2
宝物 !! ラフレシア・プリシィ 枯れて真っ黒に。 開花後、約一週間で 「ラフレシア開花中!」 の看板 咲きかけの 特集 3 1 調9 1 1 バ州は、ボルネオ島の北部に位置し、キナバル⼭(4,095メートル)のてっぺんからシ パダン島の海の底まで、⾃然がいっぱいあふれています。以前は、州の9割以上を占め ていた熱帯⾬林ですが、ヤシ油農園や開発などでその⾯積を急激に減らしており、動 植物の住処がどんどん狭まってきています。 そんな厳しい現状ですが、ボルネオ島には、現在確認されているだけで688種類の⿃類(渡り ⿃含む)が⽣息しており、200種類を超える哺乳類、そして同じく200種類以上を数える両⽣類 と爬⾍類、そして何といっても1万5,000種類以上もの植物が⽣息する植物パラダイスです。熱 帯気候なので、暖かい地域にしか⽣息しない植物ばかりがあるかのように思われますが、富⼠⼭ より⾼いキナバル⼭には、低地熱帯性植物から、頂上近くには⾼⼭植物もあったりと多様性に富 んでいます。そんな多様な植物のなかでも、ボルネオならではの不思議な植物をご紹介しましょう。 2 3 1 姿ラフレシア・ケイティは、世界遺産のキナバル公園 内の 「ポーリン温泉」 近辺によく咲きます。民家の敷 地内に生息するブドウ科の植物の根元に咲くと、道 路脇に「ラフレシア開花中!」のサインが出され、 見学料を支払って見ることができます。たいていは、 柵に囲まれていますがその不思議な花が醸し出す妖 艶な雰囲気を十分に感じることができます。 その 1 1 ■ラフレシア・ケイティ■ ■ラフレシア・ケイティ■ ■ラフレシア・プリシィ■ ■ラフレシア・プリシィ■ ■ラフレシア・テンクゥ・アドリニィ■ ■ラフレシア・テンクゥ・アドリニィ■ 文・写真:コタキナコ ラフレシア・プリシィは、キナバル公園へ行く途中のタンブナン地 区にある 「ラフレシア・インフォメーションセンター(ラフレシア保護 区)」 のジャングルに咲きます。ラフレシア・プリシィは、30 ~ 60セ ンチぐらいの小さめのラフレシアですが、鮮やかな赤色にくっきりと 白い模様が散りばめられたとても美しくかわいらしい花を咲かせます。 私が初めて見たラフレシアは、このプリシィで、暗いジャングルのな かで、そこだけ光が宿っているように輝いて見え、小さな頃読んだ森 の妖精のお話が蘇ったり、「これは植物ではないんではないか?」と思っ たり、「海の珊瑚が産卵をするように、本当は『細胞動物』に属してい るんじゃないか?」と考えたりします。 ラフレシア・テンクゥ・アドリニィは、かなり近年発見されたもので、 ボルネオの「ロスト・ワールド」と呼ばれる マリアウ・ベシン に生息して います。 マリアウ・ベシン は、広大なすり鉢のような原生林のジャングル で、奥には壮大な7段にもなるマリアウの滝があり、そこまで往復するのに 5日間かかる深い深い森です。そのタフなトレッキングに2度挑戦しました が、偶然にも一度目に蕾、2度目は枯れて真っ黒になったラフレシア・テン クゥ・アドリニィを見ることができました。咲いている所に遭遇することは、 多分奇跡に近いでしょう。 26 27

26-29page · 2019-11-04 · 道を約3時間、あまりに車が揺れるので時々頭をぶつけてたんこぶをつくってしまうほど。 ここでは、300メートルにもなるキャノピー・ウォークやボルネオゾウ、オランウータン

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 26-29page · 2019-11-04 · 道を約3時間、あまりに車が揺れるので時々頭をぶつけてたんこぶをつくってしまうほど。 ここでは、300メートルにもなるキャノピー・ウォークやボルネオゾウ、オランウータン

サバ州の森の 宝物

ラフレシア

キノコ

ラフレシアの蕾!!

これが

ラフレシア・プリシィ

枯れて真っ黒に。開花後、約一週間で

「ラフレシア開花中!」の看板

咲きかけの

特集特

ラフレシア

キノコ

一つ目は、世界で一番大きな花

といわれる「ラフレシア」。

ボルネオ・サバ州では、3種類のラ

フレシアが確認されています。1

メートル近くになるものもある「ラ

フレシア・ケイティ」、そして可愛

らしい「ラフレシア・プリシィ」、

幻の「ラフレシア・テンクゥ・アド

リニィ」です。

イギリス植民地建設者であり

ジャングル調査隊を組織していた

トーマス・ラッフルズの名にちなみ

「ラフレシア」と名付けられたこの

世界最大の花は、根っこや茎や葉も

なく、ブドウ科の植物の根に寄生し

ています。よく「強烈に臭い!」と

いわれますが、サバ州で出会ったラ

フレシアは、あまり臭わないように

思います。

芽キャベツのような蕾が顔を出

してから開花に至るまで、9ヵ月か

ら1年以上かかり、開花してからは

1週間程で枯れて、真っ黒になりま

す。ラフレシアの生態はまだまだ謎

だらけですが、以前日本のテレビ取

材班がラフレシアの研究者と共に、

 バ州は、ボルネオ島の北部に位置し、キナバル⼭(4,095メートル)のてっぺんからシパダン島の海の底まで、⾃然がいっぱいあふれています。以前は、州の9割以上を占めていた熱帯⾬林ですが、ヤシ油農園や開発などでその⾯積を急激に減らしており、動

植物の住処がどんどん狭まってきています。 そんな厳しい現状ですが、ボルネオ島には、現在確認されているだけで688種類の⿃類(渡り⿃含む)が⽣息しており、200種類を超える哺乳類、そして同じく200種類以上を数える両⽣類と爬⾍類、そして何といっても1万5,000種類以上もの植物が⽣息する植物パラダイスです。熱帯気候なので、暖かい地域にしか⽣息しない植物ばかりがあるかのように思われますが、富⼠⼭より⾼いキナバル⼭には、低地熱帯性植物から、頂上近くには⾼⼭植物もあったりと多様性に富んでいます。そんな多様な植物のなかでも、ボルネオならではの不思議な植物をご紹介しましょう。

開花が始まったラフレシアを一晩中

観察し、その様子を初めて映像に収

めました。その時、偶然にも開花の

瞬間に「ぽんっ!」という音も録れ

たのですが、音声さんはもう一つ出

どころの分からない「ぷーっ」とい

う音も同時に捉えていました。その

音は、取材に同行していた村のおじ

さんが、固唾をのんでその瞬間に立

ち会っていたのですが、緊張の糸が

切れて「出てしまった」オナラの音

だったそうです。

ラフレシアの開花予想は非常に

難しく、咲き始めて初めて分りま

す。そして咲いて2〜3日目の見頃

に遭遇できるタイミングも難しいの

です。私は、タンブナンのラフレシ

ア保護区の森に咲くプリシィがとて

も好き。咲いている場所まで、時に

はかなり険しいトレッキングを1時

間も歩く場合もありますが、柵に囲

まれていることもなく、自然のまま

の姿のラフレシアに出会えると感激

もひとしおです。そしてもう二度と

出会えないかもしれないこの一期一

会に感謝します。

ラフレシア・ケイティは、世界遺産のキナバル公園内の「ポーリン温泉」近辺によく咲きます。民家の敷地内に生息するブドウ科の植物の根元に咲くと、道路脇に「ラフレシア開花中!」のサインが出され、見学料を支払って見ることができます。たいていは、柵に囲まれていますがその不思議な花が醸し出す妖艶な雰囲気を十分に感じることができます。

世界で⼀番⼤きな花

﹁ラフレシア﹂

森の宝物

その

11

■ラフレシア・ケイティ■■ラフレシア・ケイティ■

■ラフレシア・プリシィ■■ラフレシア・プリシィ■

■ラフレシア・テンクゥ・アドリニィ■■ラフレシア・テンクゥ・アドリニィ■

文・写真:コタキナコ

ラフレシア・プリシィは、キナバル公園へ行く途中のタンブナン地区にある「ラフレシア・インフォメーションセンター(ラフレシア保護区)」のジャングルに咲きます。ラフレシア・プリシィは、30 ~ 60センチぐらいの小さめのラフレシアですが、鮮やかな赤色にくっきりと白い模様が散りばめられたとても美しくかわいらしい花を咲かせます。私が初めて見たラフレシアは、このプリシィで、暗いジャングルのなかで、そこだけ光が宿っているように輝いて見え、小さな頃読んだ森の妖精のお話が蘇ったり、「これは植物ではないんではないか?」と思ったり、「海の珊瑚が産卵をするように、本当は『細胞動物』に属しているんじゃないか?」と考えたりします。

ラフレシア・テンクゥ・アドリニィは、かなり近年発見されたもので、ボルネオの「ロスト・ワールド」と呼ばれるマリアウ・ベシンに生息しています。マリアウ・ベシンは、広大なすり鉢のような原生林のジャングルで、奥には壮大な7段にもなるマリアウの滝があり、そこまで往復するのに5日間かかる深い深い森です。そのタフなトレッキングに2度挑戦しましたが、偶然にも一度目に蕾、2度目は枯れて真っ黒になったラフレシア・テンクゥ・アドリニィを見ることができました。咲いている所に遭遇することは、多分奇跡に近いでしょう。

2627

Page 2: 26-29page · 2019-11-04 · 道を約3時間、あまりに車が揺れるので時々頭をぶつけてたんこぶをつくってしまうほど。 ここでは、300メートルにもなるキャノピー・ウォークやボルネオゾウ、オランウータン

「水

牛の目玉」と呼ばれ

るキノコ

バラの様なキノ

 長崎生まれの東京育ち。デザイン会社経営を経て、現在サバ州在住22年目。ボルネオ・サバ州のたくさんの”宝物“を多くの方々にお伝えするため、探検&発見の日々。去年からランニングに目覚めた。サバ州政府観光局マーケティング・コンサルタント。

コタキナコ

著者プロフィール

サバ州政府観光局

コタキナバルから空路で約1時間、サバ州東海岸のラハ・ダトゥ空港へ到着後、1時間半のドライブで到着したのは、タビン野生生物保護区内にある「タビン・ワイルドライフリゾート」。ボルネオゾウとの遭遇や野鳥の観察、泥火山でのミネラルたっぷりの泥を塗り合う遊びなど、ボルネオのジャングルに入り込み直接触れ合うことのできる場所です。ジャングルトレッキング中に出会ったのは、何とも不思議な形をしたこのキノコ。丈夫な木の幹のような柄から白い小枝のような集合体が上に真っすぐ伸び、その先端が薄いネオンブルーに光っているように見えます。たぶんホウキダケの一種と思われます。ここタビンでは、「見てみたいなあ…」と思っていた憧れのキヌガサタケにも出逢えま

した。このキノコはそれはそれは不思議なキノコで、幼菌が出現してからみるみるうちにこの立派なベールのような傘を広げます。ただ気温や天候に左右されるそうで、出現してから何日もかかってこのように広がる場合もあるそうです。

二つ目は、サバ州の野生生物に出逢えるジャングル・リゾート、ダヌン・バレー森林保護区にある「ボルネオ・レインフォレスト・ロッジ」です。ラハ・ダトゥ空港からでこぼこ道を約3時間、あまりに車が揺れるので時々頭をぶつけてたんこぶをつくってしまうほど。ここでは、300メートルにもなるキャノピー・ウォークやボルネオゾウ、オランウータンなどの野生生物との出会い、野鳥観察や川でのチュービングなどが楽しめます。半透明の金色に輝く大きなキノコ。それが生えていたのは、ボルネオゾウの立派な糞で

す。ボルネオゾウは草食性で、草や果物、木の皮などを食べるため、その糞は、食物繊維だらけの藁(わら)の塊のようなものです。そこにはよくキノコが生えていますが、こんなに大きく、半透明の金色の傘が美しいものは初めて見ました。

三つ目は「ロスト・ワールド」と呼ばれる未開の地「マリアウ・ベシン」にて。過酷なトレッキングの途中、暗闇で偶然見つけた青いキノコ。巨大な倒木にびっしりと花を咲かせたような薄紅色のキノコ。みずみずしい苔の中にお姫様のように顔を出している真っ赤なキノコ。一体サルが何匹腰掛けられるのかわからない程段々に生える大きなサルノコシカケ等々、ボルネオ・サバ州のジャングルには、森の宝石がひっそりと顔を出しています。

キヌガサタケ

ゾウの糞に⽣えたキノコ

サルノコシカケ

⾚ヘルキノコ

⻘いキノコ

ホウキダケの⼀種

Tabin Wildlife Resort

サバ 州サバ 州

Tabin Wildlife Resort

■サバ州政府観光局サイトhttp://www.sabahtourism.net/jp/■コタキナコ・公式ブログhttp://kotakinako.wordpress.com/■ツイッターtwitter.com/kotakinako■インスタグラムhttp://instagram.com/kotakinako

Borneo Nature Tours Sdn. Bhd.E-mail : [email protected]@ysnet.org.myURL : www.brl.com.my

Tel : 088 - 899 589(月~金)E-mail : [email protected]

Poring, Ranau, 88000Kota KinabaluTel : 088-308 420

Tabin Wildlife Holidays Sdn BhdE-mail : [email protected] : www.tabinwildlife.com.my

タビン・ワイルドライフリゾート

ポーリン温泉

ボルネオ・レインフォレストロッジ

ラフレシア・インフォメーションセンター

キナバル公園キナバル公園

タンブナンタンブナン

もう一つ、サバ州の森の植物

で私が愛して止まないのは、

「キノコ」です。森の中を探検して

いると、まず目に付くのは奇妙な形

の食虫植物ウツボカズラや美しい蘭

などですが、倒木や苔の中にひっそ

りと輝いているキノコの不思議さと

面白さと美しさには、心を奪われま

す。キ

ノコ類は、サルノコシカケの

ようにじわじわと成長して大きく

なっていくものと、雨が降った数時

間後に顔を出し次の日には消えて

なくなってしまうような儚いもの

までいろいろ。私が不思議なキノコ

と出会った3つのスポットをご紹

介します。

不思議なラフレシアはもう二

度と見ることはできないか

もしれないし、愛しいキノコたちは

次の日は消えてなくなっているかも

しれない。思わず触りたくなった

り、触って一緒に写真を撮ったりし

てみたくなるものですが、それは我

慢しましょうね。「ちょっと見せて

くださいね。お邪魔しますね」とい

う気持ちで森に入ると、「ここにい

るよ!」と向こうから目には見えな

いテレパシーが送られてくる感じが

します。

〜Take Nothing but Pictures,

Leave Nothing but Footprints, 

Kill Nothing but Tim

e

何もとらない。とるのは写真だ

け。何も残さない。残すのは足跡だ

け。何もつぶさ(殺さ)ない。つぶ

すのは時間だけ。

ボルネオ・サバ州、森の宝物と

一期一会の出会いは、旅の甘いスパ

イスのようです。

愛しいキノコたち

森の宝物

その

22

■ネオンブルーに光るキノコ■■ネオンブルーに光るキノコ■

■半透明の⾦⾊に輝くキノコ■■半透明の⾦⾊に輝くキノコ■

■⻘⾊から薄紅⾊、真っ⾚なキノコたち■■⻘⾊から薄紅⾊、真っ⾚なキノコたち■

2829