12
学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分) 当財団では、過去の実施時に、皆さんが執筆する論文のテーマを設定する際のヒントを、ホームページ上で配信しておりました。 以下に過去配信したテーマ設定のヒントを纏めたので、参考にしてください。 【第3回】(2015年実施)「夢と希望ある社会の創造に向けた金融機関の役割」 テーマ設定のヒント①「起業と資金供給」 皆さんは、日本の起業活動が世界的に見て低調であることをご存知でしょうか。 起業活動の国際比較については、GEM 調査(英米の起業研究者が中心となって組成されたチームが実施する調査)における起業活動率(18~64 歳のうち、「起業の準備を 始めている人+創業後 3.5 年未満の企業を経営している人」の割合)で比較することができます。2013 年の調査では、日本の起業活動率は 3.7%と調査対象国 67 カ国中ワ ースト2位(ワースト1位はイタリア)であり、アメリカの半分にも満たない状況です。政府も起業活動を促進するべく様々な支援策や優遇措置を講じていますが、残念ながら起 業活動が大きく活発化するような状況には至っていません。 それでは何故日本の起業活動は低調なのでしょうか。 起業には1にも2にも資金が必要となりますが、その資金は回収の不確実性から一般的に融資より出資または投資といった「リスクマネー」が適していると言われます。一 方で、リスクマネーの一つに挙げられるベンチャーキャピタルによる投資の日米比較(2013 年調査)にも表れているように、日本の投資件数・投資額はそれぞれアメリカの 4 分の 1、16 分の 1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起 業活動を低調にしている原因のひとつと言えるでしょう。 さて、リスクマネーの供給を拡大する方法の一つとして投資額の小口化が考えられ、インターネットを利用した「クラウドファンディング」は有効な手段の1つです。また、クラ ウドファンディングにおける金融機関の取組事例としては、信用金庫が取引先の販路拡大・ブランド力向上支援および地域活性化を目的にクラウドファンディングの利用につ いて提携先を紹介しているといったものがあります。こういった取組は取引先をよく知る金融機関ならではの活動とも言え、リスクマネーの供給について、他にもどんなことが 金融機関にできるか考えてみても良いかもしれません。 本来、起業活動は、新規雇用の創出、イノベーションの創出、生産性の向上といった経済的意義を見出すことができ、活発な起業活動が経済成長につながることと期待さ れています。ようやく回復してきた日本経済を更に活性化していくためにも、リスクマネーの供給拡大に向けた新しい金融機関の役割を見出してみませんか。 テーマ設定のヒント②「地方へのマネーの還流」 日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、今後相続が急ピッチで増加していくことが見込まれています。また、今後 20~25 年の間に相続されることが想定される 家計の金融資産は約 650 兆円という試算もあります。相続により家計が保有する資産は親世代から子世代へと引き継がれますが、「地方に住む親と大都市圏に住む子供」

学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)

当財団では、過去の実施時に、皆さんが執筆する論文のテーマを設定する際のヒントを、ホームページ上で配信しておりました。

以下に過去配信したテーマ設定のヒントを纏めたので、参考にしてください。

【第3回】(2015年実施)「夢と希望ある社会の創造に向けた金融機関の役割」

テーマ設定のヒント①「起業と資金供給」

皆さんは、日本の起業活動が世界的に見て低調であることをご存知でしょうか。

起業活動の国際比較については、GEM調査(英米の起業研究者が中心となって組成されたチームが実施する調査)における起業活動率(18~64歳のうち、「起業の準備を

始めている人+創業後 3.5年未満の企業を経営している人」の割合)で比較することができます。2013 年の調査では、日本の起業活動率は 3.7%と調査対象国 67 カ国中ワ

ースト2位(ワースト1位はイタリア)であり、アメリカの半分にも満たない状況です。政府も起業活動を促進するべく様々な支援策や優遇措置を講じていますが、残念ながら起

業活動が大きく活発化するような状況には至っていません。

それでは何故日本の起業活動は低調なのでしょうか。

起業には1にも2にも資金が必要となりますが、その資金は回収の不確実性から一般的に融資より出資または投資といった「リスクマネー」が適していると言われます。一

方で、リスクマネーの一つに挙げられるベンチャーキャピタルによる投資の日米比較(2013 年調査)にも表れているように、日本の投資件数・投資額はそれぞれアメリカの 4

分の 1、16分の 1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

業活動を低調にしている原因のひとつと言えるでしょう。

さて、リスクマネーの供給を拡大する方法の一つとして投資額の小口化が考えられ、インターネットを利用した「クラウドファンディング」は有効な手段の1つです。また、クラ

ウドファンディングにおける金融機関の取組事例としては、信用金庫が取引先の販路拡大・ブランド力向上支援および地域活性化を目的にクラウドファンディングの利用につ

いて提携先を紹介しているといったものがあります。こういった取組は取引先をよく知る金融機関ならではの活動とも言え、リスクマネーの供給について、他にもどんなことが

金融機関にできるか考えてみても良いかもしれません。

本来、起業活動は、新規雇用の創出、イノベーションの創出、生産性の向上といった経済的意義を見出すことができ、活発な起業活動が経済成長につながることと期待さ

れています。ようやく回復してきた日本経済を更に活性化していくためにも、リスクマネーの供給拡大に向けた新しい金融機関の役割を見出してみませんか。

テーマ設定のヒント②「地方へのマネーの還流」

日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、今後相続が急ピッチで増加していくことが見込まれています。また、今後 20~25年の間に相続されることが想定される

家計の金融資産は約 650 兆円という試算もあります。相続により家計が保有する資産は親世代から子世代へと引き継がれますが、「地方に住む親と大都市圏に住む子供」

Page 2: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

という組み合わせが多いことから、家計が保有する資産は世代間の移動に加え、地方から大都市圏へと地域間も移動することになります。相続が増加していくほど、地方か

ら大都市圏への資産の移動も加速していくと考えられ、今後多額の資産が大都市圏に集中していくことが予測されます。

さて、地方銀行を始めとする地方の金融機関は、地域に密着した金融の仲介やサービスの提供が主な役割で、地元で集めた資金を地元に供給することで地域経済を支えて

います。しかし、このまま相続が増えれば増えるほど地方から資産が移動、つまり地方の金融機関の資金が減少していくことになるので、地域経済が縮小する要因の一つに

なるかもしれません。

今、地方の金融機関では、地方から大都市圏へ資金が移動していること、またこの動きが今後加速していくことに問題意識を持ち、地元以外の地域からの預金(資金)獲得

に注力しています。例えば、地方銀行のネット支店はその一つでしょう。

顧客がわざわざ地方に出向かずとも、全国どこからでも預金ができるネット支店は、店舗運営の費用がかからない分、相対的に高めの金利を設定できるのが特徴で、既に

多くの地方銀行がネット支店を開設しています。例えば、静岡銀行のインターネット支店では、2014 年 9月末時点の預金残高が 4,000 億円(同行の総預金の約 4.8%)を超

え、口座数も 10万口座に達しており、県外からの預け入れも多いとのことです。

地方の金融機関は地域経済を支える上で重要な役割を担っていますが、預金はそのための重要な資源の一つです。地方にマネーを還流していくには、金融機関としてどん

なことができるでしょうか。

テーマ設定のヒント③「少子高齢化の進行への対策」

現在、我が国では 4人に 1人以上(26%)が 65歳以上の高齢者である超高齢社会となっていますが、2010 年に人口がピークに達してから(約 1億 2,800 万人)、2011 年

以降は減少傾向に転じており、一方では少子化も進んでいます。この傾向は暫く続くと考えられており、2060 年には 65歳以上の割合が約 40%になるという推計も発表されて

います(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」による)。

こうした少子高齢化の進行によって、労働力人口の減少、社会保障制度への影響、消費構造の変化等のさまざまな社会問題が表面化してきておりますし、今後ますます高

齢化率の割合が高くなることによって、また新たな課題も生じてくることになります。

金融機関においても、こうした問題への対処には積極的に取組んできており、遺言や相続に関する金融サービス、リバース・モーゲージ等資産の活用に資する商品といっ

た高齢者向けの金融商品の開発や、教育資金贈与信託等の子育て層向けの金融商品の開発を行なっているだけでなく、バリアフリー化の促進やキッズ・ルームの設置とい

った店舗の利便性向上にも注力してきております。

ただ、これからも少子高齢化はますます進行していくと予測されるため、今後も一層の工夫を重ね、世代間や地域間の金融仲介や金融リテラシーの強化等も視野に入れた

対応が求められると考えられます。

「少子高齢化の進行への対策」は、大きなテーマではありますが、一方でとても身近なテーマでもあるともいえるでしょう。皆さんや皆さんのご家族の視点で、今後どのような

金融機関の役割があり得るか考えてみませんか。

Page 3: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

テーマ設定のヒント④「邦銀のアジア戦略」

アジア経済は今や世界経済の牽引役であり、各国・地域間の FTA締結等を通じたグローバル規模の自由貿易の推進役になっています。日本企業も輸出型・内需型を問

わず、収益の源泉を求めてアジア地域への進出を加速させており、国内での収益が伸び悩む日本のメガバンクもアジアでの攻勢を強めています。

メガバンクの最近の動きでは、三菱東京 UFJ銀行がタイ大手のアユタヤ銀行を買収し、タイ国内における日系企業の利便性の向上を図ったり、営業斡旋等を通じて日系

企業と非日系現地企業を紹介することで取引強化や収益拡大を目指しています。また、アユタヤ銀行を通じて個人取引の拡充も狙っています。一方、三井住友銀行もインド

ネシアの年金貯蓄銀行(BTPN)に約 1,500 億円を出資(同出資比率 40%)し、中間層を中心とする個人取引の拡充に注力している他、ベトナムでも同様の展開を見せていま

す。他方、みずほ銀行もベトナムのベトコンバンクに 567 億円を出資して資本・業務提携を行なっており、こちらは個人取引を強化する前に、まずは非日系現地企業との取引

拡大に力を入れるとしており、拠点設置や地域系金融機関との提携によるネットワーク強化を進めています。

さて、メガバンクのアジア戦略は、従来は日系企業のアジア展開支援が中心でしたが、最近は今後大きく成長することが期待できる現地の個人取引や中小企業向けのビ

ジネスを強化すべく、地域系金融機関の買収や提携を進めているのが特徴です。一方で、買収や提携するだけではアジア地域での業容拡大は難しいと思われ、現地に根を

下ろし、邦銀ならではのサービス・商品の提供が不可欠ではないでしょうか。

例えば、日本は世界唯一の「超高齢社会」に突入していますが、アジア諸国も今後急速に高齢化が進む見通しにあります。高齢社会の最先進国である日本では、高齢者

の資産管理取引や資産の世代間移転に係る商品が普及していますが、今後急速に高齢化が進むアジア地域でも同様のサービスや商品を展開できるかもしれません。ま

た、アジア地域から見れば、邦銀も欧米金融機関と同じ外資系金融機関になりますが、同じアジアの一員として欧米金融機関とは違った活動ができるかもしれません。いろ

いろな切り口が考えられそうですが、邦銀がアジアで必要とされる金融機関になる為にはどうしたらよいでしょうか。

【第2回】(2014年実施)「信頼ある社会の構築に向けた金融機関の果たす役割は何か?」

テーマ設定のヒント①「金融機関の社会的責任について」

皆さんは金融機関に対してどのような印象をお持ちでしょうか。最近では「半沢直樹」「花咲舞が黙ってない」など銀行を舞台としたドラマに注目が集まっていますが、そこで

繰り広げられる人間模様や不祥事などから様々なイメージを銀行に抱いた方も多いのではないでしょうか。もちろん、ドラマの世界がそのまま現実にあてはまるとは限りませ

ん。しかし、銀行を例に金融機関とは何か考えさせられる印象的なシーンが多かったと思います。

特に、半沢直樹が活躍した融資課では企業への融資を業務としていますが、これは金融仲介機能(借り手と貸し手の仲介をする役割)を担う銀行の代表的な業務です。

企業は、その事業の継続、あるいは成長・拡大を図っていく上で、資金を必要とします。経済環境の変化の中で経営を安定させるために、あるいは、世のため人のためにな

る製品の開発で資金がいるケースもあるでしょう。

一方で、銀行が融資に利用する資金はお客様からお預かりした大切な資金ですので、その資金は有利かつ安全に運用されなければなりません。

Page 4: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

それゆえに、銀行をはじめ、経済活動の血脈を支えている金融機関には大きな社会的責任があるといえます。半沢直樹もきっとこの社会的責任のために戦っていたので

はないでしょうか。

それでは、金融機関は本業を通してどのように社会的責任を果たしていくべきでしょうか。

このテーマには様々な観点から切り込めると思いますが、なかなか切り口が定まらないという学生さんは、改めて半沢直樹や花咲舞の正論に耳を傾けてみることで金融機

関と社会のあるべき姿が見えてくるかもしれません。

テーマ設定のヒント②「高齢社会における金融機関の役割Ⅰ」

日本は世界に先駆けて高齢化が進んでおり、2035 年には 3人に 1人が 65歳以上になるといわれています(総務省統計局)。このような急速な社会変化に着目したと

き、金融機関には今後どのような役割が求められることになるでしょうか。そこで高齢社会における金融機関の役割を考えるヒントとして、高齢者の財産を「守る」「活かす」

「遺す」というポイントから金融機関の取り組みをご紹介したいと思います。まず今回は「後見制度支援信託」を一例に「守る」役割をご紹介します。

皆さんは「成年後見制度」をご存知でしょうか。「成年後見制度」とは、認知症、知的障害、精神障害などにより物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利

を守る援助者(成年後見人)を選ぶことで本人を法律的に支援する制度です。家庭裁判所により選任された成年後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態

や生活状況に配慮しながら、本人に代わって財産を管理したり、必要な契約を結んだりすることで本人を保護・援助することになります。

しかしながら、近年では後見人が被後見人の財産を横領するなどの不正事例が見られるようになりました。そこで、最高裁判所の提案を受け、信託銀行各社では「後見

制度支援信託」の取り扱いを 2012 年 2月よりスタートしました。

「後見制度支援信託」とは、被後見人の財産のうち通常使用しない金銭を信託銀行に信託する仕組みですが、後見人が信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したり

する場合には、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を提示することを条件とするため、後見人の不正を未然に防止する効果が期待されています。

今後、さらに高齢化が加速していく中、成年後見制度の利用者はますます増加することが予想されますが、金融機関にはその財産管理機能を活かして高齢者の財産を

「守る」という重要な役割が一層期待されるのではないでしょうか。

高齢社会のもたらす課題やニーズは実に多様ですが、このような「守る」という観点から金融機関の役割を捉えてみることで新しい金融機関の姿が見えてくるかもしれま

せん。皆さんのフレッシュなアイディアをお待ちしています。

テーマ設定のヒント③「高齢社会における金融機関の役割Ⅱ」

高齢社会がもたらす変化は様々ですが、長寿化により老後の生活期間が長くなることは喜ばしい変化である反面、個人は生活資金の枯渇という課題に直面することにな

るかもしれません。特に公的年金などで生活費が賄えない場合には財産を取り崩すことにもなるでしょう。そこで、財産を「活かす」という発想から高齢社会における金融機関

の役割を考えてみてはどうでしょうか。

Page 5: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

例えば、高齢者の財産の大半は自宅不動産が占めているといわれていますが、この自宅不動産を「活かす」ことに着目した金融商品に「リバースモーゲージ」があります。

「リバースモーゲージ」とは、自宅を担保として老後に必要な生活資金を借り入れることができる仕組みですが、本人が亡くなられた後は担保としている自宅を売却するなどし

て一括返済することになります。この仕組みを利用することで高齢者は自宅に住み続けながら老後の生活費の確保を図ることができるのです。

しかしながら、「リバースモーゲージ」は、欧米では高齢者の経済的自立を支援する仕組みとして広く定着しているものの、日本ではまだ十分に普及しているとはいえませ

ん。その理由としては、中古住宅市場が十分に発達しておらず適正な売却価格が付かないこと、相続人に負債が残る可能性があることなどが挙げられています。では、どう

すれば日本にも「リバースモーゲージ」が根付くようになるのでしょうか。

今回はリバースモーゲージを例に「活かす」という切り口について紹介しましたが、まだテーマが決まらない方は金融機関ならではの機能から社会の課題やニーズを捉えて

みることで新しい金融機関の役割が見えてくるかもしれません。

テーマ設定のヒント④「ライフサイクルと金融機関」

皆さんは金融機関の役割についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。お金を引き出したり、振り込んだり、日常生活においてはATMが最も身近な存在でしょうか。ア

ルバイト代をコツコツと口座に貯めている学生さんは「貯蓄」をイメージされるかもしれません。

しかし、金融機関は「貯蓄」以外にも皆さんのライフサイクルに応じた様々な商品・サービスを提供しています。例えば、結婚して新しい家族ができるとマイホームの購入や

子供の教育資金など多額の費用が必要になります。そのために定期預金などで貯蓄のベースを築くことは大切なことですが、場合によってはローンによる借入を検討するこ

とになるでしょう。また、病気や死亡など万が一に備えて保険商品に取り組むことになるでしょう。そして、老後においては自身の財産を円滑に配偶者や子に遺すために金融

機関の相談窓口を訪れることもあるのではないでしょうか。このように金融機関は一人一人のライフステージに応じて、「貯める」「借りる」「備える」「遺す」など実に多様な商

品・サービスを通して皆さんの人生に関わっているといえます。

そう考えると自分のライフサイクルを振り返ったり、想像してみたりすることで、金融機関の役割に関する新たな気づきが得られるのではないでしょうか。

例えば、「実家の不動産は将来どのように管理したら良いのか」「もし相続が発生したら何か困ることは起きないか」「将来に向けてどのように資産を形成したら良いのか」

など、自分の家族や財産、そして、将来を具体的に想像してみることで自分ならではの新しい気づきが得られるのではないでしょうか。そのような気づきから「こんな金融商品

があったら便利だ」「このような制度は見直すべきだ」といったアイディアを引き出すことができたら、それは論文の核となるメッセージです。あとはじっくり現状を分析し、課題

を整理し、そのアイディアを具体化してみてください。これらのプロセスは知的刺激に満ちた貴重な経験になるはずです。

論文のアイディアは意外と身近なところに隠れています。専門性や知識にこだわる必要はありません。

テーマ設定のヒント⑤「オリンピックと金融機関」

東京でのオリンピック開催が決定し、2020 年を心待ちにしている学生さんも多いのではないでしょうか。オリンピックは日本経済に活力をもたらすだけでなく、新しいインフ

ラやビジネスの創出、都市・生活空間の変貌などを通して、私たちの経済活動や日常生活に大きな変化を与えることになります。また、その変化は金融機関にも様々なビジ

ネスチャンスをもたらすことになるでしょう。

Page 6: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

例えば、競技施設や交通機関などのインフラ整備では多額の費用が必要になりますが、金融機関はこの課題をチャンスと捉えて独自の資金調達ノウハウを提供すること

ができるかもしれません。民間の資金やノウハウを公共事業に活用する手法である PFIなどは今後一層注目されるのではないでしょうか。

また、オリンピック開催期間中は多くの外国人観光客が日本を訪れることになりますが、両替やクレジットカードの利用に不便を感じている外国人観光客も少なくないよう

です。そこでもっと快適に日本を楽しんで貰えるような利便性の高い金融商品・サービスを検討することもできるでしょう。

そう考えると、オリンピック開催に向けて金融機関に期待される役割は実に幅広いものといえます。「おもてなし」「コンパクト五輪」「震災復興」など、今回のオリンピックを象

徴するキーワードは様々ですが、「オリンピックの成功に向けて何ができるのか」「オリンピックは社会にどのような変化をもたらすのか」といった観点から金融機関のビジネス

チャンスを考えてみることで、金融機関の新しい未来が見えてくるのではないでしょうか。

テーマ設定のヒント⑥「女性の活躍」

「育児と両立させながら仕事を続けたい」「管理職としてのキャリア形成を図りたい」、そう考える女子学生さんも多いのではないでしょうか。最近では、成長戦略としても、

女性の力を積極的に企業や社会に取り入れていくことで日本経済の活性化を図ろうとする考えが広がっていますが、この「女性の活躍」は金融機関にとっても重要なテーマ

といえます。

特に、金融機関は他業種と比較して女性従業員の割合が高く、平成 24年度経済センサスにおける金融業・保険業の女性従業者割合は 52.7%と、全業種平均を 9.2ポイ

ントも上回っています。また、女性ならではの感性が活かせる業務が多いというのも金融機関の特徴です。近年では女性の管理職登用に積極的に取り組む金融機関も増え

ていますが、女性の活躍を上手く取り入れることは金融機関のみならず社会全体にも大きな活力をもたらすことが期待されます。

その一方で、国際比較で見ると日本における女性の活躍はまだ遅れているという指摘もあります。その背景には継続就労の難しさや職業観の醸成など様々な課題が考

えられるでしょう。それでは金融機関ではどのような取り組みにより女性の活躍を促進し、経済活動や地域社会の活性化を図ることができるでしょうか。

なかなかイメージが湧かないという学生さんは自身のアルバイト経験や就職活動を考えてみることで新たな気づきが発見できるかもしれません。「こんな職場なら育児と両

立できそう」「こんな制度があれば力を発揮できそう」など、自分なりのアイディアが閃いたらぜひそれを具体化してみてください。

テーマ設定のヒント⑦「高齢社会における金融機関の役割Ⅲ」

老後を迎えるにあたり、人生の終焉に向けた備えを考えることはごく自然なことです。特に「自分の死後、残された家族に面倒を掛けたくない」という想いは万人に共通した

願いではないでしょうか。

ところが、ご遺族が担うことになる相続手続きは思いのほか煩雑です。例えば、突然発生する葬儀費用などはご遺族がすぐに用意できるとは限りません。場合によっては

亡くなられたご家族の財産から費用を工面する必要も出てくるでしょう。相続手続きでは各相続人の具体的相続分を確定させることになりますが、そのためには相続方法に

応じ、遺言書の確認や遺産分割協議書の作成などを行わなくてはなりません。これはご遺族にとって大変な負担となります。

そこで最近では「遺言代用信託」という仕組みを利用した金融商品に注目が集まっています。これは信託銀行が契約者から資金を預かり、契約者が亡くなられた際にあら

かじめ決めておいた方法でご遺族に資金を払い出す仕組みです。遺言代用信託では資金の処分方法を生前に信託契約として定めるので、遺言書などを提出する必要はな

Page 7: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

く、受取人の印鑑などがあれば速やかに資金の払い戻しを受けることができます。これにより、ご遺族は葬儀費用といった急な出費に対しても円滑かつ速やかに対応するこ

とができるのです。また、分割交付にする設定もできるので、残されたご家族の生活費として定期的に支給することも可能です。

以上は遺言代用信託を活用した財産を「遺す」ことについての一例でしたが、その他にも相続が発生した場合、「自宅兼事務所は事業を承継する次男に相続させたい」

「財産の一部は社会のためになるような活動に寄附したい」など様々な要望や課題が出てくると思います。相続に関する悩みや課題はその人を取り巻く家族関係や財産状

況、人生観により様々です。それゆえに、金融機関やその商品サービスに期待される役割も実に幅広いものといえるでしょう。

テーマ設定のヒント⑧「信頼ある社会とは何か?」

「信頼ある社会」と聞いて皆さんはどのような社会をイメージされるでしょうか。「お互いに約束を守れる社会」「安心安全に暮らせる社会」などそのイメージは様々かもしれ

ませんが、「信頼」は取引を成立させる上で必要不可欠な土台です。例えば、信頼関係の乏しい社会では取引相手が信頼に足る相手なのか調べなければならず、取引コスト

が増すことになります。また、信頼がなければ取引そのものも停滞してしまいます。それゆえに、「信頼」は社会経済において重要なキーワードといえます。

それでは、金融機関は本業を通してどのように「信頼」を生み出し、社会経済を支えることができるでしょうか。この切り口は様々ですが、例えば、「顧客」「株主」「従業員」

「地域」といったステークホルダーとの関係から金融機関の果たすべき役割を考えてみることで新しいヒントが見えてくるかもしれません。

例えば、「顧客」との信頼のために金融機関にできることは何でしょう。預金者にとっては金融機関の経営が安定していることが大きな信頼なのかもしれません。あるい

は、情報管理や説明責任が徹底されていることも大切でしょう。来店者にとっては、正確な事務手続きはもちろん、バリアフリー化された店内で安心安全に取引を行えること

も大きな信頼に繋がるのかもしれません。

また、「地域」のためには金融機関は資金提供者という役割に留まらずより主体的に地域活性化を主導していくことが期待されるでしょうし、「従業員」のためには性別や年

齢に関わらず誰もが活き活きと活躍できる職場環境を率先して整備していくことが求められるでしょう。金融機関はこのような社会的要請に応えることで新たな信頼を生み出

すことができるといえます。

本懸賞論文をきっかけに「信頼」について改めて考えてみた学生さんは多いと思いますが、ここで紹介したように「信頼」は社会経済の成立基盤であり、その領域は実に多

様です。金融機関と社会経済の関わりを「信頼」というキーワードから捉え直してみることで金融機関の新しい役割が発見できるのではないでしょうか。

【第1回】(2013年実施)「金融機関と社会が共に発展していくには?」

テーマ設定のヒント①「女性の活躍と金融機関」

就職を意識している女子学生さんは多いと思いますが、女性の力を取り入れるということは企業にとっても社会にとっても大きな活力に繋がることであり、金融機関にとっ

ても重要なテーマです。

Page 8: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

特に金融機関は他業種と比べると女性が多い職種であり、「平成 24年度経済センサス(総務省)」によると金融業・保険業における女性従業者の割合は、全業種平均

43.5%に対して、52.7%を占めています。また、金融機関には女性ならではの感性が活きる業務が多いのも特徴です。

近年では積極的に女性の管理職登用に取り組む金融機関も増えてきていますが、この流れは金融機関や社会に大きな活力を生み出すと思われます。

これらを踏まえると、例えば、金融機関で女性がさらに活躍していくためにはどのようなことが求められるのかということを切り口に考えてみるのも良いかもしれません。

学生さんでしたら就職活動という最も身近なところからイメージしてみると考えやすいかもしれませんし、あるいは、金融機関の取り組み事例を調べてみることで新しい発見

があるかもしれません。

テーマ設定のヒント②「高齢社会における金融機関の役割」

日本は世界の中でも急速に高齢化が進んでいる国であり、2015 年には 4人に 1人が、2025 年には 2人に 1人が 65歳以上になるといわれています(総務省統計局)。

特に高齢社会の到来は、経済活動から日常生活まで、金融に係る様々な場面にも影響をもたらすと思います。

例えば、日常生活や医療介護に必要な資金を確保して適切に管理すること、子や孫に円滑に財産を相続することなど、高齢者の財産管理をどのようにサポートしていくか

という課題は今後も一層注目されることになるでしょう。

そう考えると高齢社会の中で金融機関に期待される役割は実に幅広いものといえます。

高齢社会における金融機関のあり方は多様な論点を含むテーマです。

10年後、20年後の高齢社会を想像してみることから切り口を探してみるのも良いでしょうし、あるいは、身近なご家族の声に耳を傾けてみるのもヒントになるかもしれませ

ん。

「10年後の日本はどうなっているのだろう?」「こんな金融機関・商品サービスがあれば便利なのに」といった素朴な疑問や意見の中に新しいアイディアが隠れているかも

しれません。

テーマ設定のヒント③「金融商品と社会の繋がり」

特に今回は「教育資金贈与信託」という新しい金融商品を事例にご説明いたします。

信託銀行が取り扱っている金融商品で最近急速に人気を集めているのが「教育資金贈与信託」です。大手信託銀行 4行では今年度(2013 年度)4月の取り扱い開始か

ら 2 ヵ月半で残高が 1,000 億円を突破。2013 年上半期の「日経 MJ ヒット商品番付」にもランクインされました。

教育資金贈与信託とは、祖父母や父母が子・孫の教育資金をまとめて金融機関に預ける場合、子や孫1人当たり最大 1500 万円まで贈与税が非課税になる商品です

が、このような税制上のメリットが享受できるだけでなく、祖父母等にとっては教育資金という有意義な形で子や孫に資金を残すことができます。

また、教育資金贈与信託の利用は、高齢世代から若年世代への資産移転を促進することに繋がるので、現役世代にお金が回るようになり景気刺激策としての効果も期待

されます。

Page 9: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

このように教育資金贈与信託は、高齢世代から若年世代へのお金の流れ結ぶ架け橋として、お金の余っている人とお金を必要としている人とを仲介する役割を担ってお

り、実質的には金融仲介機能の一つとして見ることができます。

金融仲介機能は時代や社会のニーズに応じて様々な金融商品・サービスとして発揮されています。

そう考えると、お金の流れから社会を見つめ直すことで社会の新しい一面が見えてくるかもしれません。あるいは、社会を変える新しいアイディアが発見できるかもしれませ

ん。

テーマ設定のヒント④「寄付文化の醸成と金融機関」

東日本大震災の寄付金総額は 2011 年末で約 6,000 億円にも達しましたが(ファンドレイジング協会「寄付白書 2012」)、震災を契機に寄付に関心を持たれた方も多いと思

います。

人々の善意が寄付という形で集まり、その寄付金が支援先に行き渡ることも、社会的課題の解決に繋がります。このようなお金の流れをサポートするという点では金融機

関にも様々な役割が期待されています。

大手信託各行は 2011 年度税制改正を契機として 2012 年より特定寄付信託の取扱いを順次開始しましたが、これは社会貢献活動に取り組む団体への寄付を目的とした

信託商品で、お客様が指定した寄付先に対して元本とその運用益を定期的に寄付するものになっています。税制上のメリットが享受できるほか、寄付先の活動報告が受けら

れるのでお客様にとっては寄付の実感や安心感が得られる商品性になっています。

最近では社会的活動など幅広い分野への寄付・投資のあり方としてクラウドファンディングにも注目が集まっていますが、今後、日本でどのように普及させていくのかという

点で社会的課題の一つだと思います。

寄付文化の醸成に向けて金融機関にも期待される役割はあると思いますが、どのような関わりを期待したいかという想像から具体的なアイディアを膨らませてみることもで

きると思います。

テーマ設定のヒント⑤「環境問題に対する金融機関の取り組み」

金融機関はお金の流れを仲介することで企業の経済活動を支えていますが、その経済活動が持続的であるためには環境保全との両立が必要不可欠です。

この意味で環境問題は金融機関と社会の発展における重要テーマであるといえます。

近年では、商品・サービスに「環境」という視点を積極的に取り込む金融機関が増えていますが、例えば、一定の環境基準を満たしている企業や個人に対して貸出金利を

優遇するという環境配慮型融資のほか、投資信託のラインナップでも環境関連企業に投資を行う環境テーマ型ファンドなどの取り扱いが広がっています。手数料などの一部

を環境保護団体に寄付する例も見られます。

また、本業とは別に企業の CSR活動の一環として植林や清掃など環境保全活動を実践する事例も多数あります。

Page 10: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

これらの取り組みは「全国銀行 ecoマップ」(全国銀行協会)でも紹介されているのでぜひ参考にしてみて下さい。

http://www.zenginkyo.or.jp/abstract/eco/ecomap/

お金の流れが変われば企業の経済活動も変わり自然環境も変わる。

このような発想で環境問題を捉えてみることで新しいアイディアが得られるのではないでしょうか。

テーマ設定のヒント⑥「金融取引の利便性向上に向けて」

代金の振り込みや公共料金の自動引き落としなど金融機関の決済機能は巨大な情報システムに支えられていますが、安心安全な金融取引を確保するためには厳正なリ

スク管理も必要になります。

しかし、厳正なリスク管理を追求することは、逆に金融取引の利便性や自由度を損なうことにも繋がります。

金融機関がより便利で快適な金融サービスを社会に提供していく上でこの課題は様々な角度から考えることができるのではないでしょうか。

また、最近ではスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスが急速に普及していますが、金融機関はこれらIT技術を上手く取り入れることでより便利で快適な商

品サービスを社会に提供することができると思われます。

すでに、ネットバンキングの他、スマートデバイスの機能を活用した金融サービスなどに取り組みが見られますが、ITは金融取引の利便性向上を考える上で必要不可欠な

キーワードといえるでしょう。

学生の皆さんはスマートフォンやタブレット端末を最も利用している世代であると思いますが、ITの活用という視点から日常生活や金融取引に係る問題を掘り下げてみるこ

とで金融取引の利便性向上に繋がる新しいアイディアが見つかるのではないでしょうか。

テーマ設定のヒント⑦「起業を活発化させるには」

日本人の起業は世界的に見ても少ない水準であるといわれています。

グローバル・アントレプレナーシップ・モニターの国際調査(2012年)によると、日本における起業準備中もしくは起業後 3.5年以内の人数は 100 人中 4人であり、調査対

象 69カ国中で最下位となっています。

日本人の起業が少ない理由には「起業のリスクが大きい」「資金調達が難しい」「敗者復活が難しい」「周囲の理解が得られない」などの問題がよく挙げられていますが、日

本経済が成長を続けていくためには常に新しい血液が社会に送り込まれなくてはなりません。起業の少ない社会では新しい事業が育たず経済の活力がそがれてしまう恐れ

があります。

それでは日本人の起業を活発化させるにはどのような方法を考えていくことができるでしょうか。

この問題については例えば「起業家がリスクマネーを調達しやすくするにはどうしたらよいのか?」「失敗しても再チャレンジできる社会に変えていくにはどうしたらよいの

か?」など金融の役割、社会の制度、文化や習慣といった様々な観点から検討することができるのではないでしょうか。

Page 11: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

また、起業に関心のある学生さんも多いと思いますが、例えば自分が起業にチャレンジするならば何がハードルになるのか想像するところからアイディアを膨らませてみて

も良いかもしれません。

テーマ設定のヒント⑧「農業と金融機関」

TPP交渉を控え、農業を成長産業の一つにしようとする気運が高まっていますが、最近では、民間金融機関の中でも農業生産者に対して積極的に貸し出しを行なったり、

農業関連企業を投資対象とするファンドを立ち上げるなどの動きが広がっています。

しかし一方で、担い手の高齢化や後継者不足、またそれに伴う耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱える問題を指摘する声も少なくありません。

そこで日本の農業のさらなる活性化という観点からこのような問題を掘り下げてみることもできるのではないでしょうか。

例えば、金融機能や信託制度の活用、民間の資金やノウハウの導入などの視点から農業経営をサポートする仕組みを考えてみることも一つの切り口になるかもしれませ

ん。

また、農業は地域経済とも密接に関係するテーマなので、各地域の取り組み事例を調べてみることで農業と金融機関の新しい関係が発見できるのではないでしょうか。

テーマ設定のヒント⑨「貧困問題と金融」

貧困問題は地球規模の最重要課題といえますが、その解決に向けて金融はどのような役割を果たしていくことができるでしょうか。

近年の海外事例としてはグラミン銀行のマイクロファイナンス(貧困層向けの小口金融サービス)が金融を通じた貧困の解決として注目を集めていますが、これは貧困層の

自立支援と営利事業を両立している点で特徴的な取り組みといわれています。

特に、グラミン銀行では、貧困者への無担保融資を通じた経済的自立のサポートに取り組んできたわけですが、当初は貧困層への融資に大きな不確実性を指摘する声も

ありました。

そこで、グラミン銀行ではグラミン方式と呼ばれる独自のグループ融資制度などを導入することで、高いローン返済率を実現し、貧困層の自立支援と営利事業を両立させ

ることに成功しました。

そう考えるとマイクロファイナンス普及のポイントには「貧困という社会的課題への取り組みを持続可能なものとするために営利も追求する」という考え方があるように思い

ます。

このような社会的課題の解決と営利事業の両立という発想から様々な社会問題にアプローチしてみることで新しい解決アイディアが発見できるのではないでしょうか。

テーマ設定のヒント⑩「CSV(共通価値の創造)という発想」

「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」とは、企業が社会問題の解決に取り組むことで社会的価値を創造し、同時に自らの経済的価値を創造していくという考え

方で、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授によって提唱された概念です。

Page 12: 学生懸賞論文 テーマ設定のヒント集(過去分)...分の1、16 分の1 と少なく、日本がリスクマネーの供給に慎重で、投資に対する安全志向がより強いことが伺えます。スタートアップ企業へのリスクマネーの供給不足が、起

類似の概念に「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」がありますが、CSRは事業の周辺として行われる社会貢献活動であるのに対して、CSVは社

会問題の解決を戦略的に事業に融合させることで、社会問題の解決と事業活動の成長を両立することを目指しています。

従来、事業活動の成長と社会問題の解決は相反する概念であると思われてきましたが、CSVは社会問題の解決に企業的手法を融合させることでよりスピーディでインパ

クトのある解決を目指すという発想において大きな特徴があります。

近年では「ソーシャルファイナンス」と呼ばれる社会の持続的成長を支援する新しい金融の枠組みが世界各国で広がりつつありますが、これも社会問題の解決を事業に融

合させるという点において CSV と共通の発想を持っています。

これまで事務局だよりで紹介してきたマイクロファイナンスやクラウドファンディングなどもソーシャルファイナンスの代表的な事例といえるでしょう。

「社会にはどのような問題があるのか?その問題解決を企業の事業活動に融合させるにはどうしたらよいのか?」

本懸賞論文テーマへのアプローチは様々ですが、このような CSVの発想から金融機関と社会の関係を考えてみることで、社会問題の解決に向けた新しいアイディアが発

見できるのではないでしょうか。

以 上