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2015年度 IBCグラント研究奨励金 報告会
孤発性筋萎縮性側索硬化症の病因に基づいた特異治療法の確立
中央大学駿河台記念館 610教室 2016年11月6日
山下 雄也1、赤松 恵1、寺本 さやか1、村松 慎一2、3 相澤 仁志4 郭 伸1、5
1. 東京大学大学院医学系研究科2. 自治医科大学3. 東京大学医科学研究所4. 東京医科大学5. 国際医療福祉大学 臨床医学研究センター
ADAR2低下が本当に運動ニューロン死の原因?
ALSでは、AMPA受容体のサブタイプのGluA2のRNA編集↓
なぜRNA編集が低下?
ADAR2(RNA編集酵素)↓
(1999 Ann. Neurol, 2004 Nature, 2012 Neurobiol Dis)
(2010 Acta Neuropathol, 2012 Neurobiol Dis)
・ADAR2遺伝子を運動ニューロンで欠損させたマウス(AR2)を作成
ADAR2コンディショナルノックアウトマウス(AR2)
AR2 マウス
• GluA2のRNA編集↓• 運動機能↓• ADAR2欠損した運動ニューロンで変性・脱落
ADAR2低下が運動ニューロン死の原因。
孤発性ALSとADAR2活性・GluA2 RNA編集
• ADAR2↓• GluA2のRNA編集↓• TDP-43病理
ALSでは
ADAR2
pTDP-43
ALS患者脊髄運動ニューロンのTDP-43病理
ADAR2とTDP-43病理は関係がありそう!異常:TDP-43病理あり:ADAR2なし( )正常:TDP-43病理なし:ADAR2あり( )
AR2マウスを用いてADAR2とTDP-43の関係について調べた
・AR2マウスでTDP-43病理は?
ADAR2コンディショナルノックアウトマウス(AR2)
AR2 マウス
• 運動ニューロン死の速度(半年くらいで9割の細胞が死ぬ)• 運動ニューロン選択性(脊髄の運動ニューロン細胞だけが死ぬ)• TDP-43病理
WT マウス AR2 マウス 孤発性 ALS
TDP-43
AR2マウスはALSにそっくり
マウス脊髄運動ニューロン
1. Ca2+ 流入2. 細胞質のカルパイン活性化3. TDP-43切断4. 断片化5. 凝集しやすい6. 塊を作る7. 封入体8. TDP-43巻き込まれる9. TDP-43病理
TDP-43
カルパイン
Ca2+
TDP-43切断( )N C
Ca2+
カルパイン
封入体核
TDP-43
TDP-43病理
TDP-43病理:ALSの病理マーカー
AR2マウスにTDP-43病理が見られるALSのモデル動物として妥当!!
カルパイン(蛋白質分解酵素)
異常なAMPA受容体(未編集GluA2)
ADAR2 発現低下
GluA2 Q/R 部位 RNA編集↓
Ca2+透過性 AMPA 受容体の発現↑
過剰Ca2+流入↑
運動ニューロン死
カルパインの活性化↑
TDP-43を切断し、易凝集性の断片↑
TDP-43病理
ADAR2 発現低下から細胞死に至るカスケード
AR2マウスの解析から分かったこと・細胞死に至るカスケード(流れ)・AR2マウスがALSの病態を反映したモデルマウス
治療ができるのでは?
ADAR2 発現低下
GluA2 Q/R 部位 RNA編集↓
Ca2+透過性 AMPA 受容体の発現↑
過剰Ca2+流入↑
運動ニューロン死
ALS治療法のターゲット(標的)
カルパインの活性化↑
TDP-43を切断し、易凝集性の断片↑
TDP-43病理
我々の分子カスケードに基づく治療戦略
①低下しているADAR2発現を上げる。
②ペランパネルを用いてカルシウムイオンの流入を抑制する。(IBCグラントによるサポート)
①
②
2.アデノ随伴ウイルス(AAV)による治療法の確立①低下しているADAR2発現を上げる。
ADAR2 発現低下
GluA2 Q/R 部位 RNA編集↓
Ca2+透過性 AMPA 受容体の発現↑
過剰Ca2+流入↑
運動ニューロン死
カルパインの活性化↑
TDP-43を切断し、易凝集性の断片↑
TDP-43病理
ADAR2 発現低下から細胞死に至るカスケード
アデノ随伴ウイルス(AAV:運び屋)を用いてADAR2遺伝子の発現を上げた。
AAV9は脊髄運動ニューロンに送達された
遺伝子をのせたAAV(運び屋)をマウスに注射
脊髄の神経細胞で遺伝子が発現(緑色に光った)
成功
AR2マウスにAAV-ADAR2遺伝子を注射した。
コントロール AAV-GFP
GFP/TO-PRO-3BBB(血液脳関門)の通過は困難!
AAV9-hADAR2単回投与 AAV9-hADAR2
AAV9 AAV9
SalineSaline
AAV9-hADAR2投与による進行性の運動機能低下の阻止
AR2マウスの運動機能低下を阻止できた。
AAV-ADAR2投与AR2マウス
コントロールAR2マウス
AR2マウスへのAAV9-ADAR2投与により
•生理機能が回復•運動ニューロン死を阻止•運動ニューロンの生化学的機能回復
• ADAR2の発現量が上昇• GluA2のRNA編集の低下が回復• TDP-43病理が回復
• 孤発性ALSの分子病態モデル動物であるAR2マウスを用いて、 AAV9-hADAR2の単回血管内投与により、脊髄運動ニューロンで遺伝子を発現させることに成功し、行動・生理機能の回復、神経細胞変性・細胞死を抑制した。
まとめ
正常化 ADAR2 発現低下
GluA2 Q/R 部位のRNA編集↓
Ca2透過性 AMPA 受容体の発現↑
過剰Ca2+流入↑
カルパインの活性化↑
TDP-43を切断し、易凝集性の断片↑
TDP-43病理
運動ニューロン死
3.ペランパネルによる治療法の確立②ペランパネルを用いてカルシウムイオン流入を抑制する(IBCグラントによる成果)
ADAR2 発現低下
GluA2 Q/R 部位 RNA編集↓
Ca2+透過性 AMPA 受容体の発現↑
過剰Ca2+流入↑
運動ニューロン死
ALS治療法のターゲット(標的)
非競合的AMPA受容体アンタゴニスト(ペランパネル)
カルパインの活性化↑
TDP-43を切断し、易凝集性の断片↑
TDP-43病理
ADAR2 発現低下から細胞死に至るカスケード
AAV-ADAR2の遺伝子治療
• 高選択的・非競合AMPA受容体アンタゴニスト→日本で抗てんかん薬として承認(2016年6月)
• ALS臨床試験;AMPA受容体アンタゴニスト- talampanel→phase II は良好、phaseⅢでnegative results (May 2010)
• talampanelのT1/2=3~4 hrs、perampanelのT1/2=105 hrs→perampanel は半減期が長い⇒ALS治療薬として有望
Ref. Rogawski MA, Epilepsy Curr. 2011
Perampanel(ペランパネル)
【薬剤】ペランパネル⇒経口投与 (1回/日)
【投与期間】①短期投与(14日): 3.3, 6.6, 13.2, 20 mg/kg/day (用量の設定)②長期投与(90日): 13.2(4日間)-20 mg/kg/day (治療効果の評価)
【評価項目】①運動機能 (ローターロッド、グリップ力)②脊髄前角細胞数③TDP-43の細胞内局在
方法
TDP-43の細胞内局在
absent
ペランパネル 14日投与
• TDP-43陽性細胞数が増加(用量依存的)• TDP-43 の局在が回復(核に染色)
ペランパネル 90日投与 (20 mg/kg/day)
効果があった
ペランパネル 90日投与 (20 mg/kg/day) ― 行動変化
ローターロッド解析 グリップパワー解析
# #
0 4 8 12-4 0 4 8 12-4
AR2マウスの運動機能低下を阻止できた。
ペランパネル投与AR2マウス
コントロールAR2マウス
Perampanel 90日投与 ― TDP-43脊髄前角の大型ニューロン(AHC)内局在
脊髄のTDP-43凝集体の改善 TDP-43の運動ニューロン内局在
TD
P-4
3T
O-P
RO
-3
非投与群 ペランパネル
TDP-43陽性運動ニューロン数
運動ニューロンの直径
• 脊髄運動ニューロン数の減少を阻止• 運動ニューロンのサイズ(大きさ)を回復• TDP-43病理が回復
AR2マウスへのペランパネル 90日投与 (20 mg/kg/day)
• AMPA受容体アンタゴニストペランパネルは、AR2マウスのALS症状(行動変化・前角細胞数・TDP-43の前角細胞内局在)を改善させた。
• 孤発性ALSがこのメカニズムで発症しているとすれば、有効な治療法として期待される。
まとめ
4.今後の展望臨床応用
臨床応用の準備状況とハードル
遺伝子治療 ペランパネル
製剤の安全性OK認可済み(但し他疾患(てんかん))
適用拡大臨床試験安全性OK(但しALS患者での安全性)有効性の確認資金必要(億円単位)公的な承認
PMDA(医薬品医療機器総合機構)IRB(治験審査委員会)
他疾患での臨床試験承認されたもの・脂質代謝異常症に関する遺伝子治療薬・がん治療の遺伝子治療薬・下肢虚血の遺伝子治療薬
中枢神経の病気に対するものなし
前臨床試験安全性の確認 製剤の製造過程での混入物
遺伝子自体有効性の確認 遺伝子自体
臨床試験を行うには?資金(製造と臨床試験(十億円単位))➡莫大に必要。
製剤準備前臨床試験
資金
PMDA(医薬品医療機器総合機構)IRB(治験審査委員会)臨床試験
準備状況と時間シェーマ
遺伝子治療 ペランパネル
資金不足➡(公的な競合的研究資金申請中)
(2017年前半)(2017年I/II相臨床試験開始)遺伝子治療研究所
2015年度 IBCグラント研究奨励金へのお礼
本研究をご援助頂きました日本ALS協会、
関係者の方々、ならびにご支援頂きましたALS患者の皆様、ご家族の皆様に深く感謝いたします。