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1 E2F 標的遺伝子の発現および細胞増殖における ARID3A の役割 Khandakar A. S. M. Saadat 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面頸部機能再建学講座 分子発生学分野 (主任:井関祥子教授) Role of ARID3A in E2F target gene expression and cell growth Khandakar A. S. M. Saadat Section of Molecular Craniofacial Embryology, Department of Maxillofacial and Neck Reconstruction, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University Chief: Prof. ISEKI Sachiko原著 別刷の希望部数:50著者連絡先:[email protected] 113-8549 東京都文京区湯島1-5-45 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野

Role of ARID3A in E2F target gene expression and cell growth

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E2F標的遺伝子の発現および細胞増殖における ARID3Aの役割

Khandakar A. S. M. Saadat

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面頸部機能再建学講座

分子発生学分野

(主任:井関祥子教授)

Role of ARID3A in E2F target gene expression and cell growth

Khandakar A. S. M. Saadat

Section of Molecular Craniofacial Embryology, Department of Maxillofacial and Neck

Reconstruction, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and

Dental University

(Chief: Prof. ISEKI Sachiko)

原著

別刷の希望部数:50部

著者連絡先:[email protected]

〒113-8549 東京都文京区湯島1-5-45

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野

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英文抄録

ARID3A is a member of AT-rich interaction domain (ARID) family of DNA-binding

proteins. ARID3A was isolated as proteins binding to E2F1, and stimulates

transcription mediated by the E2F transcription factor that plays a central role in

regulating cell cycle progression. However, the function of ARID3A in E2F-target-gene

expression has not been fully understood.

METHODS: Gene-silencing and overexpression experiments were carried out using

siRNA and recombinant adenoviruses, respectively. E2F responsive gene expression

was measured by RT-PCR. Effects of ARID3A silencing on DNA synthesis and cell

growth were determined by EdU incorporation and colony formation assay,

respectively.

RESULTS: siRNA-mediated gene silencing of ARID3A blocked transcription of

E2F-target genes, such as E2F1, p107, CDC2 and CDC6 in normal human dermal

fibroblasts (NHDFs). Although adenoviral-mediated overexpression of ARID3A did not

up-regulate transcription of these E2F-target genes in quiescent NHDFs, E2F1

overexpression was unable to overcome the blockade of CDC6 expression by ARID3A

silencing. Furthermore, ARID3A silencing attenuated S phase entry of NHDFs, and

suppressed growth of human tumor cell lines.

CONCLUSION: These results indicate that ARID3A plays an important role(s) for

E2F-mediated transcriptional activation and cell growth.

3

(英文抄録の和訳分)

ARID3Aは、ARID(AT-rich interaction domain)ファミリーDNA結合タンパク質

のメンバーの一つである。ARID3Aは、E2F1と結合するタンパク質として同定さ

れ、細胞周期の進行に中心的な働きをする転写因子E2Fを介した転写を活性化す

る。しかしながら、E2F標的遺伝子の発現におけるARID3Aの働きについては不

明の点が残されている。

方法: 遺伝子の発現抑制および過剰発現実験は、それぞれ siRNAおよび組換

えアデノウイルスを用いておこなった。E2F標的遺伝子の発現は RT-PCR法を

用いて検出し、DNA合成および細胞増殖活性は、EdU取り込み法およびコロニ

ー形成法を用いて検討した。

結果:siRNAを用いた ARID3Aの遺伝子発現抑制によって、ヒト皮膚繊維芽細

胞(NHDFs)おける E2F標的遺伝子(E2F1, p107, CDC2 および CDC6)の発現

が抑制された。アデノウイルスを用いた ARID3Aの過剰発現によって静止期の

NHDFsにおける上記の E2F標的遺伝子の転写は上昇しなかった。しかしながら、

ARID3A siRNAによって抑制された CDC6の発現は、E2F1を過剰発現させても

回復しなかった。さらに、ARID3Aの発現抑制を抑制すると NHDFsは S期に入

らず、ヒト腫瘍細胞株の細胞増殖も抑制された。

結論:以上の結果は、ARID3Aは E2F標的遺伝子の発現と細胞増殖に重要な役

割を担っていることを示している。

4

I. 緒言

ARID (AT-rich interaction domain)ファミリータンパク質は、ARIDと呼ばれる種

間で非常に保存されたDNA結合領域をもっており、細胞分化、細胞増殖、クロ

マチン・リモデリングおよびエピジェネティックな制御など広範囲の生物学的

な現象に関与している1,2)。 ARID3ファミリータンパク質は、ARIDファミリー

のサブファミリーの一つで、3つの類似したタンパク質からなっている。すなわ

ち、ARID3A/DRIL1/E2FBP1/Bright (以後ARID3Aと呼ぶ) 3-5)、ARID3B/DRIL2/Bdp

(以後ARID3Bと呼ぶ) 6)および ARID3C/Brightlikeである7)。ARID3タンパク質は、

ARID DNA結合領域に加えてその外側にさらに保存されたeARID領域をもつ。さ

らにREKLESと呼ばれる複合体形成領域をもち、この領域を介して互いにヘテロ

複合体を形成することが報告されている8)。

ARID3Aは、細胞増殖制御と細胞癌化に関与していることが報告されている。

ARID3Aは、細胞周期の進行やDNA複製に必要な遺伝子を制御する転写因子

E2F9,10)の一つであるE2F1と結合するタンパク質として同定された4)。さらに

ARID3Aを過剰発現させると活性型RasV12癌遺伝子によって誘導されたマウス胎

児繊維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts, MEFs)における細胞老化が回復する

こと、またARID3AはRasV12と協同してMEFsを癌化することが報告されている11)。

しかしながら、E2Fを介して制御される遺伝子の発現および細胞周期進行におけ

るARID3Aの役割については詳細な報告がない。そこで本研究では、E2F標的遺

伝子の発現と細胞増殖におけるARID3Aの役割について検討をおこなった。

II. 材料と方法

1. 細胞培養

5

ヒト正常皮膚由来繊維芽細胞(human dermal fibroblasts, NHDFs、和光純薬社),

293A、U2OS, H1299細胞は、10%牛胎児血清を添加したDulbecco’s modified

Eagle’s medium (DMEM)を用い、5% CO2存在下37°Cで培養した。NHDFsを静止

期に誘導するために、0.1%牛胎児血清を含むDMEMで細胞を48時間培養し、そ

の後、10%牛胎児血清を添加したDMEMにより増殖刺激するか、あるいは未刺

激のままさらに24時間培養した。

2. プラスミドとトランスフェクション

pshARID3A-1については既に報告されている12)。ルシフェラーゼ遺伝子を標的

にしたコントロールのshRNA発現ベクター(CFF)は、タカラバイオ社から購入

した。細胞へのトランスフェクションは、Gene Juice transfection reagent (Merck

社)を用い、製品の取扱説明書にしたがっておこなった。

3. Small interfering RNA (siRNA)

ARID3A を標的とした2本鎖siRNA

(5′-AACAGAACUCCUGUGUACAUGAUGC-3′)(Invitrogen社)を用いた。陰性

対照として、MISSION siRNA(universal negative control、Sigma-Aldrich社)を用

いた。細胞へのsiRNAのトランスフェクションは、製品の取扱説明書にしたがっ

てLipofectamine RNAiMAX (Invitrogen社)を用いておこなった。

4. 組換えアデノウイルス

Ad-ARID3A, Ad-E2F1および Ad-conウイルスは、既に報告されている13,14)。組

換えアデノウイルスの増幅、精製および力価の測定については既に報告してい

る13)。ウイルスを文中に示したmultiplicity of infection (MOI)になるように20 mM

HEPES (pH 7.4)を添加した血清不含DMEMで希釈し、5分ごとに軽く撹拌しなが

ら1時間37°Cで細胞に感染させた。

5. 逆転写 (RT) –PCR

6

High Pure RNA Isolation Kit (Roche Applied Science社)を用いて全RNA を調整

した。相補DNA は、0.5 µg の全RNA からHigh Capacity RNA-to-cDNA kit

(Applied Biosystem社)を用いて合成した。RT-PCR は、GoTaq Hot Start Green

Master Mix (Promega社)を用い以下の条件でおこなった:初期変性;95°C 1分、

3 step PCR; 95 °C 40秒、55°C 40秒、73°C 10秒、最終伸張反応;72°C 3分。

サイクル数は、28(ARID3A)および30(E2F1, p107, Cdc2, Cdc6, GAPDH)であ

る。PCR 産物は、2%アガロースゲルで電気泳動し, 臭化エチジウムで染色した

後、UVトランスイルミネーターを用いて可視化した。RT-PCRに用いたプライ

マーの塩基配列を表1に示す。

6. 定量RT-PCR

定量 RT-PCRは、LightCycler 480 Probes Master kit (Roche Applied Science社)およ

び TaqMan Gene Expression Assays (CDC6:Hs00154374_m1、18S rRNA:

Hs03003631_g1) (Applied Biosystems社)を用い、遺伝子増幅装置(LightCycler 480、

Roche Applied Science社) を使用しておこなった。相対的なmRNAの発現量は、

18S rRNAの発現量でサンプル間の発現量を補正した後、2 (-∆∆CP) 法を用いて算

定した。

7. EdU (5-ethynyl-2'-deoxyuridine) 取り込み法

4チャンバーガラススライド(BD Falcon社)を用いて培養した細胞にsiRNAをト

ランスフェクションし、0.1% 牛胎児血清を添加した DMEM 中で 48時間培養

した。10% 牛胎児血清を添加した DMEMに培地交換して、さらに24時間培養

した。細胞を回収する4時間前に10 µM のEdU(Invitrogen社)を添加した。取り

込まれたEdUの検出とHoechst 33342染色は、Click-iT EdU Alexa Fluor 488 Imaging

Kit (Invitrogen社)を用いておこなった。1検体当たり、200個以上のHoechst 33342

陽性の細胞核を数えた。

7

8. コロニー形成法

コロニー形成法については既に報告している15)。その概略は、293A, U2OSお

よびH1299 細胞にshRNA発現ベクターをトランスフェクションし、 puromycin

(293A; 2.5 µg ml-1、U2OS; 2 µg ml-1、H1299; 3.5 µg ml-1) を添加し3週間培

養した。ギムザ染色液を用いてpuromycin耐性コロニーを染色した。

III. 結果

1.ARID3Aの発現抑制によるE2F標的遺伝子発現の抑制

E2F標的遺伝子発現におけるARID3Aの役割を明らかにするために、ARID3A

特異的siRNAを用いて検討した。増殖中のNHDFsに陰性対照あるいはARID3A特

異的siRNAを導入し、半定量RT-PCR法を用いてE2F標的遺伝子のRNA発現量を

解析した。その結果、ARID3Aの発現抑制によってE2F1、 p107、CDC2、およ

びCDC6 の発現が抑制された(図1-a)。

2.E2F標的遺伝子発現に対するARID3Aの過剰発現の効果

既にヒト胚性がん細胞やマウス胎仔繊維芽細胞において、ARID3AがE2Fを介

した転写を活性化することが報告されている4,11)。ヒト正常繊維芽細胞において、

ARID3Aの過剰発現がE2F標的遺伝子の転写を活性化するかどうかを検討するた

めに、血清飢餓により静止期に導入したNHDFsにARID3Aを発現する組換えアデ

ノウイルスを感染させた。感染後24時間に細胞を回収し、RT-PCR法を用いて

RNA発現量を解析した。しかしながら、解析したE2F標的遺伝子(E2F1、 p107、

CDC2、およびCDC6 )におけるRNA発現量の上昇は認められなかった(図1-b)。

また増殖中のNHDFsにARID3Aを過剰発現させてもE2F標的遺伝子の発現に変

化は認められなかった(未記載データ)。

8

3.E2F1によるCDC6の転写活性化におけるARID3Aの抑制効果

E2F標的遺伝子の転写活性化におけるARID3Aの役割をさらに確認するために、

ARID3Aのノックダウンによって抑制されたCDC6の発現が、E2Fファミリー転写

因子の一つであるE2F1の過剰発現によって回復するかどうかを検討した。

NHDFsにARID3Aあるいは陰性対照のsiRNAを導入し、48時間後にE2F1を発現す

るアデノウイルスを感染させた。血清飢餓条件下でさらに24時間培養し、CDC6

のRNA発現量を定量RT-PCR法を用いて解析した。その結果、E2F1を過剰発現し

てもARID3A siRNAによって抑制されたCDC6のmRNA発現はほとんど回復しな

いことが分かった(図1-c)。

4.ARID3Aの発現抑制によるDNA複製の抑制

E2Fの機能が、細胞周期の進行に必須であることから、以上の結果は、ARID3A

が、細胞周期の進行と細胞増殖に重要な役割を担っていることを示唆している。

その可能性を調べるため、ARID3A siRNAを導入した静止期のNHDFsに血清を添

加して細胞増殖を誘導した。血清刺激後、24時間後にEdU取り込み法を用いてS

期に入った細胞の数を算定した。その結果、陰性対照siRNAを導入した細胞のう

ち51%がEdU陽性であったのに対し、ARID3AのsiRNAを導入した細胞では、19%

に低下した(図2)。この結果は、ARID3Aの発現抑制によって、NHDFsの細胞周

期におけるS期への移行が抑制されたことを示している。

5.ARID3Aの発現抑制によるがん細胞の増殖抑制

細胞増殖におけるARID3Aの役割をさらに確認するため、ARID3Aに対する

shRNAを発現するベクターを3種類のがん細胞株に導入し、細胞増殖に対する長

期間のARID3A発現抑制効果をコロニー形成法にて検討した。ARID3Aに対する

shRNAの標的塩基配列は、上記の実験で用いたsiRNAとは異なる配列を用いた。

9

ヒト293A, U2OSおよびH1299細胞株にshRNA発現ベクターを導入した後、

puromycinを添加して3週間培養し、形成されたコロニーをギムザ染色した。ヒト

には存在しないルシフェラーゼ遺伝子に対するshRNA発現ベクターを陰性対照

として用いた。その結果、全ての細胞株においてARID3Aの発現抑制によってコ

ロニーの数が明らかに減少した(図3)。以上の結果は、ARID3Aが検討したがん

細胞株の細胞増殖に重要な働きをしていることを示している。

IV. 考察

ARID3Aは、細胞増殖制御と細胞癌化に関与していることが報告されている。

また、転写因子E2Fと結合し、E2Fの転写活性を上昇させることが示されている。

しかしながら、E2F標的遺伝子の転写における役割は詳しく調べられていなかっ

た。本研究でARID3A が、E2F標的遺伝子であるE2F1、 p107、CDC2、および

CDC6 の転写に重要な働きをしていることが明らかになった。しかしながら、

ARID3Aを過剰発現させても上記のE2F標的遺伝子の転写は活性化されなかった。

過去の研究でもARID3Aのみ単独で過剰発現させた場合には、E2Fを介した転写

の活性化に対して効果がないことが報告されている4,11)。本研究でE2F1と

ARID3Aの両方を過剰発現させることを試みたが、E2F1単独の場合と比べて、

ARID3Aを共発現させた場合に明らかな効果は認められなかった。本研究で用い

た組換えアデノウイルスを用いた遺伝子導入法の効率がよいため、E2F1単独で

十分に高い転写活性化がおきたためと考えられる。

ARID3Aは、ARID3と呼ばれるARIDのサブファミリーに属し、特異的なDNA配列に

結合することが知られている。ARID3A は、AT/ ATCに富んだDNA配列に結合す

ることが示されている5)。最近、細胞周期停止に関与するp21Waf1遺伝子のプロモ

ーター領域にARID3A結合配列が存在することが報告された12)。そこで同様の配

列をE2F標的遺伝子内で検索した結果、本研究で解析したE2F標的遺伝子の全て

10

においてARID3AのDNA結合配列と一致する配列を見出した(投稿中)。さらに

クロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて、ARID3AがARID3A結合配列にin vivo

で結合すること、また、その配列に変異を導入するとCDC2プロモーターの活性

が明らかに低下することを見出している(投稿中)。ARID3Aは、E2F1と結合す

ることが報告されている4)。したがって、ARID3AはE2Fとタンパク質同士で結合

するとともに、E2F標的遺伝子に結合することにより遺伝子の転写活性の制御に

関与していると考えられる。

最近、ARID3Aはp21Waf1遺伝子のプロモーター領域に結合し、がん抑制遺伝子

産物p53と協調的に働いてp53標的遺伝子の一つであるp21WAF1の転写活性化にお

いて重要な役割を担っていることが報告された12)。したがって、ARID3Aはp53

による細胞周期の停止とE2Fによる細胞周期の進行の相反する生命現象に関与

することが明らかになった。ARID3Aの発現量は、増殖刺激で大きな変化が認め

られないこと、E2Fとは異なりARID3Aを単独で過剰発現させてもE2F標的遺伝

子の活性化が認められないことなどから、ARID3Aの活性制御によって細胞周期

の進行と停止が制御されているとは考えにくい。詳細は不明であるが、ARID3A

は、細胞周期の進行と停止を制御するE2Fやp53が機能を発揮するために重要な

働きをしていると考えられる。E2FはRBタンパク質によってその転写活性が抑

制されることが知られている。RBは、p53と並んでヒト癌で高頻度に変異が見出

されている癌抑制遺伝子である。したがって、ARID3Aは、ヒトの癌抑制経路に

重要な遺伝子の発現調節において重要な働きをしている転写因子であると考え

られる。

V. 結論

本研究は、E2F を介した転写と細胞増殖における AT リッチ結合タンパク質

ARID3Aの役割を解析した。その結果、(1)siRNAを用いて ARID3Aの発現を

11

抑制すると E2F 標的遺伝子である E2F1、 p107、CDC2、および CDC6 の転写

が抑制された。(2)アデノウイルスベクターを用いて ARID3Aを過剰発現して

も E2F標的遺伝子の転写は活性化されなかった。(3)E2F1 を過剰発現しても

ARID3Aの抑制による CDC6の発現低下は回復しなかった。(4)siRNAを用い

て ARID3A の発現を抑制すると、NHDFs の S 期への移行が抑制された。(5)

shRNA発現ベクターを導入して ARID3Aの発現を抑制すると、ヒトがん細胞株

(293A, U2OS および H1299)の増殖が抑制された。 したがって、本研究の結

果は、ARID3A が E2F を介した転写と細胞増殖において重要な役割を担ってい

ることを示している。

謝辞

稿を終えるにあたり、本研究のご指導を賜った東京医科歯科大学大学院医歯

学総合研究科顎顔面頸部機能再建学講座分子発生学分野、井関祥子教授に謹ん

で感謝の念を表します。また、本研究の遂行に際し、終始ご助力、ご指導、ご

高閲を賜った東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面頸部機能再建学

講座分子発生学分野、池田正明准教授に深く感謝いたします。さらに本研究を

おこなうにあたり終始ご支援をいただいたWidya Lestari先生, Teng Ma先生,

Endrawan Pratama先生ならびに分子発生学分野の諸先生方に深く御礼申し上げ

ます。本研究の要旨の一部は、第34回日本分子生物学会年会および2nd Heidelberg

Forum for Young Life Scientists(ハイデルベルグ、ドイツ)において発表した。

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14

図表説明

図1

E2F標的遺伝子の転写活性化におけるARID3Aの発現抑制と過剰発現の効果。

a) 増殖中のNHDFsに陰性対照(con)およびARID3A特異的siRNAを導入し、

48時間後にRT-PCR法によりRNAの発現を解析した。対照としてGAPDHを

使用した。

b) 0.1%牛胎児血清を添加したDMEMで48時間培養し、NHDFsを静止期に移行

させた後、80 MOIの対照(con)あるいはARID3Aを発現するアデノウイル

スを感染させた。陽性対照として10%牛胎児血清添加DMEMで培養した細

胞を用いた。感染24時間後の半定量RT-PCRの結果を示す。対照として

GAPDHを使用した。

c) a)と同様にsiRNAを導入し、48時間後にE2F1を発現するアデノウイルスを

感染させた後、0.1%牛胎児血清添加DMEMで培養した。感染24時間後の転

写産物の発現量を定量RT-PCR法により測定した。データは、3回の測定

より得られた値の平均値 ± 標準偏差を表す。

図2

ARID3Aの発現抑制によるDNA合成の抑制

図1-aと同様にNHDFsにsiRNAを導入し、16時間後に0.1%牛胎児血清添加

DMEMに培地を交換した。48時間後に10%牛胎児血清添加DMEMに培地を交換

し、さらに24時間培養した。細胞を回収する4時間前にEdUを添加した。

a) EdUおよびHoechst 33342の蛍光顕微鏡写真を示す。

15

b) EdU取り込みの測定結果。それぞれの試料について200個以上の細胞核

(Hoechst 33342陽性)を算定した。データは、3回の独立した実験より得ら

れたEdU 陽性細胞の割合(%)の平均値 ± 標準偏差を表す。

図3

ARID3Aの発現抑制によるがん細胞株の増殖抑制

293A、U2OS、およびH1299細胞に

陰性対照のCFFあるいはARID3Aに特異的なshRNA発現ベクターを導入し、

puromycin存在下で3週間培養した後、ギムザ染色をおこなった。

a) ギムザ染色後の培養皿の写真。

b) H1299細胞におけるARID3Aの発現をRT-PCR法により解析した。対照として

GAPDHを用いた。

表 1 RT-RCRに用いたプライマー配列

遺伝子 塩基配列

ARID3A Forward 5’-CCACGGCGACTGGACTTA-3’

ARID3A Reverse 5’-GCTGAACAAGTCATCCAGGAAT-3’

E2F-1 Forward 5’-TCCAAGAACCACATCCAGTG-3’

E2F-1 Reverse 5’-CTGGGTCAACCCCTCAAG-3’

p107 Forward 5’-AGCCCTGGACGACTTTACTG-3’

p107 Reverse 5’-GAACATGCCAACCAGTGTGT-3’

CDC2 Forward 5’-TGGATCTGAAGAAATACTTGGATTCTA-3’

CDC2 Reverse 5’-CAATCCCCTGTAGGATTTGG-3’

CDC6 Forward 5’-TGTAAAAGCCCTGCCTCTCA-3’

CDC6 Reverse 5’-GACCATTCTCTTTCTTGCCTTG-3’

GAPDH Forward 5’-AGCCACATCGCTCAGACAC-3’

GAPDH Reverse 5’-GCCCAATACGACCAAATCC-3’