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『ウェブ進化論』編集者が見た デジタルマーケティングの過去・現在 株式会社アテナ・ブレインズ 福田恭子 20165171

『ウェブ進化論』編集者が見た デジタルマーケティングの過去・現在

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『ウェブ進化論』編集者が見た デジタルマーケティングの過去・現在

株式会社アテナ・ブレインズ 福田恭子

2016年5月17日

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自己紹介

1967年生まれ。

1990年-1998年 日本経済新聞社出版局(現・日本経済新聞出版社)にて書籍編集。 『サッチャー回顧録』、『新しい中世』(田中明彦著、サントリー学芸賞)、『空洞化を超えて』(関満博著、サントリー学芸賞)などの編集を担当。

1998年-2008年 筑摩書房にて書籍編集。『ワード・ポリティクス』(田中明彦著、読売・吉野作造賞)、『「世間」への旅』(阿部謹也著)、『長期停滞』(金子勝著)、『高校生のための哲学入門』(長谷川宏)、『ウェブ進化論』(梅田望夫著)などの編集を担当。

2008年-現在 株式会社アテナ・ブレインズを2008年に設立。以後、企業・組織・個人のメッセージ発信の支援(編集、コンテンツ作成、コンサルティング、出版支援)等、幅広いサービスを提供している。この間の2013年秋〜2014年春には、コンテンツマーケティングのスタートアップ、株式会社イノーバに参加。同社にてコンテンツ提供体制づくりやコンテンツ・ディレクションに携わる。

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今日のテーマ

1 はじめに

2 事例:『ウェブ進化論』

3『ウェブ進化論』以後:その後の10年の変化

4 終わりに(まとめ)

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はじめに

『ウェブ進化論』(梅田望夫著、ちくま新書、2006年2月)の刊行から10年余。 一種の社会現象ともなったこの本について、今日はマーケティングの観点からふりかえってみたい。

当時は、編集担当者として「よい本を生み出し、世に送り出す」ことに意識を注力しており、マーケティングを行っている、という意識はほとんどなかった。しかし、後知恵的にふりかえってみると、書籍における「デジタルマーケティング」の嚆矢であったともいえる。

そこで今日は、10年前のこの事例をふりかえりつつ、現代の書籍をめぐるデジタルマーケティングとの違いについても簡単に触れていきたい。

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はじめに

デジタルマーケティングのキーワード

この3つの特徴は、いずれも、ソーシャル時代(ソーシャルメディア全盛期、スマートフォンからソーシャルメディアにアクセス)に入り、顕在化。

双方向

プル型

一方的に流す広告やプレスリリースではない

プッシュ型(押しつけ)ではなく、ユーザー、読者からの主体的行動にもとづく

リアル(リアリティ) 匿名でなく実名、顔の見える「本人」が直接

奨めること。リアルタイム

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事例:『ウェブ進化論』

梅田望夫著『ウェブ進化論』を事例として取り上げる。(2006年2月7日刊、ちくま新書)

ウェブを日本で初めて真っ正面からとらえた書であり、経済や社会、知の世界をどう変えるのか、専門家以外の人にもわかる言葉で描き出した。 当時、ウェブについて否定的・懐疑的な見方が強い中、精緻な議論のもと、ウェブの可能性について肯定的にとらえて、20代〜30代の若者世代を中心に、圧倒的な支持を得た。ウェブ・ITを語る「共通言語」となり、世代間の橋渡しの役目も果たした。

初版は1万2000部と、ひそやかな始まり。 しかし、累計で39万500部(2016年3月現在)のベストセラーとなった。 6

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事例:『ウェブ進化論』

初版1万2000部の本が、 累計39万500部も売れたのは…

①作品の持つ力 本書は著者の17,8年間の思考の結晶 といえる作品。著者の筆力 。

②時代性 「時代の一歩先」を見据えての企画。

③マーケティング 現在からふりかえってみれば、ウェブを中心とする2006年当時最先端のマーケティング・プロモーションを行った。ソーシャル時代より前だが、「双方向」「プル型」「リアル」の特色を備えていた。 また、2006年当時は、「これまでものを書いて発表してこなかった、市井の賢人たち」がブログを書き始めた時期であり、それらの人々のブログやmixiでの言及(合わせて2万近く)が、本書の広がりや深まりを後押しした。

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渋谷ブックファースト(当時)総合1 位 2006年2月22日

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事例:『ウェブ進化論』 実際に何をやったのか・起きたこと(マーケティングの視点から)*青字はデジタル

発売1週間前より以前 発売1週間前〜前日

発売日(2月7日)

発売翌日(2月8日)−1週間後まで

発売後1週間より後

(A-1)タイトル検討(「Googleで空いているスペースをとる」) (A-2)「ネガティブな思考実験」=マーケティング戦略の方針決定(11月)

見本の宣伝用献本2/1 計120部(メディア、書評子、ブロガー&イベント関係者28名)

(B−2)ブロガーイベント(2月7日夜)

著者プログでPodcast公開(2/8)、Webメディアによるブロガーイベント記事アップ(2/8)、イベント参加ブロガーによるブログ(2/8〜)

新聞広告 2/15朝日,2/26日経が皮切り。当初は他の新刊と一緒。以後、5月にかけ、朝日、日経、読売等での単独全5、半5。 交通広告も。

(B-1)ブロガーイベント企画(11月〜12月、仕掛人は川崎裕一さん)

インタビュー収録(web)2媒体(2/2,4)

イベント関連以外のデジタルの書評・インタビュー(CNET 2/8他)

(C-2)イベント参加ブロガーのブログ記事リンク集(筑摩書房サイト2月中)、筑摩書房サイトでの著者インタビュー(3/17公開)

(C-1)著者Blogで発売告知(1/11) イベント参加者募集(1/12)

インタビュー収録(紙) 3媒体(2/2,4)

(D)読者によるブログやmixiでの言及(1年以上続き、推計2万近く)

新聞・雑誌の書評・著者インタビュー、著者執筆記事(1年後までに、紙媒体119件)

書評依頼とともにゲラ送付(新聞、雑誌計5誌の担当者宛)12月〜1月。羽生善治さんに帯を依頼。

アマゾンレビュー上がり始める

テレビ「サンデープロジェクト」田原総一朗(3/12)、「王様のブランチ」(ランク1 位、3/18)、テレビWBSに著者出演(4/7)

やったこと(セルの色なし)

起きたこと(黄緑色)

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事例:『ウェブ進化論』

刊行後10日後までの紀伊国屋パブラインでの客層分析。中高年が中心を占める当時の新書市場において、19-29歳が30.4%(30-49歳が49.1%)。若い世代が飛びついたことがわかる。仮に30-49歳の半分が30代とすると、19歳ー39歳が55%と、40歳未満が初期読者の過半を占めたことがわかる。(同じ期間の男女比は、男性77.0%対女性23.0%)

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読者像:76世代を核とする、20代〜30代が中心読者

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事例:『ウェブ進化論』

ジェフリー・ムーア『キャズム 2』(川又政治訳、翔泳社)のテクノロジー・ライフサイクル図(図1)より。

Innovators: 「技術志向」「斬新なものに強い関心」「正式にマーケティングを始める前に、すでに新製品を購入しているような人たち」 Early Adopters: 「自らの直感と先見性を拠り所」「ライフサイクルのかなりはやい時期に新製品を購入」 Early Majority: 「実用性を重んじる」「他社(他者)の導入事例を確認してから、その製品を購入しようとする」

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Innovators (革新者)

Early Adopters (先駆者、ビジョナリー)

Early Majority (実利主義者)

Late Majority

Laggards

『ウェブ進化論』の読者がどのように移り変わっていったかは、ジェフリー・ムーアのキャズム理論(ハイテク・マーケティングのモデル)が参考になる。

キャズム(深い溝):Early AdoptersとEarly Majorityの間の溝

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事例:『ウェブ進化論』

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最初の読者となったのは、著者梅田さんのブログのコア読者、とくにCNETブログ時代からの読者である、Tech業界の’76世代を中心とする、ウェブの最新の動きに感度の高い人たち。著者ブログでの事前刊行告知や、発売当日のイベントが効果的だったと推定される。推定=初版分1万2000部分。(著者のCNETブログの読者数などから推定)

Innovators (革新者)

Early Adopters (先駆者、ビジョナリー)

Early Majority

Late Majority

Laggards

発売まもなく読者となったのは、Tech業界に限らない先進的な人たち、世の中のトレンドに関心の高い層。著者ブログのほか、ネットメディアでの著者インタビュー記事や「最初の読者」のブログなどによって、本書の存在を知った人たち。読んだ人のかなり高い割合がブログやmixiに感想を書き、また、複数買って配るなど、なんらかの行動をとったと推定される。2刷(2/17)〜4刷(3/1)の計4万部程度に相当すると推定。

初期の読者ブログや、3/5日の日経、読売の書評をはじめ、4月初にかけて集中的に出た書評やインタビューを読んだ人たち。 3/13日には朝日に全5広告など広告出稿も増加。また田原総一朗が「サンデープロジェクト」で言及、著者テレビ(WBS)出演(4/7)もあった。刊行1か月の頃から重版ロットが大きくなり、書店に行き渡るようになったことも大きい。5刷(3/10)〜 12刷(5月)までの重版、計25万部程度に相当すると推定。以後も読者ブログは増え続けた。刊行1か月をすぎたあたりから「誰々に薦められて読んだ」という記述が増える。

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事例:『ウェブ進化論』

実際に何をやったのか・起きたこと(マーケティングの視点から)

■やったこと <刊行前>

(A- 1)タイトル決定(2005年11月) 複数案の中から、「ウェブ進化論+サブタイトル」に絞り、サブタイトルについては、中心読者と想定された76世代の方たちの意見も参考にして決定。

タイトルを「ウェブ進化論」に絞った際、ウェブ進化論とグーグルで検索して11件くらいしかでてこなかった。(グーグル上のスペースがまるごと空いている。この本がでれば、そのスペースを全部とれる。現在のSEOとは逆の発想) *2006年3月8日収録の「webちくま」インタビュー時点:「今では、180万件を超えるくらいヒットします」。 *2016年5月6日現在 39万9000件

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事例:『ウェブ進化論』

■やったこと <刊行前>

(A-2)「ネガティブな思考実験」=マーケティング戦略の方針決定(11月) この本に対して、どんな反論が出るか?を想定した思考実験。それをもとに、マーケティング戦略を練った(@クラウド上のグループで)。

例: ネット先進層=Innovator層に向けて、この本の価値を正しく伝えるために、著者のブログなどでどんなメッセージを発するべきかなどを検討。また、著者のメッセージが正しく伝わるようにするために、書評より著者インタビューを中心としたプロモーションを重視する戦略に。 Early Adopters層に向けては、著者ブログに加えて、エスタブリッシュ系ウェブメディアへの掲載が重要と位置づけ。

参謀役は、柴田尚樹さん(SearchMan co-founder 当時、東大工学部修士)

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事例:『ウェブ進化論』

■やったこと <刊行前>

(B)ブロガーイベント(2月7日)の企画と実践 仕掛人 川崎裕一さん(現・スマートニュース(株)執行役員、当時(株)はてな副社長)

登壇者:橋本大也さん、R30さん、徳力基彦さん、山岸広太郎さん、川崎さん、 梅田さん 「第一部 これからのメディアについて」 「第二部 これからのSNSとブログ」 ゲストブロガーとして、当時数千〜数万の読者を持つ人気ブロガー12名(その方々の多くが、のちにアントレプレナーとして活躍)を招待。 その他、特別ゲスト4名、著者Blogからの一般公募の当選者(7名)、ウェブメディア記者が参加(ITMedia、BBWatch、インプレス、計3名)

参加されたブロガーの方々のほとんど全員と、ウェブメディアの記者の方々が、翌日(2月8日)からブログでとりあげてくださり、また、翌日、著者のブログで、当日の音声録音をPodcast公開。推定1万ダウンロードされたという。イベントに関するブロガーの皆さんの記事については、まとめ記事として、筑摩書房サイトで紹介。

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事例:『ウェブ進化論』

■やったこと <刊行前>および<刊行後>

(C-1)著者のブログでの展開(刊行直前〜刊行後)

1/11 発売告知(目次紹介)、1/12 イベントの一般参加者募集 、1/30「あとがき」の一部紹介、2/8 前日のイベントのpodcast その後も、イベント関連や書評、ブログなどが出るたびに、それを著者ブログでリンクを張って紹介したり、ブックマークしたりした。(当時のはてなブックマークは、Innovator層に強い影響力があり、著者のブックマークをフォローしている層が多数いた)

(C-2)筑摩書房のウェブサイトでの展開 2/7のイベント後にブロガーのブログが上がりはじめると、それをまとめ記事として掲載。 著者の3月の来日時(3/8)には、筑摩・菊池社長(当時)らによる著者へのインタビューを行い、「webちくま」に3/17にアップ。

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事例:『ウェブ進化論』

■起きたこと 【リアル(紙)】 新聞、雑誌の書評・インタビュー(紙媒体の書評・パブリシティの数 刊行1年後までに、把握しているだけで119 )、テレビ(WBSへの著者出演、田原総一朗…)

【ウェブ(デジタル)】 (D)読者によるブログ、mixiへの書き込み 「そして06年、たくさんの読者によって、私の著作への感想がブログやミクシィの上で書かれ、それがリアルタイムでネット上に溢れる、という新しい事態に直面した。…(中略)…06年から08年にかけての一連の著作へのネット上の感想は累計二万五千件を超え、今も増え続けているのだが、それを読み、考えることに費やした私の時間も二千時間を遥かに超えてしまったのだった。」 (梅田望夫「シリコンバレーからの手紙139」『フォーサイト』2008年4月号、新潮社)

*実際、記録してあるブログやmixiだけでも、多いときは1日あたり30程度。

・アマゾンレビュー 2016年3月22日現在、303

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事例:『ウェブ進化論』

(D)読者によるブログ、mixiへの書き込み (つづき)

当時、あるメディアから担当編集者への取材に対して、メールで以下のように回答(2006年3月)

「ただ、そこから先はまったく予想外のことが起こりました。この本の持つ力によって、刊行後3週間がすぎた現段階でも、予想がつかないほどの広がりがでてきています。本書は、単なるネット社会論でなく、読んだ人に、「これからの大変化」を前提として、自分の仕事の仕方や生き方の見直しを迫るような訴求力のある本です。それゆえ、本を読んだ人たちから、自分の経験に引きつけてのブログ書評やmixiへの書き込みがネット上に溢れ始めました。また自分ひとりが読むために買うのでなく、「上司に読ませる」「親に読ませた」「子供に薦めた」「勉強会で配った」「社員全員に必読書と認定」というような声も数多く上がっています。 」

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事例:『ウェブ進化論』

(D)読者によるブログ、mixiへの書き込み (つづき)

つまるところ、この本を読んだ多くの人たちが、「自発的に」ブログやmixiにポジティブな書き込みを行い、その「小さな行為」が万の単位で集積されて、ベストセラー化(”キャズム”越え)への最も大きな力となった。 ・mixiでは、足あと(「Mochio」という足あとが残っていた!と、著者本人が出没することがさらに話題に)。「リアル(リアリティ)」 ・読者のブログ記事に著者がコメントをつけたり、著者による感想ブログのブックマークにより、「書いたことが著者に届いた」ということがまた感動を呼んだ。「双方向性」

・1万人が1万通りの読み方をしていることも、大きな発見だった。ひとつとして同じ感想はない。時として厳しい意見もあったが、著者、編集者が「個」に向き合うことが、次の作品を生む原動力となった。(それによって生まれたのが、著者の次の書き下ろし、『ウェブ時代をゆく』)

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『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化

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書籍をめぐるデジタルマーケティングは、『ウェブ進化論』以後の10年で、2つの点から大きく変わったように見える。

①ブログからソーシャルメディアへ

②編集者が「黒子」から「なかのひと」として表に出る時代へ

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『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化

①ブログからソーシャルメディアへ

その後の10年(2006年→2016年)で ・全般的傾向としては、ブログからソーシャルメディアへ。

*『ウェブ進化論』当時:平成23年版情報通信白書によると、アクティブブログ数(1か月のうちの更新のあったブログ)が平成16年(2004年)から18年(2006年)にかけて急激に増加。2010年までの間のピークは2006年4月-5月の325万ブログ。

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc213120.html また。総務省によると、2006年3月末時点でのSNS登録者数は運営会社21社で716万人。一人で複数に登録している人も含まれる。2006年5月時点で、mixiの登録者数は400万人超。(2006年5月23日読売新聞夕刊)

・Twitter は日本では2008年頃から普及。 ・Facebook は日本では2008年頃に普及しはじめたが、2011年、映画「ソーシャルネットワーク」公開を機に一気に広がった。Facebookはリアルで知っているつながりをベースとした実名のメディアであることに特徴。 ・ソーシャルメディアの隆盛は、スマートフォンの広がりと軌を一にしている。iPhone発売2007年。(ソーシャル/モバイル時代へ)

→書籍のデジタルマーケティングもソーシャルメディア重視にシフト

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『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化

①ブログからソーシャルメディアへ 総務省の平成27年(2015年)版ICT白書によれば、「最近約1年以内に利用した経験のあるSNSを尋ねたところ、LINE(37.5%) 、Facebook(35.3%)、Twitter(31.0%)の順」「実名利用率(全利用者数に対する実名利用者数の比率)が高かったのはFacebook(84.8%)、LINE(62.8%)であり、低かったのはmixi(21.6%)、Twitter(23.5%)」「全般に年代が高くなるほど利用率が下がる傾向にあるが、Facebookについては20代以下で約5割、30代と40代で4割弱、60代以上でも2割以上の人が利用(50代:30.8%)」 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242220.html

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『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化

②編集者が「黒子」から「なかのひと」として表に出る時代へ 例 日経BP社 中川ヒロミさん ソーシャルメディアを駆使したマーケティングプロモーションを実践して、立て続けにベストセラーを生み出している。 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』2010年7月刊 29万部 『フェイズブック 若き天才の野望』2011年1月刊 10万部

Facebookでは、中川さんの周りにとても質のいいコミュニティが形づくられている。スタートアップ界隈、TechCrunchなどウェブメディア界隈の、影響力のある方々を多くフレンドに持つ。 何より中川さん自身が愛されるキャラクターで、その投稿には、つい「いいね!」したくなってしまう。 22

Page 23: 『ウェブ進化論』編集者が見た デジタルマーケティングの過去・現在

『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化 ②編集者が「黒子」から「なかのひと」として表に出る時代へ 中川さんの最近の仕事、 ベン・ホロウィッツ『ハード・シングス』(滑川海彦・高橋信夫 訳/小澤隆生 序文) 2015年4月17日刊行。 紙版 5万部、 電子版 1万部を超える。(2016年3月4日時点)

この本がどのくらい売れるのか、外からみて、実はちょっと疑問だった。著者の知名度、スタートアップ文化の日本とシリコンバレーの違い…。

しかし、作品の持つ力と中川さんの卓抜なデジタルマーケティングによりベストセラーに!「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶ ベスト経営書2015」で第一位。 「ビジネス書大賞2016」。

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『ウェブ進化論』以後:その後の10年での変化

5月29日のFB投稿。 「『HARD THINGS』を並べてくださっている、書店さんに改めて感謝。ベンちゃん東京来て〜。」

https://medium.com/@hirominakagawa/japanese-version-of-the-hard-thing-about-hard-things-is-ultra-best-selling-book-in-japan-the-book-1f94573cc211#.u7x2y01rh

2015年 5月27日

Medium

Twitter 5月28日

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②編集者が「黒子」から「なかのひと」として表に出る時代へ

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『ウェブ進化論』以後: その後の10年での変化

「ベンの心を動かしたのも、読者の皆さんの熱い思いだなあ」としみじみ思います。」 2015年9月11日のFB投稿。

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②編集者が「黒子」から「なかのひと」として表に出る時代へ

中川さん談

◆電子版が売れている理由 「電子版が売れている理由としては、紙が売れていること、対象読者が電子書籍に抵抗が低いIT関係の人が多いことが最大かなと思います。また、IT関係の人が多く読むと、ブログやSNSで感想を書いてくれるので、そこからネットですぐに買える電子書籍が売れるという循環はありそうです。 また、弊社は基本的に電子書籍でも値下げせずに販売されているケースが多いのですが、ストアのポイントキャンペーンなどがあると売上が伸びます」

◆(紙も含めて)売れている理由 「あとは個人的には、「オレのHARD THINGS」というように読者がタイトルを一般用語のように使って、ブログを書いたりSNSで書いたりという動きが増えていて、これが部数を伸ばしているように思います」

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終わりに(まとめ)

1)本の最初の読者、初期読者、中期読者はそれぞれ異なる志向を持つので、それぞれ違うアプローチの仕方が必要になる。とくに、先進的なテーマの書籍の初期読者に対してはデジタルマーケティングは効果的。

2)ソーシャル時代は編集者の役割がかわる。

・ソーシャル時代の現在、編集者がマーケティングするか、著者自身がマーケティングするか、その両方か。そのどれかしかない。 ・そこにおいては、「双方向性」「プル型」「リアル=編集者・著者本人」が重要。 ・ソーシャルマーケティングにおいては、読者との細やかな対話が重要であり、それが強い共感を呼ぶ。 ・読者にとって心地よいプラットフォーム(ブログ、Twitter、Facebook、LINE、Instagram…)は時代によって、世代によって、つぎつぎと変わっていくことにも注意が必要。

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終わりに(まとめ)

3)編集者はマーケティングマインドを持たなければならない。ただし、編集者の根幹を忘れてはいけない。

・編集者の根幹とは、時代感覚を研ぎすまして面白いテーマを見つけ、良い書き手(原石)を発掘し、著者と二人三脚で良い作品に仕上げていくこと。 ・前に挙げた①「作品の持つ力」がなくては、③「マーケティング」だけ行っても伸びていかない。読んだ人が本当に心が動かされないかぎり、ブログやSNSに書いたり、他の人に薦めたり、複数買って配ったりなどはしない。 ②「時代性」がなければ、新聞・雑誌・テレビなどのメディアもとりあげることがないし、読者が「今読まなければ」という気持ちにならない。

『ハード・シングス』も、編集者・中川さんの時代感覚、原石(面白い原著、原著者)の発掘、日本の読者に合わせた仕立て(例:最適な翻訳者、序文の付与)がまず初めにあったため、マーケティングが功を奏した。

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ご清聴ありがとうございました。

Athena Brains Inc.

http://athenabrains.com/

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