10

byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

i

Page 2: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

ii

by

KOJI AKASAKA

YOSHIHIKO OHYAMA

SHOKABO

TOKYO

Principle of Gene Technology

本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利者に無断で、複製、公衆送信、出版、貸与、翻訳、翻案および改編するなど、本作品の権利を侵害する方法で利用することを禁止します。

電子書籍の不正コピーは法律により罰せられます。

Page 3: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

1

cDNA クローニングの原理

第Ⅰ部

 遺伝子操作の基本原理を学ぶために,遺伝子が簡単には入手できない状況

から始めよう.第Ⅰ部は「1.あるタンパク質の機能を解析したい.2.精

製したタンパク質は手に入れることができた.3.さらに研究を発展させる

ために,研究したいタンパク質の遺伝子をクローニングしたい.4.クロー

ニングした遺伝子を使ってさまざまな実験をしたい」という動機があること

を前提に書かれている.

 遺伝子はタンパク質の情報を担っている.タンパク質の情報は,ヒトの

場合,ゲノムの塩基配列のわずか 1.2%に過ぎない.タンパク質の情報は

mRNA としてゲノム DNA から転写される.mRNA の配列情報が得られれば,

98.8%も占めるゲノムの非タンパク質情報を排除することができ,効率的で

ある.

 RNA の情報は,逆転写酵素を使えば DNA に逆転写することができる.

mRNA を逆転写して合成した DNA を cDNA(complementary DNA)という.

cDNA を 2 本鎖 DNA にすることができれば,宿主で増やすことができる.

宿主で増えた cDNA クローンの集団をライブラリー(library)という.ライ

ブラリーの中から目的の配列をもつクローンを見つけ出すことをスクリーニ

ング(screening)といい,標的の配列を特異的に検出する分子をプローブ

(probe:探り針の意味)とよぶ.また,目的のクローンを単離することを

クローニング(cloning)という.

5

10

15

20

25

Page 4: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

2

■ 1 章 mRNAの分離と精製

 精製したタンパク質があれば,アミノ酸配列を調べることができる.ア

ミノ酸配列がわかれば,コドン表と照らし合わせて,cDNA の塩基配列を予

測できる.短い塩基配列ならば,人工的に試験管の中で特定の塩基配列の

DNA を合成することができる.cDNA に相補する塩基配列の DNA を合成・

標識してプローブとし,ハイブリダイゼーションとよばれる技術を用いて,

ライブラリーから目的の cDNA クローンを検出し,クローニングすること

ができる.

 得られた cDNA クローンを用いれば,タンパク質の合成や,合成したタ

ンパク質の機能解析,遺伝子の発現解析もできる.また,cDNA をプローブ

としてゲノムライブラリーから遺伝子をクローニングし,遺伝子発現調節機

構の解析も可能になる.

第Ⅰ部

第Ⅱ部

ライブラリーのスクリーニング

RNAの抽出 ↓mRNAの精製 ↓cDNA合成 ↓cDNAライブラリーの作製 ↓ ↓クローンの単離 ↓

 可能になる実験    組換えタンパク質の合成・機能解析    クローン配列を使った遺伝子発現解析    ゲノム遺伝子のクローン化    転写調節の解析

精製タンパク質 ↓アミノ酸配列の決定 ↓cDNAの塩基配列を予測 ↓プローブの合成

第Ⅲ部

5

10

15

20

25

Page 5: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

3

1.1 RNA の抽出■

1章 mRNA の分離と精製    遺伝情報が写し取られた RNA を抽出すれば,逆転写により cDNA を得る

ことができる.しかし,RNA を分解する酵素のリボヌクレアーゼ(RNase)

は身の回りの至るところにあり,RNA を無傷のまま取り出すには工夫が必

要である.また,mRNA は全 RNA のわずか数パーセントしか存在しないため,

mRNA を分離する必要がある.遺伝子操作の第一ステップの RNA 抽出の原

理を学ぼう.

 1.1 RNA の抽出

 分解されやすい RNA を抽出するには,リボヌクレアーゼの働きを徹底的

に抑制し,その間にリボヌクレアーゼも含めて,タンパク質,脂質,DNA,

糖類を除去する.精製した RNA は,リボヌクレアーゼの汚染のない(リボ

ヌクレアーゼフリー)環境で保存し,リボヌクレアーゼフリーの環境下で遺

伝子操作を行う.

「実 験」 組織からの RNA 抽出操作の概略 操 作

1.組織片を RNA 抽出溶液の中に入れ,ホモジェナイズする ❶ *

2.フェノール液を加え,さらにホモジェナイズをする ❻

3.クロロホルムを加える ❾

4.ミキサーで激しく混合する

5.遠心分離する ❼❽

[遠心分離により,水層とフェノール・クロロホルム層に分かれる.上層には水層,

* 「実験操作」の各ステップに「原理と解説」の項目番号を記した.

5

10

15

20

25

Page 6: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

4

■ 1 章 mRNAの分離と精製

5

10

15

20

25

下層にフェノール・クロロホルム層,水層とフェノール・クロロホルム層の境界に

中間層ができる.水層に RNA と多糖類が存在し,中間層にタンパク質・DNA が凝

集する]

6.水層を回収する

7.水層にフェノールとクロロホルムを加え,撹拌,遠心分離する ❾

8.回収した水層について,クロロホルムで 2 回抽出を行う

9.回収した水層にエタノールを加え,沈殿を回収する

[沈殿には RNA と多糖類が含まれている]

 器 具

リボヌクレアーゼの混入を防ぐために,実験用のポリ手袋を着用する.器具は

素手で触れてはならない.プラスチック器具はオートクレーブし,ガラスや金

属器具は乾熱滅菌する.

 試薬・溶液

RNA 抽出溶液:SDS(sodium dodecyl sulfate),グアニジンイソチオシアネー

ト (guanidine isothiocyanate),2- メ ル カ プ ト エ タ ノ ー ル (mercaptoethanol),

EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid) を含む水溶液 ❸~❺

水:通常はオートクレーブした水を使うが,リボヌクレアーゼの混入を徹底的

に排除する場合は,0.1% になるように DEPC(diethyl pyrocarbonate)を純水

に混合し,保温した後にオートクレーブする.❷

 「原理と解説」 タンパク質と RNA の分離

 細胞には,タンパク質,DNA,多糖類などが RNA と混在する.RNA を他

の物質と分画するにはどのようにすればよいだろうか? RNA と DNA,多

糖類は分子の立体構造が変化しても,いずれも親水性である.一方,多くの

タンパク質は,疎水性領域が多く,本来は水に不溶性であるが,親水性領域

を表面に配置することにより,かろうじて水に溶けている状態である.タン

パク質は,環境のイオン組成,加熱,pH 変化,有機溶媒処理により,容易

に不溶化する.RNA 抽出では,タンパク質が有機溶媒に触れると水の中で

不溶性になる性質を利用して,タンパク質を排除する.

Page 7: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

23

2.1 溶液の交換■

5

10

15

20

25

2章 cDNA の合成    mRNA が 得 ら れ れ ば, 逆 転 写 酵 素 に よ り cDNA が 得 ら れ る. し か し,

RNA・DNA ハイブリッド 2 本鎖ではベクターに組み込むことができない.2

本鎖 cDNA を得るために,さまざまな酵素を使って反応を進める.酵素反

応ごとに反応溶液の組成が異なるため,溶液の交換が必要となる.溶液の交

換と,2 本鎖 cDNA の合成までの原理を見ていこう.

 2.1 溶液の交換

 RNA や DNA はエタノールで沈殿するが,反応液のバッファーや塩類は沈

殿しないことを利用すると溶液(反応液)を交換することができる.また,

ゲルろ過クロマトグラフィーに用いる担体にバッファーや塩類は入り込む

が,大きな分子の RNA や DNA は入らないことを利用しても溶液交換が可

能である.

「実験 1」 エタノール沈殿による溶液の交換の概略 操 作

1.溶液に終濃度 0.1 M NaCl,80%エタノールになるように NaCl とエタノール

を加える

2.- 70℃で凍結させ遠心分離する

3.沈殿に,次の操作に使う溶液を加える

※注意 エタノール沈殿による酵素の失活

多くの酵素はエタノール沈殿の過程で変性し失活するため,新しい反応溶液を加えた後,

次の酵素を加えて反応を進めることができる.しかし,エタノールでは失活しない酵素

の場合は,反応条件が変わると活性の特異性が変化することがあるため注意が必要であ

る.特に制限酵素(restriction enzyme)は,最適条件以外では認識配列の特異性が変

Page 8: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

24

■ 2 章 cDNAの合成

5

10

15

20

25

わり,目的の配列以外の箇所で切断される可能性があ

る.エタノールでは失活しない酵素を使用した場合や,

タンパク質を除去したい場合は,フェノール・クロロ

ホルム抽出を行うとよい.

「原理と解説」 有機溶媒による沈殿 核酸はリン酸により負に帯電しているため沈殿しにくいが,エタノール(図

2.1)に,NaCl や LiCl などの塩を加えると沈殿が促進される.

 イソプロパノール(図 2.2)やポリエチレングリコール(PEG)(図 2.3)も,

核酸の沈殿に用いられる.イソプロパノールはエタノールより極性が小さい

ため,沈殿の効率がよい.通常 50%濃度で使用する.しかし,揮発性が低

いため,残存しやすく,後の遺伝子操作反応に影響が出る.イソプロパノー

ルで沈殿させた場合は,沈殿をエタノールで洗うとよい.

 ポリエチレングリコールは,水溶性の高分子ポリエーテルである.高分子

量の DNA を優先的に沈殿させる性質があり,比較的分子量の低い RNA の

除去に用いられる.揮発しないので,沈殿させた後は,エタノールで沈殿を

洗う必要がある.

「実験 2」 ゲルろ過スピンカラムによる溶液の交換の概略 溶液交換に用いるスピンカラム G-25 について述べる(図 2.4).市販のス

ピンカラムは 1.5 mL チューブに載せて遠心分離できる程度の大きさである.

このサイズのカラムでは,交換する溶液の容量は 25 μL 以下に抑える.

図 2.1 エタノールの構造

図 2.2 イソプロパノールの構造2- プロパノール(2-propanol)ともいう.CH3CH(OH)CH3

図 2.3 ポリエチレングリコールの構造

CH3 CH2 OH

CHCH3

OHCH3

HO-(CH2-CH2-O)n-H

Page 9: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

55

4.1 スクリーニングプレートの作製■

5

10

15

20

25

4章 バクテリオファージのクローン化    パッケージングされたバクテリオファージは,それぞれ異なる配列の

cDNA をもつ.個々のファージを分離したまま,クローンとして増やすこと

ができれば,増殖したクローンには同じ配列の cDNA 分子が存在するため,

同じ配列の DNA 分子を大量に得ることができ,化学的に検出することが可

能になる.本章では主に λgt10 を例に述べる.

 4.1 スクリーニングプレートの作製

 液体培地中の大腸菌に,ライブラリーのファージを感染させては,混じり

あったファージが得られるだけであり,クローン化はできない.多数のファー

ジを,個々に分離した状態で増殖させるには,宿主の大腸菌とファージをゲ

ルの中に閉じ込めて,ほとんど動けないようにして増殖させればよい.ここ

で用いるゲルは,大腸菌が分泌する消化酵素で分解されない寒天(アガー:

agar)とアガロース(agarose)を用いる.ライブラリーから特定のクロー

ンを探す操作をスクリーニングという.

「実験 1」 宿主となる大腸菌の調製の概略操 作

1.大腸菌株 C600 hfl (→ p.60)を白金耳でとり,LB 寒天培地(寒天 2%)にス

トリーキングにより撒ま

2.小さいコロニーを選んで採取する ❶

3.マルトース(maltose)を含む NZY 培地にクローン化した C600 hfl を接種

する ❷

4.37℃,激しく撹拌して 4 ~ 6 時間培養する ❸

5.遠心分離により大腸菌を回収する

Page 10: byii by KOJI AKASAKA YOSHIHIKO OHYAMA SHOKABO TOKYO Principle of Gene Technology 本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作者ならびに 裳華房その他第三者に帰属します。本作品の全部または一部について、権利

56

■ 4 章 バクテリオファージのクローン化

5

10

15

20

25

6.大腸菌を 10 mM MgSO4 で懸濁し,希釈して OD600 を 0.5 に合わせる ❺

7.4℃で保存する(48 時間は使える) ❹

試薬・溶液

NZY 培地:栄養源としてカゼインペプトン(casein peptone)( 別名:NZ amine) と

酵母抽出物(yeast extract)を含み,MgSO4 と NaCl を添加している.

LB 培地:栄養源として Bacto-tryptone と酵母抽出物を含み,NaCl を添加している.

LB 寒天培地:2%の寒天を含む LB 培地

 「原理と解説」❶宿主大腸菌のクローン化

 大腸菌を遺伝子操作に使う場合,混入している可能性がある変異大腸菌を

除くために,クローンで構成されたコロニーを形成させ,クローン大腸菌を

得る.実験がうまくいかない場合は,使用した大腸菌に変異が入っている可

能性があるため,別のコロニーのクローンを用いる.hfl に変異をもつ大腸

菌 C600hfl は,変異をもたない大腸菌より増殖速度が遅い.したがって,小

さめのコロニーの大腸菌を選ぶ.

❷マルトースは大腸菌のファージ受容体の形成を促進する

 マルトースを含む培地で大腸菌を培養すると,大腸菌の表面にあるλ

ファージの受容体の形成が促進され,λ ファージの感染効率が高くなる.

❸ファージを増殖させるには増殖期の大腸菌が必要

 大腸菌の培養を 4 ~ 6 時間で止めるのは,活発に増殖している大腸菌を得

るためである.大腸菌が一定以上の密度になると,培地の栄養が枯渇し老廃

物が蓄積する.そのような状態になると,大腸は増殖を止め,休眠に入る.

感染したバクテリオファージは,大腸菌の DNA 複製システムを拝借して増

殖するため,活発に DNA 複製をしている大腸菌を使う必要がある.

❹大腸菌を断食させて増殖状態のまま維持する

 大腸菌を 10 mM MgSO4,4℃で保管するのは,急激に栄養素を絶ち,大

腸菌の生存に不可欠な Mg2 +だけを供給することにより,増殖期の活発な

DNA 複製システムを維持したまま保存するためである.