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平成15年度環境省請負 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 (国別調査) パキスタン・イスラム共和国 平成16年3月 社団法人海外環境協力センター

21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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平成 15 年度環境省請負

21 世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定

(国別調査)

パキスタン・イスラム共和国

平成16年3月

社団法人海外環境協力センター

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21 世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 (国別調査)

-パキスタン・イスラム共和国-

報 告 書

目 次

1. 背景と目的 ....................................................................................................................................... 1

2. 調査概要........................................................................................................................................... 2

3. 国家概要........................................................................................................................................... 4

3.1 地理・地勢・土地利用 ............................................................................................................... 4

3.2 気候・風土..................................................................................................................................7

3.3 政治・行政 ..................................................................................................................................8

3.4 社会・経済・社会環境 .............................................................................................................13

4. 環境政策および関連機関 ...............................................................................................................24

4.1 環境行政 ...................................................................................................................................24

4.2 環境関連法規および制度..........................................................................................................27

4.3 環境関連機関 ............................................................................................................................28

5. 環境問題の現況 ..............................................................................................................................29

5.1 自然環境 ...................................................................................................................................29

5.2 都市環境 ...................................................................................................................................33

6. 環境と開発に係る課題と取組 ........................................................................................................63

6.1 自然環境 ...................................................................................................................................63

6.2 都市環境 ....................................................................................................................................64

7.支援戦略の検討................................................................................................................................66

7.1 支援のニーズ ............................................................................................................................66

7.2 支援の方針................................................................................................................................69

資料編

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1. 背景と目的

パキスタン・イスラム共和国(以下「パ」国と記す)は、80 年代の高度成長による工業化の後、

90 年代に入ると財政的低迷や政治的混乱による行政能力の不足などが指摘されている。その中で、

人口は年率 3%前後の高い増加率を維持し、特に都市部への人口集中が進んできたことから、大

気汚染、水質汚濁および廃棄物管理などの都市環境の悪化が急速に全国に波及し、これらの環境

汚染問題は深刻なレベルに達している。また、地方においても頻発する干ばつや古くから張り巡

らされた灌漑用水の不適切な利用などにより、土壌劣化、生態系破壊、砂漠化、森林の減少、生

物多様性問題など広範な自然環境問題が発生している。これらの「パ」国における環境問題の背

景には、都市への人口流入によるスラム(Katchi Abadis)の形成や四半世紀に渡るアフガニスタ

ン難民の受け入れが断続的に進行してきたことにより、社会的、経済的に新たな問題が生じてい

るという特徴的な条件があるものと考えられる。

「パ」国における環境行政は、実質的には 1992年の国家保全戦略(National Conservation Strategy:

NCS)策定に始まり、90 年代には国家環境基準(National Environmental Quality Standard: NQS)

の設定(1993 年)、環境保護法(Pakistan Environmental Protection Act: PEPA 1997 年)の制定に代表

されるペーパーワーク主体の時代を経て、今世紀は環境保護行動計画(National Environmental

Action Plan: NEAP 2001 年)を推進させるための施策を具現化することに着手している。

「パ」国の環境問題について(財)海外環境協力センターは環境省(庁)委託業務として過去

に以下の調査を行っている。

-平成 7 年度環境庁委託 開発途上国環境保全企画推進調査 (1996 年 3 月)

-平成 12 年度環境省委託 開発途上国環境保全計画策定支援調査 (2001 年 3 月)

1996 年調査は、環境問題全般の現況や環境施策等の情報収集を目的として実施されたものであ

る。2001 年調査は、「パ」国最大の産業都市であるカラチ市を対象として有害産業排出物の現況

について現地委託調査を中心に把握された。このなかでは上記した「パ」国の環境行政機関の改

編内容についても詳しく整理している。

一方、日本政府は 50 年以上に及び良好な国交関係が続く中で、1998 年に「パ」国が実施した

核実験以降「パ」国への支援を控えていたが、2001 年よりアフガニスタンの恒久平和と安定化に

資するため周辺国支援として「パ」国への支援を再開しており、南アジア諸国を代表する国とし

て、本年度は国別援助計画の策定に取りかかっている。

本調査は、今後「パ」国に対する環境分野の支援戦略を策定するため、重要な最新の環境問題

とその取組状況を把握することを目的として行うものであり、現地調査、関係機関との協議およ

び資料調査の成果をもとにして環境問題を取り巻く現況を整理する。また、これらの調査結果か

ら考察される「パ」国における環境分野の支援ニーズと我が国の発展途上国向け支援の方針を勘

案し、「パ」国の発展と環境保全に資する妥当な支援戦略策定のための基礎的な検討を行う。

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2. 調査概要

「パ」国の環境現況を把握するためには、全国レベルでの最新資料の収集とともに、調査の一

環としてフィールドデータの取得が重要である。特に都市環境の悪化は急速に進んでいると言わ

れ、なかでも直接健康被害に結びつく水環境問題を現地調査データで把握することは重要である。

本調査では、首都においては環境・地方政府・地域開発省の出先機関である連邦環境保護庁

(Pakistan Environmental Protection Agency: Pak-EPA)を中心として、環境問題に関連する連邦政府機

関、首都開発局、国際機関等へのヒアリング、情報収集および廃棄物処理計画に係る現地視察を

行った。

また、現地調査は全国主要都市の中から人口規模の点で典型的な北西辺境州の首都ペシャワー

ルを対象として州政府や市行政機関へのヒアリングと現地踏査を行った。

都市環境を水循環の立場から考察するためのフィールド調査として、一定規模の河川流域を対

象として工場排水、下水排水、廃棄物処分場排水の水系への影響を把握するため、市内 Hayatabad

地区にケーススタディ調査流域を選定し、基礎的な社会環境データ、流量と水質分析、廃棄物の

量と質について現地調査計画を策定した。現地調査は、連邦環境保護庁の協力の下に行われ、結

果は本調査の一環として付属資料に示した。

さらに、本調査の一環として国内最大の産業都市であり、唯一の港湾都市であるカラチ市にお

いて、産業界の取り組みとして皮なめし業組合の排出水共同処理施設建設現場、カラチ港環境汚

染管理所等の視察も行った。

本報告書では、国家レベルでの環境問題を取り巻く状況を環境分野ごとにまとめるとともに、

フィールド調査で得られた都市環境の個別の特徴について関連分野のコラムに示す。

以下に、本調査団員の構成と行程を示す。

調査団員の構成

氏名 所属

団長 山本勝彦 (社)海外環境協力センター

嘱託研究員 日本技術開発㈱ 執行役員

副団長 山貝廣海 同上 日本技術開発㈱ 国際事業部 団員 佐井 茂 同上 ㈱関西総合環境センター 団員 吉成仁志 同上 ㈱テクノ中部 団員 安納剛志 同上 日本技術開発㈱ 環境施設部 業務調整 黒木浩則 同上 日本技術開発㈱ 環境技術センター

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調 査 行 程

平成 15 年 10 月 5 日 (日) 成田空港~バンコク~カラチ

6 日 (月) カラチ~イスラマバード(ISB)

JICA パキスタン事務所・在パキスタン国日本国大使館

7 日 (火) 連邦環境保護庁(Pak-EPA)

8 日 (水) イスラマバード~ペシャワール(PSW)

北西辺境州環境保護局 (NWFP-EPA)

9 日 (木) ペシャワール市内調査(河川環境/廃棄物/排水)

北西辺境州森林・環境部

ペシャワール市開発・行政部

10 日(金) ペシャワール市長・副市長

辺境州都市開発公社

11 日(土) パキスタン環境保護財団(NGO)

パキスタン森林研究所(環境省)

車輌検査所(VETS, NWFP-EPA)

12 日(日) 市内視察(一部団員移動:PSW~ISB)

13 日(月) 北西辺境州地方政府・地域開発部(PSW~ISB)

環境省森林監督官事務所(ISB)

14 日(火) 食糧・農業省農業研究所

首都開発局(イスラマバード特別行政管轄区)

環境・地方政府・地域開発省 環境部

15 日(水) 環境保護審議会(環境省)

科学技術省水資源研究所

首都廃棄物最終処分予定地視察

16 日(木) 保健省保健事業学院

ENERCON(環境省)

UNDP 環境活動計画サポートプログラム(NEAP-SP 2)

17 日(金) JICA パキスタン国事務所・在パキスタン国日本国大使館

イスラマバード~カラチ

18 日(土) シンド州環境保護局

カラチ港監督署海洋汚染管理局

「パ」国皮なめし業組合(PTA)

カラチ発 ~

19 日(日) バンコク経由 ~ 成田空港(一部関西空港)

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3. 国家概要

3.1 地理・地勢・土地利用

(1) 地理

「パ」国は、イラン、アフガニスタン、中国およびインドと接し、アラビア海から中央アジ

アの山岳地帯まで広がり、地勢、気候、自然環境とも変化に富んでいる。

図 3.1-1 「パ」国の地勢とカシミールの帰属

インドとの国境は、1947 年に両国が英国から独立して以来カシミール地方(約 22.3 万 )の

帰属を巡って係争状態にあり、現在の実効支配ラインは 1972 年第 3 次印パ戦争の停戦を受けた

シムラー協定による実行管理ライン(図 3.1 – 1 に示す Cease-fire Line)となっている。

通常、国土面積、人口、経済活動などを示す統計値は、「パ」国側のカシミール地方に属する北

方地域(「パ」国名 Northern Areas)およびアザド(自由)・カシミール地域(管理ライン西側; 「パ」

国名 Azad-Jammu-Kashmir 以下 AJK)は明示されず、パンジャブ、シンド、バロチスタン、北西辺

境州(NWFP)の 4 州部分および行政的にこれらに属さない首都イスラマバード(パンジャブ州内)、

連邦直轄民族地域(北西辺境州内 Federally Administrated Tribal Area:以下 FATA)の値が示されてい

る。

出 典 : Biodiversity Action Plan for Pakistan 2000

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この結果、国土は北緯 23°30′~36°45′、

東経 61°~75°30’に位置し、南北約 1,600km、

東西約 885km の広がりがあり、総面積は日本の約

2 倍に当たる約 796 千 km2 である。また、国境線

は東のインドとは 1,610km、北の中国とは 585km、

西のアフガニスタンとは 2,252 km、南西側のイラ

ンとは 805 km となっている。また、南にはアラ

ビア海に 1,046 km の海岸線をもつ。

(2) 地勢

「パ」国の地形は北部山岳地帯、バロチスタン高地、インダス川平原の 3 地域に分けられる。

北部山岳地帯では、カシミール中北部にインドから延びるヒマラヤ山脈、カシミール北縁で中

国との国境をなすカラコルム山脈、北端でアフガニスタンとの国境地帯に延びるのヒンズークシ

山脈の 3 大山脈が重なり合い、世界第 2 位の K2 峰(8,611m)はじめ 7,000m を越える頂が連な

る「世界の屋根」を形成している。山地は南に向かって標高を下げて丘陵地帯となり、ヒンドゥ

ークシ山脈の南側から北西辺境州(NWFP )、バロチスタン州のアフガン国境にかけてはバロチスタ

ン高地と呼ばれる山地や台地、平地など変化に富んだ地形(標高 1~3 千 m)が広がっている。

インダス川平原は、インダス川の中、下流部において形成され、各々の州の境界でパンジャブ

平野とシンド平野に分けられている。平野部のうちパンジャブ州南部からシンド州東部にかけて

は、インドに跨る大インド砂漠が広がり、無人地帯となっている。砂漠を除くインダス川平原は、

人の住める国土の主要な部分を占め、産業の集中する地域でもある。

インダス川は、源流をチベットに発し、山岳地帯を深く刻んで流下した後、インダス平原の西

よりを流れ、30 km にも及ぶ河川敷内で中州を形成しながら蛇行する。主たる流入河川には国際

河川が多く、アフガニスタンから Kabul 川、Gumal Zam 川、カシミール地方から Chenab 川、Jhelum

川、インド領から Ravi 川、Sutlej 川などが合流し、流末はアラビア海に注いでいる。

このようにインダス川流域には、北部および西部山岳地帯、ポトワー台地、ペシャワール谷(盆

地)、インダス平原などが含まれ、「パ」国全土の約 7 割を占めている。インダス川以外の流域と

しては、バロチスタン州を主流域とするカラン砂漠閉鎖性流域、メクラン海岸流域があり、Mashkel

等海に流れ出ない川、ワジおよび塩分濃度の高い鹹湖も多く認められる。

表 3.1-2 流域別面積 流域名 含まれる主な州名 面 積(km2)

インダス川流域 パンジャブ、シンド 561,253 カラン砂漠閉鎖流域 バロチスタン 120,176 メクラン海岸流域 バロチスタン 122,507

合計 803,936 出典:Water Resources Development and Management (2003)

表 3.1-1 行政区域別の面積

行政区域 面積 (1000 km2)

バロチスタン州 347.2 パンジャブ州 205.3 シンド州 140.9 北西辺境州 74.5 連邦直轄民族自治区(FATA) 27.2 首都圏地域(イスラマバード) 0.9 合計 796.1

出典:Statistical Supplement Economic Survey 2001-2002

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(3) 土地利用

衛星写真による土地利用分析(1992)によれば、全国土のうち砂漠や露岩地域など不毛の地域が

26,893ha(約 31%)、半乾燥地を中心に放牧地が 28,507ha (約 32%)を占め、これに雪に覆われ

るなどで判別できない区域約 8%や水域 1%を加えると、国土の約 72%が農・林業に適さない地域

といえる。このため耕作地は 23.%あまりにとどまっており、山岳地の多い割には森林が 5%弱と

少ない。農業統計 2001 によれば、耕作地は過去 15 年間で約 5%増加しているが、その間灌漑率

は約 80%でほとんど変化していない。

州別の土地利用特性としては、耕作地率がパンジャブ州で 58.5%、シンド州で 40.5%と極端に

高いものの、NWFP では 15%、砂漠が多くを占めるバロチスタン州では 3.3%しかない。これら

極端な地域格差が「パ」国の土地利用上の特性である。

表 3.1-3 土地利用状況 (千 ha) 州 区分

NWFP (+FATA)

パンジャブ シンド バロチスタン 北部地域 AJK 計 %

森林 1,684 508 399 592 666 275 4,224 4.8%

放牧地 4,894 5,759 2,877 12,566 1,601 810 28,507 32.4%

耕作地 1,546 12,059 5,705 1,180 48 42 20,580 23.4%

不毛地 138 1,661 4,695 20,372 27 - 26,893 30.6%

水域 64 477 346 6 1 19 913 1.0%

都市 4 62 69 3 - - 138 0.2%

その他 1,844 - - - 4,697 184 6,725 7.6%

計 (%)

10,174 (11.6)

20,626 (23.4)

14,091 (16.0)

34,719 (39.5)

7,040 (8.0)

1,330 (1.5)

87,980 (100%)

出典:Forestry Sector Master Plan(1992)

出典:1958 年~1998 年は National Action Progrmme to Combat Desertification in Pakistan(2002) 1999 年以降は、Statistical Supplement Economy Survey 2001-2002

図 3.1-2 土地利用の変遷

0

10

20

30

40

50

60

70

1947 1958 1968 1978 1988 1998 1999 2000 2001

年度

面積

(百万

ha)

既植付地総植付地休閑地耕作可能な荒地耕作不可能地森林

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3.2 気候・風土

気候条件は亜熱帯気候に属しており、高温乾燥地域が多くを占めるものの、夏季に気温 50℃以

上となり年間降水量 100mm 以下となるジャコババードのような地域から、年間降水量 1000mm

以上の氷河地帯まで極めて多様な気候を有している。

国全体として年間降水量 500mm 以下の地域が国土の 9 割近くを占め、年間降水量が 500mm

を超える地域は北部山岳地帯に限定される。降水量はその乏しさに加えて、年ごとの較差も大き

く、干ばつと洪水被害がたび重なって起っているようにその変動も増幅しつつある。

表 3.2-1 乾燥地域の分布 (km2) 分類

(年降雨量) 州

乾燥 (<250mm)

半乾燥 (250-500mm)

半湿潤 (500-1,000mm) その他

パンジャブ 119,310 59,678 17,014 10,197 シンド 134,896 6,018 - - バロチスタン 149,467 197,723 - - NWFP 注) 6,194 30,071 26,399 39,077 合 計 (構成比)

409,867 (51.5%)

293,4900 (36.9%)

43,413 (5.5%)

49,274 (6.2%)

出典:National Action Programe to Combat Desertification in Pakistan (修正・加筆) 注)NWFP は、FATAを含んだデータ。

図 3.2-1 年間降水量分布

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3.3 政治・行政

(1) 政治

「パ」国の政治は、権力が行政府に集中する傾向が特徴的で、政治は軍と官僚を中心とし

て、中央集権的な枠組みのなかで進められてきたといえる。議会は弱体で、行政からの命令・

指示を承認する役割にとどまっており、立法機関としての機能は著しく弱いのが実情である。

政治団体の結成は長い間政府により統制、規制され、また地方自治が育つ機会を持たなかっ

たため、国民の政治参加へのアクセスは極めて限定されてきた。また、比較的独立性を保っ

てきたと言われている司法も、行政の支配下におかれており、恣意的な権力の行使をチェッ

クする役割を持っていたとはいえない。このような政治状況のなかで、主要なアクターとな

ってきたのは、地主、軍、官僚を中心とする少数の統治エリートであった。このような政治

制度は、それを運用する者に都合良く利用されてきたという側面があり、制度的な安定度と

いう点では脆弱であったといえよう。

「パ」国の政治を規定する要素としては、イスラム教、国軍、民族問題の 3 本柱を挙げる

ことができる。イスラム教は 1947 年建国の理念として「パ」国国家論の原点となっている。

軍は内政・外政面で常に中心的存在である。「パ」国は建国以来、これまでの歴史過程を反

映して、インドに対する恐怖心ゆえに国防に異常なほど注意を払ってきた。それが諸大国の

対立関係の中で、新生「パ」国の複雑な国内政治形態を更に複雑でいびつなものに変えてい

った。

国軍は国家護持を最大の任務としているが、1970 年末から東パキスタンにおけるベンガリ

ー民族運動を武力弾圧することにより、1971 年の第 3 次印パ戦争を惹起した。結局、「パ」

国軍の敗戦によって東パキスタン州はバングラデッシュとして分離独立した。

現在の「パ」国の権力構造は、従来と同様に軍幹部、高級官僚、大地主を主体とし、それ

に副次的統治エリートとしてイスラム教指導者と産業資本家が存在する。これらの統治エリ

ートの大半はパンジャブ州のパンジャービー民族を出自としており、国内の諸民族、諸地域、

諸階級の間の格差は大きく、それが生み出す軋轢のため、建国後 55 年以上を経た今もなお、

安定した国家を確立し得ていない面が近年まで続いた。

1971 年の印パ戦争敗戦の責任をとって、当時の A.M.ヤヒヤ大統領が辞任した後、ズルフ

カール・アリー・ブットーに政権が移り、文民統制を行ったが、1977 年のクーデターで再び

ジアーウル・ハック大将による軍事政権が誕生した。1988 年にジアーウル・ハック大統領の

事故死を機会に、軍部は国政を原則的には文民政治家に委ねるようになったが、文民政治家

たちの権力闘争と汚職の連続で「パ」国の政治状況は混乱が続いた。

1997 年に登場したシャリーフ文民政権は、「1985 年憲法」に規定された大統領の国会下

院解散権を剥奪し、「1973 年憲法」に規定された議院内閣制を復活させることに成功した。

その後、この変革はインドとのカシミール問題に対する首相と軍部との意見対立を引き起こ

し、1999 年のムシャラフ将軍によるクーデターの原因となった。ムシャラフ将軍は非常事態

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を宣言するとともに、憲法を効力停止状態に置き、自ら行政官として国政にあたり、2002 年

10 月に国会下院の総選挙を実施した。この選挙では議席数が 217 から 342 に増加され、女性

用留保議席が復活して 60(17.5%)がその議席数とされた。(マイノリティ<非ムスリム>

用留保議席は従来どおり 10 議席が確保された。)

この選挙結果はイスラム主義勢力が大躍進し、イスラム主義 6 政党の連合である統一行動

評議会(Muttahidah Masjlis-e-Amal:以下 MMA)が、今回は 60 議席(17.5%)を獲得した。同時

に行われた 4 州議会の選挙結果は MMA の躍進がより顕著で、特にアフガニスタンに隣接す

る北西辺境州では 124 議席中 66 議席(53.2%)を獲得して現在に至っている。

(2) 行政

1) 連邦行政統治機構

「パ」国の行政機構を図 3.3 - 1 に示す。

連邦の行政権は大統領に属し、大統領は、下院議員のなかから首相を任命した後、首相の

助言に基づき他の大臣を任命するとともに、州知事、最高裁、高裁、連邦シャリーア(イス

ラム法)法廷の裁判官および裁判長等についても任命する。また、大統領は国軍の最高司令

官であり、三軍の長は大統領により任命される。なお、大統領は首相や閣僚の助言に基づき

行動するが、助言に関し内閣に再考を促したり、拒否権を行使することができ、議会を通過

した法案は大統領の同意を必要とする。また、大統領は、下院を解散して総選挙を命令し、

暫定内閣を任命することができる。

連邦議会は Majilis- e- Shoora と呼ばれ、上・下二院制を採用している。司法は一本化され

たシステムを持ち、連邦の最高裁判所の管轄下に州の高等裁判所がある。

2) 地方政府機構

州行政の権限は知事(Governor)に属しており、大統領が連邦政府に対するのと同様の権

限を州政府に対して持っている。知事は、連邦政府首相との協議に基づいて大統領が任命し、

大統領の意に反しない限りその職務を保持する。知事は州政府の長であり、同時に連邦政府

のエージェントであるとされている。知事を補佐し助言するために、主席大臣(Chief Minister)

を長とする州内閣が設けられ、内閣は議会に対して責任を負う。州議会は一院制であり、連

邦議会と同様に、特定の留保議席が設けられている。主席大臣は、州議会の信任に基づき知

事が任命し、その他の大臣は主席大臣の助言に基づいて知事が任命する。主席大臣は州知事

の意に反しない限りその職務を保持する。州知事は州議会を解散でき、大統領の同意のもと

で暫定州政府を任命できる。州知事が欠けた場合は大統領が代行する。

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図 3.3-1 「パ」国国家行政機構図

出典:アジア経済研究所、『アジア動向年報2000年』(一部加筆)

3) 連邦-州の関係

「パ」国は 4 州(パンジャブ、シンド、バロチスタン、北西辺境州)及びその他の地域か

らなる連邦制国家である。連邦制は連邦の権限が州に比べて強く、中央集権的であり、次の

点が特徴として挙げられる。

外務省

社会福祉女性開発特別教育省

工業省

大蔵省

商業・投資省

水利・電力省

労働・人材・在外パキスタン人省

食料・農業・畜産省

通信省石油・天然資源省

教育省

カシミール・北方地域・土候国・辺境地域

人口福祉省

住宅・公共事業省

国防省

法務省・司法省

内務省

宗教・少数宗徒省

情報・メディア開発省

鉄道省

大統領

<内閣>行政長官

議会問題省

科学・技術省

保健省

内閣官房

国家安全保障会議議長

法務長官イスラーム・イデオロギー評議会

州間利害調整

評議会

選挙管理委員会会計長官

国家財政委員会

国家経済委員会

公益委員会

高等裁判所

連邦イスラーム裁判所

<司法府> 最高裁判所

イスラーム上告法廷

環境・地方政府・地方開発省

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① 重要な権限のほとんどは連邦リストにある。

② 州知事は、大統領により任命され、大統領の意に反しない限りその職を保持し、加え

て大統領のエージェントとしての役割を果たすことが期待されている。

③ 憲法の非常事態規定には、大統領による州内閣解任権が規定されている。

④ 高級公務員は連邦によって採用され、彼らによって連邦および州の行政が行なわれる。

⑤ 州の財政基盤は脆弱で連邦に依存している。

⑥ 州には独自の憲法がないうえ、憲法修正の権限も連邦政府のみが有する。

⑦ 司法は一本化された制度で、州の高裁は連邦の最高裁の監督下にあり、州の高等裁判

所判事の任命および異動に関する権限も大統領にある。

4) 立法府

① ①立法上の関係

連邦政府および州政府の権限に関する管轄の区分(立法の権限)は、憲法により以下のよ

うに分けられている。ただし、実際には人材的および財政的な理由により、上位の政府が下

位の政府の機能を行っているケースが多い。

表 3.3-1 立法上の連邦政府-州政府の関係

連邦政府の議会は、連邦リストの項目に対しても共管リストの項目に対しても立法でき、

かつ、残余項目についてもそれが特定の州に属さない場合は立法権限をもつ。一方、州政府

議会は、共同管轄の事項について立法権限をもつが、それが連邦の法律と矛盾・対立する場

合は連邦が優先される。2 つのリストにない項目は州議会の権限であるが、これら残余の事

項についても、州政府からの要請があれば、連邦政府議会は立法の権限をもつ。

管轄 立法権限のある項目 【PART-I:59 項目】下院先議事項。下院議決優先。

国防、外交、市民権、郵便、移民、貨幣、外国為替、連邦政府公務員、連邦オンブズマン、原子力、輸出入通関、港湾、航空、国土計画など

直轄

【PART-II:8 項目】上下両院発議可。最終議決は両院合同の多数決。

道路、石油、天然ガス、公益委員会など

連邦政府

共同管轄 【48 項目】

民法・刑法、環境破壊防止、人口計画・社会福祉、労働者福祉、イスラム教育、観光など

州政府

単独管轄 【上記残余事項】

治安維持(警察)、土地法、地方自治、公衆衛生、教育、農業、森林、州公務員、小規模工業、道路・自動車税、印紙税など

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① ②行政上の関係

連邦行政府は広範囲における州政府への統制権限を有しており、州の行政権は連邦の行政

権の行使を侵害しないよう行なわれるとしている。加えて、連邦議会は、州間の貿易等に関

しては、公共の利益に照らして必要と判断すれば制限を課す権限も有している。連邦政府は

国家的・戦略的見地から、州の通信、道路、治安維持について指示を出しうる。また、電力、

通信等についても、施設の設置の権限を完全に連邦にゆだねている。また、高級公務員は連

邦によって採用され、州行政の枢要ポストの多くは彼ら連邦公務員によって担われている。

これらのことから、「パ」国の行政は大統領及び連邦政府の強い権限が全国を支配してい

ることが明らかである。

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3.4 社会・経済・社会環境

(1) 社会

1) 民族、言語、宗教

「パ」国は、連邦制を敷いているが、連邦を構成するパンジャブ州、シンド州、北西辺境

州、バロチスタン州の 4 州及びその他の地域(イスラマバード連邦首府、FATA、AJK および

北方地域)は各々、パンジャービー、シンディ、パシュトゥーン(パターン)、バローチーの

4 つの主要民族とムハジール(インドからの移民)などその他民族からなり、民族と言語集

団はほぼ対応している。民族集団と州の境界とは一致していないが、大まかにはそれぞれの

州に主要な民族集団が存在する。パンジャービーは、パンジャブ州人口の大部分を占め、「パ」

国全体の人口の約 60 %を占める。シンド州は、シンディが多数を占めるものの、カラチ等

の都市部を中心にウルドゥー語を母語とするムハジール(1947 年のインド・「パ」国分割の

前後に、インドなどから現パキスタン地域に移住したイスラム系住民)も州人口の 5 分の 1

を占める。北西辺境州の主要民族はパシュトゥーンで州人口の約 7 割を占め、バロチスタン

ではバローチー民族が優位を占めるものの、パシュトゥーン、ブラーフィーも多く居住して

いる。また、連邦直轄部族地域には独自の慣習法に従っている多くの部族が居住しており、

北西辺境州北部や北方地域には言語、慣習の異なる少数民族集団がいる。

公用語はウルドゥー語と英語である。ウルドゥー語を母語とする人口は少ないものの、南

アジアのムスリムの共通語として使われてきたウルドゥー語が独立後に国語として選択され

た。

宗教は、国民の 96.7%がイスラム教徒であり、その大部分がスンニー派である。シーア派

は約 20%であり、その他、「パ」国ではイスラム教と認められていないがアフマディー教団

も存在する。イスラム教徒以外では、キリスト教徒が人口の 1.6%、ヒンドゥー教徒が 1.5%、

また少数ではあるが、パールシー、仏教徒、シーク教徒も存在している。

複雑な多民族国家である「パ」国では、当然ながらそれぞれの地域による風俗や習慣の相

違も大きく、また、農村・都市、社会階層、男女等属するグループによっても社会経済的環

境は大きく異なることに留意する必要がある。さらに、イスラムとそれに付随する慣習が社

会の細部にまで浸透しているとはいえ、伝統的な慣習も同時に併存している。例えば、パン

ジャブやシンドでは、カースト制度を否定するイスラムの平等思想によってヒンドゥーのカ

ースト制度はより薄められてはいるものの、ヒンドゥーからの改宗した 13 世紀以前のカース

ト秩序が依然として社会に残存している。また、北西辺境州やバロチスタン州でも、ヒンド

ゥー教からの遺制としてではないが、職業は世襲され、職種による身分序列があり、結婚や

相続などについても、伝統的価値観や慣習法とイスラム法との妥協が見られる。

2) 人口

人口は 1 億 4,444 万人(2001 年推定)であり、人口増加率は 80 年代当初の約 3%が今世紀

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に入り 2.1%に低下したものの、図 3.4 – 1 に示すように若年層の比率が高く、今後も高い値

が予想される。また、図 3.4 – 2 に示すように都市人口が 1/3 を占め、特にカラチ市をひかえ

たシンド州では、49%が都市人口である。都市人口の増加率は全国値を大きく上回り、1981

年~1998 年では、全国平均 2.7%に対して、上位 10 都市の平均は 3.5%、特に首都では 5.8%

と最も高い。

図 3.4-1 「パ」国の人口年齢分布 図 3.4-2 都市と農村部の人口比率

図 3.4-3 都市人口増加率の推移

Population in Pakistan

12,000 8,000 4,000 0 4,000 8,000 12,000

0~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475以上

年齢

区分

男性(千人) 女性(千人)

43.0

23.5

14.8

1.5

3.1

89.3

50.9

15.6

5.0

17.8

60.0 40.0 20.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

パキスタン全土

パンジャブ州(首都含)

シンド州

バロチスタン州

北西辺境州(FATA含)

都市部(百万人) 農村部(百万人)

都市人口増加率の推移

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

'41-'51 '51-'61 '61-'72 '72-'81 '81-'98

人口

増加

率(%

/年)

KarachiLahoreFaisalabadRawalpindiMultanHyderabadGujanwalaPeshawarQuettaIslamabad10 Big CitiesPAKISTAN

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3) 村落構造

「パ」国の社会構造の特徴として、経済格差に基づいて形成された階層の問題がある。こ

れは特に農村部において顕著であり、土地所有農家と小作人、そして非農家に分けられる。

農家は土地所有規模による二重構造を形成しており、個人所有規模 20 ヘクタール以上の農家

が上位階層に位置付けられる。対象の戸数は全体の約 2%であるが、この層は農地の 24 %を

所有している。一方、5 ヘクタール以下の土地を所有する農家は全体の 81 %で、農地の約

39 %を所有している。これらの農家は内婚集団や部族により社会的に識別されている。

他方、農村社会を構成するもう一方の非農家層は「カンミー」と呼ばれ、全農村人口の

60-70%を占めるといわれているが、多くは土地を持たず、伝統的職人が主体である。彼らは

伝統的農村雑業、農作業、一般労働等を所得源としており、また、この層の内部でも職種に

よる身分序列がある。このような構成から成る農村社会において、地主・富農層は「ザミン

ダール」と呼ばれる支配階級を形成しており、農家間は「ビラダーリー」と呼ばれる連帯意

識によって結びつけられている。他方、「ザミンダール」と非農家層である「カンミー」との

間には、それぞれの職業を通じて世襲的にサービス提供の契約を結ぶことによって相互依存

関係を維持していく仕組みがあり、セイプ(Seyp)制と呼ばれている。

(2) 経済

1) 経済構造

「パ」国は農業部門に依存した経済から脱却し、工業化を図ろうとしている。しかし、GDP

の産業別構成比では製造業は 1994/95 年度 17.3%から 2000/01 年度には 17.5%と横ばいに推

移している。一方農業についても、同期間にシェアは 24.9%から 24.6%と依然として生産全

体の約 4 分の 1 を占め、農業依存体質から抜け出せないでいる。

表 3.4-1 GDP 構成の推移 (単位:%) 部門 1994-95 1995-96 1996-97 1997-98 1998-99 1999-00 2000-01

(生産部門) 農業 24.9 26.1 25.7 26.0 25.4 25.9 24.6 製造業 17.3 16.8 16.5 17.1 17.1 16.7 17.5 鉱業 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 建設業 4.0 3.8 3.8 3.7 3.4 3.5 3.4 電気、ガス 4.0 4.2 4.0 4.2 4.7 4.4 3.8 (サービス部門) 卸売、小売業 16.3 16.2 16.1 15.4 15.2 14.9 15.3 輸送、貯蔵、通信 10.2 9.6 9.8 10.2 10.2 10.2 10.5 金融、保険 2.5 2.7 2.9 2.2 2.5 2.3 2.3 住宅 5.6 5.5 5.7 5.8 5.9 5.9 6.1 公共行政、防衛 6.5 6.3 6.3 6.2 6.1 6.5 6.4 サービス 8.2 8.2 8.6 8.8 9.0 9.3 9.6

出典:Economic Survey 2001-2002

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部門別就業人口で見ると農業部門は全産業の 44%を占め、就業者の約半数近くが農業で生

計を立てていることがわかる。農業では、小麦、コメ、メイズ、砂糖キビ、綿花が主要生産

物で、天候に大きく左右され、それが経済全体にも大きな影響を与えやすい構造になってい

る。

製造業では、特に綿花を原料とする繊維工業が中核産業となっている。また、綿関連製品

は重要な輸出品目でもあり、原綿、綿糸、綿布、繊維製品の輸出額は 2001/02 年度には、全

輸出額の 6 割以上を占めるなど、綿関連産業は主要な産業となっている。

1 人あたり GDP は 1995 年度の 513 ドルから 2001 年度には 427 ドルと低下しており、いか

に工業化を進展させるかが経済発展の大きな課題となっている。

2) 経済動向

「パ」国の過去 3 年間の主要な経済指標は下表のとおりである。

表 3.4-2 主要な経済指標の状況 1999/2000 2000/01 2001/02

実質GDP成長率(%) 3.9 2.5 3.6 消費者物価上昇率(〃) 3.58 4.41 2.55 経常収支(100万ドル) △1,143 △509 913 貿易収支( 〃 ) △1,412 △1,246 △286 対米ドルレート(期中平均) 51.7709 58.4378 57.2174 外貨準備高(100万ドル、年度末) 2,149 2,666 4,161 失業率(%) 5.89 7.82 7.82

出典:Economic Survey 2001/2

2001 年度(2001 年 7 月~2002 年 6 月)の「パ」国経済は、実質 GDP 成長率が 3.6%と前

年度の 2.5%を上回った。2001 年 9 月の米国テロ事件の発生、同 10 月には米国がアフガニス

タンのタリバン政権に対する報復攻撃を開始し、アフガニスタンに隣接する「パ」国ではム

シャラフ大統領が反テロを掲げる国際社会に協調し米軍に国内の基地・施設の使用許可を与

えた。こうしたことから地域情勢の緊迫化により外資系企業の駐在員は国外回避するなど経

済活動に多大な影響が出た。しかし、アフガニスタンの和平進展による情勢の安定化に伴い、

経済は改善の方向に向かった。とりわけ政府がテロ撲滅への姿勢を鮮明にし、国際協調路線

を維持したことにより、次第に国際社会の信頼を集め、米国や日本などの諸外国から経済援

助も再開された。また投資環境も改善に転じたことなどが要因となって経済は、前年度の大

幅な落ち込みから回復基調となった。

ただし、2001 年 12 月のインド国会襲撃事件、2002 年 5 月以降も「パ」国武装勢力による

越境テロや核ミサイル発射実験などでインドとの軍事的緊張が高まり、ほとんど外資系企業

の駐在員が国外に退避して、好転しつつある経済に水をさす事態となっている。

2001 年度経済の特色は、恒常的に赤字となっている。国際収支が、海外出稼ぎ労働者から

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の送金の大幅増加と、公的資本収支が 98 年度以来の大きな受け取り超となったことで黒字に

転じたことである。また、消費者物価上昇率も 2001 年 7月~2002年 4月の 10ヶ月間だが 2.6%

と30年ぶりの低い水準となった。これは、食料品の物価上昇率が前年度同期の4.1%から 1.4%

に改善し、非食料品でも光熱費の上昇率が 9.2%と前年度同期の 12.1%を下回ったことが大き

な要因となっている。

3) 経済政策

IMF は「パ」国の「3 ヵ年社会経済改革計画(2001 年 10 月~2004 年 9 月)」を支援するため、

「貧困削減成長ファシリティ(PRGF)」として 13 億 2,000 万ドルの新規投入を承認した。こ

れは、経済成長の恩恵を低所得層により多く配分することを目標とした新戦略であり、IMF

としては「パ」国が最初の実行計画対象である。

経済政策で最大の課題は「一定の経済成長の持続」と「貧困削減」だが、そのために下記

のような各種政策課題の効果的な実行が望まれており、今後はその実現度合いが注目される。

①計画的な債務返済と債務管理の徹底などによる債務負担軽減

②税収の確保・増加策、さらに歳出の工夫などによる財政赤字の改善

③経済成長のために低インフレと低金利の継続的持続

④石油・ガス、金融、電力、通信分野での民営化促進、民営化による収益は債務返済に充

⑤電気、通信、道路などインフラ整備を中心とした投資環境の改善、政情・治安の安定に

よる投資家の信用回復

⑥輸出促進と経常収支の改善

(3) 社会環境

1) 貧困問題

「国別貧困情報(パキスタン)」(JICA:2003)によると、「パ」国では貧困ラインを一日

に必要な摂取熱量 2250 カロリーを摂取するに必要な所得を基に算出されている。

1987 -88 年の貧困率は 17.3 %、その後 90 年代に入り増加を続け、1992 -93 年に

25.7 %、1993 -94 年に 28.6 %、1996 -97 年に 24 %、98 -99 年には 32.6 %、1999 -

2000 年には 33.5 %(推計)まで上昇した。絶対数にすると、実に 4400 万人が貧困層である。

貧困層の平均的な貧困ラインからの乖離率を計った貧困ギャップは、1992 -93 年の 4.5 か

ら 1998 -99 年には 7.0 にまで上昇し、貧困がより広範かつ深刻に蔓延している状況がう

かがえる。その背景には、

(1) GNP は 1950 年の 26 億ドルから 2000 年には 618 億ドルまで上昇したが、高い人

口増加率を受けて、一人当り所得が伸び悩んだこと

(2) 失業率が約 10 %と高く、また実質賃金も伸び悩んでいること

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(3) 1995 年から 98 年には 12 億ドルであった海外出稼ぎ労働者からの送金が1998-99

年には 9 億ドルへと大幅に減少したこと

(4) 政治不安

(5) 高い人口増加率にともなう扶養率の上昇

(6) 1992 年には GDP の 20 %以上を占めていた総投資額が減少を続け、特に 1998 年

5 月の核実験後に G-7 を中心に経済制裁措置が採られ、投資は急速に冷え込み、

2000 年には 14 %にまで落ち込んだこと

の 6 つがあった。「パ」国の貧困状況を説明する各種指標を表 5.3 - 1 に示す。摂取熱量で

示される貧困率以外の貧困状況は、資料編に示す。

国際支援で注目される貧困問題は、環境問題へのインパクトであると同時に、環境悪化に

より最も影響を受けやすい脆弱性としてとらえることができる。都市部においては、カシミ

ール地域の紛争にも関係して人口流入は進行し続け、Katchi Abadis と呼ばれるスラムを形

成し、都市貧困層を形成してきた。 スラムの環境は、民族問題(対立や差別を含む)をは

らんで様々であるが、給水、下水、電力、廃棄物収集など公共サービスを享受できないこと

も多く、都市環境悪化の要因となっているとともに、悪化した環境の影響を最も受けやすい

存在となっている。また、’79 年に始まるアフガン難民の流入も断続的にあり、国境を接す

る北西辺境州(NWFP)やバロチスタン州に多くの難民キャンプを設けて受け入れているが、

特に NWFP の首都ペシャワールでは、住民の半数近くにもなる 100 万人以上の難民キャン

プが Katchi Abadis同様に都市環境への負荷要因となっている。

2)女性問題

① ① 概要

「パ」国の女性の地位は、他の東アジア諸国の女性に比べても低いと見られるが、特に貧

困家庭の女性や女性人口の 70%を占める農村女性は、貧困と女性差別という二重差別のた

めに劣悪な生活を余儀なくされている。女性や少女には、十分な食料、保健・医療サービス、

教育・訓練機会が与えられていないため、女性の教育水準は男性に比べて低く、慢性的な栄

養失調などのために生命は危険にさらされている。また女性の労働に対する社会的偏見、女

性の低い教育・技術レベル、女性の家庭内での過重負担は女性の雇用機会を阻む要因となっ

ている。

1995 年北京で開かれた世界女性会議において各国でジェンダーに関する国家行動計画を

作るように勧告があったことを受けて、「パ」国は 2002 年に National Plan of Action(NPA)を

作成した。この中でパキスタンの女性の現状について以下のように述べられている。

「パキスタンの女性は今日もなお、抑圧的な家父長制的社会、厳格な原理主義的規範、社

会的、文化的慣習や伝統に苦しめられており」、「(社会的な)力を持たず、あらゆる機会へ

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のアクセスが男性より少なく、すべての指標は女性の地位の低さを示している」 。

表 3.4-2 各種貧困指標一覧 項目 データ

<人口・出生>※1 年平均人口増加率 2.4% 出生時平均寿命※2 59.6歳

男性 59.8歳 女性 59.5歳

出生率(女性一人あたり) 4.8 乳幼児死亡率 89.8人/千人 5歳未満死亡率 126.0人/千人 <経済>※3 一人当たり国民総生産(GNP) 470ドル GNP年間成長率 3.6% 付加価値構成比(対GDP)

農業 26.3% 工業 23.3%

サービス業 50.4% <雇用就労> 労働力率(全体)※4 49.9%

男性 82.4% 女性 15.2%

失業率(全体)※5 5.9% 男性 4.2% 女性 14.9%

<栄養>※6 栄養失調率(低体重児率) 38% <保健衛生サービスへのアクセス>※7 衛生施設が利用可能な人口割合 61% 安全な水が利用可能な人口割合 88% 医薬品が利用可能な人口割合 65% <教育>※8 成人識字率 45.0%

男性 58.9% 女性 30.0%

就学率 初等教育(全体) 65.0%

男性 87.0% 女性 42.0%

中等教育(全体) 26.0% 男性 33.0% 女性 17.0%

高等教育(全体) 3.0% 男性 4.0% 女性 2.0%

※1:世界銀行、World Development Indicators 2001、※2:UNDP, Human Development Report 2001、※3:世界銀行、World Development Report 2000/2001, World Development Indicators 2001、 ※4:ILO, World Employment Report 2001、 ※5:ILO, World Employment Report 2001、 ※6:UNICEF Statistical Data2002、 ※7:UNDP, Human Development Report 2001、

① ※8:Global Education Online Database 2000

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② 社会規範、慣習とその変化

「パ」国の女性はパルダという伝統的、社会的規範により、公的な場における行動を社会

的・心理的に制限されている。パルダは私的領域と公的領域を分かち、女性の行動や決定権

を私的領域に押し込める思想である。パルダの現実適用の仕方は民族、部族、階級、都市と

農村、地域(州)、年齢、婚姻上の地位、学歴、宗教、個人の価値観、経済的ニーズ、家族

の経済状態などにより異なる。概して教育を受けている都市の中産階級ではパルダに従う度

合いが緩やかであり、地方中都市の中下層や都市下層ではもっとも強い。現在までのほとん

どの公立学校は男女別学であり、私立学校でも中等以上になると男女のクラスを分ける。し

かし大学は共学である。一般的に下層になるほど男女同席に対して抵抗が大きく、そうした

場合女性の方が欠席したり、発言を控える。見知らぬ男性と直接接することも良いこととは

されない。

また農村部では女性は自家の畑で農作業をしたり家畜の草を刈りに外に出ることは構わ

ないが、他家に賃労働に行ったり、買い物などに出かけることはパルダに反すると見る傾向

がある。地域的には NWFP やバロチスタンにおいて、また民族的にはパンジャービーより

はパフトゥーンの方がこの規範を厳しく守る傾向にある。

3) 農業開発

① ① 現状

国民に対しての安定的な食糧の供給、また国家経済の成長に果たす農業部門の役割は過去

も現在も極めて重要である。「パ」国の農業が GDP に占める割合は 1969/70 年では 38.9%で

あったが、1990/91 年には 25.8%に大幅に減少した。しかし、それ以降は 90 年代を通じ、

ほぼ同レベルで推移している。就業者の産業別構成を見ると、農業セクターも 57.0%

(1969/70)から 90 年代初期に 47%台に下がり、現在もほぼ同じ水準に留まっている。つま

り、シングルセクターとして、農業は依然として最大の生産セクターであり、雇用吸収セク

ターであることに変わりはない。

① ② 「パ」国農業の特徴

・灌漑農業

地域の大部分が降水量 500mm 以下である「パ」国農業では、灌漑が導入されるまでは乾

地農業が主流であった。「パ」国農業において、本格的に灌漑が導入されたのは英領インド

期の 19 世紀以降である。現在の農業生産の中心であるパンジャブとシンドの広大なしかも

肥沃な沖積平野が公有地となったことから、英領インド政府は生産的な用水路の建設に財政

投入を増加させ、小麦、綿の輸出、英領インド軍の必要とする軍馬、らくだの供給、人口密

度の緩和等の目的をもって推進した。この灌漑農業は、地域の地下水位を上昇させ、湛水被

害や塩害を引き起こす障害を発生させ、高地の劣化の誘因伴っている。

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湛水害、塩害の現状については資料編に示す。

・リスク分散型有畜農業

「パ」国農業は、自作小農における有畜農業を特徴としている。有畜農業は耕種部門と畜

産部門が同一経営体の中で統合されている農業で、この経営体が機能するには安定した用水

体系を必要とする。「パ」国農業は二つの意味でリスク分散型である。その第一は、作付け

時期がカリーフ期(4/6 月-10/12 月)とラビー期(10/12 月―4/5 月)に分かれることである。

カリーフ期の主な作物は、米、綿、サトウキビ、メイズ、バージラ、ジョワールでラビー期

の主な作物は小麦、大麦、ひよこ豆、タバコ、菜種である。第二は耕種部門に畜産部門を統

合することにより、多くの便益が生まれる。例えば、動物性たんぱく質の摂取(ミルク、バ

ター、食用油等)、飼料作物と牛糞等による地力維持、女性労働を含む年間労働力配分の均

一化、作物収入の減少等の一時的ショックに対するリスクヘッジ、燃料(乾燥牛糞)と輸送

手段の確保等である。

・不平等な土地所有制度

「パ」国の土地所有状況は平等ではない。所有する農地の面積から農家を分類すると、零

細農(2 ha 以下)、小農(2-5 ha)、中小農(5-10 ha)、中農(10-20 ha)、大農(20 ha 以

上)となり、零細農が 27%、小農が 54%、中小農が 12%、中農が 5%、そして大農が 2%

強という構造になる。そして、小農以下の農家(全体の 81%)の所有する土地合計は、全

体の 39%であるのに対し、農家全体の 2%強を占める大農の土地所有は、全体の 24%にお

よんでいる。

表 3.4-3 「パ」国における農家・農地の規模別分類

農家 農地 耕作地 分類

農家数 % 農地 % 耕作地 % 0.5以下 0.68 13 0.19 1 0.18 1 0.5-1.0 0.69 14 0.51 3 0.47 3 1.0-2.0 1.04 20 1.45 8 1.33 9 2.0-3.0 0.84 17 1.97 10 1.81 12 3.0-5.0 0.86 17 3.31 17 2.97 19 5.0-10.0 0.62 12 4.13 22 3.55 23 10.0-20.0 0.24 5 3.03 16 2.42 15 20.0-60.0 0.09 2 2.61 14 1.84 12 60.0以上 0.02 0.5以下 1.94 10 1.04 7

出典:GOP Economic Survey(1998/99)

・低い土地生産性

「パ」国の土地生産性は世界的水準から見ても低い。米の生産性の水準は、「緑の革命」

を経た後でも日本の明治期に相当する低さである。表 3.4-4 で示されているように、農家レ

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ベルの平均生産性は、農業試験場レベルの 30%程度に留まっている。このことは「パ」国

農業にはまだ大きい潜在力があるということを示すものである。この点で重要なことは、こ

の生産性ギャップを説明する原因が、この国における農業技術水準の低さにあるのではなく、

利用可能な技術が農家にまで届かないことにある。技術が広く底辺まで「普及」している現

象を技術の「社会化」と表現する、「パ」国農業には、技術の社会化が見られないといえる。

表 3.4-4 主要作物の生産性ギャップ(kg/ha,%)

作物 試験場での生産性 (1)

全国平均収量 (2)

ギャップ (2)/(1) 100

小麦 6,400 2,200 34.4 コメ 9,500 2,000 21.1 綿 1,400 500 35.7 メイズ 6,944 1,500 21.6 サトウキビ 100,000 46,000 46 ひまわり 2,500 1,000 40 ポテト 3,128 1,000 31.2 オレンジ 30,000 9,200 30.7 マンゴ 25,000 9,300 37.2 りんご 32,000 10,400 32.5 ミルク 3,500 1,500 42.9

出典:Afzal,M.,Capacity Building for Sustainable Agricultural Development, COMSTAT(2003)

・複雑な農村構造と慣習経済

現在「パ」国の穀倉地帯の中心はパンジャブであるが、その中でも中核をなすものは、英

領インド期の大灌漑計画によって作られた灌漑入植地(Canal Colony)である。この入植地

には、パンジャブの各地から生産農民が選別されて入植し、村落を形成した。これらの入植

村は古村(purana village)がもつ諸特徴を象徴的にコピーして作られた。村落の中心部分に

は農家層の居住地があり、村落の周辺部分には非農家層の居住地に当てられた。両者の比率

は、ほぼ 50:50 である。つまり「パ」国の農村は日本のように農家のみによって構成され

ているわけではない。この農家層と非農家層は身分階層的に分断されており、非農家層は鍛

冶屋、大工等の伝統的職人層と専門職を持たない不熟練労働者層に分かれる。農家層と非農

家層との間には伝統的には慣習的協業関係が存在し、農家は非農家が提供する財とサービス

に対して一対の牛を単位として、現物でその対価を支払っていた。このようなパトロン・ク

ライアントの関係は市場経済の発達によって、急速に衰えてはいるが、両者の相対的関係を

根本的に変えるまでに至っていない。一見単純に見える「パ」国の農村はこのように実に複

雑な関係が存在しており、土地の所有の有無のみで捉えきれない複雑な構造を有していると

いえる。

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4)都市部の未整備地区

① ① 未整備地区の概要

「パ」国の都市においては「カチアバディス」と呼ばれる劣悪な住環境を含む未整備地区

が存在する。「カチアバディス」とはウルドゥー語で「どろ作りの家”mud house”」を意味し、

大都市周辺の公有地を不法占拠して建てられた伝統的などろつくりの都市スラムを指す。住

宅に必要なインフラ(上下水道、電気、ガス、排水路等)や病院、学校施設も持たないため、

住環境としては非常に劣悪であるといえる。

① ② 都市環境の現状

1998 年に実施されたセンサスによると「パ」国の都市人口は約 4 千 250 万人で、全人口

の 32.5%を占めており、毎年 3.5%の増加率を示している。「パ」国全体の人口は約 1 億 3

千万で年増加率は 2.5%である。独立後の人口増加率は 2.4%(1965-61)、3.1%(1972-81)

2.6%(1981-98)と推移しており、2015 年までには「パ」国の都市人口は農村部の人口を

上回るものと推定されている。過去 30 年以上にわたる都市への人口流入によって、都市人

口は 19-20%の割合で増え続けており、1972-81 年および 1981-98 年においても同様の傾向

を示している。

州レベルの都市の人口は州の特色によって違っている。シンド州は約 3 千万人の人口のう

ち 49%は都市に住み、パンジャブ州は 7 千 200 万人のうち 31%、北西辺境州は 1 千 750 万

人のうち 17%が都市に住んでいる。そして、バロチスタンは 650 万人のうち 23%が都市に

住む。

代表的な都市におけるインフラ整備の状況は以下の通りである。

表 3.4-5 インフラ整備の状況

設備 1998 年 1980 年 飲料水(屋内の配管) 58% 38% 飲料水(屋外の配管) 5% 20% 屋内でのポンプ 29% 27% 電気(電灯) 93% 71% 燃料(ガス) 56% 22% 便所 88%(40%は共同) ― 風呂 84%(38%は共同) ― 台所 70%(29%は共同) ―

出典:Housing Census (1998)

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4. 環境政策および関連機関

4.1 環境行政

「パ」国における環境行政は、1994 年に環境・森林・野生生物省から改組・設置された環境・

地方政府・地域開発省(Ministry of Environment, Local Government & Rural Development: MELGRD)

を中心に進められている。

2001 年 8 月、地方政府の独立行政を強調した新地方政府システムを採用したことに付随し、省

名が示すように州地方政府との調整を司るのも本省の役目となっている。国家の環境保全戦略の

実施に関しても、本省内の国家保全ユニットは国家的環境問題を扱う一方で、施策の実施機関で

ある各州政府内に設けられた同名の部署(Department of ELGRD)との調整責任を担っている。ま

た、国家レベルでの環境政策決定にあたっては、首相を議長とする国家環境保護審議会(Pakistan

Environmental Protection Council: PEPC)が最高レベルでの調整機能を有している。PEPC は、環境

担当省大臣(副議長)のほか、各州首相、各州環境担当大臣および産業界、医療、法律、NGO、

科学技術等の各分野からなる委員 35 名で構成される。

「パ」国における環境政策は、実質的に 1983 年の環境保護法令(Pakistan Environmental Protection

Ordinance: PEPO-83)の布告に始まるが、その後も法令の実効性がなく、PEPO-83 が 1997 年の新

国家環境保護法(Pakistan Environmental Protection Act: PEPA-97)に取って代わるまで、連邦政府、

州政府とも実施組織が脆弱であり、法令を具体化する規則も制定されなかった。

その間、1992 年、リオデジャネイロの地球サミットを契機に、政府関係者、学識経験者、NGO

および市民団体の参加を得て、14 分野からなる国家保全戦略(National Conservation Strategy: NCS)

が策定され、国会承認を得た(内容は 1995 年度 OECC 報告書にまとめられている)。

NCS は、1999 年に専門家からなる独立組織により見直され、2000 年 6 月国家保全戦略中期見

直し(Mid Term Review: NCS-MTR)が発表された。MTR では、90 年代が初期の組織作りや国民

への環境意識喚起と戦略作成等のペーパーワークの時代であったのに対して、実施能力の向上と

新 10 ヶ年持続的開発戦略に資する新たな国家戦略 NCS-2 の策定が強調されている。

MTR を受けて作成した環境アクションプラン(National Environmental Action Plan: NEAP)が、

2001 年 2 月に PEPC の承認を得て以来、これを実現するためのサブプログラムを実施している。

また、一方ではプロジェクトの形成を円滑化し、国際支援を受けやすくする「サポートプログラ

ム NEAP-SP」の枠組みを設けている。

環境政策は上記の行政機構により推進されているが、以下、MTR 以降の各施策についてまとめ

る。

(1) NCS 中期見直し(NCS-MTR)

2000 年 5 月 NCS-MTR は、NCS について貧困削減や経済発展など社会経済的問題に寄与しな

かったこと、実行形態を提示できなかったこと、環境対策の必要性の認識にもかかわらず適切

な行動に移されなかったこと、状況の変化に対応して環境保全から持続的開発への移行がなさ

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れなかったことなどの反省のもと、NCS Phase-II として中期見直し(MTR)が行われ、以下

の提言を行った。

1) NCS は、持続可能な開発戦略として運用されるべきこと

2) 組織の運営能力を強化すること

3) ボトムアップ・デマンド・アプローチによること

4) 投入する資源は、様々な方法で国内から調達し、いわゆるグリーンビジネスの機会や地球

環境の利益を国内で獲得するなど革新的な資金源も確保すること

(2) 国家環境アクションプラン(NEAP)

NEAP 策定の目的は、公衆衛生を監視し、持続可能な生活環境を増進し、結果として「パ」

国国民の生活向上を図るような環境状態に近づけるために行動とプログラムを開始すること

である。また、行政機関と市民団体の効果的な協力により、急激に悪化している大気、水、土

地に対して目に見える改善がもたらされるような対策を講じることに焦点を当てている。

NEAP の戦略的特徴は、近い将来に高い効果が期待できる重点課題に焦点を絞り、人的資源

と財源を投入することにある。このため、従来のプロジェクトアプローチではなく、事前に設

定された目標に向かって柔軟に課題を絞り、優先順位を維持し、かつジェンダー、貧困削減、

キャパシティビルディングなど横断的な要求にも応えるプログラムアプローチをとることを

提言している。

また、目標に近づける手段は以下ように計画されている。

1) 貧困に対しては、サービスの提供より環境プロジェクトを通じた貧困緩和に焦点を移す

2) 政策や強化努力は、貧困層における脆弱性や健康リスクの軽減を目指す方向付けを行う

3) 森林破壊、砂漠化、放牧地の荒廃に対するプログラムは、草の根レベルでの既存社会・組

織の強化と融和させる

4) 現存の貧困削減プログラムに対しては、環境面で貧困層に予期せぬ長期的な影響が発生し

ないよう支援する

5) 国内の利用可能な人的資源、技術的資源に対する信頼を最大化する

6) 実施にあたっては、既存の州行政機関やその他の地方行政機関、地方開発プログラムおよ

び草の根レベルの NGO 活動を通して行う

7) 関係者や影響を受ける人の協議には適切な規則と枠組みによる支援がなされるように強

化する

8) 達成度を評価するため、明確な効果、計測可能な指標、モニタリングと情報システムを確

立する

9) モニタリングと評価に責任を持つ組織を明確にし、透明性とアカウンタビリティを維持す

るため、支出・投入・効果に関する情報開示の手続を開発する

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一方、手段・行動を実現するために必要なサブプログラムは、以下のとおりであり、特に 1)~

4)が優先課題とされている。

・NEAP サブプログラム

1) クリーンエアプログラム:i) 車輌による汚染、ii) 工場からの汚染物質の排出、iii) 地方

における屋内空気汚染等のコントロールを重点的に取り扱う。

2) クリーンウォータープログラム:i) 家庭や都市からの排水、ii) 工場排水、iii) 農薬・肥

料等から水質を保護することを目的とする。

3) 固形廃棄物管理プログラム:コンポスト場、公共焼却場、公共サービスに対する税金・料

金の徴収を通して、3R(Reduce 減量, Reuse 再利用, Recycle リサイクル)の原則を受け入れ

るように市民を導く。

4) 生態系管理プログラム:まず管理の試行可能な少数の生態系を重点的に取り扱う。森林、

放牧地、砂漠、湿地、海岸などの生態系で、特に政府所管の保護地域や土地使用の圧力が

国全体に広く認められるような代表的な地域を優先する。

5) その他、ⅰ) 淡水資源の管理、ii) 海洋汚染、iii) 毒性・有害物質、iv) エネルギー保全、

v) 国際条約等の承諾

(3) NEAP サポートプログラム(NEAP-SP)

NEAP-SP は、環境の持続可能性と貧困削減を目的として、環境損失と貧困の増加のない経済

成長を目指して NEAP の実施と貧困削減策における環境面を支援するものである。NEAP-SP

は、技術、組織、規則、社会・経済など広い範囲に渡り、以下のような 6 グループのプロジェ

クトに対して介入することを提案し、併せて関連する政府組織が国際会議に参加し、天然資源

の保護や環境管理に関する国際条約の実行ができるように組織のキャパシティを強化するこ

ととしている。

グループ 担当分野 中心となる機関

SPD 1: 政策調整、環境管理 環境省

SPD 2: 環境汚染コントロール 環境保護庁 PEPA-州 EPA

SPD 3: 生態系管理、天然資源保全 環境省森林局

SPD 4: エネルギー保全・再生エネルギー 環境省 ENERCON

SPD 5: 乾燥地マネージメント、水保全 州計画局(5A: Sindh, 5B: Balochistan)

SPD 6: 草の根イニシアチブ・小規模無償 環境省

2002 年 5 月、5 ヶ年のアンブレラプログラム(他の機関と協調して一連の支援を提供するプ

ログラム)として UNDP が 42.8 百万ドルの NEAP-SP 支援を決定したことから、各機関からプ

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ロジェクトのプロポーザルが提出され、具体的な活動が促進されるようになった。しかし、現

段階では、2 回の実施委員会で承認された 25 のプロジェクト、計 10 億ルピーに対して、国際

機関の支援が決定されたプロジェクトは、小規模無償や環境教育を中心に 8 件、計 33 百万ル

ピーのみである。

4.2 環境関連法規および制度

(1) 環境保護法(PEPA-97)

1997 年制定の環境保護法は、環境に関する広範囲の汚染防止・管理のための包括的法律とし

て制定され、環境裁判所や環境執政官および汚染者責任による課徴金制度、市民が受けた環境

損害に対する裁判制度などを規定した。また、具体的な環境施策の実施は、州持続的開発基金

(Provincial Sustainable Development Fund, PSDF)の設立などと併せて地方分権化により各州政

府に委ねられることとなった。

(2) 環境基準(National Environmental Quality Standard)

「パ」国の環境基準(National Environmental Quality Standard:NEQS,1993)は、PEPO-83 の

規定を見直し、制定された。さらに排ガス・排水規制値が見直しされ、2001 年に改訂版が公布

されている。NEQS は、①都市下水・工場の排水基準、②工場排ガス基準・一般大気環境基準

(NOx のみ)、③自動車排ガス・騒音基準が定められている。

各環境基準値については、「大気質、水質、その他公害」の章で示した。

(3) 環境影響評価 (IEE/EIA)

「パ」国における環境影響評価(初期環境影響評価 IEE/環境影響評価 EIA)は、「パ」国環

境保護法に基づいた環境影響評価法(Initial Environmental Examination And Environmental Impact

Assessment Regulations,2000)及び環境アセスメント手順書(Policy and procedures for the filing,

review and approval of Environmental assessment, 2000)に従って実施されることとなっている。

なお、IEE/EIA の実施ガイドラインには下記のとおりである。

① 環境影響報告書の作成と審査のためのガイドライン

② 公聴会開催のためのガイドライン

③ 環境影響を受けやすい地域及び環境汚染が危機的な地域に対するガイドライン

④ 国家環境基準(NEQS)

(4) 州持続的開発基金 (PSDF)

PEPA-97 で規定されたこの基金は、各州に設けられ、連邦政府、州政府からの供与・借款や

国際援助機関からの特定の義務を伴わない資金提供および民間からの寄付によって運営され

る。PSDF は、環境関連のプロジェクトを支援する目的及び委員会の意見に従って PEPA の目

的にかなう環境目標の達成のために使用される。

因みに、NWFPでは2003年度3百万ルピーをSDF の維持に予算を割き、スイス開発庁(SDC)

は 5 百万ルピーの無償資金提供をプリッジしていると言われている。

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4.3 環境関連機関

MELGRD、各州 EPA 以外の環境関連機関として以下のような組織があげられる。

表 4.3-1 環境関連機関

機関名 環境分野における関連 食料・農業省 灌漑用水利用の効率化による湛水害、塩害の軽減

健康と環境の行動計画、水因性疾病の疫学調査 保健省 医療系廃棄物管理・焼却炉設置ガイドライン共同策定

科学・技術省 全国水質調査(飲料水)

連邦政府

港湾監督署 海洋汚染の監督・対策、マングローブ林保護 州政府

自治・地方開発局 森林・野生生物局

環境保全戦略、持続的開発基金、 環境プロジェクトの計画 自然環境保全プロジェクトの実施

地方政府

県 CD&MD 給水、排水、廃棄物管理など市民サービスの実務 UNDP NEAP–SP、EDCG のコーディネート UNIDO クリーンプロダクトの支援 世界銀行 自然環境関連プロジェクトの支援 アジア開発銀行 森林管理などに融資 EU 自然環境回復プロジェクトなど SDC / NORAD / SIDA EDCG を構成し、州保全戦略の策定支援など

国際機関

GTZ 都市環境モデルプロジェクト(ペシャワール) GEF 自然環境保全・天然資源の持続的利用計画に支援 IUCN NCS など自然環境関連の戦略策定に寄与

国際環境保護団体

WWF 自然環境管理の技術支援 環境保護財団(PEPF) 「パ」国政府拠出資金で環境に関する教育、衆知、顕彰 NGO

民間 等 皮なめし業組合(PTA) 民間産業界における共同排水処理施設の整備

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5. 環境問題の現況

5.1 自然環境

10 ヶ年国家開発計画における環境分野(自然環境)の達成目標および課題と対応する計画は以

下のとおりである。

表 5.1-1 10 ヶ年国家計画における環境目標(自然環境)

現況 目標 目標 2001 年 2004 年 2010 年 2011 年

森林被覆(政府管理、民間)

4.8% (対国土面積比)

5.0% 5.5% 5.7%

管理下の保護地域(214の 保 護 地 域 は 国 土 の10.4%)

4.0% (対国土面積比)

4.0% 8.0% 8.0%

砂漠化を被る面積

43.90 百万 ha 43.9 百万 ha 40.0 百万 ha 40.0 百万 ha

干拓/埋立面積 (国家排水計画)

1.00 百万 ha 4.45 百万 ha 10.0 百万 ha 12.0 百万 ha

表 5.1-2 環境課題(自然環境)と計画 課題 戦略 計画

<生態系管理> 劣化生態系 森林、野生生物、淡水、湿

地 砂漠、沿岸海域、その他

<森林破壊> 破壊の進行は 7000-9000ha/年

↓ 土壌浸食、湛水/塩害,草地消失 ↓ 動植物の生息域減少

生態系の修復、回復、向上

脆弱な生態系保護のための信託基金設立 劣化土地での造林 混農林業、地域社会参加の林業の奨励 森林と自然資源に対する地域管理の奨励 生物多様性の保全 多彩な生物資源の持続的利用

高地生態系の管理 海域、沿岸域生態系の管理 灌漑地域の生態系管理 湿地の管理 保護地域の管理

環境政策 右記環境関連政策の確実な実施 国家持続性開発計画(NSDP) 国家土地利用計画(NLUP) 州保全戦略 森林セクターマスタープラン 生物多様性行動計画 気候変動国家責任戦略 砂漠化防止行動計画

出典:Ten Year Perspective Development Plan 2001-2011 and Three Year Development Programme 2001-2004

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(1) 森林破壊・砂漠化・土地の劣化

1) 森林

「パ」国の森林面積(雑木林、農地の林を含む)は、北方地域、AJK を含めて 4.28 百万 ha

であり、国土(88 百万 ha)の 4.9%に過ぎない。これは他国の森林率(日本約 67%、中国約

14%)に比してかなり少ない。その主な原因は 68 百万 ha(上記国土の 77%以上)が年平均

降水量 300mm 以下の乾燥・半乾燥地域によって占められ、降水量の多い地域は森林限界以上

の積雪・氷河の覆う山岳地帯が占めているなど、森林の形成されにくい自然環境によるとこ

ろが大きい。この結果、森林分布は北方地域、AJK など北部山岳地帯の南斜面およびバロチ

スタン州を主とする西部高原地帯の針葉樹林(45%)、インダス平原下流域を中心とする有棘

低雑木林(30%)、およびインダス川沿いの河畔林(8%)と河口のマングローブ林(7%)に限られる。

州別の森林面積比では、山岳地帯南麓の AJK では 32%と特に高く、次いで NWFP、北方地

域でそれぞれ 13~14%である。また、1 人当たりの森林面積は、北方地域で 1.06ha、AJK で

0.14ha であるが、その他は 0.02~0.07ha と極端に少ない。

森林行政の施行は、州政府森林局にあり、MELGRD は、国家政策の策定・指揮および州に

跨る問題の調整を行うとともに、付属の森林研究所、動物学調査部、野生生物保護委員会等

も含めて、調査、研究、教育および国際協定に係る責任を担っている。

「パ」国政府は、森林を取り巻く社会・経済と森林減少の原因特定の検討を踏まえて、1992

年「土壌保全と流域管理」「森林管理」「木材生産と産業開発」「生態系と生物多様性保護」

「州-連邦政府の組織強化」の 5 分野について森林セクターマスタープラン(FSMP)を策定

した。FSMP は、森林面積率 5%(92 年)を 10%(218 年)に増やすため、25 年間に 480 億

ルピー(92 年レートで約 1,900 百万米ドル)を投資することを明記した。これに応えて世銀

は 25 百万ドルをパンジャブ州投資プログラムに、また ADB は 42 百万ドルを NWFP 投資プ

ログラムに、また 1.5 百万ドルを FSMP の更新・モニタリングに融資している。近年、森林

政策の策定にあたって政治的な干渉や社会経済的な条件からの独立の方針が示されているこ

とから、過去必ずしも順調な FSMP の実施がなされていなかったことが伺える。また、最近

の政策は資源の管理責任を明確にし、規制や監視の厳格化する方向性が強調されている。

具体的には、国際的な自然保護機関や世界銀行の協力を得て、民間、NGO を巻き込んだ植

林キャンペーンを実施しており、NWFPや AJK を中心に年間 142~172百万本の実績を示し、

2000 年には 28.8 千 ha を植林したとしている。一方、森林の減少は、無秩序な伐採、農業用

地の開墾、土地の劣化や河川水量の減少などが原因とされ、上記の植林や伐採後の更新を行

っているが、なお年間 7-9 千 ha の減少が認められている。従って、実際の森林破壊は年間 40

千 ha(森林面積の 0.9%)に近い速度で進んでいると推定され、更なる造植林とともに土地の

劣化対策や住民参加による森林の管理や持続可能な森林管理の必要性が叫ばれている。

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表 5.1-3 「パ」国の森林面積とその動向

項目 面積(千 ha) 比率 A 国土面積(北方地域、AJK 含む) 87,980 B 全森林面積 4,280 4.9 %/ A C 生産林面積 1,120 26.2% /B D 年間植林面積(2000 年) 28.8 0.7% / B, 2.6% / C E 年間更新面積(2000 年 23.8 0.6% / B, 2.1% / C F 年間森林減少面積 7~9 0.2%± / B

出典:Annual Progress Report 2001-2002, Forest Institute of Pakistan など

表 5.1-4 森林セクターの主な国際機関支援プロジェクト タイトル 事業費 期間 実施機関 資金

NWFP、パンジャブ州における環境復元 31.80 百万 Euro 7 年間 (1996-2003)

州森林局 EU

熱帯林向上に向けた小規模無償 15.132 百万 Euro 5 年間 UNDP EU

パンジャブ州森林セクター開発事業 33.75 百万 USD 6.5 年間 州森林局 WB

バロチスタン天然資源管理プロジェクト 17.8 百万USD 6 年間 州森林局 WB

NWFP 森林セクタープロジェクト 10.64 百万 Euro 8 年間 (1996-2004)

RNE (オランダ)

シンド州、バロチスタン州の沿岸地域におけるマングローブ林保護

1.47 百万 Euro 5 年間 (1996-2001)

RNE (オランダ)

NWFP 森林プロジェクト (#1403-PAK&TA#256.3-PAK)

(23.297+14.145) 百万 USD

7 年間 (1996-2003)

森林・漁業・野生生物局

ADB

2) 砂漠化/土地の劣化

砂漠化(Desertification)とは、「砂漠化対処条約」の定義によれば、「乾燥地域、半乾燥地域及

び乾燥半湿潤地域において気候変動や人的活動など種々の要因により生じる土地の劣化」と

される。「パ」国における砂漠化対策もこの国連条約を実現することを見通し、単に砂で覆わ

れた土地の拡大ではなく、人間活動や気候変動によるあらゆる土地の劣化プロセスをくい止

め、コントロールすることを使命としている。

砂漠化の現象としては、土壌浸食(水食・風食)、湛水害、塩害、洪水による表土の被覆な

ど乾燥地域で顕著な全ての土地の劣化が含まれる。この土地の劣化を広い意味で砂漠化と定

義するのは、乾燥地の生態系が気候変動および過剰な収穫や不適切な土地利用に対して極め

て脆弱であることによる。

「パ」国は、パンジャブ州、シンド州、バロチスタン州を中心に年間降水量 300mm 未満の

乾燥から半乾燥の地域が 68 百万 ha あり、国土の約 8 割を占めるため、それだけ土地の劣化

が生じやすい条件にある。

一方、人為的要因としては、開墾や過剰な森林伐採による対浸食力の低下、過放牧による

植生の減少や踏み荒らし、古くから発達した灌漑網の老朽化による非効率な水利用などがあ

げられる。

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砂漠化対策は、主に農林業分野での持続可能な開発として位置付けられ、特に住民参加に

よる自然資源の管理や環境意識の向上が重要視されている。また、土壌流出の抑制は、ダム

の流域管理の上で重要であり、堆砂速度を減少させて発電効率の低下を抑制する経済的効果、

エネルギー削減効果も期待される。

(2) 生物多様性・生態系

「パ」国は 1994 年に生物多様性条約(CBD)を批准したが、2000 年に作成した生物多様性ア

クションプラン(Biodiversity Action Plan for Pakistan: BAP)がこれを実行するための初めての試み

である。BAP は、世銀、GEF、IUCN との合意により準備され、WWF との協力により、CBD の

13 コンポーネントに沿った 25 項目の活動を計画している。

ここでもまず実施組織、特に中心となる MELGRD や実務機関となる州政府組織の改編と強化

が必要とされ、政府組織、地域社会および NGO の協力増進が必要とされている。

また、現地における活動としては、200 以上あって管理不充分な保護区域のシステムの見直し

と管理の強化および周辺地域での持続可能な生物資源の利用による保全が重要視されている。

国際機関の協力は、UNDP や EU の資金が GEF を通して投入され、NWFP や北方地域の森林局

を実施機関として WWF の協力のもとに進められている。

生態系保全および生物多様性保護に関して、実施中の主なプロジェクトは以下のとおりであり、

この他 NEAP – SPでは UNDP がイスラマバード植物園の建設に 4 百万ルピーの資金提供を決定し

ている。

表 5.1-5 生物多様性保護に関連する主な国際支援プロジェクト プロジェクト名 事業費 対象 支援機関 備考

山岳地域保全 10.35 百万USD NWFP, NAs 16 千 km2

GEF,UNDP, IUCN, EU

生息域、種の保全、地域開発、教育、信託基金、など多分野へそれぞれのドナーが協力

保護地域管理 10.73 百万USD 3 国立公園 Sindh, Balochistan, NWFP

GEF 国立公園管理。生物多様性の保護・管理、天然資源管理を地域社会参加で計画。

Palas 保全・開発 5.6 百万 USD NWFP EU, WWF (UK:過去)

ヒマラヤ西部の危機的生態系。特に多様な鳥類の保護。

湿地の保護・管理 (313,800 USD) Balochistan, NWFP など。危機に瀕した生態系

GEF, WWF 多様なプロジェクトの提案書が政府、NGO で作成中。地域社会による管理を目指す。事業費は、未定であり、 ( )内はMELGRD への準備費

出典:Pakistan, Country Profile, Johannesburg Summit, 2002

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5.2 都市環境

政府の 10 ヶ年国家開発計画における環境分野(都市環境)の達成目標および課題と対応する

計画は以下のとおりである。

表 5.2-1 10 ヶ年国家計画における環境目標(都市環境)

現況 目標 目標 2001 年 2004 年 2010 年 2011 年

大気汚染:疾病治療のコスト

25 百万ルピー

25 百万ルピー 10 百万ルピー 8 百万ルピー

適切な衛生施設の整備 都市 59% 村落 26%

65% 32%

76% 42%

80% 45%

都市固形廃棄物管理 総発生ごみ量の 25%

32% 42% 45%

表 5.2-2 環境課題(都市環境)と計画 課題 戦略 計画

<大気汚染> SPM はWHO 基準の 6 倍

原因は ・自動車排気ガス ・産業排出 ・室内空気の汚染 目的は ・清浄な生活・労働環境の提供

汚染課徴金の強化システムの制度化 燃料間の代替とクリーン燃料の導入 産業排出ガスに対する EIA の厳格な実施 室内空気の調整

ガソリンの無鉛化 ディーゼルと暖炉用オイルからの脱硫黄 CNG の普及(公共交通機関を含む) 車輌の定期検査と車検制度の強化 SMART プログラムの徹底 効率的薪ストーブの普及 バイオガス、ボンベの普及

<水質汚濁> 水系の汚濁は、水因性疾病および水生態系と生物多様性の損壊を引き起こす。 下水も飲料水汚染の原因。 表流水と地下水の汚染の原因は、

家庭排水、市内排水、産業排水 農薬と肥料 未処理飲料水を飲むために発生する病気

汚染課徴金システムの制度か 既存下水施設と処理施設の改善 排水・下水処理施設の増設 下水施設のあるところでは、未処理家庭排水が水路へ流入することを規制する 淡水資源の管理 海洋汚染の規制 有機農業により殺虫剤や化学肥料の使用を改善する

健康に影響ある水質に対する注意喚起; 水質試験施設の拡充;未処理家庭排水の開水路流入規制; 下水と処理施設の改善;市民サービス管理のため料金徴収に向けた地方政府の強化; 工場における自己モニタリング・報告システム(SMART)の完全実施 EIA規則の実施強化と汚染課徴金制度の樹立 産業活動に対する環境ゾーニング 知識普及と農民教育による農薬・肥料の使用方法の改善

<固形廃棄物管理> 都市・産業廃棄物発生量の 25%しか処理能力がない。 都市廃棄物の回収と処分が不充分で不適切。 適当な産業・有害廃棄物処分がなされていない。 地方政府のモニタリング、回収、処分制度の強化。

回収の民営化による再利用とリサイクルの普及 回収システムの合理化 都市ゴミのコンポスト化 適切な最終処分地の設立 有害・危険・医療廃棄物の安全な処分

地域社会と地域資源を動員したメカニズムの刷新を開発し、実施する。 大都市におけるコンポストと焼却施設のサイト設立を必要に応じて 分別、リサイクル、回収の合理化 回収・処分費用の厳格な徴収 産業廃棄物へ NEQS の設定 産業廃棄物の運搬・処分の法制化

出典:Ten Year Perspective Development Plan 2001-2011 and Three Year Development Programme 2001-2004

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(1) 水質汚濁

1) 水質汚濁の状況

「パ」国における水質汚濁の状況を、下表に示す 2000 年以降の、イスラマバード・ラワ

ルピンディ・ラホールにおける河川水質調査、全国主要都市における飲料水源水質調査、

カラチにおける工業廃水水質調査から把握する。

表 5.2-3 水質調査の状況

文献名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間 1 3 cities Investigation of Air & Water Quality

(Lahore, Rawalpindi, Islamabad) June 2001/JICA-Pak EPA 2000 年 4 月 4

~29 日 2 Water Quality Status in Pakistan (Report

2001-2002) Pakistan Council Of Research in Water Resources (Ministry of Science & Technology), October 2002

2000 年

3 開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国

社団法人 海外環境協力センター 2001 年 5 月

2001 年1~2月

4 鉱工業プロジェクト形成基礎調査報告書(パキスタン カラチ産業廃水対策計画)

国際協力事業団 鉱工業開発調査部2003 年 5 月

2003 年 3 月

① ① 河川水質

日本の環境基準(河川 C 類型)と比較すると、溶存酸素量、全窒素、BOD 濃度、大腸菌

群数が大幅に超過している。

ラホール市では 20 箇所のうち 14 箇所、イスラマバード・ラワルピンディでは 20 箇所の

うち 3 箇所が BOD100mg/l を超過する値が検出されている。

流入するリアリ川・マリル川においても、BOD 212~848mg/l、TSS 71~636mg/l と排出基

準を超過する高い値が検出されている。

① ② 水の環境負荷量

ラホール市では、家庭廃水と産業廃水は、簡易処理の後、6 箇所の池で貯水後、ラビ川に

放流している。それらの排水量は 963,772 m3/day であり、BOD の負荷量は、200-250 t/day

と推計されている。

カラチ市内の排水量は、未処理下水 1,100,000 m3/day、処理下水 100,000 m3/day、産業排

水 80,000 m3/day の計 1,280,000 m3/day であり、BOD 汚濁負荷量は、未処理水から 220t/day、

処理水から 6t/day、産業廃水から 56t/day の合計 282t/day と推計されている。

① ③ 産業排水

カラチでは工場廃水のほとんどが NEQS を超過していた。特に皮革産業の廃水からは

NEQS の約 110 倍(110mg/l)のクロムが検出され、バッテリー産業からは NEQS の約 82 倍

(41.1mg/l)の鉛が検出された。

業種別に見ると BOD 濃度 85mg/l(鉄鋼)~1,590mg/l(化学工業)であり、NEQS に示さ

れた排水基準 80mg/l(内陸水域放流)を大幅に超える高い値となっている。

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① ④ 地下水/飲料水の汚染

21 都市の合計 287 箇所で飲料水源となる井戸、河川等の飲料水質調査が実施され、70%

を越える地点で大腸菌群数が WHO 飲料水水質基準を超過しており、生活排水が未処理で河

川等に流入し、それらが飲料水源を汚染しているものと考えられている。また、ヒ素、フ

ッ素、鉄も WHO 基準を超えている箇所が多い。

カラチの工業地帯における 7 箇所の地下水質調査結果では、2 地点で産業排水の排出基準

値をも超える値が検出された。また、重金属では鉛、カドミウム、クロム、水銀、ヒ素、

シアンについて、そのほとんどが WHO の飲料水基準を超過する値が検出されている。

2) 健康被害等の状況

飲料水における細菌性汚染は、下痢、赤痢、腸チフス、コレラ、肝炎、胃病、消化不良

等の病気を引き起こす可能性が高い。

飲料水調査結果の 70%を超えるサンプルから大腸菌が検出されている結果を反映し、下

痢、腸内感染、アメーバ赤痢、細菌性赤痢の患者数及び疾病率が高い。都市別にみるとム

ルタン、ペシャワールにおいて疾病率が高い。

また、死亡原因別死亡者数も 14 才以下では 6 割以上が水系疾病による死因となっている。

3) 水質汚濁の影響要因

水質汚濁の影響要因とその内容をとりまとめると次のとおりである。

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表 5.2-4 水質汚濁の影響要因

影響要因 発生源の特徴 工場の稼働 (工場排水)

・ 工場廃水は、ほとんどが未処理のまま排水されている。BOD に代表される有機汚濁及び重金属汚染は、ほとんどが工場由来と考えられ、特に皮革、化学産業から排水されるクロムは高濃度である。

・ ラホール市では、963,772 m3/day (家庭排水含む)の下水が 6 つの処理池を経由してラビ川に流入して、負荷量では 200-250t/day と推計されている。

・ カラチ市内では、工場水需要量 80,000m3day があり、工場廃水の BOD 濃度は、約 700mg/l、56t/day が負荷量として発生している。

・ 工場廃水は、河川水のほか、地下水への浸透により影響を与えている。地下水を飲用する結果、赤痢、コレラ、肝炎等の伝染病、下痢、消化器系の疾患を引き起こしていると見られている。

・ カラチの工場地帯周辺や沿岸の魚類には、高濃度の水銀やクロム、鉛、ヒ素、亜鉛等の重金属類が検出されており、生態系への影響が懸念されている。

家庭排水 ・ 家庭排水のほとんどは、未処理のまま排水されている。カラチ市内では工場廃水と比較して BOD 濃度は 1/3 以下と考えられるが、有機汚濁の主要な発生源となっている。

・ カラチ市内の都市廃水は、BOD 200mg/l であり、需要水量 120 万 m3/day、BOD 汚濁負荷は 226t/day と推計されている。

上水、下水道管渠の老朽化

・ 大都市における上水道の整備は、需要に見合っておらず、水道管からの違法な接続による盗水が行われている。また、家庭や工場等による違法な下水道への接続が行われている。このような結果、両者の漏洩水が多くなり、両者の混入という問題が起きている。

4) 法整備の状況

「パ」国には、都市及び産業廃水に係る国家環境基準(National Environmental Quality

Standards:NEQS 1993、Revised NEQS 2000)のみ設定されている。飲料水の基準は、WHO

飲料水ガイドラインを準用して用いている。

5) 水質保全対策の取り組み(「パ」国及び他ドナー)

① 固定発生源対策 -自己モニタリング・報告規則及び罰金制度-

国家環境保護局(Pak-EPA)は、企業に対して NEQS を遵守させるために、企業による自

己モニタリング及び報告 (NEQS Rules, 2001)、排出基準を超過している企業に対する産業公

害課徴金の支払い(Industrial Pollution Charge Rules, 2001)を義務づけている。

② 税金優遇制度

企業が環境投資を行う場合にインセンティブを与える制度として、税制優遇制度が Law of

Custom Duty に規定されている。

③国際機関の援助

水質汚濁に対する支援は、キャパシティビルディング(ADB, ノルウェーなど)とクリー

ナープロダクションの開発、普及(UNIDO、ADB、オランダなど)が主体である。

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また、オランダは、皮なめし業組合がカラチ市内に建設しているコランギ集合処理施設

に資金提供し、技術指導を行っている。

④ 日本国の援助

現在、専門家派遣により環境行政の一環として「パ」国の水質汚濁の現況を把握し、人

材育成を行っている段階である。

2003 年、カラチ市内の工場排水対策を主とするプロジェクト形成基礎調査が JICA により

実施された。また、主要都市の環境モニタリング体制整備計画への無償資金協力に向け、準

備のため予備調査を実施している。

表 5.2-5 日本国の援助(水質汚濁)

プロジェクト名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間 1 3 cities Investigation of Air & Water

Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad) June 2001/JICA-Pak EPA 2000 年 4 月 4 日

~29 日 2 長期専門家派遣 JICA 1999 年以降継続

派遣

6) モニタリング体制・機材等

公式の分析機関として認定されるためには、国家環境基準(環境分析試験所認定)規則

2001 に基づいた申請と認定が必要である。

「鉱工業プロジェクト形成基礎調査報告書」によれば、認定を受けた分析試験所は全国

に 35 箇所ある。公共分析機関としては、科学技術省の水資源研究所(Pakistan Council of

Research in Water Resources: PCRWR)に充実した機材が整備されており、Pak-EPA が分析不可

能な大腸菌群数等は本機関で実施されている。

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ハヤタバッド工業地帯の製紙工場の廃水

ハヤタバッド工業地帯の下流河川 川の色は黒色を呈しており、製紙工場、オイル工場の影響と言われている。

上水道の破損または違法接続による汚染の懸念 道路分離帯にある上水道には穴があき周囲のたまり水が混入している。

ペシャワールの水質汚濁の状況と改善への取り組み

■河川水質汚濁の状況

ペシャワール市の市内河川は、自然河川と灌漑用水に分け

られる。基本的には、自然河川には降雨時以外は自然由来

の流れはなく、都市下水、産業排水が流下しているのみで

ある。

ペシャワール市内の主要な産業地帯であるハヤタバッド工

業地域のある製紙工場からは、非木材の処理に使用された

黒液が未処理のまま排水されていた。簡易機材による水質

調査結果は、pH 9.0、COD 100mg/l 以上であり排水基準を

超過していた。

■EPA の対応

NWFP-EPA は、このような企業に対して、企業による自己

モニタリング及び報告(National Environmental Quality

Standards (Self-Monitoring And Reporting By Industries)

Rules, 2001)の提出と改善指導を行っているが、改善の対

応がとられないため、ラホールにある環境法廷に提訴を行

う予定である。

また、ハヤタバッド地区には、産業地帯のほか住居地域も

あり、これらの排水をまとめて下水処理を行う計画であっ

たが、下水処理場は老朽化・破損しており、沈殿池のみで

の処理を行い、河川に排水している。

■飲料水の状況

「パ」国全域において上水道の違法接続により、飲料水汚

染があるといわれている。ペシャワール市においても例に

漏れず、水道管に穴があけられ上水道が外部の水と接触し

ている場所が数多く見られた。

なお、ペシャワール市の新聞紙上においても、市郊外部

で飲料水汚染に起因する水系疾病(赤痢、コレラ等)が多く

発生しているという報道がなされている。 (Polluted Water spreading diseases in Peshawar suburbs /

The News 2003 年 11 月 2 日)

ハヤタバッド工業地帯下流の下水処理場 沈殿池として機能しているのみである。沈殿池からはメタンが発生し、辺り一帯は悪臭が漂っていた。ペシャワール市は、本施設の改修予定はなく、さらに下流に処理場を新設する計画である。本処理場は埋立て住宅団地を造成予定である。

注)黒液発生の過程 製紙の原材料は、木材と非木材に大分される。非木材(タケ、ヨシ、稲藁、ケナフ)を材料にする場合、繊維を結合させるために、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウムによる処理を行う。この処理の際に生成される溶液が黒色・アルカリ性を示す「黒液」と呼ばれる。 人体への有害性は強くはないが、有機汚濁の大きな原因である。

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(2) 大気汚染

1) 大気汚染の状況

「パ」国における大気汚染の状況は、次に示す資料から主要 3 都市の状況が把握できる。

表 5.2-6 大気質調査の状況 文献名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間

1 3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

June 2001/JICA-Pak EPA 2000 年 4 月 4日~29 日

大気質の調査は、2000 年 4 月に JICA 及び Pak-EPA がラホール、ラワルピンディ、イスラ

マバードの 3 都市における交通量の多い沿道及び工業地域を中心に実施された。

大気汚染調査は、ラホール(5 箇所)、ラワルピンディ(3 箇所)、イスラマバード(2 箇

所)の合計 10 箇所で実施されている。WHO の基準と比較すると、NO2 が 2 箇所、SPM が

10 箇所すべてで基準を超過している。

また、重金属類では自動車排ガス由来と考えられる鉛が、基準値を大幅に超過した値で検

出されている。

このほか、CO、SO2、NO2(NOx と NO の差)の値をみると、日本の大気汚染の状況と比

較して 4~8 倍程度の濃度が計測されている。さらに、冬季にはラホール市内では、家庭で

の暖房のための燃料使用と工場における低質な燃料使用により Winter Smog が発生し、呼吸

性疾患や心血管系疾患の原因にもなっているといわれている。 2) 健康被害等の状況

大気汚染との関連性は明確に示されていないが、都市部では自動車排ガス及び工場排ガ

スに起因するとみられる呼吸性疾患が増加している。

患者数の最も多い病気は、白内障、肺炎、次いで気管支炎・喘息、咽頭扁桃腺の慢性病

等となっている。疾病率の高いものとしては、白内障、肺炎があげられる。都市別でみる

と、Abottabad、ペシャワールにおいて疾患率が高い。

また、イスラマバードの工業地域近傍では、製鉄工場、肥料工場から粒子状物質、硫化

水素、有害物質が排出され、近隣住民の健康に重大な被害を与えているといわれている。

また、ラホールにおいても 3,000 工場のうち 1,300 工場から有害物質が排出されていると

いわれている。

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3) 大気汚染の影響要因

大気汚染の影響要因とその内容は次の通りである。

表 5.2-7 大気汚染の影響要因

影響要因 発生源の特徴 自動車の走行 (移動発生源)

・ ラホールにおける大気質濃度では、CO:92%、CNHM(炭化水素):89%、NOx:63%、SO2:50%、PM:17%が自動車排ガスに起因すると見られている。

・ 自動車排ガスによる大気汚染が進んでいる理由としては、自動車保有台数の著しい増加(パンジャブ州においては、全車両増加率 11.54%、乗用車 9.52%、バイク 13.62%、軽貨物車 9.83%、大型貨物車 6.53%、バス 6.1%:1991-1997年)していること。また、高齢車が多く有鉛燃料が使用されていること。ディーゼル車・2 ストローク車両(バイク、リキシャ等)の比率が高く、排出される有害物質が多いことが考えられる。

工場の稼働 (固定発生源)

・ 工場からの排ガスは、浄化施設を持たず排出されていると考えられる。イスラマバードでは、製鉄所の多量の粒子状物質の排出や肥料工場の硫化水素の排出による住民への健康被害が報告されている。

・ 1983 年の Institute of Public Health Engineering and Research の研究結果によれば、ラホールでは粒子状物質の 68%が工場に起因すると推定された。

・ Winter Smog の発生要因は、有害物質の発生が少ない燃料(天然ガス)が家庭での使用に優先的に販売され工場で使用する天然ガスが減少し、工場側が低質な燃料(炉油、ディーゼル、石炭)を多量に使用するためである。

自然由来 ・ 粒子状物質は、工場排ガス由来は 68%、自動車排ガス由来は 17%程度であり、その他は家庭、土粒子飛来である考えられている。

参考資料:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad) June 2001/JICA-Pak EPA

4) 法整備の状況

大気に係る基準は、NEQS, 1993 および Revised NEQS, 2000 により定められている。

一般大気質の基準としては、実質的には①窒素酸化物のみが定められている。

工場等からの排出基準としては、②二酸化硫黄、窒素酸化物のほか、③16 項目の排出基準、

④自動車排出ガス基準が定められている。

5) 大気質保全対策の取り組み

① 固定発生源対策 -自己モニタリング・報告規則及び罰金制度-

国家環境保護局(Pak-EPA)は、企業に対して NEQS を遵守させるために、企業による自己

モニタリング及び報告を義務づけた。

SMART(Self Monitoring And Reporting Tool)プログラムを用いて報告された内容をもとに、

排出基準を超過している企業に対しては、超過した排出量に応じて計算される産業公害課徴金

の支払いが義務づけられている。

② 税金優遇制度

企業が環境投資を行う場合にインセンティブを与えるような制度として、税制優遇制度が

Law of Custom Duty に規定されている。

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① ③ 移動発生源対策 V.E.T.Sの設立と活動

自動車排ガスに起因する大気汚染防止を目的として、1997 年に GTZ の支援の下、自動車排

ガス試験場(VETS:Vehicular Emission Testing Station)をペシャワール市内に 1 箇所設立した。

VETS を全国的に設置していく方針であるが、資金の目処は立っていない。

① ④ 日本国の援助

現在、JICA は 1999 年以降、環境行政支援のため長期専門家を継続的に派遣し、環境モニタ

リングと人材育成を行っている。一方、主要都市の環境モニタリング体制整備計画への無償資

金協力に向け、準備のため予備調査を実施している。

6) モニタリング体制・機材等

公式の分析機関として認定されるためには、国家環境基準(環境分析試験所認定)規則, 2001

に基づいた申請と認定が必要である。「鉱工業プロジェクト形成基礎調査報告書」によれば、

認定を受けた分析試験所は全国に 35 箇所ある。

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ペシャワール市郊外のレンガ工場地帯 このような工場が一帯に 300 以上あり、古タイヤを燃料に使用しており、黒煙がもうもうとあがっている。

ペシャワールの大気汚染の状況と改善への取り組み

■大気汚染の状況

簡易測定器(検知管)を用い、ペシャワール市内で大気汚

染が著しいと思われる地点(Saddar Road)の測定を行った。

測定結果は、以下に示すとおりである。日本の大気汚染の

状況(年平均地)と単純比較すると、窒素酸化物では 3 倍

程度、二酸化硫黄では 8 倍程度の濃度が検出され、測定時

も喉が痛く、咳き込んでしまうような状態であった。

表 5.2-8 ペシャワール市 Saddar Road における測定値

測定項目 Saddar Road (2003 年 10 月 13 日:昼 12 時測定)

日本国内全国平均値 (2002 年自動車排出ガス測定局平均値)

窒素酸化物(NOx) 0.2ppm 0.073ppm

NO 平均値+平均値 NO2 二酸化硫黄(SO2) 0.05ppm 0.006ppm

また、郊外には古タイヤを燃料にするレンガ工場が 300 以上分布

し、黒煙を排出し、あたり一体の空が黒く覆われることもあると

いう。NWFP-EPA による指導も行われているが、古タイヤを燃料

として使用する理由は、レンガを赤褐色にして高品質に見せかけ

られることや経済的理由による。

■NWFPにおける排出ガス規制への取り組み

前述した GTZ の支援により設立された VETS における検査状況

である。

「パ」国における排ガス規制は、黒煙とCOの 2項目があるが、

検査場では黒煙のみの検査が実施されており、合格した車両に

合格証が貼り付けられていた。

ペシャワール市内のラウンドアバウト付近の渋滞 排出係数の高いディーゼル車、リキシャ、高齢車の走行によりあたりは白くかすんでいる。

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(3) その他の公害

1) 自動車交通騒音、土壌汚染の状況

① 騒音の状況

「パ」国における騒音の調査は実施されていないため、公表された資料はない。

本調査中にペシャワール市内(Saddr Road: Kantoment Area)で計測した道路交通騒音の状況

は、著しく悪い状況であった。調査結果の 83.2dB(A)は、日本国の騒音規制法の要請限度を

8dB(A)をも超過する値である。

表 5.2-9 簡易機材による道路交通騒音調査結果

調査日時 2003 年 10 月 13 日 午後 12 時 場所 ペシャワール市 カントンメント地区 サダール道路 計測結果 83.2dB(A), 10min. 日本国の騒音規制法要請限度:75dB(A)

また、「パ」国における交通量は、下記の通り推計されている。

全体の伸び率は、20 年で 5 倍となっており、道路に関する環境整備が伴わなければ、交通渋

滞により道路交通騒音、大気汚染問題が更に顕在化してくることが予想される。

表 5.2-10 「パ」国における交通量データ

交通量 分類

燃料タイプ Petrol / Diesel /CNG/LPG 1980 年 2000 年

増加率(%)

デリバリーバン(Suzuki Vans) D/P 8,503 109,722 1,190

バイク P 287,622 2,113,078 634 タクシー P/D/CNG/LPG 148,334 748,909 405 トラック D 34,193 158,645 364 バス D 25,275 919,190 264 リキシャ P 31,950 93,300 192 合計 - 682,059 4,293,836 530

② 土壌汚染の状況

公式の情報はないが、すでに使用が禁止された農薬が放置され、土壌汚染につながっている

と言われている。GTZ は、NWFP におけるパイロットプロジェクトでインベントリー調査を行

い、州内 150 箇所の不正な置き場で 185.5t の期限切れ殺虫剤を発見した。このうち 90t につい

ては、安全なドラムへの封入などの対策を施し適切な倉庫に再貯蔵し、50t はドイツと製造者

が負担して英国へ移送後焼却したが、残りは所有者不明で今後余裕のある他州の倉庫への適正

貯蔵を検討することとした。

汚染の地域及び程度については情報を得られなかった。

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2) 自動車交通騒音の影響要因

自動車交通騒音の影響要因とその内容は次のとおりである。

表 5.2-11 自動車交通騒音の影響要因

影響要因 発生源の特徴 発生源 ・ 高齢車・老朽車・整備不良車、リキシャ、バイク等のパワーレベルの比較的大きい

車両の割合が高い。 ・ 路面が荒れており、走行音が大きい。

交通流 ・ 都市部では慢性的な交通渋滞により、交通量が多く、音源が近接している。 ・ 渋滞の原因としては、交通法規の遵守がなされていないこと、混合交通(人、軽車

両(動物含む)、自動車)であることがあげられる。

3) 法整備の状況

騒音に係る自動車単体規制(基準)は、国家環境保護条例(Pakistan Environmental

Protection Agency Ordinance, 1983)の規定に従って制定された国家環境基準(National

Environmental Quality Standards: NEQS,1993 Revised NEQS, 2000)により定められてい

る。なお、一般地域、道路沿道における騒音の環境基準等はない。

表 5.2-12 国家質環境基準(National Environmental Standards) 項目 基準 測定方法 騒音 85dB(A) 音源から 7.5m の距離で測定

4) 自動車交通騒音低減への取り組み(「パ」国)

全国的には騒音に係る問題の意識は高くないが、ペシャワール市においては、NWFP-EPA、

交通警察及び軍警察の連携のもと、悪質なホーンを装着している車の摘発キャンペーンを行い、

3,517 台の車両からホーンを撤去した。

また、GTZ のプロジェクトでは、リキシャの騒音対策として、交通警察、国内技術者、リキ

シャ運転手組合、政府職員の協力を得て、安価なサイレンサーを開発し、2000~2001 年に 7,400

台に装着した。試験の結果、環境基準の 85dB を下回る 80dB まで低減できたとの報告がされて

いる。

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(4)固形廃棄物

1)「パ」国における廃棄物管理の概況

「パ」国の廃棄物管理の概況について、以下の文献及び 2003 年 10 月の OECC 調査団による現

地調査をもとに取りまとめた。

表 5.2-13 廃棄物管理の状況

文献名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間 1 Final Report For Domestic Solid Waste

Management In Pakistan 国際協力事業団 2002 年 4 月 2002 年 2 月 25日~4 月 15 日

2 JICA 派遣専門家業務報告書 石井 明男 同上 3 The Study on Comprehensive Flood Mitigation and

Environmental Improvement Plan of Lai Nullah Basin In the Islamic Republic of Pakistan

CTI engineering International CO., LTD. Pacific Consultants International

July.2003

4 Ten year Perspective Development Plan 2001-11 and Three Year Development Program 2001-04

Government of Pakistan Planning commission

September1.2001

5

Revised Draft Hospital Waste Management Rules 2002

Environmental Health Unit Health Services Academy Ministry of Health Islamabad

2002

① 廃棄物処理に係る法や計画の整備状況

「パ」国においては、廃棄物に関する総合的な法律がなく、廃棄物の定義も明確にされてい

ないのが現状である。各州、都市が廃棄物処理に関するガイドラインや条例を策定して対応し

ているが、そうした制度すらない地域もある。制度がある場合でも、その内容は日常の廃棄物

の収集と処理業務に限定され、実際の発生ごみ量データ等に基づいた長期計画(マスタープラ

ン)は作られていない。

② 廃棄物の排出量

「パ」国全土で固形廃棄物は一日に 47,920t(都市 19,190 トン、農村28,730 トン)発生し

ているといわれる(2003 年 7 月 OECC から環境省への報告)。しかし、数字は目測などによる

推定値と考えられ、計量器等を用いた実計測によるデータとは言えず信頼性に乏しい。

③ 廃棄物の収集率

廃棄物の収集率の低さは不法投棄の増加や都市景観の悪化等につながる。廃棄物の収集率は

25%と報告され(2001 年)、今後 10 年の開発計画で 30%(2004 年)、50%(2010 年)とすること

を目標としている(「Ten year perspective development plan 2001-11」)。

④ 医療系廃棄物

医療系廃棄物、特に感染性廃棄物の不適切な処分は、感染性疾病の蔓延等に繋がるため、特

に感染性廃棄物は家庭系廃棄物と区別して処理する必要がある。感染性廃棄物の不適切な処分

は、病院内の収集従事者や処分場におけるスカベンジャー等に直接健康上の被害を及ぼし、ま

た、注射針等の医療器具の再使用は、一般患者にも被害を及ぼしかねない。カラチにおいては、

プラスチック原料が不足している現況から、海外から輸入した医療系廃棄物を、再生プラスチ

ックの原料として再利用しているという報告もある。

かねてより、ラホールやシャラマールの病院においては、個別に優れた処理ガイドラインが

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作られていたが、最近連邦保健省から「Hospital and Biochemical Waste Management」や

「Hospital Waste management Rules 2002」、「Specifications & Guideline on Hospital

Waste Incinerator」が発行され、医療系廃棄物の取扱、貯留、輸送及び処分方法について示さ

れている。しかし、未だ全国レベルでの医療系廃棄物の処理に関する認識は高いとは言えず、

今後上記ガイドライン等の周知徹底及び規制強化が望まれる。

⑤ 最終処分の状況

「パ」国では廃棄物の発生量に基づいた計画的な処分場整備は、ほとんど行われていない。

廃棄物管理として実際に行われている内容は、ごみの収集、運搬、埋立であり、最終処分場で

は持ち込まれた廃棄物を特定の処置を行わずに、そのままオープンダンピングしているのが実

態である。投棄後に覆土を行っていない所がほとんどである。

2) 廃棄物分野の国際援助

廃棄物分野における過去の国際機関の援助状況は以下の通りである。

表 5.2-14 廃棄物分野の国際機関支援

年度 都市名 ドナー 借款/無償 プロジェクト名 内容

1986- イスラマバード 日本 無償 CMTA ―

1989-1991 ラホール 世銀 借款 Garbege collection & Disposal project 収集機材

1990-1992 カラチ ADB 借款 Karachi Special Development Project Ⅰ 収集機材

1991-1992 カラチ 日本 無償 カラチ都市圏環境改善計画 収集機材

1992-1993 カラチ 日本 無償 カラチ都市圏環境改善計画 収集機材

1995-1996 ペシャワール ADB 借款 Project Management Unit, PhaseⅠ 収集機材

1995-1997 カラチ ADB 借款 Karachi Special Development Project Ⅱ 収集機材

1995- ハイデラバード スペイン 借款 Hyderabad Development Authority 収集機材

1996- ペシャワール ADB 借款/無償 Project Development Unit, PhaseⅠ 収集機材

1996-1997 ペシャワール ドイツ ― Urban Industrial Environment ProtectionⅠ 計画調査

1996- ラワルピンディ 日本 無償 ラワルピンディ市ごみ処理改善計画 計画調査

1996- ラワルピンディ 日本 無償 ラワルピンディ市ごみ処理改善計画 収集機材

1996- クエッタ 日本 無償 クエッタ市環境改善計画基本設計調査 計画調査

1999-2001 ラワルピンディ UNDP ― SWEEP 住民参加、住民教育

― ラホール オランダ 無償 医療系廃棄物処理システム シャリマル病院、焼却炉

2002- EPA 日本 無償 JICA短期専門家派遣

出典:JICA派遣専門家報告書(石井明男)

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3) 主要都市における廃棄物管理の現況

主要都市における廃棄物管理の概況

2003 年 10 月の OECC 調査団による現地調査(イスラマバード及びペシャワール)を終えた後、

現地政府を通じて、主要 5 都市(ペシャワール、ムルタン、ハイデラバード、クエッタ、ファイ

ザラバード)における廃棄物管理状況についてアンケート調査を実施した(2004 年 1 月)。2002

年 4 月に報告された国際協力事業団(現 国際協力機構)の報告書、「Final Report For Domestic Solid

Waste Management In Pakistan」にあるアンケート調査結果を参照すると、「パ」国の主要都市にお

ける廃棄物管理状況の概要を把握できる。

図 5.2-1 パキスタンの主要都市

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表 5.2-15 にパキスタンの主要都市における人口、廃棄物発生量、予算等をまとめた。アンケー

トから得られた人口、廃棄物発生量から1 人 1 日あたりごみ発生量を算出した。予算についても

ごみトンあたりの予算を算出した。

収集対象人口率はクエッタのように 100%としている都市から、ペシャワールのように 20%以

下の都市まで幅があった。ごみの収集率は 6~7割前後の都市が多かった。ごみトンあたりの予算

についても数十ルピーから数千ルピーまでかなりのばらつきがあった。

全体を通じ、人口はもとより特に廃棄物発生量及び収集量の数字については、単なる推定値の

記載と見受けられるケースもあり、今後より正確なデータの把握が課題として挙げられる。

表 5.2-16、5.2-17 に主要 5都市における法制度、収集運搬状況、コンポスト・焼却設備の整備状

況、対外援助状況等をまとめた。ハイデラバードやペシャワールなど都市内部がいくつかの清掃

区分に分けられている場合は、その区分ごとに整理を行った。

5 つの都市のうち廃棄物に関する法制度が何もなかったのはムルタンのみであったが、ペシャ

ワールでは法令はあるものの、廃棄物担当者にも周知されていない状況であった。収集・運搬に

ついては、収集機材の整備や予算・人材不足を課題として挙げている都市が多かった。処分場に

ついては都市もしくは清掃区分ごとに 1~2箇所あるが、計画的な処分場の建設、選定計画を行っ

ているところは少なく、また、場所によっては現処分場において、周辺環境への汚染等問題を生

じているところもあった。

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人口 廃棄物発生量 予算

有害廃棄物 都市名 / 区域

人口 収集対象

人口 収集対象人口率

1人1日当りごみ排出量

推定ごみ 収集量

推定ごみ 発生量

収集率 病院ごみ 産業ごみ

繰越予算 当該年度

予算

ごみt当り 予算

(繰越+ 当該年度)

単位 人 人 % kg

/人・日 t/年 t/年 % t/年 t/年 Rs. Rs. Rs./t

ムルタン 1,500,000 1,200,000 80% 186,800 365,000 51% 7,300 36,500 100,000,000 30,000,000 -

Taluka city 510,000 408,000 80% 1.02 146,000 190,500 77% 7,300 30,000 150,000,000 - 1,027

Taluka Latifabad 500,000 350,000 70% 1.10 140,000 200,000 70% - - 145,500,000 - 1,039

Taluka Qasimabad 150,000 105,000 70% 1.20 46,000 65,700 70% - - 1,680,000 - 37

Cantonment Board 79,015 40,000 51% 0.25 4,000 7,300 55% - - 1,200,000 - 300

ハイ

デラ

バー

ド 計 1,239,015 903,000 73% 1.02 336,000 463,500 72% - - 298,380,000 - 888

クエッタ 1,400,000 1,400,000 100% 0.50 191,625 255,500 75% 10 100,000,000 90,000,000 992

ファイザラバード 2,300,000 1,495,000 65% 0.50 273,750 419,750 65% 164 196,027,000 1,000,000 720

Peshawar City データなし

Charsadda Road 537,138 39,835 7% 0.03 3,000 5,000 60% 2,500 3,000 220,331 40,000 87

Hayatabad 600,000 100,000 17% - - - - 800 300 2,500,000 - -

Kohat Road 630,000 65,000 10% 0.003 400 600 67% 30 100 3,300,000 35,000 8,338

ペシ

ャワ

ール

計 データなし

イスラマバード※ 600,000 250,000 42% 0.92 182,500 200,750 91% 110 - 85,000,000 - 466

ラワルピンディ※ 1,500,000 1,000,000 67% 0.47 219,000 255,000 86% 7,300 - 16,000,000 303,500,000 1,459

ラホール※ 7,000,000 4,900,000 70% 0.55 951,920 1,405,250 68% - - 530,000,000 73,000,000 633

カラチ※ 5,840,000 2,628,000 45% 0.5 1,314,000 2,920,000 45% - - - - -

※「Final Report For Domestic Solid Waste Management In Pakistan 2002.4」より引用。 (注)1RS.(ルピー)≒2円

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表 5.2-15 主要都市における廃棄物発生量・予算等

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表 5.2-16 主要 5 都市における廃棄物管理状況(その 1)

法制度 収集/運搬

有無 収集方法・課題等 箇所数 広さ 収集地点からの距離

現状・問題点 使用開始(年)

使用終了

(年)

(注1)

・非有機性廃棄物の収集が行われていない・収集システムの機械化が必要・有機性廃棄物のコンポストを通じた利用が課題

1箇所 10acre 5~10km ・周辺部への環境汚染が問題 2001 2003(注2)

Taluka city 15hectares 7km ・周辺に住居地域が近く、住民反対有り 2003 2013Taluka Latifabad 43.5hectares 16km ・周辺に住居もなく処分場の適地である 2003 2032Taluka Qasimabad 26hectares 2km ・現状で新たな処分場の計画はない 2003 ―Cantonment Board 22hectares 4km ・周辺に住居地域が近く、新たな処分場計画が必要 1947 ―

・2001年8月より2つの清掃区分ごとで収集・収集システムの機械化が必要・予算不足、人材不足・NGOが廃棄物の1次収集にかかわっている

1箇所 150acre 16km・衛生埋立は行われず、オープンダンピングされている・特に乾季に粉塵とともに周辺に悪影響を及ぼしている 1982

2018(注3)

20acre 19km 1990 ―

40acre 16km 2003 ―

Peshawar CityCharsadda RoadHayatabadKohat Road

(注1)近い将来整備予定。(注2)次の処分場を6ヶ月以内に取得予定。(注3)新たな処分所の用地取得も行われている。(注4)州政府に要望書は提出している。(注5)担当者に周知はされていない状況

4箇所(区域ご

と)

・3,477人の清掃員・手押し車、ドンキーカーによる1次収集・不法投棄問題・収集機材の1/3が整備不良で機能していない・最終処分場が中継地から遠い・車両メンテナンスを行う店舗の整備が必要

・毎日1~2回収集・処分場は無計画に決められている・収集設備の整備とスタッフの充実が必要

2箇所ファイザラバード

ムルタン

クエッタ

処分場

ハイデラバード

ペシャワール

都市名 区域

○(注5)

・収集費用;20ルピー/1家庭・月・資金不足、人手不足、有害廃棄物管理の必要性

・計画的なダンピングサイトの選定が行われていない・担当の市の行政課に、処分場用地取得の権限等がない・レンガ焼き用に掘削した跡地を借地して処分場としているところが多くある

・新たな処分場の用地取得等は行われていない

―数箇所 ― ―

50

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表 5.2-17 主要 5 都市における廃棄物管理状況(その 2)

焼却設備

有無 規模(t/年) 有無 援助形態 時期 ドナー

有 36,500 無 技術・財政 2003年3月 C.D.R.C

無(注1) ― 有

(病院)技術・財政(収集機材) 1995 JICA

適地選定人材育成機材援助

1997,2000-2002

国際開発省(イギリス)

収集機材 2000 広島平和基金

(注1)近い将来整備予定。

ペシャワール ― ――無 ― 無

国際支援

― ―無

無 ― 有(病院)

コンポスト設備

無 無―

都市名 区域

ファイザラバード

ムルタン

クエッタ

ハイデラバード

51

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②特定地域における廃棄物管理状況調査

2003 年 10 月に OECC 調査団が現地踏査を行ったイスラマバード市、及びペシャワール市の

ハヤタバッド地区について廃棄物管理の現況を示す。

ペシャワール市のハヤタバッド地区については OECC 調査団の現地訪問(2003年 10 月)後、

現地政府によりごみ質調査、リサイクル状況調査等が実施された(2004 年 1 月)。調査は当地

域をモデル地域として、ごみの排出状況(ごみ量、ごみ質)、収集運搬状況、埋立状況、リサイ

クル状況を調査し、ごみの発生から処分に至るまでの一連の流れを数量的に把握することで、

今後の廃棄物管理に生かしていくことを目的とした。

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イスラマバード・ラワルピンディにおける廃棄物管理(1)

パキスタンの首都圏は、首都イスラマバード特別区(4 州政府からは独立した自治体)とパ

ンジャブ州の 1District で広い軍隊駐屯地を有するラワルピンディからなる。廃棄物処理は

District ごとに管理されることが原則であり、首都圏ではイスラマバードを管轄するCDA(Capital

Development Authority)、ラワルピンディの軍関連施設を管理する RCB(Rawalpindhi Cantonment

Board)、及びその他市街地を担当するTMA(Tehsil Municipal Authority)が各々廃棄物処理を管理

している。

■ 法制度

廃棄物処理に関する条例は以下の 2 つがある。

・ The Local Government Ordinance 2001(連邦法)

・ The Punjab Local Government Ordinance 2002(州法)

ただしその内容は、日々の廃棄物処理に関するもので、実際のごみ量・ごみ質データに基

づいた長期的な廃棄物処理計画の策定は行われていない。

■ 収集率及び収集対象人口

本地域における廃棄物の収集率及び収集対象人口は以下の通りである。

表 5.2-18 ごみの収集率及び収集対象人口(イスラマバード・ラワルピンディ)

“Kachi Abadi”と呼ばれるスラム(非合法居住地域)は収集対象地域には含まれず、河川

への投棄等不適切な廃棄物処理の温床となっている。廃棄物焼却技術はこのエリアには導

入されていない。

(注)上記記述及びグラフは「The Study On Comprehensive Flood And Environmental Improvement Plan Of Lai

Nullah Basin In The Islamic Republic Of Pakistan July 2003」より引用。表 5.2-15 と数字は異なる。

組織 単位 CDA RCB TMA Totalごみ発生量(予測) t/day 550 900 700 2,150原単位排出量 kg/人/day 0.92 1.00 0.47 0.72収集量 t/day 500 700 600 1,800収集率(面積ベース) % 90% 78% 85% 83%人口 1000人 600 900 1,500 3,000収集対象人口 1000人 250 900 1,000 2,150収集対象人口率 % 41% 100% 66% 71%JICA Study Team 2002

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イスラマバード・ラワルピンディにおける廃棄物管理(2)

■ スカベンジャーによるリサイクル

イスラマバード市内には約 200 人のスカベンジャーがおり、うち 100人が最終処分場(ダ

ンピングサイト)で活動している。彼らの 1 日の平均収入は 150~300Rs.(ルピー)と言

われ、これは都市部において生計を立てる最低レベルにあたる。一方で彼らの活動による

リサイクルへの寄与率はイスラマバードで 1.5~2%、ラワルピンディ―で 4%と推計され

ている。しかし、スカベンジャーの収集するごみには感染性廃棄物も含まれ、彼らへの健

康被害が危惧される。

■ 収集/運搬

イスラマバード市内の収集基地には現在

34 台の直営車両、16 台の委託車両(牽引式

トロリー)がある。直営車の多くは過去のチ

ェコスロバキアからの機材援助によるもの

であるが、現在 30 台中 20 台は機能していな

い状況である。市の財政が高額のメンテナン

スコストに耐えられていない等の問題が伺

える。

■ 処分場

ラワルピンディの飛行場近くのダンピングサイトを除くその他の処分場では、覆土を行

わない、オープンダンピングが行われていたが、最近イスラマバードにあるダンピングサ

イトにおいても覆土処理が行われるようになった。また、処分場に持ちこまれた一部の堆

肥を市内の公園等に運び、有効利用が図られるようになった。

現在、イスラマバードの北東約 22km に位

置するラワール湖東方に、新たな最終処分場

建設計画が進められており、現地大学による

地質調査等も行われている。市内から処分場

の間に中継地を設け、そこで有価物の選別を

行う構想もある。

イスラマバード市内の収集基地

(廃車寸前の車両)

ダンピングサイト建設予定地

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ペシャワール市ハヤタバット地区における廃棄物管理(1)

ハヤタバッド地区は、ペシャワール南西部に位置する、辺境州開発公社によって開発されたモ

デル開発地区であり、住居地区と工業地区が一体となっている地域である。2003年 10月にOECC

調査団で行った現地踏査、及びパキスタン政府との協力で 2004 年 1 月に実施された現地調査(ご

み量・ごみ組成分析調査、リサイクル状況調査等)をもとにハヤタバッド地区における廃棄物管

理状況をまとめると以下のようになる。

■ ごみ排出状況

住居地域において住居階層別にごみ発生量を調査した結果、1 人 1 日当りのごみ排出量は

0.5kg/人/日程度であった。ハヤタバッド住居地域で排出されるごみ量は、1 日あたり 60t程

度と推計され、そのうち 40tが回収され、20tが収集されないまま道端等に放置されている

(収集率;約 67%)。

■ 収集状況

ハヤタバッド地区の住居地域で収集状況を視

察した。収集トラックが 2 台あるものの、収集

は主に「ドンキーカー」と呼ばれる収集馬車に

よって行われている。ハヤタバッド地区内には

約 100 台のドンキーカーがあり、うち 39 台は

有償(1,100Rs/月)で雇われている(その他は

自主的活動)。収集は、厨芥類とその他生活ごみ

に分けて行われており、厨芥類は肥料・飼料と

して利用される。しかし、こうした収集方法は、

他地域では交通混雑の一因ともなるため、ペシ

ャワールにおける一般的な方法とは言えない。

■ 回収費用の徴収

ペシャワール市全体と同様に、水道料金とともに一律で 1 家庭につき、月 20 ルピーが徴

収されている。

(注)上記記述はパキスタン政府からの報告書「Urban Environmental Problems In Pakistan (A Case Study for Urban

Environment in Hayatabad, Peshawar)」より引用。

「ドンキーカー」による収集

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ペシャワール市ハヤタバット地区における廃棄物管理(2)

■ ごみ組成

「ドンキーカー」による収集段階で、ごみは厨芥類と有価物(売却対象物)、非有価物に

分けられる。厨芥類は肥料・飼料として利用され、有価物は「Kabari shop」と呼ばれるリサ

イクル店で売却される。収集段階におけるごみ、約 100kg を対象にごみ質調査を行ったと

ころ、組成は以下のようになっていた。厨芥類の占める割合が 9 割以上と大きく、売却対

象の有価物は全体の 5.6%であった。

表 5.2-19 ハヤタバッド地区のごみ組成

図 5.2-2 ハヤタバッド地区のごみ組成

(注)上記記述、図表はパキスタン政府からの報告書「Urban Environmental Problems In Pakistan (A Case Study for

Urban Environment in Hayatabad, Peshawar)」より引用。

重量(kg) (%)非有価物

野菜/果物/その他 650 90.3おむつ 20 2.8使用済お茶の葉 10 1.4計 680 94.4

有価物プラスチック、ゴム 8 1.1織物 4 0.6紙 8 1.1金属 2 0.3ガラス 4 0.6骨 6 0.8木 3 0.4パン 5 0.7計 40 5.6

総計 720 100

項目

織物骨

木紙

金属

パン

ガラス

おむつ

使用済お茶の葉

プラスチック、ゴム

野菜/果物/その他

野菜/果物/その他おむつ使用済お茶の葉プラスチック、ゴム織物紙金属ガラス骨木パン

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ペシャワール市ハヤタバット地区における廃棄物管理(3)

■処分場

処分場は公認のものではなく、当地は別途開

発計画により、将来駐車場としての利用が計画

されている土地である。

処分場には約 6 年間に渡ってごみが埋立続け

られており、地形測量を実施した結果によると

これまでに埋立られたごみ量は 1,379m3と推定

される。現在も 10~15 トンのごみが毎日埋立

られている。

処分場は河川に隣接しており、浸出水は直接河川に放流されている。乾季のため、河川

には表流水がなく、浸出水は河床の水溜まりの下からじわじわと浸み出していた。浸出水

について水質調査を行った結果、日本の基準(「一般廃棄物の最終処分及び産業廃棄物の

最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」)と比べ、特に BOD、COD、TSS、亜鉛等

において基準値を大きく超え、汚染状況が確認された。

表 5.2-20 処分場における浸出水の水質調査結果

(注)上記記述、図表はパキスタン政府からの報告書「Urban Environmental Problems In Pakistan (A Case Study

for Urban Environment in Hayatabad, Peshawar)」より引用。

現在のダンピングサイト

項目 測定結果 単位 (日本の基準)外気温度 22.7 mg/l -湿度 24.8 mg/l -浸出水温度 26.7 mg/l -pH 9.25 mg/l -BOD 805 mg/l 60COD 2,840 mg/l 90TSS 300 mg/l 60窒素含有量 10.3 mg/l 120

大腸菌郡数 2 104

(個/g)- 3,000

(個/cm3)

油脂 820 mg/l 5(鉱油類)30(動植物油脂)

鉛 0.593 mg/l 0.1クロム 2.82 mg/l 2亜鉛 1.062 mg/l 5ヒ素 N.D. mg/l 0.1カドミウム N.D. mg/l 0.1銅 0.381 mg/l 3

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ペシャワール市ハヤタバット地区における廃棄物管理(4)

■ リサイクル状況

ハヤタバッド地区でも、ごみの収集過程及びダンピングサイトにおいて多数のスカベンジ

ャーが見受けられた。ごみから回収された有価物は「Kabari shop」と呼ばれるリサイクル店

で売られる。ハヤタバッドには約 20 の店舗がある。平均的な「Kabari shop」1 日に売られる

有価物の量及び金額は以下のとおりである。

表 5.2-21 有価物の量と単価 項目 重量

(kg/日/店舗) 単価

(Rs/kg)

パン 30 5

骨 40 3

プラスチック、ゴム 12 13 金属 10 10

ガラス容器 5 3

ガラス 4 1 新聞紙(英語) 0.5 13

新聞紙(ウルドゥー語) 1 8

本(ペーパーバック,ハードカバー) 4 4

有価物のうち「パン」は家畜の餌として地域内で消費される。ペシャワールエリアの「骨」

は Warirabad や Kala Shah Kako(パンジャブ州)に輸送される。主な使用先はゼラチン工場の

他、家禽類の餌や歯磨き粉としての利用である。「ガラス」は主に Gujrat(パンジャブ州)

や Hattar、Haripur(北西辺境州)へ輸送され、陶磁器やボトル工場で利用される。「金属、鉄、

スクラップ、ブリキ」は金属再生工場で利用される。ハヤタバッド地区のものは、ペシャワ

ール市内で利用される他、ラホール等にも運ばれる。「プラスチック」も同様にペシャワール

市内やラホールでプラスチックロープ等として利用される。「新聞紙」は包装紙として再利用

される。「本」は再生紙工場で引き取られる。

(注)上記記述、図表はパキスタン政府からの報告書「Urban Environmental Problems In Pakistan (A Case Study for Urban Environment in Hayatabad, Peshawar)」より引用。

「Kabari Shop」における分別と計量 分別された「パン」

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(5) 都市排水処理

1) 都市排水処理の状況

① 関連法制度

都市排水処理(生活系・産業系)については、「パ」国環境省でマスタープランが策定されて

いる(「Master Plan For Wastewater Treatment Facilities In Pakistan 2002 June Final Report」)。マスタ

ープランは EU の支援により「パ」国全土に係る排水処理施設整備のガイドラインとして作ら

れたものであり、以下の政策が明記されている。

1. Municipal government もしくは Industrial estate により運営される排水処理施設は、生物処

理によって行われること

2. 都市エリア、産業エリアに係わらず、全ての産業工場もしくは医療系排水発生施設は、

施設から排出される排水中の有害物質濃度及び BOD を国の環境基準(NEQS)に適合する

ように事前処理を行った場合に限り、都市下水系統に放流できるものとする

3. 排水収集システムが導入されていない地域には、下水処理場を設置してはならない

4. 下水処理システムがない地域においては、生活排水は適切な浄化槽(Septic Tank)の設

置による事前処理を行った後、放流すること

ガイドラインではこの他、都市下水処理場の処理システムの紹介等が記載されている。産業

排水処理に関し、製紙、織物、堆肥化、化学、食品等の各工場における排水処理設備の処理フ

ローを示している。

②「パ」国における排水処理の実態

「パ」国の都市排水には家庭系、商業系、産業系廃棄物からの排水が含まれる(場合によっ

ては、感染性の医療系廃棄物が混入する場合もある)。こうした都市排水が適正に処理されるこ

となく都市下水路に放流されることで、下水配管の腐食を生じさせたり、時としては下水処理

場のバクテリアを死滅させるケースがある。

こうした現状を踏まえ、上記ガイドラインにおいては、産業排水は個々の事業所において下

水放流前に環境基準に満たすレベルまで事前処理することが義務づけられている。

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「パ」国各地における下水処理の状況は以下のように大きく 3 地域に分類される。

表 5.2-22 下水処理の状況

分類 システム分類 都市名 都市数 % Ⅰ Septic Tank のレベルからスラッジを含ん

だ雨水処理、従来型下水処理まで段階的に混在している。

パンジャブ全州、シンド全州、クエッタ、Kuzdar、Loralai

16 67%

Ⅱ 地区ごとに異なる。 ・開発途上エリア

雨水等とともに Septic Tank で事前処理 ・開発エリア

従来型の下水処理

NWFP 全州 5 21%

Ⅲ 無処理放流 Gwadar、Sibi、Usta Muhammad 3 12%

出典:Master Plan For urban Wastewater Treatment Facilities In Pakistan 2002

また、都市における排水処理設備の普及率状況は以下のとおりである。

表 5.2-23 下水普及の状況

出典:Master Plan For urban Wastewater Treatment Facilities In Pakistan 2002

③ 下水道が普及していない地域における生活排水処理の状況

下水道が普及していない都市外部等においては、各家庭において Septic Tank を設置している

ところが多い。マスタープランにおいても下水未整備地域においては、し尿等生活排水の放流

前に自己処理を行う重要性が指摘されており、都市行政の技術援助支援方針等が言及されてい

る。しかし、現状の都市外部における Septic Tank にはエアレーション設備等もないため、十分

な酸化分解は行われていないと考えられ、今後、明確な設計基準の設定等の取り組みが必要と

考えられる。

都市名1日当りの都市排水発生量

単位 m3/日排水量

(m3/日)%

排水量(m3/日)

%排水量

(m3/日)%

排水量(m3/日)

ラホール 784,625 - - 450 0.06% - - 784,154 99.94%ファイザラバード 352,200 - - 90,000 25.6% - - 262,037 74.4%

カラチ 1,531,045 135,000 8.8% 108,000 7.1% - - 1,287,609 84.1%ハイデラバード 185,434 - - 63,000 34.0% - - 122,386 66.0%

サッカル 63,819 - - - - - - 63,819 100%ペシャワール 189,010 - - 60,000 31.7% 8,000 4.2% 120,588 63.8%マルダン 45,575 - - 18,000 39.5% - - 27,573 60.5%

従来型処理(膜処理、活性汚泥)

沈殿池 ばっき式ラグーン 未処理

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2) 特定都市の下水処理施設の状況

2003 年 10 月に OECC 調査団が訪問したイスラマバード市、ペシャワール市における排水処理

の状況を示す。

イスラマバードの排水処理の状況

■ イスラマバードの排水処理計画

イスラマバードは特別管理地区であり、前述の都市排水マスタープランには、施設の整

備状況等は記載されていない。ヒアリングによればイスラマバードにおける下水普及率は

ほぼ 100%であり、他都市とは異なった下水処理計画が実施されている。

■ イスラマバードの下水処理場

施設はエアレーションによるばっ気が行われている。下水は適正な排水処理を行った後

に放流されており、定期的な水質検査が行われている。メタンガス回収も行っているが発

電設備はなく、施設内でガス利用されている。

エアレーション状況 沈殿池

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ペシャワールの排水処理の状況

■ペシャワール市における排水処理体系

現状のペシャワール市における排水処理系統図は

下図の通りである。

図中の既設下水処理場 A および B を視察した。A

はハヤタバッド都市計画地域にあり 3 段階の貯水池

に分かれ、前段の貯水池では以前エアレーション(ば

っ気)が行われていたが、電機系統の故障で停止し、

現在は単なる沈殿池の機能しか果たしていない。北

部に下水処理場①が新規に建設されるため、A は閉

鎖し、商業地域として開発していくことが決まって

いる。B は、2 貯留池が建設されたが、維持費の

目処が立たないため、現在は稼動していない。

図 5.2-2 ペシャワール市内における排水処理体系

Sewerage network

Drainage network

既存の下水処理場

下水処理場建設予定地

新設下水処理場(建設中)

既設下水処理場 A 閉鎖予定

既設下水処理施設 B 未稼働

既設下水処分場「A」

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6. 環境と開発に係る課題と取組

6.1 自然環境

(1) 森林減少・砂漠化

国内の木材消費は、その 9 割近くが燃料用に使用され、量としては輸入材を差し引いても森林生

長量の 2 倍程度に達し、これが森林消失の一因となっている。

環境省森林監督官事務所は、施策の実施を行う州政府森林局に持続可能な森林管理に向けた長期

ワーキング計画策定を指示し、民有地の管理を含めて、コミュニティレベルでの活動・監視・植林

を強化し、州政府による法的な取り締まり権限を認めている。

一方、EC、世銀、ADB、オランダ、UNDP などの国際機関による森林セクターへの援助は、自然

資源の過度な収奪と貧困との関係改善を重視し、脆弱な自然条件において増加する貧困層の生計維

持と持続的な森林管理を目指したプロジェクトの実施に焦点を当てている。

(2) 生物多様性・生態系保全

灌漑への水利用などにより流域変更が行われると、下流において淡水域が減少するなどの影響が

生じる。これにより、汽水域や海域でマングローブ林と鳥類・海生動物の生態系が脅かされる。ま

た、燃料木の乱伐、商業伐採および過放牧により、貴重な植物相と特殊な動物相を危機的状況に追

い込んでいる。

MELGRD は、NEAP 2001 で 4 つのコア分野のひとつとして生態系マネージメントをあげ、生物

多様性保全行動計画 2000 を策定し、GEF、WWF、IUCN など国際的自然環境保護団体の技術的、資

金的協力のもと、NGO を巻き込んで地域特有の生態系保全計画を進めている。連邦レベルでは、現

在 SDC の支援で数年後の完成を目処にレッドデータブックを作成中である。

これら自然環境保全の実務を担当する州野生保護局や森林局を中心に、担当者のキャパシティビ

ルディングが最も優先される課題であることは、関係者の共通する認識である。また、生態系は地

域特性に依存していることから、近年自然環境の保全には環境にインパクトを与える地域社会の参

加が不可欠と考えられ、地域住民の持続的生活の維持とその地域の生態系保全の整合が図られるよ

う、地域別の保全プロジェクトが推進されている。

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6.2 都市環境

(1) 大気汚染

都市における大気汚染は深刻な状況にあるが、一部の工場排出ガスによる健康被害報告を除き、

健康被害との因果関係や発生源の寄与率を明確に示すデータは少ない。たとえば、限られた計測値

の WHO ガイドラインとの比較の上で全体では SPM が問題視されている。

法規制値としての NEQS は、固定発生源の排出基準 18 項目を定めているが、一般大気質として

は NOx(年間中央値)、自動車排出ガスについては CO および黒煙について排出基準を定めているだ

けである。

固定発生源については、排水とともに自主モニタリング・報告システム(SMART)の原則を進めな

がら、各州 EPA が工場の排出基準に基づく監視にあたっている。

移動発生源対策として NOx 等の排出係数の高い燃料(ディーゼル、ケロシン混入など)から低排出

燃料である CNG への転換が進行している。また、石油会社は 2005 年にガソリンの無鉛化を計画し

ている。

1997 年に GTZ の支援による都市産業環境保護プロジェクトの一環としてペシャワール市自動車

排気ガス騒音検査所(VETS)が設立され、延べ 50,000 台以上の検査実績を有している。しかし、その

後 GTZ の支援方針がキャパシティビルディングにシフトしたことなどにより、中断している。

SMART を実効的に進めるプロジェクトや移動式の VETS を全国展開する計画は NEAP-SP のプロ

ジェクトとして承認されているが、資金提供先は未定である。また、CNG 転換プロジェクトも

NEAP-SP として準備しているが承認に至っていない。

(2) 水質

河川水のみならず、飲料水として主要な水源となっている地下水の水質汚濁が問題となっている

が、その原因としては未処理の工場排水がもっとも大きく影響していると考えられている。NEQS

で排出基準を規定しているが、処理施設を設けている工場はほとんどないのが実態であり、州 EPA

が監視にあたっても、そのほとんどが排出基準を満足しておらず、工場は改善の動きを示さない場

合が多い。環境裁判所や環境判事の制度はできたが、EPA を含めて行政上のキャパシティはあまり

に弱い。

自主的モニタリング・報告制度を原則論からより実効的な制度にするため、地域の支援協議会を

通した段階的改善を図るプログラムが NEAP-SP で承認されているが、資金提供の目処は立っていな

い。

廃棄物管理の不備も河川、地下水の汚染原因となっている。廃棄物の回収率は多くの都市で 50%

以下といわれ、回収対象となっていないスラムを中心に河川への投棄がごく普通に見受けられ、回

収しても廃棄物最終処分地の多くは無計画に河川沿岸にも受けられている場合が多い。

この他、都市下水も直接河川放流されていたり、処理場があってもいわゆるラグーン方式の簡易

な処理のみで一般河川に放流されているため、特に乾季において河川への環境負荷が高いと想定さ

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65

れる。

以上のように、多岐に亘る要因により水質汚濁のメカニズムを複雑にしているが、現在最も基本

的な問題は、適切に継続的な水質モニタリングが行われる制度及び設備がないことにもある。

また、資本力の乏しい中小企業を主体とする「パ」国の産業が、環境保全と調和して振興してい

くために、排水処理を共同化することが計画されている。

(3) 廃棄物管理

州政府への自治権委譲、地方分権化以前から、廃棄物行政の主体は District の公共サービス部局で

あり、収集、処分の日常業務に当たっている。1 つの District を形成する中~大都市では、都市化が

進むにつれ、民地の賃借による場当たり的な最終処分地では行き詰まり、大規模な占有処分地の必

要性に迫られてきている。

最終処分地の公共用地確保は、世界に共通して住民の反対を受け、なかなか進まない。住民合意

ができても、用地の買収が伴う場合は大規模な予算措置を州政府に求めなければならず、ラホール

では 8,000 万ルピーの処分地取得費が Punjab 州の財政から得られず、計画が断念された。比較的豊

かな Punjab 州での失敗は、他の州 District の公共サービス部門に悲観的な意識を与えている。

また、確保できる最終処分地は遠隔地となるため、運搬機材の運営維持費が増加し、District の財

政では負担しきれなくなることが懸念されている。

連邦政府は 3R(削減、再利用、リサイクル)のキャンペーン、個別プロジェクトによる住民参加型

廃棄物管理を進めている。また、行政単位に毎に異なる廃棄物管理のレベルや方法に対して、連邦

政府として統一したガイドラインを設けて指導するプログラムも計画されているが、実行する資金

的な目処は立っていない。

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7.支援戦略の検討

7.1 支援のニーズ

(1) 環境と開発に係る支援の必要性

「パ」国は、近年急速な環境悪化に直面しており、都市の大気汚染や飲料水汚染の進行、土壌

の劣化、地下水、森林などの自然資源の減少や劣化などが顕著となっている。しかし、90 年代か

ら続いた財政赤字も原因して、環境問題への財政支出が極く限られており、最近までの政府の環

境政策も主管庁である環境省、及びその傘下の連邦環境保護庁の設立、環境保全戦略や環境保護

法の策定などペーパーワーク主体となり、実効的な環境対策が十分実施されず、組織や施設・設

備の面でも実施能力が培われてきていない。

また、適切な環境対策を計画するための環境現況の把握も、国際支援機関の支援による極く限

られたプロジェクトを通して単発的に行われてきただけであり、環境の変化を時系列的に捉える

ことも困難な状況にある。

「パ」国の環境対策の方向性は、NEAP に示されているが、広範囲に広がる環境問題の深刻さ

に対して実際にフィールドレベルで実行されるプロジェクト、プログラムは少ない。NEAP-SP の

枠組みにおいて計画されるプロジェクト・プログラム内容は、「パ」国自身が考える環境問題への

支援ニーズを反映したものであるが、EDCG との資金提供交渉は一部を除き停滞している。むし

ろ、環境分野における国際支援は、国際機関や NGO が EPA、森林局、市政公共サービス部署など

の実務機関と個別にアプローチして計画・立案されたプロジェクトの実施が、中核となっている。

一方、環境分野での支援に関する議論を進める中で「パ」国側から要望されるのは、大規模プ

ロジェクトや高度な技術による支援よりも、個別問題に対して経験に基づき考案される、安価で、

ある程度の改善効果をもたらす応用技術によるものが求められている。たとえば、オートリキシ

ャに装着される排気ガス・騒音レジューサーや工場種別毎の浄化装置の開発と普及などのように、

日本における経験技術としてわずかの投資で効果のあがる対策技術の支援が期待されている。

NEAP-SP の候補プロジェクトや進行中のプロジェクトおよび現地調査結果からうかがえる、

「パ」国の環境分野の支援ニーズは以下のとおりである。また、これらのニーズすべての分野に

共通して、要員の人的開発を含むキャパシティビルディングおよび地域社会やステークホルダー

を巻き込んだ意識改革プログラムを必要としている。

1) 都市環境

<モニタリング>

・ 環境汚染実態のモニタリングシステム構築

<産業環境管理>

・ 自主モニタリング・報告システム(SMART)の実施促進

・ クリーナープロダクションの普及

<大気汚染>

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・ 車輌排出ガス検査システムの整備、車検制度の導入

・ CNG 燃料転換の促進

・ 大気質試験設備の補強と試験技能者の育成

<水質汚濁>

・ 水質試験設備の補強と試験技能者の育成

・ 業種別または工業団地の共同排水処理施設整備

・ 深井戸による給水

・ 浄化槽設備の技術向上・普及

・ 下水道整備

・ 土壌・地下水汚染に関する調査解析・対策技術

<廃棄物管理>

・ 固形廃棄物(危険廃棄物含む)管理の行政能力向上

・ 最終処分場の計画・環境対策・建設・管理技術向上

・ 住民参加型の廃棄物管理システムの構築

2) 自然環境

<生態系保全>

・ 住民参加による自然資源の持続的利用と管理および生物多様性保全

・ 湿地、マングローブ等の豊かな生態系の保全

・ 自然保護地域の生態系管理

3) 政策、組織、その他

・ 環境保護庁、州環境保護局のキャパシティビルディング

・ エネルギー保全

・ 温室効果ガス削減事業などのクリーン開発メカニズム(CDM)適用の基礎的検討

・ 湛水害・塩害対策としての灌漑用水利用の効率化(農業分野)

(2) 国際機関の動向

環境セクターでは、1991 年から WB、UNDP、UNIDO、スイス、オランダ、日本などで環境援

助機関調整グループ(EDCG)が組織され、現在主に UNDP が主導的役割を果たしている。各機関が

独自に支援を実施している一方で、UNDP は、2001 年に「パ」国の環境対策の自立的発展性と貧

困削減を目的として、NEAP-Support Programme を立ち上げ、5 年間のアンブレラプロジェクトの

枠組みの中で、EDCG の協調支援で行う技術協力、財政支援のイニシアティブをとっている。し

かし、EDCG 内の協議では、重点分野や優先分野については方向付けされておらず、「パ」国側か

らの要請に基づき、その都度資金提供先を打診する状況である。

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環境問題の主題別に関与してきた主な国際援助機関は以下のとおりである。

行政能力向上、環境政策 :UNDP, CIDA, SDC(スイス), NRE(オランダ), NORAD

(ノルウェー), IUCN, JICA

生態系保全、森林など自然資源管理 :EU, WB, ADB, UNDP, IUCN, GEF

クリーナープロダクション :UNIDO, ADB

車輌排気ガス対策 :CIDA (CNG 転換), GTZ(VETS~2000)

工場廃水処理 :NRE(カラチ PTA )

固形廃棄物管理 :JICA, UNDP(~2000)、GTZ(~2000)

地域総合環境改善(自治,社会,水,大気) :ADB (ラワルピンディ)、GTZ (ペシャワール)

新エネルギー開発 :GTZ(発電の効率化、社会環境影響の最小化)

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7.2 支援の方針

(1) 国別援助計画の策定動向と環境支援

今年度外務省が進めている国別援助計画策定は、JICA国別援助研究会を中心に進められており、

2003 年 9 月には現地タスクフォースのドラフト・レポートが作成された。

同研究会は、「パ」国開発援助の上位目標を「持続的社会の構築及び発展」と定め、目標達成に

向けて「人間開発」、「経済開発」および「地域開発」の方向性を提言した。その方針案の重点分

野として 1) 保健、2) 教育、3) 水、4) 経済基盤・経済発展、5) ガバナンス・経済改革、6) 農業、

7) 環境をあげている。このなかで、環境分野の課題は、「環境汚染実態の把握」と「環境行政の

管理運営能力の向上」とし、今後の協力内容として「温室効果ガス対策」「環境モニタリング整備

プログラム」および「廃棄物処理」があげられている。

日本政府は、2002 年 8 月に「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」に

おいても、環境協力の基本方針のひとつとして、「環境保全要素の積極的な取り込み」を表明した。

これは環境と開発の統合支援を考える上では、他の重点分野においても環境改善とのリンケージ

を考慮する必要性があるがあることを示すもので「あらゆる開発計画及び案件プログラムにおい

て環境保全の要素を取り込み、貧困削減と環境保全が統合されるとともに、適切な環境配慮がさ

れた取り組みを支援することによって、環境問題が改善に向かうよう努力する。」とされている。

このような観点から、国別援助研究会報告書(ドラフト)に掲げられた分野別の協力内容のなか

で、望まれる環境問題へのアプローチを以下に示す。

1) 保健

感染症対策としては、特に水因性疾病の予防的対策として、飲料水の水質改善が大きく寄与す

ることは自明であり、住民が飲料水のみならず生活に関わる水環境の現状を理解することが重要

である。このため、支援の一環として環境と衛生に係る意識向上を図ることが望まれる。

2) ガバナンス

地方分権支援プログラムが予定されているが、地方行政が主体者となって進める廃棄物管理は、

日常的なサービスの責任を持つ District 以下の行政レベルと、機材更新や処分場等の用地取得など

開発予算や社会活動基金(SAF)の措置を受け持つ州政府レベルの調整機能を強化することが重要

である。

3) 水

常時の湛水による被害(ウォーターロギング)や塩害を軽減するためには、灌漑施設の改築や

水利の維持管理の強化を図るなどにより利用効率を改善することが大きく貢献する。この実施に

あたっては、住民を含む関係者に対してプロジェクトによって改善される環境は生産にも反映さ

れることを理解させることにより、生産者にかんがい施設管理のインセンティブを与え、持続可

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能な農業生産に対する基礎的な取り組みとすることが必要である。

上下水道施設の改善は、確実に給水率を向上させ、衛生状態を改善する。その際、水質問題の

要因として水源の汚染、既設上水道配管網の劣化や不適切な配管および下水から上水への混入の

状況などを把握して、「安全な水供給」への改善策が検討されるべきである。また、廃棄物回収と

同様に上下水道は District レベルで運営維持管理される事業であることから、州-District の行政能

力の向上や料金制度の問題なども併せて検討され、持続可能な総合的上下水道システムが構築さ

れることが望まれる。

4) 経済発展・経済基盤

中小企業振興策の実施にあたっては、大気や水質の汚染源となっている企業も多いため、環境

に対する企業意識の変革が求められる。支援において環境改善へ配慮すべき事項は、自主的モニ

タリングシステムの導入等による排出環境基準の遵守など「排出口における対策」にとどまらず、

「クリーナープロダクションの普及」等があげられる。すなわち、生産過程における環境汚染負

荷の削減と企業収益の向上が両立しうるよう、市場メカニズムを巻き込んだ環境技術の需要の喚

起、投資環境の整備による環境産業の育成が望まれる。

運輸をはじめとする社会インフラの整備には、環境影響評価の確実な実施が望まれる。IEE/EIA

のガイドラインは制定されているものの、政府機関の実施能力の点では経験不足が否めないため、

支援国側のイニシアティブをもって環境影響評価を進める必要がある。

5) 農林水産業

干ばつ地域等環境変化の影響を受けやすい脆弱な自然環境において持続的な農業を確立するた

めの支援については、貧困緩和のための生計の維持および自然資源の持続的な管理を調和調和さ

せることが重要課題である。主体者である農民は環境保全に係る知識や技術を習得する機会を持

たない貧困層である。一方、生態系は、地域の特異性によって成り立ち、住民しか持ち得ない知

識や情報もあることから、開発支援計画の中に住民参加の地域環境把握と住民に対する環境教育

をともに盛り込むことが重要である。

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(2) 環境分野の支援方針の考察

上記のように環境協力は、多岐に亘る分野で途上国の自助努力を支援してゆくものであるが、

ここでは特に環境保全を主目的とする支援の方針について考察する。

世銀は、1990 年代に「パ」国の環境ダメージを

健康被害の代償、人的資源や労働時間の損失の形

で試算し、年間総額 180 億 USD と見積もってい

る。右図に示すように、その約半分(51%)は都市の

固形・液体の廃棄物によるものであり、都市の大

気汚染(21%), 農地の侵食(20%)などを大きく上回

っている。

上位 2 項目が都市の生活環境に係る問題であり、

州政府の財政難とキャパシティ不足から、対策支

援のニーズは他の環境分野より高いといえる。

現地調査結果に基づいて、環境問題に対する支援のアプローチについて考察すると以下の諸点

があげられる。

1) 環境モニタリング整備計画

環境モニタリング整備計画は、すでに JICA 国別援助研究会報告書(ドラフト)にも支援内容

として織り込まれている。また、NEAP のコア分野にクリーンエア、クリーンウォータが位置

付けられていることから、この分野の支援は「パ」国にとって最もニーズが高く、重要である。

これまで「パ」国では大気と水に関して継続的に定点観測を行ったデータがなかったが、今後

主要な都市におけるデータが蓄積されれば、効果的で経済的な環境対策を計画する上で非常に

有効であると考えられる。

ただし、このような環境質に関する研究機関としては、計画の実施機関である環境省環境保

護庁および各州環境保護局以外に、科学技術省や保健省にも設備を備えた機関が存在している

ことから、各省機関の役割と担当区分を明確に規定するとともに、相互に補完しあう計画を進

めることが望まれる。

大気、水質の測定、分析については実務経験者が少ないことが問題であり、技術協力プログ

ラムにおいては人材開発、特に測定・試験技術者の質・量を向上させる研修などとの連携を考

慮することが重要である。

環境ダメージのコスト(million USD/y)

15.78

883

125

357

369

廃棄物 大気汚染 農地浸食 放牧地浸食 森林破壊 マングローブ消滅

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2) 廃棄物管理計画

首都イスラマバードに対する最終処分場建設計画については、すでに日本への支援要請がな

されている。また、NEAP のなかでも廃棄物管理は、コア分野のひとつであり、「パ」国の高

いニーズのある分野である。

廃棄物管理の責任は、地方政府にあり、特に District レベルでの日常的な廃棄物の管理運営

が主要な課題である。しかし、地方分権化が進む中で、連邦レベルでの法的な整備の必要性が

指摘されている。NEAP-SP のプロジェクトとしては、行政責任を明確にして、連邦レベルで

の統一的な廃棄物管理指針を作成する計画が検討されてはいるが、未だ実行できる段階に至っ

ていない。また、廃棄物を構成する要素は複雑であり、社会経済の変化に応じて変化するため、

基本的な定義と管理責任を法的に統一的に取扱えるように法体系を整備するべきである。

廃棄物管理計画について、日本政府は過去に回収・埋立用機材の調達を主とする支援を実施

してきており、今後も廃棄物管理に対する支援への期待は高い。しかし地方分権化が強調され

るようになり、今後の廃棄物管理行政を持続可能なものとするための支援は特に以下の点に留

意する必要がある。

① 州政府による機材の維持管理・更新費用の担保(特に遠距離運搬を計画する場合)

② 長期的計画のもとで適切な最終処分場用地の確保が既に行われていること

③ 住民参加による環境意識の向上と住民による自律的な組織運営

④ 廃棄物管理における行政・民間・住民の責任と権限の明確化

⑤ 地域の社会経済特性を把握し、地域に適したリサイクル・資源回収システムの検討

⑥ 有害廃棄物の取扱・管理体制の整備の確認(必要に応じて計画に取り込む)

2003 年 10 月からは、廃棄物管理の JICA 長期専門家も派遣されており、プロジェクト形成

にあたってはこれらの条件を地道に確認することが重要になると考えられる。

3) 水環境モデルアプローチ

①水環境問題の現状と援助の方向性

都市環境の悪化は複数の原因が関わっている場合が多いため、その原因別に影響の程度を把

握することにより適切な対処の選択が可能となる。たとえば、ペシャワールを例に取ると、都

市河川などの水域汚濁は、浅井戸を水源とする個人井戸を汚染するとともに、深井戸を水源と

する公共水道にもやがては影響が及ぶと考えられる。

都市河川の水質汚濁の実態を現地の水循環システムの上から統一的に把握した実績はなく、

未処理の工場排水及び生活排水、廃棄物最終処分地からの浸出水、不十分な下水処理水の混入

など様々な汚染源が考えられ、それぞれの影響の度合いを特定できていない。

環境モニタリングにより汚染実態を把握する一方で、水循環を想定したモデル地区を選定し

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て、拠点集中的にあらゆる角度から水の流れとそれに伴う水質の変化を捉え、水質改善のため

に優先する対処策を検討するというアプローチが重要と考えられる。これにより、その地域に

適した環境対策計画が策定されるのと同時に、全国的にも展開できる基本的な環境インパクト

の指標が得られることが期待できる。

モデル地区としては、全国的な都市環境の悪化を代表することや、社会環境の上で貧困層の

環境インパクトが大きいことなどを条件に選定することが考えられる。

「パ」国に存在する都市を人口規模でみると、シンド州首都カラチが 1,000 万人以上、パン

ジャブ州首都のラホールが 500 万人以上と飛び抜けて大きく、3 位ファイサラバード(225 万

人)、4 位ラワルピンディ(10 位イスラマバードと併せて 260 万人)、5 位グジュランワラ(190

万人)、6位ムルタン(134万人)といずれもパンジャブ州の諸都市が続き、7位ハイデラバード(シ

ンド州 130 万人)、8 位ペシャワール(NWFP 120 万人)までが 100 万都市となっている。

パンジャブ州は経済の中心であり、日本をはじめとする援助国の投入が集中しているため、

他の州への支援分散を図ることが、「パ」国の発展や貧困削減の効果向上のために有効である

と考えられる。また、我が国 EcoISD の理念の一つである「人間の安全保障」に照らして、ア

フガン難民を多く抱える北西辺境州(NWFP)やバロチスタン州への支援は、優先度が高いと考

えられる。以上のような都市規模と開発支援の優先度から判断し、NWFP の首都ペシャワー

ルは、大気、水質といった都市環境問題を抱え、都市規模や社会環境の上から「パ」国におけ

る都市環境問題支援を行うモデル地区として適当な都市として位置付けられる。

以上の検討によりペシャワール市を現地調査対象として選定し、同市内のハヤタバッド区域

において水環境調査を実施し、水循環、水供給、水質汚濁、主な汚染源と負荷量の把握を行い、

今後、水環境改善の方向性について検討を行った。

② ペシャワール市ハヤタバッド地区におけるケーススタディ

ハヤタバッド地区における水環境問題を把握するために国家連邦環境保護局(Pak-EPA)及

び北西辺境州環境保護局(NWFP-EPA)の協力の下、以下の調査を実施した。調査項目等を表

7.2-1 に、調査地域及び調査地点を図 7.2-1 に示す。

表 7.2-1 ハヤタバッドにおける水環境調査項目 調査項目 主な調査内容

既存資料調査

・社会環境データ 人口、土地利用及び計画、インフラ整備の状況、施設計画 等 ・自然環境データ 気象、水質(河川・地下水)、井戸数 等

現地調査 河川水質、地下水質 等

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図 7.2-1 ハヤタバッド地区見取り図及び調査地点図

P. 水質調査地点

管井位置     

Phase. ハヤタバッド街区

凡例

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得られた調査結果から水循環模式図及び汚濁負荷量は次のとおりとなる。

ハヤタバッド地区は、Phase1~7 区画で構成され、これらは居住区及び商業地で構成される。

その西側に工業団地(Industrial Estate)が位置する。全ての区画の面積、人口の統計資料がな

いことから、ハヤタバッド居住区の人口推計値及び各区画面積から、各区画の人口を算定した。

表 7.2-2 各区画の居住者人口の推定

区画番号 項目 I II III IV V Ⅵ Ⅶ 合計 面積(ha) 197.4 241.3 113.3 125.1 142.8 309.8 205.4 1335.0 推計人口(人) 14,787 18,071 8,487 9,367 10,698 23,202 15,388 約 100,000

【水源の状況】

ペシャワール市は半乾燥地域に属し、年降水量は少ない。本調査時期における降雨量は、2004

年 1 月が 68mm/月、2003 年は 486mm/年であり、過去 10 年間(1994-2003 年)の平均値(1 月

平均降雨量:36mm、年間平均降雨量:501mm)と比べても平均的な降雨量であった。

ハヤタバッド地区における水源は主に地下水が利用され、Phase1~7 区画には合計 53 の管

井がある。一方、工業団地においては、事業者が独自に調達しており、その詳細は明らかにさ

れていない。

【排水の状況】

ハヤタバッド地区の排水状況をみると、1~7 区画すべて下水道網が整備されているが、急

激な人口増加に下水処理容量が見合わないことから、実際には 1~5 区画の排水が、稼働して

いない下水処理場を通過し、ナライ川に流出している。また、6~7 区画の排水は、未処理の

ままナライ川、ガンダオ川に放流されている。工業団地の工場廃水は、ほとんど未処理のまま

ノース川に放流されている。

【水質汚濁の状況及び負荷量の算出】

表 7.2-3 各調査地点における有機汚濁の程度(BOD 濃度及び負荷量)と汚染源と考えられる

区画を示した。

図 7.2-2 に示した P2、4、5 を除く調査地点で BOD 濃度は、国家環境基準(NEQS)の排水

基準(内陸水域)の 80mg/l を超過しており、P1 では 4 倍以上の 323.5mg/l となっていた。ま

た、COD については全地点で NEQS(150mg/l)を超過しており、最大値は P1 の 2240mg/l で

その約 15 倍であった。これは、特に工場廃水及び Phase6-7 からの未処理排水が主な汚染源と

なっていることが考えられる。

重金属類では、鉛、クロムが P1、P3、P4 及び最終処分場において排水基準を超過しており、

排水の状況から見て、その汚染源は工場排水であると考えられる。

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表 7.2-3 河川水質調査地点における有機汚濁負荷量 河川水質調査地点

調査項目/負荷量

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 最終処分場浸出水

国家環境基準 内陸水域 排水基準 (NEQS)

流量(m3/sec) 0.22 0.24 0.1 0.007 0.002 0.36 0.07 - BOD5days (mg/l) 323.5 75.5 224 51.5 47.5 150.5 88.25 805 80 COD (mg/l) 2240 606 1394 329.5 221 570 614 2840 150 BOD 負荷量 (t/day) 6.15 1.56 1.93 0.03 0.01 4.68 0.53 - COD 負荷量 (t/day) 42.58 12.57 12.04 0.2 0.04 17.73 3.71 - 鉛 0.395 0.374 0.514 0.692 0.494 0.297 0.198 0.593 0.5

クロム 1.62 0.83 1.21 0.82 0.4 0.79 0.75 2.82 1.0 汚染源と考えられる区画 6,7,IE 1~7 IE IE 6、7 1~5 不明 -

注1) 網掛けは、NEQS を超過した地点 注2) I.E.(Industrial Estate:工業団地)

また、表 7.2-2 及び表 7.2-3 に示した人口及び汚染源から一人当たりの有機汚濁負荷量は次の

ように推定される。ハヤタバッド地区居住区からの 1 日 1 人当たりの有機汚濁負荷量は、58

~76g と推定され、日本における平均値 40g/day と比較すると 1.5~2 倍程度である。負荷量

は、河川流量に影響されるが、調査前月の降水量は、68mm/月と多かったことから、この負

荷量は、低めの値となっていることが考えられる。したがって、より降水量が少ない状況に対

しては、河川水による希釈及び生物分解が進まず水質汚染による、水利用、水産資源利用など

へ悪影響をきたすおそれがある。特に将来の人口増加に伴う河川水からの水源確保、悪臭、下

流河川への漁業への悪影響が懸念される。

表 7.2-4 有機汚濁負荷量の推定(居住区 1 日 1 人当たり)

人口または 工場数

BOD 負荷量 (t/day)

一人当たりBOD 負荷量(kg/day)

負荷量の 計算方法

参考値

Phase1~7 100,000 5.78 0.058 P1+P2-P3 Phase1~5 61,411 4.68 0.076 P6

0.04 kg/day

工業団地 24 1.93 80.417 P3 - 注)参考値:日本における 1 日 1 人当たりのBOD 負荷量

【地下水汚染の状況】

既存資料(Water Quality Status in Pakistan ( REPORT 2001-2002) Pakistan Council of Research in

Water Resources, Ministry Of Science & Technology October, 2002)によれば、ペシャワールの 13

カ所で井戸水調査が実施されており、大腸菌群、ナトリウムのみが飲料水水質基準を超過して

いる一方で重金属類(鉛、クロム等)は基準を満足している。

これらの状況から、工場廃水により汚染された水は、不透水層下部の 36~47m の深さにあ

る地下水帯(飲料水源)には影響を与えていないもの考えられる。

以上の調査・分析結果をふまえた、水循環と有機汚濁負の程度を視覚的に図 7.2-3 に示した。

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図 7.2-3 ハヤタバッド地区の水循環模式図

以上の水循環と汚染源の状況から、今後ハヤタバッド地区において解決すべき問題とその方

向性はつぎのとおりである。

表 7.2-5 現状の問題と解決の方向性

汚染源 解決の方向性

工場排水

NEQS(国家環境基準:工場排水基準)が制定され、NWFP-EPA では、それに基づいた SMART プログラムの運用を試みている。 しかし実態は、排水基準を超える濃度が河川で測定され、規制による改善の困難さを示している。 費用対効果を検討しながら、工業団地に立地する企業毎のまたは工業団地共同の工場排水処理施設整備を緊急に検討する必要がある

生活排水

下水道網及び処理施設は整備または計画されているが、市街地においては、運用能力と予算の問題から、その施設の継続的な運用・管理が適正に行われていない。下水道維持管理の適正化を推進するとともに、市街区に入らない周辺集落に対しては、低予算でかつ効果の高い合併処理浄化槽の設置を検討する価値がある。日本において合併処理浄化槽は、技術的進歩が著しく、現在のBOD排出濃度は20mg/l以下である。また、道路網のない下水道整備が困難な地域おいても個別設置により効果を発揮する等のメリットがある。

凡例

排水先

水質調査地点

BOD負荷量(t/day)

Phase 6~7

ナライ川

ガンダオ川

ノース川

Phase 1~5

ごみ最終処分

工業団地

下水処理場 (停止中)

P.4

P.3

P.5

P.6

P.1

P.2 P.7

Leachate

降雨量(ペシャワール市) 本調査月:2004 年 1 月 68mm 前年年間降雨量:2003 年 486mm 過去 10 年間の 1 月平均降雨量:36mm 過去 10 年間の 1 年間平均降雨量:501mm

揚水量(Phase1~7)8,784m3/day

地下水位 36~47(G-m)

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ペシャワールを例にとれば、図 7. 2 – 5 に示す下水道計画図においても主要市街地について

は下水道普及ないし都市下水路の整備が行われ、河川水質の保全が図られようとしている。

しかし、図 7.2 - 5 の地図に示される郊外地ないしは市街地外周部においては、排水処理が計

画されておらず、集落単位での数百人規模のし尿と生活雑排水を処理する合併処理浄化槽と

その集水システムによる生活排水処理計画の導入を検討することが今後の取り組み課題とし

て重要である。図 7.2 - 4 に日本における標準的な浄化槽の模式図を示す。

合併処理浄化槽の集落への導入においては、BOD の除去率が 90%以上、放流水質 20 mg/L

程度の機能の維持が可能であることから、現在ペシャワール市に整備されているラグーン式下

水道の処理水と同等以上の効果が期待できる。また、処理人槽も 500 人規模程度の施設建設

が可能であることから、郊外部集落での適用性は十分に見込めるものと考えられる。

ただし、導入にあたっては施設の持続的な維持管理・運営の問題を検討する必要がある。ち

なみに全国 25 都市の下水道マスタープラン(2002)では、利用者の負担を最低限に抑える目的

から、1 軒月額 7.5 ルピー(日本円で約 15 円)の負担を設定し、一方では処理水を農業用に

売るほか、処理汚泥を処理場内での果樹栽培や養魚に利用する等、施設の維持費創出を考慮し

ている。また、水道とごみ回収の市民サービス料は 1 軒月額 20 ルピー(日本円で約 40 円)

を負担していることなどから合併処理浄化槽の普及に当たっては、市民への教育キャンペーン

を行うとともに、負担に耐え得る妥当な料金設定と維持費のバランスを考慮する必要がある。

図 7.2 - 4 浄化槽模式図(家庭用、7-8 人槽)

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21 世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定

(国別調査)

パキスタン・イスラム共和国

資 料 編

資料編は、本編を補足する情報、背景、調査データを示すものであり、章、項の番号は本編の関

連する章、項と対比される。

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21 世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 (国別調査) -パキスタン・イスラム共和国-

資料編

目 次

3. 国家概要...........................................................................................................................................................1

3.4 社会環境 .....................................................................................................................................................1

(1) 人口データ ..............................................................................................................................................1

(3) 女性問題 ..................................................................................................................................................7

(4) 農業の環境問題 .....................................................................................................................................11

(4) カチアバディス問題 ..............................................................................................................................13

4. 環境政策.........................................................................................................................................................17

4.1 NEAP – SP ...............................................................................................................................................17

4.2 環境関連法規および制度..........................................................................................................................20

(1) 環境保護法(PEPA-97)...........................................................................................................................20

(2) 環境基準(National Environmental Quality Standard).................................................................20

(3) 環境影響評価(IEE/EIA)........................................................................................................................21

(4) 州持続的開発基金 (PSDF) ...................................................................................................................21

4.3 環境関連機関 ............................................................................................................................................22

(1) 連邦政府機関.........................................................................................................................................22

(2) 州政府および郡政府 ..............................................................................................................................22

(3) 国際支援機関.........................................................................................................................................22

(4) 公的な独立機関 .....................................................................................................................................23

(5) NGO など...............................................................................................................................................23

(6) 民間 .......................................................................................................................................................23

5. 環境問題の現況 ..............................................................................................................................................24

5.1 自然環境 ...................................................................................................................................................24

(1) 森林・砂漠化.........................................................................................................................................24

(2) 生物多様性 ............................................................................................................................................36

5.2 都市環境 ...................................................................................................................................................51

(1) 水質汚濁 ................................................................................................................................................51

(2) 大気汚染 ................................................................................................................................................67

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3. 国家概要

3.4 社会環境

(1) 人口データ

資料表 3.4.1 (1) 州別・地域別人口(農村・都市別、男女別)(1998 年センサス)

州名 全体(千人) 男性(千人) 女性(千人)

パキスタン全土 132,353 68,665 63,688

都市部 43,041 22,330 20,711

農村部 89,312 46,335 42,977

首都圏地域 (イスラマバード)

807 434 371

都市部 529 291 238

農村部 276 143 133

パンジャブ州 73,615 38,094 35,527

都市部 23,019 12,071 10,948

農村部 50,602 26,023 24,579

シンド州 30,428 16,097 14,342

都市部 14,840 7,904 5,935

農村部 15,600 8,193 7,407

バロチスタン州 6,565 3,481 3,030

都市部 1,516 833 683

農村部 4,995 2,648 2,347

北西辺境州 17,749 9,085 8,651

都市部 2,994 1,589 1,405

農村部 14,742 7,495 7,246

連邦直轄民族自治区(FATA)

3,176 1,635 1,503

都市部 83 45 38

農村部 3,055 1,590 1,465

出典:STATISTICAL SUPPLEMENT(2001-2002)

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資料表 3.4.1 (2) 年齢及び性別人口(1998 年センサス)

年齢層(歳) 全体人口(千人) 男性(千人) 女性(千人)

全体 127,442 66,205 61,237

0~4 18,611 9,488 9,123

5~9 19,944 10,376 9,568

10~14 16,487 8,682 7,805

15~19 13,194 6,781 6,413

20~24 11,491 5,766 5,725

25~29 9,565 4,964 4,601

30~34 8,103 4,330 3,773

35~39 6,144 3,278 2,866

40~44 5,641 2,848 2,793

45~49 4,494 2,294 2,200

50~54 4,080 2,151 1,929

55~59 2,698 1,449 1,249

60~64 2,618 1,406 1,212

65~69 1,509 828 682

70~74 1,354 744 610

75 以上 1,505 817 688

出典:STATISTICAL SUPPLEMENT(2001-2002)

% 最近の干ばつ傾向: 平年降水量に対する比率

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(2) 貧困問題

摂取熱量による貧困ライン以外の貧困状況

1) 貧困の現状

「パ」国の貧困状況の変化を他国のそれと比較すると、「パ」国は過去数十年にわたる努力

によって貧困緩和に一定の成果を収めて来たといえるが、未だ低所得国の平均値を下回ってい

る。「パ」国の出生率は低所得国の平均水準より 65 %高く、乳幼児死亡率も 30 %高い。また、

成人識字率は 45%低く、初等中等教育の就学率は平均の半分以下である。南アジア諸国のな

かでは、「パ」国の GNP は相対的に高いが、社会セクターの指標で見ると問題が多い。特に

教育においては改善の余地が多く残されている。男女格差が、他の南アジア諸国に比べ大きい

ことも「パ」国の特徴である。

こうした社会セクターにおける問題は、同分野における政府支出の低さも一つの要因となっ

ていると思われる。セクター別の政府支出を以下に示す。

資料表 3.4.2 各種貧困指標一覧

セクター 比率 データ年次

保健医療(対GDP比) 0.9% 1998年

教育(対GDP比) 2.7% 1995-97年

軍事・防衛(対GDP比) 4.4% 1999年

出典:UNDP, Human Development Report 2001

「パ」国の貧困状況を人間開発指標(HDI:出生時平均余命で測定される寿命、成人識字率

と初・中・高等教育の総就学率で測定される教育達成度、一人あたり実質 GDP で測定される

生活水準、の 3 つの指標に基づき算出される。)で見ると、2001 年の HDI の数値は 162 ヶ国

中 127 位であり、またジェンダー開発指標(GDI: HDI が平均的な達成度を測定するのに対し、

GDI は HDI と同様の寿命、教育達成度、生活水準において、女性と男性の不平等を示すため

に、平均的達成度を調整したもの。)は 146 ヵ国中 117 位である。

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2) 貧困の地域差

農村人口は総人口の 67.5 %を占め、都市人口比率は 1981 年の 28.3 %から上昇し、1998 年

には 32.5 %となった。農村の貧困率は 1987 -88 年には 18.32 %だったのが、1998 -99 年

は 34.8 %へと大幅に増加。また、都市でも 14.99 %から 25.9 %へと増加している。

人間開発指標(HDI)でみると一般的に都市のほうが農村よりはるかに高い水準を示してい

る。北パンジャブは南パンジャブより高い人間開発指標を示しているが(女性については同程

度)、南パンジャブの農村とシンドの農村の比較では顕著な差異は見られない。バロチスタン

の指標はおおむね低い

農業生産様式も州によって異なる。シンド州では封建的な生産様式が強く残っている。北西

辺境州とバロチスタン州の大部分では部族制が残っている。パンジャブ州では、土地の私有制

と小作制が混在している。シンドでは、地主による搾取は大きいが、農業労働者間での格差は

少ない。一方、パンジャブや北西辺境州では、自作農の耕作面積にかなりのばらつきがあるた

め、農民間での格差が大きい。

3) 貧困の性格

世銀のサンプル調査によれば、都市部においては、人口の 44%が賃金労働者、36%が自営業

者、20%が失業その他で、ホワイトカラーが貧困人口において最も低く、ついで熟練労働者、

臨時雇用労働者となり、貧困人口が最も高いのが 1000 ルピー以下の資産しか有しない自営業

者(51%)となっている。

農村部においては、64%の家庭が自作農であり、そのうちの貧困人口割合は最も低い。一方、

小作人は 13.6%を占め、貧困人口は 46%と高いものであった。農業労働者は 7%を占めるのみ

であったが、貧困人口は 56%とさらに高かった。農村における非農業セクターで貧困人口の

高いのは、臨時雇用労働者と、1000 ルピー以下の資産しか有しない自営業者であった。

都市部においても、農村部においても資産の保有状況と貧困とは密接に結び付いており、人

的、物的資本に最もかけている貧困層のグループが最も貧しいことがわかった。

貧困層は、人間開発指標においても低い数値を示している。識字率については、最低所得者

層は、19%と低く、高所得者層は、45%であった。初等教育への進学率も各々39%と 70%であ

った。貧困層は、教育へのアクセスが奪われているといえる。また、女性のほうが男性よりも

進学率は低くなっている。

1991 年の PIHS(Pakistan Integrated Household Survey) のデータによれば、乳幼児死亡率は

最低所得者層で最も高かったが(1000 人中 152 人)、2 番目の低所得者層と同じ数字であり、

また、高所得者層(1000 人中 113 人)とあまり変わりはない。乳幼児死亡率の場合には、む

しろ衛生施設、給水施設の質、母親の教育レベルと関係がある。(1000 人あたりの乳幼児の死

亡率は、母親が教育を受けている場合と、そうでない場合とで、それぞれ 81 人と 34 人であ

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った。)

4) 政府による貧困対策の問題点

貧困層の多くは農村に存在し、さらに農村地域の最貧層の多くは土地、資産を持たない非農

家層によって占められている。固定的な身分階層制度や、貧困層の資産へのアクセスにおける

阻害要因が存在するため、こうした貧困層が貧困の状態から抜け出すことが困難な状況になっ

ている。

したがって、貧困層が安定した収入源を獲得することを通じ、固定的な身分階層制度や不平

等な資産の分配状況を変えてゆくことを長期的な目標に据えて、貧困対策を検討する必要があ

る。貧困層の収入源確保のための対策としては、非農業分野における投資を通じた農村および、

農村近郊における雇用機会の創出や、小規模工業や自営業育成のための貧困層向け小規模クレ

ジットの拡大などが考えられる。しかし、こうした対策のみでは不十分であり、貧困層や貧困

地域が抱える問題(低い教育水準、社会、経済インフラの未整備など)が同時に解決されなけ

ればならない。国家開発計画における主要な貧困対策としては以下のものがある。

① 10ヵ年開発計画

「パ」国政府はこれまで累次にわたる5カ年計画によって国家開発の方向性を決定してきた

が、第8次5カ年計画(1993/94-1997/1998)期間終了間際の核実験とこれに伴う経済措置およ

び 1999 年のクーデターによる政治の混乱もあり、その後の5カ年計画は発表されなかった。

一方、2000 年 11 月からの IMF によるスタンバイ・アレンジメント融資が終了する 2001 年

9月以降、譲許的な IMF の貧困削減成長ファシリティ(PRGF)に移行するためには貧困削減

戦略ペーパー(PRSP)の暫定版(I-PRSP,2001 年-2004 年を対象)の作成が求められた。こ

れを受け「パ」国政府は、I-PRSP を「貧困削減」を究極的な目的とする政府の3ヵ年の政策

目標を説明する資料と位置付け、これまでの5カ年計画に変わるものとして 2001 年 11 月に完

成させた。このため、「パ」国政府は新しい国家開発計画として I-PRSP 策定にあわせて、2001

年9月に 10 ヵ年長期開発計画及び3カ年開発プログラムを策定した。

I-PRSP は「経済成長の実現」、「ガバナンス改革」、「所得創出機会の向上」、「人間開発の改

善」、「弱者への負の影響軽減」の5本柱になっている。また、貧困層を 2003 年までに 26%、

2008 年までに 15.2%に低減する目標が掲げられている。PRSP の最終版(F-PRSP)については、

当初昨年秋の完成を予定していたが、総選挙の実施等を理由に策定プロセスが遅延している。

F-PRSP のドラフトサマリーによると内容的には I-PRSP を発展させ形で、「経済成長の加速と

マクロ経済の安定の維持」、「人的資源への投資」、「狙いを定めた介入」、「社会的セーフティネ

ット」、「ガバナンスの改善と分権化」を戦略の柱としている。

② Khushal Pakistan Programme

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以前は農村・都市総合開発計画(Integrated Rural and Urban Development Programme)と呼ば

れていたが、2000 年になって名称が変更された。2000-2001 年の間の投資総額は 192 億ルピー

で、農村地域や都市の低所得者層の住む地域において、農産物のマーケティングを目的とした

地方道路整備や水供給システムの補修、既存初等・中等教育施設の補修、下水道整備、既存の

職業訓練センターへの機材供与、農村電化などの小規模公共事業の実施を通して雇用の促進が

図られるのと同時に社会基盤整備が行われている。

③ Social Action Program I,II(SAPI,II)

社会開発の遅れを改善するため、国際機関および先進国援助機関の支援を得て開始されたプ

ログラムで第一フェーズ(SAPI)は 1993-96 年に実施され、第二フェーズ(SAPII)は昨年終

了した。SAP は、初等教育、プライマリーヘルスケア、保健、家族計画、飲料水供給、衛生

の質と量の改善を目標としており、これを通じて、貧困緩和、男女格差の是正、社会サービス

へのアクセスの改善、環境の質の改善を目指した。

SAP は、プログラム実施上の改善のため、分権化を推進し、プログラムの実施主体として、

ローカルコミュニティーや NGO を積極的に活用することで、政府の政策やプログラムを州、

地方レベルで効果的に実施しようとするものである。また、ローカルコミュニティーの参加を

重視している。

SAP 以前の社会プログラムは、セクターごとに関連がなく、また、対象が住民組織ではな

く、個々の家計であることが批判されていた。たとえば、職業訓練だけでローンの供与がなけ

れば、生活の向上にはつながらないし、民主的な住民組織がなければ、効果的な社会サービス

のデリバリーや施設の維持運営管理は望めない。こうした反省に基づき、SAP では、プログ

ラムにおけるローカルコミュニティーや NGO の役割を重視した。

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(3) 女性問題

1) 「パ」国の女性の状況

① 男女格差

統計データに見る「パ」国女性の現状は、識字率、初等教育就学率、経済活動参加率におい

て、アジアの他の国々よりも劣っており、特に農村の女性の数値が低い。女性の人口は男性

100 に対して 93 にすぎず、女性比率は世界でも低い。女性の識字率は 30.0%で男性の 58.9%

の半分程度にとどまっており、初等教育の就学率も女児は42%と男児の87%に比較して低い。

誕生時の平均余命は男性 59.8 歳 に対し女性59.5歳 と、世界の大勢に反し女性の方が短い。

女児の5 歳未満の乳幼児死亡率は男児よりも高く、頻繁な妊娠による母体の疲弊や、高い妊

産婦死亡率(推定 10 万人当たり 500 人)は「パ」国の女性が命を縮める原因である。また、

法的地位もイスラム法において女性は不利な立場にある。女性の政治参加も法的には認められ

ているが現実には不十分であり、女性の社会参加も進んでいない。

このような命の長さに男女格差が生ずる背後には、不十分な保健・医療サービスや女性の行

動を規制する社会的規制ばかりでなく、男児を優先し女性を軽視する思想が社会に広くあるこ

とがある。男児優先の考え方は、出産時にダーイ(伝統的産婆)に支払う謝礼の額が男児の方

が高いといった差から始まり、成長過程における男児に対する意識的または無意識的な手厚い

保護に見られる。女児の後に生まれた男児の死亡率は最も低く、女児の後に生まれた女児の死

亡率は最も高いとの報告もある。

女性の労働力率は 15.2%に過ぎず、男性の 82.4%に比べて非常に低い。データに表れた労働

力率が必ずしも現実の女性の労働状況を正しく反映するものではないが、この低い女性の労働

力率は女性が経済的に自立する機会が限られていることを示している。

② 都市と農村の格差

人口の7 割以上を占める農村の女性は都市の女性より、人間としての生存のための基礎的

資源へのアクセスにおいて格段に不利な状況にあり、それは教育や保健・医療の指標に特に顕

著に表れている。農村の女性の約 8 割は非識字者であり、初等教育の就学率は 25%にとどま

る。中等教育の就学率に至ってはわずか 5%に過ぎず、これは将来、教員やヘルス・ワーカー

として教育や保健・医療の供給者となりうる農村出身女性が少ないことを意味する。農村の乳

幼児死亡率は都市部より 50%も高く、水や衛生といった住環境も劣悪な状況にある。

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資料表 3.4.3 就学率の男女・地域比(%)

都市部 農村部 全国平均 分類

男子 女子 男子 女子 男子 女子

初等教育 80 70 68 25 7.1 31

中等教育 55 35 20 5 N.A. 13

出典:World Bank(1996)

農村女性の労働の多くは無給であることに加えて肉体労働である。農村の女性は草取り、植

え付け、収穫、収穫後の保存などの農作業の他、家畜の世話を行っている。農業労働の機会は

季節的であり、農閑期には女性は刺繍、編み物、手工芸生産など寸暇を惜しんで現金収入につ

ながる仕事をする。農家の女性だけを対象にした農業センサスの結果は 60%の女性がこのよ

うな非農業部門の収入活動に携わっているとしている。これに農村居住者の5 割を占めると

見られる非農家層を加えると農村部の女性の非農業部門における収入活動への参加率はさら

に上がると思われる。その上人間の営みのための再生産活動も農村では重労働である。洗濯、

食事作り、水汲み、燃料用の薪集めや牛糞の乾燥、家の修理といった生活のための労働は、時

間がかかり、肉体を酷使する労働である。このように農村部の女性は都市部の女性と比べてよ

り肉体的に厳しい環境にある。

2) 法及び行政

① 法と女性

「パ」国憲法(1973)においては男女平等が強く示され、女性の保護を推進することを国の責

務として以下のように規定している。

第 25 条「すべての市民は法の前に平等である」「性に基づく差別はこれを行わない」「本条

は国が女性と子供の保護のために特別の措置をすることを妨げるものではない」

第 32 条「国は地域住民から選ばれた代表よりなる地方自治組織を奨励する。その際、農民、

労働者、女性には特別代表枠を設ける」

第 34 条「国は女性が国のあらゆる場面に完全に参加できるよう措置を講ずる」

このような世俗法と並んでシャリーア(イスラム法)があり、男性のみの判事によるイスラ

ム法廷で裁かれる。シャリーアは 1980 年代以降のイスラム化とともに導入され、女性の行動

を法的に縛っている。さらに 1991 年にはシャリーアが世俗法に優先することが決められ、多

くの女性が反対した。このシャリーアの規定にもかかわらず、憲法で保障された女性の権利は

変わらないとも決められており、法制度上の不整合を残している。

② 行政のジェンダーへの取り組み

女性開発局(Women’s Division)は「パ」国政府の女性局として 1979 年に設立された。国連

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婦人の 10 年(1976-1985)の際、女性の地位向上の必要性を認識した政府は 1989 年、女性開

発局を省(The Federal Ministry of Women Development)に格上げした。1996 年には、社会福祉・

教育省(Ministry of Social Welfare and Special Education)と合併し、女性開発・社会福祉・特殊

教 育 省 ( The Federal Ministry of Women Development, Social Welfare and Special

Education :MOWD)として再編された。MOWD が実施しているプロジェクトには対象にした

コミュニティセンターの設立、識字率向上センター、協同組合の組織化等がある。開発省の職

員はほとんどが男性であり、専門家は居らず、研修が必要な状態である。現行の開発 10 カ年

計画でうたわれている男女機会均等の推進による開発への女性の参加・役割強化を推進してい

くためにも、MOWD は監督機関として、今後組織能力を強化し、開発過程におけるジェンダ

ーの視点の統合を推進するための政策枠組みを提供していくことが必要である。

3) 開発計画におけるのジェンダーへの取り組み

開発 10 カ年計画では、目標年次である 2011 年までに女性の識字率を現在の 32.6%から 67%

まで引き上げるとしている。特に社会セクターにおける性差別を除き、女性の地位向上に勤め

ることを明記している。そのため以下の 4 つの項目を主要な取り組みの対象としている。

① 農村部の女性の環境改善

農村に住む女性は都市部にすむ女性に比べて人間としての生存のための基礎的資源へのア

クセスにおいて格段に不利な状況にある。そのため、かれらは貧困に苦しみ、劣悪な社会サー

ビスに甘んじている。農村部の女性の識字率は 20.8%であり、これは世界で最も低い値である。

この識字率の低さは貧困や教育の機会へのアクセスがないこと、早婚や女性に差別的な社会規

範に起因している。

② 女性の教育

女性の教育についてはこれまで改善の努力はされていたが、識字率の男女の差は歴然として

いる。1998 年のセンサスによると全体で 45%で、その内訳は男性 56.5%、女性 32.6%である。

一方、農村部の女性の識字率は 1981 年当時 7.3%であったが今回 20.8%まで向上したことが判

明した。200-01 年の少女の初等教育(primary level)への就学率は 70%に対して男の子は 96%

であった。Elementary level では 46%に対して 67%、さらに中等教育で 27%に対して 42%と

いずれも男女に大きな差が見られた。

③ 女性の保健・医療

特に農村部に住む「パ」国の女性は栄養不良、出産にともなう不適切な医療、女性医師を含

む医療スタッフの不足、高い出産率、医療情報の不足、適切な家族計画の指導、非衛生的な環

境、重労働、家族からの暴力、貧困等劣悪な環境におかれている。これらの要因は全て農村部

の女性の健康に悪影響を与えており、出産時の母親の死亡率は 1 万人あたり 400 人、幼児死亡

率は 1000 人あたり 90 人と依然高い数値を示している。

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④ 女性の経済的な地位向上

特に農村の女性は経済的活動に従事している割合が高いにもかかわらず、家族労働者として、

無給であるためにその経済的活動が認識されにくい状況になっている。

以上の取り組みを実際に遂行するための具体的なプログラムとして以下の計画が提案され

ている。

資料表 3.4.4 各種貧困指標一覧 項目 基本戦略 具体的方針

雇用促進による女性の社会進出

・ 国家方針の整備 ・ WIDのための戦略策定 ・ 管理システムの整備 ・ 女性研修センターでの技

術資源の創出 ・ 中央政府、地方政府に対す

るジェンダー啓蒙 ・ 女性議員の能力向上

・ 関係機関における政策形成 ・ 分野毎のプログラムへのジェンダ

ーの視点導入 ・ ジェンダー関連のデータベース構

築 ・ 女性研修センターの改善 ・ 女性議員に対するオリエンテーシ

ョン実施 ・ ジェンダー啓蒙に関する研修実施

女性と貧困問題 ・ NPAの実行 ・ 女性の経済的自立

・ ジェンダー及び貧困削減プロジェクト ・ さまざまな窓口による小規模融資

の実施 ・ モニタリング及び評価

女性の人権 ・ 家族保護計画 ・ 女性の地位確保 ・ 啓蒙活動

・ 危機管理センター、法的な支援を含む計画の整備

・ マスメディアによる啓蒙活動

出典:GOP,10ヵ年開発計画(2001-11)

6) 国際援助機関の取り組み

ジェンダーに関する海外援助機関としては UNDP,CIDA,ノルウェー、ADB,DFID,などがあり、

例えば ADB は北西辺境州において家族福祉プロジェクト( Family Welfare Project)を通じて家

庭内暴力の防止、男性の意識改革、女性差別に関する適正なリポートの促進などを行っている。

JICA ではジェンダーに取り組む NGO の活動を支援するために現地 NGO である BEHBUD と

基本アグリーメントを結び 3 年間で約 1500 万円の予算で開発福祉の目的で活動を行なってい

る。具体的にはラワルピンジーの 3 つのスラムで女性開発センターを設立し、健康、スキル開

発、法律相談などを行っている。

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(4) 農業の環境問題

1) 「パ」国農業の環境面の問題点(塩害・湛水害による耕地の劣化)

大規模な灌漑ネットワークの存在にもかかわらず、「パ」国農業の生産性が低い原因のひと

つには水不足及び非効率な水利用があり、灌漑・排水セクターにおける問題点としては人口増

加に伴う水不足、低い灌漑効率・不公平な水配分とならんで、湛水害および塩害があげられる。

「パ」国では長期間にわたる用水路灌漑の結果、地下水位の上昇が塩害と湛水害を引き起こ

すこととなった。その解決方法として、1960 年代に体系的排水路の建設と地下水の水位を下

げるための動力揚水機の設置の二つの方法が検討され、後者の方法が採用された。しかし、抜

本的な解決にはなっておらず、特にシンド州では深刻な状態にある。「パ」国における塩害・

湛水害の分布状況を資料表 3.4(3)-4~5 に示す。

資料表 3.4.5 塩害地域の分布(単位:千 ha)

州 弱い塩害 塩害・ソーダ質 強い塩害 非常に強い塩害

パンジャブ州 464.6 168.5 911.7 69.0

シンド州 333.6 214.4 846.5 112.2

北西辺境州 2.4 1.7 9.6 -

バロチスタン州 0.6 11.9 12.0 -

全国 801.2 396.5 1,779.8 181.2

出典:Agricultural Statistics of Pakistan 1992- 93

資料表 3.4.6 湛水害地域の分布(単位:千 ha)

州 (150cm 以下 ) (300cm 以下)

6 月 10 月 6 月 10 月

パンジャブ州 648 1,074 3,089 3,789

シンド州 1,600 3,666 4,714 4,952

北西辺境州 44 61 168 194

バロチスタン州 100 119 225 217

全国 2,392 4,920 8.196 9,152

出典:Agricultural Statistics of Pakistan 1992- 93

民営化の一環として塩害、浸水害対策用の公的動力揚水機の民間への払い下げが行われてい

るが、これは地下水資源の保全管理上の問題を残している。また、末端用水路を部分的に舗装

し、送水効率を上げ、地下への浸透を減少させて地下水位の上昇を抑える方法がとられている。

しかし、最も塩害と浸水害のひどいシンド州に集中して行われておらず、また、幹線用水路か

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ら末端用水路までの一環した対策とはなっていない。

用水管理は、かつては村落レベルで行われていたが、均分相続によって耕地の細分化が生じ、

番水制が複雑になるにおよんで州政府の管轄するところとなった。また、私的揚水灌漑の発達

は個人の自由度を増加させることにより、村全体の水管理を困難にしている。バロチスタン州

では動力揚水機を用いた深井戸によるカナート(旧来の地下用水路)の代替過程が急速に進行

している。用水管理に対する村社会がもっている伝統的機能を近代的仕組みの中にとりこむ努

力と同時に、用水価格の適正化を進めることによって水資源の稀少性とその管理の重要さを認

識させる必要がある。

塩害、湛水害への長期的取り組みとしては開発 10 カ年計画(2001-11)の中で湛水害・塩

害対策として、排水プロジェクト(Salinity Control and Reclamation Projects: SCARPs)が盛り込まれて

いる。これは地下水位が 1.5m 内の地域を対象に埋め立てによって適正な投資を行い、農地と

して改善するもので、対象面積は 2.67 百万ヘクタールである。この計画では排水路もあわせ

て建設される。資料表 3.4.7 は 1998 年当時の各州の地下水位データである。

資料表 3.4.7 湛各州の地下水位データ(単位:千 ha)

州 0-90cm 0-150cm 0-300cm 300-600cm >600cm

パンジャブ州 103 594 3,167 4,028 2,769

シンド州 6 30 182 116 290

北西辺境州 171 1,742 4,991 664 80

バロチスタン州 45 92 221 107 3,210

全国 325 2,458 8,561 4,915 3,210

出典:GOP,開発10カ年計画(2001-11)

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(4) カチアバディス問題

1) カチアバディス問題

カチアバディスはかつてないほどの人口増加と都市への人口流入および低所得者のための

住居不足によって引き起こされている。「パ」国全土に 2,242 箇所のカチアバディスが存在し、

36,022 エーカーの地域に 510 万人の人々が生活しており、都市に住む人々のうちカチアバディ

スもしくは公的なインフラをもたない地域に住む人の割合は都市人口の 35~50%と推定され

ている。過去においてカチアバディスが増加してきた理由としては住居の提供システムの不足

と貧困が直接的な原因とされている。カラチ、ラホール、ハイドラバード、ペシャワール、ク

エッタなどの主要都市では人口のうち 40%がカチアバディスに住んでいる。

カチアバディス問題と取り組むために、「パ」国政府は1985年3月に「カチアバディス

政策」を発表し、少なくとも 40 軒で構成されているカチアバディスに住む居住者のうち、1985

年 3 月 23 日現在居住している者には”Regularization of katchi Abadis”によばれる手続きによっ

て、土地の所有権を与えられることになった。さらに基本的なインフラ開発費用を3ヶ月以内

に支払えば50%の割引を受けることが出来る特典も用意された。

このカチアバディス政策の発表を受けて、国レベルでは環境地方自治開発省内にカチアバデ

ィス対策本部が設置された。一方、州レベルではシンド州には、カチアバディス公社、パンジ

ャブ州ではカチアバディス土地開発局、北西辺境州とバロチスタン州にはカチアバディスプロ

グラム実施のための特別な部署が設置された。またカチアバディスに関する法律がパンジャブ、

シンド、バロチスタン各州で整備された。

2) 地方政府のカチアバディスに対する取り組み

① パンジャブ州

パンジャブ州では都市住民の約 30%がカチアバディスに住んでいる。パンジャブ州では地

方開発局の下にカチアバディス・都市環境改善局を設置した。パンジャブ州では 1,0312 エー

カーの土地に 949 箇所のカチアバディスがあり、パンジャブ州当局はこのうち 412 箇所につい

てカチアバディス認定を行い、330 箇所は手続きの進行中である。

② シンド州

シンド州では、約 40%の都市住民が 25,710 エーカーの土地に 1,293 個所のカチアバディス

に 572,538 世帯(約 350 万人)が生活している。2000 年 3 月現在、カチアバディス認定資格を

もつ 1,157 箇所のカチアバディスのうち 929 箇所に対して通知済み、623 箇所が手続きを終え

ており、486 箇所のカチアバディスに対して環境改善工事が完了した。土地の占有許可は

129,486 世帯に対して出され、5 億 3 千万ルピー以上の借地料金は徴収済である。

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③ 北西辺境州

北西辺境州では 1985 年のカチアバディス政策発表時にはカチアバディスは存在しなかった

が、その後ペシャワールにおいて 500 世帯、4,200 人 17 エーカー以上の面積を持ったカチアバ

ディスが確認され、続いて 1,341 エーカーの面積をもつ 34 箇所以上の未整備地区が確認され

た。この未整備地域では電気、水道等基本的な都市インフラがない状態で、30,012 世帯 226,280

人の人々が生活している。このような未整備地区に対する改善事業予算としては 2 億 5 千万ル

ピーである。

④ バロチスタン州

バロチスタン州のカチアバディスは Quetta に 16 箇所、Pasni に 12 箇所、Ormara に 5 箇所、

Jhatpat に 9 箇所その他で確認されている。それらの地域に 38,562 世帯、390 万人が生活して

いる。これらのカチアバディスでは道路の整備不良、上下水道、廃棄物処理の面で問題が指摘

されている。

3) アフガン難民問題

今回現地調査を実施したペシャワールではむしろアフガンの難民問題の方が深刻である。ア

フガンからの難民流入の歴史は古く、すでに約 25 年が経過している。「パ」国でのアフガン難

民に対する救済活動は国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)をはじめとしてWHO,WF

P,ユニセフ、UNDP,ILO,等の多数の国際機関によって実施されている。1995 年に

一旦UNHCRを除くすべての国際機関が撤退したが、2002 年 9 月 11 日のアメリカでのテロ

を機に難民流入が増加したため、再開された。しかし、それ以降も東チモール、コソボ、アフ

リカ各地での紛争勃発やイラク問題などが続いたため、国際機関の関心は分散する傾向にある。

ペシャワールが位置する北西辺境州内では現在約 140 万人の難民がいくつかの難民キャン

プに分かれて暮らしている。UNHCR の支援のもと Afghan Refugee Comissionarate (アフガン難

民委員会)はシンド州を除く 3 州において活動を実施している。アフガン難民委員会の難民政

策の基本は移転、移住を含む本国送還であるが、送還は進んでおらず 2002 年の目標の 600,000

人の送還は結局 300,000 人に終っている。

2001 年からの UNHCR とアフガニスタン政府の支援による周辺各国からの難民のアフガニ

スタンへの帰還人数は 220 万に上っている。そのうち、「パ」国に住んでいたアフガン難民は

約 300,000 人で、支援を受けずに帰還した難民も約 100,000 人存在する。帰還難民のうち 30~

40%は自分の故郷での戦禍を恐れてカブールやその周辺に戻っているものとされている。その

ため、カブールの人口は米軍主導によるタリバン制圧に伴う攻撃が始まった 2001 年のころに

比べて 2 倍以上の約 300 万人に膨れ上がっており、生活環境の悪化(電気、水道)が懸念され

ている。主なアフガン難民及び国内避難民の数は以下の通りである。(いずれも 2001 年 9 月

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10 日現在国連アフガニスタン人道援助調整事務所(UNOCHA)調べ。)

資料表 3.4.8 国別アフガン難民数

難民 人数

イラン 1,500,000

「パ」国 2,000,000

ロシア 100,000

中央アジア諸国 29,000

ヨーロッパ 36,000

北アメリカ /オー

ストラリア

17,000

インド 13,000

合計 2,695,000

資料表 3.4.9 アフガン国内避難民数

国内避難民 出身地域 人数

バダフジャン 周辺地域 94,000

北部地域 周辺地域 387,000

ハザラジャート地域 ハザラジャート地域およびそ

の周辺地域

75,000

ヘラート 北西部 200,000

南部諸州 アフガニスタン各地 200,000

合計 956,000

4) ペシャワールにおけるカチアバディス問題

カチアバディスは「パ」国国内の主要大都市周辺に散在しており、公衆衛生面で大きな問題

になっているが、ペシャワールでは正確な意味でのカチアバディスは存在しないと言える。つ

まり、伝統的な泥つくりの家は特に都市周辺部では見られるが、全て私有地に建設されており、

その意味ではカチアバディスとは認識されてない。今回、現地調査で訪れた”Kacha Garhi

AfuganRefugees Camp”では電気、上水道の供給があり、病院、学校施設も完備されていた。そ

のため、住環境としては「パ」国国内の「カチアバディス」にくらべて良好であるといえる。

しかし、例えば、イランではアフガン難民の労働は許可されていないが、「パ」国では認めら

れているため、「パ」国人との間で雇用機会の競合が起きており、社会的な対立の原因となっ

ている。

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5) イスラマバードのカチアバディス問題

イスラマバードではカチアバディへの対応は取り壊しを伴う移転と住環境改善の 2 つの基

本方針のもと、首都開発庁(Capital Development Authority: CDA)が担当している。現在イスラ

マバードにはアフガン難民キャンプ 1 箇所を含む 11 箇所のカチアバディスがあり、アフガン

難民キャンプを除く 10 箇所のカチアバディスについては 6 箇所を改善、4 箇所を移転するこ

とになっている。

資料表 3.4.10 イスラマバードのカチアバディス一覧

NO 名称 所在地 世帯数 対策

1 Tent Colony G-7/1 315 改善

2 66Quarters G-7/2 423 〃

3 48 Quarters G-7/3 98 〃

4 Katchi Abadi G-8/1 575 〃

5 100Quarters F-6/2 300 〃

6 France Colony F-7/4 431 〃

7 Essa Nagri I-9/1 213 移転

8 Dhok Najju I-10/4 182 〃

9 Hag Bahu I-11/4 243 〃

10 Muslim Colony East of PM house 1,025 〃

合計 3,805

① ムスリムコロニー

移転予定のムスリムコロニーはもともと 30 年前にカシミールから移ってきた人々が定住し

た地域で、井戸は 24 箇所あるが、その他電気、下水道等の施設はない。Alipur Frash に移転予

定であり、移転期日は調査当日であったが、住民に対するインタビューの結果、費用負担が不

可能であるため実施できていない状態であった。移転に際しては 1 世帯あたりユーティティ整

備費として 8,000Rs が徴収され、さらに移転先の土地のリース代 13,000Rs(5 年契約)を支払

うことが必要で現状の住民の生活レベルで支払うことは不可能である。移転先の土地は 5 年後

にそのときの実勢価格に基づいて CDA から土地譲渡を受けることになる。

② テントコロニー:66 quarter

2 箇所とも改善予定のカチアバディスであるが、電気、水道は不十分ではあるが、すでに設

備がある。電気は世帯数に応じて定額が徴収されている。

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4. 環境政策

4.1 NEAP – SP

NEAP – SP の6グループは、資料 図 4.1. 1 の組織図に示すように、各サブプログラムはそれ

ぞれ環境省、環境省下の機関あるいは州政府機関にマネージャーを置いて立案・計画され、各 SP

毎の実施委員会(Support Programme Implementation Committee : SPIC)で採択された計画は、計画

省や州政府調整メンバーからなるプログラム管理実施ユニットとの調整を経て、年 4 回の

NEAP-SP 運営委員会(Programme Steering Committee: PSC)にかけられ、管理、作業計画、予算、法

的拘束、政治的な解決等が審議される。この時点で、環境セクターの国際支援機関からなるグル

ープ(Environment Donors Coordination Group: EDCG)と資金提供先を調整する。

以上のプロセスは、UNDP 主導で運営されている。

2002 年 9 月(第 1 回)および 2003 年 4 月(第 2 回)のプログラム運営委員会において実施が

承認されたプログラムを示す。

2 回の委員会で合計 25 件、約 10 億 Rs.のプロジェクトが承認されているが、約 45%を占める

EPA の組織・施設強化プロジェクトを除けば、環境汚染対策(SP2)、生態系管理(SP3)、草の根活

動支援(SP4)の各分野がそれぞれ 15%前後の配分となっている。

NEAP-SP は、環境と貧困の関連に基礎を置いた NEAP の実現化を促進するための枠組みであり、

従来プロジェクトの計画、州政府の承認、連邦政府の承認、国際機関からの支援交渉という過程

に長期間を要することが多かったことに対して、よりスピーディにかつ的確にプロジェクトを実

施段階に移行できるシステムとして創設されている。しかし、上記承認はプロジェクトの妥当性

を審査した結果であるが、国際援助機関からの財政的な支援については、承認後 UNDP の率いる

EDCG との交渉が必要であり、UNDP 独自の支援規模も限られていることから、実際に資金援助

が決定しているプロジェクトは少ない。

承認されたプロジェクトは、それぞれ「パ」国国内の実施機関が考える環境問題解決に向けた

ニーズを反映しているものではあるが、資金的な裏付けを得るためには支援機関の援助方針やス

キームとの調整をプロジェクト形成の段階から取り入れていないことが問題と考えられる。

このため、現状では依然従来方式での対外支援要請手続も主要なものとして存続している。

また、一方では NEAP-SP の枠組みのなかでも EDCG の調整を経ないで、二国間援助を採択す

る方法も検討されている。

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資料表 4.1. 1 List of Projects (Approved in PSC held on 12.9.2002)

S. No. Name of Proposal Cost (Rs. In Million)

1 Promotion of Environmental Education at School and Collage Level 26.988

2 Environmental Awareness and Education in AJK 22.706

3 Vehicular Emission Control Program 29.000

4 Monitoring Forest and Land Use by using Geographical Information System and Remote Sensing in Pakistan

56.894

5 Rehabilitation Indus Delta Mangrove Ecosystem 25.400

6 Ecosystem Management and Natural Resource Conservation in Deh Akro-II Wildlife Sanctuary

20.000

7 Establishment of National Botanical Garden at Islamabad: Phase-I 4.000

8 Increasing Tree Cover on the Farmlands of Punjab with the involvement of Local Communities

28.560

9 Industrial Energy Conservation Technical Training Programme 25.920

10 National Programme on Boiler Efficiency Improvement 33.500

11 Implementation of Environment Friendly activities through Community Participation on a Sustainable Basis, under NEAP-SP

182.029

12 Strengthening of EPAs 445.000

13 Construction of Sewerage Treatment Plant and Rehabilitation of Existing Pump Station & Sewerage System in Kasur

12.000

14 Establishment of Mobile Vehicular Emission Testing Station for Zonal Office of EPA

8.5000

TOTAL COST 920.497

資料表 4.1. 2 List of Projects (Approved in PSC held on 23.4.2003)

S. No. Project Title Cost (Mill Rs) Related to

1 Installation of 100 Pully Hand Pumps in Village Nasitta/Miangan Village, Charsadda

0.225 Grassroots

2 Promotion of Agroforestry and horticulture through Community Participation / Takht Bhai

0.265 Grassroots

3 Environment & Natural Resource Management System, Rajkot (Muzaffarabad)

0.450 Grassroots

4 Protection and Commercial Harvesting of Medicinal Plants in Babusar Valley Chilas

0.540 Grassroots

5 Construction a Pipe Irrigation Water Channel, Murtazabad (Khawardu) Sakurdu

0.672 Grassroots

6 Community, District / Teshil Government & PVDP Based Initiative for Improved EM&NRC/20

0.486 Grassroots

7 25/75 Environment Improvement Programme Under Self Monitoring & Reporting System

51.270 Pollution Control

8 Rehabilitation of Rangelands of Pothwar Tract of Punjab through Participation of Local Communities

24.154 Ecosystem Mgmt & NR

9 Utilization of Water from M-2 Dam for Irrigation & Drinking Purposes, Introduction of Energy Conservation through Drip Irrigation, Slopping Agriculture Land Technology & Plant Based Cottage Industry in Islamabad Capital Territory

2.172 Energy Conservation

10 Installation of Afridev hand pumps (deep hand pumps for drinking water) 41.520 Pollution Control

11 Establishment of National Botanical Garden at Islamabad Phase-I 4.000 Ecosystem M & NR

TOTAL 125.754

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資料 図 4.1.1 NEAP-SP 組織図

PIU 1 - DG (MOE)

Sub-Programme Manager/Environment al Policy Governance Expert, Policy Officer, Secretary, Driver

SPD 1

PIU 2 - Federal & Provincial EPAs

Sub-Programme Manager/Pollution Control Expert, Accounts Assistant, Secretary, Driver

SPD 2

PIU 3 - IG(F)/Prov. Forest Departments

Sub-Programme Manager/Eco-System Expert, Accounts Assistant, Secretary, Driver

SPD 3

PIU 4 - Islamabad ENERCON

Sub-Programme Manager/Energy, Accounts Assistant, Secretary, Driver

SPD 4

PIU 6 - DG (MOE)

Sub-Programme Manager/Coordination, Secretary, Driver

SPD 6

SPD 5B

PIU 5 - Provincial P&G Departments

Quetta Sub-Programme Manager/Drought Expert, Accounts Assistant, Secretary, Driver

Karachi Sub-Programme Manager/Disaster Mgmt Expert, Accounts Assistant, Secretary, Driver

SPD 5A

STEERING COMMITTEE

Chairman : Secretary, MoELGRD Environment Donors Coordination Group

NEAP Support Programme Coordination Unit

Member (Sustainable Development through Environment Section Planning Commission)

Punjab EPD National Institutions, Provincial Line Departments, NGOs, Private Sector

NWFP EPA

Sindh EPA

Balochistan EPA

Programme Management &

Implementation Unit

NPM ANPM Provincial/Reg Coord * Administrative Assistant Finance Assistant Secretary Drivers(1)

Additional Secretary MoELGRD National Programme Director

* To be based in provinces to assist all the Sub-programme Manager

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4.2 環境関連法規および制度

(1) 環境保護法(PEPA-97)

唯一の環境法規であった環境保護法令(PEPO-83)が基礎的な環境組織の設立と高次の政策決定

に限られていたため、連邦および4州に環境保護庁(Environmental Protection Agencies: EPAs)が設

置され、環境基準(NEQS)の運用開始や環境アセスメントが実施に移されたものの、財政、人員の

不足から十分に機能してはいなかった。

1997 年制定の環境保護法は、環境に関する広範囲の汚染防止・管理のための包括的法律として

制定され、環境裁判所や環境執政官および汚染者責任による課徴金制度、市民が受けた環境損害

に対する裁判制度などを規定した。また、具体的な環境施策の実施は、州持続的開発基金

(Provincial Sustainable Development Fund)の設立などと併せて地方分権化により各州政府に委ね

られることとなった。

この法律で定める主な項目は以下のとおりである。

1) 国家環境保護審議会の設置と機能・権力の規定

2) 国家環境保護庁の設置と機能・権力の規定

3) 州政府環境保護局の設置と機能・権力の規定

4) 州持続的開発基金の設置と管理

5) 特定排出物と放出物の禁止、汚染課徴金制度

6) IEE/EIA

7) 危険廃棄物の輸入禁止・危険物の取扱い

8) 自動車の規制(基準以上の排出ガス、騒音に対する軽減装置の設置、適正燃料の使用)

9) 環境保護指令書(Pak-EPA, P-EPA が汚染者に出す改善命令)

10) 罰則:最大百万Rs. の罰金。改善されない場合には1日あたり最大 10 万 Rs の追徴金。環

境裁判所における環境執政官による裁定。など

11) 監督する公務員等による共謀や見逃しに対する裁定

12) 環境裁判所・環境執政官の設置と法的権力、裁判所・執政官への訴え

13) 環境保護令(PEPO-83)の廃棄

(2) 環境基準(National Environmental Quality Standard)

「パ」国の環境基準(National Environmental Quality Standard:NEQS,1993)は、1993 年に「パ」

国国環境保護条例(Pakistan Environmental Protection Agency Ordinance, 1983)の規定に従って見直

し、制定されている。この基準はさらに排ガス・排水規制値が見直しされ、2001 年に改訂版が公

布されている。

NEQS は、①都市下水・工場の排水基準(NEQS for Municipal And Liquid Industrial Effluent)、②

工場排ガス基準・一般大気環境基準(NOx のみ)(NEQS for Industrial Gaseous Emission)、③自動

車排ガス・騒音基準が定められている。

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各環境基準値については、大気質、水質、その他公害の章で示した。

(3) 環境影響評価(IEE/EIA)

「パ」国における環境影響評価(初期環境影響評価 IEE/環境影響評価EIA)は、「パ」国環境

保護法に基づいた環境影響評価法(Pakistan Environmental Protection Federal Agency Review Of

Initial Environmental Examination And Environmental Impact Assessment Regulations,2000)及び環境ア

セスメント手順書(Policy and procedures for the filing, review and approval of Environmental

assessment, 2000)があり、これらに従って実施されることとなっている。

なお、IEE/EIA を実施するにあたっては、下記ガイドライン等を活用して進めることが求め

られている。

① 環境影響報告書の作成と審査のためのガイドライン(Guideline for preparation and review of

Environmental Reports)

② 公聴会開催のためのガイドライン(Guideline for public consultation)

③ 環境影響を受けやすい地域及び環境汚染が著しく進行している地域に対するガイドライン

(Guideline for sensitive and critical areas)

④ 国家環境基準(National Environmental Quality Standard)

(4) 州持続的開発基金 (PSDF)

PEPA-97 で規定されたこの基金は、各州に設けられ、連邦政府、州政府からの供与・借款や国

際援助機関からの特定の義務を伴わない資金提供および民間からの寄付によって運営される。

PSDF は、環境関連のプロジェクトを支援する目的および委員会の意見に従って PEPA の目的に

かなう環境目標の達成のために使用される。

因みに、NWFP では 2003 年度 3 百万 Rs を SDF の維持に予算を割き、スイス開発庁(SDC)

は 5 百万 Rs.の無償資金提供をプリッジしていると言われている。

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4.3 環境関連機関

MOELGRD、各州 EPA 以外の環境関連機関として以下のような組織があげられる。

(1) 連邦政府機関

① 食糧・農業省

灌漑用水利用の効率化による湛水被害、塩水化の軽減

② 保健省

健康と環境の行動計画策定及び水因性疾病の疫学調査と予防

③科学技術省

医療廃棄物の管理(環境省との共同によるガイドライン、焼却施設設置マニュアル作成)

④ 科学技術省 水資源研究所

全国水質調査(飲料水源)の実施

(2) 州政府および郡政府

① 州政府自治・地方開発部

地方分権政策により、実際の環境関連プロジェクトの立案・計画・実施を行う責任を有する

組織である。

② 県(District)

給水、廃棄物回収・管理など市民行政サービスを実際に行う。運営維持費は、市民から戸別

に徴収してまかなう原則であるが、種々の要因で十分なサービスを確保できていないことが多

い。特に、廃棄物最終処分場の新規確保など多大な予算を必要とする事業には、州政府の資金

提供が必要であるが、一般に州財政の対応は不充分である。

(3) 国際支援機関

① UNDP

2002 年より5年間の NEAP-SP に対して総額 42 百万ドルの資金援助を表明し、準備、組織

運営、技術的支援を行うほか、SDC, NORAD, SIDA など環境援助調整グループをリードしてい

る。

② SDC

NWFP、北部地域を中心に保全戦略の策定、森林資源の持続的管理、貧困削減等のプロジェ

クトを継続して支援している。

③ GTZ

過去 30 年以上の支援実績があるが、1998 年に「パ」国の核実験に際して中断した活動は、

2000 年 10 月にドイツが「パ」国をパートナー国家と認めたことにより、再開された。1998 年

以前は、NWFP での貧困地域での住民参加型廃棄物管理プロジェクトや車輌排気ガス検査所の

設立など環境関連プロジェクトを含む持続可能な開発のプロジェクトに対して支援していた

が、2000 年以降はデモクラシーの向上、市民活動や行政能力の強化、教育・保健分野へ支援の

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方向性をシフトしている。

(4) 公的な独立機関

カラチ港監督署海洋汚染監督部(Marine Pollution Control Department, Karaci Port Trust (KPT))

連邦政府の独立機関であり、港湾の環境保全のための監督を行い、港湾内の廃棄物処理、流

出オイルの回収処分の他、流入河川からのゴミの処分、入港する船舶からの排出監視などを行

い、近年は周辺のマングローブ林保護活動も行っている。

(5) NGO など

① 「パ」国環境保護財団(PEPF)

NGO ではあるが、無給で奉仕する政府高官退職者を中心として組織され、財政的には連邦

および州政府からの拠出金を主な資金として活動している。活動内容は、環境教育、環境キャ

ンペーンなど環境意識向上のための衆知活動や顕彰活動が主体である。

② 国際自然保護連合 (IUCN)

1980 年代から、「パ」国政府の要請により NCS 制定に携わり、92 年の NCS 制定後も政府機

関と NGO をメンバーとして自然環境保護分野を中心に連邦政府、州政府の環境プログラムに

ついて計画・実施・管理を行っている。

③ 世界自然保護基金(WWF)

これらの他、特に森林保全等の生態系保全分野や環境教育分野においては、多くの国内およ

び国際的 NGO が活躍している。

(6) 民間

パキスタン皮なめし業組合(PTA):

オランダ開発庁と連邦政府・シンド州政府から資本の9割を受けて、カラチの工業地帯に集

中する皮なめし業工場 100 社以上の排水を対象とした処理施設を建設中であり、来年の完成を

予定している。

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5. 環境問題の現況

5.1 自然環境

(1) 森林・砂漠化

1) 森林の現状

① 森林の分類

国連環境計画国際環境技術センター(UNEP)のカントリーレポートに拠れば、「パ」国の森

林は高山低木林、針葉樹林、亜熱帯乾性樹林、熱帯有刺低木林、灌漑植林、河畔林、マングロ

ーブの7つの森林タイプに分けられる。川岸と河口部のデルタ地帯には河畔林・マングローブ

林、湿度の高い丘や山岳地帯にはマツ等の針葉樹林、標高 1,000mまでは亜熱帯乾性林が優占

し、標高 1,000mから 4,000mは針葉樹林が分布する。森林限界より上は背の低い高山低木林と

なり、さらに高い場所は草原となる。

なお、自然環境分野の報告においては、国際的に「パ」国領土として示されていないノーザ

ンエリア、AJK を含んだ範囲を包含している。

資料表 5.1. 1 生態ゾーン

タイプ 主な分布域 主な樹種

高山低木林 (北部地方) チトラル(Chitral)、スワール(Swar)、ディル(Dir)、コヒスタン(Kohistan)

モミ属の一種(Abies webbina) ネズ属の一種(Juniperus spp.)

(標高 1,000~4,000m) NWFP、パンジャブ州のラワルピンディ地方

モミ属の一種(Abies spp.) トウヒ属の 1 種(Picea smithiana) ヒマラヤスギ(Cedrus deodara) ブルーパイン(Pinus wallichina) チールパイン(Pinus roxburghii)

針葉樹林

バロチスタンの丘 チルゴザパイン(Pinus gerardiana) ネズ属の一種(Juniperous macropoda)

亜熱帯乾性樹林 (~標高 1,000m) パンジャブ州、NWFP、バロチスタン州のスライマン(Sulaiman)山脈

ピュライ(Acacia modesta) カウ(Olea cuspidata) ドノエニア属の一種(Donoenia viscosa)

熱帯有棘低木林 (サボテンなど)

主にパンジャブ平原

アカシア属の一種(Acacia spp.) サルバドラ属の一種(Salvadora oledes) プロソピス属の一種(Prosopis Cineraria) フウチョウボク属の(Capparis aphylla)

灌漑植林 パンジャブ州など ヒルギカズラ属の一種(Dalbergia sissoo) マルベリ(Morus alba) バーブル(Acacia nilotica) ユーカリノキ属の一種(Eucalyptus) ポプラ属の一種(Populus spp.)

河畔林 一般にパンジャブ州からシンド州にかけてのインダス川河岸

バーブル(Acacia nilotica) シシャム(Dalbergia sissoo) ギョリュウ属の一種(Tamarax dioca)

マングローブ林 インダス川デルタ地帯 ヒルギダマシ属の一種(Avicennia officanilis) コヒルギ属の一種(Ceriops) ヒルギ属の一種(Rhizophoras)

出典:UNEP Web site http://www.rrcap.unep.org/lc/cd/html/countryrep/pakistan/introduction.html

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② 森林面積及び植生

「パ」国の森林、雑木林、農地の林の面積は合わせて 4.28 百万 ha で国土の 4.9%にすぎず、

他国の森林面積率(日本 66.7%、中国 14%)と比較して圧倒的に少ない。

この主たる原因は、国土の約 68 百万 ha が乾燥・半乾燥地域に属し、降水量が年間 300mm

未満と低く、森林が成立しにくい自然環境にある。

また、森林面積のうち、木材・燃料木を生産している森林は 1.12 百万 ha(森林面積の約 26%)

で、他は流域保全用、土壌保全用の森林である。

なお、各州の森林面積率の比率をみると、下表のとおり AJK(31.6%)が最も比率が高く、次

いで NWFP(13.8%)、ノーザンエリア(13.5%)の順となっている。一人当たりの森林面積はノー

ザンエリアで 1.055ha/人と世界平均(1ha/人)程度であり、パンジャブ州では 0.007ha/人と低

極めて低い状況にある。なお、森林タイプ別に見ると、針葉樹林が 45.39%と最も高く、次い

で低木林 29.71%、河畔林 7.60%となっており、マングローブ林は 6.61%である。

資料表 5.1. 2 州別森林面積

州・地方 全面積

(百万 ha) 森林面積 (百万 ha)

森林割合 (%)

一人当たりの森林面積 (ha/人)

NWFP 注) 10.17 1.40 13.8 0.068 パンジャブ 20.63 0.57 2.8 0.007 シンド 14.09 0.65 4.6 0.021 バロチスタン 34.72 0.29 0.8 0.045 ノーザンエリア 7.04 0.95 13.5 1.055 AJK 1.33 0.42 31.6 0.140 合 計 87.98 4.28 4.9 -

出典:Annual Progress Repot 2001-2002 (2002) 注)NWFP は、FATA を含んだデータ。

資料表 5.1. 3 森林タイプ別森林面積

州・地方 森林面積(千 ha) 森林割合(%)

針葉樹林 (Coniferous forests) 1942 45.39 灌漑植林 (Irrigated Plantation) 257 6.01 河畔林 (Riverain forests) 325 7.60 低木林 (Scrub forests) 1271 29.71 マングローブ林 (Mangrove forests) 283 6.61 マズリランド (Mazrilands) 24 0.56 線状植林地 (Linear plantations) 15 0.35 個人植林地 (Private plantation) 159 3.72 雑木林 (Miscellaneous) 2 0.05 合 計 4278 100.00

出典:Annual Progress Repot 2001-2002 (2002)

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③ パ国の木材消費の状況

「パ」国の森林破壊率(対前年度森林面積)は 0.2~0.5%/年、木質生物体量(woody biomass)

の減少率は 4~6%/年と見積もられ、世界で第 2 位の高い値となっている。材木用木材の国内

消費量は 1999-2000 年で 3.6 百万m3と推定されたが、このうち、政府の管理する森林で生産

された木材量は 0.23 百万m3(消費量の 6.5%)でしかなく、輸入材が 1.5 百万m3(同 40.3%)、

農業用地(farmlands)で生産された木材が 1.9 百万m3(同 53.2%)であった。

また、燃料用木材の国内消費量は 28.6 百万m3と推定され、25.7 百万m3(消費量の 90%)

は農業用地(farmland)と荒廃地(waste land)で生産され、2.9 百万m3(同 10%)が政府の管理する

森林から生産されている。

これらをあわせると、全木材総消費量は 1999-2000 年で 32.2 百万と推定されるが、燃料用木

材は実に 88.89%にのぼった。

これに対して、国内の森林成長量(forest growth)は 14.4 百万m3/年であることから、毎年

17.8 百万m3の森林が消失していると推測される。

④ 森林破壊の状況

UNEP によれば、森林破壊で現在、最も問題となっているのは次の 3 つの森林である。

ア. ネズ林

バロチスタンのネズ林は保護林であるにもかかわらず、材木用、燃料木用に樹木が伐採さ

れている。放牧は制限されていないため幼樹などが採食され、樹木の世代更新を阻害してい

る。

イ. インダス川周辺

河畔林は広範囲にわたって農業用に開墾されて減少したほか、インダス川にダム、堤防が

作られて分布域が制限された。また河川水量が減少し、土地が高くなって乾燥した。

デルタ地帯では河川水量の減少により塩水が増え、マングローブ林にダメージを与えたほ

か、多くの樹種が消滅した。また、燃料用、飼料用の樹木伐採により、湿地林の減少、劣化

が急速に進んでいる。

ウ. ヒマラヤ温帯林

材木・燃料用の伐採、農業や人口増に対応するための開墾が深刻な圧力となっている。

2) 森林保全の取り組み

① 関連機関

「パ」国においては、森林施行に関する計画策定や実施は州に責任があり、州森林局が担当

している。

環境・地方政府・地域開発省内にあって森林監査官(Inspector General Forest)の指揮する森林

セクターは、林業技術の検討や天然資源の管理といった面で、国家森林政策の策定や戦略の立

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案、州政府の調整等を行っている。

環境・地方政府・地域開発省内の付属機関である国立森林研究所(Pakistan Forest Institute)、動

物学調査部(Zoological Survey Department)、野生生物保護国家委員会(National Council for

Conservation of Wildlife)は、森林に関する教育、調査、生物多様性保護、国際協定や野生生物と

生物保護に関する条約の実現を援助している。

② 森林に関する上位計画(出典:Environment Challenge and Responses)

ア. 森林セクターマスタープラン(Forestry Sector Master Plan 1922)

「パ」国政府は、森林の持続可能な開発を目指して 1992 年を策定した。このプランは、

森林セクターの 25 ヶ年長期計画(1993-2018)で、森林減少に対する社会・経済・自然科学的

原因を明らかにするとともに、土壌保全と流域管理、森林管理、木材生産と工業開発、生

態系と生物多様性の 5 分野について開発計画を示した。25 年間にわたり 48 百万 Rs の費用

で森林面積を現状の 5%から 10%まで増やす計画である。世界銀行はパンジャブ州の森林

開発に 25 百万ドルを準備し、アジア開発銀行は NWFP の開発計画に 40 百万ドルを準備、

連邦政府は森林セクターマスタープランのモニターと更新を行うために 1.5 百万ドルを準

備した。

イ. 国家森林政策(National Forestry Policy of Pakistan 2001)

国家森林政策(National Forestry Policy of Pakistan 2001)では森林と生物多様性といった再

生可能な天然資源の保全に焦点を当てた以下の政策と目標を示している。

・社会経済的な原因による影響を減らすこと

・森林および他の環境関係部局の政治的な干渉を減らすこと

・再生可能な天然資源の管理責任を回復・活性化すること

・脆弱な生態系に対する実行的な政策を用意すること

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③ 森林管理ガイドライン (Environmental Challenge and Responses 2000)

現在、「パ」国政府が示している森林管理に関するガイドラインを以下に示す。

・ 森林長期実施計画は地域社会で作成し、常に連邦政府のガイドラインと合致するもので

なければならない。

・ 連邦政府は州森林局の実施計画を定期的にチェックする。

・ 連邦森林委員会(Federal Forestry Board)は、森林の状態変化の監視、森林製作の再考と制

度化、制度の準備を行う。

・ 商業伐採は、持続可能な実施計画なしではいかなる場所でも実施しない。

・ 森林が激減している地域は保護し、植林計画を作成する。

・ 森林伐採は、伐採地の樹木の更新資金が確かである場合にのみ実施できる。また、植林

は厳密な保全手段を用いて伐採完了後に直ちに実施されなければならない。

・ 地域の権益の為に針葉樹林に負荷がかかってはならない。

・ これらの自然森林伐採は、森林管理委員会等の監視のもと、倒木の除去など、森林の衛

生状態を守るためのみに制限される。

・ 枯死木、風倒木は直ちに除去する。AJK における商業伐採は、これらの倒木処理が終了

していない間は実施できない。

・ 北部地域での木材の移動・伐採は、森林監査官(I.G.Forest)の指導のもとに合理的に行わ

れる。

・ 個人所有の森林割合が 60%以上の地域での保護・管理は、実施案を作成した、法的に認

められた地域社会にゆだねられる。

・ 管理コストは木材の売却収入から支払う。

・ 森林局は村レベルの地域社会に対して持続可能な実施案を準備し、保護・管理状況を監

視する。

・ 州内の伐採は、民生と民間の軍隊(Civil Armed forces)が監視する。州を越えた木材の動き

に関しては森林監査官(I.G.Forest)が各州森林局間の調整を行う。

・ 森林の違反者に対しては州森林法を適用して厳格に処分する。

・ 環境・地方政府・地域開発省の助言のもと、森林の状態変化を監視する監視・評価シス

テムを設立する。

・ すべての政府部局、NGO、教育機関、地域社会、森林所有者が国内の森林を増加させる

ための植林事業に関与する。

・ 森林局は、透明性、実効性、地域社会の参加、不正要素に対する厳格な行動といった観

点から、制度的に強化される。

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④ キャンペーン等

「パ」国では、現在、植林キャンペーンが行政、民間組織、NGO などの協力の下、国家的

レベルで実施されている。州・地方の森林局(Forest Department)で 2000 年に生産された苗木数

は 207.877 百万本であった。

資料表 5.1. 4 植林キャンペーン

単位:本

年 春季 モンスーン季 計

1999 110.050 61.860 171.910

2000 94.561 55.263 149.824

2001 83.039 - -

2002 149.182 882.139 2,289.282

出典:Environmental Challenges and Responses (2001)

なお、2000 年に植林された森林面積は 28.8 千 ha で、NWFP 州(11.2 千 ha)、AJK(10.9 千 ha)

などで多い。また、更新された森林面積は 23.8 千 ha で、シンド州(11.5 千 ha)、AJK 地方(10.9

千 ha)などで多い。

資料表 5.1. 5 州別植林・更新面積 1999-2000 年

州・地方

植林された面積

(千 ha)

更新された面積

(千 ha)

NWFP 11.2 1.9

パンジャブ 2.9 3.0

シンド 2.8 11.5

バロチスタン 1.0 0.1

ノーザンエリア - 0.7

AJK 10.9 6.6

合 計 28.8 23.8

出典:Annual Progress Repot 2001-2002 (2002) 注)NWFP は、FATA を含んだデータ。

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⑤個別プロジェクト

州森林局では土壌・水保全、森林拡大、適切な土地利用などを目標として以下のプロジェク

トを実施している。なお、環境・地方政府・地域開発省森林監査官(Inspector General Forest)聞

き取り結果を資料表 5.1. 6 に示す。

・ パンジャブ州森林セクター開発プロジェクト

・ パンジャブ州の森林・野生動物公園の開発と植生回復事業

・ 天然資源保全事業

・ 植林と土地安定化事業

・ 高原植生回復事業

・ 野生生物とその生息地目録の作成

・ NWFP 森林セクタープロジェクト

・ 道路脇、水路脇植林、塩化、ウォーターロギング地域の環境回復

・ ココナッツ・オイルパム農場の設立

・ 流域管理・集約地管理の協調

・ 保護地域管理

・ 森林栽培の開発

・ 工業としての養蚕の開発

・ シンド州森林開発プロジェクト

・ バロチスタン州天然資源保全と管理、ターベラ流域管理プロジェクト

出典:Inspector General Forest からのヒアリング結果

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資料表 5.1. 6 主なプロジェクト

№ タイトル 費用 期間 実施機関 ドナー 現在の状態

1 NWFP、パンジャブ州における環境復元 (Environmental Rehabilitation in NWFP and Punjab (ERNP))

31.80 百万 Euro 7 年間 NWFP・パンジャブ州森林局 EC 実施中

2 熱帯林向上に向けた小規模補助プログラム (Small Grants Programme for operation to Promote Tropical Forests)

15.132 百万 Euro 5 年間 UNDP EC 実施中

3 パンジャブ州森林セクター開発事業 (Punjab Forest Sector Development)

US$33.75 百万 6.5 年間 パンジャブ州森林局

WB 閉鎖

4 バロチスタン天然資源管理プロジェクト (Balochistan Natural Resources Management Project)

US$17.8 百万 6 年間 バロチスタン州森林・P&D Deptt.プロジェクト管理ユニット

WB 閉鎖

5 NWFP 森林セクタープロジェクト (Forestry Sector Project NWFP)

10.64 百万 Euro 8 年間 (1996-2004)

記載無し RNE 実施中

6 シンド州、バロチスタン州の沿岸地域におけるマングローブ林保護 (Conservation of Mangroves Forests in the Coastal Areas of Sindh and Balochistan)

1.47 百万 Euro 5 年間 (1996-2001)

記載無し RNE 完了

7 #1403-PAK&TA#256.3-PAローン森林プロジェクト (Loan#1403-PAK&TA#256.3-PAK Forestry Project)

US$23.297+ 14.145 百万

7 年間 (1996-2003)

NWFP 森林・漁業・野生生物局 ADB 実施中

8 ギザールにおける天然林の植林・世代更新 (Afforestation/Regeneration in Natural Forest in Ghizar)

4.560 百万 5 年間 ノーザンエリア森林局 完了

9 シラスにおける流域管理および土壌保全 (Watershed Management & Soil Comnservation in Shilas)

3.800 百万 3 年間 ノーザンエリア森林局 完了

10 アストレにおける流域管理 (Watershed Management in Astore)

8.196 百万 3 年間 ノーザンエリア森林局 完了

11 バルチスタンにおける土壌保全と流域管理 (Soil Conservation & Watershed Management in Baltistan)

7.000 百万 5 年間 ノーザンエリア森林局 完了

12 バルチスタンにおける天然林の植林・世代更新 Affoerestation / Regeneration in N/Forest in Baluchistan

7.000 百万 5 年間 ノーザンエリア森林局 完了

出典:環境・地方政府・地域開発省森林監査官(Inspector General Forest)聞き取り調査結果

31

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32

3) 砂漠化の現状

砂漠化(Desertification)とは、「砂漠化に対処するための国連条約」の定義によれば、「砂漠

化」とは、「乾燥地域、半乾燥地域及び乾燥半湿潤地域における種々の要因(気候の変動及

び人間活動を含む。)による土地の劣化」とされ、主として人間活動や気候変化によって発

生し、乾燥地の生態系が過剰な収穫や不適切な土地利用に対して極めて脆弱であることに起

因するといわれいる。

「パ」国は乾燥から半乾燥の気候で、68 百万 ha(約 8 割)が年間降水量 300mm未満の土

地となっており、パンジャブ州、シンド州、バロチスタン州などに乾燥地・半乾燥地が多く、

砂漠化が顕著にみられる地域である。

資料表 5.1. 7 乾燥域の分布 分類

州 乾燥

(km2) 半乾燥 (km2)

半湿潤 (km2)

その他 (km2)

パンジャブ 119,310 59,678 17,014 10,197 シンド 134,896 6,018 - - バロチスタン 149,467 19,723 - - NWFP 注) 6,194 30,071 26,399 39,077 合 計 409,867 115,490 43,413 49,274

出典:National Action Programme to Combat Desertification in Pakistan 注)NWFP は、FATAを含んだデータ。

近年、砂漠化が急激かつ広範囲に進行して土壌劣化が起こり、農業・家畜の生産量を減ら

している。国土の 20%は集約農業に適した土地であるにもかかわらず、資料表 5.1. 8 に示す

ように風食、水食による土壌浸食、塩害、ウォーターロギング、洪水、土壌中の有機物の流

亡などにより土壌が劣化している。その主な原因は放牧地における家畜の過放牧や燃料木の

採取、森林における無差別・無計画な伐採、干ばつなどであり、その背景には急激な人口の

増加がある。資料表 5.1. 9 に砂漠化の要因となる土地劣化の事例を示す。

資料表 5.1. 8 砂漠化の要因となる土地劣化の状況

土地劣化の要因 影響面積(千 ha)

水食 11,171.8

風食 4,760.5

塩害 5,327.7

ウォーターロギング 1,554.3

洪水 2,557.0

家畜による踏み荒らし 936.0

養分低下 2,218.0

出典:Changing perspectives on forest policy(1998)

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資料表 5.1. 9 砂漠化の要因となる土地劣化の事例

要因 事例

土壌の水食

インダス川流域では、夏季の強い降雨と雪解け水により土壌流出。 北部山間部の急斜面の耕作地は約 11 百万 ha が影響を受ける。 ダムで流出土壌が堆積して灌漑能力を低下させる。

土壌の風食

タール砂漠、チョリスタン砂漠、タルパルカル砂漠、メクラン海岸沿いの砂質地で顕著。 家畜の放牧地の周りで顕著。 砂の小山が灌漑耕作用に平坦にされたところで顕著で 3~5 百万ha が風食の影響を受ける。 土壌流出量の 28%は風食による。

森林破壊 年間 3.5%の森林が減少し、土壌浸食を引き起こしている。 森林の砂漠化によりダムに泥が溜まり貯水量を減少させる。 植物によるウォーターロギング・塩害低減機能の低下。

家畜放牧への圧力 森林や植物に覆われている土地が減少し、牛、ヤギ、ヒツジ等の家畜の生産量低下。

生物多様性の減少 自然植生が減少し、種数が減少

干ばつと洪水 シンド州、パンジャブ州南部でここ 3~4 年に起こっている長期的な干ばつにより 2.2 百万人、7.2 百万 ha が影響を受けている。 洪水は肥料分に富んだ表層土壌を泥で埋める。

社会経済の抑圧 農業、森林、狩猟、漁業などにより生計を立てている地方と都市の格差を広げる。 貧しい移民者が都市地域に多く集まる。

出典:National Action Programme to Combat Desertification in Pakistan 2002

2001 年の耕作不可能地は 1948 年と比較して 3.61 百万 ha 増加し 24.34 百万 ha となってい

る。また、「パ」国ではここ数年、厳しい干ばつが続いており、特に 2000 年は灌漑用水、飲

料用水の不足、地下水位の低下などによる被害が大きく、2~3 百万人に影響を与え大規模な

移住が起こっているほか、家畜の半数が干ばつによって引き起こされた飢饉により死亡した

地域があった。

4)砂漠化防止の取り組み

① 関係機関

「パ」国における砂漠化対策の担当官庁は環境・地方政府・地域開発省のほか、国家農業

調査委員会、乾燥地域調査委員会、国立森林研究所、国家水資源調査委員会、国家環境保護

省、水・電力当局である。

このほか関連する公的研究機関には以下のものがある。(出典:Johanesburg Summit 2002

Pakistan Country Profile )

ア.チョリスタン砂漠研究所(Cholistan Insutitute of Derert Studies(CIDS)Bahawalpur)

多様なストレスに耐える遺伝子をもった薬草、低木、樹木を収集し、種子バンクを設立

しているほか、砂漠の固有種の研究、耐干ばつ植物を用いた砂漠固定技術、放牧地調査、

チョリスタン砂漠(Cholistan)における絶滅の危機に瀕した植物の保護などを実施している。

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イ. 国立森林研究所(Pakiatan Forest Institute Peshawar)

乾燥、半乾燥地域における植林技術、ウォーターロギング地・塩害土壌地の植林技術、

砂丘固定技術の研究を実施している。

ウ. シンド地域開発機構(Sind Zone Development Authority)

コヒスタン(Kohistan)砂漠に 63kmの上水道を建設し、47 村に給水したほか、287 本の

井戸、441 ヶ所の雨水集水用ため池を設置した。また、放牧地対象の 13 プロジェクトに

苗木を育成するほか、砂漠地で燃料木、飼料、果実などを供給するための多用途樹種の栽

培、家畜の医療サービスと提供している。

②パ国の取り組み(出典:Johanesburg Summit 2002 Pakistan Country Profile)

ア. 砂漠化防止条約と国家砂漠化対策計画

「パ」国政府は、1997 年に砂漠化防止条約 (United Nations Convention to Combat

Desertification :UNCCD)を批准し、20~30 百万 Rs を砂漠化防止のプロジェクトに割り当て

ている。

環境・地方政府・地域開発省は国家砂漠化対策実施計画(National Action Plan to Combat

Desertification)を第 4 回国家環境保護委員会に向けて準備している。

UNDP は国家砂漠化対策計画(National Action Plan to Combat Desertification in Pakistan)の

準備に 60,000 ドルを供給している。

イ. 国家行動計画

国家行動計画(National Action Programme)では、国家砂漠化対策実施計画を受けて砂漠化

防止に関し、調和・統合されたボトムアップアプローチの戦略と方法を提案している。ま

た、第 8 次国家開発 5 ヵ年計画(1993-1998)、10 ヵ年開発計画(2001-11)及び 3 ヵ年開発プ

ログラム (Ten Year Perspective Development Plan 2001-11 and Three Year Development

Programme 2001-04)はこれを受けて作成されている。砂漠化防止関連では、土壌劣化地域

における植林・農業林業、乾燥地域における穀物収穫の向上、放牧地における家畜飼料の

向上、土壌・水保全、水の確保、水利用の効率化、塩害土壌の修復・更生、排水の向上、

園芸品種の生産と推進、生物多様性の保全などを目指している。

この計画は、国家砂漠化コントロールユニット(National Desertification Control Unit)及び

国家砂漠化調整委員会(National Coordination Committee on Desertification)を通じて環境・地

方政府・地域開発省に任せられている。また、実施にあたっては連邦・州の機関と NGO

が共同して取り組んでいる。資金は UNCCD、国家砂漠コントロール基金(National

Desertification Control Fund)のほか、輸出製品、狩猟、環境支援サービスなどからの徴収金、

国際ドナーなどから調達されている。

ウ. 国家排水計画(出典:Johanesburg Summit 2002 Pakistan Country Profile)

国家排水計画(National Drainage Program)では、ウォーターロギングと塩害の減少、穀物

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増収、灌漑・排水の発展を目標としている。

これまでに砂漠化に対して実施されてきた対策を以下に示す。

・塩害、ウォーターロギング地域の環境改善

・バラニ(Barani)地域に対する小水資源開発

・バロチスタン州における砂丘安定化

・ターベラ(Tarbela)流域管理プロジェクト

なお、森林セクターマスタープランの中にも、州における多くの砂漠化対策プロジェク

トがある。

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(2) 生物多様性

1) 動植物相

国内における動植物確認種数と特徴を資料表 5.1. 10, 11 示す。脊椎動物では、哺乳類 174

種、鳥類 668 種、爬虫類 177 種、両生類 22 種、魚類 986 種となっている。

植物は、5,700 種の被子植物、21 種の裸子植物、189 種のシダ植物が記録されている。380

種の固有種がある。

資料表 5.1. 10 「パ」国の生物種数

出典:Biodiversity Action Plan for Pakistan(2000) 注):上記資料では IUCN Red List 1996 の他、多数の文献を引用して

生物種数を示しているため、後に述べる IUCN レッドリストによる絶滅危惧種数とは一致しない。

種 数 固有種 絶滅危惧種

哺乳類 174 6 20

鳥類 668 ? 25

爬虫類 177 13 6

両生類 22 9 1 魚類

淡水産 海産

(986) 198 788

(29) 29 -

(6) 1 5

無脊椎動物 棘皮動物 海産軟体動物 海産甲殻類 海産環形動物 昆虫類

25 769 287 101

>5000

- - - - -

2 8 6 1 -

植物 被子植物 裸子植物 シダ植物

5700 21 189

380

- -

? ? ?

菌類 >4500 2 ? 藻類 775 20 ?

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資料表 5.1. 11 動植物相の主な特徴

分類 特徴等

脊椎動物

哺乳類

174 種が生息しており、6 種が固有種である。

鳥類 記録された 668 種のうち、375 種が繁殖している。多くは渡り鳥で、記録され

た種の 30%以上が冬に渡来する。

爬虫類 177 種の内訳は、カメ類 14 種、ワニ類 1 種、トカゲ類 90 種、ヘビ類 65 種と

なっている。

両生類 「パ」国が基本的に乾燥・半乾燥地域であるため 22 種しか記録されておらず、

その内の 9 種が固有種である。

魚類 淡水産魚類は 198 種が生息しており、29 種が固有種である。海水産魚類は主

に沿岸海域の種であるが、生息数や分布域に関しては分かっていない。

動物相

無脊椎動物 5000 種以上が確認されており、昆虫類 1000 種、チョウ類 400 種、ハエ類 110

種、シロアリ類 (termites)49 種、環形動物(marine worm)109 種、軟体動物

(molluscs)800 種以上、センチュウ類(nematodes)355 種となっている。

昆虫類はチョウ類とガ類(Lepidoptera)には多くの固有種があり、高山に生息す

るチョウ類の多くは固有種で、北部山地のみで 80 種が記録されている。

植物相

--- 5,700 種の被子植物、21 種の裸子植物、189 種のシダ植物が記録されている。

380 種の固有種がある。固有種の内、およそ 80%の顕花植物は北部と西部の山

地に生息する。キク科 649 種、イネ科 597 種、マメ科(マメ亜科含まず) 439 種、

アブラナ科 250 種、カヤツリグサ科 202 種などがある。

出典:Biodiversity Action Plan for Pakistan (2000)

2) 絶滅種および絶滅の危機に瀕した種

「パ」国生物多様性実施計画(Biodiversity Action Plan for pkistan)によれば、過去 400 年間に

トラ(Panthra tigris) 、ヌマシカ(Cervus duvauceli)、ライオン(Panthera leo) 、インドイッカク

サイ(Rhinoceros unicornis)が絶滅し、ここ数十年の間にチータ(Acinonyx jubatus)、ハンガル

(Cervus elaphus hangul)が絶滅した。クロジカ(Antelope cervicapra)は飼育状態で生き残ってお

り、アジアノロバは絶滅の脅威にさらされている。

なお、環境・地方政府・地域開発省森林監査官(Inspector General Forest)によれば、「パ」国

には現在、レッドデータブックはなく、作成中である。

IUCN のレッドリスト(Red List of Threatened Animals 1996)による絶滅危惧種等の状況はつ

ぎのとおりである。なお、このレッドリストは IUCN が独自に作成しているため、前出の資

料表 5.1. 10 の絶滅危惧種とは必ずしも一致しない。

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① 哺乳類

哺乳類では「パ」国国内で 37 種類の種、14 種類の亜種が絶滅の脅威にされされている。

この内、2 種が絶滅危惧ⅠA 類、9 種が絶滅危惧ⅠB 類、11 種が絶滅危惧Ⅱ類、1 種が保全対

策依存、24 種が準絶滅危惧、5 種が情報不足である。絶滅危惧ⅠA 類の 2 種は、バロチスタ

ンクロクマ(Ursus thibetanus gedrosianus)とチルタンヤギ(Capra aegagrus chitanensis)である。絶

滅危惧ⅠB 類はユキヒョウ(Uncia uncia)、インダスメクライルカ(Platanista minor)、マーコー

ル(Capra falconeri)、ウリアル(Ovis vignei)、モリムササビ(Eupetaurus cinereus)などである。

写真 上:ユキヒョウ

左:マーコール

② 鳥類

鳥類では 1 種が絶滅危惧ⅠA 類、2 種が絶滅危惧ⅠB 類、22 種が絶滅危惧Ⅱ類、17 種が

準絶滅危惧である。絶滅危惧ⅠA 類の種はコインドショウノガン(Eupodotis indica)で、絶滅

危惧ⅠB 類にはシベリアヅル(Grus leucogeranus)、オオインドノガン(Ardeotis nigriceps)がいる。

③両生類・爬虫類

爬虫類では 3 種の絶滅危惧ⅠB 類、3 種の絶滅危惧Ⅱ類、3 種の準絶滅危惧、1 種の情報

不足の種がいる。なお、両生類は IUCN のリスト掲載種はない。

3) 生物多様性減少の原因

生物多様性減少の要因には、急速に増加する人口に対応するために生じた森林破壊による

自然生息域の減少、動植物の過度の搾取、汚染、移入種・侵入種、気候変化などが挙げられ

る。

(WWF-Pakistan Web サイトより引用)

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インダスメクライルカ推定個体数

年 個体数 1974 450-600 1970’s 400 1984 600 1986 400-600 1989 500 1998 <1000 2001 965

出典:WWF-Pakistan Web サイトより

資料 図 5.1. 1 絶滅の危機に瀕しているインダスメクライルカ

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資料表 5.1. 12 生物多様性減少の原因 影響要因 具体例

森林破壊 燃料木、材木等の木材大量消費により森林面積が縮小し、植被率が低下。

森林、雑木林、農地の林を合わせた面積は 4.2 百万 ha で国土の 4.2%程度。この内、樹冠鬱弊率(うっぺいりつ)が50%を超える針葉樹林は 0.4 百万 ha しかない。 「パ」国の木質生物体量は前年度比 4~6%/年の割合で減少。 木材の消費量は 3%/年の割合で増加。 マングローブ林は 1970 年代の 2,600km2に対し 1990 年代は 1,300km2に半減。

放牧、家畜飼料収集 急速に増加した家畜により森林と放牧地が劣化。

1945年と比較して1986年の牛の飼育数は2倍、ヒツジ、ヤギの飼育数は3倍以上に増加。 過放牧により、放牧地の飼料植物の生産性は潜在生産量の 1/3 程度に低下、バロチスタン州で顕著。

土壌浸食

土壌を覆う植物が減少し風食、水食による土壌浸食食が増加。

水食による土壌浸食はノーザンエリア、NWFP 等で顕著。11 百万 ha が影響を受けており、湿地での土砂堆積が進行。 風食による土壌浸食はポートワール、タール砂漠、チョリスタン砂漠などで顕著。2 百万 ha に影響。 バロチスタン州では地下水過剰汲み上げで地下水位が低下し、地表の植物が減少、土壌浸食が増加。

生息域の減少

流路変更と排水 湿地での自然生息域が灌漑のための流路変更、排水により減少。

インダス川の流量の 3/4 は灌漑に利用され、河口部のデルタおよびアラビア海への流入量が少ない。 塩水の流入、地下水位の減少が湿地に影響。

狩猟 スポーツハンティング、食用・輸出用の狩猟により動物の個体数が減少。

事例は資料表 5.1. 13 参照

漁獲 大型、高機能な商用漁船による漁獲と、浅海における小型船による漁業が増加。

大型船による過剰捕獲。 浅海におけるエビの過剰捕獲。 海産カメの誤捕獲。 バロチスタン州における淡水産魚種の減少。

個体数の減少

植物の過剰収穫 薬草の需要が高まりによる過剰採取。

農村では薬草による治療が盛んだが、薬草となる植物の多くは国内で栽培することが困難。

農業の強化 灌漑により塩害・塩質化、ウォーターロギングが発生し、農業生態系が劣化。 殺虫剤、肥料の使用

塩害・塩質化土壌土壌はシンド州で 2.1百万 ha、パンジャブ州で 2.6 百万 ha。 殺虫剤の使用量は 1981 年から 1992 年で 915ton/年から 6,865ton/年に増加。

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影響要因 具体例 量増加。

汚染 工業排水、下水による汚染、油の流出。

大都市の下水は未処理で灌漑用水路、河川等に排水。 ラホールでは 240 百万ガロンの下水がラビ川に流入し魚類に影響。 カラチでは下水の 80%が未処理で海に流入し、富栄養化。 カラチでは 90,000ton/年の油が船舶、港湾施設から海へ排出。

移入種、 侵入種

交易船による外来種の侵入、外来魚の移入、森林、農業における外来植物の移入により在来種が減少。

現時点では、「パ」国国内の状況は把握されていない。

気候変動 温室効果により気温上昇、洪水発生頻度増加などが生じ生息域に変化を与えている。

乾燥・半乾燥地域における砂漠化が進行。 インダス川河口部デルタへの海水浸入量増加によりマングローブ林、砂浜に影響。 洪水による被害地域の拡大。 氷河の退行およびヒマラヤ・ヒンドゥークシ山脈における生態系ゾーンの変動。

出典:Biodiversity ction Plan for Pakistan(2000)

資料表 5.1. 13 人間による動物の利用方法 方法 対象種

密猟 ほとんどの有蹄類、愛玩鳥、水鳥

駆除 (家畜、穀物の被害対策)

捕食動物(ヒグマ、クロクマ、ハイイロオオカミ、ユキヒョウ、ヒョウ、ヒョウネコ(leopard cat)、イノシシ、リーサスサル(rhesus macaque)

鷹狩り セイカー(Saker)

家畜化 ツル、リーサスサル(rhesus macaque)、オオム、クマ

薬用 リーサスサル(Rhesus macaque)、クマ、ジャコウジカ、イルカ、ペリカン、トカゲ

装飾 ほとんどのネコ科、イタチ科(皮)、 有蹄類(ツノ)、ワニ、ヘビ(皮)、カメ(甲羅、油)、キジ(羽)

出典:Biodiversity ction Plan for Pakistan(2000)

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4) 生態系

「パ」国においては、歴史的に長い期間、自然環境の改変が行われてきたため、生息域の

劣化が急速かつ深刻に進行しており、生態系の維持は危機的状況にある。

現在まで、「パ」国の生態系に対して、生物多様性の重要性に基づいた体系的な評価は行

われていない。しかし、少なくとも種の多様性及び特異な種の生息の状況から、次の 10 の

生態系が危機に瀕していることが知られている。

資料表 5.1. 14 危機に瀕した生態系 生態系 生態系の特色 影響要因

インダスデルタと沿岸湿地

広大なマングローブ林と干潟で保護が不適正。鳥類相と海生動物相が豊か。多様なマングローブの生息地。海生のカメの生息地。

上流域での流路変更による淡水の減少マングローブの燃料用に伐採 沿岸湿地への汚水流入

インダス川と湿地

広大な湿地。渡り鳥の経路で世界的に重要。インダスメクライルカの生息地。

流路変更と汚水 農業の増大 毒性物質による汚染

チャガイ(Chagai)砂漠

太古の砂漠。多くの固有種と特異な種が生息。

鉱業開発の計画 湾岸地域からの狩猟者

バロチスタンのネズ林

太古の広大なネズ林。世界に残る最も大きなネズの林。特異な植物相と動物相。

燃料木としての伐採 過放牧 生息域の分断

チルゴザ(Chilghoza)林 スライマン (Sulaiman) 山脈

山地表土が薄く、岩が露出している。危機に貧した多くの種に対する重要な野生生息域

燃料木としての伐採 過放牧 違法な狩猟

バロチスタン亜熱帯林

単一樹種でまばらな樹冠をもった中標高の森林。重要な野生生物の生息域が残る稀な地域。

燃料木としての伐採 過放牧

バロチスタンの川

インダス川に接続していない流系。ハイレベルな固有種を含む特異な動物層と植物相

流路変更、汚水流入、過大な漁獲

熱帯落葉樹林 ヒマラヤの山裾

マングラ丘陵国立公園から東のアザド・カシミールにかけての地域。「パ」国内で最も植物相が豊かな生態系。

燃料木としての伐採、過放牧

湿・乾温帯ヒマラヤ林 重要な森林地域が段々分断されている。世界的にみて多様の鳥類が生息する重要な地域。

商業伐採、燃料木としての伐採、過放牧

トランスヒマラヤアルプス山脈と高原

壮大な山岳風景。特異的な植物相と動物相をもち、固有種の中心地。

燃料木としての伐採、過放牧、違法な狩猟、統制されていない旅行、生息域の分断

出典:Biodiversity Action Plan for Pakistan (2000)

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写真:チトラル・ゴル(Chitral Gol)国立公園

出典:WWF-Pakistan Web サイトより引用

5) 自然保護地域

「パ」国には 14 の国立公園、99 の野

生生物保護区、97 の狩猟規制区域(Game

Reserve)がある。資料表 5.1. 15 に示すよ

うにその総面積は 9.2 百万 ha で、国土の

10.40%を占める。

管理は国家野生生物保護委員会

(NCCW)と森林局が行っており、国立公

園の周囲 3 マイル(約 4.8km)以内では野

生生物の生息を妨げる狩猟その他の人

為的行為が禁止されている。一方、狩猟

禁止区域では、規制の下に狩猟が許可されているほか、生息域の保全は行わないことから、

国立公園、野生生物保護区と比較すると生態系保全機能は劣っている。

ほとんどの自然保護地域は 1970 年代に設定されたが、生態学的な基準や必要条件はあま

り考慮されていない。大多数の地域はそれぞれの面積が小さく、分断されている。また、海

洋保護地域がない、海岸保護地域が極めて少ない、「パ」国の希少植物であるバロチスタン

のネズ科の森林が指名されていない等の不備のほか、パンジャブ州では約 16%が保護地域に

指定されているが、「パ」国内で生物多様性がもっとも高い NWFP やバロチスタンでは指定

地域が 6%程度であるなどの地域的な不均衡がある。

現在、自然保護地域は限られているため、生物多様性に関して重要な多くの地域が保全さ

れないまま地域社会に様々な形で利用されている。これらの地域を保全するには、地域社会

との協力の上で管理してゆく体制が必要であるが、現在の野生生物保護に関する法律では持

続可能な利用方法や地域社会については触れていない。

① 保護地域の管理上の問題点としては、以下の4項目が挙げられる。

② 保護地域の管理権限がそれぞれの州の野生保護局にあるため、隣接した州との間で対

立を引き起こす。

③ 州の野生保護局は効果的に機能する能力に欠けており、特に適切な訓練された人材が

不足している。

④ ほとんどの保護地域では状況に応じて対応出来る柔軟な管理計画を持っていない。

⑤ 保護区域を抱える地域社会が保護に関して役割がなく、管理者との間で放牧地を巡る

利害の対立等が生じている。

Page 130: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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資料表 5.1. 15 保護地域の設定状況(1999 年)

面積 州・地方 国立公園 野生生物

保護区

狩猟規制

地域

その他 合計

ha %

NWFP 3 6 38 5 52 470,675 6.30

パンジャブ 2 37 19 0 58 3,315,803 16.14

シンド 1 35 14 4 54 1,307,575 9.27

バロチスタン 2 14 8 7 31 1,837,704 5.29

ノーザンエリア 4 5 9 0 18 2,092,180 2.97

AJK 1 0 8 0 9 51,998 3.91

FATA 1 1 1 0 3 94,186 100.00

計 14 98 97 16 225 9,170,121 10.40

出典:Biodiversity Action Plan (2000)

資料 図 5.1. 2 保護地域

出典:Pakistan Protected Area System Review and Action Plan (2000)

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6) 条約等(生物多様性条約、ラムサール条約、ワシントン条約)

「パ」国は、現在、以下の条約を批准している。

① 生物多様性条約(Preparation of National Country Reports on the Implementation od

Conservation on Biological Diversity (CBD)) :1994 年批准

②ワシントン条約 (Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna

and Flora (CITES)) :1976 年批准

資料表 5.1.16 ワシントン条約 指定種 動物 植物

Ⅰ 55 種 1 種 Ⅱ 129 種 16 種

Ⅰ/Ⅱ 7 種 計 191 種 17 種

出典:環境・地方政府・地域開発省森林監査官(Inspector General Forest)聞き取り調査による

③ ラムサール条約

Conservation on Wetland of International Importance Especially as Waterfowl Habitat :1978 年批准

現在、「パ」国内には資料 図 5.1. 3 に示す 16 の登録地がある。その状況を資料表 5.1. 17 に示し

た。

資料 図 5.1.3 ラムサール条約登録地

Indus Dolphin Reserve

Drigh Lake Taunsa Barrage

Uchhali Complex

Chashma Barrage

Thanedar

Tanda Dam

Kinjjhar(Kalri)Lake

Nurri Lagoon

Jubho Lagoon

Hub(Hab) Dam

Miani Hor

Ormara Turtle Beaches

Astola(Haft Talar) Island

Jiwani Coastal Wetland

Haleji Lake

出典:Web サイト Wetland Internatonal に加筆

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資料表 5.1. 17 ラムサール条約登録地 湿地名 州名 面積(ha) 登録要件 環境の悪化の状況

Haleji Lake シンド 1,704 水鳥の繁殖、越冬場所 誤った水管理、違法な釣り、富栄養化

Khinjhar Lake シンド 13,486 水鳥の繁殖、越冬場所 過度のレクリエーション、違法な狩猟、釣り

Drigh Lake シンド 182 水鳥の越冬場所 富栄養化、違法な狩猟 Ucchali Complex:

Khabbeki Lake Ucchali Lake

Jhalar Lake

パンジャブ 1,326 ハ ク ト ウ カ モ (white headed duck)の冬季生息地

埋立て、釣り、汚染、違法な狩猟、放牧

Taunsa Barrage パンジャブ 6,567 この地方の遺伝的、生態的多様性を維持 希少種の維持

違法な狩猟、人による撹乱、埋立て

Chashma Barrage パンジャブ 33,109 貯水、魚釣り、天然有棘樹林、希少種を含む多数の冬の水鳥

人による撹乱、漁獲圧、ヨシの刈り取り、違法な狩猟

Tanda Dam NWFP 644 特有の湿地環境 狩猟、釣り Thanedarwala NWFP 4,047 特有の湿地環境 狩猟、釣り Sonmiani Bay バロチスタン 55,000 マングローブ林

法律保護下による管理 -

Astola Island バロチスタン 1,800 爬虫類の固有種、ミドリガメ営巣地、カモメ、アジサシの営巣、休息場所

Ormara, Turtle Nesting Beach

バロチスタン 2,400 ミドリガメ営巣地 -

Jiwani, Coastal wetland

バロチスタン 26,316 ミドリガメ営巣地、マングローブ林

Hab(Hub) Dam バロチスタン 27,219 野生生物の保護地域 - Jubho Lagoon シンド 706 フラミンゴの餌場 - Nurri Lagoon シンド 2,540 フラミンゴの餌場 - Indus Dolphin reserve

シンド 125,000 野生生物の保護地域 インダスメクライルカの生息地

出典:Pakistan’s Wetland Action Plan (2000) WWF-Pakistan

④ ボン条約

Convention on the Conservation of Migratory Species Wild Animals :1987年批准

7) 野生生物・生態系保全の取り組み

「パ」国における野生生物・生態系の担当官庁は環境・地方政府:地域開発省で、環境関

連局長(Director General: Environment)が中心となっている。森林監査官(Inspector General

Forest)は森林、放牧地、野生生物管理に関することのほか、すべての政策調整、調査、教育

を行う。国家環境保全審議会(Pakistan Environment Protection Council)は環境関連の最高法的機

関である。州は野生生物保全については第一義的に責任を負っており、州野生生物局が扱っ

ている。

Page 133: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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関連する外部機関として以下の3つの機関がある。

① 国家野生生物保全審議会(National Council for Conservation of Wildlife)

森林監査官(Inspector General of Forest)の指導のもとに活動している。野生生物保全のため

の政策策定、州の関連政策実施と国際機関、NGO との調整を行う。政策のガイドラインは、

市民団体、州野生生物局、環境省長官から得る。また、各州野生生物局における野生生物保

護の取り組みの調整、政府が加盟する協定や条約の実現などを行っている。

② 国立森林研究所(Pakistan Forest Institute)

森林関連の調査と教育、再生可能な自然資源の保全と管理を行っている。乾燥地域の森林

再生、劣化した土地における生物多様性の回復、ウォーターロギング地域や塩化土壌地域に

おける植生回復、砂漠化防止などにおいて業績がある。

③ 動物学調査部(Zoological Survey Department)

動物の分布や個体数動態に関する情報収集を行っている。標本収集、動物博物館の設立、

重要な海産生物に関する生態学的、生物学的、生理学的、生物化学的調査の実施、野生生物

教育への情報提供、野生生物保護に関する公共認識の創出などの活動を行っている。

④ 国家環境行動計画(National Environment Action Plan)による取り組み

「パ」国では 1992 年国家環境戦略(National Conservation Strategy)が制定され、世界銀行に

「国家環境行動計画(National Environment Action Plan)」として承認された。実施政策として

14 分野を策定し、この中のひとつに生物多様性に関する事項が取り上げられた。第 8 次国家

開発 5 ヵ年計画(1993-1998)では州レベルの保全政策の策定必要性が明らかにされ、サハド州

保全戦略 (Sarhad Provincial Conservation Strategy) 、バロチスタン保全戦略 (Balochistan

Conservation Strategy)が策定された。ノーザンエリアについても現在準備中である。現在、10

ヵ年開発計画(2001-11)および 3 ヵ年開発プログラム(2001-04)により、保全対策が実施されて

いる。

2000 年には生物多様性行動計画 (Biodiversity Action Plan) が世界環境機構 (Global

Environment Facility)のもと、「パ」国政府と世界銀行の合意に基づき準備、制定された。IUCN

「パ」国は WWF「パ」国の協力のもとに主機関として選定されている。これにより、「パ」

国が批准している生物多様性条約により適合した政策が期待されている。

Page 134: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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資料表 5.1. 18 10 ヵ年国家開発計画(生物、生態系関連) 課題 戦略 計画

生態系管理 劣化生態系 森林、野生生物、河川水、湿地、

砂漠、沿岸海域 その他 森林破壊 森林破壊の進行は 7000-9000ha/年

土壌浸食、塩害土壌、草地の消失、 動植物の生息域減少

脆弱な生態系保護のための信用基金設立 劣化土地での造林 混農林業、社会林業の奨励 森林と自然資源に対する地域管理の奨励 生物多様性の保全 生物多様性の持続的利用

高地生態系の管理 海域、沿岸域生態系の管理 灌漑された生態系の管理 湿地の管理 保護地の管理

環境政策の課題 環境関連の政策の実施 国家持続性開発計画(NSDP) 国家土地利用計画(NLUP) 州保全戦略 森林セクター基本計画 生物多様性行動計画 気候変動に関する国家責任戦略砂漠化防止行動計画

出典:Ten Year Perspective Development Plan 2001-2011 and Three Year Development Programme 2001-2004

資料表 5.1. 19 生物多様性行動計画の概要

計画と政策 環境保全、持続可能な生物多様性の利用を促進する適切な政策と計画を適用し、生物多様性保全の手法を個々の政策と計画に集約する。

法律 生物多様性条約および関連条約を実行する効果的な法律体系を開発する。 生物多様性に関連する法律を強化する。

識別とモニタリング 生物多様性に関する情報の拡大、推進を行う。 生物多様性の重要要素をモニターするシステムの開発、制度化を行う。

現位置保全 保護地域の強化させ、生物多様性の保全に貢献させる。 保護地域外での生物多様性の保全をはかる。

現位置外保全 人為的環境での生物多様性の保全計画を強化する

持続可能な利用

生物多様性の持続的利用が可能となる政策と法律を開発する。 生物多様性資源の持続可能な利用の限界を監視、制限する。 地域社会を基盤とした管理システムを保護、奨励する。 生物多様性の価値を様々なレベルで国家会計と政策決定に組み込むメカニズムを開発する。 生物多様性の管理を部門間および連邦・州レベルで調整する能力を高める。

奨励方法 生物多様性の保全と持続に対して、国家レベルおよび地方レベルで刺激となるシステムを作成する。 生物多様性を促進することに反するものを識別し、影響を最小化する

調査と訓練 生物多様性(特に絶滅の脅威にさらされている固有種)の保全と持続可能な利用方法に対する調査を強化する。 生物多様性の保全と管理を行う人間の能力を強化する。

公共教育と意識 公共教育と意識の相互理解的な戦略の開発 生物多様性とその保全の必要性に関する意識を高めるために学校教育を使うとともに、非公式ルートも使う。

環境影響評価

プロジェクト、計画、政策に対する環境影響評価手順を制度化し強化する。

取り組み方の課題 遺伝子資源への取り組みを制限する政策と法と制定し、資源と所有者と使用者の公平な利益の分配を促進する。

情報交換 「パ」国における生物多様性に関する情報管理システムを強化する

財政 優先順位の高い生物に対する生物多様性の保全と管理プログラムを支援する国家基金機構を制定する。 生物多様性プログラムに対する双務契約制で多数国参加の基金を探す

出典:Biodiversity Action Plan (2000)

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⑤ 個別プロジェクトによる取り組み

「パ」国においては生物多様性保全にむけて様々なプロジェクトがある。主要なものを以

下に示す。

ア. Pakistan Mountain Area Conservation Project (MACP)

MACP は環境・地方政府:地域開発省が実施している費用総額 10.35 百万ドルの事業で、

GEF が 1.8 百万ドル、UNDPGEF が 1.5 百万ドル、「パ」国政府が 1.8 百万ドルの資金を負担

している。NWFP、ノーザンエリアで 16,000km2を対象に生息域と種を行っている。

イ. Protected Areas Management (PAMP)

この事業では、ヒンゴル国立公園(Hingol National Park)、バロチスタン・チトラルゴル国立

公園(Balochistan,Chitral Gol National Park)、NWFP・マチアラ国立公園(NWFP and Machiara

National Park,Azad Jammu&Kashmir)の 3 つの保護地域で生物多様性の保護と管理を実施して

いる。天然資源統合管理の理念のもとに、地域社会を取り込んだ公園管理を行う。費用総額

は 10.73 百万ドルで GEF 資金を提供している。

ウ. Protection and Management of Pakistan Wetlands

この事業は環境・地方政府:地域開発省が実施しており、実行は WWF「パ」国による。

GEF からすでに 313,800 ドルを受け取っており、現時点ではプロジェクト提案書を作成中で

ある。この事業では、湿地を対象にした保全のための政策、戦略、管理の手法を開発・実施

することを目的としている。既に多くのプロジェクトが政府や NGO によって作成されてい

・地域社会による管理を基本とした代表的保護地域の保護

・バロチスタン州の乾燥・半乾燥地における世界的に重要な生息地と種の保全

・地域社会参加によるバロチスタン州チルゴザ(Chilgoza)森林の持続可能な管理

・地域社会参加によるバロチスタンのネズ林の保全

・地域社会参加による NWFP のサクラ山脈における生物多様性保全

エ.トロフィーハンティング

「パ」国では、野生動物の保護を目的にトロフィーハンティングと呼ばれるプログラムが

ある。ゲームハンティングで獲った野生動物の数に応じて狩猟者が金を支払うもので、最初

に 1983 年から NWFP 森林局野生動物ウィングで始められたマークホーを対象としたチトラ

ル保護狩猟プログラム(Chitral Conservation Programme)は、「パ」国政府によって収穫物(ツノ)

の輸出が禁止されるまでの 8 年間実施された。最も長い保護プログラムは 1986 年からバロ

チスタン州北西部でアフガンウリアルとスレイマンマークホーを対象に始められたトルガ

ル保護プロジェクト(Tirghar Conservation Project)であり、ここで得られた収入は密猟者を監

視する野生動物保護者を雇う資金として使われている。また、このプロジェクトは登録 NGO

「トルガル保護プロジェクト団体(Society Tirghar Conservation Protection)」として正式なもの

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50

となった。

連邦政府は大規模なゲームハンティングを禁止しているが、国家野生生物保護委員会

(NCCW)の地域社会ベース狩猟プログラム(Community Based Trophy Hunting Programme)に基

づく狩猟は 2000 年から免除されるようになった。これは、NCCW に捕獲数を制限する役割

を与えるもので、アイベックス、アオヒツジ、ウリアルといった種を対象とする。この他に

は、WWF、IUCN などの NGO を主唱者とする地域社会ベース狩猟プログラムがある。

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5.2 都市環境

(1) 水質汚濁

1) 水質汚濁の状況

「パ」国における水質汚濁の状況を、下表に示す 2000 年以降の、イスラマバード・ラワ

ルピンディ・ラホールにおける河川水質調査、全国主要都市における飲料水源水質調査、

カラチにおける工業廃水水質調査から把握する。

資料表 5.2. 1 水質調査の状況

文献名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間

1 3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

June 2001/JICA-Pak EPA 4th ~29th

April 2000

2 Water Quality Status in Pakistan (Report 2001-2002)

Pakistan Council Of Research in Water Resources (Ministry of Science & Technology), October 2002

2000 年

3 開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国

社団法人 海外環境協力センター 2001 年 5 月

2001 年1~2月

4 鉱工業プロジェクト形成基礎調査報告書(「パ」国 カラチ産業廃水対策計画)

国際協力事業団 鉱工業開発調査部2003 年 5 月

2002 年

① イスラマバード、ラワルピンディ、ラホールにおける河川水質の状況

文献 1 によると 2000 年にラホール 20 箇所、イスラマバード・ラワルピンディ 20 箇所の

工業地域周辺において河川水質調査が実施された。(出典:3 cities Investigation of Air & Water

Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad))

工場廃水は、そのほとんどが未処理のまま側溝、小河川、池、浅い穴に排水され、それ

らのいくつかは下流で農業用水として利用されている。家庭排水も同様に側溝や小河川に

排水されている。このため、地下水汚染、飲料水汚染のほか、低水位の河川や海域、河口

での水質に大きな影響を与えているといわれている。このような状況を反映して、ラホー

ル市では 20 箇所のうち 14 箇所、イスラマバード・ラワルピンディでは 20 箇所のうち 3 箇

所が BOD100mg/l を超過する値が検出されている。(調査結果データは資料編に添付)

なお、NEQS(国家環境基準)では、河川水質の環境基準が設定されていないため基準値

との比較はできないが、日本の環境基準(河川 C 類型)と比較すると、溶存酸素量、全窒

素、BOD 濃度、大腸菌群数が大幅に超過している。

ラホール市では、家庭廃水と産業廃水は、簡易処理の後、6 箇所の池で貯水後、ラビ川に

放流している。それらの負荷排水量は 963,772 m3/day であり、BOD の負荷量は、200-250 t/day

Page 138: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

52

と推計されている。

また、イスラマバードでは 1963 年にフランスが下水処理場を建設しているが、正常に機

能していない状況である。

② 「パ」国国内の飲料水源水質の状況

文献 2) によると 2001 年に「パ」国国内 21 都市(パンジャブ州 11 都市、シンド州 3 都

市、バロチスタン州 4 都市、NWFP3 都市)の合計 287 箇所で飲料水源となる井戸、河川等

の飲料水質調査が実施された。(出典:Water Quality Status in Pkistan (Report 2001-2002))

調査の対象となった飲料水は、丘陵地では雨水を貯水後、濾過のみで飲用し、山岳地域

では、湧水をそのまま飲料水として用いている。灌漑地域では、運河の水を高速砂濾過の

みで飲用に用いている。また、カラチやファイザラバードのような都市部では、表流水を

砂濾過し、塩素殺菌して使用している。

この調査によると、大半の地点で大腸菌が WHO 飲料水水質基準を超過しており、生活

排水が未処理で河川等に流入し、それらが飲料水源を汚染しているものと考えられている。

資料表 5.2. 2 飲料水質調査結果(主に井戸) S.# City

(調査地点数) WHO 飲料水基準値を超えた項目の割合(%:超過地点/調査地点数)

1 Islamabad(27) 濁度(3.7)、鉄(48.1)、大腸菌(70.4) 2 Bahawalpur(25) 濁度(12)、ヒ素(60)、塩素(4)、鉄(64)、ナトリウム(8)、大腸菌(76) 3 Faisalabad(14) 塩素(28.6)、フッ素(7.1)、、ナトリウム(28.6)、大腸菌(78.6) 4 Gujranwala(14) 濁度(7.1)、ヒ素(7.1)、ナトリウム(7.1)、大腸菌(57.1) 5 Gujrat(9) 濁度(33.3)、鉄(55.6)、ナトリウム(11.1)、大腸菌(100) 6 Kasur(10) 鉄(20)、ヒ素(30)、ナトリウム(30)、大腸菌(70) 7 Lahore(11) ヒ素(31.3)、鉄(6.3)、大腸菌(12.5) 8 Multan(16) 濁度(6.3)、ヒ素(75)、鉄(43.8)、大腸菌(87.5) 9 Rawalpindi(15) 濁度(13.3)、鉄(6.7)、大腸菌(86.7)

10 Sheikhupura(11) ヒ素(45.5)、ナトリウム(27.3)、大腸菌(63.6) 11 Sialkot(10) ヒ素(20)、塩素(10)、ナトリウム(10)、大腸菌(40) 12 Hyderabad(15) 濁度(66.7)、鉄(73.3)、大腸菌(73.3) 13 Karachi(28) 濁度(7.1)、フッ素(3.6)、鉄(21.4)、ナトリウム(7.1)、大腸菌(60.7) 14 Sukkur(12) 濁度(58.3)、鉄(83.3)、ナトリウム(25)、大腸菌(83.3) 15 Khuzdar(8) 濁度(12.5)、マグネシウム(100)、大腸菌(100) 16 Loralai(11) 濁度(18.2)、フッ素(63.6)、鉄(36.4)、大腸菌(100) 17 Quetta(36) 濁度(16.7)、ヒ素(5.6)、フッ素(8.3)、鉄(5.6)、ナトリウム( 5.6)、大腸菌(52.8) 18 Ziarat(8) 濁度(25)、フッ素(12.5)、鉄(62.5)、大腸菌(100) 19 Mangora(10) 鉄(100)、大腸菌(60) 20 Mardan(12) 濁度(8.3)、大腸菌(83.3) 21 Peshawar(13) ナトリウム(7.7)、大腸菌(69.2)

合計

21 都市 (320)

濁度(13.1)、ヒ素(12.8)、塩素(3.1)、フッ素(5)、鉄(28.4)、ナトリウム(8.4)、大腸菌(72.8)

注) :網掛けは、WHO Second edition of the Guidelines for Drinking-Water Quality からの超過率が 50%を超える項目 ただし、濁度、大腸菌、鉄については上記資料の付表 Table A2.5. Substances and parameters in drinking-water that

may give rise to complaints from consumers からの超過率が 50%を超える項目 出典:Water Quality Status in Pakistan ( REPORT 2001-2002) Pakistan Council of Reserch in Water Resourses, Ministry Of

Science & Technology October, 2002

Page 139: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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③ カラチ市における工場廃水の水質の状況

2001 年にカラチ市内の主要河川と工業廃水の調査が実施されている。(出典:開発途上国

環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国、鉱工業プロジェクト形成基礎調

査報告書)

カラチは古くからパ国の産業の中心であり、主要な産業は、繊維、皮革、食品、タバコ、

機械等の軽工業のほか、発電、製鉄、化学品等の重化学工業も立地している。

カラチ市内には、SITE(Sindh Industrial & Trading Estate)、フェデラル B、北部・新カラ

チ、コランギ、ランディ、輸出加工区、クアシム港の 7 箇所が工業地域として立地してい

る。それらの多くは市街地の中または隣接して立地し、給水・下水施設はほとんど整備さ

れていない。

以下にカラチ市における有機汚濁負荷量、産業廃水の水質、河川水質、地下水質の概況

を示す。

・汚濁負荷量

カラチ市内の水質の BOD 汚濁負荷量は、未処理水から 220t/day、処理水から 6t/day、産

業廃水から 56t/day の合計 282t/day と推計されている。

資料表 5.2. 3 カラチ市における汚濁負荷量

発生源 水量(m3/日) BOD(ton/日) BOD の比率(%)

未処理下水 1,100,000 220 78

処理下水 100,000 6 2

産業廃水 80,000 56 20

合計 1,280,000 282 100

注:JICA 調査団の試算による。 出典:鉱工業プロジェクト形成基礎調査報告書(「パ」国 カラチ産業廃水対策計画)JICA 鉱工業開発調査

部 2003 年 5 月

・産業廃水の水質

産業廃水は、ほとんど未処理のままリアリ川とマリル川に流入している。産業廃水の調

査結果は、業種別に見ると BOD 濃度 85mg/l(鉄鋼)~ 1,590mg/l(化学工業)であり、NEQS

(国家環境基準)に示された排水基準 80mg/l(NEQS:内陸水域放流)を大幅に超える高い

値となっている。

また、2001 年の「開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国」

の調査結果では、調査した工場廃水のほとんどが NEQS を超過していた。特に皮革産業の

廃水からは NEQS の約 110 倍(110mg/l)のクロムが検出され、バッテリー産業からは NEQS

の約 82 倍(41.1mg/l)の鉛が検出された。

Page 140: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

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資料表 5.2. 4 産業廃水の水質調査結果

業種 PH

(-)

TDS

(mg/l)

TSS

(mg/l)

BOD

(mg/l)

COD

(mg/l)

Cd

(mg/l)

Cr

(mg/l)

Pb

(mg/l)

Hg

(mg/l)

As

(mg/l)

CN

(mg/l)

排水基準 5-9 3500 200 200 150 0.1 1.0 0.5 0.01 1.0 1.0

皮革 7.1 8,000 1,372 893 6,649 0.50 110 2.54 0.03 0.00 0.00

自動車 7.7 2,715 153 242 554 0.07 0.29 0.38 0.00 0.02 0.01

電池 7.4 11,488 41 290 591 0.14 0.87 41.1 0.00 0.10 0.03

ペンキ 8.0 3,600 2,280 239 2,344 0.04 0.23 1.09 0.00 0.00 0.00

鉄鋼 8.0 4,587 57 409 1,557 0.21 0.51 2.46 0.00 0.07 0.01

金属加工 6.8 3,188 33 86 235 0.01 0.12 1.18 0.00 0.02 0.04

鋼管 8.0 7,669 776 350 1,779 0.42 0.69 6.68 0.00 0.06 0.03

石油精製 7.3 5,655 378 642 1,889 0.14 0.57 1.54 0.02 0.02 0.02

電球 7.3 5,910 1,038 377 377 0.08 0.55 1.35 0.05 0.00 0.01

化学 7.7 2,179 282 1,592 619 0.18 50.2 6.09 0.01 0.15 0.06

注) :網掛けは NEQS の排水基準を超過した項目 出典:開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国(2001,OECC)

資料表 5.2. 5 既存処理施設及び排出水の適合性

NEQS に対する適合

生活環境項目 業種 既存処理施設

内陸水域放流 下水道放流 健康項目

皮革 前処理(工程内クロム回収) 不適合 不適合 不適合

自動車 腐敗槽 不適合 不適合 適合

電池 中和施設 不適合 不適合 不適合

ペンキ なし 不適合 不適合 不適合

鉄鋼 活性汚泥施設 不適合 不適合 不適合

金属加工 なし 不適合 不適合 不適合

鋼管 なし 不適合 適合 不適合

石油精製 API/CPI 油分離施設 不適合 不適合 不適合

電球 腐敗槽 不適合 不適合 不適合

化学 なし 不適合 不適合 不適合

出典:開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国(2001,OECC)の結果を用いて JICA 調

査団が作成。

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55

・河川水質

流入するリアリ川・マリル川においても、BOD 212~848mg/l、TSS 71~636mg/l と排出基

準を超過する高い値が検出されている。

資料表 5.2. 6 リアリ川及びマリ川における河川水質調査結果

測定点 PH

(-)

TDS

(mg/l)

TSS

(mg/l)

BOD

(mg/l)

COD

(mg/l)

Cd

(mg/l)

Cr

(mg/l)

Pb

(mg/l)

Hg

(mg/l)

As

(mg/l)

CN

(mg/l)

リアリ川 7.3 1365 223 248 575 0.08 0.25 0.54 - 0.03 0.10

マリ川 7.4 2425 209 360 858 0.11 2.75 0.42 - 0.05 0.05

日本の環境基準 6-8.5 - 25-100 1-10 1-8 0.01 0.05 0.01 0.0005 0.01 不検出

注 1)調査結果は、リアリ川は 22 地点、マリ川は 20 地点の平均値。 注 2)パ国における河川水質環境基準はないために日本の河川水質環境基準等と比較を行った。 :網掛けは超過項目。 出典:開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国(2001,OECC)

・地下水質

工業地帯における 7 箇所の地下水質調査結果では、2 地点で排出基準値をも超える値が検

出された。また、重金属では鉛、カドミウム、クロム、水銀、ヒ素、シアンについて、そ

のほとんどが WHO の飲料水基準を超過する値が検出されている。

資料表 5.2. 7 地下水の水質調査結果(カラチ市内産業地域)

測定点 PH

(-) TDS

(mg/l) TSS

(mg/l) BOD (mg/l)

COD (mg/l)

Cd

(mg/l)

Cr

(mg/l)

Pb

(mg/l)

Hg

(mg/l)

As

(mg/l)

CN

(mg/l)

English Biscuit(in KIA) 7.9 15,944 409 120 274 - 0.17 0.2 - 0.05 0.01 Jamia Milia (Tube well in KIA)

7.8 3,256 35 95 122 - - 0.2 - 0.01 -

Chamrra Chowrangi (in KIA)

7.6 2,320 53 54 152 0.01 0.15 0.06 0.02 0.21 0.03

Near Valika (in SITE) 7.7 7,577 261 24 75 0.05 0.06 0.11 - 0.06 0.04 Chani Chowrangi (in SITE)

7.8 2,286 5 65 152 - 0.2 0.1 - 0.1 0.06

Habib Bank Chowrangi (in SITE)

8.4 1,245 5 36 74 - 0.15 - - 0.05 0.12

Shershah (in SITE) 7.7 3,680 15 12 26 0.02 0.12 0.02 0.02 0.15 0.11 WHO 飲料水質基準 - - - - - 0.003 0.05 0.01 0.001 0.01 0.07 注) :網掛けは、WHO Second edition of the Guidelines for Drinking-Water Quality を超過している項目(パ国においても準

用されている)

出典:Karachi Investigation on Industrial Water Quality (Japanese Ministry of Environment, 2001)

Page 142: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

56

2) 健康被害等の状況

未処理の家庭排水、工場廃水が河川に排水され、それが飲料水、灌漑用水、工業用水と

して利用されており、健康被害、農作物への影響、湖沼等における水生生物への影響、生

態系への影響(生物濃縮)が懸念されている。

特に飲料水における細菌性汚染は、下痢、赤痢、腸チフス、コレラ、肝炎、胃病、消化

不良等の病気を引き起こす可能性が高いと言われている。

国内の主要都市における水系疾病の患者数と疾病率を次表に示す。飲料水調査結果の

70%を超えるサンプルから大腸菌が検出されている結果を反映し、下痢、腸内感染、アメ

ーバ赤痢、細菌性赤痢の患者数及び疾病率が高くなっている。都市別にみると Multan、

Peshawar において疾病率が高くなっている。

また、死亡原因別死亡者数をみても 14 才以下では 60%以上が水系疾病による死因となっ

ており、劣悪な水環境がみてとれる。

Page 143: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

57

資料表 5.2. 8 原因別疾病患者数及び疾病率(水質汚濁関連)

資料表 5.2. 9 死亡原因別死亡者数

出典:Annual Report of Director General Health 200-2001(Ministory of Health, 2002)をもとに人口から疾病率を算出。 57

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58

3) 水質汚濁の影響要因

水質汚濁の影響要因とその内容をとりまとめると次のとおりである。

資料表 5.2. 10 水質汚濁の影響要因

影響要因 発生源の特徴

工場の稼働

(工場排水)

・ 工場廃水は、ほとんどが未処理のまま排水されている。BOD に代表され

る有機汚濁及び重金属汚染は、ほとんどが工場由来と考えられ、特に皮革、

化学産業から排水されるクロムは高濃度である。

・ ラホール市では、963,772 m3/day (家庭排水含む)の下水が 6 つの処理池を経

由してラビ川に流入して、負荷量では 200-250t/day と推計されている。

・ カラチ市内では、工場水需要量 80,000m3day があり、工場廃水の BOD 濃

度は、約 700mg/l、56t/day が負荷量として発生している。

・ 工場廃水は、河川水のほか、地下水への浸透により影響を与えている。そ

の結果、赤痢、コレラ、肝炎等の伝染病、下痢、消化器系の疾患を引き起

こしていると見られている。

・ カラチの工場地帯周辺や沿岸の魚類には、高濃度の水銀やクロム、鉛、ヒ

素、亜鉛等の重金属類が検出されており、生態系への影響が懸念されてい

る。

家庭排水 ・ 家庭排水のほとんどは、未処理のまま排水されている。カラチ市内では工

場廃水と比較して BOD 濃度は 1/3 以下と考えられるが、有機汚濁の主要

な発生源となっている。

・ カラチ市内の都市廃水は、BOD 200mg/l であり、需要水量 120 万 m3/day、

BOD 汚濁負荷は 226t/day と推計されている。

上水、下水道管渠の老

朽化

・ 大都市における上水道の整備は、需要にみあっておらず、水道管からの違

法な接続による盗水が行われている。また、家庭や工場等による違法な下

水道への接続が行われている。このような結果、両者の漏洩水が多くなり、

両者の混入という問題が起きている。

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59

4) 法整備の状況

パ国には、都市及び産業廃水に係る国家環境基準(National Environmental Quality Standards:

NEQS 1993、Revised NEQS 2000)のみ設定されている。飲料水の基準は、WHO 飲料水ガイド

ラインを準用して用いている。

資料表 5.2. 11 ①都市及び産業廃水に係る国家環境基準(未定義の場合は mg/l):NEQS 2000 変更後基準(Revised NEQS, 2000)

No. 項目 従来基準 (1993) 内陸水域へ

排出の場合 下水道へ

排出の場合 5 海洋へ

排出の場合 6 1. 温度または温度上昇* 40℃ =<3℃ =<3℃ =<3℃ 2. PH 値 6-10pH 6-9 6-9 6-9 3. BOD5(at 20℃1) 80mg/l 80 250 80** 4. COD1 150mg/l 150 400 400 5. 総浮遊物質量 150mg/l 200 400 200 6. 総未溶解物質量 3,500mg/l 3,500 3,500 3,500 7. グリース及び油 10mg/l 10 10 10 8. フェノール化合物(フェノール換算値 0.1mg/l 0.1 0.3 0.3 9. 塩素化合物(Cl 換算値) 1,000mg/l 1,000 1,000 SC

10. フッ素化合物(F 換算値) 20mg/l 10 10 10 11. 総シアン(CN 換算値) 2mg/l 1.0 1.0 1.0 12. アニオン 2(有機ベンゼン硫酸塩換算値) 20mg/l 20 20 20 13. 硫酸塩(SO4 換算値) 600mg/l 600 1,000 SC 14. 硫黄(S 換算値) 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 15. アンモニア(NH4 換算値) 40mg/l 40 40 40 16. 農薬、除草剤、殺菌剤、殺虫剤 3 0.15mg/l 0.15 0.15 0.15 17. カドミウム 4 0.1mg/l 0.1 0.1 0.1 18. クロム 4(三価及び六価) 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 19. 銅 4 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 20. 鉛 4 0.5mg/l 0.5 0.5 0.5 21 水銀 4 0.01mg/l 0.01 0.01 0.01 22. セレン 4 0.5mg/l 0.5 0.5 0.5 23. ニッケル 4 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 24. 銀 4 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 25. 総毒性金属 2.0mg/l 2.0 2.0 2.0 26. 亜鉛 5.0mg/l 5.0 5.0 5.0 27. 砒素 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0 28. ベリリウム 1.5mg/l 1.5 1.5 1.5 29. 鉄 2.0mg/l 8.0 8.0 8.0 30. マンガン 1.5mg/l 1.5 1.5 1.5 31. ボロン 6.0mg/l 6.0 6.0 6.0 32. 塩素 1.0mg/l 1.0 1.0 1.0

解説: 1. 廃水サンプルの希釈倍率 1:10 以下とする。すなわち、サンプル 1m3 に対して 10m3 以下の水で希釈する。希釈倍率が低い

方が Pak-EPA で定められたより厳しい基準に適合する。 2. アルキルベンゼン硫黄化合物;菌分解物質として界面活性剤を使用する場合。 3. 農薬、除草剤、殺菌剤、殺虫剤 4. No.25 の総毒性金属の基準が優先する。 5. 下水処理設備が稼動しており、BOD5=80mg/l 以下の基準が達成されている場合に適用する。 6. 海岸域やマングローブ又はその他の重要な地域から 10 マイル以内でない場合に適用する。

* 廃水の排出により排出地点の端において温度上昇が 3℃以下であること。場所の特定ができない場合は排出地点から100metersの地点とする。

** 工場廃水の場合は 200mg/l とする。 注:NEQSに適合させるために排出前に新鮮なガスや水によって希釈することは認められない。

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5) 水質保全対策の取り組み(パ国及び他ドナー)

① 固定発生源対策 -自己モニタリング・報告規則及び罰金制度-

「5.2(2)大気汚染の状況」で示すように、国家環境保護局(Pak-EPA)は、企業に対して国

家環境基準を遵守させるために、企業による自己モニタリング及び報告(National

Environemental Quality Standards (Self-Monitoring And Reporting By Industries)Rules, 2001)及

び排出基準を超過している企業に対する、産業公害課徴金の支払い(Composition of Offence

And Payment Of Administrative Penalty Rules,1999 / Industrial Pollution Charge (Caluculation And

Collection)Rules, 2001)を義務づけており、SMART プログラムにより産業界に本制度を浸透

する努力がなされている。

② 税金優遇制度

「5.2(2)大気汚染の状況」同様、企業が環境投資を行う場合にインセンティブを与えるような

制度として、税制優遇制度がLaw Of Custom Dutyに規定されている。

③オランダ政府の援助

カラチ市内のコランギ皮革廃水集合処理施設におけるパイロット・プラントの実施・技術

指導を行っている。約 170 社からなる皮革工場廃水を処理する施設を建設中である。皮革廃

水が多くの BOD とクロムを含み、環境影響が大きいことが、プロジェクト実現の背景となっ

ている。

このほか、1996 年からオランダ政府は 150 万ユーロを投入し、クリーナー・プロダクショ

ン・プログラム(Cleaner Production Program : CPP)による、デモンストレーション、支援・

訓練、データベース構築等を行っている。

このほか、各国の支援の状況はつぎのとおりである。

・ノルウェー政府:政府のキャパシティビルディングを目的に 100 万 US ドルを支援

・アジア開発銀行:同上

・国連工業開発機関:クリーナー・プロダクション技術の導入・普及を目的に国家クリナ

ー・プロダクション・センター( National Cleaner Production Center : NCPC)を 2002 年に設

立し、2003 年初頭から活動している。

④ 日本国の援助

日本国の援助としては、現在、パ国の水質汚濁の現況を把握し、パ国の人材育成を行って

いる段階である。これまでの調査としては、2001 年にカラチ市内の河川水質と工場廃水の調

査(開発途上国環境保全計画策定支援調査報告書 「パ」国回教共和国)を環境省が行い、そ

の調査結果に基づき 2003 年に産業廃水の現状と課題の調査(鉱工業プロジェクト形成基礎調

査報告書(「パ」国 カラチ産業廃水対策計画))が JICA により実施されているこのほか、2001

年にイスラマバード、ラホール、ラワルピンディにおける河川水質調査(3 cities Investigation of

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61

Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad))が JICA により実施されている。

また、現在、JICA は 1999 年以降、環境行政の向上を目途として長期専門家を継続的に派遣

し環境モニタリングと人材育成を行っている。

一方、主要都市の環境モニタリング体制整備計画への無償資金協力に向け、準備のため予

備調査を実施している。

資料表 5.2. 12 日本国の援助(水質汚濁)

プロジェクト名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間

1 3 cities Investigation of Air & Water Quality

(Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

June 2001/JICA-Pak EPA 4th ~29th

April 2000

4 長期専門家派遣 JICA 1999 年以降継続

派遣

6) モニタリング体制・機材等

「5.2 (2)大気汚染の状況」同様、公式の分析機関として認定されるためには、国家環境基

準(環境分析試験所認定)(National Environmental Quality Standard(Certification Of Environmental

Laboratories)Regurations, 2001)に基づいた申請と認定が必要である。

文献(「パ」国 カラチ産業廃水対策計画, JICA 2003 年 5 月)によれば、認定を受けた分析

試験所は全国に 35 箇所ある。公共分析機関としては、科学技術省の Pakistan Council Of Reserch

In Water Resources に充実した機材が整備されており、Pak-EPA が分析不可能な大腸菌群数等

は本機関で実施されている。

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<水質>

資料表 5.2. 13 各調査地点の水質の状況(ラホール・イスラマバード・ラワルピンディ)

流量

(m3/sec)

水温

(℃)

pH 溶存酸素量

(mg/l)

電導率

(μS/cm)

濁度

(NTU)

調査項目及び基準値(日本)

調査都市/地点 - - 6.5-8.5 2 以上

Shadbagh 6.8 27.5 7.6 2.0 998.0 126.0

Babu Sabu Drain 9.0 28.9 7.3 1.1 1,191.0 75.0

Babu Sabu Outlet 7.3 28.7 7.3 0.6 9653.0 1,081.0

Main Outfall 2.2 27.0 7.5 1.8 1,081.0 105.0

Hudiara Drain from India 3.6 28.6 7.8 0.6 2,300.0 1,579.0

Hudiara Drain Ferozpur Road 8.3 28.3 8.0 0.7 1,579.0 42.0

Satokatala Drain Defence Road 6.5 32.1 7.6 0.4 1,369.0 64.0

Hudiara Drain Multan Road 9.1 29.4 7.7 1.0 1,765.0 37.0

Bhed Nullah 0.5 35.5 9.3 0.2 1,815.0 47.0

Deg Nullah 1.91 29.8 7.3 0.7 3,070.0 128.0

Choti Deg 0.9 27.8 8.7 0.6 3,600.0 126.0

Chichoki Mallian Drain 0.4 27.5 9.0 0.8 4,660.0 56.0

Barian Drain 1.8 32.3 7.0 0.7 2,270.0 237.0

Deg Nullah II 1.0 27.9 8.0 1.0 5,310.0 98.0

Mundawa na Drain 1.3 30.7 8.4 0.4 4,220.0 48.0

BRB Siphon 336.0 26.1 8.3 6.4 227.0 55.0

Bera Dari 88.0 29.0 8.5 4.9 180. 62.0

Junction of Hudiare Drain 78.9 29.2 7.4 0.3 645.0 21.0

1km Downstream of Hudiara Drain 480.0 27.7 7.7 1.2 516.0 46.0

Lahore

200m upstream of Balloki HW 340.0 25.1 7.5 5.3 333.0 34.0

注) :網掛けは日本の環境基準値(河川C類型)を超過した項目 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

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流量

(m3/sec)

水温

(℃)

pH 溶存酸素量

(mg/l)

電導率

(μS/cm)

濁度

(NTU)

調査項目及び基準値(日本)

調査都市/地点 6.5-8.5 2 以上

E-8 Karakuram Road 0.06 18.2 7.4 5.7 210 13.7

E-7 Hill Side Road 0.04 20.5 7.7 0.66 760 9.9

F-8/2 Near St. 24A 0.11 25.4 7.3 3.8 560 49

F-6/2 Margalla Road 0.05 16.0 7.4 5.8 200 9.3

F-5/2 Near AJK Sectt. 0.07 18.8 7.6 4.6 230 11.4

Peshawar Road 0.05 22.3 7.6 2.2 850 6.4

Nullah-1, Pirwadhai 2.1 20.8 7.9 0.5 930 6.4

Nullah-2, Pirwadhai 7.6 20.4 7.4 0.09 910 18.5

Mixed Nullah 1 and 2, Pirwadhai 2.7 20.3 7.6 0.05 960 17

Nullah leh Gawalmandi 10.8 23.8 7.1 0.28 1320 41.5

Nullah leh Airport Road 7.8 24.4 7.13 0.05 1340 65

Nullah Leh Gulistan Colony 8.6 30.0 7.3 1.9 1260 64.5

Nullah Leh before Soan 9.6 24.2 7.6 2.1 1590 59.3

Near American Embassy 0.54 17.5 7.8 6.5 590 4.0

Chatta Park 0.75 20.8 8.0 6.1 600 0.5

Rawal Dam Outlet 1.22 19.8 7.8 6.0 410 2.6

Korang Nullah 1.9 26.9 7.6 2.4 58 22.6

Kura Nullah 1.15 27.6 8.1 4.8 680 7.7

River Soan 10.1 26.3 8.2 7.6 770 6.1

Raw

alpindi / Islamabad

Soan after Nullah Leh Joins 10.5 25.4 7.6 5.4 1140 43.5

注) :網掛けは日本の環境基準値(河川C類型)を超過した項目 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

Page 150: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

64

BOD

(mg/l)

COD

(mg/l)

浮遊物質量

(mg/l)

油膜 全窒素

(mg/l)

大腸菌群数

個/100ml

調査項目及び基準値(日本)

調査都市/地点 10 未満 - - 1 未満 1000 未満

Shadbagh 109.9 162.3 855.0 BDL 38.1 >180.0

Babu Sabu Drain 110.4 179.8 249.0 BDL 38.6 >180.0

Babu Sabu Outlet 102.1 111.8 110.0 BDL 4.5 >180.0

Main Outfall 109.5 214.4 342.0 BDL 29.7 >180.0

Hudiara Drain from India 449.0 862.0 537.0 BDL 3.6 >180.0

Hudiara Drain Ferozpur Road 163.0 215.0 5,982.0 BDL 3.9 >180.0

Satokatala Drain Defence Road 103.4 252.7 170.0 BDL 18.5 >180.0

Hudiara Drain Multan Road 117.3 387.8 126.0 BDL 8.4 >180.0

Bhed Nullah 139.5 582.4 405.0 BDL 2.8 >180.0

Deg Nullah 159.0 831.1 348.0 BDL BDL >180.0

Choti Deg 109.5 196.8 278.0 BDL 2.8 >180.0

Chichoki Mallian Drain 73.0 77.6 1,562.0 BDL 65.0 >180.0

Barian Drain 141.5 2,383.0 736.0 53.3 3.9 >180.0

Deg Nullah II 104.8 1,046.0 495.0 BDL 5.00 161.0

Mundawa na Drain 160.7 180.1 152.0 BDL 6.7 >180.0

BRB Siphon 9.2 16.9 124.0 BDL 1.1 <1.0

Bera Dari 12.1 26.6 162.0 BDL 2.8 >180.0

Junction of Hudiare Drain 63.0 165.6 133.0 BDL 8.4 >180.0

1km Downstream of Hudiara Drain 7.1 36.4 134.0 BDL 12.3 >180.0 Lahore

200m upstream of Balloki HW 7.1 33.4 80.0 BDL BDL >180.0

注) :網掛けは日本の環境基準値(河川C類型)を超過した項目 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

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65

BOD

(mg/l)

COD

(mg/l)

浮遊物質量

(mg/l)

油膜 全窒素

(mg/l)

大腸菌群数

個/100ml

調査項目及び基準値(日本)

調査都市/地点 10 未満 - - 1 未満 1000 未満

E-8 Karakuram Road 6.8 25.6 4,041 BDL BDL >180.0

E-7 Hill Side Road 58.0 89.3 50 BDL 18.4 >180.0

F-8/2 Near St. 24A 60.1 101.3 16,145 BDL 12.3 >180.0

F-6/2 Margalla Road 17.0 18.4 107 BDL BDL 0.0

F-5/2 Near AJK Sectt. 12.2 20.9 42 BDL BDL >180.0

Peshawar Road 31.3 58.2 146 BDL 1.7 >180.0

Nullah-1, Pirwadhai 57.6 83.7 358 BDL 10.1 >180.0

Nullah-2, Pirwadhai 59.5 114.3 89 BDL 3.4 >180.0

Mixed Nullah 1 and 2, Pirwadhai 34.2 81 210 BDL 5.1 >180.0

Nullah leh Gawalmandi 139 358 284 BDL 6.7 >180.0

Nullah leh Airport Road 139 215 272 BDL 5.6 >180.0

Nullah Leh Gulistan Colony 119 210 127 BDL 37.5 >180.0

Nullah Leh before Soan 81.7 147 255 BDL 51 >180.0

Near American Embassy 16.3 19.3 47 BDL BDL >180.0

Chatta Park 14.2 34.8 43 BDL BDL >180.0

Rawal Dam Outlet ND 7.0 106 BDL BDL >180.0

Korang Nullah 10.9 15.8 77 BDL BDL >180.0

Kura Nullah 16.0 18.4 36 BDL BDL >180.0

River Soan 26.9 45.6 94 BDL BDL >180.0

Raw

alpindi / Islamabad

Soan after Nullah Leh Joins 42.6 68.7 22 BDL BDL >180.0

注) :網掛けは日本の環境基準値(河川C類型)を超過した項目 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

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66

Arsenic

(μg/m3)

Cadmium

(μg/m3)

Chromium

(μg/m3)

Copper

(μg/m3)

Lead

(μg/m3)

Zinc

(μg/m3)

調査項目及び基準値(日本)

調査都市/地点 10000 10000 500 - 10000 -

Hudiara Drain Multan Road <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Hudiara Drain Ferozpur Road <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Junction of Hudiare Drain <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Bhed Nullah <0.1 <0.5 0.8 <0.2 0.9

Deg Nullah <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Choti Deg <0.1 2.5 <0.5 <0.2 <0.2

Chichoki Mallian Drain <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Lahore

Barian Drain

0.01 to

0.028

<0.1 <0.5 2.0 0.2 0.3

Nullah-1, Pirwadhai <0.01 <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Nullah-2, Pirwadhai <0.01 <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Mixed Nullah 1 and 2, Pirwadhai <0.01 <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

Nullah leh Gawalmandi <0.01 <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 0.3

River Soan <0.01 <0.1 <0.5 0.5 0.2 0.2

Nullah Leh before Soan <0.01 <0.1 <0.5 3.0 0.3 0.3

Raw

alpindi / Islamabad

Kura Nullah <0.01 <0.1 <0.5 <0.5 <0.2 <0.2

注) :網掛けは日本の環境基準値(河川C類型)を超過した項目

出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

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67

(2) 大気汚染

資料表 5.2. 14 各調査地点の大気質の状況(最小値-最大値、調査時間内平均値) CO( ppm :1hr Ave)

NO (ppm: 1hr Ave)

NO2

(ppm: 1hr Ave)

NOX

(ppm: 1hr Ave)

SO2

(ppm: 1hr Ave)

O3

(ppm: 1hr Ave)

PM (μg/m3:1hr Ave)

調査項目 基準値(WHO)

調査都市/地点 8 - 0.02 - 0.018 0.056 -

0.5- 7

0.032- 0.194

0.067- 0.163

0.099- 0.357

0.019- 0.088

0.0028- 0.0129

578.4- 1362 Yateem Khana Chowk

2.3 0.0862 0.1087 0.1949 0.0474 0.0063 1048.2 0.1- 9.4

0.0074- 0.331

0.0396- 0.074

0.047- 0.405

0.0089- 0.0724

0.0017- 0.017

109.5- 1349 Azadi Chowk

2.7 0.0565 0.0835 0.140 0.0356 0.0109 744.9 0.4- 4.2

0.0086- 0.025

0.0433- 0.0705

0.0519- 0.0955

0.0- 0.211

0.0016- 0.0439

373- 1324 Chowk Lohari Gate

2.3 0.0180 0.0523 0.0703 0.0399 0.0083 888 0.7- 6.8

0.004- 0.296

0.020- 0.127

0.024- 0.423

0.0028- 0.0951

0.0004- 0.110

68.4- 1400 Bank Square

3.9 0.1219 0.1156 0.2375 0.0584 0.0055 860.4 0.1- 9.4

0.0027- 0.499

0.0301- 0.057

0.0328- 0.556

0.0096- 0.0952

0.0004- 0.0485

90.6- 1535

Lahore

Qurtuba Chowk 2.9 0.1634 0.0696 0.2330 0.0414 0.0089 931.8 0.3- 2.8

0.0035- 0.0569

0.0157- 0.0530

0.0192- 0.1099

0.0- 0.0078

0.0071- 0.0593

372.1- 1166.5 Raja Bazar

1.4 0.0179 0.0464 0.0285 0.0033 0.0240 786.9 0.3- 6.7

0.0461- 0.2073

***- 0.0301

0.0389- 0.2374

0.0101- 0.0467

0.0007- 0.0526

39.6- 1214.4 Murree Road

2.4 0.1008 0.0233 0.1241 0.0251 0.0107 827.4 0.5- 3.6

0.011- 0.2629

0.0133- ***

0.0243- 0.095

0.0122- 0.061

0.005- 0.0549

513.7- 1406.3

Raw

alpindi

Pirwadhai Road 1.7 0.0883 *** 0.0558 0.0290 0.0163 910.4 0.1- 3.0

0.053- 0.3552

0.0503- ***

0.1033- 0.3495

0.0171- 0.0602

0.000- 0.0484

107.9- 937.8 Abpara Chowk

1.2 0.1061 0.0617 0.1678 0.0363 0.0083 500.8 0.8- 3.6

0.010- 0.1915

0.020- 0.0479

0.030- 0.2394

0.0043- 0.0473

0.001- 0.0525

80.7- 853.6

Islamabad Industrial Area Islamabad

1.9 0.0626 0.0552 0.1178 0.0213 0.0120 0.539 注 1) :WHO Guidelines values (1999) for common pollutants の基準値を超過するデータ 注 2)NO2 の値は、NOx と NO の差を用いた。 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad) June 2001/JICA-Pak EPA

Page 154: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

68

資料表 5.2. 15 各調査地点の大気質の状況(重金属類) Arsenic (μg/m3)

Copper (μg/m3)

Lead (μg/m3)

Zinc (μg/m3)

調査項目 調査都市/地点

- - 0.5 (1 year) -

Yateem Khana Chowk 1.73 6.39 6.18 5.82

Azadi Chowk 1.67 6.72 5.59 3.56

Lohari Gate 0.25 0.52 0.89 0.92

Bank Square 0.81 0.77 2.88 1.75

Lahore

Qurtuba Chowk 2.23 0.54 7.85 1.51

Raja Bazar 0.19, 0.58 0.93, 2.25 0.71, 2.10 1.52, 2.42

Murree Road 0.44, 2.79 1.58, 8.33 1.54, 10.00 4.48, 2.78

Raw

alpindi Pirwadhai Road 1.39 0.84 4.93 1.08

Abpara Chowk 3.12 1.38 10.93 2.53

Islamabad Industrial Area Islamabad 0.24 0.53 0.96 2.16

注) :WHO Guidelines values (1999) for common pollutants の基準値を超過するデータ 出典:3 cities Investigation of Air & Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad) June 2001/JICA-Pak EPA

4) 法整備の状況

① 国家質環境基準(National Environmental Standards)

窒素酸化物(NOx) 年間中央値 大気質濃度 100μg/m3

② 国家大気質環境基準(National Environmental Air Quality Standards)

A. 二酸化硫黄 μg/m3

バックグラウンド濃度 年平均値 1 日の最大値

標準 1 最大 SO2 排出量(t/day/plant)

標準 2 最大許容着地濃度 増分(μg/m3)

未汚染地域 < 50 <200 500 50 通常の汚染レベル* 低汚染地域 50 200 500 50 高汚染地域 100 400 100 10 重度汚染地域** >100 >400 100 10

出典:「パ」国国派遣・環境保護 長期専門家総合報告書 Report of JICA Expert in Pakistan Environmental protection agency *:50~100μg/m3 の直線補間法による中間値を使用する。 **:二酸化硫黄の排出を伴わないプロジェクトが推奨される。

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B. 窒素酸化物 与熱量(10-9g/J) 液体化石燃料 130 固体化石燃料 300 亜炭化石燃料 260

③ 排出基準(National Air Emission Standards for Industrial Gaseous Emission; August 10,2000)

項目 排出源 基準値 (mg/Nm3)

改訂後基準値 (mg/Nm3)

参考:東京都排出基準値

ばい煙 ばい煙容量を超過しないこと

40 % or 2 Ringlemann Scale

40% or 2 Ringlemann Scale or equivalent smoke numbers

a)ボイラー及び焼却炉 ⅰ)石油燃焼

300 300 50-300

ⅱ)石炭燃焼 500 500 100-300 ⅲ)セメント・キルン 200 300 100-200

粒子状物質 PM10

b)研磨、破砕、冶金、転換炉、高炉セメント、溶銑炉

500 500 25

塩化水素 HCL すべて 400 400 10 塩素 CL すべて 150 150 10 フッ化水素 HF すべて 150 150 10 硫化水素 H2S すべて 10 10 100

硫酸プラント 400 5000 100 硫黄 SO2 石油・石炭を用いないプラ

ント 400 1700 100

一酸化炭素 CO すべて 800 800 10-30 鉛 Lead すべて 50 50 - 水銀 Mercury すべて 10 10 1 カドミウム Cd すべて 20 20 - ヒ素 As すべて 20 20 - 銅 Cu すべて 50 50 - アンチモン Sb すべて 20 20 - 亜鉛 Zn すべて 200 200 -

硝酸精製工場 400 3000 120 石油または石炭を用いない工場 ⅰ)ガス燃焼

400 400 120

ⅱ)石油燃焼 - 600 120

窒素酸化物 NOx

ⅲ)石炭燃焼 - 1200 120

出典:Report of JICA Expert in Pakistan Environmental protection agency

④ 自動車排出基準 項目 基準 測定方法

黒煙 40%または 2 リゲルマン濃度、またはエンジンに加速負荷をかけた場合の排気口における黒煙値

6m以上の距離でリンゲルマンチャートと比較する

一酸化炭素 排ガス基準 新車 4.5% 使用過程車 6%

アイドリング状態でガス分析機を通して非分散型赤外検出機で測定する

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70

資料表 5.2. 15 原因別疾病患者数及び疾病率(大気汚染関連)

出典:Annual Report of Director General Health 200-2001(Ministory of Health, 2002)をもとに人口から疾病率を算出。

70

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71

5) 大気質保全対策の取り組み(「パ」国及び他ドナー)

① 固定発生源対策 -自己モニタリング・報告規則及び罰金制度-

国家環境保護局(Pak-EPA)は、企業に対して国家環境基準を遵守させるために、企業による自己モ

ニタリング及び報告を義務づけた。(National Environemental Quality Standards (Self-Monitoring And

Reporting By Industries)Rules, 2001)

この規則では、各産業セクターを大気汚染、水質汚染の程度に従って、それぞれカテゴリーA(21 業

種:重工業主体)、B(13 業種:比較的汚染の少ない産業)、C(1 業種:医薬製造)の 3 つに分類し、

カテゴリー毎に監視項目と監視頻度を定めている。

カテゴリーAに属する企業では、月1回の調査実施と各州 EPA と Pak-EPA への報告書提出が義務づけ

られている。Pak-EPA では、カテゴリーAに属する汚染が著しい約 50 企業から報告を受けてり、今後拡

大ていく予定である。

これらの報告をもとに、排出基準を超過している企業に対しては、産業公害課徴金の支払いが義務づ

けられている。(Composition of Offence And Payment Of Administrative Penalty Rules,1999)課徴金は、排出

金を超過した排出量に応じて計算される。(Industrial Pollution Charge (Caluculation And Collection)Rules,

2001)

これらの自己モニタリング・報告を産業界に浸透させていくために、SMART(Self Monitoring And

Reporting Tool)プログラムを実施中である。

② 税金優遇制度

企業が環境投資を行う場合にインセンティブを与えるような制度として、税制優遇制度が Law Of

Custom Duty に規定されている。

③ 移動発生源対策 –V.E.T.Sの設立と活動-

自動車排ガスに起因する大気汚染防止を目的として、1997 年に GTZ(German Agency for Technical

Cooperation)の支援の下、自動車排ガス試験場(VETS:Vehicular Emission Testing Station)をペシャワー

ル市内に 1 箇所設立した。

設立以降、交通警察の協力の下、移動測定チームが 50,000 台の黒煙テストを行い、33,000 台が合格し

た。しかし、ペシャワール市内においても登録された車両は少なくも 135,000 台、パ国内では 400 万台

といわれており、検査された車両はわずかである。このため、検査済みシールを貼り付けた車両はほと

んど確認されない。

なお、検査料は 100 ルピーで合格すると車検済みのシールが貼り付けられる。不合格の場合は 200 ル

ピーがペナルティとしてその場で徴収され、猶予期間内(21 日間)のうちに改善を行い、再度 VETS で

検査を行うシステムである。

検査期間は、ガソリン車が 1 回/年、ディーゼル車が 2 回/年である。

今後は、VETS を全国的に設置していく計画であり、NWFP では次年度にアバタット市に VETS を設

置予定である。

④ 日本国の援助

2001 年にイスラマバード、ラホール、ラワルピンディにおける河川水質調査(3 cities Investigation of Air

& Water Quality (Lahore, Rawalpindi, Islamabad))が JICA により実施されている。

また、現在、JICA は 1999 年以降、環境モニタリング体制の確立を目途として長期専門家を継続的に

Page 158: 21世紀初頭における環境・開発統合支援戦略策定 …Pakistan 2000 5 この結果、国土は北緯23 30′~36 45′、 東経61 ~75 30’に位置し、南北約1,600km、

72

派遣し環境モニタリングと人材育成を行っている。一方、主要都市の環境モニタリング体制整備計画へ

の無償資金協力に向け、準備のため予備調査を実施している。

資料表 5.2. 16 大気汚染対策等に係る日本国の援助プロジェクト

プロジェクト名 報告書発行年及び調査実施機関 調査実施期間

① 3 cities Investigation of Air & Water Quality

(Lahore, Rawalpindi, Islamabad)

June 2001/JICA-Pak EPA 4th ~29th

April 2000

② 長期専門家派遣 JICA 1999 年以降継

続派遣

6) モニタリング体制・機材等

公式の分析機関として認定されるためには、国家環境基準(環境分析試験所認定)(National

Environmental Quality Standard(Certification Of Environmental Laboratories)Regurations, 2001)に基づいた

申請と認定が必要である。

文献(「パ」国 カラチ産業廃水対策計画, JICA 2003 年 5 月)によれば、認定を受けた分析試験所は全

国に 35 箇所ある。