29•MANAGEMENT SQUARE 2017-2 MANAGEMENT SQUARE 2017-228 ちばぎん総合研究所・ ぶぎん地域経済研究所共催セミナー 講演会録 P97 KM2 5 16 16 MANAGEMENT SQUARE 2017-228 大久保惠司 [株式会社コプロシステム取締役] おおくぼ・けいじ●大学卒業後、広告代理店に てプランナーとして大手電機メーカー等の広告・ 販促プロジェクトを手がける。91年に独立。主に ハイテク系企業の広告・ PR企画業務に従事。97 年、 (株) ウォータースタジオに取締役チーフプロ デューサーとして参画、あらゆる業界のブランデ ィング・商品開発プロジェクトを手がける。2008 年、 (株) コプロシステムにおいて、主に商品開発 系のマーケティングを支援する「商品計画研究 所」を立ち上げ、携帯電話キャリア、電機メーカー、 食品メーカー等のブランディング・商品開発に 関するプロジェクトを多数手がける。 201617 Driving Force 62 36 36 40 3003 調19975 20401 寿1 3 1 4 65 30 40 55 11 29010 1 720調16 10 1300便イノベーター理論 イノベーター アーリー アダプター アーリー マジョリティ レイト マジョリティ ラガード 2.5% 13.5% 34.0% 34.0% 16.0% 123456789ぶぎん地域経済研究所との共同開催について 平成28年3月に千葉銀行と武蔵野銀行は包括提携「千葉・武蔵野アライアンス」 を締結いたしました。同じ首都圏に隣接する地方銀行グループとして、今後も 各分野で協力体制を構築していきます。

17年のトレンド予測 · 消費スタイルが続く生活防衛型の脱却が遅れるデフレマインドからの格差が多極化する 予言 1 予言 2 予言 3 継続する人手不足の時代

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Page 1: 17年のトレンド予測 · 消費スタイルが続く生活防衛型の脱却が遅れるデフレマインドからの格差が多極化する 予言 1 予言 2 予言 3 継続する人手不足の時代

29•MANAGEMENT SQUARE 2017-2 MANAGEMENT SQUARE 2017-2•28

ちばぎん総合研究所・ぶぎん地域経済研究所共催セミナー

講演会録

経済学者P・ドラッカーは「真のマーケテ

ィングは顧客からスタートする」と言いま

した。では、顧客からスタートするとき、

顧客の何を理解すればよいのでしょうか。

 

それは「誰が、いつ、どこで、何を欲し

ているのか」を知ることです。ただ、顧客

に「何が欲しいですか」と尋ねても、大半

の人が答えられません。顧客は自分が何を

欲しているのかを知らない、これが前提です。

 

そもそも心理学ではヒトの行動の97%が

無意識のうちに行われると言われています。

さらに社会心理学者のK・レヴィンは「ヒ

トの行動は個人要因と環境要因の組み合わ

せである」と。その人のパーソナリティと

環境が解明されれば、なぜその人がそうし

た行動をとるのかがわかるということです。

 

また、例えば野外ライブの会場で一人が

踊りだすと追随する人が出てきて、その後、

より多くの人たちが踊り出すような現象

は、社会学者のエベレット・M・ロジャー

スが提唱したイノベーター理論により説明

できます。新たな商品・サービスの普及も

大方このようなプロセスをたどり、図表の

ような曲線を描きます。最初に飛びつくイ

ノベーターは約2・5%。それに追随する

初期採用者であるアーリーアダプター、新

しい様式に比較的慎重なアーリーマジョリ

ティ、新しい様式に懐疑的なレイトマジョ

リティがいて、そし

てラガード(保守的

な伝統主義者)も16

%います。

 

このようなプロセス

では、最初に飛びつく

イノベーター+アーリ

ーアダプターの16%

にいかにアピールでき

るかが鍵になります

が、最初に飛びつく

人々は個人的な嗜し

好こう

が強く影響します。

さらに、そこから多

くの人たちが共感し、

続いて行動してくれ

MANAGEMENT SQUARE 2017-2•28

大久保惠司[株式会社コプロシステム取締役]

おおくぼ・けいじ●大学卒業後、広告代理店にてプランナーとして大手電機メーカー等の広告・販促プロジェクトを手がける。91年に独立。主にハイテク系企業の広告・ PR企画業務に従事。97年、(株)ウォータースタジオに取締役チーフプロデューサーとして参画、あらゆる業界のブランディング・商品開発プロジェクトを手がける。2008年、(株)コプロシステムにおいて、主に商品開発系のマーケティングを支援する「商品計画研究所」を立ち上げ、携帯電話キャリア、電機メーカー、食品メーカー等のブランディング・商品開発に関するプロジェクトを多数手がける。

2016〜17年のトレンド予測

ないと爆発的普及には至りません。その人た

ちには環境要因がかなり影響してきます。

 

そうした環境要因の一つに、トレンドが

あります。トレンドは“未来を動かす原動

力”──ドライビング・フォース(D

riving Force

)と言ってもよく、この未来の芽であ

るトレンドを捉えることが企業活動には欠

かせません。

 

以下の私が見つけた未来の芽の中に何か

引っかかることがあれば、ぜひお持ち帰り

いただければと思います。

 

現在、世界で最も富裕な62人の資産額と

貧困層36億人の資産額がほぼ同じであると

言われています。36億人というのは世界の

人口の約半分にあたり、日本でも資産家上

位40人の資産は、資産をあまり持たない国

民半数の資産総額とほぼ同じです。また、

非正規労働者と正規労働者との年収格差は

約300万円。加えて、今の日本では女性

の平均賃金が男性よりも約3割少ない。近

年の調査では、こうした格差が固定してい

ると感じている人が過半数に上ります。

 

格差拡大とともに、1997年の消費税

5%導入後から実質賃金が下がり続けてい

ます。政府は景気低迷の原因はデフレマイ

ンドにあるとして、インフレターゲット政

策を進めていますが、給料が上がるならま

だしも、物価だけが上昇すれば人々は財布

のひもをより締めます。消費が伸びない流

れがしばらく続きそうです。

 

今や日本は人口減少に転じ、2040年

頃には1億人を割り込むと予測されていま

す。その主たる要因は、戦後のベビーブーム

世代が平均寿命に達していることです。また、

既婚女性の出生率は戦後さほど変わってい

ないのですが、出産する世代の女性が減って

いる。しかも、女性の生き方が多様化して、

女性の生涯未婚率が増加傾向にあります。

 

その結果、日本の労働力人口が減ってい

く。すでに現在の有効求人倍率は1・3〜

1・4。完全に売り手市場で、労働力不足

から65歳以上のシニア層でも働く人が増え

ています。

 

労働力人口が減少する中、最後の砦が専

業主婦です。政府も女性活用を盛んに唱えて

いますが、今の30〜40代の専業主婦は若い頃

に働いていた人が多く、結婚や出産を経ても、

独身のときと同じように働きたいという意向

を強く持っています。また、その55%が高等

教育を受けており、まだまだ男性と同じよう

に働ける、稼げるという自信もあります。

 

その結果、専業主婦が減少し、社会の構

造も変わってくる。例えば、家事の省力化

です。野村総研は11年に290億円だった

家事代行サービス市場が10年代中に1

720億円になると予測しています。

 

スーパーやコンビニの役割も変化します。

総合スーパーが不調にあえぐ中、コンビニ

は出店数が増えています。16年10月を見て

も、前年同月との比較で約1300店の増

加です。買い物に多くの時間を割けない女

性が増え、買い物の利便性ニーズが高まり、

コンビニの食品スーパー化が進んでいるわけ

■イノベーター理論

イノベーターアーリーアダプター

アーリーマジョリティ

レイトマジョリティ ラガード

2.5% 13.5% 34.0% 34.0% 16.0%

ヒトの行動は、個性と環境のも

とで無意識に行われる。その奥

底にはトレンドがあり、それが

ドライビング・フォース(未来を

動かす原動力)となる。企業は、

トレンドから消費者・顧客の潜

在的ニーズなど未来の芽を探り、

対応していかなければならない

格差が多極化する

デフレマインドからの

脱却が遅れる

生活防衛型の

消費スタイルが続く

予言

1

予言

2

予言

3

人口減少が加速する

時代に到達する

人手不足の時代が

継続する

予言

4

予言

5

専業主婦が少なくなる

家事の省力化が

さらに進む

スーパー・コンビニの

役割が変化する

お金の形態が多様化する

予言

6

予言

7

予言

8

予言

9

■ぶぎん地域経済研究所との共同開催について平成28年3月に千葉銀行と武蔵野銀行は包括提携「千葉・武蔵野アライアンス」を締結いたしました。同じ首都圏に隣接する地方銀行グループとして、今後も各分野で協力体制を構築していきます。

Page 2: 17年のトレンド予測 · 消費スタイルが続く生活防衛型の脱却が遅れるデフレマインドからの格差が多極化する 予言 1 予言 2 予言 3 継続する人手不足の時代

31•MANAGEMENT SQUARE 2017-2 MANAGEMENT SQUARE 2017-2•30

です。年々増えるネットスーパーも同様の

背景からです。

 

こうした流通業の変化とともに電子マネ

ーが増えています。日銀の調べでは、15年の

電子マネーの市場規模は4兆140億円。ま

た、野村総研は、14年度のポイント最少発

行額(集計対象企業の数が限られていること、

来店キャンペーンや特別会員向けなどの追加

発行ポイントを除いているため「最少発行

額」)8495億円と推計し、22年度には

1兆1000億円になると予測しています。

 

訪日観光客の急増で、政府は20年までの

訪日外国人観光客数の目標を4000万人

に引き上げ、インバウンド消費額を8兆円

にするとしています(2015年の訪日外

国人観光客数は1974万人、インバウン

ド消費額は3兆4771億円)。

 

ただ、モノに対する爆買いは15年秋頃か

ら一気にしぼんでいます。さらに今後は、

日本のメーカーや流通が中国人向け越境

EC(※注1)を立ち上げて日本から商品を

送るようになり、個人の荷物や郵便物に対

する関税の引き上げもあって中国人がわざ

わざ日本に来て買い物をするという行動は

減ってきます。

 

であれば、爆買いを超えた観光資源の再

定義が必要です。中でも、体験型観光です。

実際、新宿ゴールデン街など日本人が思っ

てもみなかった場所に多くの外国人が来て

います。そう考えると、どんなものも観光

資源になるという発想が必要です。

 

また、農業です。TPPの行く末など課

題もありますが、今後、スタイリッシュな

農業が始まり、農業女子などが活躍するで

しょう。すでにその動きは起きていて、15

年の調査では、基幹的農業従事者170万

人のうち女性が4割強。女性が経営に参加

する農業事業者のほうが売り上げや収益力

が高いという傾向も見られました。購入者

の気持ちがわかる女性の方が消費者ニーズ

にあった農産物を生み出しやすく、今後「農

業女子プロジェクト」のようなものも盛ん

になってくると思われます。

 

日本生命が行った調査では、5人に1人

が「あまり結婚したくない」と言っています。

別の調査では、働く女性の約65%が「現在

つき合っている恋人はいない」と答え、その

半数以上が「将来恋愛した相手と結婚した

い」と回答しているものの、その多くが積

極的に出会いを求めていません。また、男

性では一人旅が増えています。20〜34歳の

男性では28・8%が一人旅をしていました。

こうした中、国は少子化社会対策大綱など

で婚活に対する支援への取り組みを強化し、

地方自治体間では婚活支援に関する全国連

携会議が立ち上がっています。

 

男性と女性が入れかわる現象がさまざま

な分野で見られるようになってきました。例

えば、バイクに興味を持つ女性や筋トレをす

る女性が増え、男性では自分の臭いが気に

なるなど“ケッペキ男子”が増えています。

 

また、78年に創刊された雑誌『ポパイ』

が一世を風ふう

靡び

し、“ライフスタイル”という

言葉を定着させました。その世代が今や60

代となり、新たなライフスタイルを求めて

います。シニア世

代のネット利用率

も高く、15年度の

総務省調査では、

60〜64歳で8割、

65〜69歳で7割、

70代でも50%以上

となっています。

 

加えて、オタク

市場です。ジャニ

ーズやAKBなど

に代表されるアイ

ドル市場、また大

人の戦争ごっこの

サバゲー(トイガ

ン・サバイバルゲ

ーム)市場などが

2桁成長しています。ことにサバゲーは、

そのための施設が増え、今後、大きなブー

ムになりそうです。

 

国土交通省が「手ぶら観光(Japan

Hands-Free T

ravel

)の促進」を打ち出す

など、今、“手ぶら○○”がキーワードの一

つになっています。背景は、IT技術の進

化です。銀行では、指紋認証だけでの

ATM操作実証実験も16年初頭から始まり

ました。あるいは、電子タトゥー(※注2)な

ども実現化に向かっています。

 

また、シェアリングエコノミー市場(※注3)

が女性を中心に開かれようとしています。

レンタルサービスとの違いは、提供する側も、

それを受ける側も個人であること。クルマ

などモノやスペース、ヒト、あるいはお金の

シェアなど対象はいろいろ考えられ、提供

する側とそれを欲している人をサービス側

が結びつけます。例えば、洋服やブランド

バッグなどのシェアリングサービスの利用意

向は非常に高く、20代女性で39%、30代女

性で37%、40代女性で25%となっています。

 

オンラインショッピングやスマートフォン

の普及で消費の断片化が進行しています。

私も、本屋に行っていい本を見つけても持

ち歩きたくないときには、店で購入するの

ではなく、その場でスマホで翌日届くよう

にネット注文しています。自宅のPCでオ

ンラインショッピングはカタログ通販とほぼ

同じですが、スマホによって買い物が時と

場所を選ばなくなったわけです。

 

言い換えれば、企業と消費者がインター

ネットによって常につながる関係になりまし

た。その関係を捉えて、米国ノースウェスタ

ン大学のM・ソーニー教授は「これまでは終

点だった商品購入が、これからは経験を届

けるための始点となる」と唱えています。

 

昔は新しいモノを提供していれば売れた

時代でした。それが競合との競争によって

シェアを高めていく戦争型マーケティングの

時代へと進みました。そして今、インター

ネットやスマホの普及によって、企業と消

費者・顧客はいつでもつながり、企業は物

を売ったときから消費者・顧客とのつき合

い方を考え、好きになってもらって次の購

入につなげていくという恋愛型競争の時代

に入っています。

以上が私の20の予言です。こうしたトレン

ドを見ることによって、自社の商品開発や

事業開発が大分変わっていくはずです。

マーケティングは、ターゲットとなる消費

者・顧客のパーソナリティと環境に対して、

いかに企業が洞察力×創造性を発揮できる

かです。ぜひ、自分たちのクリエイティブ・

パワーを信じて、トレンド情報や消費者・

顧客の心の奥底に潜む本音のようなものを

つかみながら、商品開発やマーケティング

活動をしていただきたいと思います。

(2016年11月28日に行われた「ちばぎん総合研究所・

ぶぎん地域経済研究所共催セミナー」より抄録)

(注2)皮膚や衣服などにシール状のものを貼り付けたり、回路の直接印刷で体の一部を情報化し、スマートフォンなどと連動させるウェアラブルデバイス。将来的には、決済などにも使われると見られている。

(注3)ソーシャルメディアを活用して、個人が保有する遊休資産(スキルや時間のような無形のものも含む)をより多くの他者と共有・交換して利用する社会的な仕組みのこと。すでに欧米では民泊や自動車の貸し借り、家事代行などを仲介するシェアリングサービスが広がりを見せ、日本でも進展すると見られている。

(注1)現地の言葉でインターネット通販サイトを開設し、その国の消費者に向けて販売する国際的な電子商取引(Electronic Commerce)のこと。海外出店に伴うリスクなどもなく、かつ初期投資額を抑えながら海外に商圏を広げられるというメリットから、今後、日本企業の越境ECはより拡大すると見られている。

観光資源の再定義が

始まる

就農がかっこよくなる

予言

10

予言

11

結婚したくない人が

増える

男性の一人旅が増える

婚活支援が

公共事業になる

予言

12

予言

15

予言

13

予言

16

予言

14

予言

17

フィジカル女子と

ケッペキ男子

高齢者が新しい

ライフスタイルを模索する

フェチが市民権を得る

手ぶら観光、

手ぶら銀行、手ぶら○○

シェアリングエコノミー

は女性主導で立ち上がる

予言

18

予言

19

消費の断片化への

対応が始まる

予言

20

ちばぎん総合研究所・ぶぎん地域経済研究所共催セミナー

講演会録