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「クラウドの利活用促進のための自立的なネットワーク 形成と新たなビジネスモデルの構築に関する調査等」 調査報告書 平成 25 年 3 月 独立行政法人 情報処理推進機構

調査報告書 (PDF:1.2MB)

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「クラウドの利活用促進のための自立的なネットワーク

形成と新たなビジネスモデルの構築に関する調査等」

調査報告書

平成 25 年 3 月

独立行政法人 情報処理推進機構

Page 2: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

i

【 目 次 】

第 1 章 事業の概要 ....................................................................................... 1

1-1 背景と目的 ....................................................................................... 1

1-2 事業の内容 ....................................................................................... 2

第 2 章 事業の実施結果 .................................................................................. 3

2-1 各地域の取り組み ............................................................................... 3

2-1-1 北海道地域 .................................................................................. 3

2-1-2 関東地域 ..................................................................................... 5

2-1-3 中部地域 ..................................................................................... 8

2-1-4 近畿地域 ................................................................................... 12

2-1-5 中国地域 ................................................................................... 16

2-2 各地域の現状 ................................................................................... 22

2-2-1 中小 IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネットワーク

形成について ........................................................................................ 22

2-2-2 事業化に向けた自立型ビジネスモデルの構築について ............................ 24

2-2-3 IT コーディネータ等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチングについて

25

2-2-4 地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘とクラウドサービスの活用について 26

2-3 地域独自の取り組み・革新的な成果等 .................................................... 27

2-3-1 北海道地域 ................................................................................ 27

2-3-2 関東地域 ................................................................................... 27

2-3-3 中部地域 ................................................................................... 29

2-3-4 近畿地域 ................................................................................... 30

2-3-5 中国地域 ................................................................................... 31

第 3 章 まとめ ........................................................................................... 32

3-1 現状の課題 ..................................................................................... 32

3-1-1 IT・クラウド利活用の現状(ベンダ・ユーザそれぞれの進展状況) ........... 32

3-1-2 IT を活用した中小企業の経営基盤強化策の進展状況などについて .............. 32

3-1-3 中小企業のクラウド利活用推進のためのコミュニティの活動 .................... 33

3-1-4 受託開発型の多重下請構造からの脱却に係る現状 ................................. 33

Page 3: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

ii

3-1-5 新ビジネスの展開状況(ユーザとベンダの協業等) ............................... 34

3-2 今後の方向性 ................................................................................... 36

3-2-1 中小 IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネットワーク

形成について ........................................................................................ 36

3-2-2 事業化に向けた自立型ビジネスモデルの構築について ............................ 36

3-2-3 IT コーディネータ等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチングについて

37

3-2-4 地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘とクラウドサービスの活用について 37

3-3 まとめ ........................................................................................... 39

別添 1 北海道地域調査報告書

別添 2 関東地域調査報告書

別添 3 中部地域調査報告書

別添 4 近畿地域調査報告書

別添 5 中国地域調査報告書

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1

第1章 事業の概要

1-1 背景と目的

我が国経済の発展には、それを支える中小企業の生産性向上や競争力強化が大きな原動力で

あり、企業活動に大きな影響を与える IT 利活用の重要性は高まっている。今後、中小企業が

更なる IT 経営の実践促進を図るためには、発展・普及が進むクラウドコンピューティングを

背景にしたサービスの効果的な活用が重要なポイントになる。また、IT ベンダにおいても、ク

ラウドコンピューティングに適応したサービスへの変革が必要とされる。

本事業においては、中小企業におけるクラウドコンピューティングの利活用促進を軸に、IT

ベンダと ITユーザである中小企業とが協業関係を構築できるよう支援機関を巻き込みながら、

自立的なネットワークを形成し、当該ネットワークを通じた IT 利活用による新たなビジネス

モデルの構築、地域ビジネスの創出を実現することに資することを目的として調査等を実施し

た。

また、我が国企業におけるクラウドコンピューティングの利用に関しては、いくつか調査が

行われているが、経済産業省が公表している「平成 23 年度情報処理実態調査1」によると、平

成 22 年度の「クラウド・コンピューティング利用率(クラウド・コンピューティング関連費

用が『発生した』と回答した企業の割合)」は前年度の 9.7%から 16.0%と拡大しており、今

後におけるクラウド・コンピューティングの利用意向では、半数を超える企業が具体的な利用

予定又は関心を持っており、今後のその利用が拡大する可能性が示唆されているという結果が

報告されている。

(出典:「経済産業省 平成 23 年度情報処理実態調査」)

1 http://www.meti.go.jp/statistics/zyo/zyouhou/result-2/h23jyojitsu.html

図表 1 クラウド・コンピューティング関連費用の発生状況の推移

6.6

7.1

8.4

7.6

9.7

16.0

93.4

92.9

91.6

92.4

90.3

84.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

H18*

H19*

H20*

H21*

H21

H22

調査対象年度

クラウド・コンピューティング)関連費用の発生状況の推移

発生した 発生しなかった

(注)

1.「*」は、SaaS 関連費用に関する各設問の回答状況を表示。

2.平成 22 年度の回答企業数は、4,593 社。

Page 5: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

2

1-2 事業の内容

全国の 5 地域において、下記 4 項目を趣旨として、これまでの地域関係機関等における検討

経緯やそれぞれ地域毎に異なる実情、実態を踏まえた調査、研究を行い、結果を調査報告書と

して取りまとめた。

(1) 中小 IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネットワーク形成に

ついて

(2) 事業化に向けた自立型ビジネスモデルの構築について

(3) IT コーディネータ等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチングについて

(4) 地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘とクラウドサービスの活用について

各地域の取り組み概要を以下に示す。

地域 取り組み内容 実績 概要

北海道地域 北海道食関連産業クラウド利

活用ネットワーク研究会

4 回開催 自立的ネットワークの構築ガイドライン、効果的な

マッチング手法等を検討

クラウド導入マッチング会 1 回開催 ユーザ産業と IT ベンダとのマッチング

関東地域 関東地域クラウド事業研究会 3 回開催 活動情報等の共有と自律的ネットワーク形成等

事例調査 22 件 参考にすべき活動実施関係者へのヒアリング

中小ユーザ IT ニーズ調査 99 件 中小ユーザの IT ニーズを調査

中部地域 クラウド型 EDI 普及ビジネス

モデル事業化研究会

4 回開催 中小企業の海外展開に対応した EDI サービスの展開

トリプル SaaS 事業化研究会 4 回開催 IT ベンダと ITC の協業ビジネスモデル創出を検討

IT 経営モデルケース調査 10 件 クラウド活用モデルケースを調査

ベンダ間連携マッチング 3 回開催 SaaS アプリケーションの拡充と事業連携

ユーザマッチング 2 回開催 クラウド利活用の効用と支援体制のアピール

近畿地域 中小ユーザ IT 利活用研究会 3 回開催 金融機関と連携した IT ユーザ発掘等を検討

関西クラウド研究会 3 回開催 IT ベンダが連携した SaaS 提供モデルを検討

ベンダ連携交流会 1 回開催 新たな SaaS サービス提供の方策を検討

中国地域 全体会議 2 回開催 テーマ別研究会の総括等と自立的ネットワーク等を

検討

テーマ別研究会(製造業) 2 回開催 組込みシステムのビジネスモデル等を検討

テーマ別研究会(サービス) 3 回開催 ソリューションのベストミックスを検討

テーマ別研究会 (小規模ベン

ダ)

4 回開催 小規模ベンダのクラウドサービス参入を検討

テーマ別研究会(SNS) 4 回開催 SNS を活用した IT ベンダの情報発信を検討

図表 2 各地域の取り組み概要

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3

第2章 事業の実施結果

2-1 各地域の取り組み

本事業は、地域ごとに取り組み内容やアプローチ方法には特色があり事業に参加した様々な

関係者も異なっているが、各地域で自立的なネットワークを形成し新たなビジネスモデルの構

築を推進するという大きなテーマについては共通している。以下に各地域の取り組みについて

取りまとめた。なお、詳細については別添の地域調査報告書を参照されたい。

2-1-1 北海道地域

北海道地域は、ユーザとして道内の基幹産業の一つである食関連産業に着目し、中小の食関

連企業の IT 化促進と中小 IT ベンダの業態変革を図るために、自立的ネットワークの構築ガイ

ドライン、効果的なマッチングの手法等を検討する「北海道食関連産業クラウド利活用ネット

ワーク研究会」を開催し、また、ユーザ産業と IT ベンダとのマッチングを促進するために、

モデル的にマッチング会を開催した。

2-1-1-1 北海道食関連産業クラウド利活用ネットワーク研究会

(1) 目的

自立的ネットワークの構築ガイドライン、効果的なマッチングの手法等を検討するため、

学識経験者、ユーザ企業、IT ベンダ、関係団体等からなる研究会を設置した。

また、ユーザ産業と IT ベンダとのマッチングを促進するために、モデル的なマッチング

会開催に向け、参加者への周知方法、内容、当日のマッチング手法、効果等について整理し、

その結果を研究会で検討することで、より効果的なネットワーク構築手法、マッチングのあ

り方等を整理した。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 7 月 24 日(火)10:00~12:00

事業概要、意見交換 等

第 2 回 平成 24 年 9 月 4 日(火)10:00~12:00

マッチング会開催について、必要なコーディネート機能について 等

第 3 回 平成 24 年 11 月 6 日(火)10:00~12:00

マッチング会結果について、必要なコーディネート機能、方策等について 等

第 4 回 平成 24 年 12 月 10 日(月)10:00~12:00

報告書(案)について、クラウド導入ヒント集について

(3) 成果

研究会でのディスカッションやマッチング会、各団体等へのヒアリング結果等から、北海

道内の食関連企業へのクラウドコンピューティング導入促進を図り、食関連企業、IT ベンダ、

業界団体・支援機関それぞれが有機的に連携するネットワークを構築・維持するためのガイ

ドラインとして、そのネットワーク形成の現状と課題、今後の方策等を取りまとめた。

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4

効果的なマッチングの手法の検討を行うとともに、モデル的に実施したマッチング会開催

に向け参加者への周知方法等の整理を行った。

議論の中で挙がったユーザ向けクラウド導入ヒント集について、作成に向けた方向性の整

理を行った。

(4) 課題

IT を本格的に活用していない企業は、何から手を付けたら良いか分かっていないこと

が多い。ユーザが IT を使って何をしたいのかが明らかになっていない。

食関連産業への知見を有する IT ベンダが少なく、「IT を使うとこんなことができる」

という具体的な提案が少ない。

マッチング会等を実施するにあたり、その内容については、参加する食関連企業の規模

や業種業態、IT やクラウドに対するニーズ等により、いくつかの段階に分けることが

望ましい。

クラウド導入ヒント集は、発展させるためにもユーザのコメントが入っているとさらに

良い。

2-1-1-2 クラウド導入マッチング会

(1) 目的

ユーザ産業と IT ベンダとのマッチングを促進するために、モデル的にマッチング会を開

催した。

(2) 実施概要

【日時】平成 24 年 10 月 30 日(火)13:30~17:00(交流会 17:00~)

【名称】クラウド導入マッチング会

「北海道食関連産業発展のためのクラウド利活用を考える」

【プログラム】

・食産業の利用事例「我が社のクラウド導入の労力と効果」

・「クラウドで何ができるのか」

・ディスカッション「クラウド導入に向けた課題と食関連企業- IT 企業間ネットワ

ークのあり方」

・交流会

【内容】

①食関連事業者からの導入事例報告

明石市の海苔加工販売事業者 CIO から「IT を知らない CIO(私)と PC1 台の

会社の IT 化(と受賞)~ひょっとしてクラウドのおかげ?~」と題して事例紹介。

②IT ベンダによるプレゼンテーション

「クラウドで何ができるのか」と題して、3 社から簡単なプレゼンを実施。

③ディスカッション

「クラウド導入に向けた課題と食関連企業- IT 企業間ネットワークのあり方」

と題して参加者同士のディスカッションを実施。主に食関連企業側からクラウド導

入にあたっての疑問等が提示され、それに対して IT ベンダ側が回答する形。

食関連企業側からは、

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5

○クラウド化検討にあたり、安定性、安全性、サービスの継続性が心配

○安定性を取るなら大手の IT ベンダが安心か

○クラウド導入にあたって気をつけることは何か 等

が疑問として提示された。

(3) 効果、課題

食関連企業の自発的な申込みは少なく、ある程度クラウド導入の意識の高い企業、IT 化等

に課題を抱えている企業を委員等からの紹介により絞り込み、参加を募った。今後、告知方

法や会自体の内容等を考慮する必要がある。

IT ベンダによるプレゼンは、ユーザ側参加者の IT やクラウドに関する知識や業種等が事

前に不明であったため、専門用語の説明や、導入事例の選定などに苦慮した面もあった。今

後は、食関連企業のニーズをあらかじめ把握したうえでプレゼン企業を選定する、などの調

整が必要。

全体を通じては、食関連企業からは「事例報告、プレゼンが参考になった」「これからは

参加した IT ベンダに相談したい」という声があり、IT ベンダ、コーディネータ側からも「具

体的な不安点が提示され、それらに対するソリューションをどう提示していくか」「費用対

効果の具体的な提示が重要」といったヒントが得られたことから、このようなマッチングの

機会は、食関連企業と IT ベンダのネットワークを構築していくうえで効果のある場である

ことが明らかとなった。

ディスカッションの時間をもっと確保する、個々の相談を別部屋で個別に開催する、とい

ったことでより具体的な効果が得られた可能性もある。

2-1-2 関東地域

関東地域は、地域の自律的活動の推進をサポートするため、具体的には、中小企業支援機関、

専門家組織、情報産業団体などによる地域事情に即した支援について、それがより円滑に進む

よう連携をサポートするために、活動情報、課題、成果の共有と自律的ネットワーク形成等を

目的とした「関東地域クラウド事業研究会」や、参考にすべき活動実施関係者へのヒアリング

を行った事例調査、中小ユーザの IT ニーズを調べた IT ニーズ調査を実施した。

2-1-2-1 関東地域クラウド事業研究会

(1) 目的

活動情報、課題、成果の共有と自律的ネットワーク形成や、IT ニーズ調査の進捗と活用方

法の共有を目的として研究会を開催した。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 8 月 1 日(月)15:00~17:00

事業説明、支援事例紹介、ニーズ調査の募集告知、メンバー情報共有

第 2 回 平成 24 年 10 月 29 日(月)15:00~17:30

ニーズ調査実施機関より報告、支援事例紹介、メンバー情報共有

第 3 回 平成 24 年 12 月 17 日(月)15:00~17:25

事業報告、ニーズ調査実施機関より報告、地域活動事例紹介

※ 研究会を補完するものとしてホームページを開設。これを見て新たな参加者が出る

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6

など情報公開・共有に活用された。

また、Facebook 等で事務局の活動状況や各地を訪問した実感を発信し、フランク

な形でも情報共有を進めた。(連絡手段としても Facebook は適宜活用された)

(3) 成果

関東全域(一都十県)が結集した

地域を越えた情報共有によりそれぞれの活動を充実させた

活動実績ケーススタディの共有

支援機関、専門家、IT ベンダなどの交流が地域活動へ反映

県の担当者が参加した地域では、県施策との連携にもつながった

(4) 課題

問題意識が深い地域同士のワーキンググループ(WG)等、もう一歩進んだネットワー

クづくりも求められる。

全都県からの参加者があったが、県、支援機関、専門家、情報産業団体全てが集まって

いる地域もあれば、1 団体のみの地域もある。地域支援機関へのさらなる理解を深める

活動や、地域連携をサポートする活動が必要である。

(5) 検討委員会について

研究会では、中小ユーザ IT ニーズ調査を各地の活動にどう生かすかを議論するため、ま

た調査から得られた論点を深めるための意見交換の場として、別途、検討委員会を設置した。

検討委員には、調査を 3 テーマ実施した各支援機関の担当者に就任依頼した。

開催実績は、以下のとおり。

第 1 回 平成 24 年 10 月 29 日(月)14:00~14:50

第 2 回 平成 24 年 12 月 17 日(月)13:30~14:40

2-1-2-2 事例調査

(1) 目的

本事業にとって、参考になる取り組みを展開している地域の関係者(支援機関、IT ベンダ、

専門家、ユーザ等)に具体的な歩みと成果についてヒアリングを行い、今後の取り組みに生

かすことを目的として実施した。

(2) 実施概要

【期間】平成 24 年 9 月~11 月

【対象】本事業の参考になる取り組みを行っている機関等(22 件)

(3) 成果

得られたポイントは以下のとおり。

ニーズ調査に参加した IT ベンダについては、ビジネスに前向きな傾向、自身でサービ

スを開発しユーザとビジネスをしようという意欲がある。

情報産業団体については、活動の活発さや参加団体数など、地域によってかなりの違い

がある。本事業に参加している団体は、「意欲的な担当者がいる」又は「県など地域連

携ができている」ところが中心。情報産業団体には、地域連携を進めることがユーザと

の接点づくりのカギになる。

(4) 課題

Page 10: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

7

情報公開をすることで、地域のモチベーションも上がる。コンパクトでも冊子化するな

どして、集めた情報をたくさんの人に見てもらえるようにしたい。

12 月上旬の段階では、各地の事業が本格的に展開されていないので(1 月以降にかな

り行事がある)、今年度の活動詳細や成果部分のヒアリングは叶わなかった。

2-1-2-3 中小ユーザ IT ニーズ調査

(1) 目的

調査のテーマは下記の 2 点とした。

IT ベンダが具体的なサービスを提示し、これについてユーザの反応をヒアリングする

「IT ベンダマーケティング調査」

地域ごとの産業ニーズや今後 IT 活用が有効と思われるニーズを発掘する「地域ニーズ

調査」

IT ベンダマーケティング調査は、IT ベンダが自社で販売企画をしている商品に関連した

分野について市場の評価を聞くことを目的とする。実施方法として、専門家による客観的な

ヒアリングを行い、その場に IT ベンダが同席することで、市場性の検討、販売戦略の考案

に役立てる。

テーマの詳細に関しては、地域のベンダ、専門家、支援機関が自身の活動に関係のあるも

のを独自に設定し、この調査の実施を通じて、地域支援がより深耕し推進されることを狙い

とした。

(2) 実施概要

IT ニーズ調査は、11 都県全域において 14 の支援機関のハンドリングで実施した。

【期間】平成 24 年 10 月~12 月

【対象】ユーザ企業(99 件)

・IT ベンダマーケティング調査 (5 地域―9 テーマ―27 社)

・地域ニーズ調査 (9 地域―24 テーマ―72 社)

調査内容から見出されたことは以下のとおり。

農業など新分野への取り組みの有効性

位置情報や地図情報などロケーションに着目した IT サービスの可能性

地域小規模企業への、「売上があがる IT 活用」支援の重要性

(3) 成果

①枠組みの利用

調査の実施にあたり支援機関と専門家の相談が行われ、連携推進に貢献した。

並行している地域内事業の基礎資料として活用し事業の推進に貢献した。

②ベンダメリット

IT ベンダが初めて IT コーディネータ(以下「ITC」という。)と一緒に仕事を行った地

域があり連携を実現。

調査に同席した IT ベンダからは、専門家が営業目的でないヒアリングをすることによ

り、顧客の本音や実態がわかって非常に参考になったとの声が出ている。また、専門家

のヒアリング手法そのものが勉強になったという声もある。

顧客の声を聞くことで多くの情報を得られることを発見。こうしたヒアリングを継続し

Page 11: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

8

たいと感じた情報産業団体もあった。

調査をきっかけとした相談案件が数地域で発生した。

③専門家メリット

専門家が今まで支援していない業種・規模の企業の実態を知り、支援力を上げることに

つながった。

クラウドサービスを「必要ない」という企業もあり、全ての企業に IT を勧めるのは無

理があることが分かった。段階別にアプローチする必要性が見出された。

(4) 課題

実施手段として以下の課題が挙げられた。

IT ベンダマーケティング調査では調査対象となるユーザが見つからない問題が生じた。

アプローチには地域機関内の連携が不可欠。短期事業では、連携を模索する時間が確保

できない課題がある。

調査については専門家個人のスキルにより内容の深まりが変わる。本来であれば、担当

者への説明会を開くなどが必要であろう。

調査期間が短く、終わらせるために逆算して動かざるを得なかった。各地域において他

の事業と連携する時間が確保できないこともあった。

お互いの調査を交換する時間や他地域との情報交換の時間を設けると有効である。

2-1-3 中部地域

中部地域は、これまでの地域関係機関等で実施した調査・研究事業から得た成果を踏まえ、

地域の実態に応じた中小企業におけるクラウドの利活用促進、自立的なネットワーク形成と新

たなビジネスモデルを構築するため、クラウド型 EDI2の普及ビジネスモデルの事業化に資す

ることを目的とした「クラウド型 EDI 普及ビジネスモデル事業化研究会」と、IT を活用した

中小企業の経営力強化に資することを目的とした「トリプル SaaS3事業化研究会」を実施した。

2-1-3-1 クラウド型 EDI 普及ビジネスモデル事業化研究会

(1) 目的

クラウド型 EDI の普及ビジネスモデルの事業化に向け、これまでの実証における成果を

より活用できる分野として、海外現地企業との取引など「中堅中小製造業の海外展開」に注

目し、その IT サポートに主眼を置いたクラウド型 EDI サービスの提供可能性について調査

を行った。

この中で、海外の現地日系企業と海外進出を行っている日本国内企業の双方への IT 経営

モデルケース調査と、これまでの調査で得られた成果を活かし、ユーザ企業、IT ベンダ、ITC

などを対象にしたマッチング事業を併せて実施した。

①研究会の開催(4 回)

②IT 経営のモデルケースに関する調査(7 事例)

③マッチングセミナーの開催(ユーザ企業向け/ IT ベンダ・ITC 向け各 1 回)

2 EDI: electronic data interchange / 異なる組識間で、取引のためのメッセージを、通信回線を介し

て標準的な規約を用いて、コンピュータ間で交換すること。 3 トリプル SaaS=ソフト、サービス、サポートの 3 つの SaaS を指す

Page 12: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

9

調査にあたっては、①クラウド型 EDI 連携モデルの海外取引への展開、及び②グローバ

ルサプライチェーンをサポートするアプリケーション連携について、現地調査をもとに検討

を行った。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 7 月 27 日(金)13:00~16:00

事業概要説明、事業計画策定

第 2 回 平成 24 年 9 月 5 日(水)14:00~16:00

調査事業方針と課題検討 等

第 3 回 平成 24 年 10 月 17 日(水)14:00~17:00

事業進捗報告と事業化検討、各委員調査報告と課題検討

第 4 回 平成 24 年 12 月 6 日(水)13:30~16:00

事業活動報告・セミナー報告 等

マッチングセミナーについては以下のとおり。

①中小企業ユーザ向けセミナー(※トリプル SaaS 事業化研究会と共同開催)

【日時】平成 24 年 11 月 12 日(月)13:30~17:00

【名称】「安心・安全のクラウド導入提案セミナー」

【プログラム】

・クラウド型 EDI の普及に向けた取り組みと海外進出企業の IT 化調査報告

・導入事例

・ディスカッション「クラウド活用の効用と課題」

②IT ベンダ・ITC・データセンター向けセミナー

【日時】平成 24 年 12 月 3 日(金)13:30~16:30

【名称】「クラウドビジネスの日系海外進出企業向け事業展開セミナー」

【プログラム】

・基調講演

・研究会報告

・クラウド型 EDI 普及研究会 今後の取り組み

(3) 成果

本事業の調査により、海外展開に対応したクラウド型 EDI サービス提供のあり方とビ

ジネス展開としては、次の 2 つが考えられる。

①実績のある「国内クラウド EDI サービス」をベースとした、海外進出日系企業対象の

「現地クラウド型 EDI+アプリケーション連携」を提供できると考える。海外でも多画

面化、多端末化を未然に防ぐべく、また、国内との連携を進展させるためにも、国際標

準(国連 CEFACT 標準等)準拠のものを採用する必要がある。また、海外と海外にお

けるクラウド連携についても同様である。

②ASEAN 諸国については今後数年以内に IT インフラが急速に整備されることとなって

いる。現地通信インフラの改善を前提に、取引関係グループ企業の情報共有連携サービ

スを「国際間クラウド」で提供できると考える。

(4) 課題

Page 13: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

10

現地調査に基づく考察の結果、海外進出している中堅・中小企業にとっては貿易取引にお

ける情報連携ニーズにより、進出先となる現地の情報化ニーズが高い。また、国境を越えた

クラウドによる情報連携については、現地における通信インフラ(ブロードバンド)の脆弱

性が課題である。

①日本国内企業と海外取引先との情報交換

国境を越えた国際 EDI は、主に大企業間の国際取引が主流となっており、限定された

国際 EDI サービス事業者(例えば海外大手 VAN 業者)の独壇場である。

よって、日本国内の地域 IT 事業者が当分野に参入するには障壁が高い。

②日本国内企業と海外グループ企業との情報交換

高度な機能を連携する統合グループウェアは、それを提供する特定の IT ベンダ製品に

依存し、外部との相互運用性が問題となる。企業間情報共有においては、標準に則ったシ

ンプルなサービス(EDI、DB 共有、スケジュール管理等)の組み合わせをクラウド上で

実現することが望まれる。

③日本企業の海外進出先における現地企業間 EDI

中堅・中小企業を対象にした海外現地法人ヒアリングによれば、現地企業におけるニー

ズは、現地取引における情報化支援が主体となることが考えられる。

現地企業の情報化は、生産管理を中心とする社内のシステム化が進められている段階で、

EDI 化は一部の大手企業との取引における Web-EDI に留まっている。

④通信インフラ

現地ヒアリングによれば、インターネットへのアクセス・スピードが遅く、クラウド活

用や国際ネットワーク利用を阻害する原因となっている。現地でクラウド型サービスを提

供しようとする場合は、そのインフラ・ネットワークを提供できる大手通信サービス事業

者と連携して進める必要がある。

2-1-3-2 トリプル SaaS 事業化研究会

(1) 目的

中部地域において、クラウドコンピューティング技術など IT を活用した中小企業の経営

力強化を図るため、平成 23 年度から「トリプル SaaS 研究会」を発足させ、地域の ITC と

IT ベンダが協業体制を組んだクラウドサービス提供のビジネスモデル構築に取り組むこと

で、これまでに以下の成果を得た。

ネットワークの核となる連携体の構築、ビジネスの方向性・課題の共有

協業サービスを活用したモデル事例(3 モデル)の創出

連携のための共通基盤(ポータルサイト)の構築

本事業では、これまでの活動成果を活かしながら、事業化に繋げるため、収益モデルを含

めた IT ベンダと ITC の協業体制の構築、顧客獲得に向けたサービスメニューの検討など、

ビジネスモデルの深掘りを行うとともに、ネットワーク拡大に向けたマッチング事業と IT

経営のモデルケース調査を併せて実施した。

①研究会の開催(4 回)

②IT 経営のモデルケースに関する調査(3 事例)

③マッチングセミナーの開催(ユーザ企業向け/IT ベンダ・ITC 向け各 2 回)

Page 14: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

11

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 6 月 15 日(金)14:00~16:00

事業化に向けたプラン(案)検討、事業計画策定

第 2 回 平成 24 年 9 月 28 日(金)10:00~12:00

事業進捗報告と課題検討 等

第 3 回 平成 24 年 10 月 26 日(金)10:00~12:00

調査モデル 3 社の実施状況と課題検討 等

第 4 回 平成 24 年 12 月 14 日(金)10:00~12:00

事業活動報告 等

マッチングセミナーについては以下のとおり。

①中小企業ユーザ向けセミナー

【日時】平成 24 年 9 月 7 日(金)10:00~17:00

【名称】「しんきんビジネスフェア 2012」

【プログラム】

・演題:「IT を活用し儲かる仕組みをつくりませんか」

・セミナー概要

②中小企業ユーザ向けセミナー

(※クラウド型 EDI 普及ビジネスモデル事業化研究会と共同開催)

【日時】平成 24 年 11 月 12 日(月)13:30~17:00

【名称】「安心・安全のクラウド導入提案セミナー」

【プログラム】

・中小企業向けクラウド活用支援体制(トリプル SaaS)のご紹介

・導入事例

・ディスカッション「クラウド活用の効用と課題」

③IT ベンダ・ITC 向けセミナー

【日時】平成 24 年 11 月 16 日(金)13:30~17:00

【名称】「地域 IT ベンダーの供給力強化セミナー」

【プログラム】

・基調講演

・中小企業向けクラウド活用支援体制(トリプル SaaS 研究会)の活動報告

・ディスカッション「中小企業 IT ベンダーと ITC 連携事業の進め方」

④IT ベンダ・ITC 向けセミナー

【日時】平成 24 年 11 月 19 日(月)13:30~17:00

【名称】「IT ベンダー向け会社力強化セミナー」

【プログラム】

・トリプル SaaS 研究会のご紹介

・導入事例紹介

・地元クラウド・データセンター活用のススメ

・クラウドサービスの事例紹介

・ディスカッション「地元 IT ベンダーに必要なインフラサービス提供の是非」

Page 15: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

12

(3) 成果

ビジネスプランの策定

トリプル SaaS の事業化に向け、連携体制、サービスメニュー、収益モデルに関する企

画案を取りまとめた。

また、地域に根差した『顔の見えるクラウド』を実現するための「クラウドマーケット

プレイス構想」についての検討を行った。

(4) 課題

ビジネス拡大に向けた課題対応

本事業化は、サービスメニューの充実とともに、中部地域のあらゆる中小企業、業種に

対応していくために連携体を拡大していくことが事業化の重要課題と捉えている。大手

SIer の組織力、技術力を凌駕し廉価で柔軟な対応力を持つことが中小企業の IT 経営支援

に繋がるものであり、本事業目的である IT ベンダ、ITC 連携ビジネスが成功する条件で

もある。

当面は、自律分散活動ができる緩やかな組織体のままで研究を深掘りさせていき、さら

には、次項で説明するマーケットプレイス構想の実現など、地域に根差したクラウド事業

を発展させるために、大手 ITベンダや SIerとの事業連携も視野に入れていく必要がある。

クラウドマーケットプレイス構想

本研究会が対象としているユーザは、大手のクラウドコンピューティングサービスの提

供企業等とは全く異なり、IT 経営を目指している中小企業、IT 人材不足や経営課題を持

った中小企業である。

提供するサービスは、地域に根差した『顔の見えるクラウド』であり、対面サービスが

充実したマーケットプレイスの構築を目指している。

また、ユーザ企業の利便性のみならず、参加 IT ベンダのクラウド開発環境の提供など

も目的に、クラウドマーケットプレイスの構築を考えている。

ただし、このマーケットプレイスの実現には安定した事業体制が前提にある。市場のマ

ーケットプレイスとの競合、地域に根差した『顔の見えるクラウド』の優位性の確保など

課題も多い。連携体として着実な成果を挙げながら事業化の実現に向けて慎重に取り組ん

でいくことが重要である。

2-1-4 近畿地域

近畿地域は、地域の金融機関と ITC や IT ベンダ等が連携して IT 案件の発掘から支援、IT

投資までのスキーム構築を検討する「中小ユーザ IT 利活用研究会」と、関西地域における IT

ベンダがクラウドビジネスへ参入する際の課題と考えられる「新たな SaaS ソリューションの

構築」について検討する「関西クラウド研究会」の 2 つの研究会によって自立可能なビジネス

モデルの構築に関する調査を実施した。

2-1-4-1 中小ユーザ IT 利活用研究会

(1) 目的

Page 16: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

13

IT 活用による経営改善を希望するユーザ企業からの相談を増やすことを目的として、金融

機関 8 行などから委員を招き、座長・アドバイザー・オブザーバー及び事務局を含め合計

30 名からなる研究会を組織し、3 回にわたって IT 利活用を促すための方策を検討した。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 7 月 27 日(金)15:00~17:20

研究会概要、IT 経営ガイドブック改訂版について 等

第 2 回 平成 24 年 10 月 4 日(木)15:00~16:30

説明会の開催状況について、IT 化案件の進捗状況について 等

第 3 回 平成 24 年 12 月 19 日(水)15:00~17:00

報告書(案)について

(3) 成果

IT 活用に関する相談を促す手段として、経営に IT 活用が必須であることの気づきを促す

ためのガイドブック(「IT 経営ガイド」)を作成し、ユーザ企業へ広めるため、その利用方法

を金融機関法人営業担当者向けに説明会を開催した。その後、金融機関法人営業担当者が、

ユーザ企業に訪問して IT 活用が経営課題を解決できる手段となり得ることを紹介し、その

結果や担当者が感じた意見をアンケートに記入して頂き、金融機関との連携可否やその際の

有効な手法などを分析した。

なお、金融機関法人営業担当者向けに行った「IT 経営ガイド」の説明会では、内容に関し

て概ね理解できたとの意見が大勢を占め、参加者からは、IT を経営に活かすための活動を行

っていきたいとの前向きな意見があった。

<「IT 経営ガイド」活用後のアンケート結果>

各金融機関法人営業担当者にアンケートの協力を依頼し、結果を集計した。IT 経営を紹介

した結果、30%以上の取引先から経営相談があったとの回答を得た。一方で、直接 IT に関

する相談は、わずかな数であった。しかし、経営相談の中に IT 化で解決できる案件が潜在

的にあるかを見極める必要がある。

また、「IT 経営ガイド」を踏まえて、過去に受けた経営相談の中から、どのような分野の

相談に IT が役立つのかを聞いたところ「マーケティング」との回答が最も多かった。また、

先の取引先からの相談内容の結果と同様、「経営計画、経営改善計画など」との回答も多い。

法人営業担当者は「マーケティング」、「経営改善計画など」では、IT が役立つと考えており、

IT 活用の潜在的なニーズを確認することができた。

取引先向けに配布するチラシを要望する法人営業担当者が圧倒的に多い。その他の要望と

しては、「IT 経営ガイドに掲載の事例などについて、法人担当渉外向きに説明会を行なって

欲しい」との要望も多い。

現状の「e 相談所4 」システムにあったらよいと思われるサービスメニューについては「金

融機関から直接、専門家の情報を閲覧できる」機能を要望された回答が最も多い。次いで、

「他の金融機関の事例が投稿・閲覧できる」、さらに「顧客の相談事を『e 相談所』に投稿・

閲覧できる」が続く。「e 相談所」のシステムに格納されている情報、又はこれから格納す

4 e 相談所:IT を活用して経営改善や効率化を考える中堅・中小企業と IT ベンダや専門家とを引き合わ

せるために一般財団法人関西情報センターが開設した無料 Web サービス

Page 17: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

14

べき情報はオープンにし、システムの利用者が相互に情報を共有できる仕組みが望ましいと

いった意見が多く見受けられた。

<IT 化相談案件の状況>

平成 23年度から開始したこの活動を通じてこれまでに 15件の IT化相談案件が発掘され、

一部には IT 導入にまで至ったケースも輩出できたが、紹介企業を IT 導入段階へ勧めるため

には、専門家による支援が不可欠となることが分かった。しかしながら、多くの中小企業で

は資金面が脆弱であり、専門家を活用するための費用負担が困難な場合が多い。このために、

公的支援機関が運営する専門家派遣などの制度を活用するなど、ユーザ企業のニーズに応じ

て、ケースごとに既存の支援制度等を組み合わせ、効果的に活用する必要がある。

<IT 化案件の発掘から IT 化調達支援までの仕組み>

当研究会では、中小ユーザ企業が IT 化による経営課題の解決を模索する際、中小ユーザ

企業が IT の調達に至るまでの各プロセスを可視化し、それぞれのプロセスにおいて必要と

なる役割とその役割に応じて必要な機関・人材を用意し、中小ユーザ企業において特別なス

キルや知識がなくとも IT 化が進められるよう仕組みを構築した。

(4) 課題

IT 相談を増やすために解決すべき課題について整理した。

IT 相談企業の問題を整理して適切な IT 調達を促す役目を担う専門家との連携スキーム

を確立する必要がある。

企業の IT 導入の負担を資金面と体制面で軽減するために公的支援機関が運営している

専門家派遣など、公的支援制度を活用するためのスキームを確立する必要がある。

2-1-4-2 関西クラウド研究会

(1) 目的

今回の調査研究は、平成 23 年度の検討成果である「関西クラウド構想 5」のうちの「新た

な SaaS ソリューションの構築」の具体化を図ることとした。この検討にあたって、一般的

に BPM6 +SOA7 と知られている開発プロセスを応用することにした。

研究会の体制として、研究会と研究会で議論するための基礎資料を作成するワーキンググ

ループ(WG)の二部で組織を構成し、調査研究は次の 3 ステップで行った。

①関西のベンダが保有する SaaS ソリューションの調査

②集まった SaaS ソリューションをもとに SaaS ソリューション連携案の検討

③この検討プロセスの周知と実現課題を明らかにするためのベンダ連携交流会の開催

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 7 月 30 日(月)15:00~17:00

研究会の進め方等、中小ベンダが所有する SaaS 等サービスに関する調査(案) 等

第 1 回 WG 平成 24 年 8 月 29 日(水)15:00~17:00

5 関西地域のベンダがクラウドビジネスへ参入(クラウドサービスを提供)して、地域ユーザ企業の IT

化を促進し、地産地消型ビジネスモデルを構築することが目的であり、「①SaaS 開発・運用環境の提

供、②新たな SaaS ソリューションの構築、③地域ベンダの発掘、④関西発クラウド情報発信」の機

能を提供・支援することが必要であるという構想。 6 BPM=ビジネスプロセスマネジメント。ビジネスプロセスを見える化し業務改善するコンセプト。 7 SOA=サービス指向アーキテクチュア。ソフトウェアを部品化してシステムを柔軟に構築する手法。

Page 18: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

15

中小ベンダが所有する SaaS 等サービスに関する調査について 等

第 2 回 WG 平成 24 年 9 月 26 日(水)10:00~12:00

特定ビジネステーマの選定、ベンダ交流会の開催内容イメージ検討

第 2 回 平成 24 年 10 月 11 日(木)15::00~17:00

中小ベンダが所有する SaaS 等サービスに関する調査の回収状況に関する報告 等

第 3 回 WG 平成 24 年 10 月 19 日(金)10:00~12:00

ベンダ連携交流会にて議論すべき特定ビジネステーマの選定 等

第 4 回 WG 平成 24 年 11 月 20 日(火)10:00~12:00

ベンダ連携交流会の実施報告、報告書目次案の検討

第 3 回 平成 24 年 12 月 11 日(火)15:00~17:00

報告書(案)について、今後の具体的な連携に向けて

(3) 成果

研究会では、中小ベンダが所有する SaaS 等ソリューションに関する調査について、始め

に関西地域の中小ベンダに対して所有する SaaS等ソリューションのアンケート調査を実施

した。その結果を取りまとめ、SaaS 連携モデルの実現に向けての課題や解決策について取

りまとめた。

さらに調査結果から、始めに特定ビジネス分野を想定して、その分野におけるサービスの

テーマ、ビジネスモデル、狙いを設定し、次に業務機能を洗い出して、その機能を満たす

SaaS ソリューションを抽出した。

その結果、SaaS ソリューションの連携案として、「プロショップ向け小売」、「ものづくり

分野」、「建設業分野」、「ヘルスケア分野」の 4 分野について、ビジネステーマを設定した。

(4) 課題

SaaS 連携による新たなアプリケーションを構築するためには、大きく「ビジネス化のた

めの課題」、及び「技術的な課題」を解決する必要があることが明らかとなった。

今後は、SaaS 連携による新たなアプリケーション構築に向けて、具体的に地域のベンダ

や関係機関が連携し、各分野別勉強会を立ち上げる必要がある。

2-1-4-3 ベンダ連携交流会

(1) 目的

多様な業種の数多くの業務機能の中から、典型的なビジネステーマを選定し、IT ベンダ各

社が持つ SaaSソリューションやパッケージソリューションを組み合わせる(連携)ことで、

新たな SaaS ソリューションを産み出し、新たなサービスをエンドユーザに提供するための

方策を検討することを目的として開催した。

交流会では、このような新しい試みに興味を持つ IT ベンダに参加を呼びかけ、SaaS ソ

リューションの連携を行うための技術的、ビジネス的課題を認識し、その解決方策の検討を

行った。

主として議論された課題は以下の 3 点であった。

個人情報(プライバシーの問題)

データ連携について(他のサービスとの連携)

ビジネス化について(連携する企業の役割分担など)

Page 19: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

16

(2) 実施概要

【日時】平成 24 年 11 月 8 日(木)13:00~17:00

【内容】

・WG においてディスカッションした特定ビジネステーマに関する概要説明

・特定ビジネステーマによるディスカッション

・研究会参加メンバーによるディスカッション内容の発表

・オーディエンス参加型特定ビジネステーマに関するフリーディスカッション

【参加対象】

・SaaS ソリューション、パッケージを開発、提供している IT ベンダ

・他社との SaaS ソリューションやパッケージの連携によるアライアンス等、新たな

サービスの提供や販路拡大等を検討している IT ベンダ

(3) 成果

参加者アンケートに回答された全ての参加企業において協業の検討を考えており、中小ベ

ンダ企業が今後、ビジネスチャンスを拡大するためには、一企業の単独ではなく複数企業に

よる協業の重要性を認識したものと思われる。

実際のプログラムにおいても、プログラム 1「特定ビジネステーマによるディスカッショ

ン」では、研究会メンバーにより、白紙の状態から「ヘルスケア分野」におけるマーケット

を見据えたソリューションを洗い出し、必要な業務機能と、それに適用できるアンケート回

答企業(2012 年 8 月実施「中小ベンダが所有 SaaS 等サービス調査」)のソリューション

を洗い出し、新たなソリューションを構築する可能性が見いだせたこと、また、プログラム

3「オーディエンス参加型特定ビジネステーマに関するフリーディスカッション」において、

研究会メンバー以外のオーディエンスからも活発な意見が得られ、有益な情報交換が行えた

こと、さらには名刺交換会において、具体的なマッチングに関する商談を行った企業もあり、

満足度は高かったと思われる。以上のことから、今回開催した「ベンダ連携交流会」は、概

ね参加者のニーズにマッチした内容であったと言える。

(4) 課題

個人情報(プライバシーの問題)

個人情報を格納するデータベースが複数にまたがるときに、管理元がどこになるのかと

いった不安があげられた。

データ連携について

他のサービスとの連携を行う際に、CSV でテータの受け渡しを行っているが、図面等、

顧客からの要望により、形式を指定されるとデータのやり取りができなくなる場合がある。

ビジネス化について

どの企業が音頭をとって、どの企業が販売していくのか、利益配分はどうするのか等、

運用面が課題となる。

2-1-5 中国地域

中国地域は、クラウドの利活用による中国地域中小企業を IT ベンダ等との連携による競争

力強化や新ビジネス創出等を図るためのコミュニティである「ちゅうごく地域クラウドビジネ

Page 20: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

17

ス推進ネットワーク」(以下「CCBNET.8」という。)のこれまでの活動結果を踏まえ、4 つの

研究会を設置し、開催するとともに、各々の研究会の総括や調整、自立的なネットワークに向

けての検討等を行うための全体会議を開催した。(研究会は、製造業向けビジネスモデル研究

会、サービス産業向けビジネスモデル研究会、小規模ベンダ向けビジネスモデル研究会、SNS

活用型ビジネスモデル研究会の 4 つを設置。)

2-1-5-1 ちゅうごく地域クラウドビジネス推進ネットワーク全体会議

(1) 目的

テーマ別に設置した研究会の総括や調整、自立的なネットワークに向けての検討等を行う

ため全体会議を開催した。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 8 月 3 日(金)PM

委員講演、テーマ別研究会デモンストレーション 等

第 2 回 平成 24 年 12 月 7 日(金)PM

専門家講演、テーマ別研究会報告 等

(3) 成果

テーマ別研究会の総括や調整を行った。

自立的なネットワークを形成するために必要な用件を整理した。

時間と労力、コストが掛かるものの、まずはベンダとユーザの信頼関係を醸成する。

できるだけ多種多様な業界から人が集まる場となることが望ましい。

信頼関係の次のステップとして、ユーザとの対話によるニーズの引き出しと充足など、

ユーザのビジネスに有益なサービスを提供できる力を持つ企業を増やす。

会議に興味を持った CCBNET.会員にはオブザーバ参加できるようにしたところ、委員や

オブザーブ参加者同士といった人的ネットワークの拡大の場ともなった。また、参加者から

は、「今後は「業際」「IT 融合」という形で、様々な業界と一緒に取り組んでいくことが重要」

や「ベンダ・ユーザの共創と協働が必要であることがよく分かった」といったコメントがあ

った。

(4) 課題

自立的なネットワーク形成を進めていく際の課題として、以下の点などが挙げられた。

ボランティア的な動きは 1 社が頑張ってできるものではなく、参加者の多くが想いを共

有する必要がある。

時間と労力が掛かる業界の巻き込みをどのように進められるのか

信頼関係の醸成はできるとして、ビジネスの段階になったとき、潜在化している顧客ニ

ーズを引き出し、形にしていける人材をどう育てるか。

2-1-5-2 テーマ別研究会<製造業向けビジネスモデル研究会>

(1) 目的

8 CCBNET.: Chugoku Cloud Business Network

Page 21: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

18

スマート家電に代表されるように「繋がる」ことを前提としたものづくりが求められるこ

とにより、開発環境の激変が予想される組込みシステムに着眼し、ビジネスモデルや取り組

みの注意点などについて考える。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 11 月 28 日(水)PM

第 2 回 平成 24 年 12 月 3 日(月)PM

(3) 成果

①現状の分析(クラウド環境整備によるビジネスチャンス)

海外開発拠点に対する均一な開発環境の提供やツール導入負担の適正化などによる生

産性向上や品質向上が期待できる。

顧客との物理的距離、企業規模によるインフラ資産の多寡から解放され、地方中小企業

も打って出るチャンス。

②方向性・あり方(クラウドで繋がるビジネスへ)

単一のシステム、単一の事業者での商品開発ではなく、「組込み×クラウド×モバイル」

の役割分担によるサブシステムの統合へ。

③「組込み×クラウド×モバイル」で蓄積される莫大な量のデータによる新たな価値の創

出の可能性

玉石混淆の非定形化データであり、データ品質の見極めが必要。

個別ソースからのデータ分析はできても、それらのソース同志を繋げようとすると、技

術的及び業界の壁双方の理由により難しい。

各ソースに対して、ソフトウェアやサーバの提供だけでなく、データ収集や自動制御な

どの組込み機器の活用によるクラウド上のデータの横連携が必要。

(4) 課題

注意点としては以下のとおり。

クラウドサーバの品質レベルが商品の品質レベルに直結するのでサーバ選びは慎重に。

クラウド環境が中小企業にとってのチャンスを拡げただけで、組込みシステム開発その

ものが簡単になったわけではなく、人命や経済に与える影響等など、安全性とセキュリ

ティ両面での検証を充分行うことが必要。

いくつかのサブシステムを組み合わせ、通信で繋いでサービスを提供する場合には、通

信障害が起きた際にそれぞれのサブシステムが確保しておくべき安全性やセキュリテ

ィ、最低限担保されるべき機能などを明確化しておく必要がある。

2-1-5-3 テーマ別研究会<サービス産業向けビジネスモデル研究会>

(1) 目的

サービス産業を、科学的・工学的アプローチによる生産性向上という切り口から捉え、サ

ービス企業において、IT 若しくはクラウドをどのように利活用すること、又は利活用しない

ことが、企業活動全体の中での最適解となり得るのかについて掘り下げる。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 9 月 11 日(火)PM

第 2 回 平成 24 年 9 月 28 日(金)PM

Page 22: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

19

第 3 回 平成 24 年 10 月 10 日(水)PM

(3) 成果

①サービス工学から見たサービス産業の現状と現場で活きる IT

サービスは同時性(生産と消費が同時にしか起こらない)により在庫ができない分、生

産のピークが読みにくい。

サービス産業においてもトヨタ生産方式の活用は非常に有効で、作業工程の整流化や小

ロット生産、仕入れの最小限化などは転用ができる。

全ての出発点は、顧客にとっての価値は何かということであり、サービス産業の現場に

おいては、それを追求することでプロセス変革が起こり、戦術が積み上がり、その結果

として戦略の転換が起こってサービスイノベーションが生まれている。

②サービス産業の生産性向上における IT の役割

サービス産業の特徴は、無形性、同時性などが挙げられており、人が把握できないこと

も IT により初めて見える化できる部分も確かにある。

発展途上のサービス企業では、自社の課題が何なのか正確に把握できていない事業者も

多く、IT で何ができるかわからない事業者も多い。

サービス業には、専門の資格が必要で、資格取得のために専門学校等への就学が必要な

業種も多くあるが、それらの学校では技術は教えるが経営は教えないという特徴があり、

事業者間の差が大きくなっている。

③現状の分析(サービス産業におけるクラウド/ IT 利活用状況)

サービスイノベーションの現場においては、見える化が全ての出発点。

ユーザ企業の企業理念や顧客への姿勢が IT の活用法を決める。

④方向性・あり方(サービス産業における IT/クラウド活用)

ユーザは、経営戦略の明確化と業務全体の組み立ての見える化をして、どこを IT 化し、

どんな IT を使う必要があるか整理する。

ベンダは、ユーザの経営戦略構築を支援し、ユーザの経営戦略を理解した上で業務設計

を行い、現場の課題を解決できるアプリケーション構築をする。

サービスイノベーションが起こった現場でつくり込まれたプロセスやオペレーション

を助ける IT は、その現場ノウハウとともに横展開が可能となる。

(4) 課題

注意点としては以下のとおり。

生産と消費が同時に起こるサービス産業においては、人手と IT のバランスを慎重に見

極める必要がある。

「クラウドサービス」であるか否かはユーザにとっては選択肢の1つでしかない。

見える化に繋がっても現場に負荷が掛かるようでは使えない。

2-1-5-4 テーマ別研究会<小規模ベンダ向けビジネスモデル研究会>

(1) 目的

小規模ベンダにおいて、自社での商品開発はできても販路がない、又は営業に割く人的余

裕、資金が少ないという課題を解決すべく、協業・連携をキーワードに、小規模ベンダのク

ラウドサービス参入について掘り下げる。

Page 23: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

20

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 9 月 27 日(木)PM

第 2 回 平成 24 年 10 月 17 日(水)PM

第 3 回 平成 24 年 11 月 8 日(木)PM

第 4 回 平成 24 年 11 月 29 日(木)PM

(3) 成果

①現状の分析(共創、協働を可能にするベンダの特徴)

ミッションを明確にし、商品、ビジネスモデル、組織の3要素をがっちり噛み合わせた

戦略を持っている。

顧客目線で徹底的にユーザインターフェイスにこだわる商品づくり。

営業とマーケティングを組織的に分け、戦略的に顧客を取り込むビジネスモデルを構築

従業員は少なくともミッション達成のために必要な組織体制を形にする。

②方向性・あり方(同業・異業間の実効あるアライアンス)

商品力や販売力など観点別に共創、協働のためのアライアンスのポイントがある。

地域においては、アライアンス構築のためのネットワーク形成が有効であり、そのよう

なネットワークが備えるべきポイントがある。

(4) 課題

注意点としては以下のとおり。

薄利のためプロジェクト数が増加するので、各プロジェクトの採算性をチェックしてい

ることが重要。

業界団体・経済団体とのアライアンスには非常に時間が掛かり、地道な活動で信頼関係

を築く必要がある。

2-1-5-5 テーマ別研究会<SNS 活用型ビジネスモデル研究会>

(1) 目的

自社や自社製品の情報発信のための SNS 活用のあり方やノウハウを蓄積する。

(2) 開催実績

第 1 回 平成 24 年 9 月 27 日(木)PM

第 2 回 平成 24 年 10 月 17 日(水)PM

第 3 回 平成 24 年 11 月 8 日(木)PM

第 4 回 平成 24 年 11 月 29 日(木)PM

(3) 成果

①現状の分析(SNS の特性)

リアルタイムで双方向の対話による人となりのアピールであり、親和性・親近感をもっ

てもらいファンを増やすのが本来の性質。

SNS 活用によるマーケティングでは、B to C については幾らか成功例が出てきている

ものの、B to B については難しいのが現状。

実名公開するものでは、従業員の採用に関してはうまくいっている事例が見られる。

②方向性・あり方(特性を活かした顧客へのアプローチ)

Page 24: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

21

アカウント取得の際に個人情報を登録しなければならないものでは、属性によるフィル

タリングが可能。

アカウント取得の際に個人情報を登録しなければならないものでは、コストを掛けない

顧客管理としての応用が可能。

経済産業省が実施した Facebook における情報伝播の状況調査では、実証フィールド

においては情報の約 8 割が関連コミュニティのリーダー経由で行われることが分かっ

た。

(4) 課題

注意点としては以下のとおり。

お金を掛けずに売上げを伸ばせるというのは誤解で、無名の会社の無名の商品のファン

ページを作ってもファンは集まらない。

道具として SNS を活用しようという考えはトレンドに踊らされるだけであり、先にし

っかりとした商品戦略を持ち、あくまでその中の戦術の1つとしての活用であるべき。

Facebook など特に外資系のサービスでは猫の目のようにルールが変わっており、変更

通知が毎回来る公式認定ベンダ以外の者が全てフォローするのは至難の業なので、本気

で取り組む際には最前線の知識を持っているプロ中のプロと組むこと。

Page 25: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

22

2-2 各地域の現状

2-2-1 中小 IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネッ

トワーク形成について

北 海 道 <食関連企業のクラウド利活用推進のためのコミュニティの活動状況>

規模の大きい企業ではクラウドコンピューティングの導入事例も増えてきているが、

中小企業では IT 投資自体が少ない。一方、道内の IT ベンダについても、道内外の同業

他社や官公庁からの受注が多く、食関連企業からの受注は少ない。道内の食関連企業と

IT 企業とのコミュニティと呼べるものは未だ形成されてはいない。

<コミュニティ形成のための課題>

道内中小食関連企業へのクラウドコンピューティング導入促進を図るためには、食関

連企業側、IT ベンダ側双方の課題を解決し持続的かつ、自立的なネットワークを形成し

ていくことが求められる。

<自立的ネットワーク形成の考え方>

食関連企業と IT ベンダのネットワークの形成を考えた場合、それぞれを「知り合う

こと」が何より重要であり、お互いを理解することで、適切なシステムの提案や導入が

促進される。ゆるやかな連携から始め、徐々に形成されたネットワークを強化していく

ことが肝要。

<ネットワーク形成のための方策等>

関連団体同士の連携事業の促進

コーディネート機能を担う人材の育成確保

SNS 等を活用したネットワークの維持拡大

関東 <関東広域でのネットワーク>

本事業を通じて関東広域一都十県の担当者が集まり、他地域の動きを客観的に「見る」

ことで、地域連携が加速した地域もある。

<地域内のネットワーク形成トピックス>

関東広域ネットワークに参加している支援機関には、地域独自のネットワーク形成

や、IT ベンダとユーザの交流の場を設けるべく活動している事例が見られており、以下

4 つの取り組みが紹介された。

コミュニティ型:IT ベンダ、ITC 等専門家とユーザ企業とのコミュニティ

研究会型:製造業ユーザ企業と IT 産業界とのマッチングを推進

ベンダ団体の取り組み型:IT ベンダが主体となって地域連携を強化

定期セミナー開催型:地域ユーザ企業、支援機関等と ITC とのネットワークづくり

<IT を活用した中小企業の経営基盤強化の状況>

商工会議所が行う小規模企業への IT 経営支援には、Web 活用による販促支援に成果

が見られた。それぞれの会議所の活動と小規模企業の IT 活用における課題、対応の方

向性などが示された。

中部 中部地域は、製造中小企業の集積があるものの、その強みや方向性が多種多様である。

また、現実的な問題として、多くの中小企業では IT への投資や利活用のためのスキル

Page 26: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

23

やノウハウを持つ人材など、経営資源の不足は明らかである。

地域の中小企業における IT 利活用の促進を図るには、ユーザとなる中小企業の経営

実態を踏まえた IT 戦略の提案が重要であり、これを担う ITC の役割は大きい。中小 IT

ベンダと ITC 等とが連携したコミュニティの形成・活動により、中小企業においては経

営基盤の強化に繋がり、地域の中小 IT ベンダにおいては受託開発型の多重下請け構造

からの脱却も可能となると考えられる。

また、地域の中小 IT ベンダと ITC との連携体は、これまでの国内における実績を基

盤として、クラウド EDI サービスをベースとした海外展開という新ビジネスの展開も視

野に入れることができるだろう。

この取り組みで得られた示唆を有効に活用し、IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有

効で持続的かつ自立的なネットワーク形成による新たなビジネスモデルの構築による

経営基盤の強化に向け、引き続き取り組んでいくことが重要である。

近畿 <地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘を展開>

IT 活用による経営改善を希望するユーザ企業からの相談を増やすことを目的として

金融機関 8 行などから委員を招き、座長・アドバイザー・オブザーバー及び事務局を含

め合計 30 名からなる中小ユーザ IT 利活用研究会を組織し、3 回にわたって IT 利活用

を促すための方策を検討した。

経営に IT 活用が必須であることの気づきを促すためのガイド(IT 経営ガイド)を作

成し、ユーザ企業へ広めるため、その利用方法を金融機関法人担当者向けに説明会を開

催した。参加者からは、概ね理解できたとの意見が大勢を占め、また、IT を経営に活か

すための活動を実施するための前向きな意見があった。

この活動を通じて、ユーザ企業において IT 導入まで至ったケースはあるが、紹介企

業を IT 導入段階へ勧めるためには、専門家による支援が不可欠となることが分かった。

このために、公的支援機関が運営する専門家派遣などの制度を活用するなど、ユーザ企

業のニーズに応じて、ケースごとに既存の支援制度等を組み合わせ、効果的に活用する

必要があることも分かった。

中国 <自立的なネットワーク形成のための現状の課題>

時間と労力、コストが掛かるものの、まずはベンダとユーザの信頼関係の醸成

できるだけ多種多様な業界から人が集まる場となることが望ましい

信頼関係の次のステップとして、ユーザとの対話によるニーズの引き出しと充足な

ど、ユーザのビジネスに有益なサービスを提供できる力を持つ企業を増やす

<取り組みの課題>

ボランティア的な動きは 1 社が頑張ってできるものではなく、参加者の多くが想い

を共有する必要がある

時間と労力が掛かる業界の巻き込みをどのように進められるのか

信頼関係の醸成はできるとして、ビジネスの段階になったとき、潜在化している顧

客ニーズを引き出し、形にしていける人材をどう育てるか

Page 27: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

24

2-2-2 事業化に向けた自立型ビジネスモデルの構築について

関東 一部の IT ベンダはクラウドサービスに果敢に挑戦しているが、 IT ベンダの温度差が

見られた。クラウドビジネスは売上の上がり方が緩やかであり、一定の月額収入が得ら

れるまでの資金繰りの課題が指摘され、この面での支援を求める声が聞こえている。一

方、比較的若い世代の経営者は、当初から Web 系・モバイルを視野に入れたビジネス

を指向しており、「人月ビジネス」にこだわらないケースもある。

地元企業を想定ユーザとしてシステムを開発し、それをクラウドサービスとして提供

しベンダ側が採算を取るためには、地域を越えて一定以上のユーザ数を確保しなければ

ならない。クラウド時代は技術力や企画力に加え「マーケティング」や「売り方」が勝

負になる。開発支援よりもマーケティング面を支援することの大切さが浮き彫りになっ

てきた。

また、有望な分野として、農業分野や位置情報活用ビジネス等の可能性が見出された。

中部 中部地域の製造業の進出が盛んな ASEAN 諸国へ実際に進出した企業に対するヒアリ

ング調査では、日本品質レベルのクラウド型 EDI 及び IT サービスのニーズがあり、海

外現地において情報インフラの整備とともに、クラウドでのサービス提供は十分可能と

考える。

地域の複数の中小 IT ベンダ、大手 IT ベンダや SIer、ITC、業界団体等と連携したコ

ミュニティの形成・活動により、知名度の向上、サービスメニューの充実、中小企業の

実態に応じた IT 戦略の提案を行うことが可能となる。国内実績を積み重ね海外展開を

も視野に入れることで受託開発型の多重下請け構造からの脱却も可能となると考える。

近畿 『IT ベンダが所有する複数の SaaS 等業務パッケージを組み合わせて、一つの新たな

SaaS ソリューションを構築する』ための様々な課題が浮き彫りになった。これらの課

題を「ビジネス化の課題」「技術的な課題」の 2 つの視点で整理し、課題解決に向けた

方策案を提示した。

<ビジネス化の課題>

複数ベンダが組んで一つの SaaS ソリューションを提供するビジネス化に向けて想定

されるソリューションの利活用までの各ステップで段階的な課題事項が提示された。

<技術的な課題>

各 SaaS ソリューションの連携にあたっては、DB 処理方式の変更と、シングルサイ

ンオン化の対応を図る必要が提示された。

<課題解決に向けた方策>

SaaS ソリューションの連携開発・提供に向けた勉強会の設置

SaaS ソリューション導入・保守・運用におけるサポート組織の設置

中国 クラウド技術を含む IT 商品・サービス提供で成功している事業者の事例を研究し以

下の整理を行った。

クラウド技術を活用したベンチャー的中小事業者においては、自社の強みの徹底的

な磨き上げと、ニッチトップを狙うためにスピード感のある商品・サービスの市場

投入が重要。

受託開発型を主としてきた中小事業者において狙うべきは、多重下請構造からの「脱

Page 28: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

25

却」ではなく、フロービジネスとストックビジネスの「バランスの適正化」。

技術やサービスに対して正当な対価を支払って利用したいと考えているユーザは確

実に存在するので、そのようなユーザ層にリーチしていく。

2-2-3 IT コーディネータ等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチング

について

北 海 道 <新ビジネスの展開状況>

食関連産業と IT 産業が協業することで、食関連企業にとっては製品等の高付加価値

化、経営の効率化等が進展し、IT ベンダにとっては道内食関連産業で培ったノウハウや

開発した製品・サービス等が道外、海外への販路拡大につながる等、双方の企業にとっ

て新たなビジネスチャンスの拡大の可能性がある。しかし、道内食関連企業の大半を占

める中小企業においては IT 投資自体が少なく、新ビジネスといえる事例は未だ少ない。

<マッチング会等の必要性>

北海道内の中小 IT ベンダと食関連企業が協業して新たなビジネスを展開していくた

めには、自立的ネットワークの形成が不可欠であり、このネットワークを形成する第一

歩は「お互いを知る」ことである。このきっかけとして、本事業で実施したようなマッ

チング会等の開催が有用である。

<マッチング会等を実施するための視点>

マッチング会等を実施するにあたり、参加する食関連企業の規模や業種業態、IT やク

ラウドに対するニーズ等により、いくつかの段階に分けることが望ましい。また、マッ

チング会は、IT ベンダが主催するよりも、各支援機関等の第三者的機関による開催の方

がビジネス色は薄まり、ユーザである食関連企業も参加しやすい。

関東 マッチング手法で特徴があったのが新潟の事例。この事例の特徴は、地域の支援機関

が仲介役となって企業の IT 経営推進と IT ベンチャーの育成とを同時に実現しクラウド

サービスとして全国展開を開始したことである。

アグリノートとは、田畑を航空写真から確認し農作業を記録できるクラウドサービ

ス。このプロジェクトは、ユーザ(農家)とベンダ( IT ベンチャー)とのマッチングと

プロジェクト推進を地元支援機関がコーディネートし、IT ベンチャー企業が農業分野の

クラウドサービスを作りだし、ユーザ農家がシステムを使って生産力を上げた、という

もの。

また、関東経済産業局の支援制度の活用によりプロトタイプ開発や農業系展示会への

出展、県内農業関係者への PR や大手ベンダとコンタクトを実現し大手企業を通じた販

促機会を得ることとなった。しかし、今後、ビジネスとして軌道に乗せるためには、全

国への販促活動展開などマーケティング面が課題である。

中部 中小企業の多くは IT 専従者不在であり、IT 利活用のサポートが必要である。中小 IT

ベンダと ITC の協業体制によるサービス提供は、事業の効率化や変革の実現など、経営

課題を解決する手段を提供する重要な役割を担っている。

連携体制の強化は、過去の調査の中で抽出された課題の一つであったことから、IT ベ

ンダと IT ユーザ双方のネットワークの拡大を目的としたビジネスマッチング事業を試

Page 29: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

26

行した。

ITC 等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチングのためには、知名度を向上

させ、様々な角度からアプローチし、ユーザへの的確なサービス提供により、実績を重

ねることが重要である。

2-2-4 地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘とクラウドサービスの活用に

ついて

近畿 ユーザ企業の IT 導入・活用を推進するため、経営課題の解決に IT 化が役立つことを

記載した「IT 経営ガイド」を作成し、その利用方法を金融機関法人担当者向けに説明会

を開催し、取引先企業に IT 経営の紹介と IT 化相談案件の発掘を依頼した。なお、平成

24 年度は平成 23 年度の大阪府下の銀行だけでなく、京都府下及び和歌山県下の金融機

関にも協力を依頼し、合計 7 行の金融機関の協力を得てこの活動を行った。

こうした 2 ヶ年間の活動結果より、IT 化相談案件を 15 件発掘することができ、その

うち 1 件は、IT 導入にまで至った事例を輩出することができた。また、更なる IT 相談

を増やすために解決すべき課題についても以下の 2 点について明らかになった。

IT 相談企業の問題を整理して適切な IT 調達を促す役目を担う専門家との連携スキ

ームを確立する必要がある

企業の IT 導入の負担を資金面と体制面で軽減するために公的支援機関が運営してい

る専門家派遣など、公的支援制度を活用するためのスキームを確立する必要がある

以上の課題を踏まえ、これまで以上に金融機関とのコミュニケーションを深め、相談

企業の紹介を促すために、金融機関向け IT 経営説明会を継続して開催する。

また、IT 相談を希望する企業の IT 導入への疑問・不安を取り払うため、専門家のス

キルを活用して相談企業の経営課題を明確にし、IT 活用のメリットを提示することで信

頼関係を築く。

そのために、サービスの有償・無償の切り分けやモデルケースごとの参考費用の提示

など、IT 相談の受け皿として安心して利用できるサービスをメニュー化する。

さらに、専門家を活用するための費用の負担や IT 導入の体制が脆弱などの課題によ

り、支援が必要な企業に対しては、公的機関が運営する支援制度を紹介し活用を促すた

めに各支援機関との連携スキームを確立する。

以上の戦略と戦術を近畿地域で推進し、波及させることにより、潜在的な IT 活用の

ニーズを掘り起こし、IT 導入を希望する企業を発掘し、IT 経営実践企業を多数、輩出

することが可能となる。そして提案依頼(案件情報)を地域の中小ベンダへビジネスチ

ャンスとして提供することにより、関西地域の IT 市場の活性化につなげる。

なお、より関西地域経済の発展を推進するため、連携する機関を金融機関に限らず、

例えば各業界の組合を束ねている中小企業団体中央会等の協力も得て、より幅広く中小

企業の IT 化を促進し、IT 経営力の強化を図り、ベンダ企業の活性化の実現についても

図る必要がある。

Page 30: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

27

2-3 地域独自の取り組み・革新的な成果等

2-3-1 北海道地域

●食関連産業と IT 産業との連携による事業展開

北海道地域では、本事業を契機として、食関連業界団体と IT 関連業界団体との連携による

事業展開を今後予定している。北海道内における両団体の共同事業展開の促進を図ることが自

立的ネットワーク形成のためには必要である。

連携事例として、本事業の研究会の委員である社団法人北海道食品産業協議会と一般社団法

人北海道 IT 推進協会では、平成 25 年 2 月に、お互いの会員企業のシーズ発表イベントを同

日同会場にて併催で開催した。これにより独自の実績の集積を目指している。

また、食関連企業の中には、セミナーや展示会等に参加することで自社にとって有益な情報

が得られる可能性があるものの、拘束時間、移動コスト等の点から参加を敬遠する企業も存在

する。そこで、食関連企業向けの IT、クラウド関連の簡単な情報を記載した「クラウド導入ヒ

ント集」を作成し頒布することで、導入検討のきっかけや各種事業への参加促進につながるこ

とが期待される。このヒント集については、研究会に参加した委員有志により作成検討を継続

することとしている。

2-3-2 関東地域

●新潟「アグリノートプロジェクト」(支援機関によるマッチング支援事例)

関東地域では、いくつかの事例の中から、新潟のアグリノートプロジェクトを紹介する。ユ

ーザが求める IT を支援機関が仲介し、IT ベンダが具現化し、クラウドサービスとして全国展

図表 3 イベント開催案内(北海道地域)

Page 31: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

28

開を開始したという、マッチングプロジェクトである。

アプリケーションの対象分野は、農業であり、その内容は、農業者が所有する圃場を航空写

真から探し、場所を指定して作業内容を記録できるシステムである。

発端は、平成 22 年に、ある農業システムのヒアリングでにいがた産業創造機構が新発田市

のそうえん農場(米作中心の農家)を訪問したことだった。その際、目的のシステムには魅力

を感じなかったものの「地図から圃場を探して作業記録ができるとよい」との意見をキャッチ

した。これを持ち帰り、同機構のインキュベーションセンターに入居していた IT ベンチャー

企業が開発を決意したものである。

関東経済産業局の「平成 23 年度地域新成長産業群創出事業」を用いてプロトタイプ開発や

農業系展示会への出展、県内農業関係者への PR などを行い、無料サービスをスタート。平成

24 年 12 月には有料サービスを開始した。また、関東経済産業局の「平成 23 年度関東地域ク

ラウド推進事業」メニューで、ある大手ベンダとのマッチング事業を通じて、大手通信キャリ

ア会社とコンタクトを実現。同社のプロモーションビデオにそうえん農場とアグリノートが登

場。大手企業を通じ販促機会を得ることとなった。

本プロジェクトで重要なことは、支援機関が「出会い」を創出しただけでなく、開発に際し

てユーザの声を聞き、プロトタイプを提示して改良を重ねていることである。開発企業は農業

分野については全く未知の状態であったが、ユーザの反応や意見を取り入れていくことで、現

場作業に即した使いやすさを追求できた。

面白いことに、改良するほどに操作性や画面はシンプルになった。そうえん農場では「大手

企業のソフトは機能も豊富でたくさんのことができる。しかし私たちが欲しいのは、圃場です

ぐ入力でき、家に帰ってくつろいだ状態でも簡単に記録できること。その点、航空写真で場所

を指定できるアグリノートは使いやすい」と評価している。

ノートパソコンが故障した場合や屋外での利用を考えると、クラウド型は便利だと実感して

いる。アグリノート活用の成果はすぐに現れた。そうえん農場は平成 24 年 4 月に「JGAP9」

の認証を取得。JGAP では圃場単位での作業記録が必要なので、「アグリノートを使っていたか

らこそ取れた」と喜んでいる。

また、データは 1 年蓄積した後役立つという印象があるが、そうえん農場では日ごろから稲

の様子を良く見ており、何か問題があるとアグリノートのデータをさかのぼってチェックし、

水や肥料の調整を行う。その結果、今年出荷する米は、全て一等米(新潟の平均は 58%)に

することができた。

アグリノートは商用化が始まったばかり。ビジネスを軌道に乗せるには、全国への販促活動

が必要で、まだまだこれからという段階である。しかし、ユーザが本当に欲しいアプリを開発

し、そのユーザは早くも IT の活用で経営効果を上げるという「ユーザとベンダがともに成長

するプロセス」を支援機関のサポートで実現したことは、支援事例として参考要素が高い。

【参考】上記の他、千葉、横須賀の事例は、「別添 2:関東地域調査報告書 P42~44」参照。

9 JGAP=食の安全や環境保全に取り組む農場などに与えられる認証

Page 32: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

29

2-3-3 中部地域

●クラウド型EDIサービス提供及び中小ITベンダのビジネスモデル調査

中部地域では、中小企業において、経営効率化の取り組みに IT 利活用が極めて有効である

との観点から、クラウドを活用した企業間の連携による中部地域独自の新たな事業展開の可能

性を創出するため、以下の 2 態様について調査研究に取り組んだ。

①海外展開に対応したクラウド型 EDI サービス提供のあり方とビジネス展開

国際化する経済環境において、複数の業種との取引が必要な中小企業における課題である

多画面、多端末問題の解消に有効なクラウド型 EDI システム「業界横断 EDI 仕様」は、国

際標準に準拠するため、当該システムの海外展開サポートとしての有効性に関する調査研究

事業。

②中小 IT ベンダと ITC の連携によるビジネスモデルの創出

多重下請け構造が課題とされている IT 産業において、中小事業者である IT ベンダ及び

ITC が連携体を構築し、クラウドサービスの提供により中小企業の経営効率化を実践した新

たな事業展開のモデル事例(3 事例)について、連携体の拡大、事業化に向けた調査研究事

業。

<成果等>

上記 2 態様における取り組みにおいて、以下の成果等を導き出した。

①海外展開に対応したクラウド型 EDI サービス提供のあり方とビジネス展開

実績のある「国内クラウド EDI サービス」をベースとした海外進出日系企業対象の「現

地クラウド型 EDI+アプリケーション連携」が提供可能であり、国連 CEFACT 標準等

の国際標準準拠の規格を採用すれば国内外、海外間においても多画面、多端末の回避に

有効である。

日本企業の主な進出先となる ASEAN 諸国では IT インフラが急速に整備されつつあり、

数年内には関連企業の情報共有連携サービスが「国際間クラウド」で提供可能となる。

②中小 IT ベンダと ITC の連携によるビジネスモデルの創出

3 つのモデル事例は、クラウド利活用による中小企業の経営効率化を目的としたもので

あるが、副次的な効果をもたらせたものもある。例えば、新聞店が開設した HP は自社

の紹介コンテンツ以外に行政情報やイベント、トピックスを紹介し「地域コミュニティ」

として読者が広がりつつある。また、高齢者を対象とした地域ネットスーパーは過疎地

域における町、商工会等と連携した活性化事業のモデルケースとなる等、クラウド活用

が地域貢献にも繋がっている。

中小 IT ベンダと ITC の連携は IT に偏らず経営者の声を反映した全社対応、事業全体

を見られるようになり顧客満足度の向上に繋がったとする連携体メンバーの評価があ

った。

Page 33: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

30

2-3-4 近畿地域

●「関西 SaaS サポートセンター(仮称)構想」実現に向けた検討

近畿地域では、本事業の「関西クラウド研究会」のなかで、関西地域の IT ベンダの活性化

方策として、地域の IT ベンダが所有している SaaS 等アプリケーションを組み合わせて、新

たな SaaS 等アプリケーション構築の具体化を検討してきたが、この実現にあたって、大きく

「ビジネス化のための課題」、及び「技術的な課題」を解決する必要があることが明らかとな

った。

この解決のためには、今後、地域のベンダや関係機関などが連携し、例示した各分野別勉強

会を立ち上げる必要があると共に、ユーザニーズに応じた SaaS ソリューションの開発・提供

と地域中小企業における同ソリューションなどの利活用に向けては、様々な支援体制を備えた

推進組織「関西 SaaS サポートセンター(仮称)」が必要となると考えている。

今後は、SaaS 間連携による新しいアプリケーションの構築事例を作るとともに、SaaS 間

連携を推進するための組織化についても検討を進め、関西クラウド構想の実現化を目指すとと

もに、地域活性化を推進していくことが求められる。

「関西 SaaS サポートセンター(仮称)」の趣旨を以下に示す。

① 民間団体ではあるが、公的な性格も持つ組織である。

② 近畿経済産業局、一般財団法人関西情報センター(KIIS)、近畿圏内の自治体、商工

会議所・商工会や団体中央会などの商工団体、金融機関、ASPIC や近畿地区の IT ベ

ンダ団体、ITC の法人・任意団体、税理士協会や中小企業診断協会などの専門職団体、

学会や学術関係の団体、法律の専門家、地域自治体・各種行政団体などと繋がりを持

ち、ASP・SaaS・クラウド等の最新技術に関する情報交換のハブ的な役割を果たす。

③ ASP・SaaS・クラウド等の導入に関する相談から、具体的な選定・導入方法の助言、

中立的立場による契約の立ち会い・助言、導入後の一元的サポート・フォローアップ

まで、各種の支援サービスを行う。

④ ASP・SaaS・クラウドの利活用以外にも幅広く中小企業の経営戦略、 IT 戦略、情報

セキュリティなどに関する診断、助言も行い、トータル的な支援を行う。

⑤ 地域ベンダの営業力強化に向けた定期的なソリューション情報の収集・公開の実施、

及び高度 IT 人材育成の為の技術力強化に関するセミナー・研修を開催する。

⑥ 地域中小ベンダを中心とした連携によるソリューション企画・開発・サポートなどに

関して、その体制作りから実際の検討・運営など全般にわたる実現支援を行う。

【参考】上記の他、地域金融機関との連携事例については、「別添 4:近畿地域調査報告書

P49」参照。

Page 34: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

31

2-3-5 中国地域

●先進的なゲスト発表者を招きオブザーバ参加を促進する研究会運営

中国地域では、本事業の研究会運営にあたって、以下の点に留意して実施し、その成果をあ

げた。

①全体会議の実施形態

当初予定していた全体会議の実施内容に加え、テーマ別研究会の開催イメージを会員に伝え、

オブザーバ参加を促すため、研究会の一部を取り上げてデモンストレーションを行った。

②研究会の実施形態

有識者による閉じられた会議の場ではなく、興味を持った CCBNET.会員が自由に参加でき

るよう、オブザーバ参加者として委員と同じ場を共有できるようにした。

③研究会の委員構成

毎回同じ顔ぶれではなく、先進事例発表者を、ゲスト委員として回ごとに別の業態などから

ブッキングすることにより、固定委員の議論に厚みを持たせ、より多くのオブザーバ参加者の

興味共感を得られるようにした。

固定委員については、極力技術者や研究者を廃し、コンサルテーションやフィールドワーク

など、中小企業支援を行う者や多くの中小企業を見てきている者を配した。

④研究会の組み立て

技術論に陥ってしまわないよう、個別事例研究によるビジネスモデルの解明に力を入れた。

そのために、ゲスト委員の発表の後、委員長による解説の時間を設けた。

委員長が中小事業者のビジネスモデルに関する豊富な知見を元に、各事例を最新のビジネス

モデル理論や科学的・工学的アプローチを駆使して解説することにより、ビジネスモデルが体

系化、一般化され、理解が深まった。

⑤新しい視点の投げかけ

サービス産業向けビジネスモデル研究会については、平成 19 年頃から、公益財団法人日本

生産性本部の内部組織であるサービス産業生産性協議会や、独立行政法人産業技術総合研究所

サービス工学研究センターにより、手法の研究及び考え方の普及が進められ、平成 24 年には

関係者による“サービス学会”創設にも繋がった、「サービス産業における科学的・工学的アプ

ローチ」という考え方を、初めて中国地域の IT ベンダに紹介した。

これについては、クラウドコンピューティングの利活用という論点からは、やや正鵠を外す

ものの、大手ベンダやコンサルテーション部門を持つ中堅ベンダなど、システム開発の上流工

程に関与する度合いの強い会員を中心に支持を得られ、次年度での継続の希望も少なからずあ

った。

中小企業の IT 化を進める場合、ベンダとユーザが IT システムのみを介在として正面から対

峙するのではなく、ユーザ企業の経営全体を網羅的に考えられるような“共通言語”を元に同じ

方向を向いて進むなかで IT/クラウドを位置づけていくことが、ベンダとユーザの共創、協業

という意味でも望まれる。サービス産業においては「科学的・工学的アプローチによる生産性

の向上」の取り組みが、その“共通言語”の一つとなり得ることが分かった。

Page 35: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

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第3章 まとめ

3-1 現状の課題

本事業を実施した成果として、クラウドの利活用促進のためのいくつかのキーポイントとな

る調査結果が得られた。ここでは、それらの事象を以下の 5 つの視点で分析し、現状の課題を

整理した。

3-1-1 IT・クラウド利活用の現状(ベンダ・ユーザそれぞれの進展状況)

●IT・クラウドに対する知識が十分でなく、違いや効果が分からない中小ユーザ企業

クラウドについては中小ユーザ企業側にまだ十分な知識がないことから、導入について特に

顕著な不安があるわけではないが期待度合いも際立って高いということでもない。ポイントは

クラウドの利活用を考える以前の問題として、IT の利活用に関する十分な効果を認識できてい

ない中小ユーザ企業(特に小規模企業)が多いという点だ。

しかし「クラウドに関する理解を促進するためには、今までのオンプレミス型とクラウド型

の販売管理システムでは何が異なっているのか。その違いを理解できるための必要な要素を、

例えば IT 利活用のヒントとなるガイドブックなどで経営課題と関係づけて説明することによ

って、ユーザに気付いてもらう機会を提供することが重要。そしてこうしたコミュニケーショ

ンを担うコーディネータには非常に高い能力が求められるため、IT・クラウドの知識に加えて

ユーザ側の業務や経営マネジメント等にも詳しいコーディネータが必要」という点が提供する

側に指摘されている。

●クラウドでの SNS 活用、BtoC では成功事例もあるが BtoB はこれから

SNS の現状の分析では「リアルタイムで双方向の対話による人となりのアピールであり、親

和性・親近感を持ってもらいファンを増やすのが本来の性質」と指摘している。ただし「SNS

活用によるマーケティングでは、B to C については幾らか成功例が出てきているものの、B to

B については難しいのが現状」としている。また「実名公開するものでは、従業員の採用に関

してうまくいっている事例がみられる。」といった分析や、今後の方向性として「アカウント

取得の際に個人情報を登録しなければならないものでは、コストをかけない顧客管理としての

応用が可能」といった顧客へのアプローチにも有効なツールとの評価がされた。

なお、今回の事業の参加者間のコミュニケーションのツールとして SNS が活用された事例

もあった。まだまだ具体的な BtoB の活用事例は少ないが、今後、BtoB についても比較的ゆ

るやかな連携、関係などにおいては利用が進む可能性も考えられる。

3-1-2 IT を活用した中小企業の経営基盤強化策の進展状況などについて

●中小企業の経営基盤強化策は継続的な支援施策が肝要

各地域で展開した今回の事業で共通して指摘されていることは、ユーザ企業の IT の活用度

が総じてそれほど高くないために、IT ベンダのみならず地域の支援機関や ITC などの専門家

などが一体となったユーザ企業への普及・啓発活動がより重要だということである。

Page 36: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

33

その意味では、本事業そのものが地域の普及活動に大きな影響を与えたことが最大の効果だ

った。そして地域を越えた情報共有がそれぞれの活動を充実させ、活動実績ケーススタディの

共有ができた。今回の事業に参加した各地域の支援機関、専門家、IT ベンダ、ユーザ企業など

の間で人的な交流が生まれ、地域の支援機関等の担当者が参加した地域では、地域の公的施策

との連携にもつながった。一方で ITC と IT ベンダ団体の連携も進んできたが、まだビジネス

協業には至らない地域もある。これらについては、その本質的な理由を探り、より良いビジネ

スモデルの形成に向けた検討を進めていく必要がある。

●動き出した地域金融機関と連携した取り組み

ユーザ企業に対して経営課題の解決に IT 化に役立つことを記載したガイドブックを作成し

て、ユーザ企業へ IT の効果的な活用を広めるため、地域の金融機関と連携した事例が特徴的

だ。ユーザ企業のニーズに応じて、公的支援機関が運営する専門家派遣などの制度を活用し、

専門家が訪問して個別に経営課題の解決方法やそのための IT 導入の相談に乗ることで、金融

機関の顧客サービス向上にも繋がり一定の効果が認められた。金融機関、IT ベンダ、ITC と公

的支援制度の組み合わせの活動も今後注目される。

3-1-3 中小企業のクラウド利活用推進のためのコミュニティの活動

●ユーザ企業と IT ベンダがお互いのニーズ、シーズを知りあうことが重要

ユーザ業界団体と IT ベンダとがクラウド導入促進を図るための課題の解決を、双方が持続

的かつ自立的なネットワーク(コミュニティ)を形成することによって実現していくという方

向性が示された。

ユーザ業界内でも比較的規模の大きい企業では IT 投資が進みクラウド導入事例も増えてき

ているが、中小企業では IT 投資自体が少なく IT・クラウドに対する知識が少ない。一方、IT

ベンダは地域外の同業他社や官公庁からの受注が多く、地元企業からの受注が少ないためユー

ザ業界に関するノウハウが不足している。このような状況下では、「まずそれぞれを知りあう

ことが何より重要」で、お互いを理解することで適切なシステム提案や導入が促進される。ま

た、ユーザ企業と IT ベンダ双方が共同で「業界の高度化・高付加価値化に資するシステムを

開発する等、ゆるやかな連携から始め徐々に形成されたネットワークを強化すること」が肝要

である。

また、こうしたネットワーク形成のためには、コーディネート機能を担う人材育成・確保が

不可欠であるとも指摘されており、必要な資質として、クラウドに関する知識・経験、ユーザ

企業業務の知識・経験、経営マネジメントに関する知識・経験、新しい事業を組み立てる創造

力、コミュニケーション能力が示されている。

3-1-4 受託開発型の多重下請構造からの脱却に係る現状

●直接ユーザ企業へ提案するクラウドビジネスが一つの方向

地域 IT ベンダ間でのクラウドビジネス連携により直接ユーザ企業に提案、提供して、大手

IT ベンダの下請けからの脱却を図っていくという方向性も見出されている。しかも地域を超え

て展開しようというスコープが共通している。

また新規ユーザ開拓や新規アプリケーション開発を行うというよりは、これまで、大手 IT

ベンダから受託してきたシステムをクラウドを軸としたサービスの提案に切り換えることで、

Page 37: 調査報告書 (PDF:1.2MB)

34

クラウドビジネスにシフトする案件を獲得し、直接ユーザ案件を取り込むことで下請けからの

脱却につなげたいという指摘だ。地域 IT ベンダにとってクラウドビジネスが下請けからの脱

却に繋がる鍵になるか否かは現段階において明確ではないが、地域ユーザとの相互理解の促進

など、IT ベンダ自身が大きな変革を行う契機として、一つの可能性を指し示している。

●大手の IT ベンダではできていないことを地域の中小 IT ベンダが実現する可能性

中小 IT ベンダの良さを生かすという発想の取り組みも目立つ。あらゆる中小企業、業種に

対応していくために特定分野に強みを持つ地域 IT ベンダが連携体を拡大しサービスメニュー

の充実を図っていくことが事業化の重要課題と捉えている。また、このスキームによるビジネ

ス拡大のために、大手 SIer の組織力、技術力を凌駕し、廉価で柔軟な対応力を持つことが中

小企業の IT 経営支援に繋がるものであり、本事業の目的である IT ベンダ、ITC 連携ビジネス

が成功する条件でもあるとしている。IT 経営を目指しているものの、社内には IT 人材不足や

経営課題を抱えた中小企業に提供するサービスには、地域に根差した『顔の見えるクラウド』

が必要であり、対面サービスが充実したマーケットプレイスの構築を目指すべきとしている。

また、ユーザ企業の利便性のみならず、参加 IT ベンダのクラウド開発環境の提供なども目的

にした、クラウドマーケットプレイスの構築の必要性も訴えている。地元ならではの、『かゆ

い所に手が届くクラウドサービスの提供』が地元のベンダ連携によって実現する可能性が示唆

された。

3-1-5 新ビジネスの展開状況(ユーザとベンダの協業等)

●ユーザと IT ベンダの相互理解と支援機関・専門家等のサポートが重要

マッチング事業や調査研究などでもいくつか事例が表れているが、ユーザが求める IT を支

援機関が仲介し、IT ベンダが具現化し、クラウドサービスとして全国展開を開始したという事

例もある。

IT ベンダサイドが、地元企業と共同でシステムを開発し、それをクラウドサービスとして提

供しようとした場合、一定数以上のユーザを確保する必要があるが、潜在的なユーザはなかな

か見つからないためマーケティングが重要な課題になるということが指摘された。課題解決の

ためには地域で様々なノウハウや人脈を持った支援機関や専門家との連携が不可欠で、短期で

はなく中長期の視点で、持続的な連携を模索していく必要がある。

また、今回の調査結果では専門家がユーザ企業に対して営業目的でないヒアリングをするこ

とにより、同行した IT ベンダにとっては顧客の本音や実態がわかって非常に参考になったと

の声が出ている。また、専門家のヒアリング手法そのものが IT ベンダには非常に勉強になっ

たという声もある。顧客の声を聞くことで多くの情報を得られることを発見し、こうしたヒア

リングを継続したいと感じた産業団体もあった。今回の調査をきっかけとした具体的な相談案

件が数地域で発生し、専門家が今まで支援していない業種・規模の企業の実態を知ることがで

き、支援力を上げることにつながったという報告もあった。

●マッチングを通じて新たなクラウド商品・サービスを創出

中小ユーザ企業が IT 化による経営課題の解決を模索する際に、マッチングで知り合った専

門家と IT ベンダのサポートを受けて、自社内には特別なスキルや知識がなくとも IT 化が進め

られるような仕組みを構築したという事例があった。それは、IT の調達に至るまでの各プロセ

スを可視化し、それぞれのプロセスにおいて必要となる役割とそれに応じて必要な機関・人材

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を外部との協業によって分担し用意している。

また、SaaS 等アプリケーションを所有する地域の中小 IT ベンダが、他社との SaaS ソリュ

ーションやパッケージとの連携によるアライアンスを組み新たなサービスの提供や販路拡大

を行うことを狙いとして「ベンダ連携交流会」を開催した。

この交流会では、このような新しい試みに興味を持つ IT ベンダに幅広く参加を呼びかけ、

SaaS ソリューション等に関する連携を行うための技術的、ビジネス的課題を認識し、その解

決方策の検討を行った。参加者の反応やアンケートの結果から、中小 IT ベンダが今後、ビジ

ネスチャンスを拡大するためには、単独の企業ではなく、複数企業による協業の重要性が認識

された。この事例は、SaaS、クラウドビジネスにおいて地域中小 IT ベンダが連携し、機能と

業務を組み合わせて提案できるサービスメニューを構築したものとして注目すべき内容の一

つといえる。

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3-2 今後の方向性

本事業の調査趣旨である 4 つの項目に沿って、今後の方向性として整理した。

3-2-1 中小 IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネッ

トワーク形成について

この項目については地域独自の産業や事業をもとにした IT ベンダとユーザ企業の連携を主

体にした活動が中心である。

例えば食関連企業と IT ベンダのネットワークの形成はお互いが「知り合うこと」が何より

重要であり、お互いを理解することで、適切なシステムの提案や導入が促進されるとして、ゆ

るやかな連携から始め、徐々に形成されたネットワークを強化していくことが肝要としている。

ネットワーク形成のための方策として重要なポイントは関連団体同士の連携事業の促進やコ

ーディネート機能を担う人材の育成確保、SNS 等を活用したネットワークの維持拡大をあげて

いる。

また、これまで地域単位で個別に実施していた活動内容の情報共有を行い、他地域の動きを

客観的に「見る」ことで、連携が加速した地域もある。このようにエリア連動で横断的な連携

が効果を生んでいる。

地域の中小企業における IT 利活用の促進を図るには、ユーザとなる中小企業の経営実態を

踏まえた IT 戦略の提案が重要であり、これを担う ITC の役割は大きい。中小 IT ベンダは ITC

や地域の支援機関等と連携したコミュニティの形成や活動等により中小企業の経営基盤強化

に繋がる効果的な提案を行うことが可能となり、また、中小 IT ベンダ自身にとっては受託開

発型の多重下請け構造からの脱却も可能となると考えられるとしている。

IT ベンダとユーザ企業のネットワーク構築には時間と労力、コストが掛かるものの、まずは

IT ベンダとユーザ企業の信頼関係を醸成する。そしてできるだけ多種多様な業界から人が集ま

る場となることが望ましいとしている。

IT ベンダと IT ユーザ双方にとって有効で持続的かつ自立的なネットワーク形成の構築のた

めには、まずはお互いが知り合い、認知しあうことが必要であることが各地の調査結果によっ

て確認された。特に IT ベンダがユーザ企業を熟知することで、そこから提案、利用、活用へ

ステップアップできるはずだとしている。明確なことは提案する側とユーザ企業もクラウドと

いう新たな IT の仕組みを経営にどのように活かすべきかを見出すことが肝要という点で一致

している。

3-2-2 事業化に向けた自立型ビジネスモデルの構築について

具体的な自立型ビジネスモデルの構築は本事業の重要なポイントになっている。IT ベンダに

よってクラウドに対する取り組みには温度差がある。クラウドサービスに果敢に挑戦している

IT ベンダもあれば、従来型のビジネスにとどまっている IT ベンダも多い。クラウドビジネス

は売上の上がり方が緩やかであり、一定の月額収入が得られるまでの資金繰りの課題が指摘さ

れ、この面での支援を求める声が聞こえている。一方で、開発支援よりもマーケティング面を

支援することの大切さが指摘されている。

また、IT ベンダが所有する複数の SaaS 等業務パッケージを組み合わせて、一つの新たな

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SaaS ソリューションを構築するための様々な課題が浮き彫りになった。これらの課題を「ビ

ジネス化の課題」「技術的な課題」の 2 つの視点で整理することにより、機能と SaaS メニュ

ー、IT ベンダの連携が図ることができた。ここに具体的な企業ニーズに対応できるビジネスモ

デルの形が見えてきている。

クラウド技術を活用したベンチャー的中小 IT ベンダにおいては、自社の強みの徹底的な磨

き上げと、ニッチトップを狙うためにスピード感のある商品・サービスの市場投入が重要だ。

受託開発型を主としてきた中小 IT ベンダが狙うべきは、多重下請構造からの「脱却」だけで

はなく、フロービジネスとストックビジネスの「バランスの適正化」にある。技術やサービス

に対して正当な対価を支払って利用したいと考えているユーザは確実に存在するので、付加価

値を高め、そのようなユーザ層にリーチしていく方向性も見据えている。

クラウドビジネスへの転換を推進する際には、IT ベンダにとって収入面の低下が懸念される

が、市場がクラウドへシフトするなかで、うまくオンプレミスのビジネスとクラウドを切り分

けて立ち回ることが求められる。IT ベンダの横の連携により、単一商品だけではなく提案する

メニューを増加させたり、サービスなどの対価の徴収の仕掛けなどを考慮していくべきである

ことが分かった。地域や業態などの事情に合わせ、現状を踏まえたリアルなビジネス化を検討

すべきということが共通して報告された。

3-2-3 IT コーディネータ等と連携した中小 IT ベンダ・IT ユーザのマッチング

について

中小 IT ベンダと IT ユーザが協業して新たなビジネスを展開していくためには、自立的ネッ

トワークの形成が不可欠であり、このネットワークを形成する第一歩の「お互いを知る」こと

のきっかけとしてマッチング会等の開催の有用性が指摘された。マッチング会は、IT ベンダ側

よりも、各支援機関等の第三者的機関による開催の方がビジネス色は薄まり、ユーザ関連企業

が参加しやすいという気づきがあった。

また、企業の経営基盤の強化には IT 利活用が有効であるが、中小企業の多くは IT 専従者不

在であり、IT 利活用のためのサポートが必要である。中小 IT ベンダと ITC の協業体制による

サービス提供は、事業の効率化や変革の実現など、経営課題を解決する手段を提供する重要な

役割を担っている。

ITC が中立的な立場として、IT ベンダとユーザ企業のマッチングを推奨することは、IT ユ

ーザにとっても安心感を与えることで有効であることが確認された。ただし、ITC には、マッ

チングを推進するために、IT ベンダの商品内容、ユーザ企業の業務、ニーズを把握し、的確な

マッチング活動を推進することが求められる。また、単に紹介するだけのマッチングにとどま

ることなく、ユーザのニーズを吸収して、例えば IT ベンダと連携したクラウド商品やサービ

スの開発に展開するような、一歩踏み込んだビジネス化のコーディネータとしての役割を担う

ことが肝要だ。

3-2-4 地域金融機関と連携した IT ユーザの発掘とクラウドサービスの活用に

ついて

金融機関との連携事業は近畿地域のみであったが、今回の事例は従来の連携をさらに一歩踏

み込んでいる。中小ユーザ企業の IT 導入・活用を促進するため、研究会で IT 経営ガイドブッ

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クを作成・改訂し、その利用方法を地域金融機関の法人担当者に説明会を開催して紹介し、取

引先企業を訪問する際に活用してもらうように依頼した。

各金融機関の法人担当者は実際に中小企業を訪問した際に IT 経営ガイドブックを活用し、

経営課題の解決には IT 化が有効かもしれないと思われる相談案件の輩出に努めた。さらに、

専門家を活用するための費用の負担や IT 導入のための社内体制が十分でないなどの課題によ

り、専門家の支援が必要な企業に対しては、公的機関が運営する支援制度を紹介するなど各支

援機関との連携スキーム作りを進めた。そして専門家の協力等によってユーザ企業の IT 化計

画ができた段階では、提案依頼(案件情報)を地域の中小 IT ベンダへビジネスチャンスとし

て提供することにより、関西地域の IT 市場の活性化につなげるとしている。以上のようなス

キームを近畿地域で推進し、広く波及させることにより、潜在的な IT 活用のニーズを掘り起

こし、IT 導入を希望する企業を発掘し、IT 経営実践企業を多数、輩出していくという可能性

が見えてきている。

地域金融機関は、地元のユーザ企業の課題、ニーズを把握しているケースが多いが、それが

IT で解決できるものかどうかについては判断が難しいため、ITC などの専門家とお互いに連携

することのメリットはあることが確認された。しかし、IT 化案件は発掘できても IT 化計画、

IT 導入に進むケースはまだ少ない。支援機関や国や自治体の施策である専門家派遣制度の活用

拡大を検討するとともに、さらに取り組みに賛同する金融機関を増やすこと、また、より多く

の提案依頼を地域 IT ベンダに提供することによって、さらに IT ベンダとの連携が進みユーザ

企業が求めている要件に応じた適切な提案を行うことができる。企業と密接につながっている

地域金融機関との連携だけに効果は十分に期待されるが、連携する ITC、IT ベンダなどの継続

的で有効な提案、サポートが鍵を握る。

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3-3 まとめ

本事業により地域独自のビジネスシーズが把握されるとともに、新たに生まれてきているこ

とが結果に表れている。また、本事業をきっかけに IT ベンダやユーザ企業とのマッチングが

なされ、新たなビジネス展開の可能性を拡大しており、業界団体やユーザ企業そして IT ベン

ダがネットワークとして機能し、それぞれの市場形成に向けて努力していることも本事業の成

果であり、ビジネスシーズを把握又は発見し、シーズに対応した地域ごとのビジネスモデルの

構築に向けた取り組みとして成果が出ている。

今後、取り組みをステージ・アップさせていくためには、より多様性をもった人材、企業、

団体の有機的な結合によって、ネットワークの拡大と、その活動を活発化させていくことが求

められる。

例えば、農業生産者、食品生産者と IT ベンダとのマッチング事業において win-win の関係

を醸成するために、同地域において、農商工連携推進活動を展開する組織、団体、ネットワー

クなどとの情報共有、活動連携による市場発掘、市場拡大を踏まえての事業化、産業化に向け

た取り組みを展開していくことも効果的であると思われる。

さらに、日常的に中小企業者との接点の多い金融機関が加わった活動が展開されているネッ

トワークにおいては、中小企業の課題発見とクラウドによる解決策提案に直結する連携活動が

可能であるとともに、それらの案件に関わる IT 投資への融資と関連づけることが、金融機関

の融資先発掘にも効果が期待される事業となっていくことから win-win の関係が構築される

可能性も高くなると思われる。

また、すでに汎用性、データ・コンバートの実証確認もなされ、導入効果についても十分に

理解される段階に到達しているクラウド型 EDI 事業においては、これまでの企画・開発の成果

をさらにステージ・アップさせて、広く実用化につなげていくために、販売士、中小企業診断

士など、市場接点の強い人材(組織、団体なども含め)をネットワークに巻き込んでいくこと

が成果拡大につながると思われる。

このように可能性を拡げてきた本事業での取り組みは、IT、クラウド活用に向けて、地域に

根ざした自立的なネットワーク活動の有効性をあらわしているものである。そして、その自立

性を高めるためには、より付加価値の高いサービス提供を展開できる IT ベンダの必要性、そ

して、柔軟かつ多様な対応力やコーディネート能力を持った支援機関や ITC の必要性も強く認

識されるところとなった。それらの条件を整えながら、取り組みをステージ・アップさせてい

くことで、ITベンダとユーザ企業双方が win-winの状態を醸成させていくことが期待される。

そのためには、既存のネットワークに、さらに多くの意欲ある多様な有識者、関連団体など

の参加を促し、シーズ発見・把握、企画、開発から、さらに進んで事業化、産業化に着実に結

びつけていく活動に成長させていく必要がある。本事業の成果を今後の各地域における取り組

みに生かしていくことが重要である。