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106 高田機工技報 No.20 2005 AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による 厚板突合せ溶接継手部試験結果の評価 技術研究所技術開発課長代理 山野 達也 技術研究所長 安田 1.はじめに 平成14年3月の道路橋示方書・同解説(鋼橋編)改訂に 伴い、超音波探傷試験の適用範囲が、8~100mmに拡大さ れ、超音波探傷試験は、原則、超音波自動探傷を適用す ることになった。そこで、本研究は別稿 1) の超音波自動 探傷性能確認試験に追加して試験を行った。 試験方法としては、別稿 1) で 用 い た AUT(Automatic Ultrasonic Testing)探傷法とパイプラインやタンクな どの突合せ継手溶接部の検査に用いられている TOFD(Time of Flight Diffraction)探傷法および新し く開発されたフェイズドアレイ探傷法を用いて探傷した。 TOFD探傷法は、超音波自動探傷性能確認試験に準じた探 傷を行った。また、フェイズドアレイ探傷法については、 代表的な比較的大きな断面のきずに対して探傷を行った。 この3種類の探傷方法を評価した結果を報告する。 2.実験概要 本実験は、別稿 1) 用いた3種類の板厚の試験体を用い た。試験板厚の組み合わせとしては、NA試験体(26× 34mm)、NB試験体(49×76mm)、NC試験体(82×102mm)とし た。試験体形状およびきず挿入については、別稿 1) に記 した。 探傷実験には、日本クラウトクレーマー㈱製の超音波 自動探傷(以下、AUTと呼ぶ)装置、TOFD探傷装置および フェイズドアレイ探傷装置を用いた。また、きず挿入の 検証を行うために探傷実験後、マクロ試験を行ってきず 指示長さ、きず高さ、およびきずの位置を確認した。 写真-1にAUT探傷状況、写真-2にTOFD探傷状況および 写真-3にフェイズドアレイ探傷状況を示す。 以下に各探傷方法の概略および探傷条件を述べる。 写真-1 AUT探傷状況 写真-2 TOFD探傷状況 写真-3 フェイズドアレイ探傷状況

AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による …高田機工技報 No.20 2005 107 2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件 図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

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Page 1: AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による …高田機工技報 No.20 2005 107 2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件 図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

106 高田機工技報 No.20 2005

AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による

厚板突合せ溶接継手部試験結果の評価

技術研究所技術開発課長代理 山野 達也

技術研究所長 安田 修

1.はじめに

平成14年3月の道路橋示方書・同解説(鋼橋編)改訂に

伴い、超音波探傷試験の適用範囲が、8~100mmに拡大さ

れ、超音波探傷試験は、原則、超音波自動探傷を適用す

ることになった。そこで、本研究は別稿1)の超音波自動

探傷性能確認試験に追加して試験を行った。

試験方法としては、別稿 1)で用いたAUT(Automatic

Ultrasonic Testing)探傷法とパイプラインやタンクな

どの突合せ継手溶接部の検査に用いられている

TOFD(Time of Flight Diffraction)探傷法および新し

く開発されたフェイズドアレイ探傷法を用いて探傷した。

TOFD探傷法は、超音波自動探傷性能確認試験に準じた探

傷を行った。また、フェイズドアレイ探傷法については、

代表的な比較的大きな断面のきずに対して探傷を行った。

この3種類の探傷方法を評価した結果を報告する。

2.実験概要

本実験は、別稿1)用いた3種類の板厚の試験体を用い

た。試験板厚の組み合わせとしては、NA試験体(26×

34mm)、NB試験体(49×76mm)、NC試験体(82×102mm)とし

た。試験体形状およびきず挿入については、別稿1)に記

した。

探傷実験には、日本クラウトクレーマー㈱製の超音波

自動探傷(以下、AUTと呼ぶ)装置、TOFD探傷装置および

フェイズドアレイ探傷装置を用いた。また、きず挿入の

検証を行うために探傷実験後、マクロ試験を行ってきず

指示長さ、きず高さ、およびきずの位置を確認した。

写真-1にAUT探傷状況、写真-2にTOFD探傷状況および

写真-3にフェイズドアレイ探傷状況を示す。

以下に各探傷方法の概略および探傷条件を述べる。

写真-1 AUT探傷状況

写真-2 TOFD探傷状況

写真-3 フェイズドアレイ探傷状況

Page 2: AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による …高田機工技報 No.20 2005 107 2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件 図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

高田機工技報 No.20 2005 107

2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件

図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

溶接ビードを挟んで2個の探触子で探傷した。探触子は、

個々のきずからの反射波を受けて、出力時に合成される。

また、走査方法は図-1に示すXY軸の鍵型に自動走査とし

た。表-1にAUT探傷の探傷条件を示す。

2.2 TOFD探傷方法の概要および探傷条件

図-2にTOFD探傷の概略図を示す。本実験のTOFD探傷は、

溶接ビードを挟んで送信探触子からエコーを出して受信

探触子に受けるタンデム探傷法とした。また、走査方法

は、溶接ビード方向に専用手動スキャナーを使用した。

表-2にTOFD探傷の探傷条件を示す。

2.3 フェイズドアレイ探傷方法の概要および探傷条件

図-3にフェイズドアレイ探傷の概略図を示す。本実験

のフェイズドアレイ探傷は、64個の振動子を励振させる

ことにより平面波を発生させ、これに電子走査を加える

ことにより、合成した角度により探傷した。本実験は基

本実験のため探触子の下にくさびを使用していない。ま

た、走査方法は、手動とした。表-3にフェイズドアレイ

探傷の探傷条件を示す。

専用手動スキャナースキャナー

任意範囲のDスキャン、Aスコープを

カーソル指定することにより、きず高さ、

長さを計算

測定機能

ラテラル波及び任意で設定カップリングチェッ

ク機能

Dスキャン及びAスコープ表示方法

240MHz高速AD変換サンプ

リング

波形収録範囲最大600mm(鋼中縦波換

算)波形収録機能

0.5MHz~30MHz周波数帯域

5MHz,中心屈折角60度,

コンポジットプローブ探触子

USI-α TOFDソフトバージョン装置名称

専用手動スキャナースキャナー

任意範囲のDスキャン、Aスコープを

カーソル指定することにより、きず高さ、

長さを計算

測定機能

ラテラル波及び任意で設定カップリングチェッ

ク機能

Dスキャン及びAスコープ表示方法

240MHz高速AD変換サンプ

リング

波形収録範囲最大600mm(鋼中縦波換

算)波形収録機能

0.5MHz~30MHz周波数帯域

5MHz,中心屈折角60度,

コンポジットプローブ探触子

USI-α TOFDソフトバージョン装置名称

XY軸自動スキャナースキャナー

林状エコー方式カップリングチェクの方式

1エコー方式エコー収録方式

5C14×14A7049×76

82×102

2C14×14A6549×76

82×102

5C10×10A70

26×34

49×76

82×102板厚(mm)

探触子

USI-α装置名称

XY軸自動スキャナースキャナー

林状エコー方式カップリングチェクの方式

1エコー方式エコー収録方式

5C14×14A7049×76

82×102

2C14×14A6549×76

82×102

5C10×10A70

26×34

49×76

82×102板厚(mm)

探触子

USI-α装置名称

直接接触による手動走査、縦波斜角法探傷方法

音速5900m/sec

屈折角30度

フォーカス80mm深さ位置設定

設定条件

16エレメント(電子走査にて64エレメント

使用)同時励振

5MHz,1.2mmピッチ

128エレメント

(但し、本体は64ch仕様のため使用エレメ

ントは64)

探触子

PAL-1装置名称

直接接触による手動走査、縦波斜角法探傷方法

音速5900m/sec

屈折角30度

フォーカス80mm深さ位置設定

設定条件

16エレメント(電子走査にて64エレメント

使用)同時励振

5MHz,1.2mmピッチ

128エレメント

(但し、本体は64ch仕様のため使用エレメ

ントは64)

探触子

PAL-1装置名称

図-1 AUT探傷の概略図

表-1 AUT探傷の探傷条件

図-2 TOFD探傷の概略図

表-2 TOFD探傷の探傷条件

表-3 フェイズドアレイ探傷の探傷条件

図-3 フェイズドアレイ探傷の概略図

探触子1 探触子2

走査軌跡

溶接部きず

きずからの反射波

きずからの反射波

送信探触子 受信探触子

走査軌跡

溶接部きず

ラテラル波

表面反射波

きずからの回折波

走査軌跡

溶接部きず

電子走査

フェイズドアレイ探触子

平面波(励振)

Page 3: AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による …高田機工技報 No.20 2005 107 2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件 図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

108 高田機工技報 No.20 2005

3.実験結果

3.1 AUT探傷とTOFD探傷結果

AUT探傷およびTOFD探傷のきず指示

長さと実きず指示長さ(マクロ試験に

より測定)を比較した結果を図-4に示

す。

本実験におけるAUT探傷のきず検出

率は、T/6を越えるきずは100%であ

った。T/6以下のきずの検出率は79%

であった。検出できなかったきずの

種類は、φ2mm以下のブローホールで

あった。また、AUT探傷のきず指示長

さの方が実きず指示長さより多少長

く検出される結果となった。

TOFD探傷のきず検出率は、AUT探

傷とほぼ同じであり、検出できなか

ったきずの種類も同じブローホール

であった。実きず指示長さとTOFD探

傷のきず指示長さと比較した傾向で

は、ほぼ一致する結果となった。

ただし、TOFD探傷のきず指示長さ測

定方法は、NDIS規格などにも規定さ

れておらず、本実験では、図-5に示

す端像間を測定した結果とした。

TOFD探傷の主たる探傷は、きず高

さの測定である。きず高さを測定し

た結果は、きず深さ(上端)がよく一

致しており、検出されたきず高さも

ほぼ一致した。図-6にTOFD探傷にお

けるきず深さおよびきず高さの比較

した結果を示す。また、図-7にきず

高さを測定した端像間の出力図を示

す。

また、MUT探傷におけるきず指示

長さの比較を図-8に示す。MUT探傷

は、AUT探傷およびTOFD探傷と比べ

て、ばらつきを見せている。これは、

MUT探傷の場合、きず指示長さの測

定が、探触子を首ふり走査すること

が、きず指示長さにばらつきを生じ

させていると考えられる。

0

10

20

30

0 10 20 30実きず高さ

TOFDきず高

NA1

NB2

NC1

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100実きず深さ(上端)

TOFDきず深

さ(上

端)

NA1

NB2

NC1

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100実きず指示長さ

AUTきず指

示長

NA1

NB2

NC1

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100実きず指示長さ

TOFDきず

指示

長さ

NA1

NB2

NC1

図-5 TOFD探傷出力図(きず指示長さ)

図-7 TOFD探傷出力図(きず高さ)

(探傷始端像) (探傷終端像)

(探傷上端像) (探傷下端像)

図-6 TOFD探傷におけるきず深さおよびきず高さの比較

図-4 AUTおよびTOFD探傷におけるきず指示長さの比較

Page 4: AUT・TOFDおよびフェイズドアレイ探傷法による …高田機工技報 No.20 2005 107 2.1 AUT探傷方法の概要および探傷条件 図-1にAUT探傷の概略図を示す。本実験のAUT探傷は、

高田機工技報 No.20 2005 109

3.2 フェイズドアレイ探傷結果

フェイズドアレイ探傷は、NC試験体のT/6以上(4個)の

大きな断面のきずのみ対象とした。その対象としたきず

の出力図として、図-9にTOFD探傷出力図、図-10にフェ

イズドアレイ探傷出力図および写真-4にマクロ試験結果

を示す。

探傷結果は、マクロ断面内にあるきず高さの測定値

4.0mmと、フェイズドアレイ探傷のきず高さ測定値3.8mm

とがほぼ一致した。また、TOFD探傷のきず高さ測定値

3.8mmにおいてもほぼ一致した。

4.まとめ

本研究では、最大板厚100mmまでに適用するために、

きずを挿入した溶接継手試験体の探傷実験を行った。

その結果以下のことが判明した。

① 本実験に用いたAUT探傷装置が、きず指示長さの

測定に有効である。

② TOFD探傷におけるきず指示長さおよびきず高さの

測定精度が比較的良い。

③ フェイズアレイ探傷がきず高さを精度よく検出す

る有効な方法の一つである。

今後、TOFD探傷方法は試験結果の分類が規格化され、

フェイズドアレイ探傷法は、探傷方法の規格化が求めら

れる。

5.おわりに

本実験には、東洋検査工業㈱および日本クラウトクレ

ーマー㈱のご協力を頂いた。

[参考文献]

1)山野、大前、小澤:超音波自動探傷(AUT)性能確認試験、高田

機工技報、No.21、2005.

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60 80 100

実きず指示長さ

MUTきず

指示

長さ

NA1

NB2

NC1

図-8 MUT探傷におけるきず指示長さの比較

図-9 TOFD探傷出力図 図-10 フェイズドアレイ探傷出力図 写真-4 マクロ試験結果