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ヨーロッパにおける オルガンのルーツ イヴ・ケーニヒ フランス語訳:友利 修(国立音楽大学 准教授

Aucun titre de diapositive周知のように、いかなる形の芸術のものであれ、その芸 術の言語は、それを生み出した文化の反映である。この ことは、音楽について、そして特にオルガンについてさ

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Page 1: Aucun titre de diapositive周知のように、いかなる形の芸術のものであれ、その芸 術の言語は、それを生み出した文化の反映である。この ことは、音楽について、そして特にオルガンについてさ

ヨーロッパにおける

オルガンのルーツ

イヴ・ケーニヒ

フランス語訳:友利 修(国立音楽大学 准教授)

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周知のように、いかなる形の芸術のものであれ、その芸術の言語は、それを生み出した文化の反映である。このことは、音楽について、そして特にオルガンについてさらによく当てはまる。というのも音の言語がそこにかかわっているからである。ある地方で用いられている言語と音楽、そしてオルガンの間には対応関係があると言っても言い過ぎではないだろう。

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人間の言語の構築法において、それが話される地方によって異なる根本原則があるのを認めることができる。ここでは、ドイツ人とフランス人の間の比較分析に限っておこう。

もちろん、これらの知見をある程度アングロサクソン諸国へも拡大適応し、ラテン系の諸国との比較に用いることもできる。

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談話や講演において、ドイツ人はフランス人よりも注意深く耳を傾ける。このまぎれもない事実の理由として、ドイツ人の性格や、律儀さを持ち出すのは部分的な説明にしかすぎない。 フランス語の文の構成では、その全体的な意味を、いくつかのキーワードによって、そしてしばしば文の冒頭によって理解するのは容易であり、続きの部分は装飾や付属品に過ぎないと感じられたりもする。そして、聴き手は言葉の音楽的な響きに心地よく身を委ねるだけとなる。これに対し、ドイツ語においては、文の意味を理解するために、また、誤解を避け、逆の意味に理解するのを避けるためには、その最後の語まで聴かなければならない。

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こうしたことは、言語の調音について言うこともできる。

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語の調音、明瞭な発音は、口腔の中を通過していく空気の流れで作り出される母音によって成される。口腔は声帯によって発せられた音の共鳴器の役割を果たす。地域によっては人は、語の一部の音を聴き手の推測に任せて省略しながら話す。別の地域では、人々は一音一音を明瞭に話す。そのことによって人々の相互理解やコミュニケーションが容易となる。

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マルセル・プルースト

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プルーストの次の言葉は音楽と言語の関係をはっきりと示している -- 「もし言語の発明がなかったとするなら、音楽は恐らく、語の形成、思考の分析、魂の交感の存在しうる唯一の形であったろう。」 これらのことを音楽の言語に応用する前に、音楽において、そして特にオルガンの音楽において重要な役割を果している別の側面について語ることにしたい。

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ミヌー・ドゥルエ

詩人のミヌー・ドゥルエは「音楽、この、世界で最も美しい宗教、そこには脅迫も約束もない」と述べている。

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ここで、キリスト教の宗派について述べることにしよう。というのも、それらはヨーロッパのルーツの一部を成しているからである。そして、ヨーロッパの二つの主要な宗教と、それらがインスピレーションを与えた音楽の対応関係を見てみたい。正教についてはここで意図的に省いているが、それは、この宗派が、西欧ではほとんど根付いていないというのと、声楽しか用いていないという理由からである。というわけで、オルガンの音楽を用いているプロテスタントとカトリックについてのみこれから語ることにしたい。

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カトリシズム

プロテスタンティズム

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音楽は2つのそれぞれの宗派の典礼において重要な位置を占めている。音楽、そして特にオルガンの音楽は、キリスト教の信仰の荘重さと悲しみの相貌にまったくふさわしいものである。いかなる芸術も、音楽ほどには人の心に触れはしない。しかしこの2つの宗派は、同じキリスト教徒といえその信徒の心を動かすために、違った道を選んだのである。

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カトリックの宗派においては、長い間、音楽の本質的な要素は、修道士たちのもので純粋で禁欲的な歌であるグレゴリオ聖歌であり続けた。その後17世紀になると、ミサに注釈や説明を加えるためのモテ(モテット)が出現する。

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オルガンのフランスの楽派は17世紀の前半に形成され、18世紀にその絶頂期を迎える。それはまた「フランスの古典的オルガン建造技術」が多くの天才的なオルガン建造家によって完成された時でもあった。その中で、その著書によって最も有名な建造家は、ドン・ブド・ドゥ・セル (1709-1779)である。

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ドン・ブド・ドゥ・セル

彼のすばらしい百科全書的著書は、現在でもその有用性を失っていない。

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百科全書 1766

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このタイプの楽器を用いた作曲家は数多い。しかしそのいずれもドイツのブクステフーデやバッハに比べられるような音楽を楽譜として残してはいない。 というのも、これらの作曲家の大部分は、後世のために書き残すよりも、単旋聖歌のモチーフを用いた即興に多くの時間を費やしたからである。オルガンの役割は本質的には、典礼のため限定されていたのであった。当時最も有名な作曲家たちでさえオルガンのためには極めて少数の作品しか残していない。 その中で最も有名なのはフランソワ・クープランである。

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フランソワ・ クープラン

1668-1733

パリ

サン・ジェルヴェ教会の

オルガニスト

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パリ、サン・ジェルヴェ教会

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F. クープランの好敵手

ルイ・

マルシャン 1669-1732

ヴェルサイユ宮殿のオルガニスト

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ヴェルサイユ宮殿

王室礼拝堂

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一方、ニコラ・ド・グリニーも忘れてはならない。

彼は有望な前途を約束されていたが若くして亡くなった。

1699年に出版されたオルガン曲集をただ1冊残すのみである。

ニコラ・ド・グリニー

1672-1703

ランス大聖堂のオルガニスト

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ランス大聖堂 オルガンは残念ながら何度も変更改修され、グリニーが演奏していたときの楽器から何の跡形もとどめていない。

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ポワチエ サン・マクシマン

この時代の最盛期の様子を最もよく伝えるオルガンを見学し、聴くには、ポワ

チエ、あるいはヴァール県のサン・マクシマンを訪れるのがよいだろう。

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あるいは、

ロデズ大聖堂 1628 – 1678

他に、それほど有名作ではないが、同じように当時のそのままを伝える楽器があるのは、

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ヴァーブル・ラベイ

ジョワンヴィル

ヌムール

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ヴィズリーズ

1775

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最も古い楽器があるのが

ロリス 1501

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フランスの作曲家による作品では、レジスターの用法、音色の配合は常に極めて厳格に定められていた。その一方でこれらの作品は、しばしば、「演奏解釈」のための土台であり、オルガン奏者が装飾を補完し、いわば装わせるものであった。この事情を理解しないと、フランスのレパートリーの音楽語法を本当に理解したことにはならない。この音楽は、そうした装飾を付けずに演奏されるなら、味気なく痩せ細ったものに聞こえるだろう。これらの作品はつまり、演説の中心的意味を理解させるキーワードを定めるものではあるが、その聴き手を魅了するためには、それぞれのオルガン奏者に個性的表現を加えることが任せられているのである。

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クープラン テノールの3度管

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才能ある弁論家によって用いられる時にのみ美しいものとなるフランス語との類似性がここにある。力強さや優しさ、喜びや悲しみを際だたせるのは弁論家の腕によるのである。

信徒の心を感動させなければならないカトリックの礼拝にも同じことが言える。その教理には、地域の伝統への適応が伴われている。ヨーロッパの南に行けば行くほど、カトリックの礼拝とそれに伴う音楽は情感的、そして劇的なものとさえなる。

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劇音楽と宗教音楽の境界線が、そこでは、紙一重のものとなる。

北ヨーロッパでは、これら「芝居ががった」と見なされるやり方と逆のものが見られる。

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18世紀のドイツは、プロテスタントで禁欲的であり、魂の奥底からの信仰心を持ち、信仰に教理的な絶対的本質をしか見なかった。そこでは、後の時代に、あるいは南部でそうであるように、視覚的なあるいは詩的な外面を求めることはされなかった。幾人もの作曲が、自分たちの宗教に精力的に多産な創作で仕えた。 その筆頭に、17世紀後半のオルガニストであ

るディートリッヒ・ブクステフーデを思い浮かべることができる。

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ディートリッヒ・ブクステフーデ

1637-1707

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リューベック

聖母マリア教会

のオルガニストであった

オルガンは残念ながら1942年に破壊。

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しかしながら最も偉大なのはもちろん

J.S.バッハ1685-1750

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ヨハン=セバスティアン・バッハは終生その出身地域

である中部ドイツに留まり、アルンシュタット他、いくつかの場所でオルガニストであった。

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ヨハン=セバスティアン・バッハは、この地のル

ター派プロテスタントの信仰心厚い環境に生まれた。バッハの精神性と彼の作品の性格は、そうした環境、当時の時代精神によって、より容易に理解できる。作曲するときに彼は、芸術家の任務だけでなく、キリスト教徒としての任務をも果していた。

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アルンシュタット

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ヨハン=セバスティアン・バッハの作品の偉大さを前にすると人は一種の畏れの感覚、畏敬の念にとれわれる。その作品は壮大であり、驚異的な骨格を持っている。そこでは、すべてが、幾何学模様の中におけるように、関係づけられ、機能している。楽想は線の正確さを持っている。展開は数学的な進行に似る。気紛れな考えに従うものは何もない。バッハの音楽的創意は、あらゆる時代の中でも最も驚異的なものの一つであるが、まず何より、科学的である。それは、思考や感情を表現するためである前に、まず、音の無限の組み合せに適合したものである。

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Praludium pro Organo pleno cum pedale

obligato di Joh : Seb :

Bach [BWV544/I 前奏曲]

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ドイツ語はフランス語より科学的であり、技術的であり、そしてしばしばより正確である。感情の描写に向くというより、より熟考され、方法論的で、感情を交えることの少ない描写が行なえる。

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オルガンは個人が作るものであり、その個人は定められた環境の中で生まれる存在である。そして自分の母語の音調の中で育つ。それが、その人の個人史や音の経験を定める。それは、その人物のオルガンへの関り方を否応なしに条件づける。オルガンのパイプにしゃべらせると言われたりもするものだ。自らの個人的背景に従うことで、オルガン建造家は子音や母音、詩情や厳格さをそれぞれに優先させる。

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私が育つのを見守ってきたアルザスは、ドイツとフランスの間を行ったり来たりして何度も国家的帰属と言語を変えた。この特殊性は、この地が二重の文化性の恩恵を被ることを可能にした。

そのことにより、大部分がバイリンガルであるこの地のオルガン建造家は、典型的にフランス的なオルガンであろうと、あるいはドイツ的なそれであろうと、容易にその製作に適応することが可能となっている。秀れた作り手たちは、二つの文化の統合によって、楽器のレパートリーの可能性を広げる試みをするであろう

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いずみホールのオルガン

IZUMI HALL

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これまでのこと

私たちは、フランスの歴史的オルガンの修復や、新しいオ

ルガンの建造にあたり、オルガニストのアンドレ・イゾワールと何度も一緒にする仕事をする機会をもった。アンドレ・イゾワールは、何度も演奏旅行で日本を訪れているので、ここでも知られていることと思う。

彼は、日本の演奏旅行から帰ってきたある日、大阪のコンサートホールのためのオルガン建造の計画について私たちに話してくれた。その時期いくつかのフランスのオルガン建造家に話がもちかけられていたことは知っているが、どういう基準から私たちが選ばれたのか正確には分からない。アンドレ・イゾワールの評価が、私たちが選ばれるにあたって何らかの役割を果したのではなかと思っている。

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アンドレ・イゾワール

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オルガンは1988年に発注を受け、 1989年12月から1990年2月にかけて設置された。

オルガンのコンセプト 自然の成り行きで、私たちはアンドレ・イゾワールとこの楽器のコンセプトとストップの構成を検討した。

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オルガンは恐らくあらゆる楽器の中で最も機械化されたものである。それは、パイプの下のパレット(弁)と鍵盤の各キーを繋ぐトラッカーなどの複雑な伝達軸のシステムを持っている。パイプ一つ一つの音色と音量はオルガン建造の際にあらかじめ定められており、オルガニストがそれを変更する余地は無い。音に変化を与えるためにオルガニストが使える唯一の手段は、キーのアタックとリリースのぐあいだけである。ただしそれが使えるのは、伝達メカニズムが十分に軽快で、直接的である場合のみである。

この最も強大で最も複雑な楽器をリコーダーと言う非常に単純な楽器と比べることもできる。と言うのも演奏者の指と発音の間には何も仲介するものがないからである。

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サン・マロの

オルガン

リコーダー

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オルガンの伝達機構が正確なら、オルガニストの持つ操作の可能性はリコーダー奏者と同じくらいのものだということは理解できるだろう。というのも、リコーダー奏者も、息を吹き入れる強さを変化させて、音色や音量に変化を与えることはできないからだ。息の強さを変化させれば音程が狂ってしまうだろう。オルガニストと同じく、リコーダー奏者にもアタックとリリースの手段しか残されていない。

操作しやすい機構を維持するために、私たちは、あらゆる種類の音楽に対応するように音色を増やした巨大な楽器を製作する選択肢を排除した。

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レパートリーを増やしてくれるのはストップやパイプの数ではなく、ある程度の一般性を与えてくれるようなそれぞれのストップの質なのである。

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いずみホールのオルガンにとっての最初の目標は、17世紀から18世紀にかけてのドイツのレパートリー、とくに

ヨハン・セバスティアン・バッハの音楽を演奏できるようにというものである。バッハの生きた

ドイツの諸地域を、1983年から1987年にかけて何度か私たちは訪れることができた。 当時その地域は鉄のカーテンの向こうだったが、私たちは、バッハがその音に触れたことがあり、今でも保存されている楽器の大部分を検分し、その音を聴くことができた。

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フライベルク

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アルテンブルク

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ナウムブルク

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ドレスデンの同業者であり、友人となったクリスティアン・ヴェークシャイダーのおかげで、私たちは、ゴットフリート・ジルバーマンやツァカリアス・ヒルデブラントによる同地域のオルガンについての文書記録や各部の寸法を得ることができた。

私たちにとっては初めての試みだったそのスタイルでの製作を、私たちはストラスブールのサン・ギヨーム教会と、パリ近郊のオルセー市で試してみることができた。

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ストラスブール オルセー

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マカオ 2006

好評を得たおかげで私たちは最近、中国でも同じスタイルのオルガンを建造することができた。

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これらのオルガンは大部分が、リコーダーと同じ原理に基くフルー管によって構成されている。こうした美学はバッハの音楽にすばらしくよく適してはいるが、一方、フランスのレパートリーを置き去りにすることは私たちにとっては問題外だった。 ドイツのオルガンと比較すると、フランスのオルガンは何本もの大きくてパワフルなリード管を有している。写真の下のほうにある最も大きな一群のパイプがそれである。 これらのパイプは空気の流れによって振動するように曲げられた金属片のリードによって音が出る。

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いずみホールのオルガンはこのようにして、クープラン、グリニー、マルシャンらの他、フランク、ヴィエルヌ、ヴィドールら19

世紀の音楽を演奏するためのストップを備えている。

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3623本のパイプを持つ。

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最後にこのオルガンに関するいくつかの数字を紹介したい。

パイプは3623本、最も大きなもの長さは5.20メートル、最小のものは1.5cm。パイプ全体の製作に980kgのスズ、675kgの鉛が必要となった。費された労動時間は2万30時間。 22立方メートルのオークと、21立方メートルのトウヒが使われている。写真に映っている材木の半分にわたる。 トウヒがオルガン製作に用いられるのはその音質の良さからである。これは、最も大きなパイプ群と、低音で共鳴する外装箱の裏側に用いられている。

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オルガンの建造過程のいくつかの写真を見て紹介を終ることにしよう。残念ながら、いずみホールのオルガンの工房での製作中の写真はあまり持っていないが、2つの大事な過程の写真を選んでみた。

まず、製作という旅の始まり、スズの薄片を鋳造する場面である。これはいつも、見ていてわくわくする、魔法のような瞬間である。

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スズが鍋の中で400℃に熱される。どろどろに融けた金属を、底のない箱の上に置かれた容器に注ぎ込む。

そしてその融けたスズが薄片に鋳造されるのに理想的な温度になるまで待つ。

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金属を底のない箱に注いだあと、箱を取り去ると、特別な布で覆った鋳造用の台の上にそれは薄く堆積している。 融けている状態の金属は本物の鏡のようにピカピカで、この状態は金属が凝固するまで続く。

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今度は、工房でのこのオルガンの1988年の完成

式である。この後、オルガンは移送に向けて一度完全に解体されることになる。

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