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生徒の思考力の向上を目指した体育授業の工夫― ルーブリックを活用して―
教育学研究科 博士課程前期生涯活動教育学専攻健康スポーツ学専修
M132467 渡辺 駿
平成26年2月6日(木)アクションリサーチ発表会
本時の発表の流れ
1.研究の背景
2.研究の目的
3.検証授業の概要・問題の所在,リサーチクエスチョン,仮説
4.研究方法
5.結果および考察
6.まとめと今後の課題
7.主な引用・参考文献
1.研究の背景
図1 体育科における学習の目標・内容構造(高橋,1989;クルム,1992)
情意目標(好きになる)
・技術・戦術
<内容>
・体育の科学的知識・体力・トレーニングの知識・社会的行動の知識・技術・戦術の知識
<内容> ・ルール・マナー・集団的な運動学習
のしかた(協力)・組織・運営のしかた
<内容>
方向目標
到達目標
1.研究の背景
(出原,1995)
「『わかる』と『できる』を統合する」とは
(吉野聡,2009)
児童生徒が行うパフォーマンスの現状をより明確に把握させること
運動としてのモデルを提供し、課題達成のコツを知覚させること
実現するためのポイント
前回のARⅠでは
「わかる」と「できる」を統合した体育授業の工夫
―「感じ」と「気づき」に着目して―テーマ
ハードル走 「逆向き設計論」(西岡,2008)
逆向きの発想で単元を構想すると、生徒自身が今何が足りないからできないのかに気づくことができる。その方が1つ1つ技術を教授していくより、生徒の「学び」がより深くなる。
「わかる」と「できる」を統合することができるのでは?
前回のARⅠでは
結 論 ・・・ 生徒に対して行った授業で「わかる」と「できる」を統合した体育授業を十分に達成するまでには至らなかった。
理 由
①思考・判断における学習が少なかった。②生徒一人ひとりの課題を見極めることができず、焦点を十分に絞ることができなかった。
図2 体育科の指導目標(内容)の構造 (中央教育審議会、2008)
思考力 ・ 判断力(活用する)合理的・意欲的な
運動実践
前回のARⅠでは
結 論 ・・・ 生徒に対して行った授業で「わかる」と「できる」を統合した体育授業を十分に達成するまでには至らなかった。
理 由
①思考・判断における学習が少なかった。②生徒一人ひとりの課題を見極めることができず、焦点を十分に絞ることができなかった。
授業課題を「できた」か「できなかった」という判断はアンケートで調査
生徒の主観だけで判断 基準が曖昧
前回のARⅠでは
ルーブリック
ルーブリックとは?
評価規準
評価基準 評価資料
ルーブリック
(高浦ら,2008)
多種多様な評価資料・情報から、生徒の学習の実現状況を評価するために活用する得点化のための指針のこと(高浦ら,2008)。
ARⅡでは
ルーブリックを活用し、生徒の思考力の向上を目指した体育授業を展開することで「わかる」と「できる」を統合する体育授業に迫ることができるか、実践の成果から検証して明らかにすること。
3.検証授業の概要
3.検証授業の概要
(1)日 時 平成25年10月23日(月)~平成25年11月15日(金)
(2)場 所 H大学附属中・高等学校
(3)対 象 中学1年生(男子19名,女子19名)
(4)単 元名 球技-ネット型(バレーボール)
対象クラスの生徒は、全体的に授業規律が良く、一人ひとりの学習意欲は高い。そのため、教師の指示や説明をきちんと聞く生徒が多い。しかし、運動の実践だけに重きを置いている生徒が多く、運動課題に対して深く考える生徒は少なかった。また、生徒同士で話し合う場面も少なかった。
バレーボールの体育授業において、授業の中でどのように課題を提示し、生徒にどのような思考する機会を設ければ「わかる」と「できる」を統合した体育授業に近づくことができるだろうか。
技能のルーブリックを作成して到達目標を生徒に可視化することで、生徒一人ひとりが課題を認識して授業により意欲的に取り組むのではないか。
①
② 生徒がルーブリックを活用することで、生徒の学びを深めることができると考えられる。そうすることで、生徒の運動技能が向上し、「わかる」と「できる」を統合した体育授業に近づくことができるのではないか。
4.研究方法
4.研究方法
○調査内容と調査方法
4.1. 単元(バレーボール)に対する愛好度の変化☞・担当授業前と担当授業後に調査(5件法)☞・t検定(等分散を仮定した2標本による検定)
担当授業前調査 各授業で調査 担当授業後調査
・愛好度調査①(5件法)
・愛好度調査②(5件法)
4.研究方法
○調査内容と調査方法
4.2. 形成的授業評価(意欲・関心,学び方)の変化☞・各授業後に記入した学習プリントの数値的変化を調査(高橋,2003)
☞・SPSSで分析(一元配置分散分析と多重比較)
担当授業前調査 各授業で調査 担当授業後調査
・愛好度調査①(5件法)
・愛好度調査②(5件法)
・「意欲・関心」と「学び方」の変化(高橋,2003)
○調査内容と調査方法
4.3. 技能の変容☞・各授業後に記入☞・ルーブリックを設定し、評価
担当授業前調査 各授業で調査 担当授業後調査
・愛好度調査①(5件法)
・愛好度調査②(5件法)
・「意欲・関心」と「学び方」の変化(高橋,2003)
・技能(レベル)の変容
4.研究方法
バレーボールにおける技能の評価基準(修正前)
Level.0 ボールへの動き出しが遅く、ボールに触れることができなかった
Level.Ⅰ ボールに向かって素早く動き出すことができた
Level.Ⅱ ボールに向かって素早く動き出し、ボールをパスすることができた
Level.Ⅲ ボールに向かって素早く動き出し、ボールをパスすることができ、その上、パスした相手がボールを落とさないように送ることができた
先行研究と「中学校学習指導要領解説 保健体育編」(2008)、「評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料」(2011)を参考にし、規準の妥当性を検討してから基準を作成した。
岩田ら,2009
バレーボールにおける技能の評価基準について
バレーボールにおける技能の評価基準(修正前)
ボールの落下地点へ入ったか
しっかりボールを処理したか
ボールタッチ
ルーブリック検討会
メンター教員との協議の結果、中学1年生の技術レベルではこの用語が適しているとなったため、これを適応する。
バレーボールにおける技能の評価基準(修正後)
Level.0 ボールへの動き出しが遅く、ボールに触れることができなかった
Level.Ⅰ ボールに対して体を動かし、ボールに触れることができた
Level.Ⅱ ボールを打って、きちんと相手までボールを運ぶことができた
Level.Ⅲ ボールを打って、きちんと相手までボールを運ぶことが続けて5回以上できた
Level.Ⅳ ボールを打って、きちんと相手までボールを運ぶことが続けて5回以上できたことに加え、声を出しながら仲間をカバーすることができた
メンター教員と大学教員と協議し、評価基準を修正した。
○調査内容と調査方法
4.4. 記述内容の変容☞・各授業後に自由記述☞・KJ法(川喜田,1967)を用いて質的な分析
担当授業前調査 各授業で調査 担当授業後調査
・愛好度調査①(5件法)
・愛好度調査②(5件法)
・【意欲・関心】と【学び方】の変化(高橋,2003)
・技能(レベル)の変容・記述内容の変容
バレーボールの授業(全7時間)
4.研究方法
今日の授業を通して、今日のめあてに向けてどのようなことにチャレンジまたは工夫しましたか?
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭
オリエンテーション、ゲーム
キャッチバレー
円陣パス
円陣パス
基礎技術(パス)のポイント確認
円陣パス
アンダーハンドパスのポイント
円陣パス
基礎技術(パス)のタスクゲーム
セカンドキャッチバレーゲーム
基礎技術(パス)のタスクゲーム
円陣パス
生徒との基準のすり合わせ
基礎技術(パス)のタスクゲーム
基礎技術(パス)のタスクゲーム
ルールの統一
基礎技術(パス)のタスクゲーム
ラリーバレーボールゲーム
(チーム対抗戦)
単元計画
学部生メンター教員
教育実習期間中
10時間目の授業で行った内容(「ルーブリック」のすり合わせ)
ルーブリックについて考えさせることで、「次の技能レベルに進むためにはどのようなことをすれば良いのか」、「バレーボールでは何が大事なのか」といったことを「わからせる」ことが目的。
5.結果と考察
5.1. 形成的授業評価(意欲・関心、学び方)の変化
図3 各授業における意欲・関心、学び方の変化
10時間目の授業では、思考する時間を中心に行ったため、運動して実践する時間がいつもより少なかった。
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0
8 9 10 11 12 13 14
得点(点)
意欲・関心
学び方
単元の中の授業時間数(h)
5.1. 形成的授業評価(意欲・関心、学び方)の変化
図3 各授業における意欲・関心、学び方の変化
10時間目の授業では、思考する時間を中心に行ったため、運動して実践する時間がいつもより少なかった。
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0
8 9 10 11 12 13 14
得点(点)
意欲・関心
学び方
単元の中の授業時間数(h)
形成的評価の2次元(意欲・関心、学び方)での減少傾向が見られたと考えられる。
5.1. 形成的授業評価(意欲・関心、学び方)の変化
図3 各授業における意欲・関心、学び方の変化
10時間目に思考し学習したことを運動の中で試行したことによって、「 」ことにつながったのではないかと考えられる。
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0得点(点)
意欲・関心
学び方
8 9 10 11 12 13 14単元の中の授業時間数(h)
5.3. 記述内容の変化
9h
10h
5.3. 記述内容の変化
10h
11h
教師が作成したルーブリックに関して担当教師と生徒がすり合わせを行った。それを共有したことで「ボールタッチ」よりもまずは
「ボールを持たない動き」、つまり、「しっかり動くこと」が大事という授業者のねらいを「 」生徒が増えたと考えられる。
生徒の思考力を向上させることができたと考えられる。
5.4. 技能の変化
10回目の授業直後ではあまり結果に反映されていないが、授業の回数を重ねると徐々に「できる」生徒が増えた。
図4 各担当授業における技能レベルの変化
0
5
10
15
20
25
30
35
40
Level. 0
Level.ⅡLevel.Ⅰ
Level.ⅢLevel.Ⅳ
8 9 10 11 12 13 14
23
26
32 1
10
23
4 3
23
11
1 3
19
16 16
1
19
1
1
6
27
3 8
21
9
単元の中の授業時間数(h)
生徒数(人)
5.4. 技能の変化
10回目の授業直後ではあまり結果に反映されていないが、授業の回数を重ねると徐々に「できる」生徒が増えた。
図4 各担当授業における技能レベルの変化
0
5
10
15
20
25
30
35
40
Level. 0
Level.ⅡLevel.Ⅰ
Level.ⅢLevel.Ⅳ
8 9 10 11 12 13 14
23
26
32 1
10
23
4 3
23
11
1 3
19
16 16
1
19
1
1
6
27
3 8
21
9
ルーブリックを活用することによって目指す運動の姿をイメージさせることができたため増加したと考えられる。
単元の中の授業時間数(h)
生徒数(人)
6.まとめと今後の課題
6.まとめと今後の課題
①技能のルーブリックを作成して到達目標を生徒に可視化することで、生徒一人ひとりが課題を認識し、授業により意欲的に取り組むことが明らかになった。
②生徒がルーブリックを活用することで、生徒の学びを深めることができ、生徒の運動技能も向上し、「わかる」と「できる」を統合した体育授業に近づくことができると示唆された。
本授業実践では、以下の2点が明らかになった。
ルーブリックを活用して技能の基準に関して思考する時間と運動する時間のバランス
生徒の運動に対してのフィードバック
もっと授業規律を整え、タイムマネジメントをしっかりすることで、生徒が思考する時間をもう少し短縮させ、運動させる時間をさらに増やしたい
・教材研究をもっと究明し、授業の中で生徒に対する提示の仕方や方法を考える
・ICT機器を活用して、生徒一人ひとりが自らの運動をフィードバックするというアプローチの仕方も考えていく
今後の課題として・・・
主な引用・参考文献
1) 中央教育審議会答申(2008)健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会 義務教育部会,p.13.
2) Crum.B.(1992)The critical-consrtuctive movement socialization concept,Internatio-nal Journal of Physical Education 19(1),9-17.
3) 花谷祐輔(2012)生徒の思考力を育むための体育授業の工夫,広島大学大学院課題研究報告書.
4) 岩田靖(1996)体育授業における「わかる」と「できる」―特に、体育授業における認識的側面の議論について―,体育科教育学研究第13巻第1号:1-10.
5) 岩田靖・北原裕樹・中村恭之・佐々木優(2009)学びを深める教材づくり もっと楽しいボール運動⑧「ダブルセット・バレーボール」の教材づくり,体育科教育,57(12):60-65.
6) 川喜田二郎(1967)発想法 創造性開発のために,中央公論社:東京,pp.25-196.7) 国立教育政策研究所教育課程研究センター(2011)評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料(中学校 保健体育),http://www.nier.go.jp/kaihatsu/hyouka/chuu/08_chu_hoken_taiiku.pdf(参照日2013年10月1日).
8) 小林一久(1995)体育授業の理論と方法,大修館書店:東京都.9) 文部科学省(2008)中学校学習指導要領解説保健体躯編,東山書房:京都,pp.83-98.10) 西岡加名恵(2008)「逆向き設計論」で確かな学力を保障する,明治図書出版:東京,
pp.9-41.
主な引用・参考文献
11) 岡出義則(1994)「わかる・できる」学習の意義.体育の授業を創る,大修館書店:東京,pp.128-142.
12) 小田啓史・鐘ヶ江珠実・松田泰定・東川安雄(2010)「わかり方」の深化をめざした保健体育科授業の創造―体育授業についての意識調査と第1学年のマット運動の実践を通して―,広島大学附属東雲中学校研究紀要(中等教育)第42集:53-59.
13) 小田啓史・島本靖・松田泰定・東川安雄(2009)思考する生徒を育てる保健体育科授業の創造―評価基準を生徒と共同で作成するマット運動の授業実践―,広島大学附属東雲中学校研究紀要(中等教育)第41集:61-68.
14) 阪田尚彦・高橋健夫・細江文利編著(1995)学校体育授業事典,大修館書店:東京,p.60.
15) 高浦勝義・松尾知明・山森光陽編著(2008)ルーブリックを活用した授業づくりと評価②中学校編,教育開発研究所:東京,pp.29-38.
16) 高浦勝義(2004)絶対評価とルーブリックの理論と実際,黎明書房:愛知県,pp.59-222.17) 高橋健夫(1989)新しい体育の授業研究,大修館:東京,p.13.18) 高橋健夫編著(2003)体育授業を観察評価する 授業改善のためのオーセンティック・
アセスメント,明和出版:東京,pp.12-15.19) 吉野聡(2009)「わかるとできるの統一」の意味と背景,体育科教育,57(12):50-51.
ご清聴ありがとうございました。
補足資料
用語の定義
ボールパス・・・・ボールを柔らかく触ってボールを柔らかくある目的地点へ運ぶこと。
ボールタッチ・・・・ただ弾くことだけではなく、腕全体を操作してボールを打つことも含む。つまり、相手のところへ上手くいったときもいかなかったも含むため、全てを表現している用語となる。(中学1年生の技術レベルから検討して)
レベル0 ボールへの動き出しが遅く予備セットができていなかった
レベルⅠ ボールに向かって素早く動き出すことができた
レベルⅡ ボールに向かって素早く動き出し、体をセッターに向けてボールを送り出すことができた
レベルⅢ ボールに向かって素早く動き出し、体をセッターに向けてボールを送り出し、セッターがトスしやすいバウンドを上げることができた
※予備セット行動の評価基準
(岩田靖ら,2009)
※予備セット・・・アタック・プレルボールにおいて、フロアにボールを叩きつけて跳ね上がらせ、セッター役にボールを送るための動きのこと(岩田靖ら,2009)
ボールを正確にパスする動き
愛好度(担当授業前後)の変化
担当した授業の前後で比較すると、前より後の方が愛好度は有意に高い。
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
Pre(担当授業前;8h)
Post(担当授業後;14h)
得点(点)
図1 担当授業の前後における愛好度の変化
4.164.42
*
*p<0.05
愛好度(担当授業前後)の変化
「あまり当てはまらない」「どちらでもない」と答えた生徒が減り、愛好度が高くなっている。
0
5
10
15
20
25
30
35
40
Pre(担当授業前;8h)
Post(担当授業後;14h)
図5 担当授業の前後における愛好度の内訳の変化
生徒数(人)
当てはまらない
あまり当てはまらない
どちらでもない
少し当てはまる
当てはまる
3
6
11
18
1
4
11
22
バレーボールは好きですか?
愛好度(担当授業前後)の変化
尺 度 人 数
「 2 」 3人「 3 」 6人
尺 度 人 数
「 2 」 1人「 3 」 3人「 4 」 3人「 5 」 2人
見るのはとっても好きだが、やるとうまくいかないし、痛いから。
ラリーが続かないとおもしろくないから。
ルールを知らない。興味ない。
<記述例>
(3→5)生徒A
(3→4)生徒B
(2→4)生徒C
楽しかったから。みんなと協力できるから。
楽しいから。
バレーボールがどんなか分かったから。
表5 各授業における形成的授業評価(意欲・関心、学び方)の平均得点(評定)
8h 9h 10h 11h 12h 13h 14h
意欲・関心 2.32(1) 2.76(3) 2.36(1) 2.89(4) 2.70(3) 2.80(3) 2.95(4)
学び方 2.23(2) 2.64(4) 2.41(2) 2.86(5) 2.77(4) 2.80(4) 2.91(5)
規準
基準A・・・B・・・C・・・
目 標
ルーブリック
採点指標
2つの「きじゅん」
子ども達の伸びを計画
すり合わせ
視点・切り口
段階づけ資料
授 業 改 善図3 ルーブリックの位置づけ【高浦ら(2008)を元に作成】
記述内容の変化
14h
ICT機器について
「ICT」とは・・・ Information and Communication Technology(情報通信技術)
知識やデータといった情報(Information)を適切に他者に伝達(Communication)するための技術(Technology)。
(清水,2009)