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産業組織論 I
第5講: 戦略形ゲームの応用2
三浦慎太郎
2021年5月10日神奈川大学
1
本日の概要⃝ 製品差別化
1. 製品差別化とは?Ü 製品差別化の具体例Ü 何故企業は製品を差別化したいと考えるのか?
2. 製品差別化財のベルトラン競争Ü 同質財のベルトラン競争との違いは?Ü ナッシュ均衡価格は限界費用まで下がるのか?Ü その原因とは?Ü 企業は製品差別化を行うインセンティブがあるのか?
2
1. 製品差別化とは?
3
⃝ 前回は“ ”を前提とした競争であった.â 牛丼競争: すき家と松屋は全く同じ牛丼を販売.â モモ作付競争: 福島と山梨は全く同じももを生産.
Ü 極端な仮定.現実的には異なる企業は異なる財を生産.⃝ 具体例1: ラーメンの味の違い ( ).
â 醤油ラーメン vs とんこつラーメン⃝ 具体例2: 袋麺のバリエーション ( ).
â 同一企業内の異なる袋麺製品.
4
⃝ 企業は何故製品差別化を行うのか?â .
⃝ 同質財の場合:
â 消費者の“評価ポイント”は .â 消費者は安い方からのみ購入する.â 熾烈な価格競争に突入し,利潤はゼロとなってしまう.
⃝ 製品差別化されている場合:
â
â その差異に思い入れのある消費者は多少高額でも購入する.â 単純な価格競争を回避し,利潤を確保できる!
⃝ ポイントは製品差別化をして消費者の中に“信者”を作ること.â 相手企業と同一の土俵で勝負しなくても良くなる!
5
2. 製品差別化財の
ベルトラン競争
6
⃝ 牛丼ゲーム@製品差別化財ケース (水平的製品差別化).
â すき家(S)と松屋(M)は六角橋の牛丼市場を複占している.â 両社の牛丼は十分に差別化されている.
Ü と仮定する.â 各消費者は「理想的な牛丼はこうあるべきだ」と信念を持つ.
Ü
r x = 0: すき家狂信者 「すき家の牛丼こそ至高」.
r x = 1: 松屋狂信者 「松屋の牛めしこそ究極」.
r と仮定.ñ どの立ち位置の消費者も同数だけ存在.ñ
Ü どの消費者も「牛丼の消費」から800の効用を得る.Ü しかし理想から乖離した牛丼の消費から不効用を得る.
r が発生.7
â 各社は同時手番で価格pS, pMを設定する.â 消費者は価格を観察した上でどちらの牛丼を消費するか決める.
Ü 消費者xがすき家の牛丼(i.e., 立ち位置0)から得る効用:
ux(S) = 800− 200|0− x| − pS
= (1)
Ü 消費者xが松屋の牛丼(i.e. 立ち位置1)から得る効用:
ux(M) = 800− 200|1− x| − pM
= (2)
Ü 各立ち位置の消費者は(1)と(2)を比較し,高い方を選択.â キャパシティ制約なし・同一の生産技術を仮定する.
Ü 費用関数: C(qi) = 100qi (qi: 企業iの生産量)
â ナッシュ均衡における設定価格は?8
⃝ 戦略形ゲームとして定式化する:â プレイヤー: と .
Ü 消費者はプレイヤーではないのか?r プレイヤーと考えられるが,メインの分析対象ではない.r 簡略化のため,各社の需要関数で代替.(後述)
â 戦略: (すき家がpS,松屋がpMを選択).
â 利得: .Ü すき家の利潤関数πS(pS, pM)は以下のように表わされる:
πS(pS, pM) = pS ×DS(pS, pM)− C(DS(pS, pM))
= (3)
r DS(pS, pM): すき家の需要関数.Ü 松屋の利潤関数πM(pS, pM)は以下のようになる:
πM(pS, pM) = (4)
9
⃝ すき家・松屋の需要関数.â 例えば,pS = 300,pM = 400と仮定する.â 立ち位置0の消費者の場合:
Ü すき家: u0(S) = 800− 200× 0− 300 = 500.Ü 松屋: u0(M) = 800− 200(1− 0)− 400 = 200.Ü 立ち位置0の消費者は, から購入.
â 立ち位置1の消費者の場合:Ü すき家: u1(S) = 800− 200× 1− 300 = 300.Ü 松屋: u1(M) = 800− 200(1− 1)− 400 = 400.Ü 立ち位置1の消費者は, から購入.
10
⃝ すき家・松屋の需要関数(続き).â 立ち位置1/5の消費者の場合:
Ü すき家: u1/5(S) = 800− 200× 1/5− 300 = 460.
Ü 松屋: u1/5(M) = 800− 200(1− 1/5)− 400 = 240.
Ü 立ち位置1/5の消費者は, から購入.â 立ち位置4/5の消費者の場合:
Ü すき家: u4/5(S) = 800− 200× 4/5− 300 = 340.
Ü 松屋: u4/5(M) = 800− 200(1− 4/5)− 400 = 360.
Ü 立ち位置4/5の消費者は, から購入.11
⃝ すき家・松屋の需要関数(続き).â 立ち位置1/3の消費者の場合:
Ü すき家: u1/3(S) = 800− 200× 1/3− 300 = 1300/3.
Ü 松屋: u1/3(M) = 800− 200(1− 1/3)− 400 = 800/3.
Ü 立ち位置1/3の消費者は, から購入.â 立ち位置2/3の消費者の場合:
Ü すき家: u2/3(S) = 800− 200× 2/3− 300 = 1100/3.
Ü 松屋: u2/3(M) = 800− 200(1− 2/3)− 400 = 1000/3.
Ü 立ち位置2/3の消費者は, から購入.12
⃝ すき家・松屋の需要関数(続き).â これまでで判明したこと:
Ü x ≤ 23 (i.e. 2
3より左側)の消費者は から購入.Ü x ≥ 4
5 (i.e. 45より右側)の消費者は から購入.
â 23 < x < 4
5の消費者はどう行動する?Ü xが増加するとより の好みを持つ.
r すき家からの効用は し,松屋からの効用が .Ü 2
3 < x < 45の範囲に 有り.
r スイッチする部分の消費者を“消費者 x̂”と表すと,ñ x̂の左側の消費者(i.e. x < x̂): から購入ñ x̂の右側の消費者(i.e. x > x̂): から購入
â 重要:
Ü そうでなければ「スイッチする」とは言えない!13
⃝ すき家・松屋の需要関数(続き).â x̂の具体的な値は以下の方程式の解である:
⇐⇒ −200x̂− 300 = 200x̂− 600
⇐⇒ 400x̂ = 300
⇐⇒ (5)
â pS = 300, pM = 400における各社の需要量:
Ü DS(300,400) = = 3/4
Ü DM(300,400) = = 1/4
14
⃝ すき家・松屋の需要関数(続き).â すき家がpS,松屋がpMを選択したとする.
Ü 単純化のため |pS − pM | ≤ 200を仮定しておく.â 同様にスイッチする点,消費者 x̂を導出する:
⇐⇒ 400x̂ = 200+ pM − pS
⇐⇒ (6)
â 各社の需要関数:
DS(pS, pM) = x̂ = (7)
DM(ps, pM) = 1− x̂ = (8)
15
⃝ 利潤関数: (7)と(8)より,πS(pS, pM) = (pS − 100)DS(pS, pM)
= (9)
πM(pS, pM) = (pM − 100)DM(pS, pM)
= (10)
16
⃝ 同質財ケースとの比較.â すき家の需要関数@同質財ケース:
DS(pS, pM) =
1 if pS < pM1/2 if pS = pM0 if pS > pM .
(11)
â すき家の需要関数@製品差別化財ケース:
DS(pS, pM) =1
2+
pM − pS400
.
â 製品差別化財ケースの方がÜ 同質財: 需要は (需要が“ジャンプ”する).
r “All or Nothing.”
Ü 製品差別化財: 需要は (連続的に変化).r 相手より高価格でも需要あり.r “信者”が買ってくれるため.
17
⃝ 同質財ケースにおけるすき家の需要曲線@pM = 400.
â
18
⃝ 同質財ケースにおけるすき家の利潤曲線@pM = 400.
â
19
⃝ 製品差別化財ケースにおけるすき家の需要曲線@pM = 400.
â
20
⃝ 製品差別化財ケースにおけるすき家の利潤曲線@pM = 400.
â
21
⃝ ナッシュ均衡: 最適反応を導出する.â 同質財ケースでは利潤曲線(関数)が“不連続”.
Ü
Ü クールノー競争とは異なり,「微分してゼロ」とは出来ない.Ü ケースバイケースで最適反応を導出した.
â 製品差別化財ケースでは利潤曲線(関数)が“連続”.Ü
Ü クールノー競争同様に「微分してゼロ」で簡略化出来る.â 技術的な話(分からなくてもOK):
Ü 微分を適用するための大前提は こと.Ü 正確には, なことが必要.(カクカクしていない)
Ü |pS − pM | ≤ 200の範囲で利潤関数は“滑らか”.22
⃝ 積の微分.â 利潤関数πS, πMを一度展開してから微分.
Ü (9)や(10)を微分.Ü 非常に面倒だし,計算間違いの恐れも….Ü 展開せずに微分してやろう!
定理 1 積の微分公式.{f(x)g(x)}′ = (12)
â 計算例:
{(x− 2)(x− 3)}′ ==
= (13)
23
⃝ すき家の最適反応.â 利潤関数πSを価格pSで偏微分する:
∂πS(pS, pM)
∂pS=
{(pS − 100)
(1
2+
pM − pS400
)}′
= (pS − 100)′(1
2+
pM − pS400
)+ (pS − 100)
(1
2+
pM − pS400
)′
=
=
= (14)
24
⃝ すき家の最適反応(続き).â 利潤最大化の一階条件:
â したがって最適反応は以下のようになる:
(15)
⃝ 松屋の最適反応.â 同様に利潤最大化の一階条件より導出(練習問題).
(16)
Ü 対称性からショートカットできる.25
⃝ ナッシュ均衡: (p∗S, p∗M)で表わすとする.
â ナッシュ均衡とは「互いに最適反応を選択している」状態.Ü p∗Mに対するすき家の最適反応がp∗S.Ü p∗Sに対する松屋の最適反応がp∗M.
â (15)と(16)の連立方程式の解がナッシュ均衡である:
p∗S = 150+1
2P ∗M(p∗S)
= (17)
= 225+1
4p∗S.
26
⃝ ナッシュ均衡(続き).3
4p∗S = 225 ⇐⇒ (18)
â p∗S = 300を(16)へ代入:
(19)
â ナッシュ均衡は, .
⃝ ナッシュ均衡利潤.â 同質財ケースとは異なり,ナッシュ均衡で が実現:
πS(300,300) = (300− 100)× (1/2) = 100.
πM(300,300) = (300− 100)× (1/2) = 100.
27
⃝ .â 互いに右上がりの直線.
â 相手の戦略が増えると自身の最適反応も増える.28
⃝ ナッシュ均衡で正の利潤が生じるメカニズム:
â と がポイント.
1. 企業間の位置の差 (すき家: x = 0,松屋: x = 1).
Ü 生産者の供給する財に こと.Ü もし位置が同じ(同質財)だった場合:
r
r 消費者は価格の安い方から購入.2. 理想からの乖離に伴う不効用 (200×「乖離度合い」).
Ü 消費者は各社の牛丼を している.Ü 不効用(i.e. 200)はその と解釈できる.Ü もし異なる性質の財と認識されない(i.e. 不効用0)場合:
r
r 消費者は価格の安い方から購入.29
⃝ ナッシュ均衡で正の利潤が生じるメカニズム (続き):
â
Ü 相手との相違点が“セールスポイント”になる.Ü 消費者は で評価.Ü
Ü 単純な価格競争を回避でき,正の利潤を確保出来る.
30
⃝ 製品差別化の度合いが均衡価格・利潤に与える影響とは?â 「企業の立ち位置」と「不効用」が差別化の度合いを表わす.
â 本モデルでは「企業の立ち位置」が固定されている.Ü とする.
r 不効用が大: .
r 不効用が小: .
â 消費者の効用関数を以下のように修正する:
ux(i) =
{800− τx− pS if i = S
800− τ(1− x)− pM if i = M(20)
Ü τ : 製品差別化の度合いを表わすパラメータ.r “200”の代わりに“τ”で一般化する.
31
â 最適反応・ナッシュ均衡・均衡利潤:
P ∗S(pM) = (21)
P ∗M(pS) = (22)
(p∗S, p∗M) = (23)
πS(p∗S, p
∗M) = (24)
â 製品差別化の度合いが大きくなる(i.e. τが大きくなる)と,Ü ナッシュ均衡価格: .
Ü 均衡利潤: .
Ü
32
⃝ 製品差別化の度合いが上がる (i.e. τが上昇):â 各社の最適反応のグラフは する.â ナッシュ均衡はEからE′へ変化. .â 直観的説明:
Ü
Ü お布施状態.33
まとめ⃝ 製品差別化とは こと.
⃝ 消費者は以下の観点から財を評価する:â ,â (i.e. ライバルとの差異).
⃝ セールスポイントを高く評価してくれる“ファン”の存在.â する.â 熾烈な価格競争を回避できる.
⃝ セールスポイントの重要性が高くなる.â し,価格競争の .
⃝ 企業は .34