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48
6. リソグラフィー
6.1 リソグラフィープロセス全般
2.2(4)半導体プロセス概要で述べ
たように半導体素子製造工程は設
計と作製の二段階に大別される。設
計では紙上で IC パタンのレイアウ
ト設計をした後に、これをマスクま
たはレチクルとよぶガラス基板上
の白黒パタンに変換する。作製では
マスクまたはレチクルのパタンを
ウェーハ上に転写してフォトレジ
スト・パタンを形成することから始
まる。フォトレジスト・マスクはウ
ェーハに様々な処理・加工を施すと
きに使われるが、ウェーハのフォト
レジスト・パタンの窓の部分はウェーハ表面が露出しており処理を受けて、変質した
り、削除されたり、あるいは異なる物質の堆積を受けるが、フォトレジストに覆われ
た部分は処理・加工は行なわれない。マスクまたはレチクルを使いウェーハ上にフォ
トレジスト・パタンを形成する工程がリソグラフィープロセスである。リソグラフィ
ーは美術工芸で使われる銅版印刷のリトグラフに因む名称である。
図 6-1 は CMOS IC チップ内の銅多層配線の電子顕微鏡拡大写真である。6 層の配線
の間にある層間絶縁膜は化学エッチングで除去されている。上側ほど配線の幅が太い
様子が見られるが最上層の電極パッドは約 10μm×10μm である。最下層にあるトラ
ジスタの構造はここでは見ることができない。トランジスタの形成から各層の配線形
成までの加工は、リソグラフィーによるレジスト・パタン形成とその後の加工処理の
繰返しで作製される。図 2-8 にはマスクまたはレチクルとウェーハ・チップの関係が
示されている。図では 7 枚のマスクを使う場合が示されているが、最近のウェーハ作
製には 10~20 枚の異なるマスク/レチクルを使う。
図 6-2 には回路設計レイアウト・パタンから最終パタンを形成する 4 種類の方式を
まとめて示す。伝統的であるが現在生産工場で最も広く使われているのは破線で囲う
方式Ⅰである。本テキストではこの方式を中心に説明する。これはマスク/レチクル上
のパタン形成を電子ビーム描画により行ない、それを用いて光を照射してウェーハ上
にレジスト・パタンを転写する。更にレジスト・パタンをマスクとして使いエッチン
グ加工によりウェーハ上に最終パタンを形成する。その他の方式はマスク/レチクルを
用いないで直接ウェーハ上にレジスト・パタンを形成したり、通常の露光で使用する
光よりも波長の短い X を照射する等々の特徴のある手段に方式Ⅰにおける微細パタ
ン現像の限界を解決しようとするも新技術であるが、技術的に未確立であったり産性
図 6-1 CMOC IC のチップ内銅多層配線写真
49
不足等の問題があり現在は
広く使われていない。
図 6-3 には方式Ⅰにおけ
るレジストのウェーハへの
塗布から最終パタン形成ま
でを更に詳細ステップに分
けて示す。これは広義のリ
ソグラフィープロセスと言
うことができる。この中で
レジスト・パタン形成まで
をリソグラフィーⅠ、それ
以後エッチングによる最終
パタン形成までをリソグラ
フィーⅡと区分して、リソ
グラフィーⅠを狭義のリソ
グラフィーと考えるものと
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
図 6-2 パタン形成 4 方式 (Ⅰ:電子ビーム描画マスク/レチクル作製・光露光レジストパタン
形成、Ⅱ:レーザ描画直接レジストパタン形成、Ⅲ:イオンビーム直接レジストパタン形成、
Ⅳ電子ビーム描画マスク/レチクル作製・X 線露光レジストパタン形成、本テキストでは破線で
囲ったⅠの方式を中心に説明する。)以下には太い破線内の方式○Ⅰを中心に述べる。
1
2
3
4
5
6
7
8
図 6-3 リソグラフィーⅠとⅡの区分
本テキストでは①~⑧までをリソグラフィーとして扱う
50
する。生産工場では狭義のリソグラ
フィーをリソグラフィーと呼ぶの
で、本テキストもリソグラフィーで
主として扱うのは図中で①~⑧ま
での部分として、エッチングは別に
詳しく説明する。
6.2 フォトレジスト・プロセス
(1) 全般の流れ
レジストの名称はウェーハに塗
布すると、塗布された部分は保護さ
れて酸などの化学薬品に侵蝕され
ないので薬品腐蝕に対する耐性に
由来する。またフォトはパタン形成
が写真技術を応用することに由来
する。図 6-4 に露光によりマスクパ
タンがレジストパタンに転写され
るイメージを示し、図 6-5 にはフォ
トレジスト・パタンの電子顕微鏡写
真を示す。
フォトレジストにはポジ型とネ
ガ型の 2 種類がある。光の照射によ
りマスクと同じパタンのレジスト・
パタンを得られる場合がポジ型、マ
スクと反転したパタンが得られる
場合がネガ型である。ポジ型のレジ
ストは光照射を受けた部分のレジ
スト材料がアルカリ不溶性から可
溶性に化学変化する。一方ネガ型は
光照射を受けた部分が高分子架橋
反応により溶解性から不溶解性に
変質する。
フォトレジスト材料は樹脂、光活
性成分(PAC, photoactive compound)、溶
媒の混合物である。樹脂は基板の被
覆をしてエッチングのマスクにな
る高分子物質である。PAC は光化学
反応により変質して溶解性あるい
図 6-4 リソグラフィーとパタン転写の説明
(1)最上段:SiO2/Si のウェーハ上全面にレジストを
塗布、(2)第 2 段:白黒パタンのマスクを介して UV
光照射、(3)第 3 段:現像後レジスト・パタン、左
はポジ・右はネガ、(4)最下段:レジスト・マスク
を介して SiO2 のエッチング・パタン転写
図 6-5 現像後のレジストパタン電子顕微鏡写真(a)
幅 1.0μm のラインパタン、(b)幅 0.15μm のライン
パタン
51
は非溶解性を促進する。ポジ型レジストの PAC は DNQ(diazonaphthoquinone)、ネガ型レ
ジストの PAC はビスアリレザイドである。溶媒はレジストの液体化によりウェーハ
への均一厚みの塗布を容易にするが塗布終了後には蒸発させて取除きレジストを固
化する。フォトレジストには様々な特性が要求されるが最も重要なのは解像度(微細
パタンの寸法現像限界)であり、ポジ型の方が優れているので半導体素子工程ではポ
ジ型が主に使われる。解像度はまた露光に使う光の波長によっても異なり、波長が短
いほど高解像となる。
表 6-1 解像度と露光用光とその波長、レジストとの組合せ
最小寸法 露光用の光源 波長 フォトレジスト
0.5μm 高圧水銀ランプ、g 線 436nm DNQ/ノボラック樹脂
0.35μm 高圧水銀ランプ、i 線 357nm DNQ/ノボラック樹脂
0.15μm KrF エキシマレーザ 248nm CAR/ノルボニル樹脂
0.10μm ArF エキシマレーザ 193nm CAR/ノルボニル樹脂
DNQ: diazonaphthoquinone, CAR: chemically-amplified resist, PAC: photoactive compound
表 6-1 には解像度、露光に使う光とその波長、レジストとの組合せをまとめて示す。
最小寸法 0.25μm までは DNQ/ノボラック樹脂と水銀ランプ i 線の組合せが使われた。
水銀ランプ i 線は最も短い波長の可視光であるが、後に触れる位相シフトマスクとか
光軸外照射等の様々な複雑な光照射技巧を使っても 0.25μm の分解能を達成できない。
従って以下の寸法では可視光よりも波長の短い UV(紫外)光を用いて、紫外光線と化学
反応をする CAR(chemically-amplified resist:化学増幅型レジスト)を組合せて使用する。
図 6-6 化学増幅型レジスト、(a)UV 未照射, (b)UV 照射露光、微
量の酸発生, (c)露光後ベーク、酸による溶解性化学変化と酸の
発生, (d)溶解性化学変化の連鎖反応
図 6-7 化学増幅型レジストのア
ンモニア汚染の影響、(a)潜像, (b)
現像されたマスクパタン
図 6-6 に化学増幅型レジストの露光反応と PEB(post exposure bake:露光後ベーク)によ
52
る潜像の形成を示す。この反応では酸の発生が重要な役割を占めているが、もし微量
のアンモニアがレジスト表面を汚染すると表面層の酸が中和されて不溶解層が現わ
れて図 6-7 に示すような不良現像レジストパタンとなる。この対策として化学増幅レ
ジストを使用するクリーンルームでは空気の清浄化と汚染監視を行なう。微量のアン
モニア発生源は人間である。
(2) レジストプロセス・フロー
レジスト・パタン形成までは次のような①~⑧の順序で行なう。
①ウェーハ洗浄:RCA 洗浄あるいは金属配線成膜後洗浄処理(4.2 参照)
②プライミング:HMDS 表面処理によるレジスト密着性向上対策
③レジストのスピンコート:ウェーハ全面上に均一厚みのレジスト被覆形成
④プリベーク(ソフトベーク):揮発性溶媒を蒸発
⑤露光:マスク/レチクルを介して光照射
⑥PEB(露光後ベーク):化学増幅型レジスト反応
⑦現像:現像液浸漬またはスプレー、レジスト・パタンの出現
⑧ポストベーク:レジスト・パタンの焼き締め固化
もしレジストがウェーハに密着していないと、エッチング工程で薬品溶液に入れた
時にマスクの役割を果たさない。プライミングはウェーハ表面を親水性(hydrophilic)か
ら疎水性(hydrophobic)に変換して、疎水性のレジストをウェーハ上に密着させるために
行なう。ウェーハ表面吸着水分を完全に除去した後に HMDS(hexamethyldisilazane)の蒸気
に晒して表面改質処理をする。図 6-8 に親水性が疎水性に変化するメカニズムを示す。
図 6-8 プライミング(HMDS 処理)SiO2 表面を親水性から疎水性に変換
図 6-8 プライミング(HMDS 処理)SiO2 表面を親水性から疎水性に変換
53
図 6-9, 6-10 にはスピナーによるレジスト
塗布の写真と図を示す。レジストの厚みは
レジストの粘度とスピナーの回転速度の
組合せで決る。
図 6-11 に異なる粘度をパラメータにし
たレジストの厚みと回転速度の相関曲線
が示されている。
図 6-9 フォトレジストの滴下供給
図 6-10 レジスト・スピナーウェーハは真空チャックで吸着・高速回転
54
図 6-12, 6-13, 6-14, 6-15 は露光におけるレジスト内部の定在波効果とその防止・抑制
対策を示す。シリコンウェーハ界面とレジスト表面で光の反射が起こるとレジスト内
部に定在波が生じて、局
部的に光化学反応の強弱
が発生しそれはレジスト
パタン形状に奇妙な凹凸
に反映される。対策は
ARC, BARC (anti-reflective-
coating, bottom-ARC:反射防
止膜)を形成することで
ある。一方化学増幅型フ
ォトレジストの場合には
適切な時間の PEB により
定在波効果を消滅できる。
厚み(μ
m)
スピナー回転速度
図6-11 レジストの厚み制御(厚み0.5~1.5μ m, レジスト粘度、スピナー回転速度で制御)
図6-12 露光における定在波の影響(右)フォトレジスト/SiO2層通過光がシリコン表面で反射して入射光と干渉。反射光が更にレジスト表面で反射すると多重干渉し定在波が生じる。(左)現像レジスト・パタンの定在波効果
55
図 6-14 定在波防止策用反射防止膜BARCとARC
(a)コンフォーマルBARC, (b)平滑化 BARC, (c)部分
平滑化 BARC, (d)スピン・オン有機 BARC, (e)CVD-
無機薄膜 BARC(DARC)
図 6-15 PEB による定在波効果の防止
(a)~(d)PEB 時間を長くするに従い左部の PAC が拡
散して定在波形状が消滅する。(e), (f)PEB の有無
による 0.35μm 幅レジストパタンの形状相違
レジストの現像は現像液にウェーハを浸漬したり、あるいは現像液をウェーハ上
に滴下したり、スプレー噴射したりして行なう。現像液の代表例は TMAH(テトラメチ
ルアンモニア過酸化水素)である。現像時間を短縮し現像により剥離した残渣を溶かす
ために界面活性剤を添加する。
レジストプロセス装置はそれらの代表的機能部分名称からコータ・デベロッパ(塗布
現像装置)と呼ばれ露光装置と一緒に組合せて配置される。図 6-16 に配置図を示す。
図 6-13 斜面によるレジスト・パタンの定在波効果
56
図 6-16 ステッパー(露光装置)とコータ・デベロッパの装置配置
6.3 パタン転写と露光装置
(1)ポジ型レジストの現像と解像度要因
マスク・パタンからレジスト・パタンへの転写はマスクを介しての光照射、レジス
ト内部での光化学反応による潜像形成、現像の 3 段階で行なわれる。図 6-17 に 3 段
階のイメージを示す。パタンの解像度は照射光、レチクル、レンズ、フォト・レジス
トの影響を受ける。図 6-18 に解像度要因がどのように影響を及ぼすのかそのイメー
ジを示す。それらはいずれも照射する光の性質と関係するので、ここでは露光工学の
観点から光の基本的特性について説明する。
非感光部
感光部
図 6-17 ポジ型レジストの露光・現像の 3 段階
(a) マスクを介して光照射
(b) 光化学反応・潜像形成
(c) 現像・レジストパタン形成
57
光とは空間を伝播する電磁波の一種である。電磁波は電界と磁界が直行する面内で
振動しながら伝わるが、物質中ではその強度が減衰する。電磁波は周波数または波長
によって分類され、周波数の小さな波長の長い方から短いほうに並べると AM ラジオ
電波、FM ラジオ電波、マイクロ波(MW)、赤外線(IR)、可視光(VL)、紫外光(UV)、X 線、
γ線と呼ばれる。可視光は波長 0.7~0.35μm の領域、紫外光は波長 0.35μm~0.01μm で
あり、通常の露光では短波長可視光から長波長紫外光が使われるので、以下にはこの
領域の光を中心に説明する。非常に特殊な露光では X 線を使うこともある。
光の伝播速度 c は真空中では c = c0 = 3.0×108m/sec であり、物質中ではその屈折率を
n とすると c = c0/n である。光の特徴的現象は反射、屈折、回折、干渉である。これら
は露光プロセスの中で解像度に影響を及ぼす問題原因となる。図 6-19 には屈折と回折
のイメージを、図 6-20 には干渉とそれにより生じる干渉縞のイメージを示す。
図 6-19 波動光の性質:(a)屈折, (b)回折
図 6-20 波動光の性質:干渉
(a)波面の動き, (b)フィルム上の干渉縞
1
2
3
4
図 6-18 解像度要因:①照射光、②レチクル、③レンズ、④フォトレジスト
58
(2)解像度と焦点深度
[解像度に及ぼすパタン端部境界の問題]
図 6-18 における解像度要因①②の影響について説明しよう。マスク・パタンを
正確にウェーハ上のレジスト・パタンに転写することができない理由の一つはマ
スク・パタンの透明部分・不透明部分の境界で回折が起こり、転写パタンの境界が
不明確になるためである。回折による寸法変化の影響は波長が長いほど大きく、短い
波長の光を使うことにより改善できるが光の波長は IC の特性長に近いからその効果
を無視できない。図 6-21
にシャドーイメージの理
想と異なる波長に対する
現実イメージを比較して
示す。
[解像度に及ぼすレンズ
の影響]
図 6-18 における解像度
要因③について説明しよ
う。レチクル・パタンをウ
ェーハ上に縮小投影する
ためにレンズを使う。実
際の露光装置では多数の
レンズを組合せて使うが、
以下の説明では簡単に 1 枚のレンズで説明する。図 6-22 はレンズによる結像と倍率
の関係である。図 6-23 にはレンズの光学的特性を表す F 数と開口数(NA, numerical
aperture)の定義を示す。レンズの直径が大きく焦点が短いほど像は明るい。また NA
が大きいほど分解能は高い。
露光する時にはレ
図 6-22 レンズによる結像と倍率
1/a + 1/b = 1/f, Y’ = f・tanθ, M = Y’/Y = b/a
図 6-21 シャドーイメージの理想(a)と 3 つの波長に対する現実(b)
f
D
図 6-23 レンズの F 数と開口数 NA
F = f/D (小さいほど明るい) ,
NA = n・sinθ (大きいほど高分解能)
D:レンズ直径,θ:見込角, n:空気の屈折
率
2δ
59
チクル面に垂直な平
行光線を照射して、レ
ンズ象点の位置にウ
ェーハを配置する。こ
れは無限遠方の物体
像を象点位置に結像
させることになる。初
歩的幾何光学ではレ
ンズを通して完全に
相似な像が得られる
筈であるが、無限遠方
の点の結像は実際に
は無限小の点にはな
らず有限の寸法にな
る。これがレンズの解
像度を決める。これは
光が波動であるため
に起る現象である。
図 6-24 には無限遠
方の点光源が結像す
る光の強度分布を示
す。このパタンはその
研究者名によりエア
リー・デイスクと呼ば
れ、数学的にベッセル
関数と呼ぶ曲線で表
示される。
図 6-25 に示すよう
にエアリー・デイスク
は中心の強い発光円を何重もの弱い発光強度の円環が取り巻く。中心円の半径δは次
式で与えられる。
δ = 0.61λ/NA ・・・ (6.1)
δをレンズの分解能と呼ぶ。但しλは光の波長、NA はレンズの開口数である。図か
らわかるように、二つの点光源の位置が 2δより近ければ光源は分離して観測できず、
それより離れていれば分解して見える。
[焦点深度]
60
厚みのあるレジスト層に厚みの無視できるマスクパンの像が射影されると、レジス
ト層の厚み方行の結像領域は不均一になる。それは照射光は焦点に向って集光し焦点
からまた発散するからである。図 6-26 にレジスト層内垂直断面内の照射光の収束・発
散の様子を示す。図 6-27 には焦点面と焦点から外れた位置における光の強度分布を示
す。この図で焦点面における光強度分布のピーク値に対して、光強度がピーク値の
-20%(1 レーリー単位と呼ぶ)以内に収まる範囲内の距離を焦点深度(DOF, depth of focus)
と定義する。DOF は次式で与えられる。
DOF = ±0.5λ/(NA)2 ・・・ (6.2)
図 6-26 レジスト層内垂直断面内の
照射光の収束・発散の様子
図 6-27 レジスト内部の焦点面と焦点から外れた面におけ
る光強度分布(焦点深度:1 レーリー単位以内の強度領域)
焦点深度の小さい条件で露光を行なうと、レジスト層の厚み方行全体の光化学反応が
不均一になり、ウェーハ・チップ内面レジスト膜厚が不均一の場合には非感光領域が
発生する。良好な露光には焦点深度を大きくすることが望ましい。しかし(6.1), (6.2)式
を比較してわかるが、分解能と焦点深度を双方同時に充分満足することはできない。
(3)現像パタン良否判定基準
現像されたレジスト・パ
タンは主として線幅、側壁
角度、現像後の残留レジス
ト厚みの三点が満足できる
か否かから判断される。そ
れらの調整をするために、
露光装置の焦点面設定位置
合わせと露光時間の組合せ
で最適値を選定する。
図 6-28 分解能検査用パタン
61
図 6-29 ポジ型レジストの L&S パタンによる露光条件調整(目標幅 0.30μm, 厚み 0.8μm)
縦方向:焦点設定位置変化の影響、+側は上、-は下を示す、側壁傾斜角度に注意
横方向:照射時間変化の影響、右側が長時間、線幅に注意
図 6-28 に分解能検査用パタンの一例を示す。図 6-29 にはライン・アンド・スペー・
パタン(L & S )の露光条件依存性を示す。
(4)露光用光源
露光に使うのは高圧水銀アーク放電ランプあるいはエキシマレーザ紫外光源であ
る。図 6-30 に水銀ランプの写真を、図 6-31 に露光装置の光学系の構成を示す。
水銀には幾つかの特性発光スペクトルがあるが、干渉フィルターを使い露光には特
定の波長だけを使う。g 線の波長は 436nm で 0.80μm 以上の寸法に適用し、i 線の波長
は 365nm で 0.40μm 以上の寸法に適用する。
62
図 6-30 高圧水銀アーク放電ランプ
管球(バルブ):石英、水銀蒸気:停止状態~1 atm, 放
電中 ~40atm, 電極間隔: ~5mm, 放電電力:
200~2,000W
図 6-31 通常の水銀ランプ照射光学系(左)と蝿
の眼レンズを使った照射光学系(右)
図 6-32 エキシマレーザ光源の構成
図 6-33 エキシマレーザ光ステッパーの光学系
図 6-32, 6-33 にエキシマレーザ光源とそれを用い
たステッパーの光学系の構成を示す。KrF のエキシ
マレーザの波長は 248nm で、0.35, 0.25, 0.18μm の特
性長の露光に使う。ArF エキシマレーザの波長は
193nm で、0.20μm 以下の特性長の露光に使う。
(5)露光用アライナー
露光装置は下地の加工処理済みのパタンと新に
現像すべきパタンとを高精度で位置合わせするの
で、アライナー(alingner)とも呼ばれる。露光パタン
には位置合わせのためのパタン(アライメント・マ
ーク)が組込まれる。図 6-34 には幾つかのアライメ
ント・マークを示す。
図 6-34 アライメント・マーク
上:クロス・ボックス組合せ、
下:フレーム・フレームの組合せ
63
露光用アライナーには露光方式とマスクの組合せにより表 6-3 に示すように 5 種類
の方式がある。図 6-35 にはマスクとウェーハの位置関係と光学系の構成を比較して示
す。コンタクト方式ではマスクとウェーハを密着した状態で露光する。最も信頼性が
高く、かつ分解能の高い露光方式であるがマスクが、ウェーハに押し付けられて傷が
生じて何回も使えない。プロキシミテイー方式ではマスクとウェーハを非接触にして
傷の発生を防ぐことができる。しかし露光波長と実用的マスク・ウェーハ間のギャッ
プ精度からこの方式は 2μm が最小現像寸法である。 図 6-36, 37 にはコンタクト露光
方式装置とプロキシミテイー露光方式装置の光学系を示す。以上の 2 方式に対して更
に微細な寸法パタンの露光にはプロジェクション(投影)方式を使う。これはマスクと
ウェーハの間にレンズや反射ミラーなどを配置して縮小または等倍で露光する。
表 6-2 各種露光方式
露光方式 マスク/レチクルとウェーハの関係
コンタクト(密着) 密着、等倍
プロキシミテイー(近接) 接近(10~20μm)、等倍
走査投影(ミラー)
スキャナー
マスクとウェーハ間に反射鏡、円
弧照明光走査、等倍
縮小投影(レンズ)
ステップ&リピート
レチクル・ウェーハ間に縮小レンズ、
1/10, 1/5, 1/4
走査縮小投影(レン
ズ)、ステップ&スキャン
レチクル・ウェーハ間に縮小レンズ
と走査レンズ、円弧照明走査
図 6-35 コンタクト(a)、プロキシミテイー(b)、プロジェクション(c)
プロジェクション(投影)露光にはステップ&リピート縮小投影露光方式、等倍走査投
影露光方式、ステップ&走査縮小投影露光方式の 3 種類がある。このうち等倍走査投
影露光は半導体ウェーハ作製ではないが、大面積 LCD 基板の露光に使われるのでここ
で一緒に簡単に説明しておく。
図 6-37 プロキシミテイー(近接)露光装置の光学系
図 6-36 コンタクト(密着)露光装置の光学系
64
図 6-39 ステップ&リピート方式によるチップ毎の露光
図 6-38 にステップ&リピート縮小投影露光装置の光学系を示す。コンタクト法、プ
ロキシミテイー法のマスクはウェーハ全面のパタンが設けられている場合とは異な
り、この方式で使用する原版パタンは 1 チップ視野分だけが設けられており、レチク
ルと呼ばれる。本来レチクルは等倍露光マスクを作製するために使われていた
マスター・マスクである。UV 光はレチクルを通過した後にレンズを通過して、レチク
ルパタンを 1/10~1/4 に縮小してレジス
ト上に 1 チップ視野の露光をする。1
チップ視野の露光を終了すると、レチ
クルは静止したままでウェーハを移動
して次の 1 チップ視野を露光する。ス
テップ&リピートの名前は 1 チップ視
野の露光を繰返すのに由来し、露光装
置はステッパーとも呼ばれる。図 6-39
はチップ毎の露光を示す。
ステッパーの光学系の心臓部はレンズ
である。レンズは 23 枚から 35 枚が一組としてレチクルよりも大きな直径、長さ 1m、
重量 1 トンの鋼製レンズ筒に組立てられる。表 6-3 に各世代のレンズの仕様を示す。
図 6-40 に走査型等倍投影露光装置の学系を示す。マスクとウェーハ(基板)の間に凹
面反射鏡を配置して、マスクと基板は同時に走査する。大面積基板用に適した方式で、
LCD の露光工程で使用されている。図 6-41 にステップ&スキャン縮小投影露光装置の
光学系を示す。これはレンズの NA を大きくすることの技術的限界により現在方式の
ステップ&リピート方式光学系では更に微細な分解能が達成できない場合の将来型
の露光方式と考えられている。
図 6-38 ステップ&リピート縮小投影露光装置
の光学系
表 6-3 光露光用レンズの仕様
光(波長) NA δ(μm) DOF(μm)
g 線(436nm) 0.28 0.95 2.78
i 線(365nm) 0.63 0.35 0.92
KrF(248nm) 0.60 0.25 0.69
KrF(248nm) 0.70 0.21 0.51
ArF(193nm) 0.70 0.17 0.39
F2(157nm) 0.70 0.13 0.32
65
図 6-40 走査型等倍投影露光装置の光学系:マスクとウェーハ
(基板)の間に凹面反射鏡配置。円弧形状照明を使用。マスクと
基板を同時走査。等倍露光、大画面基板適性。
図 6-41 ステップ&スキャン縮小投影露光
装置の光学系:レチクル(左)とウェーハ(右)
の間に凹面鏡配置。レチクルとウェーハを
同時走査。
図 6-42 にコンタクト/プロキシミテイー露光装置外観を示す。図 6-43 にステップ&リ
ピート縮小投影露光装置外観を示す。
(6)OAI(off-axis illumination)
OAI は露光の波長とレンズの NA を変えずにステッパーの分解能を上げる方式であ
る。それは投影レンズの光軸中央部の入射光を使わずに、端部の入射光でレテイクル
を照射する法方である。この方式は等間隔高密度の直線パタンの分解能を改善するの
で、特に DRAM, SRAM 等の IC パタンには有効である。また OAI はステッパーの焦点深
度も改善する。図 6-44 に OAI 用各種アパーチャを示す。しかし図中の(a)のような非対
称の非対称アパーチャはパタンの方行により分解能改善と劣化の双方の効果がある。
図 6-42 コンタクト/プロキシ
ミテイー露光装置外観 図 6-43 ステップ&リピート縮小投影露光装置外観
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従って(b), (c)に示すような対称アパーチャ
をよく使うが、対象性が高くなるほど改善
効果が低くなる。また照射光量が減尐する
欠点もある。
(7)露光技術の動向
これまで説明してきた露光技術は、ムーアの法則に従って IC 加工パタンの微細化
が進展するのに伴い技術開発により旧来の技術が改善されたり新方式が導入されて
変化発展してきた。その主流を簡単にまとめると次のようになる。
① 結像方式の動向:コンタクト (密着 ) → プロキシミテイー (近接 ) →
プロジェクション(投影)
② 投影方式の動向:等倍投影 → 縮小投影(スッテパー) → 縮小投影(ステップ
&スキャン)
③ 原版:マスク → レチクル
④ 原版作製:マスターマスク(レチクル)光露光 → 電子ビーム露光
⑤ 露光光源:水銀ランプ g 線 → i 線 → KrF → ArF →F2
⑥ レジスト:ネガ型 → ポジ型 → 化学増幅ポジ型
6.5 リソグラフィーの問題
フォトレジスト材料
(1) フォトリソグラフィーで使われるポジ型レジストとネガ型レジストの違いについ
て自分の言葉で説明せよ。
(2) フォトレジスト材料にはネガ型とポジ型がある。半導体 IC ウェーハ作製にはどち
らが多く使われるかその理由と、理由のメカニズムについて簡単に説明せよ。
(3) 0.25μm 以下の小さな寸法のデザインルールの世代の露光では、それ以前の DNQ/
ノボラックレジンのレジストではなく、化学増幅型レジストが使われる。理由は
何か。
(4) 化学増幅レジストは露光処理室の空気がアンモニアに汚染されるのを嫌う理由は
何か。
図 6-44 OAI 各種アパーチャ (a)端部 1 対小
孔, (b)端部 2 対小孔, (c)円環
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レジストプロセス
(5) レジストをウェーハに塗布する前に HMDS 蒸気処理をする目的は何か。
(6) レジストの厚みは通常どの程度か。所定の厚みを得るために、スピナー塗布する
ときに何を制御すればよいか。
(7) レジストを露光するときレジストの底部から反射する光と上部から入射する光が
干渉し、現像したレジスト・パタンの側壁に凹凸が発生する。抑制対策を 2 つ説
明せよ。
(8) シリコンウェーハに化学増幅型ポジ・レジストを塗布して露光現像しエッチング
マスクとして使用するまでに通常はベークを 3 回行なうが、第 1 回目から 3 回目
までそれぞれどの段階でどのような理由あるいは目的で行なうのか説明せよ。
パタン転写と露光装置
(9) 露光現像されたフォト・レジストパタンが忠実にマスクパタンを反映しない理由
は色々あるが、その中でパタン端部境界が不明瞭になる現象の理由を説明せよ。
(10) 微細なパタンを露光する場合に解像度(分解能)をあげるために波長の短い光を使
わなければならない理由を簡単に説明せよ。
(11) 露光における焦点深度とは何か、更にまた微細なパタンを露光する場合にはレジ
スト厚みを小さくせねばならない理由を自分の言葉で説明せよ。
(12) 微細寸法 IC パタンを現像するために露光プロセスでは解像度が高く、焦点深度が
大きいことが望まれる。しかし両者は相反する面のあることを説明せよ。
(13) 歴史的に半導体 IC プロセスの露光方式がコンタクト(密着)方式からプロキシミテ
イー(近接)方式に代わった理由、プロキシミテイー方式から縮小プロジェクション
(投影)方式に代わった理由を説明せよ。
(14) 152mm×152mm のレチクルの外周辺 10mm は支持のためマスクパタンは描かない
として、1/5 縮小投影露光装置でウェーハ上に作製できる最大チップ寸法を求め
よ。
(15) 次の光とレンズの系を使うリソグラフィーの場合について最小分解可能距離を
計算により求めよ。
(a)光源高圧水銀アーク灯の g 線、レンズ NA = 0.16
(b)光源高圧水銀アーク灯の i 線、レンズ NA = 0.16
(c)光源高圧水銀アーク灯の i 線、レンズ NA = 0.28
(16) ArF 露光装置の NA=0.54 レンズと KrF 露光装置の NA=0.7 レンズの 2 つの系は同じ解
像度であることを示せ。焦点深度 DOF はどちらが大きいか。
(17) レチクルとマスクの違いについて説明せよ。レチクルは何故無欠陥でなければい
けないのか。
(18) シリコンの熱膨張係数は 2ppm/℃である。300mm ウェーハに露光する場合、ウェ
ーハの両端で 10nm の長さの変化を与える温度差を求めよ。これから 25nm の精度
で重ね合わせ露光をするためにはウェーハステージの温度管理をどの程度の範囲
内に設定制御すべきか説明せよ。