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Ryuichi Nakamura, Noriyuki Sumita 平成25年度 北海道の国道における 道路法面の除排雪実態と除排雪工法の基礎検討 ―平成2223年度の実態調査― (独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム ○中村 隆一 住田 則行 積雪寒冷地の冬期道路においては、雪崩災害を未然に防止するため、法面の雪庇や雪崩予防 柵などの除排雪が行われているが、人力作業に頼るところが大きく、効率的な除排雪工法が望 まれている。 このことから、平成2223年度の北海道の国道における道路法面の除排雪実態を調査したの で、その結果と当研究所で検討している人力作業を省力化する除排雪工法について紹介する。 キーワード:道路法面、除排雪、実態調査、工法検討 1. はじめに 積雪寒冷地の冬期道路においては、雪崩災害を未然に 防止するため、法面の雪庇や雪崩予防柵などの除排雪が 行われているが、地形条件、法面対策施設の状況、積雪 状況及び積雪形状などの現場条件や調達できる機械や人 員により、統一的な方法はなく、除排雪作業は個々の現 場実態に合わせて実施されている。 その除排雪作業の実態を把握するため、平成22 23 度に実施された北海道の国道における道路法面の除排雪 実態を調査したので、その結果と当研究所で検討してい る人力作業を省力化する除排雪工法について紹介する。 2. 道路法面除排雪の実態調査 北海道の国道における道路法面の除排雪実態として、 平成22 年度は、作業が実施された全ての法面の除排雪実 態を調査し、その補完として、平成23 年度は、工区毎の 代表的な除排雪方法を抽出し、施工方法、作業員の現状 等について調査した。 (1) 平成22 年度(2010 年度) の気象状況 気象庁のアメダス 1) から北海道の主要観測地22 箇所を 抽出し、除排雪実態を調査した平成22 年度と過去10 年間 の最深積雪を比較した。アメダスの最深積雪と10 年確立 最大積雪深 2) の数値を-1 に、平成22 年度の最深積雪と過 10 年間の最深積雪範囲を-1 に示す。その結果、平成 22 年度の最深積雪は、地域により違いはあるものの全道 的には例年並みの積雪であった。このことから、今回調 査した除排雪実態は例年の作業と推測される。 -1 アメダス最深積雪と10年確立最大積雪深 (単位:cm) 気象庁地方 観測地 最小 平均 最大 石狩地方 札幌 142 87 83 87 95 123 111 78 106 76 79 76 99 142 0.8 128 空知地方 岩見沢 111 152 113 129 131 135 165 97 113 64 98 64 121 165 0.8 155 渡島地方 函館 32 47 29 42 41 63 60 21] 41 35 47 29 43 63 1.1 62 檜山地方 江差 18 27 21 25 25 31 37 8 27 14 21 8 23 37 0.9 84 後志地方 小樽 143 97 66 112 99 153 172 92 126 87 102 66 115 172 0.9 163 倶知安 176 190 127 186 151 239 216 155 206 165 183 127 181 239 1.0 242 寿都 103 77 62 54 71 88 99 28] 75 53 103 53 76 103 1.4 129 上川地方 旭川 112 112 79 96 117 95 92 56 82 73 67 56 91 117 0.7 120 胆振地方 室蘭 31 27 14 27 12 54 29 16 27 28 32 12 27 54 1.2 47 苫小牧 38 27 22 29 28 42 48 13 32 33 28 13 31 48 0.9 52 日高地方 浦河 10 9 18 13 13 26 27 17 12 22 23 9 17 27 1.4 36 釧路地方 釧路 70 28 20 39 32 38 33 30 12 32 48 12 33 70 1.4 66 根室地方 根室 50 19 17 30 45 26 40 20 36 23 42 17 31 50 1.4 65 十勝地方 帯広 92 94 75 87 111 82 51 41 51 79 72 41 76 111 0.9 101 広尾 128 89 93 113 135 117 60 62 66 94 119 60 96 135 1.2 147 網走 74] 35 29 39 143 106 77 72 112 61 59 29 75 143 0.8 88 紋別 88 53 69 53 121 82 48 67 60 64 66 48 71 121 0.9 100 雄武 90 115 53 60 103 99 58 76 53 86 63] 53 79 115 108 留萌地方 留萌 119 86 79 67 119 100 96 40 57 79 82 40 84 119 1.0 156 羽幌 110 140 93 98] 109 113 122 63 91 101 99 63 105 140 0.9 128 宗谷地方 稚内 75 68 54 66 89 93 72 49 69 109 98 49 74 109 1.3 137 北見枝幸 112 137 108 121 159 112 78 84 82 119 100 78 111 159 0.9 161 2008 2009 アメダス 2000 2001 2002 2003 網走・北見・ 紋別地方 2004 2005 2006 2007 2010値と 過去10年の比 2010 過去10年(2000-2009) 10年確率 最大積雪深 -1 アメダス最深積雪の平成22年度と過去10年間の比較 別紙―2

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Ryuichi Nakamura, Noriyuki Sumita

平成25年度

北海道の国道における

道路法面の除排雪実態と除排雪工法の基礎検討 ―平成22~23年度の実態調査―

(独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム ○中村 隆一

住田 則行

積雪寒冷地の冬期道路においては、雪崩災害を未然に防止するため、法面の雪庇や雪崩予防

柵などの除排雪が行われているが、人力作業に頼るところが大きく、効率的な除排雪工法が望

まれている。

このことから、平成22~23年度の北海道の国道における道路法面の除排雪実態を調査したの

で、その結果と当研究所で検討している人力作業を省力化する除排雪工法について紹介する。

キーワード:道路法面、除排雪、実態調査、工法検討

1. はじめに

積雪寒冷地の冬期道路においては、雪崩災害を未然に

防止するため、法面の雪庇や雪崩予防柵などの除排雪が

行われているが、地形条件、法面対策施設の状況、積雪

状況及び積雪形状などの現場条件や調達できる機械や人

員により、統一的な方法はなく、除排雪作業は個々の現

場実態に合わせて実施されている。

その除排雪作業の実態を把握するため、平成22~23年

度に実施された北海道の国道における道路法面の除排雪

実態を調査したので、その結果と当研究所で検討してい

る人力作業を省力化する除排雪工法について紹介する。

2. 道路法面除排雪の実態調査

北海道の国道における道路法面の除排雪実態として、

平成22年度は、作業が実施された全ての法面の除排雪実

態を調査し、その補完として、平成23年度は、工区毎の

代表的な除排雪方法を抽出し、施工方法、作業員の現状

等について調査した。

(1) 平成22年度(2010年度)の気象状況

気象庁のアメダス1)から北海道の主要観測地22箇所を

抽出し、除排雪実態を調査した平成22年度と過去10年間

の最深積雪を比較した。アメダスの最深積雪と10年確立

最大積雪深2)の数値を表-1に、平成22年度の最深積雪と過

去10年間の最深積雪範囲を図-1に示す。その結果、平成

22年度の最深積雪は、地域により違いはあるものの全道

的には例年並みの積雪であった。このことから、今回調

査した除排雪実態は例年の作業と推測される。

表-1 アメダス最深積雪と10年確立最大積雪深 (単位:cm)

気象庁地方 観測地 最小 平均 最大

石狩地方 札幌 142 87 83 87 95 123 111 78 106 76 79 76 99 142 0.8 128

空知地方 岩見沢 111 152 113 129 131 135 165 97 113 64 98 64 121 165 0.8 155

渡島地方 函館 32 47 29 42 41 63 60 21] 41 35 47 29 43 63 1.1 62

檜山地方 江差 18 27 21 25 25 31 37 8 27 14 21 8 23 37 0.9 84

後志地方 小樽 143 97 66 112 99 153 172 92 126 87 102 66 115 172 0.9 163

倶知安 176 190 127 186 151 239 216 155 206 165 183 127 181 239 1.0 242

寿都 103 77 62 54 71 88 99 28] 75 53 103 53 76 103 1.4 129

上川地方 旭川 112 112 79 96 117 95 92 56 82 73 67 56 91 117 0.7 120

胆振地方 室蘭 31 27 14 27 12 54 29 16 27 28 32 12 27 54 1.2 47

苫小牧 38 27 22 29 28 42 48 13 32 33 28 13 31 48 0.9 52

日高地方 浦河 10 9 18 13 13 26 27 17 12 22 23 9 17 27 1.4 36

釧路地方 釧路 70 28 20 39 32 38 33 30 12 32 48 12 33 70 1.4 66

根室地方 根室 50 19 17 30 45 26 40 20 36 23 42 17 31 50 1.4 65

十勝地方 帯広 92 94 75 87 111 82 51 41 51 79 72 41 76 111 0.9 101

広尾 128 89 93 113 135 117 60 62 66 94 119 60 96 135 1.2 147

網走 74] 35 29 39 143 106 77 72 112 61 59 29 75 143 0.8 88

紋別 88 53 69 53 121 82 48 67 60 64 66 48 71 121 0.9 100

雄武 90 115 53 60 103 99 58 76 53 86 63] 53 79 115 108

留萌地方 留萌 119 86 79 67 119 100 96 40 57 79 82 40 84 119 1.0 156

羽幌 110 140 93 98] 109 113 122 63 91 101 99 63 105 140 0.9 128

宗谷地方 稚内 75 68 54 66 89 93 72 49 69 109 98 49 74 109 1.3 137

北見枝幸 112 137 108 121 159 112 78 84 82 119 100 78 111 159 0.9 161

2008 2009アメダス

2000 2001 2002 2003

網走・北見・紋別地方

2004 2005 2006 20072010値と

過去10年の比2010

過去10年(2000-2009) 10年確率最大積雪深

図-1 アメダス最深積雪の平成22年度と過去10年間の比較

別紙―2

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(2) 平成22年度における北海道350箇所の除排雪実態

国土交通省北海道開発局が管理する道路法面について、

平成22年度における雪崩対策施設の設置状況及び除排雪

作業の実態を整理した。結果を図-2~3に示す。

雪崩対策施設数は連続設置している箇所を1件とし、

除排雪箇所数は除排雪を実施した連続区間を1件とした。

雪崩対策施設は、苫小牧及び室蘭道路事務所を除き、

全道的に設置されている。雪崩予防柵が設置されている

箇所は最小で316件あり、具体的な施設名が不明な施設

を含めると雪崩対策施設は最大で1,012件ある。

除排雪が行われた箇所は全道で350箇所あるが、地域

により箇所数に差が見られ、この差は積雪量に依存して

いると推測される。また、図-3のその他の対策46件は、

図-2で防護柵等及び不明に分類された施設における除排

雪実態であり、雪崩対策施設数より除排雪箇所数が多い

事務所が散見されるのは、無対策の法面に突発的に出来

た雪庇や不安定積雪の除排雪が含まれるためと推察され

る。

図-2 雪崩対策施設の設置状況

図-3 除排雪実態

積雪法面において、表層雪崩は、気温が低く降雪が続

く 1~2 月の厳寒期に多く、全層雪崩は、春先の融雪期

など気温が上昇した時に多く発生する傾向がある。除排

雪実態でも表層雪崩が発生しやすい 2月と全層雪崩が発

生しやすい 3月に除排雪の時期が集中していた。また、

一般的に法面の勾配が 30 度以上になると雪崩が発生し

やすくなり、勾配が 35度から 45度が最も危険で、笹や

草に覆われた斜面は裸地より危険とされている。除排雪

実態でも勾配 40度、45度が大部分を占めていた。

除排雪の実施判断を図-4に示す。その主なものは、気

温上昇によるクラックが発生した場合、吹雪等による雪

庇や巻きだれが発生した場合、積雪量が超過した場合な

どであったが、図-5に示す除排雪前の法面積雪状況から、

実際には緊急を要するクラックが発生する前の法面の積

雪が非安定勾配になる不安定法面、巻きだれ及び雪庇が

発生した段階で除排雪が実施されていることがわかる。

その除排雪範囲は、図-6に示すとおり、大きく分けて

2つあり、巻きだれ、雪庇など積雪斜面からせり出した

箇所のみ除排雪する場合と雪崩予防柵のポケット部を除

排雪し、今後の降雪に備える場合があり、現場状況に応

じて実施されている。

1シーズンの除排雪回数を図-7に示す。1回が約8割を占

め、全体平均では1.3回であった。また、法面1箇所当た

りの除排雪量は、図-8に示すとおり、全体平均で1,610m3

であった。ともに対策施設の有無による相違は見られな

い。

しかし、図-9~11に示すように、除排雪1回当たりの作

業日数、1シーズン延べ作業人員及び1箇所当たりの除排

雪費は、雪崩予防柵が設置されている箇所は3.25日、50

人、179万円に対して、雪崩予防柵以外の箇所では平均

1.96日、26.5人、64万円で、雪崩予防柵の箇所は、日数、

人員及び費用とも多くなっている実態が明らかになった。

除排雪の作業区分を図-12に示す。人力施工及び人力

+機械施工が主であり、人力に係る作業が多くなってい

る。

図-4 除排雪の実施判断

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図-5 除排雪前の法面積雪状況

図-6 除排雪の範囲

図-7 1シーズンの除排雪回数

図-8 1箇所当たりの除排雪量

図-9 除排雪1回当たりの作業日数

図-10 1シーズン延べ作業人員

図-11 1箇所当たりの除排雪費

図-12 除排雪の作業区分

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(3) 平成23年度における北海道99箇所の除排雪事例

国土交通省北海道開発局が管理する道路法面について、

平成23年度における除排雪作業の事例を整理した。調査

は、1工区当たりの代表的な除排雪方法を対象としたが、

類似の方法であっても現場条件が異なる場合は対象とし

た。本稿では、予防保全(定期)除排雪のみ整理し、事

後保全(緊急)除排雪は対象外とした。

法面の管理は、パトロールによって状態監視され、そ

の多くは道路巡回業務の一環として実施し、除排雪の実

施判断及び範囲は、図-4及び図-6と同様の傾向であった。

図-13に除排雪の実施理由を示すが、中には図-14に示す

過去の災害の経験が現在の除排雪判断に継承されいる箇

所もある。

除排雪作業は、全ての事例において道路管理者へ報告

後、指示があった場合に実施され、除排雪方法は、図-

15のとおり、現場により異なるものの機械の作業範囲内

は機械施工、作業範囲外は人力施工によるものが多く、

除排雪後に防護壁の目的で路肩に雪堤を成形している箇

所が約3割あった。

除排雪は限られた期間内での作業が求められるため、

担当工区の管理延長と積雪量を考慮し、箇所により、除

排雪量を調整したり、除排雪を経過観察としている事例

もあった。また、道路除雪の堆雪場所を確保する目的で

道路法面の除排雪をしている事例もあった。

図-13 除排雪実施理由

図-14 除排雪箇所の過去の災害発生状況

図-15 除排雪方法

これら除排雪作業を担う作業員確保の現状を図-16に

示す。現在は特に問題ないという回答もあるが、高齢化

が進んでいる、若手の確保が困難という回答が多い。ま

た、図-17に人力施工と機械施工の比率及び作業員の年

齢構成を示す。人力施工の比率が高く、作業員は、40~

50代が大部分を占め、20代が少ない。若手作業員の確保

が困難であることから、今後、作業員の高齢化に伴い、

人力作業の負担が大きくなることが予想される。

若手技術者への技術継承方法を図-18に示すが、現場

を共有する方法が多くとられていた。

図-16 作業員確保の現状

人力施工 機械施工

作業員の年齢構成比率

※有効回答のみ

人力施工と機械施工の比率

図-17 人力施工と機械施工の比率及び作業員の年齢構成

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図-18 若手技術者への技術継承方法

(4) 除排雪作業の事例

除排雪事例と創意工夫の一部を紹介する。

人力施工は、落下防止用の命綱を取り付け作業して

いる(①)。急勾配の法面や高所での作業では、高所作業

車を用いる方法(②)やブルーシートで雪を滑り落とす方

法(③)があり、機械施工では、足場を作りながら法面に

上がる方法(④)やワイヤーで雪切りする方法(⑤)があっ

た。

雪崩予防柵にはスタッフや管理番号を付けて状態監

視する方法(⑥)、梁材部や柵間にエキスパンドメタルや

ネットで雪のすり抜けを防止する方法(⑦,⑧)、雪崩予

防柵の先端に鋼板を取り付け、巻きだれの成長を軽減す

る方法(⑦)などがあった。

また、路肩が狭いところでは、法尻に合板を設置し

道路への雪流出を防止している方法(⑨)もあるが、多く

は路肩に雪堤を成形していた(⑩)。

① ②

③ ④

⑤ ⑥

⑦ ⑧

⑨ ⑩

写真-1 雪庇除排雪の作業状況

3. 除排雪工法の基礎検討

実態調査から、雪庇や雪崩予防柵に係る除排雪作業の

費用、期間、人員の負担が大きいことから、これらの負

担を軽減すべく、省人力化による効率的な除排雪工法の

検討を行った。

(1) 雪庇に対する除排雪工法の検討3)

道路法面に形成される大規模な雪庇の除排雪には、岩

盤やコンクリート構造物の解体処理を目的とする爆薬や

非火薬組成の破砕剤が活用されている事例があるが、発

破効果や残渣は明らかになっていない。

本検討では、環境に配慮が必要な場所での適応を目的

に、法による規制が少なく、火薬類に関する許可が不要

な非火薬組成の破砕剤3種類について、自然積雪の雪中

に配置し、発破時の破砕伝播圧の測定と破砕生成残渣の

分析を行った。

a) 非火薬破砕剤

本実験で用いた非火薬組成の破砕剤は、酸化銅とアル

ミニウムを主成分とするテルミット反応を利用した薬剤

で、低振動・低騒音の破砕を行えることが特徴である。

以下に非火薬破砕剤の化学反応式の例を示す。

b) 非火薬破砕剤の効果と展望

非火薬破砕剤を雪中で発破した結果、雪に対する破砕

効果が確認できたが、破砕生成残渣も確認された。現場

適応に際しては、現場条件、積雪状況及び破砕生成残渣

を考慮し、施工計画を立案する必要があるものの雪に対

する破砕の適応性が確認できた。

(酸化銅)(アルミニウム) (銅)(酸化アルミニウム)

3CuO2 + 4Aℓ + 膨張剤 → 3Cu + 2Aℓ 2 O3

+ 反応熱

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Ryuichi Nakamura, Noriyuki Sumita

非火薬破砕剤は、法による規制が少なく、取り扱いが

容易で、緊急的な除排雪にも対応できるため、人力作業

の省力化に貢献できる効率的な工法として期待される。

写真-2 非火薬破砕剤の発破状況(4本同時発破)

破砕剤 A 破砕剤 B 破砕剤 C

写真-3 非火薬破砕剤による破砕断面

(2) 雪崩予防柵に対する除排雪工法の検討

道路法面の除排雪を実施する上で、今後の降雪に備え

ることを目的に、雪崩予防柵のポケット部を除排雪して

いる事例があるが、その除排雪は、限られた期間内での

作業が求められるため、現場に応じて除排雪量を調整し

たり、除排雪を経過観察としている実態がある。

本検討では、省人力化を目的に、特に人力施工の負担

が大きい雪崩予防柵ポケット部の除排雪作業に着目し、

可倒式雪崩予防柵の検討を行った。雪崩予防柵を法面上

で下方に倒伏することにより、機械施工の作業範囲拡大

及び雪庇や巻きだれと同様に人力による上方からの切り

落としが可能になり、作業効率の向上が図れると考えら

れる。

a) 可倒式雪崩予防柵

考案した可倒式雪崩予防柵を図-19に示す。標準の雪

崩予防柵をベースに一部の部品を交換して改造できるこ

とが特徴である。

図-19 可倒式雪崩予防柵

b) 可倒式雪崩予防柵の効果と展望

仮設斜面の積雪条件下で、雪崩予防柵の可倒用部品が

動作することと作業性を確認した結果、この可倒式雪崩

予防柵の設置及び倒伏作業に当たっては、次の点に留意

する必要があると考えられる。

① 除排雪実態に合わせ、可倒式雪崩予防柵の設置は最

下段のみとし、雪崩予防柵の倒伏作業はクレーン仕様の

バックホウ等で表層雪崩を考慮して1基ずつ除々に倒す。

② 通常の除排雪作業と同様、交通規制内で実施する。

③ 現場によっては雪崩予防柵の柵高を超える積雪があ

り、積雪断面に弱層がある場合がある。安全対策として、

通常の法面管理と同様に積雪量や雪質などを確認しなが

ら、弱層が発見された場合は弱層より上部を事前に取り

除く必要がある。

④ 除排雪作業は、雪の支えを壊さないよう上から行う

のが原則で、雪崩予防柵を倒伏するために下段を機械施

工する際に、雪崩予防柵から法尻の積雪断面の点検をす

ることが望ましい。

⑤ 積雪深により雪崩予防柵に掛かる荷重は異なるため、

必要に応じて、バックホウ等の機械による支えの他、レ

ーバーブロック等による補助を設置する。

雪崩予防柵のサポート部には法面積雪のグライドを抑

止する効果があり、雪崩予防柵を完全に倒せれば機械施

工の作業範囲が拡大する可能性がある。また、完全に倒

せない場合でも、人力作業の軽減に繋がると考えられる。

可倒式雪崩予防柵は、人力作業の負担軽減が図られ、

省力化に貢献できる効率的な工法として期待される。

4. まとめ

北海道の国道における道路法面の除排雪は、パトロー

ルによって状態監視され、過去の災害経験などから不安

定法面、巻きだれ及び雪庇が発生した段階で、個々の現

場実態に合わせて除排雪が実施されているが、人力作業

の負担が大きく、作業日数、人員及び費用とも多くなっ

ている実態であった。

道路法面の人力作業を省力化する除排雪工法として、

雪庇対策の非火薬組成破砕剤と雪崩予防柵対策の可倒式

雪崩予防柵について検討した。ともに近年中に現場試行

を予定しており、試行を通して、人力作業の省人力化に

貢献できる効率的な除排雪工法として確立を目指したい。

謝辞:北海道の国道における道路法面の除排雪実態を調

査するにあたり、資料を提供して頂いた国土交通省北海

道開発局の担当者様に、ここに記して謝意を表します。

参考文献

1)国土交通省気象庁気象統計情報

http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html

2)北海道開発局:設計積雪深に関する技術資料,平成 13年 3月

3)中村隆一,住田則行,山﨑貴志,三浦豪,2013:破砕剤を雪庇発

破に活用するための基礎実験,第 29回寒地技術シンポジウム

論文集,1-3p.