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96. 細菌病原性抑制ペプチド創薬
加藤 明宣
Key words:感染症,ネットワーク,コネクター,ペプチド,スモールRNA
近畿大学 農学部 バイオサイエンス学科分子生物学研究室
緒 言
近年, 多剤耐性菌の出現や院内感染症の問題が深刻化している. 現状維持では抗生物質が効かない時代の到来が危惧されるが, その一方で新規抗生物質の認可数は減少の一途である. この一因は, 従来の抗生物質・抗菌剤の創薬プロセスがもたらすリード化合物が飽和し, 新規抗菌剤が頭打ちに近づいていることに起因すると考えられる. それゆえ, 従来の創薬プロセスに従わない新しい抗菌剤創製プロセスの開発が必要不可欠である. そこで本研究において, 病原性細菌内で特定分子を標的とする内在性ペプチド(コネクター)の更なる探索と, それらを基にした新しい創薬プロセスの実現を目的とした.
方法および結果
1. 疎水性ペプチドをコードするシスアンチセンス RNA 細菌の情報伝達機構, 二成分制御系の多くは病原性調節に関わっている 1). サルモネラにおいて, 二成分制御系の PhoP/PhoQ を中心とした病原性調節ネットワークが特に発達している. 近, コネクターと呼ばれるクラスのペプチドが複数の二成分制御系間を繋ぎ, このネットワーク形成に重要な働きを担う事が明らかとなって来た 1-3). これまでに我々は, サルモネラにおいて二成分制御系の PhoP/PhoQ 系と PmrA/PmrB 系間で働くコネクター PmrD の分子機構を解明した 2) (図 1a). 低 Mg2+環境下では, PhoP/PhoQ系により活性化された PmrD はリン酸化型の PmrA とリン酸基依存的に相互作用することで PmrB による脱リン酸化から保護し, PmrA を活性型に保つ 2).
図 1. サルモネラにおけるリポポリサッカライド修飾遺伝子調節ネットワーク.
a. コネクター PmrD を介する PhoP/PhoQ から PmrA/PmrB への情報伝達.b. ペプチドをコードするアンチセンス RNA AsbB によるフィードバック調節.
上原記念生命科学財団研究報告集, 25 (2011)
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本研究では更に, PmrA/PmrB を中心とした細胞表層修飾ネットワークの詳細な調節機構を解析するため, サルモネラ・ゲノムから in silico による PmrA box モチーフ予測の結果, センサー pmrB 遺伝子の下流に新たなPmrA結合サイトが予測された(図 1b). DNase I フットプリンティングにより PmrA の予測サイトへの結合(図 2a), S1 マッピング(図 2b), ノーザン解析(図2c)により PmrA依存的スモールRNA, AsbB の存在が見出された 5).
図 2. PmrA依存的シスアンチセンス RNAの同定.
a. DNase I フットプリンティング. b. S1 マッピング. c. ノーザンブロッティング.
低 Mg2+, Fe3+環境下において, PhoP/PhoQ, PmrD, PmrA/PmrB により活性化された AsbB は, pmrCAB ポリシストロニック mRNA のうち pmrB mRNA レベルのみを 3’側から抑制することが明らかとなった(図 1b).また, AsbB RNA を発現出来ない変異株において, Fe3+に対する感受性を増す表現型が認められ, このスモール RNA内に疎水性のペプチドがコードされることを見出した(図 3).
図 3. AsbB にコードされる疎水性ペプチド.
サルモネラ細胞内で FLAG融合ペプチドを発現後,可溶性画分 (S) と膜画分 (M) を FLAG抗体により検出. このペプチドはサルモネラのリポポリサッカライド修飾酵素と相互作用し抑制する機能を有することが見出された.AsbB の転写に必要なPmrA結合サイトの変異と, このペプチドの開始コドン変異では, PmrA レギュロンの発現が異なるレベルで上昇したことから, 重複した PmrA/PmrB 系フィードバック調節機構の存在が示唆された. また, 近縁細菌において AsbB によるネットワークの繋ぎ替えが認められた 5).
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2. 新規コネクター様ペプチド RcsG と CacA の単離と解析 サルモネラにおいて, 莢膜多糖合成遺伝子(cps/wzc)調節に関わる RcsB/RcsC/YojN 系を構成的に活性化すると, その病原性が減弱することが知られている 6). そこでまず, RcsB/RcsC/YojN 系を活性化する新規コネクターの単離を試みた. wzc遺伝子に lacZ を融合させたレポーター株において small ORF ライブラリーを導入・高発現することで lacZ 発現を上昇させるクローン pKH1 を単離した. pKH1 が可溶性ペプチドをコードする ORF を含むことが予測され, その遺伝子を rcsG とした. RcsGによる wzc の活性化は RcsB 依存的であり, RcsC/YojN/RcsB リン酸リレーの関与が示唆された. また, 二成分制御系 CpxA/CpxR7)を活性化する新規調節因子 CacA を含む pWN1 が単離され(図 4a), CpxR/CpxA 依存的 cpxP 遺伝子の活性化が確認された(図 4b).
図 4. CpxR/CpxA を活性化する新規コネクター様因子 CacA の単離.
a. マッコンキープレートにおける CacA を含むクローン pWN1 の単離.b. CacA による CpxR/CpxA 依存的な cpxP 遺伝子発現活性化.(β-galactosidase activity)
3. ペプチド創薬に向けて 更に, コネクターを利用したペプチド薬の開発に向けた基礎的知見を得た. 細菌細胞内で発現させて溶菌を誘導するペプチドConnector-M を得た. また, これを高機能誘導体に磨き上げる課程として, 進化工学的 適化技術の開発が行われ, 優位なデータを得た.
考 察
本研究から, サルモネラの病原性調節ネットワークにおいて, 新たなペプチド因子が複数見付かった. 興味深いことに, これらの多くで, 近縁種間で高いアミノ酸置換率, 及び, このネットワーク進化への関与が認められた. 或は, スモールRNA として保持されたペプチドは, その進化を非中立的に加速させるのかも知れない 5). 今後, これらを利用した細菌病原性抑制ペプチド薬開発の更なる発展により, 新たなペプチド薬の実現が期待される.
共同研究者
本研究の共同研究者は, Section of Microbial Pathogenesis, Howard Hughes Medical Institute, Yale UniversitySchool of Medicine, Boyer Center for Molecular Medicine の Dr. Eduardo A. Groismanである.また,本稿を終えるにあたり,本研究をご支援いただいた上原記念生命科学財団に深謝申し上げます.
文 献
1) Kato, A. & Groisman, E. A. : The PhoQ/PhoP regulatory network of Salmonella enterica. “Bacterialsignal transduction: networks and drug targets.” Adv. Exp. Med. Biol., 631 : 7-21, 2008.
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2) Kato, A. & Groisman, E. A. : Connecting two-component regulatory systems by a protein thatprotects a response regulator from dephosphorylation by its cognate sensor. Genes Dev., 18 :2302-2313, 2004.
3) Kato, A., Mitrophanov, A. Y. & Groisman, E. A. : A connector of two-component regulatory systemspromotes signal amplification and persistence of expression. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104 :12063-12068, 2007.
4) Kato, A., Latifi, T. & Groisman, E. A. : Closing the loop: the PmrA/PmrB two-component systemnegatively controls expression of its posttranscriptional activator PmrD. Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A., 100 : 4706-4711, 2003.
5) Kato, A., Latifi, T. & Groisman, E. A. : Non-neutral evolution of a coding cis-antisense RNA thatshapes the lipopolysaccharide modification circuit. in preparation.
6) Mouslim, C., Delgado, M. & Groisman, E. A. : Activation of the RcsC/YojN/RcsB phosphorelay systemattenuates Salmonella virulence. Mol. Microbiol., 54 : 386-395, 2004.
7) Danese, P. N., Snyder, W. B., Cosma, C. L., Davis, L. J. & Silhavy, T. J. : The Cpx two-componentsignal transduction pathway of Escherichia coli regulates transcription of the gene specifying thestress-inducible periplasmic protease, DegP. Genes Dev., 9 : 387-398, 1995.
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