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43 口頭演題 ■ 背 景 橈骨動脈のaugmentation index (以下radial AI)は大動脈反射波のマーカーであるが、糖尿病 患者では動脈硬化性変化が進んでいるにも関わらず非糖尿病患者よりも低いという報告が多い。 ■ 目 的 DM患者では、なぜradial AIが非DM患者より低いかということを検討した。 ■ 方 法 少なくとも1つの危険因子を有する患者を対象としたJ-HOP研究の参加者のうち、トノメトリー 検査を行った1788名の患者で解析した。インスリン抵抗性の指標としてHOMA指数を用いた。 Radial AI は [late systolic shoulder pressure amplitude (PP2)]/[radial pulse pressure (rPP)]と定義した。 中心動脈SBPはlate systolic shoulder pressure (SBP2)、中心動脈PP (cPP) は 橈骨動脈波形のamplitude (PP2)から定義した。PP amplification はrPP/cPPと定 義した。 ■ 結 果 対象者の平均年齢は 65.7±11.6 歳; 男性47.4%、糖尿病436名 (25.9%)、高血圧87.7% であった。年齢と平均上腕血圧(141 vs. 141mmHg)はDM群とnon-DM群で同等であった。 Radial AIはDM群で低かったが、外来PPや中心PPはDM群で高かった (図)。年齢、性別、 BMI、外来血圧、血管拡張薬、β遮断薬、空腹時インスリン値で補正した多変量解析では、 radial AIの 有 意 な 関 連 因 子 はDM群 で はeGFR (beta=0.17, P<0.001)で、 非DM群 で は LogHOMA-R (beta=-0.15, P<0.001)であった。同様な傾向はHR75で補正したradial AI、 中心SBP、中心PPでもそれぞれ認められた。eGFR とradial AIの関係は非DM群では負の相関 関係 (r=-0.06; P=0.03)であったが、DM群では正の相関関係であった (r=0.13; P=0.006)。 ■ 結 論 DMにおける低いradial AIは非DMに比 べて高い中心脈圧が原因と思われた。こ れは、導管の近位部優位の動脈硬化性変 化によるもので、全身の反射部位におけ る反射成分が低下していることが原因と 思われる。またDMにおいては腎機能の 低下に伴い、中心脈圧の増加が augmentation pressureの増加に打ち 勝つことも原因と思われた。 ○江口 和男 1) 、星出 聡 1) 、宮下 洋 1) 、長坂 昌一郎 2) 、苅尾 七臣 1) 1) 自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門、2) 自治医科大学 内科学講座内分泌代謝学部門 なぜ糖尿病患者では橈骨動脈 AI が低値となるのか -J-HOP 研究の解析より- O-9

江口 和男 、星出 聡、宮下 洋 、長坂 昌一郎 、苅尾 …江口 和男 1)、星出 聡、宮下 洋 1)、長坂 昌一郎2)、苅尾 七臣 1)自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門、2)自治医科大学

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Page 1: 江口 和男 、星出 聡、宮下 洋 、長坂 昌一郎 、苅尾 …江口 和男 1)、星出 聡、宮下 洋 1)、長坂 昌一郎2)、苅尾 七臣 1)自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門、2)自治医科大学

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口頭演題

■ 背 景

橈骨動脈のaugmentation index (以下radial AI)は大動脈反射波のマーカーであるが、糖尿病患者では動脈硬化性変化が進んでいるにも関わらず非糖尿病患者よりも低いという報告が多い。

■ 目 的

DM患者では、なぜradial AIが非DM患者より低いかということを検討した。

■ 方 法

少なくとも1つの危険因子を有する患者を対象としたJ-HOP研究の参加者のうち、トノメトリー検査を行った1788名の患者で解析した。インスリン抵抗性の指標としてHOMA指数を用いた。Radial AI は [late systolic shoulder pressure amplitude (PP2)]/[radial pulse pressure (rPP)]と定義した。 中心動脈SBPはlate systolic shoulder pressure (SBP2)、中心動脈PP (cPP) は 橈骨動脈波形のamplitude (PP2)から定義した。PP amplification はrPP/cPPと定義した。

■ 結 果

対象者の平均年齢は 65.7±11.6 歳; 男性47.4%、糖尿病436名 (25.9%)、高血圧87.7%であった。年齢と平均上腕血圧(141 vs. 141mmHg)はDM群とnon-DM群で同等であった。Radial AIはDM群で低かったが、外来PPや中心PPはDM群で高かった (図)。年齢、性別、BMI、外来血圧、血管拡張薬、β遮断薬、空腹時インスリン値で補正した多変量解析では、radial AIの有意な関連因子はDM群ではeGFR (beta=0.17, P<0.001)で、非DM群ではLogHOMA-R (beta=-0.15, P<0.001)であった。同様な傾向はHR75で補正したradial AI、中心SBP、中心PPでもそれぞれ認められた。eGFR とradial AIの関係は非DM群では負の相関関係 (r=-0.06; P=0.03)であったが、DM群では正の相関関係であった (r=0.13; P=0.006)。

■ 結 論

DMにおける低いradial AIは非DMに比べて高い中心脈圧が原因と思われた。これは、導管の近位部優位の動脈硬化性変化によるもので、全身の反射部位における反射成分が低下していることが原因と思われる。またDMにおいては腎機能の低 下 に 伴 い、 中 心 脈 圧 の 増 加 がaugmentation pressureの増加に打ち勝つことも原因と思われた。

○江口 和男1)、星出 聡1)、宮下 洋1)、長坂 昌一郎2)、苅尾 七臣1)

1) 自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門、2) 自治医科大学 内科学講座内分泌代謝学部門

なぜ糖尿病患者では橈骨動脈AI が低値となるのか -J-HOP研究の解析より-

O-9