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http://www.***.net ゲーム産業成長の鍵としての 自主制作文化 七邊信重

博士論文「ゲーム産業成長の鍵としての自主制作文化」発表資料

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ゲーム産業成長の鍵としての自主制作文化

七邊信重

問題意識 日本の家庭用ゲームの地位低下(1997年~)

本研究の仮説

「日本の家庭用ゲーム産業の停滞原因は、新しい人材、作品、表現を生み出す、自主制作の場とのつながりが弱まったためではないか?」

高額の制作費がかかる家庭用ゲーム産業では、売れることが見込める、過去の人気作を模倣した作品が作られやすい。一方、新しい発想の作品は登場しにくい。

ユーザーにあきられないためには、新しい発想、人材を、常に取り入れてくる必要。そのため、自主制作場から生まれる新しい人材、発想、表現に注目することが重要。

出口、小山(2009):日本の強みは、自主制作者と産業の近さ。ただし、家庭用ゲームだけ異なる。

参考:世界市場販売本数(単位:本数) (上:2006年、下:2012年)

1 New Super Mario Bros. (DS) Nintendo 8,001,2402 Nintendogs (DS) Nintendo 6,635,0613 Brain Age: Train Your Brain in Minutes a Day (DS) Nintendo 5,039,1424 Animal Crossing: Wild World (DS) Nintendo 4,676,4845 Pokemon Diamond / Pearl Version (DS) Nintendo 4,473,6926 Brain Age 2: More Training in Minutes a Day (DS) Nintendo 3,410,0557 Mario Kart DS (DS) Nintendo 3,263,5468 Gears of War (X360) Microsoft 2,973,2669 Wii Sports (Wii) Nintendo 2,565,015

10 Big Brain Academy (DS) Nintendo 1,822,725

1 Call of Duty: Black Ops II (X360) Activision 10,862,8002 Call of Duty: Black Ops II (PS3) Activision 8,855,9653 Halo 4 (X360) Microsoft Game Studios 7,344,2424 Pokemon Black / White Version 2 (DS) Nintendo 6,032,3115 FIFA Soccer 13 (PS3) Electronic Arts 5,598,0826 New Super Mario Bros. 2 (3DS) Nintendo 5,042,2147 Just Dance 4 (Wii) Ubisoft 4,721,9698 Kinect Adventures! (X360) Microsoft Game Studios 4,565,2009 Assassin's Creed III (PS3) Ubisoft 4,379,420

10 FIFA Soccer 13 (X360) Electronic Arts 4,078,927

参考:地域別家庭用ゲーム市場規模推移(単位:億円)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

日本

北米

欧州

研究の目的

次の二つを探究

第Ⅱ部: 「日本の家庭用ゲーム産業の停滞」の原因の一つが、自主制作場とのつながりの低下にあることを示す。

第Ⅲ部: 産業と自主制作場とのつながりを回復するための手段を示す。

回復の道の一つが、自主制作場の課題を把握し、産業や中間集団が課題解決策を実行すること。

– 自主制作文化・・・作りたいゲームを自主的に作る人々の世界

– 自律制作市場・・・自主制作物の売上で生計を立てる人々の世界や市場

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

6

全体の構成

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

7

全体の構成

自主制作に関する産業論

トインビー「プロト市場」

経済の論理だけでは説明できない音楽生産の場

非経済的動機で音楽が制作される場

ウエストコット「クラフト」

プロト市場をさらに二つに分類する視点を提示

クラフト:制作自体を楽しみ、経済的利益を求めない

インディーズ:名声・金銭の獲得、生計を立てることに関心

出口・小山ら「多様性と経済的持続性」

多様性(ニッチな作品)と経済的持続性は対立

日本:多様な評価軸を持つ成熟した消費者が、両者を両立させる

分析枠組:三つの制作場

具体的事例 同人文化 インディーズ 家庭用ゲーム産業

動機 非経済的(楽しさ・交流)  非経済的(評価)、経済的 経済的

制作規模 小規模 中規模 大規模

流通規模 小規模 中規模 大規模

作品内容 実験的 実験的・保守的 保守的

作品の多様性 多様性(大) 多様性(中) 多様性(小)

経済的持続性 持続性(小) 持続性(中) 持続性(大)

自主制作文化

自律制作市場

産業

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

10

全体の構成

第2章 日本の制作場のつながりの歴史

成立期:1970年代後半~80年代後半

自主制作文化から作品・人材・企業が輩出

停滞期:1990年代前半~半ば

制作環境の変化、トップ制作者が産業にスカウト→制作者が離れ、交流も少なくなる

復活期/自律期:1990年代後半~

自主制作場が成熟

オリジナル人気作が登場、自律制作者の誕生

家庭用ゲーム産業と自主制作場のつながり低下

産業は支援せず、むしろ規制。人材移動も減少

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

12

全体の構成

第3章:調査方法・データソース

Web調査

ゲーム自主制作者の全体像の把握

コミケット調査

同人誌即売会で完成度が高いゲームを発表・販売している制作者の把握

コミケット35周年調査(2010年夏)

コミケット30周年調査(2004年夏) ※参考

聞き取り調査

自主制作者の生態をより深く把握

動的ゲーム制作者:39名25サークル

静的ゲーム制作者:37名28サークル

自主制作者の属性・規模

自主制作者の属性(Web調査)

技術習得先:学校でなく、自主制作文化で学習

独学:42%、教本:21%、雑誌:18%、学校:16%

制作経験率:13%(マンガ14%、小説23%)

定期的に制作:1.3% (マンガ:2.6%、小説:4.7%)

発表先:家族・友人4割、未発表4割、イベント1割

同人制作者の属性(コミケット調査)

コミケットサークルに占める割合: 3%

マンガ:2万2,000 ゲーム:1,200

職業は多様

正社員:31%、学生:15%、ゲーム制作:7%

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

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全体の構成

米国のゲーム産業

日本との共通点:文化から産業が誕生

日本との相違点:三つの場で持続的つながり

90年代:ゲーム改造・パロディ制作を許可

00年代:ゲーム制作・流通環境を提供

制作ツールを使って学んだ人材が、産業の担い手に

ユーザーが自主制作を経験しているため、ニッチゲームへの理解が深い

尖った作品、実験的表現と、ニッチゲームの売上で持続的に生計を立てられる層が分厚く誕生。

新しい発想・表現・人材が生まれる自主制作の場を支援することで、ゲーム産業の課題である保守化を克服

ここまでのまとめ(第Ⅱ部)

本研究の仮説(自主制作場とのつながりが弱くなると、産業が衰退)はほぼ確認された。

日本: つながりが弱くなった1990年代後半以降、家庭用ゲーム産業は停滞(2章)

似たような作品を作り続け魅力を失う

米国: つながりが強化された1990年代後半以降、ゲーム産業は成長(4章)

自主制作場を支援し、新しい発想、作品、人材を得る。

潜在的自主制作者は多いが、持続的に制作している者、外部に発表している者は少ない(3章)

持続的な制作や発表を阻害する要因がある(第Ⅲ部)

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

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全体の構成

第5章 自主制作を生み出すもの

動機づけ

経済的報酬:金銭

非経済的報酬:制作自体の楽しさ、交流、評価

規範(制作者に期待される行動)

非経済的報酬の追求の強い肯定

経済的報酬の直接的追求の批判

自主制作物で生計を立てることも批判

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

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全体の構成

多様で独創的なオリジナル作品の制作の要因

家庭用ゲーム

大規模開発、損益分岐点高め(1~10億円)

多数ユーザーに訴求する保守的な大量生産品

自主制作ゲーム

小規模開発、損益分岐点低め

制作者と少数ユーザーのニーズを満たす、多様で、尖ったニッチなデザインの作品

制作者の生活世界の事柄や想像・空想を対象とする多種多様な独創的物語世界が発表される

同人流通の大きさを背景に、作りたいものを作ることと、持続的に生計を立てることを両立する制作者が登場

制作と交流・競争による人材育成と資本形成

自主制作ゲーム(同人ゲーム)

パッケージ、レーベルデザイン、プレスされ、商業ゲームと見分けがつかない。

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

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全体の構成

自主制作ゲームの流通

コンテンツの同人流通

「同人誌」即売会と小売店を経由する流通

自主制作文化・自律制作市場を支える全国規模のプラットフォーム

自主制作ゲームの流通

「同人誌」即売会・小売店でゲームも販売

ゲーム系小売店に「目利き」店員が多い

無名だが面白い作品が見いだされ、プッシュされることで、大ヒット作に

商業流通並に機能

小売店(同人ショップ)

虎の穴、メロンブックス、メッセサンオー、ホワイトキャ

ンバスなどが秋葉原だけでなく全国に展開。

制作・消費・流通の課題

制作:動機づけになる非経済的報酬を得にくい

人数・時間がかかる→制作・完成の楽しさの不足

完成できず、発表先がない→交流・評価の不足

消費:成熟ユーザーの減少

制作経験のある成熟ユーザーが減少。一部ゲームに人気集中。

流通:ゲーム流通の縮小と規範の制約

ゲーム系小売店倒産、目利き店員の減少

自主制作物の売上で生計を立てることの批判

同人誌即売会には法人は参加できない。

ここまでのまとめ(第Ⅲ部)

自主制作の場の特徴

非経済的動機づけと、それを尊ぶ規範(5章)

独自な制作スタイルと、尖った作品(6章)

同人流通の全国化、商業流通並の大きさに(7章)

課題も明確に

制作:非経済的報酬の獲得の困難

消費:成熟ユーザーの減少

流通:ゲーム系流通の縮小、生計維持の否定

自主制作文化・自律制作市場 家庭用ゲーム産業

第2章

国内のつながりの歴史

第1章 分析概念

第5章

自主制作場を生み出すもの

動機づけ・規範

課題:動機づけの不足

第7章

作品流通プラットフォーム

課題:流通縮小と規範

第6章

自主制作場が生み出すもの

制作スタイル・作品

課題:成熟ユーザー減少

第3章

自主制作者の現在

第4章

米国産業、日本PC産業との比較

第8章

自主制作文化・自律制作市場の拡大支援策

終章

研究のまとめ、意義、展望

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全体の構成(8章を追加)

即売会・交流会の少なさ

ゲーム系小売店の少なさ

動機づけの不足

制作期間の長さ

交流・評価・金銭の少なさ

成熟ユーザ・制作者減少

素材の多さ

集団制作

自主制作文化の拡大抑制

完成に時間かかるか失敗 発表できる作品の少なさ

自主制作文化の規範

同人・商業流通併用不可

産業制作・流通支援なし

ニッチゲームが売れない

経済的持続性の困難

自律制作市場の拡大抑制

完成の喜びを得られない

目利き店員の減少

法人の即売会参加×

家庭用ゲーム産業の停滞

商業流通の小ささ

ゲームは作るものでない

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自主制作場の拡大の抑制要因

自主制作文化の拡大の抑制要因

①動機づけの不足

②交流機会の少なさ

③制作者予備軍の減少

自律制作市場の拡大の抑制要因

③成熟ユーザーの減少

④同人流通の縮小と商業流通の小ささ、両流通の併用の難しさ

⑤家庭用ゲーム産業の制作・流通支援の乏しさ

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自主制作場の拡大のための支援策 産業と中間集団が支援

自主制作文化の拡大のための支援策

「制作のマネジメント知識」の提供(①)

目的共有、成員管理、貢献意欲向上、コミュニケーション

制作者・ユーザー間の交流・評価機会の増加(②)

自律制作市場の拡大のための支援策

「生計維持のマネジメント」知識の提供(①)

成熟ユーザーの増加(制作者との交流)(②③)

即売会についての新しい制度的仕組み(②④)

産業による制作・流通環境の提供(⑤)

産業と自主制作者の交流(⑤) 31

本研究の貢献と今後の課題

産業論への貢献

産業拡大に、「産業の外」にある自主制作場とのつながりが重要であることを指摘

人材育成、成熟ユーザー育成、イノベーション創出といった機能などを解明

非経済的報酬が制作の動機づけであることを指摘

文化研究への貢献

文化と産業の間にある「対立」以外の「移動」「相互依存」などの関係を指摘。また分析概念を提示

今後の課題

多様性と経済的持続性の両立条件(マンガ、音楽)