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1 第8回 公債と財政赤字(2 2013年11月15日 担当: …11月15日 担当:天羽正継 1 公債発行がもたらす諸問題(1) 公債発行がもたらす諸問題

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財政学Ⅱ

第8回 公債と財政赤字(2) 2013年11月15日 担当:天羽正継

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公債発行がもたらす諸問題(1)

公債発行がもたらす諸問題 公債発行は民間資金を圧迫してクラウディング・アウトを生じさせる。

公債発行は負担を将来世代に転嫁させて「世代間の公正」を阻害する。

大量の公債発行が続くと、財政支出に占める公債費の割合が上昇し、財政硬直化の大きな原因になる。

2013年度の国の一般会計の歳出予算に占める国債費の割合は24%に達している。

クラウディング・アウト 経済が完全雇用状態にある場合に、公債発行によって民間の資金調達が押しのけられることを「クラウディング・アウト」と呼ぶ。

IS・LM 分析による説明(スライド2):財政支出の拡大によりIS 曲線が右にシフトすると(ただしLM 曲線はシフトせず)、均衡点はE0 からE1 に移動。その結果、利子率と国民所得は増加するが、国民所得の増加はIS 曲線のシフト(A-E0 )ほど大きくはない。すなわち、利子率の上昇によって投資需要が抑制され、それだけ国民所得の増加が抑制されたのである。 ただし、LM 曲線が水平であったり、 IS 曲線が垂直である場合は、クラウディング・アウトは発生しない。

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公債発行がもたらす諸問題(2) 3

IS IS´ LM

E0 A

E1

国民所得

利子率

0 出所:井堀利宏『財政学 第4版』189頁。

公債発行がもたらす諸問題(3) 将来世代への負担の転嫁

伝統的な議論:財政支出を租税か公債のどちらで賄うかという選択に、政府が直面しているとする。公債発行で賄うとすると、その分だけ租税負担は軽くなるが、公債購入のために同額の資金が必要なので、一国全体で利用可能な資源の総額は変わらない。また、公債の償還時には租税負担が重くなるが、償還の資金が国民の手に渡るので、やはり利用可能な資源の総額は変わらない。

これは公債が国内で発行される「内国債」のケースである。この場合、国民にとって公債は債務であると同時に資産でもある。

「外国債」の場合には、償還の際に国内から国外へ利用可能な資源の移転が起きてしまう。

ただし、公債を高所得者が保有し、その償還を国民に広く課される租税で行う場合、償還時に低所得者から高所得者への「逆再分配」が起きてしまう。

この議論には「将来世代への負担の転嫁」という観点がない。

ボーエンの議論:公債償還のための増税が、公債発行時の世代が生きている時に行われなければ、将来世代が負担することになる。

スライド5:政府は6,000万円の公債を発行し、それを若い世代と中年の世代が購入。公債を財源として各世代に2,000万円ずつの財政支出が行われる。20年後に償還する際には、各世代に2,000万円ずつ課税する。その結果「生涯所得+財政支出から得る便益」は、過去の若い世代(20年後の中年の世代)と中年の世代(20年度の高齢者の世代)では当初所得の6,000万円から変わらず、過去の高齢者の世代(20年後には死亡)では2,000万円増加する。しかし、20年後の若い世代では2,000万円減少。

すなわち、過去の高齢者の世代から20年後の若い世代に、公債発行による負担が転嫁。

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公債発行がもたらす諸問題(4) 5

重複世代モデルによる公債負担の説明 (単位:万円)2010-2030年 若い世代 中年の世代 高齢者の世代(1)所得 - 6,000 6,000 6,000(2)公債発行 - -3,000 -3,000 -(3)政府支出 - 2,000 2,000 2,000

2030年 若い世代 中年の世代 高齢者の世代(4)増税 -2,000 -2,000 -2,000 -(5)償還 - 3,000 3,000 -注:各世代の期間は20年、人口は同じで、貯蓄はないと仮定。出所:持田信樹『財政学』237頁。

公債発行がもたらす諸問題(5)

将来世代への負担の転嫁(続) モディリアーニの議論:公債発行によってクラウディング・アウトが生じると、民間投資が抑制されて経済成長が阻害されるので、将来世代の所得が低下してしまう。

公債の中立命題:公債が発行されても、人々は貯蓄を増やして遺産を遺すことにより(消費は減少) 、公債償還のために将来世代が負うことになる負担を相殺しようとする。その結果、負担は将来世代に転嫁されない。 中立命題に対する批判的見解:①多くの人々は「近視眼的」であり、公債負担が将来世代に転嫁されることについてあまり考えようとはしない。②人々が遺産を遺すために貯蓄を増やしても、借入れができれば消費を維持することができるが、借入れが困難であれば(「借入れ制約」に直面している)、消費を維持するために貯蓄を増やそうとはしない。

もし中立命題が成立していれば、財政赤字の拡大に伴って家計の貯蓄は増大するはずであるが、現実のデータは必ずしもそのようになっていない。

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財政の持続可能性(1)

プライマリー・バランスとは何か 今期の公債残高D 、前期における公債残高D-1 、財政支出G 、税収T の間には次の関係が成立。

D - D-1 = G - T (1) ここで利子率をr とすると、利払い費はr D-1となる。利払い費以外の財政支出をG´とすると G = r D-1 + G´ なので、(1)式は下記のようになる。

D - D-1 = r D-1 - ( T -G´) (2) (2)式のT -G´ が「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)」と呼ばれる。

プライマリー・バランスが均衡していれば( T -G´ = 0 )、利払い費以外の財政支出をすべて租税で賄えていることになる。また、これが赤字であれば( T -G´ < 0 ) 、利払い費以外の財政支出を租税だけでは賄えず、その分も公債発行で賄っていることになる。

しかし、たとえプライマリー・バランスが均衡していたとしても、利払い費( D-1 )の分だけ公債残高は増加する( D - D-1 >0 )。

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財政の持続可能性(2)

プライマリー・バランスとは何か(続) ここで、Y を今期のGDP、Y-1 を前期のGDP、 g をGDP 成長率、B をプライマリー・バランス(T -G´)とし、(2)式を変換・整理すると、下記のようになる(左辺は今期の公債残高の対GDP比を示す)。

D / Y = ( 1 + r ) D-1 / ( 1 + g ) Y-1 -B / Y (3) 公債残高の対GDP 比が発散しない(増え続けない)ための条件は、 D / Y ≤ D-1 / Y-1 である。この条件式に(3)式を代入して計算すると、下記のようになる。

B / Y-1 ≥ ( r -g ) D-1 / Y-1 (4)

(4)式より、利子率よりも経済成長率が高ければ( r < g )、プライマリー・バランスはマイナス(B < 0 )でも構わないことが分かる。しかし、利子率と経済成長率が等しければ( r = g ) 、プライマリー・バランスは少なくとも均衡(B = 0 )していなければならない。さらに、経済成長率よりも利子率が高ければ( r > g ) 、プライマリー・バランスはプラスでなければならない(B > 0 ) 。

日本のプライマリー・バランスは1993年度以降、一貫してマイナス(スライド9)。また、1991年以降、国債利回りが経済成長率を上回る(スライド10)。

日本政府は現在、国・地方のプライマリーバランスの対GDP比を、2015年度に2010年度の半分とし、2020年度には黒字化することを目標としているが、後者の目標達成はかなり困難(スライド11)。

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財政の持続可能性(3) 9 プライマリー・バランス対GDP比の推移

出所:財務省理財局『債務管理レポート2013』151頁。

財政の持続可能性(4) 10 経済成長率と国債利回りの推移

出所:畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』322頁。

財政の持続可能性(5) 11

出所:内閣府『中長期の経済財政に関する試算(平成25年8月8日経済財政諮問会議提出)』3頁。