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- 36 - 独立行政法人日本スポーツ振興センター委嘱事業 生命を尊重し,自ら考え正しく行動できる児童生徒の育成 -学校・家庭・地域がともに進める交通安全教育- 茨城町教育委員会 茨城町立川根幼稚園 茨城町立川根小学校 茨城町立桜丘中学校 茨城県立茨城東高等学校 研究のポイント 【1】幼・小・中・高の連携を図り,児童生徒の交通安全意識の高揚を図る。 【2】交通安全教育を通して,生命の尊重の意識を育成する。 【3】家庭・地域と協力し,通学環境を整え,交通事故の減少を図る。 研究の概要 1 地域の概要 茨城町は,茨城県のほぼ中央に位置し,水戸市の南に隣接する都市近郊の田園都市である。 町域は,東西17km,南北14km,面積は,121.64k㎡で,町の中央部を涸沼前川, 涸沼川,寛政川の3本の川が流れ,東端に位置する涸沼に注いでいる。人口は,平成19年10月 1日現在で,35,502人を擁する。 町域のほぼ中央を国道6号が縦走し,北部を北関東自動車道が横断している。町内にある北関東 自動車道の2つのインターチェンジと今後開設予定の東関東自動車道のインターチェンジ周辺及び 最近オープンした大型ショッピングセンター周辺を中心に,大幅な交通量の増加が見込まれている。 茨城町地区交番管内の交通事故の概要 平成 19 年1 0 31 日現在 年度 事故件数 死者数 負傷者数 17年度 305 (34) 1 (0) 407 (36) 18年度 271 (25) 1 (0) 354 (27) 19年度 273 (33) 2 (0) 294 (33) )は子供の件数 研究事業の概要 研究組織 交通安全教育推進協議会 幼・小部会 中学校部会 高校部会 茨城町立川根幼稚園 茨城町立桜丘中学校 茨城県立茨城東高等学校 茨城町立川根小学校

独立行政法人日本 スポーツ 振興 センター 委嘱事業 · 2018-11-21 · 独立行政法人日本 スポーツ 振興 センター 委嘱事業 生命 を尊重 し,自ら考え正しく

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独立行政法人日本スポーツ振興センター委嘱事業

生命を尊重し,自ら考え正しく行動できる児童生徒の育成

-学校・家庭・地域がともに進める交通安全教育-

茨城町教育委員会

茨城町立川根幼稚園 茨城町立川根小学校

茨城町立桜丘中学校 茨城県立茨城東高等学校

Ⅰ 研究のポイント

【1】幼・小・中・高の連携を図り,児童生徒の交通安全意識の高揚を図る。

【2】交通安全教育を通して,生命の尊重の意識を育成する。

【3】家庭・地域と協力し,通学環境を整え,交通事故の減少を図る。

Ⅱ 研究の概要

1 地域の概要

茨城町は,茨城県のほぼ中央に位置し,水戸市の南に隣接する都市近郊の田園都市である。

町域は,東西17km,南北14km,面積は,121.64k㎡で,町の中央部を涸沼前川,

涸沼川,寛政川の3本の川が流れ,東端に位置する涸沼に注いでいる。人口は,平成19年10月

1日現在で,35,502人を擁する。

町域のほぼ中央を国道6号が縦走し,北部を北関東自動車道が横断している。町内にある北関東

自動車道の2つのインターチェンジと今後開設予定の東関東自動車道のインターチェンジ周辺及び

最近オープンした大型ショッピングセンター周辺を中心に,大幅な交通量の増加が見込まれている。

2 茨城町地区交番管内の交通事故の概要

平成 19 年1 0 月 31 日現在

年 度 事故件数 死者数 負傷者数

17年度 305 (34) 1 (0) 407 (36)18年度 271 (25) 1 (0) 354 (27)19年度 273 (33) 2 (0) 294 (33)

( )は子供の件数

3 研究事業の概要

研究組織

委 員 長

交通安全教育推進協議会

事 務 局

幼・小部会 中学校部会 高校部会

茨城町立川根幼稚園 茨城町立桜丘中学校 茨城県立茨城東高等学校

茨城町立川根小学校

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4 主題設定の理由(地域の特色等を含む。)

この事業の中心校である川根小学校は,学区が広く,児童は,徒歩,自転車,バスでの通学をし

ている。この地域はのどかな田園地帯であったが,最近,高速道路のインターチェンジができたり,

東京への直通バスが開通したことで,交通量が急激に増えてきた。しかし,道路の整備が追いつか

ないのが現状である。学校周辺の通学路は,歩道もなく,対向車がやっとすれ違うことのできる程

度の狭い道が多い。このような環境下で,児童生徒の交通事故も増加の傾向にあり,安全対策や安

全教育における児童生徒の交通安全意識の高揚が急務となっている。

〔狭い通学路〕 〔高速道路の工事現場〕

5 研究の仮説

交通事故を減らすためには,児童生徒・保護者の交通安全に対する意識の高揚が欠かせない。

そのためには,幼児・児童・生徒の一人一人が当事者意識を持ち,交通事故防止に向けてお互い

に協力し,交通安全に向けて協議し合うことが大切である。

そこで,児童会・生徒会を中心とした幼小中高生・保護者及び地域住民一体となった地域ぐるみ

の交通安全への取り組みをすることで,交通安全意識の高揚を図ろうとするものである。

(1) 児童会・生徒会の主体的な活動を促す。

(2) 特別活動等の活用

(3) 幼・小・中・高の連携による交通安全キャンペーン

(4) 幼・小・中・高の連携による交通安全教室

(5) 家庭・地域との連携事業

6 研究計画

(1) 教育委員会,PTA,警察・交通安全関係団体,有識者等から成る協議会を設置・運営する。

(2) これまでの各学校,地域社会の取り組み,実践の掘り起こしをする。

(3) 交通安全に関する研究調査

・児童生徒等の交通事故発生状況等の実態把握

・地域における交通事故防止の取組状況と事故発生の関係を明らかにする。

(4) 交通安全に関連する教育内容及び機会の整理

(5) 協議会の計画により実技指導や啓発運動などを含む実践的な交通安全教育を行う。

・指導者の派遣

・実技指導の場所の確保

7 研究方法

(1) 児童・生徒による交通安全推進活動

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(2) 地域安全マップの作成

(3) 事故の起こりやすい場所と原因の調査

(4) 児童・生徒,保護者,地域住民との協議会の実施

(5) 児童・生徒,保護者,地域住民による交通安全活動

・標語,マスコット等の作成

・交通安全を呼びかける現地活動

・交通安全教室の実施

8 事業の実践

【全体における交通安全教育の実践】

(1) 協議会の設置

全体で活動する事業と,幼・小,中学校,高等学校ブロックに分けて,細かい活動がしやすい

ように2本立てにした。キャンペーン活動等地域参加の事業では,茨城町生活環境課と水戸警察

署茨城地区交番と合同で事業を進める体制をとった。

(2) 年間計画の作成

2年間を見通した交通安全教育の全体計画を作成した。全国交通安全運動を軸にして,全体活

動を実施し,各ブロックで教育課程を工夫して継続的な活動を計画した。

(3) 街頭キャンペーン活動

春・秋の交通安全運動期間中に,小学校前の交差点において,幼・小・中・高合同の交通安全

キャンペーンを実施し,運転手に安全運転を地域に交通安全の呼びかけを行った。

〔小学校前交差点 街頭キャンペーン活動〕

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(4) 標語募集と啓発活動

茨城町の運動会(子どもフェスティバル)の昼休みに,横断幕やプラカードを使って交通安全

の呼びかけを行った。また,交通安全標語募集のチラシを配り,優秀作品を町の広報誌に掲載し

たり,のぼり旗を作って,町内の全幼稚園,小,中学校と茨城東高校に配り,啓発活動を行った。

・気づいてね わたしのあげた 小さな手 (幼)

・まだ大丈夫 それが一番 危険だよ! (小) 優秀作品

・ヘルメット 命を守る 必需品 (中) のぼり旗を作成し,

・捨てるなよ あの日の思い出 スピードで(高) 町内へ配布

・守りましょう 命と家族と 交通マナー(一般)

また,キャンペーン活動で配布するティッシュに,自分たちで考えた標語を書いて配り,運転

手に安全運転を呼びかけた。

(5) アンケート実施

各校で交通安全意識アンケートを実施した。

2年間の指定を受け,事業を進めていくに当たり,

幼児・児童・生徒の交通安全への意識調査と意識

の変容を調査した。

幼稚園・小学校では,一列歩行や飛び出し,中

学校では自転車の並列走行,高等学校では自転車

運転中の携帯使用が危険であるという課題意識を

持つことができた。それに基づいて,2年目の事

業を組み,2年間を通して,各校での交通安全に

対する関心が高まり,改善が見られた。

〔子どもフェスティバルでの標語募集〕

(6) 合同研究発表会の開催

11月20日には,川根小学校の体育館において研究発表会を開催した。各校の交通安全に

かかわる様々な取り組みについての発表があった。今回の事業でお世話になった地域の方々を

始め水戸警察署,県・町教育委員会,町生活環境課の関係した方々を招待し,各部会の代表者

が発表した。アトラクションには,茨城県警察音楽隊の演奏が行われた。

9 各部会での取り組み

【幼稚園・小学校部会】

(1) 交通安全教室

・交通安全教室(水戸警察署)

・幼・保・小交通安全教室(ヤマト運輸)

・茨城東高校との交流授業(交通紙芝居)

・幼児交通安全教室

・親子通学路安全点検(PTA総会時)

・桜丘中学校との交流授業

《1年生》交通安全双六ゲーム,クイズ大会

《4年生》自転車教室,交通ルールクイズ

〔高校生による紙芝居〕

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〔ヤマト運輸による交通安全教室〕 〔中学生との交通安全双六ゲームの様子〕

〔親子通学路安全点検〕 〔新たに設置された信号機〕

(2) 安全マップ作成

「川根安全パトロール隊」発足と同時に,保護者

・児童による通学路と危険箇所の確認を行い,通学

路安全マップの作成を行った。

平成19年10月には,長年の地域の要望が通り,

朝夕の横断が困難だった川根大橋北側に信号機が設

置され,児童生徒が安全に横断できるようになり,

保護者及び地域住民も大変喜んでいる。

(3) 交通量の測定

街頭キャンペーン時に,児童から「車の量が多い」

という声が聞こえ,児童による学校周辺の道路の交

通量の測定を行った。5分おきにデータを取り,実

〔手作りの安全マップ〕 際に数値に表すことで,改めて自分たちの周りにあ

る危険性を認識した。

(4) 危険予測訓練

帰りの会の時に,「危険予測絵」を児童に見せて交通事故の危険予測訓練をゲーム感覚で行

っている。1年生から繰り返し指導することで,危険の発生する可能性を事前に察知する力を

育てている。

(5) パトロール隊による登下校指導

「川根安全パトロール隊」(1年生全保護者,保護者及び地域のボランティア)による下校指

導により,交通事故・不審者対策に努めている。地域全体で,交通安全を始めとする児童の安全

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確保に取り組む姿勢が生まれた。

〔パトロール隊による下校指導〕

【中学校部会】

(1) 交通キャンペーンの実施

① 校門坂下及び裏門での交通安全の呼びかけ実施・マナーアップ運動との連携

・全生徒,全職員の参加

・交通安全標語の募集と横断幕の作成

② 茨城町交通安全街頭キャンペーンへの参加

・川根小学校前,桜丘中学校前での実施

③ 『茨城町子どもフェスティバル』でのキャンペー

ン活動

○ 交通安全キャンペーンの実施

〔キャンペーンへの参加〕 ・交通安全標語入りティッシュペーパー及び交通

安全お守りの配布

〔小学生への交通安全アピール〕 〔部活動後の一斉下校〕

・横断幕及びプラカードの作成

・交通安全標語の応募

(2) 交通安全指導

① 交通安全教室の実施

・自転車の安全点検(茨城町自転車組合によるボランティア活動)

・自転車実技指導及び講話(茨城町交通安全協会)

・「安全な自転車走行の必要性」(ビデオ視聴)

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② 交通安全に対する意識の高揚

・交通安全お守りの配布(交通安全標語を書き添えて全保護者へ配布)

・登下校時以外でもヘルメットを着用

・冬季の手袋の着用(自転車のハンドル操作を安全にするため)

・交通安全標語の募集

・登校時の声かけ運動(状況確認と指導)

・各学級での交通安全指導の徹底

・集団下校の徹底(部活動終了後,地区ごとにまとまって下校)

・全職員による巡回指導(各学年でチームを組んで実施)

・地域(スクールガード等)との連携

(3) 川根小学校との交流

小学校1年生と4年生を対象に実施した。中学2年生全員が指導者として交通安全教室を企

画運営をした。その結果,中学生自身にも交通安全に対する意識の高揚が図られた。

【高校部会

(1) 交通安全キャンペーン

〔キャンペーンへの参加〕

〔現地での啓発活動〕① 交通安全キャンペーンへの参加

・川根小学校近くの交差点

・ロックシティ水戸南

・『茨城町子どもフェスティバル』

② 川根小学校での交通安全教室の実施

・生徒会を中心に,川根小学校の低学年に交通

安全に関する紙芝居や講演等を実施

③ 学校でのキャンペーンの実施

・正門付近でテーマ入りのティッシュを全生徒

に配布し,交通マナーの向上を図った。

(2) 交通安全指導[ロックシティ水戸南でのキャンペーン活動] ① 交通安全標語の募集及び活動

・全生徒からの交通安全標語の募集及び活用

・優秀作品の選出・表彰・のぼり作成・プラカード作成

② 交通安全登下校現地指導(通学路6箇所) ・6月,10月,1月に実施

登校指導(午前7:40~8:30) 下校指導(午後3:40~4:20)

③ PTA役員,保護者による交通安全現地指導(5つの方面に分け,10月~11月に実施)

④ 自転車点検の実施 (自転車通学の生徒全員と教職員で安全点検実施)

⑤ 原付バイク安全運転講習会(免許取得者全員,茨城県自動車学校で実技指導を受講)

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10 事業の成果と今後の課題

【事業の成果】

(1) 命を大切にする意識の芽生え

交通安全教育を早期から行うことで,幼児期から命の尊さを教えることができ,自分の命を大

切にしようとする意識が出てきた。

(2) 発達段階に応じた交通安全意識の高揚

幼,小,中,高,保護者からのアンケート結果をもとにして,指導計画を作成し,実態に応じ

た交通安全教育を実施し,交通安全に対する意識をはぐくむことが出来た。

(3) 自己啓発力の向上とリーダーの育成

幼・小・中・高の交流授業を通して,各校で下級生の模範となる自覚の高まりが見られた。

また,様々な活動を通してリーダーを育成することが出来た。

(4) 地域全体で取り組む機運の高まり

各事業において保護者や地域の方に呼びかけることで,この交通安全教育の趣旨を理解しても

らい,地域全体で取り組む機運が高まった。

また,交通安全活動という協働作業の場を通して,児童・生徒・職員及び保護者の中に「おら

が学校」「おらが郷土」という意識が芽生えてきた。

(5) 様々な交流を通した社会力の形成

幼・小・中・高の交流及び地域の方々との様々な交流を通して,児童・生徒のコミュニケーシ

ョン能力も向上し,社会力形成の上でも大変有意義であった。

【今後の課題】

(1) 継続した交通安全教育

幼・小・中・高と一貫した交通安全教育の実践をとおし,繰り返し指導することで,効果的

な安全教育を実施していく。

また,年齢に応じた実践をすることで,より確かな交通安全教育の定着を図っていきたいと考

える。

(2) 地域全体での交通安全教育

2年間の活動だけで終わるのではなく,今後も継続していく組織運営が必要である。

そのためには,中・高生の参加意欲を高めるさらなる工夫を重ねると共に,無理のない活動計画

を立て,学校だけではなく外部講師の活用等地域とのより一層の連携を図った交通安全教育を継

続していきたいと考える。

(3) 社会規範意識の涵養と生命尊重

学校と地域が一体となって,幼児期からの交通安全教育を実施することで,子供たち一人一

人に,交通マナーを遵守しながら社会規範意識の涵養を図るとともに,自分自身の命を大切に

する意識を身につけていきながら,他人の命をも守ろうという意識に発展させたいと考える。

今回の事業をとおして得ることができた,地域が連携して子供を守り育てていく体制を,今

後も継続していくことが大切なことと思われる。

そして,子供たちが大人になったときに,自分の子供に返していける教育を実践していくこ

とが重要であると考える。