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BSC (バイオロ 活用した植生 日本工営株式会社 社会システム事業部 環境部 加藤靖広 はじめに ここで紹介する BSC (バイオ ロジカル・ソイル・クラスト)を 活用した植生の自然侵入促進工法 (以下、 BSC 工法とする)とは、 土壌表面に藻類を散布することで、 侵食防止効果を有する BSC の形 成を促し、早期に基盤を安定させ ることで、植生の侵入を促進しよ うとするものである。なお、本工 法は国立研究開発法人土木研究所 と日本工営(株)の共同開発技術 である。 もともと、植生遷移において、 BSC の形成はそのス ートとな る自然現象の一つとして知られてい る。従って、 BSC を構成する土 壌藻類の散布 により、自然状態で は時聞がかかる BSC の形成を早 め、それにより植生遷移を促進さ せることが、本工法のねらいである。 なお、一般的な工事等で用いられ ている種子吹付工は、草本類の種子 を散布することで、同様な内容を 行おうとするものであるが、調達 環境やコスト面から外来種の種子が 広く用いられており、自然公園等 では使えない場合が多い等の課題が あった。一方、既往の自然侵入促進 工法は、施工直 後から安定 した構 造ができるものの、施工の手間やコ スト面から、手軽にかつタイムリー に利用することは困難であった。 BSC 工法は、種子吹付工のよ うな手軽さで行える自然侵入促進 工法という 、上記の課題に対応す る新たな特性をもった工法であり、 これまでに実施できなかった個 所・条件下での緑化や植生復元へ の適用等が期待できるものである。 BSC (バイオ ソイル・クラ BSC とは、糸状菌類や藻類 地衣類および苔などが地 粒子や土塊を絡めて形成する ト状の土 壌微生物の コロニー(集 合体)のことを指す。 BSC 崩壊地などにおける自然植生の遷 移初期や更新後の農地など、どの ような場所においても時間経過と 共に観察される一般的な事象であ り、自然植生や農作物へ与える影 響は特にないと考えられる。 近年、主に南西島興域での赤土 等流出防止に係る研究の進展に伴 BSC が高い侵食防止効果を 有していることが確認・検証され ており、侵食防止工法等としての 応用が検討されている。 工法の特徴 施工方法は、基本的に BSC 材等を適用個所に散布するのみで あり、従来の自然侵入促進工と比 較して安価で簡単に実施できる特 徴がある。現在、藻類メーカーの 協力により、利用する土壌藻類種 の大量培養と資材化が可能となっ ており、種 子吹付工用 の散布機器 を用いて利 用する、散 布する他の 資材・種子 に混ぜて 利用する、 現場条件が く機材 の使用が困 難な場合に は手撒きに より散布す るなど、適 用個所や施工条件にあわせ、さま ざまな散布方法を用いて実施でき るようになってきている。 BSC 資材の散布後は、通常、 二週間 j 一カ月程度で 、散布した 藻類が活性を取り戻して増殖が活 発になり、 BSC が形成される。 その後、植生の侵入が進んでいく。 ただし、既往の緑化工と同様に、 適用個所の環境条件(乾湿、土性 等)、その他局所的な要因等によ り、 BSC の形成状況は影響され、 それにより植生の侵入状況も変化 する。天候や基盤環境等の状況に BSC による植生の自然侵入促進効果(イメージ) 様羽生化した状費量 ーで f \+ E ・江主 BSC なし 表土と共に、浬土猶予‘ 〈質生復元には時慣がかかる〉 No.758/NOVEMBER.20 l 7 25 国立公園

活用した植生の自然侵入促進工法 BSC - NECTABSC (バイオロジカル・ソイル・クラスト)を 活用した植生の自然侵入促進工法 日本工営株式会社

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Page 1: 活用した植生の自然侵入促進工法 BSC - NECTABSC (バイオロジカル・ソイル・クラスト)を 活用した植生の自然侵入促進工法 日本工営株式会社

BSC(バイオロジカル・ソイル・クラスト)を

活用した植生の自然侵入促進工法

日本工営株式会社

社会システム事業部

環境部

はじめに

ここで紹介する

BSC(バイオ

ロジカル・ソイル・クラスト)を

活用した植生の自然侵入促進工法

(以下、

BSC工法とする)とは、

土壌表面に藻類を散布することで、

侵食防止効果を有する

BSCの形

成を促し、早期に基盤を安定させ

ることで、植生の侵入を促進しよ

うとするものである。なお、本工

法は国立研究開発法人土木研究所

と日本工営(株)の共同開発技術

である。

もともと、植生遷移において、

BSCの形成はそのスタートとな

る自然現象の一つとして知られてい

る。従って、

BSCを構成する土

壌藻類の散布により、自然状態で

は時聞がかかる

BSCの形成を早

め、それにより植生遷移を促進さ

せることが、本工法のねらいである。

なお、一般的な工事等で用いられ

ている種子吹付工は、草本類の種子

を散布することで、同様な内容を

行おうとするものであるが、調達

環境やコスト面から外来種の種子が

広く用いられており、自然公園等

では使えない場合が多い等の課題が

あった。一方、既往の自然侵入促進

工法は、施工直後から安定した構

造ができるものの、施工の手間やコ

スト面から、手軽にかつタイムリー

に利用することは困難であった。

BSC工法は、種子吹付工のよ

うな手軽さで行える自然侵入促進

工法という、上記の課題に対応す

る新たな特性をもった工法であり、

これまでに実施できなかった個

所・条件下での緑化や植生復元へ

の適用等が期待できるものである。

BSC(バイオロジカル・

ソイル・クラスト)とは

BSCとは、糸状菌類や藻類、

地衣類および苔などが地表面の土

粒子や土塊を絡めて形成するシー

ト状の土壌微生物の

コロニー(集

合体)のことを指す。

BSCは、

崩壊地などにおける自然植生の遷

移初期や更新後の農地など、どの

ような場所においても時間経過と

共に観察される一般的な事象であ

り、自然植生や農作物へ与える影

響は特にないと考えられる。

近年、主に南西島興域での赤土

等流出防止に係る研究の進展に伴

い、

BSCが高い侵食防止効果を

有していることが確認・検証され

ており、侵食防止工法等としての

応用が検討されている。

工法の特徴

施工方法は、基本的に

BSC資

材等を適用個所に散布するのみで

あり、従来の自然侵入促進工と比

較して安価で簡単に実施できる特

徴がある。現在、藻類メーカーの

協力により、利用する土壌藻類種

の大量培養と資材化が可能となっ

ており、種

子吹付工用

の散布機器

を用いて利

用する、散

布する他の

資材・種子

等に混ぜて

利用する、

現場条件が

厳しく機材

の使用が困

難な場合に

は手撒きに

より散布す

るなど、適

用個所や施工条件にあわせ、さま

ざまな散布方法を用いて実施でき

るようになってきている。

BSC資材の散布後は、通常、

二週間j

一カ月程度で、散布した

藻類が活性を取り戻して増殖が活

発になり、

BSCが形成される。

その後、植生の侵入が進んでいく。

ただし、既往の緑化工と同様に、

適用個所の環境条件(乾湿、土性

等)、その他局所的な要因等によ

り、

BSCの形成状況は影響され、

それにより植生の侵入状況も変化

する。天候や基盤環境等の状況に

BSCによる植生の自然侵入促進効果(イメ ージ)

様羽生化した状費量{働~・工事等による荒廃害事}

ーで f\+

令E・江主BSCなし

表土と共に、浬土猶予‘飛来種子等も~失

〈質生復元には時慣がかかる〉

~

No.758/NOVEMBER.20 l 7 25 国立公園

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よっては、施工後に追肥や潅水が

必要になる場合もある。

BSCに期待される

効果等

(こ

BSCに期待される効果

崩壊裸地等において、

BSCの

形成に伴い侵食が防止されると、

土壌表層の撹乱・流失が抑制され、

表土環境が安定する。それにより、

埋土種子や飛来種子の流失が減少

し、生育が進むと考えられる。

(ニ)安全性など

BSCを早期形成させるために用

いている土壌藻類は、森林・農地に

限らず、極地を含め世界中のあら

ゆる場所に元々在来種として存在し

ているものである(

ng目。七色Sロ

名RWω)0

また、雌雄がなく、クロ

ーン増殖により増えることから、遺

伝子撹乱等のリスクがない。なお、

健康毒性などの報告はなく、故意

に多量に摂取する等をしない限り、

通常の利用において安全性には特に

問題はないものと考えられる。

施工実績など

BSCを活用した侵食防止およ

ぴ自然侵入促進工の実績としては、

沖縄の自然公園(特別地域)内に

ある自然崩壊した林道法面、海岸

斜面への適用例や、同じく沖縄の

工事で荒れた渓流斜面への適用例、

道路造成法面への適用例等があげ

られる。これらの施工例では、い

ずれにおいても施工後早期の自然

植生の侵入が確認されており、早

いところでは一カ月程度で自生種

の芽が出た例もある。

なお、沖縄県の自然公園内に生

じた自然崩壊斜面(海岸斜面)に

適用した例では、本工法であれば、

在来種を用いることや仮設等によ

る伐採・改変もなく、特に自然改

変等がないため、管理者に確認し

たところ許可手続きが不要であった。

従って、必要な個所に比較的迅速

に対応することができ、近傍に位

置するモズク養殖場への土砂流出に

よる影響を軽減することができた。

現在、寒冷地であることから工

事期間が短く、緑化等による融雪

期の侵食防止が難しい北海道の農

地造成法面への適用について試験

施工を実施している。本年七月に

予備試験を実施したところ、二週

間程度でBSCが形成され、

一カ月

半後には草本類が繁茂し、植生の

侵入が少ない未施工個所と比べて

明瞭な違い

が確認され

た。寒冷地

の農地では、

春季(融雪

期)の法面

の土壌侵食

により用水

路や水田に

磯等が落下

する等の課

題があり、

引き続き実

工事をにら

んだ試験施

工を実施し

ていく予定

施工状況(崩壊斜面への適用例:沖縄県)

である。

おわりに

ここで紹介したとおり、

BSC

を活用した植生の自然侵入促進工

法(

BSC工法)は、従来の自然

侵入促進工法よりも手軽にかつタ

イムリーに利用できるものであり、

自然公園内など、環境保全への配

慮が特に必要な区域に適した工法

であると考える。

また、誰にでも実施できる簡単

な工法であることから、今後は、

各地での適用事例を増やし、より

多様な地域、多様な条件でも活用

できるように知見を蓄積していく

と共に、従来工法との組み合わせ

による相乗効果等についても検討

していきたいと考えている。

加藤靖広・かとうやすひろ

日本工営株式会社社会システム事業部

環境部課長。富山県出身で、名古屋大

学大学院生命農学研究科を修了し、二

OO二年に日本工営株式会社に入社。

入社以降、主に、環境アセスメントや

環境調査、自然環境保全等に関する業

務に携わる。

・工法に関するお問い合わせ先

O一ニll

一二一二二八ー八三八三(日本工営株式会社

環境部(担当一加藤靖広、鈴木淳己))

No.758/NOVEMBER.20 l 7 26 国立公園