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Dimer2 : 2005/4/28(14:32)
32原子分子の化学結合と固体のバンド構造
孤立原子の Scrodinger方程式を解いた場合の電子構造を前章で見た.では,孤立原子が集まって固体になると一体どうなるのであろうか? 固体では原子同士が引き寄せあって凝集している.この結合の重要な特徴は 2原子分子の化学結合を詳しく見ることで,理解することができる.本章では,2原子分子に原子軌道の線形結合 (LCAO)をあてはめて Scrodinger方程式を解き,共有結合,イオン結合の違いを量子力学から導く.さらに,固体のバンド構造を示す.
3. 1 2原子分子の電子構造
3. 1. 1 2原子分子の解原子間の相互作用は2原子分子の化学結合を考えればその主な役者は出尽くす.図 3.1のような原子 A,Bが結合を作る場合の Schodinger方程式を考えよう.AB分子の分子軌道関数 ψABがしたがう 1電子 Schrodinger方程式,すなわち
− h2
2m∇2ψAB + VAB(r)ψAB = EψAB (3.1)
を解きたい.ここで VAB(r)は分子ポテンシャルである.原理的にはこのポテンシャルはセルフコンシステントに決定されねばならない.つまり (3.1)式の左辺に入力として入れるポテンシャルは平均電荷密度に依存するため,(3.1)式の出力である電子波動関数 ψAB に依存する.この入力
Dimer2 : 2005/4/28(14:32)
34 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
E
E
V
V
V V
図 3.1 AB 2原子分子のポテンシャルと電子軌道の模式図.
と出力のループを収束するまで繰り返す必要がある.ここではより直観的に理解しやすい近似解を導出する.それは,分子軌道法でよく使われる LCAO(Linear conbinations of atomic
orbitals)近似,つまり分子を構成する原子の波動関数の線形結合
ψAB = cAψA + cBψB (3.2)
が分子軌道のよい近似であると仮定する.(3.1)式に ψAB を代入して,右側から ψA, ψBを掛けて全空間で積分する.AB2原子分子に対するHamiltonian演算子
H = − h2
2m∇2 + VAB
を導入して実際に積分を表示すると,ψA では∫ψAH (cAψA + cBψB) dr =
∫ψAE (cAψA + cBψB) dr (3.3)
となる.この式を展開すると
cA
∫ψAHψAdr + cB
∫ψAHψBdr = cAE
∫ψAψAdr + cBE
∫ψAψBdr
(3.4)
となる.ここで 2 つの重要な積分関数,ハミルトニアン積分 (Hamiltonian
integral)H と重なり積分 (overlap integral)S
Hα,β =∫ψαHψβdr (3.5)
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3. 1 2 原子分子の電子構造 35
Sα,β =∫ψαψβdr (3.6)
を導入する.H は s型の波動関数を考えると,負のポテンシャルの中で正の波動関数の積を空間にわたって積分することになるので,負の値を得る.一方 S
は,正の波動関数の積を積分することから必ず正の値を得る.積分は原子間距離によって変化する値となる.重なり積分 S は Pauliの排他原理を直接表現しており,2電子軌道が近づくと急激に値が大きくなる.この積分は数値積分や何らかの近似を使って実際に計算することが可能である.H,S を使うと式は単純な形
cA (HAA − E) + cB (HAB − ESAB) = 0 (3.7)
となる.ψB に対しても同様の式が導出でき,こうして LCAO永年方程式は(
HAA − E HAB − ESAB
HBA − ESBA HBB − E
)(cA
cB
)= 0 (3.8)
となる.HAA,HBB はそれぞれの原子の孤立状態でのエネルギー準位 EA, EB
に置き換えることが可能である.エネルギー準位の平均と差 E = 1
2 (EA + EB) ,∆E = EB − EA をとり,非対角要素に含まれるHAB = HBA, SAB = SBA を h+ ES, S と書き換えると,Hamiltonian行列は
(− 12∆E − (
E − E)
h− (E − E
)S
h− (E − E
)S 1
2∆E − (E − E
))(
cA
cB
)= 0 (3.9)
のように変換される∗1).この行列式が意味のある解を持つ条件は永年方程式が0になる場合である.これはすぐに解けて
E± = E +|h|S ∓ 1
2
√4h2 + (1− S2)∆E2
1− S2(3.10)
となる.ここで (1− S2)−1 = 1 + S2 + · · ·と展開すると∗1) ここはごまかしている.大抵の分子軌道法の教科書では式 (3.8) 型の Hamiltonian 行列をその
まま解いている.1) の 3 章では,物理的な考察からより直観的な表式 (3.9) を導き,以降の議論がより化学の知識と整合するようになった.今はごまかされてくれ.
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36 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
∼= E + |h|S ∓ 12
√4h2 + ∆E2 (3.11)
という解を得る (課題 1参照).これは二つの原子を近づけていった場合に新たに作られる結合準位 E+ と反結合準位 E− である (図 3.2).この表式は非常に直観的な意味を含んでおり,何度もここへ立ち戻る.
等核(homonuclear)
異核(heteronuclear)
ψ-
ψ+
ψ-
ψ+
図 3.2 AB 2原子分子のエネルギー準位と分子軌道.
3. 1. 2 等核 2原子分子の原子間力ここでは単純化のために,等核 2原子分子を考え∆E = 0とする.得られたエネルギー準位の表式 (3.2)は,2原子間の結合を支配する二つの重要な構成要素を示している.2原子分子の原子間距離を変化させたときの相互作用ポテンシャルの変化の様子を図 3.3に示した.無限遠ではお互いが相互作用せず,ポテンシャルを 0にとる.そこから,距離を近づけると,お互いが引き寄せあう.これは,結合準位が Hamiltonian積分の絶対値 |h|だけ下がることに対応している.近づきすぎると急激に反発が強くなる.これは,Pauliの排他原理を反映する重なり積分によって反発が強くなることに対応している.引力と斥力が丁度つり合った位置で,2原子分子は平衡を保ち,結合エネルギー,平衡原子
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3. 1 2 原子分子の電子構造 37
間距離をとる.そこでの 2次微分あるいは曲率が結合の硬さとなる.
エネルギー
結合距離平衡原子間距離
結合エネルギー
図 3.3 2 原子分子のエネルギーポテンシャルの距離依存性.
図 3.4は 2sp結合からなる B2 から F2 までの 2原子分子の結合エネルギーU,平衡原子間距離 R,固有振動周波数 ωを示している.ωはバネの硬さの目安である.なぜなら,2原子分子の固有振動周波数は,バネ (硬さ k)でつながった 2個のおもり (重さm)の振動より,
ω ∝√k
m(3.12)
で求まり,原子量がそれほど違わない B2から F2までの 2原子分子では,結合の硬さの単純な目安となる.図では全ての物性が N2 を中心に左右対称を示している.すなわち,N2において結合エネルギーがもっとも強く,そこで原子間距離はもっとも短く,また硬さがもっとも高くなっている.このような周期表に添った物性の変化の傾向をよく見かける.これは電子のエネルギー準位と軌道を占有する電子の数を考えれば簡単に理解することができる.B2 から F2 では 2s軌道準位は p軌道準位に対して低いため,2p軌道の占有の様子だけを考えればよい.2原子の p軌道が用意する座席は 6個であるが,B2 → C2 → N2 → O2 → F2 と周期表を右に進むに連れて,含まれる p
電子の数は 2 → 4 → 6 → 8 → 10と変化する.1個の軌道を 2個の電子が占めることが可能であるので,結合軌道には 2 → 4 → 6と詰まっていき,N2 で結合軌道がすべて詰まった状態となる.電子がさらに増える O2 では,反結合
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38 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
図 3.4 2 原子分子の結合エネルギー U,平衡原子間距離 R,振動周波数 ω.
軌道にも電子が入りはじめる.その結果,電子軌道準位 Ei と占有数 ni の積の和で求まる結合力 Eb
Eb =∑
i
Eini (3.13)
は 1 → 2 → 3 → 2 → 1と変化していく.この結合力の変化が図 3.4の N2 を中心にした三角形上の振る舞いを支配している.∗1)
3. 1. 3 異核 2原子分子のイオン性と共有性,電気陰性度式 (3.11)をもう一度見よう.
E± ∼= E + |h|S ∓ 12
√4h2 + ∆E2
等核 2原子分子では∆E = 0であった.そのため,電子の存在確率は図 3.2上段に示したとおり,AB原子に均等である.しかし,異核 2原子分子では∆E 6= 0
であるためよりエネルギー準位の低い,ここでは B原子に存在する確率が高く∗1) ここもごまかしている.実際には σ, π 型の軌道準位と Hund の規則によって電子配置,結合力
が決まっている.
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3. 2 固体のバンド構造 39
なる.この様子を図 3.2下段に示した (課題 2参照).この電子の存在確率の偏りは,次式
αi =∆E√
4h2 + ∆E2(3.14)
で定義されるイオン性度 (ionicity)が目安となる.これは式 (3.11)から明確な意味が与えられる.つまり,あらたに作られる結合・反結合エネルギー準位の差と,構成原子のエネルギー準位の差との比となる.このイオン性度と相補的な共有性度 (covalency)が
αc =2h√
4h2 + ∆E2(3.15)
と与えられる.こられには
α2i + α2
c = 1 (3.16)
の関係がある.このイオン性度と共有性度を用いて,2原子分子の電子存在確率の偏りが数式から導かれる (課題 3参照).このイオン性度は,電子の引きつけやすさの厳密な定義となる.しかし,∆E
は spd軌道にそれぞれによって変わり,hも 2原子間の平均値として求めることができない.化学の分野では,よりあいまいではあるが広範な元素に適用できる,電気陰性度 (electronegativity)が使われている.ポーリング (Pauling)
およびマリケン (Mulliken)によって提案されたよく使われる電気陰性度のスケールを図 3.5に示した.元素のエネルギー準位の変化 (図??)と驚くほど一致していることが分かるであろう.元素のエネルギー準位の差がイオン性度の起源であることから,これらの間に相関があることは驚くには当たらない.
3. 2 固体のバンド構造
3. 2. 1 バ ン ド 構 造2原子分子では電子軌道の個数は,構成する原子が持つ軌道の和でたかだか数個程度である.しかし,固体のように構成する原子が 1023 個のオーダーに
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40 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
図 3.5 電気陰性度.
なった場合には軌道の個数を数えるわけには行かない.そのかわりに,電子状態密度 (density of states)が使われる.これは得点の分布をヒストグラムで表すのと同じである.
n=2
n=1023
n=1
n( E )
Energy level E
図 3.6 固体の電子状態密度の模式図.
実際の固体では図 3.7のような電子状態密度が描かれる.ここでは半導体の代表である Siと遷移金属の特徴をよく示す Pt(これ自身の物性・価格は貴金属に近いが)の状態密度を示した.Siは sp軌道が混ざり合って結合準位と反結合準位に対応した,価電子帯 (valence band)と伝導帯 (conduction band)を形成
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3. 2 固体のバンド構造 41
する.これらのバンドの間にはギャップが空いている.sp軌道が提供する電子の席は 8個であり,Siは 4個の電子を持つため,結合準位に対応する価電子帯が満ちた状態である.電子の詰まっている一番上の準位をフェルミ準位 (Fermi
level, EF)と呼ぶ.Siなどでは Fermi準位はこのギャップの中心に取る.
価電子帯 伝導帯
バンドギャップ
Fermi 準位
Fermi 準位dバンド
Si
Pt
図 3.7 Si と Pt の電子状態密度とそのモデル図.
ギャップの幅が数 eV程度の物質を半導体と呼ぶ.誘電体はバンドギャップが大きく開いており,金属ではギャップがない.ギャップの大きさや,フェルミ準位での電子状態密度の大きさが,物質の電気的,光学的性質を支配している.一方,d軌道の結合が支配的な遷移金属では,図 3.7下段に示したような矩
形 (rectangular,四角形の意)のバンドが特徴となる.d電子数の違いによる結合の変化は図 3.8のようであり,等核 2原子分子で見た図 3.4と共通した特徴を示している.固体においても 2原子分子の結合,反結合準位の電子占有数
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42 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
と同様に理解することができる.固体では,前出分子のエネルギー準位と占有数の積の和で示された結合エネルギーは,エネルギー準位と電子状態密度の積の積分
Eb =∑
i
Eini =∫ EF
−∞En(E)dE (3.17)
で求められる.積分範囲はバンドの底あるいは −∞から,EF までである.
図 3.8 4d 遷移金属のバンド幅 W,結合エネルギー Ucoh,平衡原子間距離 R,体積弾性率 B の d 電子数依存性.結合エネルギーは図 3.4 と正負が逆であることに注意せよ.
3. 2. 2 共有性とイオン性Phillips と Van Vechten(1969) は sp 価電子 AB 八隅化合物 (octet com-
pounds)の価電子バンドと伝導バンドの開きを解釈するモデルを作った.彼らは,NaClや ZnSのような半導体や絶縁体のバンド準位の中心のエネルギー差Eg は共有性 Ec とイオン性 Ei の寄与によって形成されていると仮定した.こ
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3. 2 固体のバンド構造 43
れらは式 (3.11)と関連して
E2g = E2
c + E2i (3.18)
の関係がある.光電子分光法などによって測られた,IV族半導体の Ec と八隅化合物の半導体や絶縁体の Eg を比較することによって適切な Ei の値を求めることができる.例えばGe, GaAs, ZnSe, CuBr化合物の Eg はそれぞれ 5.6,
5.9, 6.8, 7.9eVをとる.この等電子数系列 (isoelectronic series)に渡ってはEc
が変化しないと仮定すると,Eiが単純な計算で得られる.この線形に増加する傾向は,図??で示したような 4sと 4pの原子エネルギー準位の線形な振舞いから予測され得るものである.さらに注目すべきことに,Phillips-Van Vechtenのイオン性度は sp価電子八隅化合物の構造を見事に分類している.図 3.9に示したように,構造マップ(Ec, Ei)は 4配位の閃亜鉛鉱やウルツ鉱構造をもつ化合物と 6配位の NaCl構造をもつ化合物とをすべて分けている.イオン性度が共有性度よりも強い,左上の領域に NaCl型構造がかたまっている.これは閃亜鉛鉱構造とウルツ鉱構造が共有結合的な構造であるのに対して,NaCl型構造はイオン結合的であるという古典的な知識と整合している.
演習問題
課題 1 (共有性とイオン性の起源) s価電子原子Aと Bとが異核 2原子分子ABを形成するとき,分子軌道 ψAB
は,それぞれの原子軌道の線形結合 (LCAO)によって
ψAB = cAψA + cBψB (3.19)
と書ける.原子のエネルギー準位 EA, EB の平均 E = 1/2(EA + EB)と差∆E = EB − EA を用いると,固有値は平均エネルギー E を基準に測れて,LCAO 永年方程式は
cA
{−1
2∆E −
(E − E
)}+ cB
{h−
(E − E
)S}
= 0 (3.20)
cA{h−
(E − E
)S}
+ cB
{1
2∆E −
(E − E
)}= 0 (3.21)
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44 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
図 3.9 sp 価電子 AB 八隅化合物での (Ec, Ei) 構造マップ.zinc blende:閃亜鉛鉱,wurtzite:ウルツ鉱,rock salt:岩塩,Coordination:配位数.(Phillips と Van
Vechten (1969) による.)
と書ける.ここで h, S はそれぞれ共鳴積分と重なり積分である.問 1 AB分子の結合軌道と反結合軌道のエネルギー準位を求めよ.問 2 結合軌道と反結合軌道のエネルギー準位差 wABは,(1−S2)−1 =
1 + S2 + · · ·と展開し S2 以上の項を無視すると,近似的に
w2AB = 4h2 + (∆E)2 (3.22)
となることを導け.Phillips と Van Vechtenは NaCl や ZnS などの sp 価電子 AB 八隅化合物について上で求めた 2原子分子のモデルを発展させた.価電子帯と伝導帯の重心のエネルギー差 Eg が,共有性 Ec とイオン性 Ei の寄与によって形成されると仮定し,
E2g = E2
c + E2i (3.23)
とした.問 3 等電子数系列 Ge-GaAs-ZnSe-CuBr の Eg は 5.6-5.9-6.8-7.9eV
と見積もられている.系列を通して共有性の寄与が変わらないと仮
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3. 2 固体のバンド構造 45
定して,それぞれの化合物のイオン性の寄与 Ei を求め,その変化の起源について論ぜよ.
問 4 図 3.9は sp価電子 AB八隅化合物での Ec, Ei の推定値と結晶構造を示している.この構造マップから分かることを記せ.
課題 2 2原子分子の分子軌道に含まれる係数 cA, cB を求めよ.課題 3 イオン性度 (αi)と共有性度 (αc)とを用いて 2原子分子の存在確率の空間
依存 ρAB(r) = 2ψAB(r)2 を求めよ.
解答例
1 式 (3.11) の導出を示す.Hamiltonian 行列を作り,その永年方程式から解を出す.
> restart;
> diag1:=-1/2*DE-(E-Eav);
> diag2:=1/2*DE-(E-Eav);
> offd:=h-(E-Eav)*S;
diag1 := −DE
2− E + Eav
diag2 :=DE
2− E + Eav
offd := h− (E − Eav)S
> with(LinearAlgebra):
> ham:=<<diag1,offd>|<offd,diag2>>;
ham :=
−DE
2− E + Eav h− (E − Eav)S
h− (E − Eav)SDE
2− E + Eav
> eq:=Determinant(ham);
> #expand(diag1*diag2-offd*offd);
eq := −DE2
4+ E2 − 2E Eav + Eav2 − h2 + 2hS E − 2hS Eav − S2 E2 + 2S2 E Eav
− S2 Eav2
> sol1:=solve(eq=0,E):
> Ebond:=sol1[2];
> Eanti:=sol1[1]:
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46 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
Ebond :=2S h− 2Eav + 2S2 Eav −
√DE2 + 4h2 − S2 DE2
2 (−1 + S2)S の 2次まで展開する.
> Eb:=convert(series(Ebond,S,2),polynom);
> Ea:=convert(series(Eanti,S,2),polynom);
Eb := Eav +
√DE2 + 4h2
2− S h
Ea := Eav −√
DE2 + 4h2
2− S h
2 通常のやり方では David流の 2原子分子の係数 cA, cB の表式
c±A =1√2
(1± δ ∓ S√
1 + δ2
)1/2
c±B = ± 1√2
(1∓ δ ± S√
1 + δ2
)1/2
(3.24)
の導出ができなかったので,やや詳しくその導出を示す.先ず h < 0という仮定と DE := -2*h*deltaという変換をしておく.
> assume(h<0);
> DE:=-2*h*delta;
DE := −2 h δ
Hamiltonian行列の 2行目の方程式から cB を出す.
> eqA1:=simplify(solve(subs(E=Eb,offd*cA+diag2*cB=0),cB));
eqA1 := −cA (1 + S√δ2 + 1 + S2)
−δ +√δ2 + 1 + S
次に Hamiltonian行列の 1行目の方程式から cB を出す.
> eqA2:=simplify(solve(subs(E=Eb,diag1*cA+offd*cB=0),cB));
eqA2 := −cA (δ +√δ2 + 1 + S)
1 + S√δ2 + 1 + S2
この 2式を掛けると c2B がでる.この表式がもっとも簡単な形.
> cB2:=eqA1*eqA2;
cB2 :=cA2 (δ +
√δ2 + 1 + S)
−δ +√δ2 + 1 + S
ψAB の全空間に渡る積分が 1(存在確率が 1) という規格化条件∫ψ2
ABdr = c2A + c2B + 2cAcBS = 1 (3.25)
Dimer2 : 2005/4/28(14:32)
3. 2 固体のバンド構造 47
から導かれた関係式に代入して解を求める.> eqA3:=normal(subs({cB^2=cB2,cB=eqA1},cA^2+cB^2+2*cA*cB*S))/cA^2;
eqA3 := −2 (−√δ2 + 1 + S2√δ2 + 1 + S3)
−δ +√δ2 + 1 + S
この結果は,単純に書けば
eqB3 c2A = 1 (3.26)
である.したがって,eqB3の逆数をとって S の 2次まで展開すれば,最終の形 (の次乗)が得られる.
> ccA:=normal(convert(series(1/eqA3,S,2),polynom));
ccA :=−δ +
√δ2 + 1 + S
2√δ2 + 1
cB についても同様の導出が可能.> eqB1:=simplify(solve(subs(E=Eb,offd*cA+diag2*cB=0),cA));
> eqB2:=simplify(solve(subs(E=Eb,diag1*cA+offd*cB=0),cA));
eqB1 := −cB (−δ +√δ2 + 1 + S)
1 + S√δ2 + 1 + S2
eqB2 := −cB (1 + S√δ2 + 1 + S2)
δ +√δ2 + 1 + S
> cA2:=eqB1*eqB2;
cA2 :=cB2 (−δ +
√δ2 + 1 + S)
δ +√δ2 + 1 + S
> eqB3:=normal(subs({cA^2=cA2,cA=eqB2},cA^2+cB^2+2*cA*cB*S))/cB^2;
eqB3 := −2 (−√δ2 + 1 + S2√δ2 + 1 + S3)
δ +√δ2 + 1 + S
> ccB:=normal(convert(series(1/eqB3,S,2),polynom));
ccB :=δ +
√δ2 + 1 + S
2√δ2 + 1
3 Mapleで分子軌道を展開して求めると以下のようになる.> eq31:=expand(2*(cA*psiA+cB*psiB)^2);
eq31 := 2 cA2 psiA2 + 4 cApsiA cB psiB + 2 cB2 psiB2
> eq32:=subs({cA^2=ccA,cB^2=ccB},eq31);
eq32 :=(−δ +
√δ2 + 1 + S) psiA2
√δ2 + 1
+ 4 cApsiA cB psiB +(δ +
√δ2 + 1 + S) psiB2
√δ2 + 1
> eq33:=normal(1-ccA-ccB);# should be 2*S*cA*cB
Dimer2 : 2005/4/28(14:32)
48 3. 2 原子分子の化学結合と固体のバンド構造
eq33 := − S√δ2 + 1
> cA:=eq33/(2*S*cB);
cA := − 1
2√δ2 + 1 cB
> eq32;
(−δ +√δ2 + 1 + S) psiA2
√δ2 + 1
− 2 psiA psiB√δ2 + 1
+(δ +
√δ2 + 1 + S) psiB2
√δ2 + 1
これよりイオン性度 (αi)と共有性度 (αc)
αi =δ√
1 + δ2
αc =1√
1 + δ2(3.27)
を用いて空間依存 ρAB(r)は
ρAB(r) = (1 + αi)ρA(r) + (1− αi)ρB(r) + αcρbond(r) (3.28)
ここで
ρbond(r) = S(ρA(r) + ρB(r))− 2ψA(r)ψB(r) (3.29)
が導かれる.この表式は,イオン性と共有性による電子の空間分布を直観的に記述している.イオン性がない場合には αi = 0より共有的なボンドが強くなる.一方,イオン性がある場合には,イオン性度にしたがって電子がどちらかの原子の周辺に留まる様子が描かれている.
文 献
1) “分子・固体の結合と構造”, David Pettifor 著,青木正人,西谷滋人訳 (技報堂出版,1997) .