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日常的に利用可能な
疲労計測システム
産業技術総合研究所 健康工学研究部門
研究グループ長 岩木 直
研究背景:視覚知覚基盤技術をもとにした
簡易疲労検査技術開発
• 疲労
– 健康管理上の問題: 健康を維持する上での重要な警告信号
– 経済的問題: 疲労による効率の低下
– 重大な社会的問題: 過労死,過労運転による重大事故
• 客観的疲労検査方法の必要性
– 客観的指標で評価した疲労度と,自覚的に感じる疲労の感覚(疲労感)は,乖離することも多い.
– 定量的な疲労指標に基づく日常的な疲労の管理
中枢(精神)性疲労を評価する指標の分類
主観的指標 疲労自覚症状(質問紙/アンケート)
行動学的指標 作業量・作業中の誤り頻度
姿勢の変化・作業に直接関係のない動作
生理学的指標 生理信号:呼吸・脈拍・発汗など
知覚・認知:フリッカー(ちらつき)知覚
触覚の空間弁別(2点識別)など
生化学的指標 唾液・尿・血液中の代謝産物・遺伝子発現
自覚的症状
客観的指標
ちらつき(フリッカー)知覚による疲労計測
• 蛍光灯の光はちらついて見えないが,よりゆっくり点滅するとちらついて見える.
• 精神的疲労の蓄積に従って,CFFは低下する
– 大脳皮質,とくに視覚野における,刺激の時間的弁別能の低下
– 精神的疲労の評価指標としての長い歴史
(フリッカー検査:産業衛生,人間工学分野) • Simonson E and Enzer N, J. Indust. Hygiene Toxcology, 23: 83-89, 1941.
100 Hz
50 Hz
30 Hz ちらつき感
定常光
ちらつき知覚閾値 Critical Flicker Frequency (CFF)
・ ・ ・
・ ・ ・
従来のフリッカー疲労検査の例
• 長時間(24時間)連続運転条件下のドライバーの疲労計測
– アンケート
– フリッカー検査
– 唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)濃度
小林,中山, 佐藤,大和,日本大学, 2002
• 従来,ラボにおける人間工学・労働衛生分野の研究分野におけるロバストな疲労計測手法として用いられてきた.
– 大型で高額な検査機器
(コンパクト型でも10kg,50万円)
– 検査監督者が必要
(実験の意義・「ちらつき感」の報告方法を直接
説明,被検査者の積極的な協力が必要)
• 健康管理・日々の勤務管理に用いる場合,
簡易かつ日常的に(「いつでも,どこでも,
だれでも,気軽に」)利用可能でなければ
実用的でない.
• スマートフォン・携帯電話・パソコン・ゲーム機で手軽にフリッカー検査ができれば…(特4406705,特願2007-063274)
従来のフリッカー疲労検査の問題点
日常的に利用できる簡易疲労計測技術開発 従来のフリッカー検査
• 大きく高価な専用装置
• 恣意的に結果の操作が可能
• オフライン
• 検査者と対面して検査
Flicker Health Management System
• アプリ/ソフトをダウンロードするだけ
• 適切なちらつき知覚閾値の計測
• オンラインデータ管理
• 視覚刺激制御技術
• 心理物理課題設計技術
• スマートフォン・ネットワーク
より大規模なグループを対象に
• 必要とされるフィールドで,日常的な疲労状態の計測
• タイムリーで適切なソリューションの提供
• ラボでの研究用途
• 短期間の被験者実験
0.80
0.84
0.88
0.92
0.96
1.00
1.04
12:30 16:30 20:30 0:30 4:30 8:30 12:30
終夜疲労負荷実験中の疲労指標値の変化
水泳
仮眠
標準フリッカー検査装置
開始時点の値で標準化した疲労計測値
時刻 (HH:MM)
日常フリッカー検査システム実現上の課題
• 技術的課題
1. 点滅する視覚刺激の呈示方法
ディスプレイの走査周波数(リフレッシュレート)は固定されていて,
刺激の点滅周波数を連続的に制御するのが困難な汎用ディスプレイ・デバイスで,どのように「ちらつき感」をコントロールするのか?
• 利用形態の変化により新たに発生する課題
2. 利用者が自らフリッカー検査を適切に進めるしくみ
検査者がいない状況では,「ちらつき感」の判断基準や適切な反応方法を直接伝えられない.任意のタイミングで「ちらつきが見えた!」と報告できる被験者の恣意性をいかに排除するのか?
3. 検査結果を適切に管理するしくみ
計測データを自動的に蓄積し,適切な解析を行うしくみが必要
汎用ディスプレイでのちらつき知覚検査技術
• リフレッシュレートが固定された表示デバイスでも,ちらつき知覚を用いた計測を可能にする技術
↓
周波数⇔コントラスト (特4524408号)
• 通常のフリッカー検査(周波数閾値)とは異なる物理量(コントラスト閾値)で計測されたちらつき閾値は,同様に疲労程度を反映するのか?
CFF [Hz]
疲労時
通常
コントラスト
疲労負荷実験による妥当性検証
• コントラスト閾値を用いたフリッカー検査も,従来のフリッカー検査(周波数閾値)と同様に疲労程度を適切に反映する指標となるのか?
0.80
0.82
0.84
0.86
0.88
0.90
0.92
0.94
0.96
0.98
1.00
1.02
1.04
12:30 14:30 16:30 18:30 20:30 22:30 0:30 2:30 4:30 6:30 8:30 10:30 12:30
開始時点の値で正規化した疲労計測値
時刻 (HH:MM)
疲労負荷実験中のフリッカー指標の変化
水泳
仮眠
通常のフリッカー検査
Docomo携帯電話によるフリッカー検査PCによるフリッカー検査
課題1 まとめ(汎用ディスプレイでのちらつき知覚検査技術)
• リフレッシュレートが固定された表示
デバイスでも,ちらつき知覚を用いた
計測を可能にする方法として,従来の
周波数ではなくコントラストでちらつき
知覚閾値を決定する方法(CCFS).
• コントラスト閾値を用いたちらつき知覚
検査は,日単位での疲労蓄積を,従来
の周波数閾値によるフリッカー検査と同
等の精度で評価できる.
• 「疲労自覚症状しらべ(日本産業衛生学会作成のアンケート)」やVisual
Analog Scale (VAS)などの,疲労度の主観評価結果とも高い相関をもつ.
y = 1.167x - 0.174
R² = 0.7643
p=0.0077
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
0.7 0.8 0.9 1.0 1.1
コントラスト閾値による(提案する)フリッカ検査結果(規格化された値)
周波数閾値による
(従来の
)フリッ
カ検査結果
(規格化された値
)
利用者が単独で検査を適切に進めるしくみ
• 主な問題点
監督者なしで適切な疲労計測を行うには,
– 「ちらつき感」の判断基準や反応方法を,利用者が自ら確立する必要がある.
– 任意のタイミングで「ちらつきが見えた!」と報告できる被験者の恣意性を排除する必要がある.
• 解決方法
– できるだけ被験者の主観的な「ちらつき感」の報告に基づかない検査
– 心理物理学的に「より正しい」知覚閾値の決定方法の採用
恣意性を排除した知覚閾値の決定
• ちらつき検査を知覚・応答課題化 (特願2009-209223)
・・・(正解)
被験者の反応
・・・ (誤答)
被験者の反応
コントラスト差減少(-10)↓
・・・ (正答)
被験者の反応
コントラスト差増加(+4)↑
コントラスト差減少(-3)↓
収束するまで繰り返し
?
Bb-10Bb+10
輝度Bb
輝度Bb Bb+5
Bb-5
輝度Bb Bb+7 Bb-7
恣意性を排除した知覚閾値の決定
Button
press
x1
Button
press
x2
Button
press
x3
Button
press
x4
Button
press
x5
f = (ΣiN
xi)/N
時刻
従来のフリッカー検査におけるちらつき閾値決定方法
新開発フリッカー検査におけるちらつき閾値決定方法 Key
responses
正 正 正 正 正 誤 誤 正 正 正 正 時刻
f
88
90
92
94
96
98
100
102
104
106
108
2:30 8:30 14:30
従来のフリッカー
新方式
仮眠
時刻
データ計測開始時点で規格化した計測値 [%]
疲労不可実験での検証
課題2 まとめ(知覚・応答課題によるちらつき閾値の決定)
• 従来の方法では主観的な報告のみを求めるため,ちらつきを知覚しているかどうかに関わらず,被験者が恣意的にちらつき知覚閾値を決めることができる・
• 我々が提案する方式では真のちらつき閾値より低い値を結果として出力することはできない(疲れているのに「疲れていない」と答えることはできない).
• 従来の方法では,明らかに見えない周波数/コントラスト差を見続ける時間が長かったのに対し,本方式では閾値前後のちらつき知覚を,より高い解像度で,より短時間に調べることができる.
課題3: 検査結果を適切に管理するしくみ
• 携帯情報端末・パソコン等のネットワーク親和性を有効に利用し,ネットワーク上のデータベースに日常的に得られる計測結果を蓄積し,随時参照できる
プロトタイプシステム.
日常生活環境におけるフリッカー検査
疲労計測データベース(疲労計測データ蓄積,検索,健康管理情報の出力)
ネットワーク
疲労計測履歴・警告の表示
疲労計測履歴の参照と表示
……This is an example of s tress management system
恣意性のない
フリッカー検査アルゴリズム
疲労度推移の解析・異常検出データマイニング技術
長期疲労計測データ蓄積実験
まとめ
• 視覚刺激のコントラスト制御(Contrast-Controlled Flicker
Stimuli: CCFS)による,汎用ディスプレイ・デバイス上での「ちらつき」知覚制御
→ 精神的疲労計測にも利用可能
• 強制選択知覚・応答課題(Forced-Choice CCFS)によるちらつき閾値の決定法
→ 被験者の恣意性を排除.安定した「ちらつき」知覚閾値の決定
• スマートフォン・ネットワークを用いた,疲労計測データの蓄積・管理
→ 日常生活中に自律的に計測データを管理・参照可能
想定される用途
• 運輸業など疲労蓄積が重大な結果をまねく業種での利用
– 始業点検時や,出先での疲労チェックも可
– データを集中管理し,きめ細かい勤務管理
• 大規模事業所などでの個人健康管理と,グループ単位での負荷管理
– 個人の疲労データ履歴のみならず,グループごとの集計機能等で,業務の全体効率化
• その他
– 「疲労状態を日常生活中に計測したい」という様々なニーズに対応できる可能性
適用範囲拡大のための研究開発項目
• 日常的疲労計測技術としての可能性の開拓
– 日常生活場面で長期的に疲労の定量評価が可能な技術はこれまでになかった.
– 数週間・数か月単位の日常疲労評価データから,どのような情報が抽出できるのか?
• ライフイベント等とともに長期疲労計測データの蓄積
• データマイニング技術と組み合わせた健康維持・管理システムの開発
• 実用化に向けた検討
– システムのモジュール化
– フリッカーヘルスマネジメント(株) –産総研技術移転ベンチャー
– これまでに開発された項目の実用化を図る.
本技術に関する知的財産権
• 特許第4798455号「精神的疲労の測定機能を有する携帯端末装置及びそのプログラム」, 産業技術総合研究所,原田,岩木
• 特願2007-148747 「精神的疲労の検出方法、装置及びプログラム」,産業技術総合研究所,原田,岩木 (2011/11/29登録査定)
• 特許第4406705号「精神的疲労の測定機能を有する携帯端末装置、そのプログラムおよびサーバコンピュータ」, 産業技術総合研究所,原田,岩木
• 特許第4524408号「ちらつきの閾値の測定装置及び測定プログラム」 ,産業技術総合研究所,岩木,原田
• 特願2009-209223「ちらつきの知覚閾値の測定装置及び測定方法」,産業技術総合研究所,岩木,原田
産学連携の経歴
・ 2002-2004 米国Health care provider/病院と脳機能計測技術に関する共同研究実施
・ 2002-2006 バイオ系ベンチャー企業・教育関連企業との認知機能計測に関する共同研究実施
・ 2010- 大手医療機器メーカとの脳機能計測技術に関する共同研究実施中
・ 2011- 大手車載機器メーカとの認知機能と脳機能評価技術を用いた共同研究実施中
・ 2010- 産総研技術移転ベンチャー「フリッカーヘルスマネジメント(株)」設立 中堅健康サービスプロバイダ,中堅検査機器メーカ,中堅運輸事業者等とNDAベースの事業化検討
お問い合わせ先
産業技術総合研究所 イノベーション推進本部
イノベーションコーディネータ 小高 正人
TEL 029-861-6683
Fax 029-862-6048
E-mail [email protected]