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平成29年度(2017年度) ICT活用プロジェクト研究 ICT活用による協働・双方向型の学習活動のあり方 -「学びのデザインマップ」の開発を通して- 内容の要約 キーワード 協働・双方向型の学習活動 「学びのデザインマップ」 授業設計力 授業力 研修と実践の往還 「+ICT滋賀県総合教育センター 西 主題設定の理由 研究の目標 研究の仮説 研究についての基本的な考え方 協働・双方向型の学習活動とは 学習活動を活性化する「+ICT」と ICTの活用を考える「学びのデザイ ンマップ」とは 研究の進め方 研究の方法 研究の経過 (1) (1) (1) (2) (2) (2) (3) (3) (3) (4) 研究の内容とその成果 プロジェクト研究開始時のICTICTを有効に活用するための研修 と研究協力校での実践の往還 「学びのデザインマップ」の開発 実践事例 協働・双方向型の学習活動の検証 研究のまとめと今後の課題 研究のまとめ 今後の課題 (4) (4) (4) (5) (6) (10) (12) (12) (12) 2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会(最終まとめ)」において、 授業内容や子どもの姿に応じて自在にICTを活用しながら授業設計を行えるよ うにしておくことが求められており、教員の授業設計力と授業力を向上させる ため、本研究で 「学びのデザインマップ」を開発した。「学びのデザインマップ」 を活用して、 ICTを有効に活用するための研修と、実践を往還し、学習活動が活 性化するICT活用( 「+ICT)となる協働・双方向型の学習のあり方を追究した。 これにより、教員のICTを活用した授業設計に対する意識が高まり、協働・双方 向型の学習活動が充実し、児童生徒の考えを広げ、深めることができた。

平成29年度(2017年度 ICT活用プロジェクト研究平成 29年度(2017年度) ICT活用プロジェクト研究 研究概要図 向けた練り合い 課題 付ける 授業実践1

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平成29年度(2017年度) ICT活用プロジェクト研究

ICT活用による協働・双方向型の学習活動のあり方

-「学びのデザインマップ」の開発を通して-

内容の要約

キーワード

協働・双方向型の学習活動 「学びのデザインマップ」 授業設計力 授業力 研修と実践の往還 「+ICT」

目 次

滋賀県総合教育センター

松 原 功 明 中 西 浩 一

Ⅰ 主題設定の理由

Ⅱ 研究の目標

Ⅲ 研究の仮説

Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 協働・双方向型の学習活動とは

2 学習活動を活性化する「+ICT」と

3 ICTの活用を考える「学びのデザイ

ンマップ」とは

Ⅴ 研究の進め方

1 研究の方法

2 研究の経過

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

(2)

(3)

(3)

(3)

(4)

Ⅵ 研究の内容とその成果

1 プロジェクト研究開始時のICT環境

2 ICTを有効に活用するための研修

と研究協力校での実践の往還 3 「学びのデザインマップ」の開発

4 実践事例

5 協働・双方向型の学習活動の検証

Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

2 今後の課題

文 献

(4)

(4)

(4)

(5)

(6)

(10)

(12)

(12)

(12)

「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会(最終まとめ)」において、

授業内容や子どもの姿に応じて自在にICTを活用しながら授業設計を行えるよ

うにしておくことが求められており、教員の授業設計力と授業力を向上させる

ため、本研究で「学びのデザインマップ」を開発した。「学びのデザインマップ」

を活用して、ICTを有効に活用するための研修と、実践を往還し、学習活動が活

性化するICT活用(「+ICT」)となる協働・双方向型の学習のあり方を追究した。

これにより、教員のICTを活用した授業設計に対する意識が高まり、協働・双方

向型の学習活動が充実し、児童生徒の考えを広げ、深めることができた。

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平成29年度(2017年度) ICT活用プロジェクト研究 研究概要図

授業実践1

ICTを活用した授業にチャレンジ

授業実践2

学びを授業に生かす

授業実践3

学びのデザインマップによる協働・双方向型の

学習の積み重ね

背景・学習指導要領(平成29年3月公示)→ICTを効果的に活用した授業づくりの必要性

・「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」最終まとめ(平成28年7月)→ICTを活用した授業設計の必要性

・平成28年度ICT活用プロジェクト研究の課題→ICTの特性を生かし、多様な意見を効率よく整理・集約して練り合う学習活動のあり方

研修

実践

【第6回研究会】研究を振り返る新たな課題に向かう

児童生徒が考えを広げ、深める

ICT活用による協働・双方向型の学習活動の充実

【第4回研究会】指導案検討

教科の見方・考え方で捉える

【第3回研究会】

単元計画の見直し

【第2回研究会】

振り返りと交流から学ぶ

【第1回研究会】

ICTの有効な活用方法を知る

ICTを有効に活用するための研修 研究協力校での実践<授業設計力> <授業力>

「学びのデザインマップ」

意識付ける

課題発見

広げる

新たな気付き

深める

検証する

往還【第5回研究会】ICT活用による公開授業研究協議会

再構築

<関係性>やりとり

・説明し合う・補足し合う・質問し合う・反論し合う

<学習形態>課題解決に

向けた練り合い

協 働 双方向

再発見研究委員の学び

研究委員の気付き

「+ICT」学習活動の活性化

・ペア・グループ・学級

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ICT活用プロジェクト研究

- 1 -

ICT活用プロジェクト研究

ICT活用による協働・双方向型の学習活動のあり方 -「学びのデザインマップ」の開発を通して-

Ⅰ 主 題 設 定 の 理 由

小学校学習指導要領解説総則編(平成29年6月)、中学校学習指導要領解説総則編(平成29年7月)で

は、各教科等においてICTを活用した学習を効果的に行うことが求められている。

当センターにおいては、平成28年度ICT活用プロジェクト研究で、ICTを活用した授業づくりに関する

研修と研究協力校での授業実践の往還を通して、タブレット端末等のICTを効果的に活用した授業のあ

り方を追究した。その中で、昨年度の研究成果物である「ICT活用プランシート」を用いた授業づくりに

よって、活用意図を明確にもった授業改善が進み、授業力の向上につながった。一方で、ICTがもつ特性

を生かし、児童生徒の多様な意見を効率よく整理・集約して練り合う学習活動におけるICT活用のあり

方が課題として挙げられた。

また、「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会(最終まとめ)」(平成28年7月)には、「ICTは、

情報の収集や発表のみならず、整理・分析やまとめのプロセスなども含めて、あらゆる教科のあらゆる

学習場面において活用可能であり、ICT環境整備を進める際には、教科等におけるICTを活用した学習活

動を特定するのではなく、教員自身が授業内容や子供の姿に応じて自在にICTを活用しながら授業設計

を行えるようにしておくことが重要である」1)とあり、あらゆる教科等においてICTを効果的に活用し

た授業を設計する力が求められている。

そこで、本研究では、教員のICTを活用した授業設計力と授業力を向上させるため、「学びのデザイン

マップ」を開発した。この「学びのデザインマップ」を活用しながら、ICTを有効に活用するための研修

と研究協力校での実践の往還を進め、学習活動が活性化するICT活用(「+ICT」)により、協働・双方向

型の学習のあり方を追究する。このことにより、教員のICTを活用した授業設計に対する意識が高まり、

協働・双方向型の学習活動が充実し、児童生徒の考えを広げ、深めることができると考え、本主題を設

定した。

Ⅱ 研 究 の 目 標

「学びのデザインマップ」を活用して、ICTを有効に活用するための研修と研究協力校での実践を往

還し、教員の授業設計力と授業力の向上を図る。また、学習活動が活性化するICT活用(「+ICT」)によ

って協働・双方向型の学習活動を充実させ、児童生徒の考えを広げ、深めることを目指す。

Ⅲ 研 究 の 仮 説

「学びのデザインマップ」を活用して、ICTを有効に活用するための研修と研究協力校での実践の往

還を進めることにより、教員のICTを活用した授業設計に対しての意識が高まり、授業設計力と授業力

が向上するであろう。また、学習活動が活性化するICT活用(「+ICT」)によって協働・双方向型の学習

活動が充実し、児童生徒の考えを広げ、深めるであろう。

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ICT活用プロジェクト研究

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Ⅳ 研究についての基本的な考え方

1 協働・双方向型の学習活動とは

本研究における協働とは、ペア、グループや学級の学習形態で、課題の解決に向けて練り合う学習

活動である。また、双方向とは、児童生徒同士、児童生徒と教員を対象に、相手の意見や与えられた

情報に対して、説明・補足・質問・反論をし合う等のやりとりである。この二つを兼ね備えた協働・

双方向型の学習活動とは、このような課題解決に向けた練り合いとやりとりの中で練り上げることに

より、児童生徒が考えを広げ、

深める学習活動と考えた。 協働・双方向型の学習活動が

充実するためには、児童生徒が

自分の考えと他者の考えを関

連付けたり、自分の考えが最適

解かどうかを自己に問いかけ

たり、新たな課題を探究したり

する姿が見られることが重要

である(図1)。

2 学習活動を活性化する「+ICT」とは

平成29年3月に示された「次期学習指導要領で求められる資質・能力等とICTの活用について」で

は、あらゆる教科や学習活動において、タブレット端末の様々な機能が学習を支えていることが示さ

れている(図2)。このようなICT機器がもつ様々な機能によって、児童生徒の学習内容の理解を補助

したり、話合い活動が活発になるよう補助したりする等、学習活動が活性化するICT活用を、本研究で

は「+ICT」と呼ぶ。この「+ICT」によって、児童生徒が考えを広げ、深め、学習活動が活性化する

よう、研修と実践の往還の中でICTを活用した授業力を高める必要がある。

図1 協働・双方向型の学習活動

図2 学習活動を活性化する「+ICT」(太字・下線は筆者)

(1)試行錯誤するデジタル教材は行った操

作を戻せることから、自分で色々試してみて確かめることができる

(2)写真撮影するタブレット端末が一人1台環境の

場合は、一人ひとりが対象を撮影してくることができる。また、撮影後も教室で再度観察し直すことができる

(3)念入りに見る写真や画像資料の細部を、

拡大機能を使って念入りに見ることで、学習者が気付きの根拠をもつことになる

(4)録音・録画と再視聴英語の発音や詩の朗読などを

自分で録音し、それを自分で聞いてふり返り、改善するような学習が可能になる。また、実験の様子を録画して、

後から再視聴しながら現象を詳しく観察し直すことも可能である

(5)調べる何かについて調べる学習は、

図書室などでも行えるが、教育用コンピュータがインターネットにつながれば、すべての学習者が自分に必要な情報を閲覧することが可能である

(6)分析する大量のデータを扱う際、表や

グラフを描くことに教育用コンピュータを用いると、作業が容易になり、分析がしやすくなる。また、実践しているその場で、同時進行でデータを処理することもできる

(7)考える思考を促す方法として、思考

ツールが注目されている。思考ツールのアプリケーションを用いると、アイディアの書き消し、修正、移動などが紙に比べて容易にできるようになる

(8)見せる自分の考えを人に伝えるときに、

プレゼンの資料などを作成して示しながら話すような学習を、各所で同時に進行できる。これによって、児童生徒の発言量が増え,協働的な学習を進める土台となる

(9)共有・協働する画面を送信する機能がある場合、互いのアイ

ディアを自分のものと組み合わせたり、編集して活用したりできる。また、他者のアイディアに対して質問やアドバイスをすることなども、極めてスムーズに行える。また、全員の画面を一覧にできる機能を使えば、より多くの学習者の発言を引き出すことができる

「次期学習指導要領で求められる資質・能力等とICTの活用について」(平成29年3月13日 効果的なICT活用検討チーム)を基に筆者が整理

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ICT活用プロジェクト研究

- 3 -

3 ICTの活用を考える「学びのデザインマップ」とは

「+ICT」による授業を構築していくには、活用場面やこれまでの経験にとらわれず、授業展開をイ

メージしながら様々なアイディアを膨らませる必要がある。また、一旦イメージしたアイディアを効

率よく整理することも必要となる。

そこで、本研究で開発する「学びのデザインマップ」には、図3の左のように、イメージマップの

手法を取り入れる。中心に置いた単元の目標から思いつくことを書き出しながらアイディアを広げて

いく。イメージマップには、すぐに修正・変更ができるといったICTの特性をもつフリーソフトを活用

する。

この「学びのデザインマップ」は、図3の右のように、単元の学習計画を考える「単元計画のデザ

インマップ」と、授業1時間の学習計画を考える「授業計画のデザインマップ」の二つのイメージマ

ップから構成した。

Ⅴ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

(1) 研究委員は、ICTを有効に活用するための研修での学びと研究協力校での実践の往還を進める。

(2) 対象となる児童生徒と研究委員に事前アンケートを行い、ICTを活用した学習や授業についての

意識や実態を把握する。

(3) ICT活用による協働・双方向型の学習活動を設計する「学びのデザインマップ」を開発する。これ

により、単元目標を明確にし、児童生徒の実態に即して、「+ICT」の場面を考え、研究委員の授業

設計力と授業力の向上を図る。

(4) 研究会の実践交流から、児童生徒の協働・双方向型の学習活動が活発となるICT活用のあり方を

探る。

(5) 公開授業・研究協議会での意見交流や事後アンケートから、児童生徒と研究委員の変容を分析し、

取組の有効性を検証する。

図3 「学びのデザインマップ」の構想

「学びのデザインマップ」

学習活動A 指導のポイント予想される

児童生徒の応答、つまずき

児童生徒の学びを促す問いかけ

単元の目標

本時の目標

学習活動D

学習活動E

学習活動B 指導のポイント

指導のポイント

第1次

第2次

第3次

第4次

学習活動①

学習活動②

学習活動③

児童生徒の学びを促す問いかけ

児童生徒の学びを促す問いかけ

+ICT

+ICT

必要な支援等

必要な支援等

必要な支援等

+ICT

指導のポイント

指導のポイント

指導のポイント +ICT

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

学習活動C

学習活動F

「授業計画のデザインマップ」

予想される

児童生徒の応答、つまずき

予想される

児童生徒の応答、つまずき

「単元計画のデザインマップ」

イメージマップ

学習活動B学習活動A

学習活動F学習活動E

学習活動D

学習活動C

指導のポイント 指導のポイント指導のポイント

指導のポイント指導のポイント

指導のポイント

+ICT

+ICT+ICT

+ICT+ICT

本時の目標

本時の目標

本時の目標本時の目標

本時の目標

本時の目標

単元の目標

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ICT活用プロジェクト研究

- 4 -

2 研究の経過

Ⅵ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 プロジェクト研究開始時のICT環境

研究開始時において、タブレット端末が導入されている学

校は、表のように研究協力校12校中5校であった。環境が整っ

ていない学校には、実態に即してICTを活用した協働・双方向

型の学習活動が行えるように、周辺機器も含めて貸し出した。

また、昨年度の成果から、ICTを活用するためにかかる手間

や時間を軽減する「持ち運びBOX」や「ICT教室」の提案、安全に機器を扱うことへの意識付けとして

「タブレットPC利用の約束」の提案等を第1回研究会で行い、貸し出したタブレット端末がスムーズ

に使えるようにした。

2 ICTを有効に活用するための研修と研究協力校での実践の往還

本研究の推進に関わり、ICTを有効に活用するための研修と研究協力校での実践との往還により、

研究を進めた(図4)。このことにより、研究委員は、研修での学びを実践に生かしたり、実践の成果

や課題を研究委員で学び合ったりする中で、「+ICT」による授業設計力と授業力の向上を図った。

4月 4~5月

5月 6~7月

6月 7月

8~9月

研究構想、推進計画の立案 学校訪問(実態把握) 第1回研究会 学校訪問(授業分析・協議) 児童生徒・研究委員質問紙調査の実施・分析 第2回研究会 第3回研究会 学校訪問(指導案検討・授業分析・協議)

10月 10~11月

12月 1月 2月 3月

第4回研究会 第5回研究会 各研究協力校での授業実践(公開授業・研究協議) 児童生徒・研究委員質問紙調査の実施・分析 研究論文原稿執筆 第6回研究会 研究発表大会 研究のまとめ

表 タブレット端末の配備状況

グループ(3~4人)にタブレット端末1台

2校

ペアにタブレット端末1台

6校(うち、1校は不足分を準備)

1人にタブレット端末1台

4校(4校全て自校で準備)

研究開始時に貸し出したタブレット端末の配備状況

図4 本研究における研修と実践の往還

期間 ICTを有効に活用するための研修 研究協力校での実践

前期(チャレンジ期間)

後期

授業実践1ICTを活用した授業にチャレンジ

授業実践2学びを授業に生かす

公開授業学習指導案作成「学びのデザインマップ」による協働

・双方向型の学習の積み重ね

公開授業学習指導案修正公開授業に向けての授業実践

さらなる実践の積み重ね実践の振り返り

第1回研究会(5月26日:総合教育センター)「ICT活用プロジェクト研究の概要説明」「タブレット端末等の機器接続実習」「平成28年度 ICT活用プロジェクト研究実践報告」

第2回研究会(6月22日:総合教育センター)「デジタル教材作成の手法」「研究委員実践報告1」「『学びのデザインマップ』について」「タブレット端末を活用した実践事例から学ぶ」

第3回研究会(7月31日:総合教育センター)「研究委員実践報告2」「『主体的、対話的で深い学び』の視点に立った授業改善のためのタブレット端末等のICT活用」

「2学期の公開授業に向けて」

第4回研究会(10月10日:総合教育センター)「ICTを効果的に活用した協働・双方向型の学習活動に向けた学習指導案の検討」「表計算ソフトの校務活用」「ICTを活用した実践事例を振り返る」

第5回研究会(10月下旬から11月下旬:研究協力校12校)「公開授業の参観」「『学びのデザインマップ』を活用した授業づくりから学ぶ(研究協議会)」

第6回研究会(1月12日:総合教育センター)「タブレット端末活用実践研究・研究発表会」「情報モラル教育の授業づくり」「教育の情報化推進リーダーとして」

ICT活用による公開授業・研究協議会

ICTを活用した授業づくりを意識付ける

実践交流からICTを活用した授業づくりを広げる

課題を発見

学習指導案の検討から、教科の見方・考え方を深める

新たな課題への気付き

ICTを活用した単元計画へ広げ、深める

今までの学びから授業を再構築

他校の公開授業から協働・双方向型の学習活動の

あり方を深める

新たな課題の発見

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ICT活用プロジェクト研究

- 5 -

3 「学びのデザインマップ」の開発

(1) 「課題発見・解決のプロセス」の活用

協働・双方向型の学習活動を構築

するために、県教育委員会から示さ

れた「平成29年度学校教育の指針」

の「やる気を育て、自ら学ぶ力の向

上を図るための課題発見・解決のプ

ロセス」(以下、「課題発見・解決の

プロセス」という。)を活用する(図

5)。その中で「共に学び合う」学習

場面を重視するとともに、どの学習

場面でICTを活用すれば、より協働

・双方向型の学習活動となるのかを

検証していく。

(2) 「単元計画のデザインマップ」

教員が単元を通して「児童生徒に付けたい力」(単元の目標)を基に単元全体の構想を考える際に、

イメージを可視化してまとめるツ-ルが「単元計画のデザインマップ」である。「単元計画のデザ

インマップ」は以下の手順で作成する(図6)。

図5 「課題発見・解決のプロセス」

課題発見・解決のプロセス

やる気を育て、自ら学ぶ力の向上を図る

課題を見つける

見通しをもつ

自分で考える

共に学び合う

学習をまとめる

学習を振り返る

新たな課題を見つける

学習の動機付けをする課題意識をもたせ、関心や意欲を高める

課題の解決に向けた方向性や見通しをもたせる

これまでの知識や技能をもとに自力での解決に取り組ませる必要となる知識や技能を身に付けさせ課題解決へと導く

ペアやグループ、学級等で意見を交流し、子どもの考えを広げたり深めたりする

課題に対して、自分がわかったことや、できたことをまとめ、実感させる

自己の変容や友達の考えのよさに気付かせる満足感をもたせ、次の学びへとつなげる

得た知識をもとに新たな課題をもたせる

(平成29年度滋賀県教育委員会「学校教育の指針」より)

図6 「単元計画のデザインマップ」の作成手順

単元の目標

学習活動B

学習活動A

学習活動F 学習活動E学習活動D

学習活動C

指導のポイント 指導のポイント

指導のポイント

指導のポイント

指導のポイント指導のポイント

+ICT

+ICT +ICT

+ICT

+ICT

②②

③ ③

本時の目標本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

児童生徒の実態

④④

児童生徒に付けたい力

学習指導要領

⑤ 「課題発見・解決のプロセス」を基に、単元計画と

して整理する

⑥ 単元を通した「+ICT」によって、協働・双方向型の

学習活動が活発となるかどうかを吟味する

協働・双方向型の学習活動を構築するために、広がった

アイディアを整理し、単元の学習活動の流れを整理する

④で考えた「+ ICT 」が、単元の中で効果的に働いて

いるかどうかを再度確認する

「単元計画のデザインマップ」の作成手順

① 学習指導要領、児童生徒の実態から、「児童生

徒に付けたい力」を基に単元の目標を考える

② 単元の目標から各時間の具体的な目標と学習活

動を考える

③ 作成した学習活動における指導のポイントを

考える

④ それぞれの学習活動で、 ICT を活用すると

より学習が活性化する「+ ICT」となる場面を考える

①、②は従来の単元計画作成と同じだが、すぐに

修正・変更できるフリーソフトを活用してアイ

ディアをより広げる

単元の目標

学習活動D

学習活動E

学習活動F

指導のポイント

指導のポイント

+ICT

+ICT

+ICT

指導のポイント

指導のポイント

指導のポイント

指導のポイント

第1次

第2次

第3次

第4次「課題発見・解決の

プロセス」を基に単元計画として整理する

「単元計画のデザインマップ」

単元を通したICT活用によって協働・双方向型の学習活動が活性化するか吟味する

⑤+ICT

+ICT

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

本時の目標

児童生徒の実態

学習活動C

学習活動B

学習活動A

児童生徒に付けたい力

学習指導要領

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ICT活用プロジェクト研究

- 6 -

(3) 「授業計画のデザインマップ」

「単元計画のデザインマップ」を作成し単元全体の構想を考えた後、それぞれの時間の授業の設

計を行うのが「授業計画のデザインマップ」である。この「授業計画のデザインマップ」は以下の

手順で作成する(図7)。

4 実践事例

(1) 生徒が想像力を働かせ、多様な価値観にふれる学習活動を工夫した事例 (A高等学校 第1学年 国語科) 高等学校国語科の古典においては、文章の表現の仕方に注意したり、要約や詳述をしたり、想像

力を働かせたりしながら読み味わい、ものの見方、感じ方、考え方を豊かにしていくことが大切で

ある。

また、文章を読む際には、人物(だれが)、場面(いつ、どこで)、出来事(何を、どうした)等が、

どのように設定され、どのように描かれているのかということをまず把握する必要がある。さらに、

文章を読み味わうためには、何が書いてあるのかだけではなく、どのように書いてあるのか、なぜ

このように書いてあるのか等にまで迫ることが重要である。

本研究では、物語のストーリーをより想像力を働かせて引き出し、考えさせ、生徒の多様な考え

を共有して自分の考えと比較しながら考えを深めさせるためのタブレット端末の活用を「+ICT」とし、協働・双方向型の学習活動を活性化することにした。

本事例は、高等学校国語科の古典「伊勢物語(芥川)」において、「歌物語の特徴をつかんで内容

をとらえ、和歌に込められた心情を考える」ことをねらいとしている。

ア 生徒が想像力を働かせるICT活用 古典「伊勢物語(芥川)」の学習では、本文を理解し、その奥にある人物の心情を読み取ること

に焦点を当て、学習を展開した。研究委員は、「単元計画のデザインマップ」(p.7の図8)の作成

を通じて、第1次①で題材「芥川」の絵巻物の画像をグループのタブレット端末に配付し、拡大

できる機能を用いて資料の細部まで見せることにより、「芥川」の内容について生徒の想像力を

働かせようと考えた。このことにより、生徒はタブレット端末を囲み、絵巻物から物語について

様々な想像力を働かせ、互いに考えを交流しながら、自分なりの物語のストーリーをもつことが

図7 「授業計画のデザインマップ」の作成手順

本時の目標

「授業計画のデザインマップ」

課題を見つける

学習を振り返る

学習をまとめる

共に学び合う

見通しをもつ

自分で考える

児童生徒の考えを広げ、深めるために、予想される児童生徒の反応・つまずき・必要な支援を考える

+ICTによって協働・双方向型の学習活動が活性化する授業へ

予想される児童生徒の反応、つまずき

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

学習活動

「課題発見・解決のプロセス」で整理

児童生徒の実態

① ② ③ ④

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

児童生徒の考えを広げ、深める問いかけ

必要な支援等

+ICT

+ICT

+ICT

予想される児童生徒の反応、つまずき

予想される児童生徒の反応、つまずき

予想される児童生徒の反応、つまずき

予想される児童生徒の反応、つまずき

予想される児童生徒の反応、つまずき

児童生徒に付けたい力

学習指導要領

① 「課題発見・解決のプロセス」を基に、

本時の学習活動を考える

② 作成した学習活動において、児童生徒の

考えを広げ、深める問いかけを考える

③ 児童生徒の予想される反応やつまずきに

ついて考える

④ 「単元計画のデザインマップ」で考えた

「+ ICT」となる場面をより詳細に考える。

また、③について、個別・全体に支援が必要な

場合は、その内容を書き込み、整理する

②の問いかけの仕方をより深く考えることを

ねらいとしている

「授業計画のデザインマップ」の作成手順

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ICT活用プロジェクト研究

- 7 -

できた。授業後の生徒の感想には、

「思いついたことをすぐ発言でき

た」「画像があるので、理由を説明し

やすかった」との記述があり、タブ

レット端末へ画像を配付すること

が、生徒が互いの考えを交流しなが

ら自分の想像力を働かせることに有

効であったことが確認できた。 イ 個々の考えを全体に広げ、深める

ICT活用 作品中の人物の心情を理解するに

は、人物の心情に思いをいたすことによって、自らの生き方と重ね合わせ、人物に対して共感し

たり反発したりする中から、想像力、豊かな心情や感性を養うことが重要となる。

第2次①の本時の目標は、「和歌までの現代語訳を参考に、和歌に込められた登場人物の心情

を読み取ることができる」である。研究委員は、国語科の授業で、生徒の学びをより深い学びに

向かわせるため、自分の意見を他者に伝えたり教え合ったりすることが重要であると考えてい

る。そこで、普段の授業の中でペアやグループでの学び合いを取り入れ、自分の考えを伝え合う

双方向の学習活動を行ってきた。 本時の中でも、①和歌の現代語訳 ②誰が詠んだ歌

か ③どんな状況の中で詠んだ歌か ④そこにはど

んな心情が込められているか、の課題を設定する際、

自分で考える時間を十分確保し、そのうえで、グルー

プでの練り合う時間を設定している。まず生徒は、和

歌の登場人物の心情を読み取るために和歌の意味を

理解しようと、調べたことを伝え合ったり、それを手

がかりに考えたことを話し合ったりして、互いの考え

を取り入れながらグループで考えを練り合い、タ

ブレット端末に書き込んだ(図9)。次に、より協

働・双方向型の学習活動を推し進めるため、大型

提示装置に提示し、全体で共有した(図10)。全体

共有の際には、①グループでの考えをより多角的

に考えるために、他のグループの考え方と比べる

②根拠となる言葉や表現を基に、多角的な考え方

からその共通性を見つける ③見つけた共通性

から、和歌に込められた心情を共有する、の三つ

の視点で話合いを練り上げていった。

授業後の生徒の感想には、「前のスクリーンで他の班がどういう考え方をしているかや、どう

文章をまとめているのかが分かり、より深く発想することができた」「考えている途中に、自分

の班の考えだけではなく、他の班の考えも見ることができたので、よりよい考えを出したり考え

を細部までまとめたりすることができた」と書かれていた。これらの感想から、授業支援アプリ

ケーションによる集約、提示機能の活用により、他者と協働して考えたり説明し合ったりして、

自分の考えを広げ、深める協働・双方向型の学習活動が活性化したと考えられる。

図10 大型提示装置でのタブレット端末画面共有

図9 グループ学習の様子

図8 A高等学校の「単元計画のデザインマップ」の一部

第1次①本文の内容について考える

第1次②本文を現代語訳し、内容をつかむ

第2次①和歌に込められた心情を読み取ることができる

絵巻物の画像をタブレット端末に配付して画像を細部まで見せることで、題材の内容について生徒の想像力を働かせる補助とする

絵巻物から物語を予想する

タブレット端末にヒント集(文法・単語・内容)を配付し、グループで話し合いながら協力して学習を進められるようにする

グループでタブレット端末に考えたことをまとめて、前のスクリーンに提示し、リアルタイムで共有することで、多様な考えにふれ、自分の考えをもつことができるようにする

+ICT

グループで協力して本文を現代語に訳す

グループで協力して心情を読み取る

本時の目標 学習活動 指導のポイント

(研究委員の作成したものをもとに筆者が整理)

単元の目標

・登場人物の行動や和歌に込められた心情を読み取ることができる

・重要古語や古典文法を文章の中で正しく理解できる

+ICT

+ICT

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ICT活用プロジェクト研究

- 8 -

(2) 生徒の実態から協働・双方向型の学習活動を工夫した事例

(B中学校 第3学年 理科)

中学校理科においては、自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをも

って観察、実験を行うこと等を通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・

能力を育成することを目指すことが大切である。理科における「見方・考え方」では、自然の事物

・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係等の科学的視点で捉え、比較したり関係付け

たりする等の科学的に探究する方法を用いることが重要となる。しかし、瞬間的で、しかも同時に

二つの場所で起こった事象を科学的視点と関連付けて捉えることは多くの生徒にとって難しく、生

徒の理解を促すためのタブレット端末活用を「+ICT」とした。

本事例は、中学校理科の「運動とエネルギー」において、「物体の運動の様子を、物体に力が働

くときの運動と、働かないときの運動についての規則性を見いだして理解する」ことをねらいとし

ている。

ア 理科の見方・考え方を働かせやすく

する動画の見せ方

研究委員は、「授業計画のデザイン

マップ」の作成(図11)を通して、生徒

の実態から、台車の運動の変化を記録

タイマーの記録だけでは十分に捉え

ることができず、その要因と関連付け

て考えることが難しいのではないか

と考えた。そのため、台車の運動の変

化の様子とおもりの落下運動を関連

付け、物体に力が働くときの運動と働

かないときの運動を比較しやすいよ

うに、それぞれに着目し、繰り返し確認できるよう、

別々に撮影した動画を1画面で見せた(図12)。これ

により、全ての生徒がそれぞれの運動の変化とその

要因を捉えやすくなり、記録タイマーで読み取った

結果と照らし合わせ、「時間と速さ」の関係、「時間

と移動距離」の関係の規則性を見つけることにつな

がり、グループで話し合う協働・双方向型の学習活動

への土台となった。

イ タブレット端末が高める協働・双方向型の学習活動

タブレット端末の映像は、繰り返し見たり、静止して

見たり、再度動かしてみたりすることができる(図13)。

生徒は、グループでタブレット端末を通して観察した

結果、物体の運動とおもりの運動を指で差しながら、変

化とその要因を結び付けて説明し合ったり、それを補

足し合ったりする姿が見られた(p.9の図14)。これまで

は、言葉や図、グラフによる表現でしか結果の共有がで

きなかったが、タブレット端末による実験の様子の再

視聴でそれが容易になり、それを根拠にした考察によ

図12 運動の関係性を見いだすための 実験映像の編集

台車の運動とおもりの落下の運動を1画面に

図13 実験映像の再視聴による 探究活動

図11 B中学校の「授業計画のデザインマップ」の一部

① 前時の復習・前時の実験

(おもりに引かれる台車の運動の様子)を振り返る・記録タイマーで

取ったグラフを確認する

台車の運動は、おもりに引かれることで、時間とともにどのように変化しただろうか→実験の再演示

このグラフで表される台車の運動は、どのように変化しているだろう

どこで運動の様子が大きく変化しているだろうか

動画をスロー再生することで速度の変化の様子を示す

演示するだけでは瞬間的な速度の変化を理解しにくいのではないか

前時に撮影した動画を確認させる

おもりの落下と台車の運動の動画を一つにした

動画をスロー再生で見せる

記録テープだけでは速さの変化は実感できないのではないか

おもりの落下に目が向けられず、運動の変化がとらえられないのではないか↓その後のグループの話し合い活動にも参加しにくくなるのではないか

学習活動本時の目標

予想される児童生徒の反応

必要な支援等

(研究委員の作成したものをもとに筆者が整理)

物体の運動の様子を物体に力が働くときの運動と、働かないときの運動についての規則性を見いだして理解する

児童生徒の考えを広め、深める問いかけ

+ICT

整理した記録タイマーの結果とあわせて速度の変化を読み取らせることにつなげる

+ICT

+ICT

運動が変わった原因について考えさせる

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ICT活用プロジェクト研究

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って生徒の思考を活性化することができた。 この後、各グループで考えた台車の運動の規則性につ

いて、話し合う視点を明確にし、学級で発表し合い、意

見交流する中で、各グループの考えを練り上げ、協働・

双方向型の学習活動が活発となったと考えられる(図

15)。

(3) 「学びのデザインマップ」の振り返りから協働・双方向

型の学習活動が高まった事例

(C小学校 第5学年 体育科)

小学校体育科では、児童が動きや技能を習得する際に、

憧れやできそうだという意欲・関心を高め、自らの課題を

見つける。そして、その解決に向けた過程の中で自らの学

習活動を振り返り、課題を修正したり新たに設定したりし

て仲間と共に思考を深め、よりよく課題を解決し、次の学

びにつなげることが大切である。しかし、自分の体の動き

や変化は自身では捉えにくいため、他の児童とのやりとりを通して、よりよい解決策を見いだして

いくことが重要である。

ここでは、自分の体の状態が分かるようにするためカメラ機能を活用し、比較によって動きのコ

ツを言語化するためと、動きのポイントを明確化するためのタブレット端末活用を「+ICT」とし、

協働・双方向型の学習活動を活性化することにした。

本事例は、小学校体育の「体つくり運動」において、「自分の体力にあった課題を設定し、課題

解決に向けた運動を繰り返し行う中で自らの体力を高める」ことをねらいとしている。

ア タブレット端末の録画・再生機能を活用した比較による動きのコツの言語化

自分の体がどのような動きをして

いるのかを捉え、その動きをよりよ

い動きに変えるには、比較する活動

を通して動きのコツをつかむことが

重要である。さらに研究委員は、友

達同士の意見のやりとり(見合い・教

え合い)だけでは捉えきれないと考

え、動画比較アプリケーションを活

用して自分の動きと手本の動きや友

達の動き等を比べられるように設定

し、動きのコツをつかめるようにし

た(図16)。

学習活動の中で、自己の課題をジャンプ力と捉え、「垂直跳び」の場で高く跳び上がるコツを

習得しようと練習している児童は、自分の動きがどのようになっているか分からず、高く跳び上

がっている他の児童の動きと自分の動きをタブレット画面上に映し、動きの違いを比較した。比

較をすることで、膝の角度が違うこと、手を大きく振り上げていることを発見した。高く跳べる

ようになった児童からは、「勢いをつける」「ジャンプするときに膝を曲げたら高く跳べた」と

いう意見が返ってきた。そこで、すかさず研究委員は、「どんなふうにしたら高く跳べたのかな」

図15 グループの考えの発表の様子

図14 変化と要因を結び付ける 生徒の姿

おもりが落ちた後は台車の 動きが若干減速した

図16 C小学校の「単元計画のデザインマップ」の一部

自己の体力にあった課題を設定し、課題解決に向けた運動を繰り返し行う中で自らの体力を高める

児童同士でお互いの運動を見合い、アドバイスするやりとりを通して、よりよい解決策を見いだしていく

【自分の体の状態が分かるために】

動画比較アプリで、・動きを見比べる(自分と手本、自分と友達、練習前の自分と練習後の自分)

・動きのコツを言語化する

【動きのコツが分かり動きのポイントを共有化するために】・タブレット端末のカメラ機能で、コマ送りで再生したり、見る視点で停止したりする

・比較しやすい動画とするために撮影箇所を指定する

(研究委員の作成した「単元計画のデザインマップ」をもとに筆者が整理)

自分の動きと手本等の動きを比較し、友達とのやりとりから動きのコツを見つける

動きを観察する際、一瞬の動作であるために、動きを十分捉えられないことから、アドバイスが不十分となり、課題解決がしにくいのではないか

単元のねらい

本時の目標

児童の実態

指導のポイント

必要な支援等

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ICT活用プロジェクト研究

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と切り返すと、「ラジオ体操の動きのように、足を曲げる

と同時に腕を振り上げる」と言葉で表現することができ

た(図17)。

動きのコツは、個々の児童の感じ方によって違いがある

が、動きを習得する核となる部分である。動画比較アプリ

ケーションを活用し、見えなかった動きを可視化し、動き

のコツを言葉で表現することで、どのように動くのかを理

解し、児童の学習の深まりへとつなげることができた。

イ 動きのポイントの明確化

動きのコツがわかり、動きのポイントを共有化していく

ためには、体のどの部分に着目するかを明らかにし、どの

ような動き方をしているのか、見る視点を明確に示すこと

が重要である。運動は、動きが一瞬であり、ポイントとな

る動きを捉えることが難しいため、カメラ機能を活用して

一連の動きをコマ送りで再生したり、見る視点で停止した

りして、動きのポイントを捉えやすくした(図18)。また、

動きのポイントとなる体のどの部分を撮るか、撮影箇所を

指定した。

自己の課題を俊敏性と捉え、「タッチコーン」の場でリ

ズムよく左右に動くために練習している児童は、俊敏に動

くためのポイントを、左右に動いたときの足の切り返しで

はないかと考えた。そこで、足の切り返し場面に焦点を当

てた画像から、切り返すときには膝をしっかりと曲げるこ

と、早めにブレーキをかけ体のバランスを保つことを動き

のポイントとして見つけることができた。また、一連の動

きをコマ送りすることによって、足の動きだけでなく、姿

勢を低くすることや脇をしめること、腰を落とすこと等、

様々なポイントを見つけることができた。

そして、これらの児童が見つけた動きのポイントを明確にし、全体で共有することで、他の児

童に新たな気付きが生まれ、児童の考えが広まり、どのように動けばよいかというポイントが分

かり、児童の考えが深まる様子が見られた(図19)。

5 協働・双方向型の学習活動の検証

(1) 研究委員のアンケート結果から

7月と、公開授業を終えた10月下旬~11月の2回、研究委員および公開授業を行う教員を対象に

行った「教員のICT活用指導力のチェックリスト」i)によると、C項目「児童生徒のICT活用を指導

する能力」においては、第1回は平均が69.5%と全国平均とほぼ変わらない数字だったのが、第2

回においては平均86.3%と、16.8ポイントも上昇した。これは、ICTを有効に活用するための研修と

研究協力校での実践の往還を通じて教員のICT活用に対しての意識が高まり、授業にICTを積極的に

i)

学校における ICT 環境の整備状況と、教員の ICT 活用指導力を調査する「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」で使 用されるチェックリスト。平成 27 年度調査による C 項目の全国平均値は 66.2%であった。

図19 全体共有したアドバイス

ラジオ体操の動きのように、足を曲げると同時に腕を振り上げる

図17 高く跳べるコツを児童の 言葉で表現した場面

図18 カメラのコマ送り機能による 動きのポイントの明確化

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ICT活用プロジェクト研究

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活用したことから、授業力が

向上したものと思われる(図

20)。

(2) 児童生徒質問紙調査の結果

から

研究委員による協働・双方

向型の学習活動による児童生

徒の意識の変容を計るため、

質問紙調査を実施した(図

21)。

質問項目(3)では、肯定的

な回答が増えている。これは、

研究委員が積極的に協働・双

方向型の学習活動を展開する

授業を行っていたことを示し

ている。また、質問項目(5)

と(8)では、肯定的な回答の

総数はわずかに増加しただけ

だが、「どちらかといえば当

てはまる」が減り「当てはま

る」と答えた児童生徒は伸び

ていることから、協働・双方

向型の学習活動が充実したこ

とがうかがえる。

さらに、質問項目(17)「タ

ブレット端末を使った授業

で、使わない授業よりも『よ

くわかった』と感じたことや、『新しい考えが思いついた』ということがあれば、そのときのこと

を、くわしく書いてください」という問いの自由記述欄には、図22のような記述が多数あった。こ

の結果から、「学びのデザインマップ」による授業設計によって、児童生徒が課題解決に向け互い

の考えを練り上げる中で、「+ICT」による協働・双方向型の学習活動が充実し、考えを広げ、深め

る学習活動につながった。

図21 児童生徒質問紙調査の比較

49

38

41

34

65

46

38

48

45

48

29

37

12

12

12

15

5

13

1

2

2

3

1

4

0 20 40 60 80 100

第2回

第1回

第2回

第1回

第2回

第1回

当てはまる どちらかといえば当てはまる どちらかといえば当てはまらない 当てはまらない

(3)授業では、学級の友達(生徒)との間で話し合う活動をよく行っていたと思う

(5)授業で、学級の友達(生徒)との間で話し合う活動では、話し合う内容がわかり、相手の考えを最後まで聞いて、自分の考えをしっかり伝えていたと思う

(8)学級の友達(生徒)との間で話し合う活動を通じて、「なるほど」と感じたり、新しい考えを思いついたりすることができている

(数字の単位は% 回答総数はいずれも321)

・他のグループの発表を聞くことで、自分のグループでは出てこなかった意見や、ほとんど同じだけど少し違って いる意見を聞き、自分の考えをより深めることができたと思う(高等学校)

・グループ中の意見と周りのグループの意見が違えば、クラスで話し合い、どうしてそうなったのか説明すること も1つの勉強になると思う(中学校)

・自分の考えがうまくまとまらなかったり、分からなかったことがあった時でも他の人の意見を参考にして考える ことができるから、タブレットを使った授業はとてもいいと思う(中学校)

・タブレットPCを使ったことで、友達と比べることができて、自分の改善すべきことを知ることができました。よ りきれいな技にするためにはPCを使った方がわかりやすいと思います。ただ単にお手本を見てコツをつかむだけでなく実際に自分の技を見て友達とアドバイスをし合うことでよりよい体育になりました(小学校)

図22 児童生質問紙調査の【質問項目(17)】の回答(原文のまま記載)

図20 児童生徒のICT活用を指導する能力の変容

※ 文部科学省「教員のICT活用指導力のチェックリスト」より、肯定的な意見の 「わりにできる」「ややできる」の合計を集計した

※ 質問項目はC項目「児童(生徒)のICT活用を指導する能力」で、各質問項目は以下の通りただし、( )内は中・高等学校版の文言

(C-1)児童(生徒)がコンピュータやインターネットなどを活用して、情報を収集したり選択したりできるように指導する

(C-2)児童(生徒)が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり、調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりすることを指導する

(C-3)児童(生徒)がコンピュータやプレゼンテーションソフトをなどを活用して、わかりやすく発表(説明)したり(効果的に)表現したりできるように指導する

(C-4)児童(生徒)が学習用ソフトやインターネットなどを活用して、繰り返し学習したり練習したりして、知識の定着や技能の習熟を図れるように指導する

(数字の単位は%、回答総数は第1回、第2回ともに13)

85 92 62 84 77 92 54 77 0

20

40

60

80

100

第1回

(C-1)

第2回

(C-1)

第1回

(C-2)

第2回

(C-2)

第1回

(C-3)

第2回

(C-3)

第1回

(C-4)

第2回

(C-4)

第1回C項目の平均 69.5

第2回C項目の平均 86.3

16.8ポイント上昇

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ICT活用プロジェクト研究

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Ⅶ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

(1) 「学びのデザインマップ」を活用して、ICTを有効に活用するための研修と、研究協力校での実践

の往還を進めることにより、教員の授業設計力と授業力が向上した。また、これによって教員の意

識が高まることで、「+ICT」による協働・双方向型の学習活動が充実した。

(2) 「学びのデザインマップ」を使い、単元を通してICTの活用がより効果的な学習場面を精査し、付

けたい力や児童生徒の実態に即した協働・双方向型の学習活動の授業設計と授業実践を行うことで、

児童生徒の考えを広げ、深めることができた。

2 今後の課題

(1) 授業の中心発問やまとめ、振り返りの場面で、広げ、深めた考えをより深い学びへ整理・集約し、

新たな課題へとつなげるためには、「+ICT」による「学びのデザインマップ」を随時修正していく

必要がある。

(2) ICTを効果的に活用した授業づくりがさらに広がるためには、「学びのデザインマップ」を用いた

「+ICT」の活用場面を蓄積し、実践事例集としてまとめ、研修等の機会を通して普及する必要があ

る。

文 献

1)文部科学省「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」最終まとめ、平成28年(2016年)

文部科学省「平成27年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」、平成28年(2016年)

文部科学省「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめ 別紙(次期学習指導要領で求められる

資質・能力等とICTの活用について)」、平成29年(2017年)

滋賀県総合教育センター「ICT活用プロジェクト研究」、平成28年(2016年)

滋賀県教育委員会「平成29年度学校教育の指針」、平成29年(2017年)

国立大学法人奈良教育大学 次世代教員養成センター ICT活用能力を持つ教員養成のための教材開発委員会『教員養成

・研修テキスト(情報教育)-ICT活用能力UPのためのハンドブック-』、平成27年(2015年)

研 究 委 員

彦根市立城西小学校教諭 中山 祥 滋賀県立東大津高等学校教諭 坂 佑美

長浜市立木之本小学校教諭 𠮷𠮷田 源太 滋賀県立国際情報高等学校教諭 山下亜希子

高島市立高島小学校教諭 城戸 久貴 滋賀県立水口高等学校教諭 安田 拓真

湖南市立甲西北中学校教諭 植西 亮太 滋賀県立八日市南高等学校教諭 𠮷𠮷村 宏幸

米原市立伊吹山中学校教諭 寺田実沙季 滋賀県立虎姫高等学校教諭 岩﨑 俊裕

滋賀県立水口東中学校教諭 富永 瞳美 滋賀県立守山養護学校教諭 伴野 真教