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経済産業省 平成 26 年度補正予算事業 報告書 「先端課題に対応したベンチャー事業化支援等事業 (データ利活用促進事業:データ駆動型イノベーション創出 支援のためのデータエクスチェンジプラットフォーム構築) データエクスチェンジコンソーシアム有限責任事業組合

データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

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Page 1: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

経済産業省 平成26年度補正予算事業 報告書

「先端課題に対応したベンチャー事業化支援等事業

(データ利活用促進事業:データ駆動型イノベーション創出

支援のためのデータエクスチェンジプラットフォーム構築)」

データエクスチェンジコンソーシアム有限責任事業組合

Page 2: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 1

0.要旨 ................................................................................................................................................................... 2

1.概要: ............................................................................................................................................................... 3

2.総論 ................................................................................................................................................................... 5

2-1.事業の目的・背景・理念 ......................................................................................................................... 5

2-2.事業概要 .................................................................................................................................................... 7

2-3.用語の定義 ................................................................................................................................................ 9

3.企業データマッチングと分析企画支援 ..................................................................................................... 12

3-1.要旨 ......................................................................................................................................................... 12

3-2.マッチング支援の実施方法 .................................................................................................................. 12

3-3.採用されたアイデアとチーム編成 ...................................................................................................... 18

3-4.新事業成立の促進・阻害要因 .............................................................................................................. 20

4.企業によるデータ利活用の情勢調査 ......................................................................................................... 23

4-1.要旨 ......................................................................................................................................................... 23

4-2.アンケートの実施手順 .......................................................................................................................... 23

4-3.アンケート実施結果 .............................................................................................................................. 23

4-4.データ利活用ポテンシャル分類マップ .............................................................................................. 33

4-5.ヒアリングの実施手順 .......................................................................................................................... 38

4-6.ヒアリングの実施結果 .......................................................................................................................... 40

5.データ分析企画の実務・役割をめぐる観察調査 ..................................................................................... 44

5-1.要旨 ......................................................................................................................................................... 44

5-2.エスノグラフィ調査の手法 .................................................................................................................. 44

5-3.求められる実務・役割の整理 .............................................................................................................. 45

5-4.求められる実務・役割の整理(詳細) .............................................................................................. 47

6.結論 ................................................................................................................................................................ 52

6-1.誕生した新事業...................................................................................................................................... 52

7.国内データ産業の現状と今後の課題 ......................................................................................................... 55

7-1.プラットフォーマが解決すべき課題 .................................................................................................. 55

7-2.国内におけるデータ取引市場の現状と、企業が抱えやすい課題 ................................................... 57

7-3.分析企画の実務担当者が抱えやすい課題とその解決策 ................................................................... 58

7-4.今後の課題と想定される解決策 .......................................................................................................... 60

8.国への提言 ..................................................................................................................................................... 62

9.付録 ................................................................................................................................................................ 67

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p. 2

0.要旨

本事業ではデータ利活用支援環境(プラットフォーム)の構築、整備、実証を行い、4つの検討チームに

よる協業・連携の取り組みと、プラットフォームの改善を担う新しい企業が誕生した。

事業内容としてまずは、21社が参加した検討分科会を開催し、新事業創出の支援を行った。このと

き、分析用のデータやツールを提供し、共用できるデータカタログサイトを構築・改修した。次に、

企業によるデータ利活用の一般動向を確かめ、分科会での企画支援を充実するために、日経BP社刊

行物の読者で、データ活用に関心のある会社員へのアンケートと、先進的にデータ利活用へ取り組む

18社のヒアリングを行った。加えて、観察・・聴取、対話テキスト分析によるエスノグラフィ調査を行

い、サポートチームによる適時介入を行った。

得られた帰結として、国内企業は自社データのインフラ構築を進め、人材育成や社内ルール整備に

も着手しつつあるが、肝心のデータ活用企画や収益モデル作りに苦労している。すでにデータ分析・

活用のノウハウがあり、様々なデータに需要・供給ニーズのある分析・調査会社や行政・公共機関が

仲介に入ることで、国内のデータ流通は促進されるのではないか。

データ利活用に先進的に取り組む企業のほとんどは、分析・コンサルティング、データの結合や予

測分析まで行って、価値を生み出している。社内の分析チームの組織化や、購入した社外データの活

用にも着手している。それでも、他社データと自社データの連携は、構想・実験段階が多い。心理的

障壁や個人情報の取扱い方、入札制度の煩雑さ、データ収集を阻む意外な規制、そもそもの社外デー

タの品質保持に至るまで、様々な「壁」があるからだ。だからこそ国への要望も多岐に渡り、且つ微

に入り細にわたる。なかでも、人材不足にはどの企業も頭を悩ませている。課題は・「採用」や・「育成」

だけでなく、「配置」や「チーム化」にもある。

とりわけ、企業・組織の「壁」を超えてデータ利活用を行うときには、分析実務や事業企画、企業

連携に携わる担当者の業務負荷が膨らみやすい。複数社によるデータ分析企画は、無数の関係者が出

入りし、多くのアイデア・データ・人材が活用され、大小の計画・目標が交錯する、複合的な実証プ

ロジェクトだからである。本事業では仮に「分析プロデューサ」と呼ぶが、プラットフォーマは、彼

/彼女らを包括的に支援すべきである。社内外のビジネスリソースの「流れ」を整える役割である。

言い換えれば、我が国においてデータ駆動型イノベーション創出を促進するために必要な条件は、

国内産業の実態に即した「新しい商取引文化」の醸成である。これは単一の主体には成し遂げられな

いし、そうすべきでない。産学連携や企業実践、官民人事交流などの地道な積み重ねで解決するほか

ない。政府・省庁には、複数のプレイヤーが入り乱れて進むこの動きを主導、助成、仲介、整流、支

援すること、つまり「国内データの流域圏」を管理・保全することが求められるだろう。

もっとも、国への要望には、個人情報保護や契約ガイドライン、人材育成、資金援助、産学連携の

後援など、すでに省庁横断で着手・制度化されているものもある。国が企業へそれらの利用を促すこ

とは効果的である。新たな論点では、データ一般の流通・取引に関する論点・事例の整理、データの

品質と価値の相場・・指数の作成、小さな分析企画が手軽に行える環境の整備、データカタログの洗練・

普及、成功事例や分析手法の周知、分析プロデューサのスキル養成、関連知識のワンストップ相談窓

口などが挙がった。これらの施策が、産学官民の連携を通じて実現されることを期待する。

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1.概要

0. 本事業の目的と理念

本事業では、2014年にデータ駆動型イノベーション創出戦略協議会が行った様々な取り組みを受け、

2015年4月から2016年3月にかけてデータ利活用支援環境の整備、調査、実証を行った。分野・業

種・組織を超えたデータ利活用のためのITシステムとしてのプラットフォームだけではなく、それ

を実際に利用する人と人との対話や技術支援、ビジネス交流等の活動そのものや、それらの活動を支

援し促進するためのサービス運営を包括したプラットフォームの形成、構築を行った上で、ベンチャ

ー等による自立的なビジネスモデルを誕生させることを目的とした。詳しくは第2章にまとめた。

1. 事業概要

次の3つの事業を行った。詳しくは、第3章、第4章、第5章にまとめた。

企業データマッチングと分析企画支援

全10回の「分科会」を開催し、参加企業間のマッチング支援として、データ利活用ビジ

ネスの企画・検討を行った(分科会の設立、運営)。このとき、企業が自身でデータや分析

ツールを調達・・提供できない場合に、共用できるデータや分析ツールを提供した・(データ分

析ツールの提供)。また、分科会にデータ分析の専門企業を参加させ、要件定義やデータ整

理、ビジネス化へ向けた助言・相談を行った(データ分析のアドバイス・ノウハウ提供)。

並走して、2つのWebサイトからなる・「企業データカタログサイト・(仮称)」のコンセプ

トモデルを制作した。また、分科会へ参加した企業にサイト訪問、記事閲覧、カタログ検索、

データ登録を依頼し、利用アンケートを行った・(データカタログサイトの構築、利活用の推

進等)。また、分科会内で安心・安全にデータ開示を行うため、参加企業の折々の要望を取

り入れた誓約書の文言を詳しく検討した(誓約書の作成)。

企業によるデータ利活用の情勢調査

データ利活用アイデアを取捨選択したり、分析企画シナリオを設計したり、プラットフォ

ーマの機能・・役割を改善したりするには、我が国におけるデータ利活用の一般動向とその推

移を確かめ、得られた顧客ニーズをプラットフォーム構築へ常にフィードバックしなければ

ならない。このため、日経BP会員に全2回の意識調査を行った(アンケート)。またその

結果をもとに、データ利活用が進みやすい業界、業種、業務を分析、整理し、ポテンシャル

マップを作成した。加えて、データ駆動型イノベーションの観点で先進的な事業を行う企業

18社へ、対面ヒアリングを行った(ヒアリング)。

データ分析企画の実務・役割をめぐる観察調査

新事業創出を促進するには、その火種となる個人のアイデアやパフォーマンスを支援した

り、新しい企画が却下・・断念された場合の制度的課題を抽出したり、新事業創出に貢献する

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プラットフォームの実現に必要な施策を取りまとめるべきである。このため本事業では、カ

メラ、音声レコーダ―、観察者を設置し、分科会のなかで起きた会話を観察・・記録・・分析し

た(エスノグラフィ調査)。調査から得られた仮説はプラットフォーム運営に速やかに反映

され、検討チーム編成や議題の修正、分析手法のリサイズ、支援メニューの選択、案件化の

加速などに役立てた。

2. 成立した新事業

2種類の新事業が成立した。プラットフォームの改善を担う新しい企業と、分科会の検討チームに

よる4つの協業・連携の取り組みである。詳しくは、第6章にまとめた。

3. 新事業成立の促進要因・阻害要因

次の3つの観点から整理する。詳しくは、第3章、第4章、第5章の要旨と、第7章にまとめた。

A) プラットフォーマ自体の機能・役割に起因するもの

「企業データマッチングと分析企画支援」として行った、プラットフォーム構築・・運営の企

画・過程・結果から分析する。

B) 国内の市場環境や制度的課題に起因するもの

「企業によるデータ利活用の情勢調査」として行った、アンケート・ヒアリングから要因分

析する。

C) データ利活用に取り組む企業が直面する課題

「データ分析企画の実務・・役割をめぐる観察調査」として行った、エスノグラフィ調査から

要因分析する。

4. 今後の課題と解決策、国への提言

次の2点に整理したうえで、12項目を提言する。詳しくは第8章にまとめた。

A) 既存ルールの周知

B) 新しい仕組み作り

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2.総論

2-1.事業の目的・背景・理念

2-1-1.事業の目的

2014年6月9日に設立が発表されたデータ駆動型イノベーション創出戦略協議会は、「データ利活

用によるイノベーションの重要性を訴え、業種・組織を超えたデータの共有による新たな企業連携を

構築する仕組みを構築し、裾野の広い事業者によるデータ利活用の動きを作りだしていくことが、日

本の産業の活性化、強化につながる1」との考えから、様々な活動を行って来た2。

その流れを受けて行われたのが本事業である。本事業では、分野・業種・組織を超えたデータ利活

用のための IT システムとしてのプラットフォームだけではなく、それを実際に利用する人と人との

対話や技術支援、ビジネス交流等の活動そのものや、それらの活動を支援し促進するためのサービス

運営を包括したプラットフォームの形成、構築を行った上で、ベンチャー等による自立的なビジネス

モデルを誕生させることを目的とした。

2-1-2.事業の背景

●データ利活用にまつわる社会動向

コンピュータの演算性能や記憶容量の進歩と、モバイル端末やセンサー機器の急速な普及を背景と

して、先進各国は2000年半ば頃から、産学官民を問わず、大規模データの高速な分析を通じた社会問

題の可視化と、その解決に取り組むようになった。なかでも統計学や自然言語処理、画像認識、情報

推薦、機械学習などの研究成果が世間に輝かしく紹介されたことで、ビッグデータ、データサイエン

ティスト、人工知能などのブームが醸成され、それらの技術をビジネス活用しようとする機運が生ま

れた。大企業かベンチャーかを問わず、日本企業がビッグデータ活用に取り組む例も珍しくなくなり、

2015年頃にはそれらのデータを流通・・管理するプラットフォームも登場。我が国行政においても、・「情

報大航海プロジェクト」をその源流として、・「世界最先端IT国家創造宣言」の策定や、「IoT推進コン

ソーシアム」の結成など、省庁を横断した政策課題として重視され続けている。

●ビジネスデータ分析の市場動向

他方で、採用難や実業とのミスマッチングから、データサイエンティストへの過度な期待は一服し、

企業によるデータ活用は、CDO・(Chief・Data・Officer)の登用など、地道な組織化・・スキル化に舵が切

られつつある。かたや、ビジネス向けデータ可視化ツール・(BIツール)の登場が、データ・フェデレ

ーション(連携)市場の急成長をもたらしている。先んじて、広告オーディエンスデータの自動売買

(Ad-Exchange)や、業務データ集約・・閲覧システムであるDMP・(Data・Management・Platform)間の

1 同会の設立発表より(http://www.meti.go.jp/press/2014/06/20140609004/20140609004.pdf)

2 例えば、「業種・組織を超えたデータの利活用に賛同する事業者や有識者の交流・情報交換を進めつつ、データ駆動型イノベーションの

創出・促進に必要な制度や事業環境の整備、具体的な事例づくり等2」に取り組んだ。

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データ連携など、データ自体の社外流通に取り組む企業もある。一方で、データ流出・改竄事件への

社会的注目にも影響を受けて、EU 主導の規制にならい、企業間のパーソナルデータ流通を制限・管

理する仕組みの検討も進む。ディープデータ、情報トラストフレームワーク、VRM、Open-PDS、ブ

ロックチェーンなど、新しい概念が盛んに輸入されている。

Web文化の潮流を見ても、テキスト主体のソーシャルネットワーキングサービス・(SNS)の通俗化

が進み、位置情報と連動したスマホゲームや画像・・動画共有SNS、ニュースキュレーションメディア

などが脚光を浴びている。クラウドストレージやオンライン決済、ID連携、ウェアラブル端末、VR、

仮想通貨なども、情報リテラシーの高い世代・職業の方を中心に利用が進む。人や機械、情報タグな

どあらゆる「もの」がネットワークに接続されるなかで、日本のインターネットは急速に大衆化し、

無数の人々が暮らしのなかで生み出すデータが、企業活動の新しい開拓地となったのである。

●足元の課題

上述した社会情勢のなかで、企業が社内外のデータを自由に、しかし安全に交換・取引できるプラ

ットフォームへの期待も生まれている。一方で、たとえ研究用に試験的に用いるのであっても、自社

データを社外提供する敷居は高い。企業は、有形・無形の利益創出を目的として存在するうえ、その

企業リソースは有限であるから、費用対効果が読みづらい業務にリソースを割きづらいためである。

その敷居を乗り越えるには、データ提供に伴うリスクとリターンが、見通しだけでも提示されなけれ

ばならない。

とりわけ待ち望まれるのは、データ利活用によって利益を得た企業・組織の事例を少しずつ増やし

ていき、それらの成功事例を世の中に広く知らせて行くことである。これは、自社データを有効活用

したい企業にも、社外データを適切に取得したい企業にも、そうしたニーズを引き受けるプラットフ

ォーマにも求められる課題である。企業による習慣的な商取引が行われる場では、無数のプレイヤー

間の信頼形成や合意取得、意思決定のコスト削減が決定的に重要だということである。

2-1-3.事業の理念

従って、我が国においてデータ利活用を促進するには、データ流通に係る諸々のリスク・コストを

下げる施策が求められる。例えば、データを売買する習慣の普及、データ取扱い時のセキュリティ意

識のすり合わせ、対話エラーを低減する共通認識の醸成、データ種類や保有主体、利用目的ごとのマ

ッチングパターンの洗い出し、データ利活用人材の育成・交流の活発化、法制度の整備、データ価値

の相場形成、レピュテーションリスク抑制などである。要するに、データ駆動型社会の実現には、デ

ータ利活用業務にまつわる「商取引文化」の醸成が、否応なく要請されると考えられる。

データ利活用を専らとする企業の現場では、日常的な業務課題が絶えず生じている。しかしこれら

の課題は往々にして、種々の企業に属する個々の担当者の日々の業務に深く根差しており、些細であ

りながら多様であって、且つしばしばありふれていることから、一様な可視化、解決、改善が難しい。

まずはデータ利活用の現場に点在する個々の業務課題を拾い集め、洗い出し、まとめ上げるべきで

ある。そのうえで、データ利活用の促進・阻害要因の抽出と類型化が行えれば、プラットフォームに

求められる機能を整備できる。ひいては、日本的データ駆動型イノベーションの創出を促せるだろう。

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p. 7

2-2.事業概要

前記を狙いとして、本事業ではデータ利活用ビジネス創出支援を実際に行いながら、新しいプラッ

トフォームに求められる役割・機能を実証しつつ、並行して新しいシステムのプロトタイプを構築した。

具体的な実施内容は次の3つである。

企業データマッチングと分析企画支援

全10回の「分科会」を開催し、参加企業間のマッチング支援として、データ利活用ビジ

ネスの企画・検討を行った(分科会の設立、運営)。このとき、企業が自身でデータや分析

ツールを調達・・提供できない場合に、共用できるデータや分析ツールを提供した・(データ分

析ツールの提供)。また、分科会にデータ分析の専門企業を参加させ、要件定義やデータ整

理、ビジネス化へ向けた助言・相談を行った(データ分析のアドバイス・ノウハウ提供)。

並走して、「企業データカタログサイト(仮称)」のコンセプトモデルを制作した。「デー

タカタログサイト」と「データレシピサイト」という2つのWebサイトからなる。また、

参加企業に、実際にサイト訪問、記事閲覧、カタログ検索、データ登録を依頼し、利用アン

ケートを行った(データカタログサイトの構築、利活用の推進等)。加えて、分科会内で参

加企業からの要望が多かったことから、安心・・安全にデータ開示を行うため、共通誓約書の

文言を詳細に検討した(誓約書の作成)。

企業によるデータ利活用の情勢調査

我が国におけるデータ利活用の一般動向とその推移を確かめるために、日経BPサイト会

員に全2回の意識調査を行った(アンケート)。また、その結果をもとに、データ利活用が

進みやすい業界、業種、業務を分析、整理し、ポテンシャルマップを作成した。加えて、デ

ータ駆動型イノベーションの観点で先進的な事業を行う企業18社へ、対面ヒアリングを行

った(ヒアリング)。

データ分析企画の実務・役割をめぐる観察調査

カメラ、音声レコーダ―、観察者を設置し、分科会のなかで起きた会話を観察・・記録・・分

析したうえで、データ分析企画の実務担当者に起きやすい課題と、その解決策を整理した・(エ

スノグラフィ調査)。

産官連携の効果:

本事業では、ウォーターフォール型の事業計画と、アジャイル型の企画推進を組み合わせた。一般

にデータ利活用プロジェクトには、仮説と検証を細やかに繰り返して、分析パターンや施策シナリオ

を臨機応変に変えることが求められる。優れたデータ分析は、分析を始める前に分析者が抱いていた

常識や誤解、先入観を、良い意味で裏切る気づきをもたらすからである。このため本事業では、手堅

い計画と、柔らかい判断を組み合わせた事業推進を目指した。これによって、安定した事業進捗と、

速やかな実務対応を両立することができた。

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p. 8

工夫:

前者(手堅い計画、安定した事業進捗)を達成するために、製品開発モデルを念頭に置き、事業全

体の枠組み・事業目標は十分に計画を行い、その計画に則って、粘り強く、着実な進捗を心がけた。

また、プラットフォームに求められる役割・機能の実証も、複数の相反する仮説を持って行った。

他方で後者・(柔らかい判断、速やかな実務対応)を実現するために、顧客開発モデルを念頭に置き、

個々の検討チームの組成、分析内容の絞込み、プラットフォーマが担うべき業務範囲、プロトタイプ

に搭載する機能の選定には一定の自由度を持たせた。事業シナリオの分岐パターンを常にいくつか想

定し、小さく、細やかな軌道修正を繰り返した。

特色:

本事業では、参加企業や研究用データ、事業化シナリオを事前に限定せず、分科会活動の全体を・「生

きた実験室」として稼働させている。また、事業投資や技術開発ではなく、個社間の商談を通じた自

立的なビジネス・サービスの創出に重きを置いた。並行して、本事業の参加者がデータ利活用アイデ

アの事業化を目指すなかで直面する課題や、得られた解決策の洗い出しを目指した。

注意:

本事業では、データ利活用支援環境のうち、人と人との対話を円滑に進めるサービスプラットフォ

ームの在り方を中心とした検討を行った。このため、企業がデータを社外提供する際の技術的課題、

セキュリティ上の懸念を直接には扱っていない。また、本事業ではデータベースの共有・連携そのも

のではなく、複数社によるデータ開示を通じた事業連携の企画・推進を目指すことになった。このた

め、各検討チームで扱われたデータのサイズは比較的小さいうえ、採用された分析技術もオーソドク

スなものが中心である。なお、本事業と同一の手法を採用したデータ利活用ビジネスを行ったとして

も、同一の精度・確度で事業が創出されるわけではない。マッチング支援の手法は十分に応用が効く

と思われるが、参加者の顔ぶれが変われば、また別の帰結に至ることは自明である。

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p. 9

2-3.用語の定義

・データ

データとは記録された事実である。質・量による区別は行わない。

・ビッグデータ

ビッグデータとは多量・・多頻度・・多種類のデータであって、テラバイト単位・(1024GB)からペタバ

イト単位(1024TB)ほどのデータ量を定常的に持つ動的なデータ集合を指す。一方で、2010 年頃か

ら国内でも流行したブームに伴って、ギガバイト単位(1024MB)のデータどころか、業務用のパソ

コン、とりわけ表計算ソフトでは閲覧・編集できないメガバイト単位(1024B)のファイルサイズの

データをさえ、慣習的に「ビッグデータ」と呼ぶ向きも現れている。データサイズによって業務課題

は内容・・解決策ともに異なるが、いずれもデータ利活用支援の対象となりうる。すでに2012年には・「ビ

ッグデータの終わり(The・Death・of・Big・Data3)」と称して、データサイズに依らず、あらゆるデータ

(any・data)を企業が活用することの重要性も指摘されている。このことも踏まえ、語義の混同を避

ける意味で、本書では、とくに必要でない場合は、この用語を用いない。

・データ利活用

データ分析、データ活用、データ利用を区別し、いずれもデータ利活用の下位概念であるとする。

・データ分析

データ分析とは、与えられたデータから何かを見つけ出すことを指す。データ分析の担当者は、分

析ツールやデータ管理システムなどを用いて、データの性質・状態を知ったり、洗浄・加工を行った

り、説明モデルを組み立てたり、アルゴリズムを適応する。

・データ活用

データ活用とは、記録された事実を用いて、何らかの業務を行うこと一般を指す。データ活用には、

いわゆるデータ分析ではなく、業務における参考情報の収集や、データに基づく判断、経営上の意思

決定を指すと定義する。広義には、企業によるデータ利活用の局面で生じる、データ調達の商流形成、

データ取引契約の検討、データ活用人材・組織の育成も指すものとする。

・データ利用

データ分析やデータ活用のために、企業の担当者がデータを直接・間接に取り扱うことを指す。難

度が低い順に次の9つが挙げられる。本事業の実施者が2014年に行った検討会での議論を集約したも

ので、現場の業務実態に即し、ビジネス企画と分析実務が混在する。本事業では1.から6.が行われた。

3 Forbes誌の編集記者(当時)エリック・サビッツが、ガ―トナー社によるハイプサイクルでの位置づけや、モルガン・スタンレー社に

よる報告を紹介しながら、「ビッグデータは近く標準的なもの(norm)になる」と指摘している。

(http://www.forbes.com/sites/ciocentral/2012/10/04/the-death-of-big-data/#7bac40a87367)

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p. 10

1. 各社が協議・検討を通じて示唆を得て、それを自社内のデータ活用に活かすこと。成果物は残ら

ないが、簡便に行え、当事者たちの関係作りが進む。(例:事例共有、実績紹介)

2. 実データの開示は行わないが、分析結果や活用事例を示したレポート等の参照を通して、複数デ

ータから得られる帰結を結びつけること。様々な調査・分析結果を報告書へ引用することは、こ

れに当たる。(例:データ活用)

3. 同一または隣接する目的のために、社内データを開示したり、提供したりすること。納品形式や、

有償・・無償の別は問わない。取り扱われるデータに関して、何らかの権利移転が生じることもある。

(データ交換、データ公開)

4. Web 上で、または社内ネットワーク内で、複数データを同時にアクセスできる環境へ置くこと。

専ら閲覧に供され、分析されないこともある。企業オープンデータの取り組みはこれに相当する

ものと整理できる。(例:データ共有、データ連携)

5. 公開で、または社内で、データ可視化・・集計ツール・(BIツール)などを用いて、複数データを同

時に閲覧・分析できるようにすること。データプロバイダ(供給企業)が元データの取得を制限

することもある。(データ可視化、データ・フェデレーション)

6. 複数のデータを、名寄せ・抜粋・匿名化・補正などの前処理を施して、部分的に紐づけること。

分析用のデータセットを作ることに近い。(例:データ結合、ID連携、名寄せ)

7. APIを公開したり、公開されたAPIを用いて、複数のデータを組み合わせた新しいWebサービス

や、アプリケーションを生み出したりすること。その過程で、任意のカラムを紐づけのキーとし

て、複数データを統合することになる。データ量が大きくなれば、目的別のデータベース(デー

タマート)を新たに構築することに近づく。・(例・:データ融合、データマッシュアップ、API連携)

8. 複数のデータベースを統合または接続し、一つにすること。データウェアハウス・(データの倉庫)

を構築したり、複数あるデータマート(目的別のデータベース)を統合したり、クラウドコンピ

ューティングサービス内のデータを移行したり、分析基盤の導入4を行うこと。(例:データベー

ス統合、分析基盤の構成・連携)

9. 企業グループの合併・再編や、新しい行政制度の導入などに伴って、複数社の複数のデータウェ

アハウス自体を統合すること。例えば、マイナンバー制度の実施はこれに当たる。・(システム統合)

・データ駆動型イノベーション(DDI)

データ駆動型イノベーション創出戦略協議会によれば、「企業が壁を超えてデータを共有・活用し、

新たな付加価値を生む取組」である。一般に、データ利活用の目的は、過去の発見・(備忘・・探索)、現

在の理解・(把握・・整理)、将来の予測・(示唆・・推定)の3つに分類できる。これを踏まえて再定義する

4 大容量のデータを分析目的に沿って適切な負荷・速度で処理するために、例えばサーバ構成の計画やデータ構造の検討、データベース

の導入から始まり、ネットワーク設定、バッチ処理フローの設計、集計・記録プログラムの作成、周辺ライブラリの導入、不具合(バグ)

の修正(デバッグ)、分析・可視化ツールの開発、運用プロセスの管理・保守などを行うこと。用途・特長は異なるが、オープンソースの

基盤ソフトウェアとして、Hadoop、Spark、Docker、Kafkaなどが言及されることがある。

Page 12: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 11

と、データ駆動型イノベーションとは、「私たちの社会が、記録された事実に基づいて、忘れていたこ

とを想起し(備忘・探索)、いま・ここで起きていることに気づき(把握・整理)、次に取るべき対応

が分かる(示唆・推定)こと。また、それを通じて社会に新しい変化がもたらされること」である。

・イノベーション

イノベーションの定義は一意に定めづらいが、破壊的イノベーションと持続的イノベーションの2

つに大別でき、前者は産業構造の変革に、後者は高度化に貢献すると言われる。本事業では、プラッ

トフォーム構築は前者を、プラットフォームが支援する新事業の創出は後者を目指すものと整理した。

・新事業の創出

「創出」とは、物事を新しく作り出すことである。本事業では、新たなサービス・ビジネスの発案、

協議、企画、検討、準備、試行、評価等を指し、「育成」とは区別する。大別して、社会的ニーズに端

を発するもの・(マーケット・イン)、新技術の実現アイデアに端を発するもの・(プロダクト・アウト)

の2通りがあるとされ、本事業では主として前者が志向された。

・データ利活用支援環境(プラットフォーム)

データ利活用支援環境・(プラットフォーム)には少なくとも3つの要素が含まれる。とりもなおさ

ず、その場で流通するデータ自体や、データを流通させる情報通信システムを含む・(システムプラッ

トフォーム)。また、流通するデータの一覧や、データの取扱いルール、売買されるデータの価格相場

など、商取引上の仕組みも含む(サービスプラットフォーム)。さらには、取扱いに関わるプレイヤ

ー、その場で交わされるコミュニケーション、そこで得られるノウハウ・ニュースなどのコンテンツ

も、同環境の構成要素である(コミュニケーションプラットフォーム)。

・データカタログサイト

データカタログサイトは、データの型録情報(概要、データ形式、想定される用途、提供条件、利

用範囲)を登録できる、オンラインの検索情報サービスである。様々なデータベースに格納されたり、

無数のWebサイトに掲載されたりしているデータを、効率良く探すことができる。日本国内でも、オ

ープンデータ流通推進に取り組む省庁・企業・組織・自治体などが制作・運営を進めている。掲載す

る情報はさまざまで、データの型録情報だけでなく、使い方の案内、おすすめの紹介、周辺事例の披

露、活用イベントの報告、関連情報の提示などまで手がける団体もある。企業内ではイントラネット

や共有データフォルダ、クラウド型ビジネス管理ツール5などで代替されることがある。

5・Chatter,・Slack,・Chatwork,・Backlog,・Co-meeting,・サイボウズLiveなどがある。

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3.企業データマッチングと分析企画支援

3-1.要旨

全10回の「分科会」を開催するとともに、2つのWebサイトからなる「企業データカタログサイ

ト(仮)」のコンセプトモデルを制作し、分科会の参加者限定で運用を行った。

分科会ではマッチングの結果、合わせて4つの検討チームが立ち上がった。それぞれのチームでは、

実データを用いた実証分析を進めながら具体的な事業検討を行って、新たなビジネスの立ち上げ検討

に着手している。「データカタログサイト」は、データ流通のためのシステムプラットフォーム構築

に係る利用者ニーズとサイト運営コンセプトを収集しながら、Webサイトのコンセプトモデルを制作

した。また、参加企業にその利用を依頼して、今後の改良・運用企画として取りまとめた。

●分科会

参加者による新たなサービス・ビジネスの発案、協議、企画、検討、準備、試行、評価等の支援に

取り組んだ。・「顧客データ分科会」と・「商品データ分科会」の2班で募集し、4チームが検討を行った。

●データカタログサイト

「企業データカタログサイト・(仮)」のコンセプトモデルとして2つのWebサイトを制作した。「デー

タカタログサイト」は、企業が自社で持つデータやその概要情報など(データカタログ)を登録でき

る。「データレシピサイト」は、ビジネスデータ分析において定番の分析手法を、誰もが使えるオープ

ンデータを利用して解説する。

当初は、研究利用のための企業オープンデータとして、幅広い企業からデータを募集する目論見だ

ったが、参加企業から自社データの開示範囲を指定したい、開示により想定される法的リスクが読み

切れない、利用目的を明示したい、社内外のレピュテーションリスクが懸念されるため公開が難しい

などの要望を受け、「データカタログサイト」については参加者限定の公開で運用する判断を下した。

そのうえで参加企業へのアンケートを行ったところ、・「競合他社や関係企業にどういった情報が伝わ

ってしまうか心配」「社内に事例・・実績のない取り組みであり、承認・・調整・・準備が大変」との声が根

強かった。今後、サイトに掲載してほしいコンテンツでは、「企業オープンデータ」「活用事例、分析

実績」が人気を集めた。今回の分科会に参加した、データ利活用に前向きな現場担当者でさえ、実感

として「自社がデータを公開するとき、何をどうすればいいか、それによって何が起きるか」が読み

きれないとの心配を抱えていると分かった。

3-2.マッチング支援の実施方法

3-2-1.事前仮説

データ駆動型イノベーション創出戦略協議会(DDI 協議会)では2014 年度に、株式会社構造計画

研究所への委託事業として、「平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(デ

ータ駆動型イノベーション創出に関する調査事業)」(以下「先行調査」という。)を行った。

先行調査の報告書には、DDI創出促進に向けた3つの優先課題が挙げられている。

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■DDIを創出促進するための優先課題

1.データ共有に関する悪循環が存在する(データを外部に提供することによるメリットが感じられない、データ共

有が進まないためにデータを外部に提供することのメリットを提示することができないという悪循環)

2.データ利活用に関する社会的合意形成や規制制度の運用基準が不明確

3.データ取引における交渉の進め方がわからない

「平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(データ駆動型イノベーション創出に関する調査事業)」より

本事業ではこれをもとに、基本となる事前仮説を立てて、事業創出支援に臨んだ(詳しくは第9章

を参照のこと)。また先行調査では、3つの施策提言が挙げられている。

▼「データ概要情報・データを共有する場」の機能

・複数の種類や複数の組織のデータ(概要情報)を共有できるような場があること。

・多くの種類のデータ(概要情報)がオープンに共有される場のみならず、データ保有組織の事情や各デー

タの状況にあった、オープンにする範囲を制限できるようなデータ共有の場(例えば限定されたグループ内

のみで共有できる場)が存在すること。

・課題解決の手段を検討・議論する時に、単にデータが共有されているだけではなく、課題解決のテーマに

あったデータが用意されていること。また、課題解決のテーマにあったデータを容易に検索できること。

▼「データ利活用のアイデア創出の場」の機能

・・今回のワークショップで実施した・IMDJ6・のような課題解決のためのデータ利活用アイデア創出の場を積極

的に設定することが求められる。なお、この場には、参加者同士の信頼関係の構築や顧客ニーズの把握の場、

データ利活用を実現するために協力を得るプレイヤーを見つける場としての機能も求められる。

▼「データ利活用によるビジネスシナリオの検討を支援する人材との接触機会・育成の機能

・データ利活用のアイデア創出・起爆剤となるベンチャー企業

・ビジネスシナリオ検討にあたる業界知識提供者

・ビジネスシナリオ検討時にデータ利活用について、アルゴリズムやデータ解析の点でアドバイスができる

ようなデータ解析の専門家

・事業計画の効率的な構築を支援できるビジネスコンサルタント

・データの概要情報を公開し、課題解決のための議論の場を設定し、データ(概要情報)利活用によるアイ

デア創出を行うための環境を整えることができる者

(同上)

6 Innovators Marketplace on Data Jackets の略。東京大学大学院工学系研究科の大澤幸生教授が提唱する、データを組み合わせた活用・分

析手法やそれを用いた新しいビジネスモデルの構想技術。「データジャケット」と呼ばれる簡易な入力票のテキストからキーワードマップ

を作成し、それをゲーム盤のように使った発想ワークショップと、出現アイデアの系列化を通じて、ビジネス企画を紙上で行える。

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この3つの施策提言から考えうる打ち手に加えて、本事業の実施者が過去の取り組みから得た方法

論を組み合わせて、次のような実施シナリオを組み立てた。

▼実施した「データ概要情報・データを共有する場」の機能

分科会の参加者を募集するとき、自社で保有するデータのカタログと、担当者が抱える業

務課題の提示を互いに行う。毎回の検討会は対話主体とし、常に必ず全社のデータカタログ

を閲覧できるようにしたうえで、議題に応じた司会・・進行や発想支援ツールの提示、議論の

整理と要旨の文書化などを進める。そうした作業を共同で行ううちに、やがて、データカタ

ログには記録されなかった事実が語られるようになるはずである。それを、データの開示範

囲・方法を制限できるようなWebサイトに追加・登録して、参加企業の業務課題を共有、

それを解決できる分析企画を作り上げる。

▼実施した「データ利活用のアイデア創出の場」の機能

先行研究にいう・「アイデア創出」にとどまらず、知的創造プロセスに一貫した情報環境の

整備を行うことが望ましい。言い換えれば、対話と記述の双方をシームレスに組み合わせる

ことで、アイデアを企画に、企画を実現に落とし込むまでの流れを、参加者が共同して編み

上げられる場として整えるということである。

そこでまずは、データ自体ではなく、活用アイデアや社内事例、分析シナリオを優先して

開示してもらう。主催者は、その対話をよく聞き、担当者の考え方や人となりをよく知った

うえで、企業と企業の相性を見極める。対話のなかでマッチングの可能性が見つかれば、主

催者はそれを見逃さず、チーム編成の参考にする。

思いつきのアイデアの山から無理筋の企画が除外され、チーム編成の原型が見え、データ

利活用アイデアの洗練が進むうちに、参加企業の担当者も、自社データの詳細や提供条件を

語ってくれるようになる。それを参考にすれば、より実現しやすいデータ分析企画を組み立

てるヒントが得られる。企業の担当者との信頼構築も進む。協力関係ができる。

そうして、互いにデータやツール、アイデア、事例、工数を出し合える空気が生まれれば、

自ずとデータ活用企画が持ち上がる・(持ち上がらなければ、相性が合わなかったと見なす)。

あとは、その企画が縮退したり、頓挫したりしないよう、シナリオを膨らませ、洗練させ、

起動させれば、プラットフォーマが介在しなくても、個社間での取り組みが進んでいく。

▼・「データ利活用によるビジネスシナリオの検討を支援する人材との接触機会・・育成の機能

先行調査では、求められるプレイヤーの整理として7つの要素が挙げられている。これを

踏まえて本事業では、募集時に参加企業へ次のいずれかの役割を担うことを依頼する。また

チーム編成に応じて、プラットフォーマが適宜、足りない役割を代行する。

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役割 名称 担当企業名

データ提供を行う データ・サポータ 各社

業務課題を打ち明ける テーマ・サポータ 各社

分析支援を行う 分析サポータ インテージ、インフォメティス、オプト、

国際大学GLOCOM、データセクション、

ブレインパッド

(仮想と現実の)知的創造活動の場、

プロセス支援を行う

プラットフォーム・サポータ イトーキ

分析基盤の提供を行う インフラ・サポータ NHNテコラス

参加者募集やチーム編成の支援を行う イベント・サポータ 日経BP

検討会の進行支援を行う ファシリテーション・サポータ 富士通総研、デジタルインテリジェンス

3-2-2.ビジネスマッチングの実施手順

本事業を行うに当たって掲げられた理想は、国内外にあらゆる企業・組織の「壁」を越えて、事業

年数や資本力、専門知識、所属・業務を問わず、どの主体にとっても平等・公平に、あらゆる種類・

量・頻度のデータを、有償・無償問わず、気軽に・簡単に・速やかに、交換・共有・流通・取引する

助けとなる、安心・安全・安定で、中立・汎用のプラットフォーム構築である。これは、単一の主体

が1年で実現することはできない。

そこで本事業ではまず、理念上のプラットフォームを利用する想定顧客を考える一方、想定顧客に

よる製品評価に最低限求められる機能が担保されたコンセプトモデルの開発・・運営を低コストで行い、

「最上級の要件を満たせるプラットフォーム」と・「最低限の実用に耐えるプラットフォーム」のギャ

ップを明らかにすることに努めた。そのうえで実現すべきプラットフォームの具体像を描き、コンセ

プトモデルの構築を行いながら、この来たるべきプラットフォームは、そもそも誰が・いつ・どうや

って・なぜ・何のために使うのかを明らかにし、それにふさわしい機能を絞り込むことから着手した。

3-2-3.活動計画

本事業の活動計画は、前期、中期、後期の3期に分けられる。前期には参加者募集の説明会とデー

タカタログの収集を行い、通期にかけて原則として毎月1回の分科会を開催した。データやツールは

中期から後期にかけて、参加企業の必要に応じて提供した。アンケート・ヒアリングは中期に行った

が、エスノグラフィ調査は通期にかけて行った。なお、分科会のほかにも、参加企業間の調整や連絡

のための打合せは行われている。

3-2-4.データカタログの収集方法と結果

説明会を経て、社内調整のうえ参加を決めた企業の担当者に、分科会を始める前に2つの記入シー

トを配布した。結果として、20社分のカタログを収集できた。

まずは「データカタログ」と称して、企業が持つデータの概要情報を書くよう依頼した。

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データカタログには主として、データの内容や形式、項目、取扱い上の注意、利用条件、データ連

携の参考となる設問を設けた。また、適宜、事業担当者がヒアリングへ出向き、データカタログの代

筆を行った。

他方でカタログ自体には、その企業が持つ業務課題やノウハウ、実務上の留意点が書き込みづらい。

そこで、参加経緯などを質問した「ポジションペーパー」を合わせて書くよう依頼した。企業間のビ

ジネス理解や、分析実務の経験値などを互いに知ることに役立てられた。

ポジションペーパーとデータカタログに書かれた内容は、毎回の分科会でも互いに閲覧し、データ

理解に用いたほか、簡易なテキスト分析を行い、参加者の意識の上でのデータ間の相関把握に用いた。

個々のカタログの開示レベルは提出者が指定した公開範囲に準じたが、原則として分科会の参加企業

間ではオープンにみられるよう、参加企業へ協力を求めた。

3-2-5.分科会での検討方法・内容と結果

分科会ごとの企画検討を支援するため、事業開始から終了までの議題を組み立て、局面ごとに考え

うる検討支援を行った。具体的には、次の6つを採用した7。

a.対話支援サービスを用いた分析アイデアの洗い出しと、組み合わせ相性の判断

今回の事業ではどの担当者も、自社のデータ利活用に深い専門知識を持ち、高い分析リテラシーを

保持していた。一方で、複数のデータを織り交ぜた分析企画には慣れておらず、そもそも初対面の企

業がほとんどだったことから、吟味に堪える数の分析アイデアが浮かばない懸念もあった。そこで夏

季には、データカタログだけでなく、ブレインライティングシート8を用いたアイデアソンを行った。

また事業担当者の経験から、企業の顔ぶれや検討内容、また国内外の成功事例、業態の近さなどから

組み合わせ相性を判断して、分科会ごとに着席順をこまめに指定した。

検討の場には、株式会社イトーキの東京イノベーションセンター「SYNQA」9のプロジェクト・ス

ペース、チャットツールなどを用いることで、企業間の対話が生まれやすい空間作りを目指した。

b.アイデアの可視化、取捨選択、議題サマリ、論点整理

集まったアイデアは参加者の人気投票でランク付けされ、チーム編成の参考にされた。また、「提

案依頼書(RFP)草稿」と称して、アイデアを企画へ落とし込むための用紙を毎回配布して、多くの

7 データ分析プロジェクト管理の古典的なフレームワークであるCRISP-DMモデルや、Webアプリケーションのアジャイル開発に用い

られるSCRUM、データ管理知識体系DMBOKなどを参考にした。 8 アイデアプラント(株式会社マグネットデザイン内 アイデアプラント事務局)の商品。ブレインライティングシートによるワークショッ

プでは、1卓6人で座り、3行×6列のマスに区切られたA3サイズの記入用紙を用いる。毎回3分で一列目から順に3つのアイデアを記

入し、隣席の方に手渡す。それを6回繰り返すと、短時間で108個のアイデアがテーブル数だけ生み出せる。 9 企業横断型プロジェクトに特化したBtoB会員限定の複合施設。「“trans”(組織横断・内部交流型)から”trans3.0”(超流動・外知交流型)

へ」をコンセプトに、カフェ空間、会議スペース、セミナールーム、電子図書室、情報ダッシュボードなど、共創を支援する機能を備える。

ホワイトボードになる壁や身体に優しい椅子、人工知能搭載の会議室など、知的創造性の高まるオフィス環境が空間単位で設計されている。

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アイデアを、いくつかの企画案に落とし込んだ。このとき、データカタログとポジションペーパーに

含まれる単語を簡易なテキストマイニングで一覧図にし、データ間の相関把握に用いた。

また事業担当者が議題サマリと論点整理を順次作成して、分析課題の落とし込みを行った。

c.個社ヒアリングやファシリテーション支援、企画書作成支援

議論の蛇行やデータ開示の遅れ、要件定義時の手戻りが少なからず生じることは想定されていたが、

実際に、途中欠席や参加担当者の交代、テーブル編成の流動化などから、チームごとに進捗のばらつ

きが出始めた。そこで中期からは、チーム編成に並行して、分析サポータの助言を受けながら企画案

の実現性を確かめ、「死に筋」のアイデアを除外し、意識的に議題にのぼらないようにした。

逆に、分析サポータから好評だったが参加企業から不人気で、落選したアイデアもある。

また、分析サポータにとっても、分科会内の限られた時間だけでは踏み込んだデータ分析手法の検

討がしづらい。このため分析サポータチームを別グループとして立て、技術検討を行い、その結果を

「見解」として提示。無理筋の切り落としや、分析内容の軌道修正を実施した。

加えて、参加企業の求めに応じて、分析企画書の作成や個社の要望ヒアリングなどを行い、チーム

内の役割分担を調整し、アイデアの散逸を抑えた。

d. 全社に共通して使えるデータ・ツールの提供

企業担当者がデータ提供に前向きでも、企業方針から速やかなデータ開示が難しいことがある。

社内承認を得るために、「ちょっとした分析」や・「先行する事例」が必要になることもある。いざ分

析プロジェクトを始めるとき、仮説作りの起点となるデータもあったほうがよい。そこで本事業では、

次の3社・3種類のデータとツールを、全社に共通して使えるよう準備した。

・データセクション「Insight・Intelligence」で閲覧・分析できるSNS分析データ

・富士通総研「Do-cube」で閲覧・分析できる生活者インサイト分析データ

・エム・データが自社で収集・整理している「テレビ放送実績データ」

3つのデータを採用した理由は次の通り。まず、オープンデータ利用促進を目指したプロジェクト10

を参考に、用途や目的が異なるいくつものデータを用意するのではなく、色々な用途に使えて、様々

な切り口から分析できそうな、いくつかのデータを揃えておくほうがよいと考えた。

また、複数データの連携を行うとき、データを紐づける共通の軸には、時間・(タイムスタンプ)、空

間・(地理情報)、人・・物・(IDなどの識別子)、意味・(キーワード、文字列、語彙情報)の4つが考えら

れる。テキスト主体の・継時生成されるデータは、工夫すればどの軸でも分析できる。3 つのデータ

はこの条件を満たす。分析企画の起点としての使用に適したデータである。

10 支援内容の企画に当たっては、「G空間未来デザインプロジェクト」(2014年・慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント

研究科、株式会社フューチャーセッションズ、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)や「クラウドテストベッドコンソ

ーシアム」(2011年・総務省)、「集めないビッグデータコンソーシアム」(2014年・産学連携本部)等を参照した。

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e.データカタログサイト(仮)の構築

第2章で述べた通り、「データカタログサイト(仮)」と題して、ふたつのWebサイト(「データカ

タログサイト」と「データレシピサイト」)を作成し、公開した。

「データカタログサイト」の構築にはオープンソース・ソフトウェア「CKAN」を採用した。省庁・

自治体によるオープンデータ推進によく用いられる技術であり、任意のデータとその概要情報をWeb

サイト上へ掲載することができる。これをもとに、参加担当者からの要望を受け、参加企業が所属す

る検討チーム内に限ってデータが閲覧できるような機能改修を行った。それによって、複数社が実際

に互いのデータを参照、取得、加工、分析することができた。

「データレシピサイト」は、「日経 Big・Data」公式サイト内にカテゴリー「データセット&分析レシ

ピ」を新設し、データ分析の専門家による企業データ利活用の定番手法を解説する記事を掲載した。

その特色は、記事の読者が実際のデータをダウンロードして、手元で分析ツールを起動しながら読

めるところにある。総務省統計局などが公開するオープンデータに加えて、ナイトレイが提供する

SNS分析データ、カスタマーコミュニケーションズが提供するID-POSデータなどが取得できる。

加えて、企業の実務担当者に読みごたえがあるよう、それぞれの記事を、難易度別に書き分けた。

グラフ化、ヒストグラム作成、指標化といった初学者にも着手しやすい手順から、分散分析、因子分

析、相関分析、時系列分析など、分析ツール「R」のパッケージ(よく使われる分析手順を、手間をかけずに当て

はめられるよう型にしたもの)を用いて実施できる手法や、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、マルコフ

過程など分析モデル構築を要するものまで取り扱う。

f.共通契約書の作成

簡単な守秘義務契約書で済ませたいとの意見も事業実施者のなかであった一方で、参加企業から・「利

用目的、実施内容、企画の背景などが提示されないと、社内説得できない」との要望が相次いだこと

から、誓約書の文言は予定外に精緻化することになった。

コンセプトとして、分科会期間内で参加社間に限って「オープン・シェア・フリー」な企業データ

開示を進められるような文言を作成して、各社の判断を依頼した。具体的には、機密情報と提供デー

タ、成果物の定義を仕分け、業務知識の提示と実データの開示、成果物の活用の切り分けを狙った。

例えば、ベンチャー企業側から「よりオープンな相互のデータ開示がしたい」との要望があり、成

果物の自由利用を認める素案としたが、中堅・大企業からの指摘があり、事前の同意取得や利用許諾

を条文に盛り込んだ。また、グループ企業間での情報共有をめぐって、「自己」や・「参加企業」の範囲

も争点となった。参加企業が協議のうえで、データの提供内容や公開範囲、利用目的を指定できると

する解釈を採用した。

3-3.採用されたアイデアとチーム編成

分科会ではいくつもの着想、考案、手法、工夫が提出された。その一切を無加工では記載できない

が、その特徴は指摘できる。採用された・脱落したアイデアの特徴と、チーム編成の進展は次の通り。

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●採用されたアイデア

次の2条件を満たす検討テーマが採用された。魅力的だが難易度の高い着想を、少ない手順で行え

実現の確度が高い計画に縮小できたアイデアだと言える。

採用されたアイデアの特徴 実際の研究進捗

1.データ準備のコストが小さい ・自社データに似た、企業オープンデータを用いることができる

・・それぞれの企業がすぐに・簡単にできる範囲で、短期間・・少量・・単一種のデータを作成し、

手早く共有し、手軽に見える化できる

2.分析作業にすぐに着手できる ・分析実務の対話を早くから始められ、実用化の検討も合わせて行える

・・「仮説づくり自体」や「データ状態のチェック」を、とっかかりの分析課題にできる

・分析用データを新たに収集せずに済み、分析自体も、定常業務のなかで実施できる

●脱落したアイデア

脱落したアイデアは多岐に渡るが、次の4条件のいずれかに該当した。つまり、脱落しやすい企画

アイデアは共通して、分析作業がチーム内で完結せず・(参加企業以外の他社とも協業が必要)、データ

手配にコストがかかりすぎるうえ、企画案が煮詰まらず、社内からの理解・支援が得られない。

脱落したアイデアの特徴 実際の研究進捗

1.分析作業がチーム内で完結しない ・・データの粒度を揃えづらく、仮に揃っても、価値ある分析結果が出そうになか

ったアイデア(メディアデータ関連)。

・・チーム内で使えるデータだけでは分析しきれず、他の企業が持つ情報も参照す

べきだと判断されたアイデア(健康・ヘルスケアデータ関連)

・・総じて好評を得たが、データ収集から始める必要があり、データの流通範囲も

広がることから、検討の主流にならなかったアイデア(消費者データ関連)。

2.データ手配のコストがかかりすぎる ・・データの収集手段を低コストで用意したために、データの整理・・補正が難しく

なり、分析内容を絞ったアイデア(人事・労務データ関連)

・実務上のコストが期待されるメリットを上回らないと思われたアイデア(「世

帯」と・「個人」の紐づけが難しい、両社データを重ねやすい・「エリア」が限られ

る、安価に遡行して抽出できる・「期間」がちがう、共通の・「検索クエリ」を作る

手間がかかりすぎるなど)(生活者データ関連)。

・・候補に挙がったが、他データに比べてノイズが多いことから、採用が見送られ

たアイデア(行動履歴データ関連)。

3.企画案が煮詰まらない ・・世間では既出アイデアであり、先行する実証実験もあるうえ、利用できるデー

タに限りがあるアイデア(IoTデータ関連)。

・・分析手順はすぐに決まったが、利用目的や事業化案、分析対象が決まらず検討

が長期化したアイデア(商品データ関連)。

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4.社内の理解・支援が得られない ・・実現しやすく支持を集めたが、担当者が本業で忙しすぎ、検討に参加できなく

なったアイデア(Webサイト等データ関連)。

・・人気を集めたが、データ保有社の社内合意が取り付けられず、見送りになった

アイデア(顧客属性データ関連)。

・・稟議コストおよび社内外のレピュテーションリスク懸念から早々に実施が見送

られたアイデア(経理・財務データ関連)。

●チーム編成の進展

結果として本事業では、検討チームの組成が次の通りに進行した。テーマの絞込みまでは検討テー

マの乗り合い・入れ替えを自由に行った。とはいえ結果として、当初のテーブル編成が最後のチーム

編成に維持されることになった。データ利活用における企業間マッチングにおいては、・「顔合わせ」か

ら「案出し」(テーマ選定や仮説作り)時点までのフォローアップが重要であることを示唆している。

3-4.新事業成立の促進・阻害要因

分科会全体を通して見られたデータ利活用の促進・阻害要因を整理する。本章では特に顕著な要因

だと見なした事例を解決難度順に記載し、第9章へ分析プロジェクト全体を通した一覧表を掲載する。

●秘密保持義務契約が企業間のビジネス理解を阻害

データ流通の先端課題は、暗号化・秘匿化によって、統計加工される前のデータを安全に受け渡す

ことである。対して頻出問題として、企業内で過去に行われた分析成果やデータが、他社との秘密保

持義務から公開できず、分析ノウハウの横展開を阻害してしまうことがある。本事業では参加募集時

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に、自社・自部門の課題や期待を記したポジションペーパーの記入・回覧を行ったことで、参加メン

バーの顔ぶれや、データ分析への慣れ、業務上の課題などがそれとなく知られ、企業間のビジネス理

解につながった。

一方で、関係会社との守秘義務契約から、そのデータの常套的な分析手法・活用事例であっても、

一般化・曖昧化した説明をしなければならず、円滑な協議が行いづらいことがあった。競合他社への

技術流出を防ぐため、データ分析の業務委託に際しては、包括的な守秘義務契約が結ばれる。契約締

結自体を秘するよう求める条文も設ける例もある。それ自体は情報の安全を確保する手段であるもの

の、自由な検討・協議の阻害要因である。

●データ準備を円滑にする測定基準がなく、細かい確認が必要

本事業ではビジネスアイデア先行ではなく、お互いの保有データを理解することから検討を行った

ため、データ状態に対する認識のずれ等での手戻りが生じず、月次の会合という実施ペースでありな

がら、順調にプロジェクトが進行した。また、データカタログを毎回の分科会で参照したことで、ア

イデア段階でも実現性を極端に度外視した提案は出ず、現実的なビジネスアイデアが浮かんだ。

加えて、事業全体で共通して使えるデータを用意したことで、・「分析企画が先か、データ開示が先か」

という鶏卵論争を避け、各企業がデータ開示に踏み切れないままでも、データ利活用企画を進める橋

頭堡を築くことができた。

しかしそれでも、データ主体の事業規模や取扱いデータによって、開示できるデータ状態・(質、量、

粒度、期間、範囲、ノイズ含有度など)が異なることから、データ準備に関する確認にはまだ手間が

かかる。企業によっては分析手順の決定・コスト算出が担当者個人の実務経験から行われていて、自

社で取り扱うデータの品質基準が整備されていないこともあった。

「価格」の目安づくりも、今後生じうる課題である。データの価格は、その内容・品質・条件などに

よって変動するため、業務に資する簡便さの範囲で、一律には定めづらい。他方で、データの価値に

一定の目安がなければ、データ提供自体に要する費用が過度に高く、または低くなりやすい。その基

準が規定され、認知されれば、それをもとにデータ流通市場の相場形成を促せる。

●経営方針の変更に耐えるには、短期集中か長期計画での分析企画が必要

経営層の方針変更や決済権限者の人事異動、担当者の入れ替わりがあると、データ理解や分析企画

の把握などをチーム内でやり直さなければならない。本事業内でも実際に、関係会社の意向でデータ

公開方針が大きく変わり、データ提供ができなくなった事例があった。

また、意思決定を親会社が行っており、データ保有社と方針・意向が異なるために、投資対効果や

データ提供の安全性などの点で、十分な説得力がなければデータ開示できないことがあった。逆に、

自社でデータを保有していない親会社で、系列の事業会社に開示・提供を依頼するとき、社内外の関

係者との調整が煩雑となりすぎることから、データ提供を見送った例もある。

こうした動きを防ぐには、中長期のデータ利活用企画を入念に作るか、短期間にビジネスリソース

を集中投下して、速やかに成果を出すことが求められる。本事業では4つの検討テーマが結実したが、

脱落した無数のアイデアにとって、1年という検討期間は短すぎたか、長すぎたように思われる。

Page 23: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 22

●分析企画を社内稟議に通すための、小さな分析成果こそが重要

データ提供者、分析者、閲覧者など性質の異なる法人が複数関与することで、データの商流が複雑

になり、契約締結までのリードタイムが長引く。

とりわけ大企業の社内稟議は、審議にかかる期間も長い。大企業の担当者もそれには苦慮しており、

検討チーム内で協議のうえ、提案書の内容を充実させたり、オープンデータで事前調査を行ったり、

実施意義を強調するなど打開策を練ったうえで、小さな分析企画を共同実施するに至った。

よく言われるように、個人情報に紐づきやすいデータは、取扱い方によって容易に機微情報に変化

してしまう。社外流通に当たっては、情報セキュリティの堅牢さと、提供先との信頼関係を担保する

必要がある。結果として開示できる範囲が極めて限られるうえ、社内調整に労力がかかる。これらは

奇しくも、企業が社外にデータ提供する際の障壁と似ている。企業活動に紐づきやすいデータは、原

理的に守秘性を帯びやすいためである。

●企画担当者と分析担当者に負荷が集中する構造が生じやすい

データ分析プロジェクトでは、データ分析チームリーダー、ビジネス企画チームリーダー、分析プ

ロジェクト全体のマネージャに負荷が集中しやすい。分析企画の参加者は、ビジネス経験も業務課題

も、得意とする分析手法も扱いに慣れたデータも異なる。そうしたなかで彼/彼女らは、社内外の意

見を集約するハブとなり、分析実務の指揮を執り、企画シナリオの軌道修正を行わなければならない。

結果として、分析企画の初めから終わりまで、あらゆる協議・調整の現場に立つことになる。

本事業ではこれを防ぐため、分析サポータチームを結成して事業推進に当たった。

●分析企画の精度・速度を上げるには先行研究の網羅が不可欠

本事業ではスケジュールの制約から、先行研究を最低限にしか行えなかった。データ利活用の先進

事例を参加者が速やかに参照できれば、議論を短縮できたのではないか。

データマイニングは、有形財の製品開発より、科学実験の手法考案や、無形財の制作管理に近い性

質を持つ業務である。適切な分析者が見つかり、データの利用目的に目途が立ち、分析手順が整理さ

れても、筋の良い分析企画シナリオがないと、各社内での稟議が通しづらい。勢い、・「車輪の再発明11」

が行われてしまうことさえある。社内体制が必ずしも整わない企業が分析企画の精度・速度を上げる

には、分析「手法」だけではなく、分析「企画」を参照できるコンテンツがあったほうがよい。

11 すでに広く普及している考え方や技術を使って、社会にとって新たな価値を生み出さないものを作ることを言った慣用句。他社の知的

財産権を侵害しないために、あえて古い技術を使わざるを得なかったり、自社内に技術蓄積を行うために、狙って行われたりもする。

Page 24: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 23

4.企業によるデータ利活用の情勢調査

4-1.要旨

分科会でのスムーズな企業マッチングや分析企画の精緻化を目指して、全2回のアンケートとヒア

リングを通じて、そもそも国内産業界ではデータ利活用にどういった意識を持っているのか調査した。

アンケートでは、データ利活用に関心のある企業担当者が、普段の業務ではどのようなデータをど

のように活用しており、自社・他社のデータの提供・連携についてどういった意識を持っており、何

に期待を抱き、どういった障壁にぶつかっているのかを調べた。ヒアリングでは、データ利活用に先

進的に取り組む企業が、社内でどういった工夫をして収益を上げているのか、何に課題を感じている

のか、国に対する要望は何があるかを調べた。

4-2.アンケートの実施手順

企業のデータ利活用状況や意向、国への要望を定量的に把握するためにWebアンケートを実施した。

日経ビッグデータ読者、ビッグデータラボ・メール登録者、日経ビジネスオンライン登録者を対象と

した。本事業中における、企業のデータ利活用意向の変化を見るために、2 回実施した。有効回答数

は1回目が584件、2回目が412件だった。

4-3.アンケート実施結果

4-3-1.実施結果の要旨

今回のアンケート調査から、我が国におけるデータ利活用機運は高まる一方で、実務現場で解決す

るべき課題の所在・性質も見えつつあると明らかになった。

●非・専門家が兼務・兼任で、定番ツールを使ってデータ分析を行っている

本調査の回答者は、中堅・大企業の「研究開発部門」とベンチャー・中小企業の「経営部門」の方

が多い。大企業・(従業員数5000人以上)の40.0%が分析専門部門を設けている一方で、中小企業・(同

99 人以下)では 10.9%と少ない。回答者の 81.8%が表計算ソフトでデータを活用しており、「統計解

析ツール」「BIツール」などの利用は20-30%ほどに留まった。情報収集に利用するメディアも、ポピ

ュラーな媒体(一般向け情報サイトや入門書、テレビ番組、新聞など)が多く、学術情報はあまり参

照されていない。

●業務でよく使うデータは収集・活用されやすく、データを保有する中小企業・ベンチャーは少ない

多くの企業は「社内業務で使うデータ」や「従来調査で使われるデータ」を自社で収集・活用して

いる。なかには社外から、「市場トレンドのデータ」や・「生活者の行動データ」を調達・・連携して活用

する企業もいる。大手企業と比べると、中小企業にはデータを保有している企業が少ない。

●データ流通の障壁は、契約処理や社内ルール作り、リスク懸念

回答者の約3人に2人が、自社データ提供の障壁は・「他社との契約処理」だと感じている。次いで、

Page 25: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 24

「社内のデータ整備」「社内ルール作り」が多い。また、回答者の約4人の1人が、社外のデータを利

活用する「必要を感じていない」。「適切な相手が見つからない」「プライバシー対応などリスク面へ

の懸念がある」ことを理由に社外データを利活用していない。

●国への要望は規制改革、データ公開・成功事例の普及、ガイドライン整備

国への要望は多岐に渡るが、とりわけ「新規事業の創造の妨げとなる規制の改革」「オープンデー

タの公開・整備」「パーソナルデータ保護の法律・整備」「企業内でのデータ分析人材の育成支援」な

どが期待されている。ただし、約3人に1人が、そもそも個人情報を・「今は扱っていない」か、「統計

手法で集計されたデータ」を扱うと答えた。短期的なデータ流通を促進するなら、「統計手法で集計さ

れたデータ」を取扱えばよい。個人情報保護法改正に係るガイドライン整備が行われれば、匿名加工

データの流通が促される可能性がある。

●分析・調査会社や、行政機関の仲介が期待される

業界別に見ると、「事業所向けサービス」と・「行政・・公共サービス」が、様々なデータで需要・・供給

ニーズを持っていることが窺える。分析・調査会社や、行政機関が仲介に入る(≒プラットフォーマ

として機能する)ことで、国内のデータ流通が促進されるのではないか。

●「製造・農業」は同業者、「消費剤・生活」は「金融・保険」「行政・公共」と好相性

「製造・化学・農林・水産・鉱業」業界では、同業同士で需要・供給ニーズがある点が指摘できる。

同業同士が相対でデータ交換・共有するのは難しいが、調査・分析企業や行政・公共機関が仲介に入

ると、スムーズに進むだろう。また、「消費財・生活サービス」業界は、「商業・金融・証券・保険・

その他士業」業界と相性がよい。・「消費財・・生活サービス」業界は・「行政・・公共サービス」業界とも相

性がよく、行政オープンデータの普及促進にも期待される。

●顧客データ活用は市場化しやすく、位置情報や端末データの供給は発展途上

データ種別で言えば、「顧客」や「販売」「企業」のデータは活用意向が高く、さらに供給者も多い

領域である。データ流通が進み、市場で活発に売買されれば、市場規模も大きくなる可能性がある。

「地図」「購買」「オンライン行動」データは、他データを分析する際の媒介として使いやすいデータ

だが、データの提供者や提供量が不足しているのか、活用意向が高いにもかかわらず、供給寡占度が

高い。結果として、データの稀少性が高くなる可能性がある。「移動と位置の情報」「メディアデータ」

「生活履歴データ」は、活用したい企業も提供できる企業もまだ少ない。ウェアラブル端末やスマー

トテレビ、スマートフォンなどで取得・蓄積できるデータであり、提供、活用企業ともに成長が期待

される。かたや「人事・財務」や「生産・物流」のデータは、活用意向・供給寡占度ともに低い。

●業務では「事業創出」「法務」「投資」「コンサルティング」に切実なデータ活用意向

「研究開発」「調査・・分析」「販売/マーケティング」「営業」には、すでにデータが活用されていると

思われる。よって・「全体」の・「関心」は高いが、「切実さ」はさほど高くない。その反面、データ活用

Page 26: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 25

を通じた・「商品開発」「新規事業の創出」を行いたいとの・「切実さ」と・「関心」がある。また、「関心」

を持つ人は少ないが、「コンサルティング」「投資・・出資」「法務」でデータ活用を進めたいとの・「切実

さ」は、他の業務に比べて高い。他方で、「生産」「人事・経理などの管理」「サポート」などバック

オフィス業務へデータを活用する意識は低い。

4-3-2.実施結果の詳細

●1.回答者の属性

本調査は様々な業界・業種の方からの回答を得た。大企業は電子・電気機器製造業が中心で、回答

者全体の 57.5%が、1995 年以降に設立された企業に所属している。中堅・大企業の「研究開発部門」

とベンチャー・中小企業の「経営部門」の方が多い。

●2.回答者のデータ分析環境・情報収集先

大企業の40.0%が分析専門部門を設けている一方で、中小企業では10.9%と少ない。回答者の81.8%

が表計算ソフトでデータを活用しており、「統計解析ツール」「BI ツール」などの利用は20-30%ほど

に留まった。情報収集に利用するメディアは、一般向け情報サイトや入門書、テレビ番組、新聞など

が多く、学術情報はあまり参照されていない。高度な分析環境は普及途上で、身近な情報源からデー

タ活用の知識を得ようとする意識があると窺える。

Q.あなたの勤務先には、データ分析専門部門がありますか。(単位「%」)

☞・大企業の40.0%が専門部門を設けている一方で、専門部門がある中小企業は10.9%と少ない。

10.9

18.8

30.3

40.0

84.1

77.6

69.7

58.5

5.1

3.6

1.5

1~9 9人

1 0 0~9 9 9人

1 0 0 0~4 9 9 9人

5 0 0 0人以上

(従

業員

数)

ある ない 無回答

Page 27: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 26

Q.あなたご自身がデータを利活用する場合、使っているソフト、ツールをお選びください。(単位・「%」)

☞・回答者の81.8%が表計算ソフトでデータを活用しているが、「統計解析ツール」「BIツール」などの利用は30%未満。

Q.あなたはビッグデータ関連情報を収集するために、どんな媒体を利用していますか。(複数回答)

☞・回答者が情報収集に利用するメディアは、ポピュラーな媒体(一般向け情報サイトや入門書、テレビ番組、新聞)な

どが多く、学術情報があまり参照されていない(媒体分類は脚注12)。

12 媒体分類は次の通り。■ポピュラー:一般ビジネス情報サイト、IT業界トレンド情報サイト、新聞、一般書籍、入門書、テレ

ビ番組、定期刊行誌、まとめサイト・掲示板、ラジオ放送・音声コンテンツ配信。■エンタープライズ:データ活用分野の専門情

報メディア、市場・経済トレンド情報サイト、白書、年鑑、調査報告書、教養書、技術専門書、データカタログサイト(レシピサ

イト)、開発者・技術者向けコミュニティサイト、ポータル等、Webスクール。■ビジネス:専門家が個人や有志で運営するメデ

ィア、企業のサービス資料、パンフレット、講演資料、研修資料、企業による公式発表、知人・友人、協力会社などに確かめる、

適時開示情報閲覧サービス。■アカデミズム:論文、学会誌、オンライン学習サービス(MOOC)

81.8

31.8

28.6

19.9

17.0

7.7

2.2

表計算ソフト

データベース・ソフト

統計解析ツール

BIツール

自社開発したツール

特に使っていない

その他

237.6

122.9

56.5

19.5

0 50 100 150 200 250

ポピュラー

エンタープライズ

ビジネス

アカデミズム

Page 28: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 27

●3.データ連携へ寄せる関心・意向

自社データを社外提供・・連携する企業が増えていることを・「よく知っていた」企業は、大手で42.3%、

中小で26.8%と企業規模で差がつく。もっとも、7月・(前期アンケート実施)から12月・(後期アンケ

ート実施)の間に、データ利活用機運は6.2pt高まっている。

回答者の手応えを見ると、「データ基盤などインフラの充実」や「経営者の意識、理解」の進捗は

Positive・(「大きく前進している」または・「多少前進している」)が相対的に高く、データ活用へ一歩を

踏み出した印象がある一方、「プロジェクトへの予算配分・案件受注」「人材・組織の育成」などは

Negative(「あまり前進していない」または「前進していない」)が多く、実践段階では障壁が残る。

○3-1.データ連携への認知

Q.自社のデータを、他社など社外の企業・組織に提供したり、データ連携したりする企業が増えて

いることをご存じでしたか。

☞・自社データを社外提供・連携する企業が増えていることを「よく知っていた」企業は、大手で42.3%、中小で26.8%

と企業規模で差がつく。

○3-2.データ連携への期待、意向

Q.今後、機会があれば社外データを利活用したいとお考えですか

☞・7月・(前期アンケート実施)から12月・(後期アンケート実施)の間に、データ利活用機運は6.2pt高まっている。(「利

活用したいと思い準備している」と「機会があれば利活用したいと思う」の合計)

26.8

32.7

35.6

42.3

50.0

52.1

55.3

44.6

22.5

14.5

9.1

13.1

1~9 9人

1 0 0~9 9 9人

1 0 0 0~4 9 9 9人

5 0 0 0人以上

(従

業員

数)

具体的な事例も含めてよく知っていた なんとなく知っていた 知らなかった

7.0

5.2

51.3

59.3

9.7

8.2

23.2

19.1

8.7

8.2

(前)全 体

(後)全 体

利活用したいと思い準備をしている 機会があれば利活用したいと思う

利活用したいとは思わない わからない

無回答

Page 29: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 28

○3-3.現場の手応え

Q.あなたの勤務先のデータ活用は、1年前と比べて前進しているという手応えはありますか。

☞・「データ基盤などインフラの充実」や「経営者の意識、理解」の進捗はPositive(「大きく前進している」または「多

少前進している」)が相対的に高くデータ活用へ一歩を踏み出した印象がある一方、「プロジェクトへの予算配分・案件

受注」「人材・組織の育成」などはNegative(「あまり前進していない」または「前進していない」)が多く、実践段階で

は障壁が残る。

●4.データ提供・調達の経験

回答者の4人に3人はデータを買ったことがある。一方で、データを売ったことがある回答者は4

人に1人。データ売買の価格感は、「自社データの提供」「社外データの購入」ともに・「10万円から100

万円未満」の割合がもっとも高い。なかには社外から、「市場トレンドのデータ」や・「生活者の行動デ

ータ」を調達・連携して活用する企業もいるが、多くの企業は「社内業務で使うデータ」や「従来調

査で使われるデータ」を自社で収集・活用している。大手企業(従業員数5000 人以上)と比べると、

中小企業(同99人以下)にはデータを保有している企業が少ない。

○4-1.購入・販売経験

Q.あなたは社外のデータを購入して利活用した経験はありますか。あなたの会社・部署では、これ

まで自社のデータを社外の企業・組織に提供・連携した経験はありますか。

☞・「購入経験」は76.9%に達するが、「自社データの提供・連携経験」は26.5%にとどまる。

31.7

26.3

23.3

20.8

19.7

19.5

16.0

32.4

37.1

33.7

37.8

38.5

39.6

37.8

36.0

36.6

43.0

41.4

41.9

40.9

46.2

データ基盤や活用ツール、分析環境、セキュリティなどインフラの充実

経営者の意識、理解

データ活用の分析や企画を行う人材・組織の育成

生産・販売・管理など社内の業務改善

企業ポリシーや社内規則、稟議フローなどルールの整備

新規事業や新商品、新施策などの創造

データ活用プロジェクトへの予算配分・案件受注

Positive Neutral Negative

76.9

26.5

20.2

71.8

2.8

1.7

購入経験

提供・連携経験

ある ない 無回答

Page 30: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 29

Q.将来、自社のデータを社外に提供・連携するとしたら、どれくらいの価格でなら提供・連携でき

るとお考えですか。また、どれくらいの価格であれば、社外のデータを購入したいとお考えですか。

☞・・「自社データの提供」「社外データの購入」ともに・「わからない」が最多で、・「10万円から100万円未満」の割合が続

いて高い。

○4-1.保有する/提供できるデータ

▼保有するデータの有無(平均チェック数)

Q.自社で収集したデータ(社外から調達していないデータ)として、どのようなものを保有してい

ますか。社外から調達・連携したデータとして、どのようなものを保有していますか。

☞・自社・他社データを保有していると回答した企業は、大手(従業員数5000人以上)で自社:他社=8.9%:2.1%、中

小(同99人以下)で自社:他社=5.1%:1.3%と企業規模で差がつく。

6.8

10.6

4.6

12.3

12.7

19.5

8.2

6.5

2.2

1.0

8.0

1.5

52.6

42.8

4.8

5.7

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

(提

供)

(購

入)

無料 10万円未満 10万円から100万円未満

100万円から1000万円未満 1000万円以上 どんな価格であれ提供・購入できない

わからない 無回答

5.1

8.3

8.5

8.9

1.3

1.6

1.6

2.1

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0

1~99人

100~999人

1000~4999人

5000人以上

(従業員数)

他社データ保有 自社データ保有

Page 31: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 30

▼保有するデータ種別(回答数全体に占める割合)

Q.自社で収集したデータ(社外から調達していないデータ)として、どのようなものを保有してい

ますか。社外から調達・連携したデータとして、どのようなものを保有していますか。

☞・自社で収集したデータには、「社内業務に使うデータ」や「従来調査で使われるデータ」、「市場トレンドのデータ」

が多い。社外から調達・連携したデータでは、「自社顧客属性情報」「アンケート調査データ」「企業情報・信用情報・IR

情報」「各種統計データ」が比較的よく使われている。

●5.現場の障壁と国への期待

少なくとも4人に1人以上の回答者が、「社内ルールの整備」「他社との契約処理」「安全なデータ共

有」「権利処理」を障壁だと感じている。また、回答者の4人に1人が社外のデータを利活用する・「必

要性がない」と答える。さらに、「適切な相手が見つからない」「プライバシー対応などリスク面への

懸念がある」ことを理由に社外データを利活用していないとの回答が多い。

国への要望は多岐に渡るが、とりわけ「新規事業の創造の妨げとなる規制の改革」「オープンデー

タの公開・整備」「パーソナルデータ保護の法律・整備」「企業内でのデータ分析人材の育成支援」な

どが期待されている。

ただし、約3人に1人が、そもそも個人情報を・「今は扱っていない」か、「統計手法で集計されたデ

ータ」を扱うと答えた。非識別・・非特定化したデータを扱うと答えたのは、約10~12人に1人にとど

まる。つまり、短期的なデータ流通を促進するなら、まずは「統計手法で集計されたデータ」の利用

を促したほうがよい。今後、個人情報保護法改正に係るガイドライン整備が行われれば、匿名加工デ

ータの流通が促される可能性がある。

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

購買・売上データ

社内人事データ

受発注データ

社内経理・財務データ

社内労務データ

自社顧客属性情報

生産・物流・在庫データ

顧客対応履歴データ

アンケート調査データ

WEBサイト関連データ

企業情報・信用情報・IR情報

稼働状況・故障データ

知財データ

各種統計データ

顧客の行動履歴データ(販売の状況を…

消費者・生活者データ

ソーシャルメディアデータ

健康・医療・レセプトデータ

工員・オペレーターの行動データ(労…

POSデータ

地図データ

メディア接触データ

気象データ

上記以外の社内データ

テレビメタデータ

空間・人流データ

シングルソースパネルデータ

交通プローブデータ

上記以外のセンサーデータ

上記以外のオープンデータ

無回答

自動販売機データ

社内で業務に使う

データ

従来調査で使われる

データ

市場トレンドの

データ

生活者の行動データ メディアやエリアに関す

るデータ

その他マッシュアップ

データやオープンデータ

自社で収集したデータ 社外から調達・連携したデータ

Page 32: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 31

○5-1.障壁・意向

Q.自社のデータを社外に提供・連携する上で障壁になることは何だと思いますか。(単位「%」)

☞・少なくとも4 人に1 人以上の回答者が、「社内ルールの整備」「他社との契約処理」「安全なデータ共有」「権利処理」

「データ管理・保守方針」を障壁だと感じている。

Q.社外データを利活用しない理由をお聞かせください。(単位「%」)

☞・回答者の約4人に1人が社外のデータを利活用する「必要性がない」と答える。また、「適切な相手が見つからない」

「プライバシー対応などリスク面への懸念がある」ことを理由に社外データを利活用していない。

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0

社内ルールの整備

自社・他社のデータ取扱いポリシーなど契約処理

安全なデータ交換・共有のためのシステム構築

データベースの著作権・知的財産権

提供先・提供元のデータ管理・保守方針

データの量や種類、頻度

社内データの整備

国内外の法制度上の制限

データ提供による収益見込みの試算

社外で価値あるデータの発見

消費者との信頼形成・同意取得

外部へ提供可能な形式へのデータ加工

社内の人材育成や体制構築

わからない

社外へのデータ提供で成功した事例・ノウハウの情報

その他

無回答

26.8

20.1

18.8

18.1

17.4

14.8

13.1

9.4

1.0

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0

必要性がない

適切な相手が見つからない

プライバシー対応などリスク面への懸念がある

利活用するアイデアがない

予算がない

投資対効果が試算できない

利活用する人材がいない

購入する場所、金額がわからない

その他

Page 33: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 32

○5-2.国への期待

Q.あなたがビッグデータ活用の推進において、国に期待することは何ですか。(単位「%」)

☞・要望は多岐に渡るが、とりわけ・「新規事業の創造の妨げとなる規制の改革」「オープンデータの公開・整備」「パーソ

ナルデータ保護の法律・整備」「企業内でのデータ分析人材の育成支援」などが期待されている。

○5-3.パーソナルデータの取扱い

Q.あなたが社外のデータを利活用する場合、個人情報に関係するどのようなデータを扱うことがあ

りますか。(単位「%」)

☞・約3人に1人が、「統計手法で集計されたデータ」を扱うか、そもそも・「今は扱っていない」と答えた。非識別・・非特

定化したデータを扱うと答えたのは、約10~12人に1人にとどまる。

43.7

42.2

38.6

37.4

35.9

32.5

32.5

31.3

31.1

28.6

28.2

26.7

25.7

25.2

24.8

18.7

新規事業の創造の妨げとなる規制の改革

企業や自治体によるオープンデータの公開・整備

パーソナルデータ保護の法律整備

パーソナルデータ保護の具体的なガイドラインの整備

企業内でのデータ分析人材の育成支援

データ活用を進めたい企業同士のマッチングの場の提供

ベンチャー企業や研究機関が持つ技術、研究成果の活用促進

IoT, 機械学習, HCIなど新しい技術の標準化

企業による開発・実証実験プロジェクトの企画・推進支援

IoT, 機械学習, HCIなど新しい技術の開発・実証実験プロ…

新事業を始めるに当たっての資金援助

活用事例やベストプラクティスの収集・周知

連携を進めたい組織間の仲介・コーディネート

大学や研究機関でのデータ分析人材の育成支援

企業と大学の人材交流の支援

企業間でのデータ交換における契約書のひな形公開

34.6

31.8

15.8

14.0

13.0

13.0

11.6

8.2

今は使っていない

統計手法で集計されたデータ

無加工のデータ

匿名加工したデータ

氏名や住所等を削除した仮名データ

データから得られる知見だけ

匿名加工し、名寄せリスクを下げたデータ

匿名加工と名寄せリスク低減を行い、編集・撹乱・擬似化などを施したデータ

Page 34: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 33

4-4.データ利活用ポテンシャル分類マップ

アンケート結果からデータ利活用が進みそうな業種・業務、ニーズが高まりそうなデータ種類、デ

ータ提供が盛んになりそうなデータ種別と業種を整理・分析した。

○やはり事業所向けサービス業界に、社外データの活用意向が高い

まず、どの業種とどの業種を“チーム結成”させればデータ流通が進みやすいか探るべく、「活用した

い社外のデータ」と「提供できる自社のデータ」を業種別に集計した(下図)。

データ種類ごとに、回答率が高い業界の1位、2位を塗り分けると、「4.事業所向けサービス」業界

が、多くのデータを・「活用したい社外のデータ」だと見ていると分かる。また、「提供できる社内のデ

ータ」が多い業界は、「2.消費財・生活サービス」「6.行政・公共サービス」業界だと分かる。

素朴に読めば、「分析・・調査を行う企業は、生活サービス事業者や行政・・公共機関からデータを提供

して欲しい」との傾向がみられる。分析・調査会社や、行政機関が仲介に入る(≒プラットフォーマ

として機能する)ことで、国内のデータ流通が促進されるのではないかとの仮説が成り立つ。

1.製造・

化学・農

林・水産・

鉱業

2.消費

財・生活

サービス

(飲食業、

観光・レ

ジャー、建

設・不動

産、医療、

化学・医薬

品)

3.電子・

電気機器

4.事業所

向けサービ

ス(情報・

広告、調

査、リース

など)

5.商業

(商社・

卸・小

売)・金

融・証券・

保険・その

他士業

6.行政・

公共サービ

ス(官公

庁、公的団

体、教育機

関、運輸・

通信、電

力・ガス・

水道など)

7.その他 全体 全体 1.製造・

化学・農

林・水産・

鉱業

2.消費

財・生活

サービス

(飲食業、

観光・レ

ジャー、建

設・不動

産、医療、

化学・医薬

品)

3.電子・

電気機器

4.事業所

向けサービ

ス(情報・

広告、調

査、リース

など)

5.商業

(商社・

卸・小

売)・金

融・証券・

保険・その

他士業

6.行政・

公共サービ

ス(官公

庁、公的団

体、教育機

関、運輸・

通信、電

力・ガス・

水道など)

7.その他

90 101 97 115 71 71 39 584 584 90 101 97 115 71 71 39

21.1 30.7 22.7 39.1 28.2 32.4 35.9 29.8 1 アンケート調査データ 1 18.5 13.3 16.8 17.5 22.6 22.5 16.9 20.5

21.1 26.7 19.6 34.8 28.2 18.3 33.3 25.9 2 顧客属性情報 3 12.0 6.7 16.8 6.2 14.8 15.5 11.3 12.8

18.9 18.8 17.5 25.2 32.4 26.8 23.1 22.8 3 各種統計データ 4 8.7 6.7 4.0 12.4 6.1 11.3 15.5 7.7

17.8 29.7 9.3 28.7 22.5 21.1 12.8 21.2 4 消費者・生活者データ 8 7.4 5.6 10.9 5.2 10.4 4.2 7 5.1

16.7 24.8 16.5 21.7 26.8 12.7 25.6 20.4 5 購買・売上データ 2 12.3 11.1 14.9 7.2 9.6 25.4 7.0 15.4

13.3 16.8 9.3 28.7 16.9 11.3 25.6 17.3 6 WEBサイト関連データ 9 7.0 1.1 9.9 6.2 11.3 7 2.8 10.3

15.6 15.8 5.2 22.6 15.5 19.7 25.6 16.4 7 地図データ 20 3.1 2.2 1.0 0.0 2.6 1.4 11.3 7.7

13.3 15.8 8.2 23.5 21.1 15.5 15.4 16.3 8 顧客対応履歴データ 5 8.2 5.6 9.9 3.1 8.7 12.7 8.5 12.8

12.2 9.9 13.4 24.3 16.9 14.1 23.1 15.9 9 顧客の行動履歴データ 13 5.3 4.4 7.9 3.1 4.3 7.0 1.4 12.8

12.2 18.8 10.3 19.1 14.1 12.7 25.6 15.6 10 受発注データ 5 8.2 5.6 10.9 5.2 6.1 14.1 4.2 17.9

8.9 14.9 6.2 26.1 22.5 8.5 23.1 15.4 11 POSデータ 20 3.1 3.3 4.0 1.0 2.6 8.5 1.4 0.0

11.1 10.9 7.2 30.4 12.7 8.5 20.5 14.7 12 ソーシャルメディアデータ 19 3.3 2.2 4.0 2.1 7.0 0.0 2.8 2.6

13.3 15.8 16.5 8.7 16.9 18.3 10.3 14.2 13 知財データ 12 5.5 6.7 7.9 7.2 2.6 1.4 8.5 2.6

14.4 8.9 14.4 19.1 14.1 12.7 10.3 13.9 14 企業情報・信用情報・IR情報 15 5.1 5.6 5.9 9.3 3.5 2.8 2.8 5.1

17.8 15.8 13.4 13.0 9.9 9.9 15.4 13.7 15 生産・物流・在庫データ 7 7.9 13.3 6.9 8.2 2.6 12.7 4.2 10.3

13.3 9.9 7.2 18.3 12.7 14.1 20.5 13.2 16 顧客データ 17 3.9 2.2 5.9 1.0 2.6 5.6 4.2 10.3

12.2 11.9 6.2 15.7 9.9 9.9 20.5 11.8 17 空間・人流データ 26 2.1 1.1 4.0 2.1 0.9 0.0 4.2 2.6

16.7 11.9 4.1 15.7 7.0 8.5 10.3 11.0 18 気象データ 31 1.4 2.2 0.0 0.0 0.0 1.4 7.0 0.0

15.6 6.9 10.3 13.0 5.6 9.9 15.4 10.8 19 稼働状況・故障データ 10 6.0 10.0 5.9 7.2 3.5 2.8 5.6 7.7

7.8 12.9 8.2 13.0 5.6 12.7 12.8 10.4 20 健康・医療・レセプトデータ 23 2.7 2.2 3.0 4.1 0.9 1.4 4.2 5.1

6.7 10.9 4.1 20.9 7.0 7.0 10.3 10.1 21 メディア接触データ 25 2.2 1.1 4.0 1.0 2.6 0.0 4.2 2.6

7.8 7.9 3.1 16.5 7.0 8.5 10.3 8.9 22 人事データ 11 5.7 4.4 5.9 2.1 11.3 4.2 5.6 2.6

11.1 5.9 5.2 12.2 2.8 9.9 15.4 8.6 23 交通プローブデータ 28 1.7 1.1 2.0 1.0 1.7 0.0 2.8 5.1

5.6 11.9 3.1 10.4 11.3 9.9 7.7 8.6 23 上記以外のオープンデータ 20 3.1 2.2 3.0 4.1 1.7 2.8 5.6 2.6

8.9 8.9 3.1 9.6 8.5 9.9 5.1 7.9 25 経理・財務データ 13 5.3 2.2 4.0 5.2 5.2 8.5 9.9 2.6

4.4 8.9 2.1 15.7 7.0 4.2 10.3 7.7 26 テレビメタデータ 28 1.7 0.0 3.0 2.1 4.3 0.0 0.0 0.0

11.1 5.9 6.2 10.4 4.2 5.6 7.7 7.5 27 上記以外のセンサーデータ 24 2.4 5.6 2.0 2.1 0.9 1.4 2.8 2.6

11.1 5.9 8.2 7.0 4.2 4.2 7.7 7.0 28 工員・オペレーターの行動データ 18 3.6 5.6 4.0 3.1 1.7 2.8 4.2 5.1

7.8 8.9 2.1 11.3 4.2 4.2 5.1 6.7 29 労務データ 16 4.3 2.2 4.0 2.1 7.8 4.2 4.2 5.1

3.3 6.9 1.0 13.9 2.8 1.4 5.1 5.5 30 シングルソースパネルデータ 28 1.7 1.1 2.0 0.0 3.5 1.4 2.8 0.0

4.4 5.9 4.1 7.8 2.8 2.8 5.1 5.0 31 自動販売機データ 32 0.9 2.2 2.0 0.0 0.0 0.0 1.4 0.0

1.1 3.0 2.1 6.1 4.2 2.8 7.7 3.6 32 上記以外のデータ 27 1.9 1.1 3.0 3.1 0.0 1.4 1.4 5.1

1.製造・

化学・農

林・水産・

鉱業

2.消費

財・生活

サービス

(飲食業、

観光・レ

ジャー、建

設・不動

産、医療、

化学・医薬

品)

3.電子・

電気機器

4.事業所

向けサービ

ス(情報・

広告、調

査、リース

など)

5.商業

(商社・

卸・小

売)・金

融・証券・

保険・その

他士業

6.行政・

公共サービ

ス(官公

庁、公的団

体、教育機

関、運輸・

通信、電

力・ガス・

水道など)

7.その他 全体

データ種別

全体 1.製造・

化学・農

林・水産・

鉱業

2.消費

財・生活

サービス

(飲食業、

観光・レ

ジャー、建

設・不動

産、医療、

化学・医薬

品)

3.電子・

電気機器

4.事業所

向けサービ

ス(情報・

広告、調

査、リース

など)

5.商業

(商社・

卸・小

売)・金

融・証券・

保険・その

他士業

6.行政・

公共サービ

ス(官公

庁、公的団

体、教育機

関、運輸・

通信、電

力・ガス・

水道など)

7.その他

活用したい社外のデータ 提供できる自社のデータ

活用可

の順位

提供可

の順位データ種別

Page 35: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 34

○「製造・農業」は同業者、「消費剤・生活」は「金融・保険」「行政・公共」と好相性

それでは、異業種連携の視点で、どの業界とどの業界を“連携”させれば、データ流通が促しやすい

か。需要・供給ニーズの合う業種・業界はカップリングが成功しやすいと想定して、そのパターンを

整理した。ただし、ほとんどのデータで・「活用したい」との回答が多かった・「4.事業所向けサービス」

業界は、仲介者に立つべきと見なして集計から除外している(下図)。

例えば、「生産・物流・在庫データ」「稼働状況・故障データ」「工員・オペレーターの行動データ」

は、「製造・・化学・・農林・・水産・・鉱業」業界内で需給ニーズが成り立っている。言い換えれば、「Industrie4.0」

や「スマート農業」の領域では、同業同士でデータを交換・共有できる仕組みを作れると、データ利

活用が広がる可能性が高まるだろう。

同業同士が相対でデータ交換・・共有するのは難しいが、調査・・分析企業や行政機関が仲介に入ると、

スムーズに進む。本調査のヒアリング先の中では、ID-POS を食品スーパーから収集するアイディー

ズや、診療の統一規格データを病院から集めるメディカル・データ・ビジョンは、利用企業に競合他

社の動向を統計値で返す。その結果、利用企業は自社の強みと弱みを理解し、経営改善につなげられ

る。こうした取り組みはヒントになるだろう。

また、・「消費財・・生活サービス」業界が・「提供できる」と答えたデータは、顧客・・生活者に関するデ

そのデータを提供できる業界1位 データの種類 そのデータが欲しい業界1位 連携種別

自動販売機データ 2.消費財・生活サービス 異業種

上記以外のセンサーデータ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 同業種

工員・オペレーターの行動データ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 同業種

稼働状況・故障データ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 同業種

生産・物流・在庫データ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 同業種

ソーシャルメディアデータ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

テレビメタデータ 2.消費財・生活サービス 同業種

消費者・生活者データ 2.消費財・生活サービス 同業種

顧客データ 6.行政・公共サービス 異業種

顧客の行動履歴データ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

WEBサイト関連データ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

顧客属性情報 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

人事データ 6.行政・公共サービス 異業種

企業情報・信用情報・IR情報 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 異業種

上記以外のデータ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

POSデータ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 同業種

労務データ 2.消費財・生活サービス 異業種

顧客対応履歴データ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 同業種

アンケート調査データ 6.行政・公共サービス 異業種

受発注データ 2.消費財・生活サービス 異業種

購買・売上データ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 同業種

交通プローブデータ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 異業種

健康・医療・レセプトデータ 2.消費財・生活サービス 異業種

空間・人流データ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 異業種

メディア接触データ 2.消費財・生活サービス 異業種

シングルソースパネルデータ 2.消費財・生活サービス 異業種

気象データ 1.製造・化学・農林・水産・鉱業 異業種

知財データ 6.行政・公共サービス 同業種

上記以外のオープンデータ 2.消費財・生活サービス 異業種

各種統計データ 5.商業・金融・証券・保険・その他士業 異業種

地図データ 6.行政・公共サービス 同業種

経理・財務データ 6.行政・公共サービス 同業種

1.製造・化学・農林・水産・鉱業

2.消費財・生活サービス

3.電子・電気機器

5.商業・金融・証券・保険・その他士業

6.行政・公共サービス

Page 36: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 35

ータが多く、異業種では「商業・金融・証券・保険・その他士業」業界が「活用したい」と答えてい

る。業界・組織を越えた顧客・生活者データの流通市場は、潜在ポテンシャルがあると思われる。

さらに・「行政・・公共サービス」業界が、言わゆるセンシティブ情報に類するデータ・(「健康・・医療・

レセプトデータ」「空間・人流データ」「シングルソースパネルデータ」など)や、行政オープンデー

タ(「気象データ」「地図データ」「各種統計データ」「知財データ」など)を「提供できる」と答えて

いる。これらデータの普及促進にも期待される。

○顧客データ活用は市場化しやすく、位置情報や端末データの供給は発展途上

これを踏まえて、具体的にどのデータは活用意向が高いのか、そして、そのニーズに見合うデータ

提供者はいるのかを分析したい。下図の通り、「提供できるデータ」と・「活用したいデータ」の比率を

散布図で示した。横軸の数値は、「活用したいデータ」の回答者数を比率にしたもの。縦軸の数値は、

データ種類ごとに「活用したいデータ」の回答者数を「提供できるデータ」の回答者数で割って指数

化したものである。後者をここでは「供給寡占度」と名付ける。

供給寡占度の平均は300%、活用意向の平均は13.3%でその値に目盛り線を引き4象限に分けた。

300%より上は提供者不足、13.3%より右は活用意向が相対的に高いと見なす。

つまり、散布図の上に行くほど、活用したい企業に見合った数の提供者がいないことを示す。右に

行くほど、活用意向が高いか、すでに活用が進んでいることを示す。

象限別に見ると、右下には、顧客データ(アンケート調査、顧客属性情報、消費者・生活者)や、

販売データ・(購買・・売上、受発注、顧客対応履歴、WEBサイト関連)、産業トレンド情報・(企業情報・

信用情報・・IR情報、知財、各種統計)などが位置した。活用意向は高く、さらに供給者も多い領域で、

需給ニーズが合致しており、市場が成立しやすいと思われる。データ流通が進み、市場で活発に売買

されれば、市場規模も大きくなる可能性がある。

Page 37: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 36

また、地図データ、POSデータ、ソーシャルメディアデータ、顧客の行動履歴が、右上の象限に位

置している。いずれも、他データを分析する際の媒介として使いやすいデータだが、データの提供者

や提供量が不足しているのか、活用意向が高いにもかかわらず、供給寡占度が高い。結果として、デ

ータの稀少性が高くなる可能性がある。

左上の象限に位置する、移動と位置の情報(気象、空間・人流、交通プローブ)、メディアデータ

(テレビメタ、メディア接触)、行動履歴データ・(健康・・医療・・レセプト、シングルソースパネル、顧

客データ)などは、活用したい企業も提供できる企業もまだ少ない。ウェアラブル端末やスマートテ

レビ、スマートフォンなどで取得・蓄積できるデータで、提供、活用企業ともに成長が期待される。

人事・財務データ(人事、経理・財務、労務)や、生産・物流データ(生産・物流・在庫、稼働状

況・故障、工員・オペレーターの行動)などは、左下の象限に位置していて、活用意向・供給寡占度

ともに低い。活用したい企業も提供できる企業もまだ少ないため、活用手法が確立していないか、自

社内に閉じて活用されているのではないか。

○業務では「事業創出」「法務」「投資」「コンサルティング」に切実なデータ活用意向

最後に、今後、どの業種のどの業務でデータ利活用が進むかを探るために、「データを利活用して

どのような業務を行っているか」の設問から、「現在、活用」と・「今後、活用」の2項目で得た2つの

回答を掛け合わせた(下図)。母数は回答数全体(n=588)である。

分析には2つの指標を採用した。まず表中の比率・(%)は、「今後、活用したい」と答えた方の割合

である。業界・・業務ごとの・「今後、データを活用したい業務は何か」が分かる。本報告書では・「関心」

と呼ぶ。例えば「全体」でみると、「販売/マーケティング」「調査・分析」「新規事業の創出」「商品

開発」「営業」などの業種で、「関心」が20%以上と比較的高い。

次に倍率(倍)は、「今後、活用」÷「現在、活用」の比率である。倍率の高い業種は、「いまは活

用できていないが、今後はデータを活用したい」との意向が高いと見なせる(1.2倍以上:太字)。本

総 数

研究開発

新規事業の

創出

商品開発

生産

販売/マー

ケティ

ング

営業

サポー

人事・経理

などの管理

調査・分析

コンサル

ティ

ング

投資・出資

法務

その他

無回答

100.0% 19.5% 26.7% 22.3% 8.6% 31.5% 20.9% 11.3% 11.1% 31.5% 15.1% 6.0% 3.8% 6.0% 19.0%

- 1.1倍 1.4倍 1.2倍 0.8倍 1倍 0.9倍 0.8倍 0.7倍 0.9倍 1.2倍 1.4倍 1倍 0.8倍 1.7倍

15.4% 3.6% 3.8% 4.5% 3.1% 4.3% 3.1% 3.1% 2.2% 4.3% 1.2% 1.2% 0.5% 1.0% 3.3%

- 1.1倍 1.6倍 1.4倍 0.8倍 1.1倍 0.9倍 1倍 0.8倍 0.9倍 0.8倍 1.8倍 1.5倍 0.7倍 1.6倍

17.3% 3.4% 3.9% 3.1% 2.1% 4.1% 4.3% 1.2% 2.7% 4.5% 1.4% 0.5% 0.9% 0.9% 3.3%

- 1.1倍 1.9倍 1.1倍 0.8倍 0.8倍 1倍 0.9倍 0.8倍 0.9倍 1倍 1.5倍 1.7倍 0.7倍 1.5倍

16.6% 4.8% 5.0% 4.1% 1.9% 5.1% 2.1% 1.5% 0.9% 5.0% 1.2% 1.4% 0.5% 0.9% 3.1%

- 1.1倍 1.4倍 0.9倍 0.7倍 1倍 0.9倍 0.8倍 0.7倍 0.9倍 2.3倍 1.6倍 0.8倍 0.7倍 1.8倍

19.7% 2.7% 6.0% 4.6% 0.5% 7.9% 4.3% 2.2% 2.1% 5.8% 5.5% 0.5% 0.7% 0.9% 4.1%

- 0.8倍 1.3倍 1.6倍 0.6倍 1倍 0.9倍 0.8倍 0.7倍 0.8倍 1.1倍 1倍 1倍 1.3倍 1.8倍

12.2% 0.7% 2.6% 2.1% 0.3% 5.1% 3.1% 1.4% 0.9% 4.6% 1.7% 1.2% 0.3% 0.7% 2.2%

- 2倍 1.5倍 1.5倍 0.7倍 1.1倍 0.9倍 0.7倍 0.4倍 0.9倍 2倍 1.8倍 0.5倍 1倍 2.2倍

12.2% 3.3% 3.3% 2.1% 0.3% 3.1% 2.4% 1.4% 1.7% 5.1% 2.9% 1.2% 0.7% 1.4% 2.1%

- 1.2倍 1.3倍 1.1倍 1倍 1.3倍 0.8倍 0.7倍 0.6倍 1.2倍 1.3倍 1.2倍 1.3倍 0.7倍 1.5倍

6.7% 1.0% 2.2% 1.9% 0.3% 1.9% 1.7% 0.5% 0.7% 2.2% 1.2% 0.0% 0.2% 0.3% 1.0%

1倍 1倍 1.3倍 1.2倍 1倍 0.8倍 0.8倍 1倍 0.6倍 0.8倍 1.2倍 0倍 0.5倍 1倍 1.2倍

5.商業(商社・卸・小売)・金融・証券・保険・その他士業

6.行政・公共サービス(官公庁、公的団体、教育機関、運輸・通信、電力・ガス・水道な

ど)

7.その他

全 体

1.製造・化学・農林・水産・鉱業

2.消費財・生活サービス(飲食業、観光・レジャー、建設・不動産、医療、化学・医薬品)

3.電子・電気機器

4.事業所向けサービス(情報・広告、調査、リースなど)

③④ ④

Page 38: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 37

報告書では・「切実さ」と呼ぶ。例えば・「全体」でみると、「新規事業の創出」「商品開発」「コンサルテ

ィング」「投資・出資」などの業種では、「切実さ」が1.2倍以上と高い。

他にも以下の傾向が読みとれる。

① 「新規事業の創出」「商品開発」は、「関心」も「切実さ」も概ね高い。

② 「調査・・分析」「研究開発」は、「関心」は高いが・「切実さ」は高くない・(「6.行政・・公共サービス」

では例外的に高い)。

③ 「投資・出資」「法務」は、「関心」は低いが、「切実さ」が高い(「4.事業所向けサービス」を除

いて)。

④ 「生産」「人事・総務などの管理」「サポート」は、「関心」も「切実さ」も低い。

⑤ 「研究開発」「販売・マーケティング」「調査分析」は、すでに当然にデータを活用する業務だか

らか、「関心」は高いが、「切実さ」は低い。

以上を踏まえると、大まかな傾向として、次のことが言えるだろう。「研究開発」「調査・・分析」「販

売/マーケティング」「営業」には、すでにデータが活用されていると思われる。よって・「全体」の・「関

心」は高いが、「切実さ」はさほど高くない。その反面、データ活用を通じた「商品開発」「新規事業

の創出」を行いたいとの「切実」な「関心」がある。また、「関心」を持つ人は少ないが、「コンサル

ティング」「投資・・出資」「法務」でデータ活用を進めたいとの・「切実さ」は、他の業務に比べて高い。

他方で、「生産」「人事・・経理などの管理」「サポート」などバックオフィス業務へデータを活用する意

識は低い。

Page 39: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 38

4-5.ヒアリングの実施手順

●ヒアリングの目的、想定設問、実施内容

目的:

データ利活用に積極的なベンチャー企業、大手企業の新規事業部門に、活用戦略や活用施策を尋ねる

ことで、他の企業でも応用できるデータ利活用推進策を探る。また、活用を進める上での課題や国へ

の要望を集約する。

質問項目:

「企業・事業概要」「データ活用の内容」「収益への貢献」「人材育成法」「課題」「国への要望」など

を、各企業のデータ利活用の進展状況等に応じて尋ねた。

実施内容:

2015年10月5日~12月24日に合計18社を訪ね、ヒアリングをした。

●ヒアリング対象者(社名五十音順)

株式会社HAROiD 安藤聖泰(代表取締役社長)

株式会社 JSOL 小寺 俊一(金融・公共ビジネス事業部第一ビジネスグループ 部長)

株式会社アイディーズ 山川朝賢(社長)

アクシオムジャパン株式会社 工藤光顕(シニアプロジェクトマネージャー)

インフォメティス株式会社 只野太郎(代表取締役社長)

ウエルネスデータ株式会社 星野栄輔(代表取締役)

ウォーターセル株式会社 長井啓友(代表取締役)

株式会社うるる 渡邉貴彦(第2事業本部 NJSS事業部 部長 兼 特販営業プロジェクトリーダー)

株式会社おたに 小谷祐一朗(代表取締役/CEO)

クックパッド株式会社 中村耕史(トレンド調査ラボ)

株式会社ジェイアイエヌ 井上一鷹(JINS MEMEグループ リーダー)

株式会社ダブルスタンダード 中島正三(取締役ファウンダー)

株式会社帝国データバンク 北村慎也(顧客サービス統括部先端データ分析サービス課 課長)

株式会社ナイトレイ 石川 豊(社長)

株式会社ナビタイムジャパン 大西 啓介(社長)

株式会社マネーフォワード 辻庸介(代表取締役社長/CEO)

メディカル・データ・ビジョン株式会社 福島常浩(取締役副社長)

株式会社リクルートジョブズ 板澤一樹(デジタルマーケティング部 部長)

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■ヒアリング対象企業が活用しているデータ

参考に、ヒアリング対象の企業名を、先ほど作った散布図に表記した(下図)。

アクシオム、帝国データバンク、リクルート等は、すでに需給ニーズがある業域で、データ利活用

を進めている企業である。アイディーズ、おたに、マネーフォワード、クックパッドは、市場が興り

つつある業域で、データ利活用に取り組む。ナイトレイ、HAROiD、ナビタイムジャパン、メディカ

ル・データ・ビジョン、ジェイアイエヌ(JINS)は、新しい端末・デバイスの普及で取得できるよう

になったデータを取扱う。うるる、インフォメティスは、データの取得や活用の手法から模索が行わ

れている業域に属する。データとの関わり別にみると、次のように整理できる(下図)。

■ヒアリング対象企業のデータ利活用状況

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4-6.ヒアリングの実施結果

●要旨

データ利活用に関連する企業は、扱うデータの種類や関わり方(生成・統合、提供、分析、活用支

援)が多岐にわたる。本調査ではデータ利活用で他社の事業を支援する企業を中心に、18社にデータ

利活用の取り組み状況や課題、国への要望などを聞いた(第9章に1社ずつの要旨を掲載)。

扱うデータの種類は「消費・金融系」「健康・医療系」「空間・人流系」など多岐にわたる。データ

利活用への関わり方は、データを収集して他社に提供する立場、そのデータを分析ツールなどを通じ

て提供する立場、活用を支援するコンサルティングをする立場などに分かれる。

●データ単体で価値を生み出す企業は少ない

データを提供するだけで価値を生み出せるケースは少ない。例えば、1900年創業でブランドと価値

が確立した企業情報を提供する帝国データバンク、国や自治体の入札情報というデータを利用するこ

とで収益貢献が明確に見込めるうるるなどである。うるるが扱う入札情報は、1 つひとつの情報は無

料だが、網羅的に収集して整理することで価値を生み出している。企業の利用料金は基本プランが年

間57万6000円となる。

それ以外は、データ分析ツール、さらにはその結果の生かし方を指南するコンサルティング業務ま

で手掛けるところが多い。多くの企業にデータ分析、そしてデータから事業価値を生み出す知見を持

つ人材が不足していることが要因である。

●技術、人手、プラットフォームでデータ収集

ヒアリング先の多くはなんらかの方法で自社でデータを生成、収集しているが、その方法は大きく

3つに分けられる。

「技術」を活用する一例がインフォメティスである。独自の機器分離技術用センサーを使い、電力利

用のデータから、家庭で何の家電を使用しているかというデータを生み出す。正確性を高めるために

機械学習のアルゴリズムを磨いている。

一方で、「人手」をかけているのが前述のうるるである。数百人のクラウドワーカーを活用することで、

機械では判断しにくいサイト上の入札情報を正確に集める。また、交通ナビゲーションのナビタイム

ジャパンは、全国2000のバス会社の年間1700回に及ぶ時刻表改正を数名の担当者で収集している。

人手での情報収集はコストがかかりがちだが、投資対効果を見込めるのであれば有効な手段となる。

今回最も多かったのが、特化型の「プラットフォーム」運営によるデータ収集である。マーケティ

ング分析支援のアイディーズは、取引先の食品スーパー50社超から1日当たり合計700万枚のレシー

ト情報を収集。地域別に生鮮食品や総菜などの売れ行き度合いを指標化して、各スーパーに戻す。利

用スーパーは自店舗の売れ行きを相対的に把握でき、商品販売の機会損失や廃棄ロスを防げる。また、

医療機関向けに経営支援システムを提供するメディカル・データ・ビジョン(MDV)は、DPC制度

(包括医療費支払い制度)導入病院から診療明細などのデータを統一形式で収集。データ集計した統

計値を各病院に戻す。各病院は他病院と診察状況などを比べることで、業務改善に役立てることがで

きる(利用料金は初期費用400万円、月5万円)。

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消費者データでは、月間 5600 万人が利用する料理レシピサイト運営のクックパッドが典型例とい

える。料理レシピサイト利用を通じて食材や調理法などの検索データ・(=購買前の興味・・関心データ)

が集まり、そのデータを食品製造・流通の企業が分析できるようにしている。商品企画やキャンペー

ン開始時期の決定に利用する。月15万~35万円で販売する。

1 社が持つ消費者や顧客企業のデータは限られるが、プラットフォームを通じて集まったデータを

分析することで、市場や顧客の理解を深められる情報となる。消費者や利用企業にメリットある形で

データ(利用ログなども含む)を提供してもらい、分析・加工で価値を生み出すエコシステムを構築

できれば、特化型のプラットフォームは様々な分野で生まれる可能性がある。

●データの結合や予測分析で価値を生み出す

データの「生成・収集」ではなく、データの「統合」でデータ活用企業を支援する事業もある。デ

ータクレンジング事業を手掛けるダブルスタンダードは、複数のデータセットをアルゴリズムに基づ

き結合する。例えば店舗に関するデータが複数ある場合、店舗名をキーに結合する。店舗名が完全に

一致しなくても、推測して結合するところにノウハウを持つという。

データの・「分析」で価値を生み出す企業もある。システム開発のおたには、1000種類以上のデータ

から不動産の予測成約価格を提供するサービス「GEEO」を提供する。不動産企業向けに分析サービ

スを販売する。IT企業のJSOLは、提携企業や顧客企業から環境や生育データを集め、収穫量や時期

などを統計学的に導き出す。事業化へ向けて検証している。

データの「活用指南」へのニーズも高い。ナビタイムジャパンの交通コンサルティング事業は3年

前に2人で開始し、現在は十数人規模に拡大した。アイディーズは小売り企業には無料でデータ提供

(4 週間限定)するが、データだけでは活用できない企業が多く、大半は販売計画や店頭計画立案を

支援するMDプランナーがサポートする有償版を利用するという。MDVはユーザ会の活動が活発で、

ユーザ同士で活用法の情報交換をしている。

●他社データとの連携は構想・実験段階が多い

データ活用の価値を高めるため、社外データとの連携に積極的に取り組む企業もある。

農作業記録サービス「アグリノート」を提供するウォーターセルは、農業分野で IT 活用に取り組

むベジタリアと2014年に経営統合。グループ会社の水田センサーのデータも取り込めるように準備を

進めている。日本テレビ子会社の HAROiD はテレビなどのメディア接触データを所有しており、メ

ディア接触の効果を把握するため、その後のオンライン上の行動や店舗での購買データと連携させる

ことを目指している。

クックパッドも、「社外のデータと組み合わせて付加価値を上げるという取り組みを、始めている

ところ」としている。

一方で、「第三者が提供するパーソナルデータはその信頼度を社内で検証しなといけない」と、一歩

引いた立場にあるのがリクルートジョブズ。自社が必要なデータは自社で集められるよう、サイトや

アプリ企画・・制作に力を入れている。HAROiDなど消費者データにかかわる企業は、同様に慎重な姿

勢が多い。

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●個人情報から入札制度まで、多岐にわたる国への要望

国への要望も、こうした個人情報、パーソナルデータ関係が多かった。ネット上のパーソナルデー

タの結合サービスを世界的に展開するアクシオムの日本法人は、「個人情報保護法は、加工方法などが

まだ分かりにくい」と指摘。マネーフォワードも「(データを外に出すための法整備については)ど

こまでユーザにメリットがあるかという前提で、どんな許諾が必要か、どういうデータを出せばいい

のか、匿名性を担保するのかという粒度やルール作りが必要」とする。

MDVは、「ID-POSの番号は個人情報とみなさないということでデータベースもそれをユニークキ

ーにしているが、医療ではそれができない。データをクロスオーバーさせる時にこれが支障になる」

と業界ごとのルールの違いが活用の障壁になると言う。

アンケートでも、「パーソナルデータ保護の法律整備」(38.6%)、「パーソナルデータ保護の具体的

なガイドラインの整備」(37.4%)が上位に上がっていた。

その一方で、クックパッドは「法規制以上に、サービス提供者としてのポリシーが重要だと考えて

いる」と法規制より、企業としてユーザ重視で考えるべきだと指摘する。HAROiDも・「ユーザや企業

にはデータに対する漠然とした不安感が残る。データ活用によるメリットを提供して、不安感を払拭

した上で産業を拡大する仕組みを作りたい」と、関係者が納得するプラットフォーム構築に知恵を絞る。

IoTの普及に当たっては、意外な法制度が課題になることもある。「センサーの設置はとても簡単な

作業だが、分電盤を触る上では電気工事士の資格が必要」(インフォメティス)、「大きいセンサーを置

くと農業用ではないとされて農地法・(農業に関係ないものは設置してはいけない)違反になる」(ウォ

ーターセル)と、既存の法制度が想定していない、新たな取り組みを進める上での課題を指摘した。

アンケートでもビッグデータ利活用の推進における国への期待として「新規事業の創造の妨げとなる

規制の改革」を上げた人が43.7%に達し、最も多くなった。

また、スタートアップ企業にとっては、国や地方自治体へサービスを提供する上で、入札制度が障

壁となっている。「自治体の需要もあるが、発注の際には入札になる。となると、他に同様のサービス

を提供できる会社はないのか、と聞かれる。民間とルールが違うので、時間がかかり、我々も十分に

サポートできない状況にある」(ナイトレイ)。

●人材不足の課題、産学連携や実践の積み重ねで解決へ

データ分析、活用人材は多くの企業で課題になっている。「データアナリスト、サイエンティストの

育成が大きな課題。高度な分析を求める食品メーカー向けにはデータサイエンティストレベルの人材

が求められる。大学への研究用データ提供などで人材の確保に取り組んでいる」(アイディーズ)、「医

療と情報の両方に通じた人材の育成が進んでいない。現在は、社内で育成に取り組む」(MDV)とい

ったところが多い。

また、顧客企業のデータ利活用人材の不足により、データ分析ツールを提供したい企業の負担が高

まる面もある。「企業内にデータがあれば何とかするという人がほぼいない。結局、データで何をすれ

ばいいかまで教えることになる」(ナイトレイ)。一方でコンサルティング事業の需要は高まる。「利用

企業がデータだけ渡されても使えない場合は当社で分析を加える」(ナビタイムジャパン)。

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解決策としては、「大学との共同研究によって新たな知見の獲得が大事だ」(帝国データバンク)と

いったアカデミアの活用や、「データ活用を重視する文化を組織に根付かせ、またデータ分析者を育成

する目的も兼ねて、簡単なデータ分析の相談は5人日以内で返す取り組みをしている」というリクル

ートジョブズのように、若手分析者に多数の知見を積ませる工夫もある。また、ダブルスタンダード

は「データクレンジングにおいて、作業自体はアルバイトがやればいい。実現するロジックを皆で考

える。適切な教育を実施すれば、データサイエンスのプロは一切いらない」という意見もある。

企業、個人ともにデータの所有権に関連する問題の指摘もあった。「企業はデータを各事業部で持ち、

データを部外に出したがらない。法律が変わったとしても、組織の壁がなくならないと本当の変化は

ない」(アクシオムジャパン)。また、健康管理アプリを提供するウエルネスデータは、「従業員の健康

診断データは企業のものとなっていることも課題。結果は紙で提供されるが、従業員の意志で自由に

データをアプリに取り込める世の中にしたい」と指摘する。

ウエルネスデータはさらに、「様々なメーカーと連携したい。しかし、基礎代謝量などは体組成計の

メーカーによって測定方法が異なり、ユーザへ統一感のあるフィードバックが出せない」ことも課題

として指摘した。当面は同社内のロジックで調整する方針だ。測定方法が異なっても、一つのデバイ

スで変化を見るだけなら大きな問題とはならないが、様々な機器が連携してデータを連携する際には、

基準統一が課題となるだろう。

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5.データ分析企画の実務・役割をめぐる観察調査

5-1.要旨

分科会におけるチーム編成や論点整理、参加企業のニーズ把握などに際して、企画検討を円滑に進

めるべく、エスノグラフィ(観察・聴取)調査を行った。分科会で行われた対話の観察と、その対話

を書き起こした文書データのテキスト分析を行った。

まず、観察・聴取による分析から、データ利活用によるイノベーション創出を促進するためには、

データ利活用企画を進めるなかで、無数のビジネスリソースの「流れを整える」役割が必要だと分か

った。というのも、複数社によるデータ分析企画は、商業映画製作のように、無数の関係者が出入り

し、多くのアイデア・データ・人材が活用され、大小の計画・進行スケジュールが交錯する、複合的

な実証プロジェクトである。分析ロードマップの立案、設計、進行管理、実行を抜け・漏れなく行わ

なければ、些細な遅延やトラブル、課題の積み重ねから、企画そのものが頓挫してしまう。

その進捗を滞らせないためには、企画全体の統括・管理を行う役職者が、技術・データ・資金・情

報・・対話・・アイデアなど、あらゆるビジネスリソースの・「流れを整える役割」を担うことが望ましい。

その役割を、ここでは仮に「分析プロデューサ」と名付けたい。

複数社によるデータ分析企画では、企画シナリオの作成とチームの立ち上げが同時に、継起的に行

われるため、企画全体を統括する役割が曖昧なままになりやすい。今回の事業では、検討を進めるな

かで、分析の成否を左右するデータや技術、アイデアを持つ企業の担当者が、次第に、自然に、リー

ダーとして企画を取り仕切るようになった。それまでにも、議論の進行役や取りまとめ役を分析サポ

ータや運営事務局が担ったことで、個別の議論を総じて合意形成に向けることができた。そうした適

時介入が一定の効果をあげることは、テキスト分析からも確認できた。

5-2.エスノグラフィ調査の手法

各分科会で、全てのテーブルに録音機を配置し、その場で起きた対話の音声を収録した。このとき、

専任スタッフを分科会会場に配置し、会場の雰囲気や参加者の様子を観察した。さらに、この音声デ

ータを文字起こしし、対話形式の文書データを作成し、テキストマイニング技術を用いた分析を行っ

て、結果の整理、指標化13、考察を行った。(詳しくは第9章を参照)。

13 今回は、テーブル上の議論が「発散しているか、収束しているか」と、「議論全体の中心となる話題が語られていたか、周辺の話題

に逸れていたか」に注目し、2つの数値を「発散度」「代表度」という指標として定義した。この指標が特徴的な値を示しているところを

を重点的に確認するなど、指標を議論の振り返りにも用いた。

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5-3.求められる実務・役割の整理

今回のエスノグラフィ調査の結果、データ利活用プロジェクトにおいては、企画全体の統括・管理

を行う役職者が、技術・・データ・資金・・情報・・対話・・アイデアなど、あらゆるビジネスリソースの・「流

れを整える役割」を担うことが望ましいと分かった。ここでは仮に「分析プロデューサ」と名付け、

分析プロデューサが兼ねそなえるべき役割を、次の3つに整理する。企画統括者としてのプロデュー

ススキル、現場責任者としてのディレクションスキル、ビジネス資源管理者としてのオペレーション

スキルである。

図:データ分析プロデューサに求められる3つのスキルセット14

もっとも、業務過多やスキル引き継ぎの難化を招きやすいことから、個人が独力ですべての役割を

担うことは望ましくない。データサイエンティストと同じく、分析プロデューサの実務スキルも組

織・チームのなかで養われたほうがよいし、プラットフォーマにはその支援が求められるだろう。

この観点から、次頁からはそれぞれの役割に即して、本事業で観察された課題と今後に対応しうる

解決策を整理する。

図:データ分析企画の実務スキルは「チーム」で補うべき

14 一般社団法人データサイエンティスト協会が作成した「データサイエンティストのスキルセット」を参考にした。同協会では分析実務

者に求められる職能を「チェックリスト」として公開している。(http://www.datascientist.or.jp/news/2015-11-20.html)

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●プロデューススキルに関する課題と解決策

課題 解決策

P-1 企画への参加自体にコスト・リスクがある 分析企画の円滑化を行う手法・職能の導入

P-2 利用目的が示せなければデータ提供を受けられない 「データ状態の把握」をデータ利用目的へ含め、若干で

も費用を割り当てる

P-3 分析に着手するまでの社内稟議が長くなりやすい 分割発注によって小規模の分析を行い、ステップを分け

て経過を見ながら進める(稟議費用を減らす)

P-4 分析作業やその費用分担は調整が難しい 「ちょっとした分析」を行うために、手を付けやすい資

金調達の手段を確保する(先行事例を作る)

P-5 データ分析の効果はすぐに現れない 小さな成功事例を積み重ね、企画を保護・持続する

●オペレーションスキルに関する課題と解決策

課題 解決策

O-1 分析企画を小分けにすると契約・・事務コストが上がる オンライン決済導入や契約文書のテンプレート化

O-2 情報収集・提供のレベル感が見極めづらい 分析企画の診療録(カルテ)や調理法(レシピ)を用意する

O-3 スケジュール調整と情報共有が煩雑になる 日程調整・会議体編成の自動化・外注(PMOの導入)

O-4 データの視認性と可読性の担保が難しい ホワイトボードや印刷資料だけでなく、データ可視化ツ

ール(BIツール)を取り入れる

O-5 「声」による対話は情報が散逸しやすいうえ、高負荷 なるべく「文字」でも対話するようにする

●ディレクションスキルに関する課題と解決策

課題 解決策

D-1 参加メンバーに先行きの不安が生まれやすい 分析企画のモデル事例や見取り図を持ち込む

D-2 分析実務を知らないと、机上の空論になりやすい 先行研究や活用事例を教えるチュートリアルを行う

D-3 データと分析者のミスマッチが起きる 適任者を招聘するための情報収集を支援する

D-4 予算・・期間の制約から、分析目的、データ品質、実現

コストのトリレンマに陥りやすい。

① 分析目的に見合う質・量のデータ調達には相応

のコストがかかる。

② 現実的なコストとデータ品質を追い求める

と、分析目的の下方修正が必要になる。

③ コストをかけずに分析目的を達成しようとする

と、データ品質を妥協しなければならない。

(注:トリレンマ:3つの選択肢のうち2つまでしか選べない状況のこと)

その分析企画が何を重視するのか決める

・データの質・量を示す目安を決める(品質の担保)

・プロジェクト憲章を定め、守る(目的の担保)

・納期・費用の妥協線を定める(実現コストの担保)

D-5 分析プロデューサ自身の知識習得が、プロジェクト進

捗に追いつかない

データ分析の経験者を配置するか、外部の相談窓口を利

用する

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5-4.求められる実務・役割の整理(詳細)

5-4-1.・プロデューススキルに関する課題と解決策

●P-1 企画への参加自体にコスト・リスクがある

複数社が関わるデータ利活用プロジェクトでは、役割分担にグレーゾーンが生じやすい。また、分

析シナリオの進展に応じて、多数の部門・部署との連携が求められることから、企画への参加自体が

担当者に少なくない負担となる。例えば、本事業の参加企業は、少なくとも年間に160時間(約1人

月)以上を費やしたと試算される15。得られるものが少なければ、企画への参加自体が損失になる。

かといって、新事業の創出を目指す取り組みでは事業の成否を予め読み切れず、埋没費用の生じるタ

イミングが見極めづらい。日本では認知されていないが、データスチュワード16などの「分析プロジ

ェクトの円滑化を行う手法・職能」の導入は重要である。

●P-2 利用目的が示せなければデータ提供を受けられない

分析プロデューサは、若干の費用をかけてでも、データ状態を確かめるために、実データを手元に

集めたほうがよい。とはいえ、分析企画におけるデータの利用目的が示せなければ、他社から自社へ

データ提供を受ける同意取得は難しい。本事業ではデータカタログの利用で・「検討材料が乏しい状態」

は回避できたが、それでも実データが参照できない企画・検討にはリスクが残る。作業前に分析目的

を過度に限定すると、かえってデータの見落としを生むことがある。まずはとにかくデータ状態を見

極めたほうが良いし、それもデータの利用目的になりうることは広く知られてよい17。

●P-3 分析に着手するまでの社内稟議が長くなりやすい

分科会のなかで、データ分析の手法が具体的に提案・廃案されるなかで、しばしば「やってみない

ことには分からない」という意見が挙がっていた。実務現場でも、周到な仮説や、ある程度の成果見

通しを提示できないと、分析企画が社内稟議を通らない。このため提案にかかる時間が長くなり、肝

心の分析作業に着手できなくなったり、「お試し分析」の費用を分析企業側が持ち出しで負担したりす

15 主催者は参加者に、1回2時間・全10回の検討会と、それに付随する社内調整やデータ準備、資料チェックを求めた。この検討会に

参加するだけでも、準備・移動・会議・事後対応を含めて4時間/回ほどを要する。またある企業では、参加者が社内調整のために、商品

開発部門の責任者と担当者、情報システム部門の責任者と担当者、マーケティング部門の責任者と担当者、法務部門の責任者と担当者、

データ分析部門の責任者と担当者、自部署の責任者と担当者と、それぞれ個別に30分から60分の打合せを行ったという。1周あたり、

少なくとも6~12時間を要するが、これが合計で3セットほど行われ、加えて、分析実務自体に80時間程度を所要したとのこと。 16 業務部門とシステム部門の仲介役に立ち、データの品質管理やメタデータの編纂、部門間の情報ポリシー策定、関連文書の整理・保存、

専門知識のレクチャー、業務・システム要件の翻訳などを行う職能。詳しくは、データマネジメント知識体系(DAMA-DMBOK)参照。 17 科学技術界では、日本でも2009年頃から、研究機関が取り扱えるデータの質・量が大きく増えるとともに、「データ(中心)科学」と

呼ばれる新しいパラダイム・シフトが提唱されている。理論科学(研究者の経験や推論の積み重ねによる科学)、実験科学(反証実験や実

地検証の積み重ねによる科学)、計算科学(コンピュータを用いた計算処理による科学)に続く「第4のパラダイム」とされる。限られた

条件・仮説下のシミュレーションではなく、大規模データを丸ごと用いたモデリングを行うことで、研究者にも事前に全貌が把握できな

い、そのデータの特徴・性質を見つけ出そうとするアプローチである。その定義には諸説あるが、事前に仮説を限定しすぎず、「どの事象

が起きるか分からない」状態から、データに基づいて現実を速やかに知ろうとする姿勢は共通する。

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ることもあるという。中小企業やベンチャーにとって、こうした「営業費用」は負担になりやすい。

分析プロデューサは、分析会社へ分割発注するよう手配することで、小規模の分析を繰り返し、経過

を見ながら進めたほうがよい。これは当面の採用しやすい解決法になりうる。個々の企業で、分析企

画者が裁量権を持つ予算幅・稼働裁量は、急激には大きくならないと思われるからである。小さくと

も成功事例が作れれば、大がかりな実証を行うときの成果イメージをより詳しく描くことができる。

●P-4 分析作業とその費用分担は調整が難しい

分析作業とその費用分担は、複数社による連携では避けられない課題である。にも関わらず/だか

らこそ、その調整は難しい。分析プロデューサが、「ちょっとした分析作業」を行うために手の付け

やすい資金調達の手段を確保することで、この問題を軽減することが出来る。すでに一部企業が取り

入れつつあるが、日本の産業界でも自社内でデータ利活用責任者・(CDO)等を選任し、自由に動かせ

る予算・権限を与え、組織として新しいデータ利活用に取り組ませることは有効だろう。プラットフ

ォーマが、それを支援できればより望ましい。

●P-5 データ分析の効果はすぐに現れない

分析プロデューサは、まずは、なるべく小さな成功事例を作ることを目指したほうがよい。データ

分析は、事業投資よりも研究開発に近いもので、試行錯誤は避けられないうえ、それ自体がすぐには

企業に利益をもたらさない。分析から得られた知識を企業経営にどう生かすかは、別に考えなければ

ならない。とはいえ多くの分析プロデューサには、そのような社内体制をゼロから作り上げるだけの

権限は与えられていないだろう。分析プロデューサは、「すぐには儲からない分析」を自社内でいか

に保護し、持続させ、成果を出すかという悩みに直面する。これは古くて新しい課題である。データ

分析分野においても、しばしば・「魔法と見分けがつかない18」ような成果が期待され、・「銀の弾丸はな

い19」ことが忘れられてしまう。小さな分析成果を、事実として地道に積み上げて行くほかないだろう。

5-4-2.・オペレーションスキルに関する課題と解決策

●O-1 分析企画を小分けにすると契約・事務コストが上がる

分析企画には、仮説と検証を細やかに繰り返して、分析パターンや施策シナリオを臨機応変に変え

ることが求められる。事務コストは増えるが、分析プロデューサは、分析企画において必要となる工

程を明らかにし、工程をステージ分けすることで、達成状況を把握しやすくするべきだろう。裏返せ

ば、企業間の分析業務において、毎回の契約締結に係る法文書の作成コストなど、そもそもの事務負

担を下げる利点は大きいと考えられる。

今回の分科会では、どのチームでもこの難易度設定がスムーズに行われた。壮大な構想は足元の課

18 SF作家アーサー・C・クラーク(1917-2008)が定義した科学技術に関する第2法則「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付

かない」が転じて、計算機科学の領域で、高度な分析アルゴリズムやソフトウェア開発技術の優秀さを指摘する時に使われる慣用句。 19 計算機科学者フレデリック・ブルックス(1931-)が1986年に書いた論文の題名「No Silver Bullet」が転じて、ソフトウェア開発のな

かで多くの課題をまとめて解決できる、理想的な手法・技術を指す比喩として使われる。

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題解決に細分化され、スケジュール・費用から挑みづらい分析には取り組まなかった。もっとも自社

内でのデータ利活用と比べて、多工程に渡る仮説・検証にはその都度の社内調整が生じるため、複数

社間の誓約書締結や、企業担当者の事務コストは少なくなかった。社内の稟議・決済を電子化してい

る企業は少なくないが、社外取引では紙面による契約締結がいまでも慣習的に行われている。この手

続きが型紙化、電子化、省略化できれば、分析企画上の意思決定がより速やかに行えるようになる。

●O-2 情報収集・提供のレベル感が見極めづらい

分析プロデューサには、企業間の理解をスムーズに進めるため、企画で用いるデータの周辺情報を

整理することが求められる。参加者は互いに、自社の事業・自己の業務・保有データ・直近の事例な

ど、基本情報は事前に共有したほうがいいし、分析プロデューサはそれを手配することが望ましい。

本事業ではデータカタログを毎回の検討会で配布・回覧したが、現状のデータカタログは、データ

提供者にとっては項目が多く、記入に手間がかかるが、分析実務者にとっては情報が少なく、紐づけ

キー20が分からなかったり、活用事例が見えづらかったりすることがあった。もっとも、分科会自体

は、冒頭に話し始めにくい雰囲気があったものの、時間経過とともに対話が盛り上がり、データカタ

ログも必要な場面で参照されるようになった。データカタログが一定の役割を果たしたとは言える。

今後、項目が洗練され、例えば診療録(カルテ)や調理法(レシピ)のように、データ提供企業に

も書きやすく、分析実務者にも読みやすい文書になれば、企業・組織を問わず、多くの分析プロデュ

ーサが参照しやすい貴重な情報源になるだろう。

●O-3 スケジュール調整と情報共有が煩雑になる

複数社による検討は、参加メンバーが集まりづらく、情報共有が非同期になりがちである。分析プ

ロデューサには、スムーズな日程調整と会議体の編成を行うとともに、分析プロジェクトの進行過程

を詳しく記録、編集、表示する役割が求められる。問合せや確認事項、事務連絡などに即座に答え、

関係者に照会する役割も求められる。プラットフォーマがPMO(Project・Management・Office)の役

割を担って、これを支援したほうがよい。

対話を主とした検討会では、途中参加/離席者が議論の進行・停滞に大きく影響する。本事業でも

個々の参加者は、他に優先すべき業務が生じて欠席したり、議題によって担当者が変わったりした。

主催者が論点整理資料を配布していたが、議論の経過まではまとめられておらず、参加者が前回まで

の議論のふり返りや、目線合わせに手間取ってしまう場面があった。企業担当者が「どこまで話が進

んだのか」が分からなくなると、その企画の進捗に付いていけなくなる。多くの企業が参加・不参加

を繰り返すと、そもそも「何を話していたのか」思い出せなくなる。

20 データ統合のための共通IDやカラムのこと。年月日や時間帯などの「時間」、住所・地名、郵便番号、緯度・経度などの「エリア」、

人名や顧客ID、性・年代などの「人」、検索ワードや商品名などの「意味」が使われる。例えば、日経平均株価とGDP(国内総生産)の

年間推移を比べるときは、「時間」を紐づけキーに取ることができる。

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●O-4 データの視認性と可読性の担保が難しい

データ連携事業では必然的に多量のデータを扱うことがあり、視認性と可読性の担保が難しい。分

析プロデューサが率先して、チーム内へ新しいデータ可視化ツールを取り入れることは有益である。

ホワイトボードと印刷資料は対話の歩調合わせと議論の集約に大変に有効で、本事業でも効力を発

揮した。しかし、あるチームの分析者が・「(分析項目が多すぎて)紙幅の限界から分析結果を省略した」

と話した回もあったほどで、データの偏り・散らばりを融通無碍に捉えるには不向きである。ある分

科会では、分析実務者が多く参加していたことから、BIツールの使用やcsvファイルの共有が自然に、

スムーズに行われていた。そうした比較的新しいデータ可視化ツールを取り入れることは有益である。

●O-5 「声」による対話は、情報が散逸しやすいうえに高負荷

分析プロデューサには、参加者がオンラインで気軽に「文字」で対話できる空気作りが望まれる。

SNSやチャットツールなどの「文字」による対話は、対面による肉声の対話と比べて、1人1人が

意見を述べる時間が物理的に限られない。データ利活用プロジェクトでは多くの情報・担当者が頻繁

に出入りするが、複数人が同時に任意のタイミングで発言でき、そのやり取りが必ず記録として残る。

分析用データや分析プログラムを互いに閲覧しながら対話できるところにも利点がある。

現に、データ分析の実務者間では仮想の情報共有グループが形成され、それを支援するオンライン

サービス21も人気を集めている。ただし、企画者のコミュニティ管理ノウハウや参加者の文字入力ス

キルに依存する面が大きく、本事業では導入されたチャットツールも活用が進まなかった。そもそも

企業ごとのセキュリティ基準にずれがあり、アクセスできない担当者も出た。代わりに各チームのリ

ーダーを担った企業が、電話やメール、メッセージツール、対面打合せを組み合わせて意見集約や作

業割り振りを行ったが、その負担は小さくなかったうえ、情報の散逸を招くことになった。

5-4-3.・ディレクションスキルに関する課題と解決策

●D-1参加メンバーに先行きの不安が生まれやすい

国内産業界ではまだ、複数社のデータを組み合わせるビジネスデータ分析の事例はあまり知られて

いない。誰にとっても経験のない取り組みとなるため、進め方に不安が生まれやすい。データ分析プ

ロデューサは、チームメンバーにも自分自身にも、成功のイメージを持たせる必要がある。

実際、分科会の中盤で、参加者が顔に手を当てて考え込んだり、検討が行き詰まって沈黙が生まれ

たりする場面が見られた。複数社によるデータ連携は考慮すべき項目が多く、普段の業務とは勝手の

違うことが多いなど、そもそも難しい課題なのだと思われる。先行きの見えなさに参加者が挫けない

よう、研究開発の流れやプロジェクト管理手法をまとめた、企画推進の見取り図22があると良い。

21 プロジェクト管理ツールには、Backlog, ChatWork, Co-meeting, GitHub, inc, HONEY, Redmine, Slackなどがある。社内SNSには、

crowdbase, Confluence, DocBase, Google Apps, Qiita:Teamなどがある。FacebookやLINEのグループ機能を用いる企業もあるという。 22 EARTO(欧州研究技術共同体)が、研究開発の手順・段階をTRL(Technology Readiness Levels)と題して9ステップに整理してお

り、企業間のデータ連携にも転用できる。また、「SCRUM開発」というアジャイル開発に適したプロジェクト管理体系が、日本でもWeb

アプリ開発の現場などで導入が進んでいる。これも、小さな仮説・検証を繰り返すデータ分析プロジェクトに応用しやすい。

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●D-2 分析実務を知らないと、机上の空論になりやすい

新しいビジネスを生み出すには発想を自由に広げたほうがいいが、分析実務をよく知らずに議論す

ると、机上の空論になりやすい。とはいえ不慣れな担当者にとって、企画の起案や分析課題の特定は

容易ではない。分析プロデューサは、企画を始める前に、先行研究や実務上の注意、活用事例を学ぶ

チュートリアルを行うとよい。本事業では、先行研究が最低限しか行えなかった。分析サポータの助

言で、無理筋のアイデアが退けられ、企画案が洗練されもしたが、議論を短縮する余地は残る。

●D-3 データと分析者のミスマッチが起きる

データの整理方法やアイデアの出し方はデータによって異なるため、分析プロデューサは企画で扱

うデータ性質にふさわしい分析人材をキャスティングしたほうがよく、プラットフォーマはそのため

の情報収集を支援すべきである。本事業の分科会では、企業が持つデータの整理と、それらを組み合

わせた事業アイデアを考え出すワークショップが行われた。興味深いことに、各テーブルの検討過程

には、ファシリテータ個人の視点や経験が色濃く反映されていた。データに「人、時間、エリア」と

いう属性を付与してグルーピングしたり、ポストイットの色の違いを概念の階層に見立てた仕分けが

行われたりした。データ紐づけ方や期待される成果が、すでに考慮されていたのである。検討の初期

段階から、その企画で扱うデータの性質に即した人材が参加できれば、起こりがちなデータと分析者

のミスマッチを防げるだろう。

●D-4 予算・期間の制約から分析目的、データ品質、実現コストのトリレンマに陥りやすい

分析プロデューサは得てして、予算・期間の制約から分析目的、データ品質、実現コストのトリレ

ンマ・(三重苦)に陥りやすい。この・「データ分析のトリレンマ」は、次の3通りの課題として現れる。

分析目的に見合う質・量のデータを調達するには相応のコストがかかる。他方で、現実的なコストと

データ品質を追い求めると、分析目的の下方修正が必要になる。かたや、コストをかけずに分析目的

を達成しようとすると、データ品質を妥協しなければならない(しばしば、分析難度が上がる)。

3 つを同時に満たすことは難しいが、どれかひとつを重視することはできる。例えば、データの網

羅率・収集頻度などデータの質・量を示す目安を決める(品質の担保)、プロジェクト憲章を定め、

分析目的を揺るがせにしない(目的の担保)、納期・費用の妥協ラインを設ける(実現コストの担保)

などが考えられる。本事業でも、アイデア出しの時点では高度なビジネス案が発想されたが、チーム

編成を経たうえで、各社の社内事情を汲みながら、現実に実行できる分析企画へと軌道修正された。

●D-5 分析プロデューサ自身の知識習得が、プロジェクト進捗に追いつかない

分析企画を円滑に進めるには、データ分析の実務知識をチーム全体で底上げしたほうがよい。とい

うのも、企業担当者は自社データの専門家だが、他社データの取扱いは初心者である。初めは互いに

初歩的な知識を学ぶことになるから、チーム内の分析リテラシーにばらつきが出ざるを得ない。でき

れば分析プロデューサには、例えば基本用語や定番資料、よくある誤解などの基礎知識を身に着けて

ほしい。とはいえその知識習得が間に合わないこともある。プラットフォーマが、レファレンスの提

示や先行研究の整理など、その案内を行うべきである。

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6.結論

6-1.誕生した新事業

本事業ではデータ利活用支援環境・(プラットフォーム)の構築、整備、実証を行い、そのプラット

フォームの成長・改善を担う新しい企業と、分科会の検討チームにおける協業・連携の取り組みが 4

つ誕生した。活動内容は次の3つである。まず、21社が参加した検討分科会を開催し、新事業創出の

支援を行った。このとき、分析用のデータやツールを提供し、共用できるデータカタログサイトを構

築・改修した。次に、企業によるデータ利活用の一般動向を確かめ、分科会での企画支援を充実する

ために、日経BP社刊行物の読者で、データ利活用に関心のある会社員へのアンケートと、先進的に

データ利活用へ取り組む18社のヒアリングを行った。加えて、観察・・聴取、対話テキスト分析による

エスノグラフィ調査を行い、サポートチームによる適時介入を行った。

結果として、本事業では次の2つの新事業が誕生した。

1. プラットフォームのβ版と、その改善を担う新しい企業

2. 分科会の検討チームにおける4つの協業・連携の取り組み

1. プラットフォームのβ版

A) コミュニケーションプラットフォーム

大企業とベンチャーのマッチング支援を行うとき、当事者は何が・どこまで容易に

開示でき、何に留意・手続を要するのか整理したうえで、参加企業の募集と分科会の

設立、検討チーム編成の助演、分科会ごとの議題提示と論点整理、検討テーマの方向

付け、先行事例の紹介、分析サポートチームの立ち上げ、さらに参加企業間のヒアリ

ング代行や意見交換の仲介、課題集約などの役割を担った。いわば、複数社による分

析企画を統括するプロデューサの支援者として機能した。

また、「日経ビッグデータ」編集部の協力を得て、企業データの分析レシピ記事を作

成し、一般公開した。このサイトでは、有識者による実践的なデータ分析の手法を解

説するだけでなく、実際にデータをダウンロードして取得できる。今後、入手しやす

い分析レシピが国内に充実すれば、データ自体を流通させずに、データ流通を促せる。

B) サービスプラットフォーム

データ利活用を支援するとき、企業担当者から求められるサービスメニューが洗い

出された。本事業内では、出会いの「場」提供、マッチング補助、企画・構想支援、

社内稟議のサポート、計画策定、進行管理、分析設計、データ状態の評価、分析環境

確保、データ公開の手引き、データの開示範囲の管理、契約・規約作成サポート、広

報・・PR支援、その他ヘルプデスクなどを行った。会議体の編成、補助資料の作成、有

識者への諮問、先行研究の調査なども、求めに応じて行った。いわば、企業の垣根を

超えたPMO・(Project・Management・Office)として機能した。これらを通じてプラット

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p. 53

フォーマが蓄えたノウハウ・知識は、複数社によるデータ利活用企画をプロデュース

するために活用できる。このノウハウ・知識を拡張し、機械化することで、プラット

フォーマが今後、企業連携によるデータ駆動型の新事業開発に求められるサポート体

制を備えることが望ましい。

C) システムプラットフォーム

企業データカタログサイトのコンセプトモデルが完成した。・このWebサイトのロ

グインIDを保有する企業担当者なら誰でも、自身で自社データを登録し、他企業へ公

開できる。実データではなく、データの概要を記した目録だけを「データカタログ」

として登録するだけでも、分析企画やデータ仕様の把握に役立てられる。また、閲覧

権限や所属グループごとにアクセス制限を行えるよう、データカタログサイトの機能

改修を行って、登録したデータの公開範囲をある程度まで柔軟に選べるようにした。

データ登録自体も、求めに応じて運営事務局が代行した。これらを通じて、社数や公

開範囲等に一定の制約はあるものの、企業間のデータ交換を実現できた。将来には、

登録したデータの繊細な公開設定、自由な有償販売、簡便なAPI開放、速やかな品質

検査、正確なデータ加工、取引契約の電子化といった機能の追加を目指す。

D) プラットフォームの成長・改善を担う新しいスタートアップ企業

上述した3つの役割・・機能を持つプラットフォームを今後も成長・・改善させるべく、

新しい企業が設立された。株式会社日本データ取引所・(通称・:J-DEX)といい、公正性・

安全性・信頼性を備えた最適なデータ取引市場の提供、企業のビッグデータ活用に関

するコンサルティング事業、データ活用の為の各種ガイドライン策定、ビッグデータ

並びにAIに関する研究など、国内企業がデータ利活用を促進するためのプロデュース

業務を手掛けることを予定している。

2. 分科会の検討チームにおける共同・連携の取り組み

本事業では4つの検討チームにおける共同・・連携の取り組みが生まれた。どのチーム編成

でも顔合わせから始まり、両社理解を進めるなかで関係を深め、実データを用いた共同研究

の取り組みが成就した。また波及効果として、検討チーム外でも、個社間で新しく取り組み

を始めた例もあると聞く。自社の業務課題が突き止められたとか、保有するデータやツール

の新しい使い方が見つかったとの声もある。いずれもの本事業から得られた成果と言える。

A) 銀行チーム:「若年世代に金融商品へ興味を持っていただく方策の検討」

インテージ、NHNテコラス、データセクション、富士通総研、みずほ銀行が参加し

た。インテージはデータのリサーチノウハウやデータ解析力を有し、NHNテコラスは

リスティング広告の自動運用プラットフォームおよび適切な情報配信についてノウハ

ウを有する。データセクション、富士通総研はソーシャルメディアデータを中心とし

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p. 54

たデータ分析技術を持ち、みずほ銀行は金融サービスに関するノウハウを有する。本

チームでは各社が協働し、まずは第一歩として、ソーシャルメディア等から得られる

ビッグデータを利活用し、みずほグループの金融サービスを利用するお客さまに、最

適なタイミングで的確な情報を提供する方法について、検証を行った。

B) 特許・知財チーム:「日本版ハイプサイクルを作ろう」

正林国際特許商標事務所、日経BPが参加した。本チームでは、「日本版ハイプサイ

クルを作る」というコンセプトを掲げて、業界別の技術革新の動向を、初学者にも分

かりやすく伝えられる手法の開発を目指した。雑誌記事データと特許データの分布と

推移を対比的に分析した。対象には建築・建設分野を選んだ。まずは、同分野に属す

る企業の社名一覧を検索クエリとして、時系列推移、社名の出現数ランキング、記事

の頻出語・・特徴語に注目したデータ可視化を行った。さらに・「耐震」「免震」など地震

に関する単語に注目して、社会的事象が両データへどういった影響を与えているかを

探った。来期にはより進んだ分析手法の採用や、両社内の業務知見の反映、データ編

集の技術を競うイベント(ティンカリング)などを行うアイデアが出ている。

C) 会議支援チーム:会話構造の可視化・文脈予測に関する研究を活用したビジネスアナ

リティックツールの開発

イトーキ、国際大学GLOCOMが参加した。本チームでは、イトーキの・「考える会

議室」ソリューションと、国際大学GLOCOMの・「会話構造可視化・文脈予測に関す

る研究」技術を組み合わせて新製品の開発を目指す。コンセプトは、「オフィスログ分

析による就業環境の最適化」。今回の検討では会議室を対象とし、本分科会の対話ログ

分析とビジネス化に向けた研究企画をまとめた。会議の知的生産性が高まる、参加者

の意思決定が早まる、社内ナレッジの可視化といった創造性・効率化を支援するビジ

ネスアナリティックツール開発を目指す。来期からは実証実験、UI実装、ファシリテ

ーション技術洗い出し、指標化などを行うアイデアが出ている。

D) テレビ×食チーム:「複数データ分析で、「食」のトレンドは予兆できるか」

インフォメティス、ウィルモア、エム・データ、オプト、ショッパーインサイト、

データセクション、デジタルインテリジェンス、TBSテレビ、パナソニックが参加し

た。本チームでは、TV放送実績、TV視聴・・録画数、店舗購買履歴、Twitter上のつぶ

やき、Webサイト閲覧ログの時系列推移を比較分析した。データ間の相関の強さに注

目して、料理・食品の分野でブームになった商品について、品薄による機会損失を防

ぐ観点から、テレビ放送や口コミが店舗売上にどういった影響を与えているか探った。

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7.国内データ産業の現状と今後の課題

7-1.プラットフォーマが解決すべき課題

●企業・組織の「壁」を越える人々を支援すべき

プラットフォーマには、「分析プロデューサ」に包括的な支援サービスの提供が求められる。具体

的には、コミュニケーション、サービス、システムの3つを支援する機能をプラットフォームへ実装

することで、企業間で分析企画を進める際のありとあらゆる滞留を防ぎ、成功事例の創出を支援する

ことである。企業・組織の壁を越えたデータ利活用には、極言すれば、その「壁」の数だけ課題が生

じうる。結果として、分析実務や事業企画、企業連携に携わる担当者の業務負荷が膨らみやすい。

彼/彼女らこそが、データ駆動型イノベーションの成否を握る最重要人物だからである。とはいえ

彼/彼女らは、著名な投資家でもなく、時代にときめく起業家でもなく、業界を代表するデータサイ

エンティストでもなく、技術革新を先導するアカデミシャンでもない。担当業務としてデータ利活用

に取り組むうち、やがてその企画の主要人物を担うようになった一般の人々である。

彼/彼女らは、日々の業務のなかでプロジェクトチームを組織・指揮し、複数社の調整・交渉を通

じて無数のビジネスリソースを管理し、様々なデータの取扱い方を学びながら、その活用法を調べ、

または新たに考え出し、起案できる企画にまで煮詰め、プロジェクトを進行・管理するなかで、新し

い試みを行い、失敗と損失を避け、望ましい帰結を見つけ出し、事業として成り立つかを見極め、社

内外の理解や賛同を得ながら、社内稟議や法制度、消費者心理に留意しつつ、限られた予算・スケジ

ュールのなかで、世の中に新しい価値を問おうとしている。日本のデータ駆動型イノベーションが発

展途上なのは、彼/彼女らの抱える課題がまだ、日本社会で然るべき注目を集めていないからではな

いか。プラットフォーマが解決すべき先端課題は、こうした頻出問題への幅広い対応である。

●求められる機能は、コミュニケーション、サービス、システム

プラットフォーマには、大別して次の3つの期待があると言える。

A.コミュニケーションプラットフォームへの期待

B.サービスプラットフォームへの期待

C.システムプラットフォームへの期待

●コミュニケーション・コストを減らす機能

大企業とベンチャー、データ保有社と分析技術社などの間で、分析に対する考え方や、期待する成

果、実際にできることのずれが大きい場合に、データ利活用は難航しやすい。コミュニケーションプ

ラットフォームの運営者には、それらに・「気づくまでの時間」を減らす施策が求められる。端的には、

データ分析企画担当者の理解度・・習熟度に合った先行事例や既存研究の紹介である。また、そもそも、

プラットフォームに参加すること自体のコスト・リスクを減らすべきである。日本の従業員は、主

に西欧圏の先進諸国と比べて、労働時間・(とりわけ所定外労働時間)が長いとされる。プラットフォーム

の運営者には、彼/彼女らの業務リソースをみだりに、過度に消費させないよう配慮が求められる。

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目下では、プラットフォーマが相談窓口となって、様々な課題の解決策を個々の企業とともに解決す

ることが望ましい。そして将来にはその業務は文書化し、自動化し、機械化したほうがよい。

●分析業務を円滑化するサービスとしての機能

複数社による分析プロジェクトを進めるとき、業務フローのうち課題が生じやすい局面において、

典型的な遅延・失敗を防ぐ方策が講じられれば、データ利活用は促進できる。今後の課題は、想定さ

れるサービスメニューのうち、何に・どこまで対応すればいいかを絞り込むことにある。企業規模・

事業性質・データ種別によって必要な支援は異なり、求められるサービスは多岐に渡るためである。

例えば出会いの「場」提供、マッチング補助、企画・構想支援、社内稟議の円滑化、計画策定、進

行管理、分析設計、データ状態や価値の評価、分析環境確保、データ公開の手引き、データの流通範

囲や証跡の管理、契約・規約作成サポート、広報・PR支援、その他ヘルプデスク、資金調達などが

挙げられる。

また特筆すべき点として、本事業で企業間のデータ交換を進めるなかでは奇しくも、個人情報の取

扱いをめぐって企業が消費者に提示すべきとされる項目の確認・明確化が論点となった。例えば利用

目的の特定・制限、オプトアウトの確保、データの共有・加工・統合範囲の明示、自己データへのア

クセス権確保、データの利用停止の手続き、セキュリティ対策、事前の同意取得、事故対応の想定、

取扱い者の指定、安全な廃棄処理などが挙げられる。

これらの契約コストを削減するにあたり、どの企業の担当者にも共通して採用できる、安価で簡潔

な手法は、対話である。人と人とが直接に対面の肉声でリアルタイムに交渉する商習慣の採用は、安

心・安全を安価に調達する手段として最適である。もっともそれは個別業務における部分最適であっ

て、社会全体でデータ取引量が増え、企業と企業のマッチングパターンが無数に増えると見られる将

来、対話による検討は、必ずしも全体最適をもたらさない恐れがある。データ流通の促進には、利用

者の信頼形成を非同期で確実に行う方策が求められる。この機能のシステム化は避けられないだろう。

例えば、パーソナルデータの活用推進をめぐって、VRM・(Vender・Relationship・Management)23が構

想されている。生活者が個々人で適切な「代理機関」を選び、自身が持つデータの提供内容、開示範

囲を管理する発想である24。これはBtoCの同意取得だけでなく、BtoBの企業実務にも活用できるの

ではないか。個人による情報発信が一般化した社会では、個人が自身に紐づくデータを管理するには

前提知識が欠かせず、散逸したデータを集約するにも手間がかかりすぎる。信頼できる企業・組織へ

その管理を任せるほうが経済的だろうし、現に多くの生活者データはそのようにして収集・記録が行

われている。同じ課題は企業にも生じるが、法人は個人に比べて知識保有や信頼形成が容易であり、

コスト負担に耐えやすいだろう。

23 ハーバード大学「プロジェクトVRM」(http://cyber.law.harvard.edu/projectvrm/Main_Page)や、日本では「集めないビッグデータ

コンソーシアム」(http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/jp/research/dbd-conso/index.html)に議論が蓄積されている。 24 英語圏では「IFTTT」(https://ifttt.com/)が2010年からプラットフォーム運営を続けている。日本でもYahoo!ジャパン「mythings」

(http://mythings.yahoo.co.jp/)など企業による実験企画が始まっている。また、2015年9月には、大日本印刷と日本IBM、日本ユニシ

スが共同して、VRM事業が開始されている。(http://www.dnp.co.jp/news/10114203_2482.html)

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●成功事例の創出を支援するシステムとしての機能

本事業を通じて、データカタログサイトのコンセプトモデルが完成した。とはいえ、「製品開発プ

ロセス」でいえばまだ、「概略設計」と・「詳細設計」の中間地点まで到達したところである。今後の課

題は、詳細設計と運用・管理を行いながら、搭載機能を充実させることにある。そしてその機能は、

システムプラットフォームに求められており、且つ必要・十分に実現できるものであるべきである。

というのも、やみくもに機能拡張を行うと、「人材・・物資・・資金を散々投じた挙げ句、誰も欲しがら

ないものを開発してしまう」という新事業・新商品開発の典型的失敗に陥りかねない。それを避ける

べく、プラットフォーマは、今後も利用者のニーズに即したシステム開発を行うべきである。

実際に、企業データの社外提供には多くの手順を要する。競合他社に企業秘密が知られたり、デー

タ流出・・漏洩事故が起きたりといった懸念から、データ公開の範囲指定・・証跡管理ができないことに、

企業担当者が大小の心理的抵抗を感じているためである。そのせいか日本国内では、企業が自社デー

タを一般公開した事例はまだ珍しい。自主調査の無料公開や有償データの販売、産学連携における研

究利用、分析コンペへのAPI提供なども見られるが、多くの一般企業によって当たり前に使われるに

はまだ至っていない。新しいシステムプラットフォームは、こうした先行企画を周知し、世の中に成

功事例を増やすために使われるべきである。

7-2.国内におけるデータ取引市場の現状と、企業が抱えやすい課題

●市場化しやすい顧客・企業データ、需給ギャップのある生活者・IoTデータ

具体的なデータ種別で言えば、「顧客」や「販売」「企業」のデータは活用意向が高く、さらに供給

者も多い領域である。需給ニーズが合致しており、市場が成立しやすいと思われる。データ流通が進

み、市場で活発に売買されれば、市場規模も大きくなる可能性がある。「地図」「購買」「オンライン行

動」データは、他データを分析する際の媒介として使いやすいデータだが、データの提供者や提供量

が不足しているのか、活用意向が高いにもかかわらず、供給寡占度が高い。結果として、データの稀

少性が高くなる可能性がある。「移動と位置の情報」「メディアデータ」「生活履歴データ」は、活用し

たい企業も提供できる企業もまだ少ない。ウェアラブル端末やスマートテレビ、スマートフォンなど

で取得・蓄積できるデータであり、提供、活用企業ともに成長が期待される。かたや「人事・財務」

や「生産・物流」のデータは、活用意向・供給寡占度ともに低い。活用法が普及していないか、社内

に閉じて活用されているのではないか。だとすれば、企業・組織を超えたデータ流通を進めるには、

奇抜なアイデアではなく、それぞれのデータ種別に定番の分析手法の確立と普及こそが求められる。

●分析会社や行政機関の仲介が効果的

アンケート調査から、国内企業の意識のうえでは、自社内のデータ利活用インフラは構築が進み、

人材育成や社内ルール整備にも着手されつつあるが、肝心のデータ利活用企画や収益モデル作りに苦

労している状況が読みとれる。業界別にみると、「事業所向けサービス」業界と・「行政・・公共サービス」

に、様々なデータの需要・供給ニーズがある。一般論として、分析・調査会社や行政・公共機関が仲

介に入ることで、国内のデータ流通は促進されるのではないか。

すでに国内には同業同士で同種のデータを扱う需要・・供給ニーズがある。競合や寡占を避けながら、

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同業同士が相対でデータ交換・共有するのは難しいが、分析・調査会社や行政機関が仲介に入れば、

業務委託などによるデータ利活用の高度化/濃密化が期待できるだろう。プラットフォーマがこれを

支援することは合理的だと言える。

●ルールに基づくデータの目的外利用が必要

企業の担当者が実際にどの業務でデータ利活用をしたいのかを分析したところ、「研究開発」「調

査・・分析」「販売/マーケティング」「営業」での活用は、すでに行われているからか、「関心」は高い

が、「切実さ」はさほど高くない。その反面、「商品開発」「新規事業の創出」を行いたいとの・「切実さ」

と「関心」は高い。また、「関心」を持つ人は少ないが、「コンサルティング」「投資・出資」「法務」

でデータ利活用を進めたいとの「切実さ」は、他の業務に比べて高い。他方で、「生産」「人事・経理

などの管理」「サポート」など管理業務へデータを活用する意識は低い。つまり、既存業務のなかで

利用目的に沿って収集されたデータは、すでに・当然に利活用されているが、新商品・新事業創出の

ために目的外利用を含むデータ利活用を行う取り組みで、十分な成果を得ている企業はまだ多くない

と思われる。実際に本事業内でも、社内外のルールの施行細則が未整備・・不用意なことで断念したり、

仮説作りや企画推進に手間どったり、案件化・予算化に苦労したりする企業担当者の姿が見られた。

●分析・コンサルティングが収益の鍵、社内ルール・組織作りが活用の壁

上述した市場環境のなかで、データ利活用へ先進的に取り組む企業は何によってビジネスモデルを

成り立たせているのか。まず、独自の技術や十分な人手、専用の端末・プラットフォームでデータ収

集する企業は、大きな強みを持っている。とはいえ、データ提供だけで価値を生み出す企業は限られ

ている。分析ツールを提供したり、データ利活用コンサルティングまで手掛けたり、データの結合や

予測分析で価値を生み出している企業がほとんどである。

それでも他社データとの連携は、構想・実験段階が多い。心理的障壁や個人情報の取扱い方、入札

制度の煩雑さ、データ収集を阻む意外な規制、そもそもの社外データの品質保持に至るまで様々な・「壁」

があるからである。だからこそ国への要望も多岐に渡り、且つ微に入り細に及ぶ。

なかでも人材不足にはどの企業も頭を悩ませている。課題は「採用」や「育成」だけでなく、「配

置」や・「チーム化」にもある。現場の実務担当者が社内・・自部署の関連業務にいくら精通していても、

専門外のデータ利活用分野に幅広く詳しくなって、分析企画における実践力を身につけるには時間が

かかるからだろう。産学連携や企業実践、官民人事交流などの地道な積み重ねで解決するほかない。

7-3.分析企画の実務担当者が抱えやすい課題とその解決策

●ビジネスリソースの「流れを整える」役割が重要

エスノグラフィ調査から、データ利活用によるイノベーション創出を促進するには、・「分析プロデュ

ーサ」の役割が重要だと分かった。複数社によるデータ分析企画は、商業映画製作のように、無数の

関係者が出入りし、多くのアイデア・データ・人材が活用され、大小の計画・進行スケジュールが交

錯する、複合的な実証プロジェクトである。分析ロードマップの立案、設計、進行管理、実行を抜け・

漏れなく行わなければ、些細な遅延やトラブル、課題の積み重ねから企画そのものが頓挫してしまう。

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その進捗を滞らせないためには、企画全体の統括・・管理を行う役職者が、技術・・データ・資金・・情報・

対話・アイデアなど、あらゆるビジネスリソースの「流れを整える役割」を担うことが望ましい。

このとき、分析プロデューサが兼ねそなえるべき役割は、次の3つに整理できる。企画統括者とし

てのプロデューススキル、現場責任者としてのディレクションスキル、ビジネス資源管理者としての

オペレーションスキルである。もっとも、そのすべてを個人が独力で身に着け、担うことは現実的で

ない。社内チームの組織化を進め、必要に応じてプラットフォーマの支援を受けることが望ましい。

●小さな分析事例の積み重ね

分析プロデューサには、何よりもまず、複数社によるデータ分析プロジェクトを起案し、推進し、

保護する役割が欠かせない。企画統括(プロデュース)のスキルとして、企画コストの低減、データ

利用目的の明示、社内稟議の短縮、分割発注の導入などを通じて、小さな成功事例を積み重ね、分析

企画を保護・持続することが求められる。これを支援するためにプラットフォーマは、小さくとも予

算調達の手段を提示し、データ状態の把握に若干でも費用を割り当て、分析企画を小ステップに分け、

データ調達元や分析依頼先を手配し、分析作業の依頼先へ分割発注することを奨励したほうがよい。

●ビジネスリソースの調整・管理

続いて、起案された分析企画を実現するために、様々なビジネスリソースを調整・管理する役割が

求められる。分析プロデューサには、資源管理(オペレーション)のスキルとして、チームメンバー

の経験、知識、作業、対話の整理を行うことが求められる。具体的には、先行事例を収集すること・(経

験の整理)、分析企画の見取り図や、分析実務の内実を知ること(知識の整理)、プロジェクト管理業

務の委託やデータ可視化ツールの導入によって、煩雑な事務作業を減らすこと・(作業の整理)、情報が

散逸しにくいコミュニケーション方法を確立すること(対話の整理)が挙げられる。個々の業務は些

細なわりに多様で煩雑なことから、チーム内へPMOやデータスチュワードに相当する役職者を采配

するか、プラットフォーマにこの役割の支援を求めたほうがよい。人工知能による自動化も期待される。

●プロデューサ自身の基礎知識

さらに、得られたビジネスリソースを用いて、分析企画を成功に導くことも役割のひとつである。

分析会社に業務委託するとしても、分析プロデューサ自身に、企画シナリオ全体を設定し、経過を判

断するスキルはあったほうがよい。分析実務の実際や、データ性質ごとの分析手法、招聘すべき分析

人材の条件を知ったうえで、データ分析のトリレンマ・(コスト、品質、分析目的)と折り合いを付けながら、

速やかな仮説・・検証を繰り返すことが求められる。とはいえ、分析プロデューサの知識習得がプロジ

ェクト進捗に追いつかないこともあるだろう。プラットフォーマがワンストップの相談窓口となり、

事例紹介や人材派遣、企画立案などを通じて、分析プロデューサを支援することは有意義である。

●社会全体のデータ分析リテラシーの底上げ

なぜなら、企業担当者は自社データの専門家だが、他社データの取扱いは初心者で、検討の初期段

階はお互いに初歩的な知識や活用事例から学ぶことになるからである。チーム内の分析リテラシーに

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は、どうしてもばらつきが出ざるを得ない。もちろん、分析プロデューサが基礎知識を身につければ、

そうした検討は短縮できる。しかしより根深い課題として、社会全体でデータ分析リテラシーを底上

げしたいと考えたとき、誰が・どこまで・何の知識を持つべきかは検討に値する。ヒアリングした先

進的な企業だけでなく、本事業の参加者のなかでも、データプロバイダとしてデータ収集・管理事業

を営む傍らで、データ分析・活用のコンサルティングを並行して行う企業は少なくない。彼/彼女ら

がそうした「説明・解説」に費やすコストを低減できれば、実データの分析・評価に多くの時間・労

力を割くことができるはずである。

7-4.今後の課題と想定される解決策

●誕生したプラットフォーマが今後も成長するための課題

本事業で誕生したプラットフォーマが課題とすべきことのひとつは、有効な事業ドメインの確立と、

事業者間の棲み分け・共生である。すでに日本国内でも、いくつかのプレイヤーがプラットフォーマ

として名乗りを挙げたところである。ITコンサルティング企業や総合広告代理店、Webサービスプロ

バイダー、顧客データ管理会社、データセンターやクラウドサーバの運営事業者を担い手として、企

業データの送信/受信、分析・・活用を中継するサービスが始動している。Web広告におけるオーディ

エンスデータエクスチェンジ以外の領域でも、米国の大手ICT事業者らが顧客データの売買を仲介す

るビジネスを立ち上げてもいる。

国内外のプラットフォーマには多くの期待が寄せられているが、個々の運営者の性質によって、提

供しやすいサービスの在り方はちがうと考えるほうが自然である。すでにデータ利活用分野では、コ

ミュニケーションプラットフォーム領域に特化する事業者や、サービスプラットフォーム運営に注力

する事業者、システムプラットフォーム構築に取り組む事業者など、専門を分けたいくつかの事業者

が出現し、それぞれに企業活動を行っている。今後も、各領域のプラットフォーマが互いに連携する

動きは加速するだろう。

本事業で誕生したプラットフォーマが課題とすべきことのひとつは、上述した市場環境のなかで、

日本社会のなかで果たすべき機能・役割を見極め、それに注力することで、安定した収益スキームを

確立することにある。本事業で誕生したビジネスモデルをさらに洗練させ、より多くの企業が利用し

やすいプラットフォームを運営することで、国内データ取引市場の興隆を促すとともに、プラットフ

ォーマ自身も速やかに成長しなければならない。

●データ利活用に取り組む企業が直面する課題

企業が直面しうる課題は、自社内のデータ利活用文化を醸成することにある。国内企業は、自社内

のデータ利活用インフラは構築が進み、人材育成や社内ルール整備にも着手しつつあるが、肝心のデ

ータ利活用企画や収益モデル作りに苦労している状況にある。社内で部署ごとにデータがサイロ化し

ていたり、業界間でデータ取扱い基準やセキュリティ意識に差があったり、データ分析に要する前提

知識やコスト感覚が合わなかったり、業務課題や分析手法が見定められないといった課題に直面する

担当者も少なくない。

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その対策をひと言でいえば、企業・組織の「壁」を越える人々を支援すべきである。企業は、企画

全体の統括・管理を行う「プロデューサ」を見つけ出し、彼/彼女らが働きやすい組織作りを行える

よう支援したほうがよい。望むべくは、データ利活用の担当者に十分な予算・権限を与えるとよい。

データサイエンティストと対になる職能として、分析プロデューサを配置できればより望ましい。

●データ流通促進に向けて、国が抱える課題

プラットフォーム運営のうち、産学官民の誰が、何を、どこまで担うべきかには議論がありうる。

なぜなら、記録された事実としてのデータは貴重な産業資源だが、しかしあくまで素材に過ぎないの

であって、大小のプラットフォーマがデータ流通市場の創出を目指して、原材料であるデータだけを

それ自体で流通させようとしても、成果が出にくいことは容易に想像されるからである。プラットフ

ォーマ等には、共同してひとつの経済圏を立ち上げることが求められる。これは単一の主体には成し

遂げられないし、そうすべきでない。

要するに、我が国においてデータ駆動型イノベーション創出を促進するために必要な条件は、国内

産業の実態に即した「新しい商取引文化」の醸成であると言える。政府・省庁には、複数のプレイヤ

ーが入り乱れて進むこの動きを、主導、助成、仲介、整流、支援すること、つまり、「国内データの流

域圏」を管理・保全することが求められるだろう。

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8.国への提言

8-1.要旨

上述した課題と見通しを踏まえると、制度設計でいえば、個人情報に紐づくものに限らず、国内に

流通するデータ一般の取扱い基準や利用目的、権利帰属、公開手順、価値評価などの目安を示すこと

(A:既存ルールの周知)が企業から望まれている。産業分野ごとの思いがけない規制・制約が、分

野を越えた新規事業の足枷となるとの声もある。産業育成でいえば、新技術の標準化や研究開発への

投資だけでなく、産学連携や異業種交流、人材育成、実証実験の企画などへの支援(B:新しい仕組

み作り)も期待されている。企業が作る新しい商取引文化を醸成・・普及させる、潤滑油の役割である。

平成不況と東日本大震災を経験し、少子高齢化の慢性化などの諸課題を抱える現代日本の産業社会

において、政府・省庁が先陣を切り、企業・組織の「壁」を越え、旧弊による規制の緩和や新事業の

創出支援へ取り組むことには意義がある。すでに様々な制度改正や事業施策が行われており、それら

は国内企業へ今まで以上に認知されてよい。新しい政策の利用が進むことで、先進企業のデータ利活

用が促進され、成功事例が増えれば、それが他企業へと普及し、それが再び新たな政策に反映される

といった、「データ共有の好循環」の創出につながるからである。

8-2.(A)既存ルールの周知

●8-2-1.業界ごとのデータ取扱いルールのずれの可視化

国内企業のデータ利活用事例、データ利用規約などを集め、その特徴を要約することで、業界ごと

のデータ取扱いルールのずれを浮き彫りにできないか。業界ごとに取扱いルールが違い、業界横断の

データ連携が困難になりやすい。データ提供に係る契約実務をめぐって、相手先から同意取得を求め

られたとき、データ取得時に定めた利用規約に基づく対応を行わなければ、データ提供はできない。

そもそも規約の規定から実施できない場合や、(個社間契約上、または国内法上で)実施が適法かの判

断ができない場合、データ提供者からの同意取得の手間がかかりすぎる場合などがある。さまざまな

事例・規約の収集を通じて、国内企業の社内ルール整備を支援してほしい。

●8-2-2.個人情報保護法の運用ルール明確化

各省庁にて審議・検討が行われている個人情報保護法に係るガイドライン作成のなかで、データ匿

名化手法を紹介し、・「十分な匿名化・(非識別・・非特定)が施されているパーソナルデータである」と判

定する目安を定めてほしい。とくに新事業の創出には、ルールに基づくデータの目的外利用が必要だ

が、データの利用目的を明示することと、幅広い業務にデータを活用することはトレードオフになり

やすいことから、企業は自社のデータ利用規約へ具体的な条文を書きづらいうえ、実務においても社

内外の調整コストがかかる。

●8-2-3.複数社にまたがるデータ取引で用いられる契約ガイドラインの更新

企業がデータ利活用を進めるなかで、相対取引では業務が完結しないことは珍しくない。データの

提供企業、保有企業、加工企業、分析企業、活用企業がそれぞれに異なることもままある。データに

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関する取引に係る企業間の契約ガイドラインはすでにあるが、複数社にまたがるデータ利活用におい

ては商流がより複雑になる。そこまで踏み込んだ契約書のひな型および契約ガイドラインが更新・整

備されれば、企業の法務担当者・・企画担当者がそれを参照しやすい。例えば、次の4類型が現にある。

1.代理店やシンクタンク、調査会社が幹事として起案し、特定のデータ保有会社や分析会社が分析

主幹となって受託。他データ保有企業が下請け・孫請け企業となって業務を行う場合。(外注型)

2.複数社にまたがるデータ取引がデータの第三者提供に当たりうることから、分析者の派遣や実デ

ータ提供の回避などで座組みを維持する場合。(派遣型)

3.分析コンペやAPI公開などで、不特定多数の企業・分析者が入り乱れて作業する場合。(開放型)

4.基軸となるデータ保有会社が、社内に複数社からのデータを取り揃え、使い分ける場合。・(調達型)

こうした場合に、個社間の包括的な業務委託だけではなく、複数社にまたがるデータの二次利用を

前提とした契約手続きが行えれば、企業間のデータ流通を促進することができる。

●8-2-4.データ公開範囲や利用目的を示す商用ライセンスの作成

データの諸権利をめぐる整理を行い、企業が取得・保有するデータは誰が所有権を持ち、誰に利用

権があり、誰に閲覧権がある場合がありうるかなどを整理してほしい。データ分析を行うに際しては、

包括的な秘密保持義務契約が、企業間のビジネス理解を阻害してしまうことがある。一方で、データ

の流域や証跡の管理は、個社が単独で行うには労力がかかりすぎる。万が一、事故があったときの信

用リスク懸念から、自社からデータを開示することの社内コンセンサスが得られないとの声も根強い。

例えば、データ開示の範囲設定や利用目的の明示を行う商用ライセンスが作成できないか。

●8-2-5.加工データや分析結果、データベースが権利保護される場合分け

加工データや分析結果、データベースの権利が保護される場合の事例や判例、見解等を収集したう

えで、データ分析の実務においても、フェアユースに類する制度を導入できないか。データは複製が

容易で、実物に比べれば移転の手間が軽微なことから、付随する諸権利の線引きが一様に定めづらい。

このためデータ提供を行うとき、企業が慎重になりやすい。実務上も、データ提供に係る権利処理を

めぐって、相手企業からの同意取得や、共同研究から生まれた成果物の権利の取扱いに苦慮する。資

料、発明、考案、データなどそれぞれの成果物の線引きが、ソフトウェア開発以上に難しい。これら

の権利処理を簡素化できないか。

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8-3.(B)新しい仕組み作り

●8-3-1.データカタログの洗練・普及

データカタログを洗練させ、診療録・(カルテ)や調理法・(レシピ)のようなデータを社外提供するための

記入様式を統一できないか。データの概要情報の書き方やメタデータの付与ルール、API 提供のやり

方などを取りまとめ、ひと続きの記入項目に整理できればより望ましい。データを保有する企業から

も、その分析を請け負う企業からも、そもそも企業は社内でデータがサイロ化しており、部署・部門

の壁を越えて保有・管理を一元化してほしいとの声がある。企業データを社外に公開する際のノウハ

ウは周知されたほうがよい。データ保有企業が企業オープンデータを公開しようとしても、省庁・自

治体ごとにガイドラインや考え方が違うことから、先行事例探しに苦労する。

社外データを取扱う際にも、データの整理方法やアイデアの出し方はデータの性質によって異なる。

企業データの価値は、そのデータの活用ノウハウとセットで成り立つことがほとんどだ。国立情報学

研究所による企業オープンデータ推進や、オープンデータ・コモンズなどでの取り組みなどを典拠と

し、産学連携による情報整理の新しい体系が作成できないか。

●8-3-2.企業や自治体による活用事例やベストプラクティス、オープンデータの収集・周知

守秘義務契約による制約はあるが、データ利活用の成功事例や分析実務の実態、データ取扱い手法

の詳細を周知する取り組みが求められるだろう。その周知が進まない要因も調査する余地がある。

複数社によるデータ分析企画は、まだ国内に事例が少なく、主催者も参加者も不安を抱きやすい。

分析企画の精度・速度を上げるには、先行研究の網羅が不可欠である。とはいえ、企業が持つ自社事

例や、学生向けの学習教材、業務担当者向けの実用書、公共機関による調査報告など、コンテンツは

すでに無数にある。不足しているのは、それらの書誌・目録・索引などを準備したレファレンス・サ

ービスである。文献資料の探索は図書館情報学にノウハウがあるが、ビジネスデータ分析に使えるデ

ータセットの収集・周知は道半ばである。有志の研究者による取り組みはすでにあり、それらを要覧

した簡潔な手引書があるとよい。

●8-3-3.データ利活用企業に認証・許諾を行い、関連申請・手続きなどを減らす制度

データ利活用に関する認証・許諾制度が作れないか。データ分析には直接に関わらない制度・規則

などが、意外な障壁となって、新事業創出を遅らせることがある。例えば、専用端末や独自機器によ

るデータ収集を行いたいのに、設置に当たって公的な認可・許諾・免許の取得が必要で、事業進捗が

スローダウンしてしまう。公募や助成金へ応募するとき、経験の浅いスタートアップは、書類作成に

手間どってしまう。入札後も、前例や類例が少ないデータ利活用事業を行っていると、その説明に苦

労するといった課題が生じている。

●8-3-4.分析企画の最初期を支援する補助金・支援等の制度設計

企業からの要望を整理すると、データの総合商社機能・マッチング支援を持つ機関の育成が期待さ

れている。国に期待する役割では、ビッグデータ(大規模データ処理技術)、IoT(「モノ」のインタ

ーネット)、AI・(機械学習、HCI)など新しい技術の開発・・実証・・標準化、ベンチャー企業や研究機関

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が持つ技術・研究成果の活用促進、企業による開発・実証実験プロジェクトの企画・推進支援、新事

業を始めるに当たっての資金援助などが望まれている。

例えば、個々の部署・部門が、部課長決済の範囲で、データ分析企画へ共同出資し、複数社データ

を活用する費用を共同分担する枠組みが作り出せないか。国税庁が行う研究開発費の税務上の優遇制

度や、厚労省が行う企業の人材育成への補助金制度などの利用促進、経産省・総務省が手がける IoT

推進コンソーシアム25での実証など、既存政策にもいくつかの解決策がある。これらを組み合わせた、

新事業創出支援のための政策パッケージが作成できないだろうか。

●8-3-5.産学連携や人材育成の支援政策の利用促進

大学や研究機関でのデータ分析人材の育成支援、企業と大学の人材交流の支援、企業内でのデータ

分析人材の育成・組織化支援を促進できないか。

先進企業では、高度な分析技術と豊富なビジネス経験を兼ねそなえた人材の育成に苦心している。

かたや地方の中小企業には、社内に分析担当者が1人しかおらず、Webサイト運営とデータベース管

理とオンライン広報を兼任している例もある。・「分析プロジェクトの業務フローを進めるなかで、典型

的なトラブルの発生を防ぐ方策がほしい」との声がある。日本社会のなかで分析リテラシーは誰が持

つべきかは議論されるべきだが、現実問題として、産学連携や企業実践によって徐々に解決するほか

ない。例えば、いわゆるポスドクや TA、復学・復職したい方の雇用に助成を行う、大学や研究機関

からベンチャー企業への技術者派遣を仕組み化するなどの施策が考えられる。もっとも、人材育成に

係る研修費などを助成する公的制度はすでにあり、それらの認知を高め、利用しやすくし、企業によ

る採択数を増やすことが望ましい。

●8-3-6.分析プロデューサのスキル養成

データ分析企画の受発注トラブルを防止するため、主には発注者の意識醸成・リテラシー向上を行

えないか。企業には次のような課題がある。自社データの社外提供に向けたシステム、ルール、人材

の準備を進めてきたが、いざ他社データとの連携を始めるとき、相手先のデータの特性や業務課題を

織り込んだ、適切な活用企画を実行できる人材が社内にいない。発想、調査はできても、企画、推進

となると難しい。主として分析企業から、発注者に分析提案の考え方や、データ利活用のノウハウ、

分析実務の実際といった知識を蓄積してほしいとの声もある。

実際のところ、複数社が関わる分析プロジェクトでは、企画と分析の実務担当者に業務負荷が集

中しやすい。彼/彼女らは、現状の日本社会で、「分析プロデューサ」の役割を事実上で担っているか

らである。彼/彼女ら自身のスキル養成や、それを支援する役割・体制の周知は急務である。単に、

彼/彼女らの作業現場の実態を調査し、世の中に向けてありのままに伝えるだけでも効果的である。

25「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」(2015年6月30日閣議決定)に基づき設立された産学官の連携組織。IoT

に関する技術の開発・実証及び標準化等の推進と、IoTに関する各種プロジェクトの創出及び当該プロジェクトの実施に必要となる規制

改革等の提言等を推進している。

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●8-3-7.データ利活用に関する企画・技術・法務のワンストップ相談窓口

データ利活用に関するワンストップの窓口は設置できないか。自社内で挙がった課題に対して、適

切な相談窓口がどこなのかわからない。もしくは、社内課題が多岐に渡ることから、複数の専門家に

諮問しなければならず、事業検討が思うように進められない(弁護士にはビジネス企画の相談ができ

ないが、コンサルタントには法律相談ができない等)。企業規模が小さく、自社でアドバイザリーボ

ードを組織・維持する体力がない。複数社によるデータ利活用プロジェクトの契約・規約を作成する

とき、アドバイス/サポートしてほしい。例えば、新しいデータ利活用プロジェクトを考案したが、

法規制・整備が追い付いておらず、適法か否かを判断しづらいということがある。弁護士等の諮問を

受けたとしても、判例のない案件の適法性には議論の余地が残る。とりわけ、世論のレピュテーショ

ンリスクを払拭できない。これらを包括的に助言できる機関・人材を用意できないか。

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9.付録

9-1.参加企業の顔ぶれ

株式会社イトーキ

インテージ株式会社

インフォメティス株式会社

株式会社ウィルモア

Weavers株式会社

株式会社エム・データ

NHNテコラス株式会社

株式会社オプトホールディング

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

正林国際特許商標事務所

株式会社ショッパーインサイト

ソリッドインテリジェンス株式会社

株式会社ダブルスタンダード

株式会社TBSテレビ

データセクション株式会社

株式会社デジタルインテリジェンス

株式会社日経BP

パナソニック株式会社

株式会社富士通総研

株式会社ブレインパッド

株式会社みずほ銀行

(社名五十音順)

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9-2.本事業を始める前に検討された仮説

先行調査の報告書には、3 つの優先課題が挙げられている。本事業ではこれをもとに、基本となる

事前仮説を立てて、事業創出に臨んだ。

1.データ共有に関する悪循環が存在する(データを外部に提供することによるメリットが感じら

れない、データ共有が進まないためにデータを外部に提供することのメリットを提示することが

できないという悪循環)

▼対応する事前仮説

企業担当者は、自社データ提供と社外データ利活用のいずれをも、リスクが大きすぎるか、コス

トに見合わない業務だと感じているのではないか。企業担当者にとってデータ利活用は、自社の

企業利益を生み出すために、自身に課せられる業務である。一般に業務には手間がかかり、責任

と評価も伴う。なるべく投資対効果が分かりやすく、失敗しづらい業務を優先したほうがよい。

他方で社外とのデータ連携は、社内に先例がなく、企画推進に苦労しやすいことから、多くの企

業担当者にとって歩留まりが悪い業務だと見なされているのではないか。

2.データ利活用に関する社会的合意形成や規制制度の運用基準が不明確

▼対応する事前仮説

企業担当者にとって、社会とは業務で関わる人々のことである。企業担当者が自社のデータ利活

用による新規事業の創出を任されたとき、彼/彼女はまず、社内の複数部署との合意形成を行わ

なければならない(経営企画部門、マーケティング部門、商品開発部門、情報システム部門、法

務部門、広報部門、消費者窓口部門など)。それぞれの部門はそれぞれにとっての社会と向き合っ

ており、それぞれ別の制度と基準に従っている。データ利活用の担当者は、彼/彼女が業務で関

わる多くの人々から協力が得られる企画作りに苦戦しているのではないか。

3.データ取引における交渉の進め方がわからない

▼対応する事前仮説

企業担当者にとってデータ取引における交渉とは、上述の通り、社内の他部署から協力を得るこ

とから始まる。またそれと並行して、(同じく他部署との合意形成に苦労している)社外の担当者

と出会い、親交を深め、信頼構築を行って、事業企画を相談し、共同して案件化と予算獲得を目

指すことになる。このためデータ利活用の担当者は、無数の利害調整と意思決定に奔走しなけれ

ばならない。彼/彼女が個々の関係者との個別の交渉に通じていたとしても、多くの関係者が複

雑に関わる交渉が、どのような進み方をするのかまでは読み切れないのではないか。また、その

ように複雑で多様な交渉をするとき、決め手となる要因はその度ごとに異なるのではないか。

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p. 69

▼データ分析実務における事前仮説:

A) データ使用許諾の手間

前提となる仮説:社内調整の苦労、他社データ探索の手間、自社データ加工の大変さ、社会的合意形

成の煩雑さなどから、社内担当者が新事業創出にいくら前向きでも、投資対効果の見えない事業へは

工数を割くことができず、勢い、データ利活用に挫折してしまうか、やる気をなくし、なおざりなデ

ータ利活用プロジェクトが散発的に繰り返される悪循環が起きる。

●楽観的な見通し

企業によるデータ開示は、利用目的・範囲や費用対効果、想定される成果が明示されれば、促す

ことができる。よって参加企業の担当者には、検討の初期段階から、データ開示に関する要望や、

開示できる情報の詳細な開示を求めればよい。

●悲観的な見通し

企業によるデータ開示は、利用目的・・範囲や費用対効果、想定される成果が明示されたとしても、

別の要因によって難航する。よって、その解消に向けた個別の支援もまた、求められる。

B) マッチングの難しさ

前提となる仮説:企業と企業、担当者と担当者、データとデータのマッチングパターンが定式化され

ておらず、現場担当者の勘と経験、嗅覚に頼らざるを得ないが、多くの取り組みには先行研究・先行

事例があるので、場当たり的な事業開発や既存技術の再活性化が同時多発的に繰り替えされるか、先

行研究・先行事例のキャッチアップをいつまでも終えることができない。

●楽観的な見通し

適切なマッチングパターンによって、事業開発は促進する。よって仲介者は、企業と企業のマッ

チングを仔細に検討すべきである。(ビジネス優先)

●悲観的な見通し

適切なマッチングパターンができても、事業開発を促進するには足りない。よって仲介者は、デ

ータとデータのマッチングを仔細に検討すべきである。(データ優先)

C) データ提供時の業務コスト

前提となる仮説:標準的な契約書・仕様の不在、複数社間で必ず起きる商取引文化のずれ、合意形成

のための対話が長期化しやすく、データの取得、前処理、加工などに要する業務コストも大きいこと

から、企業は、規模の小さい事業体であればあるほど、そもそも、・「始めること」それ自体に不安や躊

躇いを感じやすく、結果としてデータ開示に慎重になりやすい。

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●楽観的な見通し

事務コストを代替して負担できるプレイヤーが参与すれば、企業間のデータ開示は促進される。

よって企業は仲介者に、これを代行させたほうがよい。(協力主義)

●悲観的な見通し

仲介者の参与は、かえって個社間の施策・・意思決定を遅らせてしまい、データ開示が阻害される。

初期投資コストを費やしてでも、仲介者はなるべく介在させないほうがよい。(自前主義)

D) ユーザへの同意取得・便益提供の困難

前提となる仮説・:パーミッション・報酬系の管理が煩雑でありセンシティブで、プライバシーポリシ

ーの整備が行き届かない、またはそもそものプライバシー懸念が払拭できないうえ、自力で解決でき

る見通しが見えておらず、社内で相談できる相手も見つからないことから、企業の担当者は、自社デ

ータ提供や社外データ調達の検討を自部署内で議題にあげることにさえ、心理的抵抗感を抱いている。

●楽観的な見通し

ユーザへの同意取得・便益提供のルール・シナリオが出来れば、企業はデータ利活用に前向きに

取り組むことができる。

●悲観的な見通し

ユーザへの同意取得・便益提供のルール・シナリオが出来ても、企業はデータ利活用を躊躇して

しまう(隠れた阻害要因が存在する)。

E) データを利活用する人材・手法・イメージの不足

前提となる仮説・:データサイエンティストが国内に不足しており、部署のまたがるデータ分析プロジ

ェクトを推進する担当者も多忙で、自社データ活用に向けた仮説作りに十分な労力をかけられない。

●楽観的な見通し

分析ノウハウに優れたデータサイエンティストや、事業経験の豊富なマネージャが参加すること

で、情報開示やデータ連携が滞りなく行われ、企業は自社データ利活用をスムーズに進められる。

●悲観的な見通し

分析ノウハウに優れたデータサイエンティストや、事業経験の豊富なマネージャが参加しても、

その企業に特有の事情から、合意形成や情報公開が進まず、データ利活用が頓挫することがある。

F) コスト・リスク評価の躊躇

前提となる前提・:社外へデータを公開するリスクが評価できない、社内工数の割当て目安が分からな

い、期待すべき成果品質が定義できない等から、人的リソースの投資に踏み切れない。

Page 72: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 71

●楽観的な見通し

データ公開のリスクやコスト、成果品質を先に合意するべき。

●悲観的な見通し

データ公開のリスクやコスト、成果品質の可視化は困難であり、別の論点から説得するべき。

G) データ分析自体の知識・業務経験

前提となる仮説・:分析プロジェクトの経験が乏しく、その実効性が判断できなかったり、理解に時間

を要したり、不十分な計画を策定してしまって、速やかなデータ利活用の成果を出すことができない。

●楽観的な見通し

データ利活用プロジェクトにおいては、実務担当者と分析担当者のデータ利活用に対するリテラ

シーの差が常に生じるが、その差は適切な手法によって埋めることができるため、マッチング支

援の場でも・「頻繁に、盛んなデータ利活用が行われる」よう支援したほうがよい・(ハッカソン型)。

●悲観的な見通し

データ利活用プロジェクトにおいては、実務担当者と分析担当者のデータ利活用に対するリテラ

シーの差が常に生じるうえ、その差は解消できない。マッチング支援の場では、企業が「なるべ

く、ほとんど、データ利活用を意識しないこと」を目指したほうがよい・(ビジネスコンテスト型)。

H) 意思決定のステップ

前提となる仮説:新事業創出を促すには、データ融合の可能性をなるべく膨らませ、広げることが望

ましい。よって、合議の場には、様々な役職・個性の参加者が出席したほうがよい。

●楽観的な見通し

複数社による検討は、意見の多様化や論点の網羅につながって、事業構想を促す。よって、合議

への参加者は、多彩な顔ぶれとなるよう考慮すべきである。データ分析リテラシーも、まばらで

あってよい(合議制の肯定)。

●悲観的な見通し

複数社による検討は、却って意見の発散や論点の散逸につながって、事業構想を滞らせる。合議

への参加者は、専門家や有識者、代表者に制限すべきである(共和制の肯定)。

Page 73: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 72

9-3.新事業成立の促進・阻害要因(詳細)

本事業の分科会で得られた知見をもとに、データ利活用プロジェクトにおける新事業成立の促進・

阻害要因を整理する(実際に分科会のなかで起きたわけではない、いわば「失敗の未遂」もある)。

課題が生じやすい局面 促進手段 阻害要因

顧客発見

●パートナー探し 講演会・研究会などの挨拶の場

依頼先候補リスト

稀少なプレイヤーへの殺到(データ保

有社か否かを問わず)

営業・提案コストの肥大化

●関係構築 自由な対話の「場」

利害関係のない仲介者

他社との守秘義務による話題の制限

社内情報公開指針の未整備

●守秘義務契約締結 NDA雛形

担当者間の信頼形成

メンバーの途中参加

守秘義務の範囲指定の難しさ

企業間の稟議スピードのずれ

●ビジネス理解

(課題の顕在化)

自社・自己紹介文書

私信・私語ができる対話ツール

業務知識のある仲介者

「考案」の知財帰属が不明確

議事録が共有されない

社内事情や導入中のツールなどの情報

が開示できない

●データ理解

(情報の整理)

簡易だが大量のデータカタログ

事例紹介・先行研究の把握

データ知識のある仲介者

他社データの過大評価

自社データの誇大表現

ノウハウ・アイデアなど「営業秘密」

が開示できない(違う企業相手に同じ

会話が繰り返される)

●分析企画

発想支援ツール

定番の分析レシピ

分析知識のある仲介者

「最適化」「発見」「インサイト」等

のクリシェ(陳腐化した常套句)

夢のように壮大な分析企画

企画担当者への負荷集中

●提案依頼書作成

RFP作成ガイド

既存課題・既知情報の提示

シナリオプランニング

業務用件の出し損ね

口頭依頼・拙速な提案

初めから高度な分析企画を立てる

●社内調整 議事録・アイデアサマリ

企画概要の説明資料

分析担当者に決裁権・予算がない

たらい回し・部署間調整が生じる

●予備調査

対象分野の定番データ集

ビジネス課題の更新履歴

データ状態の点検表

勘と経験

データ状態への誤解

●契約・法制度の確認

データ利用目的チェックリスト

データ取引契約書ひな型

利用規約間の衝突

責任負担の不公平さ

Page 74: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 73

●契約・法制度の確認(続) 分析サービス価値相場表 経営層の方針変更

決済権限者の人事異動

顧客実証

●実施計画

詳細な課題洗い出し

シナリオの精緻化

両社リソースの確認

手戻り・遅延できない工程表

成果物の未整理

リソース不足の隠蔽

●提案書作成

詳細なデータカタログ

共同事業用の提案書ひな型

(自社・他社の強み紹介等)

プロジェクト管理者への負荷集中

分析企画社との連携不足

分析担当者との連携不足

●予算調達

提案書

発注書

業務委託契約書

分析サービスの値付けの難しさ

法務・総務担当者に分析勘がない場合

に、プロジェクト管理者のレビューが

必要になる

●テストデータ準備 データ共有場所、データ保管用ク

ラウドサーバ

テストデータの抽出コスト

データ調達先からの権利許諾

持ち株会社がデータを保有しておらず

事業会社との調整が必要

●テストデータ分析・検証

十分なメモリ容量のPC

十分な時間

申し分ない技術を持つ分析者

経過報告の略式化

安価に提供できるデータの期間・粒

度・範囲・質・量のずれ

テスト分析に予算がつかない

検証に十分な時間が与えられない

分析担当者への負荷集中

●シナリオ策定 シナリオプランニング

架空プレスリリース草案

大義名分の主張しづらさ

分析企画者への負荷集中

プロジェクト目標のぶれ・ずれ

分析スコープの拡大

●仕様書作成 データ状態の制約一覧

分析仮説と成果イメージ

分析結果が保証できない

データ状態により分析事項が限られる

セキュリティ担保のコスト

●本番データ準備

データ伝送方法・サービス

データ保管用サーバ

十分なメモリ容量のPC

十分な時間

適切な技術を持つ分析者

十分なデータ量を確保する時間・費用

使えるデータの乏しさ(欠損データ、

不使用データの多さ)

データ開示範囲を限定しづらい

●本番データ分析・検証 分析・検証項目表

分析担当者への負荷集中

プロジェクト管理者、分析企画者の既

知の範囲が洗い出しづらい

Page 75: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 74

●結果の評価 検証・報告書

納品書・検収書・請求書

「想起」「気づき」「予測」の検証結

果は解釈しづらい

あるいは、検証結果が恣意的に解釈さ

れてしまう

●商用化検討

経営学上の知識一般

顧客開発の視点(リーン・スター

ト・アップ)

分析結果に事業企画が引きずられる

得られた帰結が施策に結びつかない

施策を行う判断がプロジェクト管理者

だけで完結しない

顧客開拓

●対外発表 プレスリリース代筆

発表会の手配

風評被害やクレームの知見不足

世間の理解醸成が難しい(消費者へ直

接に利益還元できる主体が限られる)

紙幅・時間から公表できない分析結果

が多い(誤解が生じやすい)

●環境分析

既存の戦略コンサルティング手

法が応用できる

本事業の検討対象外

●市場選定 本事業の検討対象外

●戦略最適化 本事業の検討対象外

●収益性の試算 本事業の検討対象外

●価格政策の決定 本事業の検討対象外

●実施・管理 既存の ITコンサルティング手法

が応用できる 本事業の検討対象外

組織構築

●全社戦略

既存の経営コンサルティング手

法が応用できる

本事業の検討対象外

●事業戦略 本事業の検討対象外

●マーケティング戦略 本事業の検討対象外

●開発戦略 本事業の検討対象外

●営業戦略 本事業の検討対象外

●生産戦略 本事業の検討対象外

●財務戦略 本事業の検討対象外

●組織戦略 本事業の検討対象外

Page 76: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 75

9-4.アンケート調査の概要と設問票・集計結果

●第1回調査(事前調査)

【調査名】データの利活用に関するアンケート

【調査方法】Web調査。調査対象者に調査依頼メールを送付し、日経BPコンサルティングのインタ

ーネット上の回答受付システム「AIDA」で回答を収集

【調査対象】次の調査対象者に告知メール、メルマガを送付

・日経ビッグデータ読者で調査協力可の人のうち1,097件

・ビッグデータラボ・メール登録者で調査協力可の人のうち12,545件

・日経ビジネスオンライン登録者で属性が経営者・経営企画の人のうち16,074件

・日経ビッグデータ編集がメルマガで告知

【調査期間】2015年7月7日・(火)から7月16日・(木)午後11時59分まで。2015年7月13日・(月)

に、未回答者に督促メールを送付

【謝礼】抽選で以下のものを送付。全国共通図書カード500円分 200名

【回答件数】回収数631件/有効回答数584件(有職者だけを集計対象とした)

【調査企画】日経BP社日経ビッグデータ編集、日経BPコンサルティング

【調査実査】日経BPコンサルティング

●第2回調査(事後調査)

【調査名】データの利活用に関するアンケート

【調査方法】Web調査。調査対象者に調査依頼メールを送付し、インターネット上の回答受付システ

ムAIDAで回答を収集

【調査対象】次の調査対象者に告知メール、メルマガを送付

・日経ビッグデータ読者で調査協力可の人のうち144件

・ビッグデータラボ・メール登録者で調査協力可の人のうち13,657件

・日経ビジネスオンライン登録者で属性が経営者・経営企画の人のうち30,823件

・日経ビッグデータ編集がメルマガで告知

【調査期間】2015年12月14日(月)から12月24日(木)午後11時59分まで。2015年12月21

日(月)に、未回答者に督促メールを送付

【謝礼】抽選で以下のものを送付。全国共通図書カード500円分 200名

【回答件数】回収数442件/有効回答数412件(有職者だけを集計対象とした)

【調査企画】日経BP社日経ビッグデータ編集、日経BPコンサルティング

【調査実査】日経BPコンサルティング

Page 77: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 76

●株式会社HAROiD

2015年11月2日(月) 09:30~

株式会社HAROiD 安藤聖泰(代表取締役社長)氏

●企業・事業概要

日本テレビ子会社。テレビ番組で参加型企画を実施するための・「HAROiDプラットフォーム」を運

営し、ユーザ登録数は100万人(2015年12月3日時点)を超えた。

●データ活用の概要と特長

地上波テレビ、ケーブルテレビ、動画配信企業などに対して、コンテンツをコミュニケーションの

場にする仕組みを提供していく。例えば日本テレビで30 番組以上が参加する「カラダWEEK」キャ

ンペーンを実施し、連動した仕組みを開発した。HAROiDのID登録をして、スマートフォンを持っ

てテレビ番組で放送するエクササイズを試すと、センサーで動きを測定し、ポイントがたまる。

テレビを見ている人がスマホで番組企画に参加してオンラインになれば、その時点で何らかのデー

タが生まれる。HAROiDはIDというデバイスやユーザ単位でサービスを提供していく。その副産物

としてデータがついてくる。このデータで生番組でも番組制作が変わる。従来は、視聴率や視聴者か

らの問い合わせ電話や、一部の進んだ番組は Twitter などのネットの反応を見て番組を改善すること

もあった。

テレビ番組の制作などのPDCAを回すためのC・(評価)に当たる直接取得可能なデータをいかに瞬

時に的確に取っていくかを考えている。人はいろんなテレビ局を見るので、テレビ局1社の話ではな

い。そのために日テレから出て独立した会社にした。

●課題・国への要望

国にワンストップで相談できるところがあるといい。例えば総務省の視聴ログのガイドラインは有

料放送事業者の課金ログなどを想定しているようで、当社のようなところを想定していないようにも

読み取れる。一方で仮に法律やガイドライン、個々の利用規約が整備されていても、ユーザや企業に

はデータに対する漠然とした不安感が残る。データ活用によるメリットを提供して、不安感を払拭し

た上で産業を拡大する仕組みを作りたい。

●今後の展望

コンテンツ(テレビ)→オンライン→お店という動線がある。例えば、テレビで知った飲料を翌日

は店で買わなくても、後日にスマホで改めて知って、その結果購入するという行動がある。例えばこ

の過程のデータを我々のデータと組み合わせることで、メディア接触から消費行動までの流れや傾向

を把握することが大事。その後のオンラインや商品購買の情報を、コンテンツ側へフィードバックし

最適化をしていくことも目指したい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 78: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 77

●株式会社JSOL

2015年11月4日(水) 13:00~

株式会社JSOL・小寺俊一(金融・公共ビジネス事業部第一ビジネスグループ・部長)氏など

●企業・事業概要

NTTデータと日本総合研究所が共同出資するIT会社。本ヒアリングは農業生産法人向けに収穫予

測とコスト最適化により経営改善を実現するクラウドサービスについて。環境センサーネットワーク

を通じたデータ収集でNTTドコモと連携するなど他社と積極的に連携。

●データ活用の概要と特長

気象状況、肥料などの生産現場のデータを集めて、収穫量や時期などを統計学的に導き出す。ある

生産法人のじゃがいもの例では、約40のパラメーターを用いて収穫量を予測した。生産法人から過去

8年分のデータの提供を受け、8年分の予測結果を検証して、新年度の収穫量を予測する。誤差は上下

10%を超えない。同法人は販売計画の都合上、じゃがいもを収穫する時期を最初から決めているため、

その時にどれだけ採れるかが問題。足りない場合は買い付ける必要があるので、予測によって直前に

高値のじゃがいもを買い付けるリスクなどを減らす。

収穫予測は生産者へは無償で提供。現在は、いろいろなデータを集めて有償化に向けて話を進めて

いる。

事業の高度化に必要なデータは大きく生育系と気象系の2つになり、そのデータ量が課題になる。ま

ず、NTT ドコモの環境センサーなどオープンデータを集め始めている。個別の顧客のデータは、生

産法人や食品メーカー、流通の中からデータを集める仕組みを作っている。農作業をスマホやタブレ

ットで記録する「アグリノート」を提供するウォーターセルとも協力している。同様のサービスを提

供するイーエスケイ、日立ソリューションズ東日本とも業務提携。

●課題・国への要望

農業×ITの話は増えているが、効果(利益)を実感していただけないと生産現場でITの普及は難

しい。生産者が活用できる農業×ITの普及に向けた社会インフラとして提供・・展開を推進する活動に

期待したい。基礎研究の領域もあるため、一部農水省の補助金については適宜情報交換している。

●今後の展望

上記取り組みと並行して、三井住友海上と損保ジャパン日本興亜と収穫予測に関わる新たな保険の

可能性について共同研究をしている。新たな金融商品を構築する場合、金融庁の許可が必要になるた

め、過去数か年分のデータ集めながら構築を進めている。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 79: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 78

●株式会社アイディーズ

2015年10月14日(水) 10:30~

株式会社アイディーズ 山川朝賢(社長)氏など

●企業・事業概要

ID-POSデータを活用したコンサルティング事業。全国で統一した商品コードを振る・「i-code」を使

い、統一コードがない生鮮品・総菜でも、顧客の食品スーパーの売れ行き比較・分析を可能にしてい

る。2015年5月に国内で特許を取得。取引先は地場の食品スーパー中心に約50社。最近は食品メー

カー300社とも取引してデータを提供。

●データ活用の概要と特長

顧客の食品スーパーから1日当たりレシート500万枚が集まり、サービス開始した約7年前から累

計で520億トランザクションのデータベースとなった。店ごとにコードが違う生鮮食品に商品名辞書

を作り、例えば・「長野産えりんぎサイズ小」のような商品名に対して、「えりんぎ」のコードをアルゴ

リズムで自動的に振る。データを提出した食品スーパーには FI 値を返す。FI 値は地域の月間食費相

当を使う人1000世帯を抽出し、その中で商品毎に買う人の割合を算出している。地域の店舗の売れ行

きと自店の売れ行き、価格の差を示して、廃棄ロスの減少や販売機会の損失を防ぐ対策をとる。小売

りには無料でデータ提供(4 週間限定)するが、データだけでは活用できない企業が多く、大半は販

売計画や店頭計画立案を支援するMDプランナーがサポートする有償版を利用する。

テレビCMの放映状況・(エム・データ提供)なども連携して分析できるサービスも始めた。商品価

格、気象状況、テレビCMなどがどの程度商品の売り上げを左右したかをアルゴリズムで分析できる。

●課題・国への要望

データアナリスト、サイエンティストの育成が大きな課題。高度な分析を求める食品メーカー向け

はデータサイエンティストレベルの人材が求められる。大学への研究用データ提供などで人材の確保

にトライ中。また、ベンチャーが大きな自己投資をして、苦労してデータを集めている。それを認知

してほしいという思いは強い。業界全体を改善できる i-code が国として標準化が認められれば、(ア

イディーズが本社を置く)沖縄の雇用がぐっとうまれるし、新たな広告や販促、マーケティングなど

に活用できる可能性がある。

●今後の展望

食品を扱い始めているドラッグストアにもサービスを提供していく。ドラッグストア向けは廃棄ロ

スより、エリアマーケティングとインバウンド対策に焦点。商品マスターを持つ会社と組んで 2016

年春にはスタートしたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 80: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 79

●アクシオムジャパン株式会社

2015年10月16日 13:00~

アクシオムジャパン株式会社 工藤光顕(シニアプロジェクトマネージャー)氏など

●企業・事業概要

米国に本社を持ち、日本法人は2013年5月に登記。日本法人の正社員は4名。これまでインターネ

ット上の利用者の属性や興味関心を把握できるオーディエンスデータの提供、活用支援を手掛けてき

たが、2014 年に米本社がデータとデータを結合するサービス「LiveRamp・Connect」を買収。日本は

2015年からこのコネクティビティ事業に注力する。

●データ活用の概要と特長

データ提供会社にアクシオムのデータ結合ツールを使ってもらい収益化を支援する。Webサイト利

用者層を把握するツールである DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)と、ネットのタ

ーゲティング広告を配信できるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)、DMP とDMP をつ

なぐような事業を展開する。データを持つ企業は他社にそのままデータを渡したくない。アクシオム

のツールでいったん結合用の ID に変換して匿名性を持たせた上で結合するのが特長。博報堂系

DSP/DMP、広告テクノロジー企業のインティメート・マージャー・(IM)、ジーニー、Google,・Twitter,・

Videology、MediaMath、TURNなどと連携しており、広告主企業などへサービスを提供する。例えば

広告主が持つ会員のメールアドレスと、IMやGoogle,・Twitter などが持つ利用者データとを突き合わ

せ、広告主企業の会員だけにネット広告を配信するようなことができる。さらに他のデータと結合し

て、精緻なターゲティング広告を出せるようにする。この場合、広告主はメールアドレスの活用につ

いて会員に事前に許諾を取っている必要がある。

●課題・国への要望

個人情報保護法は、加工方法などまだ分かりにくい。法律は最悪の可能性を想定して作るから、98

点までできても2点が取れないと・「できない」となる。米国では企業のCPO・(チーフ・プライバシー・

オフィサー)が政策作りなどの支援や提案もしている。より透明性を持ってガイドラインを作ってほ

しい。一方、企業はデータを各事業部で持ち、データを部外に出したがらない。両組織の仲が悪いと

つながらない、IT部門に頼まないと出せないなど課題がある。法律が変わったとしても、組織の壁が

なくならないと本当の変化はない。

●今後の展望

データエクスチェンジに必要なコネクト役を目指す。また、中国ではネット内に限定せず、広告主

とその企業の商品を店舗で買った人のデータを組み合わせて、ターゲティング広告を出している。効

果は高く、中国では成功しているので、日本でもやっていきたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 81: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 80

●インフォメティス株式会社

2015年11月9日(月) 14:30~

インフォメティス株式会社 只野太郎(代表取締役社長)氏など

●企業・事業概要

機器分離技術用センサーの販売。2013年4月、ソニーからカーブアウトし会社設立。

●データ活用の概要と特長

家庭に機器分離技術用センサーを設置し、そこから得られたデータを人工知能(AI)によって分析

し、洗濯機、エアコン…などどんな種類の機器が動いているかという家電別情報に分解していく。ク

ラウドにあるAIを使った推定で家電ごとの消費電力は違和感のない分離精度を実現。ON/OFFの精

度はさらに高く、スマホなどのアプリに提供する電力使用内訳情報や、生活履歴の情報など幅広い用

途でのサービス活用が可能。

例えば、どの家電がいくら使ったのか、電力料金の透明性を実現できる。また、周辺の世帯平均と

比べることで消費者に気付きをもたらすことや、付けっぱなし危険アラートや家電買い換えのレコメ

ンド、リコール対象商品の検出、電力系統異常検出など多くのサービスや利便を実現できる可能性が

ある。見える化、省エネ訴求だけで消費者のニーズを満たし対価を得ることは難しいため、家電の消

費データを人の行動履歴と捉えなおす応用により、見守り用途や、生活パターンによる世帯クラスタ

リングなど、実際に役立つサービスや企業のマーケティングに活用することが重要である。これまで

の実証サービスを経て、2016年の春以降に本格的なサービスの導入を目指している。

●課題・国への要望

センサーの設置はとても簡単な作業だが、分電盤を触る上では電気工事士の資格が必要。一定の条

件を定義した上で、素人が付けても良い法律となると普及が早くなる。

人材については幸いにレベルの高い技術、トピックにチャレンジしており優秀な人材を採用できて

いる。ビッグデータへのチャレンジは、データがつまらない、データがないということが多い。我々

は現実世界の面白いネタがあり研究者に面白いと思ってもらえる。

●今後の展望

将来的には国内外のスマートメーターに当社の技術を入れていきたい。高精細な波形データがスマ

ートメーターに入ることで、様々なプレイヤーがデータ分析できるようになり、世の中を変える第一

歩になる。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 82: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 81

●ウエルネスデータ株式会社

2015年10月30日(金) 10:00~

ウエルネスデータ株式会社 星野栄輔(代表取締役)氏

●企業・事業概要

健康診断の結果をクラウドで管理する個人向け健康管理Webサービス「wellcan」を、2013年から

提供。2015 年からはスマートフォン用健康管理アプリ「JoulLife」を提供。東京海上キャピタルで 16

年間従事し、その中でヘルスケア関連のプロジェクトに関わっていた星野氏が起業。

●データ活用の概要と特長

wellcanでは、日本医療データセンターから100万人の医療統計データの提供を受け、ユーザが健康

診断データを登録すると、同年代、同性別の中での位置づけが分かる無料のサービス。日本医療デー

タセンターは、健保組合のレセプトデータと健診データを不可逆的匿名化技術で保健医療統計データ

としてデータベース化している。そのうちの100万人分の統計データを使用。

より日常的な健康管理を目指すのが JoulLife。スマホのセンシングデータから活動量の基となる歩

数データ、家庭用の体組成計の体重・体脂肪率、スマートウォッチで取得できる脈波などのデータ、

健診に行っていない人向けの自己採血型の検査データも取り扱っていくことを考えている。他の健康

管理系アプリと異なり、食事記録を不要にした。スマホのセンサーで活動を見て、基礎代謝量、活動

量、推定食事量を分析するロジックを開発した。その上で、健康管理の観点から、その人に応じた専

門家(管理栄養士、トレーナー、公衆衛生学の専門家)によるアドバイスコンテンツを出す。

●課題・国への要望

ユーザの入力負担は減らしたいので、体組成計は、仏Withingsと連携しているが、歩数計も含めて

将来的には様々なメーカーと連携したい。しかし、基礎代謝量などは体組成計のメーカーによって測

定方法が異なり、ユーザへ統一感のあるフィードバックが出せないのが課題。連携時に JoulLife 内で

標準化して基礎代謝、活動量の計算ロジックを出そうとしている。従業員の健康診断データは企業の

ものとなっていることも課題。結果は紙で提供されるが、従業員の意志で自由にデータをアプリに取

り込める世の中にしたい。

●今後の展望

今後、個人向けに有料機能を追加したいが、エンドユーザはたとえ数百円でもお金払うのにハード

ルがある。そこで、収益モデルはBtoBtoCになると考えている。例えば、健康経営を推進する企業が、

有料サービス費用を負担しては社員にサービスを提供する形。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 83: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 82

●ウォーターセル株式会社

2015年10月30日(金) 13:30~

ウォーターセル株式会社・長井啓友・(取締役)氏、ベジタリア株式会社小池聡・(代表取締役社長)など

●企業・事業概要

農作業記録サービス・「アグリノート」は、ウォーターセルが2012年に開始し、農業分野でIT活用

に取り組むベジタリアと 2014 年に経営統合。ベジタリアは、非破壊で植物の樹液流を検査するシス

テム、センサーで水田の水量を管理するシステムなども提供。

●データ活用の概要と特長

アグリノートは、地図に圃場の名称を付けて、「作っている作物と品種」「農作業情報(作業者と時

間、農薬名と量、肥料名と量など)」「生育調査項目(草丈、葉数、茎の分岐、葉色など)」などを記

録できる。農林水産省が農薬を認可してオープンデータとして公開しているので、それをマスターデ

ータとしてアプリに取り込んでいる。利用者は肥料なども含めて、タブレットなどの画面でほぼ選択す

るだけで済むようにしている。

農業を辞めた人の農地を借り受けて規模を拡大する農業生産者が増えているが、管理する農地が多

くなり、農薬散布回数、肥料散布の集計などが大変になり、システムが必要となる。データ化するこ

とで、「記録を付けて情報共有、議論する。PDCAを回す」ことが可能になる。利用料金は年間3万

9800円(基本は6アカウントまで)。

●課題・国への要望

アグリノートはソフトウェアで特に規制はないが、今後データ連携を検討している計測センサーの

設置に制限がある。農地に大きいセンサーを置くと農業用ではないとされて農地法(農業に関係ない

ものは設置してはいけない)違反になる。大規模化を目指す中で、現実的ではない。

●今後の展望

今後は、生育環境のデータを集めたい。気象データは気象庁のデータもあるが、(グループ会社のイ

ーラボの)フィールドサーバーや水田サーバのセンサーからより細かいデータが得られる。すでに一

部は取り込んでいる。気温の推移、積算温度などが入ると収穫日が予測できる。農家からはデータ活

用のための利用許諾は取っている。データを集めることを優先して、サービスの価格は大手の10分の

1 程度で提供している。利用料金だけで利益を出すことは難しい。今後の付加サービスとして、農地

を衛星カメラで撮影することも考えている。画像の近赤外線処理によって、生体情報や発育具合が分

かる。活性化していない部分に対処できる。ただ、今は週1回の撮影でコストが数百万円かかるのが

課題。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 84: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 83

●株式会社うるる

2015年11月4日(水) 11:00~

株式会社うるる 渡邉貴彦・(第2事業本部NJSS事業部・部長・兼・特販営業プロジェクトリーダー)氏

●企業・事業概要

うるるは、主婦の在宅ワーカーのネットワークを持ち、在宅ワーカーを活用したクラウドソーシン

グから生成されるCGS・(Crowd・Generated・Service)事業を複数運営。本ヒアリングでは、その一つ・「NJSS

(入札情報速報サービス)」がテーマ。

●データ活用の概要と特長

NJSSは各官公庁や自治体などがWebサイト上に掲載している入札案件を一括検索・閲覧できるサ

ービス。1 つひとつのデータはオープンで価値はない。だが、入札情報のみを一括検索できるので、

情報を探す企業には価値となる。全国対象の上位プランが年間67万2000円で、基本プランが年間57

万6000円。(落札会社や発注機関の分析機能の有無が違い)。IT業界中心に、建物管理や警備、清掃、

広告や派遣など幅広い業界の企業が利用する。

NJSSの登録情報は累計700万、毎月に約10万件を新規追加。数百人の在宅ワーカーが、発注機関

のWebサイトの決められたページを確認し、そこで得た更新情報をNJSS のデータベースに入力し、

即日または翌日に公開。入札案件を収集している発注機関は5880件。

契約継続率は非常に高い。一番大きな優位点は情報量。NJSSは、二番手サービスに対して入札情報・・

落札情報共におおよそ2倍以上の情報量を保持している。過去の入札データは、いまから収集できな

いので後発サービスに対して優位に立てている。「戦略的に入札で勝ちたい」と考える利用企業にとっ

て大きな違いになる。

情報量が多いのは手動で集めているから。自動クローリングだと入札専用ページ以外にある情報の

取得が難しい。クローリングなら年間数百万円程度のコストだが、NJSS は在宅ワーカーに加え、社

内と子会社に相当数の品質管理担当者を置き、他社より情報収集と品質管理に高いコストを費やして

いる。投資の結果として、見合った収益を出している。

●課題・国への要望

技術を持つベンチャーが入札市場を知らないために入札に参加しない、といった事態がよく発生し

ている。入札市場自体を活性化させるような働きがけを積極化してほしい。

●今後の展望

案件の内容分析から各業界で案件の発生予測のような情報を出したい。また、NJSS で案件検索さ

え不要にする機能を出したい。例えばA社の落札案件を分析し、A社に次に狙うべき案件を推薦する。

これには、A社の落札実績など新たなデータの収集が必要になる。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 85: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 84

●株式会社おたに

2015年10月5日(月) 14:00~

株式会社おたに・小谷祐一朗(代表取締役/CEO)氏

●企業・事業概要

2010年3月に設立。システム開発やPOSシステム開発やPOSシステムなどを提供しつつ、オープ

ンデータ分析に基づく不動産の予測成約価格を提供するサイト・「GEEO」を運営し、収益化を目指す。

●データ活用の概要と特長

不動産の基本データ以外や、さまざまなオープンデータや民間企業の調査データなど、約 1000 種

類のデータを使って、統計手法を用いて成約価格を推計している。国土交通省が公開している「駅ま

での距離」「バス停までの距離」、そのほか、経済動向や景気など、土地や不動産価格に影響を与える

データが含まれている。

GEEO の有償版を開発し、月額5400 円で販売を始めた。有料サービスの提供形態には、アカウン

ト、プロ、アナリティクスがあり、アナリティクスの引き合いが多い。位置空間・地域情報に基づく

分析サービスで・「物件価格いくら以上の不動産に住んでいる人にDMを出す」といったことにも使え

る。従来のエリアマーケティングは市区町村単位だったが、それを物件単位にしたことに価値。

●課題・国への要望

省庁ごとにデータに対する考え方や作り方、提供形態が異なる。日本の住所ならではの難しさがあ

る。日本の住所には地番があり、総務省の郵便局事業が管轄している。そのデータは全角のアラビア

数字だが、国土交通省のデータでは漢数字になっていることがあり、名寄せや正規化が必要になる。

また、地番と実際の住所が異なることもある。番地が数字だけでなく、アルファベットや「甲乙…」

「いろは…」になっているものもあり、処理しづらい。省庁のデータによっては、そこが省略されて

いるものもある。価格推計そのものよりも名寄せのほうに労力がかかる(参入企業・競合相手が減る

と考えれば、ビジネス的には悪いことではないが)。

●今後の展望

GEEOは伸ばしていきたい。市場規模も大きいので、可能性はあると考えている。オープンデータ

にこだわってはいない。そのデータがあることでサービスの価値が向上するなら、社外からデータを

購入するという判断もする。今後欲しいデータとしては、「マンションのどの部屋が何号室か」といっ

たデータ、建物の高さのデータなど。所持している企業は知っているが高価で買えないものもある。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 86: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 85

●クックパッド株式会社

2015年10月30日(金) 17:00~

クックパッド株式会社 中村耕史(トレンド調査ラボ)氏

●企業・事業概要

料理レシピサイト・「クックパッド」を運営、月間利用者は約5600万人にのぼる・(2015年9月時点)。

同サイトを通じて集まるデータを分析可能にする「たべみる」を食品メーカー、流通業などに販売。

●データ活用の概要と特長

たべみるでは大きく2つのデータを利用。1つがクックパッドの検索窓に料理名、材料名、イベン

ト名を入れて検索したデータ、もう1つが、レシピのページを10分以上継続して閲覧した場合に・「作

った」とみなして、「どのくらい作ったか」というデータ。これに、地域、性別・・年代・(男性は男性合

計で、女性は基本10歳刻み(20~30代は5歳刻み))の情報。これらを夜間に毎日更新している。

サービスは、食品メーカーや卸が中心に利用するPC版と、スーパーなどが主に利用するスマホ向

けライト版があり合計百数十社が利用。例えば、鍋と餃子が組み合わせて検索されている傾向を見い

だし、餃子鍋専用のつゆを作ったメーカーもある。小売業だと棚づくりに活用される。生活者がいつ

からハロウィンに注目しているかを、検索が増える時期から読み取り、店頭で提案を始める時期を意

思決定するなど活用が進んできている。

利用料金は、月15万~35万円で、それぞれ閲覧できるデータ期間と分析機能が異なる。

●課題・国への要望

これまでは課題といえるほど、大きなものはない。

パーソナルデータに関してはクックパッドではデータは厳しく管理している。法規制以上に、サー

ビス提供者としてのポリシーが重要だと考えている。今後、社外のデータと組み合わせた時にユーザ

が気持ち悪いと思うかどうかは我々事業者が取り組むべき課題だと考えており、性悪説で法的な規制

が強化されるとデータ連携は難しくなるだろう。

●今後の展望

社外のデータと組み合わせて付加価値を上げるという取り組みを、始めているところ。具体的な内

容や成果は時期がきたら公開できるようになると考えている。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 87: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 86

●株式会社ジェイアイエヌ

2015年10月26日(月) 11:00~

株式会社ジェイアイエヌ 井上一鷹(JINS・MEMEグループ・リーダー)氏など

●企業・事業概要

メガネの製造小売り。3点式眼電位センサーと6軸センサー(加速度・ジャイロ)で、瞬き・視線

移動や体の動きのデータを取得できるメガネ型端末「JINS・MEME」を発売。

●データ活用の概要と特長

昔は6000億円あったメガネ市場は、今は4000億。矯正用だけでは限界がある。そこで、新たな価

値を提供して1兆円市場にしたい。そのソリューションは新市場をつくることで、例えばブルーライ

トをカットする・「JINS・SCREEN・(旧JINS・PC)」は視力矯正を必要としない人も含め600万本売れた。

その次の展開として「JINS・MEME」がある。

メガネで生活習慣病を中心に様々な病気の予兆を検知し、改善へ導く架け橋となることが長期的な

ビジョン。例えば、認知症は生活習慣による因果関係をよく語られているが、・“普段の生活時”のデー

タが蓄積されていく仕組みがないので、研究が進みにくい。そのデータが自然に集められて研究が進

めば人類の進歩になる。瞬きですぐに思いつくドライアイに関する研究でも朝と夕方のどちらの瞬き

が多いか明確に計測できていないと言われている。それがMEME で計測できる。見たことないデー

タが見えることに価値がある。

価格は3万9000円のESと、6軸センサーのみを搭載したMTが1万9000円。アタマ年齢とカラ

ダ年齢を測定できるアプリ、ランニング向け、ドライブ向けアプリなどを提供。発売前はスマホで何

を楽しむのか、データからどう意味を伝えるかに注力した。発売1年半前に発表会をして、サードパ

ーティと活用の可能性を模索したいと考えた。しかし、キラーアプリは自社製作すべきと考え、専門

人材を中途採用して企画・制作を進めている。

●課題・国への要望

医療機器周りに踏み込むには認定のハードルが高く、大半の人は詳しく理解しないまま「まぁやめ

ておこう」となる。一方で、海外展開する上では、ハードのみのレイヤーでは継続的な成功は厳しい。

ソリューション、付加価値のレイヤーまで日本で作らなければ、あっという間に追い抜かれてしまう。

そのような状況の中、ヘルスケアのソリューションを開発する上で国の誰と話せばいいのか分からな

い。

●今後の展望

まずはハードの販売に専念している。顧客基盤があってこそプラットフォームになる。発売開始直

後は研究者やエンジニア感度が高く、5~10 年後のライフスタイルを考えるような人が楽しむデバイ

スになっているが、今後アプリの拡充で一般普及させたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 88: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 87

●株式会社ダブルスタンダード

2015年12月24日(木) 14:00~

株式会社ダブルスタンダード 中島正三(取締役ファウンダー)氏

●企業・事業概要

データクレンジングを中心としたビッグデータ関連事業と、各企業の課題や資産をヒアリングした

上でのサービス企画開発事業を展開。2015年12月に創業3年半で東証マザーズに上場。2016年3月

期の連結売上高・(予想)は前期比62%増の8億4600万円、同純利益は同21%増の1億4300万円。リ

クルートや大和ハウスグループなど大手が顧客主体。

●データ活用の概要と特長

データクレンジング事業で評価されるのは、開発およびチューニングのコスト、スピード、正確さ。

1週間2000万~3000万件のクレンジング作業を月額数十万円~で請ける。

データセットごとに情報の欠損、誤記がある場合の補正、修正作業の実現力、データセット内情報

から自動類推した上でのカテゴリー分け処理、複数のデータセットの結合率の高さは他社の追随を許

さないと考えている。独自ノウハウに基づくデータ処理アルゴリズムで実現する。例えば複数のデー

タセットを結合する際に、ひも付けする店舗名の表記がデータセット別に異なる場合がある。一方は

中島商店とあり、一方がコンビニチェーンの○○店と表記されている。こうした場合、どういうアル

ゴリズムで処理をすれば同一の店舗だと判断できてデータを結合できるか。こうしたノウハウを、

様々な項目で作ってある。

データクレンジングにおいて、作業自体はアルバイトがやればいい。実現するロジックを皆で考え

る。適切な教育を実施すれば、データサイエンスのプロは一切いらない。

外見はデータクレンジングだが、実はビジネスアイデアを添えて事業や業務改革を提案する。ある

会社は月額30~40人で実施していた業務を、我々のシステムで5~6人で済むようになった。それを

月額60万円で受けている。

●課題・国への要望

仕事の量と領域が広がり続ける。スピードを出し過ぎると人材教育、顧客対応が厳しい。

●今後の展望

自治体などは結婚、育児、就職などの補助金情報を様々な形式で提供している。テキスト、PDF、

Excel…。それらを独自技術でDB化して、若干の手作業で検索できるようにしている。様々なオープ

ンデータの一元化を2016年3月までにやって商売したいと考えている。また、日本全国のドラッグス

トアやコンビニなどの店舗データを毎月集めている。これにより、例えばあるホテルチェーンの部屋

料金の変動と株価の因果関係を見出したりしている。公開データを多く保管しているので、できるな

ら国と一緒に公開していきたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 89: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 88

●株式会社帝国データバンク

2015年10月21日(水) 10:00~

株式会社帝国データバンク 北村慎也(顧客サービス統括部・先端データ分析サービス課・課長)氏

●企業・事業概要

1900年創業の企業信用調査の老舗。「RESAS(地域経済分析システム)」にデータ提供。

●データ活用の概要と特長

企業情報データベースを作成し、企業コードを付与している数は460万社(内、法人数360万社)、

信用調査報告書は170万社、調査依頼があり情報をメンテナンスしている企業数は146万社に上る。

約1700人の調査員が調べる。主な用途は、取引時の与信判断に使用。または、企業向けにダイレクト

メールを配信するときに、企業リストとして使う。顧客企業は、金融機関、大手商社などの大企業が

多い。

当社は 2008 年頃から、企業信用調査報告書内にある取引先などの企業名に企業コードを振るよう

にした。コード化により企業の結びつきを示すネットワークデータが生まれた。ネットワークデータ

は、NHKスペシャル・「震災ビッグデータⅡ」や中小企業白書2014年版などで放送・・掲載され、現在

では RESAS に提供している「産業マップ」などの形で活用されている。その中で、企業間の取引を

地域内での取引集約度と地域外との取引の大きさを示す「コネクターハブ度」という新しい指標も作

成した。帝国データバンクがこれまで示してきた「評点」は企業の与信枠を決める指標。

●課題・国への要望

会社にとって人材教育は・「一丁目一番地」。ビッグデータ領域は、データ+人材が重要。大学との共

同研究によって新たな知見の獲得が大事だが、研究領域をまたがるような取り組みはしづらい。学際

にこそ発見があることを大学や研究機関を所管する省庁には強く認識をして取り組みを強化していた

だきたい。

●今後の展望

まずは自社情報を整理し、アルゴリズムを開発していく。(社外データの活用については)データを

持つ企業同士では関係構築が難しい。データをマッシュアップするのはいいが自社のデータは出せな

い。RESAS では経産省が間に入ったので皆が参加した。RESAS 以外では大学など中立の人に間に入

ってもらい、マッシュアップしていく方法をとっている。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 90: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 89

●株式会社ナイトレイ

2015年10月27日(火) 11:00~

株式会社ナイトレイ 石川豊(社長)氏

●企業・事業概要

SNSから収集した位置情報を加工して、意味ある情報にして提供する「ロケーションデータ収集・

解析エンジンの開発・・運用」が主力事業。一例が訪日外国人観光分析・「inbound・insight・(ii)」。創業は

2011年、従業員数は10人。

●データ活用の概要と特長

これまで何十億件ものSNS投稿データを検知しているなかで、地域に関わる情報であると検知して

データ化したのは延べ1億件。施設数は150万施設。ID数も150万IDに達した。一般公開されてい

る投稿をリアルタイムに検知して、データベースもリアルタイムに更新している。検知した時点で解

析して、(地域と関係なく)不要な投稿を捨て、確度が高い投稿だけを分析する。

対応SNSはTwitter が中心。iiは中国のミニブログ「新浪微博」も分析する。中国・台湾・香港・

韓国・タイ・フィリピン、インドネシア、インド、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、イギ

リス、スペイン、フランス、マレーシアが対象。英語など言語だけでは国が分からない人の投稿でも

総合的に解釈できる仕組みを構築。解釈技術はすべてナイトレイ単独で開発する。ii 利用企業はメー

カー、不動産、旅行、自治体と幅広い。1700社が登録する無料プラン、月額10万円などの有料プラ

ンを提供している。

SNSデータ収集と解釈が技術のカギ。データから高度な商品を生み出せているので、キャリアや位

置ゲーム企業など、位置データを持っておりマーケティングに生かしたい企業から、協業を持ちかけ

られるようになった。

●課題・国への要望

類似商品がなく営業時に説明が必要になる。また、企業内にデータがあれば何とかするという人が

ほぼいない。結局、データで何をすればいいかまで教えることになる。自治体の需要もあるが、発注

の際には入札になる。となると、他に同様のサービスを提供できる会社はないのか、と聞かれる。民

間とルールが違うので、時間がかかり、我々も十分にサポートできない状況にある。

●今後の展望

iiの直近の売り上げ目標は1.2億円。インバウンド市場は2020年をターゲットにしているので、そ

こまではii中心に動く。独自の位置データを自社でも集めるためBtoCのアプリ「ABC・Lunch」を始

めた。これも伸ばしていきたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 91: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 90

●株式会社ナビタイムジャパン

2015年12月1日(火) 10:00~

株式会社ナビタイムジャパン 大西啓介(社長)氏など

●企業・事業概要

2000年創業、ナビゲーションサイト・アプリの運営・・開発。サービスを通じて得られたデータを活

用した交通コンサルティング事業を2012年に開始。

●データ活用の概要と特長

所有するデータは大きく2つ。1つは個人向けサービスの有料会員450万人、無料サービス利用者

月間3000万人の検索履歴や移動履歴。カーナビのプローブデータはアプリを起動しているときだけデ

ータが記録される。インバウンド(訪日外国人)向けアプリの GPS データは起動時に許諾を得て、

常に2分間間隔で取得している。もう1つはバス、鉄道の時刻表、道路のネットワークデータ。バス

会社は全国2000社、年間1700回の時刻表改正を、事業者から連絡してもらったり自ら調べたりして

いる。バス会社(バス保有台数5台以上)の7割をカバーしている。すべての交通手段をバイアスな

く分析できるのが強み。

交通コンサルティング事業は、国交省系の道路事務所、NEXCO、都道府県、政令指定都市などが

顧客で、道路系、観光系の情報を提供する。都市の鉄道とバスの運行本数を地図で示す「運行頻度路

線図」、カーナビプローブデータで道路や交差点での通行速度を可視化した「自動車交通分析」など

を提供。後者は信号の時間調整による渋滞解消に使われた。分析コンサルティングでは数百万円の案

件が多く、件数は倍々ペースで伸びている。

●課題・国への要望

交通コンサルティングのチーム全体は十数人になる。事業ドメインと IT の両方を理解する人材が

少ない。外部採用、内部育成を進めているが、3年前は2人で始めた事業、倍々で成長する事業には

追いついていない。利用企業がデータだけ渡されても使えない場合は当社で分析を加える。顧客のリ

テラシーが上がれば当社の分析作業の割合は減る。

個人情報保護に関しては、国の規制より一般市民がどう思うかを気にしている。提供するものは、

統計データ化、ユーザIDの削除など、個人が特定されないように処理している。

●今後の展望

今後は顧客となる事業者が持つ交通の実績データも分析したい。また、データをナビゲーションサ

ービスに連携させたい。カーナビであればデータに基づき渋滞回避ルートの案内ができる。ビジネス

モデルについては、当面は個人課金。コストをかけたきめ細かなデータに価値を感じていただいてい

る。ただ、海外展開をした場合は、そうした価値観ではないこともあるので、個人課金以外のビジネ

スモデルになる可能性もある。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 92: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 91

●株式会社マネーフォワード

2015年10月14日(水) 13:00~

株式会社マネーフォワード辻庸介(代表取締役社長/CEO)氏

●企業・事業概要

提供サービスはPFM・(個人金融管理)サービスと中小企業/会計事務所などの企業向けクラウド会

計サービスの2種類。PFMは300万の利用者、クラウド会計は40万ユーザ。

●データ活用の概要と特長

個人向けサービスに関して、お名前、住所等は預っておらず、ユーザからはログインに必要な ID

とパスワードだけを取得している。金融機関サイト上で資金移動をするために必要な情報は一切なく、

参照権限のみで取得可能なB/S、P/L の情報だけを預かっている。預った情報でターゲティングする

ことは技術的には可能だが、社内では暗号化しておりアクセスは一部の管理者に限定されており、ま

たユーザサイドに立ったサービスであることが理念であるので現在は個人特定ができない粒度に限っ

たターゲティングを実施。

将来、ユーザのメリットになるデータ活用はいろいろ考えられる。住宅ローンを借りている人に家

計の状況からより良い条件のローンを薦めたり、他世帯の平均の食費などを伝えることで節約を促し

たりできる。他にも、資産運用の観点から最適ポートフォリオの提案なども考えられるため、今後さ

らなるデータ活用に向けてサービスを検討していきたい。中立的かつユーザの立場から提案できるこ

とが特長になっている。

社外からデータを使いたいという要望は、生命保険会社、資産運用の投信・証券会社、不動産会社

が多い。昔からある、従来型で単価が高い金融商品販売の会社が多い。ただし、個人情報はユーザの

許可無く第三者に提供はできず、匿名データだとしても第三者に提供しない方針。第三者提供を通じ

たデータ活用は法整備がされてからと考えている。

●課題・国への要望

(データを外に出すための法整備については)どこまでユーザにメリットがあるかという前提で、

どんな許諾が必要か、どういうデータを出せばいいのか、匿名性を担保するのかという粒度やルール

作りが必要だ。Suica事件の後、業界の腰が引けている感じがしている。この間に米国は進み、産業に

活用され、さらに差が広がってしまう可能性がある。

●今後の展望

ユーザへ提案をしていくためには、金融商品系の情報に加え、“エモーショナル系データ”が必要。

気持ちよく使えるお金とは何か。他人との相対データも必要だと考える。自社だけでできないので協

業も選択肢の一つ。経産省がやるような(データ交換の)プラットフォームができれば、そこにみん

なで乗って、ユーザベネフィットを追求していける。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 93: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 92

●メディカル・データ・ビジョン(MDV)株式会社

2015年10月5日(月) 14:00~

メディカル・データ・ビジョン(MDV)株式会社 福島常浩(取締役副社長)氏など

●企業・事業概要

2003 年に創業。自社事業領域であるITの立場から、医療情報のデータベースの作成を始めた。事

業内容は、システム提供を通じてデータを集め(データネットワークサービス)、集めたデータを活

用する(データ利活用サービス)という2つの分野で構成されている。

●データ活用の概要と特長

最初のサービスが医療機関向けのDPC 分析ベンチマークシステム「EVE」。DPC 制度(包括医療

費支払い制度)は、導入病院に統一形式に従ったデータを厚労省に提出する義務を課す。MDV は診

療明細、行為明細、支払明細といったDPC のデータを「EVE」導入病院から預かり、比較可能な統

計データとして「EVE」上に表示する。例えば胃がんの患者の平均在院日数が他院と比べて自院が長

いのか短いのかが分かる。2015年6月末の段階で741病院が採用し、DPC病院内のシェアは44%程

度。利用料金は初期費用400万円、月5万円。

●課題・国への要望

医療と情報の両方に通じた人材の育成が進んでいない。現在は、社内で育成に取り組む。

現在の法体系での課題は、患者のトレーサビリティー・(追跡)。例えば個々の患者のカルテ情報を時

系列に並べようとした場合、仮に患者自身がそれに同意したとしても、その患者がかかっている病院

から全て集めるのは難しい。カルテの法的な保管期限は5年なので、それ以上保管していないと言わ

れたら終わり。これは、日本の医療の発展として考えたら厳しい。マイナンバーに相当する医療 ID

が普及することについては、データ活用という観点では基本賛成。ただし、セキュリティの問題があ

るので、それをどう回避するかは慎重に、国民的な議論も含めて必要。個人情報保護法一つとっても

分野が違うと、ガイドラインが異なる。ID-POS の番号は個人情報とみなさないということでデータ

ベースもそれをユニークキーにしているが、医療ではアウト。データをクロスオーバーさせる時にこ

れが支障になる。大量のデータから個人が識別されるのを防ぐためのガイドラインは日本医療データ

ベース協会でMDVも参加して整備。民間企業で詳細を決めて、中立的な団体として厚労省に認知し

てもらうべきと考える。

●今後の展望

患者個人から同意を得て、電子カルテを介して診療情報を集積し始めた。電子カルテは情報が濃密

で即時性が高い。将来は食生活、運動などさまざまな情報を加え、最終形は容易にはイメージできな

いが、その時代の技術的レベルに従いより良いものにしたい。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 94: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 93

●株式会社リクルートジョブズ

2015年11月9日(月) 16:30~

株式会社リクルートジョブズ・板澤一樹(デジタルマーケティング部・部長)氏など

●企業・事業概要

アルバイト、パート、派遣から正社員まで、多種多様な雇用領域における人材採用に関する総合サー

ビスを展開。

●データ活用の概要と特長

自社のマーケティング費用の有効活用と顧客への新たな体験・価値提供が主な目的。求人情報サイ

トは、利用者の仕事の応募など計測可能な指標がある。適切な情報提供により多くの人が関心を持つ

ことを目指して、広告費のデータ分析に基づき広告投資をしている。

保有データは、「週に数十万件規模の求人掲載情報」「広告の発注金額データ」「Web サイトやアプ

リの利用ログ」など、これらを個人が特定できない形で統合し、価値を生み出す。

データから広告出稿を自動運用するツールを自社開発し、人の経験に基づく判断を上回る広告の投

資対効果が得られている。また、通常の人による求人原稿のチェック機能と併せて、自然言語を処理

して注意すべき表現を自動抽出するツールを開発。単純なNGワードのチェックだけではなく、性別

を指定する様な表現の有無をはじめ、社内で設けている表記規定を基に注意すべき表現を指摘する。

今後、自然言語処理の精度を上げ、原稿品質の向上に貢献していく。

目的をシンプルにすることが、データ利活用の成功のカギと信じている。目的に沿ったKPI(重要

業績評価指標)を設定しておく。原稿のチェックであれば注意原稿の検出率。

データ活用を重視する文化を組織に根付かせ、またデータ分析者を育成する目的も兼ねて、簡単な

データ分析の相談は5人日以内で返す取り組みをしている。「サイトのデータ変動があったけど、なぜ

なのかを分析してほしい」など年間30件程度の相談がある。これとは別に大きな案件は年間20件程度。

●課題・国への要望

社外データの活用は今後の課題。第三者データを利用する場合は、その信頼度を社内で検証しない

といけない。信頼度が不明確なデータソースを使うことは避けたい。

●今後の展望

人材は増強していく予定。現在は部内のデータマネジメントのグループは9人。来年も数人増える

見込み。ディープラーニングの研究もしているように、最近の学生は層が厚い。また今後も、求職者

が仕事を探す瞬間を自社内で捉えることを目指して、コンテンツマーケティングを実施していく。

9-5.ヒアリング結果(詳細)

Page 95: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 94

9-6.エスノグラフィ調査に用いた手法・設備等

●要旨

本事業では、エスノグラフィ調査として、分科会で行われた対話の観察と、その対話を書き起こし

た文書データのテキスト分析を行った。テキスト分析には、「対話の流れ」を特徴語や話題の遷移図と

して可視化したうえで、対話の「盛り上がり」と「散らかり」を評価できる指標を採用した。国際大

学GLOCOMが、データ収集、文字起こしテキストの整理、分析技術の開発、分析結果の整理、指標

化、考察を行った。

今回採用したテキストマイニング手法を使えば、対話全体の流れの中で、どのような話題が、いつ

話されていたかを参照できる。また、対話の変遷そのものを指標化することで、「発散/収束」「中心

話題/周辺話題」という二つの観点からその対話を評価できる。これによって、同じ話題が何度も繰

り返されるだとか、逆に話が散らかってまとまらないといった、対話の性質が目に見えて分かるよう

になる。ある会議が総じて進捗したか、停滞したかをふり返ることもできる。日常的な社内会議の対

話ログを対象として、こうした分析が行えるようになった意義は大きい。

●データ収集の方法

各分科会で全てのテーブルに録音機を配置し、その場で起きた対話の音声を収録した。このとき専

任スタッフを分科会会場にも配置し、会場の雰囲気や参加者の様子を観察した。さらに、この音声デ

ータを文字起こしし、対話形式の文書データを作成、テキストマイニング技術を用いた分析を行った。

加えて、本事業の参加者とも意見交換を重ね、結果の整理、指標化、考察を行った。

●分析用データの状態

文字起こしの記法は、シンプルに・「○話者 発言」の繰り返しとした26。なお、発言の記録は、「話

者単位」ではなく「テーブル単位」で行った。また、対話の参加者には、音声録音を行うことだけを

伝え、「話し方」の指定は行わなかった。よって、当然ながら、個々の会話の性質と分量にはばらつき

がある。このため、次に挙げるように、一回の発言量が少なく、話者が特定できていないものを含む。

○は話者を表し、○(アルファベット)は、話者の名前は特定できていないが、同じアルファベットで

あるものは同じ人物であることを示す・(※個人の識別・・特定を避けるため、本報告書では・「氏名は・(人

名)」に置き換えた)(図1)。

26 対話分析には、「トランスクリプト」と呼ばれる記法がしばしば用いられる。沈黙の時間や、発言が同時に起こった際にどの部分が

同時だったかなど、より詳細な会話の状況を記録したものである。しかし今回は、次の3つの理由から採用を見送った。(1)コスト低減:

トランスクリプトは、発話された言葉だけでなく、「場の空気」の記述を目指すもので、データ作成に多くの人手と時間を要する。(2)汎

用性の確保:一般的なテキストの文字起こしに対応した分析手法を開発したほうが、様々な会議体の対話データに応用しやすい。(3)会

話の「流れ」の分析に特化:毎回の分科会が1回あたり2時間と比較的長く、プロジェクト自体の期間も6ヶ月と長いことから、議論の

進捗・停滞などの情報が確認しやすい。

Page 96: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 95

○C 人の特性系と……。

○(人名) はい。なかなか難しいですね、これは。

○C 人に関するもの……。

○(人名) 「何に使えそうか」ではなく、近い属性でまとめたほうがよいかと思いまして。

○B そうですね、近い属性でね。

○(人名) 学生とサラリーマンだとか。

○C 人間と、そうでないものは分けられる。

○(人名) そうですね。人の属性にかかわるものと、商品的なものと、という違いもありましょうし。

○B デモグラフィック属性みたいのがあるじゃないですか、こういうのね。これもそうで。趣味とかは違って。

対話ログの例(図・1)

●対話の「流れ」を可視化する手順

この対話ログを、文字数を基準に等分割することでフェーズ区分し、それぞれのフェーズで使われ

た単語から、フェーズ間の類似度を定義。関連性が高いフェーズ同士をグルーピングした。そうして

得られたグループの数を、その議論のトピック数と見なした。各フェーズには、同じグループの他フ

ェーズと共通して出現する単語を表示した。どのフェーズで出現したかが分かるようにするだけでな

く、そのグループのみで出現する特徴的な語も表示した(図2)。

フェーズごとの共通語・特徴語の遷移(図・2)

Page 97: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 96

●分析手法の独自性

既存の分析手法に「テキストセグメンテーション」と呼ばれるものがある。文章をいくつかのセグ

メントに分割して、各セグメントにおけるトピックを抽出することで、文章を要約する手がかりとし

て役立てるものである。今回開発した手法は、それと比べて、次の2つの点が独自である。

まず、対話ログデータを対象とした要約技術は他に例がない。というのも、一般に対話ログは、単

一の著者が、読み手を意識して丁寧に書いた論考や報告とは違い、各文が細切れの会話体となり、論

理展開も不明瞭で、結論の明示が保証されないため、分析が難しくなりやすいからである。

また、テキストセグメンテーションではしばしば、全ての文をいずれかのセグメントへ必ず所属さ

せる。あくまで文章の・「全体を分割する」ことに主眼があるからである。対して今回の手法は、「議論

のなかで中心的なトピックが扱われたフェーズだけをグループ化する」ことで、どのグループにも含

まれないフェーズが生まれることを認めている。文章全体を過不足なく分割することよりも、各フェ

ーズの相対的な重要性を判定するほうが、対話ログ全体を概観するには有用だからである。

●採用した指標

さらに今回は、テーブル上の議論が「発散しているか、収束しているか」と、「議論全体の中心とな

る話題が語られていたか、周辺の話題に逸れていたか」に注目し、2つの数値を「発散度」「代表度」

という指標として定義した。

発散度・:あるフェーズにおいて新しく登場した単語の数を求め、全フェーズにおける最大値で

除算し正規化したもの。あるフェーズで、それまでの会話になかった単語がどれぐらい出てき

たかを示す。

代表度:各フェーズを単語とその tf-idf の重みからなるベクトルとし、注目するフェーズとそ

の他のフェーズのベクトルとのコサイン類似度の総和を求め、全フェーズにおける最大値で除

算し正規化したもの。あのフェーズで行われた対話が対話全体とどれだけ関係が強いかを示す。

「発散度」と「代表度」は、それぞれ最大値を1とした。対話全体のなかで、1つのフェーズが必ず

最大値を取り、その他のフェーズは最大値からの相対値を持つ。この「発散度」と「代表度」を、各

フェーズの特徴語の遷移と併せて表現すると、次のように図示できる(図3,・4)。

2指標の推移(図・3)

Page 98: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 97

議論の推移(図・4)

上段のグラフを見ると、このテーブルでは、序盤(フェーズ 1~7)は「発散度」が高く、中盤(8

~14)にはやや落ち着き、終盤・(15~20)には収束している。他方で、「代表度」の高い対話は、議論

の序盤~中盤・(フェーズ6~8)にかけて出現しており、終盤・(フェーズ14~16)にはむしろ、話題が

中心からそれている。特徴語の遷移を見ると、フェーズ6~8では、顧客の趣味嗜好や居住エリアなど

の属性情報について議論が行われており、このテーブルの中心的な話題を形成したと分かる。

このように、特徴語の遷移だけでなく、「発散

度」と「代表度」の推移も合わせて計測するこ

とで、対話の盛り上がりが議論の進捗に貢献し

ているかを、大まかに推し量ることができる。

さらに・「発散度」を縦軸に、「代表度」を横軸

にとって、2つの指標の遷移を描画した・(図5)。

線上の数字は議論が進んだ順番(フェーズ)と

対応する。最初のフェーズ・(1)と最後のフェー

ズ(20)は、丸で囲んで強調した。対話が「代

表度」を増減させながら、「発散度」が高い状態

から低い状態へと遷移しているとわかる。さら

に図中の領域を中央値で4分割し、次のように

意味付けすると、分かりやすい(図6,・7)。

フェーズ Ph.1 Ph.2 Ph.3 Ph.4 Ph.5 Ph.6 Ph.7 Ph.8 Ph.9 Ph.10 Ph.11 Ph.12 Ph.13 Ph.14 Ph.15 Ph.16 Ph.17 Ph.18 Ph.19 Ph.20

グループ 1 1 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 4 4

会話 会話 生産 生産 生産 生産 会議 会議 会議 会議 会議 会議 語 語

自己 自己 会議 会議 会議 会議 決定 決定 決定 決定 決定 フェーズ フェーズ

全体 全体 場 場 場 議事録 議事録 議事録 議事録 議事録 イベント イベント

イトーキ イトーキ 発言 発言 発言 会 会 会 会 推定 推定

コサイン コサイン テーブル テーブル テーブル 意思 意思 意思 意思 単純 単純

尺度 尺度 仕組み 仕組み 仕組み 時間 時間 時間 時間 時系列 時系列

システム システム モデル モデル モデル 委員 委員 委員 ログ ログ

時間 時間 意味 意味 意味 トピック トピック トピック 会 会

検索 検索 イメージ イメージ イメージ 議論 議論 議論 共通 共通

クリック クリック 指標 指標 社長 社長 大体 大体

最後 最後 室 室 研究 研究 自分 自分

共通 共通 音声 音声 共通 共通 イトーキ イトーキ

ファシリテーター

ファシリテーター

方式 方式

アラート アラート 普通 普通

モニター モニター 語彙 語彙

インタラクティブ

インタラクティブ

内容 内容

支援 支援 パターン パターン

問い 問いミーティング

ミーティング

イトーキ イトーキ 計画 計画

ファシリテーション

ファシリテーション

紹介 参加 コンセプト ロボットオブジェク

トブレーンストーミング

ビジュアライ

ゼーション ヒント 沈黙ビジネスモデ

ルキャンバス 教授 嫌 推移 汎用 意見 総会 会議 収束 グループ キャッシュ

言葉 成功 GLOCOM 発話 カフェ 階 プロセス ネガティブ 逆 類似 議事録 TODO 組織 単位 手前 調和 論文 日ワークライフバランス

ケータイ

モデル 回数 表示イノベーティブ

ワールド 使い方 チャット ポジティブ 大事ワークショップ

シェア ドラフト 複数 母数 本質 予定 鈴木健 事態 不動産 メディア

色 出現 無駄 坊さん 要素 豊富 共同 判定ファシリテーター

ブラザー 機能 辞書 意識 順番 会社 株主 抽出 発散 解析ユー・アンド・アイ

単語 重み 横 テープ 定義 閾値 合意 アンカー 不動産 グループ ボタン 状態 把握 分量 企業 国 調子 アイデア 話題 可能

ファイル 類似 状況 場面 参加 語彙 全部 会話 意味 ビッグ リーダー ツール フェーズ 一般 発言 殺伐 部門 企業 IC DB

国際 流れ 時間 具体 機能 意思 方法 メモ 相関 対立 介入 流れ 最初 共有 カテゴリー 世界 本 定例 アプリインターフェース

実践 テーブル 会話 自動 おとなしめ 決定 解析 形容詞 問い 優秀 参加 話題 意味 種類ヒエラルキー

報酬 魔法 おしゃべり オフィス グーグル

将来 評価タグクラウ

ド特定 アンケート PL ばらばら 有意 イメージ

ファシリテーター

班 色 発言 テーブル 該当 取締役 研究クリエーティブ

ディレクター オプション スマホ

想起コンソーシアム

タッチパネル

認識 オープン SYNQAアルゴリズム

エージェント

温度 あり方 USB NG 作成 エクセル 決裁 会社 言葉 コスト サーバーデータベース

大学 リスタートマイクロソフト

AI マインドアウトプッ

トスキーム テーマ 検索 お菓子

コントロール

PC 指定 位置づけ 固定 GLOCOM 結論バリエーション

レコーダー

中間レジューム

マッチ サポート 意欲 インプット チームタグクラウ

ド流れ お告げ

ダイバーシティ

縦 印象 公平 ブレストプロジェク

ト緊急

変遷 レポート ユーザー タイミングダッシュボード

クリア 場合 オンライン 順 課題 企業 表現

一様リアルタイ

ムピアラーニング

テンプレート

キック 期待 共有 状態

活用あからさま

グループを特徴づける語

各フェーズにおける重要語

2指標の遷移図(図・5)

Page 99: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 98

例示した対話では、大まかな遷移として、・「テーマ深掘り」と・「問題特定」を行き来しながら・「合意

形成」へ向かったあと、一時は・「議論の停滞」が見られたが、・「問題特定」に立ち返って、改めて・「合

意形成」に至ったと言える。

9-7.エスノグラフィ調査の実施結果

以上の仮説をもとに、すべての対話ログについて遷移図を出力したところ、今回の分科会では、全

体として代表度および発散度が共に高い状態が維持されており、座標の右上「テーマ深掘り」に点が

集中していた。議論があまり脱線せず、主要アイデアの深掘りが順調に行われたと言える。また、対

話の代表度/発散度の遷移は、「テーマ深掘り」(右下)から・「合意形成」(左上)へ向かうものが多数

を占めた。逆に、大きなテーマの変更が起こらず、事前の想定を覆すほど、意外な結論に辿りつかな

かったとも読める。

●「テーマ深掘り」から「合意形成」向かう例

●第04回分科会(9/28)

テーマ・A テーマB・C テーマD

対話の「状態」は4つに区分できる(図6) 対話は「合意形成」で終わっている(図7)

Page 100: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 99

●イレギュラーな例

●第06回分科会(12/3)

テーマ・A テーマB テーマD

新事業創出の進捗を効率化する観点からは、「テーマ深掘り」と・「問題特定」の間を行き来しながら、

「議論の停滞」を避けつつ、「合意形成」に向かっており、良い対話が行われたのだと仮定できる。

もっとも、その対話の目的によって、重視すべき対話の「状態」は自ずと異なるだろう。着想を膨

らませるときは・「テーマ深掘り」、論点を洗い出すときは・「問題特定」、交渉を行うときは・「合意形成」、

確認を行うときは「議論の停滞」に、それぞれ数値が偏重することが望ましいと考えられる。

●結論と今後の展望

後述する2例の詳細分析からも、システムの出力結果は会議の状況を正しく反映していると考えら

れる。ただし、出力結果の正当性を判定するためには現状では人手で全文ログを確認せねばならず、

出力結果だけから会議の状況をすべて把握するのは難しい。改良案として、システムの出力結果から、

会議の全文ログを検索する機能を設けることが考えられる。また、長期の目標として、より会議の状

況を理解しやすい出力結果を得るような、自動議事録作成システムの研究などが考えられる。

また、今回の分析では、話者の特定を完全に行うことが出来なかったため、話者情報は分析には用

いていない。しかし、議論の特徴を探るうえで話者の情報を扱うことは有用と考えられる。

同様に、今回はトランスクリプトを行わず、文字起こしされた情報のみを分析に用いたが、対話の

経過時間をタイムスタンプとして取得可能になれば、議論の停滞などについてもより精緻な分析が可

能になる。現段階では着手しなかったが、本プロジェクトの成果として、国際大学GLOCOMと株式

会社イトーキの連携が実現し、共同研究によってこの問題を解決する予定である。イトーキの持つ音

声認識技術と、対話ログの自動生成機能を用いることで、話者情報を用いた分析が行えるだろう。

Page 101: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 100

●・深掘り分析例 第5回(7月30日)分科会・テーブル2-テーマC

状況:欠席企業あり。テキスト分析結果をもとに、ビジネス化アイデア出し。別日に再協議。

フェーズ Ph.1 Ph.2 Ph.3 Ph.4 Ph.5 Ph.6 Ph.7 Ph.8 Ph.9 Ph.10 Ph.11 Ph.12 Ph.13 Ph.14 Ph.15 Ph.16 Ph.17 Ph.18 Ph.19 Ph.20

グループ 1 1 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 4 4

会話 会話 生産 生産 生産 生産 会議 会議 会議 会議 会議 会議 語 語

自己 自己 会議 会議 会議 会議 決定 決定 決定 決定 決定 フェーズ フェーズ

全体 全体 場 場 場 議事録 議事録 議事録 議事録 議事録 イベント イベント

イトーキ イトーキ 発言 発言 発言 会 会 会 会 推定 推定

コサイン コサイン テーブル テーブル テーブル 意思 意思 意思 意思 単純 単純

尺度 尺度 仕組み 仕組み 仕組み 時間 時間 時間 時間 時系列 時系列

システム システム モデル モデル モデル 委員 委員 委員 ログ ログ

時間 時間 意味 意味 意味 トピック トピック トピック 会 会

検索 検索 イメージ イメージ イメージ 議論 議論 議論 共通 共通

クリック クリック 指標 指標 社長 社長 大体 大体

最後 最後 室 室 研究 研究 自分 自分

共通 共通 音声 音声 共通 共通 イトーキ イトーキ

ファシリテーター

ファシリテーター

方式 方式

アラート アラート 普通 普通

モニター モニター 語彙 語彙

インタラクティブ

インタラクティブ

内容 内容

支援 支援 パターン パターン

問い 問いミーティング

ミーティング

イトーキ イトーキ 計画 計画

ファシリテーション

ファシリテーション

紹介 参加 コンセプト ロボットオブジェク

トブレーンストーミング

ビジュアライ

ゼーション ヒント 沈黙ビジネスモデ

ルキャンバス 教授 嫌 推移 汎用 意見 総会 会議 収束 グループ キャッシュ

言葉 成功 GLOCOM 発話 カフェ 階 プロセス ネガティブ 逆 類似 議事録 TODO 組織 単位 手前 調和 論文 日ワークライフバランス

ケータイ

モデル 回数 表示イノベーティブ

ワールド 使い方 チャット ポジティブ 大事ワークショップ

シェア ドラフト 複数 母数 本質 予定 鈴木健 事態 不動産 メディア

色 出現 無駄 坊さん 要素 豊富 共同 判定ファシリテーター

ブラザー 機能 辞書 意識 順番 会社 株主 抽出 発散 解析ユー・アンド・アイ

単語 重み 横 テープ 定義 閾値 合意 アンカー 不動産 グループ ボタン 状態 把握 分量 企業 国 調子 アイデア 話題 可能

ファイル 類似 状況 場面 参加 語彙 全部 会話 意味 ビッグ リーダー ツール フェーズ 一般 発言 殺伐 部門 企業 IC DB

国際 流れ 時間 具体 機能 意思 方法 メモ 相関 対立 介入 流れ 最初 共有 カテゴリー 世界 本 定例 アプリインターフェース

実践 テーブル 会話 自動 おとなしめ 決定 解析 形容詞 問い 優秀 参加 話題 意味 種類ヒエラルキー

報酬 魔法 おしゃべり オフィス グーグル

将来 評価タグクラウ

ド特定 アンケート PL ばらばら 有意 イメージ

ファシリテーター

班 色 発言 テーブル 該当 取締役 研究クリエーティブ

ディレクター オプション スマホ

想起コンソーシアム

タッチパネル

認識 オープン SYNQAアルゴリズム

エージェント

温度 あり方 USB NG 作成 エクセル 決裁 会社 言葉 コスト サーバーデータベース

大学 リスタートマイクロソフト

AI マインドアウトプッ

トスキーム テーマ 検索 お菓子

コントロール

PC 指定 位置づけ 固定 GLOCOM 結論バリエーション

レコーダー

中間レジューム

マッチ サポート 意欲 インプット チームタグクラウ

ド流れ お告げ

ダイバーシティ

縦 印象 公平 ブレストプロジェク

ト緊急

変遷 レポート ユーザー タイミングダッシュボード

クリア 場合 オンライン 順 課題 企業 表現

一様リアルタイ

ムピアラーニング

テンプレート

キック 期待 共有 状態

活用あからさま

代表度 0.860312 0.877857 0.881523 0.663547 0.561604 0.968913 0.78625 0.45779 0.480069 0.526565 0.632048 0.710706 0.809983 0.861163 0.818666 0.85629 0.649463 1 0.604458 0.534702

発散度 0.859649 1 0.859649 0.719298 0.596491 0.719298 0.77193 0.684211 0.438596 0.754386 0.719298 0.666667 0.385965 0.385965 0.578947 0.719298 0.684211 0.421053 0.385965 0.45614

グループを特徴づける語

各フェーズにおける重要語

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p. 101

●考察

参加企業間で、扱うデータ、分析方針、検討テ

ーマなどがすでに確立しており、分析成果のビジ

ネス化に向けた検討が行われた回である。

全体は4つのグループに分かれている。単語グ

ループ3が、もっとも多くのフェーズを含んでい

る。グループ3の「グループを特徴づける語」に

は、「会議」「議事録」「トピック」「時間」「社長」

などがある。会議ログ分析を行うことから考えて、

漠然とではあるが、会議ログから議事録を作成す

る助けになる技術のことや、その際のトピックの

選び方について議論していることが伺える。実際

に対話ログでは、会議中の時間の使い方や、発言者の情報の使い方などが議論されている。

トピックの割り当てられていないフェーズが、グループ3を分断するように、フェーズ8~11まで

ある。対話ログを確認したところ、テキスト分析で一般的に用いる技術についての質疑が行われてい

るフェーズで、一時的に話題が本題から遠ざかっていた。もっとも、フェーズ8、10、11は発散度も

高くなっており、その後のテーマ探索としても上手く機能したと考えられる。

代表度と発散度を見ると、フェーズ18の代表度が最高値で、フェーズ19、20から数値が下がる。

実際のワークショップでは、フェーズ18が、テーブルごとの議論のまとめを参加者全体に向けて発表

する部分に相当する。またフェーズ19の時点で、遅れた参加者が到着し、その参加者に改めて概要を

説明している。このため、代表度の低下が起きたと考えられる。

Page 103: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 102

分科会の参加企業・テーブル配置(例)

●第02回分科会(7/30)

会場:イトーキSYNQA・2F・セミナールーム

※各テーブルには録音機を一台ずつ設置

●第03回分科会(8/17)

会場:イトーキSYNQA・2F・セミナールーム

※各テーブルには録音機を一台ずつ設置

●第04回分科会(9/28)

会場:イトーキSYNQA・2F・セミナールーム

※各テーブルには録音機を一台ずつ設置

●第05回分科会(10/26)

会場:国際大学GLOCOM・会議室

※各テーブルには録音機を一台ずつ設置

●第06回分科会(12/3)

会場:テコラス株式会社・新宿イーストサイドスクエア13階

※各テーブルには録音機を一台ずつ設置

Page 104: データエクスチェンジコンソーシアム 事業報告書(PDF形式:5767KB)

p. 103