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Vol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993 pp. 287-297 最近のアンテナ技術 手代木 扶* RECENTANTENNATECHNOLOGIES By TasukuTESHIROGI This paper reviews recent antenna technologies for various kinds of radio applications. Primarily itconcentrates on microstrip orotherplanarantennas, butitalsocoversa large reflector satelliteantennaandnear-fieldantennameasurements. First, a conceptofclassificationofantennasintermsofelectricaldimensionsisintroduced. The author proposes a half-wave dipole with a ground plane as a standard antenna for classification. SeveralmicrostripantennasandarraysdevelopedbyCRL,i.e.anairbornephasedarrayfor ETS-Vmobilesatellitecommunicationexperiments,amultibeamphasedarrayforSIC(8-band lntersatellite Communication) of ETS-VI, a rectenna array for MILAX (Microwave Lifted AirplaneExperiment),andanovelGPSreceiver antenna withverywidehemisphericalbeametc. areintroduced. Furthermore, a largereflectormultibeamantennafor 22 GHzsatellitebroad- castingexperimentandnear-fieldantennatestingbyplanarandcylindricalscanningarealso described. [キーワード] マイクロストリップアンテナ(MSA ),マルチビーム,フェーズドアレー, GPS 受信アンテ ナ,近傍界測定(NFM). Microstrip antenna (MSA), Multibeam, Phasedarray, GPSreceiver antenna, Near-fieldmeasurement(NFM). 1. ここ数年,自動車電話,携得電話が急速な勢いで伸び ている.今後,個人が電話以外の無線情報端末を手軽に 利用する時代が到来するであろう また,衛星放送の受 信契約数も年間約150 万局の割合で着実に伸びている. このようなニーズを背景に多種多様な小形アンテナ,薄 型アンテナが出現し,より一層の小形,薄形化を目指し 研究開発が行われている.これらのアンテナは可搬性, 携帯性に優れている所から,今後本格化するパーソナル 電波利用の発展に伴って大きな需要が見込まれている. 小形,薄形アンテナは形状の点から使い勝手は良いもの の,能率の低さ,狭帯域性など小さい構造に起因する電 気性能の限界があり,これを改善することが一つの研究 ターゲットになっている. 電磁波技術部 287 一方,衛星搭載アンテナに代表される高度な機能や性 能を持つ大形アンテナはさらなる大形化,高機能化を求 めて研究開発が進められている.これらにおいては,ビー ム走査,マルチビーム,ビーム成形,超低サイドロープ, 多周波共用など高度な機能・性能を極限まで追及しよう とするものが多い. 前者は民需・大量生産型,後者は一品料理型であり, これらは第 1 図に示すようにそれぞれ極限を目指して分 極化が進んでいるように見える. 本解説では,やや前者に重点を置いて,発展の背景や 基本的平面アンテナの放射原理,問題と対策,当所なら びに園内における主要なアンテナ研究について紹介する. なお,平面アンテナに関する学会誌の解説としては文献 (1) ~(4 ),代表的専門書として文献(5 )があるので詳しく勉 強したい人は参考にされたい.

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Vol.39 No.4 通信総合研究所季報 December 1993

pp. 287-297

最近のアンテナ技術

手代木 扶*

RECENT ANTENNA TECHNOLOGIES

By

Tasuku TESHIROGI

This paper reviews recent antenna technologies for various kinds of radio applications.

Primarily it concentrates on microstrip or other planar antennas, but it also covers a large

reflector satellite antenna and near-field antenna measurements.

First, a concept of classification of antennas in terms of electrical dimensions is introduced.

The author proposes a half-wave dipole with a ground plane as a standard antenna for

classification.

Several microstrip antennas and arrays developed by CRL, i.e. an airborne phased array for

ETS-V mobile satellite communication experiments, a multibeam phased array for SIC (8-band

lntersatellite Communication) of ETS-VI, a rectenna array for MILAX (Microwave Lifted

Airplane Experiment), and a novel GPS receiver antenna with very wide hemispherical beam etc.

are introduced. Furthermore, a large reflector multibeam antenna for 22 GHz satellite broad-

casting experiment and near-field antenna testing by planar and cylindrical scanning are also

described.

[キーワード] マイクロストリップアンテナ(MSA),マルチビーム,フェーズドアレー, GPS受信アンテ

ナ,近傍界測定(NFM).

Microstrip antenna (MSA), Multibeam, Phased array, GPS receiver antenna,

Near-field measurement (NFM).

1. 序 論

ここ数年,自動車電話,携得電話が急速な勢いで伸び

ている.今後,個人が電話以外の無線情報端末を手軽に

利用する時代が到来するであろう また,衛星放送の受

信契約数も年間約150万局の割合で着実に伸びている.

このようなニーズを背景に多種多様な小形アンテナ,薄

型アンテナが出現し,より一層の小形,薄形化を目指し

研究開発が行われている.これらのアンテナは可搬性,

携帯性に優れている所から,今後本格化するパーソナル

電波利用の発展に伴って大きな需要が見込まれている.

小形,薄形アンテナは形状の点から使い勝手は良いもの

の,能率の低さ,狭帯域性など小さい構造に起因する電

気性能の限界があり,これを改善することが一つの研究

ターゲットになっている.

* 電磁波技術部

287

一方,衛星搭載アンテナに代表される高度な機能や性

能を持つ大形アンテナはさらなる大形化,高機能化を求

めて研究開発が進められている.これらにおいては,ビー

ム走査,マルチビーム,ビーム成形,超低サイドロープ,

多周波共用など高度な機能・性能を極限まで追及しよう

とするものが多い.

前者は民需・大量生産型,後者は一品料理型であり,

これらは第1図に示すようにそれぞれ極限を目指して分

極化が進んでいるように見える.

本解説では,やや前者に重点を置いて,発展の背景や

基本的平面アンテナの放射原理,問題と対策,当所なら

びに園内における主要なアンテナ研究について紹介する.

なお,平面アンテナに関する学会誌の解説としては文献

(1)~(4),代表的専門書として文献(5)があるので詳しく勉

強したい人は参考にされたい.

288 通信総合研究所季報

* 衛星,航空機アンテナ器 移動通信基地局アンテナ後 レーダアンテナ発 電波天文用アンテナ

)’)ど

用ムな

共一波

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面開情放冴一化化割也性

動相帯星間一型型能搬済

G一小薄高可経

民需・大量生産型

第1図 アンテナの分極化傾向

一品料理型

~ D

反射板付ダイポール パラボラアンテナ 逆 Fアンテナマイクロストリップ

アンテナ

L=A/2 Dミ;; A L+W<A/2 L=A/2 d=A/4 FミEA h <A/ 1 0 t<A/1 0

標準 大形 小形(薄形) 薄形

第2図 アンテナの大きさによる分類

2. アンテナの大きさによる分類

薄形アンテナ,平面アンテナ,小型アンテナ,大型ア

ンテナ等最近様々なアンテナの大きさを表す用語が使わ

れている. しかしこれらにはあまり明確な定義がされて

いないようである.本解説ではこれを整理することから

始めたい.

アンテナの大きさを議論するには,標準となるものが

必要である.筆者は反射板付き半波長ダイポールを標準

とするのが適当と考える.半波長ダイポールは最も基本

的でよく用いられるアンテナであるが,これだけでは長

さ方向の情報しか与えない.通常は特定の方向に電波エ

ネルギーを集中させる単向性アンテナが必要となるが,

この場合にはダイポールから 1/4波長離れた位置に反射

板を置いた反射板付きダイポールアンテナが用いられる

このアンテナだと奥行き方向の情報が得られる.実際の

反射板付きダイポールアンテナでは反射板は波長(λ)

に対しある程度大きいが,標準アンテナではこの点は無

視し,電波の主放射方向に垂直な面(開口面)では .A./2

×.A./2,主放射方向ではアンテナの深さ d=.A./4と考え

ることにする.これを基準にして代表的なアンテナを分

類したのが第2図である.

Vol. 39 No. 4 December 1993

パラボラアンテナでは関口直径D,アンテナの深さを

表す焦点距離Fが波長に比べて十分大きい.これは大形

アンテナとしても問題はない.

携帯電話用アンテナとして用いられる逆Fアンテナで

はアンテナの深さ hは.l./4よりはるかに小さいので薄

形アンテナということもできる.この点に関してはマイ

クロストリップアンテナ(以下 MSA)と同様である.

しかし MSAではパッチの一辺が共振する λ/2である

のに対し,逆 Fアンテナでは放射素子の二辺の和

(L+W)が A/2より小さい.マイクロストリップアン

テナでは素子の大きさは標準の反射板付きダイポールと

同じであるのに対し深さがはるかに小さいので薄形アン

テナと分類するのが妥当である.薄形アンテナの厳密な

定義はないがA/10を一応の目安としてよいω.それに

対し逆Fアンテナの深さはマイクロストリップアンテナ

と同程度であるが,放射素子の寸法が小さい所により大

きな特徴があると考えられるので薄形アンテナと区別し

て小形アンテナとするのが適当と考えられる.

3. 各種平面アンテナ

第3図は基本的平面アンテナの例である.ここで言う

平面アンテナとは単に表面が平面であるということでな

く,厚みが波長に比べて十分に薄いいわゆる「薄形アン

テナ」を意味する.

薄形アンテナの発展は製造技術の進歩による所が大き

い.第l表に示すように従来の線状アンテナや立体アン

テナは機械加工による製作であったが,薄形あるいは平

面アンテナは印刷技術の導入により量産が可能となり,

パ7チアンテナ スロットアンテナ

289

その結臭経済性に優れたアンテナが得られるようになっ

てきた.もちろん,小形,軽量,低プロフィール,携帯

性,コンフォーマル性など形状の有利さが開発の背景に

あるのは言うまでもない.

最もよく使われるマイクロストリップアンテナの給電

法には第4図のような方法がある.(4)の電磁結合給電は,

放射素子と給電回路のシールドを保ちながら同図(2)のよ

うに層聞をピンで接続せずに給電できるので構造が簡単

で,経済的なアンテナを構成できる.

MSAは元々平面回路の共振器から考えられたもので,

そのQを下坑電波を放射しやすくしたものである.元々

共振器であるからQが高く帯域が狭い.MSAでは周囲

の側面(関口端)が開放になっていて,共振するとこの

面に大きな磁流が流れ,これが波源となって放射が起き

ると考えられる.このようなモデルをキャピティモデル

と呼んでおり,このモデルでアンテナの概略の設計を行

うことができる.

磁流 M は関口端で地板に垂直な電界成分を E,開

口端外向き法線ベクトルを nとすると

M=Exn ・・・(1)

で与えられる.

方形パッチの基本モードは TM01モードで,パッチの

中心を原点として各辺に平行にx' y軸を置き, x=O

軸上の適当な点から給電したときパッチの両端 y=±b

にはx駒子の均一磁流が流れこれが電波の放射源となる.

パッチのx方向の両端 x=土αの函には

Ez = -Eosin(πy /2b) ……(2)

の電界が生じる.ここで 2b/λ=1/2 ..re;

コプレーナアンテナ ライン型アンテナ

第3図基本的平面アンテナ

第1表アンテナの進歩

従来 現状...

特徴

形状 線状,立体 薄型,平面化 携待,可搬性,収納性

コンフォーマル

製作 機械加工 印刷技術 量産性,経済性

290 通信総合研究所季報

誘電体 給電線

ノTyチアンテナ

( 1 )マイクロスト ( 2)同軸線給電 ( 3 )マイクロスト

リップ給電 リップ給電

( 4)電磁結合給電

第4図 マイクロストリップアンテナの給電

円形パッチの基本モードは TMuモードで, x軸上

にある点から給電した場合にはパッチ内部の電界は

Ez = EoJ1CKρ) cos¢ ・…・(3)

ここで κα=1. 8412, a:パッチの半径, p,</> :極座標

変数である.

MSAの基板が厚い程,基板の誘電率が低い程,アン

テナのQが低下し,電波は放射しやすくなり広帯域にな

る.ただしQが下るとパッチ周辺の電磁界が乱れ(フリ

ンジ効果という),キャビティモテソレで推定される共振

周波数からのずれが大きくなる.

4. MSAの問題点

MSAは,薄形,軽量で使い勝手がよい半面,

(1) 狭帯域である.

(2) アレー化したとき伝送損失が増大する,

という問題がある.アンテナでは,一般に

GxBcx V ……(4)

ここで G:利得, B:帯域幅, v:アンテナの体積と

いう経験法則が知られている.利得はアンテナの関口面

積でほぼ決まるから, MSAを薄くすればするほど帯域

が狭くなってしまう 即ち,薄形化を追及していくと,

極めて狭帯域になり,実用上アンテナとしては使えない

とL、うことになる

MSAの狭帯域化を改善するため様々な研究が行われ

ているω.

最も一般的なのは厚さ tの大きい低誘電率のハネカム

基板を用いる方法ω でこれは式(4)の体積を増やすこと

に相当する.その他非励振のパッチを給電パッチの上方

に配置する方法も用いられる(7). その他異なる周波数の

2つのパッチをスタックにして重ねたがベ下側素子を

最第5図 ラジア jレラインスロットアンテナ

円環パッチにして重ねる方法(9>,狭帯域の円偏波素数を

アレーの組合せで広帯峡化するベア素子(10)やシーケン

シャルアレー(1IJの方法等が開発されている.

アレーの伝送損失は基本的には使用する給電線による.

もっとも広く使われるマイクロストリップ線路では

(1) 誘電休損

(2)導体損

(3)放射損

の3つがあるω このうち誘電体損は材料の tanδ

に比例し,周波数に対してはほぼ一定である. 3つのう

ち特に問題となるのは導体損と放射損である.

導体損 αは

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α= 8.68 ,,JW/J. I w Z ,.,/20

で与えられる ここで

ω,角周波数,μ;誘磁率

w;ストリップ導体の幅, u;導電率

Z;線路の特性イン ピーダンスである

・(5)

一方放射損は主に線路の折れ曲りや短絡,開放なと不

連続部分から発生し放射電力は

P= (wt)2F(ε〉 ・・・・(6)

で表さ れる ここで tは誘電体基板の厚さ,F(ε)は形

状と誘電率で決まる定数である

基板の厚さを増すと, 線路の特性イ ンピーダンスは増加

するので式(4)から導体損は減少するが,式(6)から放射損

が増加するというジレンマがある.このため,損失の少

ないトリ プレート線路やサスペンデy ド線路が芹jL、られ

ることがある。伝送損失を減らす試みの一つにラジアル

導波管の上面に多数スロッ トを設けたラジアルラインス

ロットア ンテナ(第 5図)が,東京工業大学で開発さ

れ<12), BS受信用として実用化されている

5. マイクロストリッフ。アンテナ利用例

当所で開発した !VISA,及びそれを用いたアレーの例

として

*ETS-V 実験用航空機略戦フェ ーズドアレー

(第6図)

*ETS-V 実験!日可搬型メッ セージ通信機

本ETS-V 実験用車載用フェ ーズドアレー (第7図)

*ETS VI 搭載Sバンドフェ ーズ ドアレー

(衛星間データ中継用) (第8図)

*マイク ロ波駆動模型飛行機実験用レクテナ (第9図)

*船舶用受信機内蔵型 GPSアンテナ (第10図)

等がある このLjJから主要なものをいくつか説明する.

第 6図は ETS-V実験用航空機搭載アンテナであ

~

第6図 ETS-V実験rn航空機搭載フェーズドアレー

PARASITIC ELEMENT

にコ---ー’ー--ーー、,、,’ 一、v’、‘-- 、

GRO川 州E I co川 G叩

MICROSTRIP LINE

291

第7図屯舷結合給ii;¥広帯域 MSA(ETS-V実験用車載フェー

ズドアレーの紫子)

第8図 ETS VI f品il~S バンドマノレチビームフェ ー ズドアレー

292

る(13).こ のアンテナは 2×8素子のアレーアンテナで

上下2素子の対に 1個ずつ,ディジタル移相器が接続さ

れたフェ ーズドアレ で水平方向にビーム走査を行い衛

星を追尾する.8素子のアレーは π/8す.つ回転と位相

偏移が与えられたシーケ ンシャルアレー構成とし,広帯

域円偏波アンテナを笑現している.

第7図は同じくETSV実験用車戦フェーズドアレー

アンテナの素子を示している(14).放射素子の円板パッ

チは結合スロットを介して背蘭の給電回路と結合 し励振

されている 広答域化を図るため放射素子の上方に非励

振(バラスティ y ク)素子がスペーサをはさんで置かれ

ている 車載アンテナはこの素子を19他用いたフェ ーズ

ドアレーである.

第 8図は ETS-VI衛星搭載 SIC(Sバンド衛星間通

信)用19素子マルチビームフェーズドアレーアンテナで

ある(15).ユーザ衛星の軌道要素からオンボードプロセッ

サで方向を計算し, その方向に 2つビームを独立に形成

してユーザ衛星を追尾する オンボードでビーム形成を

するマルチ ビームフェーズドアレーは世界で初めてであ

る このアンテナでは素子としてハネカム基板の 7素子

通信総合研究所季報

マイクロストリップサブアレーを用いている.

第9図は MILAX (マイク ロ波駆動模型飛行機実験)

用レクテナである レクテナとは電波を受信し,直流電

力に変換する素子でハネカム基板の MSAと整流回路

等から成っている【16). 当所で開発したレクテナを使用

し, 1992年8月,我が国で初めてのマイク ロ波による模

型飛行機の飛行実験に成功した

第10図は船舶用 GPSアンテナとして開発した MSA

の構造と指向性である(17) 船舶では船の動揺のため仰

角が -20。程度までアンテナの利得を確保する必要があ

る. MSAではこのような広角なビームを得るのは難し

し従来は給電が複雑な 4線分巻ヘリカルアンテナが用

いられてきた.本提案のアンテナは導体円筒、民上面に

MSAをマウン卜したもので仰角一20。で -5dBiの利

得を得る ことができる その上,高周波系,信号処理系

をすべて導体円筒内に収納できるため,アンテナ部から

ディスプレイまでの接続に従来のような高周波ケーフeル

やプリアンプが不要で,代わりにツイストケーブルだけ

ですむようになり,低価格の GPS受信機を実現出来る

このアンテナは現在量産されている

ー 一\

J:i19図 MI LAX用模型飛行機とレクテナ

Vol. 39 No. 4 December 1993

z P(R,θ,φ)

H

(a)アンテナの構成

下l

bli

」ー→ Efield

-ーー多 Hfield

a<九12 CUT-OFF SIZE

VERY LOW TRANSMISSION LOSS

MEASURED LOSS AT 50 GHz

---Polystylen 13dB/m

一Tellon 4d8/m

(Microstrip Line ・ 57d8/m )

MANY COMPONENTS FABRICATED

293

y

180

(b)垂直面内円偏波指向性

第10図船舶用受信機内蔵型 GPSアンテナと指向性

Slots

第11図 NRDガイドと NRDガイ ド給電ミリ波平面アンテナ

294

6. ミリ波アンテナ

今後のアンテナ研究のターゲットの一つは未だ十分に

使われていないミリ波帯のアンテナである.当所では平

成4年度より「ミリ波構内通信技術の研究開発」プロジェ

クトを開始しており,その中でミリ波アンテナの研究開

発を重要なサブテーマのーっとしている. ミリ波アンテ

ナとしてこれまで知られているものの多くは従来マイク

ロ波帯で、使われていたホーンアンテナ,誘電体アンテナ,

各種反射鏡アンテナ,もれ波アンテナ等立体的なもので

ある.

最近,我が国で発表された注目されるアンテナに第11

図に示す非放射性誘電体線路(NRDガイド)を用いて

給電するミリ波平面アンテナがある. NRDガイドは東

北大学の発明による極めて低損失のミリ波導波路である

が(18〕,導波路としてだけでなく,これを応用して各種

受動素子を作ることができるので, ミリ波集積回路を組

むことが可能である.このアンテナは NRDガイドに

周期的摂動を与え,平行平板導波管中に TEM波を発

生させ,一方の平板に切った多数のスロットから電波を

放射させるもので,単純な構造で高能率のアンテナであ

る(19).

将来のミリ波通信機器では,能動デバイスからアンテ

ナ周辺の受動素子までを集積化して製作し,小形化と経

済化を実現することが最重要である. このため当所では,

平成5年度から周波数資源開発の一環として,「ミリ波・

サブミリ波デバイス技術の研究開発」プロジェクトを開

始した.このプロジェクトの目的はミリ波からサブミリ

波に至る周波数領域の通信デバイスの研究開発を系統的

に進めることであるが,この中で,各種デバイスとアン

テナを出来るかぎり一体化したミリ波集積アンテナの開

発も一つのテーマにしている.

7. 大型アンテナと精密測定法

最初に述べたように衛星用アンテナは益々大形化,多

機能化,高性能化をめざして研究が進んでいる.当所で

もETS-VIの SICのマルチビームアレーに続いて反射

鏡形式の大形マルチビームアンテナの開発を進めている.

第12図は COMETS(通信放送技術衛星)計画で想定

している 22GHz帯地域別衛星放送ミッションのマルチ

ビームと,それを実現するため開口 2.3mの反射鏡を

照射する給電ホーンの構成,及び同一周波数を共用する

関東ビームと九州ビームの指向性である(20).周波数共

用領域に対しては 35dB以下のサイドロープにする

必要がある このような高度な性能を持つ大型アンテナ

の開発に当たってはアンテナの精密な測定と診断が必要

通信総合研究所季報

で,これにはアンテナの近傍界測定(NFM)システム

が極めて有効である.第12図の利得等高線は当所で開発

した 4mx4mの走査範囲を持つ平面 NFMシステ

ム(21)で測定したものである.

NFMは大形アンテナを狭い空間で損lj定できるので,

当所では衛星搭載アンテナや航空機搭載アンテナの試験

の他,大形舶用レーダの指向性測定にも利用している.

NFMの有効性は理想的な条件で測定した通常の遠方界

測定法と比較することで明らかになる.第13図は 3

GHz, 2. 7 m長の舶用レーダを山中湖付近で行った遠

方界測定と平面走査 NFMによる結果を比較したもの

で,非常によい一致を示している.

また,当所では平面走査システムの他に円筒走査

NFM法の研究開発も行っている(22). これは舶用レー

ダのように一方向に長いアンテナの測定には効率のよい

方法である.第14図は円筒走査 NFMを用いた舶用レー

ダ測定の概念、図,第15図は平面走査と円筒走査による本

アンテナの指向性を比較したもので,これも非常によい

一致を見せている.

8. これからのアンテナ研究の課題

電波利用の多様化に伴って今後ますます様々なアンテ

ナが必要とされ研究が進むであろう.すべての研究課題

を網羅することは不可能であるが,いくつかの重要な課

題(これらは従来からも研究されているものであるが)

を強いて列挙すると,次のようなものがあろう.

(1) 多様な小形アンテナ,簿形アンテナ及びその広帯域

化,高能率化

(2) 衛星アンテナの大形化,多機能化,高性能化

(3)地球局アンテナの低サイドロープ化,高能率化

(4) ミリ波帯アンテナ(集積化アンテナ等)の開発

(5) ディジタル技術によるアレーの励振分布制御

(6) アンテナの設計・解析のための電磁界理論と計算機

ソフトウェアの開発

(7) アンテナの診断,測定法の高度化

アンテナは無線システムの質を大きく左右するから,

その目的に合う性能や利便性を実現するのはもちろんで

あるが,その他に周波数の有効利用を図るために特に重

要なデバイスであるので,これらを経済性という枠の中

で総合的にいかに実現するかがアンテナ研究の難しさで

もあり,面白さでもある.

Vol. 39 No. 4 December 1993 295

Primary feed configuration

(a)マルチビームと給電ホーンの配置

(#1 Kyushu Tx beam) f:22.75GHz, Peak gain:SO.OdBI

噛.10 • •O • 10

-r@・

= .,

R

-”・’

5W!.二

(b)同一周波数を共用するビームの利得等高線

第12図 COMETSのマルチビームと利得等高線(NFMによる測定)

通信総合研究所季報

一一円筒函走査NFAM

-一一平面走査NFAM

hM刷友田特

{∞ヱー一一平面走査

近傍界測定

296

-30

-•0 "・-60 -50・40-JO・10 -10

一ーー途方界測定

II~'. -<10,

-60 -s白 -<10 -30 -2自ー10 0 10 20 30 ~日 5唱

ANGLE (deg)

平面走査と円筒走査 NFMの比較

E目

船舶用レーダアンテナの測定(遠方界測定と近傍界測

定の比較)

第13図

一 下 一

372. 4 目

cm 1 1

ヲンブリこJグ数1 ' 77個 i 12. 7m

ヲンブリ立ク間隔 ! 4, 9cm J

|×

第15図

動向ヘ信学論,-B,Vol.J 71-B, 11, pp.1217-1227

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数Z

山周引

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調訓川町

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