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平成28年度(2016年度) 数学科教育に関する研究 確かな学力を育む高等学校数学科の授業づくり -「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法と評価の工夫- 内容の要約 キーワード 数学的な思考力・表現力 数学的活動 「アクティブ・ラーニング」の視点 「応用課題」 ルーブリック 「振り返りシート」 滋賀県総合教育センター 赤 澤 寿 男 Ⅰ 主題設定の理由 Ⅱ 研究の目標 Ⅲ 研究の仮説 Ⅳ 研究についての基本的な考え方 1 数学的な思考力・表現力とは 2 「アクティブ・ラーニング」の 視点 3 指導方法の工夫 4 評価の工夫 Ⅴ 研究の進め方 1 研究の方法 2 研究の経過 (1) (1) (1) (2) (2) (2) (2) (3) (4) (4) (4) Ⅵ 研究の内容とその成果 1 事前アンケート調査から見た 生徒の実態 2 指導計画 3 実証授業の実際 4 実証授業後の意識の変容 Ⅶ 研究のまとめと今後の課題 1 研究のまとめ 2 今後の課題 文 献 (4) (4) (5) (6) (11) (12) (12) (12) 本研究では、「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法として、「活 用課題」「応用課題」を基に単元の構想を行い、単元を通して数学的活動を継 続的に取り入れた。そして、評価の工夫として、授業者は「評価テスト」、ル ーブリックによる評価などから生徒の学習状況を把握し、授業改善に生かした。 また、生徒は「振り返りシート」などから自己評価・相互評価を行い、自らの 学習改善に生かした。 以上のような、指導方法と評価の工夫から、生徒の数学的な思考力・表現力 が高まり、確かな学力を育むことにつながった。

確かな学力を育む高等学校数学科の授業づくり · 生徒の数学的な思考力・表現力を高め、確かな学力を育みたいと考え、本主題を設定した。

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平成28年度(2016年度) 数学科教育に関する研究

確かな学力を育む高等学校数学科の授業づくり

-「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法と評価の工夫-

内容の要約

キーワード

数学的な思考力・表現力 数学的活動 「アクティブ・ラーニング」の視点

「応用課題」 ルーブリック 「振り返りシート」

目 次

滋賀県総合教育センター

赤 澤 寿 男

Ⅰ 主題設定の理由

Ⅱ 研究の目標

Ⅲ 研究の仮説

Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 数学的な思考力・表現力とは

2 「アクティブ・ラーニング」の

視点

3 指導方法の工夫

4 評価の工夫

Ⅴ 研究の進め方

1 研究の方法

2 研究の経過

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

(2)

(2)

(3)

(4)

(4)

(4)

Ⅵ 研究の内容とその成果

1 事前アンケート調査から見た

生徒の実態

2 指導計画

3 実証授業の実際

4 実証授業後の意識の変容

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

2 今後の課題

文 献

(4)

(4)

(5)

(6)

(11)

(12)

(12)

(12)

本研究では、「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法として、「活

用課題」「応用課題」を基に単元の構想を行い、単元を通して数学的活動を継

続的に取り入れた。そして、評価の工夫として、授業者は「評価テスト」、ル

ーブリックによる評価などから生徒の学習状況を把握し、授業改善に生かした。

また、生徒は「振り返りシート」などから自己評価・相互評価を行い、自らの

学習改善に生かした。

以上のような、指導方法と評価の工夫から、生徒の数学的な思考力・表現力

が高まり、確かな学力を育むことにつながった。

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平成28年度(2016年度) 数学科教育に関する研究 研究構造図

確かな学力の育成

「活用課題」の提示 ○学習意欲をもつ

○学習意義を認識する

○思考力・表現力の高まりを

実感する

○学習内容の有効性を実感する

「活用課題」の解決

授業者の授業改善・生徒の

学習改善につながる評価

授 業

○個人で思考する

○説明・議論する

○「評価テスト」に取り組む

○「振り返りシート」に取り組む

〔数学的活動の場面〕

評 価

自己評価 相互評価

生 徒

「アクティブ・ラーニング」

の視点からの指導方法

◆ 事柄や場面を数学的に解釈すること

◆ 数学的な見方や考え方を生かして問題を解決すること

◆ 自分の考えを数学的に表現すること

【高等学校学習指導要領解説数学編】

課 題

数学的な思考力・表現力の高まり

「評価テスト」 「振り返りシート」

「活用シート」 ルーブリック

「応用課題」の解決 ○思考力・表現力を高める

○考えを広げ深める

数学的な思考力・表現力の高まり

授業者

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数学科教育に関する研究

(1)

数学科教育に関する研究

確かな学力を育む高等学校数学科の授業づくり -「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法と評価の工夫-

Ⅰ 主 題 設 定 の 理 由

現行の高等学校学習指導要領解説数学編では、数学的活動を重視し、基礎的・基本的な知識・技能

を確実に身に付けること、数学的な思考力・表現力を育てること、学ぶ意欲を高めることが示されて

いる。そして、課題としては、教育課程実施状況調査や国際的な学力調査の結果を基に、事柄や場面

を数学的に解釈すること、数学的な見方や考え方を生かして問題を解決すること、自分の考えを数学

的に表現することが挙げられている。これらのことから、数学的活動を一層重視し、数学的な思考力

・表現力を高めることは重要な課題であると考える。

次期学習指導要領の改訂に向けて、「何を学ぶか」という学習内容だけでなく、「どのように学ぶか」

という学びの質も重要視されており、小・中学校では「アクティブ・ラーニング」の視点を重視した

授業改善が積み重ねられている。しかし、高等学校においては、小・中学校に比べ知識伝達型の授業

にとどまりがちになっており、義務教育までの流れを確実につなぎ、一人ひとりに育まれた力を更に

発展・向上させるために、ますますの授業改善が求められる。本県においても、平成28年度学校教育

の指針の中で、確かな学力を育む視点の一つとして、子どもたちの将来を見据え、「アクティブ・ラー

ニング」の推進を図ることが示されている。

昨年度の当センターの研究では「学ぶ力の向上につながる高等学校数学科の主体的・協働的に学ぶ

学習を取り入れた授業づくり」に取り組んだ。話し合う活動を通して、生徒が自分の考えを説明した

り、他者の意見を取り入れたりすることで、生徒の考え方の広がりや理解の深まりなどが見られた。

また、実証授業の取組を通して、授業者が生徒による主体的・協働的な学びを考えるきっかけとなっ

たことも成果として挙げられる。しかし、生徒の実態や学習内容に合わせて学習活動を工夫すること

や、評価の充実を図ることが課題として残った。

そこで、本研究では、高等学校数学科において、生徒の実態や学習内容に合わせた「アクティブ・

ラーニング」の視点からの指導方法と、授業者の授業改善や生徒の学習改善につながる評価を行い、

生徒の数学的な思考力・表現力を高め、確かな学力を育みたいと考え、本主題を設定した。

Ⅱ 研 究 の 目 標

高等学校数学科において、生徒の実態や学習内容に合わせた「アクティブ・ラーニング」の視点か

らの指導方法と、授業者の授業改善や生徒の学習改善につながる評価を行い、生徒の数学的な思考力

・表現力を高め、確かな学力を育む。

Ⅲ 研 究 の 仮 説

数学的活動を通した「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法と、「振り返りシート」など

を基に、授業者の授業改善や生徒の学習改善につながる評価を行えば、生徒の数学的な思考力・表現

力が高まり、確かな学力が育まれるだろう。

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数学科教育に関する研究

(2)

Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 数学的な思考力・表現力とは

本研究における数学的な思考力・表現力とは、「課題の解決に向けて、根拠を明らかにして筋道を

立てて考えたり、言葉や数、式、図、表、グラフなどを適切に用いて、自分の考えを相手に分かりや

すく説明したりする力」とする。このような力を高めることは、高等学校数学科の目標の中でも特に、

「事象を数学的に考察し表現する能力を高める」に迫り、確かな学力を育むことにつながると考える。

2 「アクティブ・ラーニング」の視点

「アクティブ・ラーニング」については、平成28年8月に

中央教育審議会において、子どもたちの「主体的・対話的で

深い学び」を実現するために、共有すべき授業改善の視点

が明確にされた(図1)。

このような学びの実現を図るための学習活動は、現行の

高等学校学習指導要領解説数学編においても意図されてお

り、「自ら課題を見いだし、解決するための構想を立て、考

察・処理し、その過程を振り返って得られた結果の意義を

考えたり、それを発展させたりすること」1)など、数学的活

動で、特に重視する三つの活動につながると考える(図2)。

そこで、「主体的・対話的で深い学び」の実現を図り、数

学的な思考力・表現力を高めるために、生徒の実態や学習

内容に合わせて、図2に示した数学的活動を単元・授業に

取り入れる。

3 指導方法の工夫

指導方法の工夫として、単元の導入と終末で、実社会や

実生活に関連した身近な課題(以下「活用課題」という。)に

取り組む場面を設定することである。また単元末では、「活

用」に関する数学の課題(以下「応用課題」という。)(図3)

や、自分で問題を作成する課題(以下「活用シート」という。)

に取り組む場面を設定する。

(1) 単元の構想

「深い学び」の実現を図るために、習得した知識・技能

を活用して課題を解決する学習を取り入れる。

そこで、単元の構想としては、単元の導入で、生徒に

「活用課題」を提示する。この「活用課題」は、これまで

の知識・技能では解答が不十分になるような課題を設定

し、生徒が課題に取り組むことで、学習意欲をもったり、

学習意義を認識したりすることをねらう。

・自ら課題を見いだし、解決するための構想を立

て、考察・処理し、その過程を振り返って得ら

れた結果の意義を考えたり、それを発展させた

りすること。

・学習した内容を生活と関連付け、具体的な事象

の考察に活用すること。

・自らの考えを数学的に表現し根拠を明らかにし

て説明したり、議論したりすること。

図2 数学的活動

「主体的な学び」

学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア

形成の方向性と関連付けながら、見通しを持っ

て粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返

って次につなげる。

「対話的な学び」

子供同士の協働、教員や地域の人との対話、先

哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、

自らの考えを広げ深める。

「深い学び」

各教科等で習得した知識や考え方を活用した

「見方・考え方」を働かせながら、問いを見い

だして解決したり、自己の考え方を形成し表し

たり、思いを基に構想、創造したりすることに

向かう。

図1 「アクティブ・ラーニング」の視点

平成28年8月中央教育審議会

【応用課題】

原点を頂点として、

点(0,1)を通る放物線

をグラフとする2次関数

y=ax2+bx+cは

存在するだろうか。

説明しなさい。

図3 「応用課題」の例

O

(0,1)

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数学科教育に関する研究

(3)

単元の各授業では、数学的活動を継続的に取り入れて

いく。単元の終末では、再び「活用課題」に、単元末では

「応用課題」や「活用シート」に取り組む場面を設定し、

習得した知識・技能を活用して解決することで「深い学

び」の実現を図る(図4)。

(2) 授業の設計

本県の平成28年度学校教育の指針では、子どもたちの

主体的な学びのサイクルを作り出す「課題発見・解決の

プロセス」が示されている。

このプロセスを基に、「主体的・対話的で深い学び」

の実現を図るために、単元の各授業では「個人で思考す

る」「説明・議論する」「評価テストに取り組む」「振り返

りシートに取り組む」など、数学的活動を継続的に取り

入れる。また、学習内容に合わせて、それぞれの活動を

効果的に関連させる(図5)。

特に生徒が、自分の考えを一層広げ深めることができ

るように、自分の考えをもち、考えたことを基に「説明

・議論する」ように設計する。また「評価テスト」は、学

習内容に合わせて、知識・技能の定着が実感できる問題、

および課題解決のために知識・技能を活用する問題を出

題する。

4 評価の工夫

評価の工夫として、重点を二つに絞り研究を進めていく。

一つ目は、授業者が、生徒のワークシートなどへの記述内

容を基に学習状況を把握し、評価を指導に生かすことであ

る(指導と評価の一体化)(図6)。二つ目は、生徒が、自分

の学習改善に生かすことができるように、自己評価・相互

評価を行う場面を設定することである。

具体的な内容は、以下のとおりである。

(1) 「評価テスト」や「振り返りシート」による評価

生徒の学習状況を把握するために、「評価テスト」や「振り返りシート」への記述内容を評価する。

そして、評価に応じて、学習内容の定着を図るために次の授業で再度解説するなど、授業改善に生

かす。

(2) ルーブリックによる評価

単元を通した生徒一人ひとりの学習状況を把握するために、「活用課題」や「応用課題」にルーブ

リックを設定して評価を行う。

個人で思考 知識・技能を 基に考える

学習課題をつかむ

思考を 広げる・深める 説明・議論

評価テスト

知識・技能の 定着を実感する

振り返りシート

知識・技能を 活用する

図5 授業の設計

評 価

指 導

学習状況

の把握

授業改善

に生かす

図6 指導に生かす評価

「活用課題」の提示

数学的活動を

継続的に

取り入れる

指導と評価

「活用課題」の解決

図4 単元の構想

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数学科教育に関する研究

(4)

(3) 生徒による自己評価

自分の学習態度や理解状態を把握するために、「評価テスト」や「振り返りシート」を基に自己評

価を行う。そして、自己評価に応じて、自宅で学習内容の復習をしたり、疑問点を友達に聞いて解

決したりするなど、次時の授業に向けての学習改善に生かす。

(4) 生徒による相互評価

他者の考え方や表現の仕方などのよさを見いだすために、「活用シート」に自作してきた問題につ

いて、互いが感想を書き合い相互評価を行う。また、この相互評価を通して、他者から認められる

ことで、自分を肯定的に評価し自己有用感を高め、学習改善に生かしていくことも期待できる。

Ⅴ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

(1) 対象となる生徒に事前アンケート調査を行い、高等学校数学科の学習・授業に対する意識を把握

する。

(2) 高等学校数学科の共通必履修科目「数学Ⅰ」を研究の対象科目とし、単元における指導計画や授

業に必要なワークシートを作成する。

(3) 実証授業での生徒の学習活動や発表の様子、ワークシートなどへの記述を観察、分析する。

(4) 研究協力校の教員との意見交流や、事後アンケート調査から生徒の変容を分析し、取組の有効性

を検証する。

(5) 研究の成果と課題についてまとめる。

2 研究の経過

4月

5月

6月

7月

8月

研究構想

研究推進計画の立案

第1回専門・研究委員会

(研究構想、実証授業の検討)

研究協力校での実証授業

第2回専門・研究委員会

(実証授業の検討)

9月

10月

11月~12月

1月

2月

3月

研究協力校での実証授業

第3回専門・研究委員会

(研究の成果と課題の分析)

研究紀要の原稿執筆

研究発表大会の準備

研究発表大会

研究のまとめ

Ⅵ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 事前アンケート調査から見た生徒の実態

(1) 調査概要

6月に本研究の対象となる研究協力校2校の第1学年(155人)に、数学科の学習・授業に対する意

識についての事前アンケート調査を実施し、生徒の実態を把握した。

(2) 数学科の学習・授業に対する生徒の意識と手立て

研究協力校における事前アンケート調査の結果を、5ページの図7に示す。「数学ができるように

なりたい」の項目では、「あてはまる」と「どちらかというとあてはまる」を合わせた肯定的な回答

をしている生徒が92%であるのに対して、「数学の勉強は好きだ」の項目では、肯定的に回答した生

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数学科教育に関する研究

(5)

徒が46%であり、数学で学習する内容に興味・関心をも

ち、学習に前向きに取り組む生徒が多くない状況がうか

がえた。このことから、生徒が、興味・関心をもつよう

な課題を提示する必要があると考えた。また、「問題を

解くとき、他にも解く方法がないか考えている」の項目

でも、肯定的に回答した生徒は43%にとどまっている。

このことから、数学的な思考力を伸ばすために、見方を

変えて違う方法でも解決できる課題に取り組ませる必

要もあると考えた。

一方、「授業で、生徒の間で話し合う活動は自分の理

解に役立つ」の項目では、肯定的に回答した生徒は88%

と多く、話し合う活動が有効な学習方法であると感じて

いることがうかがえた。しかし、「数、式、図、表、グ

ラフなどを使って、相手に伝わるように問題の解き方や

考え方を説明している」の項目では、肯定的に回答した生徒は58%にとどまっており、このことか

ら、数学的な表現を用いて「説明・議論する」学習活動の場面をできるだけ多く設定する必要があ

ると考えた。

以上の結果をふまえ、生徒が、興味・関心をもてるように「活用課題」に取り組む場面を、また、

見方を変えて違う方法でも解決できるように「応用課題」や「活用シート」に取り組む場面を設定

する。そして、数学的な表現を用いて「説明・議論する」活動として、ペアやグループで話し合う

活動を取り入れる。その際には、話合いが進む手立てとして、「大切にする活動・話型」を示す。

2 指導計画

実証授業は、領域として「二次関数」を設定する。二次関数は、関数の概念や知識・技能の基礎と

なり、今後、指数関数・対数関数、微分法、積分法など、発展的な関数を学習するうえでも重要な役

割を果たす。そして、単元として、二次関数のグラフを通して、関数の値の変化を考察し、関数の最

大値・最小値を求めたり、二次関数を具体的な事象の考察に活用したりする「二次関数の値の変化」

を設定し、指導計画を立てる(表1)。

表1 指導計画

時 主な学習内容 主な学習活動

1 「活用課題」 今までに習得した知識・技能を活用して、「活用課題」に取り組む

2 二次関数の最大・最小 定義域が実数全体のときの最大値または最小値を求める

3 二次関数の定義域と最大・最小(1) 定義域が制限されたときの最大値・最小値を求める

4 二次関数の定義域と最大・最小(2) 軸の位置関係から最大・最小を調べ、変数の値を求める

5 二次関数の定義域と最大・最小(3) 軸が変化する場合に、軸と定義域の位置関係から変数の値を求める

6 最大・最小の応用 二次関数を利用して、面積の最大値や最小値を求める

7 二次関数の決定(1) 頂点の座標などが与えられたときの二次関数の式を求める

8 二次関数の決定(2) グラフが3点を通るときの二次関数の式を求める

9 「活用課題」 単元で習得した知識・技能を活用し、再度「活用課題」に取り組む

10 「応用課題」 単元で習得した知識・技能を活用し「応用課題」に取り組む

11 「活用シート」 単元で習得した知識・技能を活用し「活用シート」に取り組む

図7 数学科の学習・授業に対する生徒の意識

8

46

13

14

67

50

42

30

32

25

30

8

36

28

5

12

4

21

26

3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

あてはまる

どちらかというとあてはまる

どちらかというとあてはまらない

あてはまらない

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数学科教育に関する研究

(6)

3 実証授業の実際

(1) 第1時「活用課題」

授業の導入では、生徒が学習意

欲をもったり、学習意義を認識で

きたりするように、文化祭で模擬

店を出す場面を取り上げ、「活用課

題」を提示した(図8)。自分が店長

ならば、焼きそば1皿をいくらで

販売するかと発問したところ、生

徒からは、「値段が安い方が多く売

れるから、なるべく安く売る」な

ど、実生活と関連させた発言があ

り、興味・関心を示している様子が

うかがえた。

授業の展開では、自分で「活用課

題」に取り組むように指示すると、生徒は、小問で示されている表

や座標を基に、意欲的に販売価格を考えていた。そして、自分の考

えを基に説明・議論するグループ学習の場面を設定したところ、「ど

うして、その焼きそばの販売価格にしたのか」と質問をしたり、「正

確に、利益総額が最大になる販売価格を求める方法はあるのだろう

か」と自ら課題を見いだしたりする姿が見られた。また、グループ

学習の際には、話合いが円滑に進む手立てとして、「大切にする三

つの活動・話型」を掲示した(図9)。

この段階では、焼きそば1皿の適切な販売価格

は推測の域であったため、「どうすれば推測では

なく、適切な焼きそば1皿の販売価格を設定でき

るだろうか」と投げかけたところ、ある生徒は、

「変数で表した利益総額の式を利用して、グラフ

がかけるようになったらよいと思う」と発言をし

た。そこで、「この単元の学習を通して、活用課

題を式やグラフを利用して解決できるようにし

ていきます」と、単元での学習目標を明確にした。

授業のまとめでは、生徒が「振り返りシート」

に記入する場面を設定した(図10)。特に、実証授

業の前半の「振り返りシート」には、自分の考え

を文章で表現することが苦手な生徒や、どのよう

に書いてよいか分からない生徒への手立てとし

て、「○○すれば△△であることが分かった」な

どの「話型」を記している。

図10に示した「振り返りシート」への記述では、疑問をもったことに「どうして、販売皿数が240

-xで表されるのか」が挙げられ、学習した内容を十分に理解できなかった様子がうかがえるが、

次の授業に向けて取り組もうと思うことを書く欄に「分からないところは友達に聞いて、理解でき

図10 「振り返りシート」

記入のときの手

立て(話型)

4段階での総合

的な評価をする

図9 グループ学習で「大切にする

三つの活動・話型」

大切にすること

① 質問する

「なぜ、~になるのですか」

② 相手に伝える

「~だから~になります」

③ 人の話を聞く

「(こころの中で)なるほど」

[活用例題]

(1) 焼きそばの1皿の販売価格をx円,利益総額をy円とするとき

① 各自で販売価格を設定し、表を完成させよう。

② 表からxy平面上に座標を記そう。利益総額が最

も多くなる焼きそば1皿の販売価格を推測しよう。

焼きそばの

販売価格(x)

焼きそば1皿

の利益

焼きそばの

販売皿数

利益総額(y)

(2) 焼きそばの販売価格をx円,利益総額をy円として、次のことがらをx、yで表してみよう。

① 焼きそば1皿の利益 ② 焼きそばの販売皿数 ③ 利益総額

模擬店で原価 60 円の焼きそばをいくらかで売ることにしました。過去のデータから、焼きそばの販売

価格を 100 円にすると1日に 140 皿,販売価格 1 円上げると 1 日に売り上げる皿数が 1 皿減り,販売

価格を 1 円下げると 1 日に売り上げる皿数が 1 皿増えることがわかりました。利益総額を最も多くする

には、焼きそばの販売価格をいくらに設定すればいいだろうか。

価格設定が

定まらない

他者の考え

に触れる 利益総額の変化を考察

図8 「活用課題」

[活用例題]

模擬店で原価 60 円の焼きそばをいくらかで売ることにしました。過去のデータから、焼きそばの販売

価格を 100 円にすると1日に 140 皿,販売価格を 1 円上げると 1 日に売り上げる皿数が 1 皿減り,販

売価格を 1 円下げると 1 日に売り上げる皿数が 1 皿増えることがわかりました。利益総額を最も多くす

るには、焼きそばの販売価格をいくらに設定すればいいだろうか。

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数学科教育に関する研究

(7)

るようにしようと思う」と、学習改善につながる記述が見られた。他に「グラフの利点が分からな

かったので、授業の中で理解していきたいと思う」「いろいろな式を立てて、質問して活用課題を

解けるようにしたい」など、この単元に前向きに取り組もうとする記述が見られた。また、生徒に

よる「授業を振り返って」の自己評価では、AとBを合わせた肯定的な評価が8割を超えており、

授業におおむね満足していることがうかがえた。

以上から、生徒が「活用課題」に取り組むことは、単元での学習意欲をもち、学習意義を認識す

ることで、「主体的な学び」の実現につながる有効な取組であったと考える。また、生徒が「振り

返りシート」で自己評価することは、自分の学習態度や理解状態を振り返り、次の授業に向けての

学習改善に生かすことができる有効な評価方法であったと考える。

(2) 第4時「二次関数の定義域と最大・最小(2)」

第4時では、生徒自身が学習を進めていくように授業

を設計した。

前時の「評価テスト」や「振り返りシート」への記述

内容を評価したところ、「範囲が決められた時は、どう

して最大値と最小値が共にあるのか」「なぜ、頂点と最

大値・最小値の値が違うのか」など、学習内容に疑問を

もつ記述が複数見られた。そこで、授業の導入では「二

次関数の定義域と最大・最小」について再度解説し、生

徒が復習問題に取り組む場面を設定することで、内容の

定着を図る指導を行った。

授業の展開では、「応用例題2」は解説せず、教科書

の解答などから自分で考えて解決し、「練習問題15」に

取り組むように指示をした(図11)。生徒は、従来の授業

形式とは異なり、例題の解説がないことに戸惑っていた

が、教科書の解答を読む生徒や、ノートを基に解き方を

考える生徒などが見られるようになった。そして、自分

の考えを基に説明・議論するグループ学習の場面を設定

すると、他者からの質問にグラフを示しながら「軸と定

義域の幅を考えればよいと思う」や「軸から離れた方が

最大値をとる」など、自分の考えを相手に分かるように

説明し合う場面が見られた(図12)。また、生徒の学習状

況を把握するために机間指導を行い、平方完成に困っている生徒の思考を促すために「何の係数に

着目すればよかっただろうか」と声かけを行った。

授業のまとめでは、生徒が「評価テスト」に取り組む場面を設定した。本時での「評価テスト」

は、問題に対する解答をあらかじめ提示し、「この解答は正しいだろうか、理由を説明しなさい」

と、学習した知識・技能を活用して解答するよう設問を工夫している。前時までのように、問題を

提示して「~を求めなさい」という従来の出題形式とは違っていたが、生徒は学習したことを基に

自分の考えを記述していた。

8ページの図13は、生徒の「評価テスト」の一例である。この生徒は、提示された解答が「正し

くない」と判断し、グラフを基に軸と定義域の距離の関係を述べ、与えられた解答の間違い部分を

指摘している。

図12 グループ学習の様子

軸から遠い方が、

最大値をとること

になる

そうか。軸と定義域との距離が重要

だと分かった

[応用例題2]

次の条件を満たすように、定数cの値を定めよ。

(1) 関数 y=x2-4x+c (1≦x≦5)の

最大値が8である。

(2) 関数 y=-x2-2x+c (0≦x≦2)

の最小値が-3である。

[練習問題 15]

次の条件を満たすように、定数cの値を定めよ。

(1) 関数 y=x2-2x+c (-2≦x≦2)

図11 「応用例題2」と「練習問題15」の一部

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数学科教育に関する研究

(8)

この時間の「振り返りシ

ート」では、分かったことが

「軸からの距離で、定義域

のある2次関数の最大・最

小の位置を求めることがで

きる」と振り返り、次の授

業に向けて「予習などをし

て、理解を深めるようにす

る」と、意欲的に学習改善

を行おうとする記述が見ら

れた。他に「どうしてそう

なるのか、理由を考えてい

きたい」「話し合うことで、

他の人の考え方を取り入れ

ていきたい」など、自分の考えを広げ深めていこうとする記述が見られた。

以上から、生徒自身が学習を進めていく授業の設計は、解説のない例題に対して自分で調べて考

え、グループ学習で互いの考えを説明したり、他者の考えを取り入れたりすることで、「対話的な

学び」の実現につながる有効な設計であったと考える。また、授業者が「評価テスト」や「振り返

りシート」への記述内容を評価することは、生徒の学習状況を把握し、授業改善に生かすことがで

きる有効な評価方法であったと考える。

(3) 第9時「活用課題」

本時では、生徒が「活用課題」

に再度取り組む場面を設定した。

図14は、生徒の「活用課題」の

一例である。単元の導入で取り組

んだときは、表や座標を利用し

て、焼きそばの販売価格を推測す

るにとどまっていた。しかし、今

回は、まず変数を定義し、たこ焼

きの利益総額を二次関数で表し

ている。そして、定義域を設定す

る、平方完成してグラフをかくな

ど、単元で習得した知識・技能を

活用し、根拠を示して適切なたこ

焼きの販売価格を導いている。

この時間の「振り返りシート」

では、「二次関数の知識を利用し

て解けた」「二次関数を学ぶこと

で前より解きやすくなった」な

ど、習得した知識・技能を活用して「活用課題」が解決できたことを実感する記述が見られた。

また、「活用課題」への記述内容を、ルーブリックに照らし合わせて評価したところ、約7割の

図14 「活用課題」

xとyを定義

平方完成して

グラフをかく

定義域の設定

根拠を示し

て解を導く

二次関数で

表す

図13 「評価テスト」

自分で判断

グラフに

よる考察

自分の考え

を説明

[解答]を提示して

理由を説明する

根拠を基に

間違いを指摘

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数学科教育に関する研究

(9)

生徒がB段階に達していた(表2)。たこ焼きの利益総額の

式を平方完成まで行っていたり、グラフを利用して販売価

格まで求めていたりする記述が見られた。

以上から、生徒が単元の終末に、再び「活用課題」に取り

組むことは、二次関数の有効性について認識することを通

して「深い学び」の実現につながり、そして数学的な思考力

・表現力の高まりを実感できる有効な取組であったと考え

る。また、授業者が「活用課題」にルーブリックを設定して

評価することは、段階ごとの評価規準を明確にし、単元を通した生徒一人ひとりの学習状況を客観

的に把握できる有効な評価方法であったと考える。

(4) 第10時「応用課題」

授業の導入では、生徒が単元で習得

した知識・技能を活用して解決する「応

用課題」を提示した(図15)。「~となる

ように課題文を作りかえたい」と設問

を工夫しているため、困惑する生徒も

見られたが、多くの生徒が自分の考え

を記述していた。

授業の展開では、自分の考えを基に

説明・議論するグループ学習の場面を

設定すると、「平方完成をして、グラフ

をかいたらよいと思う」「軸の位置を変

えて、最大値・最小値を考えたらどうだ

ろうか」など、課題解決に向けて、解き

方を話し合う場面が見られた。

また、生徒の学習状況を把握するた

めに机間指導を行い、質問する生徒に

は、生徒同士をつなぎ、自力解決を促す

ために、「グループの人に疑問点を聞い

たらどうか」と声かけを行った。

図15で示した「応用課題」への記述で

は、まず、平方完成をしてグラフをかい

ている。そして、グラフから、軸の方程式と定義域との位置関係を根拠に、

二次関数を変更する方法と、定義域を変更する方法との、2通りの方法で

説明をしている。

その後、自分のグループの考えを他のグループに説明する「説明役」と、

他のグループの考えを聞きに行く「聞き役」に分かれ、グループ同士で交

流する場面を設定した(図16)。あるグループでは説明役の生徒が、平方完

成した式やグラフの概形など、分かったことを示しながら「関数の向きを

変える方法も発見したので、x2の係数を逆にして2次関数の式を変更し

ました」と、考え方を説明した。聞き役の生徒も、ワークシートに取った

表2 ルーブリックによる評価

段階 「活用課題」

A Bに加え、定義域を設定し、yが最大に

なるxの値を求めている

B 変数x,yを定義し、利益総額yをxで

表している

C 利益総額yをxで表すことができない

図16

説明役

聞き役

説明役

説明役

説明役

聞き役

聞き役

聞き役

設問の工夫

根拠を示し 変更を説明

グラフを考察

グラフを考察

根拠を示し

変更を説明

図15 「応用課題」

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数学科教育に関する研究

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メモを見ながら、「そのような方法には気付かなかった。

自分の班の人にも説明する」と述べ、自分の考えを広げ

深める場面が見られた(図17)。

授業のまとめでも、生徒が習得した知識・技能を活用

して解決する「確認テスト」に取り組む場面を設定し、

「深い学び」の実現を図った。

この時間の「振り返りシート」では、「しっかりと違

う見方で問題を解けるようにする」「一つだけの答えを

書いて終わるのではなく、複数の答えを考えるようにす

る」「次はもっと理解してみんなに説明したい」など、

今後の授業においても、数学的な思考力・表現力を高めていこうとする記述が見られた。

以上から、生徒が「応用課題」に取り組むことは、複数の解法について比較・検討することを通

して「深い学び」の実現につながり、数学的な思考力・表現力を高める有効な取組であったと考え

る。また、このような学習の積み重ねを通して、一つの方法だけでなく別の方法を考えたり、異な

る表現で相手に説明したりすることで、生徒が数学的な思考力・表現力を一層高めることが期待で

きる。

(5) 第11時「活用シート」への取組

本時では、生徒が家庭学習で取り組んだ「活

用シート」をペアで交換し、互いが問題に取り

組む場面を設定した。

図18は、生徒の「活用シート」の一例である。

この生徒は、「二次関数の定義域と最大・最小」

に関する知識・技能を活用して問題を作成し、

解答では、グラフを基に、課題の条件を満たす

ことを説明している。

そして、「問題に対する感想を書く」の欄で

は、相手から定義域の設定範囲を工夫している

点が評価されている。

また、「自分で問題と解答を作成して」の欄で

は、問題作成が難しいことや、学習内容の理解

に役立つことを記述している。他に「答えを逆

から考えて問題を作ることで、より2次関数が

分かった」「問題を解くのではなく作ることで、

数字が違うだけで頂点や式などが変わると分か

った」など、学習内容を深める記述が見られた。

以上から、生徒が「活用シート」に取り組むこ

とは、問題の作成という逆からの発想を通して

「深い学び」の実現につながり、数学的な思考

力・表現力を高める有効な取組であったと考える。また、作成した問題を相互評価することは、他

者の考え方などのよさを見いだすことができる有効な評価方法であったと考える。

図18 「活用シート」

自分で問題と

解答を作成

問題作成を通

しての学び

根拠を示した解答

問題を相互評価

図17 グループ同士の交流の様子

説明役 聞き役

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数学科教育に関する研究

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4 実証授業後の意識の変容

(1) 生徒の意識の変容

実証授業後、「振り返りシート」を分析したところ、「人に伝える」の項目では、肯定的な自己

評価の数値が、第1時の67%から第9時では70%、第10時では75%へと増加した。このことから、

生徒が、単元を通してペアやグループによる話合いを行うことで、表現することの自信を高めたこ

とがうかがえる。

また、単元終了後に、研究協力校の生徒にアンケート調査を

実施した。表3は、「対話的な活動は、学習の理解にどのよう

な効果がありましたか」の項目での記述を、内容に応じて分類

したものである。肯定的に回答をしている生徒は、全体の約90

%であった。内訳としては、数学的な思考力・表現力の高まり

を実感している生徒が56%、考えの広がりを実感している生徒

が20%などであった。「活用課題」に関する項目の記述におい

ても、数学的な思考力・表現力の高まりや、考えの広がりを実

感している生徒が多く見られた。

生徒が、実証授業を通して振り返った主な記述内容も以下に

示す(図19)。

○単元の初めと終わりに「活用課題」に取り組むことは、自分の学習にどのような効果がありましたか。

・初めは分からなかった問題が、学習するうちに分かるようになってきて、終わりでは解けるようになった。

・初めは表で考えていたが、2次関数を学習して、式やグラフを使って解くことができると分かった。

○「対話的な活動」は、学習の理解にどのような効果がありましたか。

・自分だけで理解するよりも、他の人に分かりやすく説明しようとすることで、より力が付いた。

・自分の考えを伝えることで、より深く理解することができ、自信をつけることもできた。

○授業の終わりに「評価テスト」に取り組むことは、学習の理解にどのような効果がありましたか。

・一時的に理解したところは絶対に解けないので、自分が理解できているかどうかが確認できた。

・その日の学習内容を振り返ることができ、定着力につながった。

〇授業の終わりに「振り返りシート」で学習内容や学習態度を振り返ることは、自分の学習にどのような効果が

ありましたか。

・学習したことを振り返ることができ、家での勉強の仕方を考えるようになった。

・次回の授業に向けて、目標をしっかりと考えることができてよかった。

図19 実証授業を振り返っての生徒の主な記述

以上から、生徒が課題の解決に向けて考えたり、自分の考えを相手に説明したりする力の向上が

うかがえ、数学的な思考力・表現力が高まったと考える。

(2) 授業者の意識の変容

実証授業後、授業者と意見交流をした主な内容を以下に示す(図20)。

〇授業者の学び

・単元の初めに、数学で学習する内容と実社会・実生活との関連を示すことは、生徒が学習意欲をもつ有効な指

導方法であると感じた。

・グループ学習やグループ同士での交流など、学習する内容に合わせてどのような取組が適しているのか、考え

ることが大切であると分かった。

〇今後に生かすこと

・生徒は、「評価テスト」では理解しているかどうかが確認でき、「振り返りシート」では復習するきっかけにな

るなどその有効性を感じており、今後も取り入れていきたい。

・複数の解法がある課題は、対話的な活動により、考えを広げたり深めたりすることに有効であると分かったの

で、今後も取り入れていきたい。

図20 授業者との意見交流の主な内容

表3 生徒の記述の分類

数学的な思考力・表現力の高まり

を実感している記述

(関数を利用して、解決すること

ができたなど)

56%

考えの広がりを実感している記述

(人の説明を聞いて、別の考え方

を知ることができたなど)

20%

学習意欲の高まりに関する記述

(質問することで、諦めずに取り

組めたなど)

15%

その他(主に無回答) 9%

回答総数155

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数学科教育に関する研究

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Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

(1) 「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法として、「活用課題」や「応用課題」を基に単

元の構想をし、各授業で、「説明・議論する」「評価テストに取り組む」など、数学的活動を継続的

に取り入れることは、数学的な思考力・表現力を高め、確かな学力を育むことにつながる有効な授

業づくりであった。

(2) 「振り返りシート」などを基に評価することは、授業者が授業改善に、生徒が学習改善に生かす

ことができ、数学的な思考力・表現力の高まりにつながった。

(3) 「振り返りシート」「評価テスト」は、授業者が実証授業を通して、その有効性を実感し、今後の

授業においても継続して行える取組となった。

2 今後の課題

(1) 「アクティブ・ラーニング」の視点からの指導方法は、特定の型があるものではなく、今回の研

究で得た成果や課題を基に、他領域や他学年においても、生徒の実態や学習内容に合わせて検討・

改善していく必要がある。

(2) 評価については、授業者が授業改善に、生徒が学習改善に生かす点を重視し、更に充実するよう

工夫・検討していく必要がある。

文 献

1)文部科学省「高等学校学習指導要領解説数学編」、平成21年(2009年)

滋賀県総合教育センター「高等学校数学科の授業づくりに関する研究」、平成27年(2015年)

滋賀県教育委員会「平成28年度学校教育の指針」、平成28年(2016年)

文部科学省中央教育審議会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」、平成28年(2016年)

文部科学省中央教育審議会「算数・数学ワーキンググループにおける審議の取りまとめについて(報告)」、平成28年(2016年)

トータルアドバイザー

国立大学法人滋賀大学教育学部講師 渡邊 慶子

専 門 委 員

滋賀県立八日市南高等学校校長 三上 保彦

滋賀県教育委員会事務局高校教育課指導主事 池澤 昇

研 究 委 員

滋賀県立大津高等学校教諭 小山内彩夏

滋賀県立河瀬高等学校教諭 伊藤麻衣子

研 究 協 力 校

滋賀県立大津高等学校

滋賀県立河瀬高等学校