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基礎から学ぶ感染症の遺伝子検査 あなたもできるPCR
東京大学医学部附属病院 検査部 三澤慶樹
PCR(Polymerase Chain Reaction)とは…
プライマーと呼ばれる2つの短いヌクレオチド断片で挟まれた遺伝子領域を大量に増幅させる技術
目的遺伝子の有無だけでなく、シークエンスなど遺伝子解析の基幹技術 必要な試薬類は、水、Buffer、プライマー、dNTPs(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、DNAポリメラーゼ、鋳型DNA(サンプル)
増幅後は増幅遺伝子DNA断片(PCR産物)をエチレンブロマイドや蛍光色素などを利用し可視化して検出
PCRは核酸の特性を利用した技術 PCR温度プログラムの一例(酵素の種類などによって変わる)
熱変性 94~96℃
アニーリング 50~65℃
30~40サイクル
伸長反応 72℃
温度を下げるとプライマーが1本鎖DNAにくっつく
保存 4℃ ∞
プライマーを起点にDNAポリメラーゼがDNAを合成
高温
核酸増幅 時間
高温にすると2本鎖DNAが1本鎖に
なる
PCRの原理
加熱 アニーリング 伸長
5’
5’
3’
3’ 鋳型DNA
1st cycle 21=2 コピー 2nd cycle
22=4 コピー
3rd cycle 23=8 コピー
… 30th cycle
230=約10憶コピー
PCRで行う事とは…
調べたいDNAと試薬を入れて 混ぜて
遠心!
セットして 待つ! 鋳型(テンプレート)DNA
DNAポリメラーゼ プライマー デオキシヌクレオシド三リン酸
(dNTP) Buffer(Mg2+) H2O
サーマルサイクラー
PCRを成功させる6つの項目
1. 病原微生物から核酸抽出がしっかりできているか?
2. 鋳型DNA量は最適か?
3. プライマーは適切か?
4. DNAポリメラーゼはどんな種類か?
5. アニーリング温度は最適か?
6. Mg2+濃度は最適か?
病原微生物のDNA抽出
ひと手間工夫が必要
検体から直接核酸抽出する際は市販キットを使うべし
グラム陰性菌
グラム陽性菌
Nocardia属 抗酸菌 酵母様真菌
糸状菌
熱処理
Lysis buffer +
加熱
ホモジェナイズ +
フェノ・クロ処理
集落からのDNA抽出法 フェノール・クロロホルム処理 ・DNA抽出の王道 ・フェノールがタンパク質を変性させることを利用
1. フェノール・クロロホルム溶液をサンプル溶液に等量加え、激しく振とう。 2. 遠心(10000rpm, 5-15min) 3. DNAは上清の水層に溶解しているので、水層を新しいチューブに移す。 4. 下層(有機層)との間の不溶物がタンパク質を多く含む沈殿物。 5. 上層と下層の間に沈殿が出なくなるまで抽出を繰り返す。(2-3回) 6. 最後に、クロロホルムだけを加え、激しく振とうし、遠心。(この操作で水層に
溶けているフェノールをクロロホルム層へ移す) 7. 上層を回収し、エタノール(イソプロパノール)沈殿
熱処理 ・95~100℃で5~15分間加熱、遠心し上清を使用。 ・迅速・簡便 ・毎時調整が望ましい。
集落からのDNA抽出法 Lysis buffer + 加熱処理 ・自家調整Lysis buffer 1M Tris buffer (pH 8.9, autoclaved) 1 mL 4.5% (v/v) TritonX-100 (filter sterilized) 0.5 mL 4.5% (v/v) Tween 20 (filter sterilized) 0.5 mL 10mg/mL Proteinase K (47 U/mg) 200 μL Sterilized H2O 7.8 mL Total 10 mL
1. 0.2 ml チューブに30 μLのLysis bufferを入れ、ごく少量の集落を懸濁する。 2. よく混ぜ、スピンダウン 3. サーマルサイクラーで 60℃ 10分間 → 94℃ 5分間* → 4℃と加温する。 4. 高速遠心し、上清を使用。 *ProteinaseKの活性が弱いと感じたら加温時間を10~15分間延ばす。
・「SOL-M」を添加調製したア ンプリコアマイコ バクテリウム検体前処理試薬セット IIの流用
集落からのDNA抽出法 酵母様真菌
1. 0.1 ml Lysis buffer (100mM Tris-HCl pH7.5, 0.5%w/v SDS, 30mM EDTA)を入れたチューブに菌体を懸濁
2. ミキサーで撹拌 3. 100℃, 15分間加温 4. 0.1 mlの2.5M 酢酸カリウムを加え、氷上で1時間静置 5. 12000 rpm, 5分間遠心 6. 上清を新しいチューブに取る 7. フェノール・クロロホルム処理にてDNAを抽出
糸状菌
1. 0.3 ml Extraction buffer (200mM Tris-HCl pH7.5, 0.5%w/v SDS, 25mM EDTA, 250mM NaCl)を入れたチューブに菌体を加える
2. ペレットミキサーで菌体を充分粉砕 (菌体粉砕後、100℃, 5~15分間加温してもよい) 3. 0.15 mlの3M 酢酸カリウムを加え、-20℃で10分間静置 4. 12000 rpm, 5分間遠心 5. 上清を新しいチューブに取る 6. フェノール・クロロホルム処理にてDNAを抽出
槇村浩一. 真菌の遺伝子検査(DNA抽出法). 医真菌誌, 54, 329-332, 2013.
PCRのセットアップ1 【鋳型(テンプレート)DNA量】
ThermoFisher. 分子生物学教室より
同じDNAポリメラーゼを使用し、推奨される条件下、様々なテンプレート量で増幅
テンプレート過多では、目的バンドより上部にテールを形成しやすい
エクストラバンドの出現
PCRのセットアップ2 【DNAポリメラーゼ】 Taq DNAポリメラーゼ 最も一般的で、比較的耐熱性をもつポリメラーゼの1つ Pfu DNAポリメラーゼ 超耐熱性ポリメラーゼの1つ ホットスタート用DNAポリメラーゼ 特異的な抗体が結合しており、反応を室温でセットアップ する間、その活性が阻害される。 最初の高温変性ステップで、この抗体が外れ、 DNAポリメラーゼが活性化する。 ロングPCR用DNAポリメラーゼ Taq DNAポリメラーゼにエクソヌクレアーゼ活性を持った 他のDNAポリメラーゼをブレント
PCRのセットアップ3 【アニーリング温度】
アニーリング温度が低いとエクストラバンドやスメアが出やすい
アニーリング温度を上昇させると増幅の特異性が向上する
ThermoFisher. 分子生物学教室より
PCRのセットアップ4
【マグネシウム濃度】
Mg2+は、DNAポリメラーゼ反応中に取り込まれるdNTPのリン酸基と、プライマーの3′-OH間の相互作用を助ける
少なすぎるとPCR産物が増幅しな
い 多すぎるとエクストラバンドやスメ
アパターンが出現
マグネシウム濃度はPCR収量を最大化するために、しばしば最適化が必要
ThermoFisher. 分子生物学教室より
PCRの成功はプライマー設計がカギを握る
論文を引用してプライマー合成するのが最も手っ取り早い。
自身で設計したい場合は、プライマー設計ソフトを使うと便利。
プライマー設計:Primer3Plus https://primer3plus.com/cgi-bin/dev/primer3plus.cgi プライマーマッピング:Primer-BLAST https://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/index.cgi
https://primer3plus.com/cgi-bin/dev/primer3plus.cgi�https://primer3plus.com/cgi-bin/dev/primer3plus.cgi�https://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/index.cgi�https://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/index.cgi�
プライマーの設計条件 1. 18~30塩基の長さにする 2. 3’末端側の約8塩基領域の塩基配列が最も得意性が要求される 3. 残りの5’末端側領域でプライマー自身のTm値(DNAの融解温度)と特異性
を高める 4. Tm値は55~70℃の範囲で2本のプライマー同士のTm値が5℃以内に 5. プライマー配列内での2次構造をさける 6. 4つの塩基をできるだけまんべんなく配列する 7. GC含有率は40~60% 8. 3’末端側にCまたはG塩基を3つ以上置かない 9. ただし、 3’末端側にCまたはG塩基が1つあると正確なアニーリングと伸長
に有利 10.どうしてもCGクラスターをプライマー中にもたなければいけない場合は、5’
末端側にCGクラスターを寄せるデザインをして、3’末端側にユニークな配列を位置づけるようにした方がプライマー設計パターンとしてはより良くなる
11.プライマーダイマーが生成されないようペアとなるプライマーセット配列を確認
オリゴDNA合成Webサイト
プライマーに用いるオリゴDNAの精製
【 Salt-free 】 シーケンシングには不向きだが、DNA断片の増幅であれば、この精製グレードで十分。しかし、オリゴDNAが長くなればなるほど、副産物の割合が増加し、影響を及ぼすので、30mer程度以上のオリゴDNAについては、OPC精製以上の精製方法が良い。 【 OPC(カートリッジ)精製 】 遊離した保護基や不完全長オリゴDNAを除去できる方法。シーケンシング用プライマーや、サブクローニング目的のPCRに使用。50mer程度以上のオリゴDNAについては、HPLC精製以上の精製方法が良い。 【 HPLC精製 】 逆相HPLC(逆相高速クロマトグラフィー)の濃度勾配(トリエチルアミン及びアセトニトリル)により、目的のオリゴDNAのみを分取する方法。 蛍光標識プローブの使用、変異導入の実験等に必須の精製グレード。 【 PAGE精製 】 変性ポリアクリルアミドゲルにより精製。HPLC精製以上の純度が得られる。塩基配列の内容(2次構造をとる)により、目的のオリゴDNAのみを回収することが困難な場合もある。
精製前段階のオリゴDNAには、合成工程で発生する副産物(遊離した保護基や不完全長オリゴDNA)が含まれる
PCR増幅後の確認
アガロース電気泳動で行う アガロースは寒天の主成分で固まると網目状構造をとる。
核酸はマイナス電荷を持つので、電場を加えるとプラス極へ移動
電気泳動によりDNAは分子量によって分離
-極
+極
電流の向き
DNAの流れる方向
泳動、染色後 UV照射にて確認
PCR増幅後の確認
低分子は早く流れ、高分子は遅いため分離される エチジウムブロマイドで染色 ・発がん物質のため、扱いに注意 ・ゲル作成中に5μg/ml EtBrを入れておく「先染め」は 簡便だが、ノイズが出やすい ・「後染め」は綺麗な撮影が可能だが、時間がかかる
-極
+極
電流の向き
DNAの流れる方向
泳動、染色後 UV照射にて確認
コントロールの設定とその目的 【陰性コントロール】 ・試薬にコンタミがなかったか? ・操作中にコンタミしなかったか?(環境、チップやピペット、手袋) ・偽反応によるシグナル(非特異反応、プライマーダイマー) 【陽性コントロール】 ・試薬の劣化、調整ミス、入れ忘れはなかったか? ・十分な感度が得られているか? ・プロセスの再現性 【内部コントロール】 ・各サンプルにおいて反応に問題がなかったか?(PCR阻害物質) ・確実にサンプルが採取できているか? ・内部コントロール遺伝子でPCR産物を補正することもある。
PCRを行うにあたっての注意点 分子量の大きいゲノムDNAは、4℃で保存。 -20℃で保存するとDNAがせん断される可能性がある。 プラスミドDNAやプライマーなどの比較的分子量の小さいDNA
断片は、4℃で短期間、小分け分注して-20℃で長期保存できる。
DNAサンプル、DNAポリメラーゼなどは、実験中常に氷上で保存する。
核酸の純度は、A260/A280比で確認 波長 260 nm の光は核酸に、280 nm の光はタンパク質によく吸収される。 したがって、A260/A280 の値が大きいほど溶液中にタンパク質がコンタミし ていない、つまり純度の高い核酸溶液であることを示す。 高純度DNA:A260/A280比≧1.8、高純度RNA:A260/A280比≧2.0 試薬調整の順序は、サンプル → ネガコン → ポジコン
PCRを行うにあたっての注意点 PCR産物を絶対に撒き散らさない ・オートクレーブにかけない ・むやみにチューブキャップを開けない ・疎水性フィルター付きチップを使う ・エアロゾルを発生させないよう操作に配慮を ・電気泳動で使用したゲルは汚染源 エリア分けを行う ・試薬調整エリア(エリア1)…クリーンベンチなど ・核酸抽出・分注エリア(エリア2)…安全キャビネットなど ・核酸増幅・検出エリア(エリア3)…エリア1, 2と異なる場所 増幅産物で環境が汚染されてしまったら ・次亜塩素酸(有効濃度5000ppm、0.5%)で一生懸命清拭 ・UVランプを点灯させる ・しばらくPCRはできない
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