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湧水生態系の学習ツールの開発と それを活用した湧水学習会の開催 平成 21 年 3 月 社団法人 日本の水をきれいにする会 本事業は河川整備基金の助成を受けて実施しました。

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湧水生態系の学習ツールの開発と

それを活用した湧水学習会の開催

報 告 書

平成 21 年 3 月

社団法人 日本の水をきれいにする会

本事業は河川整備基金の助成を受けて実施しました。

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目 次

Contents

第 1 章 事業概要.......................................................................................- 1 -

1.1. 事業の背景と目的......................................................................................................................- 1 -

1.2. 内容 ...................................................................................................................................................- 1 -

(1) 既存情報の整理................................................................................................................................................. - 1 -

(2) 湧水生態系に関する調査研究.................................................................................................................... - 1 -

(3) 学習ツール検討と学習会の試行............................................................................................................... - 1 -

第 2 章 既存情報の整理......................................................................- 2 -

2.1. 既存資料・文献...........................................................................................................................- 2 -

(1) 既存資料の検索................................................................................................................................................. - 2 -

(2) 一般図書................................................................................................................................................................ - 2 -

(3) 学術文献................................................................................................................................................................ - 4 -

2.2. 有識者への聞き取り.................................................................................................................- 5 -

(1) 聞き取り対象有識者 ....................................................................................................................................... - 5 -

(2) 聞き取り結果...................................................................................................................................................... - 5 -

2.3. 湧水の成因別タイプ分け .......................................................................................................- 7 -

(1) 湧水とは何か?................................................................................................................................................. - 7 -

(2) 湧水の成因別タイプ分け.............................................................................................................................. - 7 -

2.4. 湧水およびその周辺に特徴的な生物...............................................................................- 9 -

(1) 湧水に特徴的な生物の抽出......................................................................................................................... - 9 -

(2) 湧水に特徴的な生物とその生態............................................................................................................... - 9 -

2.5. 湧水およびその周辺に成立している生態系の特徴.............................................. - 11 -

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第 3 章 湧水生態系に関する調査研究..................................... - 12 -

3.1. 湧水生態系を構成する要素の抽出................................................................................ - 12 -

3.2. 構成要素の相互のかかわりについて........................................................................... - 13 -

3.3. 湧水環境の特徴と意義 ........................................................................................................ - 13 -

第 4 章 学習ツール検討と学習会の試行................................... - 14 -

4.1. 湧水生態系の学習に必要な内容の検討...................................................................... - 14 -

(1) 湧水生態系学習ツール概要......................................................................................................................- 14 -

(2) 柿田川をモデルとしたテキストの作成 .............................................................................................- 16 -

4.2. 学習テキストを用いた学習会の試行........................................................................... - 21 -

(1) 湧水生態系学習会の計画...........................................................................................................................- 21 -

(2) 学習ツール(調査票)の作成.................................................................................................................- 22 -

(3) 学習会の試行...................................................................................................................................................- 24 -

4.3. 参加者へのアンケート結果............................................................................................... - 29 -

4.4. 学習ツール作成に関する課題の抽出........................................................................... - 30 -

第 5 章 今後の展開と課題 ............................................................... - 31 -

5.1. 今後の展開................................................................................................................................. - 31 -

5.2. 今後の課題................................................................................................................................. - 31 -

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第1章 事業概要

11..11.. 事事業業のの背背景景とと目目的的

湧水は水循環の源であり、湧水地周辺の生態系と共に湧水生態系として保全していくこ

とが重要である。行政でも湧水保全フォーラム支援や新名水百選の選定等湧水自体の保全

に力を入れはじめている。しかし、湧水は歴史的に生活における水利用と深く結びついて

おり、その保全活動は水量および水質の維持・保全を目的にしたものが大半であり、湧水

および湧水によって作られる環境とそこに生息する生物との関係に着目し、生物生息環境

としての湧水環境を保全する活動は多くない。また、同時に湧水生態系とは何かやその重

要性等の整理、また湧水生態系保全のための普及啓発(学習)ツールの開発はなされてい

ない。 そこで、本事業ではまず、湧水の生態系あるいは生物生息環境の視点から、既存資料や

公開されている情報等を収集・整理し、湧水生態系の構成要素や相互のかかわりについて

の調査を行った。 次に、児童・生徒に、生態系や生物生息環境の視点からみた「湧水」の機能や重要性に

対する理解促進を図ることを目的として、必要な環境調査項目や観察の注意事項などの抽

出を行い、湧水の調査や観察を行う際の学習ツールの作成を行った。さらに、このツール

を利用して湧水における学習会を試行し、ツール向上のための課題の抽出を行った。

11..22.. 内内容容

(1) 既存情報の整理

・ 湧水と生物、生息環境に関する既存資料の収集および有識者への聞き取り調査

・ 湧水の成因別タイプ分け

・ 湧水およびその周辺に特徴的な生物種のリストアップ

・ 湧水およびその周辺に成立している生態系

(2) 湧水生態系に関する調査研究

・ 湧水生態系を構成する要素の抽出

・ 上記収集資料のうち、代表的な湧水をピックアップし、構成要素の関連図を作成するな

どして相互のかかわりを理解しやすくする。

・ 「湧水」環境の特徴と意義をとりまとめる

(3) 学習ツール検討と学習会の試行

・ 湧水生態系を理解するための学習に必要な内容の検討と学習ツール(テキスト)の作成

・ 学習ツールを用いた学習会の試行(静岡県柿田川)

・ 参加者へのアンケートの実施と学習ツール作成に関する課題の抽出

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第2章 既存情報の整理

22..11.. 既既存存資資料料・・文文献献

(1) 既存資料の検索

湧水および湧水生態系、湧水に生息する生物に関する資料を、一般書籍および学術文献

を対象にリストアップした。

資料検索は、国立国会図書館の所蔵データベースおよび国立情報学研究所の学術文献検

索サイトを用いて「湧水」「生態系」等のキーワードで資料の検索を行った。

(2) 一般図書

湧水に関連する一般図書のリストを表1に示す。

検索の結果、52 冊の一般図書をリストアップした。

リストを概観すると、湧水の現況や保全を扱った図書が多かった。

湧水の「生態系」をテーマとした図書は非常に少なく、体系的に湧水の生態系および生

物群集を扱った図書はみられず、わずかに No.2 でイトヨ、No.38 で生物群集全般を対

象に扱っている程度である。

また、「名水」としての湧水を紹介したガイドブックが多く出版されており、一般の興

味としては「おいしい水」といった、生活と結びついた水辺として湧水が認識されている

ことが伺える。

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表1 湧水に関連する一般図書リスト(国立国会図書館データベースより検索)

No. タイトル

1 生きている野川それから / 鍔山英次[他]. -- 創林社, 2001.6

2 イトヨ保全事業報告書. 平成14年度. -- 大槌町, 2003.3

3 井戸・湧水の今昔. 2. -- 板橋区環境保全課, 2002.2

4 印旙沼周辺湧水中の硝酸態窒素と流域環境との関連 / 今橋,正征,東邦大学. -- 2000-2001

5 失われつつある湿地の保全をめざして. -- 埼玉県, 1995.3

6 雨水を地下に / 渡辺佐一郎. -- セメントジャーナル社, 1991.9

7 柿田川 / 関野真紀子. -- 関野景子, 1993.6

8 柏の自然発見 / 千葉県自然誌資料調査会,「柏の自然発見」編集委員会. -- 柏市, 1993.3

9 関東甲信越名水めぐり. -- 主婦と生活社, 1997.7. -- (ひと目でわかる!図解)

10 九州水物語. -- 西日本新聞社, 2006.7

11 熊本市南東部の嘉島町北甘木湧水群の地下水保全に関する研究 / 荒牧,昭二郎,九州東海大学. -- 2000-2001

12 現代日本の地下水研究. -- 酒井軍治郎教授退官記念事業会, 1970.3

13 国分寺市真姿の池湧水群保存管理計画 / 国分寺市教育委員会ふるさと文化財課. -- 国分寺市教育委員会ふるさと文化財課, 2006.3

14 彩の国湿地・湧水地保全基本計画 / 埼玉県環境生活部自然保護課. -- 埼玉県環境生活部自然保護課, 1998.3

15 座間の湧水 / 座間市文化財保護委員会. -- 座間市教育委員会, 1981.3. -- (座間市文化財調査報告 ; 第6)

16 ザ・湧水 / 滝沢一渓&水汲み愛好会. -- サンドケー出版局, 1996.8

17滋賀県湖西地域における湧水による伝統的集落の空間構成に関する研究 / 石川慎治,濱崎一志[他]. -- 第一住宅建設協会, 2008.4. -- (調査研究報告書)

18 常磐線沿線の湧水 / 福島茂太[他]. -- 崙書房出版, 2000.2

19 全国湧水情報収集調査報告書. 平成18年度. -- イー・アンド・イーソリューションズ, 2007.2

20 全国湧水情報収集調査報告書. -- 日本水環境学会, 2006.3

21多摩丘陵から湧出する地下水の研究 / 及川利男. -- とうきゅう環境浄化財団, 1999.3. -- ((財)とうきゅう環境浄化財団(一般)研究助成 ;no.109)

22 多摩の湧水めぐり / 百瀬千秋. -- けやき出版, 1992.9. -- (けやきブックレット ; 6)

23 大地の恵み、地下水・湧水の恩恵と将来. -- 日本水環境学会, 2004.8. -- (日本水環境学会市民セミナー講演資料集 ; 第13回)

24 地下湧水等活用型・地中熱利用型ヒートアイランド対策評価業務報告書. 平成18年度. -- 環境情報科学センター, 2007.3

25 地下湧水等活用型ヒートアイランド対策推進基礎調査報告書. 平成18年度. -- 九州大学, 2007.3

26 地下湧水等利活用型ヒートアイランド対策推進基礎調査報告書. 平成17年度. -- 環境情報科学センター, 2006.3

27東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査 / 篠田授樹. -- とうきゅう環境浄化財団, 2007.3. -- (研究助成・一般研究 ; v.28no.164)

28 東京の湧水. 平成5年度 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 1995.3

29 東京の湧水. 平成7年度 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 1996.12

30 東京の湧水. 平成8年度 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 1998.3. -- (環境資料 ; 第9110号)

31 東京の湧水. 平成9年度 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 1999.3. -- (環境資料 ; 第10110号)

32 東京の湧水. 平成10年度 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 2000.3. -- (環境資料 ; 第11080号)

33 東京の湧水. 平成11年度 / 東京都環境局自然環境部. -- 東京都環境局, 2001.3. -- (環境資料 ; 第12110号)

34 東京の湧水. 平成12年度 / 東京都環境局自然環境部. -- 東京都環境局, 2002.3. -- (環境資料 ; 第13076号)

35 東京の湧水 / 東京都環境保全局水質保全部. -- 東京都環境保全局, 1991.11. -- (環境保全局関係資料 ; 3-0-水49)

36 東京の湧水 / 平松純宏. -- のんぶる舎, 1998.5

37 東京湧水探訪 / 百瀬千秋. -- けやき出版, 1995.7

38 都市生態系における湧水の生物群集の多様性とその評価に関する研究 / 倉西良一,千葉県立中央博物館. -- [倉西良一], 1996-1998

39 栃木と周辺の渓谷散歩と湧水めぐり / 下野新聞社. -- 下野新聞社, 1999.9

40 どこに消えたか三島の湧水 / 三島自然を守る会編集委員会. -- 三島自然を守る会編集委員会, 2006.11

41 新潟の名水 / 山口聡子[他]. -- 改訂版. -- 新潟日報事業社, 2004.7

42 日本縦断おいしい水の旅 / 南正時. -- グラフ社, 1993.9

43野川流域における湧水保全モデルの開発に関する計画論的研究 / 神谷博. -- とうきゅう環境浄化財団, 2007.3. -- (研究助成・一般研究

; v.28 no.168)

44 日立の湧水 / 環境を創る日立市民会議自然環境部会. -- 日立市, 2002.3

45 ふくしま湧水物語 / ふくしま自治研修センターシンクタンクふくしま. -- 福島民報社, 2003.3

46 富士火山 / 「富士火山」編集委員会(日本火山学会). -- 山梨県環境科学研究所, 2007.3

47 水循環における地下水・湧水の保全 / 東京地下水研究会[他]. -- 信山社サイテック, 2003.11

48 水の旅 / 南正時. -- マガジンハウス, 2000.5. -- (Magazine House mook)

49 名水に会いたい / 南正時. -- グラフ社, 2006.3

50 湧水崖線研究会報告書. -- Tamaらいふ21協会, 1993.12

51 湧水とくらし / 肥田登,吉崎光哉. -- 無明舎出版, 2001.10

52 湧水百選 / 南正時. -- 自由国民社, 1994.7

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(3) 学術文献

湧水生態系に関する学術文献を表2に示す。

検索の結果、33 編の学術文献をリストアップした。

生物の分類群別に文献数の割合をみると、底生動物が 24%と最も多く、ついで細菌が

15%であり、一般にはあまりなじみの少ない、湧水の水中および底質中に住む微小な生

物が研究対象として注目されていることがわかる。水生生物の代表でもある魚類は、ホト

ケドジョウ、イバラトミヨ、トミヨといった冷水を好む特定の種が研究対象となっていた。

水生生物全般や湧水環境を扱った文献には、湧水環境の保護や保全、復元をテーマとし

た文献が多くみられ、湧水が守るべき貴重な環境として認識されていることが伺える。し

かし、これらの対象はあくまで個々の湧水であり、「湧水環境」全般を対象とし「生態系」

の視点から検討した学術論文は収集できなかった。

表2 湧水生態系に関する学術文献リスト(国立情報学研究所より検索)

No. 分類 著者名 論文名 雑誌名 出版者名 出版年 巻 号

1 細菌 永翁 一代 森川 和子 都市湧水・真姿の池の細菌群集の変動とその要因 陸水學雜誌 日本陸水学会 1999 60 22 細菌 加藤 大輔 犀川 政稔 都会の湧水や池に生息する水生不完全菌類 日本菌学会会報 日本菌学会 2006 47 1

3 細菌吾郷 友基 長岡 篤子 永翁一代 木村 浩之 加藤 憲二

PB-61 富士山東麓湧水群における地下水環境と細菌の分布(水圏生態系,ポスターセッションB,(1)ポスター発表会,研究発表会)

日本微生物生態学会講演要旨集 日本微生物生態学会 2006 22

4 細菌高木 紀美子 春日 修 近藤武志 小西 康夫 岩崎 実林 邦茂 谷 佳都

湧水から分離された細菌の性状防菌防黴 = Journal ofantibacterial and antifungalagents

日本防菌防黴学会 2003 31 8

5 細菌長岡 篤子 木村 浩之 加藤憲二

PA-23 柿田川を中心とした富士山湧水の細菌群集(水圏生態系,ポスターセッションA,ポスター発表)

日本微生物生態学会講演要旨集 日本微生物生態学会 2005 21

6 付着藻類 阪部 舞 南雲 保 静岡県柿田川湧水群の付着珪藻植生Diatom : the Japanese journalof diatomology

日本珪藻学会 1997 13

7 付着藻類 墨田 廸彰 渡辺 仁治 石川県能登半島の湧水のDAIpoDiatom : the Japanese journalof diatomology

日本珪藻学会 1999 15

8 付着藻類 墨田 廸彰 渡辺 仁冶 石川県金沢市及びその近郊部湧水のDAIpoDiatom : the Japanese journalof diatomology

日本珪藻学会 1997 13

9 植物 角野 康郎 茨木 靖岐阜県西濃地域の湧水地に遺存分布するハイドジョウツナギ(新産地報告)

分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 日本植物分類学会 2007 7 2

10 植物菊池 亜希良 恩田 裕一 中越 信和

湧水湿地の植生配分に及ぼす地下水流動の影響 植生学会誌 : vegetation science 植生学会誌編集委員会 2002 19 2

11 植物小池 文人 榎本 哲也 島田直明

東北地方南部の湧水湿地群におけるミミカキグサとホザキノミミカキグサのメタ個体群

保全生態学研究 日本生態学会 2003 8 1

12 植物 林 直樹 小林 達明都市域に隔離された湧水湿地に生育するズミの保全生態学的研究(<特集>第38回大会)

日本緑化工学会誌 日本緑化工学会 2007 33 1

13 昆虫上田 哲行 木下 栄一郎 石原 一彦

丘陵湿地に生息するハッチョウトンボの場所利用と生息場所の保全について

保全生態学研究 日本生態学会 2004 9 1

14 底生動物茅 洪新 馬場 和彦 坂井るり子 岩島 清

B328 都市水系湧水路における底生生物の群集構造(休眠・光周性・翅型変異・群集生態学)

日本応用動物昆虫学会大会講演要旨 日本応用動物昆虫学会 1993 37

15 底生動物栗林 惠子 石丸 信一 馬渡駿介

陸水性エゾヨコエビ(端脚目)の再記載と第二腹肢の性的二型について

甲殻類の研究 日本甲殻類学会 1994 23

16 底生動物 後藤 忠志 田中 和子横手盆地周辺地域における淡水産プラナリアの分布・生態に関する研究

研究所報秋田桂城短期大学地域総合研究所

2003 6

17 底生動物 山田 達也名寄市の湧水流におけるプラナリア類の生態に関する研究II. : 3種の生活史

動物学雑誌 社団法人日本動物学会 1965 74 7

18 底生動物 小野 泱 Cnetha属のブユ2新種の記載 帯広畜産大学学術研究報告. 第I部 帯広畜産大学 1978 10 4

19 底生動物 松田 健治 松山 洋子札幌市郊外の湧水流における淡水産プラナリア3種の個体群の季節的消長

日本生態学会誌 日本生態学会 1968 18 3

20 底生動物 相川 満寿夫 下沢 淳海日光国立公園内の湧水流における淡水産プラナリア3種の生態調査報告II(形態学)

動物学雑誌 社団法人日本動物学会 1982 91 4

21 底生動物 相川 満寿夫 下沢 淳海日光国立公園内の湧水流におけるプラナリア3種の生態の季節的変化I(生態学・行動学)

動物学雑誌 社団法人日本動物学会 1981 90 4

22 魚類守山 拓弥 水谷 正一 後藤章

栃木県西鬼怒川地区の湧水河川におけるホトケドジョウの季節移動

魚類學雜誌 日本魚類学会 2007 54 2

23 魚類 神宮字寛 イバラトミヨの生息する湧水環境と基盤整備事業淡水生物の保全生態学-復元生態学に向けて-

信山社サイテック 1999

24 魚類端 憲二 多田 敦 冨永 隆志

湧水地帯における陸封型イトヨの潜在的な生息可能区域農業土木学会誌 = Journal of theAgricultural Engineering Society,Japan

農業土木学会 2001 69 2

25 水生生物全般Postel Sandra L. 山崎元外 訳

文献抄録 水圏生態系の保護と水道事業者の役割 水道協会雑誌 日本水道協会 2008 77 7

26 水生生物全般下田 路子 西村 大 森口宏明

富士山南麓の湧水河川の水生生物 富士常葉大学研究紀要 富士常葉大学 2007 7

27 水生生物全般 佐野 郷美学校における里山の水辺の復元と生物多様性の保全--わずかな湧水を生かすことでよみがえる里山の生物たち (特集 都市の水辺創生(その3)やすらぎの水)

水循環 雨水貯留浸透技術協会 2008 68

28 水生生物全般 篠田授樹 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査報告書.東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査報告書. とうきゅう環境浄化財団2004-2005年度助成事業

2006

29 水生生物全般 大野 正彦 国分寺崖線湧水群の水生生物 地下水技術 地下水技術協会 2002 44 11

30 水生生物全般 堀田 和弘千葉県 (根古名川水系と尾羽根川水系) の湧水地点とその水質および生物相調査

千葉敬愛短期大学紀要敬愛大学・千葉敬愛短期大学

1998 20

31 湧水環境 小倉 紀雄都市における湧水環境の保全と課題 (特集 都市の地下水環境の現状と課題(その4)湧水保全への取り組み)

水循環 雨水貯留浸透技術協会 2006 60

32 湧水環境村上 哲生 大島 由美 近藤朝美 他

郡上八幡市の湧水--類型化と汚染の現状 名古屋女子大学紀要 家政・自然編 名古屋女子大学 2005 51

33 湧水環境 日置 佳之 他

環境ユニットモデルを用いた谷戸ミティゲ-ション計画--国営ひたち海浜公園・常陸那珂港沢田湧水地における生物多様性保全の試み (特集:ビオト-プの生態学 保全生態学からみた復元(2))

保全生態学研究保全生態学研究会編集事務局

1998 3 1

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「湧水」をキーワードに含む学術論文

細菌15% 付着藻類

9%

植物12%

昆虫3%

底生動物24%

魚類9%

その他28%

22..22.. 有有識識者者へへのの聞聞きき取取りり

(1) 聞き取り対象有識者

陸水環境および生物・生態系の専門家として、下記の有識者を対象に、「湧水生態系」

の特徴および関連情報についての聞き取り調査を行った

沖野外輝夫 信州大学名誉教授(陸水学)

小倉紀夫 東京農工大学名誉教授(陸水学)

三島次郎 桜美林大学名誉教授(生態系全般)

(2) 聞き取り結果

聞き取り結果の概要を以下に示す。

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表3 湧水生態系に関する有識者聞き取り成果の概要

聞き取り先 聞き取り成果の概要

沖野外輝夫

信州大学名誉教授

・湧水生態系にスポットを当てた研究は日本ではほとん

ど無いだろう。

・米国ではオダムらが湧水起源の川で行った研究がある。

水温変化が少ないので、生態系のモデルとして研究が

進められた。

・京都の深泥池も広義で言えば湧水で保たれている生態

系。

小倉紀夫

東京農工大学名誉教授

・湧水は水質調査が中心で、生物に焦点を当てた調査は

ほとんど行われていない。重要なテーマだと思う。

・町の周辺の湧水では、湧水そのものだけでなく、湧水

周囲の木々を含めて特徴的な環境が形成されているた

め、地上部を含めて研究すると良い。

三島次郎

桜美林大学名誉教授

・湧水だけを取り出して教えようとすることは難しい。

河川あるいは湖沼など別の水辺との同一性と相違性に

気が付くように指導するのがよい。なお、湧水に限っ

たことではなく、他の生態系を理解する場合も比較に

よって、特徴を浮き出させることが出来る。

その意味で、柿田川において狩野川との比較を行った

のは良いと思う。

・湧水では水温変動や流量変動が少なく、環境の変化に

対する生物などの反応を一次方程式のように捉えられ

るため、生態系研究の対象として適している。しかし、

日本で湧水環境を対象に生態系の研究が行われている

ところはほとんどない。

・柿田川は水源から狩野川までの合流まで、他の河川の

流入などの影響をほとんど受けていない、シンプルな

環境であり、学習の場所として適している。

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- 7 -

22..33.. 湧湧水水のの成成因因別別タタイイププ分分けけ

(1) 湧水とは何か?

湧水とは、一般には水循環において、地下水が地上に現れた部分の呼び名であり、科学

的に厳密に定義することは難しい。

一般には、扇状地に湧く「泉」や、崖地から湧き出す水などでイメージされることが多

い。また、火山地帯には溶岩による地質構造により大量の水がわき出る場所が知られてい

る(例えば柿田川、忍野八海をはじめとする富士山周辺の湧水や、阿蘇山周辺の湧水が有

名)。全国の湧水の数は、環境省の「湧水ポータルサイト」によると、アンケートにより

確認されているものだけで 12,820 件であり、調査が進むとさらに数は増えると考えら

れる(表4)。

また、一般的では無いが、生態的な視点からみると、河川での伏流水(川の水が地下に

潜ったもの)が再び川の中や周辺に湧き出す場所も広い意味で「湧水」ととらえられてい

る。このような湧水は、多くの魚類の産卵場になるなど、川の生態系を考える上で重要な

場所ともなっている。

表4 都道府県別の湧水件数(環境省 「湧水ポータルサイト」より作成)

No. 都道府県 湧水件数 No. 都道府県 湧水件数 No. 都道府県 湧水件数

1 北海道 1,366 17 石川県 208 33 岡山県 102 青森県 334 18 福井県 89 34 広島県 563 岩手県 228 19 山梨県 170 35 山口県 24 宮城県 49 20 長野県 1,433 36 徳島県 385 秋田県 213 21 岐阜県 47 37 香川県 1146 山形県 391 22 静岡県 214 38 愛媛県 2,0157 福島県 249 23 愛知県 14 39 高知県 208 茨城県 340 24 三重県 7 40 福岡県 209 栃木県 249 25 滋賀県 26 41 佐賀県 12

10 群馬県 83 26 京都府 17 42 長崎県 7011 埼玉県 253 27 大阪府 15 43 熊本県 28212 千葉県 1,140 28 兵庫県 32 44 大分県 6913 東京都 934 29 奈良県 8 45 宮崎県 3614 神奈川県 1,049 30 和歌山県 25 46 鹿児島県 25715 新潟県 254 31 鳥取県 30 47 沖縄県 29716 富山県 41 32 島根県 14 12,820合計

(2) 湧水の成因別タイプ分け

以上のように、ひとことで「湧水」と言っても様々なタイプがあることがわかる。ここ

では、一般的な知見をもとに湧水を成因別に整理し、次ページに示す代表的な6タイプ(a)

崖線、b)谷頭、c)湿地、d)扇端、e)火山、f)傾斜丘陵地)に分類した。

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【湧水のタイプ】

湧水タイプ 代表的な地形 湧出機構

a)崖線 台地・段丘 台地・段丘の崖前面から湧出

b)谷頭 山地、丘陵地 馬蹄形や凸地形などの谷地形から湧出

c)湿地 高原、低地 地下水が低地で湧出し湿地等を形成

d)扇端 扇状地 扇状地扇端で地形面と地下水面が交差

又は被圧地下水が自噴

e)火山 火山山麓 溶岩流の積層や岩盤の割れ目を通る裂か水

又は被圧地下水が自噴

f)傾斜丘陵地 傾斜丘陵地 堆積層(砂層と泥層)が互層状態で傾斜

又は被圧地下水が自噴

a)崖線(がいせん)

湧水

地形面

地下水面

湧水

難透水層

b)谷頭(こくとう)

地下水面

水面

湧水

地形面

地下水面

不圧地下水

被圧地下水

自噴 湧水

難透水面

岩盤

c)湿地 d)扇端

e)火山

湧水

自噴

溶岩

岩盤

地下水面

岩盤

泥層

砂層

自噴

湧水

f)傾斜丘陵地

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(「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

22..44.. 湧湧水水おおよよびびそそのの周周辺辺にに特特徴徴的的なな生生物物

(1) 湧水に特徴的な生物の抽出

湧水には様々なタイプがあることがわかった。またそれぞれのタイプの中でも湧水の規

模や湧出する場所によっては、そこに生育・生息する生物には違いがあると考えられる。

そこで、ここでは一般の図鑑等から「湧水」に依存するとされている代表的な種を抽出

して以下に示した。

表5 湧水に特徴的な種の抽出

分類群 湧水に特徴的な種

魚類 トゲウオ類(トミヨ、イトヨ、ハリヨ)、ホトケドジョウ、スナ

ヤツメ

アユやシロザケの産卵場として湧水がある砂礫底が重要

植物 バイカモ、カワモズク類

底生動物 ヨコエビの仲間、ミズムシ属ミズムシなど、湧水の出口にいる

地下水性の種(生態的なことは不明なものが大部分)

両生類 ブチサンショウウオ、タゴガエルの産卵場として湧水が利用さ

れる(水通しの良い湧水、水のしみ出すところ)

抽出されたこれらの種は、生息・生育可能な水温条件が狭く、高水温では生息できない

生態を持つ種が大部分であった。これらは、湧水の持つ一定の水温や、夏でも水温が低い

という環境条件によって、湧水に特徴的に出現するものと考えられる。また、底生動物で

は地下水生態系の影響を強く受けた種が出現することが知られている。

(2) 湧水に特徴的な生物とその生態

湧水の代表種として、保全・保護の対象にもなるイトヨ類、ホトケドジョウ、バイカモ

についてその生態を以下にまとめた。

1) イトヨ類

イトヨ類は“行動学のショウジョ

ウバエ”として知られる有名な遡河

性の淡水魚で、多くの地域個体群が

陸封化している。本州の陸封個体群

は、氷河期の遺存固有分布として、

年中20℃を超えないような湧水だ

けに生息しており、まさに湧水と生

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死を共にしている。

2) ホトケドジョウ

水が冷たく澄んだ、流れの緩や

かな細流などの、砂礫ないし砂泥

底の水草のあるところに生息する。

湧水のあるきれいな小川や池を好

む。ドジョウ類は全般に底層に生

息するが、ホトケドジョウは中層

を緩やかに遊泳する。湧き水の枯

渇は確実に本種を減少させる。ま

た、各生息域が湧き水によって隔

離されているため、斑紋や体型に

地理的変異の大きいことが知られ

ている。

(「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

3) バイカモ

水底が砂質で冷水の清水中に多

く群生する。浅くてきれいな流水中

に多い。このため、本州西南では河

川の上流域や湧水のある水域に生

育地が限られる。北日本では低地の

水路などにもみられる。

(「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

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22..55.. 湧湧水水おおよよびびそそのの周周辺辺にに成成立立ししてていいるる生生態態系系のの特特徴徴

既存情報の整理の結果、湧水およびその周辺に成立している生態系には以下のような特

徴があると考えられる。

●「湧水」だけでなく、まわりに成立する環境(河畔林、湿地、

鎮守の森など)により生態系に多様性を与えている

●「湧水」は人の暮らしと密接に関係しているものが多い

●「湧水」には成因により様々なバリエーションがある。

●「湧水」に特徴的な生物はいくらか知られている

(安定した水温、夏でも低い水温による)

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第3章 湧水生態系に関する調査研究

33..11.. 湧湧水水生生態態系系をを構構成成すするる要要素素のの抽抽出出

既存情報の整理から、湧水には様々なタイプがあること、湧水生態系に関する知見は少

なく、まとまったものが無いことがわかった。

よって、今回の研究では、湧水全般を扱うのではなく、比較的多くの科学的知見がある、

柿田川湧水をモデルとして、湧水生態系を特徴づける要素の抽出・整理を試みた。

柿田川は湧水の成因からは「火山タイプ」に分類され、一般の川との比較から、生態系

を特徴づける要素として表6に示す特徴があると考えられる。

表6 湧水生態系を特徴づける要素

湧 水 川

水温(すいおん) ほぼ一定 季節や一日のうちで

変化

水量の変動

(すいりょうのへんどう)

ほぼ一定 洪水こうずい

や渇水かっすい

がある

水質(すいしつ)

(水の汚よごれ)

きれい さまざま

水質

(酸素さんその量)

少ないことが多い 多い(汚れている場

所では少ない)

川底の状態

(かわぞこのじょうたい)

砂。湧き出す場所は

いつも動いている

石や砂の大きさはさ

まざまで、洪水の時

に動く

注)ただし、柿田川では湧出水の溶存酸素は多い

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3

河畔林

透明度

河床材料の移動

日陰

日当たりが良い

水草魚

昆虫

森林性鳥水鳥

水生昆虫

●水温が安定●水の中に水草が多い●水辺に林が発達

⇒様々な生き物のすみかに!

3..22.. 構構成成要要素素のの相相互互ののかかかかわわりりににつついいてて

柿田川における、生態系構成要素の相互の関わりを概念的に図示すると以下のようにな

る。

湧水の特徴として水温が安定し

ており、水質が良いことから、水中

に水草が非常に多い特徴がある。ま

た、湧水起源の川であるため、普通

の川のような洪水が起こらず、水辺

にまで林が発達することが特徴で

ある。

これらの植物は、多くの動物にす

み場を与えるだけでなく、動物の食

料となることにより、鳥類、魚類、

水生昆虫など様々な生物が柿田川

に生息している。

33..33.. 湧湧水水環環境境のの特特徴徴とと意意義義

以上のように、湧水には水温、水のきれいさ、水量の安定などの条件から、独自の環境

や生物群集が成立しており、同じ水環境である河川と比較するとその違いがよく理解でき

る。

このような湧水の持つ独自の環境や生態系は、地域生態系の多様性に大きく貢献してい

ると考えられる。また、湧水の水質や水量は、湧水集水域の環境変化を総合的に指標する

ものでもあると考えられるため、湧水の環境を知り・守ることは集水域の環境バロメータ

ーとしても大きな意義を持つものと考えられる。

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第4章 学習ツール検討と学習会の試行

44..11.. 湧湧水水生生態態系系のの学学習習にに必必要要なな内内容容のの検検討討

第3章での検討結果より、湧水独自の生態系を学習するために「川」と「湧水」を比較

しながら、湧水生態系の特徴を学習できるプログラムを検討した。

湧水生態系の学習のコンセプトは以下のとおりとした。

●「湧水と人の生活」を考える。

●「独自の動物・植物」がみられることを知る。

●「水量」が安定していることを知る。

●「水質」が良いことを知る。

●「水温」の特徴を把握する。

【湧水生態系の学習コンセプト】

また、このコンセプトとした特徴が生じる要因として、対象とする湧水が、どのような

場所になぜ生じているかも調べ、考える必要があり、さらに、その湧水が成立させている

自然環境のほかに、人の生活や地域の産業とのかかわりまで調べることで、湧水の重要性

に対する理解を一層深められると考える。

これらを考慮し、学習ツールとして一般化できる流れを検討したうえで、今回は柿田川

で試行した学習会のための学習ツールとしてテキストと記録用の調査票を作成した。

(1) 湧水生態系学習ツール概要

湧水を対象とした学習会を行う場合に、事前の調べや現地での観察・調査の内容として

次表のような項目を対象とすることとした。

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調べる・考えること 目 的(知って欲しいこと・気付いて欲しいこと)

① 湧水とはなにか? 基礎的な知識として湧水とは何かを知る。

② 湧水の場所(温暖地か寒冷地

か)

湧水の水温は年間を通じてほぼ一定のため、周辺の、

気温に左右される自然環境との違いがどのように生

じるかを考える。

③ 湧水の成因別タイプ 湧水を探す場合にはどのような地形の場所を調べれ

ばよいかがわかる。

目的の湧水がある場合、その成因や周辺の地形によっ

て地下での滞留時間が異なるため、水温変動(年間や

日較差)の状況を考えることが出来る。

④ 湧水とその周りの水辺環境の

特徴

一般の河川(広い集水域を持ち、主に表流水を集める

河川)と比べることにより、湧水の特徴を理解する。

④-1 「水温があまり変わらない」 水温があまり変わらない理由を考える

水温があまり変わらないことによって、そこに生息・

生育する生き物にどのような特徴があるかを考える

④-2 「水量があまり変わらない」 水量があまり変わらない理由を考える

水量があまり変わらないことによって、そこに生息・

生育する生き物にどのような特徴があるかを考える

④-3 「水質が良い」:水の汚れ 水質が良い理由を考える

水質が良いことによって、そこに生息・生育する生き

物にどのような特徴があるかを考える

④-4 「湧水の中の酸素は少ない」 酸素が少ない理由を考える

水の中の酸素はなぜ多くなったり少なくなったりす

るかを考える

④-5 「川底の石などは同じ大き

さで、湧水の勢いで動いている」

川との違いを観察したり、その違いが何故おきるか、

その違いによってそこに生息・生育する生き物にどの

ような特徴があるかを考える

⑤ 湧水とその周りには独自の生

物(動物や植物)が棲んでいる

④で考えたように、水温が安定しており、水質が良く、

透明度が高いことから、水中や水辺は河川とは違う特

徴がある。

湧水や湧水起源の川だから棲んでいる植物や動物を

調査や観察で探してみる。

あるいは、調査や観察で棲んでいることを見つけた生

物は、何故そこに棲んでいるのかを、その食べ物や一

生をどのように過ごすのかを調べて考える。

<例>

魚:イトヨ類、ホトケドジョウ

水草:バイカモ、カワモズク

昆虫:ゲンジボタル、ミドリシジミ

⑥ 湧水と人の生活のかかわり 周りの人々が普段の生活でどのように湧水を利用し

ているか、守っているか

湧水の特徴を利用した地域の産業はあるか

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(2) 柿田川をモデルとしたテキストの作成

1) 湧水とは の解説 湧水とは地下水が地表に湧き出しているところであるが、水循環の概要を含めてイラス

トで紹介した。言葉の難しさをチーズサンドのイメージで補うことを試みた。

冬の湧水地 勉強会 3

湧水(ゆうすい・わきみず)ってなに?

空から降った雨は地面にしみこんだり、地表を流れて川に集まって海に流れて行ったりします。そのうち、地面にしみこんで、見えない地中でたまったり流れたりしているのが地下水です。

地下水はときどき地面の上に顔を出します。その、顔をだしているところが「湧水」です。また、湧水は地面の上だけではなく川の中や、海の中にも湧いています。

井戸は人が地下水をむりやりくみあげているので、普通湧水とはいいません。

どんなところに湧き出すか、どれくらいの量が湧き出すかは、雨の量などどのくらいの水が地中にしみこむかによります。

また、地面の中に水を通しやすい部分(スポンジのような)と水を通しにくい部分(粘土のような)がどのように層になっているかにもよります。

冬の湧水地 勉強会 2

チーズサンドイッチやハムサンドイッチを思い浮かべてください。

パンの部分は水を通しやすい層で、チーズやハムの部分は水を通しにくい層です。

上のパンに牛乳や水をこぼしたら、チーズが間にあるので下のパンにはしみこみません。そして、チーズの上にたまって低いところにながれてくるでしょう。

サンドイッチの切れ目が湧水地ということになります。

湧水(ゆうすい・わきみず)ってなに?

こぼした牛乳=雨・雪パンの中にしみた牛乳=地下水(ちかすい)切れ目やかじったあとからしみだす牛乳=ゆうすい

2) 湧水の場所 今回の学習会の現場である柿田川湧水地をモデルとして、出発地との位置関係、湧水の

成因として特徴的な富士山との位置関係などを示した。また、行動の予定を示した。

冬の湧水地 勉強会 1

きょう行くところ

かきたがわゆうすいち

ふじさん

いずおおしま

いずはんとう

さがみわん

するがわん

12月11日撮影

12月11日撮影

冬の湧水地 勉強会 2

きょうのコース

2-a

2-b

1-a

3

1-c1-b

1 かきたがわこうえん わきまのかんさつ

柿田川公園 : 湧き間の観察湧水量、湧き間の周りの底質・生物(植物)の観察

2 かきたばし かこう かのがわ

柿田橋:柿田川河口(狩野川との合流)柿田川の流量・水の透明度の実感、狩野川との水の様子の違いの観察

3 しみずしょうがっこうしぜんかんさつえん

清水小学校自然観察園水の中に入る水温の実感、生物の観察等

3) 湧水の成因別タイプ分け 湧水の成因別のタイプ分けを紹介し、柿田川湧水がどのタイプであるかを示した。

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冬の湧水地 勉強会 4

「湧水」はどこから湧くの?

湧水が湧く場所はいくつかに分類できます。

①崖から湧くタイプ ②山すそ(特に火山性の)から湧くタイプ

③扇状地の下のほうから湧くタイプ ④湿地に湧くタイプ

冬の湧水地 勉強会 5

「湧水」はどこから湧くの?

■谷の奥:たにのおく

せんじょうち

■扇状地の下のほう

■崖:がけ

冬の湧水地 勉強会 6

①雨や雪どけ水が地下にしみこむ

②水を通しやすいたくさん穴のあいた地層(三島溶岩流)と、水を通しにくい地層(古富士泥流)の間を流れる

③水を通しやすい地層の一番下で湧き出す

柿田川はどのタイプ?柿田川はどのタイプ?

富士山

水を通しにくい地層(古富士泥流)

水を通しやすい地層(三島溶岩流)

ふじさん

とお

とお

ちそう

ちそう

こふじでいがんりゅう

みしまようがんりゅう

かきたがわ

柿田川

すいげん

水源(湧水)

柿田川は、②山すそ(火山性の)から湧くタイプの湧水です。

4) 湧水とその周りの水辺環境の特徴 湧水と河川の環境の比較の概要を紹介し、現地において調査・観察して欲しいことのポ

イントを示した。

また、水温、水質などは実際に水温計、水質パックテストを使用して測定し、生物につ

いては観察や採集を行う。このための調査票(4.2 参照)を用意し別途配付する。

冬の湧水地 勉強会 3

「湧水」と「川」の環境の比較

湧水 川

水温(すいおん) ほぼ一定 季節や一日のうちで変化

水量の変動(すいりょうのへんどう)

ほぼ一定 こうずい かっすい

洪水や渇水がある

水質(すいしつ)

(水の汚よごれ)きれい さまざま

水質(酸素さんその量)

少ないことが多い 多い(汚れている場所では少ない)

川底の状態(かわぞこのじょうたい)

砂。湧き出す場所はいつも動いている

石や砂の大きさはさまざまで洪水の時に動く

ゆうすい かわ かんきょう ひかく

冬の湧水地 勉強会 4

柿田川ではどうか?

水量 : 柿田川公園で見て、話しを聞く

水温 : 教材園で水の中にはいってみる教材園ではかってみる

水質 : 教材園でしらべる

水ぎわの植物 : かんさつする

水中の植物 : 八ツ橋でかんさつする

動物 : かんさつする、教材園でしらべる

狩野川の水とくらべてみる狩野川の水とくらべてみる

かきたがわ

すいおん

すいりょう

すいしつ

かのがわ

きょうざいえん

しょくぶつ

どうぶつ

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冬の湧水地 勉強会 7

「湧水」の特徴は?

水温があまりかわらない

水量があまりかわらない

水質が良い=水がきれい

湧き出している場所は底の砂がいつも動いている

ゆうすい とくちょう

すいおん

すいりょう

すいしつ

ばしょ そこ すな うご

5) 「水温があまり変わらない」 水温があまり変わらないことの理由と、そのために生息・生育する生物の種類や行動に

どのような特徴が見られるかを紹介した。

柿田川においては冬期に越年アユの存在が知られている。このように対象とする湧水地

に特徴的な生物があれば、なぜ特徴的と考えるのかとともに紹介する用意をし、現地にお

いて観察しながら、理解度に応じてその生物の生活史や何を食べているのかなどと共に解

説した。

冬の湧水地 勉強会 8

水温があまりかわらない

湧水はわきだすまで、地下を通ってきます。

日光があたらないし、気温の影響もうけにくいので

昼間と夜、夏と冬 で水温の差があまりありません。

すいおん

ゆうすい ちか とお

にっこう きおん えいきょう

ひるま よる なつ ふゆ すいおん さ

だから、生き物にとって

普通の川の水とくらべて、夏はつめたく、冬はあたたかい環境になります。

ふつう

かんきょう

冬の湧水地 勉強会 12

湧水で見られる生き物やその行動

冷たい水が好きな生き物

北の寒い場所に住んでいる種類が、湧水で暮らしています。(「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

冬の湧水地 勉強会 13

湧水で見られる生き物やその行動

冬の水はあたたかい

普通は秋に死んでしまうアユが、湧水では冬を越しています。(沼津河川国道事務所HPより)

12/11撮影

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6) 「水量があまり変わらない」 水量があまり変わらないことの理由と、それによって特徴付けられる湧水地の周りと下

流の水辺の河畔林について紹介する。

鳥を中心に、水辺の鳥の種類と水辺環境(林や水草帯)の利用についてや、河畔林があ

ることで森林性の鳥も湧水の周辺環境を利用していることを説明する。

冬の湧水地 勉強会 9

水量があまりかわらない湧水がとおってくる地層は、水をためたり流した

りする量に限りがあります。

それで、雨が降ったから急に湧水の量がかわると

いうような変化はあまりありません。

だから、湧水の川では洪水がおきにくく、水辺に林が発達します。

流量の変化によって流れの位置が変わるので河原(かわら)が発 河畔林(かはんりん)が発達する達する

流量が安定しているのでので河原ができず、

すいりょう

ゆうすい ちそう なが

かぎ

きゅうふあめ

へんか

こうずい みずべ はやし はったつ

冬の湧水地 勉強会 14

湧水で見られる生き物やその行動

水辺に林が発達する

湧水は水辺の林とセットで多様な環境をつくります。(左の写真は「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

柿田川で観察できた鳥類

(右 カワセミ:水面に張り出した木の枝から水中の餌(魚)をねらう)

(左 アオサギ:水辺の水草帯のなかで餌をさがす)

7) 「水質が良い」:水の汚れが少ない 水質が良いことの理由と、それによって特徴づけられる湧水地の水草(主として沈水植

物)の多さを示す。

だから、生き物にとって

透明度が高く、川底まで日光が届くので、水草がたくさんはえます。

また、水草はたくさんの虫や魚の食べ物になります。

冬の湧水地 勉強会 10

水質が良い=水がきれい

ごみがありません。(地面がザルの役割をします)

くさってにおいをだすような「有機物」を含んでいません。

でも、植物の栄養になる「無機物」=肥料は含んでいます。

太陽の光を底のほうまでとおします。

すいしつ よ

やくわり

ゆうきぶつ

むきぶつしょくぶつ えいよう ひりょう

たいよう そこ

とうめいど かわぞこ にっこう とど みずくさ

むし さかな

冬の湧水地 勉強会 15

湧水で見られる生き物やその行動

透明度が高く、日光が底まで届く

水の中や水辺には、多くの水草が育ち、水草は水生昆虫を育みます。(左の写真は「川の生物図典」(財)リバーフロント整備センターより)

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8) 湧水と人の生活のかかわり 湧水が生活用水としてどのように利用されてきたか、現在も利用されているかを紹介し、

その湧水を守るためにどのような活動が行われているかを調べる。

湧水あるいは扇状地下端の地下水などを利用した産業、例えば養殖、食品加工など地域

の特徴的な産業があるかを調べる。

本事業における学習会では時間の都合で割愛したが、例えば静岡、富士山の周辺であれ

ば酒造、ニジマスの養殖、わさび畑などの見学なども考えられる。

冬の湧水地 勉強会 16

湧水で見られる生き物やその行動

もちろん、人にとっても大切な恵みの水です。

(「水の旅 日本全国湧水ガイド」より)

9) その他 ①湧水の酸素飽和度の低さ

②湧水下流河川では河床材料が一様なこと

③湧水の湧き出し口では河床の砂礫が常に動いていて、水草が生えていないこと

なども特徴といえる。

このうち、②と③については現地で観察すること可能と思われる。しかし①は現地では

測定が難しい場合がある。

一般的に、「湧水は地下を通ってくる間にバクテリアなどが有機物を分解するため酸素

を消費し、酸素飽和度が低いとされている。一方で、湧き出したあとはその透明度の高さ

から日光を透過しやすく、水中に生育する植物によって酸素が供給される。」というよう

な、物質循環:分解と(光)合成についても理解度に応じて解説すると良いと考える。

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44..22.. 学学習習テテキキスストトをを用用いいたた学学習習会会のの試試行行

(1) 湧水生態系学習会の計画

対象者:小学生~中学生(保護者を含む)

目的:湧水生態系の学習コンセプトに従った、見学会のプログラムを立て、実際に学習

会を試行することによって、学習テキストを更新するための情報を得る。

学習会の現場:静岡県柿田川(火山性湧水の代表として)

学習の内容は以下に示すとおり。

湧水(地)の環境を調べる

①水底の様子

②水温(気温と比べて、可能であれば他の川(狩野川)と比べて)

③水質 透明度、パックテスト(COD、N、P)、DO

※②は実際に水に入り(あるいはさわり)感じてもらう

湧水(地)の生き物を観察する

①湧き出しているところ(砂や石が動いているところ)に水草は生えているか?

②陸上の植物と水の中の植物は様子が違うか?

③どんな魚が居るか、(狩野川と比べて)動きはどうか?

湧水の利用

①水道水源としての利用

②街中での利用(生活用水)

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(2) 学習ツール(調査票)の作成

湧水の成因や、物理・化学的環境の特徴とその環境に依存していると言われている生き

物の種や生き物の生活の仕方について、4.1 で構成したテキストとあわせて現地で調査や

観察の結果を記録するための調査票を用意した。なお、今回の試行では小学校低~中学年

の参加が多かったため、それに応じて以下のような調査票の構成とした。しかし、生物の

調査・観察記録については確認した種と生息場所、観察した行動等を記録し、生き物相互

の関係や物理的な環境との関係を考察させることが必要と考える。(次ページ:様式と記

入例)

【調査票】

冬の湧水地 勉強会 調査シート(うら)

【湧水の研究結果をまとめてみよう!】

①水温や水質はどうだったかな?

②水辺や水の中の様子はどうだったかな?

③どんな動物がみつけられたかな?

④どんなナゾが残ったかな?

冬の湧水地 勉強会 調査シート(おもて)

名前

調査した場所

調査した日 (西暦)      年   月   日

調査時刻  開始:   時   分 終了:   時   分

天気 晴れ・くもり・雨・雪 その他(        )

気温 ℃

【水の様子をしらべてみよう!】 

柿田川(湧き水) 狩野川(普通の川)

水温を予測しよう! ℃くらい ℃くらい

水温(水温計) ℃ ℃

透視度(透視度計) cm cm

水の色

pH

電気伝導度(水のよごれ)

μS/cm μS/cm

COD(有機物) mg/L mg/L

窒素(栄養分) mg/L mg/L

【どんな生き物がいたかな?】

観察した生き物

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【どんな生き物がいたか】

【それぞれの生き物の関係を考えながら絵を描いてみる】

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(3) 学習会の試行

1) 学習会の工程

実施日:平成 20 年 12 月 13 日(土)

参加者:21 名(大人 8 名、小人 13 名(中学生 1、小学生 11、幼児 1))

9:00 集合(受付開始 8:45~)、バス乗車

9:15~ バス出発(駒沢~東名高速(用賀~沼津)~柿田川公園))

10:50 柿田川公園到着

11:00~ 湧水について説明

11:30~ 湧き間の見学(第 1・2 展望台)

12:25 狩野川との合流地点到着

12:30~ 昼食

13:00~13:45 湧水・川の水くらべ

<項目>水温、水の色、pH、電気伝導度、

COD(有機物)窒素(栄養分) :パックテスト使用)、

14:00~15:20 清水小学校教材園にて生きもの採取・観察等

15:40 バス乗車

15:50 バス出発(柿田川公園~東名高速(沼津~用賀)~駒沢)

17:30 到着・解散

冬の湧水地 勉強会 2

きょうのコース

2-a

2-b

1-a

3

1-c1-b

1 かきたがわこうえん わきまのかんさつ

柿田川公園 : 湧き間の観察湧水量、湧き間の周りの底質・生物(植物)の観察

2 かきたばし かこう かのがわ

柿田橋:柿田川河口(狩野川との合流)柿田川の流量・水の透明度の実感、狩野川との水の様子の違いの観察

3 しみずしょうがっこうしぜんかんさつえん

清水小学校自然観察園水の中に入る水温の実感、生物の観察等

学習会で使用した現場案内図

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2) 学習会の実施風景

湧水の説明をするスタッフ

柿田川の源流地点を観察

湧き間の様子。砂が動いているのが

観察できる

水がわき出るところを観察する

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水温が高いため、湧き水にアユが群れる

水質をパックテストで調べてみる

狩野川との水の比較

(あまり差がなかった)

観察・測定した結果を記録する

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湧水に入ってみる

どんな生き物がいるかな?

生き物を分析してみる

カワトンボのヤゴなどがみられた

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カワモズクの仲間。湧水に特徴的な植物

水草や河畔林について学ぶ

水にたなびくナガエミクリ

柿田川特産のミシマバイカモ

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44..33.. 参参加加者者へへののアアンンケケーートト結結果果

学習会後に実施した参加者へのアンケート結果を表7に示す。

表7 参加者へのアンケート結果(主な意見)

テーマ アンケート結果

勉強会で一番面

白かったことや

印象に残ったこ

・柿田川湧水の中に入り、生物の観察等を体験できたこと。湧

水がとてもきれいで水温も体感でき、間近で水を見たり、触

れることが出来たのはとても良い経験ができた。

・おいしい湧水が飲めたこと、クレソンを食べたこと、実験が

出来たこと。

・普通の水と湧水の水をくらべたこと。

・最後に水の中に入って、水の中の生き物をいろいろ見たり近

くで見ながら、草や木のいろいろな説明を聞けたこと、道中

も鳥の名等1つ1つ教えていただけたこと。

・川で遊んだこと。

・スポイトで魚とかをとって楽しかった。

・自分の子どもが学校でどういう生活をしているかが垣間見ら

れて参考になった。

・透明な水、湧き水がわきあがっているところを見ることが出

来たこと。

・自然にふれあうことが出来たこと。

これからもっと

知りたいと思う

こと、興味を持っ

たこと

・柿田川と他の川が合流していると言っていましたが、合流し

ているところは透明?にごっている?

・世田谷の近くの湧水にも行って見たい。

・川と湧水の水質の違いをもっと知りたいと思いました。

・水質の調べ方は他にどんな方法があるのかなど興味を持ちま

した。

要望・意見等 ・水質、生物のコメントの際に子ども達の身近なことや生活と

結び付けられると良かったと思う。

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44..44.. 学学習習ツツーールル作作成成にに関関すするる課課題題のの抽抽出出

学習会の試行結果から、学習ツール作成に関する課題を抽出して表8に示す。

アンケートの結果をみると、湧水や湧水の生き物に興味をもってもらうための「導入」

としては、今回の学習ツール(原案)を用いた学習会は有効であったと考えられる。

しかし、アンケートの意見の半数以上は湧水に関するものではなく、自然とふれあうこ

とや、普段目にしない生物の解説を聞けたことに対するものであった。よって、今後の学

習ツールには「湧水」としての特徴をより明確にするコンセプトが求められると考えられ

る。

また、今回の学習会の試行は、我が国でも有数の規模を持つ柿田川で実施したため、試

行の成果を「身近な湧水」の学習や、興味の醸成につなげていく必要があると考えられる。

表8 学習ツール作成に関する課題

明らかとなった課題

・参加者が湧水自体を知らない

・生物に対する関心が低い

・湧水と生物のかかわりがあること自体に気が付かない

・水質の特徴を調べてもらったが、普通の河川水との違いがあまり出なか

った

・湧き出ている箇所など厳正に規制されすぎて触れ合えない場合がある

・普段生き物(ベントス、水草、水鳥)をみたことがないため、観察した生物

が湧水地に特有であることが際だたない

・湧水と生物との関係について参加者が考察するには至らなかった

・身近な湧水でも対応できるような調査のプログラムは別途検討する必要

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第5章 今後の展開と課題

55..11.. 今今後後のの展展開開

学習会では、参加者は非常に興味深く湧水の成り立ちや生態系の解説に聞き入っていた

ことから、湧水をテーマにした学習会は、自然の大切さを学ぶには良い場となることは間

違いない。また、湧水のもつ「人」や「生物」との関わりが大きいという特徴を上手くい

かすことが出来れば、湧水の特徴に対する学習効果がより高められるものと考えられる。

また、今回の学習会は、講師からの解説と体験というスタイルをとったが、学習効果を

高めるためには、参加者自身が「考える」プログラムの検討が必要であると考えられる。

【考えるテーマの例】

・湧水を見てもらう、なぜ湧くか、普通の水と何が違うのか、考え・気づいてもらう

・生物に触れてもらう、なぜ場所によって生き物が違うのか、考え・気づいてもらう

・湧水と生物との関係について、考えてもらう

55..22.. 今今後後のの課課題題

今回の調査研究および学習会の試行から、今後の課題を以下に整理した。

「湧水」の何を学習してもらうかを明確にする

湧水を学習する目的は、「①湧水と周辺環境で形成される生態系の保全」と、「②湧水を

集水域のリトマス試験紙として集水域の環境を考える入り口にする」ことの二つである。

この目的のどちらに軸足を置くかにより、学習すべきテーマ(生物、水量、水質、人の生

活とのつながり)や学習の対象者が変わると考えられる。

身近な湧水の調査や学習に対応したツールの開発・検討

湧水には様々なタイプや規模があることから、タイプや規模に応じた学習のテーマの検

討・選択やそれに対応したツールの開発が必要になると考えられる。例えば、柿田川のよ

うな大規模湧水と、崖地から湧く小規模な湧水では生息する生物や、湧水が周辺の環境に

及ぼす影響も異なるため、それぞれの特徴に応じた学習ツールを開発することが望まれる。

学習成果の集約・ネットワーク化

湧水の生物や生態系に関する情報が非常に少ないことが明らかとなったことから、湧水

の学習成果を集約・ネットワーク化する仕組みを考えることが必要である。学術的にも貴

重な情報が得られたり、いままで知られていなかった新たな湧水の生態的な機能が見つか

る可能性が高いと考えられる。

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「湧水生態系の学習ツールの開発とそれを活用した湧水学習会の開催」報告書

発 行 社団法人 日本の水をきれいにする会

〒113-0034 東京都文京区湯島 2-31-10 レックス湯島 102 号

TEL 03-3818-3653 FAX 03-3818-5749

本報告書は再生紙を使用しています。

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様 式 Ⅰ-6・2 3.国民的啓発運動 助成番号 助成事業名 助成事業者名・所属

20 - 3111-019

「湧水生態系の学習ツールの開発とそれを活用した

湧水学習会の開催」 社団法人 日本の水をきれいに

する会 会長 稲葉大和

〔目 的〕

湧水は健全な水循環の源(原点)であり、湧水地周辺の生態系と共に湧水生態系として保全

していくことが重要であるが、まだ、行政や市民団体の活動ははじまったばかりであり、その

活動も、住民や地元自治体の保全活動に視点がおかれている。これらの保全活動を効果的に進

めていくためには、湧水生態系の学習ツール・学習マニュアル・利用コード(規範)などが必

要であり、本年度事業として学習ツールのモデル的開発とモデル案を基に湧水学習会を開催

し、今後の効果的な普及啓発活動の材料とすることを目的としている。 〔内 容〕

1、湧水の成因などからタイプ分類、特徴的な生物種のリストアップ、湧水周辺に成立してい

る生態系などについて既存資料の収集整理を行う。

2、代表的ないくつかについてモデル的に湧水生態系の構成要素や相互のかかわり、機能等に

ついて調査整理する。

3、調査整理された情報を元に湧水学習会、見学会のための学習ツールを作成した。学習ツー

ルは、指導者用、一般用(小中学生用)等の用途も加味する。

4、学習ツールの作成過程で学習会を開催し、その結果をツールづくりにフィードバックす

る。

〔結 果〕

湧水の生態系や生物生息環境の視点から、既存資料や公開されている情報等を収集・整理

し、湧水生態系の構成要素や相互のかかわりについて調査を行なった。 次に、生態系や生物生息環境の視点から見た湧水の機能や重要性に対する理解促進を図るこ

とを目的として、必要な環境調査項目や観察の注意事項などの抽出を行い、モデル的に学習ツ

ールの作成を行なった。 さらに、このツールを利用して静岡県柿田川で湧水の学習会を開催し、ツール向上のための

課題の抽出を行なった。

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様 式 Ⅰ-6・3 3.国民的啓発運動(一般助成) 助成番号 助成事業名 助成事業者名・所属

20 - 3111-019

「湧水生態系の学習ツールの開発とそれを活用した

湧水学習会の開催」 社団法人 日本の水をきれいに

する会 会長 稲葉大和

〔事業・活動計画の妥当性〕

湧水は健全な水循環の源(原点)であり、湧水地周辺の生態系と共に湧水生態系として保全

していくことが重要であるが、まだ、行政や市民団体の活動ははじまったばかりであり、その

活動も、住民や地元自治体の保全活動に視点がおかれている。

湧水生態系とは何か、その重要性は?等の調査整理とこれを基にした湧水生態系の学習ツー

ルはまだ開発されておらず、保全活動を効果的に進めていくためや広く啓発を行っていくため

には、これらの調査整理と学習ツールなどの基礎教材が欠かせない。

このため、本事業で学習ツールのモデル的開発とモデル案を基に湧水学習会を開催し、今後

の湧水地や源流地域の学習材料とすることも目指したもので、事業の計画は妥当なものと考え

ている。 〔当初目標の達成度〕

ほぼ目標どおりの学習ツールの開発とこれを基にした学習会を開催でき、今後これを完成版

にするための課題の抽出もできたことから、当初目標をほぼ達成できたと考える。 今後は、湧水生態系の学習ツールの充実(完成版の作成)、湧水(生態系)のタイプ別の学

習ツールの作成や湧水地や源流域での指導者向け学習マニュアルの作成、学習会などの開催マ

ニュアルやコード(規範)等の作成が目標となってくる。 〔事業・活動の効果〕

湧水の生態系や生物生息環境の視点から、既存資料や公開されている情報等を収集・整理

し、湧水生態系の構成要素や相互のかかわりについて調査を行なった。また、生態系や生物生

息環境の視点から見た湧水の機能や重要性について、必要な環境調査項目や観察の注意事項な

どの抽出を行い、学習ツールを作成した。さらに、このツールを利用して静岡県柿田川で湧水

の学習会を開催し、ツール向上のための課題の抽出を行なった。

作成したこの学習ツールを広く各方面に配布、広報することにより、湧水学習の基本的材料

が作成でき、今後の湧水生態系学習のための効果的な教材になったと考えている。 (配布先からは、着眼点や内容について既に相当の評価を受け、配布要望が強い)

〔河川管理者等との連携状況〕

今回の事業内容は、湧水の成因などからタイプ分類、特徴的な生物種のリストアップ等の既

存資料収集や湧水生態系の構成要素相互のかかわり、機能等についての調査整理というデスク

ワークが多くのウエイトを占め、学習会もこの成果によって場所等を決定する事になったの

で、河川管理との連携は図れなかったが、今後完成版の作成やマニュアルを作成する場合に

は、積極的に連携を図っていきたい。