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研究レポート No.184 Janua ry2004 組立業務の外部委託と製品・市場・企業特性 -ビジネスモデルと製品アーキテクチャに関する実証研究 主任研究員 浜屋富士通総研(FRI)経済研 究所

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研究レポート

No.184 January 2004

組立業務の外部委託と製品・市場・企業特性

-ビジネスモデルと製品アーキテクチャに関する実証研究

主任研究員 浜屋 敏

富士通総研(FRI)経済研究所

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組立業務の外部委託と製品・市場・企業特性

-ビジネスモデルと製品アーキテクチャに関する実証研究-

要 旨

1. 電機業界では、メーカーから製品の生産を受託するEMS(Electronics Manufacturing

Services)と呼ばれる企業が注目を浴びている。また、技術変化の激しい米国のIT業

界では、生産はEMSに委託することによって製品の設計や開発に自社の資源を集中

し、競争優位を獲得している企業も少なくない。このように、「組み合わせ型」の製品

アーキテクチャを持つコンピュータを中心としたハイテク電機製品の産業においては、

外部委託と提携を中心とした「バーチャル・コーポレーション」型のビジネスモデル

が支配的であるように見える。一方で、「擦り合わせ型」の製品アーキテクチャを持つ

自動車の業界では、トヨタのように比較的狭いグループ企業の間で分業を行なう垂直

統合型の企業がいまだに競争力を持っている。このように、ビジネスモデルのあり方

は製品アーキテクチャに左右されると考えられているが、ビジネスモデルと製品アー

キテクチャの関係は、いくつかの例外を除いてこれまであまり実証的に分析されてこ

なかった。

2. 本稿では、製品の組立業務を自社で行なうか外部委託するかというビジネスモデルの

あり方と、製品アーキテクチャや企業特性との関係について、上場製造業の事業所を

対象とした郵送調査から得たデータを使って、実証的に検証した。その結果、まず第

一に、製品の「モジュール化度」を標準部品の使用比率で測定した場合、モジュール

化の進んだ商品を扱っている分野ほど、組立の外部委託を実施している事業所の比率

も高いことを明らかにすることができた。また、製品アーキテクチャは、組立の自動

化の進展度合いや熟練工への依存度、市場の競争の激しさといった製品・市場特性と

も関係があり、それらが外部委託の有無に関係していることも検証することができた。

3. 今回の調査結果からは、外部委託を行なうかどうかという問題は、製品アーキテクチ

ャなどの製品・市場特性と関係があるだけではなく、企業風土という企業固有の特性

とも関係があることがわかった。つまり、外部委託を実施している企業は、そうでな

い企業に比べて、平均的にみると革新的な企業風土を持っている。今回の調査ではサ

ンプル数などの問題から詳細な分析を行なうことはできなかったが、たとえば同じ産

業に属する企業のビジネスモデルの違いを分析することによって、企業風土や経営戦

略などがビジネスモデルに与える影響を明らかにすることも、今後必要になるだろう。

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目 次

1.問題意識と既存研究 ...........................................................................................1

1.1.問題意識 ...................................................................................................1

1.2.既存研究 ...................................................................................................1

2.調査の方法と結果の概要 ...................................................................................4

2.1.調査の方法 ...............................................................................................4

2.2.全体の傾向に関する集計結果 ...............................................................4

(1)外部委託の状況 ...........................................................................................4

(2)3年前からの変化 .......................................................................................7

(3)外部委託をしない事業所の状況 ...............................................................8

(4)部品に関する状況 .......................................................................................10

(5)製品・技術特性と市場特性 .......................................................................14

(6)企業特性 .......................................................................................................16

3.組立の外部委託と他の経営要素との関係 .......................................................18

3.1.製品アーキテクチャとの関係 ...............................................................18

3.2.技術・市場特性との関係 .......................................................................19

3.3.企業特性との関係 ...................................................................................22

3.4.委託先とのコミュニケーション ...........................................................24

4.まとめと課題 .......................................................................................................26

参考文献.......................................................................................................................27

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1

1.問題意識と既存研究

1.1.問題意識

最近になって、製造業の中で、生産を外部の企業に委託し、製品開発など特定の機能に

自社の資源を集中することで成功している企業が注目を浴びている。電機業界ではEMS

(Electronics Manufacturing Services)と呼ばれる生産受託を専門とする企業も登場した。特

にコンピュータ産業においては、EMSを利用する企業も多い。コンピュータ産業では、

1980 年代に大きなビジネスモデル1の転換があった。すなわち、製品の主役がメインフレー

ム(大型汎用機)からパソコンへと交代することにともなって、半導体の生産から基本ソ

フトやアプリケーション・ソフトの開発、周辺機器の販売まですべて自社で行なうクロー

ズドな垂直統合型のビジネスモデルを持つ伝統的な企業に代わって、半導体や基本ソフト

など特定の製品に特化し、迅速に技術開発を行なう企業が主導権を握るようになった。そ

のような企業は、特定の分野に自社の資源を集中し、他の部分については他社と提携する

というオープンなビジネスモデルを構築していた。最近になってそのような傾向がさらに

進み、特定製品分野の製品開発と顧客サポートなど特定の機能に自社資源を集中し、他の

機能を外部化する企業が増えてきたのである。

このように、コンピュータを中心とした電機産業においては、外部委託と提携を中心と

したオープンなビジネスモデルが支配的であるように見える。そして、オープンなビジネ

スモデルを持つ企業は米国のベンチャー企業に多く、自社完結型のクロースドなシステム

は日本の総合型の企業に多い。IT分野では圧倒的に米国企業が優位性を持っているため

に、オープンなビジネスモデルがクローズドなシステムよりも優位であるという主張が行

なわれることも少なくない。しかし、他の産業を見ると、必ずしもオープンなビジネスモ

デルが優位を占めている場合ばかりではない。たとえば、自動車業界では、トヨタのよう

に比較的狭いグループ企業の間で分業を行なう日本型の企業がいまだに競争力を持ってい

る。

わが国の企業がどのようなビジネスモデルを持つべきかということは、研究面からも実

務面からも大きなテーマになっており、さまざまな議論が行なわれているが、実証研究は

少ない。そこで、本稿では、製品の組立業務を自社で行なうか外部委託するかという点に

焦点を絞って、ビジネスモデルと他の経営要素との関係について実証的に検証してみたい。

1.2.既存研究

企業が外部委託を積極的に行なうオープンなビジネスモデルを構築すべきか、それとも

1 國領(1999)は「ビジネスモデル」という用語を、「①誰にどんな価値を提供するか、②そのために経営

資源をどのように組み合わせ、その経営資源をどのように調達し、③パートナーや顧客とのコミュニケーションをどのように行い、④いかなる流通経路と価値体系の下で届けるか、というビジネスのデザインについての設計思想」と定義している。本稿でもこの定義に従うが、特に「経営資源の組み合わせ」という点に主な関心がある。

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2

自社完結型のシステムを選ぶべきかという問題については、経営学や経済学の分野でこれ

までも盛んに議論が行なわれてきた。しかし、その大部分は概念的なものやケーススタデ

ィを根拠にしたものにとどまっている。たとえば、國領(1999)は、日本企業もインター

ネットなどのオープンなネットワーク技術を最大限に活用して、ビジネスモデルにも「オ

ープン・アーキテクチャ」を採用することの必要性を主張している。また、藤本・武石・

青島(2001)では、「アーキテクチャ」をキーワードとして、日本企業のビジネスモデルの

あり方を分析し、望ましい姿を検討している。その中で、楠・チェスブロウ(2001)は、

ハードディスク産業のケーススタディによって、モジュラー化されたアーキテクチャを持

つ製品では組織もオープンなバーチャル型になることが望ましいこと(図表1)や、製品

図表1.製品アーキテクチャと組織の適合・不適合

• 構成要素内部での価値の創造• 非効率な調整の排除

• 相互作用や相互依存を管理できない

• 不十分な開発活動のインフラストラクチャ

• システム全体での価値の創造• 不明確な相互作用や相互依存

を効果的に調整

• 不必要で非効率な内部調整• 規模の経済の阻害

不適合

不適合

適 合

適 合

バーチャル組織

統合組織

モジュラー・アーキテクチャ インテグラル・アーキテクチャ

• 構成要素内部での価値の創造• 非効率な調整の排除

• 相互作用や相互依存を管理できない

• 不十分な開発活動のインフラストラクチャ

• システム全体での価値の創造• 不明確な相互作用や相互依存

を効果的に調整

• 不必要で非効率な内部調整• 規模の経済の阻害

不適合

不適合

適 合

適 合

バーチャル組織

統合組織

モジュラー・アーキテクチャ インテグラル・アーキテクチャ 出所:楠木・チェスブロウ(2001)

図表2.製品アーキテクチャのシフト

時間

I T-a M T-b I T-a M T-b

I:インテグラル、T-a:アーキテクチャのシフト(インテグラル→モジュラー)M:モジュラー、T-b:アーキテクチャの逆シフト(モジュラー→インテグラル)

インテグラル

モジュラー

アーキテクチャの性質

時間

I T-a M T-b I T-a M T-b

I:インテグラル、T-a:アーキテクチャのシフト(インテグラル→モジュラー)M:モジュラー、T-b:アーキテクチャの逆シフト(モジュラー→インテグラル)

インテグラル

モジュラー

アーキテクチャの性質

出所:楠木・チェスブロウ(2001)

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アーキテクチャは固定的なものではなくダイナミックに変化する可能性があること(図表

2)を示している。

ビジネスモデルと製品アーキテクチャに関する数少ない定量的な実証研究としては、柴

田・玄場・児玉(2002)がある。彼らは、パソコンとNC(工作機械)とメインフレーム・

コンピュータについて郵送調査を行なってデータを収集し、ビジネスモデル2を部門間のコ

ミュニケーションの重要性などに関するエンジニアの認知構造で測定し、そのビジネスモ

デルに関する認知構造の違いによって製品アーキテクチャの違いを説明できることを、判

別分析と呼ばれる手法を用いて実証している。また、パソコン産業と自動車産業について、

製品のモジュール化指標3を測定するとともに、組立メーカーとサプライヤとの関係を表す

指標として自主開発率4という指標を開発し、モジュール化指標と自主開発率に強い相関が

あることを示した。つまり、製品アーキテクチャの変化が、企業のサプライヤシステムに

影響を与えていることを検証した。

また、生稲(2003)は、ゲーム産業における内製中心か外製中心かという組織パターン

と製品開発パフォーマンスの関係を分析するにあたって、製品パターンの重要性を指摘し、

それらの関係を検証している。彼によれば、ゲームソフトには、画面上の素早い動きなど

が必要で画像処理などの面で高い水準の技術が要求されるテクノロジー主導型ゲーム(TD

ゲーム)と、技術的な要求水準は高くないものの、新規なアイディアやコンセプトを盛り

込むことが相対的に重要なコンセプト主導型ゲーム(CD ゲーム)がある。そして、TD ゲ

ームを開発するためには企業内に蓄積された知識やノウハウが相対的に重要になるため、

TD ゲームにおいては内製中心企業の方が高いパフォーマンスを上げ、CD ゲームの開発に

おいては、企業の枠を超えた多様なアイディアやコンセプトを反映させることが必要であ

るため、外製中心企業の方が高い成果を上げることができるという仮説を設定できる。

ゲームソフトの売上本数を被説明変数とする重回帰分析を行なうことによって仮説を実

証した結果、それらは部分的にではあるものの支持されることが明らかになった。生稲

(2003)の分析の中でも、「TD ゲームでは外製中心企業よりも内製中心企業のほうが高い

成果を示す」という仮説は統計的にも有意に支持されており、製品タイプと組織パターン、

パフォーマンスの間に一定の関係があることがわかった。この研究では「製品アーキテク

チャ」という用語は明示的には使われていないが、TD ゲームはどちらかといえば「インテ

グラル型」のゲームであり、CD ゲームはどちらかといえば「モジュール型」のゲームであ

ると考えることはそれほど不自然なことではない。したがって、ゲームソフトの開発にお

2 柴田ら(2000)は「ビジネス・システム」という用語を使っているが、それは本稿でも採用した國領(1999)

の「ビジネスモデル」と基本的には同じ概念である。 3 モジュール化指標は、パソコンでは「IBM 互換機のシェア」、自動車では「ECU(Electric Control Unit)

部品の生産金額÷自動車部品の生産金額の合計」で測定している。 4 自主開発率は、パソコンではパソコン部品分野における、自動車では自動車の各システム(カーナビ、エアバッグ、インジェクション等、ECU を含むエレクトロニクス部品)における、「組立メーカーによる特許出願数÷全特許出願数」で測定している。

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いて、インテグラル・アーキテクチャを持つ製品は内製中心で開発したほうがパフォーマ

ンスが高いということであり、製品アーキテクチャとビジネスモデルの間には一定の関係

があり、それがパフォーマンスにも影響を与えているということができるだろう。

しかしながら、柴田ら(2002)や生稲(2003)の研究を除けば、製品アーキテクチャと

ビジネスモデルに関するデータを用いた実証的な研究は少ない。また、柴田らの研究にし

ても、パソコンはオープン型、NCはモジュール型、メインフレームはインテグラル型と

いうように、各製品が持つ製品アーキテクチャを事前に決定しているため、パソコンを生

産している企業がオープンなビジネスモデルを持っていることは証明できても、オープン

な製品アーキテクチャを持つ製品とオープンなビジネスモデルとの間に一般的な関係があ

るかどうかということは証明できていない。また、生稲(2003)は、明確に「アーキテク

チャ」という概念を使ってはいない。したがって、製品アーキテクチャとビジネスモデル

の関係を論じるにあたっては、様々な分野で実証的な分析を行なうことが求められている。

2.調査の方法と結果の概要

2.1.調査の方法

今回実施した調査では、製品の組立を外部委託するかどうかというビジネスモデルと製

品のアーキテクチャとの関係を分析するために、帝国データバンクのデータベースから東

証1部・2部上場の組立型製造業に属する企業の製作・製造を行なっている事業所を合計

1209 ヶ所抽出し、その生産管理担当部門長に調査票を送付した。調査は、2002 年 12 月か

ら 2003 年 1 月にかけて実施し、200 の事業所から有効な回答を得た。回答の際には、当該

事業所におけるすべての製品について答えてもらうのではなく、回答者が担当している主

な製品を選択してもらい、その製品について回答してもらった。

次節では、この調査の回答の単純集計結果を紹介し、製品の組立に関する現状を整理す

る。また、製品アーキテクチャと組立の外部委託との関係に関しては、章を改めて第3章

で分析する。

2.2.全体の傾向に関する集計結果

(1)外部委託の状況

図表3は、本調査に回答があった 200 事業所において対象となった製品をカテゴリ別に

集計したものである。自動車・自動車用部品を製造している事業所が 42 ヶ所ともっとも多

く、次いで農業用機械などの用途別の特殊産業機械が 33 ヶ所、ボイラなどの一般産業機械

が 23 ヶ所、半導体・集積回路・電子部品が 19 ヶ所などとなっている。

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5

図表3.製品カテゴリ 製品カテゴリ N % 一般産業機械 23 11.5 特殊産業機械 33 16.5 その他の一般機械 9 4.5 事務用・サービス用機械 2 1.0 民生用電気・電子機械 5 2.5 電子計算機・電子応用装置 9 4.5 通信装置 9 4.5 半導体・集積回路・電子部品 19 9.5 重電機器 8 4.0 その他の電気機器 7 3.5 自動車・自動車用部品 42 21.0 船舶・その他の輸送用機器 8 4.0 精密機械 7 3.5 その他 19 9.5 合計 200 100.0

図表4は組立工程の外部委託の状況を表したもので、有効回答の 57.0%にあたる 114 事業

所で外部委託をしており、外部委託をしていない事業所は 43.0%、86 ヶ所である。外部委

託をしている事業所の 22.8%にあたる 26 事業所が特定の一社に委託しており、複数の会社

に委託しているのが 81 事業所であった。組立を外部委託している事業所について、当該事

業所における全生産量に占める委託比率(金額ベース)と、そのうちで海外の企業に委託

をしている比率を計算してみると、外部企業への委託比率の平均は 40.37%になり、海外企

業への委託比率の平均は 12.99%であった。

図表5は製品の最終組立以外に外部委託している業務を集計したもので、部品調達や検

査を委託しているケースが多いことがわかる。一方、商品企画や研究開発、基本設計を外

部に委託している事業所はほとんどない。

最終組立を外部に委託する理由を集計したのが図表6である。コスト削減のために外部

委託するという場合がもっとも多い。人件費削減という理由が「非常によくあてはまる」

または「ややあてはまる」と回答した事業所の比率は全体の 85%であり、人件費以外のコ

スト削減については 75%の事業所が「非常によくあてはまる」または「ややあてはまる」

と答えている。「組立の付加価値が低下」しているから組立を外部に委託しているという事

業所も多く、全体の 44%の事業所から「非常によくあてはまる」または「ややあてはまる」

図表4.組立工程の外部委託の状況 委託の有無 N % 一社に委託 26 13.0 複数社に委託 81 40.5 委託先の数は不明だが外部委託は実施 7 3.5 委託なし 86 43.0 合計 200 100.0

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という回答があった。次いで多いのは「納期短縮」や「リードタイム短縮」など時間(ス

ピード)に関する理由で、それぞれ 38%、34%の回答者が「非常によくあてはまる」また

は「ややあてはまる」という答えている。一方、「品質向上」のために外部委託していると

いう企業はほとんどなく、「標準部品を使用するようになったから外部委託するようにな

った」という回答も少ない。選択肢以外の自由回答では、「需要変動への対応」という理由

が多かった。

図表7は外部委託の事後的な効果についてまとめたもので、当然予想されることではあ

るが、図表6の外部委託の理由と同じような結果になっている。つまり、もっとも多いの

図表5.組立以外に外部委託している業務(複数回答)

1.9

1.9

1.9

13.1

22.4

48.6

33.6

17.8

0 10 20 30 40 50 60

商品企画

研究開発

基本設計

量産設計

試作

部品調達

検査

補修

(%)

図表6.外部委託の理由

0% 20% 40% 60% 80% 100%

人件費削減コスト(除人件費)削減

納期短縮リードタイム短縮

市場近接地で生産組立の付加価値低下生産の迅速な立上げ

自社に設備がない生産部門への刺激

委託先が見つかった品質向上

標準部品の使用

非常に良くあてはまる ややあてはまる あまりあてはまらない まったくあてはまらない

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はコスト削減に関する効果で、「大いに効果あり」または「やや効果あり」という回答者が、

人件費削減では 86%、人件費以外のコスト削減では 71%を占めている。次いで多いのは納

期短縮、リードタイム短縮などのスピードに関する効果だが、これらの効果があったとい

う回答者は、コスト関連の半分程度にとどまっている。また、「市場近接地での生産」につ

いても 27%の事業所で「大いに効果あり」または「やや効果あり」と回答しているが、こ

れも、市場近接地で生産することによって物流コストを削減したり顧客への納期を短縮す

るというコストおよびスピード関連の効果につながるものであると考えることができる。

一方で、外部委託の理由と同じように、外部委託によって品質向上という効果があったと

いう回答はごくわずか(7%)であった。また、外部委託の理由として「社内生産部門への

刺激」を挙げた回答者は 13%にすぎないが、結果的に外部委託が社内生産部門への刺激に

なったという事業所は全体の 28%にのぼる。

(2)3年前からの変化

図表8は、調査時点で製品の最終組立を外部に委託している事業所について、3年前の

外部委託の状況をまとめた結果である。この表からわかるように、8割弱の事業所が3年

前にも調査時点と同じ会社に委託しており、組立の委託先はかなり固定していることがわ

かる。3年前に委託していた会社との契約を打ち切った(3年前には調査時点と違う会社

図表7.外部委託の効果 0% 20% 40% 60% 80% 100%

人件費削減

コスト(除人件費)削減

市場近接地での生産

納期短縮

リードタイム短縮

生産の迅速な立上げ

生産部門への刺激

品質向上

大いに効果あり やや効果あり あまり効果なし 全く効果なし

図表8.3年前の外部委託状況(複数回答) N % 現在と同じ会社に委託 77 77.78 違う会社に委託 13 13.13 全く委託していなかった 11 11.11 製品がなかった 1 1.01 有効回答 99

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に委託していた)という事業所は、全体の 13%にしかすぎない。また、3年前には委託し

ていなかったが調査時点では委託しているという事業所も1割強存在している。

図表9は、委託企業の数の変化に関する回答を集計したものである。101 事業所中、47

ヶ所(47%)が「変化なし」と回答しており、「増加した」が 30 ヶ所(30%)、「減少した」

は 24 ヶ所(24%)である。この集計結果からは、一般的な傾向として委託企業の数が増え

ているか減っているかということは分からないが、図表8のデータとあわせて考えると、

委託先の企業については3年前とあまり変化がないという事業所が多いと考えられる。

次に、組立の外部委託の比率に関する変化を集計したのが図表 10 である。回答事業所 97

ヶ所のうち、54%にあたる 52 ヶ所で、外部委託の比率(金額ベース)は3年前より増加し

たと回答している。これらの集計結果から、一般的には、委託企業数の変化には明確な傾

向はないが、委託する量は増えていると言うことができる。

図表 10.委託比率の変化

0% 20% 40% 60% 80% 100%

増加した(52) 減少した(20)変化なし(25)

(3)外部委託をしない事業所の状況

次に、外部委託を行なっていない企業の回答の集計結果を紹介する。

調査時点で外部委託を行なっていない 84 事業所のうち 93%にあたる 78 の事業所が、3

年前も外部委託を行なっていなかったと答えている。3年前には外部委託を行なっていた

(けれども調査時点では外部委託を行なっていない)という事業所は、6 ヶ所(7%)にす

ぎない。図表8を見ると、3年前には委託していなかったが調査時点で委託している事業

所は 11 ヶ所であるから、この3年間では、回答のあった事業所の中では、外部委託を中止

した事業所よりも新しく外部委託を始めた事業所の方が多いことがわかる。

調査時点で外部委託を行なっていない理由をまとめたのが図表 11 である。もっとも多い

のは、「組立が自らの中核能力であるから外部委託をしない」という回答で、この理由が「非

常に重要だ」と答えたのは全体の 59%あり、「やや重要である」という回答を入れれば、87%

図表9.委託先企業数の変化

0% 20% 40% 60% 80% 100%

増加した(30) 減少した(24)変化なし(47)

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の事業所がこの理由が重要であると答えている。次に、「組立に関するノウハウを喪失する

恐れ」や「情報が流出する恐れ」を外部委託しない理由として挙げる回答者が多い。「外部

委託の効果が小さい」という理由についても、55%の事業所で「非常に重要」または「や

や重要」と回答している。「社内の雇用を維持するため」という理由で外部委託をしない事

業所も多く、「非常に重要」と「やや重要」を合わせれば 74%にのぼる。また、「組立業務

の収益率が高いから外部委託をしない」という事業所も、「非常に重要」と「やや重要」を

合わせて 40%存在している。このような事業所では、自社でしか作れないような特殊な製

品を生産しているか、規制などによって製品市場の競争環境があまり厳しくないことが考

えられる。一方で、「社内の調整がつかない」という理由を「非常に重要」と答えた事業所

はなく、「やや重要」と考えているのも 10%にすぎない。少なくともこの調査の回答からは、

「本当は外部委託を実施したいのだが、雇用問題以外の社内的な理由で外部委託を実現で

きない」という事業所は少ないことがわかる。しかし、外部委託しない理由として「社内

の雇用維持」が重要だという回答が 74%あったということは、「本当は外部委託をしたいの

だが、社内の雇用維持のために外部委託に踏み切れない」という企業も少なくないのでは

ないかと考えることができる。

図表 12 は、調査時点で組立業務を外部委託していない事業所における今後の予定に関す

る回答をまとめたものである。また、図表 13 は、外部委託を計画または検討している理由

を示している。

まず、図表 12 から、全体の 76%にあたる 62 の事業所で今後も組立の外部委託を予定し

ていないことがわかる。組立の外部委託を具体的に計画しているのは 7 事業所(9%)、外

部委託の可能性を検討している事業所が 14 ヶ所(17%)である。

図表 11.外部委託をしない理由

0% 20% 40% 60% 80% 100%

組立が中核能力

ノウハウ喪失

情報流出の恐れ

委託の効果小さい

社内の雇用維持

組立は収益高い

委託先がない

契約変更が困難

社内の調整がつかない

非常に重要 やや重要 あまり重要でない 全く重要でない

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10

図表 13 からは、外部委託を計画または検討する理由としてもっとも一般的なのは、実際

に外部委託をしている場合(図表6)と同じように、「人件費の削減」であることがわかる。

「納期短縮」や「リードタイム削減」「新製品の迅速な生産立上げ」などスピード関連の理

由が多いことも、外部委託を実施している理由と同じである。一方、「組立の付加価値低下」

は 35%、「委託可能な企業の増加」は 36%の事業所で「非常によくあてはまる」または「や

やあてはまる」と回答している。後者については、電機業界におけるEMSなど製品の組

立の受託を専門に行なう会社が登場してきたことが背景になっていると考えられる。

(4)部品に関する状況

ここでは、組立の部品に関する回答の集計結果を紹介する。まず、部品の点数について

は、たとえ同じ製品カテゴリであっても個々の製品によって部品点数がかなり異なるため、

図表 12.外部委託の予定

7 14 62

0% 20% 40% 60% 80% 100%

計画あり 検討中

計画なし

図表 13.外部委託を検討している理由

0% 20% 40% 60% 80% 100%

人件費削減

コスト(除人件費)削減

組立の付加価値低下

納期短縮

リードタイム短縮

新製品の迅速な生産立上げ

委託可能な企業の増加

市場近接地での生産

標準部品の使用

自社設備の廃棄

生産部門への刺激

品質向上

非常によくあてはまる ややあてはまる

あまりあてはまらない まったくあてはまらない

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平均を計算することにあまり意味はないが、参考までに、製品カテゴリ別に各種の統計値

を計算してみたのが図表 14 である。船舶・その他の輸送用機器および精密機械で部品点数

が多く5、事務用・サービス用機械、民生用電気・電子機械では比較的部品点数が少ない。

部品内製率(自社または子会社で生産している部品の比率)の平均値は、どの製品カテゴ

リでも 50%以下であるが、特に電子計算機・電子応用装置(22.6%)や通信装置(24.2%)

で小さくなっている。これは、次章で検討するように、部品内製率と製品のモジュール化

には相関があり、電子計算機・電子応用装置や通信装置では製品のモジュール化が進んで

いることを示していると考えられる。

図表 15 は、部品の内製率の変化を示している。もっとも多いのは3年前から調査時点ま

でに内製率が減少したという事業所(53 ヶ所、29%)だが、逆に増加させたという回答も

それに次いで多く(41 ヶ所、23%)、今後の予定も含めると、内製率の増加と減少はほぼ同

じ比率になる(増加が 32%、減少が 34%)。図表 16 は、部品内製率の変化を製品カテゴリ

5 サンプルが少ないために異常値に影響された可能性はある。

図表 14.製品カテゴリ別の部品点数および部品内製率

部品点数(単位:点) 部品内製率(単位:%) N 最小 最大 μ σ N 最小 最大 μ σ 一般産業機械 19 15 33,000 3,229 7,644 21 10 70 38.6 18.0 特殊産業機械 29 20 25,000 2,955 5,814 33 5 90 39.8 22.3 その他の一般機械 9 2 1,500 316 548 9 10 70 46.7 21.8 事務用・サービス用機械 2 20 100 60 57 2 0 60 30.0 42.4 民生用電気・電子機械 5 4 500 167 201 5 10 50 32.0 14.8 電子計算機・電子応用装置 9 150 40,000 4,917 13,160 9 0 70 22.6 23.7 通信装置 8 30 25,000 3,466 8,706 9 0 90 24.2 32.2 半導体・集積回路・電子部品 18 3 25,000 2,641 7,290 18 0 100 46.8 33.4 重電機器 7 30 30,000 6,780 10,858 7 5 80 36.4 22.5 その他の電気機器 7 8 5,000 785 1,862 7 10 90 44.6 29.0 自動車・自動車用部品 39 5 40,000 2,662 7,238 40 0 90 34.2 27.0 船舶・その他の輸送用機器 8 500 100,000 23,350 35,160 8 20 70 45.0 18.5 精密機械 7 5 100,000 24,372 36,383 7 3 70 36.1 23.7 その他 16 3 150,000 11,419 37,342 19 0 90 32.9 32.6

(注)N はサンプル数、μは平均値、σは標準偏差をあらわす。

図表 15.部品内製率の変化

41 27 51 8 53

0% 20% 40% 60% 80% 100%

増加した 今後増加予定 変化なし 今後減少予定 減少した

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12

別に集計したものだが、部品内製率が減少した、または今後減少予定と回答した事業所の

比率が、内製率が増加した、または増加予定と回答した事業所の比率よりも高いのは、事

務用・サービス用機械、電子計算機・電子応用装置、重電機器、精密機械、その他である。

部品内製率と部品内製率を増加・増加予定という事業所の比率の間には正の相関関係があ

り、内製率の低い製品ほど内製率がさらに低くなっている傾向があることがわかる。

図表 17 は、内製率を変化させた(またはこれから変化させる予定)理由を示している。

全体的に見れば、コスト削減がもっとも多く、次いでスピード関連の理由が多くなってい

る。コスト削減の中では、人件費削減よりも部品の価格そのもののような人件費以外のコ

スト削減という理由がもっとも多い。

図表 18 は、最終組立に使用される部品のうち、標準仕様の部品(自社専用の仕様ではな

い部品)とスポット取引で調達する部品、海外から調達する部品の比率を、製品カテゴリ

別に集計した結果を示している。標準部品の使用比率が相対的に高いのは、通信装置

(52.22%)や重電機器(42.14%)、半導体・集積回路・電子部品(35.69%)、民生用電気・

電子機器(32.00%)などであり、その他の一般機械(8.50%)、船舶・その他の輸送用機器

(9.17%)、精密機器(9.60%)といった製品カテゴリでは標準部品の使用比率が低い。

標準部品の使用比率が高ければ部品を市場で調達することが容易になるためスポット取

引の比率も高くなると考えられるが、調査結果は必ずしもそうなっていない。たとえば、

民生用電気・電子機械では標準部品の使用比率は比較的高いにもかかわらず、スポット取

引の部品の比率は比較的低い。通信装置も、標準部品の比率は高いのにスポット取引の比

率は低い。一方、標準部品の比率が小さい船舶・その他の輸送用機器では、スポット取引

図表 16.製品カテゴリ別の部品内製率の変化

0% 20% 40% 60% 80% 100%

一般産業機械

特殊産業機械

その他の一般機械

事務用・サービス用機械民生用電気・電子機械

電子計算機・電子応用装置

通信装置半導体・集積回路・電子部品

重電機器

その他の電気機器

自動車・自動車用部品船舶・その他の輸送用機器

精密機械

その他

増加した 今後増加予定 変化なし 今後減少予定 減少した わからない

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の比率が比較的高くなっている。この理由を明らかにするためには、たとえば、完成品メ

ーカーに比べて部品メーカーの数が少ない場合はスポット取引を行ないにくい、といった

部品メーカーと完成品メーカーの関係など、製品カテゴリ別にもう少し詳しく調べてみる

必要があるだろう。海外調達の部品については、事務用・サービス用機器、精密機械、電

子計算機・電子応用装置といった製品カテゴリで比較的高く、その他の一般機械、その他、

自動車・自動車用部品、特殊産業機械といった製品カテゴリで低くなっている。

図表 17.内製率を変化させる理由

0% 20% 40% 60% 80% 100%

コスト(除人件費)削減

人件費削減

リードタイム短縮

納期短縮

新製品生産の迅速な立上げ

品質向上

生産設備の廃棄

部品生産の付加価値低下

調達先がみつかった

標準部品の使用

非常によくあてはまる ややあてはまる

あまりあてはまらない まったくあてはまらない

図表 18.標準部品・スポット取引・海外調達部品の比率(製品カテゴリ別)

N 標準部品の

比率(%) スポット取引部品の比率(%)

海外調達部品の比率(%)

一般産業機械 21 27.19 16.05 13.11 特殊産業機械 26 25.77 11.62 10.85 その他の一般機械 8 8.50 5.71 5.13 事務用・サービス用機械 2 15.00 5.00 40.50 民生用電気・電子機械 5 32.00 9.20 29.00 電子計算機・電子応用装置 9 22.22 12.89 19.67 通信装置 9 52.22 5.75 18.89 半導体・集積回路・電子部品 18 35.69 7.50 14.34 重電機器 7 42.14 11.43 15.00 その他の電気機器 6 11.67 13.33 17.17 自動車・自動車用部品 36 18.63 3.30 8.73 船舶・その他の輸送用機器 6 9.17 21.00 13.67 精密機械 5 9.60 4.20 28.40 その他 13 24.31 15.46 5.79

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(5)製品・技術特性と市場特性

図表 19 は、製品カテゴリ別にモデルチェンジの期間と製品のリードタイム(開発開始か

ら製品化までの期間)の平均値を計算したものである。両者には正の相関があり、民生用

電気・電子機械、通信装置、半導体・集積回路・電子部品といった製品ではモデルチェン

ジの期間もリードタイムも短く、船舶・その他の輸送用機器では双方とも長くなっている。

図表 20 は、生産のタイプや製品の種類について示したものである。全体的には、生産の

タイプについては6割が受注生産型であり、製品の種類については 73%が多品種少量型で

あると回答している。また、生産している製品が最終顧客が使用する最終製品か生産過程

で使われる部品・中間財かという点については、回答はほぼ半々であった。

図表 21 は、各事業所における生産技術関連の質問項目に対する回答を集計したものであ

図表 20.生産のタイプ・製品の種類

0% 20% 40% 60% 80% 100%

生産のタイプ

製品の種類

製品の種類

受注生産型 見込み生産型 どちらとも言えない

大量生産型

多品種少量生産型 どちらとも言えない

最終製品 部品・中間財

図表 19.製品のライフサイクルとリードタイム(製品カテゴリ別)

モデルチェンジの期間 製品のリードタイム N 平均値(月) N 平均値(月) 一般産業機械 21 71.62 22 15.59 特殊産業機械 32 54.59 30 13.90 その他の一般機械 6 46.00 9 7.22 事務用・サービス用機械 2 36.00 2 12.00 民生用電気・電子機械 5 12.20 5 9.60 電子計算機・電子応用装置 9 64.89 9 18.33 通信装置 9 25.67 9 8.33 半導体・集積回路・電子部品 19 24.00 19 6.34 重電機器 7 54.86 7 12.00 その他の電気機器 7 65.14 7 15.14 自動車・自動車用部品 40 49.65 41 19.95 船舶・その他の輸送用機器 7 100.00 7 41.57 精密機械 7 41.00 7 10.57 その他 16 65.00 16 15.94

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15

る。全体的に見れば、R&Dと組立の連携が重要だという回答がもっとも多く、全体の 77%

が「そのとおり」または「ややあてはまる」と答えている。「熟練技術者への依存度が大き

い」という回答も多く、「そのとおり」「ややあてはまる」という回答は全体の 58%にのぼ

る。一方、「組立の自動化が進んでいる」という回答は比較的少なく、全体の 59%が「まっ

たくあてはまらない」「あまりあてはまらない」と答えている。「組立の利益率低下」につ

いては肯定的な回答が多く、「組立拠点の海外移転が進んでいる」という点については肯

定・否定の比率がほぼ等しい。

図表 22 は、競争環境など製品市場の特徴をあらわしている。全体的に見れば、「国内企

業の競争が激しい」や「海外との競争激化」といった項目で肯定的な回答が多い。図表 23

は、これを製品カテゴリ別に集計したもので、たとえば産業機械では代替商品の脅威は低

いが、民生用電気・電子機械や通信装置では代替商品の脅威が比較的高く、電子計算機・

電子応用装置では少数企業によって市場が支配されているという回答が比較的多いといっ

た特徴がある。

図表 22.市場の特徴

0% 20% 40% 60% 80% 100%

海外との競争激化

参入障壁が高い

国内企業の競争が激しい

代替商品の脅威にさらされている

市場が少数の企業に支配されている

各種規制が多い

市場での棲み分けがされている

そのとおり ややあてはまる どちらとも言えない あまりあてはまらない まったくあてはまらない

図表 21.生産技術の特徴

0% 20% 40% 60% 80% 100%

組立の自動化

R&Dと組立の連携が重要

熟練技術者への依存度が大きい

組立の利益率低下

組立拠点の海外移転が進んでいる

生産システムの改変中

そのとおり ややあてはまる どちらとも言えない あまりあてはまらない まったくあてはまらない

該当する 該当しない

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16

(6)企業特性

図表 24 は、各事業所で生産している製品の市場ポジションについてまとめたものである。

全体的には、ニッチ製品は少なく、調査対象が東証1部・2部上場企業での事業所である

ために市場シェア上位の製品が6割を超え、参入時期についても後発だという回答は 5%未

満である。

図表 25 は、企業風土に関する回答をまとめたものである。全体的に見れば、「企業風土

はオープン」「評価は実力主義」「新しいものに挑戦する風土がある」など、どちらかとい

えば革新的と考えられる項目に対して半数以上の事業所で肯定的に答えている。その一方

で、「官僚主義的傾向が強い」「雇用を重視する」「安定性を重視する」など、どちらかとい

えば現状維持の「守り」指向の項目にも半数以上の事業所が肯定的に答えており、全体的

にはっきりした傾向が出ているわけではない。

図表 23.市場の特徴(製品カテゴリ別)

海外との

競争激化 参入障壁

が高い国内企業の競争大

代替商品の脅威大

少数企業の支配

規制が 多い

市場での棲み分け

一般産業機械 87.0 18.2 91.3 9.1 68.2 33.3 33.3 特殊産業機械 66.7 37.5 93.9 18.2 54.5 25.0 46.9 その他の一般機械 100.0 22.2 100.0 37.5 66.7 0.0 44.4 事務用・サービス用機械 100.0 50.0 50.0 0.0 0.0 50.0 0.0 民生用電気・電子機械 100.0 80.0 100.0 80.0 80.0 60.0 40.0 電子計算機・電子応用装置 88.9 33.3 77.8 33.3 88.9 22.2 77.8 通信装置 55.6 44.4 88.9 55.6 44.4 33.3 33.3 半導体・集積回路・電子部品 94.7 36.8 89.5 42.1 31.6 15.8 36.8 重電機器 75.0 62.5 100.0 12.5 75.0 50.0 62.5 その他の電気機器 85.7 57.1 100.0 42.9 42.9 42.9 14.3 自動車・自動車用部品 85.7 57.1 88.1 33.3 57.1 42.9 39.0 船舶・その他の輸送用機器 87.5 50.0 62.5 0.0 75.0 75.0 50.0 精密機械 85.7 66.7 85.7 28.6 85.7 42.9 42.9 その他 55.6 38.9 94.4 50.0 72.2 38.9 5.6

数値は、「非常によくあてはまる」「ややあてはまる」と回答した事業所の比率(%)

図表 24.競争上のポジション

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ニッチ製品かどうか

市場ポジション

参入時期

はい いいえ

シェア1位 1位ではないが上位 中間 下位

パイオニア 比較的初期 平均 後発

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17

図表 26 は、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージなど、情報システムの各種

アプリケーションの導入状況をまとめたものである。導入・実現が進んでいるのは、部品

管理システム、CAD/CAM、生産情報の社内他部署との共有、サプライヤとのEDI

(電子データ交換)、サプライヤとのCADデータの交換などである。一方、EMP(eマ

ーケットプレイス)からの部品調達、ERPパッケージの導入、サプライヤとの在庫情報

の共有、サプライヤとの在庫情報の共有などは、まだ実現している事業所が少ない。

図表 26.情報システムの各種アプリケーションの導入状況

0% 20% 40% 60% 80% 100%

部品管理IS

生産情報の他部署との共有

SCMの実施

ERPパッケージの導入

生産ISと会計ISの連動

サプライヤとの在庫情報共有

CAD/CAMの導入

サプライヤとのCADデータの交換

サプライヤとのEDI

自社のネット調達

EMPからの部品調達

全面的に実施済み 一部で実施済み 実施予定がある実施を検討中 実施予定はない

図表 25.企業風土

0% 20% 40% 60% 80% 100%

企業風土はオープン

評価は実力主義

新しいものに挑戦

官僚主義的傾向

経営者のリーダーシップが強い

雇用を重視

労働組合が強い

安定性を重視

業界の革新者

そのとおりである ややあてはまる どちらとも言えないあまりあてはまらない 全くあてはまらない

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18

3.組立の外部委託と他の経営要素との関係

3.1.製品アーキテクチャとの関係

藤本(2001)は、モジュラー・アーキテクチャ6の製品とは、「機能と部品(モジュール)

との関係が1対1に近く、スッキリしたかたちになっているもの」であり、「一つ一つの部

品に非常に独立性の高い機能が与えられている」と述べているが、そのような製品ほど標

準部品の使用比率が高くなると考えられる。そのため、本稿では標準部品の使用比率を製

品のモジュール化の程度をあらわす指標として使うこととする。

図表 27 は、製品カテゴリ別に、組立工程を外部委託している事業所の比率、委託比率の

平均値、海外委託比率の平均値および標準部品の使用比率の平均値と部品内製率の平均値

を計算し、まとめて表示したものである。この表に示されている標準部品の使用比率の平

均値と組立の外部委託を行なっている事業所の比率とにもとづいて製品カテゴリをプロッ

トしたのが、図表 28 である。この図の左上の「その他の一般機械」「その他の電気機器」

については、「その他」ということで多様な製品が含まれると考えられる、ひとつのカテゴ

リとしてまとめるには無理がある。また、「事務用・サービス用機械」はサンプル数が極端

に少なく(2事業所)、有意な値が得られていない可能性も高い。したがって、これらの製

6 藤本(2001)は「モジュラー・アーキテクチャ」や「モジュラー化」という用語を使っているが、本稿

で使っている「モジュール」という用語も同じことを意味している。

図表 27.製品カテゴリ別の外部委託の比率

外部委託している事業所

数 (%)

委託比率(%) (金額ベース)

海外委託 比率(%)

標準部品 使用比率(%)

部品 内製率(%)

一般産業機械 9 39.1 53.3 6.7 27.19 38.6 特殊産業機械 18 54.5 38.1 4.8 25.77 39.8 その他の一般機械 7 77.8 31.4 4.3 8.50 46.7 事務用・サービス用機械 2 100.0 35.0 20.0 15.00 30.0 民生用電気・電子機械 4 80.0 60.0 41.3 32.00 32.0 電子計算機・電子応用装置 5 55.6 41.6 18.0 22.22 22.6 通信装置 8 88.9 52.5 4.3 52.22 24.2 半導体・集積回路・電子部品 15 78.9 29.0 14.3 35.69 46.8 重電機器 4 50.0 61.3 4.3 42.14 36.4 その他の電気機器 5 71.4 50.4 21.8 11.67 44.6 自動車・自動車用部品 17 40.5 30.8 10.2 18.63 34.2 船舶・その他の輸送用機器 2 25.0 10.0 0.0 9.17 45.0 精密機械 6 85.7 52.0 31.7 9.60 36.1 その他 12 63.2 40.8 20.9 24.31 32.9

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19

品カテゴリと「精密機械」(サンプル数は5)を除けば、他の製品カテゴリはすべて図の中

の右上がりの楕円の中に収まることになり、標準部品の使用比率と組立の外部委託を行な

っている事業所の比率との間には強い正の相関を見て取ることができる。つまり、標準部

品の使用比率が高い製品ほど組立の外部委託を行なっている場合が多い、さらに言い換え

れば、モジュール化が進んでいる製品ほど組立を外部委託している事業所が多い、という

ことである。また、図表 27 の標準部品の使用比率の平均値と金額ベースの委託比率の平均

値の間にも明らかな正の相関がある。さらに、標準部品の比率と部品内製率の相関係数を

計算してみると、両者の間には負の相関がある。つまり、標準部品の比率が高くモジュー

ル化が進んでいる製品ほど、部品の内製率は低くなっている。

これらのことから、これまで複数の論者によって指摘されてきた「モジュール型の製品

アーキテクチャを扱う企業では外部委託を積極的に行なうオープン型の組織運営が一般的

である」という主張が、今回の調査によって、製品の組立の外部委託について定量的に検

証されたと言えるだろう。

3.2.技術・市場特性との関係

次に、製品アーキテクチャ以外の技術・市場特性と外部委託の関係について分析してみ

る。図表 29 は外部委託の有無別に生産技術の特徴を集計したもので、これを見ると、外部

委託を行なっている場合ほど、組立の自動化が進んでおり、熟練技術者への依存度が低く、

組立の利益率が低下しており、組立拠点の海外移転が進んでいる事業所の比率が高いこと

がわかる。たとえば、熟練技術者への依存度が高ければ、当然組立をノウハウのない外部

企業に委託することはできないから、外部委託を行なう可能性は低くなる。また、組立の

0

20

40

60

80

100

0 10 20 30 40 50 60

一般産業機械

特殊産業機械

その他の一般機械

事務用・サービス用機械

民生用電気・電子機械

電子計算機・電子応用装置

通信装置

半導体・集積回路・電子部品

重電機器

その他の電気機器

自動車・自動車用部品

船舶・その他の輸送用機器

精密機械

外部委託を行なっている

事業所の比率

標準部品の使用比率(平均値)

0

20

40

60

80

100

0 10 20 30 40 50 60

一般産業機械

特殊産業機械

その他の一般機械

事務用・サービス用機械

民生用電気・電子機械

電子計算機・電子応用装置

通信装置

半導体・集積回路・電子部品

重電機器

その他の電気機器

自動車・自動車用部品

船舶・その他の輸送用機器

精密機械

外部委託を行なっている

事業所の比率

標準部品の使用比率(平均値)

図表 28.標準部品の使用比率と外部委託の実施率の関係

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20

利益率低下とともに自社で組立を行なう意味が弱くなり、コスト削減のためにも積極的に

外部委託を行なおうというインセンティブ(誘因)が働く。このように、図表 29 に示され

た結果は、大部分において事前に予想されたとおりのものであると言うことができる。た

だし、R&Dと組立の連携については、連携が強いほど外部委託が行なわれない傾向にあ

ると予想されたが、現実の調査結果では、外部委託を行なっている事業所も含めて多くの

事業所が連携は重要であると答えており、外部委託を行なっている方が、そうでない場合

よりも、R&Dと組立の連携が重要であるという回答の比率が高かった。このような結果

になったのは、外部委託を行なっている場合でも、委託先との情報交換を緊密に行なって

いるために、R&Dと組立の連携が重要であっても組立の外部委託を実施することが可能

であるからだと考えることができる。

図表 30 は、市場の特徴と外部委託の有無との関係をまとめたものである。外部委託を行

なっている事業所で生産されている製品の市場の方が、そうでない事業所の製品市場より

も、海外との競争が激しく、国内企業の競争が激しく、代替商品の脅威にさらされている

という回答の比率が多いことがわかる。また、参入障壁が高いという回答と、各種規制が

多いという回答については、外部委託を行なっている事業所の方が比率が低かった。これ

は、市場の競争が激しいほど組立の外部委託を行なっている場合が多いということであり、

この結果も事前に予測できるとおりである。

また、図表 31 は、外部委託を行なっている事業所と行なっていない事業所に分けて、製

図表 29.生産技術の特徴(外部委託の有無別)

委託なし (N=85)

委託あり (N=113)

組立の自動化 23.5 26.5 R&Dと組立の連携が重要 75.3 78.8 熟練技術者への依存度が大きい 63.5 53.1 組立の利益率低下 52.9 64.5 組立拠点の海外移転が進んでいる 39.3 55.4

「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した事業所の比率(%)

図表 30.市場の特徴と外部委託の有無

委託なし

(N=85 or 84) 委託あり (N=114)

海外との競争激化 71.9 80.7 参入障壁が高い 50.0 38.4 国内企業の競争が激しい 84.7 93.9 代替商品の脅威にさらされている 22.4 36.6 市場が少数の企業に支配されている 60.0 60.2 各種規制が多い 43.5 27.9 市場での棲み分けがされている 39.8 37.5

「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した事業所の比率(%)

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品のモデルチェンジの期間とリードタイムを集計した結果を示している。明らかに、外部

委託を行なっている事業所で生産されている製品の方が、外部委託していない事業所で作

られている製品よりも、平均的にライフサイクルもリードタイムも短くなっていることが

わかる。

図表 32 は、生産のタイプ・製品の種類を外部委託の有無別に集計したものである。まず、

生産のタイプについては、外部委託を行なっている方が受注生産型の生産の比率が小さい。

これは、見込み生産のほうが事前に生産計画を立てやすく、委託先に対して組立を発注し

やすいためであると考えられる。一方、外部委託を行なっている事業所の方が、大量生産

型よりも多品種少量生産型の製品を生産している比率が高い。これは、多品種の製品を生

産するためには多様な生産設備が必要になり、そのため外部企業の設備を活用する機会が

多くなっていると考えることができる。製品が最終製品か部品・中間財かという点につい

ては、外部委託の有無によって大きな違いはない。

以上の分析から、外部委託を行なっている事業所の方が、そうでない事業所よりも、組

立の自動化が進んでおり、熟練技術者への依存度が低く、製品市場の競争が激しく、製品

のモデルチェンジの期間もリードタイムも短く、多品種少量の見込生産型であるという傾

向があることがわかった。ここで、これらの特徴と製品モジュール化の程度との関係にも

注意しなければならない。たとえば、標準部品の使用比率が高く製品モジュール化の進ん

でいる製品を扱っている事業所ほど、製品市場の競争環境が激しいと認識しているという

図表 31.モデルチェンジの期間とリードタイム

委託なし 委託あり N 平均値(月) N 平均値(月) 製品のモデルチェンジの期間 80 67.68 107 40.84 製品のリードタイム 80 18.61 110 12.70

図表 32.生産のタイプ・製品の種類(外部委託の有無別)

委託なし 委託あり N % N % 生産のタイプ 84 109 受注生産型 59 70.24 62 56.88 見込み生産型 17 20.24 27 24.77 どちらとも言えない 8 9.52 20 18.35 製品の種類 84 112 大量生産型 11 13.10 11 9.82 多品種少量生産型 59 70.24 84 75.00 どちらとも言えない 14 16.67 17 15.18 製品の種類 80 109 最終製品 38 47.50 52 47.71 中間財 42 52.50 57 52.29

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ように、製品モジュール化と技術・市場特性の間には相関関係がある。組立の外部委託を

行なうかどうかというビジネスモデルの選択の問題は、製品アーキテクチャがどの程度モ

ジュール化しているかということと関係しているが、製品アーキテクチャのモジュール化

は、当然のことながら、技術特性や市場特性とも強い関係があるということである。

3.3.企業特性との関係

次に、製品アーキテクチャや技術・市場特性といった製品カテゴリに共通する要素では

なく、経営戦略や企業文化、情報システムの活用といった企業固有の要因と外部委託の有

無との関係をみてみよう。

今回の調査では、事業所が生産している製品の市場において成功する重要な要件として、

製品の機能・性能、製品の品質、製品の価格、納期、サービス、その他という6つを挙げ、

それぞれの事業所がこれら6つの要件をどの程度重視しているかということを調べるため

に、各要件の合計が 100 になるようにスコアリングしてもらった。図表 33 は、その結果を

外部委託の有無別に集計したものである。

このグラフからわかることは、委託ありの場合と委託なしの場合とではそれほど大きな

違いはないが、あえて違いを指摘するならば、外部委託を行なっている事業所では、そう

でない事業所よりも、製品の機能・性能を重視し、製品の価格をあまり重視しない傾向に

あるということである。外部委託を行なっている事業所では機能・性能を重視していると

いうことについては、たとえば、技術の変化が激しい電機業界などでは自社で組立を行な

うよりも、自社は新しい技術や新しい機能・性能を持った製品の開発に特化し、最終製品

の組立は他の企業に任せるということが起こっているためであると考えることができる。

しかし、価格については、外部委託のもっとも重要な理由がコスト削減であった(図表6)

ことを考えると、外部委託をしていない企業の方が相対的に価格を重視しているという結

果は、一見しただけでは外部委託の目的と矛盾しているようにみえる。しかし、成功要因

図表 33.成功要因の重要度

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体(N=197)

委託なし(N=85)

委託あり(N=112)

製品の機能・性能 製品の品質 製品の価格 納期 サービス その他

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は企業の業務全体に必要な条件を調査したものであり、組立だけに限定した質問ではない。

したがって、組立だけに限定すればコスト削減という目的が重要ではあるものの、企業全

体としてはコスト削減よりも製品の機能・性能の改善を重視している企業の方が外部委託

を実施している割合が高いと考えることができる。あるいは、企業全体としては製品の機

能・性能が重視されているにもかかわらず、組立の外部委託に限ってはコスト削減が重要

だと考えられているならば、企業全体の戦略と組立の外部委託の方針との間に矛盾があり、

組立の外部委託が企業の戦略に貢献する程度が低いという問題点を指摘することもできる。

図表 34 は、外部委託の有無別に企業風土の違いを分析したものである。このグラフでは、

外部委託をしている事業所は外部委託をしていない事業所よりも、明らかに、企業風土は

オープンであり、評価は実力主義であり、新しいものに挑戦する雰囲気があり、経営者の

リーダーシップが強い、といった回答が多いことがわかる。また、組立の外部委託を行な

っている事業所は、官僚主義的傾向が強い、経営者は雇用を重視する傾向が強い、安定性

を重視する傾向が強い、という項目については、肯定的な回答が少ない。これらはすべて、

革新的な風土を持つ企業ほど組立の外部委託を実施しているという事前の予想を支持する

結果になっている。一方、労働組合に関する質問については、予想に反して、外部委託を

行なっている企業の方が組合が強いという回答が多くなっており、業界の革新者であると

いう認識は外部委託を行なっている事業所の方が強いもののそれほど大きな差はない。現

在の労働組合の実態は、保守的な社員の権利を守るというよりは、経営者とともに企業の

変革を推進するという役割をになっている場合も少なくないため、必ずしも労働組合が強

いほど企業風土が保守的であるということも言えない。したがって、今回の調査では、全

体的にみると、事前に予想したとおり、外部委託を行なっている企業ほど企業風土が革新

的であるという結果になったと言うことができる。これは、製品アーキテクチャと企業風

図表 34.企業風土と外部委託の関係

0 10 20 30 40 50 60 70 80

企業風土はオープン

評価は実力主義

新しいものに挑戦

官僚主義的傾向が強い

経営者のリーダーシップが強い

雇用を重視する

労働組合が強い

安定性を重視する

業界の革新者

委託なし 委託あり

「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した事業所の比率(%)

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土に関係があり、それが外部委託の有無と関係しているというよりは、製品アーキテクチ

ャとは関係なく、企業風土が外部委託の有無に関係していると考えた方が自然であろう。

図表 35 は、外部委託の有無別に、各種情報システムの導入・利用状況を集計したもので

ある。外部委託を実施している企業の方が、SCM(サプライチェーン・マネジメント)

などの企業間のアプリケーションやサプライヤとのCADデータの交換、EDIなどの実

施が進んでいると考えられる。たしかに、この集計結果からは、サプライヤとのCADデ

ータの交換、サプライヤとのEDIについては、外部委託を実施している事業所の方が実

施していない企業よりも導入・利用が進んでいることがわかる。しかし、それ以外の情報

システムについては特に明確な違いはない。SCMにいたっては、期待に反して、外部委

託を行なっていない事業所の方が実施率が高かった。これらのことから、情報システムの

実施・導入状況と組立の外部委託との間には明確な関係はなく、組立の外部委託の有無が

情報システムの導入・実施状況には影響を与えているとは言えないことがわかった。

3.4.委託先との関係

今回の調査では、組立の外部委託を実施している事業所について、3年前からの委託比

率の変化と、それにともなう委託先との関係の変化についても情報を収集した。この節で

は、その結果を分析する。

図表 36 は、委託先との関係の変化について、委託比率の変化別に平均値を計算したもの

である。外部委託比率が増加した事業所においては、減少した事業所よりも、資本関係が

強くなり、技術者の交流や技術情報の交換が増え、仕様変更が困難になり、委託先の変更

図表 35.情報システムの導入・利用状況と外部委託の関係 (全面的または一部で実施済みと回答した事業所の比率)

0 20 40 60 80 100

部品管理ISの導入

生産情報の他部署との共有

SCMの実施

ERPパッケージの導入

生産ISと会計ISの連動

サプライヤとの在庫情報共有

CAD/CAMの導入

サプライヤとのCADデータの交換

サプライヤとのEDI

自社のネット調達

EMPからの部品調達

委託なし 委託あり

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が困難になり、交換される市場情報・生産計画も密になったという傾向がある。一方で、

契約期間の長さについてはそれほど大きな違いはない。これは、外部委託の比率を増加さ

せることは委託先との関係の強化をともない、そのことは委託先への依存が強まっている

ことを示していると考えてよいだろう。

委託先への依存度の高まりは、密度の濃いコミュニケーションを行なうことによって、

製品の品質を高めることにつながると考えられる。また、コスト削減や納期などの点で、

「無理をきいてもらう」ための信頼関係を作ることもできるため、メリットは少なくない。

しかし、一方で、特定の委託先への依存度を高めることは、その委託先に対する市場から

の競争圧力を低下させ、委託先の交渉力が高まるために、特にコスト面において不利にな

る可能性がある。

特定の委託先に過度に依存せず、しかもコミュニケーションの質を高めるための一つの

方策として、仕様の確定など生産前の段階で集中的で密度の高いコミュニケーションを行

ない、事後的には定常的な標準化されたコミュニケーションを中心とし、非定常的なコミ

ュニケーションはトラブルなどどうしても必要な場合に限定するといったことが考えられ

る。事前に仕様確定の段階で委託先と十分なコミュニケーションを行なっておけば、仕様

は標準化できるから、万が一委託先を変えることになっても、すでに決定された仕様を新

しい委託先に伝えることでロスを最小限にとどめることができる。

もし事前のコミュニケーションが十分でなく、生産開始後にも仕様変更などの委託先と

の調整が頻繁に必要であるならば、委託先を変更することは大きなロスを伴うと考えられ

る。そこで、今回の調査では、委託先とのコミュニケーションを、商品の仕様など生産を

開始する事前のものと生産状態の報告など生産開始後の定常的なもの、仕様変更など生産

開始後の非定常的なものという3つに分け、それぞれについて委託比率の変更にともなっ

てどのように変化したかということを調べた。その結果を示しているのが、図表 37 である。

この表を見ると、明らかに、委託比率の場合でも委託企業の数の場合でも、増加した事

業所の方が減少した事業所よりも3種類のコミュニケーションがすべて増加していること

がわかる。特に、委託先企業の数が増加したと答えている事業所の7割以上が、事前、事

図表 36.委託先との関係の変化(クロス集計、数値は回答の平均値)

委託比率の変化

増加

(N=52) 減少

(N=20) 資本関係(5=強くなった) 3.115 2.900 技術者の交流(5=増加した) 3.596 3.100 技術情報交換(5=増加した) 3.558 3.100 仕様変更(5=困難になった) 3.192 2.850 契約期間(5=長くなった) 3.038 3.000 委託先変更(5=困難になった) 3.038 2.900 市場情報の交換(5=密になった) 3.308 3.250 生産計画等の共有(5=密になった) 3.500 3.100

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後の定常的、事後の非定常的のいずれにおいてもコミュニケーションが増加したと回答し

おり、これらの事業所においては委託先とのコミュニケーションのための負担が増えてい

ると考えてよいだろう。上述したように、事前のコミュニケーションをしっかりと行なっ

て仕様を確定し、事後の非定常的なコミュニケーションを減らすことでコミュニケーショ

ンの効率を高くすることもできると考えられるが、現実には、事前のコミュニケーション

が増えた場合は事後の非定常的なコミュニケーションも増えている。もちろん、環境変化

に柔軟に対応するためには、生産途中であっても仕様変更などの非定常的なコミュニケー

ションを頻繁に行なう必要はあるが、その分コミュニケーションのための負担が増えてし

まう。ITの発達によって情報伝達のための時間やコストは劇的に減少しているが、膨大

な量の電子メールを処理するために作業の効率が低下することもあるように、ITが普及

したからといって担当者が必要な情報を処理するための負担は必ずしも小さくなってはい

ない。したがって、外部委託を行なう際には、事前のコミュニケーションを十分に行なっ

て仕様を確定し、不要な事後の非定常的なコミュニケーションを減らすような努力も必要

である。

4.まとめと課題

日本企業のビジネスモデルのあり方については、これまで数多くの議論が行なわれてお

り、製品アーキテクチャによってビジネスモデルも異なるということが主張されてきた。

しかし、そのことを実証的に示す研究は少なかった。本稿では、上場企業の事業所に対す

る調査結果にもとづいて、組立工程の外部委託というビジネスモデルのあり方について、

製品アーキテクチャなどの製品・市場特性や企業固有の特性との関係を実証的に分析した。

その結果、製品アーキテクチャのモジュール化度を標準部品の使用比率で測定した場合、

製品のモジュール化度と外部委託の実施比率との間には明らかな正の相関があることがわ

かった。また、外部委託を実施している事業所は、そうでない事業所に比べて、組立の自

動化が進んでおり、熟練技術者への依存度が低いといった特徴があることもわかった。さ

らに、事前に想定されるように、外部委託を行なっている事業所の方が、そうでない事業

所よりも市場の競争が厳しいことも定量的に検証することができた。

図表 37.委託比率・委託企業の数と委託先とのコミュニケーションとの関係

(コミュニケーションが「やや増加した」「大幅に増加した」と答えた事業所の比率)

委託比率の変化 委託企業数の変化 増加した 減少した 増加した 減少した 生産開始前のコミュニケーション 57.7% 25.0% 75.0% 33.3% 生産開始後の定常的なコミュニケーション 55.8% 30.0% 71.4% 23.8% 生産開始後の非定常的なコミュニケーション 59.6% 25.0% 71.4% 23.8%

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組立業務の外部委託というビジネスモデルのあり方は、このような製品・市場特性だけ

ではなく、企業風土という企業固有の特性と関係していることも明らかになった。企業の

競争戦略や情報システムの導入状況と外部委託との間には明確な関係はなかったが、組立

の外部委託を実施している企業は、そうでない企業よりも革新的な風土を持っていること

を示すことができた。

一方で、調査結果を詳しく分析すると、予想とは異なる結果もあった。たとえば、組立

の外部委託が行なわれていない企業ほどR&Dと生産との連携が強いのではないかと考え

られるが、調査結果では必ずしもそうはなっていなかった。また、競争戦略と外部委託の

有無を分析すると、外部委託を行なっている企業ほど価格を重視していないなど、他の回

答と矛盾する結果もみつかった。予想とは異なる結果については、単なるデータの問題と

してすませるのではなく、予想とは異なる現象が起きているのではないかということを検

証しなければならない。本文でも指摘したとおり、組立とR&Dの連携に関しては、組立

を外部委託しても、たとえば効果的な企業間の情報システムを構築して委託先との間で緊

密な情報交換を行なうことによって、R&Dとの連携が弱まっていないという現象も考え

られる。また、外部委託を行なっている企業が価格を重視しているのかどうかという点に

ついては、コスト削減という単一の理由だけではなく、機能・性能や納期(スピード)と

いった複数の競争要因を一つのシステムとして全体的に向上させるために、組立の外部委

託を行なっている事業所が少なくないといったことも考えられる。このような点について

は、データの分析だけではわからないビジネスモデルと他の要素との因果関係を含めて、

ケーススタディなどを通じて今後の研究で明らかにしていくことが必要である。

参考文献

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ーム産業の経済分析』東洋経済新報社 所収)

• 楠木健/ヘンリー・W.チェスブロウ(2001)「製品アーキテクチャのダイナミック・シ

フト」(藤本・武石・青島(2001)所収)

• 國領二郎(1999)『オープン・アーキテクチャ戦略』ダイヤモンド社

• 柴田友厚/玄場公規/児玉文雄(2002)『製品アーキテクチャの進化論:システム複雑

性と分断による学習』白桃書房

• 藤本隆宏(2001)「アーキテクチャの産業論」(藤本・武石・青島(2001)所収)

• 藤本隆弘/武石彰/青島矢一(編)(20001)『ビジネス・アーキテクチャ』有斐閣