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第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極 度額の限度において担保する抵当権のことであり(民法第398条の21項)、特定 の債権を担保するための普通抵当権 1 と違い、不特定債権を担保するところに特徴 がある。しかしながら、すべての不特定債権を担保する包括根抵当権というものは 認められておらず、契約当事者以外の者においても根抵当権において担保されてい る債権がある程度予測できるものでなければならない。そこで予測する手立てとし て根抵当権設定契約においては、「極度額」「債権の範囲」「債務者」(構成の3 要素)を必ず定めなければならないとされている。 ・普通抵当権は特定債権を担保しているため、その特定債権と運命を共にし、債権が 移転すれば抵当権も移転し(随伴性)、債権が消滅すれば抵当権も消滅する(附従 性)。しかし、根抵当権は枠支配権であるため、枠の中で担保されている債権が譲 渡されると、枠の外に債権が移転し、現実の被担保債権額はゼロとなる。また、債 権が弁済された場合には債権は消滅するが枠は残る。 ・つまり、普通抵当権は1度きりの債権をしっかりと担保するという点において適し ているが、根抵当権は債務者との継続的な取引関係において、発生しては消滅を繰 り返す、多数の債権を担保するのに適しているといえる。 ・取引債権を担保するのが根抵当権であるが、将来債権も根抵当権において担保され ると考えると誤解が生じる。将来債権であっても、発生が確実なものについては普 通抵当権において担保される 2 べきだからである。例えば、保証委託契約に基づく 求償債権は将来債権であるが普通抵当権の被担保債権となる。 ・根抵当権をバケツ、債権者と債務者との間の取引を水道の蛇口から出ている水とし て想像して頂きたい。これによって根抵当権の性質をイメージすることができる。 バケツに水が溜まっているということは、取引による債権が根抵当権によって担保 されていることを示している。 1 ・バケツには穴が空いているが、下に硬い鉄 板があるので水は漏れない。しかし、バケ ツを第三者に譲渡するために動かした途 端に水がこぼれてしまう。 (債権とは別に根抵当権のみを譲渡できる) 1 根抵当権と対比する意味で「普通抵当権」という表現を取ります 2 ただし、根抵当権においても不特定債権のほかに特定債権も追加的に担保することは可能です 1

第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

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Page 1: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記

1 根抵当権の設定登記

(1)根抵当権の設定

・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

度額の限度において担保する抵当権のことであり(民法第398条の2第1項)、特定

の債権を担保するための普通抵当権 1と違い、不特定債権を担保するところに特徴

がある。しかしながら、すべての不特定債権を担保する包括根抵当権というものは

認められておらず、契約当事者以外の者においても根抵当権において担保されてい

る債権がある程度予測できるものでなければならない。そこで予測する手立てとし

て根抵当権設定契約においては、「極度額」「債権の範囲」「債務者」(構成の3要素)を必ず定めなければならないとされている。

・普通抵当権は特定債権を担保しているため、その特定債権と運命を共にし、債権が

移転すれば抵当権も移転し(随伴性)、債権が消滅すれば抵当権も消滅する(附従

性)。しかし、根抵当権は枠支配権であるため、枠の中で担保されている債権が譲

渡されると、枠の外に債権が移転し、現実の被担保債権額はゼロとなる。また、債

権が弁済された場合には債権は消滅するが枠は残る。 ・つまり、普通抵当権は1度きりの債権をしっかりと担保するという点において適し

ているが、根抵当権は債務者との継続的な取引関係において、発生しては消滅を繰

り返す、多数の債権を担保するのに適しているといえる。 ・取引債権を担保するのが根抵当権であるが、将来債権も根抵当権において担保され

ると考えると誤解が生じる。将来債権であっても、発生が確実なものについては普

通抵当権において担保される 2べきだからである。例えば、保証委託契約に基づく

求償債権は将来債権であるが普通抵当権の被担保債権となる。 ・根抵当権をバケツ、債権者と債務者との間の取引を水道の蛇口から出ている水とし

て想像して頂きたい。これによって根抵当権の性質をイメージすることができる。

バケツに水が溜まっているということは、取引による債権が根抵当権によって担保

されていることを示している。

図 1・バケツには穴が空いているが、下に硬い鉄

板があるので水は漏れない。しかし、バケ

ツを第三者に譲渡するために動かした途

端に水がこぼれてしまう。 (債権とは別に根抵当権のみを譲渡できる)

1根抵当権と対比する意味で「普通抵当権」という表現を取ります 2 ただし、根抵当権においても不特定債権のほかに特定債権も追加的に担保することは可能です

1

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図 2・また、中の水を第三者に譲渡した場合

にもバケツの中は空となる。 (根抵当権には附従性がなく、債権とと

もに根抵当権は移転しない)

図 3・蛇口から出た水が、バケツから外に出

てしまうと溜まらない。 (債権の範囲外の債権は担保されない) ・バケツがいっぱいになった場合には、

水があふれでてしまう。 (債権は極度額を超えては担保されな

い) ・ひとつのバケツを2つのバケツに分け

て譲渡することができるが、2つに分け

たバケツを積み重ねても元のバケツよ

り大きくはならない。 (根抵当権を分割譲渡することができる

が、分割後の各根抵当権の合計は元の

根抵当権の極度額である)

2

図 5

図 4

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(2)根抵当権の構成要素 ・契約当事者以外の者においても根抵当権の被担保債権をある程度予測できるものと

するため、設定契約において定めなければならないのが構成の 3 要素、すなわち「極

度額」「債権の範囲」「債務者」である。

① 極度額 ・極度額とは、根抵当権において担保される金額的な上限のことである。普通抵当権

については債権額が外貨建ての場合には担保限度額を登記するが、根抵当権におけ

る極度額の場合には債権額が外貨建ての取引であったとしても邦貨によって定め

なければならない(S37・1・26民甲73号通達)。 ・極度額の範囲内において、元本はもちろん利息・損害金に関して 後の2年分とい

うような制限もなく担保されるが、逆に利息分・損害金を含めて極度額を越えて担

保されるということはない。 ・根抵当権は枠支配権といわれるが、その枠の上限を意味しているものが極度額とい

える。極度額は普通抵当権と違い、増額・減額ができる。 ② 債権の範囲 ・債権の範囲については、包括根抵当権が禁止されているため、債権者と債務者との

すべての取引を担保することはできず、一定の範囲に属する不特定の債権を担保す

るための設定契約が必要となる。 ・そこで、一定の範囲に属する不特定の債権とは何かということが問題となるが、大

きく分けて債務者との「取引によって生ずる債権」と「取引によらずに生ずる債権」

とに分かれ、取引によって生ずる債権はさらに債務者との特定の継続的取引契約に

よって生ずる債権と、債務者との一定の種類の取引によって生ずる債権とに分けら

れる。また、取引によらずに生ずる債権は、特定の原因に基づいて債務者との間に

継続して生ずる債権と、手形上もしくは小切手上の請求権に分かれる。

(ア)債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権 取引債権

(イ)債務者との一定の種類によって生ずる債権 (ウ)特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権

非取引債権 (エ)手形上もしくは小切手上の請求権

(ア)債務者との特定の継続的取引契約をもって担保すべき債権の範囲を定めた場合

には、当該契約の成立年月日およびその名称を下記の振合で記載する。

・年月日手形貸付契約 ・年月日手形割引契約 ・年月日石油販売特約店契約 ・年月日当座貸し越し契約 ・年月日電気製品供給契約

・なお、この場合の契約の名称については当事者が任意に定めた契約の名称を使用

して差し支えないので、例えば甲号契約のような契約名称が使われ、第三者が契

3

Page 4: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

約内容を推認できないものであっても登記できる。

(イ)債務者との一定の種類の取引をもって担保すべき債権の範囲を定めた場合には、

客観的に担保すべき債権の範囲を画する基準として、その内容を第三者が認識で

きるように取引の種類を記載しなければならない。 ・客観的な明確性があるかどうかについては下記の通り判断が分かれるが、明確性が

ないと判断された一定の種類の取引は登記できない。 登記上認められる取引 登記上認められない取引

・委託取引 ・委任取引 ・請負取引 ・運送取引 ・液体供給取引 ・買付委託取引 ・加工委託取引 ・割賦販売取引 ・貸付有価証券取引 ・寄託取引 ・金銭消費貸借取引 ・教室運営管理委託取引 ・銀行取引 ・気体供給取引 ・交換取引 ・工業所有権実施許諾取引 ・支払承諾取引 ・証書貸付取引 ・商品売買取引 ・商品供給取引 ・消費寄託取引 ・消費貸借取引 ・使用貸借取引 ・信託取引 ・信用金庫取引 ・信用組合取引 ・新聞・テレビ・ラジオによる広告請負

取引 ・支払委託取引 ・製作委託取引 ・石油供給取引 ・石油類販売取引 ・相互銀行取引 ・贈与取引 ・立替払委託取引 ・賃貸借取引 ・著作権使用許諾取引 ・通関業務委託取引 ・手形貸付取引 ・手形割引取引 ・電気製品売買取引 ・当座貸越取引 ・売買委託取引 ・売買取引 ・販売委託取引 ・物品加工委託取引・保管委託取引 ・保証取引 ・保証委託取引 ・前受業務保証金供託委託取引 ・輸出入業務委託取引 ・労働金庫取引

・委託加工取引 ・委託販売取引 ・運転資金融資取引 ・営業資金および営業用設備資金貸付取

引 ・卸売取引 ・会社製品取引 ・金融取引 ・小切手貸付取引 ・小切手割引取引 ・口座貸越取引 ・債権譲渡取引 ・債務引受取引 ・債務保証取引 ・サービス役務請負取引 ・前払式特定取引 ・資本取引 ・準委任取引 ・準消費貸借取引 ・商業デザイン企画制作取引 ・商取引 ・商品取引 ・商品委託取引 ・商社取引 ・新聞広告取引 ・信用事業取引 ・信用保証取引 ・信用保証協会取引 ・自動車修理取引 ・自動車部品取引 ・石油施設類・不動産の運営委託及び賃

貸借取引 ・石油施設類建設資金及び運転資金融資

取引 ・代理取引 ・仲介取引 ・手形取引 ・手形・小切手取引 ・取次取引 ・問屋取引 ・仲立取引 ・根抵当取引 ・根抵当権設定附随取引・保証債務取引 ・農業協同組合取引 ・前払式特定取引 ・ノウハウ使用許諾取引 ・融資取引 ・リース取引 ・レンタル取引

4

Page 5: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

(ウ)特定の原因に基づいて継続して生ずる債権を担保すべき債権と定めた場合には、

その債権発生の原因を特定するに足りる事項を下記のように記載する。

・乙工場からの清酒移出による酒税債権 ・甲工場の廃液による損害賠償債権

・これらの債権は、債権者と債務者との取引により生じた債権ではないが、継続的に

発生する債権として根抵当権によって担保することができる。 ・ただし、取引に関連して生ずる不法行為の損害賠償債権としたものは、継続して生

ずる債権に当たらないので、登記の申請があっても受理すべきでない(H2・12・7民三第5648号回答)とされている。

(エ)手形上または小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権と定めた場合には、

単に「手形債権」または「小切手債権」と記載する。 ・この場合の手形債権または小切手債権とは、債務者との直接の取引によらず担保さ

れる手形債権や小切手債権なので、いわゆる回り手形や回り小切手のことを指す。 ・債権者と債務者との手形取引等であれば一定の種類の取引でみたように、手形割引

取引としたり、手形貸付取引のように「取引債権」を担保すべき債権の範囲に加え

ることが必要となる。

(オ)上記(ア)-(エ)の担保すべき債権の範囲に属しない「特定の債権」をも併

せて担保すべき債権と定めた場合には、当該債権を特定するに足りる事項も下記の

ように記載する。

・年月日売買代金 ・年月日貸付金

・なお、設定後被担保債権に関する元本がすべて確定した場合においては根抵当権が

確定するが、設定当初から特定債権のみを担保とする根抵当権自体は不特定債権を

担保するという根抵当権の本質を害することとなり、物権法定主義により成立その

ものが否定される。 ・この場合に甲乙物件に共同根抵当権の設定契約をして、甲物件のみ登記が完了し、

根抵当権が確定した後乙物件を登記しようとしても、当該根抵当権は確定しており、

特定債権のみを担保していることになるので、不特定債権を担保するための根抵当

権設定登記はもはやすることができない。 ・登記所の管轄を異にする不動産を共同担保とする契約に基づき仮登記された根抵当

権が本登記前に確定した場合の本登記手続は、共同根抵当権の追加設定として申請

することができる(登研616号)。 ③ 債務者 ・自然人も法人も債務者となりうる点については普通抵当権と同様であり、法人格の

ない社団または財団も債務者となりうる点についても同様である。 ・根抵当権においては不特定債権を担保することになるので、現在発生していない債

5

Page 6: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

権に対する債務者も当然に債務者となり得る。そこで根抵当権設定契約における利

益相反関係であるが、将来債務が発生する可能性がある債務者に対する債権につい

ても、発生していると同様の基準により利益相反関係を判断すべきこととなる。 ・例えば、代表取締役個人の債務を担保するため根抵当権の債務者を代表取締役個人

とし、当該会社所有物件に根抵当権を設定する場合については、会社と代表取締役

との利益相反関係となり、当該会社の取締役会の承認を得なければならず(会社法

365条、356条)、当該承認決議の議事録は第三者の承諾を証する情報として印鑑証

明書を添付の上、法務局へ提出しなければならない(令7条5号ハ)。 ・なお、複数の債務者について設定することもでき、その場合、債務者ごとに債権の

範囲を設定することも可能である。また、複数の債務者が連帯債務であっても、実

際に連帯するかどうかは根抵当権の元本が確定し、具体的な担保債権が特定されな

ければ分からないので、「連帯債務者」とは記載しない。 ・根抵当権における債務者については、根抵当権を特定するための基準として重要な

意味を有するが、債務者が誰であるかは、根抵当権者と根抵当権設定者との契約に

より決まり、債務者の承諾は必要ない(設定者意思中心主義)。 ④ 確定期日 ・根抵当権においては元本の確定すべき日を定めることも可能であるが、確定期日を

定める場合には設定契約の日から5年以内でなければない。確定期日は期間ではな

いので「設定の日から5年間」というような定め方をすることはできず、「確定期

日 平成年月日」のように特定の日をもって記載する。 ・現実には、確定期日の定めは根抵当権者に不利となるため、通常は定められず、登

記されないが、定めがある場合にはそれを登記する。 2 根抵当権設定登記の申請手続 ・根抵当権者を登記権利者(2条12号)、根抵当権設定者を登記義務者(2条13号)と

する、共同申請をする(60条)。 ・根抵当権も抵当権の一種であるから、一般的な登記申請書の記載事項や添付情報に

ついては省略し、根抵当権に特有な記載事項や添付情報の説明にとどめる。普通抵

当権においては債権の発生原因を記載したが、根抵当権については債権が存在しな

くなることもあり、また特に特定債権が債権の範囲に定められなければ現存債権を

記載することもない。 ・その代わり根抵当権というのは枠支配権であるから、枠の基準である極度額、債権

の範囲、債務者を記載し、もし根抵当権設定契約に確定期日の定めがある場合には

確定期日も登記する。 ・債務者が2人以上いて、債務者それぞれにつき債権の範囲が異なる場合には、「債

権の範囲 債務者Aにつき売買取引、債務者Bにつき請負取引」等と記載して登記す

ることができる(S46・12・24民甲3630号通達)。なお、根抵当権者が2名以上い

てもその持分を記載せず、債務者が複数いても連帯債務の登記ができないのは既述

の通りである。

6

Page 7: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

根抵当権の設定登記申請書 登記の目的 根抵当権設定 原 因 平成年月日設定 *1 極 度 額 金 1,000 万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 *2 債 務 者 (住所省略)X 根抵当権者 (住所省略)Y 設 定 者 (住所省略)X 課 税 価 格 金 1,000 万円 *3 登録免許税 金 4 万円 *4 *1 債権の発生原因は記載せず、物権契約である根抵当権の設定のみ記載する。

*2 手形債権、小切手債権については手形・小切手債権とは記載しない。

*3 極度額が課税価格になる。 *4 課税価格の1000分の4(登税法別表第一1(5))

・根抵当権が共有の場合においては、優先の定めをすることもできるが、優先の定め

の登記は、根抵当権設定の登記の申請と同一の申請書ですることはできない(S46・10・4民甲3230号通達第13)。

2 共同根抵当権の設定登記 (1)累積式共同根抵当権と純粋共同根抵当権

共同根抵当権に関する登記 ・根抵当権は各不動産毎に単独担保となる、いわゆる累積式根抵当権が原則であるが

(民法第398条の18)、契約により(純粋 3 )共同根抵当権とすることも可能である

(民法第398条の16)。ただし、普通抵当権と違い共同根抵当権設定の契約をすれ

ば自動的に共同担保となるわけではなく、共同根抵当権については設定登記が効力

要件となっており、設定と同時に共同担保である旨の登記をしなければ共同根抵当

権としての効力は発生しない(民法第398条の16)。 ・共同担保たる旨の登記の申請人は、根抵当権設定登記申請書の「登記の目的」にお

いて、「共同根抵当権設定」と記載することにより申請行為が行われ、登記官にお

いて職権により共同担保目録を備え付けることにより公示され 4る(83条2項、規則

166条1項)。 ・この共同根抵当権の登記の効力要件については、共同担保である旨の登記がされて

いない場合には根抵当権の効力そのものが発生していないと勘違いしやすいが、効

力要件となっているのは共同担保の効果であり、根抵当権の設定の効果 5について

3累積式に対する意味で、「純粋」と表現することがあります 4 「共同」根抵当権設定とは登記されません 5 ただし、担保すべき債権の範囲、債務者もしくは極度額の変更またはその譲渡もしくは一部譲渡は、その根

抵当権が設定されているすべての不動産について登記しなければ、その効力を生じないこととされており、こ

れらの変更、処分については契約そのものの効力が生じないので(民法第 398 条の 17 第 1 項)注意を要しま

す。

7

Page 8: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

は何ら影響は受けない。 ・なお、この設定と同時に共同担保である旨の登記をする場合の「設定登記」につい

ては本登記である必要があり、仮登記である場合には共同担保たる旨の登記はする

ことができないので(S47・11・25民甲4945号回答)、本登記を申請する際に共同

根抵当権としての登記を申請する。 ・一括申請に関して登記の目的および登記原因およびその日付が同一であれば普通抵

当権および純粋共同根抵当権については一括申請が認められるが(令4条)、累積

式共同根抵当権の場合には、一括申請は認められない(基本通達第14ノ2)。 ・累積式共同根抵当権と純粋共同根抵当権については互いに設定後変更することはで

きず、純粋共同根抵当権の一部の物件についてのみ共同担保の追加設定をすること

もできないので、累積式共同根抵当権と純粋共同根抵当権の選択については、設定

時点において判断すべきである。

共同根抵当権の設定登記申請書 登記の目的 共同根抵当権設定 *1 原 因 平成年月日設定 極 度 額 金 1,000 万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 債 務 者 (住所省略)Y 根抵当権者 (住所省略)X 設 定 者 (住所省略)Y 課 税 価 格 金 1,000 万円 登録免許税 金 4 万円 *2

【順位番号】【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原 因】 【権利者その他の事項】

1

根抵当権設定

*1

(省略)

平成年月日

設定

極度額 金 1,000 万円

債権の範囲 銀行取引

手形債権 小切手債権

債務者 (住所省略)Y

根抵当権者(住所省略)X

共同担保 目録(あ)第何号

*1 共同根抵当権の場合には登記の目的として共同担保である旨を記載する(令別

表 56 申請情報ハ)。

*2

*2 初の設定については課税価格の1000分の4(登税法別表第一1(5))、追加設定

については不動産1個につき1,500円(登税法13条2項)。 申請後の登記記録 [権利部(乙区)] *1 「共同」の文字は登記されない。 *2 共同担保目録は登記官が作成し、これにより共同担保である旨が公示される。

(2)共同根抵当権の追加設定登記

8

Page 9: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

・共同根抵当権の追加設定登記というと、通常の追加担保の契約が想像されるであろ

うが、根抵当権の場合にはこの点でも特殊な問題がある。根抵当権設定登記に関す

る共同担保たる旨の効力は、登記が効力要件となっているため、甲物件と乙物件に

関し、共同根抵当権設定契約をしたとしても、その双方が登記されなければ共同担

保の効力は発生しない。したがって、甲物件と乙物件が他管轄である場合には必然

的に後からされる根抵当権設定は追加担保とならざるをえない(基本通達第 14 の

1)。これは両不動産が同一管轄に属する場合に甲物件を先に登記し、後から乙物件

の根抵当権設定登記を申請したときも同様である。 ・なお、共同担保に関して根抵当権は厳格な取り扱いをしている。普通抵当権であれ

ば自動的に共同担保関係が発生し、登記をしていない共同担保物件であっても共同

抵当権として取り扱われるが、根抵当権に関しては共同担保関係を生ずる物権につ

き、「根抵当権者」の他に、「極度額」、「債権の範囲」および「債務者」が登記簿上

も同一 6 でなければならない。この制限は、当初からの共同根抵当権についてはも

ちろん、追加設定の場合の既登記物件と追加担保物件に関しても登記簿上同一であ

ることを要求している。したがって既登記物件の債務者の住所が変更したり、債権

の範囲が変わっている場合などには、まず既登記物件を現状に合わせる変更登記を

完了した後でなければ、追加設定登記はできない 7 。その手続を保障するために登

記法上は前に受けた登記の表示を申請情報の内容とすることを要し(令別表 56 申

請情報ニ)、他管轄の前登記証明書を添付しなければならないこととされている(令

別表 56 添付情報ロ)。 ・前登記証明書については同一管轄であれば登記官はすぐに自分の登記所内の情報で

あるから確認がとれるが、他管轄の場合にはその登記事項証明書を申請人に添付さ

せ、その証明書を調査する。 ・問題は、他管轄の場合の登記事項証明書の通数である。平成 16 年の法改正前はす

べての物件の登記事項証明書が必要とされていたが、法改正により他管轄の不動産

が複数ある場合であっても、登記事項証明書に共同担保目録に記録された事項の記

載があれば、当該登記所の管轄区域内にある不動産の共同担保関係は明らか 8 であ

るということで、管轄登記所毎に共同担保目録付登記事項証明書を各 1 通 9 提供す

れば足りることとされた(準則 112 条)。 共同根抵当権の追加設定登記申請書 (同一管轄の甲土地・乙土地に登記された共同根抵当権の追加担保として、更に同

一管轄の丙土地に共同根抵当権を設定する場合)

6普通抵当権については、変更していても追加設定はできます 7確定期日や優先の定めが各筆毎に異なっていても根抵当権特定の要素ではないので、追加設定はすることが

できます 8改正前は、共同担保目録付登記事項証明書を添付しても、その後に変更登記がされていないという確証は得

られないという理由ですべての証明書が必要とされていました 9 この改正点は試験に出しやすい問題点なので注意してください

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Page 10: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

登記の目的 共同根抵当権設定(追加)*1 原 因 平成年月日設定 極 度 額 金 1,000 万円 債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権 債 務 者 (住所省略)Y 根抵当権者 (住所省略)X 設 定 者 (住所省略)Y 添 付 書 類 登記識別情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報 印鑑証明書 前登記証明書(添付省略)*2 課 税 価 格 金 1,000 万円 登録免許税 金 1,500 円(登録免許税法 13 条 2 項)*3 不動産の表示 (丙土地の表示) 前登記の表示 甲市 A 町一丁目 1 番 1 の土地 順位番号 1 番 乙市 B 町一丁目 1 番 1 の土地 順位番号 1 番 *4 共同担保 目録(あ)第何号 *1 共同担保である旨を示すため「共同」と冠記し、追加設定である旨を示すため

末尾に(追加)と記載する。 *2 根抵当権が既登記であることと、減税証明書を兼ねた登記事項証明書を添付す

るが、前登記物件と追加物件が同一管轄であるため添付が省略できる。 *3 追加設定については不動産 1 個につき 1,500 円(登税法 13 条 2 項)。 減税の根拠条文を記載する。

*4 既に共同担保となっている甲土地・乙土地の表示を記載する。 ・根抵当権に関しては累積式共同根抵当権が原則だとしてもいったん共同根抵当権に

なったものの共同担保関係を解消し、累積式としたり、(図 6①)甲、乙両物件につ

きすでに共同担保として根抵当権設定の登記がされている場合において、甲物件ま

たは乙物件のみについて丙物件を追加担保することはできない(図 6②)。また、甲、

乙両物件に根抵当権設定の登記がすでになされているが共同担保である旨の登記

がない累積式の場合において、甲、乙両物件について丙物件を追加担保としてされ

る根抵当権の設定の登記の申請もすることができない(図 6③)(S46・10・4 民甲

3230 号通達)。 ・このように根抵当権については共同担保の関係について厳格な取扱がなされ、一部

の内容が違っていたり、累積式と純粋共同根抵当権が入り交じるような登記は受理

されない。

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Page 11: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

図 6

甲 乙

丙 甲 乙

甲 乙 甲 乙

累積式共同根抵当権 純粋共同根抵当権

② ③

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Page 12: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

1 債権の範囲の変更登記 事例 1 債権の範囲の変更登記 登記記録 [乙区]

【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原 因】 【権利者その他の事項】 1 根抵当権設定 (省略) 平成年月日

設定 極度額 金1,000 万円 債権の範囲 保証委託取引 債務者 (住所省略) B

根抵当権者 (住所省略) A

・B 所有の不動産について、上記のような根抵当権設定登記がされている。その後、

根抵当権者 A と設定者 B が、債権の範囲に「手形債権」を追加する変更契約をした

場合、根抵当権変更登記の「変更後の事項」として、どのように記載すればよいだ

ろうか。また、この根抵当権変更登記は、元本確定後に申請できるだろうか。 (1)債権の範囲の変更に関する注意点 ・債権の範囲の変更は、根抵当権者と設定者が、元本確定前に限ってすることがで

きる(民法 398 条の 4 第 1 項)。 ・債権の範囲の変更の態様としては、①追加的変更(A 取引を A 取引・B 取引とす

るケース)、②縮減的変更(A 取引・B 取引を A 取引とするケース)、③交替的変

更(A 取引を B 取引に替えるケース)があり、いずれもその登記が認められる。

事例 1 は追加的変更に該当するが、この場合の「変更後の事項」としては、追加

分のみを記載すればよいのではなく、変更後の債権を全部記載しなければならな

い。 ・A 取引・B 取引を A 取引とするケースは、債権の範囲が縮減することが形式的に

明らかである。このほか、内容的に縮減することが明らかな場合にも、縮減的変

更に含まれる。例えば、①「銀行取引」を個別化して「手形貸付取引」に、②「売

買取引」を「電気製品売買取引」に変更する場合がこれに該当する(S46・12・27民三第 960 号依命通知)。

(2) 登記申請手続 債権の範囲の変更登記申請書 登記の目的 1 番根抵当権変更 原 因 年月日変更 変更後の事項 債権の範囲 保証委託取引 手形債権 権 利 者 (住所省略) A 義 務 者 (住所省略) B

① 登記の目的 ・変更する根抵当権の順位番号で特定して、「何番根抵当権変更」とする。また、共

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Page 13: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

同根抵当権の場合は「何番共同根抵当権変更」と、「共同」を表記する。すべての

不動産について変更登記を申請しない限り変更の効力が生じないことになってい

るためである(民法 398 条の 17 第 1 項)。 ② 登記原因およびその日付 ・変更契約締結の日をあげて、「年月日変更」とする。 ③ 変更後の事項 ・追加的変更の場合の注意事項は(1)で指摘したとおりである。さらに、共有根抵

当権者の 1 人について債権の範囲を変更した場合は、変更されていない他の共有者

の部分も含めてすべて記載する。 ・共有根抵当権者 A・B で、A については A 取引、B については B 取引と登記されて

いたところ、B についてのみ債権の範囲を C 取引と変更した場合の「変更後の事項」 変更後の事項 債権の範囲 根抵当権者 A につき A 取引

根抵当権者 B につき C 取引 ④ 申請人 ・原則として、根抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者となる共同申請による

(60 条)。ただし、縮減的変更の場合には、例外的に設定者が登記権利者、抵当権

者が登記義務者となる。 ・また、共有根抵当権の共有者の一部について債権の範囲を変更することもできるが、

その場合でも、債権の範囲に変更のない他の共有者も含めた根抵当権共有者全員が

申請人となる(登研 524 号P167)。 ⑤ 添付情報(添付書類) (ア)登記原因証明情報(61 条、令 7 条 1 項 5 号ロ・別表 25 添付情報欄イ)

・根抵当権変更契約書等が登記原因証明情報となる。 (イ)登記識別情報(22 条)または登記済証(附則 6 条 3 項) ・原則として、設定者の権利取得の際の登記識別情報または登記済証を提供(添付)

する。ただし、縮減的変更の場合は根抵当権者が登記義務者となるため、根抵当

権取得の際の登記識別情報または登記済証を提供(添付)する。 (ウ)登記義務者の印鑑証明書(令 16 条 2 項・18 条 2 項、規則 48 条 1 項・49 条 2 項)

・書面申請の場合に、登記義務者が所有権登記名義人であるときは、その者の、申

請書または委任状に押印した印鑑についての作成後 3 か月以内(16 条 3 項、18条 3 項)の印鑑証明書を添付する。

(エ)代理人によるときは、代理権限証明情報(令 7 条 1 項 2 号) (オ)申請人が法人であるときは代表者の資格証明情報(令 7 条 1 項 1 号)

・なお、債権の範囲の変更に関しては、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を

得ることを要しないため(民法 398 条の 4 第 2 項)、登記原因に関する第三者の

承諾証明情報(令 7 条 1 項 5 号ハ)の提供は必要ない。 (3)登録免許税

・変更登記として不動産 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14))。

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Page 14: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

2 債務者の変更登記 事例 2 債務者の変更登記 ・B 株式会社を債務者兼設定者とする根抵当権につき、同社の代表取締役 C が会社の

債務を引き受けた場合、C を債務者とする根抵当権変更登記を申請する場合には、

B 株式会社の取締役会の承認は必要だろうか。また、債務引受に基づく当該変更登

記により、変更前の債務者である B 株式会社が負っていた既発生の債務は、当然に

当該根抵当権によって担保されるのであろうか。 (1)債務者の変更に関する注意点 ・債務者の変更は、根抵当権者と設定者が、元本確定前に限ってできる(民法 398 条

の 4 第 1 項)。変更の態様は、上記の債権の範囲の変更と全く同じに考えてよい。 ・根抵当権の債務者を変更することにより、変更前の債務者に属する債務は、既発生

のもの、将来発生するものを問わず、当該根抵当権では担保されなくなる。変更後

の根抵当権で担保されることになる債務は、変更後の債務者が負担する既発生の債

務および将来発生する債務である。したがって、根抵当権の債務者の変更とは、実

質的には、旧債務者の根抵当権を抹消し、新債務者のための根抵当権を新たに設定

することと同様の効果を生じさせるものといえる。 ・したがって、事例 2 において、根抵当権を設定後、債務者を代表取締役個人に変更

することは、代表取締役を債務者とする根抵当権を設定することと同視できるため、

代表取締役 C と会社の利益が相反することになり、B 株式会社の取締役会の承認が

必要となる(会社法 356 条 1 項、365 条 1 項)。また、当該債務者の変更登記がさ

れると、B 株式会社の債務は一切担保されなくなり、新債務者である代表取締役 Cの債務のみが担保されることになる。したがって、代表取締役 C が B 株式会社から

債務引受をしただけでは、B 株式会社の既発生の債務は当該根抵当権で担保されな

いことになるため、この債務を根抵当権で担保するには、債務引受にかかる債権を、

従前の根抵当権の債権の範囲に加える変更契約をし、元本確定前にその登記をしな

ければならない(登研 372 号P81)。

債務者の変更と同時に債権の範囲も変更する登記の申請書 登記の目的 1 番根抵当権変更 原 因 年月日変更 変更後の事項

債権の範囲 保証委託取引 手形債権 年月日債務引受(旧債務者 B 株式会社)にかかる債権

債務者 (住所省略) C 権 利 者 (住所省略) A 義 務 者 (住所省略) B 株式会社 代表取締役 C

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Page 15: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

(2)登記申請手続 ① 申請情報の内容 ・債権の範囲の変更と同様である。 ② 申請人 ・債権の範囲の変更と同様である。 ・なお、共有根抵当権の共有者の一部について債務者を変更することもできるが、そ

の場合でも、債務者に変更のない他の共有者も含めた根抵当権共有者全員が申請人

となる。この点も債権の範囲の変更と同様である。 ③ 添付情報(添付書類) ・債権の範囲の変更と同様である。実体法上の利害関係を有する者が登場する余地が

なく、その承諾も問題にならないという点も共通する(民法 398 条の 4 第 2 項)。 ・普通抵当権の債務者の変更登記においては、登記義務者の印鑑証明書の添付は省略

できたが、根抵当権の債務者の変更登記に関しては、原則どおり必要となる。 (3)登録免許税 ・変更登記として不動産 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14))。この点も、

債権の範囲の変更と同様である。 3 極度額の変更登記 事例 3 極度額増額の変更登記 ・甲所有の不動産に、下記のように乙区に登記がされている場合において、1 番根抵

当権の極度額を金 2,000 万円とする変更契約が成立したが、2 番抵当権者 B の承諾

が得られないときは、当該根抵当権変更登記は主登記で実行されるのであろうか。 登記記録 [乙区]

【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原 因】 【権利者その他の事項】 1 根抵当権設定 (省略) 平成年月日

設定 極度額 金1,000 万円 債権の範囲 保証委託取引 債務者 (住所省略) B 根抵当権者 (住所省略) A

2 抵当権設定

(省略) 平 成 年 月 日

金 銭 消 費 貸

借 平 成 年 月

月日設定

〔登記事項一部省略〕

債務者 (住所省略) B

抵当権者 (住所省略) C

(1)極度額の変更に関する注意点 ・極度額の変更は、根抵当権者と設定者が、元本の確定の前後を問わずすることがで

きる(民法 398 条の 5)。ただし、極度額を変更するにつき「利害関係を有する者」

がいるときは、その者の承諾がない限り、変更の効力は生じない(同条)。つまり、

根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾が実体法上の効力発生要件

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Page 16: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

となっている。ここにいう「利害関係を有する者」とは、更正登記の手続法上の要

件として不動産登記法 66 条の定める「登記上の利害関係を有する第三者」とは異

なるため、その者の承諾が得られないからといって、主登記で実行されるというこ

とはなく、常に付記登記で実行される。 ・一方、元本の確定後において、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現存

する債務の額にその後 2 年間に生じる利息その他の定期金および債務の不履行によ

り生じる損害賠償の額を加えた額に減額するよう請求することができる(民法 398条の 21)。この場合の減額の効力は、設定者の請求という一方的な意思表示によっ

て生じ、実体法上の要件としての利害関係を有する者の承諾(民法 398 条の 5 参照)

は不要となる。ただし、手続法上の要件としての、登記上の利害関係を有する第三

者の承諾は必要である(68 条、令 7 条 1 項 6 号・別表 26 添付情報欄ヘ)。 (2)登記申請手続

極度額変更登記の申請書 登記の目的 1 番根抵当権変更 原 因 年月日変更 変更後の事項 極度額 金 2,000 万円 権 利 者 (住所省略) A 義 務 者 (住所省略) 甲 添 付 書 類 登記識別情報 登記原因証明情報 代理権限証明情報 承諾証明情報 (印鑑証明書) 課 税 価 格 金 1,000 万円 登録免許税 金 4 万円 不動産の表示 (省略)

① 登記の目的 ・変更する根抵当権の順位番号で特定して、「番根抵当権変更」とする。また、共同

根抵当権の場合は「何番共同根抵当権変更」と、「共同」を表記する点に注意を要

する。これは、すべての不動産について変更登記を申請しない限り、変更の効力が

生じないことになっているためである(民法 398 条の 17 第 1 項)。 ② 登記原因およびその日付 (ア)契約による極度額の変更

・変更契約締結の日をあげて、「年月日変更」とする。しかし、極度額変更に関す

る実体法上の要件である利害関係を有する者の承諾(民法 398 条の 5)が変更契

約後に得られた場合には、その承諾の日が原因日付となる(S46・12・24 民甲 3630号通達)。

(イ)極度額減額請求による変更 ・元本確定後の設定者の極度額減額請求(民法 398 条の 21)による極度額(減額)

変更登記の場合の登記原因およびその日付は、「年月日減額請求」とする。なお、

原因日付は、減額請求の意思表示の実体法上の効力発生時期である根抵当権者へ

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Page 17: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

の到達日を記載する。 ・合意による極度額変更は、元本の確定の前後を問わずできるが(民法 398 条の 5)、

抵当権設定者による極度額減額請求は、元本確定後に限られるため(民法 398 条

の 21)、減額請求による極度額減額の変更登記は元本確定後に限ってすることが

できる。 ③ 変更後の事項 ・変更後の極度額を記載する。 ④ 申請人 ・原則として、根抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者となる共同申請による

(60 条)。ただし、減額変更の場合には例外的に設定者が登記権利者、根抵当権者

が登記義務者となる。 ⑤ 添付情報(添付書類) (ア)登記原因証明情報(61 条、令 7 条 1 項 5 号ロ・別表添付情報欄 25 イ)

・根抵当権変更契約書等が登記原因証明情報となる。 (イ)登記識別情報(22 条)または登記済証(附則 6 条 3 項) ・原則として、設定者の権利取得の際の登記識別情報または登記済証を提供(添付)

する。ただし、減額変更の場合は、根抵当権者が登記義務者となるため、根抵当

権取得の際の登記識別情報または登記済証を提供(添付)する。 (ウ)登記義務者の印鑑証明書(令 16 条 2 項・18 条 2 項、規則 48 条 1 項・49 条 2 項)

・書面申請の場合に、登記義務者が所有権登記名義人であるときは、その者の申請

書または委任状に押印した印鑑についての作成後 3 か月以内(16 条 3 項、18 条

3 項)の印鑑証明書を添付する。 (エ)利害関係を有する者の承諾証明情報(令 7 条 1 項 5 号ハ)

・契約による極度額の変更に関しては、「利害関係を有する者の承諾」が実体法上

の効力発生要件となっているため、この者の承諾を証する情報は、令 7 条 1 項 5号ハの定める登記原因に関する第三者の許可・同意・承諾証明情報として必要と

なる。ここにいう利害関係を有する者は、具体的には、次のような者である。 増額 ・後順位、同順位担保権者(仮登記名義人を含む)

・後順位差押債権者、仮差押債権者、仮処分債権者 ・後順位所有権仮登記権利者

減額 ・当該根抵当権を目的とする転抵当権者、差押債権者等 ・事例 3 では、C は後順位抵当権者になるため、利害関係人となる。これに対して、

元本確定後の根抵当権設定者による極度額減額請求に関しては、利害関係を有す

る者の承諾は実体法上の要件とならない(民法 398 条の 21)。したがって、この

場合の減額変更登記については、令 7 条 1 項 5 号ハの登記原因に関する第三者の

許可・同意・承諾情報は要求されないが、登記上の利害関係を有する第三者の承

諾(68 条)を証する情報の提供が必要となる(令 7 条 1 項 6 号・別表 26 添付情

報欄ヘ)。 (オ)代理人によるときは、代理権限証明情報(令 7 条 1 項 2 号)

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Page 18: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

(カ)申請人が法人であるときは代表者の資格証明情報(令 7 条 1 項 1 号) (4)登録免許税 ・減額変更のときは変更登記として不動産 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14))。 ・増額変更のときは、増額分を新たな設定と同視して、増加した債権額を課税価格と

して、その 1000 分の 4(登税法別表第一 1(5))。 4 確定期日の変更登記 事例 4 確定期日の変更登記

登記記録 [乙区]

【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原 因】 【権利者その他の事項】 1 根抵当権設定 (省略) 平成年月日

設定 極度額 金1,000 万円 債権の範囲 保証委託取引 確定期日 平成25 年4 月1 日 債務者 (住所省略) B

根抵当権者 (住所省略) A

・B 所有の不動産について、上記のような根抵当権設定登記がされている。その後、

根抵当権者 A と設定者 B が、確定期日を平成 24 年 4 月 1 日に繰り上げる変更契約

をした。この場合の根抵当権変更登記における登記権利者と登記義務者は誰か。 確定期日の変更登記の申請書 登記の目的 1 番根抵当権変更 原 因 年月日変更 変更後の事項 確定期日 平成 24 年 4 月 1 日 *1 権 利 者 (住所省略) B 義 務 者 (住所省略) A *1 確定期日を新設する場合は、登記の目的「何番根抵当権変更」、登記原因「年月

日新設」、変更後の事項として「確定期日 年月日」を申請情報の内容とする。また、

この確定期日は、新設した日より 5 年以内の日であることを要する(民法 398 条の 6第 3 項)。確定期日は期日であって期間ではないため、これを「契約から何年」とい

う期間をもって定めることはできない(登研 310 号 P39)。 (1)申請人 ・確定期日の変更の態様には、新設・延期・繰上げ・廃止の 4 種がある。この場合の申

請は、原則として根抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者となる共同申請に

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Page 19: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

よる(60 条)。ただし、事例 4 のような繰上げ変更の場合のみ、例外的に設定者が

登記権利者、根抵当権者が登記義務者となる。 ・なお、確定期日の変更は、元本確定前に限ってすることができ、また、第三者の承

諾は要しない(民法 398 条の 6 第 2 項)。

(2)申請情報の内容・その他の登記事項・添付情報(添付書類)・登録免許税すべて

債権の範囲の変更と同様である。新設・延期・廃止の場合は根抵当権設定者が登記

義務者として申請することから、所有権を目的とする根抵当権である場合は、設定

者(不動産所有者)の作成後 3 か月以内(16 条 3 項、18 条 3 項)の印鑑証明書が

必要になる。 5 根抵当権共有者間の優先の定めの新設 事例 5 優先の定めの新設の登記 ・A から B への根抵当権の一部譲渡の契約と同時に、A・B 間で A が B に優先して配

当を受ける旨の合意が成立した場合、一部譲渡による根抵当権一部移転登記と優先

の定めの登記は、一括して申請できるだろうか。 (1)優先の定めに関する注意点 ・優先の定めとは、根抵当権の共有者間における配当割合の特約のことである。根抵

当権の共有者間においては、原則的にそれぞれの債権額の割合に応じて弁済を受け

るとされている(民法 398 条の 14 第 1 項本文)。しかし、元本確定前にこれと異な

る割合を定めた場合には、その定めに従って優先弁済を受けることになる(同条同

項ただし書)。つまり、優先の定めは、根抵当権の共有の場合にのみ問題となる。 ・根抵当権の共有は、事例 5 のように根抵当権が一部譲渡された場合(民法 398 条の

13)や、設定の当初から根抵当権者が複数である場合に生じるが、一部譲渡の登記

と優先の定めの登記は、一括しての申請はできないとされている。その理由は、後

述するように、一部譲渡の登記の申請構造(共同申請)と、優先の定めの登記の申

請構造(合同申請)が異なるからである。同様の理由により、共有根抵当権の設定

登記と優先の定めの登記を一括して申請することも、先例は禁止している(S46・10・4 民甲 3230 号通達第 13)。

・また、債権の範囲の変更や債務者の変更が元本の確定前に登記をしないとその効力

を生じないのに対し(民法 398 条の 4 第 3 項)、優先の定めの設定については、元

本確定前に合意がなされていれば足り(民法 398 条の 14 第 1 項ただし書)、登記は

元本確定後でも申請することができる。 ・なお、共同根抵当権において、優先の定めは各不動産ごとに異なってもよい。これ

は、極度額の範囲内で配当される金額を共有根抵当権者間でどう分配するかだけの

問題だからである。

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Page 20: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

(2)登記申請手続 ・優先の定めの登記の申請書

登記の目的 1 番根抵当権優先の定め 原 因 年月日合意 優先の定め A は B に優先 申 請 人 (住所省略) A

(住所省略) B ① 登記の目的 ・変更する根抵当権の順位番号で特定して、「何番根抵当権優先の定め」と記載する。 ② 登記原因およびその日付 ・根抵当権の共有者間で合意した日をあげて、「年月日合意」と記載する。 ③ 登記事項

優先の定め A は B に優先 ・優先の定めの内容を簡潔に記載する。この他にも、「A7、B3 の割合」と定めること

もできるし、「配当額の 2 分の 1 については、A が B に優先し、残額について A7、B3 の割合」という定めも有効とされている。

④ 申請人 ・根抵当権の共有者全員の合同申請になる(89 条 2 項)。優先の定めによって利益を

受ける者を登記権利者、不利益となる者を登記義務者とするわけではないことに注

意が必要である。 ⑤ 添付情報(添付書類) (ア)登記原因証明情報(61 条、令 7 条 1 項 5 号ロ)

・優先の定めの合意をしたことを証する書面等が登記原因証明情報となる。 (イ)登記識別情報(22 条)または登記済証(附則 6 条 3 項)

・合意した根抵当権者全員の権利取得の際の登記識別情報または登記済証を提供

(添付)する。 (ウ)代理人によるときは、代理権限証明情報(令 7 条 1 項 2 号) (エ)申請人が法人であるときは代表者の資格証明情報(令 7 条 1 項 1 号) ・なお、優先の定めに関しては、利害関係人の承諾は問題にならないため、当該登記

は常に付記登記により実行される。 (3)登録免許税 ・変更登記として不動産 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14))。

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Page 21: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

申請後の登記記録 [乙区]

【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原 因】 【権利者その他の事項】 根抵当権設定 (省略) 平成年月日 〔登記事項一部省略〕

6 優先の定めの変更・廃止 ・いったん定められた優先の定めについて、当事者間でこれを変更する合意が成立し

た場合は、その優先の定めの変更登記を申請できる。 (1)登記申請手続 優先の定めの変更登記の申請書 登記の目的 1 番根抵当権優先の定めの変更 原 因 年月日合意 変更後の事項 優先の定め B は A に優先 申 請 人 (住所省略) A

(住所省略) B ① 登記の目的 ・変更する根抵当権の順位番号で特定して、「何番根抵当権優先の定め変更」と記載

する。 ② 登記原因およびその日付 ・根抵当権の共有者間で変更の合意をした日をあげて、「年月日合意」と記載する。 ③ 変更後の事項 ・変更後の事項として、変更後の優先の定めの内容を簡潔に記載する。優先の定めを

廃止する場合は、変更後の事項として、優先の定めを廃止する旨を記載する。 ④ 申請人 ・その変更によって影響を受ける根抵当権の共有者全員の合同申請による。従前の優

先の定め「A5、B3、C2」を「A5、B2、C3」に変更する場合、変更によって優先

配当額につき影響を受けるのは B および C だけであるので、登記申請人は B と Cだけとなる。このとき影響を受けない A は、登記申請人にも実体法上ないし登記手

続上の利害関係人にもならない。 ⑤ 添付情報 (ア)登記原因証明情報(61 条、令 7 条 1 項 5 号ロ) ・優先の定めの変更につき合意をしたことを証する書面等が登記原因証明情報とな

る。

設定 根抵当権者 (住所省略) A 1 番根抵当権

一部移転 (省略) 平成年月日

一部譲渡 〔登記事項一部省略〕 根抵当権者 (住所省略) B

1

付記 1 号

付記 2 号

1 番根抵当権

優先の定 (省略) 平成年月日

合意 優先の定 A は B に優先

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Page 22: 第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記...第18回 根抵当権の設定、変更・更正の登記 1 根抵当権の設定登記 (1)根抵当権の設定 ・根抵当権は、根抵当権者と債務者との間の一定の範囲に属する不特定の債権を、極

(イ)登記識別情報(22 条)または登記済証(附則 6 条 3 項) ・合意した根抵当権者全員の権利取得の際の登記識別情報または登記済証を提供(添

付)する。 (ウ)代理人によるときは、代理権限証明情報(令 7 条 1 項 2 号) (エ)申請人が法人であるときは代表者の資格証明情報(令 7 条 1 項 1 号)

・なお、利害関係人の承諾は要求されないため、承諾証明情報の提供は問題とならな

い。 (2)登録免許税 ・変更登記として不動産 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14))。

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