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8 「建設の安全」2008.3 わが社は大正 15 年創業以来、本年で 82 年の歴史 を持ち埼玉県を基盤に公共土木工事・建築工事を 中心に業容を進展させてまいりました。近年は永 年培った技術力と実績を基に、リニューアル工事 も多く手がける確かな信用と高品質の技術で地域 社会に貢献する企業になってまいりました。 安全衛生管理の歴史としてはトップ(経営者) を中心に社内の安全衛生管理体制を充実、さらに 安全施工の重要な役割を担う協力会社との連携と 協調を深め、意見の反映をもって良好なる関係を 構築すべく、その組織化を昭和54年に図り、様々な 活動に取り組んでまいりました。「安全を確保する」 を安全衛生方針として、平成 11 年には当社で前年 までに発生した労働災害から、その重篤度、発生 件数を分析し、「当社で指定する危険・有害な作業」 とし、17項目を当社特有の作業として特定、「危険 管理」を行うとともに、ソフト面では当社の事故 発生件数が比較的集中する時期にあったことから、 それを捉えた期間として年度末(1/5~4/15) を「イチマルマル(100 日間)無災害運動」とし活 動を進め、今年で 20 回を迎えることとなりました。 また、協力会活動として特筆するものとして「教 育重視」、特に現場の安全衛生の鍵を握る職長に対 しての教育では職長・安全衛生責任者を含め、昨 年までで延 1,000 余名を修了・輩出、ハード面でも 平成 10 年には「手すり先行型システム足場」の考 案開発により建災防創立 30 周年記念事業として栄 えある顕彰を受賞するなど様々な活動施策を積極 的に展開し、大きな成果を残してまいりました。 こうした中、わが社では「新たなステップ」と して、平成 11 年 11 月に建災防から建設業労働安全 衛生マネジメントシステムガイドラインにより示 された COHSMS の評価取得に向け、平成 16 年4月 に経営トップによる導入宣言、10 月にシステムの 運用を開始いたしました。 これは、安全衛生管理の責任と権限が定められ ながら、きめ細かなフォロー不足も要因のひとつ になり、活動のマンネリ化につながったり、発生 した労働災害の原因を調査し、再発防止策を講ず るだけでは「後追いの安全」となり、それをさら に実効あるものとするには「予防型の安全」の構 築が急務であったからです。また、顧客の信頼と 満足が得られる製品を提供し「地域密着型ライフ サイクルサポート」を事業理念に掲げる当社では、 品質・環境の管理システムを統合し品質精度の確 保、環境保全を実践、地域社会に貢献してまいり ました。さらに安全・安心な企業として安全衛生 のシステム化を取り入れ安全衛生管理のノウハウ を維持管理することで、それを蓄積でき、また、 リスクアセスメントを行うことにより、事前に危 険性・有害性を除去又は低減する施策を計画的、 継続的に実施して、生産活動の根幹をなす「安 全・品質・環境」を「三本の矢」と捉え、経営に 有効に活用できる3要素として導入を図ったわけ です。 平成 17 年 10 月6日、COHSMS の評価証を関係各 位のご支援をいただき交付を受けることができて、 システムの運用が開始されました。翌平成 18 年4 月には労働安全衛生法が改正され、「危険性・有害 性等の調査及び実施事項の決定」が努力義務化さ れました。このシステムの根幹をなす「危険有害 要因の調査及び実施事項の決定」を行う手法の一 つに、リスクアセスメントによるものが有効であ るとされております。その手法を用いた実施事項 を抜粋してご紹介いたします。 3・1 本社の危険有害要因の特定 (1)安全衛生計画を策定するにあたり、会社の危 1.はじめに 2.COHSMSの導入 ㈱島村工業 安全品質環境部 部長 加藤 宏司 わが社の安全 島村工業労働安全衛生マネジメントシステム (SHIMAMURA―OHSMS)の実施 3.実施・運用

島村工業労働安全衛生マネジメントシステム (SHIMAMURA―OHSMS… · 10「建設の安全」2008.3 ・危険性・有害性を低減除去する施策の実施項

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8 「建設の安全」2008.3

わが社は大正15年創業以来、本年で82年の歴史

を持ち埼玉県を基盤に公共土木工事・建築工事を

中心に業容を進展させてまいりました。近年は永

年培った技術力と実績を基に、リニューアル工事

も多く手がける確かな信用と高品質の技術で地域

社会に貢献する企業になってまいりました。

安全衛生管理の歴史としてはトップ(経営者)

を中心に社内の安全衛生管理体制を充実、さらに

安全施工の重要な役割を担う協力会社との連携と

協調を深め、意見の反映をもって良好なる関係を

構築すべく、その組織化を昭和54年に図り、様々な

活動に取り組んでまいりました。「安全を確保する」

を安全衛生方針として、平成11年には当社で前年

までに発生した労働災害から、その重篤度、発生

件数を分析し、「当社で指定する危険・有害な作業」

とし、17項目を当社特有の作業として特定、「危険

管理」を行うとともに、ソフト面では当社の事故

発生件数が比較的集中する時期にあったことから、

それを捉えた期間として年度末(1/5~4/15)

を「イチマルマル(100日間)無災害運動」とし活

動を進め、今年で20回を迎えることとなりました。

また、協力会活動として特筆するものとして「教

育重視」、特に現場の安全衛生の鍵を握る職長に対

しての教育では職長・安全衛生責任者を含め、昨

年までで延1,000余名を修了・輩出、ハード面でも

平成10年には「手すり先行型システム足場」の考

案開発により建災防創立30周年記念事業として栄

えある顕彰を受賞するなど様々な活動施策を積極

的に展開し、大きな成果を残してまいりました。

こうした中、わが社では「新たなステップ」と

して、平成11年11月に建災防から建設業労働安全

衛生マネジメントシステムガイドラインにより示

されたCOHSMSの評価取得に向け、平成16年4月

に経営トップによる導入宣言、10月にシステムの

運用を開始いたしました。

これは、安全衛生管理の責任と権限が定められ

ながら、きめ細かなフォロー不足も要因のひとつ

になり、活動のマンネリ化につながったり、発生

した労働災害の原因を調査し、再発防止策を講ず

るだけでは「後追いの安全」となり、それをさら

に実効あるものとするには「予防型の安全」の構

築が急務であったからです。また、顧客の信頼と

満足が得られる製品を提供し「地域密着型ライフ

サイクルサポート」を事業理念に掲げる当社では、

品質・環境の管理システムを統合し品質精度の確

保、環境保全を実践、地域社会に貢献してまいり

ました。さらに安全・安心な企業として安全衛生

のシステム化を取り入れ安全衛生管理のノウハウ

を維持管理することで、それを蓄積でき、また、

リスクアセスメントを行うことにより、事前に危

険性・有害性を除去又は低減する施策を計画的、

継続的に実施して、生産活動の根幹をなす「安

全・品質・環境」を「三本の矢」と捉え、経営に

有効に活用できる3要素として導入を図ったわけ

です。

平成17年10月6日、COHSMSの評価証を関係各

位のご支援をいただき交付を受けることができて、

システムの運用が開始されました。翌平成18年4

月には労働安全衛生法が改正され、「危険性・有害

性等の調査及び実施事項の決定」が努力義務化さ

れました。このシステムの根幹をなす「危険有害

要因の調査及び実施事項の決定」を行う手法の一

つに、リスクアセスメントによるものが有効であ

るとされております。その手法を用いた実施事項

を抜粋してご紹介いたします。

3・1 本社の危険有害要因の特定(1)安全衛生計画を策定するにあたり、会社の危

1.はじめに

2.COHSMSの導入

㈱島村工業 安全品質環境部 部長 加藤 宏司

わが社の安全

島村工業労働安全衛生マネジメントシステム (SHIMAMURA―OHSMS)の実施

3.実施・運用

9「建設の安全」2008.3

険性有害性を特定。

①「災害分析データシート」の作成(表-1)イ.会社の前期までに発生した労働災害の過

去50件前後をデータとする。

ロ.発生した労働災害の重大性(重篤度)を

見積もる。休業1ヶ月未満(1点)・1ヶ

月を超える休業(6点)・休業18ヶ月以上

(12点)・死亡(20点)まで4段階の評点を

事故の型別と合わせ記入。

②前期1年間の「安全衛生点検結果」(表-2)

を集計。指摘度・危険度の高い項目を特定する。

③各作業所・事業場からの「ヒヤリハット報告」

(表-3)を集計。ヒヤリハットがどのような時・場所で、どのような結果を招く危険があ

ったのかを分析し特定。

(2)「危険有害要因特定シート(本社)」(表-4)作成。

・事故発生の要因分析・調査を実施する。

(3)各部門の「期安全衛生計画」(表-5)を当社の危険性・有害性を反映させ作成。

表-1 災害分析データシート

表-2 安全衛生点検結果

表-3 ヒヤリハット報告

表-4 危険有害要因特定シート(本社)

10 「建設の安全」2008.3

・危険性・有害性を低減除去する施策の実施項

目は次の5項目とする。

①安全衛生教育…社員、作業所長、協力会社

事業主・労働者に対するシステム教育、リ

スクアセスメント教育の実施。

②安全衛生点検…各部門管理者、安全スタッ

フ、協力会社事業主、協力会会員による点

検、特に直近事故の発生した要因について

は是正普及率を点検確認。

③施工管理…全体施工計画会議の実施、作業

手順書の活用状況。

④労働衛生…快適職場推進作業所の設置、健

康診断・相談(写真)実施後の有所見者へのフォロー状況。

⑤災害防止活動…イチマルマル無災害運動、

コミュニケーション活動、グーパー運動、

KY活動、始業前点検、4S運動の実施。

以上の項目を夫々の部門が特性を捉え、重点施

策としての実施事項を決定、目標値、管理点を定

め、実施要領を策定、達成度を実施率・普及率で

確認評価します。これがPDCAの手順です。

3・2 作業所の危険有害要因の特定と展開(1)危険有害要因特定シート(本社)のデータを

建築・土木の工種毎に分類し労働災害発生状況

を評点(本社と同様)で表し、事故型に分類し

記入する。

(2)「当社の指定する危険・有害作業17項目」を追

加し該当工事に「1」を加点する。

(3)その他の現場特性を補正値として該当工事に

「1」を加点する。

評価点の高い工種を危険有害作業として特定する。

この「危険有害要因特定シート(作業所)」

(表-6)は着工前に行う「全体施工計画会議」に資料として、工事安全衛生方針・目標、「工事安全

衛生計画」とともに添付され会議にて内容を検

討・承認する。その結果が「全工期安全衛生管理

計画表」(表-7)に反映され危険性・有害性が把

表-5 安全衛生計画 (写真)健康相談

表-6 危険有害要因特定シート(作業所)

表-7 全工期安全衛生管理計画表

握されその低減措置が決定され、安全衛生行事等

も決定されます。それが「月度安全衛生管理計画

表」に展開され、日常の安全施工サイクル活動で

の周知確認とつながっていくわけです。作業所長

がCOHSMSを実施及び運用するにあたって、その

抜粋を解りやすく解説した一覧表です。(表-8)容易に実施事項が確認でき、必要な帳票を工事施

工のどのタイミングで使用するのかが一目瞭然に

なります。

3・3 システム・リスクアセスメント教育への取り組み

教育を考えたときに、会社の安全衛生方針の2

項に「当社と協力会社が一致協力し…システムを

適切に運用する」3項には「自律的安全衛生管理

活動を推進するため…協力会社に教育を実施する」

とあります。COHSMSガイドラインにも示された

「労働者の意見の反映」は安全施工にお互いに協力

し、当社・協力会社双方が、その力量を向上させ、

発揮することにあります。

ここでは協力会社に対し、当社・協力会社が協

調し取り組んでいる教育をご紹介いたします。

(1)協力会事業主に対する教育…年3回開催する

土木、建築各施工部会でリスクアセスメントを

含むシステム教育を実施します。近年は安全衛

生協力会会員から講師を養成、建災防佐倉研修

センターで教育技法を学んだ会員を中心として

教育を実施します。「教育は元請が行えば良い」

という考えから脱却すべく、良好なるパートナ

ーとして、専門工事会社の視点から教育を行う

ことは従前の教育に無かった新たな動機付けを

会員にもたらしています。年1回開催される安

全大会、年末に開催される協力会主催の「安全

衛生管理徹底大会」席上でも会社の安全衛生目

標・計画を学び、会員としての実施事項(表-9)を定め会員同志が確認をしあいます。

(2)職長・安全衛生責任者修了者に対する教育…

職長・安責者教育修了者に対するリスクアセス

11「建設の安全」2008.3

表-9 協力会社重点実施事項表-8 SHIMAMURA-OHSMS運用手順

12 「建設の安全」2008.3

メント教育を実施いたしました。平成18年より

4回、延べ110名が修了、各入場現場での展開へ

とつなげています。

教育内容は「作業手順書(危険低減シート)」

へのリスクアセスメント(表-10)の取り込み方(表-11)KY活動にも「危険度」(表-12)を標記する。教育の効果はと問われると、教科

書のようにはいかないまでも、「普段やっている

ことを文章化しよう、簡単なものから作ってい

こう」という中に、作業手順書の作成がPDCA

の計画(P)に始まってくると思います。

(3)労務安全衛生関係提出書類作成向上教育…安

全衛生協力会では「協力会社労務安全衛生関係

提出書類」の改訂を昨年10月に行い、会員の進

める自律的な活動にあわせ会員自らが取り組む

べき実施事項を盛込みました。

①作業手順書(危険低減シート)②安全ミー

ティング・作業手順KY実施報告書③月度工事

安全衛生目標(表-13)④作業計画書(表-14)、この4項目はリスクアセスメントの要としてい

ます。特に月度安全衛生目標は災害防止協議会

参加時に、専門工事会社自らが翌月の安全衛生

目標を定め、その実施状況を「振り返る」とい

う手法を用い、今後の定着を期待するところで

あります。これらをCD(コンパクトディスク)

に纏め「作成のポイント・記入例」をわかりやす

く解説し能力の向上に努めております。

表-11 作業手順書(危険低減シート)

表-12 安全ミーティング・作業手順KY(危険予知)実施報告書

表-10 リスクアセスメントの進め方

13「建設の安全」2008.3

(1)書類の簡素化…システムを構築時点で参考と

した帳票を一部改良し採用していることから使

いづらい点、また、統合システムとの整合、昨

今の現場に対し発注者からの施工管理に対して

の要求事項が多くなり、ポイントを絞った帳票

を使用することが求められています。

(2)小規模現場に対しての対応…現在リニューア

ル・舗装現場等、1週間もかからず終了する現

場では「小規模現場作業安全打合せ簿」(表-15)を用いシステムにて試行中であります。

COHSMSを導入し、安全衛生管理が難しくな

ったというシステム推進・定着に不協和音を聞く

こともあります。現場に行ってみると運用実施に

差異が見受けられることもあります。今後はいか

にPDCAを廻しCOHSMSの機能を発揮させ安全

衛生水準を向上させるか、現場の運用に不都合を

生じさせないよう改善に取り組み、当社独自の自

律的なシステムにステップアップさせていきたい

と考えております。

4.今後の取り組み 5.終わりに

表-13 月度工事安全衛生目標

表-14 作業計画書

表-15 小規模現場作業安全打合せ簿