2016.pdf

28) 田名部拓也、欧州単一特許制度の行方、特技懇誌第275号、2014年11月14日;濵中信行、在ミュンヘン日本国総領事館での業務、特技懇誌第283号、2016年11月15日;中野宏和、田内幸治、欧州における近年の知財情勢とジェトロ・デュッセルドルフ事務所の取組、特技懇誌第284号、2017年1月31日

29)移行期間中は「オプト・アウト」の手続きにより、引き続き国内手続きを利用することも可能

30)UPCウェブサイト:https://www.unified-patent-court.org/

31)JPOウェブサイト:http://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/photo_gallery2016111801.htm

32)JPOウェブサイト:http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/170511_german_gfpc.htm

図2-8 事件の審理期間(月)27)

0

10

20

30

40

50

60

20162015201420132012

25.3

46.6

23.5

12.719.4 24.8

40.8

22.9

10.721.6 24.638.7

22.4

12.724.2

23.6

24.6

55.5

24.7 33.9

16.1

51.7

25.4

16.317.5 25.3

46.6

23.5

12.719.4 24.8

40.8

22.9

10.721.6 24.638.7

22.4

12.724.2

23.6

24.6

55.5

24.7 33.9

16.1

51.7

25.4

16.317.5

無効部技術抗告部実用新案抗告部商標・意匠抗告部法律抗告部

図2-9 BPatGのシュミット長官(右から2番目)

図2-10 BPatG裁判官との意見交換の様子

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28tokugikon 2018.1.25. no.288

(2)EPOの概要

 EPOは、欧州特許の審査、異議申立て、審判等を

所管しており、年予算は 20億ユーロ 34)、全職員数

は約7千人 35)です。EPOは、年約16万件の特許出

願を受理 36)するとともに、約3千件の異議事件を受

理しています 37)。

 BoAの職員は、審判長(Chairman)26名、技術

系審判官(Technically Qualified Member)96名、

法律系審判官(Legelly Qualified Member)27名を

含む、204名です 38)。BoA審判部は、i)拒絶査定不

服審判及び異議決定に対する審判請求を担当する技

術部(Technical Boards)、ii)受理部及び法律部の

決定等、技術部が担当しない事件を担当する法律部

(Legal Board)、iii)弁理士の懲戒や試験に関する事

件を担当する懲戒部(Disciplinary Board)、そして、

iv)法解釈の統一や重要な法律問題に関する意見照

3. 欧州特許庁(EPO:European Patent Office)における特許審査後の手続き

(1)概要

 EPOの特許取得手続きの概要は図3-1のとおりで

す。EPOにおいては、特許査定後に、特許異議申立

て(opposition)、 限 定(limitation) 及 び 取 消

(revocation)の手続があります。これらの手続き

と、出願拒絶(方式的及び実体的理由の双方を含む)

の結果に対しては、審判請求(appeal)ができ、審

判部(BoA:Boards of Appeal)でその是非が審理さ

れます。なお、BoAの結論に対しては、拡大審判部

(EBoA:Enlarged BoA)にレビューを求めることが

できる限られた場合を除いて、不服を申し立てるこ

とはできません。異議申立期間満了後の特許取消し

は、各国で個別の手続きとなります。

33) WIPO-Italy International Convention on Intellectual Property and Competitiveness of Micro, Small and Medium-Sized Enterprises (MSMEs)(WIPO/SMES/ROM/09)(2009年12月開催)におけるEPO発表資料(http://www.wipo.int/meetings/en/doc_details.jsp?doc_id=130441)を筆者が和訳

34) EPO Facts and figures 2017:http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/4E0C5A5BAE0B70C3C12580D5004E7F35/$File/epo_facts_and_figures_2017_en.pdf

35)EPO年次報告2016:https://www.epo.org/about-us/annual-reports-statistics/annual-report/2016/statistics/review.html

36)EPOへの直接出願とEPOにおける審査段階に移行したPCT国際出願を含む

37)脚注35

38)BoA年次報告2016:http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2017/etc/se3/p1.html

図3-1 EPOにおける特許取得手続きの概要 33)

サーチ、特許性に関する予備的見解付きサーチレポート

欧州特許出願

出願・方式審査

特許明細書の公開

出願人

欧州特許庁

パブリックドメイン

実体審査 特許査定

異議申立手続

審判手続

限定(limitation)又は取消(revocation)手続

出願拒絶 指定国におけるヴァリデーション

出願及びサーチレポートの公開

第三者による意見提出(observation)が可能

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29 tokugikon 2018.1.25. no.288

会(EPC 112条)、及び、再審(EPC 112a条)を担

当するEBoAから構成され 39)、図3-2に示すように、

年間約2千件の事件を審理しています。技術部は、

技術分野毎に分かれた 28の部門から構成されます

が、それぞれの部門の担当範囲やメンバーは、業務

配分計画(business distribution scheme)として公

開されています 40)。

(3)EPO異議部における手続き

 何人も、特許公報発行から9月以内に限り、新規

性、進歩性、産業上の利用可能性を理由として、異

議を申し立てることができます(EPC100条(a))。

異議申立ては、3名の委員(通常は、技術系)から

構成される異議部(opposition division)により審理

されます(EPC 19条)。

 EPOにおける異議申立手続きは、異議申立人が口

頭審理に参加できることや、維持決定に対しても不

服を申し立てることができるなど、日本の手続きに

比べて異議申立人の関与が大きいといえます。

 また、DPMAにおける手続きと同様、異議部の判

断や当事者からの請求に基づいて、口頭審理が行わ

れ(EPC 116条(1))、特許権者が異議申立手続中に、

訂正を請求することが可能です(規則81(3))。訂

正 に よ り 特 許 が 維 持 さ れ る 場 合 は、 中 間 決 定

(interlocutory decision)が出され、これに対して

審判請求することが可能です 42)。

(4)限定と取消

 EPOには、特許審査後に特許権者が行うことがで

きる手続きとして、権利範囲を減縮する限定と、権

利をはじめからなかったことにする取消がありま

す。これらの手続きは、異議申立手続きが係属して

い る 期 間 を 除 き、 い つ で も 請 求 が 可 能 で す

(EPC105a条(2))。限定又は取消が請求されると、

その内容は審査部にて審査され(規則95)、認容又

は拒絶の決定が出されます(EPC105b条(2))。そ

して、拒絶に対しては、審判請求が可能です(EPC

106条(1))。

(5)BoAにおける手続き

 一般に、EPOの受理部、審査部、異議部、法律部

の決定に対しては、審判請求を行うことが可能です

(EPC 106条(1))。請求期間は決定の発送日(date

of notification)から 2月以内です(EPC 108条)。

審判請求がされると、当該請求は請求の対象となる

決定を行った部に送付され、それから3月の期間に

当 該 決 定 を 見 直 す こ と が で き ま す(EPC 109条

39)EPOウェブサイト:https://www.epo.org/about-us/boards-of-appeal.html

40)BoAの業務配分計画:http://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/about-the-boards-of-appeal/business-distribution.html

41) EPO年次報告2016(http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/35E90F1C530D8067C12580D8005B458F/$File/boards_of_appeal_en.pdf)を筆者が和訳

42) How to get a European patent(http://documents.epo.org/projects/babylon/eponet.nsf/0/8266ED0366190630C12575E10051F40E/$File/how_to_get_a_european_patent_20170803_en.pdf)、パラグラフ185

図3-2 BoAの事件数 41)

2016年の状況 新受 既済合計 (一部)認容 棄却 和解

法律部 19 18 4 5 9技術部 2748 2229 687 556 986 審査手続(査定系) 934 975 199 240 536 異議申立手続(当事者系) 1814 1254 488 316 450拡大審判部 9 18 意見紹介 1 0 再審請求 8 18 1 14 3懲戒部 25 25 5 9 11合計 2801 2290

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30tokugikon 2018.1.25. no.288

論されるに至りました。その後、2015年4月に、

具体的な組織再編案の意見募集が行われ 45)、2016

年6月に開催された管理理事会において、上記組織

再編案が承認されました 46)。

 改組のイメージは、図3-3のとおりで、BoA長官

(President of the BoA)のポストが新設され、EPO

長官の直接の指示を受けない独立性の高い組織にな

りました。(BoAの改組は EPCの改正を伴わないた

め、EPCで規定された組織構造は不変です。EPC15

条の規定により、BoAは依然として EPOの一部で

あり続けます。)

 新ポストであるBoA長官には、2017年3月1日付

けでスウェーデンの控訴裁判所の上級判事であった

ヨゼフソン(Carl Josefsson)氏が就任しています 47)。

 今回の改組では、効率性の向上もその目的の一つ

とされています。その背景には、技術部の平均審理

期間(2014年:34.3月)が、欧州司法裁判所(CJEU:

Court of Justice of the European Union)(2014年に

おける控訴事件の平均審理期間:14.5月)やBPatG

(2013年における無効事件の平均審理期間:23.6

(1))。ただし、異議が申し立てられている場合は

見直すことはできません(EPC 109条(1))。

 審判手続きにおいては、当事者からの請求又は

EPOの判断により口頭審理が実施されます(EPC

116条)。

 BoAは、元の決定を取り消すときは、自判するこ

とも差し戻すこともできます(EPC 111条)。

 また、BoAによる審決は EPOウェブサイト上で

公開されています 43)。なお、審判部における審理の

言語は、特許審査時に用いられたものと同じ言語

(language of the proceedings)であり、審決文もそ

の言語で記述されます(EPC 14条(3))。

(6)BoAにおける最近の動き

ア. BoAの改組 BoAは、組織的には EPOの 1部門(DG3)と位置

づけられてきましたが、2014年4月の EBoAによ

る 中 間 判 決 44) を き っ か け と し て、 管 理 理 事 会

(Administrative Council)において組織の再編が議

43)Search in the board of appeal decisions database:https://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/advanced-search.html

44) EPOの異議決定に対する審判事件(T 2097/10)に対する再審事件(R 19/12)。拡大審判部の議長を務めるDG3担当副長官に対する忌避の申立てを認めた。R 19/12 中間判決(独語):http://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/pdf/r120019du2.pdf

45)JETROデュッセルドルフ、2015年5月1日付け欧州知的財産ニュース:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/20150501.pdf

46) JETROデ ュ ッ セ ル ド ル フ、2016年7月4日 付 け 欧 州 知 的 財 産 ニ ュ ー ス:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2016/20160704.pdf

47) JETROデ ュ ッ セ ル ド ル フ、2017年3月2日 付 け 欧 州 知 的 財 産 ニ ュ ー ス:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2017/20170302.pdf

48)EPOより入手した資料を筆者が和訳

図3-3 BoAの改組イメージ 48)

欧州特許機構における審判部 - NEW

DG5法務/国際

DG4コーポレートサービス

審判部EPO長官

管理理事会

審判部委員会

DG1特許審査手続き

組織図

懲戒部

法務調査/管理

審判部長官

拡大審判部 法律部

化学(10)機械(8) 物理(3) 電気(7)

技術部(28)

管理理事会

幹部会審判部委員会

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31 tokugikon 2018.1.25. no.288

4. おわりに

 以上、ドイツ及び EPOにおける、特許審査後の

手続きについて概略を御説明しました。

 国際的な権利の活用が重要になる中、各国におけ

る特許審査後の手続きについて理解を深めることが

重要になっています。これを機会に、普段なじみの

ない方にも、審判に興味を持って頂ければ幸いです。

 最後になりましたが、2017年5月のミュンヘン

関係機関訪問を強力に支援して頂くとともに、本稿

を執筆するにあたり多大な御助言を頂いた、ジェト

ロ・デュッセルドルフの中野知的財産部長、田内知

的財産副部長、在ミュンヘン総領事館の濵中領事、

及び、種々の貴重なご意見を頂いた特許庁審判課の

皆様に厚く御礼を申し上げます。

月)と比べて長いことが関係しているようです 49)。

今後の具体的な取り組みが注目されます。

イ. BoAの移転 2017年9月まで、BoAはミュンヘンの EPO庁舎

に所在していましたが、BoAの改組とあわせてミュ

ンヘン郊外のハール(Haar)に移転しました。EPO

ウェブサイト 51)によると、2017年10月第2週か

ら、新庁舎の運用が開始されているようです。

ウ. 国際交流 2017年5月に、筆者ら JPOの審判官が EPOを訪

問し、ヨゼフソンBoA長官らと意見交換を行いま

した 54)。今回の訪問は、組織再編後のBoAとJPO審

判部との最初の意見交換の機会であり、3月1日に

就任したヨゼフソン長官にとっては、海外の機関と

意見交換を行う初めての機会となりました。

49) EPOが管理理事会に提出した組織再編案(CA/16/15):https://www.epo.org/modules/epoweb/acdocument/epoweb2/164/en/CA-16-15_en.pdf

50)EPO審判部年次報告2016:http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2017/etc/se3/p1.html

51)http://www.epo.org/news-issues/news/2017/20171002.html

52)EPOウェブサイト:https://www.epo.org/service-support/updates/2016/20161220.html

53)EPOより入手

54)JPOウェブサイト:http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/170516_european_boa.htm

profile久保 竜一(くぼ りゅういち)

昭和63年4月 特許庁入庁(審査第三部一般機械)。特許審査第二部動力機械,同自動制御,総務部国際課,審判部審判課等を経て,平成28年7月より現職。

清水 祐樹(しみず ゆうき)

平成12年4月 特許庁入庁(審査第五部映像機器)。総務部国際課,米国フォーダム大学ロースクール,総務部企画調査課,特許審査第四部伝送システム,在ミュンヘン日本国総領事館,審判第31部門(伝送システム),審判部審判課等を経て,平成29年10月より現職。

年 査定系(査定不服) 当事者系(異議) 全体2015 38 34 362016 40 34 37

図3-4 BoA技術部の平均審理期間(月)50)

図3-5 Haar新庁舎(EPOウェブサイト 52)より引用)

図3-6 Haar新庁舎の位置 53)

図3-7 �BoAのヨゼフソン(Carl� Josefsson)長官(左から3番目)