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ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

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Page 1: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

Vol. 21, No. 3 111

ADC12合 金ダイカス トのチル層と内部に

おける物性値の相違*

- A1-Si-Cu合 金ダイカス トの凝固組織と

物性値に関する研究(第2報)-

鈴 木 宗 男**

Difference in properties between chill zone and inner parts of

ADC12 alloy die casting*

-Studies on solidified structure and properties of Al-Si_Cu

alloy die castings(2nd report)- UDC 669.715'782'5-14:539.4.016

SUZUKI Muneo**

The chill zone must be kept intact in order to prevent the lowering ofproperties ofdie castings. However,

the differences in properties between the chill zone and inner parts have not yet been explained thoroughly.

This paper describes physical, mechanical, and chemical properties of both of the chill zone and inner parts

of Al-12 si-cu-alloy(JIS ADC 12)die castings having thickness of 10mm.

The results obtained were as follows:

(1) Specific gravity of the chill zone was fbund to be higher by 6%than the center parts and coefficient of

thermal expansion of the fbrmer was lower by 7%than the latter. Whereas, the lattice constant was fbund to be

smaller with the increase of depth up to 1 mm, and then abruptly larger approximate to the center. The cause of

the above facts were due to the segregation of principal components, Si, Cu and Fe.

(2) Each of ultimate tensile strength,0.2%yield strength, elongation, bending strength, impact

strength, and fatigue strength showed a markedly higher value on the chill zone and lower by 30~65%in the

center part.

The values of hardness and wear resistance were found to be relatively lowered by the formation of primary

α-crystals on the chilled surface. However, the maximum values were obtained on the chill zone of the die castings

and the values were also lower in the inner parts. An evident correlation was found between these properties.

(3) The rates of corrosion and penetration in alkaline solutions were lower on the chilled surface rather

than in the inner parts. Whereas, these rates in acidic solutions were higher on the chilled surFace rather than the

inner parts.

(Received Dec. 2, 1970)

1.緒 言

ダイカス ト製品は一般 に表面 を切 削す る と物理的,機

械的性質が低下す るので,鋳 造 したままの状態 で使 用す

る方が よい といわれている。 この事 は急冷凝 固 した面 に

生成 したチル層 を重要視 しているためである。 チル層 の

厚 さは金型温度 と射 出速度 に影響 し,特 に金型温度 が低

い と溶湯 の冷却効果が大 となつて厚 く生成 するこ とがわ

かつ てい る1)。 したがつ て金型 の過熱 はチル層 を薄 くし

鋳巣 を発生 させ,そ のため圧洩れ が生 じた りして不具合

な問題 が多 い。 しか し現在 チル層 自身 の物 理 的,機 械

的,化 学的性質 がわかつてお らず,ま た内部のやや徐冷

によつ て生 じた組織 に よる相違 も報 告 されて い な い た

め,不 具合 な問題 の根本 的な対策 をたて ることがで きな

い。

本報告 は以上 のよ うにダイカス ト製 品 をよ りよく使用

*軽 金 属学 会 第37回 秋 期 大 会(44 -11)に 一 部 発 表 した。

**扶 桑 軽 合 金 株 式会 社(東 京都)Fuso Light Alloys Co ., Ltd.(Tokyo)

Page 2: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

112

す るために,影 響がある と考 え られ る表面 の急冷凝 固層

の物性値 を測定 し,内 部凝固層 との比較 を行 なつ た結果

で ある。

2.供 試 材 お よ び実 験 方 法

供試材 質はJISH5302に 規定 され てい るADC 12合

金で,再 生塊74%に 新塊26%を 添加 した量産 地 金 で あ

り,平 行部幅16mm,長 さ60 mm,厚 さ2~10 mmの

6号 相当試験片 を多数個取 り金型 でダイカス トした。成

分お よび鋳造条件 は第1報2)と 同様 である。

実験は各板厚試験片 の内の10mm板 厚の ものを 使用

し,Photo.1に 示す ご とく固定型表 面 よ り1mmの 厚

さに表 面層,中 間層,中 心層 の3ヵ 所 を0.8mm厚 さの

メタル ソーで加熱 しない よ うに十分注意 して 切 断 し た

後,#240の エ メ リペーパーで仕 上げてNaOH 5%,水 溶

液で10分 間腐食 して加工歪 を取 り去つて供試 試 料 と し

た。

Photo.1の 削 り出 した 試験片 の ミクロ組織 は,最 外

層部に約20μ 程度の範囲でCuの 強制固溶 した α晶があ

り,次 いで200~300μ 幅でAl-Si 2元 共晶 とAl-Si-Cu

の3元 共 晶が微細 に分布 し,α 晶 も細い。 これがチル層

で あ り,他 に含有 してい るFcやCuに よつて共晶点は

軽 金 属(1971)

低Si側 に移動 し,試 料 のSi含 有量11.28%は ほ とん ど

共晶点 と思 われ る。 さ らに中心部 に近 づ くほ ど共 晶Siは

針状粗大化 し,α デ ン ドライ トセル も大 き く な り,Fe

Al3やAl-Si-Fe系 また はAl-Si-Mn系 の金属間化合物 が

分布 してい る。

測定 した物性値 の内,物 理的性質 の比重,熱 膨 張 係

数,機 械的性質 の引張強 さ,0.2%耐 力,伸 び,カ タ

サ,疲 れ強 さ,曲 げ強 さは前報 と同様 の方法 で行 ない,

衝撃強 さはアイ ゾッ ト試験機 を用 いた。 その他 の物性値

として格子常数,耐 摩耗性,耐 食性 を求 めた。格子常数

の測定 はa0-sin2θ曲線外挿法 によつた。す なわち回析角

が140゜~97゜の問 の(422)(420)(331)のKα お よびKβ 線

回析 ピー クよ りそれぞれ格子常 a0を 求 め,sin2θ との

関係 よ り補 正 を行 なつ た。使用装置 はX線 デ ィ フ ラ ク

トメー タで,測 定条件 はCuタ ー ゲッ ト, Niフ ィル タ

ー,ス リッ ト0.15mm,30 kV 20 mAで ある。試料 はチ

ル層 と表 面 よ り0.5mm, 1 mm,3mm,中 心部5mmの

位置で測 定 した。

耐摩 耗性は乾式摩耗 で行 ない,摩 耗特性 の主要 因子 で

ある接触荷重,摩 耗速度 を変化 させ るた めPhoto.2に

示す 構造で中村 らの試作 した試験機3)を 簡易化 した もの

を使用 した。試験片 は10φ 長 さ30mmの 丸棒 の端面 に

Photo. 1 The position of cut off specimens and microstructure.

Page 3: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

Vol.21, No.3

Photo.1で 切 り出 した試料 を接着 して摩 耗面 と した。

組合せた回転円板 はSKD-6で 接触面 を ±240の エ メ リ

ペーパーで仕上げた。 この円板 に試験 片を スブ リン ゲで

押 え,調 節ね じで接触荷重 を1~8kgに 加減 した。摩耗

速 度はブー リーの 取 換 え で1.0~3.5m/sec(280~1000

rpm)の 範囲 を測定 できるよ うに した。

耐食性 は酸 および アルカ リ性水溶液 で一籍受漬法に よつ

て腐食 させ。重量変 化を測定 して組織 の差 による耐食性

を調べた。 さらに水素 発生 量を測定 して確認 した。 ここ

で耐食性 を定量 的に示す必 要があるため測定 した重量変

化mを みかけの表面積aと 試験時 問tで 割 つた単位時間

単位面積当た りの重量減 を腐 食度Rと して求 め,ま たR

を各試料の比重dで 割つた侵食度P4)で 試料 の}享さの減

少を比較 した.

R=m/a・t mg/cm2・hr

P=R/d mm/hr

試 料 は25×25×1mmで 腐 食 液 び)ア ル カ リ液 はNaOH

の2.O W/V, pH 13.25と,酸 性 液 と してHCI 1.7W/V,

PHO.25を そ れ ぞ れ250m/25℃ で 使 用 した。

3. 実 験 結 果 と 考 察

3.1比 重 の 変化

板 厚10mmのADC 12合 金 ダ でカ ス トの 表 面 層,中

間,中 心 部 の 比 重 はFig.1に 示す 変 化 を して お り,分

113

散分析 の結果99%で 有意性 があつた。Fig.1よ り表 面の

チ ル層 を含む厚 さ1mmの 試 料は2.8260で 中心 部は6%

の低下 を示 してい る。前報 で求 めた10mm板 厚試料 の

全体 の比重 は2.6791で あるか らチル層 は非常 に緻 密 な

状態 になつ ている ことがわかる。

3.2熱 膨張係数 の変化

板 厚10mmの 試料v)25~300℃ にお ける熱膨 張 係数

は前報 で報 告 した よ うに20.2×10-6で ある。 こ の 試料

の表面層,中 間,中 心部の測定結果はFig.2の よ うな

変化 とな り,チ ル層は低 く,中 心の徐冷部分 は約7%高

い値 を示 した。 この結果 とFig・1に 示す比重 を 比 較 し

た とき,熱 膨張係数 が大 なるほ ど比車 は低 くなる傾 向の

あるこ とがわか る。佐藤 らの研究5)に よる と熱膨張 係数

の変 化は溶質原子濃 度 と内部応力 の弛緩 に影 響 さ れ る

が,ゲ イカス トの場 合はこれ らの要 因の他に ミクロ的に

発生 している鋳 巣も原 因の1つ である と考える。 今欠 陥

度6)が0.O1,0.02,0.03の 収縮巣 が発生 してい る板厚6

mmの 試料 につい て熱膨張 係数 を測 定 した結 果,そ れぞ

れ20.3×10-6,20.3×10-6,20.6×10-6の 値 が えられ

た。欠陥のない試料 は前報 で示 した よ うに20.0×10-6で

あるか ら鋳巣の影響は無視で きない。

3.3 格子 常数の変化

ダ イカス トの よ うな急冷凝固 による鋳物 の格子常数 は

成分の固溶の状態が複雑で,し かも供試試料 のよ うに不

Table 1 An example of lattice constant by a0-sin2θ

curve

Fig. 1 Change of specific gravity on chill zone and

tinier parts of ADC 12 alloy die castings.

Photo. 2 Construction of wear tester.

Fig. 2 Change of thermal expansion coefficient on

chill zone and inner parts of ADC 12 alloy die

castings.

Page 4: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

114

純物 が多 く含 まれ てい る場合 にどの程度の値 となつてい

るのか,ま た ミクロ組 織に よつて変化が生 じているか測

定 した結果,1例 として10mm板 厚の 中心部ではTable

1の よ うにな り,え られた値 と測 定位置 との関係 をFig.

3に 示す。すなわちチル層 は4.04710Aと もつ とも低 く,

表面 よ り0.5mmま ではあま り変化 しない が,こ れ よ り

内部は急激 に増加 し,1mmで やや一定 とな り中心部 で

4.04790Aで あつた。

アル ミニ ウムの格子常数 は純度 によ り,ま た測 定方法

に よつて種 々の値 が報告 され てい るが,K.R. Van Horn

による7)99.9945%の 純 度で25℃ において4.0494Aの

値 が もつ とも信頼 されてい る。 この値 に他 の元素 が添加

Fig. 3 Change of lattice contant on chill zone and

inner parts of ADC 12 alloy die castings.

Fig. 4 Change of ultimate tensile strength, yield

strength and elongation on chill zone and inner

parts of ADC 12 alloy die castings.

軽 金 属(1971)

され た と き減 少 す る もの と してLi, Zn, Si, Cd, Cu, Mn,

Fe, V, Cr, Ti, Beが あ り,増 加 す る元 素 と しGa,Ge, Mg,

Ca, Th,ま た 変化 しな い もの はAgで あ る 報 告8)が あ

る。 した が つ て本 実 験 のADC 12合 金 の主 成 分Si, Cu,

Feは い ず れ も アル ミ基 の格 子 常 数 を減 少 させ る 傾 向 に

あ り,し か も主 成 分 の偏 析 状 態 がFig.3の 変 化 曲 線 と

一 致 して い る こ とが わ か つ た。詳 細 は別 に報 告 の 予 定 で

あ る。

3.4引 張 強 さ,0.2%耐 力,伸 びの 変 化

ADC 12合 金 ダイ カス トの 板 厚10mmに お け る 引張

強 さ,0.2%耐 力,伸 び は 前 報 で 報 告 し た よ うに23.7

kg/mm2,14.3 kg/mm2,1.3%で あ つ た 。 この 試 料 の 表

面,内 部 の そ れ ぞ れ の位 置 の測 定 結 果 をFig.4に 示 す 。

測 定 位 置 との 関係 は分 散 分 析 に よつ て99%で 有 意 で あ

る。Fig.4に お い て 引張 強 さの変 化 は チ ル層 で30.1kg/mm2

が 中心 部 で は17.5kg/mm2で あ る か ら42%の 低 下 で あ

り,同 様 に0.2%耐 力 は18.2kg/mm2に 対 して31%の 低

下,伸 び は2.3%に 対 して65%も 低 下 して お り,予 想 以

上 に変 化 して い る こ とが わ かつ た。

こ こ でFig.4の 変 化 の 妥 当性 を破 断 に よ る エ ネ ル ギ

よ り考 えて み た 。 Fig.5に 示 す 応 カ ー 伸 び 率 の 曲 線

で,斜 線 部 分 を消 費 され た仕 事 量 とす れ ば9),そ の面 積

は∫ σdεで あ り,単 位 はkg/mm2×mm/mm=kg・mm/

mm3と なつ て,単 位 体 積 当 た りの エ ネル ギで 示 す こ とが

で き る。 そ こ で チ ル層,中 間,中 心 部 そ れ ぞ れ の応 カ-

伸 び 率 曲線 よ り仕 事 量 を求 め,表 面 か らの距 tで プ ロ

ッ トす る とFig.6が え られ る。 した がつ てFig.6の 斜

線 部 分 と,10mm試 料 の引 張 りに要 した全 仕 事 量 が 一

致 して い るか ど うか をみ た 。Fig.6の 曲線 は ε1=0.649

-0 .224t+0.0233 t2で 示 す こ とが で き る の で,こ れ を

表 面 よ り中心 ま で積 分 した値 を2倍 した仕 事 量 をE1と

す る と(1)式 とな る 。

E1=2∫50(0.649-0.224 t+0.0233 t2)dt (1)

=2.82kg・mm/mm2

ま た10mm板 厚 の応 力23.7 kg/mm2,伸 び1.3%の と

き に要 した エ ネ ル ギ ε2は0.232kg・mm/mm3で あ る の

で全 仕 事 量E2は(2)式 で求 め られ る 。

Fig. 5 Consumed work by tension test.

Page 5: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

Vol.21, No.3

E2=10 mm×E=2.32 kg・mm/mm2 (2)

すなわちE1とE2は 大略一致 してお り, Fig.4の 測定

値 が信頼 できるもの と判断 した。

3.5 力タサの変化

マイ クロビッカース で測定 したADC 12合 金 ダイカス

トの カタサは板厚 によつて異な り,Fig.7に 示す ように

表面に晶出 した20μ 程度 の α晶 の影響 で表面 は 低 く,

100μ ぐらい内部 で最高 となつてい る。 この場合,板厚 が

異 なる と同 じα晶で も凝 固の条件 の相違でCuな どの強

制 固溶 の状態が異 な り,ま たCu, Si, Feの 偏析,共 晶Si

richの 状態,中 心部 の αデ ン ドライ トセル の大 きさなど

の変化 でそれぞれ変化のあ る値 を示 しているこ とは前報

で も報告 した とお りであ る。ダイカ ス トの表面 よ り内部

までの以上 のよ うな変化は後述す る耐摩耗性や強度 の変

化の重要 な因子で あると考え られる。

3.6 曲げ強 さの変化

板厚10mmの 試 料の曲げ強 さは51.8 kg/mm2で あ つ

たが,こ の試料 の表面層,中 間部,中 心部のそれぞれの

測定値はFig.8に 示すよ うな変化 とな り,99%の 有意

水準で有意性のあるこ とが わかつた。 この よ うな変化は

引張強 さの場合 と同様 の傾向が あ り,表 面チル層の84.4

115

kg/mm2は 非常 に高 い値 であつて,こ れに対 して中心 部

は53%も 低 下 してい る。

3.7衝 撃 強さの変化

衝撃値の質量効果や寸法効果 をみ るときは単位面積当

た りで比較す るた めシャル ピ一値 によるが,本 測定 は幅

6mm厚 さ1mmと 一定 に したため3ft-1bsの アイ ゾッ

ト試験機 による値 を求 めた。測定結果 は99%で 有意 であ

り,こ れ をFig.9に 示す。 引張強 さや曲げ強 さの 変 化

と同様 に表面層 に対 して中心部 は約45%の 低 下を示 して

いる。

3.8疲 れ強 さの変化

前報 と同 じ形状 で厚 さが1mmの 試 験片に よる繰 返 し

曲げ強 さ のS-N曲 線 はFig.10の よ うに な り,繰 返 し

数が107回 にお ける値 と各試料採取位置 の関係 をFig.11

に示 した。 これ よ り中心部は34%の 低 下 であ る。Fig.

11の 変 化 は凝固速度の差で生ず る組織 の影響の他 に残

留応力が疲れ強 さにpositiveに働 く10),11),12)こと と,晶

出 した共晶Siの 形状 分布 の影響13)に よる ものである と

考 え られ る。 しか し本試験片 を300℃ 3時 間の焼鈍 を行

なつて疲 れ強 さを測定 したが,S-N曲 線 はFig.10と ほ

とん ど差 が認 め られなかつた。 この こと は 試 験 片 を1

mmの 厚 さに切断す る特殊 の加 工に よつて残留応力が消

去 されていた と考 えて よい。 したがつて本 測定で え られ

た疲れ強 さの変化 は共晶Siの 形 状 分 布の影響が大 きい

Fig. 6 Change of the work by tension test.

Fig. 8 Change of bending strength on chill zone

and inner parts of ADC 12 alloy die castings.

Fig. 7 Change of hardness on chill zone and inner

parts of ADC 12 alloy die castings.

Fig. 9 Change of impact value on chill zone and

inner parts of ADC 12 alloy die castings.

Page 6: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

116

と判断 した。

3.9耐 摩耗性の変化

AC 2A,5A,8Aな どの鋳物用合金は鉄鋼 に比 して融点

が低いため同材質同志に よる滑 り摩耗 は溶着焼付 が生 じ

やすいが,炭 素鋼 を相手 とした ときは優れ た耐摩耗性 を

有す るといわれ てい る14)。しか しダイカス ト鋳物 に対 し

てはほ とん ど報告 されていない。本 実験 はADC12合 金

ダイカス トの表面層 と内部の ミクロ組織や カタサによつ

て どの様 に変化す るか を調査 した。

摩耗 の進行過程は一般 に初期摩耗 と定常摩耗 の段階 に

分 け られ,初 期摩耗域では再現性 に乏 しく,測 定 は定常

摩耗域 で行 な う必要があるので14),予 備実験 で摩耗速度

2.7m/sの とき接触荷重1.3~3.8 kg/cm2の480 mま での

累積摩耗量 を求 めた ところ,直 線的 に変化 し初期摩耗の

現象 は認 め られ なかつた。 このため各実験条件 の範囲 は

特 に制限す る必要はな く,接 触荷重 と摩耗速度 を変化 さ

せ,摩 耗距離が160m(770 rpmで1分 間の距離)当 た

りの摩耗量 を測定 した。この結果 をFig.12に 示す 。Fig.

12の 関係 よ りADC 12合 金ダイカス トの摩耗現 象 を ま

とめる とつ ぎのよ うにな る。

すなわちダイ カス トの摩耗量 は接触荷重 の増加 につれ

て比例 的に増加す るが,摩 耗速度に対 してはあま り鋭敏

ではない。 ただ摩耗速度が2.7m/sに おいて接触荷重 が

3.8kg/cm2を こえ5.1 kg/cm2に なる と溶融摩耗 の現象 が

軽 金 属 (1971)

生 じ測定が不能 となつ た。 これ は温度 の上昇 によつ てカ

タサが低下す るためであ り,摩 耗面 よ り5mmの 位置 に

お ける温度 を測定す る と3.8kg/cm2ま でに70℃ と な り

5.1kg/cm2で は90℃ となつた。測 定位 置が摩耗面 では な

いので真の温度は不明であ るが溶融摩 耗では急激に上昇

す る ことが認め られた。 このため ダイ カス トの摩耗 にお

いて もJ.T.Burwellら の称す る遷移圧 力15)が存在 し て

い るようである。 また 岡林 らの研究14)に よるAG 2A,

5A,8Aな どの鋳物用合金 と, ADC l2合 金 ダイ カス ト

と比較 した場合試験機 や摩 耗条件が異 なるので正確では

ないが,ダ イ カス トの方がやや耐摩 耗性 に乏 しい と思わ

れ る。

Fig.12で 示 した摩耗減量 の内,摩 耗 速 度2.7 m/s,

接 触荷重3.8kg/cm2の 条件 にお ける試料採取 位 置 と の

関係はFig.13の よ うにな り,表 面 よ り0.1~0.5 mmの

方 が耐摩耗性 があ り,中 心部の面で最大の摩 耗量 となつ

ている。摩耗量 の変化は鋼材 の浸炭 窒化な どの表 面処理

に よる研 究 よ り明 らかな よ うに16),高 い カタサの もの ほ

ど耐摩耗性 に優 れてい ることがわかつ てい る。 ダイ カス

Fig. 12 The relation between sliding speed and

wear loss, and also contact pressure and wear

loss.

Fig. 10 S-N curve on chill zone and inner parts.

Fig. 11 Change of fatigue strength on chill zone and

inner parts of ADC12 alloy die castings.

Fig. 13 Change of wear loss on chill zone and inner

parts of ADC 12 alloy die castings.

Page 7: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

Vol. 21, No. 3 111

Table 2 degree of corrosion by calculation on chill zone and inner parts.

トの場合 も3.5項 で測定 したカタサと比較 す るとFig.14

に示す ご とく相関 が認 められ,表 面 よ りも共 晶Si rich

の部分が耐摩耗性 良好 である理 由が カタサ に原因 してい

ることがわかる。

3.10耐 食性 の変化

アル ミニ ウム合金の耐食性 は圧 延や鋳物 な ど に つ い

て多 くの研 究がな されてい るが,ダ イ カス トに 関 す る

報 告は少 ない。金属 の腐食 は一般 に成 分や組 織の相違,

残 留応 力の多少 に よつて変化 するので,以 上述べた よ う

な表面,内 部の組織 に起 因す る物性値 の変化 と同様 に,

耐 食性 について も当然相違 が生ず るもの と考 える。す な

わ ち酸性お よびアル カ リ性 水溶液 による浸漬時間 と累積

腐 食減量 の関係はFig.15の よ うにな った。 今腐食度や

侵食度 を求 める場合,腐 食 の進行が時 間に対 して直線的

Fig. 14 The relation between hardness on wear

surface and wear loss.

Fig. 15 The relation between dipping time and

accumulated corrosion loss by alkaline and

acidic solutions,

Fig. 16 Change of corrosion rate and penetration

rate on chill zone and inner parts of ADC 12 alloy

die castings.

Page 8: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

118 軽 金 属 (1971)

Fig. 17 The relation between dipping time and

generation of hydrogen by slkaline and acidic

solutions.

な関係 のある範囲 で成立す ると考 え,Fig.15よ り酸性

溶液 では24時 間,ア ル カ リ性 溶液 においては5時 間の腐

食減量の平均 を求 めて計算 した。Table 2の 比重 は3.1

項 で測定 した値 を使用 した。

Table 2よ り各試料の削 り出 した位置 と腐食 度,侵 食

度 の関係 をFig.16に 示す。 この結果ADC 12合 金 ダイ

カス トのアル カ リ性 に対す る腐食 度,侵 食度は表面 チル

層の方 が中心部 よ り良好で あるが,逆 に酸性に対 しては

チル層 が中心部 よ り悪い結果が えられた。 この現象 を確

認す るために水素発生量 を測定 してみた。測定 は試験片

寸法,腐 食液濃度,液 量 などを腐 食減 量の実験 と同様 に

し,水 を満 た した ビュー レッ トを逆 さに して発生 した水

素 ガスを捕集 して標準状態に換算 して求めた。す なわち

水素 発生量 の測定結果において も,チ ル層,中 間,中 心

部 のアルカ リ,酸 性水溶液 に対す る耐 食性 は逆 の傾 向が

あ り,腐 食減量 と同 じ結果 となつた。

Photo.3のa, bは 中心部 の試料 の酸およびアル カ リ

水溶液 に4時 間浸漬 した ときの ミクロ組織 で,腐 食進 行

の様式 の異 なつ てい ることが わ か る。aの2.0%NaCl

による状態 は結晶粒間腐食 であ り,bの1.7%HClで は

共 晶Siを 残留 させた選 択的腐食 が行 なわれ てい る。この

腐食様式 の相違 が表面 と内部の耐 食性 に影響 を与 えてい

ると考 えるが,さ らにCuAl2やFeAl3な どの金属間化

合物の腐食 に も左右 されてい る17)ので単純ではない よう

であ る。

4.結 論

ADC 12合 金 ダイ カス トの表面に生成 しているチル 層

と内部の物性値 の相違 につ いて測定 し検討 した結果,つ

ぎの点が明 らか となつ た。

(1)板 厚10mmの 試料について,表 面 に晶出 した 初

晶 αとそれ より200~300μ の問の微 細なAl-Si共 晶 と

AI-Si-Cu 3元共 晶のチル層 と,内 部 のやや徐冷 による粗

大化 した針状の共晶Siお よび デン ドライ トセルで構成 さ

れ てい る部分の各物性値 は予想以上 に大 き く変化 してお

Photo. 3 Corrosion state

り,し か もチル層 が内部 よ り良好 な性質 を有 してい ると

は限 らず,物 性 の種類 に よつて逆 に なつてい る場合 もあ

るこ とがわかつ た。

(2) 物理的性質 として比重 はチル層が中心部 よ りも6

%高 く,熱 膨張係数 はチル層が中心部 よ り7%低 い値 と

なつ ている。格子常数 は表 面か らの距離 に よつて著 しい

変化 を示 し,表 面 よ り1mmま では低 く,そ れ よ り中心

に向つ て急激 に増大 した。 この変化 はADC 12合 金 の

主成分 であるSi, Cu, Feの 偏析 が原因で ある。

(3) 機械的性質 の引張強 さ,0.2%耐 力,伸 び,曲 げ

強 さ,衝 撃強 さ,疲 れ強 さはいずれ もチル層が非常 に高

い値 を示 し中心部 が低下 してい る。その低下 は30~65%

に達 してい る。この内引張強 さの変化 につい ては破断 に

よるエネルギによつて前報 で求 めた10mm板 厚 の 値 と

比較 してその妥当性 を確認 した。 カタサ と耐摩耗性 は共

に表面 の初 晶部で低 く,チ ル層部 で高 くな り中心部 で再

び低 くなつてお り,明 らか な相関 のあるこ と が わ か つ

た。

(4)化 学的性質 として酸性 とアル カ リ性水溶液 に よる

腐食 度お よび侵食度 を比較 した結果 は,ア ル カ リ性 に対

してチル層は中心部 よ り良好 であるが,酸 性 に対 しては

逆に表 面が悪 くなる傾向が認 め られ た。

本 実験遂行 に当た り,名 大西先生 の御指導 を賜 り,ま

Page 9: ADC12合 金ダイカストのチル層と内部に おける物性値の相違*

Vol.21, No.3

た格子常数の測定は理学電気株式会社の御協力によつた

ことを付記して感謝の意を表する。

参 考 文 献

1)鈴 木,花 田:ダ イ カス ト,42(1970),16

2)鈴 木,古 本:軽 金 属,211(1971),36

3)中 村,岡 林:日 本 金 属学 会 誌,276(1963),257

4)橋 口編:金 属 学 ハ ン ドブ ッ ク,朝 倉(1958),

251

5)佐 藤,西 野:日 本 金 属学 会誌,21(1956),ll5

6)松 居,鈴 木 二非破 壊 検査,91(1960),70

7)K.R. Van Horn:Aluminum Vol.1, ASM

(1968),4

8) W.P. Pearson:Ahandbook of lattice spacings

119

and structures of metal and alloys, London

(1958),348

9)J.Wulff(大 塚 訳):機 械 的 性 質,岩 波(1969)

44

10)小 川:精 密 機 械,342(1968),92

11)平,村 上:材 料 試 験,8(1959),607

12) 日本 金 属学 会:金 属材 料 の 強 度 と破 壊,丸 善

(1964),352

13)上 田,飯 銅:日 本 金 属 学 会 誌,299(1965),881

14)岡 林,中 谷:軽 金 属,146(1964),415

15) J.T. Burwell:J. Appl. Phys.,23(1952),18.

16)小 川:日 本 機 械 学 会 誌,57430(1954),721

17)麻 田:金 属 表 面 技 術,168(1965),328