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日本 サルコペニア・フ イル 学会誌  Vol.3 No.1 2019 16(16) 日本 サルコペニア・フ イル 学会誌  Vol.3 No.1 2019 16(16) はじめに 2018 年にヨーロッパのサルコペニア定義と診断の ためのアルゴリズムが改訂された 1) 。これは,最初の 定義 EWGSOP(EWGSOP1 とする)以降,多方面で 研究が進み,さまざまな知見が明らかになってきたた め,これらの新知見をもとに,実際の臨床でサルコペ ニアを診断し,治療効果を判定するための基準,診断 法の改訂が必要となったためである 1) 本項の主題であるアジア人のためのサルコペニア診 断 基 準(AWGS)(図12) は,EWGSOP1 に基づいた ものであり,EWGSOP2 との違いを明らかにすること で,AWGS 診断基準の有用性と問題点を整理したい。 EWGSOP2 基準 EWGSOP2 で明らかになった新規知見とそれに基づ く変更は以下の通りである 1) ①サルコペニアは高齢者の異常と考えられていたが, より若年から始まり,年齢以外にも多くの要因が存 在する。これらの知見は,サルコペニアの予防や抑 1  Katsuhiko Kohara 〒790-8577 愛媛県松山市文京町 3 E-mail:[email protected] [COI]報告すべき COI はなし。 特集 1 サルコペニア・フレイルのコントロバーシー 小原 克彦 1 愛媛大学社会共創学部教授 KEY WORDS AWGS 基準/EWGSOP2 基準/筋力/筋肉量・筋質/歩行速度 サルコペニアの AWGS 基準は,EWGSOP をもとに アジア人の基準に準拠した診断基準として 2014 年に 提唱された。この基準を用いた多くの研究がこれまで に報告されており,AWGS 基準に基づいたサルコペ ニアは,さまざまな病態,リスク因子,予防因子と関 連することが示されている。さらに,EWGSOP を含 む他の基準との比較においても優位性を示した成績も 存在し,AWGS 基準の有用性が示されている。改訂 EWGSOP2 では,サルコペニア診断のアルゴリズムを 変更し,握力と椅子立ち上がり試験などで評価した筋 力を重視し,筋肉量や筋質の診断を加えてサルコペニ アと確信する。歩行速度の取り扱いが AWGS 基準と 異なり,歩行速度の測定は重症度の評価に関連しサル コペニアの診断には必須ではない。しかし,歩行速度 の評価はフレイルの診断の重要な項目であり,今後も 測定が望ましいと考えられる。AWGS 基準では,歩 行速度の低下を示さない下肢筋力低下を見逃す可能性 があり,今後 EWGSOP2 に準拠した改訂が必要になる と考えられる。 抄 録 AWGS 基準 サルコペニアの診断: 現時点でどの診断基準を用いるべきか SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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日本サルコペニア・フレイル学会誌 Vol.3 No.1 201916(16) 日本サルコペニア・フレイル学会誌 Vol.3 No.1 201916(16)

Ⅰはじめに

 2018 年にヨーロッパのサルコペニア定義と診断の

ためのアルゴリズムが改訂された1)。これは,最初の

定義 EWGSOP(EWGSOP1 とする)以降,多方面で

研究が進み,さまざまな知見が明らかになってきたた

め,これらの新知見をもとに,実際の臨床でサルコペ

ニアを診断し,治療効果を判定するための基準,診断

法の改訂が必要となったためである1)。

 本項の主題であるアジア人のためのサルコペニア診

断基準(AWGS)(図 1)2)は,EWGSOP1 に基づいた

ものであり,EWGSOP2 との違いを明らかにすること

で,AWGS 診断基準の有用性と問題点を整理したい。

ⅡEWGSOP2 基準

 EWGSOP2 で明らかになった新規知見とそれに基づ

く変更は以下の通りである1)。

① サルコペニアは高齢者の異常と考えられていたが,

より若年から始まり,年齢以外にも多くの要因が存

在する。これらの知見は,サルコペニアの予防や抑

1 Katsuhiko Kohara〒790-8577 愛媛県松山市文京町 3E-mail:[email protected]

[COI]報告すべき COI はなし。

特集1 サルコペニア・フレイルのコントロバーシー

小原 克彦 1 愛媛大学社会共創学部教授

KEY WORDS AWGS 基準/EWGSOP2 基準/筋力/筋肉量・筋質/歩行速度

 サルコペニアの AWGS 基準は,EWGSOP をもとに

アジア人の基準に準拠した診断基準として 2014 年に

提唱された。この基準を用いた多くの研究がこれまで

に報告されており,AWGS 基準に基づいたサルコペ

ニアは,さまざまな病態,リスク因子,予防因子と関

連することが示されている。さらに,EWGSOP を含

む他の基準との比較においても優位性を示した成績も

存在し,AWGS 基準の有用性が示されている。改訂

EWGSOP2 では,サルコペニア診断のアルゴリズムを

変更し,握力と椅子立ち上がり試験などで評価した筋

力を重視し,筋肉量や筋質の診断を加えてサルコペニ

アと確信する。歩行速度の取り扱いが AWGS 基準と

異なり,歩行速度の測定は重症度の評価に関連しサル

コペニアの診断には必須ではない。しかし,歩行速度

の評価はフレイルの診断の重要な項目であり,今後も

測定が望ましいと考えられる。AWGS 基準では,歩

行速度の低下を示さない下肢筋力低下を見逃す可能性

があり,今後 EWGSOP2 に準拠した改訂が必要になる

と考えられる。

抄 録

AWGS 基準

サルコペニアの診断:現時点でどの診断基準を用いるべきか

SAMPLECopyright(c) Medical Review Co.,Ltd.