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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title �FGF-2Author(s) �, Journal �, 111(4): 336-338 URL http://hdl.handle.net/10130/2575 Right

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周組織再

生療法

Author(s) 澁川, 義宏

Journal 歯科学報, 111(4): 336-338

URL http://hdl.handle.net/10130/2575

Right

Page 2: 塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周 …ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/2575/1/111_336.pdfFGF-2の歯周組織再生効果は,現在,多施設参加

―――― カラーアトラス ――――

塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周組織再生療法

しぶ かわ よし ひろ

澁 川 義 宏

東京歯科大学口腔健康臨床科学講座

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カラーアトラスの解説

1.歯周組織再生治療におけるサイトカイン療法

サイトカインとは,細胞間の情報伝達において局所的仲介物質として作用し,細胞の増殖・分化などの制御に関連する種々のシグナルを伝達するタンパクである。近年,歯周組織再生療法において,歯周病により破壊された歯周組織欠損部への歯根膜細胞の遊走や,細胞増殖および硬組織形成細胞への分化の過程を,ある種サイトカインを局所投与することによって活性化し,歯周組織再生を積極的に促進しようとするサイトカイン療法の確立が試みられている。現在,研究が進められているサイトカインとして,主に,1)血管新生や細胞増殖を期待する,①血小板由来増殖因子(platelet-derived growth fac-tor : PDGF),②塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fi-broblast growth factor : FGF-2),③脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor : BD-NF),2)骨形成能を期待する,①骨形成タンパク(bone morphogenetic protein-2 : BMP-2),などが報告されている。

2.塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周組織再生療法

FGFは,ウシ下垂体から線維芽細胞の増殖を著しく促進するタンパクとして発見され,現在,FGF-1~FGF-23 からなるファミリーを形成している。FGF-2 は,線維芽細胞の増殖を促進するのみならず,血管内皮細胞,神経外胚葉系細胞,骨芽細胞,軟骨細胞,血管平滑筋細胞,上皮細胞などの増殖を誘導することが知られている。これまで,動物実験1)

や臨床応用2)において,2壁性または3壁性骨欠損にFGF-2 を局所投与することによって,統計学的に有意な歯周組織再生が誘導されることが報告されている。そのメカニズムとして,培養ヒト歯根膜由来細胞をFGF-2 で刺激すると分化能を保持したまま増殖を促進することや,強力な血管新生促進作用を有すること,さらに,創傷治癒の促進に重要な高分子型ヒアルロン酸の産生を促進することで歯周組織欠損部に再生に適した環境をつくり,効果的な歯周組織再生を促進するであろうと考えられている。FGF-2 の歯周組織再生効果は,現在,多施設参加の臨床治験(第3相)が展開されている。

3.垂直性骨欠損に FGF-2 を応用した慢性歯周炎の1症例

患者は53歳,女性。下顎左側大臼歯の咬合痛を主訴として,東京歯科大学千葉病院保存科を受診した。初診時,�6部に歯肉の発赤,腫脹がみられ,動揺は1度であった(図1A,B)。口腔清掃状態は不良で歯頸部には歯垢,歯石の沈着が認められた。�6と�7間の接触状態は不良で,�6遠心部の頬,舌側には9mmの歯周ポケットが認められた。X線写真では垂直性の骨吸収像が認められた(図1C)。検査結果から,慢性歯周炎と診断し,歯周基本治療(口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,感染根管治療)を行った。さらに再評価後,�6遠心部に歯周外科治療を行うこととした。�6遠心部の垂直性骨欠損の処置に際しては,インフォームドコンセントを得たうえで, FGF-2 を局所投与した(臨床治験)。歯周外科処置前の�6のアタッチメントレベルは,頬側および舌側の遠心部で8mm認められ,プロービング時の出血(BOP)(+)であった。浸潤麻酔後に歯肉弁を剥離すると,�6遠心部に,2壁性の垂直性骨欠損(骨欠損の深さ4mm)が認められた(図2A)。骨欠損部の不良肉芽組織の除去および歯根面のスケーリング・ルートプレーニング後,FGF-2を塗布して歯肉弁を縫合した(図2B)。術後3か月では,�6のアタッチメントレベルは,

頬,舌側遠心部で5mm認められたが,術後6カ月,術後9か月では頬,舌側遠心部で4mmとなり,術前より4mmのアタッチメントゲインが得られた。X線写真では,術後3か月で�6遠心部に骨様の不透過像が認められた。さらに,術後9か月,術後1年6カ月では�6遠心部の骨様の不透過像が亢進し,歯槽硬線の明瞭化が認められた。現在,術後2年以上経過したが,異常所見は認められていない。以上の結果から,2壁性の垂直性骨欠損にFGF

-2を用いた結果,著明な歯周組織再生が観察され,その有効性が示唆された。(本臨床治験は,科研製薬株式会社の依頼を受け,GCPを遵守して実施された。)

文 献1)Takayama S, Murakami S, Shimabukuro Y, KitamuraM, Okada H. Periodontal regeneration by FGF-2(bFGF)in primate models. J Dent Res2001,80⑿:2075~2079.2)Kitamura M and Murakami S et al. FGF-2 stimulatesperiodontal regeneration : Results of a multi-center ran-domized clinical trial. J Dent Res2011,90⑴:35~40.

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塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周組織再生療法

澁 川 義 宏東京歯科大学口腔健康臨床科学講座

(図1~3 水野剛志先生のご厚意による)

図1 初診時の口腔内写真とX線写真下顎左側臼歯部の舌側歯頚部には歯垢,歯石が沈着し,歯肉の発赤,腫脹がみられる(A,B)。�6と�7間の接触状態は不良で,�6遠心部には垂直性の骨吸収像(矢印)が認められる。A:頬側面観,B:舌側面観,C:X線写真

図2 歯周外科手術中の口腔内写真�6遠心部には,2壁性の垂直性骨欠損(矢印)が認められる(A)。同骨欠損部にFGF-2(透明な液体)を塗布(B)。

FGF-2 塗布前 術後3カ月 術後9カ月 術後1年6カ月図3 FGF-2 塗布後の経時的変化(X線写真)

FGF-2 塗布前(A)と比較して,術後3か月(B)で�6遠心部に骨様の不透過像が認められる。さらに,術後9か月(C),術後1年6カ月(D)で骨様の不透過像が亢進し,歯槽硬線の明瞭化が認められる。