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20min.ここからの第2部後半では、Green OAGold OAについて取り上げます。 まず話題提供として、主に雑誌論文に関係する、オープンアクセスをめぐる最近の動 向について、少しおさらいをして、この後のご講演とパネルディスカッションにつなげた いと思います。 1

20131029_DRF10_オープンアクセスをめぐる最近の動き

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DRF10:第10回DRF全国ワークショップ(2013年10月29日開催)第2部での発表原稿です。 なお、スライドはDRF10のWebページ(http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?DRF10)にて公開。

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(20min.)

ここからの第2部後半では、Green OAとGold OAについて取り上げます。

まず話題提供として、主に雑誌論文に関係する、オープンアクセスをめぐる最近の動向について、少しおさらいをして、この後のご講演とパネルディスカッションにつなげたいと思います。

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昨年11月に開催したDRF9から約1年の間に、各地でオープンアクセスをめぐる様々な動きがありました。

その根底にあるのは、オープンアクセスを「どのようにして」最適に実現するか、ということです。

一方で、急速なオープンアクセス化に対する懸念や、依然としたオープンアクセスに対する誤解を認識させるできごともありました。

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はじめに、オープンアクセスに関するいくつかの数字を見てみたいと思います。

2012年12月に発表されたSTM Report 2012では、2011年に出版されたSTM分野の論文約180万本について、それらがどのような比率でオープンアクセスになっているかを概算した数字をスライドのように示しています。

===memo

http://www.stm‐assoc.org/2012_12_11_STM_Report_2012.pdfcf.) STM分野全雑誌(約28,100タイトル)中、OA誌は28%*IRはSTM論文以外も含

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一方、今年の8月に発表された、Science-Metrix社によるレポートによると、2004年から2011年の間に22分野で刊行された学術論文の利用可能性について調査したところ、2011年の論文については、半数がオンラインで無料で利用できる状態だと

し、従来主張されてきたよりもオープンアクセスは進んでおり、国や分野によっては転換点に達しているとしています。

これは、エンバーゴを経たのちに公開されたものが数字を上げていること、先行調査との手法等の違い、契約条項に反して公開されているものも除外せずにカウントしていること、等も考慮に入れる必要がありますが、少なくとも昨今のオープンアクセスの進展を示す上でインパクトのある数字だとは言えると思います。

===memo

http://current.ndl.go.jp/node/24227Proportion of Open Access Peer-Reviewed Papers at the European and World Levels—2004-2011 http://www.science-metrix.com/pdf/SM_EC_OA_Availability_2004-2011.pdf

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また、今年5月にWileyが論文著者に対して行ったアンケート調査結果によると、過去3年間にオープンアクセス出版の経験があると回答した人の割合が約6割と、前年の同じ調査結果のほぼ倍だったそうです。そのうち、6割以上がAPCの支払いが必要な雑誌で出版していました。また、半数以上の人が、APC支払のために助成を受けており、前年に比べ4割増加しているそうです。Gold OAの伸びを感じさせる結果となっています。

ちなみに同じ調査で、出版した論文を、機関リポジトリや自分のWebサイトにセルフアーカイブしたかを尋ねたところ、約6割がしていないと回答しており、セルフアーカイブの意識はまだ高くないことも示されているのですが、アーカイブの場所は機関リポジトリが一番多くなっています。

===memohttp://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=2381820131009 Wileyが論文著者を対象にしたオープンアクセス(OA)出版に関する意識・行動調査の結果を発表|59%が過去3年間にOA出版の経験あり、前年の32%から大幅増2012年中にWileyのジャーナルで論文を出版した著者(コレスポンディング・オーサー)約107,000人を対象に、2013年5月に質問票により行われたもので、うち8,465人(7.9%)から回答。回答者の地域内訳:USA 36%, ヨーロッパ・中東・アフリカ 45%, アジア・太平洋地域 19%。アーカイブへの意識はまだまだ。ただしアーカイブの場は自分のサイト・PMC・arXivよりも機関リポジトリがいちばん多い。33% Full OA誌(APCあり)、30% Hybrid OA誌(APCあり)、29% OA誌(APCなし)

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Gold OAすなわちオープンアクセスジャーナルは発展を続けており、雑誌数や論文数の平均伸び率は、学術出版全体におけるそれを上回っていますし、

===memo

* 学術出版全体のデータは、The STM Report (Sep. 2009)による。

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オープンアクセスメガジャーナル、また、それに類するオープンアクセスジャーナルの伸び率も著しく、今年PLOS ONE 1誌で出版される論文数は、STM分野全体の3%にあたる3万本に達すると見込まれています。

===memo

2013/10/23 Peter Binfield ”Open Access MegaJournals – Have They Changed Everything?”

http://creativecommons.org.nz/2013/10/open-access-megajournals-have-they-changed-everything/・図キャプション:The annual volume of published articles published per year for (a) PLOS ONE (in red), and (b) PLOS ONE + all other extant ‘MegaJournals’ (in green), and (c) all journals practicing an ‘impact neutral’ form of peer review (purple), starting with the launch of the BMC Series (in 2000).・“PLOS ONE is currently expected to publish more than 30,000 articles in 2013, approaching 3% of all STM articles published that year (PubMed indexes approximately 1 million new articles each year)”

2020年には90%の論文がGold OAになるだろうという予測:David W. Lewis (2012) The Inevitability of Open Access. College & Research Libraries, 73(5), p493-506

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昨年、国としてGold OAを推進する方向性を示したのがイギリスですが、そのイギリスでは、今年再び動きがありました。昨年は、6月にFinchレポートが出され、それまでのGreen OA重視から、Gold OAへ大きく舵を切りましたが、急速なGold OAへの移行は高額なコストがかかる恐れがあるといった懸念が各所から表明されていました。昨年のDRF9でもこの問題について議論しています。その後、今年の4月から、RCUK(英国研究会議)が、Finchレポートを受けたGold OA優先の新しいOAポリシーを施行していますが、このポリシーが、セルフアーカイブへ悪影響を及ぼす可能性、つまり出版者が自らの利益となるようポリシーを変更する誘因となる可能性が指摘されています。実際、RCUKが認めたエンバーゴに合わせて、もともと設けていたエンバーゴを長期化したり、新たに設ける(*)出版社も現れています。この出版社のGreen OAポリシーの変更は、イギリスのみでなく、日本を含めた全世界に影響を及ぼす点でも問題です。

そして、9月に、下院の特別委員会(ビジネス・イノベーション・技能(BIS)委員会)が、これらの問題を指摘し、Green OAの有効性をもっと考慮すべきだとするリポートを発表しました。これを受けて、イギリス政府がどのように回答するのか、Gold OA重視路線からの修正があるのか、今後の展開が注目されます。

===memo* 例)Springerでは、機関リポジトリへの登録許諾方針について、それまで設けていなかった12か月のエンバーゴを設けるとポリシーを変更しているhttp://aoasg.org.au/2013/05/23/walking‐in‐quicksand‐keeping‐up‐with‐copyright‐agreements/

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アメリカでも大きな動きがありました。今年の2月に、連邦政府機関に対して、助成を受けた研究成果物へのパブリックアクセ

スを促進させるための計画案を策定するようにとの指令が出されました。これを受け、どのように実現するかをめぐって、出版者と図書館が真っ向から対抗する案をそれぞれ提案しました。

===memo

“Memorandum for the heads of executive departments and agencies”http://current.ndl.go.jp/node/22967“研究開発予算が年間1億ドルを超す連邦政府機関に対して、政府助成を受けた研究の成果出版物やデータへのパブリックアクセスを促進させるための計画案を、6か月以内に策定するよう命じたもの”

”The Clearinghouse for the Open Research of the United States”(CHORUS)http://current.ndl.go.jp/node/23696出版社・学協会等から成るグループ“出版社のプラットフォーム等を用いて応えるモデルを提案”

”SHared Access Research Ecosystem (SHARE)”草案http://current.ndl.go.jp/node/23695米国大学協会(AAU)、公立ランドグラント大学協会(APLU)、及び北米研究図書館協会(ARL)“米国大統領府科学技術政策局(OSTP)が2013年2月22日に出した、政府助成を受け

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た研究の成果出版物やデータへのパブリックアクセスを促進させるための計画案策定を求めた指令を受け、策定されたもの” “SHAREではこの指令に各大学等のリポジトリを活用して応えるモデルを提案”

http://scholarlykitchen.sspnet.org/2013/09/19/chorus‐comes‐into‐focus/3つのルートのうち、PubMed Central拡大のルートについて“PubFed Central”と

Frankfurt Conference 2013 における各陣営のプレゼンテーションhttp://www.stm‐assoc.org/events/frankfurt‐conference‐2013/?presentations→ h p://www.stm‐assoc.org/2013_10_08_Frankfurt_Conference_Ratner_CHORUS.pdf→ h p://www.stm‐assoc.org/2013_10_08_Frankfurt_Conference_Vaughn_SHARE.pdfSHARE~22もの関係機関とPMC登録のための事務手続きをそれぞれ行うのは研究者にとって負担政府機関によっては独自にリポジトリを立ち上げるところもあるだろう

# CHORUS、SHAREどちらも選ばれず、各政府機関が独自のリポジトリを構築するといった対応を行う可能性もある。

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一方、日本での主な動きですが、このワークショップの第1部で取り上げたとおり、4月に学位規則の一部改正が施行され、博士論文について原則インターネットでの公表が義務化されました。

同じく4月には、JSTが、「JSTの研究費で推進される研究課題において得られた学術論⽂等の研究成果について、オープンアクセス化を推進」していくことを宣⾔しました。リポジトリでの公開を第⼀に挙げつつ、Green OAとGold OAを両輪として、全体としてできるだけ速やかにオープンアクセスを達成することが⽬指されています。

イギリスと異なり、日本ではGold OAを強力に推し進めているわけではありませんが、浸透はしてきています。日本での情勢については、このあとバイオメド・セントラルさんからご講演があります。Gold OAの進展と、それに伴うコスト問題に関して、具体的な取り組みも始まりつつあります。6月に国大図協から発表された報告書では、「我が国におけるオープンアクセス出版にかかる状況を大学図書館界として関係方面と共同し、早急に把握する必要がある」との提案がなされています。

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また、SPARC Japanでは、今年度から始まった第4期の達成目標のひとつとして、オープンアクセス誌の投稿実態について、動向調査を行い、基礎的情報の把握に努めることを挙げています。近日中に、日本の大学等に属する研究者の、OAに対する意識 および APC支払状況等を把握するための調査が行われる予定です。APC機関負担モデルの妥当性等を検証・評価することが目指されているのですが、APCに大学図書館としてどのように対応していけばよいのか、

===memoSPARC Japan 第4期(平成25~27年度)達成目標“(3)オープンアクセスに関する基礎的情報の把握

オープンアクセス誌および機関リポジトリの利用実態や投稿実態について、動向調査を行い、基礎的情報の把握に努めます。”

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(参考まで)

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イギリスにおける議論や経験は先例として参考になると思います。イギリスでは、助成機関によって、Gold OA志向のOA義務化方針が出されたことによっ

て、実務的な課題が出てきています。たとえば、限られた資金をどのように分配すべきか、多数の少額決済をどのように管理するか、質管理をどうするか、研究者が複数の機関に所属していたり、複数の助成団体から助成を受けている場合、どのように支払うか、といったようなことが指摘されています。

そんな中、APCの煩雑な支払い管理による図書館の負担を軽減することを目的としたサービスも出てきています。

また、9月に、APCにおける大学図書館の役割を議論したレポートが出ています。これは、イギリスの図書館員及びSAGE社とJISCの代表者たちによる会議の記録で、先ほど挙げたような課題のほか、限られた資金が、主要な出版者(*)の機関会員制への支払で占められてしまうと、そ

れに属しない個々の支払に対応できなくなる可能性があるが、これは現在の購読モデルにおけるBig Dealと変わらないのではないか、といった指摘や、研究者は、Gold OAについてだけでなく、一般的な出版そのものや、著作権についても意識がまだ薄い、との指摘、研究者は、APCの価格よりも、雑誌の質やインパクトファクターで投稿先を選ぶ傾向があるが、トップ誌がGold OAモデルを提供していない分野もある、といった指摘もされています。

===memo* ex. Elsevier, Springer, BioMed Central, Wiley, Royal Society

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# RCUKのグラントは予測される研究成果に必要な額に満たない可能性もあるが、それを補てんする資金の余裕具合は大学によって差がある。# 今のところ、研究者からの支払支援申請は少ないそう。既存の予算で支払済という

ケースもあるよう。

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なお、得てして、オープンアクセスジャーナルに関する議論では、APCが話題になりがちですが、あらためて確認しておきたいのは、オープンアクセスジャーナルには、APCを取るビジネスモデルだけでなく、複数のビジネスモデルがあるということです。オープンアクセスジャーナルのディレクトリ DOAJ の収録誌のうち、2/3はAPCを取っていません。最近では、新たな経費負担モデルのOA誌も現れています。研究助成団体によるeLifeでは当面APC無料で刊行され、PeerJでは生涯投稿料モデルが採用されています。また、今年の1月に正式発足した、人文・社会科学系OAメガジャーナルプラットフォームの提供を目指すプロジェクト「Open Library of Humanities(OLH)」も注目されます。今年8月に開催されたSPARC Japanセミナーの記録(*)によれば、「最初の5年間を寄付主体

で運営し,その後,世界中の図書館から少額ずつの拠出を受けることで運営体制を確立したい」と、APCモデルには拠らない意向が示されています。

焦点は、Green OAかGold OAかといった二項対立ではなく、持続可能なコスト負担のありかたであることに留意する必要があると思います。

===memo*カレントアウェアネス-E No.243 2013.08.29SPARC Japanセミナー2013「人社系オープンアクセスの現在」http://current.ndl.go.jp/e1469

DOAJに登録されている9924誌のうち、6568誌が、”No Article Processing Charge”

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※2013.10.27時点http://www.doaj.org/doaj?func=byPublicationFee&jCharging=N

5類型(非予約購読型~完全無料型、非予約購読型~著者支払い・読者無料型、予約購読型~ハイブリッド型、予約購読型~一定期間後無料公開型、予約購読型~電子版

のみ無料公開型)三根 「オープンアクセスジャーナルの現状」 大学図書館研究, 2007, v.80, p.54-64http://hdl.handle.net/2237/10118

OLH http://current.ndl.go.jp/e1395

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そして、OAが研究者としてのキャリアによい影響をもたらさない(*)、といった声もあがるなど、OAをめぐっては、コスト問題だけでなく、多様な認識や課題が存在しています。それらに丁寧に取り組んでいく必要もあります。

===memo* 「歴史学の電子版博士論文のエンバーゴ期間は6年間」 米国歴史学協会が声明を発表http://current.ndl.go.jp/node/23984

What Does Open Access Mean To You?https://peerj.com/questions/31-what-does-open-access-mean-to-you/

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OAは拡大し続けていますが、しかしそれでもまだまだ十分に理解されているとは言えません。Peter Suberは先日、スライドに挙げたような、OAに対してありがちな6つの誤解をとりあげています。

雑誌の質はそのビジネスモデルやアクセス障壁の有無とは本来無関係ですが、まだ、5番目の「OA誌は本質的に質が低いものである」という誤解は存在しており、先日話題になったScience誌掲載記事(*)もその一例と言えます。

雑誌の質に対する研究者の関心はとくに高いことからも、この誤解には重点的に対応する必要があると思います。

===memo* John Bohannon "Who's Afraid of Peer Review?", Science, 4 October 2013, Vol. 342, no. 6154, pp. 60-65http://dx.doi.org/10.1126/science.342.6154.60

Peter Suber “Open access: six myths to put to rest” (Guardian, 2013.10.21付)

http://www.theguardian.com/higher-education-network/blog/2013/oct/21/open-access-myths-peter-suber-Harvard

Science Sting論文→反応:DOAJ OA誌リスト更新(通常メンテと合わせて100誌あまりを削除)

OASPA*Peer Reviewの問題

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「質」を担保する取り組みは各所で行われています。OA誌のディレクトリ DOAJでは随時収録誌の見直しを行うことで、オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)では加盟基準を厳しくすることで、一定の質を担保しようとしています。また、査読は一般的に無報酬で行われていますが、この貢献に対して報酬を支払う試みは、査読の質の担保にもつながると言えると思います。そして、出版後査読についても、PubMedに採録された記事に対してコメントを付与し、共有することができる、PubMed Commonsがスタートしたことで、理解と普及が進み、OA出版にとって追い風となる可能性があります。

図書館から、学術情報流通の現状とともに、このような動向もあわせて情報提供し、OAについての理解を深めていく努力も必要ではないかと思います。

(以上)

===memo

2013年10月22日、NCBIがPubMed CommonsのPilot版をリリースしたと発表

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