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平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規 制動向等に関する調査) 平成 31 年3月 JFEテクノリサーチ株式会社 平成 30 年度経済産業省 委託調査報告書

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平成 30 年度化学物質安全対策

(ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

制動向等に関する調査)

平成 31 年3月

JFEテクノリサーチ株式会社

平成 30 年度経済産業省

委託調査報告書

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はじめに

ナノ材料は、抗菌加工や日焼け止めなどの化粧品などの日用品から、リチウムイオンバッテリー

(電極添加剤)等の産業分野にまで幅広い用途があり、今後の更なる応用が期待されている。一方、

その安全性を評価する方法が確立されていないことから、各国において予防的対応が取られてお

り、例えば欧州においては、ナノ材料の届出・登録が各国で義務化の動きを見せ、フランスでは

2013 年に、ベルギーでも 2016 年から実施され、イタリア、ドイツ等でも実施へ向けた検討が行われ

ている。また、2013 年より EU 化粧品規則が施行され、化粧品中に含まれるナノ物質に関し、安全

性データの届出、表示等が義務づけられている。このような状況の中で、国際的な動きとして、

OECD 工業ナノ材料作業部会(WPMN)での有害性情報を収集するスポンサーシッププログラム

において、ドシエが整備され、公開される等、ナノ材料の科学的知見の蓄積は着実に進展しつつ

ある。

また、ナノ材料同様に、科学的検討が進められている化学物質の内分泌かく乱作用については

海外、特に欧州において関心が高く、EU においてはクライテリアを作るべく議論が進められている

ところである。

こうした中、弊社は、ナノ材料に関する 2018 年度の海外の規制動向等の情報収集・分析を行い、

今後の我が国のナノ材料等の管理のあり方を検討する上で必要となる国外の情報を整理するとと

もに、ナノ材料の安全に係る国際的な取組に貢献するため、OECD 工業ナノ材料作業部会

(WPMN)の活動への支援及び内分泌かく乱作用に係るテストガイドラインの検討を行う OECD テ

ストガイドライン作業グループ(WNT)会合の支援を行う事業を委託されることとなった。本事業で

は、EU 及び米国を始めとした各国におけるナノ材料や内分泌かく乱物質の規制動向の把握、国

際機関におけるガイダンス・テストガイドライン・規格等の調査、ナノ材料の安全性に関する情報の

収集等を行うとともに、OECD/WPMN 試験プログラムへの我が国の対応を行った。なお、本事業は

平成 29 年度は事業が見送りとなっていたことから、平成 30 年度の本事業において、規制動向調

査では、可能な限り、平成 29 年度に公表された特に注目すべき情報についても、情報収集の対

象とした。

ここに、本事業で実施した調査等をまとめて報告書とした。本報告書が、我が国のナノ材料等の

安全な管理、ナノ材料等の安全性に対する国際的貢献、ひいては我が国のナノテクノロジーの発

展の一助となれば幸いである。 平成 31 年3月

JFE テクノリサーチ株式会社

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目次

1. 国内外規制動向 ......................................................................................................................... 1

1-1. ナノ材料 ....................................................................................................................... 1

(1) 米国および EU の規制動向 ............................................................................................. 1

(2) その他の国の規制動向 .................................................................................................. 42

(3) 我が国の規制動向 ......................................................................................................... 50

(4) 国際機関の動向 ............................................................................................................ 51

(5) 海外における規制動向まとめ ......................................................................................... 58

1-2. 内分泌かく乱 .............................................................................................................. 60

(1) 米国 .............................................................................................................................. 60

(2) EU ................................................................................................................................ 70

(3) その他諸国、国際機関の動向 ........................................................................................ 97

(4) 我が国の動向 .............................................................................................................. 104

2. 国際機関におけるガイダンス・テストガイドライン・規格等の動向 ................................................ 106

2-1. OECD テストガイドラインに係る動向 ......................................................................... 106

(1) WPMN における活動状況 .......................................................................................... 106

(2) WNT での検討状況 .................................................................................................... 109

2-2. ISO 標準化の動向 ................................................................................................... 109

(1) 出版済および作業中の標準、技術仕様、技術レポート .................................................. 109

(2) WG3(健康・環境・安全関連)の動向 ............................................................................. 113

3. ナノ材料、内分泌かく乱の安全性情報 ...................................................................................... 116

3-1. ナノ材料 .................................................................................................................... 116

(1) 公共機関、プロジェクト等のナノ材料の安全性に関する取組みの情報 ............................ 116

(2) ナノ材料の労働安全衛生に関する情報 ........................................................................ 129

(3) ナノ材料の有害性試験法、有害性機序一般に関する情報 ............................................ 136

3-2. 内分泌かく乱 ............................................................................................................ 144

(1) 米国 ............................................................................................................................ 144

(2) EU .............................................................................................................................. 151

3-3. 国内学会参加報告 ................................................................................................... 162

(1) 特別講演『内分泌かく乱物質と「地球の限界」』.............................................................. 163

(2) 教育講演「欧州におけるコホート及び疫学研究からの新しい発見」 ................................ 164

(3) シンポジウム1;『環境中エストロゲン様物質に関する研究の新展開』 .............................. 165

(4) シンポジウム2;生態系フィールドシンポ『ネオニコチノイド等の浸透性殺虫剤の水環境レベル

と生態影響』 ............................................................................................................................ 167

(5) シンポジウム 3『内分泌かく乱化学物質の生態毒性評価』 .............................................. 167

(6) ポスター発表 ............................................................................................................... 168

4. OECD/WPMN(Working Party on Manufactured Nanomaterials) .................................. 169

4-1. OECD/WPMN 試験プログラム ................................................................................ 169

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(1) ドシエ・概要版の公開に向けた作業 .............................................................................. 169

4-2. OECD WPMN 会合 ............................................................................................... 169

(1) WPMN19 ................................................................................................................... 169

(2) フォーカス・セッション ................................................................................................... 184

4-3. OECD WPMN その他の活動.................................................................................. 186

(1) SGAP ミーティング ....................................................................................................... 186

(2) SIA プロジェクトミーティング ......................................................................................... 187

5. OECD/WNT(the Working Group of National Co-ordinators of the TGs programme) . 189

5-1. 内分泌かく乱作用を評価するスクリーニング in vitro 試験法 ..................................... 189

(1) WNT30 ....................................................................................................................... 189

(2) 16th VMG-NA ............................................................................................................ 194

• 添付資料 ................................................................................................................................ 199

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1. 国内外規制動向 1-1. ナノ材料

(1) 米国および EU の規制動向

(ア) 米国

(i) EPA

(a) ナノ材料の報告と記録保管の義務付け規則の成立

a) 規則成立までの経緯

2016 年 10 月 7 日、EPA は大統領府の行政管理予算局(OMB)に、ナノ材料として製造(および輸入)

あるいは加工された化学物質について、情報の報告と記録保管を義務付ける最終規則案を提出した。

OMB は、大統領府に置かれ、大統領を補佐するスタッフ機能を有し、その権限の一つに、法律案、規則

案、大統領行政命令の審査と承認がある。

2017 年1月 12 日、EPA は米国官報で、ナノスケールで製造または加工される特定の化学物質に関す

る報告および記録保持の義務を定める、有害物質規制法(TSCA)に基づく最終規則を公開した。最終規

則は官報掲載 120 日後の 2017 年 5 月 12 日に発効するとした。しかし、2017 年 5 月 8 日の連邦官報で、

発効日を 5 月 12 日から 8 月 14 日に延期するとした。2017 年 8 月 14 日、TSCA8(a)の下で、最終規則が

発効した。

EPA が 2008 年1月末に立ち上げた、ナノスケール物質スチュワードシップ・プログラム (Nanoscale

Materials Stewardship Program: NMSP)は、ナノスケール物質のリスク管理のための情報を 2008 年 7 月

末までに自主的に提出することを求めるものであった。本プログラムの対象となるナノ関連企業の数は

180 社程度存在すると言われていたが、EPA ウェブサイトに発表された応募数は提出期限を過ぎた

2008 年 12 月時点で、基本プログラム /詳細プログラムでそれぞれ 29 社/4 社だけと予想より大幅に少

なかった。ナノ材料製造者の“企業秘密”の主張を崩せなかったことが要因である。2009 年 8 月に中間報

告書検討状況を含む委員会報告が公表された。NMSP の最終報告書は 2010 年の早い時期に公表され

るとしていたが、公表されなかった。EPA はこの「失敗」に鑑みて今回の規則発表に至ったが、長い道のり

であった。

b) 最終規則の概要

c) 報告化学物質

この提案された規則は、一次粒子、凝結体(aggregate)、凝集体(agglomerate)が1‐100 ナノメートル

(nm) のサイズの範囲内にあって、そのサイズ故にユニークで新しい特性や性質を示すような形態(form)

で製造又は加工されている、25℃ および大気圧で固体である化学物質に適用される。規則は、少なくと

も一つの次元が1‐100 nm のサイズ範囲にある一次粒子、凝結体、または凝集体を含む化学物質に適用

される。この規則は、サイズ故にユニークで新しい特性や性質を示さない、または1‐100 nm のサイズの範

囲にある一次粒子、凝結体、または凝集体が 1 重量%未満の化学物質には適用されない。

① 個別的な形態(discrete form)

同じ化学物質で複数のナノスケールの形態を持つ製造者および加工者は、各々の形態の報告化学

1

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物質について別々に報告する必要がある。EPA は 3 つの要因の組み合わせに基づいて区別するように

説明している: (1) ナノスケールで製造された化学物質のサイズの変化および/または特性の変化に影響

を与えるプロセスの変更;(2)10%以上の平均粒径の変更;及び (3) 測定値の変化が、次の性質、ゼー

タ電位、表面積、分散安定性または表面の反応性の少なくとも1つが、測定値の標準偏差の 7 倍より大き

い (標準偏差の± 7 倍)。

さまざまな形態や形状の特定化学物質のナノスケール形態は、別々の形態としても対象となる。またさ

まざまな化学物質で被覆された特定化学物質のナノ形態は各化学コーティングの別々の形態と考えられ

る。

② 化学混合物

混合物、カプセル化された材料または複合体の構成物としてのみナノスケール形態で製造あるいは

加工されている化学物質も報告されなければならない。

d) 報告から除外される物質

ある特定の生物学的材料 (例えば、DNA、RNA および蛋白質) 、水に完全に溶解して 1nm 未満のイ

オンを形成する化学物質を除外する。ナノクレイ、酸化亜鉛、および表面上のフィルムの一部として、ナノ

スケールで製造された化学物質をこの規則の要件から除外する(よく特徴付けされているかまたはそれら

はほとんどばく露の可能性がないため、これらの材料に関して収集された情報が限られている、と当局は

考えている。)

e) TSCA セクション 8(a)報告の一般的免除

研究開発のために少量だけ化学物質を製造または加工する者

小規模製造業者の免除(小規模製造又は加工業者は売上げ$ 400 万未満の会社として定義

する。)

f) 報告除外事項

2005 年 1月1日以降に TSCA 化学通知をセクション 5 の下で EPA に提出した者は、この提案され

た TSCA セクション 8(a)規則の下で、報告すべき化学物質の新しい別個の形態の化学物質を生産加

工する者を除いて、同じ物質について報告する必要はない。さらに一部またはすべてが既にこの NMSP

の下で TSCA セクション 8(a)規則案で必要となる情報を報告した者は、再びこの提案 TSCA セクション

8(a)規則の下でその情報を報告する必要はない。

g) 報告時期

報告すべき化学物質の個別の形態を規則の最終的な施行日前の 3 年間いつでも製造し加工した者

は、最終規則の施行日後 6 ヶ月までに EPA に報告する。報告すべき化学物質の個別の形態を、規則の

最終的な施行日以降に、製造又は加工を意図する者は、製造又は加工の開始前少なくとも 135 日まで

に EPA に報告する。

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h) 報告すべき情報

以下(NMSP の情報報告を、この提案された規則の目的のために若干変更したもの)について(詳細は

以下)の一回限りの報告(2013 年に確立した要求のような電子報告)である。

① 化学物質を特定する情報(通称あるいは商品名、CAS 番号や分子構造)

② 材料特性(粒子径、形態、表面修飾)

③ 物理的/化学的特性

④ 製造、加工、使用又は廃棄による不純物・副生物の最大重量パーセント

⑤ すでに生産している者の報告の場合、規則発効前の 3 年間の年間生産量及び規則発

効後 2 年間における連続する 12 か月間の予想最大生産量、これから生産する者の報告

の場合、12 か月間の予想最大生産量及び製造の最初の 3 年間における連続する 12 か

月間の予想最大生産量(両者とも予想生産量は固体のナノスケール材料の個別の状態

で 100%換算)

⑥ 用途情報:機能及び応用分野によって説明される各用途のカテゴリー、用途カテゴリー

ごとの予想される製造・加工量、及び用途ごとに予想される剤形(formulation)中の%

⑦ 製造・加工方法の詳細

⑧ ばく露情報:雇用場所でのばく露予想人数とばく露をもたらす作業内容・期間、一般市

民・消費者のばく露の内容と予想規模

⑨ 放出情報:予想放出量、放出をもたらす活動内容・期間、放出は環境へ直接か制御技

術(control technology)を通してか。

⑩ リスク管理の取組:個人保護具、工程管理、制御技術(control technologies used)、危害

警告文書、表示、SDS(安全データシート)、顧客訓練、その他ばく露が予想される者へ提

供する情報(保護具又は安全な取扱い・輸送・使用・廃棄の取組)

⑪ 環境及び健康影響に関する既存データ:当局に提出するために試験データを採取する

ことを要求しないが、ナノスケールで製造された化学物質に関連するデータを提供するこ

とを奨励する。ナノスケールで製造された化学物質を試験するためのプロトコルを選択す

る前に、当局と相談することを奨励する。

i) その他

記録の保管

報告者は、報告書及び報告したデータの復元に必要な資料を3年間保管する義務がある。

秘密情報の指定

報告者は、報告内容の一部又は全部を営業[企業]秘密情報(CBI)として指定できる。

(b) ナノ材料情報収集規則に関するガイダンスの発表

EPA は、ナノ材料報告規則とともに、ナノ材料の情報収集規則に関するガイダンス『Working Guidance

on EPA’s Section 8(a) Information Gathering Rule on Nanomaterials in Commerce』を 2017 年 8 月 14 日

3

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に発表した。

本ガイダンスは、製造者及び加工者からの質問に回答する形式でまとめられている。全部で 6 つのセ

クションからなり、各セクションのタイトルは以下に示すとおりである:

セクション 1:どの化学物質が報告義務があるか。

セクション 2:誰が報告する必要があるか。

セクション 3:どのような情報が報告されるのか。

セクション 4:いつ報告する必要があるか。

セクション 5:一般的な質問

セクション 6:秘密保持

セクション 1 では、報告義務のあるナノスケール材料の考え方を示している。ナノ材料情報収集規則の

下で報告義務のある化学物質については、以下のように説明している。

質問1:報告義務のある化学物質は何かを記述することができるか。商用の新しいナノスケール材料と伝統的

な製品とを区別する方法はあるか。

この規則の下で、報告義務のある化学物質は、25℃、標準大気圧で固体、として定義され、凝結体と凝集体を

含む、任意の粒子が、少なくとも 1 次元が 1-100nm のサイズ範囲にある形態で製造または加工され、そのサイ

ズ故にユニークで新規の特性を示すように意図的に製造又は加工されたものである。報告義務のある化学物

質には、重量測定で凝結体及び凝集体を含む粒子のうち、1%未満が 1-100nm のサイズ範囲にある形態で製

造または加工される化学物質は含まれない。この定義は、1-100nm 範囲のサイズ故に、ユニークで新規の特

性を示すように意図的に製造または加工されたナノスケール材料に焦点を当てている。

報告義務のある化学物質の定義は、「ナノに可能な」特性の ISO 概念と一致している。しかし、EPA は ISO の

「ナノに可能な」特性を、一般的にユニークで新規の特性とみなすことは考慮していない。

セクション 1 では、そのほか、ユニークで新規であると考えられる特性や、100nm よりも大きな凝集体を

形成するナノスケール材料に対する考え方、混合物に対する考え方、コーティングした化学物質に対す

る考え方、について例示して説明している。

セクション2では、報告義務のある人について、どのような化学物質を製造/輸入する人が対象になる

のか、成形品を加工/輸入する場合の考え方、報告義務のある化学物質を研究開発している場合、等

について例示して説明している。なお、加工後に特性が変化して、その化学物質が報告義務対象ではな

くなった場合については、加工した物質は報告義務ではなくなるが、報告義務のある化学物質がどのよう

に加工することで報告義務のない物質になったかについての情報を報告する必要がある、と説明してい

る。

セクション 3 では、報告する情報の種類や範囲について説明している。例えば、川下ユーザーでの使

用に関する情報や、川上事業者が消費者製品に関する情報を報告する必要があるかについては、製造

/加工者が知りうる情報は報告することを説明している。

セクション 4 では、報告する時期について、製造/加工の少なくとも 135 日前までに報告するものの、

製造/加工の 135 日前を過ぎた場合には、製造/加工の意思を形成後 30 日以内に報告するべきであ

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る、と説明している。

(c) 排水ガイドライン計画内での工業ナノ材料製造・処理の調査継続

環境保護庁(EPA)は、2018 年 5 月 2 日付の連邦官報において、「2016 年排水ガイドライン・プログラ

ム計画」(2016 Effluent Guidelines Program Plan)の最終版を発表した。工業ナノ材料(engineered

nanomaterials:ENM)の製造と処理(manufacture and processing)も、潜在的な新規の工業排水源として、

引き続き調査対象の一つに挙げられている。この計画は、水質浄化法(Clean Water Act)により EPAに隔

年の発行が義務付けられているもので、同法に基づく EPA の規則制定と産業排水汚染管理のための施

策が述べられている。

工業ナノ材料に関する記述があるのは、現行の排水制限ガイドラインおよび基準(effluent limitations

guidelines and standards:ELG)の見直しに関する章で、EPA が調査している 3 つの課題の 1 つとなって

いる。この中で、現時点でのレビューの情報から判断して、工業ナノ材料は「広範な産業応用と家庭用製

品で用いられているが、生産量、廃棄物管理の実情、産業排水への放出の可能性については不明な点

が多い」としている。また、「産業排水などの複合的な媒体中におけるナノ材料の検出及び定量化の分析

手法開発は、今日まで漸進的な進歩があった」ともしている。EPA が今後、産業排水中の工業ナノ材料の

存在と影響をさらに十分に評価するために、データ不足の解消に努めると述べた点は以下の通りである;

産業排水中の工業ナノ材料の潜在的排出源、排出量、種類

産業排水が流入する自治体の汚水処理プラントへの影響可能性を含めた、工業ナノ材料の環境

中運命、変質、処理

工業ナノ材料の検出および定量化の分析手法開発

なお、今回の最終版の草案は、2016 年 6 月 27 日に発表され、1 カ月間のパブリックコメント募集に付

されている。今回の最終版発表に伴い、当時提出されたパブリックコメントへの EPA の回答も共に発表さ

れたが、こちらにはナノ材料に関する言及はされていない。

(d) 銀ナノ材料の登録レビュープロセスに関する作業計画

2012 年から続けられている連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)下での登録済み農薬製品のレビュ

ーにおいて、対象 23 物質の一つ、銀ナノ材料に関して、米国環境保護庁(EPA)がレビュー計画の更新

版を 2018 年 10 月 19 日付で発表した。このレビュープロセスは、1996 年の食品品質保護法(FQPA)で

EPA に実施が義務付けられているもので、米国で散布され販売される農薬は、製品ラベルに処方された

使用をした場合に、ヒト健康又は環境に不合理なリスクを生じさせないことを科学的データに基づいて示

されなければならない。登録された農薬はFIFRAに定められた登録標準を満たし続けているかを 15 年毎

にレビューされる。

計画は 3 段階となっており、第 1 段階のパブリックコメントは既に 2012 年に募集済みである(表 1-1

参照)。第 2 段階は「レビューの展開(Case Development)」で、2018 年 10 月から 2020 年 10 月までにレ

ビューに必要なデータを受け付け、2021 年にパブリックコメントを受け付ける。レビューの結論を出す第 3

段階は 2022 年に予定されており、レビュー開始の 2012 年から数えて 10 年計画となっている。

今回発表された計画では、レビューを実施する農薬プログラム室(Office of Pesticide Programs:OPP)

5

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がナノ銀について持つ知見について概要をまとめている。また同計画は、それぞれのナノ銀化合物に対

して求められるデータおよび評価の必要性を強調し、レビュー実施のために特に有用であろう情報の種

類、および、銀ナノ材料のレビュー完遂までのタイムラインについても説明している。同計画によると、EPA

は現在までに、ナノ銀を使用した製品について以下の使用パターンを特定している;

スイミングプール/スパ用の水の処理

コーティング、繊維製品、プラスチック用の抗菌剤製品(material preservative)

同計画は、「製品をスイミングプールに使用(投入)する際に、吸入によりあるいは経皮的にナノ銀にば

く露することがある」また、「水泳中に偶発的な経口ばく露の可能性がある」と述べている。さらに、繊維や

プラスチックの使用中や洗浄の際に、抗菌剤が浸出することによりナノ銀へのばく露が発生する可能性が

ある。プール水が排水されるとき、または抗菌剤として使用されるナノ銀が浸出した場合に、予期しない生

物がばく露される可能性もある。同計画には、以下表 1-1のレビュースケジュールが予定されている。

表 1-1 FIFRA 下での銀ナノ材料のレビュースケジュール 予想される活動 予定期限* 完了日

第 1 段階:ドケット開設 予備作業計画のためのドケット開設と 60 日間のコメント期間 2012-06 2012-06-07 パブリックコメント終了 2012-08 2012-06-09

第 2 段階:レビューの展開 最終作業計画発行 2018-09 2018-10 データ募集(Data Call In: DCI)の開始 2018-10 リスク評価で考慮すべきデータの受け取り 2020-10 予備的なリスク評価のための 60 日間のパブリックコメント期間 2021-06 パブリックコメント終了 2021-08

第 3 段階:レビューの決定と実施 提案された決定に対する 60 日間のパブリックコメント期間 2022-01 パブリック・コメント終了 2022-03 最終決定 2022-05 決定後フォローアップの開始 2022 年 合計(年) 10 *スケジュールは、必要に応じて改訂される

同計画によれば、EPA は、ヒトの健康障害およびばく露データの取得および提出、および登録レビュ

ー中のナノ銀の健康リスク評価実施の必要性を予期している。特に、ナノ銀がプラスチックや織物などの

抗菌剤として使用され浸出する場合、また、スイミングプールに使用する場合に重点を置いて環境評価

の実施を計画している。他の使用パターンもまた、製品の化学特性や環境運命が環境ばく露の可能性を

示す場合は環境評価の対象とする。同計画によると、いずれかの用途が予期せぬ生物にリスクをもたらす

場合、環境中での運命と影響データを統合してリスクを判断する。魚、水生無脊椎動物、水生植物、およ

び鳥類ならびに哺乳類への潜在リスクは、同計画が指定したデータギャップが埋まり、関係データが入手

された後に評価される予定である。

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(e) SNUR が適用されたナノ材料

EPA は CNT を「新規物質」と見ているため、既にそれらの産業は SNUR によって規制されている。

a) 2018 年 10 月 3 日に発行された SNUR

2018 年 10 月 3 日、EPA は、製造前届出(premanufacture notice:PMN)の対象である 26 化学物質に

ついて、TSCA に基づく重要新規利用規則(SNUR、書類番号 83 FR 49806)の発行を連邦公報に掲載し

た。この 26 化学物質の中にはカーボンナノ材料(ジェネリック)(PMN:P-10-366)が含まれる。26 化学物

質のいずれについても、この規則で定められた重要新規利用となる製造等の行為(輸入を含む)を行おう

とする者は、開始 90 日前までに EPA に届出を行わなければならず、届出の後、EPA は定められた期間

内に審査を行う。

今回の SNUR の対象となっているカーボンナノ材料(ジェネリック)の一般的な用途は、印刷である。

EPA は、類似のカーボンブラックの分析により、発がん性および肺への毒性の懸念もあるとしている。EPA

は、製造業者が同物質に関して提出した PMN に対して、同意指令(Consent Order)を 2017 年 5 月 11

日に発しており、今回の SNUR はその規定対象を他の事業者にも拡大するものである。EPA は、同意指

令の中で、TSCA 5(e)(1)(A)(i) および 5(e)(1)(A)(ii)(Ⅰ)に基づいて環境および人体への悪影響のリスクを

防止するために、以下の項目を求めており、今回の SNUR を通して、以下の措置を講じない使用を重要

新規利用とする。;

規定された機密の製造量を超過する前の、健康影響試験および物性試験結果の EPA への提出

経皮ばく露に対する防護装置の使用

労働者の呼吸器のばく露を防止するための、NIOSH に認定されたタイトフィットの空気清浄機能

付きフルフェイスマスク(認定された防護ファクター(APF)が少なくとも 50 の N100,P-100 あるいは

R-100 のフィルター装着)の使用

地表水への放出禁止

同意指令に定められた機密用途のみの使用

工業用途のみの製造、加工、および使用

製造・加工場所以外での粉末形態での加工または使用の禁止

霧、蒸気、エアロゾルを発生させる方法を用いた、液体樹脂の形態での加工または使用の禁止

直接最終規則として発行されているこの規則は、連邦公報掲載の 60 日後の 2018 年 12 月 3 日に発

効する。この SNUR について、企業が反対コメントを提出する場合や、反対コメントや重要コメントを提出

する意志を表明する場合、その通知の締め切りは、30 日後の 2018 年 11 月 2 日である。EPA がそのコメ

ントを受理した場合、この直接最終規則の関連する部分を発行日前に取り下げる。

上記したように、その後、EPA は、直接最終規則が発効する期限を迎えたため、2018 年 12 月 4 日、

直接最終規則で特定されている SUNUR に関する反対意見の提出を受け、それらの最終規則を取り下げ

るとした。EPA は、今回提案・取下げした SNUR に基づいて今後作成・発表する最終規則において、今回

受け取った全ての反対意見に対処する、と述べている。

直接最終規則を使用すれば、論争の余地のない規制を迅速なスケジュールで進めることができる。

7

Page 12: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

しかし、それらに重大な反対意見が出された場合、EPA はそれらを撤回し、完全な規則制定プロセスを開

始しなければない。この場合、EPAは、26件のSNUR Snursを、直接最終規則と提案された規則の両方に

基づいて発行し、両方のコメント期間が 11 月 2 日に終了した。

b) 2018 年 10 月 10 日に発行された SNUR

2018 年 10 月 10 日、環境保護庁(EPA)は、PMN の対象である 28 化学物質について、有害物質規制

法(TSCA)に基づく重要新規利用規則(SNUR、書類番号 83 FR 50838)を発行した。この 28 化学物質の

中には単層カーボンナノチューブ(PMN:P-17-257)が含まれる。28 化学物質のいずれについても、この

規則で定められた重要新規利用となる製造等の行為(輸入を含む)を行おうとする者は、開始 90 日前ま

でに EPA に届出を行わなければならず、届出の後、EPA は定められた期間内に審査を行う。

今回の SNUR の対象となっている単層カーボンナノチューブの一般的な用途は、物理的・熱的性質お

よび導電性の向上のための材料への添加である。EPA は、類似のカーボンナノチューブの分析により、

水域へ排出した場合の水生生物への毒性と同時に、肺への毒性の懸念もあるとしている。EPA は、製造

業者が同物質に関して提出した PMN に対して、同意指令(Consent Order)を 2018 年 1 月 17 日に発し

ており、今回のSNURはその規定対象を他の事業者にも拡大するものである。EPAは、同意指令の中で、

TSCA 5(e)(1)(A)(i) および 5(e)(1)(A)(ii)(Ⅰ)に基づいて人体および環境への悪影響のリスクを防止するた

めに、以下の項目を求めており、今回の SNUR を通して、以下の措置を講じない使用を重要新規利用と

する。;

製造または輸入前の毒性試験結果の EPA への提出

経皮ばく露に対する防護装置の使用

労働者の呼吸器のばく露を防止するための、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)に認定された

マスクの使用

霧、蒸気、エアロゾルを発生させる用途への使用禁止

工業用途の使用に限る

同意指令に定められた機密用途への使用に限る

地表水への放出禁止

廃棄は埋立あるいは焼却に限る

直接最終規則として発行されているこの規則は、2018 年 12 月 10 日に発効する。この SNUR について、

企業が反対コメントを提出する場合や、反対コメントや重要コメントを提出する意志を表明する場合、その

通知の締め切りは 2018 年 11 月 9 日である。EPA がそのコメントを受理した場合、この直接最終規則の関

連する部分を発行日前に取り下げる。

その後、2018 年 12 月 4 日、EPA は、直接最終規則で特定されている SNUR に関する反対意見の提

出を受け、それらの最終規則を取り下げるとした。EPA は、今回提案・取下げた SNUR に基づいて今後作

成・発表する最終規則において、今回受け取ったすべての反対意見に対処すると述べている。

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(ii) FDA

(a) ナノ材料を含有する生物学的製剤を含む医薬品に係る産業界向けガイダンスの発表

FDA(Food and Drug Administration)は、2017 年 12 月に、『Drug Products, Including Biological

Products, that Contain Nanomaterials Guidance for Industry』(Draft Guidance)(ナノ材料を含有する生物

学的製剤を含む医薬品に係る産業界向けガイダンス)を発表した。

本ガイダンスは、ナノ材料が最終的な投与形態に存在する生物製剤を含むヒト医薬品の開発のため

の現在の考え方を業界に提供するためのものである。ガイダンス・ドラフト版は、ナノ材料を含有する医薬

品の開発に関する一般原則と具体的な考慮事項の両方について検討し、そのような製品と他の医薬品と

の同等性を確立するための考慮事項を含む。ガイダンス・ドラフト版は、製品の開発および生産を通じて

ナノ材料を含む医薬品に関連する品質、非臨床、および臨床研究に関する考慮事項について論じてい

る。ガイダンス・ドラフト版は、医薬品に使用できるナノ材料の種類を制限または分類していない。その代

わりに、安全性、有効性、性能、および品質に関してさらなる評価を保証する「特定の物理化学的特性を

生み出すための、意図的かつ、次元の意図的操作と制御」に焦点を当てている。FDA は、ガイダンス・ド

ラフト版が、「ナノ材料を含む特定の医薬品に、最終的に規制上の結果がどうなるかについては言及して

おらず、また前提もしていない」と述べている。FDA は現在、既存のレビュープロセスを使用して、ケース

バイケースでナノ材料を含む医薬品の安全性、有効性、公衆衛生上の影響、または規制状態などの問

題に取組んでいる。FDA は、「特定の一般的に使用されるタイプのナノ材料、例えば、いくつかのリポソー

ム、を取り入れた医薬品の品質と性能を評価し、評価する際の課題に取組むためのガイダンス」を策定し

続けると述べている。ガイダンスには、これらの製品の調査、販売前および納品後の提出者の応募者およ

びスポンサーに対する推奨事項が含まれている。FDA は、ガイダンス・ドラフト版で使用されている用語

「ナノ材料」を含む用語についてコメントを求めていた(コメントは 2018 年 3 月 19 日予定)が、その後の動

きは確認できなかった。

(b) 一般用日焼け止め製品に関する規則案を発表

2019 年 2 月 26 日、食品医薬品局(FDA)は、処方箋を必要としない一般用(over the counter:OTC)

日焼け止め剤の最終モノグラフ を制定するための規則案 を連邦広報に公表した。FDA は現在、既存

の OTC のレビューを行っており、今回の発表もその一環。日焼け止めについては、1999 年に既にモノグ

ラフが制定されているが、過去 20 年の技術発展などを反映して、そのモノグラフの更新を目指す。なお、

今回発表された規則案では、ナノテク・ナノ材料も言及されている。これによると、FDA は、今回発表した

規則案を通して、対象の日焼け止め製品が安全かつ有効であるかを、ナノテクを使用して製造されたか

どうかや、ナノ材料を含むかどうかだけで判断することは提案していないという。

まず、ナノテク、ナノ材料、ナノスケール、といった用語を、FDA はこれまで定義していない。このため、

今回は以下の基準で判断する 。特に②については、材料または最終製品は、ナノスケールの範囲外の

寸法に起因する特性または現象を示す可能性があり、これは安全性、有効性、性能、品質、公衆衛生へ

の影響、または製品の規制の状態の評価に関係するため、今回の規則案では、②の条件も含んだとして

いる。

① 材料または最終製品の、外寸または内部・表面構造の少なくとも1辺がナノスケールの範囲(お

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よそ 1nm~100nm)になるように製造・加工されているか。

② 材料または最終製品が、その寸法に起因する、物理的または化学的性質または生物学的影響

を含む特性または現象を示すように製造・加工されているかどうか(ナノスケールの範囲を超えた 1μm

までの寸法を含む)

なお、具体的な物質については、FDA は、ナノ形態の酸化亜鉛および二酸化チタンが市販の OTC

日焼け止め剤に使用されてきたと述べている。それらに加えて、他のナノ材料も日焼け止め製品に使用、

または使用のための研究が実施されている。FDA は、「ナノ形態の酸化亜鉛および二酸化チタンを含む

科学的情報を検討したが、日焼け止めモノグラフにおいて、これらの物質について、ナノ形態とナノ以外

の形態を区別した使用条件を提案しない」としている。また、OTC 日焼け止めモノグラフの下で販売され

ているナノ材料を含む製品の製造者は、適用されるすべての法的要件を満たしていることを確認する責

任を負う。FDA は、製品に関連する特定の科学的または規制上の問題についての相互理解を促進する

ために、そのような製品の製造業者が FDA と協議することを奨励している。

今回の規則案に対するパブリックコメント募集を通して、ナノテク・ナノ材料については、以下のトピック

に関するコメントを FDA は特に求めている。コメントの締切は、2019 年 5 月 28 日である。

OTC 日焼け止め製品に使用されている、または使用が提案されているナノ材料(特定または種

類)

OTC 日焼け止め製品へのナノ材料の使用に関して、製品の安全性・有効性・品質に関する懸念

特定のナノ材料を OTC 日焼け止め製品に使用するうえでの仕様または制限の必要性および提

OTC 日焼け止め製品に使用することを許可すべきでない特定のナノ材料およびその科学的根

OTC 日焼け止め製品へのナノ材料使用に対する、FDA の規制アプローチ案や代替案

スプレー日焼け止め剤中のナノ材料に関して、FDA は次のように述べている。「吸入リスクの主な決定

要因は、放出されるスプレー中の粒子のサイズであり、個々の製剤成分よりも大きい可能性がある。 ナノ

スケールの成分はスプレー日焼け止め剤の粒度の制限に合格しない。 したがって、粒子サイズ試験中

に消費者用容器からスプレーされたときにそれらが検出された場合、日焼け止め剤は OTC モノグラフで

販売することができなかった。」

連邦公報での提案された規則の公表日から、90 日のコメント期間を開始する。

(iii) NNI

国家ナノテクノロジー・イニシアチブ(NNI)は、2018 年 8 月 16 日、NNI の年次報告書も兼ねた、2019

年度(2018 年 10 月 1 日~2019 年 9 月 30 日)大統領予算教書に対する付属文書を発表した。2019 年

度は、NNI への予算として、2017 年度から約 1 億 6,000 万ドル減額となる約 14 億ドルを要求している。

分野別の予算内訳は表 1-2の通りで、環境、健康、安全性(EHS)の分野は 6,440 万ドルが要求され

ている。オバマ政権下に予算が成立した 2017 年度の実績歳出額から 22.8%減となる大幅な減額となっ

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ている。また、2019 年度の NNI 予算要求総額の内、約 4.6%を EHS 分野が占める。なお、2019 年度は、

12 機関のナノスケールの科学、工学、技術の研究開発を支援する。2019 年度の予算全体の 95%を占め

る 5 つの連邦機関と、そのナノテクノロジーにおける役割は以下の通りである;

保健社会福祉省(DHHS)および、傘下の国立衛生研究所(NIH)

生命科学と物理学にわたる、ナノテクノロジーに基づくバイオメディカル研究

国立科学財団(NSF)

科学と工学のすべての分野における基礎研究と教育

エネルギー省(Department of Energy:DOE)

新しい、または改良されたエネルギー技術の基礎となる研究

国防総省(Department of Defense:DoD)

防衛および軍事・平和利用能力を向上させる科学技術研究

商務省(Department of Commerce:DOC)および、傘下の米国国立標準技術研究所(NIST)

計測・製造ツールの基礎研究、分析手法、計測技術、ナノテクノロジーの規格

この 5 つの連邦機関で、予算の減少率が一番大きいのは NIST で 28.3%、次いで NSF の 16.7%で、小

さいのは NIH で 2.0%である。

NNI 分野別 2019 年度予算要求と過去歳出との比較を表 1-2に示す。なお、予算審議は現在継続中

である。

表 1-2 NNI 分野別 2019 年度予算要求と過去歳出との比較 (単位:ドル)

分野 2017 年度歳出(実績)

2018 年度歳出(推定)

2019 年度予算(要求)

2017 年度と 2019 年度の比較 金額(増減) 割合

基礎研究 5 億 7,830 万 5 億 5,460 万 5 億 4,900 万 -2,930 万 -5.1% ナノテクによって実現される応用、デバイス、システム 3 億 9,800 万 3 億 8,860 万 3 億 8,390 万 - 1,410 万 - 3.5%

研究基盤とツール 2 億 5,130 万 2 億 3,130 万 2 億 2,130 万 -3,000 万 -11.9% 環境、健康、安全性(EHS) 8,340 万 7,920 万 6,440 万 -1,900 万 -22.8% ナノテク・シグネチャー・イニシアチブ(NSI)、グランドチャレンジ(GC)

2 億 4,130 万 2 億 2,370 万 1 億 7,700 万 - 6,430 万 - 26.6%

合計 15 億 5,230 万 14 億 7,740 万 13 億 9,560 万 -1 億 5,670 万 - 10.1% 出典:NNI の 2019 年度大統領予算教書付属文書を参考に作成

なお、この付属文書は、予算関係だけでなく、各機関、プログラムの計画と実績についても触れられて

いる。EHS の分野では、2017 年に最大の実績があった NSF は、ナノテクノロジーの EHS への影響とナノ

テクノロジーの発展によるリスクの可能性の軽減のみならず、ナノバイオ現象とその過程の理解に主として

研究資金を充てるとしている。2019 年の予算要求で NSF を超える、NIH のこの分野の中心である国立環

境健康科学研究所(NIEHS)では、それが主宰する国家毒性プログラムが継続され、FDA との共同に発

展し、FDA規制に関連する研究を含むようになっていること、NIOSHが広く各分野の職場のナノ粒子の計

測に協力して、労働者のナノ粒子の吸入の軽減に貢献し、さらにナノ粒子を含む工業製品や食品のばく

11

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露測定にまで広がりつつあることなどが紹介されている。

(iv) NIOSH

(v) 消費者製品安全委員会(CPSC)

2018 年 10 月 15 日、消費者製品安全委員会(CPSC)は、2019 年度(2018 年 10 月~2019 年 9 月)

の事業計画を発表した。計画によると、CPSC は 2019 年度、4 つの事業目標(人材(workforce)、防止

(prevention)、対応(response)、情報発信(communication))の内、「防止」の枠内で「消費者に対する危険

の特定と分析の向上」の一環として、ナノテク・ナノ材料を扱うとしている。具体的には、ナノテク研究を支

援し、研究分野の重複を最小限に抑えるため、国家ナノテク・イニシアチブ(NNI)の下で他の連邦機関と

協力するという。共同研究活動の予定は以下の通り;

ヒトのナノ材料に対するばく露について優先順位をつけ、調査するツールの開発

積層造形システムのライフサイクル中のナノ材料の使用および放出の特定と、消費者のばく露可

能性の調査

ワークショップ「工業製品からの工業ナノ材料のばく露量の定量化(QEEN II)」を共催

タッチスクリーンディスプレイからの銀ナノワイヤの放出および毒性の調査

製品からのナノ粒子の潜在的な放出評価、家庭環境におけるナノ材料の存在を評価する手法の

開発、および毒性を予測するための既存の代替試験法の適用性の決定

連邦のパートナーと協力したナノテク製品データベースを維持

室内空気モデルの開発、製品から屋内空気へのナノ材料の放出の特定、および消費者への潜

在的なばく露の決定

CPSCは、上記目標の達成指標として、消費者製品に影響を及ぼすナノテク研究や問題に取り組むた

めの他の機関・組織との協力関係を 3 つ以上確立または維持することを掲げている。また、これらの協力

関係については内部用の報告書にまとめるという。このほか、2019 年度のマイルストーンの一つとして、

「CPSC ナノ材料声明 」を更新する予定であるとしている。

なお、同計画の内容は 9 月 26 日の会議(一般公開)で議論され、10 月 10 日に採択された。

(vi) ニューヨーク州

(a) ニューヨーク州環境保護局による家庭用洗剤情報公開の中でのナノスケール材料表示義務

2018 年 6 月 6 日にニューヨーク州環境保護局(New York State Department of Environmental

Conservation:NYSDEC)は、家庭用洗剤情報公開プログラム(Household Cleansing Product Information

Disclosure Program )の最終規則(Program Policy)を製造者向け申告書に添付する形で公開し、この中

でナノスケールの材料の表示を義務づけた。

家庭用洗剤情報公開プログラムでは、ニューヨーク州で販売される洗剤の製造者に対して、その成分

材料を公開し、NYSDEC のウェブサイトに挙げられている懸念化学物質リストにある物質を特定するよう求

めている。今回公開された最終規則によれば、ナノスケールである成分材料については、その旨を明らか

にしなければならない。例えば、そのナノスケール材料が炭素であれば、「ナノスケール炭素」と表示しな

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Page 17: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

ければならない。また、NYSDEC プログラムの規則におけるナノスケール材料の定義も、同規則内で開示

している。

NYSDEC プログラムの規則におけるナノスケール材料の定義;

[a] reportable chemical substance is a chemical substance as defined in Section 3 of TSCA that is solid at 25° C and standard atmospheric pressure, that is manufactured or processed in a form where any particles, including aggregates and agglomerates, are in the size range of 1-100 nanometers in at least one dimension, and that is manufactured or processed to exhibit unique and novel properties because of its size. A reportable chemical substance does not include a chemical substance that is manufactured or processed in a form where less than 1% of any particles, including aggregates, and agglomerates, measured by weight are in the size range of 1-100 nanometers.

なお、2017 年 4 月 25 日に提案されたガイダンス文書に対して 2017 年 7 月 14 日までに寄せられたパ

ブリックコメントと、それに対する NYSDEC の対応コメントも、今回の発表と同時に公開されている。その中

には、「現存するナノ材料の定義について、統一された決定はない」ことを根拠に、文書内にあるナノ材料

の定義を削除することを提案するコメントもみられる。これに対して NYSDEC は、「連邦環境保護庁(EPA)

は TSCA の下でナノスケール材料の開示を求めている。この中で、ナノスケール材料と考えられるものを

定義している。(NYSDEC はプログラムの規則を)この EPA による定義に一致させてアップデートした。」と

回答している。また、別のコメントは、ナノ材料開示義務は撤廃されるべきであり、NYSDEC は連邦法であ

る TSCA に従うべきであると述べている。これに対して NYSDEC は、「ナノスケール材料がヒトの健康と環

境に及ぼしうる影響はいまだ完全に理解されていないため、ナノスケール材料の開示義務は重要である。

しかしながら、営業秘密情報(confidential business information:CBI)であることを根拠に、情報の開示の

免除を求めることはできる」としている。

ナノ材料・化学物質規制を専門とする法律事務所、Bergeson & Campbell, P.C.はブログ記事や分析

記事で以下 2 点を指摘した;

上記返答コメントの中で、NYSDEC は、EPA がナノスケール材料の開示のために作成したナノ材

料の定義を引用したと回答しているが、これは誤りである。実際に引用されているのは、製造業者

から EPA へのナノ材料に関する 1 回限りの情報提供を義務付けた規則(2017 年 1 月に最終規

則が公開)のための対象物質を定義したものである(一般への情報開示を意図して対象物質を

定義したものではない)。

このニューヨーク州の家庭用洗剤情報公開プログラムに関する動きは、同州において、さらに多く

の商品群が開示の対象となる予兆とも考えられる。また、こうした、特定の製品の材料の開示を義

務付ける規制は、全米の各州に、異なる形で広がる恐れがある(現に、家庭用洗剤については、

類似する情報開示義務がカリフォルニア州でも施行されている〔ナノ材料の表示義務は含まな

い〕)。製造業者にとっては、自社製品の流通において各州の異なる規則を把握して遵守する負

担が発生する可能性がある。

上記規定の一部は 2019 年 7 月 1 日に施行される予定であったが、2019 年 1 月 9 日、NYSDEC はこ

れを 3 か月延期すると発表した。

6 月に発表された施行予定は以下の通り。この内、2019 年 7 月 1 日施行の規定のみ、同年 10 月 2

日より NYSDEC が取り締まりを開始する。

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表 1-3 ニューヨーク州環境保護局(NYSDEC) 家庭用洗剤情報公開施行予定一覧 公開義務期限日 発効する公開義務の内容

2019 年 7 月 1 日 従業員 100 名以下の独立企業以外の事業者対象。以下の情報を公開。 • 芳香剤以外の意図的に使用される成分材料 • 検出可能量(Trace Quantity)以上の非有効成分 *この表に記載のない情報は全て、基本的にはこの日までに公開するものとするが、以下の情報については 2020 年 7 月 1 日までに公開するものとする。 • ヒトの健康や環境への影響に関する調査・研究に関する情報 • 「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」で区分 3の皮

膚刺激性物質(Skin Irritants)とGHS水生環境有害性物質(Aquatic Toxins) 2020 年 7 月 1 日 従業員 100 名以下の独立企業対象。上記の情報を公開。

全事業者対象。以下の情報を公開。 • 芳香剤 • 規則附属書 D 記載の非有効副産物* • 規則附属書 D 記載の非有効汚染物質*

2023 年 1 月 1 日 全事業者対象。以下の情報を公開。 • 規則附属書 B 記載の懸念物質リストのいずれかに記載の非有効副産物** • 規則附属書 B 記載の懸念物質リストのいずれかに記載の非有効汚染物質

*** * 含有量 100ppm 以上のものに限る。ただし、1,4 ジオキサンは 350 ppt 以上、PFOA と PFOS は合計 70

ppt 以上。 ** 現実的に測定可能な量以上が含有される場合に限る。 *** 本規則 V.A.3 章「営業秘密情報(Confidential BusinessInformation:CBI)とその公開の範囲」に記載の

含有量以上のものに限る。

(vii) カリフォルニア州

(a) 州議会による化粧品動物試験法の可決

2018 年 8 月 31 日、カリフォルニア州の議会は、動物に対して試験された化粧品及びその成分の販売

に関する既存の禁止を拡大する法案を承認した。両院を争う余地なく通過した法案(SB1249)は、支持者

らによれば、EU のような「世界最高水準の人道的基準をカリフォルニアにもたらす」としている。

既存のカリフォルニア州法では、検証された代替手段が存在する場合に、製造業者および試験施設

が化粧品の動物試験を使用することを禁止している。 しかし、連邦または他の州によって課された要件

への適合を達成するための使用を禁止していない。ジェリー・ブラウン知事が法律に署名した場合、この

法案は、他の法律にかかわらず、2020 年 1 月 1 日以降に製造業者またはそのサプライヤーによって動物

で試験された化粧品または成分の販売または輸入の禁止を拡大する。ただし、以下の動物試験には禁

止されていない;

成分が広く使用され、置き換えることができない場合で、本質的なヒトの健康問題が動物試験

の必要性を正当化し、関連規制当局によって承認された動物試験以外の代替手段がない。

カリフォルニア州での販売のための製品の安全性を実証するために試験から得られた証拠

が信頼されない場合、外国当局の規制要件に基づいて実施された。

薬物および機器(devices)をカバーする連邦食品医薬品化粧品法(FDCA)第 5 章の対象とな

る製品または成分について行った。 または、試験結果がカリフォルニア州の製品安全性を

立証するために使用されていない限り、連邦、州または外国の規制要件を満たすために非

美容目的で実施される。

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2020 年 1 月 1 日より前にカリフォルニアで販売されたか、または動物で試験された化粧品および原料

は、その日付以降に製造されたとしても、対象とならない。この法案には、小売業者が試験禁止に違反し

ていると判明した製品を取り除くための 180 日間の期間も含まれている。

4 月の提出以来、この措置は、パーソナルケアプロダクト協議会(PCPC)、アメリカ化学工業協会

(ACC)、家庭用および商業用製品協会(HCPA)を含む1ダース以上の業界団体の連合によって反対さ

れてきた。しかし、連合メンバーの California Chamber of Commerce(CalChamber) によると、州議会は、8

月 28 日に「ビジネス界からの強い反対によって」法案を大幅に改正した。 これらの変更により、法案の最

終版に対する反対がなくなった。

これらの改正前の連合文書では、「企業は動物試験を避け、政府機関が要求する場合に試験するか、

まれに代替物質が存在しない場合には新しい成分の安全性をテストするために、動物試験をする。 しか

し、市場に製品を置くための条件である、特定の動物試験を要求する州と連邦の義務によって絶えず挑

戦されている。そして、数少ない制限された免除の場合があるだけで、法案は「何らかの理由で誰でもど

こでも、何らかの理由で」テストされた成分を含む化粧品を禁止していた。」と述べていた。しかし、彼らは、

禁止措置の免除を広げた 8 月下旬の修正案は、「動物試験を必要とする法的要件がまだ存在するという

現実をもって、動物試験を世界的に時代遅れのものとしたいという業界の共通の要望とバランスをとって

いる」と述べた。連合のある NGO 幹部は、法案の成立を喜び、「「世界中の試験実施を変える」と語った。

そして、法案の共同執筆者である Ash Karla 議員は、達成された妥協案は、「ビジネス上の利益と消費者

保護がどのようにつながるかを反映している」と付け加えた。「私たちが動物を保護し、無慈悲でない化粧

品を採用するという重要な法律を進める中で、私は動物保護活動家と化粧品産業を同じように賞賛して

いる。」と語った。

(イ) EU

欧州委員会は、ナノ科学及びナノ技術の研究において予防原則に立った責任ある開発が行われるべ

きとする勧告「責任あるナノ科学及びナノ技術研究のための行動規範」を 2008 年 2 月に採択し、加盟国

にも同様の措置を求めた。また、2009年4月には欧州議会がナノ材料に関する明確な規制と政策の枠組

みを EU に求める決議を採択している。これらに沿った動きは、ナノ材料の定義、化学物質規制である

REACH におけるナノ材料の取り扱い(ガイダンス文書改訂、ナノ材料の報告制度)がある。2017 年度に

は、ナノ材料の定義において長らく待たれていた公開協議が開始されている。

(i) REACH 規則関連

(a) REACH 附属書の改訂

欧州委員会は、ナノ材料登録のための REACH 附属書 I、III、VI、VII、VIII、IX、X、XI および XII の改

訂に関する公開協議を 2017 年 10 月 9 日に開始したことを発表した。この改訂は、ナノ形態を REACH の

下に登録する際の法的要件が何であるかをさらに明確にし、ECHA のナノ材料に対する REACH をより効

果的に実施する能力を向上させるものである。パブリックコメントは 2017 年 11 月 6 日までとし、改訂案が

承認されれば、2020 年1月1日より適用される。その後、2018 年 4 月 26 日には、欧州委員会 REACH 委

員会は、ナノ材料登録必要条件を明確にする REACH 規則付属書改訂案への投票をおこなった。欧州

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Page 20: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

委員会 REACH 委員会での投票結果は賛成 28 対反対 0 で、全加盟国の代表者が賛成している。欧州

化学品庁(ECHA)のプレスリリースによれば、この改訂案は、REACH 規則の下でナノ材料として登録され

市場に導入される物質とその量に関する理解のギャップを埋めようとするものである。この改訂案によって

企業や当局は、ナノ材料の特性、利用方法、処理方法、健康と環境に対するリスクの可能性、リスクの管

理方法について、さらにいっそうの把握が可能になると、ECHA は述べている。同改定案は、その後、欧

州委員会本会議での投票の前に、欧州議会・欧州連合理事会による3ヶ月の審議(scrutiny)期間を経る。

改訂案が正式に採択され次第、ECHA は、ナノ形態物質登録者が改訂版付属書を把握し、規則遵守に

あたり必要な対応を取ることを推奨している。

規則案の概要は以下の通りである;

ナノ形態を有する物質の登録要件および関連する下流ユーザーの義務に関する明確化は、

附属書 I、III および VI〜XII に含まれるべきである。

製造業者と輸入業者は、ナノ形態を有する物質の特定された用途から生じるリスクが適切に

管理されていることを化学物質安全性報告書で評価し、関連する場合は必要な情報と文書

を作成する必要がある。

ナノ材料の大部分はナノ形態の段階的導入物質であると予想されているため、低生産量の

段階的導入物質に関する新しい毒性学的および生態毒性情報の生成の要件の条件は、評

価基準がナノ形態の予測される特性に基づくものであるということを保証するようなものでなけ

ればならない。

すべての異なるナノ形態およびナノ形態のセットは、安全性の実証において登録者によって

考慮されるべきである。

吸入可能なナノ形態の、特に作業場での潜在的なばく露を効率的に評価するために、異な

るナノ形態またはナノ形態のセットについて、巻き上がり性(ダスティネス)に関する情報を提

供する必要がある。

最小生産量の急性毒性試験は経口経路を介した試験が必要とされるが、ナノ形態について

は、吸入、または非常に特殊な場合には、皮膚経路がより適切なばく露経路と考えられる。

異なるナノ形態またはナノ形態のセットを特定するために使用されるものに加えて、多くの特

定の物理化学的特性が、個々の場合に応じて必要なパラメータについてのナノ材料の特性

の科学的理解に適切であるとみなすことができる。 作業性およびつり合いの理由から、他の

粒子特性が、これらのナノ形態のハザードあるいはばく露に有意に影響を及ぼす場合には、

10 トン以上の高生産量物質の登録者のみが明示的にそのような情報を考慮する必要があ

る。

提案された改訂の規定の遵守は、すべての登録者および川下のユーザーがナノ形態を有する物質

のより具体的な要件に適応するのに十分な時間を与えるために、直ちに要求される必要はない。

2018 年 12 月 3 日、欧州委員会は、ナノ材料に関する情報要件を明確にすることを目的とした、「化学

物質の登録、評価、認可および制限に関する規則(REACH)」の改正を採択したと発表した。

欧州委員会によれば、REACH は「ナノ物質に対して常に適用されてきたが、ナノ物質に関する明確な

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規定を含んでいないため、ナノフォームにある物質をどのように登録するかを知らない企業がしばしば存

在した」と指摘している。欧州委員会は、この改正規則と新要件は、どのナノ物質がどの程度の量市場に

投入されているのかについての知識のギャップを埋めるのに役立つとし、REACH 適用対象のナノフォー

ムのすべての物質に対して、新しい条項を適用しなければならないと述べている。また、ナノフォーム物

質の登録者に対し、改正内容に習熟し、規則を遵守するためにどのような措置を採る必要があるかを判

断するよう強く奨励している。

改正 REACH では、ナノ材料の登録要件について明確化している。欧州委員会環境総局のウェブサ

イト上での発表によると、主に以下のような変更内容を含む。

登録対象の物質のナノフォームの同定および特性評価のための要件を定めた。ナノフォーム

は個別に、または、類似する特性を持つもの同士を同時に、記録することができる。このため

には、サイズ、形状、および表面の化学特性を明確に識別する必要がある。以下は、改定さ

れた REACH 附属書 VI からの抜粋である。

• 2011 年 10 月 18 日のナノ物質の定義に関する欧州委員会の勧告に基づき、ナノフォ

ームとは、天然または人工の粒子を含む物質の一状態で、分散状態(unbound

state)・アグロメレート(凝集体)・アグリゲート(凝結体)のいずれかの状態にあり、粒子

数粒子径分布の 50%以上の粒子について、一つ以上の外辺が 1nm から 100nm であ

るものを指す。また、一つ以上の外辺が 1nm 未満のフラーレン、グラフェン片、および

単層カーボンナノチューブも含む。

• ここでいう「粒子」とは明確な物理的境界を持った一つの片の微細な物質;「アグロメレ

ート(凝集体)」は弱い力で集まった粒子またはアグリゲート(凝結体)の集合体で、各

構成物の表面積の和が集合体の外部表面積と同程度であるもの;「アグリゲート(凝結

体)」とは、強い力で結集合または融合した粒子からなる集合体である。

• ナノフォームは、節 2.4 節に従って特性評価される。一つの物質には、節 2.4.2 節から

2.4.5 に示すパラメータ(粒子数粒子径分布、表面への官能基付与、形状、表面積、な

ど) に基づく異なるナノフォームが存在しうる。

• これらのパラメータによる分類で特性づけられた複数のナノフォームは、「類似した複

数のナノフォーム」として、グループにまとめてハザード、ばく露、リスクの評価を行うこと

ができる。これらの分類内での変化が、類似した複数のナノフォームのハザード、ばく

露、リスクの評価に影響を与えないことについて、根拠が示されるべきである。なお、一

つのナノフォームは一つのナノフォームのグループにしか属することができない。

ナノフォームの量および用途に関して、登録者が収集すべき基本的な情報を新たに指定し

た。

物質に対する義務を登録対象のすべてのナノフォームに適用することを明示した。

(義務の例)化学的安全性評価の実施(およびその結論のリスク管理への応用)、ハザ

ード評価における情報要件および適合可能性(adaptation possibilities)の適用の記

録、等

以下に関する要件を新たに導入した。

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• 適切なサンプル準備

• 試験物質がナノフォームである場合のばく露の経路および特性評価

• 試験結果を報告する際の適切な指標の検討。

• ナノ材料の安全性評価を支持する物理化学的特性(溶解速度、ナノフォームの分散

安定性等)。

既存の適用措置が責任をもってナノフォームへ適用されるよう、適用の制限条件を定めた。

また、ナノフォームに対して試験手法(例:KoW 分配係数、遺伝毒性 AMES 試験)が適用/参

照できない場合の情報要件を改正した。

Echa は現在、登録者が新規ガイダンスに従うための助けとなるよう既存のガイダンスを更新する、また

は新規のガイダンスを発行すること、および、REACH-IT システムの適合化について必要性を評価してい

るところである。また、欧州委員会スタッフによる REACH 規則の影響評価のレポートも発行されており、規

則改正によるコスト増加、また、ビジネス、中小・零細企業への影響等についても評価を行っている。

(b) ECHA による改正 REACH 下でのナノ材料に対する要件への言及

欧州化学品庁(Echa)は、2018 年 9 月のニュースレターに掲載した記事の中で、付属書の改訂による

影響と 2020 年 1 月の発効までに企業が準備するべきことについて解説した。Echa のナノ材料コーディネ

ーターのジェニー・ホルムヴィスト氏(Jenny Holmqvist)が執筆した記事の要点は以下の通り;

改訂付属書に関連するガイダンスについて

Echa は REACH 登録が必要な企業向けに、複数のガイダンス を発表している。今回の REACH 改正

を受け、現在は、これらのガイダンスの内容の変更が必要かどうか、必要ならどの部分を変更するか、また、

新しいガイダンスが必要なのか検討を進めている。今後は、加盟国、NGO、産業界の協力も得て、二国

間協議などを通じてガイダンスを精査し、企業が登録書類を準備するために十分な支援を行いたいとし

ている。

改訂付属書が企業に与える影響

付属書改訂は、欧州委員会が定義した REACH 対象のナノ形態物質を製造または輸入する企業に関

係する。ナノ材料は粒子表面の修飾などにより、様々な形態が存在する。また、改訂の対象になるか確認

するだけでなく、ハザードの試験および評価を実施するには時間が必要である。このため、REACH の改

定内容が発効する 2020 年まで、まだ期間があるようにも見えるが、取り扱っているナノ材料が対象物質で

あるかどうか、可能な限り早い段階で確認することが企業にとって重要である。

改定された要件に従う試験手法

EU に資金提供を受けた多くの研究プロジェクトにより、ナノ形態の特異性を表現するための OECD に

よる一般的な試験手法 をどのように変更していくかについて、知見が得られてきている。具体的な手法

の改訂については未定であるが、EU加盟国との協力により、見直し作業を加速していく予定である。なお、

大多数の改訂要件については、適用可能なプロトコルがすでに存在している。2017 年には、ナノ形態物

質には特に関係が深い、吸入毒性の試験手法がアップデートされている。(OECD Test Guideline No.

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412: Subacute Inhalation Toxicity: 28-Day Study)

(c) REACH ガイダンス文書の更新・改訂

2016 年 3 月に Echa は、年間製造(輸入)量が1~100 トン未満の既存物質(Phase-in substances)の

登録期限である 2018 年 5 月 31 日までの 2 年間、事業者間の混乱を避けるため、REACH ガイダンス文

書の更新を自制すると告知していた。しかし、2016 年 5 月 23 日付のプレスリリースにおいて、ECHA が指

定する 15 件のガイダンス文書については引き続き更新作業を続けると発表し、2017 年 5 月 24 日には、

2018 年 5 月末の既存物質の登録最終期限前にナノ形態をカバーするドシエを準備する登録者を支援す

るために、以下の 5 つの文書を発表した。このうち、3 つは更新文書である。

『How to prepare registration dossiers that cover nanoforms – best practices』(ナノ形態をカ

バーする登録ドシエの準備方法に関するベストプラクティス)

『Guidance on Information Requirements and Chemical Safety Assessment』関連;

『Appendix R.6-1 for nanomaterials applicable to the Guidance on QSARs and Grouping

of Chemicals』(化学物質の QSARsとグルーピングに関するガイダンスへのナノ材料の適

用に関する付録 R.6 章、2017 年 5 月、version 1.0)

『Appendix R7-1 for nanomaterials applicable to Chapter R7a Endopoint specific

guidance』(第 R7a 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録

R7-1、2017 年 5 月、version 2.0)

『Appendix R7-1 for nanomaterials applicable to Chapter R7b Endopoint specific

guidance』(第 R7b 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録

R7-1、2017 年 5 月、version 2.0)

『Appendix R7-2 for nanomaterials applicable to Chapter R7c Endopoint specific

guidance』(第 R7c 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録

R7-2、2017 年 5 月、version 2.0)

a) ナノ形態をカバーする登録ドシエの準備方法に関するベストプラクティス

Echa では、REACH 及び CLP 規則に関する解説書を公表しており、その 1 つが、ナノ材料に関する解

説書として、『How to prepare registration dossiers that cover nanoforms: best practices』(ナノ形態をカバ

ーする登録ドシエの準備の仕方:ベストプラクティス、2017 年 5 月、version 1.0)である。

本文書は、1 つの物質の異なる形態を区別するための推奨事項と、ナノ形態に関する情報を一貫して

ドシエに報告する方法を提供している。また、ナノ形態を網羅する登録ドシエを準備する登録者への助言

を与えるために作成されたもので、本文書で提供される助言は、登録者のためのものであり、ベストプラク

ティスあるいは推奨事項を示す。ここで示されるベストプラクティスは、ナノ材料の定義に関する委員会勧

告を満たす物質を登録する際に、最低限推奨される要素を特定するもので、これらの特定された要素は、

登録ドシエの対象となる物質の性質を理解する上で重要であると考えられている。なお、ナノ形態を含む

登録が対象とするすべての可能性のある物質の有害性は、登録ドシエに記載されている毒性学的および

生態毒性学的情報により解決されなければならない。また、本文書は、ナノ材料に特有の助言を提供す

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ることを目的としたものであり、登録に関するガイダンスに示された一般原則の適用を排除するものではな

い。なお、Echaは当初ガイダンス文書を意図していたが、ケースA-011-2014における審議会(BoA)の決

定の結果、勧告ベストプラクティス文書として発行することとなった。

本文書で、どんなナノ材料であっても、以下の 3 つの共通要素については区別することができるため、

潜在的な登録者は、最低限以下の 3 つの要素の影響について考慮する必要がある、としている;

粒子サイズ(ナノ材料の定義を満たすかどうか)

粒子の形状

表面化学(例:粒子表面の化学的性質)

上記は、登録ドシエに登録されたナノ形態の特徴づけを行うために推奨される最小限の要素であり、

登録された物質により、これら 3 つの要素に、要素を追加したり、又はこれらの要素を修正して報告したり

することは、情報要件を満たすために収集あるいは生成されたデータで決定されるように、特性に対する

影響に応じて必要とされている。

粒子サイズは、ナノ材料の定義に関する欧州委員会勧告にもみられるように、ナノ材料の用語を定義

する上で中心的な役割を果たしている。したがって、サイズは、ナノ形態を報告するための最小限の要素

として推奨されている。

粒子形状は、粒子の挙動に影響を与え、毒性に影響を与える可能性があることが、推奨される最小限

の要素の 1 つとして、粒子形状を考慮する根拠とされている。

表面化学は、ナノ材料は比表面積が大きいために、粒子表面の化学的性質が、その物質の性質に大

きな影響を与える可能性があり、表面化学は、表面処理剤による処理により表面に導入された構造及び

化学的官能基を生成するために使用されるプロセス条件に依存する。表面化学が粒子特性に及ぼす影

響を考慮すると、登録により網羅される物質の全ての可能性のある形態により引き起こされる有害性を決

定するための義務を果たす際に、物質の表面化学の変動性は、常に潜在的な登録者により考慮される

必要があり、登録者が、表面処理したナノ形態の物質により引き起こされる有害性を決定する際に、表面

化学の変化をどのように考慮したかを示す必要がある場合に、表面処理剤の化学的同一性を最小限考

慮する必要があるためである。

b) 化学物質の QSARsとグルーピングに関するガイダンスへのナノ材料の適用に関する付録 R.6 章

『Appendix R.6-1 for nanomaterials applicable to the Guidance on QSARs and Grouping of Chemicals』

(化学物質の QSARsとグルーピングに関するガイダンスへのナノ材料の適用に関する付録 R.6 章、2017

年 5 月、version 1.0)は、『Guidance on information requirements and chemical safety assessment』のうち、

化学物質の QSARs とグルーピングに関するガイダンスのナノ材料固有の付録として発表されたもので、

登録者にナノ形態間(及び非ナノ形態間)と、同じ物質のナノ形態のグループ内で、有害性データの使用

を正当化する方法に関するアプローチを提供することを目的としている。ただし、ナノ材料に関する

QSARs に関しての具体的な助言は、現時点の最先端技術では推奨事項を提供することができないことか

ら、本バージョンでは提供されていない。

表面化学のような物理化学パラメータが異なることで、同じ物質のナノ形態が、潜在的に異なる有害性

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プロファイルを有する可能性がある。したがって、登録者にとって重要なことは、ナノ形態(及び非ナノ形

態)の(生態)毒性学的特性に違いがあるかどうか、すなわち特定のエンドポイントについて追加の有害性

データを生成する必要があるかどうかを決定する方法である。本文書では、登録によりカバーされるナノ

形態(及び非ナノ形態)の(生態)毒性学的特性及び運命に違いがあるかどうかを評価する方法に関する

体系的かつ実用的なアプローチを提供している。ここで示すアプローチは、関連する物理化学パラメータ

(考慮するエンドポイントにより異なる可能性がある)に基づいてナノ形態をグループ化する 3 段階からな

るアプローチである。なお、本文書で説明しているアプローチは、『the updated OECD 2014 Guidance on

Grouping of Chemicals』で概説されている原則に従っている。

c) 第 R7a 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-1

『Appendix R7-1 for nanomaterials applicable to Chapter R7b Endpoint specific guidance』(第 R7a 章

エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-1、2017 年 5 月、version 2.0)は、

『Guidance on information requirements and chemical safety assessment』のうち、R7a 章に適用するナノ材

料に関する付録 R7-1 の更新版として発表されたもので、バージョン 1 は 2012 年 4 月に発表されている。

本文書は、ナノ材料である試験材料に対する特定の推奨事項に焦点を当てている。

本文書は、「第 2 章 物理化学パラメータに関する推奨事項」と「第 3 章 ナノ材料に対する毒性学的

情報要件に関する推奨事項」の 2 つからなる。

「第 2 章 物理化学パラメータに関する推奨事項」では、「2.1.1 試料調整」で、ナノ材料の特徴づけ及

びその後の試験に向けた最も重要なステップの 1 つが試料調整であり、試料調整の方法を検討する際に

考慮すべき多くの変数があり、かつナノ材料については、凝結体や凝集体が分散したり、粉末になったり、

エアロゾルの形態で存在する可能性があるため、それらの形態の存在が、合成、貯蔵、取扱いの方法を

含む多くの要因によって影響を受けることに留意する必要がある、と説明している。強凝集や弱凝集の状

態は、ナノ材料の特徴づけと試験の解釈に影響を与える重要なパラメータであると認識されているため、

試料調整中も考慮する必要がある。また、液体媒体中の粒子の挙動は、溶液中での分散時期と溶解時

期を区別することが困難であり、認識に当たっていくつかの追加の重要な側面と課題がある。また、関連

する試料調整を開始するためには、『Guidance on Sample Preparation and Dosimetry for the Safety

Testing of Manufactured Nanomaterials, OECD No. 36, ENV/JM/MONO (2012)40』(製造されたナノ材料

の安全性試験のための試料調整及び投与量測定のガイダンス)を考慮する必要がある。例えば、試料調

整に当たって、以下の側面は重要であると考えられている;

ナノ材料の物理化学的特性(例えば、粒度分布、形状、比表面積、組成、不純物、表面化学)と、

試験媒体中に存在する状態(凝集/沈殿の程度)の特徴づけ

ナノ材料の試験項目の調整と分散は、試験媒体の特徴を考慮すべきである。(生態)毒性試験媒

体におけるその特性により、ナノ材料の物理化学的特性は、生物学的な(生態)毒性学的影響と

同様に、これらの媒体における生物-物理化学的条件との相互作用による影響を大きく受ける。

したがって、試験では、ばく露濃度を監視するための分析を同時に実施すべきである。

粉末の使用及び/又はエンドポイントに依存した分散などの試験段階を含む可能性があるため、

試料調整もまた、管理、一貫性、関連性、信頼性、堅牢性が必要であり、試験項目は多段階の調

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整プロセスを受ける可能性がある。

選択された試料調整手順(及び、適用されている場合は、管理)は正当化され、研究の要約で十

分に報告されるべきである。

最適な投与量測定基準(dose metrics)は知られていない可能性があるため、利用可能な場合に

は、質量測定基準に加えて、質量ベースのものよりも、表面積や粒子数などの他の投与量測定基

準を使用する。

「2.2 エンドポイントに関する具体的な助言」では、「2.2.1 水溶性」、「2.2.2 n-オクタノール/水分配

係数」、「2.2.3 粒度分布」、「2.2.4 吸着/脱着」について記載し、それぞれについて、その他のガイドラ

インやプロトコルも紹介/参照している。

「第 3 章 ナノ材料に対する毒性学的情報要件に関する推奨事項」では、「3.1 一般的な注意書き」と

「3.2 個別エンドポイントに関する特定の助言」を記載している。「3.1 一般的な注意書き」では、「3.1.1

ヒト健康のエンドポイントに関する試験実施とサンプリング戦略、及び試料調整に関する一般的注意書き」

として、試験材料の特徴と報告、生物学的サンプリング、非動物試験アプローチの使用、in-vitro 試験、

について記載している。この中で、ナノ材料に関わるナノ特異的な助言の使用の有無あるいは、ナノ材料

の特性に関して結論づけるのに当たり、親ガイダンスを参照するべきか、本付録を参照するべきかを判断

するためのディシジョン・ツリーを示している(図 1-1)。

図 1-1 ヒト健康のエンドポイントに関するナノ材料試験のためのディシジョン・ツリー(付録Figure 5参

照)

「3.1.2 試験妨害の考慮に関する注意書き」では、選択する試験法による妨害効果について記載して

おり、ナノ材料がしばしば細胞毒性あるいは毒性効果を決定するために用いられる一般的な試験を妨害

する場合があるほか、表面積が大きいことで、試験に使用する成分に結合する可能性があること、コーテ

ィングや不純物などの要因も試験に影響を与える可能性があることから、ナノ材料については、ナノ材料

による試験への影響を調査するとともに、エンドポイントまたは影響評価のためには複数の試験を用いる

ことを推奨している。

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「3.2 個別エンドポイントに関する特定の助言」では、「3.2.1 反復投与毒性」、「3.2.2 変異原性と発

がん性」について、試験実施時に考慮すべき点等の助言を記している。「3.2.1 反復投与毒性」では、難

溶性粒子(PSPs)について、ラットの肺負荷は毒性学的結果において考慮するべき重要な事項であること

から、本付録に示す追加の毒物動態データの収集の推奨と、肺過負荷の可能性を考慮するべきであると

している。また、ナノ材料にばく露経路としては、ナノ(粒子)、ナノエアロゾル、粉じんによる経路が最も可

能性の高い経路であることから、反復毒性試験では、別の経路を正当化する説得力のある情報がない限

り、吸入経路についての試験が推奨されている。また、肺胞は吸入したナノ粒子の沈着と保持の主要部

位であることから、ナノ材料試験には、BAL(気管支肺胞洗浄液)分析を含めることが強く推奨されている。

「3.2.2 変異原性と発がん性」では、Ames 試験(OECD TG 471)の使用は、ナノ材料の遺伝毒性の調査

に推奨される試験方法ではなく、哺乳類細胞を使った遺伝子変異試験(OECD TG 476 又は 490)のよう

に哺乳類細胞で追加の in vitro の変異原性試験の実施が推奨されている。

d) 第 R7b 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-1

『Appendix R7-1 for nanomaterials applicable to Chapter R7b Endopoint specific guidance』(第 R7b 章

エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-1、2017 年 5 月、version 2.0)は、

『Guidance on information requirements and chemical safety assessment』のうち、R7b 章に適用するナノ材

料に関する付録 R7-1 の更新版として発表されたもので、バージョン 1 は 2012 年 4 月に公表されている。

本文書は、ナノ材料である試験材料に対する特定の推奨事項に焦点を当て、ナノ材料に関する生態

毒性学的なエンドポイントに対する推奨事項と、ナノ材料の生態毒性と運命に関する試験実施方法に関

する一般的助言と、水生生物や堆積物に関するテストガイドライン、分解/生分解/輸送、といった個別

のエンドポイントに関する具体的な助言を記している。

e) 第 R7c 章エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-2

『Appendix R7-2 for nanomaterials applicable to Chapter R7c Endopoint specific guidance』(第 R7c 章

エンドポイント固有のガイダンスに適用するナノ材料に関する付録 R7-2、2017 年 5 月、version 2.0)は、

『Guidance on information requirements and chemical safety assessment』のうち、R7c 章に適用するナノ材

料に関する付録 R7-2 の更新版として発表されたもので、バージョン 1 は 2012 年 4 月に公表されている。

本文書は、ナノ材料に関する生態毒性学的なエンドポイントに対する推奨事項と、水中での生物蓄積

性や陸上生物への影響、といった個別エンドポイントに対する具体的な助言を記している。

f) REACH 改訂に伴うガイドライン更新を目指す ECHA ワークショップを開催

2018 年 11 月 8 日~9 日、Echa は REACH 附属書改定に伴うガイドライン更新に関するワークショップ

を開催した。その内容についてスウェーデン国家ナノ安全プラットフォーム(Swedish National Platform for

Nanosafety: SweNanoSafe) が報告書を発表した。

報告書によると、産業界、EU 加盟国当局、NGO 等を代表する約 55 人の代表者がワークショップに参

加した。報告書では、以下の 4 つの主要分野に新しいガイドラインが必要であるとしている。

ナノフォームに関するガイダンス-登録および物質 ID(SID)の発行

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グルーピングおよびリードアクロスに関するガイダンス

情報要件(Information Requirement:IR)に関するガイダンス - 環境エンドポイント

R に関するガイダンス - ヒト健康エンドポイント

本ワークショップは、Echa のナノ材料に関するガイドラインの更新の、準備段階であった。ガイダンス更

新の正式な開始日は、欧州連合(EU)官報でのナノ材料に関する改定版 REACH 附属書の発表日による

が、遅くとも 2018 年末には開始されるとみられている。

ガイドライン更新を担当するパートナーエキスパートグループ(Partner Expert Group:PEG)のメンバー

は、業界団体、加盟国の関係当局、または NGO によって正式に指名される予定である。PEG の確立後、

Echa は各分野に関する提案ガイドラインのドラフトを作成し、PEG による議論と改定のために配布する。

通常このプロセスでは、数回の会議、コメント募集および改定が行われる。最終的に合意を得た提案は

2019 年 11 月頃に欧州委員会に採択される必要があるため、作業のタイムフレームは短くなる。その後、

ECHA は更新されたナノ材料ガイドラインを、即時に使用できるようにホームページに掲載することとして

いる。

(ii) 欧州委員会

(a) 化学物質全般に係る検討

a) EU 加盟国による化学物質対策

EU 加盟国 10 か国の環境と健康に関わる大臣が、化学物質政策の加速を要請した。詳細については、

「1-2.(2)(イ)(i)EU 加盟国による化学物質対策の加速-2019 年までに EDC、循環経済イニシアチブ

のために必要な行動-」の内分泌かく乱作用の関連部分に記載する。

(b) ナノ材料の定義に関する検討

a) 公開協議の開始

EC 環境総局(EC DG Environment)は、ナノ物質の定義に関する勧告の改訂について、長い間待た

れていた公開協議(コンサルテーション)を 2017 年 9 月 15 日に開始した。2011 年に合意した定義では、

1nm〜100nm の間に 50%以上の粒子を有する物質とした。EC が共同研究センター(JRC)からの第 3 の

最終報告を待つ間、2014 年 12 月の元の改訂締め切りは延期された。 最初の改訂は 2015 年 7 月に発

表され、レビューのために考慮されるべき技術的および科学的勧告事項を含んでいた。この遅れは、多く

のステークホルダーの間で不満を募らせた。欧州委員会はその後発表された改訂のロードマップで、次

のような問題に取り組むことを目標としていると述べている。

殺生物剤製品の場合のように、勧告の EU 規制への「取り込み」が開始されたが、「予想されたよう

に包括的ではなかった」。 これは、定義に含める予定のプロセスの遅延によるものである。

法律で直接適用することは困難である。 たとえば、事前に完全に定義されていないデフォルト値

であるしきい値が含まれており、その値を決定するために追加のプロセスが必要な場合がある。

これは規制間の矛盾を引き起こす可能性がある。

いくつかの用語の使用法と基準の適用方法を明確にする必要がある。

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普遍的な適用可能な測定方法はなく、材料がナノ材料であるかを迅速に判断するための「容易な」

実行ルートもない。 b) ナノ材料に関するベルリン宣言

2018 年 10 月 9 日、欧州連合理事会の環境理事会が会合を開いた。その報告によれば、ルクセンブ

ルクの代表団の支持のもと、ドイツ代表団からナノ材料に関する「ベルリン宣言(Berlin Declaration)」が提

出された。ベルリン宣言は、2018 年 6 月に開催された「第 12 回国際ナノ規制当局意見交換会

(International Nano-Authorities Dialogue)」の結論と提言を要約したもので、参加国の環境大臣から承認

された。宣言文はここ数年のナノ材料の規制枠組みの進展、および、REACH 規則の付属書をナノ材料

の要件に適合させる欧州委員会の決定について記した。また、この分野におけるさらなる活動のために

必要とされるニーズを示し、そのほとんどは EU レベルで取り組まなければならないとした。これらのニーズ

は以下の項目を含む;

OECD の枠内における試験方法の適応化

EU 内のすべての関連規制におけるナノ材料の横断的定義

「先進的な材料」の新たなトピックについてとるべきアプローチ

ナノ材料分野における研究活動と中小企業(SME)への継続的な支援

欧州化学品庁(Echa)に、EU ナノ材料・オブサーバトリー(EU Observatory for Nanomaterials:

EUON)の恒久的な運営を確保する権限を与える規定

規制研究への十分なリソースの提供

ドイツ代表団は、宣言に留意するよう環境理事会に依頼した。

2017 年 11 月以来、欧州委員会の定義に関する欧州委員会の勧告を改訂するプロセスが進行中であ

る。この宣言は、遅れが長引いた、EU 加盟国が 2018 年 4 月に採択した REACH 付属書の変更により、

登録書類の情報を用いて体系的なリスクアセスメントを実施することを可能にすると述べている。しかし、こ

の変更案は 2020 年に発効する予定であり、試験方法はそれ以前のナノ材料要件に適合させる必要があ

る。 作業が始まったが、OECD 作業部会のナノ材料に関するテストガイドラインの更新と検証及びガイダ

ンス文書が間に合わなくなることが懸念されている。この宣言は現在の法案や提案されている法案には関

係しないため、理事会の正式な回答や決定は必要ではない。 この動きは、政治的な勢いをつくるために

策定されたもので、「法律上の提案をまとめるのは委員会に任されている。ドイツが主導し、他の EU 加盟

国 12 カ国を含む別のイニシアチブは、「必要な試験方法をできるだけ早く適応させることを目指す」と、宣

言で述べている。 同グループは、業界、Echa、欧州委員会の共同研究センター(JRC)と協力して取り組

んでいる。

c) JRC、ナノ材料の定義に使用される概念および術語の概要に関する報告書を公表

2019 年 2 月 13 日、欧州委員会共同研究センター(JRC)は、「欧州委員会のナノ材料の定義に使用さ

れる概念および術語の概要」と題する報告書を公表した。本報告書は、ナノ材料の定義に関する欧州委

員会の勧告(2011/696 / EU)の国内法化を支援するためのもので、この定義の理解において重要な概

念および術語について述べ、これらについて規制の面から論じている。

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本報告書では、幅広い適用範囲を持つ本定義と同様に、本報告書での考察が、関係するすべての

立法分野に適用可能であり、ある特定の法律や分野のみに適用されるものではないことを述べている。

本報告書はまた、EU および国家レベルにおける特定の規制の文脈においてナノ材料の定義を一貫した

ものとするための勧告を掲載している。

d) ナノ材料定義の EU 改正を 2020 年に延期

欧州委員会は再び、2020 年以前には想定されていなかった提案とともに、長期にわたり遅れているナ

ノ材料の定義に関する勧告の改訂を延期した。ナノフォーム中の物質の定義を修正するプロセスはすで

に深刻な後退を経験している。 欧州委員会は 3 年遅れて、2017 年に新しい定義に関する最初の公開協

議を開始し、そして近いうちにドラフトの変更に関する別の協議を開始することが期待された。

しかし、改訂は今、次の委員会に延期されている、「2020 年以前ではなく」、と委員会の情報筋は、化

学物質管理情報誌ケミカルウォッチに語った。ドラフトの変更に関する公開協議も「後の段階で」行われる

と、情報筋は述べている。 これには、ナノ材料に関する管轄当局サブグループ(CASG-Nano)を含む、

主要な関連利害関係者グループが関与すると予想される。現在の欧州委員会の任期が、本年の10月31

日に終了した後、いつ次の EU 執行機関が実権を握るかは定かではない。 議会選挙は 5 月に設定され、

EU 議会と理事会は新しい委員会を承認する必要がある。定義がさらに遅れるというニュースは、ナノ材料

によってもたらされる特定の脅威に対処するためにより長い間法的な明確さを求めてきた多くの業界関係

者、加盟国および NGO のフラストレーションを深める可能性がある。しかし、委員会は、新しい委員会が

発足するまで、2018 年末に予定されていた無毒性環境戦略を延期した、と発表している。 これには、ナ

ノ材料に対する取り組みも含まれると予想される。

2011年に合意された欧州委員会の最初の勧告は、ナノ材料を1nm-100nmの間に 50%以上の粒子を

有する物質として定義した。 評論家は、これは余りに広すぎ、プロセス関連のナノ材料と意図的に設計さ

れたナノ材料とを区別しないと述べている。サイズはリスクアセスメントにおいて必ずしも重要ではなく、分

析ツールはナノ材料のサイズを正確に測定するのに苦労している、と何人かの業界関係者は述べている。

また、多くの人が「ナノ材料」と「ナノフォーム」を区別したいと考えている。

EU におけるナノ材料規制のあらゆる側面は、遅れと論争を呼んでいる。3 年半の遅れの後、委員会は

2017 年に化粧品中のナノ材料の目録を発表した。それから目録は消費者がナノ材料を含む製品を識別

するために必要な情報を含んでいないという NGO からのオンブズマン苦情に直面した。ナノ材料に関す

る特定の条項を含めるための REACH 附属書の改訂も、昨年 12 月に最終的に採択されるまでは長い遅

れを見込んでいた。 しかし、新しい定義に先立った委員会の発表は、定義が最初に来るべきであるとし

て、業界の多くを怒らせた。ジュネーブ国際環境法センター(Ciel)の法務責任者を務める David Azoulay

は、次のように述べている。 「ナノ関連の政策には、一つならず数年の遅れがある。これは、EU における

ナノ材料の公正かつ均衡のとれた開発を確実にするという政治的意思を疑問視させている」と述べた。

一方、欧州委員会の共同研究センター(JRC)は 2 月に、定義に関する 2011 年の勧告がどのように実

施されているかについての報告を出した。同報告書は主に、既存の定義の「構成要素」についての説明

を提供している。しかし、「実際にはその可能性のある改訂を反映することにおいて付加される主要な価

値を提供していない。」と Azoulay 氏は述べた。

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(c) ナノ形態物質に関する戦略

Echa は、2017 年 12 月 20 日に、2017 年 12 月 14-15 日にブリュッセルで開催した第 48 回管理委員

会会合における、『ECHA strategy on substances in nanoforms』(ナノ形態物質に関する Echa の戦略)を

発表した。本文書で管理委員会は、Echa による進展を歓迎し、欧州委員会に対して、ナノ材料の情報要

件に関する REACH への附属書の改訂を緊急の課題として締結するように促した。

(d) ナノ材料の EU オブザーバトリ(EUON)の設置と取組み

a) EUON の設置

2017 年 6 月 14 日に、Echa は、EU 市場でのナノ材料に関する情報の透明性を高めることを目的とし

た公開ウェブサイトである、European Observatory for Nanomaterials(ナノ材料の EU オブザーバトリ;

EUON)1を立ち上げた 2。Echa は、2016 年に欧州委員会との間で、オブザーバトリを開発し主催すること

に関する合意に調印した。

EUON は 3 段階で開発される予定である。最初に、Echa は使用されている用途や潜在的な安全衛生

上の問題など、ナノ材料に関する EU 市場での既存データを収集する。プラットフォームはまた、EU やそ

の他の管轄区域でどのように規制されているか、また関連する進行中の研究プロジェクトに関する情報を

提供する。次の 2 段階では、それぞれ 2018 年と 2019 年のリリースが予定されており、様々な情報源から

のデータの統合と、オブザーバトリ ウェブサイト上の検索機能の改善に取り組むとしている。同時に、欧

州の研究データや消費者の選択に関する研究など、より多くの情報を外部情報源から検索する予定であ

る。新しいデータは、1 つ 1 つ次の年または 2 年間でオブザーバトリに追加される予定である。

また、次のフェーズに貢献する 2 つの研究を開始する予定である。その 1 つは、よく知られている、消

費者製品のナノ顔料の潜在的使用リスクと労働者のための文献レビュー、である。第 2 の研究では、市場

のナノ材料に関するより多くの情報を収集するために、市場調査と関連性と信頼性を生み出すために使

用されるパラメータに焦点を当てる。

b) 検索可能な 2 つのデータベースの公開

EUON は、2018 年 6 月 11 日に、新たに 2 つの検索可能なデータベース、「NanoData」と

「eNanoMapper」を公開した。「NanoData」はナノテクノロジー科学技術のナレッジベース、「eNanoMapper」

はナノ材料安全性情報を提供するものである。この 2 つのデータベースは、EUON ウェブサイトからアクセ

スできる。各データベースに含まれる情報や、想定される用途は以下の通りである;

「NanoData」 各種製品、研究プロジェクト、論文、特許、企業のデータが集められており、統計データをチャートや

グラフとして視覚化できる。セクターや地理的位置によってデータにフィルターをかけることも容易である。

例えば、ナノテクノロジーを利用した製品を見つけようとする消費者も、このデータベースを利用することが

できる。 「eNanoMapper」

1 https://euon.Echa.europa.eu/ 2 https://Echa.europa.eu/-/eu-observatory-for-nanomaterials-launched

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ナノ材料の毒性について、現在利用できる最大のデータ源となっている。EU 資金による NanoREG プ

ロジェクトの成果を含め、いくつかの研究プロジェクトからデータは集められている。特定のナノ材料の毒

性データについて調べようとする者は、誰でも利用することができる。

また、EUON ウェブサイトもアップデートされ、EU の規制フレームワークの中でのナノ材料とナノテクノ

ロジーに関する新たな情報が掲載された。その中には、食品、医療、環境調査など各セクターでのナノ材

料使用状況、ナノ材料の職場安全状況といった情報がある。情報は、英語を含む EU23 言語で閲覧でき

る。

c) EU ナノ材料の市場調査で推奨する主要データソースとパラメータ

2018 年 7 月 17 日、EUON は、工業ナノ材料に関する信頼性の高い市場調査を実施するために推奨

する主要なデータソースやパラメータを選定するための、調査結果を発表した。調査は、欧州委員会がナ

ノ材料の定義を発表した 2011 年から現在までの、一般にアクセス可能な検索ツールおよび公的機関のウ

ェブサイトをソースとして、工業ナノ材料の市場調査に使われるデータソース、研究手法、パラメータ等を

分析し、その有用性(relevance)と信頼性を評価する形で実施された。

EUON が、将来的な市場研究のために推奨する、データソースは 12 件(9 件の民間ソース、1 件の EU

ソース、1 件の EU 加盟国ソース、1 件のその他のソース)が特定された。

また、EUON が推奨するパラメータは、以下の通りである;

地理的区域、適用、最終用途、ナノ材料タイプなどの分類ごとの市場分析

市場予測および複合成長率

地域、国、会社別の市場シェア

消費と需要などの市場動向

主な業者の、競合シナリオと製品ポートフォリオ

d) ナノ材料の研究課題のトピック提案を募集

EUON は、毎年 3 件以下の研究を実施している。これらの研究は、一般および研究コミュニティが関心

を持つナノ材料に関して、知識ギャップに対処することを意図している。2019 年 1 月 14 日、今後実施され

る研究トピックの提案を求めると公表した。

求められているトピックのテーマは以下の通り。

ハザードアセスメントおよびリスクアセスメント、ナノ材料へのばく露、または労働者の安全および

保護を含む、ナノ材料の健康および安全に関する疑問

消費者および労働者によるナノ材料の利用を取り巻く特定の課題

EU 市場に焦点を当てた、ナノ材料市場

EUON は、研究の範囲は、ナノ材料一般、特定のナノ材料、またはナノ材料の定義づけられたグルー

プのいずれを選んでも良いとしている。研究の実施期間は 3 ヶ月から 9 ヶ月とすることが可能である。研究

は机上での調査に基づくものでなければならず、実験施設および動物実験等の実験を必要としてはなら

ない。提案の締切は 2019 年 1 月 25 日で、EUON 事務局が提案を審査する。研究は EUON の既存のフ

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レームワーク契約者が実施し、EUON が結論を出し、研究レポートは EUON のウェブサイトで公表される。

e) EUON に対する評価と今後のニーズについて、アンケート調査実施

EUON は現在、ホームページで利用者に対する意見調査を実施中である。EUON がこれまでどのよう

に機能してきたか、また、関係者のニーズをより満たすためどのように発展するべきかについて調査する。

また、EU 市場におけるナノ材料に関する信頼性の高い情報を提供するための提案等の意見もあわせて

募集している。さらに、EUON が 2018 年に実施した 2 件の研究についても、成果の利用等についての意

見を求めている。

意見調査には、EUON のウェブサイトへアクセスすると表示されるポップアップウィンドウからアクセスで

きる。意見調査上には調査の期間等の詳しい情報は記載されていないが、最後に任意で連絡先や 3 月

中の都合を記入する欄があり、近日中に複数の回答者に対して EUON が直接連絡をとって詳細な意見

を聞く予定であることがわかる。

(e) JRC によるナノメディシン関連用語の整理

欧州委員会共同研究センター(JRC)は、「規制環境におけるナノ医学用語のマッピング(Mapping

Nanomedicine Terminology in the Regulatory Landscape)」と題したレポートを 2018 年 8 月に刊行した。

規制、政策立案、品質管理および試験手法の規格化、また、公衆とのコミュニケーションを円滑にするた

めには、用語の統一が重要である。このため、ナノメディシン(健康分野に適用されるナノテク)関連用語

をマッピングし、各地域で使用されている用語の理解を共有するために、規制や政策に関わる科学者向

けにまとめた。

ウェブクローリング、テキストマイニング、手動での抽出により、日本も含む各国の 13 の規制当局 とそ

の他の治験登録機関で使用されている用語を収集した。その結果から、使用者による意味、用法の違い

等について分析、編集し、最もよく使用される 31 の主要な用語をまとめた。なお、ウェブクローリングにつ

いては、日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)の英語版サイトから正確にデータを取得できなかった

ため、英語を主要言語としないその他の国の規制当局のウェブサイトからも、正確に用語を抽出できなか

った可能性があるという。

今回の報告書は国際薬事規制当局者フォーラム(International Pharmaceutical Regulators Forum:

IPRF)のナノメディシンワーキンググループのプロジェクトであるが、IPRF のメンバーである JRC が主導し

てまとめた。

(f) JRC によるナノテクイノベーションへの規制対応に関するワークショップ報告書

2018 年 10 月 30 日、JRC は、2017 年 10 月 5 日~6 日に開催された「NanoReg2 ナノテクのイノベーシ

ョンに対する規制対応についてのワークショップ」のプレゼンテーションおよび議論をとりまとめた報告書

を公表した。このワークショップでは、規制対応(regulatory preparedness)を以下のように定義している:

(1)規制当局がイノベーションに対してタイムリーな意識をもつこと;(2)現在の法制度が個々のイノベー

ションのあらゆる安全面をカバーしているか確認すること;(3)適切な時期に法の改正を開始すること。

ナノテクに基づくイノベーションのための規制対応を達成するには、対話、知識構築、方法論の強化と

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Page 34: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

最適化、反映、および熟慮といった交絡する活動を絶えず組み合わせることが必要である。

NanoReg2 が推進している「安全なイノベーション・アプローチ(Safe Innovation Approach:SIA)」の一

環として、ナノテクイノベーションのための規制対応を実施するため、異なったタイムスケールと正式な受

容のロードマップを以下のように示した;

短期的:

規制当局によるセーフ・バイ・デザイン(SbD)の受容・実行

製品設計プロセスにおける早期からの規制当局の関与

製品設計プロセスの早い段階で、危険性やばく露の懸念に製造業者が対処する

信頼できるデータの活用を促すデータベースの確立

登録制度(registries)の設立

個々の製品について製造業者との事前協議

最も必要とされる実験的プロトコルおよび指針の開発の優先順位付け

より多分野にわたるステークホルダー会合

中期的:

経済協力開発機構(OECD)による、ナノ材料の試験指針の開発

その他の、ナノ材料に特有の一般的指針の開発

(ナノ)イノベーションネットワークのモデルとして、以下の特徴を持つ、欧州連合ナノメディシ

ン特性評価研究所(EU NanomedicinEcharacterization Laboratory:NCL)を活用する

規制当局と産業界との協力

プロトコル開発;

早期スクリーニング(医薬品製造業に限らない)

民間利用にも開放

開発中の最も有望なプロトコルおよび方法の特定

正式な規制策定への反映:

指針から法律への移行

データの定義および規制要件の、必要に応じた変更

プロトコルの完成

代替法の検証と受け入れ

すべてに利益をもたらす、より効果的なデータ生成プロセスの開発

ナノテク・ナノ材料に特化した段階的試験またはインテリジェントな試験戦略

これらの戦略に有効なプロトコル

報告書によると、ワークショップで発表されたアイデアと成果は、NanoReg2 プロジェクトにフィードバック

される。

(g) 酸化チタンに係る検討状況

2014 年 6 月、Echa は、ある二酸化チタン(TiO2)の REACH 登録のためのドシエに対し、掲載されてい

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る情報が不十分であるとして、追加情報の提出を求める決定を下していたが、同 9 月に欧州各地の民間

企業 9 社の抗議をうけていた。2017 年 3 月 2 日、Echa 裁定委員会(Board of Appeal)は、ECHA の決定

を無効とする判断を示した。2014 年の決定の中で Echa は、二酸化チタンの物質識別に関する追加情報

として、結晶相(phase)、ナノフォーム、それらの表面処理に関する具体的な情報などの提出を求めてお

り、フランスの環境・持続可能開発・エネルギー省(MEDDE)もこれを支持してきた。

裁定委員会がこの判断を下した理由は、以下の 2 点である。

Echa は物質の結晶相やナノフォームについて情報提供を求める権限を持っていない。

ここでの定義に基づいて請求される情報は不明確である。「グレード」あるいは「フォーム」とい

った用語は定義されていない。 なお、2016 年に Echa は元々の決定を、一部修正して、より法に沿った形にしようと試みたが、この行

為もまた控訴側によって訴えられていた。今回、裁定委員会はこの件について判断を下す必要はないと

決定した。なお、民間業者には、当事者のタイオキサイド(TiOXIDE)社に加え、デュポン社やエボニック

社といった主要化学品メーカーを含む。

(h) 保健環境新興リスク科学委員会、新興課題一覧を発表、「環境中のマイクロ・ナノプラスチック」と、

「建設資材や建設廃材から放出されるナノ粒子」を含む

2019 年 1 月 14 日、欧州委員会保健環境新興リスク科学委員会(Scientific Committee on Health,

Environmental and Emerging Risks:SCHEER) は、健康および環境に関する新興の問題について、声明

およびポジションペーパーを公表した。これらは、SCHEER が 2017 年~2018 年にかけて、SCHEER の使

命の定義付けと使命遂行の方法を検討した議論をまとめ(ポジションペーパー)、これに沿って特定した

新興課題 14 件について、その①発生源、②発生原因、③危険度、④重要性、⑤背景を示したもの(声

明)。SCHEER は、これらの書類を、今後の業務においても適宜活用するとしている。

なお、今回の SCHEER 声明に記された新興課題にはナノ粒子関連では、以下 2 件が含まれる(記述

は一部のみ抜粋)。

環境中のマイクロ/ナノプラスチック(優先順位は不明)

発生源―都市および工業排水。下水処理汚泥を施用した農業用土壌。マクロプラスチック片。

タイヤ片。

危険度―不明(特殊性(uniqueness)、規模、緊急度はいずれも 3=最大)

重要性―不明

*重要性に関する注意書き―近年国際的に注目が集まる問題である。

排出量を考慮すると、この問題には高い重要性がある。しかし、異なった環境における実際

のばく露や生物への影響に関して入手可能な情報は議論の余地がある。また、モニタリング

調査で用いられているマイクロプラスチックのサンプリング方法および分析方法は標準化され

ていない。このため文献で報告されている水環境中の測定データはしばしば比較が難しくな

っている。影響評価に関しては、マイクロプラスチック(1 マイクロメートルより大きいと定義する)

は細胞膜を通過せず、飲み込んだ場合に消化器官に残り、物理的な影響のみを与える。一

方でナノプラスチックは細胞内に入り、細胞の代謝に影響する。しかし、現時点では、これは

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仮説に過ぎない。文献には細胞によるナノプラスチック摂取のエビデンスがあるが、生物的影

響と同様、このことが発生する閾値も知られていない。

これらの不確定要素は、ハザードおよびリスクのより良い評価の必要性を示している。マイ

クロ・ナノプラスチックへのばく露評価手法の標準化および同プラスチックの生体内での異な

る働きの評価手法の開発は、喫緊の課題であるというのが SCHEER の意見である。

建設資材および建設廃材から放出されるナノ粒子

発生源―ナノ材料は、表面コーティング、コンクリート、窓ガラス、断熱材、および鋼材に存在

するが、すべてがナノ粒子を含むわけではない。しかし、いくつかのナノ材料は非常に細か

い粒子を含み、アスベストに類似した性質を持つナノ材料も発見されており、健康および環

境に潜在的な影響があるとみられる。最も使用されているものは、二酸化チタン、二酸化ケイ

素、銀、酸化銅、および炭酸カルシウムである。二酸化チタン粒子および抗菌性銀ナノ粒子、

またカーボンナノチューブも、コンクリートの自己浄化機能、抗菌性、または強度向上、潜在

的な導電性のために使用されている。

危険性―不明(特殊性、規模、緊急度はいずれも 3=最大)

重要性―3(最大)

重要性の予備見積もり:3(高)

(iii) ナノ材料を使用した製品の規制

(a) 二酸化チタンへのコーティングに関する意見

a) EU SCCS による化粧品中ナノ形態二酸化チタンのコーティングに関する意見

2017 年 3 月に、SCCS(消費者安全科学委員会)は、リン酸セチル、二酸化マンガンあるいはトリエトキ

シカプリルシランでコーティングされた二酸化チタン(ナノ形態)の、紫外線遮蔽用の皮膚に塗布する化粧

品としての使用に関する最終的な意見を発表した。この 3 種のコーティングをしたナノ二酸化チタンにつ

いて、皮膚吸収や一般的な毒性データは十分ではないが、健康で、無傷の、あるいは日焼けした皮膚へ

の塗布という化粧品としての使用は安全であるとした。ただし、経口吸収の可能性があるような使用方法

には注意が必要であると指摘した。また、肺からの吸収はないものとして、環境影響については考慮して

いない。

その後、2018 年 3 月に、SCCS は EU からの要請に対応し、皮膚に塗布される化粧品において、紫外

線フィルターとしてリン酸セチル、二酸化マンガンあるいはトリエトキシカプリルシランでコーティングされた

二酸化チタン(ナノ形態)に関する意見を公表した。

SCCS は、皮膚吸収が一般的にはないことと、ナノ形態の二酸化チタンの一般毒性が低いことを根拠と

して、コーティングされた 3 つの二酸化チタンナノ材料の、健康で、無傷の、あるいは日焼けした皮膚への

塗布を意図した化粧品への使用は安全である、と言明した。しかし、これは、(粉末または噴霧可能な製

品のような)吸入経路を介してナノ形態二酸化チタンに消費者の胚をばく露させるような用途には適用さ

れない。また、ある種の製品(例えば口紅)に使用される成分は、偶発的に摂取されるかもしれない。した

がって、二酸化マンガンでコーティングされたナノ形態二酸化チタンが経口摂取につながる可能性のある

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用途に使用される場合、二酸化マンガンの潜在的に有害な影響を考慮する必要がある。

b) 欧州委員会による SCCS に対するナノ形態二酸化チタンへのコーティングの安全性に関する意見

欧州委員会は、2018 年 3 月、UV フィルターとして肌に塗られる化粧品に使用される、ナノ形態二酸化

チタン(TiO2)の 2 種類のコーティングの安全性について、科学的意見を提出するよう、SCCS に対して要

請した。2018 年 10 月までの提出を求めている。

TiO2 は、着色料あるいは UV フィルターとしての利用が認められている。2013 年 7 月に、SCCS は、ナ

ノ形態の TiO2 の安全性評価を発表し(SCCS/1516/13)、成分の 25%までであれば、健康な無傷の肌に

使用しても悪影響はないと結論付けている。この際 SCCS は、TiO2 のコーティングとして使用しても安全

であると SCCS が判断した物質も合わせて発表しており、その他の材料については、これと同等の安全性

が示されれば問題ないとしていた。

その後の 2017 年 11 月、欧州委員会は、2 種類のコーティングがされたナノ形態の TiO2 に関するドシ

エの提出を受けた;

メチコン(Methicone(CAS/EC 番号 9004-73-3/236-675-5);最大 2%の含有率)+水和シリカ +

水酸化アルミニウム

パーフルオロオクチルトリエトキシシラン(CAS/EC 番号 51851-37-7/257-473-3、最大 3%の含

有率)+ 水和シリカ+ 水酸化アルミニウム

欧州委員会からの依頼を受けた SCCS は、皮膚に塗布される化粧品に UV フィルターとしてこれらのコ

ーティングが施されたナノ形態の TiO2 の安全性評価とその他の科学的懸念について検討を開始した。

(b) ナノ形態の銀コロイドに関する意見

a) SCCS によるナノ形態銀コロイドの安全性に関する予備的意見への意見

SCCS は、2018 年 3 月、ナノ形態の銀コロイド(Colloidal Silver (nano))についての予備的意見を発表

し、コメントの募集を開始した。コメントの締め切りは、2018 年 5 月 15 日である。

欧州委員会はこれまで、ナノ形態の銀コロイドが使われた化粧品に関する 63 件の通知を受けた。これ

らの通知によると、ナノ形態の銀コロイド粒子が、コーティング無しのナノ形態で、肌につけたままになる製

品だけでなく、洗浄で洗い流される口腔製品にも、最大 1%の濃度で使用されているという。こうした製品

は歯磨きやスキンケア製品を含む。このような状況を受け、欧州委員会は SCCS に対し、通知で述べられ

た状態で想定されるヒトへのばく露状況を念頭に、意見の策定・提出を求めていた。

SCCS が今回発表した予備的意見によれば、事業者が通知と共に欧州委員会へ提出したデータは、

化粧品に含まれるナノ材料の安全性評価に関する SCCS のガイダンス文書で理想として示されている量

に満たない。また、ナノ材料の安全性ドシエに含むデータの関連性・過不足性・質に関する SCCS 覚書に

沿ったものでもない。さらには、銀ナノ粒子の毒性に関する公開文献は、上記 SCCS 文書の他にもあるが、

これら文献との関連性も、通知提出者によって考察されていないという。このように重要なデータのギャッ

プが多数あるため、SCCS としては、この物質が経口的あるいは経皮的に使用された場合の安全性につ

いて判断することはできないとした。

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b) SCCS による銀コロイドナノ粒子についての最終意見

2018 年 10 月 26 日、SCCS は、銀コロイドナノ粒子に関する最終意見を発表した。

欧州化粧品規則ではナノ材料を含むいかなる化粧品製品も、販売開始の 6 ヶ月前までに欧州委員会

へ通知しなければならず、欧州委員会がそのナノ材料の安全性に関して懸念を持った場合には、SCCS

にリスク評価を依頼する。欧州委員会は 2016 年 8 月までに報告された最大濃度 1%以下の銀コロイドのナ

ノ粒子を含む、練り歯磨きおよびスキンケア製品等の化粧品製品に関する通知を 63 件受け取っていた。

これらの製品中の銀コロイドはコーティング無しのナノ形態で、肌につけたままになる製品だけでなく、洗

浄で洗い流される口腔製品にも使用される。

欧州委員会は、合理的に予見可能なばく露条件を考慮して、通知に含まれる銀コロイドナノ粒子の安

全性評価を行うよう、SCCS に対して 2016 年 8 月 19 日に要請していた 。SCCS によると、化粧品中のナノ

材料の安全性評価に関する SCCS 指針(SCCS 1484/12)に対応して、申請者によって提供されたデータ

は、限定的なものであった。

また、提供されたデータは、ナノ材料に関する安全性文書(SCCS / 1524/13)のデータの妥当性、適

合性および品質に関する SCCS 覚書にも合致していないという。公開された文献によりナノ銀の毒性に関

する他の情報が入手できるが、申請者は申請した材料とそれらの情報との関連性を考慮していないと

SCCS は述べている。数多くの大きなデータギャップにより、SCCS は口腔および皮膚用化粧品に使用さ

れる銀コロイドナノ粒子の安全性についての結論を導くことができないとした。

欧州委員会はまた、SCCS がコロイド状銀を化粧品にナノ形態で使用することに関するさらなる懸念事

項にも対処するように依頼していた。これについて SCCS は、ナノ形態の銀コロイドの安全性評価に加え

て、さまざまな最終製品中に存在する可能性のあるイオン化銀についても検討する必要があると結論づ

けた。

(c) REACH CoRAP 下での銀ナノ粒子の評価が完了、CLH 表示設定へ

Echa は、REACH コミュニティ・ローリング・アクション・プラン(Community Rolling Action Plan:CoRAP)

下で 2014 年から評価を続けてきた銀について、2018 年 11 月 30 日付の結論文書を、同庁ウェブサイト

で公開した(同サイトの最終更新日は 2019 年 1 月 14 日)。

銀は、CoRAPの評価対象物質に 2014年の更新時に加えられ、評価はオランダが担当していた。2014

年 3 月付けの根拠文書によれば、銀(EU 番号 231-131-3)は大量に様々な用途で使われている上に、ナ

ノフォームでの金属からイオンへの変化(およびその逆)によって環境中での挙動が変化することや、水

中や空気中での粒子サイズに影響される特性が、その安全な使用に懸念を生ずること、などを理由に、

ナノフォームの特性、環境運命、環境毒性などを評価する必要があるとされていた。

オランダのインフラ・水質管理省と国立公衆衛生環境研究所(RIVM)が作成した結論文書では、ナノ

フォームに限った評価の結果、欧州レベルでの規制措置が必要であるとの結論に至り、具体的には、「物

質および混合物の分類、ラベリング、および包装に関する規制(Classification, Labeling and Packaging of

Substances and Mixtures:CLP 規則)」下における、分類表示の調和(harmonized classification and

labeling:CLH)対象とすべきである、としている。この根拠として、現状、銀については硝酸銀(silver

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nitrate)のみが CLH 対象となっており、硫酸銀以上の厳しい規制は必要ないまでも、銀のナノ粒子につ

いても CLH 対象とすべきとの結論に至ったという。

なお、現在、銀は、「殺生物性製品の活性物質レビュープログラム(Review Programme of the Biocidal

Active Substances)」でも、スウェーデンが評価しており、スウェーデンによる評価は銀全般(複合材料の

ナノフォーム〔nanocomposite forms〕を含む)を扱っているため、銀全般が CLH 対象となるか否かは、スウ

ェーデンに結論をゆだねている。

(d) 共重合体のナノ材料

a) SCCS による 2 種類の共重合体ナノ材料に関する最終意見

SCCS は、2018 年 6 月 21 日~22 日に開催された全体会議 で、アクリル酸アルキル・スチレン共重合

体(Styrene / Acrylates copolymer)およびアクリル酸アルキル・スチレン共重合体ナトリウム(Sodium

Styrene / Acrylates copolymer)のナノ形態粒子に関する最終意見を採択・公表した。

欧州委員会はこれまで、これら共重合体のナノ粒子を含む化粧品原料に関する通知を 8 件、受け取

っている。申請によれば、これらの原料は肌につけたままになるスキンケア製品(leave-on cosmetics)に、

ナノ形態のコーティング剤として最大 0.06%使用されている。同最終意見によれば、欧州委員会は、化粧

品中に使用されるこれらの共重合体について安全性を懸念しており、これらの共重合体の「合理的に予

測されるばく露条件」を考慮した安全性についての意見を、2016 年 8 月 19 日に SCCS に対して求めてい

た。

SCCS の最終意見によれば、提出された毒性のデータが不十分なため、安全性に関する結論は出て

いない。例えば、スライミング剤(slimming agent)のテオフィリシラン C をカプセル化するために、このナノ

材料が使用されているが、使用シナリオに基づいてばく露可能性を評価するために必要な、使用頻度の

データは提出されていない。また、安全性評価のためにはそれぞれの構成物質(たとえばカプセル構成

物質とカプセルに内包されている物質)の安全性だけでなく、構成される物体がナノサイズであるならば、

それも含めた、全体としての安全性の情報が提供される必要があると SCCS は述べている。

(e) ナノ材料顔料

2018 年 9 月 7 日、Echa は、EUON が主導し、EcoMole 社とチェコ共和国のオストラヴァ工科大学(VŠB

Technical University of Ostrava)が実施した、ナノサイズの顔料の使用に伴うハザード及びリスクの評価

に関する文献調査の報告書を公表した。

研究ではまず、現在入手可能な公開情報(REACH 登録物質のデータベースや、デンマーク・フラン

ス・ベルギーなど一部の EU加盟国で独自に実施されている国レベルの登録制度を通した情報など)を用

いて、EU 市場で使用されているナノサイズの顔料を特定した。その結果、81 種類の物質が特定され、こ

れらはインベントリーにまとめられた。

また、研究課題であるハザード・リスク評価に関する現在の知見のギャップについては、各物質のばく

露に関する情報、毒性データ、公開情報の不足から、リスクは十分に評価できないことが判明した。また、

これらの情報が入手可能であったとしても、多くの場合、情報間で相違がみられ、信ぴょう性に欠けるとい

う。

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今後は、個々のナノ材料に対して、異なる安全策をベンチマーキングするため、包括的で、良く設計さ

れ、現実に即したばく露シナリオを策定する必要があると提言している。

(f) 食品関係

a) EFSA によるナノテクを用いた食品・飼料の安全性評価手法に関するガイダンス

2018 年 7 月 4 日、欧州食品安全機関(Efsa)は、ナノサイエンス及びナノテクノロジーの食品・飼料へ

の応用の安全性評価に関するガイダンス(ヒトおよび動物の健康面について)を発表した。本ガイダンス

は新規食品、食品に接触する材料、食品・飼料への添加物、殺虫剤を対象としている。

本ガイダンスでは、その旧版が発表された 2011 年以降の技術開発も考慮している。例えば、本ガイダ

ンスの策定段階で実施された文献調査から将来的な発展が予想できる分野として、ナノカプセル化デリ

バリーシステム(nanoencapsulated delivery systems)やナノ複合材料(nanocomposites)の適用が挙げられ

る。そこで、Efsa は、本ガイダンスでは、ナノ材料の物理化学的特性、ばく露評価、ハザード特性などにつ

いて、より深い知見を得られる最新の研究結果を考慮したという。

本ガイダンスでは特に、in vivo / in vitro の毒性試験について、ナノ材料の試験でみられる課題全般

に加え、in vitro での劣化、トキシコキネティクス、遺伝毒性についても記述している。また、毒性試験の多

段的枠組みについても説明しており、初期段階の試験の結果次第で、徐々に、生殖毒性、発達毒性、免

疫毒性、アレルギー、神経毒性、消化管マイクロバイオーム、内分泌活性の試験の必要性も検討する手

法を示している。

本ガイダンスはまた、データギャップを埋めるための、統合された試験戦略、作用機序(modes /

mEchanisms of action:MOA)の知識、リードアクロスの利用についても言及している。

Efsa によれば本ガイダンスは現在パイロットフェーズに入り、2019 年末までには最終ガイダンスを構想

している。2019 年には、食物と飼料の連鎖におけるナノサイエンスとナノテクノロジーの応用の環境リスク

評価に焦点を当てた第 2 のガイダンスを開発するとしている。

b) 有機食品の生産・表示に関する法律の成立

2018 年 4 月 19 日に欧州議会は有機食品の生産・表示に関する規則を承認した。この規則において、

加工有機食品(processed organic food)の生産は、「工業ナノ材料を含む、あるいは工業ナノ材料からな

る(部分、要素とする)食品の排除(the exclusion of food containing, or consisting of, engineered

nanomaterials)」を含む 5 項目の原則に基づいて行われることになる(規則内の Article 7 参照)。

この規則では、工業ナノ材料(engineered nanomaterial)の定義を、2015 年新規食品規則((EU)

2015/2283)で修正を受けた、2011 年食品情報消費者提供規則((EU) No 1169/2011)と同様に定義して

いる;

‘engineered nanomaterial’ means any intentionally produced material that has one or more dimensions of the order of 100 nm or less or that is composed of discrete functional parts, either internally or at the surface, many of which have one or more dimensions of the order of 100 nm or less, including structures, agglomerates or aggregates, which may have a size above the order of 100 nm but retain properties that arEcharacteristic of the nanoscale. Properties that arEcharacteristic of the nanoscale include: (i) those related to the large specific surface area of the materials considered; and/or (ii) specific physico-chemical properties that are different from those of the non-nanoform of the same

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material.

欧州議会の 2018 年 4 月 19 日付けプレスリリースによれば、この規則の特徴の一つは、高品質の有機

食品を提供するために、農家から始まるサプライチェーン全体にわたって、汚染を避ける手段を取る等の

「厳格なリスク・ベースのチェック」を実施するようにしたことである。また、現在、EU と同一ではないものの

同様の標準の遵守を非 EU 国から輸入される有機食品にも求めているが、これは 2025 年 12 月末日まで

に漸次廃止され、それ以降は、非 EU 国からの輸入物も EU の標準を遵守しなければならない。この規則

の正式な施行までには、欧州連合理事会による文面の正式な承認を経なければならない。規則の施行

は、2021 年 1 月 1 日が予定されている。

c) EFSA が 4 月にナノサイエンスとナノテクに関するワークショップを開催予定

Efsa は 2019 年 4 月 1 日~2 日、ナノサイエンスおよびナノテク食品・飼料への応用に関するワークショ

ップをイタリアのパルマにおいて開催する。

(a)に記載の通り、Efsa はナノサイエンス及びナノテクの食品・飼料への応用の安全性評価に関するガ

イダンスを発表している。そのフォローアップとなる今回のワークショップでは、参加者は具体的な問題を

提起したり、プレゼンテーションを発表・聴講したり、同ガイダンスを実際の現場に適用してみた経験につ

いて Efsa の研究者と議論したりできるという。本ワークショップは、ナノサイエンスにおけるリスクアセスメン

ト、および食品・飼料の流通経路におけるナノテクの応用に対して専門知識と関心を持つ者を対象とする。

また、ナノサイエンスとナノテク関係者で、Efsa へドシエを提出する意向のある者の参加が特に望ましいと

している。定員は 60 名で、登録後に所在地および専門分野のバランスを考慮して参加者を選定する。

(g) 化粧品関係

a) 化粧品規則の改正

欧州委員会は、来月初めに施行される化粧品規制に関する改正を公表した。物質 2,2'-メチレン -

ビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチル - ブチル)フェノール)/ビスオクトリゾ

ール - 化粧品成分の国際命名法 メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール(MBBT)

は、化粧品の UV フィルターとしての使用が認可されている。

この MBBT(ナノ)の使用は現在規制されていない。 エンドユーザーの肺を吸入ばく露する可能性が

ある利用を除き、最大濃度 10%w / w で承認される。改正案は 2018 年 6 月 21 日に EU の公式誌に掲載

された。 改正案は出版日の 20 日後に効力を発する。

SCCS は、MBBT(ナノ)の皮膚への塗布は、この濃度以下で無害であり、肺吸入の可能性もないとした

オピニオンを発表している。

b) 化粧品成分の試験及び安全性評価のためのガイダンス改訂

2018 年 11 月 7 日、SCCS は、「化粧品成分の試験および安全性評価のためのガイダンス」の改訂版

(第 10 版)を発表した。本指針は、EU における化粧品の試験および安全性評価のさまざまな側面に関す

る関連情報を含み、規制当局および化粧品製造業者に対して、EU 法への協調と遵守を助けるために提

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Page 42: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

供されるものである。

このガイダンスにはナノ材料について論じている節(第 3-6.7 章)が以前から含まれており 、今回の主

な改訂事項は以下の通りである;

ナノ材料の定義(第 3-6.7.1 章)

前回の改訂では検討中であるとしたナノ材料の定義を、化粧品規制(EC)No 1223/2009 を引用し、

「ナノ材料とは、不溶性または生体内残留性で、意図的に生産された、一つ以上の外径又は一つの内部

構造が 1 nm ~ 100 nm の物質である」と定義した。また、「(上記定義を理由に)同規制下でナノ材料と

みなされる物質は、意図的に生産され、不溶性/難溶性または生体内残留性を持つ物質(例えば、金属、

金属酸化物、炭素材料)が含まれ、完全に可溶性または分解性があり、生物系で残留しない物質(例え

ば、リポソーム、油/水エマルション)は含まれない」とした。

ナノ物質の安全性に関する潜在的な問題(第 3-6.7.2 章)

ガイダンスでは、SCCSがより詳細な指針や覚書などの資料(下記関連資料参照)を過去に発表してい

ることを記載している。本ガイダンスでは、ナノ物質の試験時に、これらの指針で扱われている問題に対し

て責任者がどのように取り組むことができるかを挙げている。また、多くのナノ形態の物質についての「科

学的意見(Scientific Opinion)も発表されていることを付け加えている。

ナノ材料評価に必要な情報(第 3-6.7.3 章)

化粧品成分としてナノ材料を評価するために SCCS が要求する情報は、SCCS / 1588/17 および

SCCS / 1484/12(改訂版)に記載されている。本ガイダンスでは特に、以下の点に特別な注意を求めた;

化学物質分析のために日常的に使用されているほとんどの手法は、ナノ材料を対象とすることに

ついてまだ検証されていないが、試験法を慎重に選択することにより、ナノ材料の適切な特性デ

ータを収集するために十分な手段となりうる。2 つ以上の方法による測定データはより信頼性が増

す。

構造的な吸着が存在する証拠がある場合、吸着された物質がナノ粒子形態であるか、可溶化/イ

オン化/代謝状態であるかを調べなければならない。ナノ粒子の場合には慎重な判断を要する。

表面改質/コーティングは、ナノ材料に対して、特定の物理化学特性や(場合によっては)毒性の

大きな変化をもたらし得る。

完全なデータセットが望ましい。SCCS は、主要なナノ材料の安全性データに加えて、最低限、以

下のデータを必要とする;

目的とする化粧品にナノ材料の表面改質/コーティングとして使用される各材料が安全であ

ると示す情報/データ

コーティングされていない場合、または SCCS によってすでに安全性が評価されている異な

る表面改質/コーティングを有する場合と比較して、表面改質/コーティングを有する材料の

性質が、大きく変化していないことを示す、物理化学的特性のデータ

皮膚浸透、表面改質/コーティングの安定性、および関連する場合には(光)触媒活性に関

するデータ

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(iv) マイクロプラスチック関係

(a) ECHA、マイクロプラスチック添加制限案に関する報告書を発表

Echa は、欧州委員会の要求に従い、消費者向けおよび業務用の混合物/製品合成品に対するマイ

クロプラスチック粒子(代表的には 5mm 以下、としている)の意図的な添加を、REACH 下で制限すること

検討した報告書(restriction dossier/report、2019 年 1 月 11 日付)を作成した。2019 年 1 月 30 日更新の

Echa ウェブサイトで公表されている。これは、REACH 規則附属書 XV に定められた化学物質の製造、上

市、使用に対する制限の手続き(本記事末尾参照)に則ったプロセスで、今後パブリックコメントや専門家

委員会の検討の後、欧州議会でも検討される。

本案が採用された場合、欧州連合(EU)の環境中に放出されるマイクロプラスチックの量は、Echa によ

れば「20 年間で約 40 万トン」削減される。Echa の研究によれば、マイクロプラスチックは下水汚泥中に集

積され、それを肥料として施用することにより土壌環境中に蓄積される可能性が高い。また、一部のマイク

ロプラスチックは直接水環境中に放出される。これらのマイクロプラスチックは、環境中での残留性が非常

に高く、除去することは事実上不可能である。

Echa は、「マイクロプラスチックおよびその劣化により生じるナノプラスチックはサイズが非常に小さい

ために、生物に摂取され食物連鎖の中に入り込む可能性がある。」と述べている。ECHA の提案では、環

境中への放出が避けられない製品へのマイクロプラスチックの意図的な添加を規制することとしており、

生物の体内で分解されない微小な(多くの場合顕微鏡サイズの)合成樹脂粒子を対象とする。適用範囲

は幅広い分野における消費者向けおよび業務用製品で、化粧品、洗剤およびメンテナンス製品、塗料お

よびコーティング剤、建材、医薬品、農業および園芸用品、ならびに石油・ガス製品を含む。

なお、制限提案の手続きの概要は以下の通りである 。

1) 欧州委員会または加盟国が制限提案を発意する

2) Echa(欧州委員会の発意の場合)または加盟国が(1)から 12 ヶ月以内に報告書を作成する。(※今

回の発表はこれにあたる。)

3) 報告書に対して、一般からの意見募集を 6 ヶ月間行い、並行して、Echa 内に設置されたリスク評

価専門家委員会(Committee for Risk Assessment: RAC)で 9 ヶ月以内、および社会経済分析専門

家委員会(Committee for Socio-economic Analysis: SEAC)で 9 ヶ月以内の検討を行う。

4) (3)の検討結果が欧州委員会に報告された後 3 ヶ月以内に、欧州委員会は附属書 XVII への収載

案を作成。加盟国および欧州議会の精査とコミトロジー手続きを経て EU 官報に掲載される。

5) 発効後は、すべての製造者、輸入者、流通者、消費者および小売業者は制限に従わなければな

らない。加盟国は制限を発行する責任を負う。

(v) EU の各種プロジェクト

(a) EU ナノセーフティクラスタ

a) EU ナノセーフティクラスタのプログラム NanoMONITOR 開発のモニタリングシステム

EU ナノセーフティクラスタ(NanoSafety Cluster) のプログラムである NanoMONITOR は、工業ナノ材

料からヒトの健康及び環境を保護することを目的に、「化学物質の登録、評価、認可および制限に関する

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Page 44: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

規則(REACH)」下でのナノ材料のリスク評価を支援するため、新たな情報・モニタリングシステムの開発

を目指している。2016 年 1 月から 2018 年 12 月を研究期間とする。

2018 年 6 月 25 日、施設内外での工業ナノ材料濃度のデータを得るための NanoMONITOR モニタリ

ングステーションが、希望に応じて無償で利用可能であると公表された。このモニタリングステーションは

高さ 500mm、幅 300mm、長さ 775mm、重量 14kg の可搬型計測システムで、空気中のナノ粒子濃度をリア

ルタイムでモニタリングできる(時間分解能1秒、濃度範囲 106 個/cm3 まで、表示;個/cm3、nm、μ

m2/cm3)。また、計測結果をオンラインで共有することで、ウェブ上でのデータ収集や監視を行うことがで

きる。

b) ナノインフォマティクスに関する欧米ロードマップ

2018 年 11 月 15 日、EU ナノセーフティクラスタ は「EU-US ロードマップ:ナノインフォマティクス 2030」

を公表した。このロードマップは、主として欧州と米国の科学者により、多様な科学分野からの最新の論

評と、ナノ材料のリスク評価およびガバナンスに関する論点がまとめられたものである。ロードマップでは、

ナノインフォマティクスが直面する以下の 3 つの課題について述べている;

データセットが限定的であること。

データへのアクセスが限定的であること。

計算モデルの検証と受容のための規制要件。

ロードマップによれば、相互に接続された協調するデータベースおよび規格に基づいたナノインフォ

マティクスの枠組みがなければ、データ生成の進歩は不均衡で組織化されていないものになると考えら

れている。枠組みの中での協調努力によってはじめて、規制目的でのデータの早期利用(例:データギャ

ップを埋めるためのリードアクロス等)が確保されるという。

本ロードマップの構成及び含まれる主なトピックは以下の通り;

要約、定義、背景、目的、導入

データ収集とキュレーション

ナノケモインフォマティクスと統計モデル、ナノ材料評価のための材料モデリング、ナノバイ

オインフォマティクス(ナノ毒性学へのオーミクスデータの利用)

ステークホルダー(アカデミア、産業界、規制当局)コミュニティとインパクト、データベースプ

ロジェクト、イニシアチブ、ロードマップマイルストーン、パイロットプロジェクト

c) マルタ・イニシアチブを支援

2019 年 2 月 18 日、EU ナノセーフティクラスタ(NanoSafety Cluster;NSC) は、種々のプロジェクトとリン

クさせて、マルタ・イニシアチブの活動を支援していることを発表した。マルタ・イニシアチブは、OECD テ

ストガイドラインとガイダンス文書を、規制条件を満たすうえでのナノ材料特有の問題に対応するよう修正・

開発するための研究開発を加盟国が共同で行うイニシアチブで、2017 年に開始された。これは自主的な

組織であり、法的な拘束力はない。試験ガイドラインの適応・開発に関心のある国家または専門機関の積

極的な参加が歓迎されている。マルタ・イニシアチブは、国家、国際組織、EU による資金、物品、専門家

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Page 45: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

の提供をうけて活動している。

NSC は、今回の発表を記したプレスリリースの中で、マルタ・イニシアチブを通した OECD の加盟国間

で同意を得たガイドラインおよび試験方法により、ある加盟国が実施したリスク評価試験のデータを、他の

加盟国と相互に受け入れる(Mutual Acceptance of Data:MAD)ことで、試験の重複を避け、動物試験を

減らし、資源を節約することができると NSC は述べている。

現在、マルタ・イニシアチブを支援している国家および機関は以下の通りである:

オーストリア、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、オラン

ダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、及

びイギリス欧州化学品庁(ECHA)、欧州委員会、OECD 経済産業諮問委員会(Business and

Industry Advisory Committee:BIAC)

諮問機関である「マルタ・イニシアチブ委員会」は、EU 加盟国、EC 各総局および機関、NSC、および

産業界の代表者から選定され、物理化学的特性、環境および生物への影響、ならびに人体の健康への

影響分野の専門家が選ばれている。また、委員は OECD の作業部会と密接なつながりを持つ、または

OECD の実務および手続きに精通している。

現在の委員は以下の通りである:

Flemming Cassee (代理 Eugenia Valsami-Jones) ナノセーフティクラスタ(EU)

Emeric Frejafon フ ラ ン ス 国 立 産 業 環 境 リ ス ク 研 究 所 ( Institut national de

l'environnement industriel et des risques)

Monique Groenewold (代理 Eric Bleeker) オランダ国立公衆衛生環境研究所

(RIVM)

Elisabeth Heunisch ドイツ連邦労働安全衛生研究所(BAuA)

Jenny Holmqvist (代理 Celia Tanarro) ECHA (EU)

(議長)Anke Jesse ドイツ連邦環境自然保護原子力安全省(BMU)

Thomas Kuhlbusch BAuA

Juan Riego-Sintes (代理 Kirsten Rasmussen) 共同研究センター(JRC) Ispra(EU)

Kathrin Schwirn (代理 Doris Völker) ドイツ連邦環境庁(UBA)

Jacques-Aurélien Sergent (代理 Karin Wiench) OECD BIAC

Anne Mette Zenner Boisen デンマーク環境食料省(Ministry of Environment and

Food)

(b) NanoReg2

a) EU 法規制化でのナノ材料評価におけるグルーピング、リードアクロスの適用の検討

NanoReg2 プロジェクトは、常に変化するナノ材料分野において、十分に機能する柔軟な規制プロセス

を構築することを目指し、EU の科学研究支援プログラム Horizon2020 から資金援助を受け、欧州および

各加盟国レベルの研究所や産業団体などが参加している研究プロジェクトである。同プロジェクトでは、

化学物質の安全確保に対処するEUの法規制の包括的なレビューを実施し、各法規制におけるナノ材料

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Page 46: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

の評価においてグルーピングとリードアクロスの手法を適用できるかどうかについて検討した。その結果を

記した論文「EU 化学物質法規制におけるナノ材料のグルーピングおよびリードアクロスの可能性に関す

る見通し」が、2018 年 9 月 5 日付の専門誌「Nanotoxicology」の電子版で出版された。同論文で扱ってい

るのは主に以下の法規制である;

化学物質全般に関する法規制

REACH 規制

物質および混合物の分類、ラベリング、および包装(Classification, Labeling and Packaging of

Substances and Mixtures:CLP)に関する規制

セクター別法規制

化粧品

植物防疫

殺生物剤製品

食品、新規食品および食品接触材料に関する法規制

本研究ではまた、関連する科学技術文献を考慮した他、各法律に関連する裏付け文書(例:指針文

書)を明らかにしてレビューしている。このレビューでは、ナノ材料の評価におけるグルーピングを実施す

るための将来的な規制上のニーズを特定し、それぞれの法律が情報ギャップに対処するためにグルーピ

ングおよびリードアクロスの使用を許可するかどうかに答えている。論文では、例えば、REACH に関して

は、以下のように述べられている;

REACH の下での現在の慣行は、NM へのグルーピングおよびリードアクロス全般の適用に関しては、

規制の不確実性を低減する必要性を示している。 ナノフォームをグループ化する一般的な考え方

はあるが(ECHA 2017c)、物質の異なるナノフォームまたは非ナノフォームとナノフォームの間で、確

固とした規制に係るグルーピングとリードアクロスを適用するには、さらに実践的な経験とガイダンス

が必要である。現在、一件の登録の中で、異なるナノフォームの同定および特徴付けを含む、

REACH 下の物質同定問題に対処することは、特に困難である。 構造的類似性の他に、異なるナノ

フォーム間、またはナノフォームと非ナノフォームとの間の類似性を主張するための関連した明白な

基準(および指針)が必要である。Echa は最近、単一の文書内で異なるナノフォームを区別するため

の明確な基準を確立している。(ECHA 2017a) これらの問題をさらに深く理解するためには、数多く

の実証的なケーススタディが必要である。

(2) その他の国の規制動向

(ア) フランス

(i) 二酸化チタン(ナノ)の食品添加物利用差止め規制措置の要請

2018 年 5 月 27 日にフランス議会は、二酸化チタンのナノ粒子の食品添加物としての使用を禁止する

条項を含む法案(フランス政府修正案 No. 2557)を採択した。

修正案では、添加用二酸化チタン E171 とそれを含む食品の市場流通を見合わせる規制措置をとるこ

とを、政府に対して義務付けている。これは、フランス消費者法第 521-17 条、および EU 規則(EC)

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Page 47: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

No.178/2002(「一般食品法規則」)の第 54 条「その他の緊急措置」に基づいたものである。さらに同修正

案では、食品添加物および消費者利用を目的とした二酸化チタン(E171)を含むすべての食料品の輸

入・流通(有料・無料を問わず)に関して取られたすべての措置について、2019 年 1 月 1 日までにフラン

ス議会に報告することを、フランス政府に求めている。

(イ) ベルギー

(i) ナノ材料登録会議後初の年次報告書(2016 年版)

ベルギー連邦公共サービス(Federal Public Service for Public Health)は、ベルギーにおけるナノ材料

登録制度実施以来、最初の報告書を発表した。ここでは、2015 年 9 月 15 日の登録開始から 2017 年 4

月 1 日までの期間に登録されたナノ材料に関して報告されている。

報告書によると、同期間中の登録件数は 475 件であった。登録者の 56%が輸入者、22%が販売業者、

11%が製造業者だった。物質用途記述の 45%は SU(Sector of Use)を用いており、SU3(産業用途)がも

っとも多かった。CAS Number に基づいて同定すると、登録されたナノ材料は約 150 種類だった。また、輸

入されたナノ粒子状態の物質は 5 万 7,550 トン、製造されたナノ材料は 1 万 6,947 トンであった。1,000 ト

ン以上が登録されたナノ材料は、非晶質シリカ、炭酸カルシウム、ステアリン酸処理炭酸カルシウム、カー

ボンブラック、酸化第二鉄、黄色水酸化鉄、酸化ケイ素であった。また、475 件のナノ材料登録のうち半分

は 1 トン未満であり、REACH の範囲外であった。

(ウ) 北欧 4 か国

2018 年 5 月 23 日に EUON は、「ナノ材料についての REACH 関連規則ノルディック情報キャンペー

ン」と題する記事を公開した。EUON によれば、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの 4 ヶ

国は、北欧閣僚理事会のノルディック化学グループの N-Nano プロジェクトを通じて、情報キャンペーンを

準備しているということである。このキャンペーンの目的は、ナノ材料の REACH 規則登録で必要な情報を

提供するウェブベースのツールを開発することである。このツールは英語で提供され、ナノ材料を含む規

則について十分な社内専門家がいない中小企業に向けられている。EUON によると、このツールは現行

REACH 規則に基づいており、以下の点に関するサマリーが示されている;

ナノ材料の定義

ナノ材料のタイプ

現行 REACH ガイダンスのナノ材料関連付属書概要

ナノ材料の化学的および物理的特性評価

ナノ材料のデータと試験

ナノ材料へのばく露とリスク

この情報キャンペーンは 2018 年末の完了を予定している。

(i) スウェーデン

(a) ナノ材料報告義務制度 スウェーデン化学品庁のナノ材料報告義務制度の現状

2018 年 5 月付けの Echa のニュースレターに、スウェーデン化学品庁(KEMI)の化学物質統計・登録

43

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部門長、Robert Johansson 氏のインタビュー記事が掲載されている。KEMI は、スウェーデンで使用される

ナノ材料の量と種類に関する情報を得るために、化学品の通知制度においてナノ材料に関する情報提

供を義務付けており(2017 年 12 月発表、2018 年 1 月施行(KEMI の発表はスウェーデン語のみ)、最初の

報告は 2019 年 2 月が期限である。Johansson 氏によれば、「この情報は、例えばヘルスケア、環境関連、

職場安全性といった分野でナノ材料に関する制度変更や新たな措置を講じる上で、今後の基礎となる」と

いう。記事では、ナノ材料を含む製品の通知を行わなければならない者として、以下を挙げている。

化学製品や生物工学的有機体(biotechnical organisms)の専門製造者および輸入業者

流通のために、化学製品や生物工学的有機体の梱包、再梱包、名称変更をおこなう責任者

流通のために、化学製品や生物工学的有機体の混合をおこなう者

届出義務のある化学殺虫剤の製造者および輸入業者

製造者および輸入業者の代理として製品の報告をおこなう第三者

記事によれば、KEMIでは900件~2,600件の報告があるものと見込んでいる。現在の報告義務では、

自然に、あるいは偶発的に生じたナノ材料や色素として利用されるナノ材料については、報告が免除さ

れている。Johansson 氏は、この件数予想はあまり確かなものではなく、EU レベルでの調査を基にしたも

のだと述べている。Johansson 氏は、ある国が国家登録制度を創設するに当たっては、「様々なステークホ

ルダーと共に計画を進め、計画過程を通して各ステークホルダーの考えとニーズを考慮するべきだ」とし

ている。また、KEMI は、製品に含まれているナノ材料を報告していない企業は、不適合声明(Sonc)を公

表し、欠落した情報を要求することを決定すると述べた。

企業は報告に以下の情報を含める必要がある。

CLP 規則によるナノ材料の分類。

特定の製品におけるその機能。

一次粒径; 凝集状態または凝結状態の製品中に通常見られるナノ材料の凝集物または凝結物の

平均サイズ;・ナノ材料の形状。

結晶構造。

表面積と表面処理。

(エ) スイス

(i) 繊維状ナノ材料に関する通知

スイスは、2017 年 9 月に、欧州委員会(EC)に、『危険物質と調整品からの保護に関する条例』の改正

案を通知した。この告知は、危険物質及び調整品からの保護に関する条例は、化学物質のリスク評価と、

ヒトの健康又は環境を危険にさらす可能性のある化学物質が市場を使用し、それを市場に出すための要

件を規定している、と述べている。この通知によれば、改正案は、とりわけ、製造業者/輸入業者が伝達

するためのリスクに基づく義務を導入している。

スイスで取引されている化学品中間体

市販されている繊維状ナノ材料

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義務は、市場に最初に出されてから 3 か月以内に追行されなければならない。この通知には、繊維状

ナノ材料の要件に関する以下の根拠が含まれている;「新たな義務として、上市された繊維状ナノ材料に

関して、当局及び一般に全体像を与えるべきである。特別なリスクが認識されれば、規制上のリスク軽減

措置が可能である」。

(ii) ナノ情報ポータル

スイスの科学技術コンサルタントのイノベーション・ソサエティは、スイスの企業が合成ナノ材料に関す

る情報にアクセスするのを助けるウェブサイト(contactpointnano.ch)を運営している。利用者の質問に答え

る形になる。

ウェブサイトは、既存の科学的、工業的および規制上の知識を集めて分類し、1 つの場所に入れる。

ユーザーに専門家へのアクセス、トレーニングの編成、情報共有ポータルとしての役割を果たす。スイス

連邦教育・研究・イノベーション事務局が資金を提供し、連邦公衆衛生局と連邦環境省の支援を受けて

いる。

2 年間のパイロットフェーズでは、スイス連邦材料試験研究所(EMPA)の研究者である Peter Wick の

指導を受ける。

(オ) カナダ

(i) 民間研究機関 IRSST による職場でのナノ材料計測に関する英語報告書

2018 年 6 月、カナダの民間研究機関であるロベール・ソウベ労働安全衛生研究所(Institut de

recherche Robert-Sauvé en santé et en sécurité du travail:IRSST) は、2017 年 3 月 7 日にフランス語で

発表された「大気中および職場の地表面の工業用ナノ材料のサンプリングと特性把握の評価」と題する

報告書の英語版を発表した。

本研究プロジェクトは、室内試験とフィールドワークからなる。室内試験では、制御された実験室条件

下で二酸化チタンナノ粒子を生成し、異なるサンプリングおよび分析装置について調査した。フィールド

ワークでは様々なサンプリング装置と分析手順をテストし、ケベックの労働者の工業用ナノ材料へのばく

露レベルを測定した。対象となった種々の職場では、ナノ金属または金属酸化物、ナノクレイ、ナノセルロ

ース、およびカーボンナノファイバー(CNF)およびカーボンナノチューブ(CNT)を含む炭素材料が検出

された。

IRSST の調査に基づいて、工業用ナノ材料へのばく露の、より正確な評価のための、2 段階による手

順が提案された。第 1 段階では、サンプリング、さまざまな直接読み取り装置による検査、およびその後の

顕微鏡分析により、工業用ナノ材料が生成される作業タスクを明確に識別する。第 2 段階では、ばく露確

認後の検出された工業用ナノ材料に特化して定量(quantification)する。

IRSST は、以下の知見が、工業用ナノ材料へのばく露の詳細な特性評価に特に有用であると述べて

いる。

職場で採取したサンプルの金属酸化物含有量を定量するための誘導結合プラズマ質量分析

(ICP-MS)。

CNT/ CNF の指標である元素状炭素を測定するための、NIOSH が推奨する様々なサンプリング方

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法の組み合わせ、ならびに炭素材料の合成に必要なブラックカーボン粒子との干渉から生じるこの

手法の限界の実証。

材料の定量化を可能にするミニ粒子サンプラー(MPS®)使用の利点の明確化。

サンプリング時間の影響。サンプリング時間が長いと、電子顕微鏡のグリッドに負担をかけ、平均粒

子凝集体サイズの過大評価と粒子濃度の過小評価につながる。

職場における工業用ナノ材料の飛散を評価するためにサンプリングポンプ、または電子顕微鏡グリッ

ドへの受動的な拡散による表面サンプリングの実現可能性と有用性。

IRSST によると、調査結果は工業用ナノ材料へのばく露を評価するための有望な手段とその限界を示

し、サンプリングと分析方法を改善することが、職業上のばく露を最小限に抑える制御措置の適用と実施

に役立つとしている。

(ii) カナダの職業がん研究センター、工業ナノ材料へのばく露軽減に関するセミナーを開催

2018 年 12 月 7 日、カナダの職業がん研究センター(Occupational Cancer Research Center:OCRC)

は「職場での工業ナノ材料へのばく露軽減(mitigation)に関する考察」と題したセミナーを開催した。本セミ

ナーは、トロント大学公衆衛生学部(Dalla Lana School of Public Health)、オンタリオ州公衆衛生省

(Public Health Ontario) 、職業病研究所(Center for Research Expertise in Occupational Disease:

OREOD) と OCRC が共催する職業・環境健康セミナーシリーズの一環である。

カナダ保健省/オタワ大学のパット・ラスムセン氏が以下の内容についてプレゼンテーションを行った。

工業ナノ材料の特性(定義)

コントロールバンディングアプローチ(Control Banding Approach)

ハザードおよびばく露の程度の等級に基づく管理手法の選定

カナダ標準協会(Canadian Standards Association:CSA)、国際標準機構(ISO)

調和の取れた段階的アプローチ(Harmonized Tiered Approach)

職場での潜在的ばく露の評価(OECD)

CSA/ISO および OECD のばく露計測および軽減の取り組みへの研究の貢献

ナノ関連の職場の安全情報へのオンタリオ州におけるアクセス

(カ) オーストラリア

(i) 新たな工業化学物質法での規則に関するパブリック・コンサルテーション

オーストラリア政府は、国家工業化学品届出審査機構(National Industrial Chemicals Notification and

Assessment Scheme:NICNAS)の改革を進めており、これによって、リスクに見合った規制努力、低リスク

化学物質利用による安全性向上、工業化学物質からの労働者・市民・環境の保護を目指している。この

一環として、NICNAS では、工業化学物質法(Industrial Chemicals Bill、2017 年成立)と併せて、「オースト

ラリア工業化学品導入機構(Australian Industrial Chemicals Introduction Scheme:AICIS)」とする予定の、

以下の 3 文書案について、パブリック・コンサルテーションを開始した。

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工業化学物質一般規則(Industrial Chemicals (General) Rules 2018:General Rules);

新たなフレームワーク下での工業化学物質の上市に関する規制の詳細が定められている。

リスクが中程度から高度とみなされ審査申請免除対象にならない新規に上市される物質のう

ち、ナノスケールの工業化学物質としては、(1)粒子サイズの条件を満たし、固体あるいは分

散状態であるもの、(2)ナノスケールで安定しており、急速に溶解しないもの、(3)非ナノスケ

ールの工業化学物質に付随するものでないもの、が挙げられている(Section20)。なお、ここ

でナノスケールは 1nm~100nm の粒子径と定義されている。

研究開発用途のみで使用される場合、一般には入手できない場合、制御手段のある場所で

利用される場合、一定値以下の使用量の場合には、ヒトの健康や環境に影響するリスクが非

常に低いとみなされ、審査申請免除対象になる。10kg以下で、固体あるいは分散されたナノ

スケール化学物質は審査免除対象となる。

工業化学物質分類ガイドライン(Industrial Chemicals Categorization Guidelines:Categorization

Guidelines);

工業化学物質輸入・製造者が、新機構下で新規化学物質導入に当たっての分類に必要な

技術的詳細と必要事項が説明されている。

改正と移行措置に関する工業化学物質規則(Industrial Chemicals (Consequential Amendments

and Transitional Provisions) Rules 2018:Transitional Rules));

これまでの規則から改正規則への移行プロセスに関して説明されている

(ii) 労働安全局による有害物質分類指針の公表

オーストラリア労働安全局(Safe Work Australia:SWA、*「労働安全庁」とも訳される) は、2018 年 8

月付で「有害化学物質(hazardous chemicals)の分類に関する国内指針」を発行した。

この指針の対象は、有害化学物質の製造業者および輸入業者に加え、労働安全衛生(Work Health

and Safety:WHS)法および関連規則の下での物質・複合物・物品の分類の担当者である。SWA はまた、

本指針が、有害化学物質の供給業者、経営者、有害化学物質に関わる労働者などにも有用であるとして

いる。

同指針には、「特殊な状況に際した場合の助言(4. Advice on specific situations)」という章があり、3 つ

の状況の内の 1 つとして、細かい粉塵やナノ物質の扱いに関する助言が含まれている。この中で同指針

は、ナノスケールの粒子はより大きなスケールで調べられた同様の物質とは異なる特性を示す可能性が

あり、適切に分類されなければならないと述べている。指針によると、ナノ粒子の健康有害性(ハザード)

が十分に特定されていない場合は、適切な安全データシート(Safety Data Sheet:SDS)を備え、容器に以

下のいずれかのラベル表記を付けることが推奨される ;

「工業ナノ材料を含む。注意:有害性が不明である」

「工業ナノ材料を含む。注意:有害性が完全に特定されていない」

なお、製造者・輸入者が、自ら、化学物質を正しく分類し、ラベルや安全データシートに既知の有害性

に関する情報を記載する義務を有するため、上記の文言はあくまで暫定的に使用することとしている。

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(キ) 台湾

(i) 食品用の容器包装におけるナノ材料に関するガイドラインの発行

台湾FDA(食品医薬品局)は、食品用の容器・包装におけるナノ材料に関するガイドラインを2017年3

月に発行した。同ガイドラインによれば、ナノ材料は、新規の食品接触材料としての取扱いとなる。そのた

め、承認に当たって、以下に示す情報の提出が必要となった;

申請者及び食品包装材に関する基本情報

使用されるナノ材料の組成及び物理化学的特性

ナノ材料の製造プロセス

食品包装材料において意図された使用及び効果

微生物の特性

承認された国際情勢

毒物学的情報

移行試験情報

(ii) 優先既存化学物質登録制度への共同登録

台湾有害化学物質局(TCSB)は、優先既存化学物質登録制度(Pecs)の開始に先立ち、比較的少量

の物質を製造または輸入する企業が共同登録を選択するよう促した。Pecsの最初の106のリストを含む新

規および既存の化学物質登録の規制の改正案の草案では、引き続きコンサルテーションが行われている。

8 月に予定通りに改正規則が公布されたとすると、登録は 2019 年 1 月 1 日から開始される。改正規則案

第 17 条によれば、Pecs リストにある物質を製造または輸入する企業は、標準登録を完了する必要があ

る。

年間量 100 トン以上は 2021 年末までに。 または

年間量 1〜100 トンは、2022 年末までに。

登録情報の要件(改訂草案の付録 VII に示されている)には、物質の物理的特性、毒性、および

ハザードとばく露のリスクに関するデータが含まれる。

TCSB の陳淑林(Chen Shu-lin)副局長は、おそらく機密性の懸念から、化学物質の登録を行う際に共

同ルートを採用した企業はほとんどいない、と Chemical Watch に語った。TCSB は、以下にあげる、改正

された規制のいくつかの重要な条項を強調した。

CMR 物質のより厳しい基準登録を要求する権限(第 7 条)。

登録者に大きな柔軟性を与える特徴。

ナノ物質を「新しい化学物質」として登録するための要件(第 8 条)。

改正草案に関する 5 月 18 日のコンサルテーション会合では、TCSB がこれまでに 200 件の回答を受

けていると言われた。 コメントのための 60 日間の期間は、5 月 29 日に終了する。

(ク) 韓国

韓国では、2017 年にナノ材料に係る 2 つの技術指針を公表したほか、2017 年 12 月に K-REACH 施

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Page 53: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

行規則を改正し、ナノ材料を K-REACH の対象とした。そのほか、2018 年 3 月には、殺生物製品規則を

改正し、ナノ材料を対象に含めた。

(i) 空気中の製造ナノ物質のばく露評価のための技術指針

韓国は、2017 年 11 月 27 日に、韓国産業安全保健公団は、産業衛生分野制定委員会の審議を経て、

「空気中の製造ナノ物質のばく露評価のための技術指針」(KOSHA Guide W-24-2017)を公表した。

本指針は、「産業安全保健法」第 23 条(安全措置)、第 24 条(保険措置)、第 25 条(労働者の遵守事

項)及び「産業安全保健基準に関する規則」の第 3 編「保健基準」第 9 章(粉じんによる健康障害の予防)

の規定に依拠し、労働者の健康障害を予防するために、製造ナノ物質についての空気中へのばく露評

価に必要な技術的事項を定めることを目的としている。その適用範囲は、製造ナノ物質を製造・取扱う事

業主、労働者及び作業場などの、これに関連する事項、である。

本指針は、製造ナノ物質の危険性を把握し、定量化し、製造ナノ物質がばく露する可能性のある作業

を特定した上で、ばく露評価を行うための、ばく露評価の方法について規定している。製造ナノ物質のば

く露評価は、「1.1 目的」で参照している各規制に対応しており、特に「産業安全保健基準に関する規則」

の第 614 条(粉じんの有害性などの周知)に規定された“1.粉じんの有害性とばく露経路”の事業主によ

る労働者への通知義務に対応するものである。

指針の中では、「4.一般事項」の中で、製造ナノ物質の危険性の定量的評価の必要性が指摘されて

いる。また、製造ナノ物質へのばく露の可能性のある作業が特定されている。

「5.ばく露評価」では、評価のステップを1~5段階に分け、フロー図とともに、ステップごとに実施すべ

き事項を規定している(図 1 1)。なお、ばく露評価では、「5.2.2 非意図的なナノ物質の発生情報調査」

として、非意図的なナノ物質の発生状況の把握と背景濃度の測定が規定されている。「5.2.3.1 製造ナノ

物質の特性解明及びばく露評価-第 2a 段階」では、粒子の総数、粒子のサイズ別の粒子数分布及び表

面積のリアルタイム測定が規定されている。ばく露評価の第 3 段階では、「5.3 製造ナノ物質のばく露基

準(勧告案)との比較」を行うとされている。しかし、指針には以下のように記載されており、付録 2 の他国

のガイドライン等に示されたばく露基準との比較を行う。

(ii) カーボンナノチューブ取扱い作業環境のばく露濃度管理指針

2017 年 11 月 27 日に、韓国産業安全保健公団は、産業衛生分野制定委員会の審議を経て、「カーボ

ンナノチューブ取扱い作業環境ばく露濃度管理のガイドライン」(KOSHA Guide W-25-2017)を公表し

た。

本指針は、カーボンナノチューブが空気中に飛散して労働者がリスクを受ける可能性のある作業場に

おいて、作業環境の管理を行う際に適用可能なカーボンナノチューブのばく露濃度を勧告することを目

的としている。

なお、カーボンナノチューブは、現時点では韓国国内において作業環境測定の対象物質として指定

されていない。しかし、健康への有害性が懸念される物質である。IARC では、多層カーボンナノチューブ

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-7 のみを、ヒトにがんを引き起こす可能性のある物質(Group 2B)として指定した。カーボンナノチューブ

の有害性が懸念さらされていることから、カーボンナノチューブを取扱う作業場ではカーボンナノチューブ

のばく露を評価し、提案されたばく露濃度と比較して作業場の環境を管理する必要があるため、本指針

においてカーボンナノチューブばく露濃度などに関する技術的事項を勧告することを目的としている。そ

の適用範囲は、カーボンナノチューブを取扱う作業場において、カーボンナノチューブを測定・分析し

(炭素元素ベース)、ばく露濃度を適用する再に関連する事項に限っている。

本指針は、産業安全保健法では現在、作業環境測定の対象物質として指定されていないものの、労

働者の保護の観点から、カーボンナノチューブを取扱う作業場における労働者のばく露濃度を管理する

ことを目的として、国内外のカーボンナノチューブのばく露濃度管理設定状況を把握し、さらに韓国国内

におけるカーボンナノチューブ取扱い作業場の作業環境測定結果に基づき、韓国として作業環境管理

のためのカーボンナノチューブばく露濃度を勧告するものである。

指針の「4.国内外のカーボンナノチューブばく露濃度」では、国内外のカーボンナノチューブのばく

露濃度の勧告値等を整理して示し、作業環境管理のために、カーボンナノチューブばく露濃度の制定根

拠及び測定・分析方法の妥当性を検討し、韓国国内で適用可能なばく露濃度を提案する必要がある、と

説明している。

指針「5.韓国国内のカーボンナノチューブ取扱い事業場の作業環境測定結果(炭素元素濃度基準)」

では、2016 年を基準として、韓国国内のカーボンナノチューブを製造又は使用する 7 事業場を対象に、

炭素元素濃度を測定した結果を大気濃度とともに示している。最も高い炭素元素濃度は、カーボンナノ

チューブの製造及び使用工程で 14μg/m3 が確認されている。

指針の「6.カーボンナノチューブばく露濃度(NOAELH)の設定段階」では、国内外においてこれまで

報告されているカーボンナノチューブに対する動物試験の結果から得られた無毒性量(NOAEL;No

Observed Adverse Effect Level)のうち最も低い濃度である 0.1mg/m3 を選択するとともに、国内外におい

て使用された不確実性係数に関する情報を整理し、動物実験結果のヒトへの適用時及び、製品に対する

不確実性係数をそれぞれ 3 及び 4 を選択し、これらの選択した値に基づき、カーボンナノチューブのばく

露濃度(NOAELH)、0.011mg/m3(11μg/m3)、を算出した。

指針の「7.作業環境管理のためのカーボンナノチューブばく露濃度(NOAELH)10μg/m3 の提案」

において、「6.カーボンナノチューブばく露濃度(NOAELH)の設定段階」で算出した11μg/m3に基づき、

カーボンナノチューブのばく露濃度の勧告値として 10μg/m3 を提案している。なお、算出結果よりも厳し

いばく露濃度を勧告値として提案した理由として、カーボンナノチューブの純度は 100%にならず、100%程

度であることを勘案したためである、と説明している。また、本指針で提案された 10μg/m3 の勧告値につ

いては、動物(ラット)の気管支肺胞洗浄液の好中球数の増加を根拠としたものであり、カーボンナノチュ

ーブが発がん性物質として疑われ、それに対する影響を考慮すると、労働者のカーボンナノチューブばく

露を可能な限り低くするように管理することが勧告されている。

(3) 我が国の規制動向

ナノ材料の規制に係る動きはない。

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(4) 国際機関の動向

(ア) OECD の活動

(i) 工業ナノ材料試験スポンサーシッププログラムでの評価手法に関する報告書

OECD は 2018 年 3 月、『工業ナノ材料の試験に関するスポンサーシッププログラムでの、ヒトに対する

有害性評価のための in vitro 手法の適用の評価』と題した報告書を公開した。「工業ナノ材料の試験に関

するスポンサーシッププログラム」では、11 の工業ナノ材料に対し、物理化学特性、環境運命、環境及び

哺乳類毒性などの試験を実施した。目的は、このスポンサーシッププログラムのドシエをレビューし、現在

の OECD in vitro テストガイドラインの中で利用された手法、それ以外で利用された手法、そして、工業ナ

ノ材料の試験に使用された各アッセイの潜在的な限界について評価することである。

このレビューを通じて明らかになった一般的な観察結果が、報告書では、以下のようにまとめられてい

る;

OECD テスト・プログラムの工業ナノ材料評価では、様々な in vitro 手法が利用されているが、

多くの in vitro データ測定では OECD テストガイドラインを利用していない。

in vitroエンドポイントについて数多くの評価が行われているが、特定の工業ナノ材料に関す

るフルセットの in vitro アッセイはない。例えば、単層カーボンナノチューブや多層カーボン

ナノチューブについて、遺伝毒性の情報は多数あるが、経皮吸収などの他のエンドポイント

に関するデータは非常に限られている。その一方で、酸化亜鉛(ZnO)についての経皮吸収

については多くの報告がある。特定の工業ナノ材料の評価アッセイの選択は、可能性のある

ばく露の経路に基づいていることが多い。

既存の OECD in vitro テストガイドライン、例えば、皮膚刺激(TG439)、皮膚感作性

(TG442D)、皮膚腐食性(TG431)、皮膚吸収(TG428)といったテストガイドラインはほとんど

利用されていない。

既存の OECD in vitro テストガイドライン利用に関連するドシエの中では、矛盾や欠落が多

い。

培地中などの in vitro 条件での工業ナノ材料の物理・化学的特性や細胞取込に関する報告

は行われていない。

ナノクレイやデンドリマーについて OECD テストガイドラインを利用した in vitro データの報告

はない。また、OECD スポンサーシッププログラムで銀やナノクレイについての in vitro 細胞

毒性データの報告もない。

そこで考えられる次のステップとして、TG 428(工業ナノ材料の経皮吸収)、TG 431(皮膚腐食性)、

TG 437(ウシ角膜の不透明度および浸透性試験法)、TG 471(細菌を用いる復帰突然変異試験)、TG

487(in vitro 小核試験)、TG 476(哺乳類培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験)などについて、その適

用可能性(applicability)を再検討することなどが述べられている。

(ii) 工業ナノ材料の安全性についての各代表からの進展報告

2018 年 5 月 17 日に OECD は、「工業ナノ材料の安全性についての各代表からの進展報告」と題した

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報告書(ツール・ド・タブル:tour de table)を、「工業ナノ材料安全性シリーズ」No.87 として公開した。この

報告書は、2018 年年 2 月開催の工業ナノ材料作業部会(WPMN)に提供された、工業ナノ材料安全性に

ついての現在の各国の取り組みに関する情報を集めたものであり、毎回発行されているシリーズである。

2018 年版には欧州(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェ

ーデン、英国)、米州(カナダ、チリ、米国)、アジア・太平洋(日本、韓国、オーストラリア、タイ)の 16 か国

政府と欧州連合、OECD 経済産業諮問委員会(Business and Industry Advisory Committee to the

OECD:BIAC)、OECD 国際動物保護委員会(International Council on Animal Protection in OECD:

ICAPO)、国際標準機構(ISO)、環境非営利団体の取り組みがまとめられている。前回の発表(No. 78)は

2016 年 11 月付であり、今回は主にそれ以降の取り組みがまとめられている。

例えば日本については、①人体の健康と環境の安全に関わる動き、②グッドプラクティスを紹介する

文書に関する動き、③人体の健康と環境の安全に関わる問題解決を目指す研究プログラム・戦略が紹介

されている。②については2017年10月に産業技術総合研究所(AIST)が発表した「ナノ炭素材料の安全

性試験総合手順書」が取り上げられている。

また、2018 年 2 月 14~16 日に開催された OECD の工業ナノ材料に関する作業部会 (WPMN)の第

18 回会合で提案された新規プロジェクトへの取組み状況が、各国から報告されている。 フランスの取組

み報告の「1.7.4.グッドプラクティス文書に関する開発」の中で、REACH 及び CLP 登録に依存する OECD

ガイダンス文書とテストガイドラインの完成をサポートすることを目的とした「マルタプロジェクト」についても

触れており、これらの報告から、現在、「マルタプロジェクト」では、ダスティネス、表面化学やコーティング、

毒物動態学的、環境的な運命および溶解度、に関するプロジェクトに主に取り組んでいることがわかる。

(iii) 工業ナノ材料のリスク評価手法に関するアンケート調査の結果

2018 年 7 月 4 日、OECD は、工業ナノ材料作業部会(WPMN)参加者を対象に、各加盟国で使われる

工業ナノ材料のリスク評価手法について聞いたアンケート調査の結果を記した報告書を公表した。この調

査は、2016 年 3 月に WPMN 参加者に配布され、15 件の回答が日本を含む 10 加盟国 と OECD 経済産

業諮問委員会(Business and Industry Advisory Committee to the OECD:BIAC)の関係者から得られた。

質問の内容は主に以下のとおりである;

各加盟国で用いられる異なるタイプのリスク評価手法

より詳細なリスク評価に対するスクリーニングレベル

評価の詳細さ

リスク/ばく露よりもハザードを強調するか否か

リスク評価に使用される不確定性・仮定のレベル

リスク評価の結果(実施されるリスク管理手法など)

リスク評価の過程

OECD は、この調査の成果は、各国の規制当局がナノ材料に対して実施する、異なるリスク評価の詳

細を、条件や不確定性のレベルの違いに焦点を当てて理解することであるとしている。また、多くの調査

参加者が以下の点について推奨している。

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ナノ材料のばく露/放出シナリオや評価手法の実証が今後も必要である。

環境運命やハザードを予測するために物理・化学特性を利用することの実用性が実証されなけ

ればならない。このことで、必要な特性パラメータについて合意を得ることができるからである。

ナノ材料の評価にリードアクロス/グルーピング/スクリーニングテストを使う技能を向上することが

必要不可欠である。

ナノ材料専用の、実証されたテストガイドラインを引き続き開発することが必要である。

(iv) ナノ材料のグルーピングに関するワークショップ

OECD の工業ナノ材料作業部会(WPMN)は、EU ナノセーフティクラスタと、そのプロジェクトである

NanoReg2 及び Gracious とともに、2018 年 9 月 12 日~13 日に 2 日間の「ナノ材料のグルーピングに関

するワークショップ」をパリで開催した。また、これに先駆けて、9 月 11 日には WPMN の、ナノ材料のリスク

評価のための物理・化学的パラメータフレームワークのための会議が開催された。セッションの主なトピッ

クは以下のとおり;

ナノ材料のグルーピング 原則、歴史、およびグルーピングの活動の流れ

包括的なグルーピングスキーム

グルーピングの実例;試験方法及び戦略に結び付けて

グルーピングの推奨の進展と今後の展望

ナノセーフティクラスタは、ワークショップの成果がナノ材料のグルーピングに関する推奨事項を含み、

世界的な規制及び規格の制定を支援するであろうとしている。ワークショップにはグルーピング、物理・化

学特性、ハザードアセスメントの専門家が出席し、産業界および規制当局からの参加も歓迎される。

ワークショップ」では、欧州、北米、アジアの 120 名のナノテク専門家がナノ材料開発と試験の課題に

ついて議論した(スピーカー、パネリスト、モデレーターなどは全て欧米組織および国際機関所属)。

今回の会議のアジェンダと発表資料(スライド)は、NanoReg2 プロジェクトにより、オンラインで公開され

た。公開された発表資料は以下の通り(アジェンダにはさらにその他のグループディスカッションや基調講

演等が含まれる)。

【開会の辞】

開会の辞(各プロジェクト概要とワークショップの目的・目標)

(OECD)Peter Kearns、(GRACIOUS project)Vicki Stone、英国 ヘリオットワット大学、(NanoReg2

project)Emeric Frajafon、フランス INERIS

【セッション 1】ナノ材料のグルーピング:原理、歴史、背景

OECD 工業ナノ材料作業部会(WPMN)イニシアチブ「ナノ材料製品の安全性評価のためのグル

ーピングとリードアクロス」

Juan Riego Sintes、欧州委員会(EC)共同研究センター(JRC)

「グルーピングに関連する規制上の優先事項とニーズ(EU)」

Celia Tanarro、欧州化学品庁(Echa)

「ナノ材料のグルーピングに関連する規制上の優先事項と情報ニーズ(米国の視点)」

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Kenneth Moss、米 EPA

【セッション 2】最先端のグルーピング枠組み

NanoReg2「グルーピングアプローチ」

Andrea Haase、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)

「規制リスク評価と安全設計のためのナノ材料のグルーピングとリードアクロスのための

GRACIOUS 枠組み案」

Agnes Oomen、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)

「環境汚染とナノ材料のリスク-水生および陸生生物毒性に関するグルーピングの概念」

Dana Kühnel、ドイツ ヘルムホルツ環境研究センター(UFZ)

「ナノ材料グルーピングの悪影響の可能性」

Sabina Halappanavar、カナダ保健省(Health Canada)

【セッション 3】グルーピングの実務 – 試験方法と試験戦略への橋渡し

OECD WPMN「ナノ材料のリスクアセスメントのための物理化学的パラメータフレームワーク専門

家会議」

Kenneth Moss、米 EPA

NanoReg2「グルーピング事例 - ヒト毒性」

Blanca Suarez-Merino、スイス TEMAS

NanoReg2「ナノ材料のグルーピングのための生態毒性データ」

José María Navas、スペイン国立農業食品研究所(INIA)

GRACIOUS「仮説と IATA」

Vicki Stone、英国 ヘリオットワット大学

nanoGRAVUR「ナノ構造材料 - 労働者、消費者および環境の安全とリスクの最小化を考慮した

グルーピング」

Thomas Kuhlbusch、ドイツ BAuA、Wendel Wohlleben、ドイツ BASF

NanoToxClass「リスク評価を支援するための毒性および生物学的影響によるナノ材料グルーピン

グ戦略の確立」

Nils Krüger、ドイツ Evonik、Martin von Bergen、ドイツ UFZ

【閉会の辞】 閉会の辞と閉会

Emeric Frejafon, INERIS (フランス)、Peter Kearns, OECD (フランス)

(v) 試験と評価の統合アプローチ(IATA)のケーススタディ

2018 年 9 月 21 日、OECD は、試験と評価のための統合アプローチ(Integrated Approaches for

Testing and Assessment:IATA)に関する 4 つの新しいケーススタディを発表した。

ケーススタディの一つ、「ナノ材料のグルーピングとリードアクロス-ナノ二酸化チタン(TiO2)の遺伝毒

性 」において、欧州連合(EUの JRCは、IATAの実用化のためのナノ二酸化チタンの遺伝毒性の事例研

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究を開発した。このケーススタディでは、化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則(REACH)

に関する Echa のガイダンスのナノ材料向け改定で提案されたグルーピングとリードアクロスのワークフロ

ーを適用し、Echa のリードアクロス評価フレームワーク(Read-Across Assessment Framework:RAAF)が、

ナノ形態においてリードアクロスに関連する不確実性の原因を特定するためにどの程度適用可能である

かを調査したものである。

このケーススタディによれば、このリードアクロス実施の目的は、他のナノ二酸化チタンの in vitro コメッ

トアッセイの結果に基づいて、2 つのナノ二酸化チタン標的物質の遺伝毒性有害性を決定することである。

本ケーススタディでは、ナノ材料のグルーピングとリードアクロスのための Echa ガイダンスの実例を示した。

さらに、ナノ形態間の差異を特定し、エビデンスの重要性を裏付けることで、グルーピングのための仮説を

支持するケミインフォマティクス技術の有用性を実証している。JRC は、ナノ材料のリードアクロスの信頼性

を評価するために、Echa RAAFを適用することができた。ナノ材料へのRAAFの適用にはいくつかの特有

の問題が認められ、特に類似性の概念については、構造のみに基づいてはならないとした。

IATA ケーススタディプロジェクトの目的は、規制上の使用に適した予測事例としてケーススタディを行

うことにより、IATA の使用経験を増やすことであると OECD は述べている。新しい方法論の使用に関する

共通の理解と、これらの事例研究に基づく検討/指針の作成をめざしている。

OECD はこのほかに以下の 3 つのケーススタディを発表した;

置換フェノールのエストロゲン性に関する IATA を使用したケーススタディ

IATA に基づく化学物質の優先順位付け

アリルアルコールアルキルカルボン酸エステルの亜慢性反復投与毒性について IATA を用いた

ケーススタディ:リードアクロス

OECD はまた、ケーススタディのレビュー経験の学習と教訓をまとめた報告書「IATA に関するケースス

タディからの考察に関するレポート - 第 3 レビューサイクル 」も同時に発表した。レビューサイクルは、

2015 年から始まり、各年発表され、これまでに、9 件のケーススタディが発表されている。

(イ) ISO の活動

(i) ナノ粒子の細胞毒性作用測定するための in vitro MTS アッセイ標準

2018 年 4 月、ISO は、ナノオブジェクト(ナノ粒子)とそのアグロメレート(凝集体:agglomerate)、アグリ

ゲート(凝結体:aggregate)の細胞生存率への影響の MTS アッセイによる測定法を刊行した。アッセイの

設計について、アッセイ結果の変動を同定し管理するための作業要件や対照実験などを示している。

ISO によれば、MTS アッセイにおいて、多くの場合、吸光度の変化は細胞数と比例するが、還元酵素活

性や試薬の利用率(availability)を変化させるアッセイ条件が、細胞生存率(細胞数などで示される)の変

化に直接起因しない色の変化を引き起こす場合もある。また、MTS 試薬を細胞培養ウェルに直接添加す

ることで、ナノ粒子の潜在的な固有の毒性の迅速な評価を可能にするという。さらに、ナノ粒子と比色アッ

セイが互いに干渉する可能性もあるため、アッセイ結果を受け入れる前に、ナノ粒子と MTS 試薬を用いた

対照実験を実施することが重要であるとも、ISO は述べている。試験後に細胞を直接顕微鏡で観察するこ

ともまた、MTS アッセイ結果を検証する方法として勧めている。なお、今回提示された標準化されたプロト

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コルは、接着性細胞を用いた試験を想定しているが、懸濁した細胞にも使用できるように改変することも

可能である。

(ii) 流れの場を利用したナノ物体の分画に関する標準

2018 年 6 月に ISO は、ISO/TS 21362:2018「ナノテクノロジー - 非対称フローおよび遠心場フロー分

画を使用したナノ物体(nano-object)の分析」という標準を公開した。この文書は、非対称フローおよび遠

心場フロー分画を、水性媒体中に分散したナノ物体および凝集体および凝結体の分析に適用するため

の方法を開発および検証するために必要な統合された測定システムの一部として、パラメータと条件を特

定するものである。 ISO によれば、構成物の分画に加えて、分析は、1 つまたは複数の適切な検出器を

使用して、サイズ、サイズ分布、濃度、および物質識別を含むことができる。 この標準は、適用のための

一般的なガイドラインと手順を提供し、方法を再現し、重要な側面を伝えるために必要な最小限の報告要

件を規定している。

(iii) 乾燥した粉体状のナノ物質からなる標準試料の規格を発行

2018 年 12 月、ISO は規格 SO/TS16195:2018「ナノテクノロジー 乾燥した粉体状のナノ物質からなる

標準試料作成の仕様」を発行した。ISOによれば、この規格は、ナノテクの各種応用分野での試験手法の

開発を可能にし、そうした試験から得たデータを互いに比較できるようにすることを目的としている。記録・

報告されるべき試料の物理化学特性の例としては、サイズ、形状、表面積、結晶構造、バルクでの化学組

成などが挙げられている。

標準発表を報じた法律事務所 Bergeson & Campbell によると、対象物質をナノスケールの標準試料と

して認証を受けるために、物質製造者が収集・報告すべきとして、この規格が指定した最小限の情報は

以下のとおり。

製造プロセスに関する情報

製造プロセスの品質管理に関する情報

物理化学的計測から得られたデータによって示される標準試料物質の主な特徴

安定性と均一性のデータ

ISO は、上記項目に沿ってまとめられた報告書の形式で示される、対象物質の本規格への適合性は、

「標準試料が均一であり、製造工程を統計的に代表し、安定していることを一定レベルで保証する」と述

べた。このことにより、標準試料を用いてさえいれば、異なる試験所において試験した結果が比較可能と

なる見込みが高くなり、これは試験手法が開発中である物性についてもいえるという。

(ウ) その他の国際的活動

(i) 国際ナノ規制当局意見交換会

2018 年 6 月 7 日~8 日、第 12 回国際ナノ規制当局意見交換会(International Nano-Authorities

Dialogue)がドイツで開催された。連邦環境・自然保護・原子力安全省(Bundesministerium für Umwelt,

Naturschutz und nukleare Sicherheit: BMU)によれば、ドイツ、オーストリア、ルクセンブルク、リヒテンシュ

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タイン、およびスイスの、環境、健康、労働安全当局および各種団体の関係者が出席した。参加者はナノ

規制の現状および、欧州または国家のナノ規制の実施等について議論した。

なお、今回の意見交換会を通して参加者により支持された推奨事項などの成果は、今後「ロードマッ

プ2025」にまとめられる、将来的な規制関連の行動計画の更なる議論に役立てるという。BMUは、同会議

に関するウェブサイト上で、新奇な材料、いわゆる「先進的な材料」の規制を議論に含めるべきかどうかが

今回の意見交換会で議論されたこと、また、ロードマップ 2025 がこの意見交換会で初めて議題となったこ

とを、注記している。

(ii) EU および米国のナノ安全性研究に関する調査を公表

「Journal of Nanoparticle Research」誌の 2018 年 12 月号に、論文「EU および米国のナノ安全性研究

の現状に関する調査」が掲載された。著者は、Albert Duschl 氏(オーストリア、ザルツブルグ大学

〔University of Salzburg〕生物科学部)および Gabriele Windgasse 氏(米国、カリフォルニア州公衆衛生省

〔California Department of Public Health〕環境健康調査部〔Environmental Health Investigations Branch〕)

である。

著者らは 2017 年 9 月から 2018 年 1 月にかけて、ナノ材料の環境安全性および健康に関する研究者

に対してアンケート調査を実施し、現在実施されている研究の現状について調査した。84 人が調査に対

して回答した。

先ず、回答者の学問的背景、研究対象としたばく露経路、ナノ材料の種類、研究方法について調査さ

れた。研究内容の調査結果がグラフで示されたのは、第一に研究対象とした生物学的あるいは毒性学的

影響であった。反応性酸素種(ROS)が一番多く 66%、免疫システムへの影響が 40%、神経学的影響、生

殖/発達影響、遺伝学的影響、発がん性がそれぞれ 25%、25%、23%、22%で、心血管系への影響が 6%であ

った。

次に、ナノ材料の応用、用量規準とその範囲を調査し、二番目のグラフには、基準としたい材料

(benchmark materials) の重要性の判断基準につて調査した結果を示した。重要性を 5 段階に分け 3,4

が重要、1,2 が重要でないとする。ナノ材料のサイズは 73%が重要、12%が重要でない。形状は 62%が重

要で、20%が重要でない。消費者ばく露については、66%が重要で、17%が重要でないとした。生産量では

58%が重要、20%が重要でない。その他の設問の回答も含め、この点についてはコンセンサスが見い出せ

なかった。設問の中で、非常に重要と答えたのは、生産量 37%、消費者ばく露 29%が多かった。

三番目に示されたのは、研究の緊急性であった。多数の回答者が非常に緊急性があると答えたテー

マは、毒性試験(71%),労働者保護(64%)、影響のバイオマーカー(59%)、ばく露のバイオマーカー(57%)

であった。これはデータ比較と共有を容易にする標準化、現在のばく露とその影響(\特に職業上の安全

と健康における)についてのニーズが高いことを示している。

著者らは、この調査結果が研究戦略およびナノ安全性とナノ粒子に関する予算スキームの指針となる

だろうとしている。本研究で使われたアンケートは、米国と欧州の科学者で構成する米欧ナノ EHS 対話

(U.S.- EU Nano Environmental and Health Safety:US-EU NanoEHS)」の米欧研究コミュニティ(U.S.-EU

Communities of Research:COR)を通して最終化され、COR や欧州と米国の関係組織のメンバーに配布

された。本アンケート調査は、この分野での進展に対応するために、今後 2 年~3 年おきに実施する予定

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であるという。

(5) 海外における規制動向まとめ

海外における規制動向を図 1-2にまとめて示す。

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米国 EU その他諸国

OSTP、ナノ政策の原則「ナノ材料の定義」; EC 勧告「ナノ定義」;一次元以上において 定義はEC準拠が殆ど

一次元以上においてナノスケール、 ナノスケール、

(例;100nm 以下が重量で 10%以上) 100nm 以下が個数分布で 50%以上

及びナノスケール故の新現象・性質

TSCA REACH 製品規制(ナノ表示) ナノ材料報告制度

・製品規制は FIFRA ニュージーランド

によりナノ銀に適用 (化粧品表示、2016 年~)

TSCA 改正 ・FDA は食品、化粧品 についてガイダンス発行

「フランク・ローテンベルク 21 世紀の化学物質安全性法」成立

(ナノに関する規定無し)

図 1-2 海外における規制動向のまとめ

・新規ナノスケール物質

(CNT、C60、その他)

に case by case で

SNUR 適用

・従来物質のナノスケー

ル材料

SNUR 適用

自主報告制度

→事実上廃止

一回だけの義

務的報告、記

録保管 (2017

年 1 月官報記

載)

・特に明記していないが

REACHに含まれる

2018 年までに 1t/年以上の全ての化学物質を登録

・付属文書中にナノスケ

ール材料登録につい

ての綿密なガイダン

スを掲載する方針

・殺生物剤(2013 年 9 月~)

・化粧品(2013 年 7 月~)

・食品(2014 年 12 月~)

・乳幼児食品(2016 年~)

RoHS 規制

ラベリング/使用制限物

質リストの見直し中

→ナノ物質が候補に

・フランス(2013 年 1 月~)

・ノルウェー(2013 年 1 月~)

・デンマーク(2014 年 6 月~)

・ベルギー(2016 年 1 月~)

・スウェーデン(2018 年 1 月~)

・イタリア、ドイツ、スイス

カナダ(情報提供義務)

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1-2. 内分泌かく乱

(1) 米国

米国では EPA が 1999 年に設立した内分泌かく乱物質スクリーニングプログラム(EDSP)が実施されて

いる。一方生殖毒性を挙げてビスフェノール A(BPA)を始めとする個別の内分泌かく乱物質に対する規

制に向けた取り組みも行われている。また州単位での規制もみられる。

(ア) 個別の内分泌かく乱物質に対する取り組み

(i) WHO で米国が EU の EDC 農薬基準に懸念を提起

米国は、植物保護製品(PPP)における内分泌かく乱化学物質(EDCs)を特定するための EU の最近

の基準が、貿易にどのように影響するかについての懸念を表明した。2018 年 6 月 20 日の WTO(世界貿

易機関)へのコミュニケーションで、「内分泌かく乱物質として特定された物質を規制する EU のハザード

に基づくアプローチ」に懸念があると述べた。そして、この声明は、改訂された基準は、「以前 EU の 2016

年 WTO 通知で提案されたよりも多くの物質の禁止につながる」と付け加えている。EU は、EU 外から輸入

された食品または飼料において、基準を満たす農薬の最大残留限界(MRLs)の管理に関する方針をま

だ明確にしていない。 米国は、この方針が、-ハザードに基づく基準に沿って-各物質のハザードのみ

を考慮し、その使用に伴う環境およびヒトの健康リスクの情報を無視することを懸念していると述べてい

る。

欧州は、「適正な要因」と予防原則を考慮して、ケースバイケースで MRL を検討する予定であると述べ

ている。しかし、米国のコミュニケーションは、「それが適用される正確な法制度への臨時のアプローチに

つながる”適正な要因”が何であるかは誰も答えていない。」と述べている。コミュニケーションは、EU に、

「要因とはなんであるか、それらがヒトの健康と環境の保護といかに関連するか、どのくらいの時間を要す

るか、生産者が効果的にそれをいかに活用できるか」を説明するよう要請している。また、このコミュニケー

ションは、2018 年 11 月 10 日に発効する最終基準までの間、暫定的な EDC 基準が PPP にどのように影

響するかを尋ねている。米国は、EU は活性物質ピメトロジン(pymetrozine)が暫定的基準を満たしていた

ため、認可を撤回したと指摘する。「EU が、これらの行動がどのように目標を達成するかを説明してほしい」

と米国の声明には記されている。 「潜在的なリスクを特定することなく、単にハザードを特定することで.....

これらの措置は利益をもたらさない可能性があり、重要なツールへのアクセスを排除することで一般の

人々に損害を与える可能性がある。」

既報のように欧州委員会は、2018 年 4 月に PPP の EDCs を特定する基準を採択し、2018 年 6 月初

めに同様の殺生物剤基準が適用された。

(ii) 米国小児科医学会(AAP)によるFCMの改正を強く求める動き-AAPは「最も懸念がある添加物」

中で BPA,フタル酸エステル類、PFCs を強調-

米国小児医学会は、米国食品医薬品局(FDA)の食品添加物規制プロセスに「実質的な改善」を求め

ており、現時点で許可されている化学物質の中には「避けるのが最善である」ものがある、と述べている。

改革の要請には、約7万人の小児科医で構成されたAAPによって発行された政策声明と技術報告書

がある。加工中に意図的に食品に添加される化学物質に加えて、接着剤、染料、コーティング剤、紙、板

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紙、プラスチックおよび他のポリマーを含む食品接触材料に使用される物質に関連する「新生児の健康

の懸念」を強調する。この組織は、これらの食品添加物が子供の成長、発達およびホルモンを妨害し、小

児期の肥満に寄与する可能性があることを示唆する研究が増えていることを挙げている。 また、市場の

多くの物質の健康の影響に関する「重要なデータギャップ」に関する懸念も挙げている。

AAP の政策声明によると、FDA の現在の「一般的に安全と認められている物質」(Gras)指定を発行す

るための要件は、「食品添加物の安全性を確保するには不十分であり、利益相反に対して十分な保護を

含んでいない」。 そして、FDA には、市場での化学物質またはその安全性に関するデータを入手する権

限がないと言う。「現在の食品添加物の規制プロセスには重大な弱点があり、食品に添加されたすべての

化学物質が安全であることを保証するのに十分ではない」と AAP 理事会環境健康担当メンバーで、政策

声明筆頭著者の Leonardo Trasande 氏は述べた。この声明は、FDA のプロセスに、以下をふくむ「緊急に

必要とされる改革」を求めている。

物質が市場に参入する前に毒性試験の新しい要件を課すことを含む、Gras 決定プロセスを強化

または置き換える。

すべての以前に承認された化学物質を再試験する;

FDA の安全評価プログラムの科学的基盤を更新する。

毒性データが不足しているか、毒性データが限られている意図的に添加された成分の表示を要

求する。

この報告書は、研究の証拠に基づいて、いくつかの「最も懸念のある添加物」を指摘している。 これら

には、以下が含まれる;

ビスフェノール A(BPA)などのビスフェノール類:プラスチック容器やメタル缶のライン硬化に使用

される。 AAP は、これらが「体内でエストロゲンのように作用し、潜在的に思春期のタイミングを変

え、妊娠可能性を低下させ、体脂肪を増やし、神経系および免疫系に影響を及ぼすことができる」

と述べている。

フタル酸エステル:食品製造に使用されるプラスチックとビニールチューブに使用される。 これら

は、男性生殖器の発達に影響を与え、心臓血管疾患に寄与し、小児肥満を増加させることが示

されている、と AAP は言う。

パーフルオロアルキル化学薬品(PFCs):耐油紙および段ボール包装に使用されている。 この

声明では、甲状腺系、消化、筋肉調節、脳の発達および骨の強さへの影響とともに、免疫力、出

生時体重および妊孕性の低下に関する研究を挙げている。

過塩素酸塩::乾燥食品包装において静電気を減少させるために使用される。 これは、甲状腺

機能のかく乱、早期の脳の発達と成長への影響に関連している。

AAP は、FDA が市場に既に存在する添加物に関する既存のデータを再テストし、レビューすることを

求めているが、食品安全法の改正には議会の措置が必要だと述べている。したがって組織は、家族が "

最大の懸念を抱える化学物質へのばく露を制限する"ために取ることができるステップを推奨している。

これらには、

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可能な場合は、プラスチックの代替品を使用する。

「バイオベース」または「グリーンウェア」と表示されていない限り、コード 3(フタル酸)、6(スチレン)

および 7(ビスフェノール)をリサイクルしたプラスチックを避ける。

プラスチックのマイクロ波加熱を最小限に抑えるか、または食器洗い機に入れる。

(iii) 「非常に近い将来」に EPA から PFAS 管理計画が出されると予測される

EPA は、連邦政府が再開した後は、「非常に近い将来」に、パーフルオロアルキル物質およびポリフル

オロアルキル物質(PFAS)管理計画を発表する予定である。これは、1 月 16 日の上院の環境公共事業委

員会(EPW)の前の、争点となる Andrew Wheeler の指名公聴会から推量される。 ウィーラー氏は、7 月以

来、EPA の長官代理の地位に指名されている。上院議員の Tom Carper(民主党 – デラウェア州)と

Shelley Moore Capito(共和党 - ウェストバージニア州)は、飲料水を汚染しているという懸念が高まる中

で大きな問題となっていた PFAS の問題に多くの質問を集中した。2018 年秋に予定されていた連邦政府

による物質管理計画の発表は延期されていたが、ウィーラー氏は、この待機は間もなく終了するとしてい

る。 それは現在「機関間レビュー」段階にあり、明らかに、スーパーファンドサイトで、そして TSCA の文脈

で、PFAS の対策に触れるであろう。(スーパーファンド法」は「包括的環境対処・補償・責任法」の通称)

しかし、ウィーラー氏は、界面活性剤や防汚剤として使用されている PFAS に対する政府機関のアプロー

チには、飲料水の制限に関する計画は含まれないと述べた。 そして、今後 2 年以内にカーパー上院議

員からそうすることを誓約するように圧力をかけられたとき、ウィーラー氏は、「その約束をすることはできな

い」と述べた。

前の EPA 管理者 Scott Pruitt が辞任した後の代理管理者としてのウィーラー氏は、彼の「忘れられた

約束」と彼の前任者の「極端な」方針を一般的に継続することについて上院議員 Carper らから批判を集

めた。しかし、EPW 議長、上院議員の John Barrasso(共和-ワイオミング州)は、審問と主題に関する別の

声明の両方で Wheeler 氏を強く支持した。 特に、彼は、ウィーラー氏が TSCA に対して 2016 年の改革を

「効果的かつ効率的な方法で」実施したことを賞賛した。同氏はまた、ウィーラー氏の「広範かつ超党派的

支持」についても言及したが、その支持が民主党のウィーラー氏への指名に対する今後の投票に反映さ

れるかどうかは不明である。一方、米国化学工業協会(ACC)は、ウィーラー氏の素早い承認を支持する

と述べ、特に TSCA の実施に関して、規制されたコミュニティに EPA への「より確実性と信頼」を与えると述

べた。

しかし、環境 NGO コミュニティのメンバーはそれほど熱狂的ではない。クリーンウォーターアクションと

環境防衛基金(EDF)は、石炭業界のロビイストとしての経歴とトランプ大統領の「反環境アジェンダ」への

支持が彼を失格させているとし、ウィーラー氏の指名に反対している。Environmental Working Group の声

明によると、Wheeler 氏は最新の TSCA を「ほとんど無視して」いるため、アスベストや塩化メチレンなどの

化学物質は使用し続けることを許しているという。また、国家資源防衛審議会マネージングディレクター、

Ana Unruh Cohen 氏も、ウィーラー氏の有害物質への取り組みについて論じた。「彼の機関による新しい

化学物質のレビューは、法律を遵守することも国民を守ることもできない」と彼女はこの問題についての記

事で書いている。ウィーラー氏の指名について上院本会議で票決する日は、今後数週間のうちに予想さ

れているが、まだ設定されていない。 民主党の反対にもかかわらず、上院の共和党の多数派は、その役

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割に彼を指名する投票が多数となる数を有している。

(iv) EPA が PFAS 行動計画を発表

EPA は、長い間待ち望まれていた、ペルフルオロアルキル化学物質とポリフルオロアルキル化学物質

(PFASs)がもたらすリスクを管理するための連邦計画を発表した。全米で 10 個所の記者会見で同時に発

表されたこの計画では、米国で商業的に使用されている 600 を超える PFAS に対処するための、さまざま

な EPA プログラムにわたる短期および長期の行動の概要が示されている。長官代理の Andrew Wheeler

は、これを「これまでに EPA によって企画された化学物質のための最も包括的なEPA 間の行動計画」と主

張した。

EPA の優先事項の 1 つは、TSCA の新規化学物質プログラムを「ゲートキーパー」として使用して、商

取引に参入する新規な PFAS が安全であることを確認することである。 この計画は、法律の第 5 条を通じ

て、EPA は引き続き規制を課し、新しいフッ素化化合物に関するデータの生成を要求していることに注意

を喚起している。当局はまた、特定の長鎖ペルフルオロアルキルカルボン酸塩(LCPFAC)に重要新規利

用規則(SNUR)を進めることを約束した。 当初 2015 年に提案されたこの規則は、PFOA および特定の関

連化合物の自主的な廃止を補完し、これらの物質の使用が再開される場合には、EPA に通知し、評価す

る機会を確実に与えるよう設定されている。「EPA は補足の提案された SNUR を発行するように働くので、

2016 年に TSCA を更新した Lautenberg Act によって追加された新しい法定要件と同様に、受け取られた

パブリックコメントを考慮している」と、計画にある。もう 1 つの優先課題は、いくつかの PFASs: PFBA、PFH

×A、PFH×S、PFNA、および PFDA の毒性値の開発である。 EPA は、今年の PFBS および GenX

(PFOA の代替物質であるアンモニウム 2,3,3,3-テトラフルオロ-2-(ヘプタフルオロプロポキ シ)プロパノ

エート)の毒性評価の最終決定に続き、2020 年にこれらに関するドラフトを公開することを目指している。

これらの物質を管理するための、その他の指定された行動は次のとおり:

飲料水中の PFOS および PFOA の最大汚染レベル(MCL)を設定するプロセスを継続する。

PFASs のための全国的な飲料水モニタリングを提案する。

検出、測定、処理および修復の改善を通して PFAS 研究を強化する。

連邦政府のツールを介して PFAS ばく露に対する州レベルの執行を支援する。

連邦、州、部族および地域のパートナーが一般の人々と使用するためのリスクコミュニケーション

ツールボックスを開発する。

EPA の PFAS 管理計画は、それらの物質の影響について国民の関心が高まっている中で、全国的に

飲料水源で - 時には濃度に関して - 特定され続けている。EPA の前長官 Scott Pruitt は昨年 5 月、従

来の化学物質であるPFOAと PFOSによる汚染に焦点を当てながら、PFASsの健康被害の可能性に対処

することを約束した。 この取り組みの一環として、同局は、全国のコミュニティ参加行事で聞かれたフィー

ドバックを考慮に入れて、2018 年秋までに管理計画を発表すると述べた。 しかしこれは、一部政府の閉

鎖のために延期されていた。その一方で、下院の超党派グループは、問題を「ワシントン DC の前面と中

心」にするために、PFAS 行動タスクフォースを立ち上げた。 1980 年の包括的な環境対応、補償および

賠償責任法(Cercla)の下で、この種類の物質を危険物として指定するための法律(HR 535)がすでに導

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Page 68: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

入されている。一方、業界団体と環境保護団体は、(GenX のような)より新しい短鎖 PFAS が、PFOA や

PFOS のような使用されなくなった長鎖化合物と同じくらい危険であるかどうかについて、依然として分か

れている。 しかし、ウィーラー氏は行動計画の発表において、もっと研究する必要性を認めた。「私たち

の目標は、特に GenX のような他の新たなリスクに関連しているので、科学のギャップをできるだけ早く埋

めることである」と彼は言った。

(イ) 州独自の規制動向

(i) ハワイ州

(a) 2 つの日焼け止め成分の禁止と産業界による使用の擁護

2018 年 5 月、ハワイ州議会は、2 つの主要成分を含む日焼け止め剤を禁止する措置を承認した。知

事がこの法律(SB 2571)に署名した場合、2021 年からオキシベンゾンまたはオクトキサートを含有する日

焼け止め剤の状態での販売または流通を禁止される。免許を有する医療提供者が発行した処方箋があ

る消費者には免除がある。消費者ヘルスケア製品協会(Consumer Healthcare Products Association:

CHPA)によると、この動きで「今日の市場で日焼け止め剤の少なくとも 70%」が禁止される。この法案は、

それらの物質がハワイのサンゴ礁および海洋生物に及ぼす 「重大な有害影響」を挙げている。 そして、

法案は、それらは「内分泌かく乱の確率を高めるようである。」と述べている。しかし、主な業界団体である

パーソナルケア製品協議会は、この法案は「具体的な結論を導き出すことができない限られた数の科学

研究に基づいている」と声明で述べている。さらに、市場における効果的な日焼け止め剤の主成分である

オキシベンゾンとオクトキサートを禁止することは、安全かつ効果的な日焼け止め製品の選択を大幅に不

必要に減らすであろう。」とも述べている。CHPA は、この措置は「弱い科学」に依拠していると述べた。 サ

ンゴの減少の「本当の原因」は、地球温暖化、農業用水流出、下水、漁獲過剰などである。ヘルスケア製

品グループは、議会の動きを「家族が太陽の有害な紫外線から身を守ることをより困難にする無責任な行

動」と呼んだ。

オキシベンゾンとオクトキサートは、他の国では代替物質がより広範に使用されているが、米国では依

然として多く使用されている。 これは、食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)で新たに承

認されるべき数十年にわたる未処理分(バックログ)によるものである。議会は 2014 年、サンスクリーンイノ

ベーション法を可決した。これは、当局の承認プロセスを迅速化し、ヨーロッパおよびカナダで長い間使

用されていた成分を米国市場に導入することを目指したものである。法律に従い、FDA は、2016 年に新

しい日焼け止め成分のガイダンスを確定した。これは、非処方日焼け止め活性成分が一般的に安全で効

果的であるかどうかを決定する方法を概説している(Generally recognized as safe and effective ;Grase)。

この指示は、新しい製品を市場に出すために必要である。しかし、NGO や業界団体グループの連合が

FDA のアプローチに抗議した。 その結果、成分承認のバックログが残っている。米国政府の監視機関、

米国会計検査院(GAO)は、11 月に報告書を発行し、申請状況をレビューした。 FDA は、Grase が決定

を下すために必要だったと結論づけられた追加のデータを待っていることが分かった。しかし、NGO 環境

ワーキンググループ(EWG)のケン・クック議長は、ハワイの禁止は、日焼け止め産業と FDA の両方からの

行動に拍車をかける必要があると述べた。「オキシベンゾンなどの現行の成分の安全性試験が何十年も

不十分であったため、FDA は、新しい化学物質を承認する前に安全性データを探しているが、まだ業界

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Page 69: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

はステップに足をかけていない。」とクック氏は言った。「今、消費者は変化を余儀なくされている。」ヨーロ

ッパでは、10%濃度の日焼け止め剤でオクチノキサートを使用することができる。 昨年、欧州委員会はオ

キシベンゾンの最大濃度を 10%から 6%に下げた。

こうした動向に対して、パーソナルケアおよび健康製品産業界を代表する米国の通商協会等は、2020

年までにサンスクリーンでオキシベンゾンを段階的に廃止することを求める NGO キャンペーンに反対して

いる。NGO環境ワーキンググループ(EWG)は、今月キャンペーンを開始し、日焼け止め剤の第12回年次

ガイドを発表した。 それによると、オキシベンゾンはそのガイドに掲載されている非鉱物日焼け止め剤の

約 65%に加えられていると言う。 EWG によると、オキシベンゾンは、アレルギー反応、内分泌かく乱、サ

ンゴへのダメージに関連しているという。 この化学物質を除外するよう要求する製造業者へのオンライン

申請は、これまでに 15,000 件以上の署名を受けている。 EWG の健全な生命科学プログラムのディレクタ

ーである Nneka Leiba 氏は、ハワイの最近の、オキシベンゾンまたはオクチノキサートを含む日焼け止め

禁止措置が挙げられるため、今がこの発行物のキャンペーンの良い時であると語っている。 ハワイ州知

事が法案に署名した場合(SB 2571)、それは 2021 年に施行される。

しかし、パーソナルケア製品評議会のチーフ・サイエンティストである Alexandra Kowcz 氏の声明では、

オキシベンゾンは「不当に批判されている」と述べている。これは、「食品医薬品局(FDA)が UV 放射から

安全かつ効果的な広域スペクトル保護を提供する数少ない FDA 認可の成分の 1 つであり、1978 年以来、

使用が承認されてきた」と Kowcz 氏は言う。また、研究では、「サンスクリーン中のオキシベンゾンとホルモ

ンの変化またはヒトの他の重大な健康問題との関連がない」と付け加えた。消費者ヘルスケア製品協会

(CHPA)はまた、その成分を「皮膚癌の発症リスクを減らすための重要な助けとなるもの」と呼んで、ガイド

に返答した声明を発表した。同協会はまた、研究は実際の海洋環境ではなく、人工的な条件下で実験室

環境で行われたため、サンゴの健康の低下を引き起こすことを示すには「欠陥がある」とした。

EWG は、消費者に対し、酸化亜鉛または二酸化チタンを有効成分とする日焼け止め剤の選択を推奨

している。 また、日焼け止め剤に使用するために、より多くの成分を承認するよう、FDA に要請している。

しかし、Leiba 氏は、EU で使用されている他の多くの有効成分が、米国で入手可能なものよりも「より効

果的で安全」であると語っている。2003 年から 2010 年の間に、日焼け止めメーカーは、欧州企業が開発

した 8 つの日除け剤を使用する FDA の許可を申請した。議会は 2014 年に、サンスクリーンイノベーショ

ン法を可決した。これは、FDA が日焼け止め有効成分の新しい申請を 300 日以内に審査することを要求

している。しかし、FDA は、2015 年に、関係する企業が、新しい化学物質が安全かつ有効に使用されて

いることを証明するための十分な情報を提出していないと回答した。「より有効な成分の改善が遅れてい

ることについて FDA に電子メールを送った」と Leiba 氏は語った。

(ii) カリフォルニア州

(a) 難燃剤法案に関する動き

a) 業界抗議に反した難燃剤法案の通過-法案はマットレスに拡張され、既存及び将来の物質を「安

全性に関係なく」制限する-

カリフォルニア州議会は、業界団体の反対の中で、子供用製品、マットレス、布張り家具での大部分の

難燃剤の使用を禁止する法案を 2018 年 8 月末に可決した。下院は、措置(AB2998)の上院改正案に同

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Page 70: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

意して、2018 年 8 月 29 日に 52-12 で議決した。投票の結果、法になるために署名される予定の知事に

法案が送られることになる。

この法案の支持者によると、難燃剤は、癌、発生および生殖毒性、内分泌かく乱作用との関連性があ

るにもかかわらず、製品に「不必要に使用されている」。しかし、州議会の最終段階でさえ、米国化学工業

協会(ACC)、子供向け製品グループ(JPMA)と玩具協会、小売業者協会(Rila)、カリフォルニアの業界団体

を含む業界連合が、下院議員に法案に反対するように書面を提出していた業界連合は、難燃剤は火災リ

スクと戦うための効果的なツールであると主張し、この法案の広範な定義は、今日の難燃剤の大部分を制

限するだけでなく、将来的に開発される可能性のあるものも、 安全性のプロファイルに関係なく制限して

しまうと論じている。業界連合は、製品や化学物質の毒性を判断することは、「政治的便宜で決めるので

はなく、健全な科学に根ざすべきだ」と書いていた。「これはまさに議会が、消費者製品の化学物質を特

定し、優先順位を付け、必要に応じて評価し、規制が必要かどうかを判断する、[州の]安全な消費者製品

プログラムを作成した理由である。」ACC の North American Flame Retardant Alliance(Nafra)は化学物質

管理の専門誌 Chemical Watch 社に対し、法案は「時代遅れの、あるいは不正確な主張に基づいている。

おそらく火災リスクを増大させ、既に州によって取り組まれている現状の消費者製品安全規制を無視する

ことになる。」と語った。この広範な連合は、AB 2998 と、最近通過したサンフランシスコの難燃剤条例との

間の矛盾が、「不必要にコンプライアンスコストを増加させる法律のパッチワーク」を生み出すことも指摘し

た。 市の条例には、家具や子供用製品の電子部品が含まれている。これは、業界の一部が州の法案が

優先されることを望んでいたという論争の的となっている要件である。

国際睡眠製品協会(ISPA)は、他の州の難燃剤禁止とは異なり、マットレスにまで拡大しているこの法

案に「積極的に反対」していた。しかし、上院議員の法案準備中に、ISPA は、マットレスに使用されている

すべての難燃剤の禁止から、事実上マットレスの発泡剤に使用されている化学物質だけを禁止するよう、

この法案の起草者を説得していた。引き換えに、ISPA は、連邦の燃焼性基準を満たすために、マットレス

の難燃剤に使用される化学物質の種類について 3 年ごとにマットレス製造業者に調査させることに合意し

た。これらの修正により、協会は支持を表明しないまでも、反対には回らなかった。

業界の懸念にもかかわらず、法案の支持者は、AB 2998 の通過を「画期的な公衆衛生上の勝利」と称

している。この法案の共同スポンサーの 1 つである環境健康センター(CEH)のカリフォルニア州政策管理

者である Alvaro Casanova は、カリフォルニア州の法律は「国家が従うモデルとなる」と述べた。

「難燃性化学薬品は、火災安全性の利便性はほとんどもたらさないが、これらの毒素を含む煙にさらさ

れると、消防隊員が職業に関連する癌から直面する実質的なリスクが増大する」としてカリフォルニアのプ

ロフェッショナル消防士会(CPF)のブライアン・ライス議長もその法案を支持した。

NGO 天然資源防衛会議の上級弁護士である Avinash Kar 氏は、この法案は「多くの家庭用製品の中

の有害な難燃剤への不必要なばく露を終わらせる」と述べ、「これらの化学物質はこれら製品をより安全

にするものではない - そして、それらを取り除く時が来た」と付け加えた。

b) 難燃材禁止法案が署名されカリフォルニア州法に-子供用品、マットレスフォーム、布張りの家具

をカバー-

カリフォルニア州では、難燃剤使用禁止法案が成立し、州知事ジェリー・ブラウンは、居住用布張り家

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Page 71: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

具、子供用製品、マットレスフォームで、ほとんどの難燃剤の使用を禁止する法律に署名した。最近イギリ

スを抜いて世界第 5 位の経済圏となった米国のこの州は、2020 年以降、1,000ppm を超える難燃剤を含

む、または含有する構成部品からなる製品の販売を禁止する。

このカリフォルニア州の議員は、物質への広範なばく露、及び内分泌かく乱や癌などの潜在的な健康

への悪影響の懸念に言及している。この法案の分析文書によると、難燃剤は「意味のある火災安全性の

便益をもたらさない」ものであり、「これらの有害化学物質を引き続き使用することは無意味である」。

新しい布張りの家具、マットレスの内部フォーム(気泡材)及びバシネット(新生児用かご型ベッド)、プ

レイマット、ハイチェア、乳児用キャリア、ベビーカーなどの子供向け製品まで、要件は拡大している。布

張り 家具の修理または修復に使用される交換部品も対象となる。

上記したように、法案(AB 2998)は、火災の進展を阻止または防止するために機能的に使用されるす

べての物質に適用された。しかし、上院の修正により、特定の無機・非ハロゲン物質の使用が可能になる、

より洗練された定義となった。このように、この法律は、2019 年にメイン州で施行される難燃剤を一掃する

禁止法よりも、わずかに狭い物質を対象としている。しかし、メイン州の法律は、子供用製品やマットレス

部品には適用されていない。カリフォルニア州の法律は、対象製品の電子部品には適用されないという

点で、最も人口の多い都市の 1 つであるサンフランシスコを通過した難燃剤条例ほどではない。既存のカ

リフォルニア州法では、家具に化学難燃剤が含まれているかどうかを示すラベルを付ける必要がある。

そして州では、難燃剤の pentaBDE (Brominated Diphenyl Ether) と octaBDE が 0.1%を超える製品を禁

止している。これらの要件は、新しい法律が制定されても、依然として有効である。

ACC、カリフォルニア商工会議所、少年製品製造業者協会(JPMA)、玩具協会、小売業界リーダー協

会(Rila)は、この対策に反対を表明した。ACC の北米難燃剤連合(North American Flame Retardant

Alliance(Nafra))は、消費者製品におけるそれらの物質の使用が「重要な火災安全ツール」として機能す

ることを擁護している。 しかし、様々な NGO、消防士団体、建築家、医療機関、家具組織はこの対策を

支持している。NGO、環境健康センターのアルバロ・カサノバ(Alvaro Casanova)は、法律は公衆衛生上

の勝利を意味し、「議員が化学産業による宣伝よりも健全な科学に従うときに可能となる証拠(testament)」

である、と述べた。

(b) カリフォルニア州の法案は SCP プログラムの権限を拡大しようとしている

カリフォルニア州議会議員は州のより安全な消費者製品プログラム(Safer Consumer Products

programme ;SCP)の規制の権限を増やすための法案を検討している。

既存の法律では、このスキームの下で指定された「優先製品」の製造業者に対して、懸念化学物質の

使用を段階的に廃止するか、代替品の分析を行ってより安全な代替品があるかどうかを判断するよう求め

ている。しかし、2 月に発表された法案(SB-392)は、問題となっている化学物質に対する代替品評価プロ

セスを回避し、有害物質管理局(DTSC)に、代替品を既存の公的に利用可能な分析を利用して調査する

ことにより直接に規制対応する権限を与えることを目指している 。また、販売データや製品中の化学物質

の濃度や機能的用途に関する情報など、特定の情報を製品製造業者に提供させることができるよう州の

権限を拡大する。そうすることができない場合、法案は、それを提供することを要求される製品製造業者

を DTSC と接触させることを提案する。検討中の SCP プログラムのさらなる変更には以下が含まれる。

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Page 72: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

候補化学物質のリストを拡大して、特定の喘息原および EU 内でフレグランスアレルゲ

ンとして同定された物質、またはカリフォルニアの環境衛生ハザード評価局(Oehha)が定める内

分泌かく乱化学物質(EDC)を含ませること。

将来の優先製品作業計画に、プログラム活動を完了するためのより堅固なスケジュー

ルとともに、データのニーズと情報を収集するための行動の概要を作成することを要求する。

業者は紛争処理プロセスを使用するという規則に同意しなければならない。

この法案の紹介は、カリフォルニア州上院の環境品質および総会環境安全委員会および有毒物質委

員会が共同で開催した立法審問の直後に行われた。 これは、法が成立してから 10 年になる州のグリー

ンケミストリープログラムの有効性を検証したものである。2 月 12 日の公聴会 - カリフォルニア州のグリー

ンケミストリープログラム(SCP を含めたカリフォルニア州のグリーンケミストリー政策全体を指す。):私たち

は製品中の有害化学物質から人々を守っているか? - には、プログラムの実績を評価したNGO公衆衛

生研究所(PHI)からの報告のレビューが含まれた。この 2018 年 10 月の報告書は、「カリフォルニアグリー

ンケミストリーイニシアチブがその潜在能力を発揮する能力を損なっている」という弱点のいくつかの分野

を特定した。 これらには以下の懸念が含まれていた。

SCP プログラムはゆっくりと実施されてきたため、行動のために特定された化学製品 -

化学物質の組み合わせは比較的少数であった。

プログラムは暴露と毒性に関するデータのギャップと格闘し、製品中の化学物質に関

する情報を集めるための「権限が不明確なために苦しんでいる」。

カリフォルニア州の総合的な投資と努力は、これまで「安全な化学製品の強力な研究

開発を促進するのに十分ではなかった」。

報告書では、最近導入された法案で概説された、いくつかの拡大された法定権限を含む、プログラム

への様々な変更が推奨された。PHI はまた、暴露の監視とハザードの特定に関連する州の科学的プログ

ラムの改善、グリーンケミストリーを促進するための官民連携のパートナーシップの利用、および州の取り

組みに対する資金の「大幅な増額」を求めた。

公聴会で証言した、カリフォルニア商工会議所の政策提唱者である Adam Regele は、DTSC には化学

物質に必要な情報を収集する権限がないことに同意しなかった。 そして彼は、SCP プログラムの外側で

化学物質または製品の禁止を制定する立法府によるいかなる努力に対しても反対した。「今日私が耳に

した 1 つの大きな問題は、誰もがより安全な消費者製品プログラムをサポートしているということです。私た

ちは皆、効率性と効率性の両方が向上することを望んでいます。しかし、結果が正しいことを重視していま

す。」と Regele 氏は述べた。

(iii) マサチューセッツ州

(a) 州知事、難燃性剤禁止法案に拒否権行使-法案賛成者は 2019 年にも活動を継続

Charlie Baker 知事が業界が反対する法案に署名しなかった(ポケット拒否権を行使)ため、マサチュ

ーセッツ州では数種類の消費者製品に使用されている 11 種類の難燃剤を禁止する法案が消滅した。そ

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Page 73: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

して、法案が州議会を大差で通過させたにもかかわらず、州の次の議会がすでに始まっているので、い

わゆる「ポケット拒否権」を無効にすることはできない。

注)ポケット拒否権;米連邦議会閉会直前10日以内に採択、送付された法案に大統領が10日間署名

しない場合、自動的に拒否されたことになる間接的な拒否権

この立法措置(H 5024)は、寝具、カーペット、子供用製品、住宅用布張り家具、および 1000ppm 以上

の特定の難燃剤を含むウィンドウトリートメント(〔カーテン・ブラインドなどの〕窓周りの装飾)の販売または

製造を禁止しようとしていた。しかし、議員への書簡の中で、ベーカー知事は、この法案は「マサチューセ

ッツ州を、自動車の座席および成人用マットレスの非発泡部品など、すでに連邦政府の燃焼要件に服し

ている製品の特定の難燃剤を禁止する唯一の州にする」と述べた。製造業者が準拠するまでの 5 ヶ月未

満のリードタイム、および「マサチューセッツ州の消費者に利用可能なものへの混乱」もまた、引用された

懸念の中にあった。知事はまた、州の環境保護局が将来「あるリスクのみに基づいて、相殺する利益を考

慮せずに」追加の物質を禁止するという提案された要件についても論じた。知事の書簡の中で、彼は彼

の懸念に対処するために修正を加えて法案を差し戻したいと述べたが、議会が延期されたため選択はで

きなかったので、ポケット拒否権が唯一の選択だった。

ポケット拒否権に至るまで、いくつかの業界団体が知事にその法案を却下するよう要請した。マサチュ

ーセッツ産業連盟(AIM)は、法案はカリフォルニアのそれより厳しい標準で、市場で「矛盾と混乱」を引き

起こすであろうと言った。 AIM は、それがマサチューセッツ州がカリフォルニアの法律をモデルとした法

律を採用するのを支持すると言った。一方、米国家具連盟(AHFA;American Home Furnishings Alliance)

は、マットレスの連邦燃焼基準を満たすために特に使用されている、三酸化アンチモンの難燃剤禁止に

関する問題を取り上げた。AHFA によると、この物質は、米国消費者製品安全委員会(CPSC)による「徹

底的な科学的レビュー」の対象となっており、この用途での使用は、消費者、労働者、そして環境にとって

安全であるとされている。その禁止を含めることは、「連邦政府のマットレス可燃性基準を満たすマットレス

とソファ・ベッドへの消費者のアクセスを劇的に制限する」と付け加えた。

ACC は、この法案が「マサチューセッツ州の企業や消費者に過度の負担をかけ、同時に総合的な防

火の重要な要素を排除する」という意見に同意した。

しかし、法案の支持者たちは知事の動きを厳しく批判している。「選択の際に、ベーカー知事は消防

夫とその家族ではなく産業ロビイストの側に立つことを選んできた」とマサチューセッツ州クリーンウォータ

ー・アクション担当ディレクターのエリザベス・サンダース氏は言った。さらに同氏は、「化学産業は、この

法案が火災安全のためと州で販売される製品に対して何をするのかについて、妨げになってきた。」と付

け加えた。サイレントスプリング(沈黙の春)協会のスタッフ科学者、キャスリン ロジャース氏は、「家具に難

燃剤を使用すると不必要に有害な化学物質に晒されること、また子供や消防士が特に被害を受けやすい

ことを科学的な証拠が示している」と述べている。

H 5024 を提出した代表の Marjorie Decker(民主党)と上院議員の Cynthia Stone Creem(民主党)は、

どちらも今年、この立法を優先することを約束した。クリーム上院議員は、「これで我々の努力が増えるだ

けだ」と述べ、「これを法律にするために、上院議員の同僚、消防士、環境保護団体および一般市民と協

力している」と述べた。ACC と国際睡眠製品協会(ISPA)はそれぞれ、新しい立法会期でより実効的な解

決策を作成するために、議案提出担当者と作業することにコミットしていると語っている。

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Page 74: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

(2) EU EU では、2017 年 9 月に改正された殺生物製品規則が、2018 年 4 月には植物保護製品規則が、それ

ぞれ内分泌かく乱物質の同定に関する科学的基準に関して改正され、それに伴い、ガイドラインも整備さ

れた。

(ア) 内分泌かく乱物質同定基準制定に向けた動き

欧州委員会の植物・動物・食品・飼料に関する常任委員会(SCoPAFF)は、2017 年 5 月の会合で、欧

州委員会で 3 回目となる検討として、内分泌かく乱作用物質(EDCs)を識別するための最新の提案基準

に対する投票を行うとした。こうした投票に至る背景は、EU 加盟国の中で、植物保護製品規則(PPPR)か

ら、内分泌かく乱作用を有する有効成分を除外することに対して反論があったためであった。その後の提

案内容は、推定されたEDCs と既知のEDCsが特定されることを明確にした。ただし、この提案内容に対し

て、ある NGO は、提案基準には規制されていないホルモン系を妨害するように特別に設計されたいくつ

かの殺生物剤や農薬が認められるような免除が含まれている、と述べていた。しかし、SCoPAFF による 5

月会合に最新の提案基準に係る投票は含まれず、欧州委員会での投票が延期された。2017 年 6 月には、

Echa のリスク評価委員会(Rac)が、EDCs の承認申請の準備を開始し、欧州委員会の EDCs の議論は、

これらの物質の閾値が存在するかどうかに焦点を当てる可能性が高くなった。その後、2017 年 7 月の

SCoPAFF 会合で、最新の提案基準に関する議論と投票が行われる予定であることが、欧州委員会保健

局により発表され、その後、EU 加盟国による EDCs を特定するための欧州委員会の提案基準が 21 の加

盟国の賛成により採択された。投票の結果は、賛成 21 に対して、反対 3(デンマーク、スウェーデン、チェ

コ)、棄権 4(ラトビア、ハンガリー、ポーランド、英国)であった。欧州委員会は、潜在的な内分泌かく乱作

用を有する殺虫剤と殺生物剤に基準を適用することで、「いかなる行動も遅らせることはない」と述べたが、

この投票結果に対しては、業界や NGOs から多くの批判・反対意見が表明された。

投票により採択された提案は、その後理事会と欧州議会に送られて審査が行われ、2017 年 9 月 4 日

に刹生物財に関する EDC 基準が欧州委員会により正式に採択された。これにより、欧州委員会は、殺生

物製品規則(BPR)と植物保護製品規則(PPPR)の両方に完全に基準を整合させることができた、さらに、

ここれ採択された基準は、2017 年 9 月の欧州議会環境委員会(Envi)で議論される予定であった。しかし、

2017 年 9 月に欧州議会により投票がおこなれ、EDCs 基準の提案内容は、36 の賛成に対して、反対 26

により採択されなかった。その後、2017 年 10 月の欧州議会で、PPPR の提案は欧州議会で拒絶された。

この決定により、欧州委員会は、欧州議会の意見を踏めて、新たな草案を作成しなければならなくなった。

ドラフト版基準提案の免除を導入したパラグラフを削除することが期待された。

その後、2017 年 11 月に欧州委員会は、BPR の下で EDCs を特定するための基準を定めた委任規則

を公表し、2018 年 6 月 7 日から適用されることを発表した。植物保護製品の EDC 基準提案とは異なり、

欧州議会と評議会は、BPR の提案発効を妨げることはなかった。

さらに、2017 年 12 月には、SCoPAFF は EDCs を識別するための改訂された基準の投票を行い、採択

された。この投票では、2017 年 10 月に欧州議会が拒否した際に指摘された、標的とされた種以外の種に

対して EDC 特性を有する物質を除外する可能性がある記述内容を提案基準から削除したことにより、採

択に至った。その後、2018 年 4 月に欧州委員会は、上記修正提案基準を正式に採用し、11 月 10 日より

70

Page 75: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

適用することを発表した。

いずれの規則も、世界保健機関(WHO)による「内分泌かく乱物質の定義」(2002 年)と、「有害影響の

定義」(2009 年)を支持し、内分泌かく乱特性の決定のための基準は、これらの WHO の定義に基づかせ

ることが適切である、としている。

これらの規則における内分泌かく乱特性の判断は、以下の全ての基準を満たす場合に、対象物質が

内分泌かく乱特性を有するとみなすものとされた;

無傷の生物又はその子孫において有害影響を示す

それは、内分泌作用機序を有する、つまり、内分泌系の機能を変化させる

その有害影響は、内分泌作用機序の結果である

また同時に、上記で特定される内分泌かく乱特性は、ヒトと非標的生物の両方に対して評価される必

要があるものの、殺生物剤が標的とされる生物(同じ分類学的門)は評価の必要はない。

なお、最終的には、これらの基準は、化粧品、おもちゃ、食品接触材料などの EU 法のすべての分野

に適用されると予想されている。

(i) 殺生物製品規則の改正内容

2017 年 9 月に採択された、EDCs を特定するための基準を定めた委任規則により、BPR

(Regulation(EU) No 528/2012 of the European Parliament and of the Council of 22 May 2012 concerning

the making available on the market and use of biocidal products;殺生物性製品の上市及び使用に関する

2012 年 5 月 22 日の欧州議会・理事会規則(EU)528/2012)の附属書Ⅲに、以下に示す EDCs の定義に

関する文章を追加することになった。同規則はその後 2017 年 11 月に公表され、2018 年 6 月 7 日より適

用された。

附属書

物質は、それがセクション A または セクション B で設定される基準を満たす場合、ヒトまたは非標的生物に

関して内分泌かく乱特性を有するとみなすものとする。

セクション A-ヒトに関する内分泌かく乱特性

(1)同定された有害影響がヒトに無関係であることを示す証拠がない限り、ポイント(2)の ポイント(a) から(d)

に基づいて、それが次の基準をすべて満たしている物質である場合、物質はヒトにおける有害影響を

引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を有するとみなすものとする:

(a) それは、無傷の生物またはその子孫において、機能的能力の障害、追加的ストレスまたは他の影

響に対する感受性の増加を補う(相殺する)能力の障害に結果としてつながる、生物、システムま

たは(亜)集団の、形態、生理、成長、発生、生殖または寿命の変化である、有害影響を示す;

(b) それは内分泌作用機序を持つ、すなわち、それは内分泌系の機能を変化させる;

(c) 有害影響は内分泌作用機序の結果である。

(2)ポイント(1) に従ってヒトにおいて有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性をもつ物質の

同定は、次の点のすべてに基づくものとする:

(a) すべての利用可能な関連する科学的データ (内分泌作用機序についての情報を与える in vivo、in

vitro 、または、妥当と思われる場合の in silico研究だけでなく;ヒトまたは動物における有害影響を

予測する in vivo 研究または十分に検証された代替試験システム):

(i) 国際的に合意された研究プロトコルに従って生成される科学的データ、特に規則 (EU) No

71

Page 76: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

528/2012 の附属書 II、III 中で言及されるもの;

(ii) 系統的レビュー方法を適用して選択されたその他の科学的データ;

(b) ポイント(1)中で設定された基準が満たされているかどうかを確立するための、証拠の重みアプロー

チに基づく利用可能な関連する科学的データの評価;証拠の重み決定を適用する際に、科学的証

拠の評価は、特に、次の因子のすべてを考慮するものとする:

(i) ポジティブとネガティブな結果の両方;

(ii) 有害影響の評価、及び内分泌作用機序の評価のための研究デザインの関連性;

(iii) 類似のデザインの研究及び異なる種横断的な研究内及び研究間の結果のパターンと一

貫性を考慮したデータの品質と一貫性;

(iv) ばく露経路、毒物動力学および代謝研究;

(v) 限界用量の概念と、最大推奨用量に関する及び過剰毒性の交絡影響を評価するための

国際的なガイドライン;

(c) 証拠の重みアプローチを使用して、有害影響と内分泌作用機序の間のリンクは生物学的妥当性に

基づいて確立されるものとし、それは、現在の科学的知識に照らして、国際的に合意されたガイドラ

インを考慮して、決定されるものとする。

(d) 他の毒性影響の非特異的な二次的結果である有害影響は、内分泌かく乱物質として、物質の識別

のために考慮されないものとする。

セクション B-非標的生物に関する内分泌かく乱特性

(1)同定される有害影響が非標的生物の (亜)集団レベルで関連しないことを示す証拠がない限り、ポイント

(2)の (a)から (d)に基づいて、それが次の基準のすべてを満たしている物質である場合、物質は非標

的生物に対して有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を持っているとみなされるもの

とする:

(a) それは、非標的生物において、機能的能力の障害、追加的ストレスまたは他の影響に対する感受

性の増加を補う(相殺する)能力の障害に結果としてつながる、生物、システムまたは (亜) 集団の

形態、生理、成長、発生、生殖または寿命の変化である、有害影響を示す;

(b) それは内分泌作用機序を持つ、すなわち、それは内分系の機能を変化させる;

(c) 有害影響は内分泌作用機序の結果である。

(2)ポイント(1) に従って非標的生物における有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性をもつ

物質の同定は、次の点のすべてに基づくものとする:。

(a) すべての利用可能な関連する科学的データ (内分泌作用機序についての情報を与える in vivo、in

vitro 、または、妥当と思われる場合の in silico研究だけでなく;ヒトまたは動物における有害影響を

予測する in vivo 研究または十分に検証された代替試験システム):

(i) 国際的に合意された研究プロトコルに従って生成された科学的データ、特に規則 (EU) No

528/2012 の附属書 II、III 中で言及されていうるもの;

(ii) 系統的レビュー方法を適用して選択されたその他の科学的データ;

(b) ポイント(1)で設定された基準が満たされているかどうかを確立するための、証拠の重みアプロー

チに基づく利用可能な関連する科学的データの評価;証拠の重み決定を適用する際に、科学的証

拠の評価は、次の因子のすべてを考慮するものとする:

(i) ポジティブとネガティブな結果の両方;該当する場合、分類群(例: 哺乳類、鳥、魚、両生類)

の間を区別する;

(ii) 有害影響と(亜) 集団レベルでのその関連性の評価、及び内分泌作用機序の評価、のた

めの研究デザインの関連性;

(iii) 生殖、成長/発生に関する有害影響、および(亜) 集団に対して影響を与える可能性のあ

る他の関連する有害影響。十分な信頼性の高い、代表的なフィールド又はモニタリング

のデータ及び/または集団モデルからの結果も、利用可能な場合、考慮するものとす

る。;

(iv) 類似のデザイン、及び異なる分類群に横断的な研究内及び研究間の結果のパターンと

一貫性を考慮した、データの品質と一貫性;

(v) 限界用量の概念と最大推奨用量に関する及び過剰毒性の交絡影響を評価するための国

際的ガイドライン;

72

Page 77: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

(c) 証拠の重みアプローチを使用して、有害影響と内分泌作用機序の間のリンクは、生物学的妥当性

に基づいて確立されるものとし、それは、現在の科学的知識に照らして、国際的に合意されたガイ

ドラインを考慮して、決定されるものとする;

(d) 他の毒性影響の非特異的な二次的結果である有害影響は、非標的生物の関する内分泌かく乱物

質として、物質の同定のために考慮されないものとする。

(3)評価されている活性物質の意図される殺生物作用機序が、それらの内分泌系を介して脊椎動物以外の

標的生物を制御することからなる場合、標的生物として同じ分類学的門の生物に及ぼす影響は、非標

的生物に関する内分泌かく乱特性をもつ物質の同定のために考慮されないものとする。

(ii) 植物保護製品規則の改正内容

2018 年 4 月に採択された、EDCs を特定するための基準を定めた規則により、PPPR(Regulation (EC)

No 1107/2009 of the European Parliament and of the Council of 21 October 2009 concerning the placing

of okant protection products on the market and repaling Council Directives 79/117/EEC and

91/414/EEC;植物保護製品の市場導入に関する 2009 年 10 月 21 日の欧州議会・理事会規則(EC) No

1107/2009)の附属書 III に、以下に示す EDCs の定義に関する文章を追加することになった。

同規則はその後 2018 年 11 月 10 日より適用された。

(1)ポイント 3.6.5 の第 4 パラグラフ(※3.6.5 は第 4 パラグラフまで)の後に次のパラグラフを追加する:

「2018 年 10 月 20 日から、活性物質、薬害軽減剤(解毒剤;safeners)又は共力剤(相乗剤)は、それが、同

定された有害影響がヒトに無関係であることを示す証拠がない限り、第 6 パラグラフのポイント(1)から(4)

(※以下の(1)~(4)を示す)に基づいて、それが次の基準のすべてを満たしている物質である場合、ヒト

において有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を有するとみなされるものとする:

(1) それは、無傷の生物またはその子孫において、機能的能力の障害、追加的ストレスまたは他の影

響に対する感受性の増加を補う(相殺する)能力の障害に結果としてつながる、生物、システムま

たは (亜) 集団の、形態、生理、成長、発生、生殖または寿命の変化である、有害影響を示す;

(2) それは内分泌作用機序を持つ、すなわち、それは内分系の機能を変化させる;

(3) 有害影響は内分泌作用機序の結果である。

第 5 パラグラフに従い、ヒトにおいて有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を有する活

性物質、薬害軽減剤(解毒剤;safeners)又は共力剤(相乗剤)の同定は、次の点のすべてに基づいてい

るものとする:

(1) すべての利用可能な関連する科学的データ (内分泌作用機序についての情報を与える in vivo、in

vitro 、または、妥当と思われる場合の in silico研究だけでなく;ヒトまたは動物における有害影響

を予測する in vivo 研究または十分に検証された代替試験システム):

(a) 本規則に従って、国際合意された研究プロトコルに従って生成される科学的データ、特に活性

物質及び植物保護製品に対するデータ要件の設定の枠組みの中で欧州委員会コミュニケー

ションにリストされたもの;

(b) 本規則に従って、系統的レビュー方法を適用して選択された他の科学的データ、特に活性物

質及び植物保護製品のデータ要件設定の枠組みの中で欧州委員会コミュニケーションにリス

トされた文献データに関するガイダンスに従って選択されたデータ;

(2) 第 5 パラグラフで設定された基準が満たされているかどうかを確立するための、証拠の重みアプロ

ーチに基づく利用可能な関連する科学的データの評価;証拠の重み決定を適用する際に、科学

的証拠の評価は、特に、次の因子のすべてを考慮するものとする:

(a) ポジティブとネガティブな結果の両方;

(b) 有害影響の評価、及び内分泌作用機序の評価のための研究デザインの関連性;

(c) 類似のデザインの研究及び異なる種に横断的な研究内及び研究間の結果のパターンと一貫

73

Page 78: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

性を考慮したデータの品質と一貫性;

(d) ばく露経路、毒物動力学および代謝研究;

(e) 限界用量の概念と、最大推奨用量に関する及び過剰毒性の交絡影響を評価するための国際

的なガイドライン;

(3) 証拠の重みアプローチを使用して、有害影響と内分泌作用機序の間のリンクは生物学的妥当性に

基づいて確立されるものとし、それは、現在の科学的知識に照らして、国際的に合意されたガイド

ラインを考慮して、決定されるものとする;

(4) 他の毒性影響の非特異的な二次的結果である有害影響は、内分泌かく乱物質として、物質の同定

のために考慮されないものとする。」;

(2)ポイント 3.8.2 で、唯一のパラグラフの後に次のパラグラフを追加する:

「2018 年 10 月 20 日から、活性物質、薬害軽減剤(解毒剤;safeners)又は共力剤(相乗剤)は、それが、同

定された有害影響が非標的生物の(亜)集団レベルで関連しないことを示す証拠がない限り、第 3パラグ

ラフのポイント(1)から(4)に基づいて、それが次の基準のすべてを満たしている物質である場合、非標的

生物に対して有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を有すると、みなされるものとする:

(1) それは、非標的生物において、機能的能力の障害、追加的ストレスまたは他の影響に対する感受

性の増加を補う(相殺する)能力の障害に結果としてつながる、生物、システムまたは (亜) 集団

の形態、生理、成長、発生、生殖または寿命の変化である、有害影響を示す;

(2) それは内分泌作用機序を持つ、すなわち、それは内分系の機能を変化させる;

(3) 有害影響は内分泌作用機序の結果である。

第 2 パラグラフに従い、非標的生物に対して有害影響を引き起こす可能性がある内分泌かく乱特性を有

する活性物質、薬害軽減剤(解毒剤;safeners)又は共力剤(相乗剤)の同定は、次の点のすべてに基づ

いているものとする:

(1) すべての利用可能な関連する科学的データ (内分泌作用機序についての情報を与える in vivo、in

vitro 、または、妥当と思われる場合の in silico研究だけでなく;ヒトまたは動物における有害影響

を予測する in vivo 研究または十分に検証された代替試験システム):

(a) 本規則に従って、国際合意された研究プロトコルに従って生成された科学的データ、特に活性

物質及び植物保護製品のデータ要件設定の枠組みの中で欧州委員会コミュニケーションにリ

ストされたもの;

(b) 系統的レビュー方法を適用して選択された他の科学的データ、特に活性物質及び植物保護製

品のデータ要件設定の枠組みの中で欧州委員会コミュニケーションにリストされた文献データ

に関するガイダンスに従って選択されたデータ;

(2) 第 2 パラグラフで設定された基準が満たされているかどうかを確立するための、証拠の重みアプロ

ーチに基づく利用可能な関連する科学的データの評価;証拠の重み決定を適用する際に、科学

的証拠の評価は、次の因子のすべてを考慮するものとする:

(a)ポジティブとネガティブな結果の両方;該当する場合、分類群(例: 哺乳類、鳥、魚、両生類)の間

を区別する;

(b) 有害影響と(亜)集団レベルでのその関連性の評価、及び内分泌作用機序の評価、のための

研究デザインの関連性;

(c) 生殖、成長/発生に関する有害影響、及び(亜)集団に対して影響を与える可能性のあるその

他の関連する有害影響。十分な信頼性の高い、代表的なフィールド又はモニタリングデータ及

び/又は集団モデルからの結果も、利用可能な場合、考慮するものとする;

(d) 類似のデザイン、及び異なる分類群に横断的な研究内及び研究間の結果のパターンと一貫性

を考慮した、データの品質と一貫性;

(e) 限界用量の概念と、最大推奨用量に関する及び過剰毒性の交絡影響を評価するための国際

的ガイドライン;

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Page 79: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

(3) 証拠の重みアプローチを使用して、有害影響と内分泌作用機序の間のリンクは、生物学的妥当性

に基づいて確立されるものとし、それは、現在の科学的知識に照らして、国際的に合意されたガ

イドラインを考慮して、決定されるものとする;

(4) 他の毒性影響の非特異的な二次的結果である有害影響は、非標的生物に関する内分泌かく乱物

質として、物質の同定のために考慮されないものとする。」 (iii) ガイダンス文書の公表

Echa と Efsa は共同で、2018 年 6 月 5 日に、BPR 及び PPPR の分野区での内分泌かく乱物質の特定

に関するガイダンス文書(Guidance for the identification of endocrine disruptors in the context of

Regulations (EU) No 528/2012 and (EC) No 11027/2009)を発表した。

ガイダンスでは、内分泌かく乱物質の定義、対象とする内分泌かく乱作用機序、対象とする種、評価

戦略、を説明している。ガイダンスが対象とする内分泌かく乱作用機序は、エストロゲン(E)、アンドロゲン

(A)、甲状腺(T)及びステロイド(S)産生(EATS)モダリティによって引き起こされる内分泌かく乱作用機序

である。また、ガイダンスが対象とする種は、脊椎動物、すなわち哺乳類(ヒトを含む)、魚類、両生類にお

ける内分泌かく乱効果に焦点を当てている。

2 つの機関と JRC の支援によって開発されたガイダンス文書は、2 つの広範な公開協議の対象となっ

た。 2 番目の公開協議では 1,800 件を超えるコメントを受けた。 産業界や NGO はガイダンスを批判して

いる。今後は、当局(Echa)の殺生物製品委員会(BPC)は新しい基準に照らして殺生物活性物質を評価

しなければならない。

(イ) 化学物質全体を含めた EDC に関する動き

(i) EU加盟国による化学物質対策の加速-2019年までにEDC、循環経済イニシアチブのために必

要な行動-

現在の欧州委員会が 2019 年の任期終了に近づくにつれて、10 カ国の環境と健康大臣は、EU 化学

物質政策イニシアチブの実施の遅れに対して「深刻な」懸念を表明している。委員会は、5 年間の任期中

に政治指導部チームを構成する 28 名の委員からなっている。最初の 4 年間で、現在の委員会は、EU と

EEA(欧州経済領域)諸国が「EU環境政策、特に気候変動と循環経済に焦点を当てており、野心的に取り

組もうとしている」ことを可能にしたと大臣たちは言う。しかし、10 人の署名者は、7 月 27 日、Politico(米国

の政治ニュースメディア)が得たEU役員宛ての手紙で、閣僚理事会が特定のイニシアチブの必要性を何

回も繰り返し述べ、それをフォローアップするよう要請したことを委員会に指摘している。フィンランド、フラ

ンス、ドイツ、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、スロバキア、スウェーデンの各

国大臣は、「循環経済を実現するために必要でもある 、EU 化学物質政策を進める見込みのある」対策

の遅れの可能性について「真剣に懸念」している。イニシアチブは以下のとおり;

無毒環境のための戦略(今年)。これには、製造されたナノ材料の安全性を確保する;EDC への

ばく露を最小限にする; 化学物質の組み合わせの効果に対処する; 輸入製品の有害化学物質

へのばく露を減らす、ために 2015 年環境行動計画(EAP)で発表された水平的対策が含まれる。

EDCs に関する戦略。殺生物剤や殺虫剤を超えたばく露を最小限に抑え、化粧品、玩具、食品

包装を含むべきである。

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統合された製品政策の枠組み(今年は循環型経済行動計画の一部として)。

環境における医薬品への戦略的アプローチ(2015 年に予定されている)。

これらは、第 7 回 EAP を背景に設定されている。 2013 年に採択されたこの会合では、3 つの主要優

先事項の 1 つとして、-EU の化学物質政策を強化することにより-市民の健康と福祉を保護することに

合意した。

「化学物質の健全な管理は、市民と環境を保護するだけでなく、EU の競争力と技術革新を強化する

ためにも不可欠である」と手紙にある。それは、「緊急に」政策枠組みの開発と強化を必要とする「チャレン

ジングな領域」である。 EDCs、REACH Review、ナノ材料に関する REACH Annex などの特定の分野で

は、「ある進歩があった」が、「重要なギャップ」が残っている。閣僚らは、2020 年の目標を達成し、それ以

上の遅れを避けるために、欧州委員会の現在の任期中に委員会に「EU 政策の迅速な発展を促進し、こ

れらの提案を提示するように」促している。

(ii) 2019-2021 年のコミュニティ・ローリングアクション計画(CoRAP)更新案の発表

計画案は現在の CoRAP2018-2020 の年次更新であり、次の年の 2019-2021 年をカバーしている。そ

れには、ヒトの健康や環境に危険をもたらすと疑われる物質が含まれている。物質評価は、そのような潜

在的なリスクの明確化を可能にする REACH 規則(EC)No 1907/2006(第 44 条から 48 項)に基づくプロ

セスである。

原案のリストには、合計 107 項目が含まれている。このうち、2019 年、2020 年、2021 年に 96 物質を評

価の対象とし、28 物質は 2019 年に評価を予定している。このリストには、加盟国(MS)に新たに割り当てら

れた 20 物質が含まれている。2018 年 3 月 20 日に公開された CoRAP 更新版に現在含まれている 87 物

質から、それぞれの MS は、新しい情報または状況の変化に基づいて、評価が低い優先度または不要と

見なされるため、11 物質を特定しリストから撤回した。この段階では、非機密性物質名、CASおよび EC 番

号、懸念する初期の根拠、および物質評価を実施しようとする MS の連絡先の詳細がリストに含まれてい

る。 一緒に評価される構造的に類似した物質のグループは、追加された欄で識別され、さらに EC 番号

欄に示された脚注に記載されている。これらの物質を登録している企業は、共同登録者と調整し、物質の

評価を担当する機関に連絡する必要がある。

構造的に類似した物質の評価において一貫したアプローチを保証するために、同定された構造的類

似物質の物質評価プロセスは、好ましくは 1 つの評価年度に 1 つの MS によって実施される。2 つ以上の

MS が物質群を評価する場合、評価プロセスにおいて一貫したアプローチを保証するために協力する。計

画案は、2018 年 9 月 27 日に加盟国管轄当局および Echa 加盟国委員会に提出された。委員会は 2019

年 2 月に CORAP 更新案について意見を述べる。委員会の意見に基づき、Echa は 2019 年 3 月末まで

に 2019-2021 年度の最終的な CoRAP の更新を採択する予定である。最終的な CoRAP の更新

2019-2021 は、個々の物質ごとの正当化文書も示す。この計画草案を発行することにより、Echa は、進展

した進捗状況を関係者に通知し、関係する登録者と関連する評価する MS との間の早期連絡を促進する

ことを望んでいる。新たに割り当てられた物質の中には、内分泌かく乱性が疑われている物質が含まれて

いる。

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(iii) 欧州委員会における EDC ロードマップをめぐる動き

(a) 欧州委員会による EDC ロードマップに関するパブリックコメントを募集

欧州委員会は、内分泌かく乱化学物質に関する、より包括的な EU の枠組みについてのイニシアチブ

のためのロードマップにコメントを求めた。内分泌かく乱化学物質 (EDCs)に関する現在の戦略は、1999

年に遡る。2017 年、欧州委員会は、EDCs に関する「包括的なフレームワーク」の作業を開始することを発

表した。今回発表されたロードマップによると、イニシアチブはこれまで達成された進捗を吟味し、さらなる

アクションが取られる必要がある領域を識別していく。それは次に関するアクションを含むかもしれない:

知識のギャップに対処する

科学と規制をリンクさせる

国際協力

「内分泌かく乱は、異常なほど複雑な問題」と、ロードマップドキュメントにある。しかし、イタリアの国立

衛生研究所 (ISS) からの 1 つのコメントはこの文言を削除することを提案した。「それは、ストレートな予

防を通じてまたは問題を見落とすことによってのいずれかのみで、対処される可能性がある絶望的な状況

を思い出させるように見える」と、研究所の Alberto Mantovani は述べた。また、彼は、ロードマップが、グロ

ーバル市場における主要なプレーヤーであるが、EDCs に関する国際的な議論で限られた存在である国

または地域との「より広範な国際協力」に目を向けるべきであることを提案した。

NGOs はまだロードマップ コメントを提出していない。しかし、CHEM Trust の Ninja Reineke は、ロード

マップは内分泌かく乱化学物質へのばく露を最小限に抑えるための EU の第 7 回環境アクションプログ

ラムでのコミットメントに言及していない、と化学物質管理の専門誌 Chemical Watch に語った。「すべての

包括的な EU の枠組みは、全体的な目標としてこれを持ち、この目標を達成するためにタイムラインで対

策を設定する必要がある」と、彼女は言った。「我々は、食品接触材料中の EDCs の規制のように現在の

ポリシーのギャップを埋めるための特定のアクションを必要とし、EDCs の識別をスピードアップするための、

及び混合物を規制するための明確な計画がなければならない。」

今や EDCs を識別するための基準が殺生物剤と農薬のために合意されているため、委員会には、広

範なアクションを実行しなければならないという圧力が増加している。2018年5 月に、70 以上の健康と環

境 NGOs の連合は、夏前に EDCs に関する戦略を公表するよう委員会に呼び掛けた。その同じ月に、

NGO Health and Environment Alliance (HEAL)と欧州議会の環境委員会副委員長 Pavel Poc による共催

イベントで、幾人かの欧州議会メンバー、政府の代表者、科学者も戦略の更新を要求した。

デンマークの環境・食品省の Henrik Søren Larsen は、会議でスピーチし、すべての疑わしい EDCs を

テストし、評価するための戦略と異なった規則の下での EDC リスクマネジメントへの「全体的な」アプロー

チの必要性を概説した。

ロードマップに関するフィードバックの期限は、2018 年 7 月 19 日である。

(b) パブリック・コンサルテーションへの応答を 2 つの観点から紹介

① 欧州委員会は、EDCs に関する EU 規制のギャップをなくすよう求められている-すべての規則で

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必要とされる同定に関する踏査のとれたアプローチ-

EU 加盟国と NGO は、欧州委員会に対し、EU の全規制にわたって内分泌かく乱化学物質の特定に

調和されたアプローチを開発するよう求めた。彼らのコメントは、貿易機関および研究機関とともに、2018

年 7 月 19 日に閉め切られた EDCs に関するより包括的な EU 枠組みへのロードマップに関するコンサル

テーションに提出された。これは、重要な問題を記述し、化学物質の成果を蓄積し、将来の行動を概説す

ることを目的としている。 コンサルテーションには 44 件の回答があった。

ベルギーの連邦保健・食品チェーン安全・環境庁(FPS)は、化学物質のコミュニティは「サイロでもは

や働くことができず」、そして異なる規制によってカバーされる領域間のセクターにわたる対話を必要とし

ている、としている。 これらには、玩具、化粧品、食品接触材料、建設製品が含まれる。

また、NGO の国際環境法センター(Ciel)は、欧州委員会が 2 つの-殺虫剤と殺生物剤に関する-規

制の「長期にわたり延期していた」EDC 識別基準を策定しているが、「主要な」立法格差が残っていると書

いている。それは人間と環境を高レベルで保護する包括的な法的手段のセットが「歪められ、既存のギャ

ップを見過ごしている」と主張する。ClientEarth は、EU の幹部は「一部の分野の法律における鋭いギャッ

プと EDC のリスク管理への一貫性のある体系的なアプローチの欠如の両方を修正する必要がある」と付

け加えた。委員会はまた、一貫性と有効性を確実にするために、全ての活動が EU のプラスチック戦略に

沿ったものであることを保証しなければならない、と言った。

多くのステークホルダーは、ロードマップが十分に広範ではなく、他の手段を提供していると言ってい

る。 ドイツ環境庁(UBA)は、既存の活動を超えて科学知識のギャップを満たす、「より野心的な」EDC 戦

略を求めている。欠けているのは、”検証可能な目的を持った詳細な活動と健全なタイムラインに基づい

たマイルストーン” と定義されている、と言う。欧州環境局(EEB)は、ロードマップに EDC へのばく露を減

らすための「具体的な手段を提案する戦略、目標、意図」と、「将来の世代にとって最も大きな環境保健上

の脅威の 1 つへの野心的かつ前向きなアプローチ」が欠けている、と書いている。

スウェーデン化学物質局KEMIは、「あまりにも曖昧」であり、より多くの「科学的努力の増加と調和の取

れたアプローチによって達成すべきもの」を含めるべきだと述べた。昨年 7 月、委員会は、殺虫剤や殺生

物剤を超えた新たな戦略の策定に着手すると述べた。 KEMI は、「内分泌かく乱化学物質のための新し

い共同体戦略の開発を含める」よう促した。一方、デンマークの環境省は、EU環境審議会の 2016 年の化

学物質の健全な管理に関する所見は、EU 内分泌かく乱化学物質戦略の更新を「枠組みのためではなく」

求めたものである、とコメントした。また、EU の第 7 次環境行動計画(7EAP)は EDC へのばく露の最小化

を要求しているが、理事会の結論が強調する「重要な」7EAP 政策目標への言及はない。一方、英国

NGO の CHEM Trust は、様々な発生源からの EDC の混合物へのばく露の複合効果の問題に取り組む

ための行動に特に焦点を当てるべきだと述べた。 「現在の単一物質ベースのリスク評価は保護的ではな

く、新たなアプローチが必要である」と述べた。

EEB は、「行動を起こすためには十分な科学が既にある」と述べたが、ロードマップはむしろ科学的知

識、既存の政策と立法措置、協力に関する情報の収集に重点を置いている。一方、Cefic とドイツ化学工

業協会(VCI)はともに、EU の政策と法的枠組みは既に「非常に包括的」であり、既存の条項の実施経験

は「評価する必要がある」と述べた。これは、特に、殺生物剤および植物保護製品規則に適用される基準

及び REACH に基づく EDC の手続きに適用されている、と述べた。 「合理的な期間を経てのみ、有効な

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結果が得られると我々は考える」と述べ、5 年間を示唆した。「我々は、公衆衛生上最も懸念される有害作

用/疾病に焦点を当て、関連する知識ギャップを埋めることに焦点を当てる将来の研究プロジェクトを呼び

かける。」

② 欧州委員会の EDC ロードマップは化粧品をカバーしなければならないとする EU 科学委員会の意

見-全ての関連する規制朗息が含まれている必要性を要求-

欧州委員会の内分泌かく乱化学物質(EDCs)のロードマップは、EU の化粧品成分の動物試験の禁

止により作成されたコンプライアンスの「行き詰まり」に対処する必要がある、と委員会の専門家のトップは

述べた。ロードマップのパブリック・コンサルテーションのために提出されたコメントでは、Qasim Chaudry、

消費者安全科学委員会(SCCS)の議長は、EU の殺虫剤および殺生物剤の規制で使用するための EDC

の定義と、禁止とが衝突していると述べた。特に、化学物質が、化粧品と殺虫剤または殺生物剤の両方

の成分としてどのように使用されるべきかについては明確ではない。動物試験の禁止により、「内分泌かく

乱作用を有するとされる化粧品およびパーソナルケア製品の成分を特定することはほとんど不可能であ

る」と Chaudry 博士は付け加えた。既存の動物実験以外の方法では、ある物質が生物に悪影響を及ぼす

か否かではなく、内分泌活作用の可能性があるかどうかのみを示すことが可能である。 現在、全身毒性

のための非動物代替法の有効性は検証されていない、と彼は述べた。それにもかかわらず、化粧品成分

は、殺虫剤および殺生物剤規則のもとでの動物試験を使用して EDC として同定することができた。

「SCCS は、化粧品に関する法律の違いがロードマップで真剣に考慮されることを強く主張し、この行き詰

まりの解決策を見つけるために必要な努力がなされるべきである」と結論づけた。

全体として、欧州委員会は、内分泌かく乱化学物質に関するより包括的な EU の枠組みに関するイニ

シアチブのロードマップに関する 44 のコメントを受けとった。 現在の EDC 戦略は 1999 年にさかのぼる。

それらのコメントでは、いくつかの健康と環境 NGO が、5 月に策定された EDC 戦略のための、8 つの「必

須要素」を繰り返した。例えば、NGO ChemTrustは、様々な発生源からのEDCsの混合物へのばく露によ

る複合効果に焦点を置くことの重要性を強調した。 また、様々な法律で EDC の識別をスピードアップす

るための明確な計画を見たいと思っている。 これには、新しいスクリーニングと敏感なエンドポイントによ

るテストによるテスト要件の更新が含まれる、と言った。ChemTrust は、EDCs が、主にリスク評価の不確実

性と「重大かつ不可逆的な」影響をもたらす可能性があるため、持続性、生物蓄積性および毒性(PBT)

特性を有する化学物質と同等の非閾値物質として扱うべきであると考えている。

しかし、欧州化学工業評議会(Cefic)は、生物学的閾値を「科学的根拠がある」とみなしている。 「恒

常性と生物学的閾値の長期的原則の改正が正当化される程度に証拠の集合が進化しなければ、EDs を

非閾値とみなすことは政策決定となる」と述べた。

一方、ドイツの特殊化学品製造会社 Evonik は、EDCs の用量 - 反応関係などの「科学的に論争の的

である」トピックに関する EU のさらなる研究を呼びかけた。Cefic は、OECD と協力して試験方法の開発と

検証に関する委員会のロードマップの約束を支持している。 「規制目的のための方法開発は、直接的な

関連性と規制の問題に対する試験結果の有用性を考慮するべきである」と付け加えた。Evonik は、作用

機序を研究する方法は、「持っていればいい」のであって、最初の段階の安全性評価の安全性保証には

必要なものではない、と示唆している。 「全体として医薬品、食品、化学物質の安全性を保証するために

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適用された毒物学ツールボックスは、一様にうまく働くと見なすことができる」と言った。

しかし、ドイツのコンスタンツ大学のヒトおよび環境毒物学教授であるDaniel Dietrichは、委員会のロー

ドマップは「支持できない科学的根拠」に基づいていると述べている。「EDCs の動物への悪影響は(高濃

度で)証明できるが、EDCs のヒトへの推定影響について発表されたすべてのデータは支持不可能であり、

証明不能である」と彼は述べた。ディートリッヒ教授は、EDCs に対する欧州委員会の規制アプローチに長

い間批判的であった。 2013 年には、当時の欧州委員会の提案を「科学的に根拠がない」とする共同編

集を先導した。

2018 年 8 月初めに委員会は、化粧品における代替試験法の現在のレベルが動物試験の完全な置き

換えを可能にするには不十分であるとの報告書を発表した。

(iv) EU による内分泌かく乱物質に関する新たな戦略の概略の公表-玩具、化粧品、食品接触材に

特に注意を払うフィットネスチェックを実施-

欧州委員会(EC)は、調和のとれた識別基準と一貫した方針を目標とする長期的な戦略を発表し

(2018 年 11 月 7 日)、その一環として、内分泌かく乱物質(EDCs)に関連する既存の法律の包括的審査

(スクリーニング)を開始するとした。EC から欧州議会と閣僚理事会に提出されたコミュニケーションの中

で、EC は、新しい戦略が「今後の幾年の」ために構築され、内分泌かく乱物質へのヒトと環境の全体的な

ばく露を最小限に抑えることを目指すとしている。近年、試験方法や識別基準などの問題について数年

にわたり停滞していた間も、NGO や加盟国からの EDCs について、より手綱を引き締める声が続いていた。

同戦略は、欧州委員会が言うところの既存のすべての法律のフィットネスチェック(適合審査)を開始する

予定で、初めて化学物質の「分野横断的な見方(cross-cutting look)」をとることになる。 それは、玩具、

化粧品、食品接触材料などの特定の規定がない分野に「特別な注意」を払うと付け加えている。公開コン

サルテーションを含む適合審査では、異なる法律で生じる可能性のあるギャップ、不一致または相乗効

果を特定し、その「集合的影響」を評価する。これにより、委員会は立法の変更が必要かどうかを判断する

ことができる。コミュニケーションは、ほぼ 20 年経過した、EDCs に対する EU のアプローチを更新したもの

で、戦略の目的を以下に置いている:妊娠や思春期などの重要な人生の期間に特に注意を払う、内分泌

かく乱物質へのばく露の総体を最小限に抑える。

徹底的な研究基盤の開発を加速し、既存の知識を基盤とし、カクテル効果(混合効果)を含むギャップ

が存在する領域に焦点を当てる。

すべてのステークホルダーとの積極的な対話を促進する:委員会は EDCs に関する年次フォーラムを

開催する。化学物質の分類のための既存の国際的システムにそれらを含める可能性を探る; 欧州連合

(EU)市民向けの EDCs でワンストップ Web ポータルを開始する。

EDCs の特定、REACH 安全データシートによるサプライチェーン全体のコミュニケーションの改善、さ

らなる規制措置など、既存の政策の実施を「強化する」ことも検討されている。環境局長は、この方針は、

欧州委員会が内分泌かく乱物質を「非常に真剣に」取り上げ、ばく露を最小限に抑える努力を「強化する

意向である」ことを確認したと述べた。

コミュニケーションは、世界保健機関(WHO)の定義に基づいて、関連するすべての EU 法を通じた

EDC 識別への「一貫した」アプローチを主張している。最近、農薬に採用された基準が「その方向への第

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Page 85: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

一歩」と、それは述べている。農薬の基準は、識別に関して議会の承認を得なければならないという難局

を終結させたが、欧州委員会は、EDC に取り組むための調和の取れたアプローチに対するより多くの要

求に直面している。コミュニケーションは、ある物質が 1 つの法律の下では特定され、別の法律の下で特

定されないという潜在的なリスクを回避するために、水平基準が「さらに考慮されるべきである」との懸念の

多くを認めている。

欧州化学工業連盟(Cefic)はフィットネスチェックの提案を歓迎した。この新たな戦略は、研究と試験

方法の改善のための投資という焦点領域を「正しく特定している」と Marco Mensink 事務局長は語った。

欧州消費者団体(Beuc)も賛意を表した。「定義と試験方法の議論に時間が浪費しすぎてしまった」と

Monique Goyens 局長は語った。この戦略は、「正面から問題に取り組む本当のチャンス」である。しかし、

70 以上の NGO 連合である EDC フリー・ヨーロッパは、特に、今年の夏におこなわれたパブリック・コンサ

ルテーションからの主なメッセージの 1 つである「野心」の欠如に失望していると語った。かれらの具体的

な行動計画に対する主要な要求が「明らかに欠けている」とし、「EU 化学法の審査が既に進行中である

にもかかわらず」、欧州委員会の別の適合性チェックを実施する決定により、政策的な動きがさらに遅れ

ることになる。EDC フリー・ヨーロッパは現在、議会と理事会に「EDC に対する、より野心的かつ具体的な

EU と国家の行動を要求する」と訴えている。

(v) 欧州委員会はEDCのGHS分類を目指す-米国の業界団体ACCはそのような動きは「不必要」

であると言う-

欧州委員会(EC)は、国連の世界的に調和された化学物質の分類と表示(GHS)システムに内分泌かく

乱を含める方法を「探求」すると語った。また EC は、内分泌かく乱物質(EDCs)の新たな戦略を概説する

最近のコミュニケーションで、GHS 分類は、発がん物質、変異原性物質、および reprotoxins(生殖毒性物

質)などの他の有害性クラスと同様の化学物質の同定に “グローバルな解決策”をもたらすであろうと言う。

さらに、EC は、内分泌かく乱に関する GHS 分類が国連レベルで合意された場合、物質または混合物の

分類、表示および包装に関する規則(CLP)にそれを組み込むように動くであろうと述べた。国連システム

は、国や地域のブロックが、どのモジュールが自国の規制システムのさまざまな部分に適用されるかを自

由に判断する「ビルディングブロック」アプローチを採用している。EC の考えは、内分泌かく乱作用が

GHS 分類であるべきかどうかについて議論を再燃させることにある。

欧州化学産業評議会(Cefic)は対話に「オープン」であるが、この提案は「別個の討議が保証されなけ

ればならない」と Chemical Watch に語った。これは、GHS が化学物質の作用機序(MoA)に基づいていな

いためである。 「これはおそらくコミュニケーションが”可能性を探求する”ことだけを指しているのだろう」

と広報担当者は語った。しかし、アメリカ化学工業協会(ACC)はこの考えに反対している。 EDC へのば

く露に関連したがんなどのいくつかのエンドポイントをすでに認識しているため、GHS の分類は「不要」で

あるという。分類は、内分泌腺の変化のみに基づくべきではなく、健康への悪影響が観察されることに基

づいている、と追加した。「進歩の早期の兆しを見せているにもかかわらず、目標の過度の追求による混

乱や潜在的な挫折に対してもまだ脆弱であるプログラムの拡大を提案する時では、今はない」と ACC は

語った。NGO は、WHO の基準が高すぎると主張し、EDCs へのばく露による悪影響の全体を確立するに

は数年または数十年かかるだろうと主張している。

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OECD の環境安全衛生部門の責任者であるボブ・ディデリッチ氏は、内分泌かく乱物質に対する政策

対応に苦しんでいる多くの国で、GHS の分類がリスクコミュニケーションを促進すると述べた。「現在の基

準が EDC を分類するのに十分な柔軟性を持っているのか、あるいは新しい基準が開発されるべきなのか、

が議論のテーマになる」とディデリッチ氏は語った。もし専門家の GHS 小委員会が開かれるならば、内分

泌かく乱物質の試験・評価に関する OECD 諮問グループは、「その仕事に喜んで貢献する可能性が最も

高い」と付け加えた。

EC は、EDCs に関するコミュニケーションにおいて、内分泌かく乱物質に関する国際的に合意された

テストガイドラインを作成する作業について、OECD への支援を「提供する」と述べた。情報交換は、カナ

ダ、日本、米国、そして最近中国を含むいくつかの国々との二国間ベースで行われている、と付け加えた。

さらに 「内分泌かく乱物質に対処する方法について異なるアプローチを取っているが、すべてのパート

ナーは、問題を優先事項として扱うことの重要性に同意している」と語った。

(vi) 欧州議会議員、EDC に関する実務的措置の欠如について欧州委員会を非難

欧州委員会は、内分泌かく乱物質(EDCs)の規制に対する措置を引き伸ばし続けていると、欧州議会

議員(MEP)達からの非難攻撃の的となっている。1 月 22 日に欧州議会の環境委員会(Envi)で行われた

会議で、DG Sante の食品および飼料の安全性と技術革新の責任者である Sabine Juelicher は、EU 幹部

による EDCs の長期にわたって遅延していた戦略を発表した。11 月に発表されたコミュニケーションに示

されているその目的は、以下のとおりである。

内分泌かく乱物質への全体的なばく露を最小限に抑える。

既存の知識の上に立ち、ギャップが存在する分野に焦点を当てた、徹底した研究基盤の開発を

加速する。

年次フォーラムを通じて、すべての利害関係者との積極的な対話を促進する。

MEP で Envi の副議長を務める Pavel Poc は、それは「欧州議会が長年にわたって求めてきた戦略で

はない。私は、「戦略」という用語の下では、より測定可能な結果と指標を明確にし、明確な資金を配分す

ることを想像する」と述べた。一方、MEP Jytte Guteland 氏は、欧州委員会が現在行っていることは、「十

分ではない。十分に強力ではない。我々は、EDCs の影響に対して、もっと強力になるべきだ」と述べた。

もう 1 人の MEP、Anja Hazekamp は、EU の幹部がフォーラムとフィットネスチェックについて語っていると

述べたが、「それは野心的な戦略になるとは思わない」。 同氏は、「リスク管理者のためのガイダンスとトレ

ーニングに焦点が当てられているようであり、その関心は「公衆衛生の分野よりも国内市場の世界」にある

ように思われる」と述べた。MEP、Bas Eickhout は、欧州委員会の管理に向けたステップは、「産業界の利

益が優勢であることは明らか」なため、「非常に退屈なほど遅い」と述べ、同意した。

Juelicher 女史は、「この研究の困難のいくつかは、科学的なフロントでの困難に関連していることが明

らかになった。我々は単にすべてを理解しているわけではない」と答えた。そして彼女は、公衆衛生に関

連するものについては、「私たちが公衆衛生の懸念よりも、多少なりとも産業界の懸念を高く評価している

と解釈するのは非常に難しい」と付け加えた。

欧州議会の議員たちは、年次フォーラムの有用性について批判を集中した。Juelicher ジュリッシャー

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女史は 2019 年のある時点で開催されると述べた。Guteland 女史は、フォーラムは単に「プロセスを引き延

し、長引かせる。それは十分ではない。予防原則を適用し、具体的な法律を整備する必要がある」。 彼

女は、委員会がいつ予定表と措置を講じる行動計画を提出するのか質問した。そして、Poc 氏は、フォー

ラムがどのような問題に対処するのか、誰が組織して参加するのか、そしてどのような成果が期待されるの

かについて尋ねた。 「私の恐れは、人々と専門家が話したり話したりするだけで、しかし実際的な対策は

とられないディスカッションフォーラムになることである。」

これらの質問に答えて、Juelicher 氏は、このモデルは「包括的なもので、お互いから学ぶことができる

場所で、ベストプラクティスを共有することができる幅広い利害関係者に広く手を差し伸べるものだ」と述

べた。欧州委員会は現在、戦略の下で計画されているように、EDCs に関するフィットネスチェックプロセス

を実施する準備をしている。 Juelicher 氏によると、ロードマップは 3 か月の公開協議に向けて発表され、

これは「数週間以内」または遅くとも「数か月以内」のターゲットを絞った利害関係者のコンサルテーション

によってサポートされる予定である。

(vii) 欧州委員会の任期終了前の、NGO による EU 無毒性戦略完成に関する要求

現在の欧州委員会の任期が今年終了する前に、2 つの NGO 連合が EU に、その遅らせられた無毒性

環境戦略(non-toxic environment strategy)を完成し公表するように圧力をかけた。欧州委員会の事務局

長 Martin Selmayr への書簡の中で、EDC-Free Europe と Green 10 は、2018 年末までの戦略の発表期

限が守られていないことを「非常に懸念している」と述べている。グリーン 10 は、ヨーロッパレベルで活動

する大きな10の環境団体とネットワークの連合であり、EDC フリーヨーロッパは、内分泌かく乱化学物質

に焦点を当てた 70 以上の NGO を代表している。2020 年までブロックの政策を推進する第 7 回環境行動

計画(7EAP)の下で、EU 執行部は環境から有害物質をどのように除去するかについての戦略を昨年発

表することを法的に義務付けられていた。しかし 12 月には、新しい委員会が今年遅くに就任するまで戦

略は延期されると述べた。独立した EU 機関である欧州環境機関(EEA)は、同月に、リスクとばく露レベル

に関する情報が不完全なため、7EAP は有害化学物質に関する目的を満たさない可能性があると述べ

た。

現在の欧州委員会の任期は 10 月 31 日までであるが、次の欧州委員会がいつ引き継ぐかは、議会と

理事会によるその構成の承認次第であるため、いつ確定するかは定かではない。 EU議会選挙は5月に

予定されている。これまでのところ、委員会は戦略の副次研究と本研究の最終報告を発表しただけである。

これは、毎日使用される何百万もの物品によってもたらされるリスクの多様性と複雑さ、および現在の EU

法の不適切性を浮き彫りにした。「この委員会の任期が終わりに近づいているので、私たちは委員会にこ

の戦略を可能な限り早く完成させ、発表することを求める」と NGO の書簡は言った。

この戦略はイノベーションを推進し、持続可能な代替品を開発するために不可欠であり、無毒性の循

環型経済の前提条件であると NGO は付け加えている。彼らは一連の勧告を出し、それは彼らが「戦略」

が最低限持っていなければならないと言う。戦略には以下が含まれる:

2030 年までに有害化学物質への暴露を減らすための明確なスケジュールと指標。

難燃剤、フッ素化合物、農薬などとして使用されているかどうかにかかわらず、ライフ

サイクルを通じて特に懸念される化学物質に対処する。

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化学物質に関するヨーロッパのさまざまな法律にまたがる調整と一貫性を確保するた

めのメカニズム。

消費者製品、材料および廃棄物中の化学物質に関する欧州全域の義務的情報シス

テム。

NGO の書簡はまた、内分泌かく乱物質(EDCs)への暴露を「劇的に減少させることが急務」であるとし

て、戦略の重要性を繰り返し強調している。そしてさらに、無毒性環境のための将来の戦略が、新しい

EDCs の戦略を「その上に構築し、そして互いに完全に補完する」こと、そして両方の戦略が「緊急に必要

とされる」ことを確実に保証するよう委員会に要求する。委員会は、試験方法や化学物質の識別基準のよ

うな問題に関する数年間のデッドロックの後、11 月のコミュニケーション(11 月分参照)でこれを概説した。

しかし、NGO はコミュニケーションが具体的な行動を提起していないと言う。EU 執行部は、物品中の

EDCs、ナノ材料、有害物質を管理するプログラムの下で化学物質政策を実施するのが「遅すぎる」という

NGO や EU 加盟国からの批判に直面してきた。

(viii) 化粧品の EDCs に取り組むためのツール

欧州委員会の報告書によると、化粧品の内分泌かく乱物質を管理するEUの規定は「適切」である。11

月 7 日に発表されたこの報告書は、内分泌かく乱物質を含む物質に関する化粧品製品についての遅れ

た規制見直しの一部である。 EUの執行部は、2015年1月までにこれを提出する義務があった。それは、

欧州委員会の、期限を超過した長い検討結果の EDCs 戦略の概要(11 月報参照)と同時に出版された。

委員会は、このレビューで、「化粧品における内分泌かく乱物質の使用に関連する安全上の懸念に取り

組むために立法者によって設計された体制から逸脱することを正当化する」ものは何も明らかにしていな

いと言った。化粧品規制は、ヒトの健康への潜在的なリスクを示す化粧品物質の使用を規制するための

「適切なツール」を提供すると付け加えた。 しかし、この規制には内分泌かく乱物質についての特定の規

定はない。

委員会は、来年初めに、化粧品に使用することが禁止されていない、内分泌かく乱の可能性のある物

質の優先リスト、あるいは発癌性、突然変異誘発性及び生殖毒性のある(CMR)物質に適用される特定の

禁止規定を作成する予定である。評価を準備するため、加盟国、利害関係者及び学界に対してデータ提

供を呼びかけるであろう。欧州委員会は、消費者安全科学委員会(SCCS)に「最短の遅れ」で、物質を評

価し、化学物質の使用を禁止または制限するための適切な措置を講じることを義務づけると述べた。

欧州連合(EU)のツールの組み合わせが化粧品中の EDCs に取り組むために利用可能である、と委

員会は言った。 化粧品規制によれば、潜在的な EDC の使用には、SCCS による科学的意見が必要であ

る。SCCS の安全性評価で EDC とみなされ、ヒトの健康へのリスクがあると判断された場合、委員会は化粧

品の使用を禁止または制限するための適切な措置を "ケースバイケースで行うことができる。SCCS はす

でに、いくつかのパラベン類などのように、そのような特性を有する疑いのある化粧品成分を評価している、

と委員会は付け加えた。

他の法律では、化粧品に含まれるそのような特性を有する化学物質は、以下の場合に禁止されてい

る。

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SCCS によって特定の(規範からの)逸脱が完全に正当化され、科学的に承認されない限り、CLP

規則の下で CMR に分類される。

環境に悪影響を及ぼすため、REACH の下で禁止することができる。

欧州委員会は、殺生物剤および植物保護製品の内分泌かく乱物質を特定する基準は、化粧品規制

を含むEU法の他の分野に直接的な法的影響を及ぼさない、と指摘した。NGOや加盟国は、化学物質の

さまざまな規制を超えた、EU の調和のとれたアプローチを長年要求してきた。

(ix) 英国の EU 離脱に関する動き

(a) ECHA による、EU からの英国離脱に関する企業のための情報の更新

英国の EU からの離脱に関する Echa のウェブセクションには、REACH の下での物質および混合物の

承認および登録に関する新しい情報が更新されている。2018 年 10 月 11 日、Echa は英国の EU からの

離脱に関する企業への Q&A アドバイスを更新した。 このアップデートでは、REACH 下での物質および

混合物の認可および登録に関連するトピック、ならびに現在の非 EU 企業への一般的な助言をカバーし

ている。 このアップデートでは、関係会社間で資産を転送する際のアドバイスも提供されている。

Echa はすぐに殺菌製品規制(BPR)に関する新しい Q&A を公表する予定である。Echa は 2019 年 3

月 30 日の英国の離脱日より前に Q&A を大幅に拡大するつもりはないが、企業には今後数カ月間の更

新を確認することが推奨される。

この助言は、英国の離脱が 2019 年 3 月 30 日に発効することを前提としている。EU と英国が離脱協定

を締結し、移行期間に同意する場合、Echa はそれに応じて Q&A を修正する。Echa は、英国の EU から

の離脱に関する進展について、企業にユーザーフレンドリーかつ時宜を得た助言を提供することを約束

し、間もなくそのウェブサイトの改訂版をウェブサイトに公開する予定である。

(b) 合意なし(No-deal)の Brexit(英国の EU 離脱):英国は EU の REACH 決定から逸脱する可能性

がある-合意は、ケースバイケースで作られる

英国が合意なしに EU を離脱するならば、長期的には、英国が REACH の下での有害化学物質の使

用に関する EU の決定を逸脱することを選択する可能性がある、と政府高官は述べている。環境・食糧・

農村地域省(Defra)の EU 離脱の長であるジェームス・ダンシー氏は、Brexit の合意なしのシナリオでは、

英国は独自の REACH 相当の法律を制定すると述べている。「そしてそれは、 EU と異なる規定をもつで

あろう。」英国は、例えば、許可や制限に関して EU の決定を考慮するが、「米国の行動や世界の他の規

制体制を見て、彼らが使用する証拠を見ることができるだろう」とダンシー氏は 12 月 5 日にリバプールで

政府と産業の共同の Brexit の会議で語った。「もし我々がまだ「その物質」を自分自身で見ていなければ、

「EU の決定」を自らの思考プロセスの一環として取り上げ、それを複製するかどうか、そうしないかどうかを

見極めることができる」と付け加えた。決定は「非常に多くがケースバイケースベースでなされるだろう。」と

彼は言った。そして英国は「EU REACH の多くの決定におそらく同意する」、「しかし、英国特有の事柄が

存在する可能性があり、 異なった見方をするかもしれない。」と付け加えた。SVHCs を特定する際に相違

が生じる可能性がある。 これまで英国は候補リストに入れることに最も異議を唱えたEU加盟国である。英

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Page 90: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

国は、11,000 を超えるドイツに次いで 2 番目に多い REACH 登録数を占めている。 しかし、Echa によれ

ば、イギリスの企業からの承認申請は 126 件中 30 件に過ぎず、英国当局は制限案を 1 件だけ作成して

いるだけである。 現在、EU では 69 物質が制限されている。英国政府は、先週公開された追加の Brexit

ガイダンスでは、承認を与えることに関する将来の決定は国務大臣によって行われると述べた。 英国が 3

月 29 日に離脱したときに EU との合意がない場合、英国は将来の制限について「独自の決定」を行う。離

脱時点で、Echa 候補リスト、附属書 XIV 認可候補リストおよび附属書 XVII 制限が英国法に適用されるが、

それらを更新する権限は「英国の REACH に残る」と付け加えた。

マシュー・ペンローズ(Makhew Penrose)、衛生安全局(HSE)の EU 離脱部門、化学物質の責任者は、

殺生物製品に関する決定は、「ケースバイケースで」と述べた。英国は、植物保護製品(PPP)規制下での

EU の決定を待つ必要はなく、「EU 市場に入る前に英国市場で、ある活性物質に英国が許可を与える可

能性がある」、と彼は会議で語った。そして、それは殺生物製品の使用に関する EU の決定を「自動的に

コピー」するものではない、とPenrose氏は述べた。 「我々は英国にとって正しい決定をする必要があるだ

ろう」。しかし、相違の決定はコンサルテーションプロセスに沿って行われ、「すぐにではなく、どこかで行な

われる」と彼は述べ、「サプライチェーンの面では便益よりも多くの問題が生じるかもしれないと認識してい

る」と付け加えた。政府はまた、殺生物製品に関する技術的な通知を発行している。

※合意(Deal)とは;離脱に際しての条件を定めた離脱協定と離脱後の新協定の大枠を定めた政治宣

言に関する合意。EU 臨時首脳会合で定められた。現在、英国では承認されていない。

(ウ) 個々の物質や製品に関する動き、スクリーニングなど

(i) BPA に関連する検討状況

(a) ECHA 調査による感熱紙の BPA 代替物質である BPS の使用状況

Echa の市場調査によると、EU 製紙メーカーによる、感熱紙に顕色剤として使用するビスフェノール

A(BPA)の代替品としてビスフェノール S(BPS)の使用が増加している。2020 年 1 月 2 日以降、BPA は感熱

紙で 0.02%以上の重量濃度で市場に出すことはできない。BPS は明らかな代替品と広く見なされてきた

が、BPA と同様の構造を持つため、化学製品において同じように機能するのではないかとの懸念がある。

BPA は、生殖毒性があり、ヒトの健康と環境に重大な影響を及ぼす可能性のある内分泌かく乱作用を

有するため、候補リストに載っている。感熱紙での BPS の使用は、2016 年から 2017 年にかけてほぼ 2 倍

になることが、欧州委員会からの要請による Echa の調査で見出された。 これは、以前の Echa 調査とは

対照的で、2014〜16 年の間では、感熱紙に BPA の代替としての BPS の使用には顕著な上昇は見られな

かった。(下記の表参照) Echa の調査によれば、EU の感熱紙の約 30%が中国、インド、日本、韓国、米

国から輸入されている。 調査期間中にこれらの製品で、異なる化学物質の使用 または「顕色剤

(developer)」がどのように変化したかについての情報は、この調査では明らかにできなかった。

Echa の BPA リスク評価委員会が、BPS は「BPA と同様な健康への悪影響を多く有していると疑われて

いる」との見解を示したことから、当局はBPA の BPS への置き換えは「心配になる」ものだという。委員会は

市場調査報告書を使用するが、BPS を制限する提案が必要かどうか検討すると、Echa は述べている。そ

して 2019 年の早い段階で次の調査が実施されるであろう。

なお、BPS が BPA の代替品として使用されるであろうこと、及びその有害性への懸念は、BPA 規制規

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Page 91: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

則(REACH の制限規則)の背景説明の中に、既に記載されており、Echa は BPS の物質評価を監視する

よう定められている。

表 1-4 2014 年から 2017 年に EU メーカーが EU 市場に投入した感熱紙に使用された顕色剤の量

(単位;トン)

顕色剤 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年 2016‐2017 増減

ビスフェノール A 2,799 2,784 2,606 2,776 +7%

ビスフェノール S 150 125 200 397 +98%

他の顕色剤 806 1,065 1,065 1,022 -4%

総計 3,755 3,938 3,871 4,195 +8%

出典:欧州感熱紙協会

(b) EFSA による BPA の有害性評価の開始

欧州食品安全機関(Efsa)の作業部会は、2012 年 12 月以降に発表された毒性学データを調べること

により、食品接触材料であるビスフェノール A(BPA)の有害性の再評価を開始する予定である。Efsa の食

品接触材料、酵素および加工助剤に関するパネル(CEP)は、食品中の BPA の潜在的な有害性を再評

価し、2015 年のフルリスクアセスメントで設定された一時的安全レベル(体重 1kg 当たり 4 マイクログラムの

許容される 1 日摂取量)を再検討する。

2012 年 12 月 31 日以降に公開された研究またはデータは、提出され、レビューに含めることができる。

提出期限は 2018 年 10 月 15 日である。 新しい評価は 2020 年までに準備が整うはずである。3 月に発表

された米国の FDA の研究では、BPA の副作用が最小限であることを示唆して論争が起こった。 その「中

核」をなすげっ歯類研究は、BPA 毒性に関するアカデミックおよび規制上の洞察を結ぶコンソーシアムの

研究プログラムの一部であった。

(ii) ECAH による REACH 附属書 XIV への 18 物質の提案-第 9 勧告草案に、安定剤、溶剤として

使われる化学品を含む-

Echa は、REACH Annex XIV に 18 の認可候補物質を追加するという 9 番目の勧告についてパブリッ

ク・コンサルテーションを開始した(2018 年 9 月 5 日)。 この勧告ドラフトに関するパブリック・コンサルテー

ションは、通常 1 年に 1 回実行される。 候補リスト物質の選択は、主に、認可の範囲内の物質の使用およ

び量に関する登録簿の情報に基づいている。当局は、登録者が登録簿を最新の状態に保つことを奨励

する。

認可対象物質として決定されると Sunset Date(日没日、期限日) が設定され、Sunset Date 以降は、

認可を受けないと上市できなくなる。

Echa が勧告している、生殖毒性のある化学物質、その使用例は次のとおり(13 物質);

ビスフェノール A:ヒトの健康と環境にかかる内分泌かく乱物質でもある。 エポキシ樹脂硬化剤に

使用される。

2-エチルヘキシル 10-エチル-4,4-ジオクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタンナテトラ

デカノネート(DOTE) (注;ジオクチル錫化合物)、エポキシ樹脂硬化剤

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2-エチルヘキシル 10-エチル-4,4-ジオクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタナテトラデ

カノエートと 2-エチルヘキシル 10-エチル-4 - 〔〔2 - 〔(2-エチルヘキシル) (2-エチルヘキシ

ル)オキシ] -2-オキソエチル]チオ] -4-オクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタナテトラ

デカノエート(DOTE と MOTE の反応塊):ポリマー中の安定剤;(注;MOTE はモノオクチル錫化

合物、(反応塊(reaction mass);2種類以上の化合物の反応したものの塊で、構造が決定できな

いもの)

ジオキソビス(ステアラート)トリレッド:PVC 中の安定剤

脂肪酸、C16-18、鉛塩:PVC 中の安定剤

二塩基性リン酸鉛、PVC 中の安定剤、ゴム生産、鏡の裏面

亜硫酸、鉛塩、二塩基性、二塩基性リン酸鉛、PVC 中の安定剤、鏡の裏面

[フタレート(2 - )]ジオキソトリレッド、PVC 中の安定剤

トリレッドビス(カーボネート)ジハイドロオキシド:美術家の絵の具

硫酸酸化鉛(PbSO4・PbO)、鏡の裏面

四エチル鉛、航空燃料中の添加物

2-メトキシエタノール:溶剤

2-エトキシエタノール:溶剤

以下の 2 物質は呼吸感作性を有し、両方ともエポキシ樹脂硬化剤に使用される(2 物質);

シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物〔1〕、シスシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物〔2〕、

トランスシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物〔3〕(HHPA)

ヘキサヒドロメチル無水フタル酸〔1〕、ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸無水物〔2〕、ヘキサヒドロ-1-

メチルフタル酸無水物〔3〕、ヘキサヒドロ-3-メチルフタル酸無水物〔4〕(MHHPA)

Echa はまた、接着剤やポリマーの難燃剤として使用されている非常に持続的で非常に生体蓄積性の

高い(vPvB)化学品デクロランプラス(dechlorane plus)を附属書 XIV に追加するよう勧告する。

また、1,3,4-チアジアゾリジン-2,5-ジチオン、ホルムアルデヒドおよび枝分れおよび直鎖状の 4-ヘプ

チルフェノール(RP-HP)の、枝分れおよび直鎖状の 4-ヘプチルフェノール(4Hbl)の 0.1 重量%以上を

含む、反応生成物の優先順位付けを検討している。 それは環境に対する内分泌かく乱物質であり、潤

滑剤およびグリースに使用される。

また、ミヒラーケトン(EC 番号 202-027-5)またはミヒラー塩基(EC No. 202 -959-2)を 0.1%以上含む

4,4'-ビス(ジメチルアミノ)-4 " - (メチルアミノ)トリチルアルコールは、インクの印刷に使用され、発がん

性がある。 (以上の 3 物質を含めて、合計 18 物質となる。)

当局は、サプライチェーンの構造および複雑さに関する情報だけでなく、物質の使用および認可要件

からの免除の可能性に関するコメントおよび詳細情報を求めている。Echa のパブリック・コンサルテーショ

ンと並行して、欧州委員会はこれらの 18 物質を許可リストに含めることによる社会経済的影響についての

情報を求めている。コメントの締め切りは 2018 年 12 月 5 日である。 Echa の加盟国委員会は、これを検

討し、勧告案に関する意見を準備する。その後、Echa は、委員会および公開協議の意見に基づいて、委

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員会に最終的な勧告を行う。 EU 執行部は、認可リストに含まれる物質と、各物質に適用されるそれぞれ

の条件を決定する。

(iii) フタル酸エステル類に関する検討状況

(a) 欧州委員会によるフタル酸エステル類の免除される使用への REACH 承認の必要有無の検討

欧州委員会は、ヒトと環境に及ぼす内分泌かく乱影響によるSVHCsとしてのそれらの識別に続いて、4

つのフタル酸エステル類の REACH 認可リストのエントリーに、内分泌かく乱特性を含めるよう修正するこ

とを準備中である。

4 つのフタル酸エステル類は次のとおり:

フタル酸ジ-2-エチルヘキシル (DEHP)

フタル酸ブチルベンジル (BBP)

フタル酸ジイソブチル (DIBP)

フタル酸ジブチル (DBP)

また、委員会は、既に免除されていたいくつかの使用は「承認を必要とする可能性がある」と言う。

EC に代わって、Echa は、特に、承認要件からの一般的(包括的)な免除によってもはやカバーされな

いであろう使用に関する情報を求める、影響を受けるセクターを対象とするパブコメを始めている。これら

は、経過的な手配、免除及び審査期間だけでなく、食品接触材料、医療機器中のそれら物質を含む。

それは、別々に既に認可対象である使用を検討していく。コメントの締め切りは、2018 年 8 月 6 日であ

る。

フタル酸エステル類は、生殖毒性特性のため 2012 年から認可リスト上に挙げられている。

ヒトの健康に及ぼすそれらの内分泌かく乱影響-および DEHP の場合、環境に及ぼす-は、2014

年と 2017 年にそれらを SVHC 分類に追加した。

それらの内分泌かく乱特性のため SVHCs の候補リストへのフタル酸エステル類の追加は、デンマーク

からの提案の後に続いた。いくつかの国からの反対のため投票が遅れたが、加盟国の大半は、昨年提案

を支持した。

(b) EU 加盟国によるフタル酸エステル類の規制提案支持-製品中 4 物質に関する濃度制限を全会

一致で支持-

EU 加盟国は、製品中のフタル酸 DEHP、DBP、DIBP および BBP を制限する提案を支持して全会一

致で採決した。 4 つのフタル酸エステルは、内分泌かく乱特性のみならずそれらの生殖毒性のために

SVHC の REACH 候補リストに載っている。この提案の下では、消費者または屋内で使用される製品(玩

具からスポーツ用品にわたる日常用品)のプラスチック材料において、それらは、個別にまたは任意の組

み合わせで、0.1 重量%以下の濃度に制限される。

2018 年 7 月 11 日の REACH 委員会で承認されたこの提案は、累積的影響と、異なる製品からの 4 つ

のフタル酸エステルへのばく露を考慮に入れている。消費者は、これらのフタル酸エステルの 1 種または

それらの組み合わせに、異なる供給源を介してばく露される可能性がある、と欧州委員会は述べた。 例

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は以下の通り:

食べ物と埃を摂取する。

口内に製品を入れる。

空気と塵を屋内で呼吸する。

塵や製品が粘膜や皮膚に接触する。

欧州議会と閣僚理事会は現在、欧州委員会の採択前にこの措置を精査するのに 3 ヶ月を要する。

この規制は、その後 EU の公式ジャーナルに掲載され、発効 18 ヶ月後、EU 内外で生産された製品に

適用される。会合に先立ち、NGO は加盟国に対し、提案された制限の範囲に食品接触材料を含めるよう

求めていた。

その後、欧州委員会は、REACH規則を修正し、EU市場の消費者製品におけるフタル酸エステル類、

DEHP、BBP、DBP および DIBP の使用を制限するという決定を採択した。これらの物質を含む可塑化材

料は、ケーブルからコーティングされた布地やスポーツ用品に至るまで、さまざまな日用品に使用されて

いる。Echa は最近、この 4 つのフタル酸エステル類の REACH 認可リスト(附属書 XIV)のエントリを修正し

て、それらの内分泌らん乱物質を含めるように勧告案のコンサルテ-ションを開始していた。

これらに現在免除されている以下の用途の中には、改正のために承認を必要とする可能性があると

Echa は述べている。 したがって、コンサルテーションは、特に用途に関係する事業者を対象にしている。

コメントの締め切りは 2019 年 3 月 12 日である。

0.1~0.3%の濃度の混合物中

食品接触材料中または医療機器中の DEHP

2010 年に追加された DIBP を除き、これらの物質はそれらの生殖毒性特性のために SVHC として識別

され、2008 年に候補リストに追加された。それらが認可リストに含まれた後、それらはさらに、ヒトの健康に、

そして DEHP の場合には環境にも影響を与える内分泌かく乱性を有すると同定された。 候補リストは、

DBP については 2017 年に、その他の候補については 2014 年に更新された。

(iv) 1,2-ジクロロエタン認可申請の承認-REACH 委員会は、医薬品、産業向けを含む使用を支持-

EU 加盟国は、1,2-ジクロロエタン(略号 DCE または EDC)の使用のための申請を支持した。2018 年 9

月 28 日の REACH 委員会では、REACH 附属書 XIV に SVHC として記載されている物質の条件付き使

用に関する 3 社の認可を全会一致で承認した。EDC は発がん性物質で 2017 昨年 11 月 22 日が日没日

であった。(個々の認可対象物質は、認可されない限り、日没日をもって上市と使用が禁止されるが、少

なくとも日没日の 18 ヵ月以前の日付までに継続申請が受理される場合には、日没日以降も認可申請に

ついて決定が下されるまで継続して上市と使用が認められる。)

会社と用途は次のとおり;

Akzo Nobel Chemicals は、ポリアクリレート系界面活性剤の製造にリサイクル可能な溶剤としてこ

の物質を使用するために申請した。 推奨レビュー期間は 2026 年 11 月 22 日に期限切れとなる

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予定である。

マイクロビーズ社は、放射性廃棄物の浄化のためのイオン交換樹脂の製造における架橋ポリスチ

レンビーズのスルホン化反応の際の膨潤剤として使用する。 その申請は、採択された決定から

12 年後に見直されるように設定されている。

Orgapharm は、活性医薬成分(フレカイニドアセテートおよび塩酸ネオパム)の製造において

EDC をプロセス溶媒として使用するために申請した。 推奨レビュー日は 2024 年 11 月 22 日であ

る。

欧州委員会は、3 月に遅れた REACH 第 2 回レビューを公表し、SVHC の代替を促進し、認可プロセ

スを簡素化することを含む 16 の措置を定めた。一部の加盟国や業界は、認可申請手数料の削減を求め

ている一方で、NGO は、これらの削減は、代替を促すのではなく SVHC の使用を容易にすると主張して

いる。

(v) レゾルシノールの物質評価の再開を検討

Echa は、コミュニティローリングアクションプラン(Corap)の下で、レゾルシノール(Resorcinol)の物質評

価の再開を検討している。フィンランドは 2017 年に評価を終了したが、フランスは現在、環境影響につい

て更なる研究が必要であると信じるため、その化学物質を再リストすることを提案している。 他の物質はこ

れまでに繰り返し Corap リストに挙げることは考慮されたことはない。レゾルシノールは、Echa の加盟国委

員会(MSC)が 2018 年 12 月と 2019 年 2 月の会議で議論した Corap ドラフトアップデート 2019-2021 にリ

ストされている。MSC 議長の Watze de Wolf は、Corap への化学物質の再導入は「本当に例外的である」

と述べた。 「再導入は避けるべきである。」 MSC は、評価を再検討すると Corap プロセスが「予測不能」

になる可能性があるとの業界オブザーバーからのコメントに留意した。

フィンランドは、最初、内分泌かく乱化学物質(EDCs)の可能性があるとの懸念から、レゾルシノールの

評価を進めた。 この物質は、難燃剤や工業用染料などの化学物質の工業用中間体であるだけでなく、

染毛剤や化粧品に使用されている。 染毛剤では、この化学物質は顕色剤化学物質と反応して必要な色

を生成する。 EU では製造されていないが、年間 10,000〜100,000 トンの量で輸入されている。2017 年

10 月、フィンランド化学品安全庁(Tukes)は、追加情報を求めずに物質評価を終了した。 その「結論」文

書は、レゾルシノールが甲状腺機能に影響を及ぼし、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)作用機序を持つ

可能性があることを示唆する研究を指摘したが、有意なデータギャップも見出した。 Tukes は、より多くの

試験データを要求しないことを決定したが、レゾルシノールが非常に懸念の高い物質(SVHC)であると見

なすことができるか、または REACH の下で制限を提案することができるかの決定を助けるためにリスク管

理オプション分析(RMOA)を選んだ。しかし MSC の議事録によると、フランスの REACH 管轄当局は、こ

の物質は環境 EDC の可能性としてさらなる調査が必要であると「確信している」。 フランスとフィンランド

は、「入手可能なデータとそれから引き出すことができる結論について、わずかに異なる見解」を持ってい

る、と MSC 議長ドウルフ博士は言った。 「フランスは現在物質評価プロセスを開始する可能性がある」と

彼は付け加えた。 その後、加盟国の管轄当局は決定書草案を検討し、「これらの異なる見解を解決し始

めることができる」と述べた。

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フィンランドは、2018 年に RMOA の結論を発表し、現在の証拠は SVHC または REACH の制限となる

道筋を強調していないことを示唆している。 その代わりに、分類とラベル付けの変更に焦点を当てた。

それはレゾルシノールが工業用途でのみ使用され、製品中のレゾルシノールへの消費者の暴露はその

登録書類の情報に基づいて「排除された」と指摘した。 リスク管理オプション分析(RMOA)はまた、甲状

腺研究が「非現実的な暴露露条件」を使用したことを示唆している。MSC は、2 月の会議中に Corap アッ

プデート案の草案に関する意見を採択した。 Echa は今回、アップデートにレゾルシノールを含めるかどう

かを決定する必要がある。 Echa は、評価が合法的に再開される可能性があることをすでに明らかにして

いる。2019 年 1 月 30 日のケミカルウォッチ 2019 年見通しウェビナー放送中に、Corap にレゾルシノール

を再導入する意向が示された。

(vi) 4-tert-ブチルフェノールを SVHC とする意図を WTO に通知

欧州委員会は、樹脂、プラスチック、界面活性剤、香料、農薬などの製造原料として用いられている

4-tert-ブチルフェノール(PTBP)を、非常に高い懸念のある物質として特定する意向を世界貿易機関

(WTO)に通知した。決定書草案では、これは内分泌かく乱性と、環境へのその物質の深刻な影響の可

能性があるためであると述べている。委員会によると、「魚で観察された影響は不可逆的であり、野生生

物個体数に関連があるかもしれない」。決定書草案は、REACH 候補リストにその物質を含めることを目的

としている。コメントの最終日は通知から 60 日であるが、最初の提案された採択日および発効日は 2018

年 6 月 30 日である。2016 年 7 月、Echa はその物質を SVHC の Registry of Intentions に追加した。 そ

の年、ドイツはそれを SVHC として特定すべきだと提案し、加盟国委員会はこれに同意した。翌年、Echa

は、4-tert-ブチルフェノールに関して、公的活動調整ツール(PACT)をリスク管理オプション分析(RMOA)

とハザードアセスメントで更新し、候補リストに提案すべきだと結論付けた。ノルウェーは、国家環境庁の

勧告に従って、その物質を国内の優先化学物質リストに追加している。しかし、英国はこの物質を SVHC

に位置づけることに反対している。

(エ) 国単位の動向

(i) フランス

(a) フランス環境労働衛生安全庁(ANSES)

a) 消費者製品の化学物質インベントリーの準備-環境担当相は海洋汚染に取り組むための行動を

支持-

フランスは、有害化学物質による海洋汚染を防ぐイニシアチブの一環として、消費者製品に物質のイ

ンベントリーを作成する計画を 2018 年 8 月 1 日に発表した。フランス環境労働衛生安全庁(Anses)は、

海洋生態系やサンゴ礁に対して "特に有害"とされる化粧品、日焼け止め剤、洗剤に含まれる有害化学

物質のデータを含むインベントリーを提供する予定である。プレスリリースによると、同機関は「最大の懸念」

の物質を特定し、「適切な規制枠組み」を提案する。Ocean Mission イニシアチブは、廃棄物、特にプラス

チック汚染に対する海洋保護のための新たな措置を提案することにも焦点を当てる。

ブルーヌ・ポアソン(エコロジカル及び包括的移行の国務長官秘書)は、国の 13 の海外領土のうち 11

はサンゴ礁の生息地であるため、フランスは海洋に対して「特別な責任を負っている」と述べた。同機関は、

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「海洋生態系に悪影響を及ぼすことが判明した場合、特定の化学物質に対して措置を取ることができる」

と彼女は付け加えた。サンゴ礁は海面の 1%を占めるが、報道発表によると、全海洋種の 25%を占めてい

る。これらの生態系は「深刻に脅かされている」-地球レベルでは、ここ数十年にサンゴ礁の 20%が「回

復不能に破壊された」と推定されている。残りの 80%のうち、わずか 3 分の 1 が満足できる状態であるとみ

なされている。 "これらの脅威の中で、気候変動とその結果の海水温の上昇[...]は明確に特定されてい

るが、サンゴ礁は劣化を引き起こす特定の化学物質によっても脅かされている。7 月に、欧州議会の環境

委員会(Envi)は、海洋を保護するために化粧品、パーソナルケア、洗剤および洗浄製品のマイクロプラ

スチックを 2020 年までに禁止することによって、プラスチック戦略を強化するよう委員会に要請した。

Anses は最近、フランス政府の要請により、特定の消費者製品の化学物質に関する試験を実施してい

る。フランスの省庁は、2018 年 7 月に、衣服と履物中の化学物質の毒性についてのインベントリーを、そ

れらに関するアレルギーと皮膚刺激のケースの定期的な報告の中で、作成するように庁に要請した。 試

験結果は、製品中の皮膚感作性物質および刺激性物質について、フランスとスウェーデンによる、

REACH の下で制限の提案を支持する。数ヶ月前、Anses は、競争・消費者・詐欺防止フランス総局

(DGCCRF)と協力し、手作りおもちゃの「スライム」が有害物質を含んでいる可能性があるため、子供に与

えるリスクを警告した。3 月に、同機関は主要な研究プログラムに、ヒトに対する内分泌かく乱化学物質

(EDCs)とビスフェノールのばく露影響のプロジェクトが含まれると発表した。 彼らは 2017 年に、Anses の

年次国家研究プログラムである Environmental-Health-Work イニシアチブの下での研究プロジェクトに選

ばれた。

b) 女性用衛生製品の CMR 制限を求める-現在の規制は「不十分」-

Anses は、女性の衛生用品における発癌性、突然変異誘発性および生殖毒性(CMR)物質の存在を

制限するための REACH 下の規制を求めている。その提案(推奨)は、2018 年 7 月に Anses のレポートに

掲載されたタンポン、衛生タオル、パンティーライナー及び月経カップを含む製品の健康リスクについて

の専門家の評価に従ったものである。当局によって設立された 2 つの専門委員会は、健康閾値を超えな

い非常に低濃度の様々な化学物質を同定した。現在、これらは女性用衛生製品の組成、製造および使

用について特別な規制を受けていないが、一般的な製品安全指針(GPSD)を含む「水平」法の対象であ

る。

Anses レポートは、現在の規制制度が「これらの製品に有害化学物質が存在するために不十分」であ

ると結論している。それは専門家の評価でが特定された物質に基づいて、REACH 附属書 XVII の下での

規制を要請した。これらには、以下が含まれる。

多環式芳香族炭化水素(PAHs)

ダイオキシン類およびフラン類

ジ-n-オクチルフタレート(DnOP)

殺虫剤

これらの物質は健康閾値を超えていないが、消費者が他の発生源にも潜在的にばく露されている可

能性があるため、リスクがあるかどうかは "不確実"であると結論した。また、委員会は、医療機器および食

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品接触材料の規制に基づいて、女性用衛生製品の試験を調整するために標準が開発されることを勧告

した。

Anses は、報告書によると、女性用衛生製品の CMR 物質の存在を制限するための委員会プロジェクト

を支援している。女性用衛生製品などの使い捨て繊維製品は、製品の吸水性コアを形成するために追

加の材料を使用するため、織物の CMR に関して提案された制限の範囲から除外されていた。“この制限

提案に関する議論の枠組みの中で、欧州委員会は、女性用衛生製品を含む吸収性衛生製品を、CMR

を制限する提案を作成する可能性のある将来のケースとして特定した。”と EU の情報源は語った。Anses

レポートは、「適切な次のステップについて欧州委員会が検討する上で有用である」と彼らは付け加えた。

当局は製造業者に、製品に使用される原材料の品質を向上させ、ある製造プロセスを更新して、有害

物質の存在を排除または低減するように要請した。 これらの物質の大部分は、原材料や製造プロセスの

汚染に由来する。

しかし、吸収性衛生製品の製造業者を代表する欧州貿易協会(Edana)の広報担当者は、メンバーは、

「サプライチェーンを通して非常に広範な製品安全手順を講じており、法令遵守をはるかに超える」と述

べた。また、特定された化学物質が健康閾値を超えていないというレポートの結論は、「女性用衛生製品

に適用される水平規制の有効性の証拠を提供する」と語った。スポークスパーソンは、GPSD で言及され

た自主的な業界のガイドラインの代替案を考慮して、追加の規制の恩恵を評価しなければならないと述

べた。Edana は、「様々な可能なアプローチのメリットについて、管轄当局との対話が開放されている」と付

け加えた。

(b) フランス議会

a) 学校食堂でプラスチックの食品接触材料を禁止する法案を票決-容器は 2025 年から禁止-

フランス議会の下院は、2025 年 1 月 1 日から 2,000 人以上の住民の自治体の学校においてケータリ

ングサービスで使用されるプラスチック製食品接触材料(FCM)の使用を禁止することを票決した。そして、

提案された禁止が法律になった場合、それは 3 年後に小規模なコミュニティに拡大されるだろう。これらの

日付から、6 歳未満の児童向け居住施設のみならず、育児、学校、大学のケータリングサービスでは、調

理、加熱、食べ物提供へのプラスチック容器の使用は禁止される。「フランスプラスチックを使用しない容

器」圧力グループに導かれた NGO の連合の請願は、2018 年 9 月 14 日に議会で採択された。声明で、

NGO は、「健康環境保護とプラスチックに含まれる内分泌かく乱物質と発がん物質へのばく露の削減の

歴史的な票決」と称した。NGO には以下が含まれる:健康環境フランス協会、親協議会連盟、公立教育

生徒の親連盟、モルモットの世代、健康環境ネットワークそしてゼロ廃棄物フランス。

全国紙ル・モンドは、リベラルな政党「マルシュ・リピュブリック」のメンバーであるフランソワ・ミシェル・ラ

ンバートが、「フランスが主導権を握っている」、「フランスがプラスチック中毒から離れるよう促している」と

述べた、と報じた。しかし、すべての政治家が合意に達しているわけではない。ル・モンドによると、

StéphaneTravert 農業相は、特にプラスチック製品からの廃棄物を減らすために行動を変える必要がある

一方、この施策の「経済的・生態学的影響をより正確に評価するための情報」を望んでいたと述べた。

フランスは、プラスチック中の有害物質の規制を導入するうえで最も積極的な EU 加盟国の一つである。

2016 年 9 月には、すべてのプラスチック製カップ、カトラリー(食卓用刃物類)、プレートを堆肥化し、生物

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起源の材料で作られるべきであるとする法律を可決した。法律は 2020 年に発効する。また、今年 1 月、プ

ラスチックの軸を持つ綿棒だけでなく、マイクロプラスチックを含むリンスオフ化粧品にも全国的な禁止が

発効した。2012 年には、フランスは食品接触材料にビスフェノール A(BPA)の使用を禁止することを決め

ている。

(c) フランス環境省

a) EU に EDC に対するより強い姿勢を求める-化学物質の種々の法律を通して必要な「均質の意

義」

フランスの環境省は欧州委員会に対し、EDC に関する新たな戦略を強化するよう求めた。11 月 7 日に

公開された、長い間懸案であった、化学物質からヒトや環境を守るための戦略には、フィットネスチェック

やパブリック・コンサルテーションが含まれている。フランス環境省によると、委員会は以下のことをなすべ

きとした;

欧州および各国の機関が内分泌かく乱の可能性がある化学物質に関する研究の独立性を「強

化」できるように、欧州の化学物質評価の機構を改訂する。

これらの物質が、すべての関連する欧州の法律で考慮されていることを確認する。

現在審査中のすべての農薬および殺菌剤に、遅滞なく、新しく認可された内分泌かく乱物質の

識別基準を適用する。

懸念のある物質のレビューを期待する。 このタイムテーブルも指定する必要がある。

フランソワ・デ・ルギ フランス環境相は、規制の見直しだけではないことを警告した。 欧州委員

会は、包装、玩具、化粧品を含むすべての関連する欧州の法律において、すべてのばく露経路

をカバーする物質の「均質の意識」を確保しなければならない。

化粧品については、規制に内分泌かく乱物質を有する物質を含めるように、2015 年 1 月 11 日までに

法律が改訂されたはずであるとフランス環境省は指摘した。デ・ルギ氏は、EU がフランス市民の懸念に耳

を傾け、EDCs が欧州の優先事項であるべきであるという戦略の採択を「重要な徴候」と呼んだ。

殺生物剤および殺虫剤(農薬)の分野における内分泌かく乱物質を識別する基準は、それぞれ 2017

年 11 月および 2018 年 4 月に EC によって採択された。2017 年 7 月、フランスは、EU の植物保護製品規

制に基づいて EDCs を特定するための、EU が提案している、議論の的となる基準を支持した。賛成投票

と引き換えに、当時のフランス環境相は、玩具、化粧品、食品包装の EDC に対する消費者のばく露を最

小限に抑える EU 全体の戦略を開始するよう EC に要請した。

EDCs に関する第 2 回フランス国家計画は現在レビュー中であり、今年は別途協議の対象となるとフラ

ンス環境省は述べている。現在の戦略は 2014 年に開始された。2017 年にパリは EDC の国家統制の強

化を約束し、現在の戦略が不適当であると批判された後、新しい計画の策定に着手した。今年5月には、

フランス政府の評価により、この計画の重要性が強調され、フランスを欧州における EDC 法の最前線に

置くことになった。この評価では、研究、健康および環境モニタリング、ハザードキャラクタリゼーション、リ

スク管理、情報および訓練の改善が求められた。2017 年 12 月に環境、健康、農業の 3 つのフランス省庁

が作成した前回の報告書には、いくつかの提案がリストアップされていた。

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(ii) ドイツ

(a) BPA の分類と表示を ECHA に提案

ドイツは、CLP の下でビスフェノール A の分類と表示(CLH)を調和させるために、2018 年 9 月、Echa

に提案を提出している。CLH 目的の登録機関に登録したドイツは、提出にあたり、以下の内容の分類を

提案している;

深刻な眼の損傷、区分 1

皮膚感作性、区分 1 - アレルギー反応を引き起こすことがある

生殖毒性、区分 1B -ヒトに対して生殖毒性があるとみなせる

特定標的臓器毒性(一回ばく露)、区分 3 - 呼吸器刺激を引き起こす可能性がある

水生環境に有害である:水生生物に急性毒性があるカテゴリー1 および M 因子= 1-水生生物に

非常に有毒 そして、水生慢性、区分 1 および M-因子= 10-長期的影響を伴って水生生物に非

常に有毒

ドイツは、2017 年の夏に Echa に、内分泌かく乱特性が環境に重大な影響を及ぼす可能性があるため、

SVHCとしてBPAを特定することを意図していると通知した。2017年12月、同機関の加盟国委員会(MSC)

は満場一致でドイツの提案を支持した。この動きは、不当な決定を下したとしたプラスチック業界の抗議

に直面して起こった。 ほとんどの加盟国がこの提案を支持していたが、同業界はコンサルテーションによ

って、この決定と激しく論争した。

BPA はすでに 2 つの点で SVHC の REACH 候補リストに登録されている:生殖毒性およびヒトの健康

に重大な影響を及ぼす可能性のある内分泌かく乱作用として。この化学物質は、REACH 第 57 条(発が

ん性物質、変異原性および生殖毒性物質と同等の懸念レベル)に基づいて内分泌かく乱物質とみなされ

ている。EU の法律に基づいている CLP または GHS の下で、内分泌かく乱のための特定の分類はない。

(iii) デンマーク

(a) 食品接触材料の全有機フッ素化合物の禁止を目標に

デンマークの獣医および食品管理局は、紙および厚紙の食品包装への全ての有機フッ素化合物の

使用に対する国内禁止の「可能性を調べ」ようとしている。環境食糧省の発表によると、これらの化合物は

非常に持続性が高く、いくらかは動物やヒトに蓄積する可能性がある。 さらに、内分泌かく乱化学物質

(EDC)や発がん性物質の疑いがあり、免疫システムに有害であると述べている。この計画は、欧州食品

安全委員会(Efsa)のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA)に

関する最近のリスク評価に従っている。 当局は 12 月に、この 2 つの化学物質には、ヒトは以前に考えら

れていたよりもはるかに少ない量にしか耐えることができないと結論した。

環境および食品大臣の Jakob Ellemann-Jensen はこの発表で、「有機フッ素化合物に対する私の懸念

は Efsa の最新の評価の後でも低下していない」と述べた。 「私達が今日考えるよりもっと有害な他のフッ

素化物質もあるかもしれない。だからこそ私は禁止を望んでいる。」デンマークは、厚紙や紙の食品接触

材料(FCMs)に含まれる有機フッ素化合物の全グループを禁止する「世界初の国になることができる」と、

発表はいう。デンマークの獣医食品管理局は、食品接触材料(FCM)に有機フッ素化合物を使用すること

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に対して「長い間助言」しており、小売の一部は自主的にその物質を廃止している、と付け加えた。昨年

初め、この国の研究者たちは、既製品のケーキに使用される紙の包装材にフッ素化合物を見つけた。 こ

の発見は、FCM に意図的に追加されないようにするための 3 年前の全国的な勧告の後になされたもので

ある。

FCMs 中の物質の EU 規制が発効するまで、国内禁止は適用される。 基本的な規定が 42 年前に定

められて以来、EU の法律は評価されたことがない。10 月に、欧州委員会の健康と食品安全に関する総

局(DG Sante)が正式に評価プロセスを開始した。プラスチック FCM には一定の規則があるが、他の材料

には調和の取れた法律がない。 加盟国は国家レベルで特定の規則を採用しているが、2016 年の欧州

委員会の JRC による研究では、それらは大きく異なる可能性があり、統一性と内容の両方の観点から異な

る可能性がある。NGO はこの規則を「穴だらけ」だと批判してきた。昨年 5 月に開催された北欧のワークシ

ョップでは、国際的な専門家が、紙および厚紙の FCMs における PFAS の禁止または制限を支持した。そ

して、食品と接触することを目的としたワニスやコーティングにビスフェノール A を使用することは、最近規

制の精査に直面している。 昨年 9 月以降、食品 1 kg あたり 0.05 mg の BPA の移行制限が適用されてい

る。

(3) その他諸国、国際機関の動向

(ア) OECD

(i) JRC によれば、OECD テストガイドラインには、新しい内分泌かく乱作用のエンドポイントが存在

するべきである

2017年5月に、JRCの専門家による調査によると、ほとんどの利用可能な哺乳類 in vivoアッセイには、

内分泌かく乱作用化学物質の作用機序に関する情報がない、という。

JRC は、15 の国と異なるステークホルダーグループを代表する 40 人の専門家に、ギャップを特定する

ために EDC 試験方法に関する一連の質問をした。

専門家によると、OECD テストガイドライン(TG)は、新たな内分泌かく乱作用エンドポイントでアップグ

レードされるべきである、という。強化された TG の一般的な作用機序情報は、有害性転帰経路(AOP)を

知らせるために使用され、新規又は既存の in vitro 方法により標的とされ得る重要な事象を同定すること

ができる。

関連する内分泌かく乱関連疾患/障害のための新規又は強化された試験方法の開発に関しては、

甲状腺関連障害が優先リストのトップにあり、その後、代謝、免疫関連障害が続く。

内分泌かく乱経路に関する試験に欠けている重要な要素の 1つは、in vitroでの代謝と生物学的利用

を考慮に入れる能力である。これは、外部代謝システムを追加し、予測モデルを改良することで対処する

ことができる、と専門家は示唆した。

(ii) 内分泌かく乱物質評価のための OECD テストガイドラインに関するガイダンス文書の改訂

内分泌かく乱物質評価のための標準化された OECD テストガイドラインに関する改訂ガイダンス文書

150が 2018年 9月に公開された。主な改訂点は、検証済みの全てのテストガイドラインが収載されたこと、

概念的枠済みの改訂、IATA、異種間の外挿、複数の作用機序を持つ化合物などに関する記載の追加、

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である。改訂後、8 週間で 1,500 ダウンロードされた。

このガイダンス文書は、最初に 2012 年に公表されたが、OECD の新しく作成されたテストガイドライン

を反映するだけでなく、試験方法の使用および化学物質の内分泌活性の評価における科学的進歩を反

映するために、2018 年に更新されたものである。この文書は、標準化されたテストガイドラインを使用して

化学物質を評価するための指針を提供することを目的としている。特定の目的には、内分泌かく乱の化

学物質を評価するための OECD の概念的枠組み、使用される標準化された試験方法の背景、個々の試

験の結果の解釈指針の提供が含まれる。

この文書の一般的なアプローチは、主に、標準化されたアッセイの結果に基づいて試験結果がどのよ

うに解釈されるかについてのガイダンスを提供することである。この文書で取り上げられている主な論点は、

内分泌作用の機序と、そのような作用に起因する可能性のある個体全体に関わる効果に関係している。

この文書は予側的な(proscriptive)ものではなく、さまざまなデータシナリオを考慮して、規制当局が取る

べき適切なテストの可能な次のステップ(もしあれば)についての提案を提供している。 ガイダンス文書は、

主に概念的枠組みに含まれる内分泌様式に焦点を当てている。 エストロゲン、アンドロゲン、甲状腺媒

介性内分泌かく乱およびステロイド生成を妨げる化学物質が含まれる。

(イ) 国連

(i) 識別された内分泌かく乱化学物質のリストの公開-レポートは、グローバルなイニシアチブとアプ

ローチの概要を提供する-

国連は、少なくとも 1 つの「徹底的な科学的評価」を経ている、内分泌かく乱化学物質または潜在的

な内分泌かく乱化学物質として識別されている化学物質のリストを公開した。リスト-フタル酸エステル、

ビスフェノール類、パラベンを含む 18 の化学品グループの合計 45 物質-は、3 つのレポートのうちの1

つ(Overview Report I)に挙げられている (表 1-5参照)。これらの目的は、内分泌かく乱化学物質の識

別をめぐるイニシアチブ、政策及び科学的知識のグローバルな概要を与えることである。

2016 年、国連環境は、化学品汚染に関する国際パネル(IPCP)―2008 年設立の科学者のグローバ

ルネットワーク―に、内分泌かく乱化学物質に関する、規制の枠組みと政策イニシアチブだけでなく環境

ばく露と影響の既存の科学的知識をレビューすることを委託した。IPCP は 28 の異なるアプローチを評

価し、それらのうちの 3 つの下でレビューされた物質のリストに基づいた。これらは次のとおり:

EU の高懸念物質の候補リスト(SVHCs)

NGO ChemSec の Substitute-It-Now (SIN)リスト

デンマーク EPA の基準を使用して実施された評価

これらのイニシアチブは、WHO/IPCS 2002 定義および選択プロセスに基づいて、最も堅固で、透明な

選択基準を使用して識別されている、とレポートに書かれている。45 の物質のファクトシートは、レポート

の 2 番目(Overview Report II)中に示されている。

最終レポートと 45 の EDCs のリストは、2016 年に委託されたドラフトから出てきたものである。最終レ

ポートでは 24の既存 EDC リストを評価し、さらなる精査を保証する77 物質を提案した。しかし、国際化

学工業協議会(ICCA) は、科学的信頼性と堅牢性が欠如しているとして、実際及び潜在的な内分泌かく

乱化学物質を特定するためにリストを使用することに異議を唱えたため、国連環境にドラフトを撤回、また

は大幅に改訂することを求めた。一方で、NGOs は、公式リストの基礎としてそれを使用するように国連団

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体に促した。

レポート I「内分泌かく乱化学物質(EDCs) および潜在的な EDCs を識別するための世界的イニシアチ

ブ」は、EDCs を識別し分類する実質的な努力が世界中で、セクターに亘るさまざまなステークホルダーに

よって行われている、と言う。しかし、これらのイニシアチブの意図した目的と範囲、それらを開発するため

に使用された基準(criteria)とプロセス、及び彼らが一般に提供する情報は、かなり異なるかもしれない、

とそれは続ける。「結果的に、個々のイニシアチブは、同じ化学品に対して、様々な認識と関連付けられ

たアクションまたは推奨事項に結果としてつながることになり、これらのイニシアチブの詳細に精通してい

ないステークホルダーにとって理解することが難しくなる。」 レビューされたすべての活動において、

1,000 以上の化学物質が EDC または潜在的な EDC として特定されている。 それらは「使用されたプロセ

スと評価基準にばらつきがあるので、特定された化学物質の数はそれぞれで異なる」とレポートは述べて

いる。レポートはまた、使用された方法の「不一致」、途上国および移行国からのインプットの欠如、および

その意味と目的のさらなる明確化の必要性、を強調している。

レポートⅢは、EDC に対処する既存の国内、地域および世界の規制枠組みと政策的取り組みの概要

を提供する。 その主要な見解は、文書やウェブサイトなどの既存のフレームワークに関する一般にアクセ

ス可能な情報は、しばしば散在し、複雑であり、かつ/または不整合にリンクまたは参照されている、として

いる。「スコープ、アプローチ、プロセスなどの用語と特性は、既存の明示的な規制の枠組みの中で大きく

異なる可能性がある。」という。多くの議論と論争の後、欧州委員会は、4 月に植物保護製品(PPPs)の

EDCs を特定する基準を採択した。

表 1-5 45 の EDCs リスト

4-Nonylphenol, branched and linear Carbon disulphide 4-Nonylphenol, branched and linear, ethoxylated

Metam-sodium

4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol Zineb 4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenol, ethoxylated

Ziram

4-Heptylphenol, branched and linear Thiram p-(1,1-dimethylpropyl) phenol Tert-butyl methyl ether;

MTBE; 2- methoxy-2-methylpropane Bis(2-ethylhexyl) phthalate; DEHP Methylparaben Diisobutyl phthalate; DIBP Ethylparaben Dibutyl phthalate; DBP Propylparaben;

propyl 4-hydroxybenzoate Benzyl butyl phthalate; BBP Butylparaben; butyl 4-hydroxybenzoate Resbenzophenone 4-nitrophenol Benzophenone-2; 2,2',4,4'- tetrahydroxybenzophenone

2,4,6-tribromophenol

Benzophenone-3; Oxybenzone Resorcinol 4,4'-dihydroxybenzophenone Pentachlorophenol (PCP) 3-Benzylidene camphor (3-BC); 1,7,7- trimethyl-3- (phenylmethylene) bicyclo[2.2.1]heptan-2- one

Tebuconazole

3-(4-Methylbenzylidene) camphor; 1,7,7-trimethyl-3-[(4-methylphenyl)methylene]bicyclo[2.2.1] heptan-2-one

Triclosan

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2-ethylhexyl 4-methoxycinnamate Diethyl phthalate (DEP) Bisphenol F Dihexyl phthalate (DHP)

Bisphenol S Dicyclohexyl phthalate (DCHP) Butylated hydroxytoluene Dioctyl phthalate (DOP) Tert.-Butylhydroxyanisole (BHA); tertbutyl-4-methoxyphenol

Diisodecyl phthalate (DiDP)

Quadrosilan; 2,6-cisDiphenylhexamethylcyclotetrasiloxane

Diundecyl phthalate (DuDP), branched and linear

Triphenyl phosphate

(ii) NGO による UNEP の EDCs リストの歓迎に対して、業界団体は批判的

米国化学工業協会(ACC)は、内分泌かく乱化学物質のリスクに関する 3 つの国連概要報告書は、

「科学を過度に単純化している。国連環境(United Nations Environment Programme; UNEP)は、NGOによ

って作成された SIN リストやデンマーク EPA リストのような化学物質ブラックリストを参照して作成した」と述

べた。報告書は、化学物質を特定するためのイニシアチブ、政策、科学的知識の世界的概要を提供して

いる。 それらには、少なくとも 1 つの「徹底的な科学的評価」を経た EDC が(潜在的な)EDC として特定さ

れているリストが含まれている。「UNEP は、この事項について精力的に作業し、科学的な見方の配列を集

約し提供しているが、残念ながら今日の科学がサポートしていないより警戒心の強い、数十年前の主張も

含んでいる。参照される化学物質のリストの中には、規制当局を動かさないものもある。 これは堅牢な科

学的レビューを受けていないためか、証拠の重み付け手法によって集められていないか、ピアレビュー、

公開レビュー、コメントの対象となっていなかったからである。UNEP は、報告書やウェブサイトでは、これら

のリストを EDCs や分類に関する決定的な科学として誤って同定すべきではない。内分泌かく乱に関する

リスクコミュニケーションに携わる科学者や規制当局は、“正確かつ厳密な特徴付けを使用しなければな

らず、その懸念が証拠によって支持されていない場合には、懸念を包含するラベルを適用しないようにす

る必要がある。”この報告書は、「国連諮問グループの国際社会への情報発信の目標と一致する、内分

泌科学に関する諸問題の様々な視点を反映しているようだ。」と ACC は言う。

さらに ACC は、この報告書は、2015 年に国際化学物質管理会議(ICCM4)で採択された決議から生

じたものであり、 これにより、UNEP は EDCs に関する情報を開発し、共有するよう求めた。また ACC は、

報告書は途上国の自らの政策策定の指針として役立つかもしれないと指摘している。欧州化学工業評議

会(Cefic)は、まだレビューを行っているところで、コメントできないと述べている。

NGO の保健環境司法(HEJ)と国際環境法センター(Ciel)は 3 つの報告書を歓迎している。HEJ の共

同ディレクター、アレクサンドラ・キャターボウは Chemical Watch 誌に、報告書には TEDX や SIN リストな

ど、45 物質のリストと他の物質への参照が含まれていることを嬉しく思うと語った。Ciel の環境保健プログ

ラムのスタッフであるジュリア・カリーニ氏は、彼女の組織は「それらの普及と行動への転換を楽しみにして

いる」と述べた。しかし、これら両組織は、EDC がより多く存在することを見てきたし、リストが長くなることを

期待していた。 彼らは BPA の欠如を強調した。 Echa の加盟国委員会(MSC)は、ヒトの健康に重大な影

響を及ぼす可能性のある内分泌かく乱物質のため、2017 年 6 月に SVHC(高懸念物質)として確認した。

UNEP は、より多くの化学物質をリストアップすることによって機会を逃した。なぜなら、これは政府とステー

クホルダーに情報を提供するのに役立つからだという。リストにあるべきはずの BPA のような明確な EDC

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でリストを修正するには、それを修正するためのフォローアップ作業が必要だ」と彼女は語った。カリーニ

は、「45 の EDC の非網羅的なリスト」はスタートだが、今後これを拡張することが重要であると付け加えた。

3 つの報告書のうちの最初の報告書には、含まれる化学物質のセットが決定的ではなく、情報を普及

させるための将来の取り組みに更なる(可能性のある)EDCs を含めることができると述べられている。

(iii) 国連プロジェクトが製品中の化学物質/塗料中の鉛に取り組む

国連環境局は、製品中の化学物質管理を改善し、塗料中の鉛の世界的な段階的廃止を促進すること

を目的としたプロジェクトを開始した。「国際化学物質管理への戦略的アプローチ(Saicm)の下で、新たな

懸念される化学物質政策問題に関する世界的なベストプラクティス」と名付けられたこのプロジェクトは、

国際的な資金調達プラットフォームである地球環境ファシリティによって 820 万ドルが与えられた。 NGO

や国際機関を含む政府や他の組織から、さらに 2130 万ドルが提供される。 このプロジェクトの目的は、

関連する環境とヒトの健康問題に対処する政府の方針とサプライチェーンの取り組みを確立することであ

る。この Saicm のマルチステークホルダープログラムは、4 年間で 70 か国以上にこれらの対策とイニシア

チブの実行を援助する。

製品中の化学物質( Chemicals in Products; CiP) のライフサイクルに対処するために、プロジェクトは、

政府やサプライチェーンが、建築製品、電子機器、玩具の製造に使用される化学物質を追跡および管理

するための対策を確立するのを支援することに焦点を当てる。これらは、2015 年に開始された国連の「製

品中化学物質プログラム(Chemical in Products Programme ; CIP)」で取り上げられている 4 つの製品部

門のうちの 3 つであり、4 つ目は繊維製品である。

プロジェクトは以下が欠けていることを認識している。

サプライチェーンの透明性と、特に開発途上地域および新興地域における、有害な化学物質の

存在を監視および報告するための、利用可能なツールの限定的な取り込み。

生産者が自社の製品およびサプライチェーン内の有害化学物質を追跡および管理するための

経済的および市場ベースのインセンティブ。

透明性を高めるための規制上の推進力:「POPs や重金属などの数種の化学物質は別として、製

品中の有害化学物質の開示または廃止を要求する規制は世界的に欠如している。

有害化学物質と「残念な(有害性がある/有害性の疑いがある)代用」につながる、その代替物の、

定量的な持続可能性評価。

これに対処するため、プロジェクトは以下を行う。

公共調達と持続可能な財政措置を介して行動するようサプライチェーンにインセンティブを創出

する。

化学的代替案を比較し、残念な代用品を避けるための定量的ライフサイクル評価ツールを開発

する。

懸念化学物質に関する規制要件への向上心とその遵守を強化する。

国連環境局によると、開発途上国には塗料中の鉛を段階的に廃止するための規制を導入し、執行す

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る能力が不足している。 しかし、規制を受けている国々でも、小規模の塗料メーカーは、「無鉛塗料を調

合するための技術的な能力やリソースが限られている」ため、順守に苦労しているという証拠がある。これ

に取り組むために、プロジェクトは 40 カ国が塗料中の鉛を法的に規制し、その確立を援助することを目的

としている。 さらに、8 カ国の 50 社以上の中小企業の塗料製造業者が製造プロセスからの鉛を段階的に

廃止することを目指している。

プロジェクトの 3 番目の側面 - ナレッジマネジメントと呼ばれる - は、情報共有と利害関係者の関与

について検討する。 それは、「他の分野や議題からの利害関係者の関与につながり」、「共同のイニシア

チブの開発を促進する」、「EPI (emerging policy issues;新たな政策課題)の専門家の効果的なグローバ

ルネットワーク」を確立するであろう。 また、地域、国、そして世界レベルでプロジェクトに関するデータと

進捗状況を提供するためのプラットフォームも開発する。 利害関係者が、プロジェクトのこの側面の目的

に貢献するために招かれる。

プロジェクトは 1 月 15,16 日にジュネーブで開催されたワークショップで議論され、そこで詳細と計画

が完成し合意された。 国連環境局は、2020 年に第 5 回国際化学物質管理会議(ICCM5)に最初のプロ

ジェクト結果を発表する予定である。

製品中の化学物質と塗料中の鉛は、国連の世界的な自主化学物質プログラム、国際化学物質管理

戦略的アプローチ(Saicm)によって特定された 2 つの「新たな政策課題」である。 他の EPI は EDCs、ナノ

テクノロジー、非常に有害な農薬、有害な電子機器、医薬品汚染物質、過フッ素化化学物質である。この

プロジェクトは、製品中の化学物質と塗料中の鉛に焦点を合わせている。なぜなら、それらは「特定の環

境問題と健康問題を提示している」からである。プロジェクトの計画を概説する国連の文書は、製品中の

ほんのわずかの化学物質がストックホルム条約と水俣条約の下で規制または禁止されていると述べてい

る。 前者は残留性有機汚染物質(POPs)を規制するための条約であり、後者は水銀を扱っている。有害

化学物質は、世界中の消費者製品に含まれており、製造中の労働者、使用中の消費者、規制されてい

ないリサイクルおよび廃棄操作による女性および子供、ならびに廃水や下水汚泥を介した環境へのばく

露を引き起こしていると文書は言っている。さらに、「製品中の有毒な汚染物質も循環経済への移行に対

する障壁となる可能性がある」。

プロジェクトの CiP 部分は、国連の CIP の下で扱われる 4 つのセクターのうち 3 つへの取り組みを支

援することに焦点を当てている。 2013 年に GEF の資金を受けた、CIP の第 4 の製品部門である繊維製

品に関する同様のプロジェクトから得られた教訓を生かすであろう。鉛ばく露を排除するための努力が何

十年も続けられている。 この文書によると、鉛は「幼児や妊婦に特に有害な蓄積する有害元素」である。

保険指標評価研究所(IHME)は、2015 年に鉛ばく露が健康への長期的影響による 494,550 人の死亡の

原因であると推定した。鉛塗料は、例えば吸入または摂取される可能性がある家庭内の汚染された粉塵

を介した、幼年期の鉛ばく露の主な発生源である。 「鉛への比較的低いレベルのばく露でさえ、重大で

不可逆的な神経学的損傷を引き起こす可能性があり、鉛ばく露の安全なレベルは知られていない」と付

け加えている。

(ウ) カナダ

(i) 化学物質管理に対する「アプローチを更新する」ためにインプットを求めている-政府は脆弱な集

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団を定義するためのコンサルテーションを開始

カナダ政府は化学物質管理への取り組みを更新しようとしており、そのプロセスの一環として脆弱な集

団を定義するためのコンサルテーションを開始している。2006 年に導入された化学物質管理計画

(Canadian Chemicals Management Plan ;CMP)に基づいて計画されているこの作業は、2021年 3月に終

了する予定である。したがって、政府は将来の活動の形を決定するために「選択肢を探索している」。

「政府は、CMP の成功を踏まえ、カナダ人の環境と健康を守るためにカナダの化学物質管理に継続

的に取り組むことにコミットしている。」とカナダ保健省はそのウェブサイトで言明している。この作業に関す

る情報は、2017 年下院常設委員会環境と持続可能な発展(Envi)によるカナダ環境保護法 1999

(Canadian Environmental Protection Act: Cepa)のレビューによって伝えられている。 これは、政府のア

プローチに対する数十のオーバーホール(内分泌かく乱物質への取り組みを含む)を呼びかけた。カナ

ダは、サーベイ、ディスカッション、ソーシャルメディアそしてその他のフォーラムを通じてさまざまなステー

クホルダーと協議する計画である。

最初のステップとして、政府はこの文脈の中で脆弱な集団を定義するためのコンサルテーションを開

始した。 これは、Envi の勧告で強調された領域の 1 つであり、2018 年 6 月のフォローアップ報告書(次記

事参照)で合意したものである。定義に関するコンサルテーションを求めることは、「特定の化学物質に関

連するリスクの評価と管理を通じて、脆弱な集団の保護を強化することに重点を置いた政策の策定に向

けた第一歩である」と言う。政府は、以下の定義を提案している。「一般的なカナダ人集団内で、感受性が

高く、かつ/またはばく露量が多いため、化学物質へのばく露による健康への悪影響を経験する一般の

集団よりもリスクが高い。」コンサルテーションの通知によると、これは米国の TSCA 法と「類似」している。

カナダ政府はすでに、これらの内容を化学物質管理に考慮しているが、「アプローチを強化する機会」で

ある、と言う。脆弱な集団のための政策枠組みには、研究とモニタリング、リスク評価と管理、公的支援を

含む「化学物質管理の連続体を貫いた」行為が含まれると述べている。

カナダ保健省は、1 月 21 日まで提案された定義に関するコメントを受け入れる。

(ii) カナダのリスクアセスメントは、EDC に、より焦点を当てると予想される

最近カナダのオタワで開催されたステークホルダー・ミーティングの報告によると、カナダは 2020 年以

降のリスク評価の枠組みの下で、内分泌かく乱物質(EDCs)の蓄積評価の使用を拡大することを検討して

いる。カナダ政府、化学産業、NGO 共同体のメンバーは 11 月 26 日から 29 日にかけて、最近および今

後の化学物質規制に関する進展を確認する会合を持った。 集会には次のものが含まれた:

化学物質管理計画(CMP)に関する多数のステークホルダーワークショップ

CMP のステークホルダー諮問委員会(SAC)ミーティング

カナダ小売業者の情報を持つ代理人のワークショップ

科学委員会の会合

カナダ環境法協会(Cela)の研究者およびパラリーガル(弁護士補佐)である SAC メンバーの Fe De

Leon によると、内分泌かく乱物質に特に注意が払われ、政府が 2020 年以降のプログラムの一環としてそ

れらを評価し規制する方法を検討した。カナダ政府は、フタル酸エステル類、パーフルオロアルキル物質

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(PFAS)、難燃剤、鉛を含む物質群によって引き起こされる潜在的な脅威を評価するために、累積評価を

使用することへの関心を高めていると Ms De Leon は述べた。また、カナダ塗料およびコ-ティング協会

(CPCA)および SAC メンバーの Gary LeRoux 社長兼 CEO は、政府も「視野あるいはレンズを拡大して」、

化学物質評価を実施することを決定したようだ」と語った。これは、リスクアセスメントやリスク管理の観点か

ら、脆弱な集団への影響を評価するのに役立つもので、化学物質管理プロセスの一環として、この集団

の定義に関するコンサルテーションを開始したという①の記事と一致する。

オタワでの議論は、来年の 10 月に予定されている総選挙よりも 11 ヶ月前に行われた。 カナダ現政府

は、もし再選されれば、カナダ環境保護法 1999(Canadian Environmental Protection Act: Cepa)を更新

すると約束した。EDCs への関心の高まりは、Cela のような NGO によって長年支えられてきた。 しかし、

多くの人々は、2017 年下院環境と持続可能な発展常任委員会(Envi)の勧告で求められているように、政

府が Cepa の徹底的な見直しを通じてこれらの EDCs物質群に取り組むことを期待している。Ms. De Leon

は、EDCs が注目を集めていることを評価する一方、新しい議会の下でのより大きな見直しの一環として、

EDCs に言及することが望ましいだろうと述べた。 これにより、EDC 規制と化学規制の両方について、より

透明性と予測可能性が広がり、消費者と産業の両方の生活が改善されると付け加えた。

LeRoux 氏は、公務員達は、既存の枠組みの政策とプログラムの下で Envi 勧告のいくつかを満たす努

力を継続すると述べていると指摘した。しかし、内分泌かく乱作用については、彼は、「これはいつも Cepa

の下で検討されており、今後も続くだろう」と述べたが、政府が現在の任期では Cepa を改正しないことを

決めたことを考えると、現在のところその点では大きな変化はないだろう。」と述べた。政府が選挙後まで

法を改正するという正式な要求はない、と彼は付け加えた。

(4) 我が国の動向

環境省では、内分泌かく乱作用に関する検討を着実に進めていくために、化学物質の内分泌かく乱

作用に伴う環境リスクを適切に評価し必要に応じ管理していくことを目標として、新たなプログラムを

EXTEND(Extended Tasks on Endocrine Disruption)2016 を進めている。

平成30年度は、2018 年8月に第1 回検討会を開催し、文献情報に基づく影響評価、試験法の開発、

試験結果と今後の予定、について議論している。

化学物質の内分泌かく乱作用に関連する報告の信頼性評価に向けた物質としては、化学物質環境

実態調査結果、公共用水域水質測定結果、要調査項目等存在状況調査結果、農薬残留対策総合調査

から選定された 250 物質(群)について検索を行い、化学物質の内分泌かく乱作用に関連しない報告を

除き1件以上の報告が残った 154 物質(群)のうち、報告数が 10 件以上であった 8 物質(群)と、PRTR 第

一種指定化学物質であって化学物質環境実態調査結果及び要調査項目等存在状況調査結果にて不

検出であった物質群において選定された 36 物質(群)について検索を行い、化学物質の内分泌かく乱

作用に関連しない報告を除き1件以上の報告が残った 22 物質(群)のうち、報告数が 10 件以上であっ

た1物質(群)、専門家から提案され選定された1物質(群)について検索を行い化学物質の内分泌かく乱

作用に関連しない報告を除き 1 件以上の報告が残った合計 10 物質を、平成 30 年度に信頼性評価

を行う対象物質として選定し、調査を行っている。以下に、調査対象とされた 10 物質を示す。

セルトラリン

104

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パロキセチン

ジクロフェナク

p-ニトロフェノール

ジフェノコナゾール

クロチアニジン

安息香酸ベンジル

チオファネートメチル

臭化メチル

アミオダロン

試験法の開発では、OECD でのガイダンスドキュメント化を進めるために、試験法の妥当性及び再現

性等に関する検証を行うことを目的として、魚類に対する抗アンドロゲン作用が疑われる物質(フェニトロ

チオン、リニュロン)及び抗アンドロゲン作用以外の作用物質(ケトコナゾール、17βトレンボロン(検討中))

を用いて検証試験を実施している。

105

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2. 国際機関におけるガイダンス・テストガイドライン・規格等の動向 2-1. OECD テストガイドラインに係る動向

OECD WPMN に関連した、テストガイドライン(TG;Test Guideline)、ガイダンスドキュメント(GD;

Guidance Document)の制定、改訂は、WPMN で議論、承認の後 WNT(Working Group of the National

Coordinators for the Test Guidelines Programme)に SPSF(Standard Project Submission Form)を提出し、

承認されてから活動が開始される。

(1) WPMN における活動状況

WPMN のスポンサーシッププログラムの結果が出始めてから、専門家が参加するワークショップが開

催され、その場で既存 TG のナノ材料への適用性や改訂、新規制定の必要性が議論され、WPMN に対

する推奨が出されている。WPMNではこの推奨に対する議論およびリード国の募集を行い、TG、GDの制

定、改訂作業が開始される。表 2-1に過去に行われたおよび今後開催予定のワークショップを示す。

ワークショップとは別に、専門家によるスポンサーシッププログラム ドシエデータの評価が行われつつ

あり、その評価を通じても、既存 TG のナノ材料への適用性や改訂、新規制定が議論されていく。

WPMN の活動は、これまでスポンサーシッププログラムを中心に行われてきたが、スポンサーシッププ

ログラムの結果がほぼ出たことや、REACH 規則改正に向けて、今後はナノ材料に適用できる既存のテス

トガイドラインの修正や、新規テストガイドラインの開発等が望まれており、WPMN の活動としては新たな

段階として、既に試験方法等に関して検討を進めている、ISO/TC229 等とのコラボレーションにより各種

テストガイドラインの修正・開発等に向けて検討していく方向である。

表 2-1 過去に行われた WPMN 専門家ワークショップ

ワークショップ名 期日/場所 報告書

ナノ材料の吸入毒性試験 2011 年 10 月 19-20 日/ハーグ、オランダ ENV/JM/MONO(2012)13

環境毒性と環境中運命 2013 年 1 月 29-31/ベルリン、ドイツ ENV/JM/MONO(2014)1

工業ナノ材料の物理化学特

2013 年 2 月 28 日-3 月 1 日/ケレタオ、メキシコ ENV/JM/MONO(2014)15

工業ナノ材料の遺伝毒性 2013 年 11 月 18-19 日/オタワ、カナダ ENV/JM/MONO(2014)34

トキシコキネティクス 2014 年 2 月 26-28 日/ソウル、韓国 ENV/JM/MONO(2016)24

物理化学特性;測定と方法 2014 年 6 月 18-19 日/ワシントン DC、米国 ENV/JM/MONO(2016)2

工業ナノ材料のカテゴリゼー

ション

2014 年 9 月 17-19 日/ワシントン DC、米国 ENV/JM/MONO(2016)9

工業ナノ材料の in vivo 吸入

毒性スクリーニング法の情報

共有セミナー

2015 年 9 月 21 日/ワシントン DC、米国 -

ナノ材料のグルーピングとリ

ードアクロス

2016 年 4 月 13-14 日/ブリュッセル、ベル

ギー ENV/JM/MONO(2016)59

工業ナノ材料の試験に関す

る非動物手法の規制的受入

に向けたセミナー

2018 年 2 月 14 日/パリ、フランス

ナノ材料のばく露測定とばく 2018 年 8 月 25-26 日/オタワ、カナダ

106

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ワークショップ名 期日/場所 報告書

露軽減

工業ナノ材料の物理化学的

特性

2018 年 9 月 11 日/パリ、フランス -

ナノ材料のグルーピングに関

する科学ワークショップ

2018 年 9 月 12-13 日/パリ、フランス -

ナノ材料の環境運命と生体毒

性に関する WNT 専門家会合

2018 年 12 月 12-13 日/アロナ、イタリア -

既にリード国が決まり WNT で承認されたテストガイドラインおよびガイダンスドキュメントの改・制定プロ

ジェクトを表 2-2、表 2-3に示す。

表 2-2 テストガイドライン計画・進捗状況

Proj.No

プロジェクト リード 備考

SECTION 1 物理化学特性

- ナノ及びマイクロスケール材料の表面化学及びコーティングの同定及び定量に関する新規 TG

デンマーク/独 2018

2018 年 5 月に SGTA 電話会議。2020 年に GD 及び TG ドラフト版をWNT 専門家グループの WG に提出予定。

- 工業ナノ材料の巻き上がり性(dustiness)の決定に関する新規 TG

仏/デンマーク 2017

2017 年 12 月に WPMN に提案。2018 年 11 月 WNT に SPSF提出。 2019 年 4 月 WNT31 で審議予定。

- 工業ナノ材料の比表面積の決定に関するTG

- 2018 年 4 月 WNT に SPSF 提出、承認。

- 工業ナノ材料の粒子サイズ及びサイズ分布に関する TG

- 2018 年 4 月 WNT に SPSF 提出、承認。

- 工業ナノ材料の表面疎水性の決定に関する新たな TG

EC 2018

2018 年 11 月 WNT に SFSP提出。 2019 年 4 月 WNT31 で審議予定。

SECTION 2 生態系への影響

SECTION 3 環境運命、生物分解性と生物蓄積性

3.09 様々な水系媒体中のナノ材料のアグロメレーション挙動の TG

独 2014

ドラフトTG完成、2016年春にWNTによる第 1 回目のコメント、秋に第2 回目のコメント。

3.10 金属ナノ材料の水系環境中溶解速度の新規 TG

米 2014

2018 年 12 月に WNT 専門家会合で改訂ドラフト版の検討。

3.11 廃水からのナノ材料除去の新規 TG 米 2014

2018 年 12 月に WNT 専門家会合にドラフト提出。

3.12 ナノ材料への TG305 の適用 英国/スペイン 2014

2018 年 12 月に WNT 専門家会合で検討。

- ナノ材料の水生(環境)移行の決定に関する新規 TG オーストリア

2018

2018 年 2 月 WPMN にて提案。TG 318 とナノ溶解性に関するガイドラインの補完。2018 年 11 月 SPSF提出。

SECTION 4 ヒト健康影響

- ナノ材料に対する、in vitro 皮膚感作性試験のキーイベントベースの TG442D の適用性

スイス 2018

2018 年 5 月に SGTA 電話会議。 2018 年 11 月に WNT 提出。 2019 年 4 月 WNT31 に審議予定。

- ナノ材料に対応するための、毒性動態のテストガイドライン又は TG 417 の改正

オランダ/米国 2018

2018 年 5 月に SGTA 電話会議。2020年WNT-32で議論予定。2020

107

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Proj.No

プロジェクト リード 備考

年中に新規 TG 化又は改正予定。

表 2-3 ガイダンスドキュメント計画・進捗状況

No. プロジェクト リード 備考

SECTION 1 物理化学特性

- ナノ及びマイクロスケール材料の表面化学及びコーティングの同定及び定量に関する新規 GD

デンマーク/独

2018

2018 年 11 月に WNT に SPSF 提出。

- 水及び関連する合成生物学的媒体中でのナノ材料の溶解性及び溶解速度の決定に関する TG 105 の改訂に係る GD

デンマーク/独

2018

2018 年 11 月に WNT に SPSF 提出。

SECTION 2 生態系への影響

2.51 ナノ材料の水棲(底棲)生物毒性試験の GD カナダ/米

2014

ドラフトの 2018 年 12 月に WNT 専門家会合でレビュー結果検討。2019 年 4 月の WNT31 に承認のための提出予定。

SECTION 3 環境運命、生物分解性と生物蓄積性

3.09 水系媒体中のナノ材料のアグロメレーションと溶解挙動の GD(ディシジョン・ツリー)

独 2014

2018 年 12 月に WNT 専門家会合で予備ドラフトの検討。2019年4月WNT31 にドラフト第 1 版提出予定。

3.10 金属ナノ材料の水系環境中溶解速度の TG 米

2014

2018 年に WNT に SPSF 提出。2018 年 12 月に WNT 専門家会合で改訂ドラフト版の検討。

3.12 ナノ材料の見かけ蓄積ポテンシャル評価の新規 GD

英国/スペイン

2014

2018 年 12 月に WNT 専門家会合でドラフト版検討。

3.14 TG312「土壌浸出」を用いた土壌中のナノ材料の挙動の試験に関する GD

独/加 2017

2018 年 12 月に WNT 専門家会合に第 2 版ドラフト提出。

3.xx 環境(非生物)形質転換に関する GD オーストリア

2018 2018 年 11 月 WNT に SFSP 提出。 2019 年 4 月 WNT31 に審議予定。

SECTION 4 ヒト健康影響

4.95 工業ナノ材料の哺乳類細胞を用いた in vitro遺伝毒性試験 TG の GD

EC 2015

5 種のナノ粒子を用いた試験実施中

(ア) 新規/改正テストガイドラインの公表状況

OECD では、ナノ材料に対応したテストガイドラインとして、2017 年に以下の 3 つのテストガイドラインを

発表した。

テストガイドライン 318:環境をシミュレーションした媒体におけるナノ材料の分散安定性

(Dispersion stability of nanomaterials in simulated environmental medis)

テストガイドライン 412:亜急性吸入毒性試験(28 日間)(Subacute inhalation toxicity: 28-day

study)

テストガイドライン 413:亜急性吸入毒性試験(90 日間)(Subacute inhalation toxicity: 90-day

study)

108

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(2) WNT での検討状況

(ア) WNT30(2018)

2018 年 4 月末に開催された WNT30 では、ナノ材料に関して、以下の 2 つの SPSF が承認され、WNT

プログラムに含まれた。

工業ナノ材料の比表面積の決定に関する新規 TG

工業ナノ材料の粒径と粒度分布に関するテストガイドライン

また、WPMN 17(2017)で新規プロジェクトとして、日本と BIAC の共同提案として WPMN に提案された、

『工業ナノ材料の吸入毒性試験に関する短期ばく露手法』は、WPMN 18において、日本提案プロジェクト

については作業計画に含めないことが決定され、WNT30 において、吸入毒性試験に関する改訂版

GD39 が承認された。

WNT30 では、ナノ材料の安全性試験分野のプロジェクトへのハイライト及び将来可能性のある SPSF

への期待についての議論があり、今後、WPMNとWNTの関係強化の必要性が強調され、ナショナルコー

ディネーターが WPMN の活動をフォローする等、ナノ材料、非ナノ材料を問わず、同じ方向に向けて協

力を進めるべきである、との意見が出された。

(イ) WNT31(2019)に向けて

WPMN では、2019 年 4 月開催の WNT31 に向けて、開発中の TG 又はガイダンス文書のうち、表 2-2

に示す 4 件について、2018 年 11 月に WNT31 に SPSFs を WNT31 の検討議題として WNT に提出した。

2-2. ISO 標準化の動向

ISO 標準化動向として、ここでは、安全性に関するワーキンググループの WG3 を中心に、2018 年度の

動向を記す。

本年度の主要な会議スケジュールは以下の通りであった。

2018 年 5 月 7-11 日、オタワ:JWG2(計量・計測)中間会合

2018 年 5 月 9-11 日、オタワ: JWG1(用語・命名法)中間会合

2018 年 5 月 21-25 日、ロンドン:WG3(健康安全環境)、WG4(材料規格)、WG5(製 品と用

途)中間会合

2018 年 10 月 29-11 月 2 日、クアラルンプール:第 21 回 TC229 総会

(1) 出版済および作業中の標準、技術仕様、技術レポート

表 2-4から表 2-6に出版済の標準、技術仕様、技術レポートを示す。ステータスには定期レビュー

(5年サイクル)のレビュー結果も示した。レビューで改正とある標準は改正作業中となり、表 2-7から表

2-9の作業中に再掲する。

表 2-7から表 2-9は作業中の標準、技術仕様、技術レポートを示す。各ステータスは以下の通りで

ある。

109

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改正作業:発行標準の定期見直しで、改正が決定し、改正作業中

新規プロジェクト登録:新規プロジェクトとして承認され、登録

作業原案作成:委員会承認用のドラフト作成

CD 投票終了:CD(委員会ドラフト)の投票が終了し、コメント対応作業中

承認用 FDIS、FDTS、FDTR 登録:CD が承認され FDIS、FDTS、FDTR(最終ドラフト、各国承認

用)を登録、投票待ち。

出版待ち:すべての承認作業が終了し、出版準備中

表 2-4 発行された規格

WG 提案国 標準番号 標準名.

3 韓国 ISO 10801:2010 Nanotechnologies -- Generation of metal nanoparticles for inhalation toxicity testing using the evaporation/condensation method

3 韓国 ISO 10808:2010 Nanotechnologies -- Characterization of nanoparticles in inhalation exposurEchambers for inhalation toxicity testing

3 日本 ISO 29701:2010 Nanotechnologies -- Endotoxin test on nanomaterial samples for in vitro systems -- Limulus amebocyte lysate (LAL) test

3 米国 ISO 19007:2018 Nanotechnologies –In vitro MTS assays for measuring the cytotoxic effect of nanoparticles

表 2-5 発行された技術仕様

WG 提案国 技術仕様番号 技術仕様名

2 日・米 ISO/TS 10797:2012

Nanotechnologies -- Characterization of single-wall carbon nanotubes using transmission electron microscopy

2 米国 ISO/TS 10798:2011

Nanotechnologies -- Charaterization of single-wall carbon nanotubes using scanning electron microscopy and energy dispersive X-ray spectrometry analysis

2 日本 ISO/TS 10867:2010

Nanotechnologies -- Characterization of single-wall carbon nanotubes using near infrared photoluminescence spectroscopy

2 日本 ISO/TS 10868:2017

Nanotechnologies -- Characterization of single-wall carbon nanotubes using ultraviolet-visible-near infrared (UV-Vis-NIR) absorption spectroscopy

2 日本 ISO/TS 11251:2010

Nanotechnologies -- Characterization of volatile components in single-wall carbon nanotube samples using evolved gas analysis/gas chromatograph-mass spectrometry

2 米・韓 ISO/TS 11308:2011

Nanotechnologies -- Characterization of single-wall carbon nanotubes using thermogravimetric analysis

2 韓国 ISO/TS 11888:2017

Nanotechnologies -- Characterization of multiwall carbon nanotubes -- Mesoscopic shape factors

4 中国 ISO/TS 11931:2012

Nanotechnologies -- Nanoscale calcium carbonate in powder form -- Characteristics and measurement

4 中国 ISO/TS 11937:2012

Nanotechnologies -- Nanoscale titanium dioxide in powder form -- Characteristics and measurement

2 ドイツ ISO/TS 12025:2012

Nanomaterials -- Quantification of nano-object release from powders by generation of aerosols

4 英国 ISO/TS 12805:2011

Nanotechnologies -- Materials specifications -- Guidance on specifying nano-objects

3 英国 ISO/TS 12901-1:2012

Nanotechnologies -- Occupational risk management applied to engineered nanomaterials -- Part 1: Principles and approaches

110

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WG 提案国 技術仕様番号 技術仕様名

3 フランス ISO/TS 12901-2:2014

Nanotechnologies -- Occupational risk management applied to engineered nanomaterials -- Part 2: Use of the control banding approach

2 中国 ISO/TS 13278:2017

Nanotechnologies -- Determination of elemental impurities in samples of carbon nanotubes using inductively coupled plasma mass spectrometry

3 CEN ISO/TS 13830:2013

Nanotechnologies -- Guidance on voluntary labelling for consumer products containing manufactured nano-objects

3 韓国 ISO/TS 14101:2012

SurfacEcharacterization of gold nanoparticles for nanomaterial specific toxicity screening: FT-IR method

2 日本 ISO/TS 16195:2013

Nanotechnologies -- Guidance for developing representative test materials consisting of nano-objects in dry powder form

3 イラン ISO/TS 16550:2014

Nanotechnologies -- Determination of silver nanoparticles potency by release of muramic acid from Staphylococcus aureus

4 日本 ISO/TS 17200:2013

Nanotechnology -- Nanoparticles in powder form -- Characteristics and measurements

2 中国 ISO/TS 17466:2015

Use of UV-Vis absorption spectroscopy in thEcharacterization of cadmium chalcogenide colloidal quantum dots

1 イラン ISO/TS 18110:2015

Nanotechnologies -- Vocabularies for science、 technology and innovation indicators

3 韓国 ISO/TS 18827:2017

Electron spin resonance (ESR) as a method for measuring reactive oxygen species (ROS) generated by metal oxide nanomaterials

3 米国 ISO/TS 19006 :2016

DCFH-DA assay for evaluating nanoparticle-induced intracellular reactive oxygen species (ROS) production

3 日本 ISO/TS 19337 :2016

Nanotechnologies -- Characteristics of working suspensions of nano-objects for in vitro assays to evaluate inherent nano-object toxicity

2 オランダ ISO/TS 19590 :2017

Nanotechnologies ––Size distribution and concentration of inorganic nanoparticles in aqueous media via single particle inductively coupled plasma mass spectrometry

1 米国 ISO/TS 20477 :2017

Nanotechnologies ––Standard terms and their definition for cellulose nanomaterial

3 イラン・韓国

ISO/TS 20787 :2017

Nanotechnologies – Aquatic toxicity assessment of manufatured nanomaterials in saltwater lakes using Artemmia sp.

2 日本 ISO/TS 21362 :2018

Nanotechnologies – Anapysis of nano-objects using asymmetrical-flow and centrifugal field-flow fractionation

1 IEC/ TC113

IEC/TS 62607-2-1:2015

Nanomanufacturing - key control characteristics for CNT film applications - Resistivity

2 IEC/ TC113

IEC/TS 62622:2012

Artificial gratings used in nanotechnology -- Description and measurement of dimensional quality parameters

1 カナダ ISO/TS 80004-1:2015

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 1: Core terms

1 英国 ISO/TS 80004-2:2015

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 2: Nano-objects

1 日本 ISO/TS 80004-3:2010

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 3: Carbon nano-objects

1 ドイツ ISO/TS 80004-4:2011

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 4: Nanostructured materials

1 英国 ISO/TS 80004-5:2011

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 5: Nano/bio interface

1 英国 ISO/TS Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 6: Nano-object

111

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WG 提案国 技術仕様番号 技術仕様名

80004-6:2013 characterization

1 英国 ISO/TS 80004-7:2011

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 7: Diagnostics and therapeutics for healthcare

1 米・英 ISO/TS 80004-8:2013

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 8: Nanomanufacturing processes

1 IEC/ TC113

ISO/TS 80004-9:2017

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 9: Nano-enabled electrotechnical products and systems

1 英・独 ISO/TS 80004-11:2017

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 11: Nanolayer, nanocoating, nanofilm, and related terms

1 ロシア ISO/TS 80004-12:2016

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 12: Quantum phenomena in nanotechnology

3 米国 ISO/TS 80004-13:2017

Nanotechnologies -- Vocabulary -- Part 13: Graphen and related two-dimensional (2D) materials

表 2-6 発行された技術レポート

WG 提案国 技術レポート

番号 技術レポート名

2 日本 ISO/TR 10929:2012

Nanotechnologies -- Characterization of multiwall carbon nanotube (MWCNT) samples

1 イラン ISO/TR 11360:2010

Nanotechnologies -- Methodology for the classification and categorization of nanomaterials

2 CEN/ TC352

ISO/TR 11811:2012

Nanotechnologies -- Guidance on methods for nano- and microtribology measurements

1 カナダ ISO/TR 12802:2010

Nanotechnologies -- Model taxonomic framework for use in developing vocabularies -- Core concepts

3 米国 ISO/TR 12885:2008

Nanotechnologies -- Health and safety practices in occupational settings relevant to nanotechnologies

3 米国 ISO/TR 13014:2012

Nanotechnologies -- Guidance on physico-chemical characterization of engineered nanoscale materials for toxicologic assessment

3 米国 ISO/TR 13121:2011

Nanotechnologies -- Nanomaterial risk evaluation

3 韓国 ISO/TR 13329:2012

Nanomaterials -- Preparation of material safety data sheet (MSDS)

1 米・加 ISO/TR 14786:2014

Nanotechnologies -- Considerations for the development of chemical nomenclature for selected nano-objects

3 米国 ISO/TR 16196 :2016

Nanotechnologies -- Compilation and description of sample preparation and dosing methods for engineered and manufactured nanomaterials

3 米国 ISO/TR 16197:2014

Nanotechnologies -- Compilation and description of toxicological screening methods for manufactured nanomaterials

1 米国 ISO/TR 17302:2015

Nanotechnologies -- Framework for identifying vocabulary development for nanotechnology applications in human healthcare

2 米国 ISO/TR 18196 :2016

Nanotechnologies Measurement technique matrix for thEcharacterization of nano-objects

1 英国 ISO/TR 18401 :2017

Nanotechnologies –- Plain language explanation of selected terms from the ISO/IEC 80004 series

3 米国 ISO/TR 18637 :2016

Nanotechnologies – Overview of available frameworks for the development of occupational exposure limits and bands for nano-objects and their aggregates and agglomerated (NOAAs)

112

Page 117: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

WG 提案国 技術レポート

番号 技術レポート名

3 南ア ISO/TR 19057 :2017

Nanotechnologies –- Use and application of acellular in vitro tests and methodologies to assess nanomaterial biodurability

3 韓国 ISO/TR 19601 :2017

Nanotechnologies –- Aerosol generation for air exposure studies of nano-objects and their aggregated and agglomerates (NOAA)

2 カナダ ISO/TR 19716 :2016

Nanotechnologies -- Characterization of cellulose nanocrystals

表 2-7 作業中の規格

WG 提案国 標準番号 標準名 ステータス

3 米・韓 ISO/CD 20814 Nanotechnologies – Testing of the Photocatalytic activity of Nanoparticles for NADH oxidation

DIS 投票・タイトル変更の承認

表 2-8 作業中の技術仕様

WG 提案国 標準番号 標準名 ステータス

3 南ア ISO/WD TS 21633

Label-free impedance technology to assess the toxicity of nanomaterials in Vitro

新規プロジェクト登録

3 韓国 ISO/NP TS 22082

In vivo toxicity assessment of nanomaterials using dechorionated zebrafish embryo

新規プロジェクト登録

3 韓国 ISO/AWI TS 22455

High throughput screening method for nanoparticels toxicity using 3D cells

TS → TR変更投票終了

3 日本 ISO/NP TS 23034

Nanotechnologies –Method to estimate cellular uptake of carbon nanoaterials using optical absorption

新規プロジェクト登録

3 イラン ISO/NP TS 23459

Nanotechnologies –Monitoring of protein secondary structure alteration following an interaction by nanomaterials – Circular dichroism spectroscopy

NP投票終了

表 2-9 作業中の技術レポート

WG 提案国 標準番号 標準名 ステータス

3 米国 ISO/DTR 12885.2

Nanotechnologies -- Health and safety practices in occupational settings relevant to nanotechnologies

DTR 投票終了

3 中国 ISO/AWI TR 21386

Nanotechnologies -- Considerations for the measurement of nano-objects and their aggregates and agglomerates (NOAA) in environment matrics

新規プロジェクト登録

3 米国 ISO/AWI TR 21624

Considerations for in vitro studies of airborne engineered nanomaterials

新規プロジェクト登録

3 オ ラ ンダ

ISO/NP TR 22019

Considerations in performing toxicokinetic studies of nanomaterials

新規プロジェクト登録

3 米・加 ISO/NP TR 22293

Evaluation of methods for assessing the release of nanomaterials from commercial, nanomaterial-containing polymer composites

NP投票終了

3 韓国 ISO/NP TR 23463

Nanotechnologies: Characterization of carbon nanotube and carbon nanofiber aerosols in relation to inhalation toxicity tests

NP投票終了

(2) WG3(健康・環境・安全関連)の動向

WG3 は 2018 年 5 月にロンドンで中間会合が開かれ、2018 年 11 月にマレーシアの総会にあわせてプ

113

Page 118: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

ロジェクトミーティングが行われた。以下に、2018 年 5 月のロンドン中間会合時点の各プロジェクトの進捗

状況を記す。なお、タイトル名は前掲の表と異なる場合があるが、プロジェクト進行中にタイトルを変更し

つつあるものである。

(ア) プロジェクトの進行状況

PG23(CD 20814:Nanotechnologies – Testing of the photocatalytic activity of nanoparticles for

NADH oxidation)

CD(Committee Draft(委員会原案))投票に対する確認会議で、今回の議論での修正点を反映

し、DIS(Draft international standard(国際規格案))投票に進めることが決定した。

PG24(AWI TR 21386:Nanotechnologied – Considerations for the measurement of nano-objects,

and their aggregates and agglomerates (NOAA) in the environment)

マレーシア総会で最終ドラフトとする。

PG25(AWI TR 21624:Considering for in vitro studies of airborne engineered nanomaterials)

さらに情報収集を募り、ドラフトを改訂、エキスパートに回覧する。

PG26(AWI TS 21633:Label-free impedance technology to assess the toxicity of nanomaterials in

vitro)

前々回のソウル総会後の改訂に対するコメント解決会議で、今回の議論を入れた改訂版を回覧

し、寄せられたコメントについてマレーシア総会で議論する。

PG27(AWI TR 22019:Nanotechnologied – Considerations in performing toxicokinetic studies of

nanomaterials)

ドラフトについて議論し、情報収集を継続、改訂版を回覧し、マレーシア総会で議論する。日本

からもコメントをまとめる。

PG28(NP TS 22082:In vivo aquatic toxicity assessment of nanomaterials using dechorionated

zebrafish embryo)

ソウル総会で示された 2 つの重要な議論に対する回答が示され、今後のフェーズごとのスケジュ

ールが示された。20199 年中にフェーズ III までを終了する予定。

PG29(AWI TR22293:Evaluation of methods for assessing the release of nanomaterials from

commercial, nanomaterial containing polymer composites)

スコープの修正が検討される。各国コメントへの対応案を確認し、日本からのコメントの多くが受

け入れられた。今後コアメンバーで検討し、ドラフトを完成させ、2019 年の胚やイ段階で投票にかけ

る予定。

PG30(AWI TR 22455:High throughput screening method for nanoparticles toxicity using 3D cells)

ベルリン中間会合での議論を受けて、投票により TS から TR と変更になった。WG5 でも類似の

PWI がなされている。WG3 では毒性評価に主体を置いている。TR となったことで情報収集を進め、9

月末までに改定ドラフトを配布、コメント募集、マレーシア総会で議論する。

PG31(AWI TS 23034:Methos for quatification of cellular uptake of carbon nanomaterials by using

optical absorption measurement)

114

Page 119: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

ソウル総会後の改定ドラフトに対する各国コメントに対する議論した。再度改訂し、エキスパートに

回覧する。9 月末までエキスパートへの回覧とコメント募集。寄せられたコメントに対して、マレーシア

総会で議論する。

PG32(AWI TR 23463:Characterization of carbon nanotube abd carbon nanofiber aerosols in relation

to inhalation toxicity tests)

投票で可決後、初めての会議。今後、エキスパートの追加を進め、コメント募集、ドラフト配布し、

マレーシア総会時にコメントを議論する。

(イ) OECD WPMN との連携

OECD WPMN に対して、WG3 のエキスパートがインプットを提供するかについての議論が行われ、7

つの新 WPMN プロジェクトに対して、参加者を募り、4 つのプロジェクトに対して WG3 で分担するエキス

パートが決定した。

Determination of solubility and dissolution rate of nanomaterials in water and relevant synthetic

biologically media

Idetification and quatification of the surface chemistry and coating on nano and microscale

materials

New TG on Determination of the Dustiness of Nanufactured Nanomaterials

TG on toxicokinetics or Amendments to OECD TG 417 to accommodate nanomaterials

115

Page 120: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

3. ナノ材料、内分泌かく乱の安全性情報 3-1. ナノ材料

(1) 公共機関、プロジェクト等のナノ材料の安全性に関する取組みの情報

(ア) 米国

(i) AIHA の取組み

(a) ナノ材料輸出入ファクトシートを発表

アメリカ産業衛生協会(American Industrial Hygiene Association、AIHA)は、ナノ材料製品の輸出入

管理に関するファクトシート(原題「Nanomaterial Product Stewardship: National Security Implications of

Export-import Activities」)を、AIHA のナノテク作業部会が提供する出版物として公開した。認定産業衛

生士である C・R・ネゼヴィッチ氏(C.R. Knezevich)が執筆した。ナノ材料に関連する輸出入規則、米国に

よる輸出状況のレビュー、輸出入関連の推奨実務とリソースについて、概観が示されている。このファクト

シートの目的は、製品安全専門家と産業衛生士がナノ材料の輸出入要件を概観できるようにすることであ

り、規則遵守のためのガイドとして使われることは目的としていない。このファクトシートでは、ナノテクは

「急速に変化しているうえに、健康、安全、環境、プロダクト・スチュワードシップ(サプライチェーン全体を

通して製品を安全に管理すること)への配慮が求められる分野」であり、ナノ材料を輸出することは「国際

的にプロダクト・スチュワードシップを考えるという、さらなる課題を提起する」ものであるとしている。こうした

課題に取り組むためには、企業内の複数の部門の協力が必要になり、そこに含まれる産業衛生士には

「技術、倫理、クリティカル・シンキングのスキルといった面で、国際ビジネスチームに貢献することが求め

られる」という。ナノ材料の輸出入活動に携わっている人には必読のものである。(AIHA は、1939 年に設

立された、会員の専門性の維持・向上を目的とした非営利団体である。8,500名近くの会員の半数以上は

認定産業衛生士(CIH)である。Certified Industrial Hygienist(CIH)は、米国産業衛生専門家評議会

(American Board of Industrial Hygiene:ABIH)による学会認定資格。ABIH 認定の所定プログラムを卒業

し、一定の実務経験を満たした者にだけ CIH 認定試験の受験資格が与えられる。)

(ii) その他機関の取組み

(a) 製品からの工業ナノ材料へのばく露の定量化に関するワークショップを開催

米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、「第 2 回工業製品からの工業ナノ材料のばく露の定量化ワ

ークショップ(QEENⅡ)」を、2018 年 10 月 9 日~10 日にワシントン DC において開催すると発表した。国

家ナノテク・イニシアチブ(NNI)が米国労働省労働安全衛生局(OSHA)と共催する。なお、第 1 回の同ワ

ークショップは 2015 年に開催されている。

同ワークショップでは、ナノ材料の存在・放出可能性や住民/作業者へのばく露を定量化し特徴づけ

るツールおよび手法について焦点をあてる。NNI によれば、このプログラムではばく露、ハザード、リスクを

統合することで、ナノ材料の環境、健康、安全性(EHS)評価の不確実性を削減することを取り上げる。ワ

ークショップの目標は、学際的な研究連携のために優先順位と選択肢を見極めることを含む。

ワークショップは一般の参加が可能で、参加費は無料、人数は先着順で 180 名である。参加登録は

2018 年 7 月 9 日に開始された。

なお、2018 年米国・EU ナノ EHS 共同ワークショップ(第 7 回)も、上記ワークショップ直後の 10 月 11

116

Page 121: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

日~12 日にワシントン DC で開催予定である。

(b) CDC、NIOSH NTRC に関する資料を発表

2018 年 7 月 9 日、疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)は、傘

下の国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、組織内のナノテクノロジー研究センター(Nanotechnology

Research Center:NTRC)に関する資料を発表した。NTRC は、工業ナノ材料へのばく露がヒトの健康に与

える影響に関する研究を実施し、ばく露を制御あるいはなくすための手法を開発している。NTRC の業績

は以下の通りである。

2017 年中に 101 編の査読付き論文を発表

カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー製造所の空気サンプル分析手法の発表(NIOSH 分

析手法マニュアル〔NIOSH Manual of Analytical Methods:NMAM〕第 5 版中)

ライフサイクルにわたるナノ材料の毒性の健康への影響に関する最初の論文のうち一つを発表

3D プリンタからの排出物に関する調査

ナノまたはコロイド銀を有効成分とする 22 のスプレー製品について、メーカーが主張する値と実測の

含有量の差異の調査

ナノ材料を扱う 3 つのケースについての作業場設計の推奨例の発表

ナノ材料を扱う作業を開始する前に、安全確保について自問するためのポスターの公表

また、NTRC の今後の課題として以下が挙げられている。

銀ナノ材料に対する職場でのばく露の健康への影響に関する資料の出版

ナノクレイおよび窒化ホウ素ナノチューブのバイオマーカー、発がん毒性、肺に対するばく露の評価

工業ナノ材料に対する職場でのばく露の閾値・幅の設定アプローチに関する資料の査読

(c) 米国 NNI、ナノメディシンとナノ EHS の関連性に関するウェビナーを開催

米国国家ナノテク・イニシアチブ(NNI)は、ナノテク研究開発コミュニティと一般での情報共有のために

定期的にウェビナーを開催している。2018 年 8 月 20 日のウェビナーは、毒性学やばく露に関連するナノ

EHS(ナノ材料の環境、健康、安全性への影響)とナノメディシンの共働がテーマである。これら 2 つの分

野で開発されるツールやアプローチにどのようなものがあり、互いの分野をいかに支援することができるか、

研究者と実務家を対象に議論する。モデレーターは Dr. Mark Hoover(NIOSH)と Dr. Christina Liu(NIH)、

パネリストは Dr. Hamid Ghandehari (ユタ大学)、Dr. Christine Payne (デューク大学)、Dr. Monika

Mortimer(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)である。

NNI は、ナノメディシン研究と 潜在的な毒性およびばく露の探究を含む、ナノ材料の環境、健康、お

よび安全性(ナノ EHS)の影響に関する研究とは多くの相乗効果があると指摘している。これらの補完的な

分野の研究はますます発展しており、このウェビナーではこれらの分野がお互いをサポートし、補い合うこ

とのできる方法を模索する。 パネリストは、これら 2 つの分野の比較概要を提供し、各々のツールとアプロ

ーチがいかに発展してきたか、そしてお互いに情報交換するかについて議論する。

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Page 122: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

(d) NNI、ナノテクノロジー商業化への技術的経路に関するウェビナーを開催

米国の NNI は、ナノテク研究開発コミュニティと一般での情報共有のために定期的にウェビナーを開

催している。2018 年 9 月 19 日の公開ウェビナーは「ナノテクノロジー商業化への技術的経路(Technology

Pathways)」と題し、製造工程における品質管理をテーマとし、2017 年 11 月に開催された技術経路ワーク

ショップに基づくものである。モデレーターは Dr. Lisa Friedersdorf(全米ナノテクノロジー調整局 National

Nanotechnology Coordination Office; NNCO のディレクター)、パネリストは Katherine Barton(Nano-C;

2001 年設立、マサチューセッツ州ウエストウッドに拠点を置き、カーボンナノチューブ等ナノカーボン材料

製造、エネルギー関連事業を行っている民間企業)、Doug Singer(Cerion Advanced Materials; 2007 年

設立、ニューヨーク州ロチェスターに拠点を置き、ナノ材料の製造および研究開発を行う民間企業)らで

ある。

(イ) EU

(i) JRC による取組み

(a) NANoREG フレームワーク

EC の共同研究センター(JRC)は、『JRC Science for policy report: NANoREG framework for the safety

assessment of nanomaterials』(ナノ材料の安全性評価のための NANoREG フレームワーク、2017 年 4 月)

と題する政策科学報告書を発表した。報告書は、NANoREG プロジェクト「ナノ材料の規制試験に関する

欧州共通の取組み」の中で開発された。

NANoREG フレームワークは、現在の欧州の規制枠組み下で、REACH 規則に焦点を当て、ナノ材料

の環境健康安全(EHS)評価の分野における共通理解のためのプロジェクトの提案を表している。この報

告書はまた、ナノ材料のための REACH の実施を促進する必要性に関する進行中の議論に貢献すること

を意図している。

主要な結論は、EC、Echa、OECD、科学界が、「近年、ナノ材料の EHS に関する知識を改善し、障害

を除去し、ナノ材料の規制要件に取組んでいるステークホルダーを具体的に支援するために緊密に協力

してきた」という指摘である。フレームワークは、safe-by-design、ナノ材料特有の優先順位づけとリスク評

価、ライフサイクルアセスメント、という将来を見据えた戦略を提供しており、科学専門家、規制当局、業界

を対象としたものである。

(b) Nanocomput プロジェクト報告書

JRC は、2017 年 10 月に、Nanocomput プロジェクトの最終報告書として『Evaluation of the availability

and applicability of computational approaches in the safety assessment of nanomaterials: Final report of

the Nanocomput project』(ナノ材料の安全性評価における計算手法の有用性と適用性の評価)を公表し

た。

Nanocomput プロジェクトの主な目的は、工業ナノ粒子の性質を予測するのに有用である可能性のあ

る計算手法の現状をレビューし評価することにより、これらのアプローチが REAC 規制の目的にために役

立つかどうかの助言を提供することである。このプロジェクトは、定量的構造物性関係(QSPR)と定量的構

造活性関係(QSAR)モデル、及びそれらのナノ材料の特性を予測する潜在的な役割を強調した。さらに、

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Page 123: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

Nanocomput プロジェクトは、多様な配列のコンパートメントベースの数学モデルの状態を評価した。これ

らのモデルには、毒物動力学的、毒物動態学的、in vivo 及び in vitro の用量決定並びに環境運命モデ

ルが含まれる。本レポートには、Nanocomput プロジェクトの全体的な結論として、文献レビューやグルー

ピングとリードアクロスに関する研究ベースの事例研究からの教訓が含まれているナノ材料の挙動や知識

やツール(データベースや予測モデルなど)の適用性における現状の知識の欠点を克服することを意図

した勧告及び、ナノ材料の規制レビューにそのようなツールを使用する実践的なガイダンスを提供してい

る。

(c) NANoREG Toolbox の発行

JRC は、2017 年 10 月に、ナノ材料の安全性評価のための NANoREG ツールボックスを発行した。JRC

はこれまでに、ナノ材料の安全性評価のための NANoREG フレームワークと名付けられた科学政策の報

告書を発表している。NANoREG フレームワークは、REACH 規則に頂点を当て、現在の欧州の規制枠組

みのもとでのナノ材料の環境健康安全評価の分野における共通理解のためのプロジェクトの提案を提示

したものであった。

ツールボックスは、欧州 REACH の文脈における規制当局やその他の違い関係者にとって有用な利

用可能なツール(試験方法、データ施 tt-、モデル、ガイダンス文書、ディシジョン・ツリー)の概要を提供

することにより、フレームワークの実行を支援するものである。ツールボックスでは、現在の(現在利用可能

なツールとアクセス可能な)ツールと、将来の(約束された)ツール、を区別している。データセットは、「拡

張または活用のために、規制当局や産業界のグローバルナノ EHS コミュニティーが自由に入手できる」。

(d) 新しいナノ材料の環境毒性試験スクリーニング手法を発表

JRC は、ナノ材料の環境毒性に関する新しい標準試験手順に関する論文「新しいナノ物質環境毒性

スクリーニング標準試験手順の導入(ISO / TS 20787):アルテミア種 nauplii を使用した塩水湖でのナノ材

料の水生毒性評価」を発表した。専門誌 Toxicology MEchanisms and Methods の電子版にて 2018 年 9

月 27 日付で出版されている。(原題「Introducing a new standardized nanomaterial environmental toxicity

screening testing procedure, ISO/TS 20787: aquatic toxicity assessment of manufactured nanomaterials

in saltwater lakes using Artemia sp. nauplii.」)

この試験手順は、アルテミア種を用いて塩水湖の生態系における環境毒性を評価することで、より信

頼性と再現性の高いナノ材料の水生毒性データを得るためのものである。この論文では、アルテミア種を

用いた試験の原理および、2009 年から 2018 年の間に発表されたアルテミア種を使用したナノ材料の評

価に関する研究の概要をレビューしている。

(e) ナノ材料安全性評価の公開ツールのインベントリーを論文で発表

JRC は、ナノ材料の安全性評価のために一般に公開され今すぐ利用可能なツールに関する情報をデ

ータベースにまとめる取り組みに関する論文を発表した。ナノ EHS に関する国際専門誌 NanoImpact の

Volume 12(2018 年 10 月版)にて出版されている。

同論文によれば、JRC は NANoREG ツールボックスと呼ぶこのデータベースの構築を進めており、論

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Page 124: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

文執筆当時 544 のツールに関する情報を掲載している。これらツールはナノ材料の安全評価におけるす

べてのタスクを網羅しており、世界各地におけるナノ材料安全評価に適用可能である。また、これらのツ

ールはナノ材料安全性に対する代替アプローチ(安全設計、ライフサイクルアセスメント等)もサポートす

る。

論文の原文題名は、「An inventory of ready-to-use and publicly available tools for the safety

assessment of nanomaterials」。

このツールボックスは、規制の観点からナノ材料の環境、健康、安全面に関する理解を深めることを目

的とした EU NANoREG プロジェクトの支援を受けて開発され、 2017 年 2 月に終了した。

このインベントリーは「国際社会の努力によって維持され、その分野のすべての利害関係者に利益を

もたらす、最新かつ調和のとれたデータベース」になる可能性があると JRC は述べた。論文によると、これ

は、昨年 JRC データカタログに掲載され、「史上初の自由にアクセス可能なインベントリー」である。この論

文はその構造と内容を説明し議論し、出版時のツールの定量的概観も提供した。

「ツール」とは、「特定の種類のアウトプットを生成、収集、評価、および/または保存するために使用さ

れる実験結果、コンピュータに収容されたもの、または決定手順」と定義されている。ツールは、i)NMの安

全性を評価するプロセスにおけるエンドポイントに直接対処または支援する、(例えば、特定の物理化学

的または毒物学的特性、水中または土壌中のばく露レベルの予測)または、ii)1 つまたは複数のエンドポ

イントに対処するプロセスにおいて必要または役立つ (これらのツールは、例えば分散プロトコルおよび

データ品質評価ツールなどが含まれる)。

伝統的な化学的リスク評価パラダイムに従ってNMの安全性を評価することに対して一般的に認識さ

れている課題は、評価を必要とする新規なNMが絶え間なく増加することによって強調される、方法論お

よびデータ入手可能性におけるギャップを含んでいる。そのため、ナノテクノロジーのガバナンスへの取り

組みでは、設計による安全化、ライフサイクルアセスメント、複数基準による意思決定分析などのアプロー

チを含め、安全性を評価して達成するため、そしてデータ共有とリスクコミュニケーションを改善する、より

統合的な方法が求められている。NANoREG ツールボックスには、そのような活動のための既存のツール

に関する情報がすでに含まれており、新しいタイプのガバナンスの手段に対応するように簡単に拡張でき

る。

(f) 欧州委員会、JRC によるナノ材料の安全性評価手法の研究を整理・紹介

欧州委員会の科学情報提供サイト「EU Science Hub」は、2018 年 12 月 18 日付の記事で、欧州委員

会 JRC 研究者によるナノ材料の安全性評価手法に関する情報提供など、その発展促進を目指した取り

組みを紹介した。同記事では、最近 JRC 研究者が発表した関連論文もリンク付きで紹介されており、JRC

の直近の一連の取り組みを整理できる。

例えば、「1-1.(4)(ア)(v)試験と評価の統合アプローチ(IATA)のケーススタディ」で紹介した、

OECD の 試験および評価のための 統合的アプローチ( Integrated Approaches to Testing and

Assessment: IATA)の枠組みで実施されている、「ナノ材料のグルーピングとリードアクロス-ナノ二酸化

チタン(TiO2)の遺伝毒性(原題「Case Study on Grouping and Read-Across for Nanomaterials —

Genotoxicity of Nano-TiO2」」にも触れている。毒性予測へのアプローチとして、他の化学物質に広く用

120

Page 125: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

いられているグルーピング手法をナノ材料に適用する場合の課題解決に向けた取り組みとして紹介して

いる。

この他にも、JRC 独自の取り組みとして、JRC の研究者が発表した、ナノ材料の安全性評価に計算モ

デルが利用できることやこうしたモデルが存在することを示す一連の論文も紹介している。これら論文は、

コンピュータによりナノ材料のハザード特性を予測する手法を発展させることや、これらの手法を規制上の

意思決定に適用することを後押しするものであるが、規制の実施に利用するうえでの課題は残されている

ことも示しているという。これらの論文の中で、JRC 研究者は、文献調査を通して異なる計算モデルを分析

し、その概要を示している。分析されたモデルには、例えば、ナノ材料の時間に依存する分布をシミュレ

ートするものや、毒性や物理化学的な特性を予測するものなどがある。

こうした JRC 研究者による一連の論文の直近の例としては、2019 年 2 月発行の「Computational

Toxicology」誌に掲載された「遺伝毒性リードアクロスのための複層カーボンナノチューブ(MWCNT)のグ

ルーピング:規制ガイダンスへの適用性ケーススタディ(Grouping of multi-walled carbon nanotubes to

read-across genotoxicity: A case study to evaluate the applicability of regulatory guidance)」が挙げられ

る。グルーピングには、Echa のグルーピング及びリードアクロスに関するガイダンスを利用している。同研

究では、対象となった物理化学的特性の異なる類似物質(MWCNT)間で、遺伝毒性の違いはみられな

かったという。ただし、類似物質間で、長さ、直径、強度等の物理化学的特性に大きな違いはなかったこ

とや、これらのプロパティは発がん性等の他のハザードエンドポイントに影響する可能性があることの但し

書きが添えられている。また、この研究は Echa グルーピングフレームワークが、Echa リードアクロス評価フ

レームワーク(Read-Across Assessment Framework: RAAF)と同様に実用上の適用性があること、また、ケ

モインフォマティクスがいかにこのグルーピングフレームワークを支えているかを示した。2019 年 2 月 15

日付のプレスリリースでこの論文を紹介した EUON は、本研究が Echa のグルーピングに関するガイダンス

の適用性を示すことに成功しているとした。

(ii) EFSA による取組み

(a) EFSA パネルによるセレンナノ材料の食品接触材料の許可と安全性評価

Efsa(欧州食品安全局)の科学パネルは、2017 年に食品接触材料(FCM)への使用に関して、セレン

ナノ粒子を通過させた。

セレンナノ粒子は、酸化の影響を受けやすい FCMs の酸化防止剤として使用される。Efsa の食品接触

材・酵素・香料・加工助剤(CEF)パネルは、ポリオフィン層によって食品から分離された多層フィルムに使

用される際に、食品中へのセレンの移行を検出しなかった。このようにして、ナノ粒子は、消費者に安全

上のリスクをもたらさない、と結論づけた。

これに関連して、Efsa の CEF パネルは、(PET)層と内部ポリオフィン(食品接触)層とを含む多層ラミネ

ートの接着中間層にセレンナノ粒子を組込んだ食品接触材料(FCM)物質番号 1070 を評価した。パネル

の評価結果は、EFSA ジャーネルの 2018 年 1 月号に「活性な食物接触材料に使用するための活性物質

セレンナノ粒子の安全性評価」と題する論文に掲載された。全ての試験において、セレンの移動は検出

できなかった。この論文では、ポリマー中のナノ粒子の拡散特性に関する現在の知識を考慮して、パネル

121

Page 126: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

は次のように結論した;「セレンナノ粒子を多層フィルムに用い、ポリオフィン食品接触層によって食品から

分離した場合、どのようなタイプの食べ物でも、どのような食べ物の接触状態でも、消費者にとって安全性

の懸念はない」。なお、試験に用いられた活性セレンナノ粒子のサイズは、50-90nm である。

(b) EFSA による二酸化チタン食品添加物の潜在的毒性を示す研究レビュー

二酸化チタンはEUで認証された食品添加物(E171)として利用されているが、その安全性に関する疑

問の声が上がっており、フランスではその使用を禁止する動きが出ている。欧州レベルでは、Efsa が欧州

委員会の要請を受けて、二酸化チタンの潜在的毒性に関する 4 件の研究の科学的評価を実施し、2018

年 7 月 4 日、EFSA ジャーナルで結果を公表した。4 件の研究は以下のとおり;

Bettini S et al., 2017. Food-grade TiO2impairs intestinal and systemic immune homeostasis,

initiates preneoplastic lesions and promotes aberrant crypt development in the rat colon.

Scientific Reports, 7, 40373

Proquin H, Rodriguez-Ibarra C, Moonen CG, Urrutia-Ortega IM, Briede JJ, de Kok TM, van

Loveren H and Chirino Y,2017. Titanium dioxide food additive (E 171) induces ROS formation

and genotoxicity: contribution of micro and nano-sized fractions. Mutagenesis, 32, 139–149

Guo Z, Martucci N, Moreno-Olivas F, Tako E and Mahler G, 2017. Titanium dioxide nanoparticle

ingestion alters nutrient absorption in an in vitro model of the small intestine. NanoImpact, 5, 70–

82, January 2017

Heringa MB, Geraets L, van Eijkeren JCH, Vandebriel RJ, de Jong W and Oomen AG, 2016. Risk

assessment of titanium dioxide nanoparticles via oral exposure, including toxicokinetic

considerations. Nanotoxicology, 10,1515-1525

Efsa の専門家パネルによれば、これらの研究のうち 3 つは、二酸化チタンによるハザードの特定に役

立つものの、研究に使用されるプロトコルが再現できる実際の条件が少ないこと、また、研究における前

提条件が多すぎるため結果の再現可能性を下げる結果となっているため、二酸化チタンのリスク評価に

おけるこれら研究の有用性は低いと指摘した。残り 1 つは、多くの仮定がなされており、結論に大きな不

確実性が残るとした。

評価対象の各研究への具体的な Efsa の見解は以下の通り;

Bettini らの研究(2017)では発がん性調査の根拠に不十分な点があるため、将来的にその機序

に関する有意義な情報が得られれば、再検討する余地がある。

Proquin らの研究(2017)における in vitro 試験結果は、二酸化チタンを食品添加物として使用す

る際の遺伝毒性について、経口摂取では粒子サイズによらずバイオアベイラビリティーが低く、食

品添加物として利用しても遺伝毒性的な懸念が増すことはないという、EFSA パネルによる意見

(2016)と同様であった。

二酸化チタンナノ微粒子に関する Guo らの研究(2017)には生物学的な重要性に不確実さがあり、

食品添加物としての二酸化チタンのリスク評価とは関連性が限定的であった。

Heringa らの研究(2016)のリスク評価には重大な不確実性があり、データベースのエビデンス分

122

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析の重み付けが含まれていない。

これらの検討の結果、二酸化チタンの食品添加物としての安全性について、経口摂取した二酸化チ

タン(E171)粒子(マイクロサイズがほとんど。ナノサイズは 3.2%以下(重量%、数では約 40%)が in vivo 試

験で遺伝毒性を示すことはないという EFSA の既存の見解を再検討する必要はないと結論づけた。

(iii) その他機関、プロジェクト

(a) NANOPACK が食品包材を開発

2018 年 6 月 15 日、欧州委員会は、EU から助成金を受けている研究プロジェクトの成功事例として、

NANOPACK を紹介するプレスリリースを発表した。NANOPACK は、スマート抗菌剤により食品の保管寿

命を延ばすことを可能とする包材(包装資材/包装材料)を開発したと発表した。

欧州委員会によれば、これは微小のナノチューブ構造を利用した新しいポリマー構造で、研究者らは

現在5つのパイロット製造施設を稼働させ、技術的、工業的、商業的な実行可能性の試験を始めている。

この製品は天然のハロイサイトナノチューブ(halloysite nanotubes:HNT、サブミクロンの大きさで中空多

層管状構造を持つアルミノケイ酸塩)からなり、EU で承認された生物活性剤または油(天然のエッセンシ

ャルオイル)を表面に含ませそれを放出させることにより食品を劣化またはカビから守るものである。欧州

委員会は、HNT は非常に小さく、包材から食品に移行することのない安全で自然な保存料であるとして

いる。また、欧州委員会によれば、プロジェクトは消費者や小売業者の受容性に加え、法・安全性・環境

上の観点について検討している。NANOPACK は、2017 年 1 月から 2019 年 12 月までの期間で総額 767

万ユーロを Horizon 2020 から助成されている。

(b) マイクロプラスチックが制限されない場合の「広範な」リスク - EU 科学グループのレポート

マイクロプラスチックによる生態学的リスクは現在のところ非常に小さいが、規制が課されないと広範囲

になる可能性がある、と欧州委員会に助言した科学ワーキンググループは結論を出した。この「欧州アカ

デミーによる政策に対する科学的助言(Sapea)」からの報告によると、現在のところ、ナノおよびマイクロプ

ラスチック(NMPs)にさらされる危険性があるのは、一部の特定の地域のみである。しかし、「将来的に何

の制限もなく、NMPs が現在のようにより大きなプラスチックの破片から放出または生成され続けると、ほと

んどの地域で広範囲に及ぶ将来のリスクが生じる可能性がある」と付け加えている。

Sapea は、欧州委員会の「科学助言メカニズム(SAM)」の一部であり、EU のエグゼクティブに独立した

助言を提供する。

ヒトにとって、NMPs の毎日の摂取量がどの位であるかは不明であるが、ヒトが他の化学物質の混合物

の中でそれらの相対的な寄与が「現在はおそらく小さい」、とグループは言う。SAM は現在、マイクロプラ

スチックの科学的根拠と政策の情況を検討しており、Sapea のレポートはこの春にオピニオンとして報告さ

れる予定である。レポートによると、生態学的リスクとヒトの健康リスクについては「ほとんどわかっておらず、

「知られていることはかなりの不確実性に囲まれている」。 実験室でのマイクロプラスチックへのばく露は

「著しい、悪影響」があるが、これが自然において起こるという証拠はない、と付け加えている。それは、害

の程度をより正確に予測し、対策と行動に優先順位をつけるために、改善された、国際的に標準化され

た方法を通して、より多くの知識を要求する。欧州委員会は Echa に、すべての消費者用および業務用製

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品に意図的に添加されたマイクロプラスチック粒子の使用に関する REACH 付属書 XV 規制書類を準備

するよう要請した。 そして 9 月に、欧州議会は禁止に投票した。

Sapea の報告書「A Scientific Perspective on Microplastics in Nature and Society」;

https://www.sapea.info/wp-content/uploads/report.pdf」

(ウ) その他の国の取り組み

(i) フランス

(a) Anses は新しい二酸化チタンの in vitro 遺伝毒性試験を求めている-不一致の結果が遺伝毒性

の結論を妨げているため

フランス食品環境労働衛生安全庁(Anses)によると、二酸化チタンナノ粒子(NPs)の新規かつ改良され

た in vitro 遺伝毒性試験が緊急に必要とされているという。Anses は、二酸化チタンの有害性評価のため

の発がん性情報を収集する間に、遺伝毒性に関する結論に達するのに十分な in vivo 試験がほとんどな

いことを見出した。 同庁の化学物質評価部門のチームが書いた報告書によると、「in vivo のデータセット

の品質が低いため、二酸化チタン NPs の遺伝毒性プロファイルの誤った解釈につながる可能性が高

い。」 「in vivo データが in vitro データよりも有害性との関連が高いとみなされても、残念なことに、二酸化

チタン NPs の遺伝毒性について結論づけるには余りにも限定されている。」と Nanotoxicology 誌に書いて

いる。一方で、多くの in vitro 研究が利用可能であるが、これらはまた、一貫性のない遺伝毒性プロファイ

ルを与えている、と付け加えている。

二酸化チタンは 2013 年にコミュニティローリング行動計画(Corap)に追加されたが、その評価は異な

るタイプのナノ材料のアイデンティティ(形状、サイズ、コーティング)に関する問題に悩まされている。 難

しさはこの物質の無数の用途によって拡大する。フランスは、信頼できる in vivo 実験がないため、二酸化

チタン NPs の遺伝毒性ポテンシャルを、さらに in vitro および in vivo で調査することが本質的に必要であ

ると述べ、2018 年 3 月に Corap 正当化文書(justification document)を更新した。

Anses は、ほとんどの in vitro 研究が二酸化チタンのルチル型およびアナターゼ型であることを見出し

た。 後者は光触媒であり、光による反応性酸素種の形成によって試験結果に有意に影響を及ぼす可能

性があることを意味する。「光触媒効果を有する NPs から得られた in vitro 遺伝毒性の結果を解釈する際

には、光の影響を考慮する必要がある。」と、Anses チームは書いている。

細胞株を慎重に選択し、NPs がアッセイ機能と干渉しないことを確認することも重要である、とつけ加え

ている。 チームは、標準的で短時間のアッセイのみならず、24 時間以上持続する in vitro 試験を必要と

している。 これは、DNA損傷メカニズムの「広い範囲」を同定するのに役立つはずである、と示唆している。

ネガティブな遺伝毒性の結果は、細胞株が NPs ばく露にどのように反応するか、そして NPs がテストシス

テムが正常に機能することを妨げるかどうかを調べることで確認する必要がある。

最後に、Anses チームは、生データにアクセスして詳細な報告を行うように求めている。 これは「規制

機関による適切な説明のために不可欠」と言っている。二酸化チタン NPs の有害性は「社会にとって興味

のある話題」であるため、当機関は公表されたデータの増加を期待している。 しかし、それは研究者に、

「品質はデータの量を超えて改善する必要がある」と強く思い起こさせる。

Echa のリスクアセスメント委員会は、2017 年に二酸化チタンを吸入によるカテゴリー2 発がん物質に分

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類することを決定した。 いくつかの EU 加盟国は、分類を直接CLP に翻訳すべきではなく、粒子サイズや

形態に基づいて分割エントリーを行うべきであると提案している。

(ii) (ⅱ) ドイツ

(a) BMU ナノ材料長期的安全性研究「Nano-In-Vivo」報告会を開催

2018 年 4 月 23 日 およ び 24 日 に 、 ド イ ツ 連 邦 環 境 ・ 自 然 保 護 ・ 建 設 ・ 原 子 炉 安 全 省

(Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und nukleare Sicherheit:BMU)大臣は、ナノテクに関する対

話、NanoDialog を開催し、ナノ材料の安全性に関する現在のデータのギャップを埋めることを目指した長

期研究である「Nano-In-Vivo」について議論した。この共同プロジェクトには、BMU、連邦環境庁(UBA)、

連邦労働安全衛生研究所(BAuA)、BASF 社に加えて、フラウンホーファー毒物学・実験医学研究所

(Fraunhofer Institute for Toxicology and Experimental Medicine:ITEM)と連邦リスク評価研究所(BfR)が

参加し、2013 年に開始された。この枠組を通じて、プロジェクトでは、ナノ材料の肺及び他の器官への長

期的な影響の可能性を調べている。特に、低用量ばく露での慢性効果を特定するためにラットを用いた

長期間の低レベルばく露の影響が調査されている。今回の NanoDialog で、ミーティング参加者は初期的

研究結果について議論した。BMU によれば、この研究結果は、経済協力開発機構(OECD)の検討やナ

ノ材料のアセスメントに関する EU 内での議論にも反映される。研究結果の発表は、2018 年末を予定して

いる。

(b) UBA がプラスチック包装等におけるナノ材料使用のファクトシートを公表

ドイツ連邦環境局(UBA)は、2018 年 8 月、プラスチック包装等におけるナノ材料使用に関するファクト

シートを公表した。ファクトシートは、新しい、技術的な、または改善された包装特性を実現するナノ材料

を扱っている。UBA によれば、包装のラベルおよび表面コーティングに使用するナノ材料の一部は、(印

刷)ペイントおよびワニスに使用されるナノ材料と同じである。包装におけるナノ材料の潜在的用途がプラ

スチックおよびプラスチック包装と同じ分野であることから、本ファクトシートはこれらの材料の中のナノ材

料に焦点を当てている。

「プラスチック包装におけるナノ材料の使用 」の目次

1. はじめに

2. パッケージングにおけるナノ材料の使用の目標

3. 環境への影響

4. 環境救済の可能性

5. 法的枠組み

6. 研究開発ニーズ

7. 結論

8. 参考文献

(c) BAuA、生体内残留粒子の特性評価のための試験方法に関する報告書を公表

ドイツ連邦労働安全衛生研究所(BAuA)は、「粒状生体内残留粒子(Granular Biopersistent

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Particles:GBP)の特性評価のための試験方法としての吸入および気管内注入の比較」と題する報告書を

発表した。

本プロジェクト(F2364)では、6 種類のμサイズとナノサイズの粒子を使用し、先行する気管内注入試験

(F2336)で得られた結果との整合性を評価する、in vivo での検証試験を実施した。二つの試験では

Multi- Path Particle Dosimetry (MPPD)モデルを用い、同じ試験項目が使われ、同程度の肺負荷が算

出された。このアプローチは、ダスト試料の GBP 状態を評価するにあたり、気管内注入が生理的吸入経

路の代替手法となることを証明するものとなった。

報告書によれば、「多形核好中球(polymorphonuclear neutrophil:PMN)」のパーセント濃度のみでな

く、絶対濃度も考慮すると、同等の用量において、吸入の方が気管内注入よりも少ない PMN 流入を引き

起こしたように見える(生体溶解性のμ-BaSO4 およびナノ-SiO2 を除く)。これは、吸入による生理学的な

ダストの取り込みと沈着の方が、気管内注入によるそれよりも穏やかであることによると予想される(ボーラ

ス効果)という。報告書の結論ではまた、気管内注入後に検出される効果が、常に「非不活性」であるとは

限らないと注記している。さらに、GBP カテゴリを定義するための、最大許容クリアランス t1/2 値および

PMN 値の設定には、吸入を用いた結果が考慮されるべきだとした。ナノ粒子の気管内注入試験における

用量は、0.3µL を超えてはならないと結論づけた。

(d) UBA とスイス BAFU、非常に微細な粒子の健康影響に関する報告書を発表

2018 年 10 月、ドイツ連邦環境庁(UBA)は、「超微粒子による健康影響:体系的な文献調査と、その結

果から得られるドイツへの示唆(Health Effects of Ultrafine Particles: Systematic literature search and

the potential transferability of the results to the German setting )」というタイトルの研究を発表した。この

研究では、空気力学的直径が約 1~100 ナノメートルの最小クラスの粒子を、超微粒子(ultrafine particles)

と定義している。この研究の目的は、その物理的性質(小ささ)故に多様な臓器系に達し得るとした超微

粒子による健康影響を示した文献を特定し、それらの研究の質を評価し、ドイツの状況に適用することが

可能か検討することにある。なお、本研究は、UBA とスイス連邦環境庁(Bundesamt für Umwelt:BAFU)の

委託により、デュッセルドルフ大学病院の産業衛生研究所とスイス熱帯・公衆衛生研究所(Swiss TPH)の

研究者が実施したものである。

研究では 85 の文献を調査した。この多くは、北米(n = 37)または西ヨーロッパ(n = 27)で実施され、短

期的な効果(n = 75)を調査したものであった。短期試験には、パネル研究(n = 32)、シナリオに基づくばく

露試験(n = 16)、および時系列試験(n = 11)があった。10 件の研究では、数ヶ月から数年にわたるばく露

試験による推定値を用いて長期の関連性を調べた。

この研究では、健康影響についてのエビデンスは、調査された成果の大部分について不確定的また

は不十分であると述べている。具体的には、多くの研究が死亡および救急部門・病院への入院といった

アウトカムを調査しているにも関わらず、超微粒子以外の汚染物質(co-pollutant)による影響を補正した

研究が少ないため、今のところ手に入るエビデンスからは健康影響があるともないとも解釈でき、結論が

導き出せないという。この研究によれば、研究数の観点から言えば、亜臨床的なアウトカムを調べる研究

によるエビデンスが最も豊富である。この分類に当てはまる研究の内、循環器系のアウトカムや肺および

全身の炎症といったアウトカムは、概ね、健康に対する悪影響につながるという点で、最も一貫性のある

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Page 131: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

パターンを示した。

この研究では、より広い範囲にわたって正確なばく露評価を可能とするよう、時空間モデルを改良する

とともに、個々の要因の独立した影響を明確にするよう、複数の汚染物質を考慮した(multipollutant)モデ

ルを取り入れることが、今後の課題であるとしている。

(iii) オーストリア

(a) 科学アカデミー、食品接触材料へのナノ材料の応用に関する資料を発表

2018 年 7 月 20 日、オーストリア科学アカデミー(Österreichische Akademie der Wissenschaften:ÖAW)

の技術評価研究所(Institut für Technikfolgen-Abschätzung:ITA)は、2017 年 11月にドイツ語で発行した

資料「食品接触材料へのナノ材料の応用」の英語版を発行した。

(Nanotechnological Applications for Food Contact Materials:

http://epub.oeaw.ac.at/0xc1aa5576_0x003918dd.pdf)

ITA では、2007 年より、ナノテク・ナノ材料が健康や環境に与えるリスクに関する最新の知識を分析す

るプロジェクト NanoTrust が活動している(プロジェクトコーディネーターのアンドレ・ガゾ〔André Gazsó〕氏

は、オーストリア保健省のナノ情報委員長を務める)。NanoTrust は、年に 2~3 回の不定期で、ナノテク・

ナノ材料に関わる議論の最新の知識を 3~6 ページ程度にまとめた簡潔な資料「NanoTrust Dossiers」を

発表している。今回の資料はその第 49 版。

今回発表された資料では、ナノ材料がプラスチック材料の特性を著しく改善するため、特に食品包装

の分野で製造者の関心が高まっていると指摘している。EU では、食品接触材料に使用されるナノ材料は

認可が必要で、安全性については欧州食品安全機関(Efsa)が評価を行っている。この資料では、食品

接触材料の使用の最終段階におけるナノ材料の環境挙動についてはほとんど知られておらず、また、廃

棄物処理でのナノスケールの添加物の放出や労働者へのばく露について研究がなされていないため、

今後の研究が必要であるとしている。また、ナノテクを持続可能なものとするには、ナノスケールの添加物

を含むプラスチック材料を、循環経済の枠組みの中で、安全にリサイクルまたはエネルギー回収できるよ

うにしなければならないとしている。

(エ) 国際的な取り組み

(i) IARC

IARC(国際がん研究機関)は、2017 年に『Some nanomaterials and some fibers』(いくつかのナノ材料

と繊維)と題する報告書(モノグラフ 111 巻)を公表した。この報告書は、フルオロエデナイト線維性角閃石、

炭化ケイ素(シリコンカーバイト)繊維とウィスカー、カーボンナノチューブ、の人に対する発がん性の危険

性の評価を行っている。

ヒトが繊維又はカーボンナノチューブにこの経路でばく露される可能性が最も高いために、実験動物

における繊維又はカーボンナノチューブを用いた発がん性の研究に係るばく露の関連経路は吸入である。

繊維又はカーボンナノチューブへの吸入ばく露は、胚からの分布、沈着、クリアランス、及び胸膜への繊

維の潜在的転位を伴う。しかし、この巻でレビューされた実験動物における発がん性の研究のほとんどに

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Page 132: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

おいて、繊維又はカーボンナノチューブは、線維又はカーボンナノチューブの急速静注の腹腔内又は胸

腔内注射によって、直接的に中皮に投与され、そのために、高用量となる。これらの非生理的なばく露経

路は、比較的短い潜伏期を有する中皮腫を誘発することができ、歴史的に、繊維によって引き起こされた

発がん性の評価のための敏感な手法として使用されている。この巻で評価された物質(作用因子)につい

ては、後者のタイプの研究のいくつかが、使用した実験動物数が不十分、研究期間が短い、又は同時制

御の欠如、により不十分であると判断された。しかし、ワーキンググループは、十分な数の動物を含む十

分な期間の研究にいくつか配慮を示したが、中皮腫がまれな自発性腫瘍であるために、同時制御につい

てはなかった。

カーボンナノチューブに関する膨大なメカニズム(作用機序)研究の評価により、試験したカーボンナ

ノチューブの物理化学的特性の変動、評価された毒性学的エンドポイント、採用された実験手順、が明ら

かになった。さらに、多くのタイプのカーボンナノチューブでは、慢性毒性に関連するエンドポイントのデ

ータが欠けていた。結果として、ワーキンググループは、特定のタイプのカーボンナノチューブ(Kuempel

ら.、 2017 も参照)の発がん性に関して、全体的なメカニズム(作用機序)のデータが情報価値がないとみ

なした。

(ii) TechConnect World Innovation Conference

TechConnect World Innovation Conference and Expo には、先進製造シンポジウムの一環として、「先

進製造における安全:利益製造者あるいは利益取得者?」に関するパネルディスカッションが含まれる。

2018 年 5 月 16 日に開催されるこのパネルディスカッションでは、インダストリー4.0 と先進製造エコシステ

ムを実現する既存の安全衛生アプローチを検討するためのフォーラムを開催する。そこでは、新しい安全

パラダイムを事業運営に組み込むための挑戦と機会を検討し、中小及び大企業でのスタートアップのた

めの安全衛生プログラムの柔軟性と拡張性のオプションを模索する予定である。簡単なプレゼンテーショ

ンの後、重要な問題に対処する小グループディスカッションや、小グループの議論を取り入れたインタラク

ティブな閉会パネルディスカッションが行われ、利益製造者あるいは利益取得者として先進製造業の作

業安全が考慮される。セッションの共同議長には、Chuck Geraci; Ph.D.、CIH、国立労働安全衛生研究

所(NIOSH)のナノテクノロジー副局長、 Sally Tinkle; Ph.D、IDA /科学技術政策研究所シニア戦略・政

策アドバイザー、元ナノテク調整局副局長、 Michael Fancher;ニューヨーク州ナノ材料とナノエレクトロニ

クスにおける先進技術センター所長、SUNY Polytechnic Institute 准教授、が含まれている。なお、Chuck

Geraci 氏と Sally Tinkle 氏は、ナノ EHS について、先導的な役割を演じてきた研究者である。この会議に

おいて、ナノテクノロジーの安全性について議論されると予想される。パネルディスカッションのトピックス

は、以下を含む。

先進製造作業現場でのハザード決定とばく露評価。

プロセスへの安全を築く新しい機会:オートメーション、ロボティクス、その他新興技術;

スケールアップ中の、労働安全衛生プラクティスとプログラム管理の新しいモデル。

先進製造ライフサイクルにわたるリスク評価とリスク管理のための方法とモデル; そして

先進製造安全上の挑戦を管理するためのベストプラクティスを共有するためのパートナーシップ

の構築。

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(iii) OECD、工業ナノ材料安全性シリーズ No.86「ナノ材料の生体耐性と表面リガンドの評価」を公開

OECD は、2018 年 5 月 22 日、「ナノ材料の生体耐性(OECD は、「溶解と酵素的分解、あるいは生体

媒質中での構造変化につながる化学的分解を通じた、化学的・生化学的変質に対する耐性と定義して

いる」と表面リガンドの評価」と題した報告書を、「工業ナノ材料安全性シリーズ」No.86 として公開した。こ

の報告では、生物媒体あるいは環境媒体における in vitro あるいは in vivo での官能基を付与した場合も

含めたナノ材料の生体耐性についての関連情報を集めることを目的としており、ナノ材料の安定性と半減

時間の測定方法についても説明されている。また、OECD スポンサーシップ・プログラムの官能基非付与

ナノ材料に対する、生物媒質および環境媒質における生体耐性測定用 in vivo システムおよび in vitro シ

ステムについても記載されている。さらに、これらナノ材料の物理・化学的特性による影響と、生物媒体お

よび環境媒体の影響についても述べられている。ナノ材料の表面処理とリガンドが、ナノ材料の溶解と生

体内劣化に及ぼす影響も説明されている。低溶解性ナノ材料としては二酸化チタンや酸化セリウムなど

があるが、これらの物質の一次遺伝毒性を考えると、長期間のばく露に対する反応では全身の臓器への

蓄積があるために、さらに検討がおこなわれなければならない。高溶解性のナノ材料としては酸化亜鉛、

酸化銅、亜鉛・銅・カドミウムイオンを放出する量子ドットなどが挙げられ、強い毒性を呈す。溶解、あるい

は生分解を通じた生体耐性がまだ調べられていない物質としては、デンドリマー、ナノクレイ、酸化アルミ

ニウムナノ粒子などがある。こうした溶解性ナノ材料は生化学的に安定ではなく短期間で毒性と健康への

影響を示す。これは、低溶解性ナノ材料が生化学的に安定であるため、短期および長期の健康への影

響可能性があり、高い環境残留性を持つのとは対照的である。この報告では、現在知られている in vitro

および in vivo の標準技術について、ナノ材料の発病可能性と環境残留性を予測する上での有用性を検

証する必要があることを提言している。

(2) ナノ材料の労働安全衛生に関する情報

(ア) 米国

(i) ACGIH による取組み

(a) カーボンナノチューブに関する情報収集活動

米国政府産業衛生学者会議(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:ACGIH®)

の化学物質閾値限界値(TLV®-CS)委員会は、2018 年の化学物質リスト及び調査中のその他の問題に

カーボンナノチューブを含めた。調査対象リストに載せられていることは、TLV®-CS 委員会が限界値

(TLV®)の開発のためにカーボンナノチューブを選択したことを示すものである。ACGIH®は、TLV®のレ

ベル以下のばく露が疾患や生涯の不合理なリスクを生じさせないという、科学界の意見を表す健康基準

値として TLVs®を定めている。TLV®-CS 委員会は、実質的なデータ及びコメントを求めるが、経済的又

は技術的実現可能性ではなく、健康及びばく露の問題に関連するもののみを対象とする。ACGIH®は、

2018 年 7 月 31 日までに調査対象リストを 2 段階リストに情報を記載する:

第1段階へのエントリーは、開発プロセスの現状に基づいて、今後の年の経過とともに、意図的な

変更(NIC)又は確立の意向(NIE)の通知として進む可能性のある化学物質及び物理的傷害源

(騒音、振動など)を示す。そして、

第 2 段階は、それ以上議論が進まない化学物質と物理的傷害源で構成されるが、翌年の調査対

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Page 134: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

象リストに残るか、または削除される。

(b) ばく露限界設定対象からカーボンナノチューブを取り下げ

ACGIH®)は、TLV®の 2019 年の設定対象からカーボンナノチューブを外した。

ACGIH®は、TLV®や生物学的ばく露指標(Biological Exposure Indices:BEI®)を策定するにあたり、

毎年 2 月 1 日までに候補物質リストを発表し、7 月 31 日までにリストを Tier 1 と Tier 2 に分けて優先順位

を付ける。2018 年は、TLV®の設定を担当する ACGIH®の TLV®-CS(CS;Chemical Substance)委員会が、

2018 年 1 月 31 日にアップデートした TLV 設定または改訂の対象候補として選定された化学物質リスト

にはカーボンナノチューブが記載されていた。2018年7月26日に ACGIH®が公表したTier 1およびTier

2 の 2 段階リストで、カーボンナノチューブは Tier 2 リストに入った。なお、Tier 1 は 2019 年の TLV®設定

対象、Tier 2 は 2020 年度以降の設定対象候補として残すか、または、TLV®設定候補から削除される。こ

の場合、関係者は実質的なデータとコメントを提出する機会を得るであろう。

ACGIH®が毎年発表・更新する TLV®や BEI®は、世界各国政府が発表する限界値に採用されるなど、

重要視されている 。

(c) ばく露限界設定候補リストにカーボンナノチューブを含める

ACGIH®は、TLV®の 2019 年の候補物質リストにカーボンナノチューブを入れた。このリストは 2019 年

7 月 31 日までに Tier1 リストおよび Tier2 リストに分類される。なお、カーボンナノチューブは 2018 年に

Tier2(2018 年中に TLV が設定されない物質)としてリストアップされていた。

(ii) NIOSH による取組み

(a) ナノ材料も含めた粉じんにおる肺疾患防止のための研究アジェンダ計画

国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、2018 年 3 月 15 日付の官報上で、肺疾患に関する国家職業

研究課題(National Occupational Research Agenda:NORA)案を公開、パブリックコメントの募集を開始し

た。

NORA は、革新的研究を促進しつつ労働衛生の向上を図る為に、1996 年に設立され、現在では、米

国経済の重要 10 産業(sectors)と職場衛生・安全上の重要な 7 つの課題(cross-sectors)に関する委員

会を通して、産官学と労働組合の参加者が協議し、NIOSH や米国の労働安全衛生研究開発の指針を示

した各種アジェンダを策定している。

今回のアジェンダ案は、NORA として初めての肺疾患に関するものであり、労働災害防止のために必

要な研究、情報、対策を特定することを目指している。ここでは、「1nm と 100nm の間の長さスケールと定

義されたナノ材料は、物理的、化学的、および生物学的挙動に影響を与える固有の特性を示し、動物お

よびその他の毒物学的研究により、炎症および線維症を含む有害な肺への作用が示された」とあり、ナノ

材料を含めた粉塵による石炭労働者の肺疾患の防止と減少も課題に含まれている。塵肺症には効果的

な治療法が知られていないため、職場での繊維粉塵へのばく露の防止、早期の疾病発見、管理上の努

力といった対策が重要であることが、このアジェンダでは指摘されている。コメントの締め切りは 2018 年 5

月 14 日であった。

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2019 年 1 月 24 日、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、2018~2025 年度にかけてのナノテク研究

所(Nanotechnology Research Center:NTRC) を通した研究およびガイダンスの戦略計画 「ナノテク労働

者保護の継続:NIOSH ナノテク研究計画 2018-2025」を発表した。NIOSH は本計画の作成に合わせて開

設されたドケット内で、コメント期間中に提出されたパブリックコメントやステークホルダー意見とそれに対

する返答も同時に発表しており、これらの意見やコメントは全て検討し、適当と判断した場合には、今回発

表された最終版に反映したとしている。例えば、2 件のパブリックコメントの内 1 件は米国陸軍公共衛生研

究所(Army Public Health Center:APHC)から、NIOSH の研究範囲や成果の評価手法を拡大するよう求

めるコメント で、NIOSH の任務の範囲や既存の取り組みについて説明することで NIOSH が回答している。

また、意見を述べたステークホルダーは報告書冒頭(「謝辞意(Acknowledgments)」の章)に記載されて

おり、連邦政府の他省庁 関係者の他、医学、公共衛生学などの学界関係者や産業界関係者 が含まれ

る。

パブリックコメントやステークホルダー意見の反映の他の修正点としては、例えば、本計画で示された

目標が、国家ナノテク・イニシアチブ(NNI)の EHS 関連項目や NIOSH 全体の方針とも一致することが示さ

れており、後者については 2019 年度~2023 年度の NIOSH 戦略計画 の以下の目標と対応することが明

記された。

1.5 発ガン性物質へのばく露(製造業)

ナノカーボン粒子等へのばく露によるガンおよび循環器系疾患対策

5.3 複合的なばく露(建設業)

ナノ材料等へのばく露による、間質性疾患、アスベスト誘発に類似した疾患対策

5.5 粉塵が誘発する呼吸器疾患(製造業)

ナノ材料関連の粉塵へのばく露による間質性疾患、肺がん、および肋膜疾患対策

なお、戦略目標および中間目標は、上記ステークホルダー意見を受けて表現上の編集などが加えら

れているものの、概ね草案の通りである。また、これは草案時点で既に指定されていたものであるが、本

計画の目標のうち以下の 3 つを、負荷 ・ニーズ ・影響 の 3 つの観点から選択した最優先事項として挙

げている。

優先順位 1

戦略目標 1:ナノ材料労働者に対する新たなハザードと関連する健康リスクに関する理解の向上

優先順位 2

戦略目標 3:ガイダンス資料の作成を支援し、ハザード、リスク、リスクマネジメント手法について、

ナノ材料関連労働者、雇用者、健康専門家、規制当局、意志決定者に情報を提供する。

優先順位 3

活動/成果目標 3.1.3:工業ナノ材料のグループ化のためのナノ材料ハザード等級の使用

(b) 2018 年から 2025 年のナノテク研究計画案を公開し、コメントを募集

NIOSH は 2018 年 4 月 24 日付の官報で、2018 年から 2025 年のナノテクノロジー研究計画草案

(Continuing to Protect the Nanotechnology Workforce: NIOSH Nanotechnology Research Plan for

131

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2018-2025)の公開を告知し、パブリックコメントを募集している。同草案は、NIOSH のナノテクノロジー研

究を統括するナノテク研究所(Nanotechnology Research Center:NTRC)の 2018 会計年度(前年 10 月 1

日から当該年 9 月 30 日まで)~2025 会計年度までの戦略計画を示したもので、NIOSH の重要研究やガ

イダンス活動が、国家ナノテクノロジー・イニシアチブ(NNI)の「環境、健康、安全性(Environmental,

Health, and Safety:EHS)研究戦略」をどのように実現するものとなっているかが説明されている。2018 会

計年度から 2025 会計年度の期間では、2013 年に発表された研究戦略で最初に設定された 5 つの

NIOSH NTRC 戦略目標の 1つ、情報と知識のギャップを埋めることを目指し、引き続き活動を進めるという。

提案されている研究は、知識のギャップを埋める必要のある特定の研究ニーズと EHS 関連の優先研究ニ

ーズに焦点をあてている。

NIOSH では、この草案にステークホルダーの意見を取り入れて、ステークホルダーのニーズに応える

ものとしたいと考えており、全米のナノ材料労働者の安全性と健康の維持にさらに寄与するものとするよう

にしたいとしている。草案へのコメント締め切りは、2018 年 6 月 25 日である(5 月 24 日現在、提出された

コメントは 1 件のみ。一般市民から、マイクロプラスチックによる海洋汚染反対を訴える内容。)。

NIOSH 2018~2025 会計年度研究計画案にある目標一覧 戦略目標 1 ナノ材料労働者に対する新たなハザードと関連する健康リスクに関する理解の向上

中間目標 1.1 当局が、NIOSH の研究を利用して標準を作成し介入することで、新たな工業ナノ材料へのばく

露から労働者を保護する。

戦略目標 2 工業ナノ材料の初期ハザード発見についての理解を広げる

中間目標 2.1 当局が NIOSH の研究に基づきガイダンスを発表し、カーボンナノチューブ、ナノファイバー、金

属、金属酸化物からの肺毒性を予防できるようにする。

中間目標 2.2 医療専門家や研究者が、NIOSH のバイオマーカーに関する情報を利用して、労働者の工業ナ

ノ材料吸入への反応を評価するスクリーニングテストを実施できるようにする。

中間目標 2.3 工業ナノ材料の製品ライフサイクルを通じて、労働者の健康と安全を守るために、製造者が勧告

を行えるようにする。

中間目標 2.4 健康安全専門家が、労働者の工業ナノ材料へのばく露を評価するために、標準化された測定方

法を利用できるようにする。

中間目標 2.5 潜在的な火災と爆発に関する工業ナノ材料の安全性ハザード情報について、製造者が安全性

データシート(SDS)と製品ラベルで情報を提供できるようにする。

中間目標 2.6 ナノ材料研究者が情報科学を活用し、情報コミュニケーションを進められるようにする。

戦略目標 3 ガイダンス資料の作成を支援し、ハザード、リスク、リスクマネジメント手法について、ナノ材料関

連労働者、雇用者、健康専門家、規制機関、意志決定者に情報を提供する。

中間目標 3.1 分野別、特定の NIOSH 推奨ばく露上限を当局が活用できるようにする。

中間目標 3.2 工業ナノ材料の利用とそれに伴う製造プロセスに際して、雇用者が NIOSH 推奨の管理手法と

個人保護具を採用できるようにする。

中間目標 3.3 工業ナノ材料健康安全プログラムにおいて、雇用者が「設計段階における安全衛生の確保

132

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(Prevention through Design、PtD;職業性外傷、職業病などを予防するための最適の方法

の一つは、ハザードやリスクを最小化、あるいは生じうる場合を予め「設計」しておくことであるとい

う考え)」を組み込めるようにする。

中間目標 3.4 世界保健機関(WHO)や経済協力開発機構(OECD)といった国際機関が、工業ナノ材料労働

者保護関連情報の収集、管理、普及について、NIOSH の研究を活用できるようにする。

戦略目標 4 医学的、横断的な前向きコホート研究やばく露研究を含め、ナノ材料労働者のための疫学的研

究を支援する。

中間目標 4.1 雇用者、労働組合、工業ナノ材料を扱う労働者が、疫学的研究や医学調査に参加できるように

する。

戦略目標 5 リスク・マネジメント・ガイダンスについての国の、及び国際的な支持について、評価と促進をおこ

なう。

中間目標 5.1 ナノ材料産業が工業ナノ材料についてのグッドリスク・マネジメント・ガイダンスを活用できるように

する。

(c) 労働環境中リスク評価(新規リスクにナノ材料を含む)のドラフトを公表し、意見募集

2018 年 7 月 26 日、NIOSH は「労働上リスク評価の NIOSH の手法」と題した最新情報広報(Current

Intelligence Bulletin:CIB) 資料のドラフトをコメント募集のために公表した。労働者を保護するための最

良の慣行を提言する際の根拠とするため NIOSH が定期的に実施するリスク評価の最新手法を示した資

料で、労働環境中に存在する危険(ハザード)から、労働者の疾病につながるリスクを割り出す方法やそ

の背景が解説されている。本ドラフトは、化学物質によるリスクの評価の実施(practice)に焦点をあてたも

ので、NIOSH リスク評価者、その他研究者、ステークホルダーおよび一般向けに、NIOSH のリスク評価プ

ロセスへの理解を深めることを目的としている。近年生じた新たなリスクの一つとして、ナノ材料を扱ってい

る。

ナノ材料のリスク評価は附属書 C に掲載されている。「労働環境中で使用されている他のあらゆる物

質と同じように、データが限られている工業ナノ材料の数は多いうえに増え続けており、代替試験手法(高

スループットスクリーニングおよび in vitro ばく露試験等)のデータが、立証されたハザードおよびリスク評

価モデルに活用できる可能性があり、知識の不足(ギャップ)を埋めるのに役立つかもしれない」としてい

る。また、代替試験戦略の適用が、ナノ材料とベンチマーク物質の作用の比較が可能で、労働時のばく

露の分析に資するとしている。吸入ハザードを評価するためのベンチマーク物質としては、微結晶シリカ、

アスベスト、および超微細二酸化チタン/カーボンブラックを挙げている。

NIOSH はこのドラフトに関するオンラインミーティングを、2018 年 9 月 13 日に行った。一般の参加はウ

ェブ上で、リモートアクセスのみによって可能である。NIOSH は、レビュー者のために、以下の質問の議論

に特に重点を置くと述べている;

① ドラフトの内容が、毒性学、疫学、産業衛生、およびリスク評価の最新の科学的知見と一致してい

るか

② ドラフトに関係する追加の科学情報によって、ドラフトに追加、または省略が必要であるか

③ ドラフトの情報が明確で、透明な方法で説明されているか

133

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書面でのコメントは、ドケットを通して 2018 年 10 月 15 日まで受け付ける。

(d) 銀ナノ材料への職業上ばく露の健康影響に関する報告書ドラフト

2018 年 9 月 18 日、NIOSH は「銀ナノ材料への職業上のばく露の健康影響 」と題した報告書のドラフ

トを公表した。最新情報広報(Current Intelligence Bulletin:CIB)として公表された同報告書ドラフトは、

2016 年 1 月 21 日に NIOSH が発表したドラフト を、最新の文献レビューにより更新したものである。今回

加えられた文献レビューは、実験動物および細胞系における銀ナノ材料へのばく露の毒性学的影響、銀

の毒性影響に対する粒子サイズ等の影響、測定・管理に関する NIOSH 勧告に関するものを含む。

これらの文献レビューにより、銀ナノ材料へのばく露による潜在的な健康リスクが評価された。動物に

おける研究では、銀ナノ粒子へのばく露に関連する肺および肝臓の悪影響を示していると述べている。こ

れらのデータの評価に基づき、NIOSH は、銀ナノ材料を製造または使用するプロセスでの銀ナノ粒子(一

次粒子サイズ 100 ナノメートル未満)の推奨ばく露限界(recommended exposure limit:REL)を、空気中に

浮遊する呼吸可能な状態では、8 時間の時間荷重平均濃度(TWA)で 0.9μg/m3 とした。また、NIOSH は、

引き続き総量(金属粉塵、ヒューム、および可溶性化合物の Ag として)の REL を 10μg/m3 とすることを推

奨するとした。

さらに NIOSH は、銀ナノ材料へのばく露による潜在的な健康への影響を防ぐため、職場ばく露評価、

工学的管理(engineering control)、安全作業手順、訓練と教育、および確立された医学的監視手法の使

用を推奨している。また、銀ナノ材料への職業ばく露の健康への影響に関して、依然残っているデータギ

ャップを埋めるための研究ニーズを提案している。

NIOSH はこのドラフトに関するオンラインミーティングを、米国東海岸時間の 2018 年 10 月 30 日午後

1 時から 4 時 30 分に行う。一般の参加はウェブ上で、リモートアクセスのみによって可能であり、参加希望

者は NIOSH ドケット事務所([email protected])へ事前に電子メールにて申し込む必要がある。本ミ

ーティングにおいて NIOSH は、レビュアーのために、CIB について、以下の質問の議論に特に重点を置

くと述べている;

銀ナノ材料のばく露の潜在的な健康影響を、文献に基づいて適切かつ明確に記述しているか

リスク評価と投与モデリングが、現在の科学的知見と実践に一致しているか

銀ナノ材料へのばく露と生物毒性との関係が正確に描写されているか

銀ナノ材料へのばく露によるラットへの有害影響のエンドポイントと、ヒトの健康との関連性につい

てのエビデンスが完全に記述されているか

提案された REL は、ドラフトに示された科学的データによって十分に支持されているか

提案されたサンプリングおよび分析方法は、作業者の銀ナノ材料へのばく露の測定に適している

銀と銀のナノ材料へのばく露を制御するための戦略(工学的管理、作業慣行、個人用保護具な

ど)は妥当か

重要なデータギャップと将来の研究ニーズが完全で、明確に記述されているか

なお、本報告書ドラフトに関する書面でのコメントは、オンラインあるいは郵送で 2018 年 11 月 30 日ま

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Page 139: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

で受け付ける。

2018 年 10 月 30 日、その改訂版ドラフトに関するウェビナーが開催された。アジェンダおよびプレゼン

テーションは、出席者リストとともに政府ウェブサイト(regulations.gov)のドケットを通して入手可能である。

これら公開された資料によると、10 月 30 日のオンラインミーティングには NIOSH 関係者 15 名と議事

録作成者の他、以下 5 組織から 6 名が出席した。議事録によれば、ミーティングの大部分は NIOSH 関係

者による本報告書改訂版ドラフトの説明に充てられ、末尾に短い質疑応答の時間も設けられた。CPSC お

よび NIOSH 関係者やオンライン参加者からの質問 が数件あったが、以下に記した民間組織の参加者か

らの質問は無かった。

業界団体

・ ナノテク工業協会(NIA)

・ Silver Nanotechnology Working Group(SNWG)

大学

・ University of Cincinnati, College of Medicine

法律事務所

・ Bergeson & Campbell PC

政府機関

・ 消費者製品安全委員会(CPSC)

なお、2019 年 1 月時点で、本報告書に関するオンラインドケットでは 2 件のコメントが 2018 年 9 月の

改訂版発表以降に提出されている。1 件はジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学部リスク科学・公共政策

学科の Mary Fox 教授と学生によるもので、銀ナノ粒子に対する推奨ばく露限界(recommended exposure

limit:REL)の設定を支持しつつも、様々な形状等の銀ナノ粒子が示すヒトの健康への影響の違いについ

ては不明瞭な点が多いなど、本報告書の限界を指摘するもの。もう 1 件は、民間企業の Pennsylvania Bio

Nano Systems, LLC から、銀ナノ粒子に対する REL の設定について、疑念を示すもの(吸入可能な銀に

対して全て同じ REL とすべき、など)であった。

(イ) EU

(i) EU-OSHA による取組み

(a) 触媒におけるナノ材料の取扱いに関する情報資料

2018 年 10 月 3 日、欧州労働安全衛生機構(European Agency for Safety and Health at Work:

EU-OSHA)は、「職場におけるナノ材料(nanomaterials in the workplace)」に関する情報資料(info sheet)

を発表した。

この情報資料は、ナノ材料の管理における予防原則の適用方法に関する一般的で実践的なアドバイ

スを提供するものである。また、ナノ材料に関連するリスクについての知見が限られており、いかなるナノ

材料に対しても職業的なばく露限界はいまだに参考値しか存在しないとし、ナノ材料が現在知られている

よりも危険であると判明したとしても、リスクを管理下に維持することができるため、予防原則を適用する必

要があるとしている。

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(3) ナノ材料の有害性試験法、有害性機序一般に関する情報

(i) ナノ材料の有害性試験法に関する情報

(a) マルタ・イニシアチブ ワークショップが開催される

ナノ安全は、市民社会や産業界の主要な懸念事項の 1 つになっている。 いくつか例を挙げると、食

品、化粧品、医療製品、建物、電池など、ナノ材料が適用されるすべての分野に事実上影響を与える。

過去数十年にわたり、ナノ材料について大量のデータが収集され、リスク評価とその安全性に関する多く

の研究が実施されてきた。しかし、生成され集められたデータは規制上の目的で一貫性がなく、比較不

能である。 したがって、ナノ材料の安全性、ひいては欧州市民の安全性をテストするための法的拘束力

のあるガイドラインと基準を提供することは極めて重要である。EU と加盟国が共同で資金を提供する

NANOREG と PROSAFE プロジェクトによって予備的な研究が完了した。 これらのプロジェクトは、ブラジ

ルと韓国からの重要な国際的なインプットと、米国での同様の仕事との緊密な協力で支援されてきた。

「マルタ・イニシアチブ」は、EU のプレゼンスを高め、新しいナノ特有の OECD テストガイドラインとガイ

ダンス文書の適応と開発に貢献するための共同研究技術開発-加盟国イニシアチブである。 欧州委員

会は当初、このイニシアチブの先頭に立ったドイツとオランダによってアプローチされたが、他の加盟国、

業界の利害関係者、ナノセーフティクラスタとともに進めている。目標は、関連する知識、いくつかの研究

プロジェクトで開発し集められたテスト方法と調和された標準を集めることである。このイニシアチブの核心

はナノ安全とナノ材料規制における現在のギャップを橋渡しするに必要な国際的な協力である。さらに化

学物質管理に関する OECD の事業に欠かせないものであるため、「マルタ・イニシアチブ」は、REACH 附

属書の実行にとって非常に重要でもある。

ワークショップは 12 月 11 日にブラッセルで開催される。ワークショップには、ナノサイエンス、ナノテクノ

ロジー、先端物質に関するハイレベルグループのメンバー、OECD の工業ナノ材料ワーキングパーティー

(WPMN)のメンバー、ナノセーフティクラスタのメンバー、政府の公式の代表者および産業界や学界から

のステークホルダーなど 約 50 人が集まる。開会挨拶は EC の研究イノベーション局長の Jean-Eric

Paquet、続いて、Director の D, Peter Drőll が行う。

(ii) ナノ材料の有害性機序一般に関する情報

(a) 有害性発現の予測の基礎としての、吸入されたナノ材料の毒性及びゲノムへの影響

スウェーデンのカロリンスカ大学の、Penny Nymark, Pekka Kohonen らは、標題のレビューを発表した。

現在、様々なタイプの工業ナノ材料が開発され、ますます消費者製品に応用されている。 重要なこと

は、工業ナノ材料は、サイズが小さいため、未調査の健康への有害な影響をもたらす可能性があることで

ある。特に職場環境では、工業ナノ材料の巻き上がり性(dustiness)は吸入の危険性と肺機能への影響を

伴う。これらの事実は、培養ヒト肺細胞を用いたマルチパラメトリック・ハイスループットスクリーニング(HTS)

によって得られるものなど、迅速かつ費用効果の高い安全性試験の実施を求めている。 このようなインビ

トロベースの試験の予測値は、部分的に、毒性作用の根底にあるメカニズム(機構)の適用範囲の有効性

に依存する。有害性転帰経路(AOP)の概念は、分子開始事象から始まり、細胞、器官、個体、および人

口レベルまでの一連の原因・結果を網羅する影響をカバーする。 最終的な有害性結果をもたらす有害

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Page 141: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

性転帰経路関連の影響のスクリーニングは、ハザードおよびリスク評価のための予測試験方法およびデ

ータ駆動型統合試験方法を開発するための良い基礎を提供する。

複雑化する工業ナノ材料の影響を組織的にスクリーニングするデータ駆動型ワークフローは、細胞を

使用した HTS、細胞の溶解分離物(リセート)のマイクロアレー免疫染色および遺伝子発現プロファイリン

グとバイオインフォーマティクス処理の三者で構成され、その結果は、細胞スクリーニング、リセートマイク

ロアレー、バイオインフォーマティクスの読み出し情報として得られ、これらを活用する。

一時的および遺伝的なゲノム変化は、特定の形態が発がん性である可能性があると最近評価されて

いる多層カーボンナノチューブのような工業ナノ材料に対する多くの有害性応答を引き起こす可能性が

ある。 ここでは、選択的に肺疾患に焦点を当てたものや、有害な結果を予測し防止するための機構的知

識を使用する戦略を含む、ナノ材料のばく露のゲノムへの影響を分析し理解するための現在の到達水準

の戦略を簡単に記述し、アスベストに類似した毒性を発現する特定の形状の多層カーボンナノチューブ

の発がんに至る細胞のゲノーミックな機構について解説している。

様々な物質に対する一時的なゲノム応答の深い理解と、細胞、動物、および最終的なヒトにおける持

続的な遺伝的および生理学的発現に対する応答の関連付けは、ばく露に起因する病気のリスクの評価

に有用なスクリーニングアプローチおよび予測モデルの確立を可能にする。

システムレベルでの疾患の理解へのこのような説明の努力は、工業ナノ材料のリスクをより効果的に管

理し、最終的に病気を予防するための効果的な統合テスト戦略(例えば、HTS(ハイスループットスクリー

ニング)のワークフローに基づいて)に導くと期待される。

本研究室における今後の取り組みは、HTS データおよび疾患進行(AOPs;有害性転帰経路)に関連

する高度に情報が豊富なゲノミクスデータの探索で構成する。 また、遺伝毒性のような細胞型と毒性エ

ンドポイントにわたる用量依存性に敏感な予測モデルにおいて、マルチパラメトリックバイオマーカーとし

て有用なものにするため、大きなゲノムデータセットを圧縮/変換する分析スキームの開発も含まれる。

この研究は、我々の主な目標の 1 つ、すなわち毒性効力(toxic potency)に基づいて工業ナノ材料およ

び他の薬剤を分類するためのゲノミクス主導の基礎を導入することと強く関連している。 効果的で再現性

のある安全性試験の実施を、安全なイノベーションのアプローチの中に確立することという最も重要な目

標の下で、ナノテクノロジーを多様な方法で応用する巨大な社会的可能性は十分に探索可能でなけれ

ばならない。

(Toxic and Genomic Influences of Inhaled Nanomaterials as a Basis for Predicting Adverse Outcome:

Nymark, Kohonen, Hongisto, et al.; AnnalsATS, Volume 15, Supplement 2, April 2018)

(b) 難溶性金属酸化物ナノ材料の急性ばく露による in vivo 肺毒性の先進的な in vitro 法を用いた予

測可能性

動物モデルは、それだけで、ヒトにおけるナノ材料の潜在的な肺への悪影響を予測するための参考ツ

ールとなる。 しかしながら、実験で使用される動物数の減少、動物保護の観点から、信頼性の高い代替

法の必要性はますます高まっている。肺細胞を用いる in vitro モデルは、特に、先進的な in vitro 法とモ

デルが開発されているため、ナノ材料の吸入による潜在的な急性毒性を評価するための代替法となって

いるが、ヒトにおける潜在的な急性肺毒性を予測するための動物実験に代わり得る in vitro 実験の能力は、

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Page 142: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

依然として慎重に評価される必要がある。

フランス国立産業環境・リスク研究所(Ineris)の Thomas Loret らは、代表的な難溶性ナノ粒子である二

酸化チタンと酸化セリウムの標準的な試料を使用して、24 時間ばく露の急性肺毒性について in vivo と in

vitro 実験を、用量が比較できる条件で同時に行い、in vitro 法の予測可能性を調査した。

実験に使用したナノ材料は、欧州共同研究センター(JRC)のナノ材料(NM)レポジトリーからの TiO2

(NM105,101 および 100)および CeO2(NM212)である。NM100(一次粒径 8nm)と 101(同 100nm)はアナ

タ―ゼ、NM105(同 21nm)は 80%アナターゼ/20%ルチル、NM212(同 7.2nm)はセオリナイトである。

試験は、in vivo では、ラットを気管内注入により NM にばく露し、次いで 24 時間経過後に屠殺した。

In vitroでは、マクロファージと共培養した肺胞上皮細胞を、ALI(気液界面細胞ばく露装置)でNMエア

ロゾルに、または NM の懸濁液に浸漬した状態で、24 時間ばく露した。 さらに、異なる NM 堆積速度で試

験した。 in vitro 研究の結果は、同じチームによって以前に発表されている。(論文は下記 URL から入手

可能、本論文で「先進的な in vitro 法」とは ALI 法を指す。)ALI では、細胞を NM のエアロゾルに 3 時間

ばく露した。これは、最終沈着用量が 3 時間以内に到達したことを意味する。 次いで、ALI で残りの 21

時間、細胞をインキュベーター内に保持し、その表面上に NM を沈着させた。

in vitro 実験の 3 つの方法(左;ALI による NM エアロゾルばく露、中;浸漬したインサート上での 分散 NM ばく露、右;プレート上での分散・沈積した NM ばく露);論文より ばく露後の生物学的応答としては、in vivo では、炎症性効果(好中球の流入および炎症促進性メディ

エーターIL-1β、IL-6、KC-GRO および TNF-α )を、気管内注入(IT)によって NMs にばく露されたラッ

トの気管支肺胞洗浄液(BALF)で評価した。in vitro では、上記の炎症性の指標の他、AlamarBlue 細胞

生存率アッセイ、LDH 活性測定、細胞内 ROS アッセイなどを実施した。

以下試験結果について述べる。in vivo での炎症効果は、TiO2 NM105 および 101 および CeO2

NM212 では有意な効果が認められたが、TiO2 NM100 では有意な効果は認められなかった。 有意な炎

症効果は、試験された最大用量で示された:それぞれ、400μg/肺、肺胞表面による正常化後約 0.1μg/

cm2 または 20μg/ 106 マクロファージに相当する(4000cm2)または肺胞マクロファージの数(2500 万)で

あった。TiO2NMs105 および 101 ばく露後において、TNF-α および NM105 のみの KC-GRO の濃度の

増加に関連して、これは BALF 上清中の有意な好中球流入によって特徴付けられた。好中球またはサイ

トカインの有意な増加は、TiO2 NM100 については認められなかった。 さらに、試験したすべての NM に

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Page 143: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

ついて、マクロファージまたは全細胞数に有意な変化は観察されなかった。in vivo で検出された有意な

応答に基づいて、観察された最低の有害作用レベル(最小無毒量;LOAEL)を、NM105,101 および 212

での炎症促進効果について決定した。

In vitro 試験では、すべての試験した NM にばく露した ALI において有意な炎症反応が観察された。

また、インサートおよびプレートの浸漬状態では、主に NM105 および 101 で観察された。検出された重要

な炎症反応によって、実施された各アッセイについて LOAEL を決定された。全ての NM について、

LOAEL は、インサート中の浸漬条件と比較して低用量で決定され、最終用量が 24 時間以内ではなく 3

時間以内に堆積した場合にも低用量で決定された。

In vivo および in vitro の両方において、細胞傷害性および酸化ストレス応答も評価した。 in vivo で、

LDH レベルを BALF 上清で評価し、反応性酸素種(ROS)レベルを BALF 細胞で測定した。 有意な炎症

反応は認められたが、24 時間の NM へのばく露後に有意な細胞傷害性または酸化的ストレス効果を観察

しなかった。LOAEL は、インサートにおける細胞傷害性および酸化ストレスについて決定された。

In vivo および in vitro の両方で、炎症が、本研究で 24 時間目に最も感度の高い生体応答マーカーで

あった。 この理由から、in vitro と in vitro の比較を行うため、炎症反応に焦点を当てた。 定量的な比較

を行うために、観察された最初の有意な炎症誘発反応について in vivo および in vitro で決定された

LOAEL を最初に使用した。 次に、ベンチマークモデリングによって決定された用量間隔を使用して用量

‐応答比較を行った。

結論;in vivo および in vitro の急性炎症誘発反応の間で、適合性用量計量を用いて定量的比較を行

った。 生物学的活性化レベルを比較し、用量を質量/肺胞表面よりもむしろ質量/マクロファージで表現

させた場合、in vivo、in vitro のより良好な相関が得られることを示した。決定された LOAEL および臨界効

果用量間隔を使用して、in vivoでの生物学的応答を予測するために本研究で使用された各 in vitro方法

の能力を評価した。 最も現実的な in vitro ばく露法:ALI 法は、用量メトリックがどのようなものであっても、

絶対毒性に関して最も予測的であることを示した。 in vitro では、24 時間よりもむしろ 3 時間の用量送達

のタイミングを使用したところ、より優れた in vivo - in vitro 相関を示した。

各ばく露方法について、毒性の関数として NM をランク付けし、LOAEL の代わりに臨界効果用量間隔

を使用して、NM 間のより正確な比較が提供されることを示した。 NM の毒性ランキングに関して、相対的

類似性が in vivo および in vitro 方法論の間に示された。しかしながら、データセットの品質が正確な用量

間隔を決定するには不十分であったため、in vivo で観察された NM のランキングを予測する各 in vitro 方

法論の能力について明確に結論することはできなかった。 興味深いことに、NM の表面領域による投与

量を正規化したとき、毒性効果は、単離された NM ではなく、おそらくアグロメレートに起因することを観察

した。

最後にまとめると、本研究は in vitro での潜在的な急性肺毒性を予測する能力を増強するために、先

進的な方法を用いることができることを示した。 さらに、in vitroでのいくつかの重要な方法論的ポイントの

慎重な考察が、用量送達のタイミングの制御を含む、in vitro 方法の予測性を向上させることに寄与し得

ることを強調した。 これらの結論は本研究の実験データセットから推測されたものであり、より毒性の高い

NM を含む他の NM でさらに確認されるべきであり、この研究は先進的な in vitro 方法の使用および開発

に関する新たな視点をもたらすものである。

139

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(Loret et al. Particle and Fibre Toxicology (2018) 15:25)

(iii) 個々のナノ材料の有害性に関する研究

(a) 剥離グラフェンの細胞毒性および遺伝毒性に関する研究

産総研の藤田らによる「剥離グラフェンの細胞毒性および遺伝毒性評価」と題した研究論文が、雑誌

Toxicology in Vitro (ELSEVIER 発行)に 2018 年 6 月 19 日付けで掲載された。本研究は、産総研と TASC

(Technology Research Association for Single Wall Carbon Nanotubes)の共同研究であり、NEDO プロジェ

クト“Innovative carbon nanotubes composite materials project toward achieving a low-carbon society ”の

研究成果の一環である。

使用した剥離グラフェン(EGr)は、TASC が作成し、界面活性剤 TWEEN-20 で分散され、20μm のフ

ィルターでろ過したもので、電子顕微鏡観察によれば、1.0~40μm に分布し、平均径が 10.04μm であり、

1層から多層構造をとっている。

研究では、EGr を培養細胞であるラットマクロファージ(NR8383)に 24 時間ばく露し、生存率(WST-1

アッセイ)や生体内活性酸素種の産生、炎症性サイトカイン産生、網羅的遺伝子発現等を調査し、細胞

内への取り込み形態を電子顕微鏡観察した。その結果、EGr のばく露濃度に依存した、生存率の低下、

炎症性サイトカインの産生、炎症反応や細胞接着に関する遺伝子の誘導、細胞内への取り込みが観察さ

れた一方、生体内活性酸素種の産生や変異原性は認められなかった。

これらの結果は、EGr の細胞毒性は、酸化グラフェンやもとの(pristine)グラフェンより、少し高いことを

示している。

著者らは、グラフェン関連材料は物理‐化学的特性が多岐にわたることから、その有害性の程度を一

般化することは困難であり、吸入毒性を説明するには、in vivo 実験を含めた個々の材料に関する研究が

必要であるとしている。EGr についても、吸入器官へ有害性データが明らかになるまでは、注意深く扱うこ

とを奨めている。

なお、産総研安全科学研究部門排出ばく露解析グループは、ナノ炭素材料の自主安全管理を支援

することを目的として、「ナノ炭素材料(カーボンナノチューブ、グラフェン)の排出・ばく露評価の手引き」

を発行している。ナノ炭素材料を取り扱う事業者などが、安全性試験を行う際の参考として、作成・公開さ

れたもので、自主安全管理の参考としての活用を望んでいる。4 月 27 日に英語版を公開したが、それに

合わせて一部加筆された。

(b) 二酸化チタンナノ粒子の生態毒性の研究の一例-粒径依存性と組織病理学的観察

ナノ二酸化チタンは、半導体材料 光電変換素子としての可能性 光触媒、太陽電池のアプリケーシ

ョン、環境浄化、水素ガス発生などに大きな期待があるが、様々な消費財および製品 化粧品、塗料およ

び染料のような日常の使用に供されており、その量が増大している。ライフサイクルの中で最終的に土壌

や水生環境の中に含まれ、蓄積していく可能性が高い。ここで紹介する研究(IET Karathan Parakkandi

Priyanka et al. (インドの大学等の研究者)Nanobiotechnology 2018 Aug; 12(5):579-584. )は、比較的多

くの研究がなされている二酸化チタンの生態毒性研究の中で、陸生の土壌中生物であるミミズ類(その中

でも、学名;Eudrilus euginiae)を対象として、酸化チタンの粒径を詳細に変え、生存と成長について長期

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的な観察を行い、例がほとんどないない、組織病理学的なサンプルを作成して調査したことが特徴であ

る。

使用した試料は、ゾルゲル法により調製した。Ce を粒子のサイズを低減し、可視光活性を高めるため

にドープした。前駆体溶液は、1:2 のチタン(IV)-n-ブトキシド(Ti(OC4H9)4)とイソプロピルアルコール

((CH3)2 CHOH)との混合物である。 必要とされる重量%の Ce(NO3)3・6H2O を蒸留水に溶解し、HNO

3 を連続的に攪拌しながら pH を 2.0 に調整した溶液と混合した。 この溶液に前駆体溶液を滴下し、3 時

間連続的に撹拌した。 Ti(OC4H9)4を完全に加水分解し、ゲル化、熟成および13〜20時間の乾燥を行

った後、このコロイドを 400℃で 3 時間焼成して Ce ドープ TiO2 ナノ粒子を得た。モル濃度 3、2 および 1

モル%の Ce イオンでドープされた TiO2 をそれぞれ T1、T2 および T3 とした。さらに、400、600 および

800℃で 3 時間焼成した後、Ce(NO 3)3・6H2O を添加せずに同じ方法で調製した TiO2 NP を使用した。

TiO2 NP を 400、600 および 800℃で焼成したものを、それぞれ T4、T5 および T6 とした。さらに市販のナ

ノ TiO2(P25 として知られ、Evonik 社製、一次粒子径 21nm)も用いた。

XRD パターンから Sherrer の式を用いて計算した結晶子の平均粒径は、T1~T6 でそれぞれ、4.56、

5.2、5.87、6,24、24 および 33nm であった。結晶形は、TI、T2、T3、T4 はアナタ―スで僅かにブルッカイト

が認められる程度で、T6 はルチル、T5 はアナタ―スとルチルの混合であった。ドープされたサンプル(T1

~T3)のサイズは、Ce ドーピングの効果のために、純粋な TiO2(T4 サンプル)と比較して減少することが

分かる。 これは、Ce ドーピングが TiO2 ナノ粒子の結晶子サイズに及ぼす顕著な効果であることが確認さ

れた。 焼成した TiO2 試料(T5 および T6)では、焼成の間に熱的に促進された微結晶の成長のために

粒径が増加する。TEM による粒径分布は、T1~T6 でそれぞれ、5-6、5-6、5-8、5-10、9-35、25-

40nm であった。

本研究では、インドのトドゥプジャ(Todupuzha)のワーム育種家から得られた外来種のミミズ Eudrilus

eugeniaeを使用した。培養物のストックは、牛糞、草刈りおよび鋸屑からなる培地を3:1:0.5の比で室温に

維持した。水分を時々噴霧することによって水分を維持した。実験は対照を含む 3 つの実験で行った。ミ

ミズの TiO2 NPs の影響を評価するために、成虫のミミズ 15 頭を 2kg の増殖培地に導入し、0.005%TiO2

NP と混合した。 4 週間後、ウェットふるい分けと手の振り分けによってミミズを数えた。このカウントは、1 ヶ

月に 1 回 6 ヶ月間実施され、長期間の効果を研究する。

ミミズの増殖率、一般細菌数および真菌数などの生物学的パラメータを測定した。 Eudrilus euginiae

の組織学は、前胸骨前部を前部、直後の胸骨の中間領域、後半の体節を後部として示すことによって行

われている。

組織病理学分析は、ナノ粒子の 60 日間のばく露後に行われ、起こった組織学的変化を調査した。 コ

ントロールにおいて、表皮、円形筋肉、および縦方向の細胞層のすべての層は、変化なく健全であった。

しかし、ナノ粒子で処理されたミミズは、表皮および円形筋肉層に損傷を示す。 試料 T1~T3では、ミミズ

の体壁内部の細胞が収縮する形で損傷がより目に見える。T4、T5、および T6 サンプルにばく露された虫

は、T1、T2、T3 および対照よりむしろ表皮、筋肉および腸の障壁上の表皮損傷および病理学的サインと

してのミミズに多くの損傷を示す。T6 サンプルでは、細胞の破損および収縮の形態の最大細胞損傷が観

察される。 細胞の損傷の強度は、T6> T5> T4> T3> T2> T1 の順である。P25 では、損傷が強く、上皮全

体が崩壊し、上皮細胞層が特定の領域で完全に失われた。 これらの結果は全て、ナノ粒子が Eudrilus

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eugeniae の組織学に影響を与え、ばく露されるナノ粒子のタイプに依存して生存または生殖に負の効果

をもたらすことを示唆している。円形および縦方向の筋肉細胞の損傷は、ミミズの腹膜層における崩壊を

もたらす。 腹膜の崩壊は、血管、リンパ管および神経の機能に問題を引き起こす可能性がある。 したが

って、異なる大きさの NP への被験生物のばく露は、内部細胞の様々な程度の組織病理学的変化をもた

らした。

ミミズの増殖速度と生存率が調査された。TiO2 NP が Eudrilus euginiae の増殖速度に影響することは

明らかであった。コントロールの個体数が約 4 倍に増加しているのに対し、 T1~T3 ではほぼ同数に近く

小さいほど少ない。3 試料 T1、T2 および T3 は、コントロールと比較して、それらのより小さい粒子サイズ

およびドープされたセリウムイオンの存在に起因し得る、ミミズの生殖にマイナスの影響を及ぼしたことが

分かる。 T4、T5 および T6 試料では、T1、T2 および T3 と比較して 50%までの増殖率の増加が観察さ

れた。P25 は、増殖速度にわずかな影響を示す。

培地中の一般細菌数(THB)および真菌数などの生物学的パラメータを分析した。THB はナノ粒子処

理したサンプルが最大値を示し、コントロールがそれに続く。T6 を除いて、対照と比較したナノ粒子処理

した試料の真菌数の増加も観察される。

サンプル T1、T2 および T3 は、ミミズの死亡率による増殖率の低下を示した。しかし、コロニー形成単

位(CFU)および真菌数の増加も認められた。これは、微生物の成長のためのミミズの死骸によって提供さ

れる有機物質に起因する可能性がある。ミミズの死亡率が低いサンプル T4、T5、T6 および P25 の真菌数

の減少は、ナノ粒子が殺菌および殺菌活性を有することを意味する。これはさらに、TiO2 ナノ粒子が、コ

ロニー形成単位の減少した数によって示される、土壌中に存在する天然の細菌および真菌を殺すのに

十分な毒性を有すると結論付けられる。

結論;TiO2NP は、ゾル - ゲル法により合成され、XRD 及び TEM により特徴付けられた。それらを使

用して、サイズ依存性毒物学的影響、ミミズ(Eudrilus euginiae)の様々な生物学的パラメータに対する

TiO2NP の評価を行った。 TiO2 ナノ粒子は、ミミズの増殖速度および生存率に悪影響を及ぼすことが分

かった。死亡率の増加は、より大きな粒子および対照と比較した場合に、より小さい TiO2NP であることが

分かる。これらの NP については、増殖率の低下および死亡率の増加に起因して、一般細菌の CFU およ

び真菌数の増加が観察される。様々な TiO2NP にばく露されたミミズの組織学的観察は、TiO2NP からの

ROS およびフリーラジカルの形成による細胞の破損および収縮の形態での体壁からのキューティクル損

失および筋肉損傷を示した。 NP は有機体に対する潜在的な毒性があり、これらの損傷は、生物の血管、

リンパ管および神経の機能に問題を引き起こす可能性がある。細胞の損傷の強さは、ミミズにおける TiO2

NPs のサイズ依存性を確認する。これらの結果はすべて、環境とエコシステムにおける TiO2NP の有害な

効果を示す。

注)著者より;この論文は、このジャーナルの今後の号で公開されたが、完全には編集されていない。

ジャーナルの問題で最終的な出版前に内容が変更されることがある。 論文を引用するには、doi を使用

すること。(論文の doi;10.1049/iet-nbt.2017.0240)

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(c) ナノ二酸化セリウムの毒性は複雑である-BASF の包括的な長期吸入試験の結果が数ヶ月以内

に予想される

BASF とオランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)の研究者の分析によれば、二酸化セリウムナノ粒

子の吸入毒性の実験による結果が変動していることは実験条件の相違で簡単に説明することはできない。

その結果は、現在 REACH の下で物質を評価しているドイツの管轄当局 Baua が直面している、いくつか

の考慮すべき問題点を浮き彫りにしている。

2012 年から 2017 年の間に発表された 6 つの実験的研究は、粒子の吸入後にラットとマウスに有害な

影響を見出した。 しかし、2017 年に発表されたこれらの研究の最新のものによって見出された影響は、

明らかにそれらより深刻ではなかった。それらの研究では、サイズ、形状、化学組成など、いくつかのパラ

メータにわたって異なる二酸化セリウムのナノ形態が使用された。 彼らはまた、異なるモデル種を使用し

た。あるものはラットを使い、他のものはマウスを使った。

RIVM の Susan Dekkers(2017 年の研究も主導)が主導したこの分析の目的は、パラメータ、または使

用したモデル種の間の関係、および 6 つの研究で観察された影響の変動を見つけることであった。BASF

の研究者たちは、既存の 6 つの研究におけるデータの適切な比較を可能にするために追加の実験研究

からのデータを提供した。 彼らは EU の NanoMile プロジェクトのために研究を行ったが、それらはまだ査

読付きジャーナルに発表されていない。研究者たちは、変動は外部被暴、粒径および化学組成の観点

だけでは説明できないことを見出した。彼らは昨年末に「吸入毒性学(Inhalation Toxicology)」誌に発表し

た論文で、「粒子サイズは非常に重要である」が、表面反応性や表面形状などの他の物理化学的性質が

毒性に影響を与える可能性がある、と述べている。彼らはまた、ラットがマウスよりも粒子の影響に関して

敏感であることを見出した。「この研究は、二酸化セリウムの異なるナノ形態間で毒性に違いがあることを

示している」と Dekkers 博士は化学物質管理専門誌 Chemical Watch に語った。 「しかし、これらは用量と

ばく露後期間に依存しているため、現在のデータセットに基づいて、あるナノ形態が他のナノ形態よりも毒

性が高いことを確認することは不可能である。」彼女が付け加えたところによると、肺の中にどれだけの粒

子がどこに沈着するかを正確に制御するためにばく露用量が調整された研究が、「毒性の絶対差を確認

する」ために必要とされる。

欧州委員会は現在、Echa のリスク評価委員会(Rac)が二酸化チタンについて推奨しているカテゴリー2

の発がん性分類の実施方法を検討している。 この分類は、あらゆる形態の化合物を網羅しており、二酸

化チタン製造業者を含むいくつかの分野から強い反対を受けている。Rac によると、その背後にある毒性

のメカニズムは全ての難溶性粒子に共通している可能性があり、二酸化セリウムを含む広範囲の同様の

化合物が同様の規制措置に直面するかもしれないという懸念を提起する。この問題は、少なくとも二酸化

セリウムに関しては、BASF が現在行っている大規模な実験的研究によって決定的に解決される可能性

があり、その一部はドイツ政府によって資金提供されている。 この研究には、多数のラットと他の研究と比

較してはるかに長いばく露期間が含まれる。しかし、この数百万ユーロのプロジェクトは数年遅れている。

2012 年に開始されたとき、予想では 2016 年に最終結果が利用可能になるであろうということであった。

2017 年に、BASF はそれが 2018 年の第二四半期に出版を予想すると Chemical Watch 誌に言った。同社

の Birgit Lau 氏は1月末 Chemical Watch に、調査は完了し、最終報告書のレビュ—が完了し、「今後数ヶ

月以内に」完成すると発表した。「このような包括的な長期吸入試験はこれまでに実施されたことがない」

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と彼女は報告のタイミングに関して付け加えた。 「数万の組織学的スライドを検査しなければならなかっ

た。評価はそれに対応して時間がかかる。」

(論文;Differences in the toxicity of cerium dioxide nanomaterials after inhalation can be explained by

lung deposition, animal species and nanoforms;Susan Dekkers, Lan Ma-Hock et al., INHALATION

TOXICOLOGY 2018, VOL. 30, NO. 7-8, 273–286)

3-2. 内分泌かく乱

(1) 米国

(ア) 連邦機関、プロジェクトの取組み

(i) EPA、代替試験方法の戦略草案に関する公開協議に応じたステークホルダー分析を発表

一部の NGO は、TSCA の新しい化学プログラムが動物実験で巨大なスパイクを引き起こしたという最

近の分析が問題を抱えていると主張し、米国の EPA がなぜこの研究を採用したのか疑問を呈している。4

月、EPA は、代替試験方法の戦略草案に関する当局の協議(コンサルテーション)に応じて提出されたス

テークホルダー分析を発表した。動物の倫理的扱いを求める人々の会(Peta)と責任ある医学のための医

師委員会(PCRM)が共同でまとめたこの分析は、最近改訂された TSCA の新しい化学物質プログラムが、

75,000 以上の動物を使うという動物試験の劇的な増加を引き起こしている、と指摘している 。 Peta と

PCRM は動物実験に反対する NGO である。

しかし、最近のブログ記事で、NGO 環境防衛基金(EDF)の上級科学者、リチャード・デニソンは、EPA

の化学部門責任者であるナンシー・ベックが、今年初めの聴聞会で、「はっきりと指摘され、熱意を表明さ

れ」ても、特に計画案に直接回答がなかったことは、奇妙なことであると言っている。「私は、ベック博士の

Peta / PCRM のレターや分析への関心は、実験動物の節約とはあまり関係がなく、彼女の以前の雇用主

であるアメリカ化学工業協会(ACC)の明確な優先順位である、新しい化学物質の試験要件を課すことを

避けるための合意された取り組みのための有用な口実を提供するものとして、その文書を見ているのでは

ないかと疑う。 」と彼は述べた。

また、NGO 天然資源防衛協議会(NDRC)弁護士のダニエル・ローゼンバーグは、「ナンシー・ベックを

リーダーとして、化学産業と EPA は‘逃れられる限り、有害化学物質に関する試験あるいは制限をできる

だけ少なくする’という共通の目標を持っていることに同意した。動物実験の問題を‘トロイのマウス(木馬)

‘として使って、その使命を進めることができて喜んでいる。」と言った。デニソン博士はまた、分析には「重

大な欠落」があると主張している。Peta / PCRM 分析は、テスト要件の記述を必ずしも含まない要約に依

拠しているため、2015年から 2017 年の同意命令によるテストの増加の程度を「著しく誇張している」と彼は

述べた。この問題は別として、新しい法律は、リスク判断を下す際に十分な情報があるためには、EPA の

検査機関が拡大されることを確認したという。「 新しい法律が、適切に実施されれば、科学的に信頼でき

る代替がまだ存在しない脊椎動物の試験を含む、化学物質の試験を、多くはあっても少なくはない、結果

をもたらすであろうということは、誰にも驚くべきことではない。」 NRDC の科学者プーレン・フェディニック

は、改正された法律が、物質の安全性を確保するために、「動物一体を使用する試験を含む幅広いツー

ルを使用して」EPA の能力を拡大することに意見が一致している。プーレン・フェディニック博士は、「動物

福祉上の懸念は、ヒト、野生生物、環境を保護する責任を回避するための当局のための無料パスとして

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使用されるべきではない」と Chemical Watch に語った。

EPA のドラフト戦略のコメント期間は 5 月 11 日に終了した。

(ii) CLARITY-BPA レポートの一部が公開

「BPA(ビスフェーノール A)の毒性に関する学問的及び規制上の見識に関連するコンソーシアム」

(Consortium Linking Academic and Regulatory Insights on Toxicity of BPA;CLARITY-BPA)は、6 年前に

設立されたが、CLARITY-BPA プロジェクトが、米国環境健康科学研究所(NIEHS)及び米国食品医薬品

庁(FDA)により組織され、国家毒性プログラム(NTP)により実施されている。国立研究機関の研究者のみ

ならず、大学の研究者等も研究費の助成を受けている。このほど、プロジェクトの中核(コア)研究の報告

書、全体の報告書案、プロジェクト参加者の生データの一部が公開され、雑誌の出版物へのリンクも提供

されている。

NTP は、CLARITY-BPA プロジェクトの中核研究に関する最終報告書で、BPA が「最小限の影響」を

引き起こしたという論争の的となっている声明を削除した。声明は NTP が草案を発表した 2 月に学者や

NGO からの批判を呼び起こした。公開された、査読を受けた報告書は、「低ストリンジェンシー(近迫/厳

密さ)統計試験によって検出された BPA 投与群と対照群の違いは用量反応性ではなく、応答は時には低

用量群または中用量群でのみ生じる」と結論づけている。FDA は、グッド・ラボラトリー・プラクティス(GLP)

により、国立毒物学研究センター(NCTR)で中核的研究を行った。 コアおよび助成された学術研究の結

果を統合した報告は、来年の秋まで発表されない。

この結論に関して、ノースカロライナ州立大学の CLARITY-BPA プロジェクトの助成研究者の Heather

Patisaul 氏は、「全体的に見て、FDA は BPA がそれに関連しているかまたは関連性があるという効果を有

するとは考えていないと報告書は表明していると私は考える」と述べた。 「統計的アプローチを「低ストリン

ジェンシー(厳密性が低い)」と分類することは懸念事項であり、それは彼ら自身の結果の生物学的意義

に自信を持っていないことを効果的に示唆するからである。「この研究の範囲と規模はBPAにおいて前例

がなく、BPAにヒトが生涯ばく露されても健康影響を引き起こす可能性はほとんどない」と米国化学工業会

(ACC)の Polycarbonate / BPA グローバルグループの Steven Hentges 博士は言った。

このドラフトが出版された後、少数の NGO および BPA CLARITY の助成研究者は、低投与量の BPA

(2.5μg/ kg 体重/日)にばく露された雌ラットにおける乳癌の発生率が高いことを示唆する結果に懸念を

提起した。 これらのラットは、「投与停止群」において、3 週間齢になるまで BPA にばく露され、その後、さ

らなる「処置(投与)」なしで保持された。最終報告は、癌腫が「BPA 処置関連がもっともらしい」とは考えに

くいことを示唆している。これは、投与停止群と連続投与群の間で一貫した結果が得られていないことを

示している。 パティサール教授は、「効果が非常に異なる実験であるため、投与停止群と連続投与群の

両方で同じ効果が期待されるべきではない」と述べた。 「発達(成長)時のみのばく露は、生涯にわたる

ばく露と同じ結果を生み出すと推測するのは無理であるが、これらのタイプの比較は報告書全体を通じて

行われている。」この報告書はまた、なぜ低投与量の BPA が高投与量では見られない健康被害を引き起

こすのか(単調でない用量応答として知られる)についての質問に答えることができない。「用量応答の欠

如は依然としてFDAにとってこだわりのあることであるが、非単調用量反応は BPA の典型的なパターンで

ある。データをうまく統合することで、そのメカニズムがどうなっているかの推定について、ある解答と洞察

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が得られるであろう」と パティサール教授は言った。

「CLARITY-BPA は、データの適切な統合が行われる場合にのみ役立つ。」と NGO ChemTrust の

Ninja Reineke 氏は結論付けた。 「低用量域での有意な効果は、これまでに発表されている CLARITY 論

文の多くに見られ、これからさらに出てくる。」

(CLARITY-BPA の中核研究の報告書;

https://ntp.niehs.nih.gov/ntp/results/pubs/rr/reports/rr09_508.pdf )

(iii) 米国とカナダ、今後数年間のリスクアセスメント計画を発表

米国とカナダの両国は、それぞれ EPA の統合リスク情報システム(IRIS)と化学物質管理計画(CMP)

の下で、今後数年間のリスク評価計画の詳細を発表した。

IRIS - 環境中に見出された化学物質の健康被害を特定し特徴付ける EPA 機関 - は、「透明性への

取り組みの一環として」その活動に関する最新情報を提供している。進捗状況の更新は、どの化学物質

がピアレビュー、ドラフト開発、およびスコープ設定および問題定式化段階にあるかを示す。

現在ピアレビュー段階にある化学物質は次のとおり。

エチル三級ブチルエーテル(ETBE)

三級−ブチルアルコール;

ドラフト開発段階の物質は、系統的レビュー・プロトコル、パブリックコメントドラフト、外部のピアレビュ

ーが将来のステップである。 これらの物質は以下のとおり。

無機砒素

6 価クロム

がん原性のないポリ塩化{えんか}ビフェニル(PCBs)

いくつかのパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)-PFNA、PFBA、PFH

×A、PFH×S、PFDA -EPA が言うところの、このクラスの物質に対処するためのより幅広いアプ

ローチを支持してレビューされる。

最後に、3 つの物質が有効範囲および問題の定式化段階にある。 これらのそれぞれは、4 つの将来

の公的ステップにある:すなわち、IRIS 評価計画、系統的レビュープロトコル、パブリックコメントドラフト、そ

して外部のピアレビューである。

水銀塩

メチル水銀

バナジウムとその化合物

EPA は、これらの評価のいくつかについて予想される日を設定したが、これらは変更される可能性が

あり、更新されると述べている。

同様に、カナダは、情報収集、リスク評価、およびリスク管理をカバーする 2018 年から 20 年までのロー

リングプランを発表した。 カナダの CMP は、2020 年に完了する予定の第 3 段階の一環として、約 1550

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Page 151: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

の物質がもたらす潜在的なリスクを評価および管理することを目指している。情報収集計画は、情報収集

イニシアチブの概要を示している。これは、義務的な調査(セクション71の通知)または自発的な調査によ

るものである。 政府によると、このフェーズは優先順位の設定、リスク評価およびリスク管理を通知するこ

とを目的としており、通常、リスク評価の開始日の 6 か月前に行われる。カナダのリスク評価計画には、

CMP の第 3 段階で評価されている物質のリストが含まれている。 最後に、この国のリスク管理計画には、

予想される出版物や、利害関係者との協議や関与の機会が含まれている。

(イ) その他、米国における内分泌かく乱物質の安全性情報

(i) 魚の胚が出生前発生毒性試験を簡易化できるかどうかのプロジェクト試験

米国の科学者は、規制上のハザード評価のための出生前発生毒性(PNDT)試験が魚の胚の使用に

よって根本的に単純化できるかどうかを調査している。 既存の第 2 の種の PNDT データの要件を満たす

ためにゼブラフィッシュ胚試験(ZET)を使用することができ、費用、時間および脊椎動物の使用の大幅な

削減につながることが期待される。

OECD テストガイドライン(TG)414 に記載されている、標準のげっ歯類 PNDT 試験と ZET を比較して、

学界、産業界、および NGO の研究者が証拠を体系的にレビューする。 種における本質的だがよく理解

されていない差異のため、ラットとウサギの両方で OECD TG414 が実施されてきたと研究者達は言う。 し

かし、発生毒性についてのインビトロおよびエクスビボの試験が多数あるが、いずれの試験または試験の

組み合わせも、ガイドライン 414 に完全に代わることはできない。ゼブラフィッシュはモデル脊椎動物であ

るが、胚に関する試験は動物実験の代替と広く考えられている。 主に独立した栄養補給が始まる前に検

査が行われるため、胚は動物実験を扱う規制の枠組みの下にはない。 ZET には、実行が速く、比較的

安価であるという利点もある。

米国のジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生学校のエビデンスベースの毒物学的共同研究

(EBTC)の調整を受けて、チームは 2012 年以降のレビュー・プロトコルと研究に取り組んできた。レビュ

ー・プロトコルを改良する前には、もともとサリドマイドを含むいくつかの化学物質に ZET データでパイロッ

ト研究を行っていた。チームは、最終的に 1400 の化学物質に関する 342 の公開された研究を含む、900

以上の ZET 論文の全文をレビューした。 このグループは、現在、哺乳類の論文を検索する際に化学物

質のバッチ処理を行っている。

「この数の化学物質を哺乳動物の文献検索戦略に一挙に組み込むことは物理的に不可能である。」と

EBTC のディレクターの Katya Tsaioun は説明する。Tsaioun 博士は、予断なく処理の結果を待っている。

「動物試験がヒトの健康を守る上で有用であり、入手可能なものは他にない場合、それらは使用すべきで

ある。しかし、より安価で予測性が高く、迅速で、動物試験で検出できないヒトの毒性の特定のメカニズム

を指し示す、他の技術がある場合は、規制パラダイムに組み込む必要がある」と彼女は言う。

(ii) 内分泌かく乱物質の専門家が書いた一般向けの本を、米国化学工業協会が批判

内分泌かく乱物質とヒトの健康に関する本は、それが公式に出版される前でさえ、著者の研究が「科

学的品質、信憑性と信頼性」を欠いているという主張で満たされてきた。「より病的で、より太って、より貧し

く:私たちの健康と将来に対するホルモンかく乱化学物質の緊急の脅威…そしてそれに対して私たちが

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できること」は、は米国の科学者 Leonardo Trasande によって書かれた。

2019 年1月 8 日に出版されたこの本の中で、医師である Trasande 教授は「回復不可能なまでに私た

ちのホルモン系をかく乱し、健康を損なう化学物質にばく露されている」と書いていると、出版社はそのウ

ェブサイトで述べている。 「彼は、私達にこれらの化学物質が、私達の家、学校、職場、私達の食料、そ

して私たちがコントロールできない無数の他の場所に隠されていることを示している。-私達の生活にお

けるこれらの物質の継続的な使用から守る政策の仕組みのみならず …残念ながら、安全なところはな

い。」

しかし、米国化学工業協会(ACC)がこの本を批判するのは速かった。 1 月 8 日の発表の 5 日前に出

された声明の中で、この業界団体は、本の背後にある研究を「科学的品質の欠如」と攻撃した。さらに、

ACC は、この本を読む人全員に対して、「注意と見分ける目をもってすべての主張を検討する」よう励まし

ている。「Trasande 博士やその他の人の「ホルモンをかく乱する化学物質」に関する研究は、科学的な質、

信憑性、信頼性に欠けていることがわかった」と ACC は述べた。

Trasande 教授は、医師であると同時に准教授であり、NYU Langone Health の環境小児科部門の部長

であり、ニューヨーク大学医学部の小児科の学科で副学科長を務めている。彼は以前、EDCs の疾病負

担に関する財政的な調査について ACC と衝突したことがある。Trasande 教授は国際的な科学者チーム

を率いて、2015 年に、化学物質によって EU は医療費を通して少なくとも年間 1,570 億ユーロの費用がか

かり、生産性を失い、収益を失ったと報告した。当時、ACC は、この調査には「多くの欠陥」が含まれてお

り、「公衆衛生の保護を促進するために、事実上何もしていない」と述べた。

本の出版後、多くのこの分野の一流の科学者たちがその防衛に力を注いでいる。例を挙げると、マサ

チューセッツ大学アマースト校の助教授である Laura Vandenberg は、次のように述べている。 「読者にと

って広さと深さを併せ持つ、非常によく研究された本であり、引用文献リストは、学生、規制当局および意

思決定者が読むべき素晴らしい研究を集めている。」 ACC によるこの本への批判に答えて、

Vandenberg 教授は、「懐疑論は悪いことではない - それは実際に科学的発見と進歩の活力の源である」

と述べた。 しかしこの本に対する業界団体の批判は「製造された疑い」の完璧な例だ」と言った。また、

「ホルモンかく乱化学物質」という用語へのACCの批判を「語義の問題」として棄却し、それは「広く誤用さ

れ、科学者によって誤称であると見なされた」と特徴づけた。 彼女によれば、WHO、米国国立科学アカ

デミーおよび Unep は「内分泌かく乱物質が存在することに同意するだけでなく、それらは文献から何千も

の例を提供している。」

スペインのミゲルヘルナンデス大学生理学教授で内分泌学会の EDC 諮問グループの議長である

Angel Nadal は、ACC のコメントは正当化されないと語った。「Trasande 博士の研究は EDC の公衆の理解

における重要なギャップを埋めている。多くのヘルスケア提供者と消費者は科学が内分泌かく乱化学物

質が私たちの健康に与える影響について懸念を提起していること、一つの挑戦が消費者にこの情報に基

づいてどのように行動したらよいかを決定するに役立つことに気がついている。 Trasande 博士は、人々

が日常生活の中で被ばくを減らすのに役立つ具体的なアドバイスを提供している。」

「より病的で、より太って、より貧しく」 はボストンを拠点とする教科書出版社ホートンミフリンハーコート

から入手可能である。(本の原題;Sicker, Fatter, Poorer: The Urgent Threat of Hormone-Disrupting

Chemicals to Our Health and Future . . . and What We Can Do About It)

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(ウ) ビスフェノールAの有害性に関する議論

ビスフェノールAは、プラスチックのポリカーボネートやエポキシ樹脂などの原料で、一部の食品用の

容器等に使用されている。米国では、「3-2.(1)(ウ)ビスフェノールAの有害性に関する議論」で取り上

げたように、プロジェクトが進行中であるが、この一年この物質の有害性に関する議論が多かった。

(i) BPA が若年者の心臓機能変化に関連する

最近の新生仔ラットの心臓細胞を使用した研究によると、ビスフェノール A(BPA)は若年者の心臓機能

に悪影響を与える可能性がある。この結果は、BPAばく露が心臓の機能に電気的および機械的に影響を

与える可能性があるという証拠が増えていることを支持している、と研究チームはいう。さらに、彼らは、内

分泌かく乱化学物質(EDCs)への子供の心臓の脆弱性に対処することの重要性を強調している。この研

究は、ワシントンの児童専門病院である「子供の国民健康システム」の科学者が米国連邦政府の資金で

行ったものであり、BPA が成人の心臓機能に悪影響を与える可能性があることを以前のラットの研究で示

したジョージ・ワシントン大学の Nikki Posnack が率いていた。チームは、環境、最大臨床および「超生理

学的」なばく露レベルを模擬するために選択された用量の範囲で BPA を投与した。 心臓細胞は新生仔

心室筋細胞であるが、通常、自発的な同期鼓動を示し、有用な心臓の健康基準である。BPA のばく露は

自発的な拍動速度の低下および拍動の変動率の増加をもたらした。 それはまた、細胞がカルシウムをど

のように扱うかに影響を与え、これは心臓機能の様々な側面の調節にとって重要である。 しかし、カルシ

ウム処理への影響は、少なくとも部分的に可逆的であった。Posnack 博士は、心臓の影響が内分泌かく乱

と関連している可能性があるが、これを確認するためにはより多くの研究が必要であると述べている。 こ

の影響は急速で、タンパク質のイオンチャネル機能や翻訳後修飾(post-translational modification)の変化

に起因する可能性があると彼女は言った。

この研究は興味深い機構的情報を提供するが、ヒトの健康への影響には限界があると、米国化学工

業協会の Steve Hentges は述べている。 「例えば、一般に試験された濃度の範囲は、ヒトにおいて期待さ

れる、または可能である血清濃度さえはるかに上回っている。」

BPA については、学界と連邦機関を結びつける米国の CLARITY-BPA プログラムを通じて精査中で

ある。 プログラムの目的は、潜在的な健康影響の全範囲をカバーするリスクデータを生成することであり、

特に規制上の意思決定に役立つ。このプログラムは、今年初めに「コア」研究のためのモノグラフが出版

され、BPA が「最小限の」悪影響を有すると記述したため、論争を起こした。Hendges 博士は、

CLARITY-BPAのコア研究は、「妊娠から子孫の完全な寿命までラットを BPAにばく露することを検討した」

ため、「ヒトの健康にとってより直接的に重要」であると述べた。プログラムの最終結論は 2019 年に予定さ

れている。

ちなみに、FDA は、BPA について、現状の濃度では食品やパッケージに含まれる濃度では、安全とす

る一方、乳幼児の瓶やカップには使用禁止としている。

(N. Posnack らの研究論文(オープンアクセス);

https://www.nature.com/articles/s41598-018-25719-8 )

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(ii) BPA がインスリン抵抗性を誘発する可能性があるとのヒト研究

米国で行われた小規模なヒト研究は、ビスフェノール A(BPA)がグルコースに対する身体のインスリン

反応に影響を与え、II 型糖尿病への可能性のある経路に導くことを示唆する動物実験の結果を強化する

ように思われる。疫学研究は BPA ばく露とインスリン抵抗性/ II 型糖尿病との相関を示唆しているが、その

影響をヒトにおいて対照実験を行った方法で確認する研究はなされていない。

ミズーリ州コロンビア大学の Frederick vom Saal 率いる、この「探索的」研究(臨床研究論文)では、米

国 EPA によって定義された基準または「安全な」レベルで健康な男性と女性を単一の BPA 用量にばく露

した(1 日あたり、体重 1kg あたり 50μgの BPA )。被験者は、バックグラウンド BPA レベルを低下させるた

め、試験前 48 時間、缶詰の食べ物と飲み物を避け、レジのレシートの扱いを最小限に抑えた。 2 回の

別々の試験日に、彼らはエタノールとトニックウォーターを含む飲み物を与えられたが、そのうち 1 つには

BPA が加えられていた。

研究チームは、参加者に耐糖能試験飲料を与えた後、インスリンとタンパク質の分析のための血液サ

ンプルを監視した。 彼らはまた、グルコースが赤血球に付着したときに生成される、糖化ヘモグロビンま

たは HbA1c のレベルを測定した。 医師は、高血糖値のレベルとⅡ型糖尿病発症のリスクの指標として高

レベルを使用した。研究者らは、糖化ヘモグロビンレベルと、インスリン応答を示す、いわゆるインシュリン

生成指数の変化との間に、対照と比較して BPA について正の相関があることを見出した。 彼らは、選択

された用量での BPA ばく露は、ヒトにおけるグルコース刺激インスリン応答を変化させる可能性があること

を示唆する、としている。彼らは、この結果が BPA の影響が代謝疾患に関連していることを示していないこ

とは明らかであるが、 代わりに、この研究は、ビスフェノールを含む他のエストロゲン様化学物質へのばく

露が、本来のインスリン抵抗性機構を誘発することによってインスリン抵抗性に寄与し得るかどうかを調査

する「初期段階」である、とした。

「規制上の見地から、BPA に対するヒトの生理的反応を同定することを、BPA の「安全」と推定される一

日当たりの用量で行うことが、規制プロセスにおける主要な前提が正しくないことを示している」と研究チ

ームは内分泌学会のジャーナルに記している。

2015 年に発表された BPA リスクアセスメントでは、食品接触材料、酵素、香味料および加工助剤に関

する欧州食品安全機関(Efsa)のパネルは、BPA の許容可能な 1 日摂取量(TDI)を 4μg/ kg 体重 /日と

低く抑えている。 Efsa は、BPA とその TDI の再評価のための情報を収集している。

本論文の要旨(そこから原論文にアクセス可能):

https://academic.oup.com/jes/advance-article/doi/10.1210/js.2018-00151/5094959 ( DOI:

10.1210/js.2018-00151)

(iii) エンドクリン協会の BPA の有害性に関する意見

「3-2.(1)(ア)(ii)CLARITY-BPA レポートの一部が公開」において、米国環境健康科学研究所

(NIEHS)及び米国食品医薬品庁(FDA)により組織され、国家毒性プログラム(NTP)により実施されている

「BPA(ビスフェノール A)の毒性に関する学術的及び規制上の洞察を関連づけるコンソーシアム(The

Consortium Linking Academic and Regulatory Insights on BPA Toxicity ;CLARITY-BPA)」の研究結果に

ついて記載したが、BPA が「最小限の影響」を引き起こしたというこのプロジェクトの結論が FDA の認める

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処となっていない点について論議が続いている。BPA などのビスフェノール類は、食品用のプラスチック

容器やメタル缶のライン硬化に使用されるため、消費者の関心は高く、規制とも関連してくる。

内分泌かく乱物質に関する専門家らは、10 月 23 日のエンドクリン協会(The Endocrine Society)のバ

ーチャル記者会見で、BPA の脅威と健康への影響の科学的証拠について議論する予定である。Laura N.

Vandenberg 博士.、CLARITY-BPA の調査員 Heather Patisaul 博士は、研究のコアレポートの最新データ

と、記者とのこの会話の間に学術パートナーからの結果を公開する予定である。

The Endocrine Society は、1916 年に創設された、ホルモンに関する研究と内分泌の臨床に活発に貢

献している世界最大かつ最古の学会であり、122 カ国にわたる 18000 人の会員を有し、一般市民や内分

泌学が専門でない医師の内分泌学に対する理解形成を促進するほか、世界中の内分泌学者の研究の

促進、政府機関の健康政策にも寄与している。そのプレスリリースで、以下のように述べている。

2014 年時点での本協会および IPEN( International Physical Activity and the Environment Network)

の EDC 入門によると、生殖、行動および代謝障害を含む健康問題に BPA を結びつけるほぼ 100 の疫学

研究が発表されており、 BPA はホルモンエストロゲンを模倣することによって体内の内分泌系を破壊し、

ビスフェノール S などの代替化学物質も同様の効果を有する。

米国疾病対策予防センター(CDC)は、アメリカ人の 96%以上の身体中に BPA が存在していると推定

している。 この化学物質は、ポリカーボネートプラスチック製の水ボトルや缶詰などのさまざまな食品容器

に含まれている。CLARITY-BPA プロジェクトは、規制当局と科学者が BPA の健康への影響について合

意を得るのを助けるために設計されたものであるが、FDA は学術共同研究者の結果を組み入れていない

不完全なデータセットに基づいて、現状のレベルの BPA ばく露によってはヒトに害は及ぼさないという声

明を発表した。しかし、この研究から明らかになった予備的な知見によれば、BPA ばく露の健康への影響

については、重大な懸念が残っていることが示されている。

(The Endocrine Society のプレスリリース;

https://www.endocrine.org/news-room/2018/concerns-remain-about-bisphenol-a-safety)

(2) EU (ア) EU 機関、プロジェクトの取組み

(i) EC が、EDC 試験方法開発のための EU 優先順位を示す

欧州委員会は、内分泌撹乱化学物質 (EDCs) の識別のための試験方法の開発のための優先順位

をまとめた報告書を公開した。報告書は、以下の目的を持った昨年夏に開催された専門家ワークショップ

に基づいている:

現在使用可能な試験方法のギャップを識別する

これらのギャップを埋める方法を識別する

試験方法のさらなる開発及び検証と試験手法(approaches to testing)を優先順位付ける

約 70 人の専門家が、EU 機関、加盟国当局、大学、研究機関、企業、NGOs から出席した。

報告書によると、参加者は、ヒトの健康にとって最も重要な有害転帰(adverse outcomes)は以下であ

る:

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甲状腺関連の発達神経毒性

代謝機能障害

女性の生殖

男性の生殖

彼らは、環境のための最も重要な有害転帰は、生殖健康;及び成長と発達に関連する、と述べた。全

体的にみて、ワークショップで識別された最高の優先順位は欧州委員会共同研究センターによって実施

された専門家の 2017 年調査中で確認されたそれらと大部分が一致した。

(ワークショップレポート;

https://publications.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/6b464845-4833-11e8-be1d-01aa7

5ed71a1/language-en/format-PDF/source-69678428)

(ii) Echa と Efsa が、EDC の作用機序(MOA)解析を特定

Echa および欧州食品安全局(Efsa)のガイダンス(1-2.、(ア)、(ⅲ)参照)によると、EU の合意された

基準を用いて内分泌かく乱化学物質(EDC)を特定する際には、作用機序アプローチを用いるべきであり、

そのようなアプローチでは、悪影響(adverse effect)をもたらす詳細なキーイベントに注目することが必要

であるとしている。付録を含めて 156 ページにわたる大部のガイダンスは、エストロゲン性、アンドロゲン性、

甲状腺およびステロイド生成(EATS)経路によって引き起こされる影響に、ほとんど限定して扱っている。

物質によって引き起こされる摂動が EATS 経路の内分泌かく乱作用機序を介してどのように悪影響を引き

起こすかについての「比較的良好な」機構的理解があると説明されている。しかし、ガイダンスは非 EATS

様式の理解を向上させるための「さらなる研究」を求めている。非 EATS 内分泌作用の例としては、視床下

部 - 下垂体 - 副腎系軸のかく乱があり、その結果ストレス応答が変化する。EDC 基準は、化学物質が

当てはまるための 3 つの条件を規定している。 それらは以下である:

悪影響(有害作用)がなければならない。

内分泌作用機序がなければならない。

有害作用は作用機序の結果でなければならない。

ガイダンスは、「有害作用と内分泌活性との間に生物学的に妥当なつながりがある」場合、最終的な条

件が満たされると説明する。十分な証拠があれば、そのようなリンクを見つけるために MoA 分析を使用す

ることも説明している。 フローチャートは、「利用可能な証拠が、内分泌作用様式の生物学的妥当性を裏

付けているか?」 と問うており、回答が、いいえの場合、「ED 基準が満たされていないため」、EDC に該

当するかどうかの判定プロセスは「停止」する。作用機序における主要な事象関係が生物学的に妥当で

あるかどうかを決定するには、内分泌学の教科書、科学雑誌およびケーススタディを含む科学文献といっ

た情報源が必要である、とガイダンスは述べている。所与の内分泌腺機能低下症がヒトに関連していない

と結論づけるには、「相当量の情報」が必要となる、と付け加えている。

最後に、ガイダンスは低用量効果と非単調用量応答(NMDR)について触れている。 これは、低用量

効果および「内分泌かく乱と関連した(エコ)毒性学における NMDR 曲線の存在および/または関連性に

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関する科学共同体におけるコンセンサスの欠如」を認めている。 しかし、それはまた、NMDR を有する

EDC の実験データからの「いくらかの証拠」を指摘する。「NMDR は、当初から、ハザード同定のための評

価を支持しないと却下すべきではないが、ほとんどの場合、標準的なインビボ毒性試験の設計(主として

限られた用量数のため)では、 NMDR の存在を結論することが許されない。 」と、それは警告している。

しかし、多くの濃度を試験することができるインビトロ研究における非単調性の証拠は、内分泌細胞の

MoA の生物学的妥当性を支持するためのさらなる情報を提供し得る、と示唆している。

パブリック・コンサルテーションでは、業界および NGO は指針案を批判した。 NGO は、ガイダンスで

必要とされる高いレベルの証拠がEDCの特定を困難にする懸念を共有した。 例えば、英国のNGOであ

る CHEM Trust は、化学物質の MoA に必要とされる「過度に詳細な知識」について不満を抱いていたと

語った。 一方、健康環境連合(HEAL)は、このガイダンスは EATS の経路のみに焦点を当てるべきでは

ないとコメントした。

(iii) プロジェクト、プラスチック包装用フタル酸エステル 5 品目の代替品開発を産業界に要望

科学者と NGO が関わっている 2 年間のプロジェクト、「プラスチックパッケージングにおける有害化学

物質:技術の現状、優先順位付け、評価」は 2019 年半ばまで実行される。この研究プロジェクトが最近出

した報告書では、プラスチック包装に使用されている 5 つのフタル酸エステルを、代替することが検討され

るべき「最優先」の物質としている。それらは、報告書によると、「専門家による判断を含む」優先順位付け

基準のセットを使用して、プラスチックパッケージングに潜在的に存在する 4,000 以上の化学物質を含む

最初のデータベースから選択された。

5 つのフタル酸エステルは、プラスチック包装に使用されたことによるヒトの健康へのリスクとその代用

品の可能性について評価されなければならない、と報告書は述べている。 それらは以下である:

ベンジルブチフタレート(BBP)

ジブチルフタレート(DIBP)

ジイソブチルフタレート(DBP)

ビス(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP) ジシクロヘキシルフタレート(DCHP)

5 月に発表されたこのプロジェクトの第 1 段階では、ヒトの健康被害のための 63 の、環境のための 68

の "高位の"物質が、CLP分類表示調和システムに基づいて "プラスチック包装に関連する" 906のリスト

から特定された。研究者らはリストを短縮するために、より詳細な第 2 段階の優先順位付けプロセスに着

手した。 ヒトへのハザードについては、欧州におけるバイオモニタリングデータ、内分泌かく乱作用およ

び規制要件に重点を置いていた。環境ハザードの優先順位付けアプローチには、生態毒性情報源の追

加の検討、排除基準の定義、および一次文献からの情報の抽出が含まれていた。 報告書によると、この

結果、さらなるリスク評価のための最初の物質として BBP が選ばれた。

フタル酸エステル類は、生殖毒性のためのみならず、内分泌かく乱性のために、REACH 候補リストに

載っている。 EU 加盟国は 7 月、製品中の、DEHP、DBP、DIBP、BBP の 4 物質を制限する欧州委員会の

提案を支持した。 しかし、これらの物質は依然として食品接触プラスチックに合法的に使用することがで

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きる。報告書によると、ヨーロッパ以外の多くの国では、フタル酸エステルはプラスチックフィルムやシート

を含む消費者製品に広く使われている。今後数ヶ月にわたって、このプロジェクトはこれらの物質の代替

品候補を検討する予定である。

研究成果は、優先順位付け戦略が利用可能なデータに依存しており、結果として「すでに注目を集め

ている物質」であると補足説明されている。報告書によると、データベースの多くの化学物質では、ハザー

ド、用途、ばく露、および規制状況に関するデータがほとんど存在しないという。 例えば、最初のデータ

ベースの物質の 13.4%および 27%のみが、それぞれ環境およびヒト健康のリスクに関する CLP 分類が調

和されているだけである。データベースは、例えば、in-silico 分析または in vitro バイオアッセイに基づく

スクリーニングプログラムを通じて新規データを生成することによって、これらのギャップを埋めるための将

来の研究の基礎として役立つ可能性がある、と報告書は付け加えている。

NGO CHEM Trust のエグゼクティブディレクターの Michael Warhurst は、フタル酸エステル類はまだ

食品包装に許可されていることは「奇妙」だと語った。 同プロジェクトは、「フタル酸エステルなどの問題の

ある化学物質群のより強力で迅速な、より包括的な規制をどのように必要としているか」を示している、と彼

は付け加えた。食品包装フォーラム(Food Packaging Forum)の Jane Muncke 専務理事は、委員会が食品

接触材料(FCM)規制を評価し始める中で、「この問題についてより透明性を確保することが急務である」

と述べた。

このプロセスの一環として、昨年末、EU の役員はロードマップについて協議した。 NGO は、FCM 中

のすべての有害物質に「デフォルトでの禁止(始めから禁止)」を要求している。

(プロジェクトの報告書;

https://www.foodpackagingforum.org/fpf-2016/wp-content/uploads/2018/09/HCPP-prioritization-rep

ort_Sept-2018.pdf )

(iv) EUの主要プロジェクトが玩具に高いフタル酸エステル類レベルを検出

4 つの EU 諸国による共同の税関と市場監視活動により、チェックしたおもちゃの 104 サンプルのうち、

3分の 1以上が違法レベルのフタル酸エステル類を含んでいたことが見出された。また、違反品目の 92%

が、欧州経済地域内で販売されている製品の健康、安全、および環境保護基準への適合を示す CE マ

ークを付けていた。チェコ共和国、ハンガリー、ポーランド、スロバキアは、昨年 9 月から 10 月の間に、中

国からの 225 万個のおもちゃの 438 の積荷からのサンプルを検査した。この検査は、フタル酸エステル類

の濃度が REACH 付属書 XVII 第 51 条および第 52 条に基づく制限を超えていると疑われるため、高リス

クであると考えられた、可塑化された玩具 - 特に人形 - に焦点を当てたものである。

見出された 3 つのフタル酸エステル - DEHP、DBP および BBP - は、それらの生殖毒性および内分

泌かく乱性のために、SVHCのREACH候補リストに含まれている。 その他はDINP、DIDP、およびDNOP

である。

11 月に行われた REACH、CLP、殺生物剤の執行に関する欧州委員会の会議の後、ポーランド財務

省の税関部門からの Anna Kobylecka は、プロジェクトの目的は「それらの国を介して輸入された安全な製

品の割合を決定することではなく、 危険な製品が自由な流通のために解放されないことを確実にするた

めである」、と化学物質管理の専門誌ケミカルウォッチに述べた。彼女が付け加えたところでは、「心配し

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ていた」ことは、CE マーキングを受けた過剰レベルのフタル酸エステルを含む玩具が高レベルで、生産

段階ですべての関連要件が満たされたという生産者によって宣言されているということである。執行当局

は、規制の初期段階では 722,000 を超える玩具を市場から遮断した。 その後の段階で、いくつかの玩具

は自由流通のために修正されて解放された、と彼女は言った。 輸入業者がラベル表示や警告や指示の

提供に関して是正措置を講じたくない場合、特定の玩具が再輸出された。高レベルのフタル酸エステル

の疑いが「重大なリスク」と見なされたため、国内市場監視当局は 31,590 個の玩具を破壊した。規制措置

に従い、危険な非食品製品についての EU の Rapid Alert System(Rapex)に対して、21 の通知が行われ

た。

欧州委員会会議での質疑応答で、テキスタイルおよびアパレル業界団体 Euratex の Mauro Scalia は、

この発見は、個々の製品についてテストが必要であることを示唆していると述べたが、「適切なツールはあ

るか、それとも別のツールが必要か?」 EUのテキスタイル部門は22億の製品を輸入しているが、40億は

欧州連合で作られていると彼は言った。 輸入の「1%未満」は、加盟国によってチェックされている。「税

関として、私たちは商品を阻止し、管理のために選択し標的とするためのツールを有しており、それを実

行するための適切な立法と権限を持っているので、私たちは適切な道具を持っていると信じている。」と

Ms Kobylecka は言った。彼女は、彼らがすべての製品の検査を行うのに十分なリソースを持っているかど

うかに関して、それは執行当局にとって本当に問題であると彼女は付け加えた。 「もちろんそれは可能で

はない。」 当面は、当局は、製品が正式な要件を満たしていることを確認する必要があると彼女は述べ

た。

英国の安全衛生局(HSE)の Mike Potts は、以下の 2 つのことをしていると述べた。

正確なターゲティングを確保する。これにより、検査官はできるだけ多くの不適合製品をテストで

きる。

大手輸入業者などのテスト会社が引き受ける。 HSE は会社と接触して、彼らのテスト戦略、彼ら

が供給者にどのような質問をするか、そして非 EU 供給者との間で制限物質や SVHCs を使用し

ないよう要求する契約の種類について尋ねる。

欧州委員会の Michael Flueh は、100%の製品を管理することは不可能であることに同意した。 同氏

によると、販売している製品が確実に基準に準拠しているかどうかを確認するために、「最初の責任は、仕

事をする情報源である。」「我々は最近、テキスタイル中の CMR(発がん性、変異原性および生殖毒性物

質)について新たな措置を講じた。したがって、これはすでに執行当局が将来焦点を合わせる可能性が

ある指標目標である」と彼は付け加えた。

昨年の REACH-En-Force-4(Ref-4)プロジェクトでは、欧州市場でチェックされたおもちゃのほぼ 5 分

の 1 が EU のフタル酸エステル規制に準拠していないことが判明した。 Echa の Enforcement Forum によ

って調整されて、29 カ国にわたって REACH 附属書 XVII の 14 の規制事項を調べた。

(v) 欧州環境局が水域中の「カクテル効果」に追加の対策を提唱

欧州の水域における「カクテル効果」化学物質の存在に取り組むためには追加の対策が必要である、

と欧州環境局(European Environmental Agency;EEA)は結論付けている。EEA はその報告書の中で、ヨ

ーロッパの水域における化学物質について、湖沼や河川における多くの優先物質に対する行動が「地表

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水への侵入を防ぐのに「効果的であるようだ」、しかし環境には「我々がほとんど知らない」多くの化学物質

が 存在している、と言った。これらの優先物質には、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、1,2-ジクロロエタ

ン(EDC)、四塩化炭素冷媒、脱脂剤テトラクロロエチレンが含まれる。報告書によれば、水銀や臭素系の

難燃剤や、EU の水域枠組み指令の下で監視の優先順位が定められていない多くの有害化学物質を効

果的に処理することに課題が残っている。

それらが個々に「無害な濃度」で存在していても、水銀のような物質は「天然塩、有機化合物、下水や

その他の廃水からの栄養素および大気排出から来る化学物質」と結合することができる。1 つの重要な懸

念は、単一の淡水域における低濃度の「数百の有機化学物質」の検出は「一般的」であるが、そのリスク

のレベルは「十分に理解されていない」ということである。EU の水枠組指令(WFD)は、「水生環境への、

またはそれを介する重大な危険性」を呈する特定の単一汚染物質に対して濃度限界を設定している。 し

かし、EEA は、この単一物質の評価は水域の組成の多様性と「複雑さ」とは一致しないと述べた。この問

題は、欧州連合理事会が 2009 年に組み合わせ効果に関する結論書で提起した。 EU のほとんどの法律

は化学物質ごとの評価アプローチに基づいており、化学物質の組み合わせ効果に対処するためのさらな

る行動が必要であると強調した。昨年7月に発表されたEEAの水域の状態に関する報告書は、表層水域

の 46%が「良好な化学的状態」を達成できていなかったことを見出した。 監視されている湖沼や河川の

38%しか、優先物質過剰濃度を示していないのに対し、16%は未知の化学的状態である、と書いた。大

量に存在すると懸念が生じるその他の物質には、ポリ臭化ジフェニルエーテル-1990 年代から 2000 年

代に難燃剤として広く使用されている-や有機物の燃焼によって生成される発がん物質の多環芳香族炭

化水素(PAHs)、がある。

EEA によると、既存の EU 規則は水管理のための柔軟なアプローチを提供しているが、「しかし、混合

物の評価における最近の科学的発展を反映してはいない」としている。その報告書は、化学物質排出の

データに関するより確立した報告と、汚染の拡散源のモニタリング、モデル化、報告の改善を求めている。

これは、対象が「正しく理解され、適切な対策が目標にされる」ことを確実にするためである。当局はまた、

以下の点を要求している.

水生環境中の混合物に代表されるリスクを「効果的に」評価する方法を実施することにより、優先

物質を超えて動く。

「一貫性のある比較可能なアプローチ」の下でそれらを収集し合理化することにより排出量データ

を改善する。

有害化学物質に対するより安全な代替品を開発する。いくつかの EU 諸国はすでにカクテル効果

に取り組んでいる。 たとえば、デンマーク国立食品研究所は、化学物質のカクテル効果の研究

に関する化学ポータルに関するセクションを創設した。

(EEA の報告書;

https://www.eea.europa.eu/publications/chemicals-in-european-waters)

(vi) 女性の生殖能力に悪影響を与える内分泌かく乱物質を特定する試験法を開発する新規 EU プロ

ジェクトの立ち上げ

EUは、女性の生殖能力に悪影響を与える内分泌かく乱化学物質(EDCs)を特定する試験方法を開発

156

Page 161: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

するための、5年間の600万ユーロの研究プロジェクトを立ち上げた。 Freia-"female reproductive

toxicity of endocrine disrupting chemicals"(内分泌かく乱化学物質の女性の生殖毒性)-プロジェクトは、

OECDテストガイドライン(TG)を改善する目的で2023年まで実行される。(2019年1月開始)

それは、ライフサイクル全体にわたるヒト組織モデルを使用して、EDCsが特定の生活段階の間に女性の

生殖能力に影響を及ぼし得るメカニズムを同定することを目的とする。 組織モデルが、EDCばく露のヒト

関連バイオマーカーを同定するために使用される。 さらに、このプロジェクトは体外受精治療を受けてい

る2つのグループの女性の化学物質へのばく露を測定し、これらを生殖能力の結果に結び付ける。 また、

OECDのTGに取り込まれる可能性のある、女性の生殖毒性の影響を受けやすいばく露の窓と新規のエ

ンドポイントを特定するためのげっ歯類試験も実施する。胎児および卵胞液からのばく露データのみなら

ず、ヒトの一次組織を使用することによって、Freiaの結果は「人の状況に直接適用できる」と、プロジェクト

主催者は欧州委員会のCordisウェブサイトで述べた。

アムステルダムのVrije大学の環境衛生と毒物学の教授であるMajorie van Duursenがプロジェクトコーデ

ィネーターである。

プロジェクトに協力しているNGOの健康と環境の同盟(HEAL)は、OECDのTGに焦点を合わせることが

プロジェクトを「特にユニーク」にしたと語った。

(イ) 各国の取組み

(i) スウェーデンが複合影響に関する調査を開始

スウェーデンは、2018 年 4 月に、EU 化学物質規制において、複合影響とグルーピングアプローチの

問題がどのように改善されるかについて、18 か月の調査を開始した。

スウェーデン環境エネルギー省は、2018 年 3 月 29 日の決定で、複数の物質を含むばく露に起因する

複合影響の説明に対する失敗が、リスクの過小評価を導く可能性がある、と述べた。

さらに、化学物質の規制により伝統的に要求されている有害な物質の管理のための物質ごとのアプロ

ーチは、いわゆる「残念な代替法」を導く可能性がある、という。

グルーピングアプローチを用いることで、そのような置換の可能性が提言される。この場合、1 つの有

害物質は、より有害性の低い物質に置き換えられるが、実際はそうではない。残念なことに、代替物質が

構造的に非常に類似している場合には、典型的には発生するが、特定の毒性データはほとんどない。物

質の使用が増加し始め、より多くのデータが利用可能になると、代替物質の残念な特性が明らかになる。

スウェーデン政府は、ストックホルム大学の規制毒物学及び生体毒性学の教授である Chritina Ruden

を調査の議長として任命した。

(ii) オランダRIVMの分析では、オランダで、食品経由の BPA 総摂取量は、「非常に限定されている」

オランダ当局の分析によれば、オランダで、食品経由でのビスフェノール A(BPA)の総摂取量は、「非

常に限定されている」と報告されている。

オランダの国立公衆衛生環境研究所(RIVM)は、平均的な消費者に対する BPA ばく露の主要な供給

源は食品である、と述べている。しかし、RIVM によれば、最も好ましくない状況下であっても、ばく露は、1

日許容摂取量(TDI)の 30 分の 1 である。この結果はまた、単一の食物現が主要なばく露に寄与していな

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Page 162: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

いことを示唆している。

ばく露を予測するに当たっては、Efsa とフランス食品・環境・労働安全衛生局(Anses)の 2 つの全国調

査からの食品消費データを使用した。

RIVM のばく露量推定値は、Anses によって前年に発表されたものと同じオーダーのものであった。し

かし、いくつかのシナリオでは、Efsa の食品接触材料、酵素、香料及び加工助剤に関する科学パネル

(CEF)により 2015 年に出版されたものの約半分であった。RIVM は、マッピングされた消費食品の精度を

高め、缶詰以外の肉については BPA 濃度を低くした、との相違点を示している。

同報告書の著者らは、「今回の調査で計算されたばく露量は、EFSA の CEF パネルが報告したばく露

量よりも、オランダの BPA の実際の摂取量に近い、と推定している」と述べている。

BPA は、食品接触材料(FCM)を含む広範囲の用途向けに、ポリカーボネートを製造するために使用

されるモノマーである。特に、缶の内部のコーティングに使用され、そこから食品または飲料に移行する可

能性がある。内分泌系に支障をきたし、副作用を引き起こす可能性がある、という証拠がある。

Efsaは現在、BPAの安全性の再評価を行っており、2012年以降に発表された科学的証拠が一時的な

1 日許容摂取量(TDI)を裏付けるものかどうかを判断することを目的としている。

(RIVM による報告書「Dietary sources of exposure to bisphenol A in the Netherlands」:

https://www.rivm.nl/dsresource?objectid=3d859836-fc7a-4b9a-8c68-3260f9b3d99a&type=pdf&disp

osition=inline )

(iii) デンマークは、研究に基づき 9 つの新しい EDCs を識別

デンマークの環境省は、「強固な科学的証拠」に基づいて内分泌かく乱物質として 9 つの新物質を同

定する主要な研究を発表した。デンマーク EPA に依頼され、DTU(デンマーク工科大学)国立食品研究

所と南デンマーク大学の研究者によって実施されたこの研究は、内分泌かく乱物質のために数千種類の

化学物質をスクリーニングした。ビスフェノール A(BPA)の代替物質と考えられているビスフェノール AF

(BPAF)は、そのうちの 1 つである。 今年の初めに、NGO は、1 つの有害物質と同様の特性を持つ関連

物質への代替を防止するために、EU 規制当局に、類似の化学物質のグループの使用を廃止するよう求

めた。EDC として特定された 9 つの化学物質は、

ビスフェノール AF – ヒトと環境に影響

ジ-n-ペンチルフタレート - ヒト

フェニトロチオン - ヒト

イソブチルパラベン - ヒト

オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4) - ヒト

プロクロラズ –ヒトと環境

トリクロカルバン – ヒト

トリス(メチルフェニル)ホスフェート - ヒト

サリチル酸 - ヒト

この研究で報告された報告書によれば、9 化学物質はすべて、6 月に効力を発した EU の新しい農薬

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基準に基づいて EDC と呼ぶことができる。 これらの物質は、EU の規制制度の下でまだ評価されていな

い。この研究のリストは、NGO と当局によって発行されたいくつかの既存の有害化学物質のリストから潜在

的な EDC を優先させるために、科学的研究を通して編集するために 1 年以上かかった。 これらには、例

えばNGOの ChemSec の SIN(Substitute It Now)リストと世界保健機関(WHO)の別のリストが含まれる。

今年初めに国連も独自の記録を発表した。主要な寄与は、Echa からのもので、主に登録された 100 トン

以上の化学物質の機密データベースである約 7,200 物質の「マスターリスト」の形であった。 デンマーク

の EPA は、これにアクセスするための機密保持契約を結んだと、DTU の上級研究者 Sofie Christiansen

は語った。最終的なリストは、Echa のマスターリストの優先順位 28 物質と他のデータベースの 28 物質から

集められた。 Echa のリストには、他にはなかった量の情報が含まれていたため、この 2 つのセットは異な

った扱いを受けていたという。また、疑わしい EDC として 4 種類の化学物質が同定された。 以下に列挙

するこれらの物質は、データギャップのために EDC として決定することができなかった。

2-(4-tert ブチルベンジル) - プロピオンアルデヒド - ヒト

ビフェントリン - 環境

デルタメトリン - ヒト

ヘキサクロロフェン – ヒト

この報告書は、2017 年末にデンマーク EPA に提出され、その後、さらなる分析と調査が行われた。報

告書で明らかにされた 9 つの EDC はちょうど「氷山の頂部」であると Christiansen 教授は言い、研究者ら

は他の 4 つが EDCs と識別されるという重要な証拠があると判断している。報告書によると、他の人々の潜

在的なホルモンかく乱効果、ならびに人々および環境がばく露される程度を評価するために、より多くの

研究およびデータが必要である。例えば、最終的なリストの前に 52 の選択された物質に関する入手可能

な文献をスクリーニングすると、それらの 40〜50%の関連データが欠如していることが示された。例えば、

最終的なリストの前に 52 の選択された物質に関する入手可能な文献をスクリーニングすると、それらの 40

〜50%の関連データが欠如していることが示された。この報告書はまた、スクリーニングされていない 119

の優先化学物質のさらなる文献レビューと、潜在的に関連する化学物質の徹底的な評価を推奨した。デ

ンマークの研究は、以前に EDC と評価された 17 物質の再評価を含み、そのうち 10 物質が WHO の定義

を満たすことを確認した。他の加盟国は、内分泌かく乱物質の疑いのある物質を試験している。 1 年前、

スウェーデン化学品庁による調査によると、欧州市場で調査された 39 のビスフェノール類のうち 37 が

EDC 特性を有する可能性があることが判明した。これとは別に、今週 EU 加盟国は、現在の、畑での噴霧

の禁止を終了させる可能性がある、EDC に関連する農薬法の改正について議論した。

(参考;デンマーク工科大学(DTU: Technical University of Denmark);自然科学及び科学技術にお

いて国際的に最先端の教育や科学的助言等を行う大学として 1829 年に設立された。2007 年、デンマー

クにおいてリスク評価とリスク管理が組織的に分離されたことに伴い、DTU 国立食品研究所(National

Food Institute)が設立され、現在、疾病予防、健康促進、持続可能な食料供給等に寄与することを目的

とした研究に加えて、リスク管理機関への科学的助言としてリスク評価も行っている。)

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(iv) スウェーデンの調査がオンライン製品に SVHC を発見

KEMI(スウェーデン化学品庁;Swedish Chemicals Agency)は、オンラインストアで購入した玩具、宝

飾品、電子機器に、違法なレベルの鉛、フタル酸エステル、カドミウムを発見した。同機関が発表した報

告によると、検査された 106 品目のうち、40 品目が EU の法律の制限値を超える禁止化学物質を含んで

いた。フタル酸エステルは製品をより柔らかくそしてより屈曲性にするために使用される物質のグループ

であり、そしていくつかは内分泌かく乱を引き起こす可能性がある。 鉛とカドミウムは、それぞれ神経系ま

たは腎臓と骨格を損傷する可能性があり、 両方とも発がん性について REACH 候補リストに載っている。

また、この機関はクリスマスライトと電気装飾に高レベルの鉛とカドミウムを発見した。

そのプロジェクトでは、KEMI はスウェーデン、他の EU 諸国、そして貿易圏外のオンラインストアからの

製品を調査した。製品を比較した後、その機関は EU 外のオンライン小売業者からの製品に禁止化学物

質を見つけるという「より大きなリスク」があると知らせた。調査結果によると、非 EU 企業から購入した商品

の 43%が禁止物質を含んでいた。 スウェーデンのオンライン取引業者から購入した商品のうち、35%が

このカテゴリーに属していた。 一方、他の EU 諸国で購入されたオンライン製品の 23%は、そのような物

質を高レベルで含んでいた。最初の 106 製品のうち、87 製品だけが 3 つの地域の比較に使用された。

KEMI によると、これを実現するのに十分に似た製品を見つけるのが難しいからであった。この機関はまた、

米国のオンライン小売業者 Wish から購入した 12 の充電器すべてで高レベルの鉛を発見した。 そのうち

の 2 つはカドミウムも含んでいた。

オンラインショッピングをする際には、「どの会社と取引しているのか、またその会社がどこに根拠を置

いているかを考慮する」ことが重要である、と KEMI の検査官 FridaRamström は述べた。EU 外の企業から

消費者に直接販売される商品は、「常にヨーロッパの安全要件を満たすように作られているわけではない」

と彼女は付け加えた。国際的な小売業者からの商品に含まれる有害物質のリスクを減らすために、KEMI

は以下を推奨した。

消費者は、EU 外の企業から直接商品を購入することのリスクをより意識するようにする。

インターネットベースの企業は、販売する商品に対して責任を負う。

EU と非 EU の規制当局はより良く協力し合う。

6 月には、4 つの主要な国際オンライン小売業者が、危険な製品の販売からの削除を迅速化し、サプ

ライヤーの EU 規制への準拠を改善することを約束した。

(v) デンマーク EPA が、危険化学物質の代替を見出す計画を進める

デンマークの EPA(DEPA)は、新しいイノベーションセンターと共同で危険物質にたいして、より安全な

代替品を見つける計画を進めている。DEPA はセンターのための、技術コンサルタント会社ニラス(Niras)と

の契約を認めた。それは製品の有害な化学物質を減らして、より良い代替品を見つけるために革新的な

考えでデンマークの会社を支援することを目指していると DEPA は言う。このプロジェクト-化学における

イノベーション-は、2018 年に開始され、2021 年まで実行される、より広範なデンマークの共同化学物質

イニシアチブの一部である。このプロジェクトはまた、リサイクル物質中の有害化学物質を減らすことによっ

て循環経済に貢献するはずである。DEPA は昨年 10 月に開始された入札プロセスを経てこのエンジニア

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Page 165: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

リングコンサルタントを選んだ。

このプロジェクトを実行するために、ニラスは「有害化学物質の代替の大きな可能性を有する」、「深い

知識」を持つ幅広い学際的な業界のワーキンググループを立ち上げた、と DEPA は述べた。このコンサル

タントはデンマークの通信会社 Invirke と協力して情報を提供し、環境革新と循環型経済を専門とするオ

ランダのコンサルタント Pno と協力する。共同化学物質イニシアチブは、EDC などの有害化学物質から

人々を保護する目的で、2017 年 11 月に合意された。

(ウ) その他、EUにおける内分泌かく乱物質の安全性情報

(i) NGO 連合が EDC 戦略を公表するよう欧州委員会に要請

70 以上の健康と環境 NGOs の連合(EDC フリー欧州連合)は、今年の夏前に内分泌かく乱化学物質

(EDCs) に関する戦略を公表するよう欧州委員会に要求している。(2018 年 5 月 16 日)

2017 年 7 月、EDCs を識別する基準のための委員会の提案の加盟国採択に続いて、EU 執行部は、

戦略に関する作業を開始すると述べた。これは、EU 市民の殺虫剤および殺生物剤を超えて内分泌撹

乱物質へのばく露を最小限に抑えるだろう。戦略は、おもちゃ、化粧品、食品包装のような製品をカバー

することを目指していく、と執行部は言った。

委員会は、2017 年 11 月に、殺生物製品規則 (BPR) の下で EDCs のための基準を設定するその委

任規則を公表した。これらの基準は、6 月 7 日から適用していく。植物保護製品のための EDC 基準の提

案は、一連の障害にぶつかったが、最終的に 2018 年 4 月に採択された。

Health and Environment Alliance (HEAL)によって導かれて、NGO 連合は、戦略は「科学の最近の進

歩を反映し、EU 規制文脈中の既存義務を補完することによって、それからの論理的な結論を描かなけれ

ばならない、と言う。それは、カバーされるべき 8 つの「重要な要素」と名付ける。これらは:

新しい EU EDC 戦略の「要石」として公衆衛生と予防を考慮する;

化学物質についての国民意識を高める;

すべてのセクターに亘るそれらの用途のコントロールを増やすことによって規制を改善する

物質バイ物質アプローチ(物質毎に対処する)を置き換えることによって 、EDC「毎日カクテル」を

削減し、複数化学薬品へのすべての可能なばく露源を含める;

EDCs のテスト、スクリーニングおよび識別をスピードアップする;

最初から製品中の、EDCs のような有害物質を避けることによってクリーン「循環経済」と非毒性環

境を目指して作業する;

「後悔なんてしない」でより安全な代替と革新的ソリューションの促進のために欧州市場リーダー

シップを強化する;

すべてのばく露源を捕捉し、それらを最小限に抑えるべく迅速に対応するために、単一、グルー

プおよび混合物の内分泌かく乱化学物質の健康と環境への影響を監視する。 (ii) ラボの能力が EU 内分泌かく乱物質の評価を停止させる可能性がある

農薬業界は、内分泌かく乱物質(EDC)を特定するための新しい基準に照らした物質評価が、試験機

関での処理能力の問題のために停止する(grind to a halt;ギーッと音を立てて止まる)可能性があるという

161

Page 166: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

懸念を表明している。11 月にケルンで開催された Fresenius 国際 EDC 会議でこの問題について議論し、

関係者らは多数の活性物質を同時に評価する必要があると警告した。この基準は、6 月 7 日に殺生物性

製品規制(BPR)の下で適用されるようになった。 農薬に関しては、これは 11 月 10 日からであった。これ

らの日付により、2 つの法の下で進行中の物質評価のため、「時計を止める;stop the clock」メカニズムを

導入することになった。 すなわち、申請者と評価当局が EDC 基準について結論を下すのに必要な追加

データを入手し評価するまで、評価は保留される。

BPR の下では、既に 30 以上の有効成分と製品タイプの組み合わせに対する承認の決定が評価を待

っている。 しかし、Echa は業界に「絶対に必要な」場合にのみ追加のデータを生成するよう求められるこ

とを保証している。そして、植物保護製品(PPP)規制の下では、11 月 10 日までに提出された物質の更新

のための保留中の申請には、「時計を止める」が適用される。

ケルンでの会議で、何人かの業界関係者がテストのために何百もの PPP 物質が差し止められるだろう

という懸念を表明した。DowDuPont の農業部門である Corteva Agriscience の Jean-Pierre Busnardo 氏は、

このことにより関連するガイダンスに従う内分泌かく乱物質の試験の複雑さと相まって、大幅な遅れが生じ

ると述べた。関連性がある試験を実施するには、独立した試験機関と契約を交わした場合、通常 6〜9 ヶ

月かかる。 しかし、ほとんどの企業が EDC 基準に照らして社内でテストするための専門知識を欠いてい

るため、「私たち全員が試験機関と時間と専門知識を競い合うことになるだろう」。これはより単純な in

vitro 試験を実施するための問題ではないようであり、Busnardo 氏は in vivo 試験を完了するための「深刻

な容量問題」を予想した。さらに、この試験は専門家にとっても新たな分野である。 いくつかのテストは

「必ずしもこの段階で十分に検証されているわけではない」としており、試験機関にとっては挑戦(難題)に

なるだろう、と彼は述べた。Busnardo 氏はまた、今後数年間で実験動物に頼るであろう多くのデータを生

成する必要があるだろうと述べた。 これは、この問題に関して確立された EU の原則には当てはまらない、

と彼は言った。

申請者はまた遵守すべき期限がある。 農薬に関しては、欧州食品安全機関(Efsa)が申請者に追加

データの提出期限を設定するであろう。これは 30 か月以内である、と欧州委員会の Karin Nienstedt 農薬

部門長はケルンで述べた。いったん提出されると、評価中の加盟国は 60 日間、情報を評価することがで

きる。「Efsa の指定期限を守れないとどうなりますか?」 Busnardo 氏は尋ねた。 「私の物質は市場に出て

行くのでしょうか。欧州委員会は試験の不足分を考慮に入れる必要があります。そうでなければ、いくつか

の物質は期限を逸するでしょう。」欧州委員会が試験機関の試験能力の問題を心配しているかどうかを尋

ねられたとき、Nienstedt 氏は、ブリュッセルは「これがすべての人にとって多くの追加作業を意味すること

を認識している」と述べた。 彼女は、懸念の低い物質については「作業負荷を減らし、動物実験を減らす

ための現実的な戦略」があるかもしれないと付け加えた。

3-3. 国内学会参加報告

環境ホルモン学会(正式名:日本内分泌撹乱化学物質学会)は、外因性内分泌撹乱物質(環境ホル

モン)とその影響についての学問・技術の進歩発展及び環境の改善に寄与することを目的とする。今回、

第 21 回環境ホルモン学会研究発表会が、「持続可能な世界へ向けた環境ホルモン研究の新たな展開」

をテーマとして、2018 年 12 月 15 日~16 日に開催されたので、内分泌かく乱物質のヒト健康への影響、環

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Page 167: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

境ばく露を中心に、その概要を報告する。

(1) 特別講演『内分泌かく乱物質と「地球の限界」』

渡辺 知保(国立環境研究所 理事長) 国環研は、「人々が健やかに暮らせる環境を守り育む」ことを目的に、900 人の研究者が 9 つの研究分

野(地球環境、地域環境、資源循環・廃棄物、環境リスク、生物・生態系環境、環境健康、社会循環シス

テム、環境計測、災害環境)を担当している。持続可能性の Bottom line は、ヒトの Wellbeing であり、何の

持続性かと問われれば、地球システム>生態圏>ヒト>経済・文明社会であり、これらの Health を維持す

ることである。

温室効果ガスによる気候変動や CFCs によるオゾン層破壊のように、化学物質が地球環境の持続性

に影響を与える例はすでに知られている。2009 年に発表され 2015 年にアップデートされた(Safeguarding

human health in the Anthropocene epoch: report of The Rockefeller Foundation-Lancet Commission on

planetary health; Whitmee S et al ; Lancet. 2015 Nov 14; 386(10007):1973-2028) Planetary Boundaries

(PBs;人類が生存できる安全な活動領域とその限界点=プラネタリー・バウンダリーを把握することで、人

類にとっての壊滅的変化を回避できるのではないか、そのようなバウンダリー=限界点がどこにあるかを

知ることが大切であるという新しい考え方)では、気候変動や生物多様性を始めとする地球環境の持続性

にかかわる9つの課題領域(気候変動、オゾン層枯渇、大気中エアロゾル、海洋の酸性化、淡水利用、土

地利用、生物科学的フロー、生物圏の統合性、新規な物質)がリストされているが、化学物質による汚染

も一領域(地球環境への novel entities の導入)として挙げられている。

懸念の対象となる化学物質の特徴として、環境中の残留性、拡散して広範囲に分布する性質(移動

性に富む)、地球上の主要なサブシステム(気候システム、水循環システム、生態系など)に影響を及ぼす

性質が挙げられており、多くの内分泌かく乱物質(EDCs)もこれに該当すると考えられる。EDCs の問題は、

毒性学-生物学の中で扱われることが多いが、このように環境学の問題でもある。ここでは、EDCs の問

題を持続可能性と言う視点からとらえなおし、持続可能性への影響とヒトや生態系への影響との関係につ

いて考える。

地球システムに脅威となる化学物質の 3 条件;

ⅰ)いずれかの地球システムに未知の破壊的なインパクトを与える

ⅱ)地球的な規模になるまで気づかれない

ⅲ)非可逆的

課題は

・ 地球規模のバウンダリーをどうやって地域(local)のバウンダリーに変換するか

・ バウンダリー間の相互作用

・ 必ずしもヒトの健康 Wellbeing の十分条件ではない 水、再利用、材料の安全性、

温暖化と食料生産、バイオ燃料と耕地など

EDCs と持続可能性とのつながり 有限な空間の中での化学物質の所在も問題

ⅰ)空間的な有限性

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・ リスク評価における「量」とは Dose-Response Curve =生物体内あるいはそれに接する近傍の量(濃度) →背景となる空間は問題としていない

・ 環境動態の解析とリスク評価とを結合しなければならない 有限な空間の中における EDCs の分布・絶対量は?

・ 一定の地理的空間内の食物連鎖 ・ 水資源の再利用と EDCs ・ 循環経済におけるリスク評価

ⅱ)subtle で invisible な影響

Population(個体群)レベルではじめてインパクトが見える

個体レベルの実験で求めた閾値が現実のハザードを反映しない

→生態系・フィールド研究が必要 ( Windsor et al. 2018)

例;生殖への影響 不妊のGrとそうでないGrで Se の濃度が異なった

Population kill a lot of people 環境汚染>タバコ>エイズ>マラリア>結核

Pollutome; 健康に害をもたらすおそれのあるばく露の総体

0-5 才児人口における IQ 損失を既存疫学報告のメタ解析で推定( Bellinger 2012)

ⅲ)複数要因による影響

Multiple Cause( EDCs, 神経発達毒、ある種の農薬など)による

Single overt outcome, Multiple invisible outcome

Exposome( Wild 2005)と Adverse Outcome Pathway を組み合わせる

仲井ら 2017; 環境省総合推進費報告書 発達障害 因果関係が不明

まとめ;持続可能性問題を humanize する;有限性の中のリスク、インパクトの可視化、EDCs 総体のばく

露と影響 →どの持続可能性が危ないか

(2) 教育講演「欧州におけるコホート及び疫学研究からの新しい発見」

① Dr. R. Slama(Inserm; フランス国立保健医学研究機構、グルノーブル)

「トリクロサンの健康影響-ヒト研究からのエビデンスと追跡研究」

トリクロサン(TCS)は殺菌、防腐剤として、一千万ポンド(2015)使用され、嫌気性では持続性が大きく、

嫌気性では短い。従って人体中には残留しないが、環境中ではある程度の残留性がある。TCS は甲状

腺系をかく乱し、脳の発達に関連する。

最近、520 組の母子ペア(Eden コホート)のコホートにおいて、妊娠中の母親の TCS レベルが妊娠後

期における男子系子孫の脳環境を低下させることと関係づけられた。これは、その他のコホートでも繰り

返えされた。Eden男系子孫をフォローすると、情緒や外面化挙動において母親の妊娠中のTCSレベルと

の関連が記録された。この世代において、環境程度の濃度の投与で TCS の影響と作用機構に更なる考

察が必要である。

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② Dr. J. Heinrich(メルボルン大学)

「グリーン空間へのばく露と健康、疫学的研究レビュー」

自然とりわけ緑の植生へのばく露がヒトの健康に有益であると数世紀にわたって直感的に考えられて

きた。しかし緑の空間(green space)へのばく露の評価は、どの green space か、ライフサイクルにおけるばく

露時間、健康の outcome とどの程度関連しているかなど、最近に研究され始めたところである。(2008 年

~が最初の段階、第二段階が2016年~)最近、衛星からのイメージや地理情報システム(GIS)、GPSとい

った新しい技術が環境疫学で使用され始めた。定義 Green space; land that is partly or completely

covered with grass, trees, shrubs, or other vegetation Greenness; general level of vegetation both in

structured green and in unstructured like backyards, street line trees etc. 健康の indicator はいろいろ

ある。(Greenness やばく露の測定法など、この研究の詳細は以下の PDF を参照。

EXPOSURE TO GREENSPACE/GREENNESS AND HEALTH OUTCOMES; Joachim Heinrich & Iana

Markevych presentation in Taipei, October 25th 2015.

http://www.environmed.info/uploads/5/3/4/1/5341602/greeness_and_health_heinrich.pdf)

研究例;居住の Greenness は、生誕時の体重、精神的健康状態、健康の自覚など、いくつかの効果が

しめされた。しかし、大気汚染、騒音、物理的な活動、社会的相互作用などほかの要因が多くしエビデン

スは強くないし、効果のメカニズムも明確ではない。

Green space と EDCs へのばく露との関係は、体系的になされてはいない、しかし、EDC によって影響

されると推定される疾病へのインパクトを研究するために、農薬に関する登録されたデータと農地のデー

タとを結びつける可能性はある。

(3) シンポジウム1;『環境中エストロゲン様物質に関する研究の新展開』

オーガナイザー:曽根 秀子(横浜薬科大学) ① 『化学構造から見たエストロゲン活性の構造的特徴』-ビスフェノール構造は核内受容体リガンドと

しての privileged structure である 松島 綾美(九州大学大学院理学研究院)

ビスフェノールA(BPA)は、極微量のばく露で生殖系や脳神経系に悪影響を及ぼす低用量作用が報

告されているが、その分子メカニズムは不明である。BPA がエストロゲン関連受容体γ型に非常に強く結

合することを明らかにした。ベンゼン環が二つ繋がったジフェニル構造がリガンドとしての privileged

structure(受容体結合に好まれる特別な構造)として働く可能性が考えられ、ビスフェノール構造を持つ

200 種の化合物について、ERαとの結合をスクリーニングし、ビスフェノール AF がビスフェノールよりも強

く結合すること、比較的強く結合する化合物も多く、ERαリガンドとしてジフェニル構造が privileged

structure として働くことが明確になった。また、ハロゲン原子によるハロゲン結合も重要な役割を果たすと

考えられた。

② 『水系環境中に存在する核内受容体作動性ハザードの生体影響』 中西 剛(岐阜薬科大学衛生

学)

下水処理水中に存在するリスク;中国との共同研究

北京郊外の下水処理水における魚への催奇形性物質の存在→Retinoic Acid Recepter (PAR); ビ

165

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タミン A の代謝物である 2 種の 4-oxo レチノイン酸様汚染物質を同定した。PAR アゴニスト活性、屎

尿由来、オゾナイザー設置

飲料水中のハザード可能性物質

飲料水用のプラスチックボトルに BPA の代替として使用されている fluorene-9-bisphenol (BHPF)

が溶出。飲料用プラボトル常用の 100 人中 7 人の血漿から検出。(0.34±0.21ng/ml)BHPF は ER

α、βに対して強いアンタゴニスト活性があり、子宮重量の抑制影響があり、亜慢性毒性試験で、体

重影響、弱い生殖毒性がある。日本でも毒性評価されていないため、使用されている。BPA 代替物

質はヒト健康影響を調べるべきである。

③ 『ビスフェノール A の免疫かく乱作用 ~アレルギーへの影響を中心に~』 小池 英子

(国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター)

一般環境中でばく露され得る低用量 BPA(0.0003μg/kg/day)の若齢期ばく露がアレルギー性喘息

に及ぼす影響を調査。経気道および経口経路の BPA ばく露による肺炎症の亢進(炎症細胞の浸潤、炎

症性タンパクの発現増加、肺の炎症病態に並行した縦隔膜リンパ節細胞の活性化など)と免疫担当細胞

機能のかく乱(所属リンパ節における抗原提示細胞の活性化や骨髄環境の変化など)を見出した。さらに、

エストロゲン受容体を介するシグナルは、免疫担当細胞の分化等にも影響を与えることから、観察された

免疫応答のかく乱にも BPA のエストロゲン様作用が関与している可能性も示唆された。カニクイサルを使

用した BPA 試験では、マウス、ラットと異なり、強い影響がみられた。

④ 『エストロゲン様物質の長期ばく露や複合ばく露の影響評価:動物実験を中心に』 渡辺 元(東京

農工大比較生殖内分泌学獣医生理学)

エストロゲンは多様な生理作用を有する生体内に存在するホルモンであり、部位のみならず時期によ

っても極めて重要な作用を示す。その作用は特に生殖機能に関して、脳の性分化、生殖器官の発育と成

熟、生殖行動の発現とその同期化など、種を越えて共通性が高い。また生殖機能調節に重要な役割を

果たすことから、世代を超えて影響を示す。そのため外部から生体内に入るエストロゲン様物質の影響を

考えるときには、単純な毒性だけではなく、何時、どの器官を対象に調査するか、投与されたエストロゲン

様物質による直接の影響なのか、他の器官に対する作用を介した間接的な影響なのか、複合ばく露によ

る相互作用及び、生体内動態に配慮した代謝物および代謝機能はどうかなど、多面的な解析が必要で

ある。内分泌かく乱物質の生態影響に関しては、低用量影響や、ベル型反応、遅延して現れる影響など

が知られており、単純なメカニズムではないことを示している。生理学、薬理学、病理学、行動学など様々

な視点から研究を行う必要がある。

⑤ 『複合ばく露評価の新たなアプローチ』 青木 康展(国立環境研究所)

物性や環境中の動態が類似している化学物質群は、大気や食事・水など複数の媒体を経由して、同

時にヒトあるいは生物にばく露されている。このようなばく露形態を複合ばく露と呼び、化学物質群が総体

としてどの程度の影響(有害性)を発揮するかは、リスク評価の上で大きな課題である。複合ばく露によるリ

スク評価の手法は、以下の二つの手法に大別される。

166

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1) Component-based approach(組成物アプローチ):化学物質群の各組成物の濃度と有害性評価値の

比の総和(例えば Hazard Index)から組成物全体の有害性を評価する手法

例)PAHs(多環芳香族炭化水素; ベンゼン核を二つ以上持つ)の発がんリスク評価

2) Whole mixture approach(混合物全体アプローチ):化学物質混合物全体を対象に有害性を評価する

手法 例)米国の水道水の規制(WET)

近年、WHO/IPCS を中心に段階的アプローチ(Tier approach)が提案され、欧州を中心に具体的な検

討が進められている。

https://ac.els-cdn.com/S0273230011000638/1-s2.0-S0273230011000638-main.pdf?_tid=cc625ee3-

c204-454b-a4b5-45f2dabe1d0a&acdnat=1547368294_d8767e2eb156d94564183ceb344aa9dc

段階的アプローチでは、化学物質群を構成する化学物質のばく露量と有害性に関する既知の知見か

ら安全側に立った簡易なリスク評価を行い(Tier 0,1)、さらにリスクが懸念される場合には、より詳細なばく

露評価と有害性評価を実施して実際に即したリスクの判定を行う。(Tier 2) Hazard Index(HI) はそれぞ

れ以下の値を使用する。

Tier 0 : HI=ΣExpo(個別物質のばく露量)/代表的な RfD(参照用量)

Tier 1 : HI=ΣExpoi/RfDi 物質群の中の最小の RfD を採用

Tier 2 : HI=ΣExpoi×RPFi/RfD 同じ MOA の物質群

ケーススタディとして、多臭素化ビフェニルエーテル同族体群のリスク評価を紹介した。

(4) シンポジウム2;生態系フィールドシンポ『ネオニコチノイド等の浸透性殺虫剤の水環境レベルと生

態影響』

オーガナイザー:中島 大介(国立環境研究所)

① 『水田における育苗箱施用殺虫剤がアキアカネの激減に与えた因果的影響のレビュー』

中西康介、横溝裕行、林岳彦(国立環境研究所環境リスク・健康研究センター)

② 『トビケラによる毒性試験』 横山 淳史(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研

究機構 農業環境変動研究センター)

③ 『ネオニコチノイド、フィプロニル等浸透性殺虫剤の環境中濃度』 1)大塚 宜寿(埼玉

県環境科学国際センター 化学物質・環境放射能担当)2)西野 貴裕(東京都環境公

社東京都環境科学研究所 環境リスク研究科)3)高澤 嘉一(国立環境研究所)

④ 『ネオニコチノイドの生態リスク、今後懸念されるリスク』柴田 康行(国立環境研究所)

(5) シンポジウム 3『内分泌かく乱化学物質の生態毒性評価』

オーガナイザー:鑪迫 典久(愛媛大学

① 『米国 EPA の EDSP の概要と進捗』 川嶋 之雄 (日本エヌ・ユー・エス(株))

② 『OECD の内分泌かく乱インビボ試験法の開発状況およびインビトロ試験法への取り

組み』 大西 悠太(いであ(株))

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③ 『新たな試験法の切り口;エストロゲンレセプターのドッキングシミュレーション』

石橋 弘志(愛媛大学)

④ 『エストロゲンレセプターのレポーターアッセイによる種間差比較』

宮川 信一(東京理科大学)

(6) ポスター発表

76 件の発表があり、以下のように分類されている。

A 分析法・環境動態 7 件

B 評価法 12 件

C 生態系への影響 9 件

D 動物への影響 20 件

E ヒトへの影響・エコチル 22 件

F 対策技術、その他 1 件

物質群ごとの分類;

ビスフェノール類 5 件、エストロゲン 8 件、ネオニコチノイド系農薬 12 件、

重金属 4 件)

特記事項(ナノ材料に関する発表 1 件);

東洋大学生命環境科学研究センターの Yumie Kato らは、銀ナノコロイド(40nm)(からの銀イオン)

の環境影響を明らかにするため、溶解しない二酸化チタン(90nm 以下)を対照粒子として、メダカの

生存率減少を確認した。さらにメダカ腸内細菌叢について、メタゲノミクス解析を行うなど、免疫毒性

を調査している。

168

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4. OECD/WPMN(Working Party on Manufactured Nanomaterials) 4-1. OECD/WPMN 試験プログラム

(1) ドシエ・概要版の公開に向けた作業

現在、スポンサーシッププログラム全 13 物質のうち、11 物質のドシエと 5 物質のドシエサマリが公開さ

れた(表 4-1)。

表 4-1 スポンサーシッププログラムのドシエ/ドシエサマリの公開状況 物質名 ドシエ公開 ドシエサマリ公開

フラーレン ○ ○

単層カーボンナノチューブ ○ ○

多層カーボンナノチューブ ○ ○

酸化セリウム ○ -

二酸化チタン ○ ○

酸化亜鉛 ○ -

二酸化ケイ素 ○ ○

銀 ○ -

金 ○ -

ナノクレイ ○ -

デンドリマー ○ -

酸化アルミ - -

鉄 - -

4-2. OECD WPMN 会合

(1) WPMN19 WPMN19 が 2019 年 2 月 18-22 日にパリ OECD 本部会議場で開催された。

(ア) 会議概要

WPMN19 では、事務局から、現在のナノ材料に係るTG/GDの改定や新規策定に係る 6件の新規プ

ロジェクト提案として、SPSF が 2018 年 11 月に WNT に提出され、2019 年 4 月の WNT31 で議論される予

定であることが伝えられた。上記 6 件の新規プロジェクト提案は、①ナノ材料の環境非生物的移行に関す

るガイダンス文書、②ナノ材料の in vitro 皮膚感作性試験に対するキーイベントベースのテストガイドライ

ン 442D の適用性、③製造ナノ材料の巻き上がり性(ダスティネス)の決定に関するテストガイドライン、④

製造ナノ材料の表面疎水性の決定に関する新規テストガイドライン、⑤水中及び関連する合成生物学的

媒体中でのナノ材料の溶解度及び溶解速度の決定、⑥ナノ及びマイクロすケース材料状の表面化学及

びコーティングの同定と定量化、である。

各国の取組み状況に関する報告では、欧州より、2020年のナノ材料を対象としたREACH規則改定の

169

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予定と、それに併せて、ナノ材料の定義に関する検討が進められていることが報告された。また、フランス

からは、ナノ材料を使用する設備向けの指針の作成が紹介された。この指針は、各作業においてナノ材

料を取扱う際の手順や注意事項等を、絵入りで説明しており、非常にわかりやすい。

テストガイドラインとガイダンス文書及び評価に係る活動報告では、測定方法の適用性を検証するた

めにその程度の数のナノ材料が必要か、等の一般的問題を特定する必要がある、として、ナノ材料に係

るテストガイドラインの測定手順検証のための思考スターターの開発を進めることが報告された。また、ナ

ノ材料は、表面に様々な化学物質を修飾、コーティングしている材料が多く、非常に多数の材料が存在

する可能性があることから、グルーピングに関するガイダンス文書の開発は重要な優先課題であることが

改めて確認された。また、試料の調整と測定に関するガイダンス文書を更新するため、物理化学特性、ヒ

ト健康、環境の 3 つのセクションに分け、ガイダンス文書更新の方法に関する推奨事項の作成が進められ

ることになった。

また、ナノ材料の表面化学と毒物学的特性との相関関係を詳細に調査することの必要性が指摘され、

今後、新規プロジェクトの提案が作成される予定である。このほか、現在のテストガイドラインには、ISO 等

の有償文書の参照が含まれている点について、データの相互受け入れ(MAD)を進めるに当たっての影

響が指摘され、テストガイドラインには一般的なガイダンスを提供するための文書を作成することになっ

た。

個別のプロジェクトの進捗状況については、TG312(土壌カラム中の浸出)のナノ材料に即した改定や、

ナノ材料の粒径・粒度分布に関するテストガイドラインの開発等が進められているとの報告があった。また、

生体内持続性/耐久性のあるナノ材料がオートファジー(リソソームにより細胞質内のタンパク質や細胞

内小器官を分解するシステム)異常などの障害を起こす可能性があることから、過去のWPMNで提案され、

生体内持続性/耐久性のあるナノ材料に関してまずは入手可能な情報を編集することが必要であるとし

て進められている作業に関して報告があり、将来的にテストガイドライン化を視野に入れて作業が進めら

れていることが報告された。物質の生体内での吸収、分布、排泄、代謝に係る TG417((毒物動態(生体

内運命)試験)のナノ材料に即した改定あるいは新規テストガイドラインの策定に関するプロジェクトは、

WPMN18 で既に WPMNにて承認され、作業が進められている。このプロジェクトは、最終目標としてテスト

ガイドライン化を目指しており、2023 年の WNT35 での承認を目指して開発が進められている。

今回の会議では、テストガイドラインまたはガイダンス文書作成に係るプロジェクトの新規提案が 7 件あ

った。7 件は、それぞれ、①経口摂取ナノ材料の腸内運命に係る統合的 in vitro アプローチ、②(生態)毒

性試験に係る生物サンプル中のナノ粒子濃度の決定に関する新規ガイダンス文書の開発、③環境媒体

中ナノ材料の溶解速度の決定のための標準手法、④人工ナノ材料の生物蓄積性評価に係る段階的戦

略の開発、⑤酸化的損傷を含む遺伝毒性試験のための酵素結合 in vitro コメットアッセイ:ナノ材料と他

の化学物質への適用、⑥TG474 哺乳類赤血球打小核試験のナノ材料に対する適応に関するガイダンス

文書、⑦製造ナノ材料の生態毒性決定のための TG201、202、203 の適応、である。各リード国から、提案

概要について説明され、議論された結果、WPMN19 では、②、③、⑦の 3 件の新規プロジェクト提案が承

認された。なお、今回の会議で承認されなかった提案のうち、①と⑤、⑥については修正提案書を作成し、

170

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その後、WPMN に回覧される。なお、⑥ついては、提案概要については同意が得られたものの、さらなる

議論の必要性が指摘された。④については、承認は見送りとなったが、現状や知識、プロジェクト提案内

容等について議論するためのワークショップを 2019 年 5 月頃に開催することとなった。

今回の会議で承認された新規プロジェクトのうち②は、毒性試験、特に生態毒性試験で使用する生物

サンプル中のナノ粒子の濃度決定に係る助言を提供する新規ガイダンス文書に係る提案で、ナノ濃度の

測定に関する適切なアプローチや手順に関する指針を示すことを目的とし、ナノ材料の種類やサンプル

に応じた適切なサンプル調整生成手順を占めることを重視し、関連する ISO ガイドラインや単一粒子の

ICP-MS などの手法の活用が予定されている。サンプル調整については、REACH 関連ガイダンス(情報

要求及び化学物質安全性評価に関するガイダンス:第 7 章に適用可能安ナノ材料に関する付録 R7-1 エ

ンドポイント固有のガイダンス)の第 2 章物理化学パラメータに関する推奨事項のサンプル調整に関する

項で指摘されているように、サンプル調整は、ナノ材料の特徴付けと、その後の試験に向けた最も重要な

ステップの 1 つであり、サンプル調整の方法を検討する際には、考慮すべき多くの変数があり、かつナノ

材料については、凝集/凝結体の存在状態が、分散や粉末、エアロゾル形態など様々な形態があり、そ

れらの形態の存在が、合成や貯蔵、取扱いの方法を含む多くの要因によって影響を受ける。また、凝集

/凝結の状態は、サンプル調整中に考慮する必要があるほか、液体媒体中での粒子の挙動は、ナノ材

料の場合に、溶液中での分散と溶解を区別することが困難である、等の課題があり、サンプル中のナノ粒

子の濃度決定は、様々な他のテストガイドラインにも影響する事項であり、重要である。会議では、技術的

な問題についても指摘事項も多くあったが、WPMN では技術的な内容を議論する場ではないことから、

技術的な事項に係る議論は、別途ウェブ会議等を通じて行うこととなった。

また、③は、環境媒体中のナノ材料の溶解に関する標準手法の開発に関するプロジェクト提案である。

ナノ材料については、その粒子のサイズ故に、液体媒体中での溶解と分散を区別することが困難である

が、生物や環境外台中でのナノ材料の挙動や運命を評価するためには重要な情報であることが、WPMN

専門家会合でも結論されている。なお、ナノ材料の環境媒体中での溶解度と分散安定性に関するガイダ

ンス文書の開発は、ドイツのリードのもとで進められている。また、類似するテストガイドラインの開発に係

るプロジェクトとして、水生媒体中の金属ナノ材料の溶解度と溶解速度の決定に関するテストガイドライン

があり、本来であれば、この中に、③の内容を含めることが妥当であるが、既に実施中のプロジェクトには

資金的な制約等があり、今回の提案内容に係る事項を含めることが困難であった、という背景がある。そ

の他、類似のプロジェクトである、水中及び関連する合成生物媒体中でのナノ材料の溶解度及び溶解速

度のけっちえに関するテストガイドライン(WNT31 にて議論予定)と、ナノ材料の環境非生物的移行に関

するテストガイドライン提案(WNT31 にて議論予定)、とも調査して進める予定とされている。REACH 附属

書のナノ材料に係る改定でも指摘されているように、ナノ材料は分散と溶解を区別することが困難である

ため、非ナノ材料の化学物質において、例えば、有害性試験のいくつかでは、水への高い不溶性が確認

されれば、試験が免除されるが、その条件がナノ材料には適用が困難である、という問題点がある。

⑦は、既存の TG201(淡水藻類とシアノバクテリアの生長阻害試験)、TG202(ミジンコ類急性遊泳阻

害試験および繁殖試験)、TG203(魚類急性毒性試験)をナノ材料に適応するためのプロジェクト提案で

ある。既存の TG201、202、203 はいずれも可溶性又は高い可溶性の化学物質に対して開発されたテスト

ガイドラインであるため、これらの既存の試験法をナノ材料に対して適用した際に得られる結果は、非常

171

Page 176: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

に大きな変動性を示すとされている。例えば、本プロジェクトの提案書では、TG202 に関して、非ナノ材料

の化学物質で観察される観察中の時間的な濃度低下は、ばく露期間中の被験物質の生物分解・非生物

分解、吸着や揮発によるが、ナノ材料の場合にはそれらに加えて、凝集や沈降による水柱中の濃度減少

や、試験容器底部での濃度増加があり、ミジンコ等の微小な無脊椎動物は、水柱の真ん中ではなく、濃

度の高い底部などの沈降したナノ粉末中を移動することも予想されることから、ばく露濃度の定量が困難

である、と指摘している。そこで、本プロジェクト提案では、ナノ材料を使ってこれらテストガイドラインを用

いて試験する際の特定の技術的な推奨事項を作成し、最終的には、「ナノ材料の水生及び底質毒性試

験に関するガイダンス文書」の付属書として提示する予定としている。

そのほか、日本の取組みとして「ナノ材料の肺負荷に基づく慢性吸入毒性に関する評価手法の開発」

と題するプロジェクトの紹介や、物理化学特性に関して、リスク評価決定に向けた物理化学特性評価プロ

ジェクトに関する枠組みに係る取組み状況の報告、リスク評価と規制プログラムに関する取組みとして、製

造ナノ材料試験の非動物手法に関するセミナー報告、ナノ材料のリスク評価に関わる重要事故の要約文

書の作成状況、ナノ材料のリスク評価とカテゴリゼーションに関する NanoAOP の開発に関するプロジェク

トの進捗状況、ナノ材料のリスク評価目録の作成を目的としたプロジェクト案の紹介、ばく露に関する 3 つ

のプロジェクト(環境暴露、消費者ばく露、職業ばく露)の進捗報告があった。NanoAOP に関しては、関連

するワークショップの開催が 2019 年 9 月に予定されている。また、ナノ材料のリスク評価目録の作成に当

たって、各国の取組みに関して調査が行われる予定である。

また、ナノ材料のより安全なイノベーションアプローチ(SIA) OECD ad hoc グループによる取組み内

容が報告された。同グループでは、Safe(r) by Design や規制への対応準備に取り組んでおり、WPMN19

に関連するセミナーでは、Safe(r) by Design の定義について、参加者間での意見交換が行われた。

会議の最後に、今後のスケジュールが公表され、関連するワークショップの開催とともに、2021-2024

年の次期作業計画に係る会議開催についてアナウンスされた。次回 WPMN20 は当初予定されていた

2020 年 2 月ではなく、2020 年 6 月頃開催に延期された。

(イ) 議題別の検討結果

以下に議題ごとに概要を記す。

Item0.開会挨拶

議長Roshiniより開会の挨拶が行われた。

OECDメンバー国以外の、タイ、マレーシア、中国、南アフリカ、からオブザーバー参加がある旨、紹介さ

れた。

Item1.議題採択

WPMN19の議題が原案通り採択された。

172

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Item2. WPMN18 のサマリーレコード

前回WPMN18のサマリーレコード(※)は、原案通り採択された。

※サマリーレコードとは、前回WPMN18での決定事項等をまとめた議事録である。

Item3.事務局報告

事務局より、現在の取組みについて報告が行われ、参加者からコメントが募られた。

2018 年 11 月の The Joint Meeting で、Evolution of the OECD Nanosafety Programme: lessons

learned and futurEchallenges が検討された。2 月 20 日午後に予定されている Focus Session で

議論する。

環境政策委員会(EPOC)が 2019 年 2 月 13-14 日に OECD で開催された。

以下のナノ関連の TG/GDsに関する新規プロジェクト提案として、Nano-SPSFs が WNT に提出

され、2019 年 4 月に議論される予定

Guidance Document Environmental abiotic transformation of nanomaterials

Applicability of the key event based Test Guideline 442D for in vitro skin sensitisation

testing of nanomaterials

TG on Determination of the Dustiness of Manufactured Nanomaterials

New TG on Determination of Surface Hydrophobicity of Manufactured Nanomaterials

Determination of solubility and dissolution rate of NMs in water and relevant synthetic

biological media

Identification and quantification of the surface chemistry and coatings on nano- and

microscale materials

アウトリーチ:研究プロジェクトとの連携

WPMN は、TG の開発に関連する目的や、ハザードの特定とリスク評価に関連するその他

のツールを含む、いくつかの研究プログラムとの連携を強化している:NanoReg2 Gracious

H2020 プロジェクトによるナノ材料のグループ化に関する科学ワークショップ(2018 年 9 月)

ナノ材料に関する OECD Harmonized Templates for Reporting Chemical Test Summaries

(OHT)(※)

OHT は OECD テストガイドラインの報告ニーズをカバーし、定期的に更新/拡張され、新し

い TG に更新される。

OHT はシリーズにまとめられた(www.oecd.org/ehs/templates/):物理化学特性、文化理

&蓄積、健康影響、残留農薬、中間影響、使用&ばく露情報、等

2013 年にはナノ材料特異的な物理化学特性に関する 13 の OHTs 追加された:凝集/凝

結、アスペクト比/形状、ゼータ電位、等

TG412(亜急性吸入毒性:28 日間)および 413(亜慢性吸入毒性:90 日間)(ナノ材料の試

験対応のために改訂)28 日間及び 90 日間吸入毒性試験の改訂に合わせて反復投与毒

性・吸入毒性に関する OHT68 が 2018 年 4 月に公表。

分散安定性に関する OHT401(模擬環境領域中のナノ材料の分散安定性に関する新規

173

Page 178: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

TG318 をカバー)は 2018 年 12 月に公表。

※OHT(OECD Harmonized Templates、http://www.oecd.org/ehs/templates/)は、化学物質のリスク評

価、主に化学物質の特性や人間の健康や環境への影響を判断するために行われた研究に使用される

情報を報告するための標準データフォーマットである。データベースに情報を入力して管理するためのフ

ォーマットを規定しているため、データベースシステムの開発者を対象としている。これらのテンプレートを

使用することで、政府と産業界は試験研究の要約情報を簡単に電子的に交換することができる。テンプレ

ートを使用して、あらゆる種類の化学物質(農薬、殺生物剤、工業用化学物質など)のサマリーテスト結果

を報告できる。OHTは、以下のように分類されるエンドポイントと報告要素をカバーしている:

エンドポイント OHT No.

物理化学的性質(ナノ材料を含む) OHT 1〜23-5および101〜113

環境の運命と行動 OHT 24〜40&401

生物系への影響 OHT 41〜57

健康への影響 OHT 58〜84&86

残留農薬 OHT 85-1〜85-10

分析手順 OHT 87

効能 OHT 88および89

対象製品からの放出 OHT 90

中間効果 OHT 201

使用およびばく露情報 OHT 301〜306

すべてのOHTのための一般的な要素 参考文献 - 試験材料情報 - 参照物質 - 化学物質インベントリ

各テンプレートは、該当する場合は、対応するOECDテストガイドラインへのリンクがある。

ナノ材料について2013年以降に追加されたOHTの詳細は、以下のとおりである:

<物理化学的性質>

OHT 101 ナノ材料の凝集/凝結(対応するTG:110 粒子サイズ分布/繊維長と径の分布)

OHT 102 ナノ材料の結晶相

OHT 103 ナノ材料の微結晶と粒径(対応するTG:110 粒子サイズ分布/繊維長と径の分布)

OHT 104 ナノ材料のアスペクト比/形状(対応するTG:110 粒子サイズ分布/繊維長と径の分

布)

OHT 105 ナノ材料の非表面積

OHT 106 ナノ材料のゼータ電位

OHT 107 ナノ材料の表面化学

OHT 108 ナノ材料の巻き上がり性(ダスティネス)

OHT 109 ナノ材料の空隙率

OHT 109 ナノ材料のかさ密度

OHT 109 ナノ材料の光触媒活性

OHT 109 ナノ材料のラジカル/形成ポテンシャル

OHT 109 ナノ材料の触媒活性

<環境の運命と行動>

OHT 401 ナノ材料の分散安定性(対応するTG:318 模擬された環境媒体中でのナノ材料の分散

安定性)

174

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Item4.リソース

事務局から、WPMNは現在予算が十分ではなく、各国からの自発的な予算拠出を期待している、との説

明があった。

Item5. Tour de Table:ナノテクノロジー/工業ナノ材料に係る開発

Tour de Tableは事前提出15か国・2機関であった。提出国等から主要な近況の説明及び、提出文書へ

の口頭での追加説明が行われた。

議長から、2019年3月20日までに、事務局に対して追加提出が要請された。追加意見提出後に、Tour

de Tableの機密扱いを解除し、Joint Meetingに回覧することが合意された。

EC:EU では、2020 年にナノ材料を対象とした REACH 規則改定が予定されている。ナノ材料の

定義についても検討を進めている。

オランダ:ナノ材料に関するポリシー会議を 2018 年 4 月に開催。

フランス:ナノ材料を使用する設備向けの指針を作成。[Guide tobest practicces NM]

スペイン:Graphen Flagship プロジェクトについて報告。

ドイツ:2022 年に 2 日間かけて当事者対話会議を予定。

イタリア:保健相の協力を得て、ナノ材料、ナノ医学、環境問題に関する知識共有・当事者ネット

ワーク進展に向けた組織を結成。

カナダ:流通するナノ材料の一覧や、環境・ヒトへのリスク評価指針を作成。

オーストリア:ウィーンで第 14 回ナノ材料国際会議を近日開催予定。研究者、産業界代表、規

制当局者が参加予定。

Item6.試験及び評価に関する報告(ナノ材料に関連する試験ガイドライン(TGs)及びガイダンス文書

(GDs))

SGTA(※)「OECD Test guidelines for nanomaterials safety testing: update on the work

underway」(事務局)

※SGTA:工業ナノ材料の試験・評価に関する運営グループ

• 2/19 の SGTA セミナーについて報告。TG の新規制定、WNT で検討中の新規 TG/GD

などについて簡単な総括が行われた。

• SGTA で問題になった、TGs に無償での利用ができない文書(例えば、物理化学的試験に

関する ISO 文書)への参照が含まれていること、及びその MAD(Mutual Acceptance of

Data データの相互受け入れ)への影響について、参加者からの懸念と事務局としての問

題対応の意向も表明された。

TGs が統一された方法で前進するように、TG のリードに一般的なガイダンスを提供す

るための文書を作成することで合意された。

初めに、政府における国内慣行についての短いアンケートが、一般的慣行を特定す

るために回覧される。

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進行中のこれらのプロジェクトの遅延を避けるために、特定のニーズに関する

ISO/TC229 のカウンターパートとの議論を行う。

• ナノ材料に関する TGs の測定手順を検証するための思考スターターの開発

一般的な問題の特定(例えば、測定方法の適用性を検証するために試験されるナノ

材料の数)

SGTA 内で行われ、物理化学的枠組みや付随するガイダンスなどの既存の進行中の

作業を使用するための議論

具体的なガイダンス開発のためのニーズに関する推奨事項の作成

• グルーピングに関するガイダンス文書:ナノ材料に関するセクション

依然として優先的な作業領域である。ナノのグルーピングに関する既存の文献は非

常に多様であることが注目された。

それにもかかわらず、いくつかの予備的な作業が、文書をレビューするために事前に

行われる必要がある。最初のステップとして、関連する EU プロジェクト(例えば、

Gracious、Patrols、NanoReg2)のリードとの議論を行い、使用可能なタイミング/アウト

プットを特定する。

WPMN20 で何らかの提案をする予定。

• 試料調整と測定に関するガイダンス文書の更新(GDSP)

SGTA は、文書を 3 つのセクション(物理化学的特性、ヒトの健康、環境)に分け、WNT

で現在開発中で、以前は WPMN によって開発準備されていた、試験ガイドラインのリ

ードからの観察を含めて、文書の更新方法に関する推奨事項を作成する。

これらの事項は、WPMN20 の概要文書に提示される予定。

• 表面及び毒物学的特性-新規プロジェクト提案の可能性

南アフリカは、韓国の支援により、文献レビューから開始し、ナノ材料の表面特性と毒

物学的特性との間の相関関係をより詳しく調べることを提案した。

南アフリカと韓国は、WPMN による検討のためのプロジェクト提案の作成を要請され

た。

その他:試験及び評価に関する作業に関連した一般的事項を特定し、以下について議論を開始するこ

とが合意された。

• WPMN と WNT 間の相乗効果のさらなる向上

WPMN と WNT の間のプロセスをさらに合理化することで合意された。

その結果、WPMN は 2019 年 11 月に SPSFs としてリード国が提出する予定のナノ材

料に関するガイダンス文書/テストガイドラインに関連したプロジェクトは、2019 年6 月

に WPMN にコメントのための SPSF ドラフト版をまず WPMN に提示すべきであることが

合意された。

これにより、プロジェクトが WNT に提出するのに十分成熟しているかどうかについて、

一連のコメント(または 2 つ)と具体的な推奨が得られるべきである。

176

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SGTA「Update on ongoing activities on developing nanospecific OECD TG/GD coordinated by

the German Environment Agency (UBA)」(ドイツ)

• ナノ固有の TG/GD策定に関する現在の活動について報告。前回のWPMN以降コア専門

家による会議を開催し、また 2019 年 12 月は環境運命・生態毒性に関する WNT 専門家グ

ループ会合を開催予定。

• カラムリーチングに関する TG312(土壌カラム中の浸出)改訂、ナノ材料の粒径・粒度分布

に関する TG 作成などに取り組んでおり、TG 案を元に議論が進められる見通しである。

6a.生体内持続性/生体内耐久性製造ナノ材料に関する入手可能な情報の編集(南アフリカ)

• 南アフリカは、WPMN18 で受け取ったコメントに基づいて行った改訂について最新情報を

提供した。

• 生体内耐久性を持つ人工ナノ材料(ENM)はオートファジー異常などの障害を起こす可能

性があり、潜在的な毒性について理解が求められる。そこで、生体耐久性人工ナノ材料が

オートファジーやリソソームの機能異常を起こす可能性について、入手可能な情報の編纂

に取り組んでいる。

• 既存研究に基づき、生体内耐久性 ENM の危険性評価、長期影響に関する評価に取り組

み将来的な TG 策定を視野に入れる。

SGTAの監督の下、このプロジェクトの実施を支援することが合意された。

6b.毒物動態に関する新規 TG の開発または TG417(毒物動態(生体内運命)試験※)の改訂

(オランダ、英国)

※毒物動態試験とは、被験物質の吸収、分布、排泄および代謝に関する研究をいう。

• オランダは、達成された進捗状況の最新情報と、次のステップに関する最新情報を提供し

た。

• ナノ材料に関し、トキシコキネティクスに関する TG417 の改訂または新たな TG の策定が求

められている。REACH 規制でもトキシコキネティクスに関する指標が盛り込まれ、蓄積・慢

性毒性の可能性を示唆するためにデータの使用が見込まれる。

• プロジェクトは 2018 年 2 月に WPMN で承認。今後、新規 TG 制定または TG 改訂に向け、

情報収集を進め、2019 年 11 月の WNT に SPSF を提出し、専門家会議を経て最終的な

TG について 2023 年 4 月の WNT-35 以降で承認を目指す。TG 412、413(吸入毒性)など

とも関連性がある。

• マルタ・イニシアチブなどからデータベースも利用する。

毒物動態学データが異なる規制体制でどのように使用されているかを含め、今後数か月でインプットの

要請が回覧される。

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Item7.ナノ材料に関する TGs/GDs の新規プロジェクト提案

7a 経口摂取ナノ材料の腸内運命に係る統合的 in vitro アプローチ(イタリア)

• 模擬された in vitro での腸内環境におけるナノ材料の運命を決定するための概念的枠組

みと手順を設定する新規ガイダンス文書の開発。

• 2020 年 1 月に始まる REACH 規制改訂を視野に入れ、また ISO 規格とも関わりつつ GD

作成が進められている。2019 年 11 月に SPSF 提出を予定し、ラウンドロビンテストを経て

2023 年の WNT-35 にて GD に関する議論が行われる予定。

• トキシコキネティクスに関する TG417(毒物動態(生体内運命)試験)をはじめ、OECD の現

在進行中のプロジェクトともかかわりあいつつ進められている。

イタリアは、受け取ったコメントを考慮に入れ、関係者(カナダ、スペイン、EU、BIAC)で本会議後に再度

検討し、修正提案書を作成する。提案書の修正版は、書面による承認決定のためにWPMNに回覧され

る。

7b.(生態)毒性試験に係る生物サンプル中のナノ粒子濃度の決定に関する新規ガイダンス文

書の開発(英国)

• (生態)毒性試験の中で、生物サンプル内のナノ粒子の濃度の決定に係る助言を提供す

る新規ガイダンス文書を作成する。

• ナノ濃度測定に関する適切なアプローチ・手順について指針を示すことを目的としたプロ

ジェクトであり、ナノ材料の種類やサンプルに応じた適切なサンプル調整生成手順を示す

ことを重視している。

• 関連する ISO ガイドラインや、単一粒子 ICP-MS などの手法を活用する。

• 生物組織のナノ材料測定については、EU 内で多くのプロジェクトが進められている。

• 2020 年 11 月に SPSF を提出し、2021 年 4 月に WNT-33 にて SPSF について議論を行う

予定である。

韓国、フランス、日本、等:研究をサポートしたいとする意向が表明された。

本プロジェクト提案は承認され、作業計画に含まれた。今後ビデオ会議などを通じて技術的問題につい

て検討していく。技術的な議論はweb会議等を通じて行う。

7c.環境媒体中ナノ材料の溶解速度決定のための標準手法(ドイツ)

• 動的手法(フリースルー)を介して環境媒体中の溶解速度の標準プロトコルを提供する。

• バッチテスト(Project 3.10)と環境媒体中の溶解速度に関する動的方法を結び付け一つの

TG を策定する計画で、TG はナノ材料の可溶性・溶解速度をカバーする。

• EU が資金拠出する様々な研究プロジェクトで、手法の開発が進められてきた。

• 今後、2019 年 11 月に最新の SPSF を提出し、研究を完了し SOP 策定、確認、WNT 専門

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Page 183: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

家会議を経て TG 案提出の見通しである。

本プロジェクト提案は承認され、作業計画に含まれた。

7d.人工ナノ材料の生物蓄積性評価に係る段階的戦略の開発(英国)

• 人工ナノ材料(ENM)の生体蓄積可能性が問題になっており、工業ナノ材料の魚類への生

体蓄積試験が課題となっている。多くのナノ材料は拡散し、水に溶けないことが懸念材料

である。また、動物実験の数を減らす必要にも迫られている。

• 一連の試験ガイドラインとガイダンス文書を相互にリンクさせたコンセンサスベースの

OECD 段階的試験戦略を、人工ナノ材料に対して開発することを目指す。

• 動物実験を利用しない代替・コンピュータ計算モデルで無脊椎動物への生体蓄積を計測

する TG の開発を段階的に目指している。第 3 段階で魚類に対する in-chemico 試験を予

定する。

• TG317(陸生貧毛類蓄積性試験)、TG305(魚類の生物蓄積性:水性及び食事ばく露)など

の既存ガイドラインをベースとする。

プロジェクトを承認する前に、WPMNは現在の知識と現状とプロジェクト提案について議論するためのワ

ークショップ(おそらく5月頃)を開催することに合意した。継続して議論を行う。

上記ワークショップの結果は、WPMNが次のステップで検討するための推奨事項とするべきである。

7e.酸化的損傷を含む遺伝毒性を試験するための酵素結合 in vitro コメットアッセイ:ナノ材料と

他の化学物質への適用(英国)

• 標準的な遺伝子毒性試験では TG471(細菌を用いる復帰突然変異試験)や小核試験

(TG487)を使用するが、ナノ材料ではエームズ試験が使用できず、酵素結合 in-vitro コメ

ットアッセイ(※)の使用を盛り込む。

※コメットアッセイ(単細胞ゲル電気泳動法)は、変異原性試験の一種で、遺伝毒性を示す可能

性のある物質にばく露した動物(通常、げっ歯類)の複数組織から単離した細胞または細胞

核内の DNA 鎖切断を検出するのに用いられる。

• ナノ粒子と酵素が相互反応するか、対照実験も行い確認する。皮膚、肺、肝臓などの 3D

モデルを使い、細胞毒性を有する/有さない、可溶性/難溶性の様々なナノ材料につい

て試験を行う。

改訂版のプロジェクト提案を次回WPMNに再提出するよう要請された。

また、関心を表明した国々間で電話会議を行い、英国による改訂版の提案書の準備を支援する。

7f. OECD TG474 哺乳類赤血球小核試験のナノ材料に対する適応に関するガイダンス文書(ポ

ーランド)

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• In-vivo 小核試験に関するガイダンス文書を作成する。

• 使用する動物数を減らしつつ、あらゆるばく露経路を考慮し、細胞毒性について計算でき

るようにする。

提案概要については同意するものの、本件については、進行中の他の取組み、特にトキシコキネティク

スに関する研究との関係及び依存についてよりよく理解するために、さらなる議論が必要である。

改訂された提案書は、文書化された手順による承認決定のためにWPMNに回覧される。

7g.製造ナノ材料の生態毒性決定のための OECD 試験ガイドライン 201、202、203 の適応 (ス

ペイン、フランス)

• REACH で要求される一般的に使用される水生生態毒性試験(TGs201, 202, 203※)のナ

ノ材料への適用方法に関する技術的推奨事項、GHS に従った化学物質の分類と表示及

び、他の規制に関する技術的推奨事項、を作成する。

※TG201:淡水藻類とシアノバクテリアの生長阻害試験

TG202:ミジンコ類急性遊泳阻害試験および繁殖試験

TG203:魚類急性毒性試験

• 魚やミジンコ、藻などに関する毒性試験について定めた TG 201, 202, 203 について、ナノ

材料の試験に適合させるプロジェクトが進められている。実験動物数を減らし、様々な種類

のナノ材料の試験を可能とすることを目指している。

• 欧州外も含めて多くのパートナーからの協力を募っている。

本プロジェクト提案は承認され、作業計画に含まれた。

Item8.ナノ材料の肺負荷に基づく慢性吸入毒性に関する評価手法の開発

国衛研広瀬氏より、日本の取組みとして、気管内投与試験に関するプロジェクトを紹介。

Item9.物理化学特性:リスク評価に関する決定を伝えるための物理化学の決定的枠組み(米国)

• ナノ材料のリスク評価決定に向けた物理化学特性評価プロジェクトについて、改訂された

決定枠組みとそれに付随する基本理念を紹介した。

• プロジェクトは 2016 年に開始しケーススタディ実施や専門家会合開催などが行われてきた。

フェーズ別に構成されたツリー方式の決定方法が紹介され、ヒトや環境への影響なども考

慮し、どのような手法を組み合わせて使用するか判断に利用できる。

• 今後、枠組みの公表に向けて作業が進められる見通しである。

機密扱い解除の要請とともに2つの文書をJoint Meetingに送付することが合意された。

フィードバックを提供するための具体的な注意事項が出版物に含まれる。

Item10.リスク評価と規制プログラム

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10a. 製造ナノ材料の試験の非動物手法に関するセミナー報告

文書公表までにまだ改良の必要な部分が残っているとの理由で公表延期された。

サマリー報告書は、クリアスペースの内部文書として利用可能となる。

10b. 重要課題文書レビュー(カナダ)

• ナノ材料のリスク評価に関わる重要問題の要約文書。

• ナノ材料についてはデータがまだ不足しているが、研究状況や参考文献などを盛り込み、

今後研究の進展に伴い内容を更新し続ける見通し。

• 最終レビューを次回 WPMN までに実施し、次回 WPMN で最終文書について承認を得るこ

とが目標。

本文書は承認された。改訂内容を確定するための作業は今後数か月間継続する。書面手続きによる機

密扱いの解除への同意のために、2019年に最終ドラフトがWPMNに回覧される予定。

10c.ナノ材料のリスク評価およびカテゴリゼーションに関する NanoAOP の開発

• 工業ナノ材料に関するキーイベント情報の特定、炎症パスウェイにおけるキーイベントに着

目したケーススタディ実施、リスク評価でナノ材料について AOP を扱う上での推奨事項の

策定を目指し、カナダ保健省、オランダ、南アフリカ、スイス、米国、英国が共同でプロジェ

クトを進めている。

• 既存の先行研究を確認し、キーイベントの計測や報告すべき情報の種類などについて検

討する。

• AOP に着目することで、キーイベントに基づき工業ナノ材料ばく露による悪影響の予測が

より正確となることが期待される。

• 2018 年 9 月にワークショップが開催され、2019 年 9 月にはナノ材料のリスク評価への AOP

活用について、規制担当者や専門家を招きパリの OECD 本部で会合開催を予定してい

る。

プロジェクトの目的3(リスク評価におけるナノ材料に関連するAOPsに関する推奨事項)に取組むための

ワークショップを開催し、分子スクリーニングとトキシコゲノミクスに関するOECD拡大諮問グループ

(EAGMST)と、関連する進行中のH2020プロジェクトからの専門家の要請が合意された。

10d. プロジェクト提案:ナノ材料の規制的リスク評価登録:コラボレーション強化に向けて(カナ

ダ)

• ナノ材料のリスク評価目録作成を目的としたプロジェクト案で、リスク評価の枠組みに関連

する情報提供するために、ナノ材料に関するリスク評価のための登録またはレポジトリ(完

成または進行中)を開発するプロジェクトの最新情報。

181

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• 現在ドラフト作成段階で、2019 年後半に最終提案予定である。

• 知識ギャップ解消に向けた各国の取り組みについて要約し、作業の共有を推進することが

目的で、当初はエクセルのスプレッドシートなどを活用し、2021 年までのオンライン公開を

目標とする。

前進することが合意された。提案達成のためのマイルストーンをさらに発展させるために、2019年に最初

のウェブ会議を開催する。

Item11.ばく露方法とばく露軽減

11a.進捗報告(米国)

• 環境ばく露、消費者ばく露、職業上のばく露に関する 3 つのプロジェクトについて紹介があ

り、ばく露に関するモデルの評価に向けてデータの作成やばく露を軽減する要因などの特

定を進めていることが発表された。

• 次回 WPMN に向けて作業を進め、2019 年 10~11 月には SG8 会議の開催が予定されて

いる。

11a.進捗報告(ISO)

• 規格改訂について説明が行われた。ナノ材料をターゲットとした規格の制定・改訂が進め

られており、例えば ISO/TC 24/SC 4「粒子の特性評価」がすでに公表されるなど、物理化

学特性と関連する改訂が進んでいる。

11b. 製造ナノ材料への職業被ばくを評価するための規制モデルおよび非規制モデルの世界

的な準備状況の評価(デンマーク)

• 報告書についての発表。化学物質ばく露に関する既存モデルのナノ材料における適合度

について、利用可能なツールやモデルの評価、その妥当性・適用可能性について米国と

共同で研究を進めている。EU の進める H2020 calibrate Project からも協力を得て、様々な

製品へのばく露に関するケーススタディなどのデータ収集を続けている。今後、既存ツー

ル・モデルの一覧を作り、そのパフォーマンスを確かめ、職業上ばく露シナリオに関する質

の高い測定データを収集し、最終的に 2020 年 12 月までの報告・意見聴取を目標としてい

る。

• フェーズ 2 モデル評価に進む。

• 性能評価の基準とモデルの実験データを完成させるために、追加情報が必要である。

フィードバックを提供することが要請される。

最初のドラフトは、2019年12月までに準備できると予想される。

11c. 製造ナノ材料の規制ばく露評価における消費者ばく露評価のための利用可能なツールと

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モデルの適用性の評価(カナダ)

• カナダ気候・環境変動省(Environment ClimatEchange Canada)が中心となって進めるプロ

ジェクトで、11b と基本設計は同一(消費者・環境ばく露モデルについて調査)。2017 年に

着手し、環境や消費者のナノ材料ばく露評価ツール・モデルの一覧作成、既存規制のナ

ノ材料に対する適用の妥当性調査を行う。数多くのデータベースの選定が進められており、

消費者ばく露モデルに関する研究が先行している。今後、データシェアリングの呼びかけ、

各ツールの予測能力評価などを経て、2019 年末の報告書承認を目標とする。カナダは本

プロジェクトの実施を継続する。

EC:現在のデータ不足を踏まえてプロジェクトの必要性が強調された。

2019年6月までに消費者と環境へのばく露を考慮した測定データの提供を要請される。報告書ドラフト

は2019年12月までに完成する予定。次回WPMNで改めて報告する。

Item12. 持続可能なナノ材料とナノ対応製品のための「より安全な革新的アプローチ」に向けての動

ナノ材料のより安全なイノベーションアプローチ(SIA)OECD ad hoc グループによる進捗報告

OECD の SIA 暫定グループでは、Safe(r) by Design(SBD)や Regulatory preparedness(RP)をはじ

めとする SIA の実務定義作成、リスク評価ツールの一覧作成やナノ材料に関する SIA の実施支

援に取り組んでいる。定義・共通理解確立についてはドラフトを 2019 年 5 月までに作成し

WPMN の回覧に回す予定。情報収集を進め、SBD の適用に関する障壁、ツールの利用プロセ

スや条件などについて確認を進め、2020 年初めには開かれたワークショップを開催し SBD や

RP などについても議論し、2020 年 6 月~7 月に最終レポート提出を目指す。

タイヤ産業イニシアチブの概要(BIAC)

タイヤへのナノ材料使用の利点と課題に取り組むタイヤ産業イニシアチブについて説明があっ

た。イニシアチブはタイヤ製造会社のコンセンサスに基づき進められている。ナノ材料使用は

CO2 排出減少や耐久性向上などのメリットがあるがリスクへの懸念もあり、ライフサイクル全体で

の健康・環境保護に向けた評価が求められる。プロジェクトでは様々な放出可能性について検

討し、知識を強化し、規制の進展に対応する必要がある。プロジェクト開始から研究開発、大量

生産、商業販売に至る様々な段階での研究に着手している。

2019年前半に、認識と意思決定のための規制戦略を含む、利用可能なSDBツールと枠組みに関する調

査への回答が要請される。

ワークショップ(1日間)の日程は、2019年後半から2020年初めにかけての期間で検討される。

Item13.2019 年の活動計画-作業計画

WPMN20 での決定に起因するスケジュールの変更を考慮に入れた改定作業計画は、WPMN20 後

に回覧される。

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Item14. ビューローの指名

理事会メンバーについて提案が行われた。オーストラリアの Roshini JAYEWARDENE 氏が議長留任。

カナダは事務局員 2 名。日本は後任者が未定で今後議論。

• 議長:Roshini JAYEWARDENE(オーストラリア)

• 副議長:Maya BERCI/ Kwasi NYARKO(カナダ)

• 副議長:Anke JESSE(ドイツ)

• 副議長:確認中(日本)

• 副議長:Monique GROENEWOLD(オランダ)

• 副議長:Greg SCHWEER(米国)

• 副議長:Andrej KOBE(EU)

ビューローの指名に係る資料は合意された。

Item15. 次回 WPMN 会議日程

次回WPMN会議を、2020年6月16-19日に開催することが合意された。

事務局は、その後の会議の最も適切な時期についてさらに議論する。

さらに、WPMN20 に先立ち、以下のイベントが合意された:

• 2019 年 5 月(TBC):ナノ材料の段階的試験生体内蓄積及び評価に関する会議

• 2019 年 9 月 10-12 日:AOP 専門家会議

• 2019 年 12 月 16-18 日:WPMN 作業計画※(WPMN 事務局主導)とそれに連続する会議

(back-to-back 会議)

※作業計画:Focus Session の目的に記載されている、WPMN の次期作業計画

(2021-2024 年)を検討するための会議

• 2020 年(予定)(TBC):トキシコキネティクスに関するプロジェクトを議論するためのポテン

シャル会議

事務局は、専門家の参加を促進し、back-to-back 会合を開催する可能性を特定するために、ナ

ノ材料に関する TG/GDs を扱う WPMN 及び WNT 関連会合の会議スケジュールを準備する。

Item16.会議の結論とアクションアイテム

• 事務局からアクションアイテムを提示し、特に確認が必要な議題の内容について確認し、

一部修正された。

2019年3月20日までに各国がtour de tableを送付するよう要請された。

(2) フォーカス・セッション

WPMN19 が 2019 年 2 月 20 日にパリ OECD 本部会議場で開催された。

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本セッションの目的は、現在の作業の状況と、次の EHS プログラムである 2021 年から 2024 年までに

優先順位を付けることができる問題についての議論を開始することであり、各国機関の代表団は、WPMN

が将来フォーラムとして役立つ可能性があり、各代表団がこれらのトピックに関する相乗効果を特定し、ア

プローチを調和させるのに役立つ可能性がある分野について議論を開始することが望まれた。 本セッシ

ョンの次のステップとしては、2019年 12月に最初の作業計画を策定することを提案した。なお、本セッショ

ンの議論に基づき、代表団のニーズを理解し、それを基に、WPMN は全体の作業計画に関連し、それと

整合性のある作業計画案のドラフト版を作成する。

以下にその概要を記す。

① OECD 環境局長 Rodolfo Lacy からセッションの趣旨を説明

② Malta Initiative – A European Action to support the Development of OECD Tet Guidelines for

Nanomaterials(ドイツ)

• 技術革新の推進に合わせてテストガイドラインやガイダンス文書の整備など、法規制の対

応を進めていくためのプロジェクトであり、規制当局者や業界関係者など全ての当事者を

関与させ、国際協力を進め、誰にでも開かれたプロジェクトとすることを目指している。マル

タ・イニシアチブは、EU の 18 か国と、産業/ECHA/JRC が活動している。

③ EU / NanoSafety-Cluster(オランダ)

• 欧州レベルでのリスク評価や特性評価をはじめとするナノ研究の協調、既存プロジェクトと

新規プロジェクトの調整を図り、ナノ安全性に関する知識を確立することを目的に EU 内外

の様々な機関と協力を進めている。

• 既に 40 を超えるプロジェクトが完了し、現在 32 のプロジェクトを実施中である。

• タスクフォースは、持続可能性に関するもの、Safe by Design の定義に関するもの、ナノ

-TiO2 の安全性のコミュニケーション、公的にアクセス可能なばく露データベース、がある。

• NSC はマルタ・イニシアチブを支援している。

④ Regional co-operation in the Asia-Pacific region (タイ)

• タイでは国民のナノ物質に対する意識は低く誤解や虚偽表示も多いが、消費者保護庁を

はじめ公機関との協力でナノ安全性や政策立案に向けた取り組みを進めている。

• 台湾でナノラベルの制度を導入しウェブサイトなどで広報活動にも取り組んでいる。

• 国際協力も進めている。

• NANOTEC ではメールでニュース配信を行っている。

⑤ Safe by Design(オランダ)

• フランスおよび BIAC と協力で進められている Safe(r) By Design(SBD)のコンセプトについ

て発表が行われた。

• イノベーションの速度に対応しつつ早い段階で安全性を確保することを目標に取り組みが

進められている。

• OECD プロジェクトとの協力、規制当局とイノベーターとの対話、SBD に関する教育や取り

組み推進に向けた研究活動などの重要性が説明された。

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⑥ Advanced Materials①:EUON study on next generation nanomaterials(ECHA)

• 欧州ナノ材料監視機関(EUON)が進める次世代ナノ材料に関する取り組みの状況につい

て報告が行われた。

• EUON では、市場に入ってくるものの予測と実際、既知の使用と市場量の予測、EU の化

学物質規制における現在の用語が技術的な課題を引き起こすか、等について研究を行っ

ており、5 つの作業パッケージからなる:ナノ材料の異なる世代の定義の評価と改正、既存

材料のインベントリーの作成、主要用語の適合性の評価、特徴付け/識別パラメータの評

価、市場評価

• 研究は 2019 年夏までに結論をだし、結果は 2019 年末までに公開される予定

⑦ Advanced Materials②:Planned activity on advanced materials(ドイツ)

• ドイツ環境省の資金拠出により、ナノ材料やそのヒトや環境への影響について調査しニー

ズを調べる研究が進められている。

• 2019 年秋から 2021 年春にかけて 3 回の国際会議開催が予定されている。

⑧ Nano fibers:High Aspect-Ratio Materials (HARM)(ドイツ)

• ナノファイバーをはじめ高アスペクト比(High Aspect-Ratio Materials (HARM))に関する安

全性上の懸念、ナノファイバーについて特定しライフサイクル評価をはじめとする評価を進

める必要性について提起が行われた。

⑨ New materials/ new process techniques for powders:Nanotechnologies & Advance Material(フラン

ス)

• Additive manufacturing と呼ばれる 3D モデルデータを利用した製造手法におけるナノ材料

の使用とそれに伴う安全性の問題について提起が行われた。

• カーバイド、TiO2 をはじめ多くのナノ材料が使われ加熱されることで、リスクを伴うことなど

の問題点が指摘された。

⑩ Exposure models for nanomaterials(SG8)

• SG8 のナノ材料ばく露モデル立案に向けた取り組みが発表された。

• 2018 年 8 月には SG8 の戦略セッションが開催され、消費者や環境・職業上のばく露モデ

ルの編集・評価が進められている。3 つのテーマについて調査が行われており、テーマ 1

は、消費者、環境及び職業上のばく露、テーマ 2 は、他の機関での環境放出に関する活

動(WPEA、ISO TC229)、テーマ 3 は、他の機関での物理化学的特徴付けに関する活動

(WPEA、ISO TC229)、である。

• 今後、WPEA(matrix project on OECD Emission Scenarios Documents and EU specific

Environmental Release~)や ISO とも協力し、ナノプラスチックのばく露モデル・測定ツール

作成や次世代ナノ材料へのばく露モデル評価などの取り組みが進められる。

4-3. OECD WPMN その他の活動

(1) SGAP ミーティング

SGAP(Stearing Group of Risk Assessment and Reguratory Programmes)ミーティングが WPMN 中の

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2019 年 2 月 19 日午前中に開催された。以下にその概要を記す。

OECD test guidelines for nanomaterials safety testing: Update on the work underway

• 物理化学特性に関する現在の TG および GD プロジェクトについて、簡単な紹介が行われ

た。

• まず OECD の TG の概要・目的について説明があり、TG と GD の違い(TG のほうが制定

に時間がかかるほか、MAD の対象となるのは TG のみである)や、加盟国の規制をクリアし、

科学の進歩を反映するとともに動物福祉の向上や試験方法のコストパフォーマンス向上を

目的とすることが説明された。

• ナノ材料を巡る現在の TG対応状況についても説明がなされた。TG318について合意され、

吸入毒性に関する TG411 および 412 の改訂が行われたほか様々なプロジェクトが進行し

ており、プロジェクト案の WPMN への提出が予定されている。

• 参加者からは、TG で引用されている ISO やその他の参考文献が、お金を使わないと参照

できない状況があることについて問題提起が行われた。

• TG や GD の作成を巡っては、一種類ではなく、溶解度などの異なる多くのナノ材料を扱う

ことの重要性が指摘された。

• また、Sample preparation を巡るガイダンス文書の改訂の必要性について参加者から意見

が出され、改訂により作業が容易になる側面があると指摘された。OECD としてはボランテ

ィアを募って協力を求める意向である。

• 現在の TG では毒性とかかわるナノ材料の表面特性について言及がほとんどなく、充実さ

せる必要性について指摘も行われた。また、ナノ材料のグルーピングに関する文書作成は

現状では時期尚早であるものの、段階的に取り組んでいく方向性が示された。

(2) SIA プロジェクトミーティング

SIA(Safer Innovation Approach’ for Sustainable Nanomaterials and Nano-enabled Products: Overview

of existing risk assessment tools and frameworks, and their applicability in industrial innovations)プロジェ

クトのミーティングが WPMN 中の 2019 年 2 月 19 日午後に開催された。以下にその概要を記す。

• Ad-hoc Group の概要および目的について示された。

• Safe(r) by design(SDB)および regulatory preparedness という概念の定義に関し、事務局か

らの定義案に基づき、参加者の間で意見交換が行われた。SDB については、合理的なコ

ストで機能性を保つことの重要性や、処理・リサイクルに関する側面を盛り込むこと、リスクと

機能性の両立を図ることなどが提案された。Regulatory preparedness に関しては、全般的

に定義について合意の意見が多く、規制当局とイノベーターの対話を促進する意義など

が指摘された。

• 続いて Survey template 作成に関する議論が行われた。WPMN 参加者以外も含めた当事

者全体にわかりやすく、様々な当事者から情報を得られるように図りつつ、できるだけ簡潔

な形にすることの重要性などが指摘された。

• SDB および Regulatory preparedness について、OECD Ad-hoc SIA Group 以外の当事者

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も含めて共通理解を図り、限界・制約についても特定すべく、2020 年 2 月の次回 WPMN

会議前に外部当事者も含めてワークショップを開催する方向で合意が図られた。

• この他に、BIAC の進める Tyre Industry Initiative や、ナノ利用と安全性確保の持続的な両

立を目指して進められているフランスの国家プロジェクト LABEX SERENADE Project につ

いて概要説明が行われた。

• 本日の議論を元に、金曜日午前中の WPMN 会合で報告・議論が予定されている。用語定

義についてはさらなる議論を進め、WPMN に報告する。

188

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5. OECD/WNT ( the Working Group of National Co-ordinators of the TGs programme)

5-1. 内分泌かく乱作用を評価するスクリーニング in vitro 試験法

(1) WNT30 WNT30(30th Meeting of the Working Group of the National Coordinators of the Test Guidelines

Programme)が 2018 年 4 月 24-27 日にパリ OECD ブローニュ支部会議場で開催された。以下にその概

要を記す(表 5-1)。

表 5-1 WNT30 の会議概要

GENERAL AND PROGRAMME-RELATED ISSUES

Item 1

議題1:議事次第(案)の採択 Late comment で OECD 事務局には、議題 15 の TG492 のあとに TG491 を議論する枠を設けるよう要求した。TG491 に関し Late comment を反映すること示されたことで、日本からは追加発言せずに承認。

Item 2

議題2:前回会合の議事要旨(案)の採択 異論なし、承認。

Item 3

議題3:2017 年 4月の前回WNT会合以降の進捗報告及びDefined Approach 現在進行中の PBTG for DA に米英提案の新しい 2 種類の IATA を追加することとなった。DA 受け入れの基準を明確にする必要がある旨の意見があった。 ICCVAM では human data project が進行中で DA の評価方法を検討し実施する予定。また、EPA で感作性評価の draft interim policy を公表、LLNA の in vitro での代替を可能にする。今後、PBTG for DA に従ってアップデートを予定。

Item 4

議題4:OECD テストガイドラインにおける知的財産問題に係るワークショップを踏まえた短期対策の進捗報告 試験系の特許の有無や細胞提供機関(公的バンクか企業かアカデミアか)に関係なく、細胞を提供する場合には通常 License agreement が必要であり、この場合の agreement には、特許の制限だけでなく、細胞の再改良、無断転用や論文投稿時の取り決めが含まれる。OECD websiteの更新が行われたとのこと。

Item 5

議題5:テストガイドライン採択過程:手続きの簡素化 (TG の新規策定、改訂の承認権限を理事会から JM に下げ、理事会には毎年 1回 JM から変更点を事後報告するという簡素化) TG は技術文書であり、簡略化することで短期間(最短 6 週間程度)で承認可能になるとのこと。歓迎すべきとコメントがあった。

Item 6

議題6:既存テストガイドラインに後発同等試験法を追加するための Annex 雛形 本議題の背景として TG492 (hCLAT) は、3 年連続で改訂している。今後もOECD 事務局が me-too 関連の業務にリソースを取られていることが想定されることから、事務局負担を軽減するための手続き変更を提案するもの。 TG には reference method があり、二法目からは PBTG となる。 その検証は簡略とすることを過去の WNT で合意。コメントラウンドは 1 回のみで可となる。 Streamlined process を提案。Step1-5 からなる。評価のための template を準

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Page 194: 平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外 …平成 30 年度化学物質安全対策 (ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規

備するとのこと。 • Step 1: the lead country(ies) take(s) care of organising the peer-review of

the validation; • Step 2: the lead country submits the outcome of the peer-review, the

documentation supporting the validation status, and a draft Annex completed with the information requested for the given me-too method.

• Step 3: the Secretariat organises a WNT commenting round on the draft Annex describing the me-too method for a period of 6 to 8 weeks (to be determined); and compiles comments received with the view to organise a discussion within the Expert Group;

• Step 4: the Expert Group meets (face-to-face to via teleconference) and discusses the main issues to resolve; a summary record of the discussion is made made available including agreement on revisions and responses to comments;

• Step 5: the The Secretariat prepares the final documents for submission to the WNT for approval at the annual meeting of the WNT.

重篤な健康影響を評価する試験法など、懸念されるエンドポイントも現状では

含まれるが、懸念する点を SPSF のフットノートに記載するということを提案。英国は日本の提案に同意。ステップ 0 に当たる SPSF には新法の利点(add value)等を記載する項目があり、新法を開発すべきかの判断に役立つ。

Item 7

議題7:テストガイドラインにおける任意測定エンドポイント[optional endpoint]の正当化理由、解釈、引き金 Option とする科学的根拠・理由が必要。Option とするもののいくつかはmandatoryとすべきものもあり、Option は減らす努力が必要。Optionとして項目を列挙することには多くの国が懸念を示した。今後、option に関するガイダンスを設ける必要がある。 また、コストに関する懸念も示された。

Item 8

議題8:慢性毒性試験における最高用量設定に係る初期討議 TK データは重要だが、TK データを基にトップドーズを決定すると、GHS 区分、内分泌影響の評価の点で conclusive にならず、問題との意見があった。

Item 9

議題9:混合物試験:テストガイドラインでの更なる明確化の必要性 TG における Mixture 評価可能性に関する記述について“When considering testing of mixtures, chemicals difficult to test (e.g. unstable), or test chemicals not clearly within the applicability domain described in this Guideline, upfront consideration should be given to whether the results of such testing will yield results that are meaningful scientifically.”という表現とすることで合意。

Item 10

議題 10: 分野の垣根を越え水平協力の促進法に係るガイダンス文書の開発 色々意見はあったが、とにかくやることで合意。

Item 11

議題 11: プログラムにかかった資源及び 2018 年~2019 年の業務プログラムの実施に必要な資源の概要 OECD TGP の業務に必要な資源と貢献の感謝と今後の期待を表明。

APPROVAL OF NEW AND UPDATED TEST GUIDELINES AND GUIDANCE DOCUMENTS

Series 200- Effects on Biotic organisms/ Documents on aquatic toxicity testing

Item 12 議題 12:試験困難物質の水層水棲生物毒性試験に係るガイダンス文書(GD23)改訂案

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承認。

Series 300- Environmental Fate and Behaviour

Item 13

議題 13: in vitro 魚類肝臓代謝に係る 2 種類の新規テストガイドライン案とガイダンス文書案

承認。

Series 400- Effects on Human health

Item 14

議題 14:TG438(ICE 法)及び GD160 の組織回収と病理評価に係る改訂案 改訂に伴い、参照物質として増加分の化学物質を含めたデータの WNT への開示及びサマリー(Streamlined summary doc)文書の改訂を要求。昨年の11 月の専門家会議では不明の状態であった。→既に開示していると反論。→結果的に承認。 コメント:方法に使われる材料は既に死亡した動物のものであり、TG に結果が材料の質に依存する可能性があることを記載する必要がある。

Item 15

議題 15:眼刺激可能性評価用 LabCyte 試験法付き TG492 改訂案 少数箇所の Editorial change で承認。

Item 16

議題 16:TG442D 改訂案:ケラチノサイト活性化に係る KE2 に着目した in vitro 皮膚感作性試験及びヒト由来血清を巡る問題 英国から human serum 等の人由来製品利用に関する論点を提供。動物愛護の関連で化粧品業界において動物由来製品を避ける動きがある。GIVMP では長期的には歓迎するが、現状では血清フリーは未達。人血清の利用が、solution になる可能性があるとの意見がある。そのためには包括的取り組みが必要。感作性専門家 G において TG442E で全ての Proficiency chemical で良好な結果を得たことを報告。使用する材料のヒトに対する健康面での影響を考慮してドナーの条件を提示。また、倫理的問題があることを紹介。サーベイを実施し、問題解決のため倫理チェックリストを作成しており、JM に向けて倫理問題に関する高次方針の決定を望むとの意見があった。本件に関しては否定的意見があり、今回の thoughtstarter を基に検討グループの形成を要求。ワークショップを開催することとなった。輸出国の option は輸入国の mandate になる。また、逆に将来的に FCS の仕様が禁止された場合、日本からの輸出の際はヒト血清の実験での仕様が mandate となる。日本としては血清の問題と TGは分けて承認を行うよう要求。 動物愛護と科学的根拠は分けるべきと発言したが、OECD 事務局も動物愛護の重要性を支持。ヒト血清を用いた同等性のデータは十分でなく、科学的根拠による受け入れは困難との指摘に関し、皮膚感作性エクスパートグループの議論により、科学的根拠は実証されているとの反論があった。議論は平行線のまま収集がつかない状況となったが、事務局の提案で以下の文章をTG Para 12に加えることで決着。 “However, it is recommended that the relevant regulatory authorities be consulted before decided on the type of serum to be used in the kelatinosens test method.”

Item 17

議題 17:TG442B (BrdU ELISA 又は FCM 法を用いた LLNA)改訂案 Late comment を反映させたもので承認。特にコメントなし。

Item 18

議題 18: 吸入毒性試験に係る GD39 改訂案

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英国:TG433 を GD に含めることの違和感を示し、多くの修正点があるとの理由で承認に否定的意見を提出。その他、いくつかの国から修正要求が出され、更なる議論との意見もあったが、気管内投与の記述はそのままで承認。

Item 19

議題 19:TG408 (90 日経口反復投与毒性試験)改訂案 日本の Late comment、その他、editorial Comment が示された。 10.の餌の選択に関する Comment があったが承認。

Item 20

議題 20:出生前発達毒性に係る TG414 改訂案 Editorial comment が示された。承認。

Item 21

議題 21: 標準化ガイドラインを用いた化学物質の内分泌攪乱作用の評価に係るガイダンス文書 150 の改訂案 TG458 に関する Comment 等はなし。集団影響に関する定義で議論白熱。

Item 22 ENV/JM/TG(2018)21

議題 22: in vitro 法優良規範に係る新ガイダンス文書案 p25 パラ 5 チェック(品質保証)体制に関しても必要、また人為的に生じる偽陰性に関しても言及すべき。これらの点は本文書とは切り離して記載しても可と発言。デンマークもこの発言を支持。 微修正して承認。

Item 23

議題 23:in vitro 法を含む OECD テストガイドラインの採用の進捗状況に関する中国からの発表 中国の化粧品に関する規制に関して紹介。皮膚刺激・腐食では 4 試験法を、眼刺激では 3 試験法、感作では LLNA:BrdU-ELISA、DPRA が化粧品の標準試験法となっている。また、国家、工業会、化粧品でそれぞれ標準法があり、OECD 法と対応を取っている。

Item 24 議題 24:昨日以降の承認要求文書のまとめ 各対象項目に追記。

Series 500- Biocide Efficacy

Item 25

議題 25:殺生物剤処理製品の有効性標榜の実証に使われる Tier-2 試験所実施試験法の開発と使用に係る新規ガイダンス文書案 特に異論はなく、承認。

Item 26 ENV/JM/TG 議題 26: 前回 WNT 会合以降の既存文書の訂正及びその他の対処 日本提出のガイドラインに修正点があった点について小島先生から遺憾の意を提示。その他、TG412 に関してもリード国から遺憾の意が示された。修正は承認。

NEW PROJECT PROPOSALS AND REVIEW OF WORKPLAN

Item 27

議題 27:新 SPSF ADRA のパテント問題に関しては現状では日本国内にのみ効力があるが、将来的には放棄する予定。将来的にDPRAと共にPBTGにするのかというCommentに関し、将来的に考慮する旨を発言。DPRA に関しては PS が存在しないため、フルバリデーションを実施する。 感作性 PBDA の TG に Lhsa の DA を加える提案は否決。ここでも血清の話が再燃したが英国の提案はペンディング。Labocyte の TG431 への適用の SPSF は承認。BCOP に組織学的評価を加え GHS2B を評価可能とする提案は承認。

Item 28 議題 28:作業計画上の他のプロジェクトの見直し及び更新

192

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施設間試験の遅れのため上記の試験法(日本提案の Project 2.57, 2.58)に遅れが出ていることを報告。同じく Project 4.123(Embryonic Stem Cell Test using HAND1 gene)の DRP に関するプロジェクトは遅れが出ていること及び4.123 のバリデーションレポートは来月完成する予定。UK の Project 4.94: IATA on Non-Genotoxic Carcinogens が進行中、専門家会議が 6 月に開催予定。

Item 29

議題 29:ナノ材料の安全性試験分野のプロジェクトのハイライト及び将来可能性のある SPSF への期待 OECD ではナノ製品の安全性評価法の開発を奨励しており、現在いくつかのプロジェクトが進行している。その中には水や媒体への溶解性評価法、表面修飾の同定法、 TG 442Dへのナノ材料の適用などがある。OECD website内に専用のページを開設している。

Item 30 議題 30:前日以降の承認要求文書のまとめ 関係箇所に追記。

Item 31

議題 31:AOP 開発プログラムに係るハイライト:AOP 外部レビュー過程への各国貢献の増加 レビュープロセスの紹介と協力要請が行われた。 リソースは限定されるため、priority 分野の選定が必要。皮膚感作の AOP はガイドライン作成に関する成功例。同様に priority 分野を決めて取り組むことに賛成意見が多く出された。甲状腺影響や非変異発がんなどの分野が preliminaryな意見として出されたが、本会議で特に特定の分野に方向性が示されることはなかった。Priority setting が最も重要な課題だが今後の宿題。

Item 32

議題 32:残留農薬の分野における成果と次のステップに関する最新情報 残留農薬の試験法の harmonization と新試験法開発促進のためのプロジェクト。この分野における OECD の現存 TG 及びこれまでの activity、今後の計画の紹介。

Item 33

議題 33:TG203 の改訂のための方針 この話題も背景には動物愛護がある。日本からはOption 1, 2共に好ましくないが、Option 1の個体識別は技術的に困難であり、どちらかといえばOption 2の方が望ましい旨を発言。結果的には多くの国が Option 1 に対して違和感を示した。意見は分かれている状態であり、Option 1.5 に当たるような手法の確立に向けて努力することとなった。英国は幸い新たな budget が期待できる状態であり、更なるデータ取得に努める。

Item 34

議題 34:in vitro 発達神経毒性アッセイ・バッテリーに係る進捗と次のステップ 欧州では 2005 年から発達神経毒代替法開発に関わる検討を実施しており、昨年ワークプランが WNT で承認された。ゴールは 2019 年までに GD の作成することである。Developmental Neurotoxicity Assays battery には in vitro IATA も含まれる。

Item 35 議題 35:その他事項 TG458 の問題に関して英国から日本の対応に関して感謝の意が示された。日本(武吉)からも英国の Comment 及び OECD 事務局の TG 存続の決定に関する謝意を示し、VMG での ARTA PBTG での協力を約束する旨発言した。ICAPO の急毒に関するサーベイに関する報告があり、日本を含む 20 カ国から回答があったことが報告された。スイスから将来的に RTgill-W1 細胞アッセイに関する SPSF を提出する予定があることを報告。日本から Me-too SPSF への重要影響を除外することに関する補足文書の追加について追加発言。

Item 36 議題 36:ビューローの更新 193

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異論なし。

Item 37 議題 37:会議の結論及び次回会合年月日 異論なし。 <参考> 次回 WNT は、2019 年 4 月 9 日~12 日の予定。

(2) 16th VMG-NA

VMG-NA(16th Meeting of the Validation Management Group for Non Animal Testing、第 16 回非動

物試験検証管理グループ会合)が 2018 年 11 月 7-8 日にソウル(韓国)ロッテホテルで開催された。以下

にその概要を記す。

Item 1. Opening of the meeting and adoption of the draft Agenda

Miriam Jacobs(英国)及び Warren Casey(米国)を議長とし会議を開始。議長及び事務局から会議への

参加と韓国のホスティングに関する謝意を表明。

議事承認。

Item 2. Introduction and welcome from Korea

韓国から会議の開催及び参加への参加に対する謝意、VMG-NA の取り組みの意義と重要性が示さ

れた。

Item 3. Update from the Secretariat

OECD 事務局から GD15 0 の update、Conceptual Framework(CF)Level 1 の Review、IATA 等に関

する報告。

標準的な ED 試験法に関して記載される GD150 が、2018 年 9 月に改訂された。

主な改訂点は検証済みの全ての TG が、収載されたこと、CF の改訂、IATA、異種間の外挿、複数の

MOA を持つ化合物などに関する記載の追加である。改訂後、8 週間で 1500 ダウンロードが行われてい

る。

Project 4.97 DRP on Retinoid System は現在、最終化が進行中で近い内に Comment ラウンドに入る

予定。

VMG-Eco 関係では Project 2.57 Juvenile Medaka anti-androgen screening assay (JP)では検証試験

の問題が議論され、追加の検証参加施設が必要となった。

その他のドラフトガイドラインに関しては以下のとおり。

Project 2.39 Xenopus embryonic thyroid signaling assay (XETA; FR)

1 回目の Comment ラウンド終了。1st WNT commenting round finalized, 問題点について対応した後、

2 回目の Comment ラウンドへ、2019 年の承認を目指す。–

194

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Project 2.46 Endocrine Active Substances Acting through ER using transgenic Zebrafish Embryos

(EASZY; FR)

検証試験第 2 段階が終了。

Project 2.58 Short-term Juvenile hormone activity screening assay using Daphnia magna (JP)

ストレスの影響と化合物の影響を区別するための検討を実施予定。•

Project 2.59 Development of Zebrafish Extended One Generation Reproduction test (ZEOGRT; DE)

Draft SOP が VMG-Eco で検討された。現時点では良好な結果が得られている。

Project 2.61 Rapid Androgen Disruption Animal Replacement Assay (RADAR, FR/UK)

検証での問題点に関して検討。最初の検証試験がまもなく開始予定。

その他、Conceptual Flamework の Level 1 項目に関し、Systemic review に関するガイドフレームワーク

を作製する試みや種間外挿に関するツールとしての SeqAPASS、ED に関する IATA、機械による Deep

learning によりデータの解釈を実施する試みが行われていることが報告された。

Item 4. Updates on new Korean BRET human ER, AR, and TR assays

Bioluminescence Resonance Energy Transfer (BRET) technology を用いた試験法に関する報告。手法

としては受容体結合を検出するもの。蛋白-蛋白相互作用(PPI)を検出する方法として FRET

(Fluoressence resonance Energy Transfer)があるが、BRET は受容体に nano luciferase を融合させた蛋

白と、同様に Halo-tag を融合させた蛋白を作製し、二者が会合したときの、化学発光の波長変化を検出

する方法。Traditional な受容体結合では RI 使用の問題や経済性の問題で開発を行っているとのこと。将

来的に SPSF を提出予定。

Item 5. Project 4.99. Update development of the validation study and draft Test Guideline for

the 22Rv1/MMTV-GR-KO ARTA assay

現在、PBTG への収載を目指して検証を実施中。結果は良好。11 月(12 月末に修正)に検証管理チ

ーム(SMT)に検証報告書を提出。その後、VMG での Review、OECD での Review を行う予定。細胞は

ATCC に寄託予定、ATCC への寄託の場合、遺伝子改変細胞は手間がかかるとのコメントあり。ピアレビ

ューをどのように実施するかに関しては現時点では No idea。

翌日(11/8)の朝、SMT による会議を実施することとなった。

Item 6. Project 4.73. Update on the validation study of the AR-CALUX method and update on

the ongoing development of PBTG to detect (anti-)androgenic substances

AR-CALUX を用いた ARTA は EU を中心に検証が進められている。

Antagonist assay には Specificity control を含む。Specificity control は細胞毒性による False positive

を除外する目的で使用される。これは異なる濃度の DHT スパイクに対してアンタゴニスト試験を実施し、

両者の反応差によって細胞毒性による反応か否かを判断するもの。移転性 6 化合物終了、再現性 20

化合物進行中、予測性 27 化合物終了。

195

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一部のラボでアンタゴニスト系の移転に問題があった。問題は実験器具の問題の可能性あり、また溶

解性の判断でラボ間の差異があり、その結果として in conclusive となった例がある。検証は終了に近づい

ている。

今後の予定は 12 月に draft validation report 提出、2 月に VMG Review、4 月に ESAC Review を経

て、6 月 OECD に TG、validation report、ESAC opinion 等を提出予定。Comment ラウンドは 6 月と 12 月

頃になる見込み。

TG 作成のためには、バリデーションパッケージ(EU 検証報告書+ESAC opinion, KOREA 検証報告

書、TG458 検証報告書)を揃える必要がある。

現在の TG458 に 2 法を追加する方向(TG442 のような形式)で、全体項目の追加、annex として変動

項目を追加する形式とする。現時点では PBTG でなく、3ARTAs として作成する計画。この点に関しては

来年の WNT で検討をおこない、この結論に従う。承認された場合は PS も不要となる。

Item 7. Update on the validation study of in vitro methods for thyroid disruption

EU が開発を行っている TR 関連の in vitro 試験。2012 年に OECD が TR に関する scorping paper を

発行。その中で検証を進める必要があると判断される 17 試験法に関する検証を EU-NETVAL のもとで 9

カ国、14 試験機関が関与して専門家グループを結成して、chemical 選定や試験法の評価を実施。

検証は Part 1(技術的評価、SOP 案の作成、施設間再現性の評価)、Part 2(信頼性評価)のステップ

からなる。

Item 8. Report on ongoing development of thyroid transactivation assay

A549 及び HeLa 細胞を親細胞として TH 応答配列を組み込んだ安定株を 2017 年に開発、2018 年に

25 化合物を用いてアッセイの至適化を実施。今後、2019 年春にプレバリデーション、秋にバリデーション

開始予定。2019 年に SPSF を提出予定。

Item 9. Update from Canada on a project investigating obesogens.

カナダでは EDC の生殖影響だけでなく、脂肪蓄積に関する影響(肥満誘発物質:Obestogen)に関し

て検討が行われている。化合物の脂肪産生に関する評価系の構築を進めており、いくつかの化合物

(PPARγアゴニスト、GC、TBT、BPA、など)で影響が報告されている。脂肪細胞の分化モデルとして

3T3-L1 細胞系を用いて、脂肪産生亢進遺伝子の発現、遺伝子産物の蛋白レベルの評価、表現系をみ

るもの。BPA 関連物質は脂肪細胞を刺激する報告が多数存在。また、ヒトの皮下脂肪組織から前駆細胞

を採取し、同様の検討も実施しており、同様に BPA-G には脂肪産生亢進作用を認めた。ICI(complete

ER antagonist)を加えることで BPA-G の脂肪産生亢進作用は抑制されたため、この作用は ER を介する

ことが示唆されるが、この化合物に estrogenic activity は認められていない。

SMT meeting for Korean ARTA

韓国の ARTA に関する SMT ミーティングを実施することとなった。EU と足並みを揃えるため、韓国の

ピアレビュー済の検証報告書は 6 月までに必要。その後、Validation Package (VP)を準備し、EU の系と共

196

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に TG 化に進む計画とする。

韓国は今年12月末までに検証報告書草案を準備。1月に電話会議を予定。ピアレビューをどのように

するかに関しては今後検討するが、NIFDS は海外の研究者に直接契約が出来ないため、一端、韓国の

研究者(大学等)に委託し、そこから海外へ委託することを検討。ピアレビューの委託先に関しては

KoCVAM 及び NC、OECD 事務局と調整、6 月までに TG も含め準備する計画とする。

Item 10. Follow up from day one

Item 11. Update from October ICATM meeting.

急毒 6 試験の撤回を進めるガイダンスを 20 年までに作成予定。農薬や化学物質の感作性を LLNA

から in vitro 試験(DPRA+kelatino+hCLAT)に置き換える案を検討。

ICATM では GD34 改訂に関する検討を実施、内容はアッセイパフォーマンスから relevance の分離、

ピアレビュー方針の再考(Reimaging)、参照化学物質(Reference chemical)による試験法の特徴付け等

に関するもの。

Item 12. Possible Guidance Document on Reference Chemical selection

In vitro 試験や計算化学による結果の検証に際し、複数のアッセイ系に渡って陽性、陰性結果の一致

性をみるための物質を選定する試みを実施している。特に EPA では何百ものアッセイ系を検討している

ために、このような試みが必要。そのための DB 構築、10000 ほどの Gene or protein ターゲットを整理し、

アッセイ系と関連付けている。これらを用いて 50 の分子標的に対してケーススタディーを実施。Toxcast

のデータも活用。

Item 13. Update on xenobiotic metabolism projects

In vitro 試験への 代謝系導入の 試み、代謝系は液相、細胞系の 二種類を検討。Alginate

Immobilization of Metabolic Enzymes (AIME)法はリアクターを固相に固定し、液相で化合物を代謝させる

手法では 8000 物質を試験。Chemically-modified mRNA Transfection 法は VM7 細胞に CYP mRNA を

導入し、化合物を代謝させる手法も検討。Toxcast library から 1800 物質程度を選定して試験予定。来年

の会議では結果を報告。

Item 14. Annotations of ToxCast endocrine assays following GD 211.

Toxcast で使用される試験法の定義に関する議題。試験法及び結果を整理するための DB の構造を

規定。OECD が示す OECD Test Method Descriptions(GD211)の要求にも準じた。OECD エキスパート

による Review も実施。現在、ToxCast assay の定義に関しては PDF(11,100 ページ)に纏められ Toxcast

HP から閲覧可能となっている。今後、アッセイの堅牢性、性能、データ許容基準、参照物質について取り

まとめを実施。

Item 15. Standardising ontologies for in vitro assays

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VMG-NA は、ガイダンス文書(GD)、AOP、GD211、GIVMT、QSAR ツールボックスの情報に記載され

ている in vitro 試験および生化学的メカニズムに使用される主要なオントロジーについてコンセンサスの

確立に関する提案。

Item 16. Discussion of Performance Based Standards

一般的な AOP は分子起点(molecular initiation event, MIE)から複数のキーイベント(KE)を介して有

害性へと続き、KE 毎にテストガイドラインを作成し、それらを組み合わせて Defined Approach(DA) を構成

する。ER 関連 AOP は複数報告されている。子宮増殖に関する AOP は EPA ER agonist pathway(受容体

結合→二量体形成→DNA 結合→転写→蛋白産生→増殖)からなり、それぞれに複数の in vitro 試験法

がある。子宮増殖試験が全行程をカバーするが、Endpoint が子宮増殖では Adverse effect にならないた

め、VMG-NA から ER アゴニズムに関する Partial AOP 及びこの AOP に関する試験法の特徴付けを行う

ための共通の参照物質リスト作成に関する SPSF を提案してはどうかという提案。前者は EGMST、後者の

みを VMG-NA で実施する方向で調整。

Item 17. IVIVE from in vitro ER model activity to in vivo lowest effect level.

複数の In vitro 試験で子宮増殖アッセイの結果を予測する試み。In vivo での用量、血中濃度(TK)と

in vitro 試験での培地中の濃度、影響に関して複数の Toxcast の結果を総合的に評価。その結果、ER に

関する in vitro 試験結果から正確に子宮増殖試験の lowest effect level を予測可能。

Item 18. Update on other recent activities and AOB

中国、広州で開催された第二回 Asian Congress(アジア代替法会議)に関する報告。500 に以上が参

加。18 人が plenary speakers として講演を実施した。その他、韓国代替法学会、日本動物実験代替法学

会の学術集会に関する紹介も行われた。

次年度の会議は秋にパリで開催予定。ARTA が主な議題になる。(日程は今後調整)

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• 添付資料 ナノ EHS および内分泌かく乱作用の月次報告を、

添付資料-1:ナノ EHS に関する国内外の安全情報及び規制動向月次報告

添付資料-2:米国及び EU における内分泌かく乱作用の規制動向月次報告

として添付する。

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