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Kyushu Medical Center 独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床研究センター便り
平成27年度Vol.3(秋)
ARVO2015、デンバー視察記
Kyushu Medical Center海外視察報告
眼 科
久冨 智朗
Kyushu Medical Centerお知らせ
さ わやかな秋を迎えて、皆様にはご健勝のことと存じます。臨床研究センターでは平成26年度NHO臨
床研究活動実績評価が全国131施設中5位、NHO共同研究ネットワークグループ主任研究領域(脳卒中、消化器、血液、経営管理)の拡大を受けて、新たな研究企画の機運が高まっています。また院内の臨床研究発表会ではEBM
研究をまとめた最優秀発表が行われ、今年度の大目標である研究倫理講習(CITI Japan)の医師および研究者全員受講が実践されています。今後も総合力を生かした臨床研究・治験を推進していきますのでどうぞよろしく御願い申し上げます。
平成27年10月臨床研究センター長 岡田 靖
21周年開院記念行事にあわせて平成26年度優秀研究表彰を行いました(表2)。次頁「臨床研究報告」にて内容を順次ご紹介いたします。
A RVO: Association for Research in Visual Science and Ophthalmologyは、臨床研究と基礎研究、双方
を網羅する眼科領域において最も大規模な国際的な学術学会です。毎年1回5月におよそ1週間にわたりアメリカで開催されます。開催地は毎年異なり昨年はフロリダ州オーランド、今年はコロラド州デンバーで開催されました。デンバーはコロラド州の州都、アメリカ西部有数の都市で、コロラド・ロッキーズというメジャーリーグのホームチームもあります。広大な会場中央には企業展示と広大なポス
ター会場が配置され、毎日1000枚程度のポスターが並びます。アメリカ国内だけでなく世界中から演題が集まり、一般口演やシンポジウムも含めるとその数は10000近くにも上ります。自分が見るべき講演やポスターを探すのも一苦労です。今回この学会を訪れた目的の一つに当院からボストン(ハーバード大学)に留学中の納富昭司先生の発表に参加する事がありました。納富先生は昨年度まで当センター眼科に勤務していました。また彼が九州大学の大学院生の頃より研究指導をして
表1
全国143施設のうち、臨床研究センター10施設、臨床研究部76施設、院内標榜臨床研究部45施設(全131施設)から
1→大阪医療センター 5,946.062点
2→名古屋医療センター 5,299.197点
3↑東京医療センター 4,991.189点
4↓京都医療センター 4,423.069点
5→九州医療センター 3,894.911点
6↑九州がんセンター 3,700.117点
7↓相模原病院 3,398.036点
8↑長崎医療センター 2,986.743点
9↓四国がんセンター 2,906.405点
10↑近畿中央胸部疾患センター 2,094.224点
★矢坂 正弘先生(脳血管・神経内科) 観血的医療処置時の抗血栓薬の適切な管理に関する研究 Management of antithrombotic agents during surgery or other kinds of medical procedures with bleeding (MARK study)
☆高見 裕子先生(肝胆膵外科) マイクロ波凝固壊死療法(MCN)のさらなる飛躍をめざして ー 肝細胞癌の発育増殖過程を意識した手術手技への改良と肝切除への応用 ー
表2
◆山崎 聡先生(血液内科) 患者背景因子による高齢者急性骨髄性白血病に対する 同種造血幹細胞移植の適応に関する検討◆今坂 堅一先生(心臓外科) 頭頸部に動脈硬化性狭窄/閉塞病変を有する患者の 開心術中脳梗塞発症リスクの評価;定量的脳血流シンチの有用性◆小野原俊博先生(血管外科) 腹部大動脈瘤術後遠隔期の心血管イベント発生率についての検討◆辻 麻理子先生(AIDS/HIV総合治療センター) HIV感染症患者の認知機能の低下と鑑別診断 ― 抑うつ傾向、物質使用歴との関連及び炎症性サイトカインによる考察 ―
臨床研究評価トップ10(平成26年度)
九州医療センター最優秀学術賞
九州医療センター優秀学術賞
九州医療センター学術賞
TOPICS Kyushu Medical Center
消化器外科最前線食道癌に対する集学的治療
江頭 明典
消 化 器 外 科
食道癌は本邦では悪性腫瘍の中で8番目に罹患率が高い疾患であり、60~70歳代の男性に多く認め、飲
酒・喫煙がリスクファクターとなります。近年、食道癌の罹患率は徐々に増加しています。食道癌の治療には、内視鏡治療、外科的切除、化学療法、放射線療法がありますが、これらを組み合わせた集学的治療を行うことが多いです。 胸部食道癌に対する標準手術は、頚部操作、胸部操作および腹部操作を必要とし、手技は煩雑で消化器癌手術の中でも侵襲が大きいものの一つです。近年、低侵襲性から鏡視下手術が急速に普及していますが、当院では食道癌に対しても症例に応じて胸部操作では腹臥位による完全胸腔鏡下手術、また腹部操作に於いて腹腔鏡補助下手術を行っています。鏡視下手術では拡大視効果でより微細な解剖が把握でき、繊細な操作を可能とします。特に胸腔鏡手術では、従来の開胸手術と比べ著明に手術創が小さく、術後の疼痛軽減、ひいては合併症予防に貢献しています。 食道癌術後合併症として特に問題になるのが呼吸器合併症ですが、周術期口腔管理、禁煙指導や積極的な呼吸リハビリを行うことで、術後誤嚥性肺炎をはじめとする呼吸器合併症発症のリスクを下げる工夫を行っています。 切除可能食道癌については、比較的早期の状態であるStage I症例(リンパ節転移を伴わない表在癌)を除くと、術前化学療法(主に、シスプラチン/5FU療法を2コース)後の手術が標準治療となっています。これは、JCOG(日本臨床腫瘍グループ)による臨床試験により、Stage II 、III食道癌症例に於いては術前化学療法群が術後化学療法群よりも有意に予後良好であった結果をもとにしています。しかしながら、術前化学療法中の増悪症例を認めることもあり、JCOGではシスプラチン/5FU/DOCといったよ
り強力なレジメンや術前化学放射線療法による新たな臨床試験が行われています。 胸部食道は周囲を気管、大動脈、心臓など重要臓器に囲まれており、癌の増大によりこれらの臓器に浸潤を来します。そのような局所高度進行癌であっても、腫瘍縮小により根治切除が望める場合は、術前化学放射線療法を行った上で切除可能であるかを判断し手術を考慮します。 一方、臓器温存の希望が強い患者さん、病変或いは全身状態の状況で耐術不能の患者さんに対しては根治的化学放射線療法も行います。Stage II 、III症例では手術と比較して長期成績は劣るものの、完全寛解し長期生存を得られる症例も経験します。化学放射線療法の感受性を規定するバイオマーカーの同定が待たれるところです。 緩和治療を有効に行う事ができればQOL向上のみならず生存期間延長へと繋がります。食道癌による通過障害があるものの切除不能でありかつ経口摂取への強い希望がある場合は、症例によっては経口摂取を可能とすることを目的とした食道バイパス手術の適応となります。 このように病変の進行度や患者さんの全身状態およびQOLを考慮しながら症例毎に最適な治療を行っています。
食道造影、内視鏡検査、病理検査、EUS、CTなど
内視鏡治療 外科治療 化学放射線療法(放射線療法)
術後療法
化学療法放射線療法化学放射線療法対症療法
,
術前療法
(食道癌診断・治療ガイドライン 2012年4月版)
食道癌治療のアルゴリズム
Stage 0 StageⅠ StageⅡ,Ⅲ(T1b-T3) StageⅢ(T4),Ⅳa StageⅣb
臨床研究報告 最優秀学術賞(平成26年度)Kyushu Medical Center
観血的医療処置における「抗血栓薬の“休薬”」が関連する3つの重大合併症~MARK研究解析から~ 矢坂 正弘
脳 血 管 ・ 神 経 内 科
いたこともあり、現在でも共同で研究を続けています。今回、その納富先生の医療センター在籍時の研究が口頭発表に選ばれましたので講演に足を運びました。発表内容は加齢黄斑変性の発症機序について組織病理学的な検証と分子生物学的な解析を織り交ぜたものでした。加齢黄斑変性は加齢とともに発症率が高まる代表的な網膜疾患の一つで、網膜の中心である黄斑という部位に変性萎縮が生じ、著しい視力低下をきたします。欧米では以前より失明原因
の第1位であり、日本でも増加の一途を辿っています。しかし、その発症原因についてはまだ謎の多い病気で、早期発見・治療の開発が待たれています。納富先生の発表は加齢黄斑変性発症における眼の老化とオートファジーの因果関係に迫るもので、多数の質問が寄せられ議論は大いに盛り上がりました。彼の留学によってこの研究分野がさらに飛躍することが期待できそうです。
CPC Kyushu Medical Center
再発ホジキンリンパ腫に対する化学療法後に急激な意識障害および呼吸障害を合併した一例血 液 内 科
井上 由衣・高瀬 謙
草野 弘宣・桃崎 征也
50歳代 女性
病 理
15年前当科初診。ホジキンリンパ腫の加療中、寛解増悪を繰り返し7年前にHLA一致の同胞より同種末梢血幹細胞移植施行した。3年前左頸部リンパ節の腫大が出現
し同部位の生検で再発の診断となった。以後、外来フォロー中であったが1年前倦怠感の増強およびCTでの腫瘍増大認め、ブレンツキシマブ・ベドチン(アドセトリス/抗CD30抗体製剤)を導入した。9コース繰り返したが腫瘍は増大し、肺門部病変による咳等の症状や全身倦怠感が増悪したため、GDP療法に切替えて加療継続中であった。今回、化学療法継続目的に当科入院となった。
意識レベル:JCS 0,vital sign:血圧 115/87mmHg,HR 90/min,KT 35.2℃,頭頸部:眼球結膜黄染(-),眼瞼結膜貧血(-),頸部リンパ節触知(-),心音:整,雑音なし,呼吸音:清,ラ音なし,腹部:平坦,軟,圧痛なし,四肢:浮腫(-),冷感(-)
WBC 12,400/μl(Seg 86%,St 1.0%,Ly 8.0%,Mono 2.0%,Eosin 1.0%),RBC 3.74×106/μl,Hgb 13.2g/dl,Plt 184×105pg/μl,TP 6.1g/dl,Alb 3.8g/dl,T-Bil 0.4mg/dl,AST 21U/l,ALT 27U/l,LD
臨床診断 #1ホジキンリンパ腫#2ウイルス性髄膜炎の疑い#3ウイルス性肺炎の疑い
既往歴・生活歴 特記事項無し
現病歴
入院時現症
検査所見
術期にワルファリンを休薬すると、約1%の頻度で血栓症や塞栓症が発症し、その多くは重症で転帰
不良となることが知られている。周術期に抗凝固薬を安易に中止すると、「抗凝固薬、勝手に止めると悔い残す!」という結果になりかねないのである。したがって、継続できる場合は抗凝固薬継続下で観血的医療処置を行い、継続できない場合には休薬せざるを得ないが、血栓・塞栓症の発症率の軽減を目的として周術期にヘパリンによる代替療法を考慮する。ヘパリンによる代替療法を行っても、観血的医療処置に伴う出血が生体の凝固系を亢進させることや術中にはヘパリンを投与できないことから、休薬に伴う血栓症や塞栓症のリスクを完全に取り除くことは容易ではない。またヘパリンによる抗血栓療法の置換が逆に出血を助長するという警告の報告もある。このように周術期の抗血栓薬管理方法は確立しておらず、臨床現場は混乱している。そこで、周術期の抗血栓薬管理の実態を把握し、適切な抗血栓薬管理の方向性を探索することを目的に、国立病院機構で観血的医療処置時の抗血栓薬の適切な管理に関するEBM研究(MARK研究)が行われた。 国立病院機構61施設の参加を得て、まず観血的処置のリストを作成し、それらの処置を受ける抗血栓療法中の症例を前向きに登録し、患者背景と処置時の抗血栓薬管理の詳細を記録するとともに、処置前2週間から処置後4週間における①虚血イベント、②出血イベント、および③死亡の頻度を調査した。 2012年1月から2014年6月までに59施設から9,992例(72.9±9.7歳、男性68.8%)が登録された。観血的処置未施行、同意撤回、最終調査未施行等で292例を除く9,700例(97.1%)を解析対象とした。抗血栓薬は3,551例で継続され(36.6%、継続群)、他の6,149例で休薬された(63.4%、休薬群)。休薬群はより高齢(73.4±8.9歳
周 vs. 72.1±10.8歳, p<0.001)で、心房細動、脳梗塞、TIAが多く、逆に人工弁、狭心症、心筋梗塞、高コレステロール血症、および糖尿病は継続群で多かった。抗凝固薬(抗血小板薬の併用を含む)は休薬群で多かった(28.1% vs. 25.5%, p=0.005)。開胸や開腹手術および全身麻酔は休薬群で多かった (それぞれ12.1% vs. 0.2%, p<0.001、9.8% vs. 0.4%, p<0.001、52.8% vs. 9.7%, p<0.001)。血栓塞栓症は休薬群でより多く観察された(1.7% vs. 0.7%, p<0.01)(図)。出血や死亡も休薬群で多かった(13.7% vs. 8.5%, p<0.01、0.8% vs. 0.4%, p=0.02)(図)。抗血栓薬の休薬は①虚血イベントと関連するのみならず、②出血や③死亡と関連していた。 休薬すると抗血栓薬の作用がなくなることと、観血的手技によって生体の凝固系が亢進し、血栓塞栓症が生じ易くなるものと推察される。休薬群は高齢で、侵襲の大きい手技が多かったことが出血性合併症と関連していた可能性がある。さらに休薬群は高齢で血栓塞栓症や出血性合併症が多かったため死亡例が増加したものと思われる。休薬は①血栓塞栓症のリスクのみならず、②出血や③死亡事象の3つの重大な合併症と関係しており、休薬時は必ず十分な説明に基づく同意を文書でとるべきである。今後、基礎疾患、抗血栓薬、および侵襲度毎に虚血や出血イベントのサブ解析を行い、周術期の適切な抗血栓薬の管理方法を究明したい。
0
1
2
休薬群 継続群
(%)
血栓・塞栓症(n=128)
0
10
20
休薬群 継続群0
0.5
1
休薬群 継続群
出血(n=1,144) 死亡(n=65)
(%) (%)13.7 8.5
1.7
0.650.8
0.4
391U/l,γGTP 103U/l,ALP 174U/l,Na 135mEq/l,K 4.2mEq/l,Cl 96mEq/l,BUN 15mg/dl,Cre 0.52mg/dl,CRP 0.34mg/dl,CMV C7HRP 44/50,000
入院時、CMV抗原強陽性であった。化学療法での免疫低下に伴う状態悪化を危惧し、抗ウイルス薬投与により加療を行った。速やかにデータは改善し、陰性化を確認したのち化学療法を開始した。前回レジメンのGDP療法(ゲムシタビン、デカドロン、シスプラチン)により肺門部リンパ節病変は著明に縮小し、治療効果認めていた。しかし、化学療法後より酸素化の低下を認め、ゲムシタビン投与に伴う薬剤性の間質性肺炎も鑑別の一つとなっていた。この経過より、今回GEMの投与は見合わせESHAP療法(エトポシド、シスプラチン、シタラビン、メチルプレドニゾロン)を選択した。化学療法7日目より38℃台の発熱および血圧低下、意識レベル低下(JCSⅠ-2)が出現した。長期のステロイド投与に引き続きレジメンでの大量ステロイド投与が終了した時期であったため、離脱症状を疑いステロイド投与を行った。また、敗血症の可能性も考慮して抗菌薬の投与を開始した。結果的に血液培養で原因菌の検出はなかった。治療は奏功し発熱、循環動態は速やかに改善したが意識レベルの低下は遷延した。11日目に再度38℃台の発熱が出現し、意識レベルも低下(Ⅱ-10)した。胸部レントゲン、胸部CTでは間質影の増強および左下葉背側の区域性の浸潤影を認め、ウイルス性肺炎や意識障害による誤嚥性肺炎も疑われる所見であった。頭部造影MRIでは、FLAIR像で小脳半球、後頭葉から頭頂葉脳表主体に造影効果を伴う高信号を認め、髄膜炎や腫瘍浸潤を疑う所見であった。臨床的に免疫低下による感染症を疑い、抗菌薬や抗ウイルス薬、抗真菌薬で加療行ったが状態改善は認めなかった。その後も酸素化および意識レベルの低下は進行し、非侵襲的陽圧換気を導入したが、この時点でご家族は、より侵襲的な治療介入は希望されず、15日目に無尿となり18日目に永眠された。
剖検時リンパ節の腫大は乏しく、特に目立った縦隔リンパ節においても線維性瘢痕が見られるのみであり腫瘍
細胞の残存は認められなかった。骨髄にも異型細胞は認められなかった。原疾患に対する治療は奏功していたと考えられる。意識障害の原因として臨床的にはウイルス性髄膜炎の可能性が考えられていたが、剖検時activeな炎症所見は認められなかった。しかしながらくも膜下にはやや組織球が目立ち、髄膜炎の既往はあったものと推察される。PAS, グロコット染色にて真菌(-)、免疫染色ではCMV(-), HSV1(-), HSV2(-)であった。肺は両側とも著明な重量の増加が認められ、含気は乏しい状態であった。組織学的には両側いずれの部位においても高度の肺出血・肺水腫が認められた。肺胞隔壁は浮腫状で、不明瞭・非典型的ながら硝子膜の形成もうかがわれることから、びまん性肺胞障害の可能性も考えられる。直接死因としてはARDSからの呼吸不全が第一に考えられる。ARDSに至った原因は不明であるが、少なくとも剖検時において特異的な感染所見や腫瘍細胞の浸潤は認められなかった。右副腎の陳旧性の線維化巣は腫瘍細胞が消退したものと考えられ、本症例における意識障害の原因とは考えがたい。肝臓で見られた肝細胞の変性や類洞におよぶ線維化はうっ血肝、化学療法に伴う類洞閉塞症候群の可能性が考えられる。
1.ホジキンリンパ腫 化学療法・同種末梢血肝細胞移植後 剖検時寛解の状態
2.肺出血・肺水腫・びまん性肺胞障害疑い (肺重量 左980g, 右1110g)
3.肝線維化 (うっ血性肝障害・類洞閉塞症候群疑い)4.右副腎線維化5.急性尿細管壊死疑い6.心肥大 (心重量 390g)7.大動脈粥状硬化 軽度8.腔水症 (胸水 左右ともに200ml淡血性, 腹水
800ml漿液性)
当症例は、化学療法抵抗性のホジキンリンパ腫に対する同種末梢血幹細胞移植施行後に再発し、化学療法による加療継続中であった。剖検では、リンパ節の腫大は乏しく、肉眼的に腫大が目立った縦隔リンパ節においても腫瘍細胞の残存は認めず、リンパ腫の消退後変化と推察される繊維性瘢痕のみであった。骨髄にも異型細胞は認められず、剖検所見上は寛解の状態であると考えられた。意
考 察
:Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅲ
VCM
G-CSF
ACV PFA
36
37
38
39
40
day7 day8 day9 day10 day11 day12 day13 day14 day15 day16 day17 day18
ACV PFA
【臨床経過】
MEPM TAZ/PIPC
L-AMB
steroid
O2投与
血培採取 血培採取
喀痰採取
髄液採取
喀痰採取
解剖所見
病理診断
縦隔リンパ節 右肺下葉
入院後経過
391U/l,γGTP 103U/l,ALP 174U/l,Na 135mEq/l,K 4.2mEq/l,Cl 96mEq/l,BUN 15mg/dl,Cre 0.52mg/dl,CRP 0.34mg/dl,CMV C7HRP 44/50,000
入院時、CMV抗原強陽性であった。化学療法での免疫低下に伴う状態悪化を危惧し、抗ウイルス薬投与により加療を行った。速やかにデータは改善し、陰性化を確認したのち化学療法を開始した。前回レジメンのGDP療法(ゲムシタビン、デカドロン、シスプラチン)により肺門部リンパ節病変は著明に縮小し、治療効果認めていた。しかし、化学療法後より酸素化の低下を認め、ゲムシタビン投与に伴う薬剤性の間質性肺炎も鑑別の一つとなっていた。この経過より、今回GEMの投与は見合わせESHAP療法(エトポシド、シスプラチン、シタラビン、メチルプレドニゾロン)を選択した。化学療法7日目より38℃台の発熱および血圧低下、意識レベル低下(JCSⅠ-2)が出現した。長期のステロイド投与に引き続きレジメンでの大量ステロイド投与が終了した時期であったため、離脱症状を疑いステロイド投与を行った。また、敗血症の可能性も考慮して抗菌薬の投与を開始した。結果的に血液培養で原因菌の検出はなかった。治療は奏功し発熱、循環動態は速やかに改善したが意識レベルの低下は遷延した。11日目に再度38℃台の発熱が出現し、意識レベルも低下(Ⅱ-10)した。胸部レントゲン、胸部CTでは間質影の増強および左下葉背側の区域性の浸潤影を認め、ウイルス性肺炎や意識障害による誤嚥性肺炎も疑われる所見であった。頭部造影MRIでは、FLAIR像で小脳半球、後頭葉から頭頂葉脳表主体に造影効果を伴う高信号を認め、髄膜炎や腫瘍浸潤を疑う所見であった。臨床的に免疫低下による感染症を疑い、抗菌薬や抗ウイルス薬、抗真菌薬で加療行ったが状態改善は認めなかった。その後も酸素化および意識レベルの低下は進行し、非侵襲的陽圧換気を導入したが、この時点でご家族は、より侵襲的な治療介入は希望されず、15日目に無尿となり18日目に永眠された。
剖検時リンパ節の腫大は乏しく、特に目立った縦隔リンパ節においても線維性瘢痕が見られるのみであり腫瘍
細胞の残存は認められなかった。骨髄にも異型細胞は認められなかった。原疾患に対する治療は奏功していたと考えられる。意識障害の原因として臨床的にはウイルス性髄膜炎の可能性が考えられていたが、剖検時activeな炎症所見は認められなかった。しかしながらくも膜下にはやや組織球が目立ち、髄膜炎の既往はあったものと推察される。PAS, グロコット染色にて真菌(-)、免疫染色ではCMV(-), HSV1(-), HSV2(-)であった。肺は両側とも著明な重量の増加が認められ、含気は乏しい状態であった。組織学的には両側いずれの部位においても高度の肺出血・肺水腫が認められた。肺胞隔壁は浮腫状で、不明瞭・非典型的ながら硝子膜の形成もうかがわれることから、びまん性肺胞障害の可能性も考えられる。直接死因としてはARDSからの呼吸不全が第一に考えられる。ARDSに至った原因は不明であるが、少なくとも剖検時において特異的な感染所見や腫瘍細胞の浸潤は認められなかった。右副腎の陳旧性の線維化巣は腫瘍細胞が消退したものと考えられ、本症例における意識障害の原因とは考えがたい。肝臓で見られた肝細胞の変性や類洞におよぶ線維化はうっ血肝、化学療法に伴う類洞閉塞症候群の可能性が考えられる。
1.ホジキンリンパ腫 化学療法・同種末梢血肝細胞移植後 剖検時寛解の状態
2.肺出血・肺水腫・びまん性肺胞障害疑い (肺重量 左980g, 右1110g)
3.肝線維化 (うっ血性肝障害・類洞閉塞症候群疑い)4.右副腎線維化5.急性尿細管壊死疑い6.心肥大 (心重量 390g)7.大動脈粥状硬化 軽度8.腔水症 (胸水 左右ともに200ml淡血性, 腹水
800ml漿液性)
当症例は、化学療法抵抗性のホジキンリンパ腫に対する同種末梢血幹細胞移植施行後に再発し、化学療法による加療継続中であった。剖検では、リンパ節の腫大は乏しく、肉眼的に腫大が目立った縦隔リンパ節においても腫瘍細胞の残存は認めず、リンパ腫の消退後変化と推察される繊維性瘢痕のみであった。骨髄にも異型細胞は認められず、剖検所見上は寛解の状態であると考えられた。意
考 察
:Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅲ
VCM
G-CSF
ACV PFA
36
37
38
39
40
day7 day8 day9 day10 day11 day12 day13 day14 day15 day16 day17 day18
ACV PFA
【臨床経過】
MEPM TAZ/PIPC
L-AMB
steroid
O2投与
血培採取 血培採取
喀痰採取
髄液採取
喀痰採取
解剖所見
病理診断
縦隔リンパ節 右肺下葉
臨 床 研 究 支 援 セ ン タ ー
Kyushu Medical Center臨床試験支援センター
荒木 志乃
当院における研究者への教育・研修システムについて
臨 床研究については、「臨床研究に関する倫理指針」及び「疫学研究に関する倫理指針」によりその適正
な実施が図られてきましたが、近年の研究の多様化に伴い両指針の適用関係が不明確になってきたことや、近年の研究をめぐる不適正事案が発生したことなどを踏まえて、両指針を統合する形で「人を対象とする医学系研究に
関する倫理指針(新指針)」が平成27年4月から施行されました。新指針は、「研究の信頼性確保」に重点をおいた内容となっており、研究者への教育・研修に関する規定が新たに追加されました。教育・研修の内容には、研究活動における不正行為や、研究活動に係る利益相反等も含まれ、当院においても教育・研修システムの構築が求められました。 当院では、国立病院機構本部が導入したCITI Japan教育研修プログラムを活用して研究者への教育・研修を行っていくこととしました。研究者の教育・研修受講の有無については、倫理審査申請書の様式を変更することで確
Kyushu Medical Center委員会報告
麻生嶋 和子
倫理審査の効率化への取り組み
近 年の臨床研究の多様化と臨床研究をめぐる不正事案が発生したことなどから、「疫学研究に関する倫
理指針」及び「臨床研究に関する倫理指針」が統合され、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が本年4月より施行されたことは、ご承知のことと思います。当院の倫理審査委員会への申請は、年々増加しており、2014年度の臨床研究の新規申請は150課題を超えました。このように課題数の増加や研究の多様化している状況で、データの信頼性を確保、被験者の人権保護など、指針上の重要な項目について、倫理審査委員会で十分な審議が行うことができるように、審査の効率化が必要と考え、委員長の指導のもと、今年度より事前審査を行うことにいたしました。昨年度までは、申請月の事務局の担当者が申請課題ごとに倫理指針と照らし合わせて申請資料の確認作業を行い、申請資料を整えたあと、委員長と事務局で審議が円滑に進むように重点的に審議する点について打ち合わせしていました。今年度からは申請資料の一次チェックが終わったあとに、倫理審査委員会事務局メンバー(副
事務局長、CRC、申請担当事務)で事前審査を行っています。事務局では、課題ごとに「被験者保護」「研究の透明性」などの研究の倫理面について、指針と照らし合わせながら、入念に申請資料を確認しています。最近は、当院の研究者が作成した介入研究の申請も増加傾向にあり、「科学的な妥当性と正当性」についても、さらに十分な審査が必要であるため、複数の診療科の先生方にもアドバイザーの立場で、事前審査にご協力いただくようになりました。事前審査でのアドバイスや疑義事項などは申請者にフィードバックして申請資料を最終版に確定し、倫理審査委員会に臨んでいます。 事前審査以外にも、論文投稿や学会発表を行う院内研究に関しては、月一回審査から、指名された委員による迅速審査に審査方法を変更し、審査の効率化を図っています。 このように今年度からさらに多くの方々に倫理審査委員会の業務に関わっていただくことで、審査の効率化だけでなく、より細やかな審査ができるようになりました。 倫理審査委員会事務局では、微力ではありますが、研究者の皆さんの支援をさせていただきたいと考えておりますので、今後ともご協力お願いいたします。
臨 床 試 験 支 援 セ ン タ ー
入院後経過
識障害については、MRI所見ではFLAIR像において脳表にGd造影による増強効果を伴う高信号を認め、髄膜炎や腫瘍浸潤を疑う所見であった。一方で、髄液所見では蛋白、細胞数の上昇や糖の低下は認めず、細菌・真菌による中枢神経感染症は否定的であり、原疾患の中枢浸潤やウイルス性の髄膜炎等が疑われた。また、髄液中に腫瘍細胞は検出されなかったが、髄液中IL-10値は18pg/mlと著明な上昇を認めていた。髄液中IL-10の上昇は非ホジキンリンパ腫の中枢神経病変で比較的特徴的な所見とされているが、中枢神経浸潤自体が非常にまれであるとされるホジキンリンパ腫においては、その有用性は不明である。剖
検では、肉眼的に髄膜炎を示唆する所見は乏しく、組織学的にくも膜下への組織球の浸潤も軽度にとどまっており、異型細胞の浸潤も認めなかった。呼吸障害について、胸部CTではびまん性の透過性低下および間質影の増強を認め、臨床経過から薬剤やウイルス性の肺炎を考慮し対応したが治療抵抗性であった。剖検では、極めて高度の肺水腫・肺出血が認められ、びまん性肺胞障害を疑う所見であった。以上の所見より、直接死因としては何らかの炎症等から惹起されたARDSによる呼吸不全が想定されるが、剖検所見においてもARDSの原因となるactiveな炎症や腫瘍浸潤の所見は認められなかった。
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国立病院機構 九州医療センター
発 行 責 任 者:臨床研究センター長医療管理企画運営部長がん臨床研究部長組織保存移植生化学免疫病理研究企画開発化学療法放射線治療開発システム疾患生命科学推進医療情報管理臨床試験支援センター
各研究室室長・副室長:
岡田 靖(臨床研究企画運営部長併任)才津秀樹楠本哲也岡村精一、江崎幸雄河内茂人、冨永光裕中牟田誠、久冨智朗蓮尾泰之、内野慶太松村泰成、坂本直孝佐藤真司、小河 淳原田直彦、占部和敬岡田 靖、佐藤栄梨
臨床研究推進部長トランスレーショナル研究部長病態生理動態画像情報解析臨床腫瘍病理先端医療技術応用医療システムイノベーション教育研修
2020年東京オリンピックのメイン会場、新国立競技場整
備計画は建設費が2520億円に肥大化してしまい当初計画
は白紙撤回となりました。華々しく発表されたオリンピッ
ク公式エンブレムも使用中止となりました。使用中止まで
の混乱はSTAP細胞事件に似ています。エンブレムを使用中
止にすることは簡単なことですが、信用を再構築すること
は生半可なことではできません。
(原田)
矢坂正弘富田幸裕中村俊博、一木昌郎、村里嘉信黒岩俊郎、桑城貴弘吉住秀之、大城英作桃崎征也、中川志乃小野原俊博、高見裕子詠田眞治、甲斐哲也、津本智幸末松栄一、山田展代
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学会のお知らせ
福岡国際会議場会 場
2016年 1月23日(土)、24日(日)松林(名本)路花(九州医療センター 乳腺センター副センター長・放射線科医長)平田 秀紀(九州大学)松本 俊郎(大分大学)
世話人
セミナー案内URL:http://www.jcr.or.jp/semina/semina_fuyu.html
認できるようにし、教育・研修を受けていない研究者に対してCITI Japanの受講を促し、全ての研究者が教育・研修を受けることができるよう体制整備を行いました。また、看護部についは全職員がCITI Japanを受講できる環境にないため、年に1回開催される看護研究レクチャーに倫理に関する講義を取り入れることで対応することとしました。このような取り組みで、多くの研究者に教育・研修を受講していただくことができましたが、未だ全ての研究者が教育・研修の受講を終了しているわけではありませんし、研究期間中は継続した教育・研修が必要となりますので、引き続き研究における教育・研修の必要性について院内で啓発し、CITI Japan等の受講率の向上に努めていきたいと思います。 CITI Japan は、受講を終了すると修了証が発行されますので、他の施設に異動された際も継続して研究を実施することが可能となります。 臨床試験支援センターでは、研究者が新指針を遵守した臨床研究を実施できるよう支援体制の整備を進めていきますので、今後も活発な臨床試験の実施と臨床研究支
援センターの運営への協力をお願いいたします。<当院における教育・研修の受講対象者>●医師:研修医以外の全医師 ➡ CITI Japan受講●メディカルスタッフ:研究責任者、共同研究者 ➡ CITI Japan受講●看護部:看護研究実施者 ➡ CITI Japan又は看護研究レクチャー受講
CITI JapanのURL:http://edu.citiprogram.jp/
一般社団法人 日本放射線科専門医会・医会(JCR)「第29回ミッドウィンターセミナー」
NHO九州医療センター事務局
沖縄コンベンションセンター、宜野湾市体育館、ラグナガーデンホテル、カルチャーリゾートフェストーネ
会 場
2016年 11月11日(金)~12日(土)村中 光(NHO九州医療センター院長)岩永 知秋(NHO福岡病院 院長)川畑 勉(NHO沖縄病院 院長)
会 長
副会長
案内URL:http: //www.congre.co.jp/nms70
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国立病院機構九州医療センター災害対策マニュアル
演 題
2015年 2月27日川鍋 育郎(看護部 診療看護師JNP)小林 良三(救急部)
表彰者名
急性期再開通療法におけるLINEを用いた時間短縮及び手術情報共有の取り組み
演 題
2015年 8月29日徳永 聡(脳血管内治療科)表彰者名
優秀ポスター賞第34回 Mt. Fuji Workshop on CVD
会長賞第20回日本集団災害医学会総会・学術集会
院外表彰者のお知らせ
平成27年度
第70回 国立病院総合医学会THE 70TH ANNUAL MEETING OF JAPANESE SOCIETY OF NATIONAL MEDICAL SERVICES