UAVによる河川地形・河床材料モニタリング手法の検討
岐阜大学 流域圏科学研究センター
原田守啓
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平成28年6月16日インフラ・イノベーション研究会第31回講演会
@東京大学ダイワユビキタス学術研究館3Fホール
本研究は,国土交通省河川砂防技術研究開発助成 地域課題(平成27年度 UAVと水域可視化処理による河川地形の新しい計測手法の開発に関する研究)により実施した.本研究の実施にあたり,国土交通省木曽川上流河川事務所調査課の多大なるご協力を得た.
従来のモニタリング手法は多様化するニーズに応えられるか?
河川地形計測
– 定期縦横断測量 数年に1度,200m間隔の横断測量が基本
– 航空レーザー測量(LP) 水中に弱点 ⇒ ALB(Airborne Laser Bathymetry)
植物の動態
– 河川水辺の国政調査 5年に1度,空中写真判読から河川植生図
河床材料
– 地整・事務所によって異なる(不定期?) 縦断的分布の把握に重点.
2
セグメント1における砂州の動態,セグメント2における高水敷掘削後の地形変化(土砂堆積)等を把握するには時間解像度・空間解像度ともに不十分.
樹林化に至るプロセス(安定した草本群落or樹木の実生の定着⇒樹林化)を監視するには,やはり時間解像度・空間解像度ともに不十分.
地形を構成する粒径の幅が広く,空間的なばらつきが大きい中上流域における出水前後の河床環境の変化を捉えるには甚だ不十分.(ニーズ形成も不十分)
セグメント2における高水敷掘削後の変化の例
木曽川水系揖斐川の自然堤防帯 32~39kp (Ib≒1/3,300)
洪水流下能力の向上を目的とした河道掘削
施工年度、掘削高さの設定により14の工区が存在。
低く掘った箇所は赤系高めの箇所は青系
3
Hori et al. 2011
地形変化(掘削後の堆積速度) H14,H17,H20の定期縦横断測量結果から掘削部分の変動量を算出
堆積速度(参考値)=上記の変動量/経過年数(3年)
6
-4.00
-3.00
-2.00
-1.00
0.00
1.00
A B C D E L G M F O H I J N変動量
(m)
H14-H17の変動量
H12 H13 H13 H13 H14 H15 H16 H16 H17 H17 H18 H18 H19 H19
グループ1 グループ2 グループ3
★堤内地となっている旧河道では 自然堤防 1.5cm/年,後背湿地 0.1~0.2cm/年 Hori et al.(2011)
・堆積速度(参考値)5~12cm/年・やや右肩上がりか?
掘削後の植生遷移
H13,H19,H24の河川植生図に基づく群落変化
7
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
H13
H19
H24
H13
H19
H24
H13
H19
H24
H13
H19
H24
面積割合
ヤナギ類
多年生草本
1年生草本
裸地・管理地
開放水面
渇水位 低水位 平水位 豊水位
掘削高さ - 地被面積割合の変化
草地→
ヤナギ群落
裸地→
ヤナギ群落
草地⇒ヤナギ群落
水域が保たれている
河川地形計測手法を比較した例
航測技術対象スケール
水系 セグメント リーチ
デジ航 50 10 2
ヘリLP 100 15 3
UAV 100 13 1
8佐貫方城,渡辺敏,宮田真考,草加大輝: 3種の航空測量技術を使用した河道地形の効率的測量の実装展開に向けた比較検討,河川技術論文集,21, pp.105-110, 2015.
60m
300m
1400m
デジタル航空カメラ+SfM
ヘリLP
UAV-SfM
空間スケール別のコスト比較(リーチスケールのUAV-SfMのコストを1とした場合)
従来の定期縦横断測量と比較して,情報量は圧倒的に多い.
樹木,草本等の植物が繁茂する区間,水深が浅い場面では,UAV-SfMが有利.
要求される計測精度,規模,頻度に応じた使い分けを提案.
SfM / MVS技術
Structure from Motion / Multi-View Stereo– 異なるアングルから撮影された複数の画像から,被写体とカメラの相対的な位置関係を推定し,被写体の三次元形状を再構成する技術
– 対象は『地形』に限らない.ありとあらゆるものの三次元形状を復元可能.
– UAV空撮画像でなくとも,同じ被写体に対してラップを確保した複数の写真であれば,普通のデジカメを手持ち撮影した画像でも良い.
使いやすいユーザーインターフェースを備えた市販ソフトから,フリーウェアまで.
– 個人的な印象では,Agisoft Photoscanが最もシェアが高い?
9
UAV-SfMの河川地形計測への適用例
10
Westaway, R. M., Lane, S. N., Hicks, D. M.: The development of an automated correction procedure for digital photogrammetry for the study of wide, shallow, gravel-bed rivers, Earth Surface Processes and Landforms, 25, 2, pp.209-226, 2000.
Javernick L, Brasington J, Caruso B.: Modeling the topography of shallow braided rivers using Structure-from-Motion photo-grammetry. Geomorphology. 213, pp.166-82., 2014.
本報のあらまし UAV-SfMによる写真地形計測の適用範囲を水中部に拡大
することにより,河川管理に資する付加価値の高い調査手
法を提供する.
セグメント1(扇状地)区間における現地調査を実施し,
画像処理による水中可視化による水中地形計測精度の向上
について検討.
UAV空撮により得られた高精細な画像に基づき,
河床表層材料の粒度分布を推定する手順について検討.
– これらの検討にあたって
『運用のノウハウを整理すること』に
重点をおいて検討を進めました. 11
電動小型UAV
方法長良川扇状地区間におけるUAV空撮と河床形状計測の実施
流量の異なる条件で、2度のUAV空撮を実施。
水中河床形状の検証用データを、別途、ADCPにより取得。
1回目:増水時
2回目:平水時
12
水中可視化!アクアスコープ(朝日航洋)による処理
・画像処理の有無による
水中河床形状計測精度の検証
・水深補正方法の検討
UAV空撮写真*画像処理なし
*水中可視化処理後
ADCP計測結果に基づく標高(水深)分布
未処理画像データセット
処理済画像データセット
3次元モデル(画像処理なし)
3次元モデル(画像処理あり)
SfMソフトウェア(Agisoft Photoscan)
河床高の推定値
河床高の実測値
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アクアスコープ(朝日航洋)による処理
αUAV(amuse-oneself社製)飛行高度は対地高度150m
(部分的に50m,100mも.)
撮影写真ラップ率60%以上に
て撮影
ADCP超音波流速計M9(Sontek社製)
+エンジン付きボート澪筋に沿って往復しながら河床形状を計測.
結果①
水中河床形状推定精度の検証
Transect2 Transect4 Transect6
• 河床形状が複雑な、水制周辺に6本の検査断面を設定し、断面図を作図。
• 3次元モデル4ケースと、ADCP実測値を比較。
陸上部はどのケースも概ね一致。
水中部には、ケースにより、ばらつきがある。
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0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175
標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect1
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175
標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect2
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175
標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect3
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175
標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect4
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175
標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect5
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100 125 150 175標高[m]
左岸堤防天端からの距離[m]
Transect6
0
3
6
9
12
15
25 50 75 100125150175
Transect1
増水時(画像処理なし)
増水時(画像処理あり)
平水時(画像処理なし)
平水時(画像処理あり)
ADCP
水制→
水制→
水制→
結果②
水中河床形状推定精度の検証(平水時)
●画像処理なし●画像処理あり
3次元モデルから求めた
見かけの水深
ADCP計測結果の水深
空撮写真から推定された河床地形は、見かけの水深を、光の屈折率である
1.33倍するだけの処理で、河床高を表現しうる。 ⇒処理の定式化が可能.
コンディションがよければ水深2m程度までは計測可能。水中可視化処理に
よって、より水深が大きい領域まで計測が可能となる。
23
結果②
水中河床形状推定精度の検証(増水時)
●画像処理なし●画像処理あり
3次元モデルから求めた
見かけの水深
ADCP計測結果の水深
水深の影響よりも、増水による濁り、水面の擾乱による反射といった
撮影コンディションのほうが支配的な影響を及ぼしている。
現場での運用では,空撮の実施適否の判断が重要になる. 27
UAV-SfMによる河川地形計測の一般化
28
DEMモデル
陸部DEM
水部DEM
見かけの水深分布Apparent Water Depth
補正された水深分布Corrected Water Depth
補正された水部DEM
水深補正されたDEMモデル
UAV-SfMの実施
水部マスクの作成
合成あるいは上書き
1.33倍するだけ.
オルソ画像
マスク抽出
水位縦断形の作成
左右岸の水際線とDEMから水位縦断形を推定
見かけの水深AWD=水位-DEM
補正DEM=水位-補正された水深CWD
+ノイズ処理?
水域可視化処理
結果③
河床材料調査への活用の試行• UAV空撮画像を用いて、砂州表層河床材料の粒度分布の推定を試みた。
本検討では、現場技術者が『河床材料調査を目的としたUAV空撮』を行うための運用のノウ
ハウを整理することを目的に、撮影及び画像解析を試行した。
撮影高度50mのUAV空撮画像輪郭抽出法による画像解析例
(BASEGRAIN,スイス工科大)
29 試行の結果、撮影に先立って、画像解析で検出したい粒子径と、撮影機材の
性能に基づいて、飛行高度等の計画を立案することが可能。
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1 10 100 1000
diameter[mm]
面積格子法
画像解析法
本ケースにおいて検出限界と予想した粒径(40mm)
空撮による表層河床材料調査
あらかじめ現地踏査を行い,現地に見られる河床材料径の幅を大まかに把握して,目標精度を決定.
画像解析により判別可能な粒子径の目安を,撮影機材と飛行高度から計算.
目標とする粒子の検出精度に合わせて,UAVの撮影高度を
逆算することにより,効率的なフライト計画を立案できる.
30
撮像素子サイズ =17.3[mm]
撮像素子解像度 =4592[pixel]
焦点距離 =14[mm]
対地高度 =50[m]
撮影領域幅 = 撮像素子サイズ x ( 対地高度 / 焦点距離 )=61.8[m]
空間分解能 = 撮影領域幅 / 撮像素子解像度 = 13.5[mm]
粒子の輪郭抽出のため,最低3pixel必要とすれば…本ケースでは,40mmが画像計測の下限と想定された.
砂州における河床材料分布の実態
31
3.結果と考察Results and discussion /粒度分布GSD
1つの砂州の中でも,面的な分級が生じており,場所によって粒径が異なる. さらに,表層と準表層は粒度分布が相当傾向が異なる.(表面は粗粒化している) 出水により,地形変化を生じると同時に粒度分布の変化も伴う.
上流下流
UAVによるモニタリング手法は多様化するニーズに応えられるか?
河川地形計測
– 定期縦横断測量 数年に1度,200m間隔の横断測量が基本
– 航空レーザー測量(LP) 水中に弱点 ⇒ ALB(Airborne Laser Bathymetry)
植物の動態
– 河川水辺の国政調査 5年に1度,空中写真判読から河川植生図
河床材料
– 地整・事務所によって異なる(不定期?) 縦断的分布の把握に重
点.
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UAV-SfMは,河川地形の変化を高精度に計測しうる.水中部は撮影条件の影響を大きく受けるものの,陸部の地形変化のモニタリングには十分供しうる.
高解像度な画像を,植物の生活環に合わせた頻度で撮影できれば,モニタリング手法として機能しうる(未検証). 高水敷掘削の場合,掘削後1,2年が勝負
表層粒度分布のうち,ある程度の大きさの粒子は画像解析で捉えうる.しかし,準表層,水面下の粒度分布を捉えずして,土砂動態は把握しきれない.
一般的なニーズ・シーズの関係 土木分野では,伝統的に,行政ニーズと技術シーズが一体となって,研究開発がすすめられてきた(ように思われる).
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河川管理者のニーズ
技術者・研究者の技術シーズ
ニーズの発信データの提供試験施工 等
研究成果の発表,新技術の提案・提供
ノウハウの蓄積
計測技術をめぐるニーズ・シーズ考
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河川管理者のニーズ
研究者のニーズ
汎用的計測技術例:UAV-SfM
他分野において発展した汎用的計測技術(例:UAV-SfM)は,河川管理者のニーズだけでなく,研究者のニーズも満たしうる.
ニーズはやや異なるものの,河川管理者・研究者全てがユーザーである.
これに応える民間ニーズも含む
・現場での運用のノウハウ
(計測精度,コスト,調査計画手法,実施可否の判断・・・)
・研究対象とする現象の観測データ(河川地形,河床材料,植物等)・数値計算の初期値,検証データ・現地調査の効率化(測量の代替手段等)
・既存技術を土台とした新しい計測手法の開発
フィールドでの協働
ノウハウの共有
⇒ フィールドでの協働によるノウハウの開発と蓄積,共有へ
・痒いところに手が届くモニタリング技術 [計測技術を研究対象としない多くの研究者]
[計測技術が研究対象の研究者]
例:石礫床河川の河床環境の数値計算モデル
[とくに現場技術者]
多様化した
例:河道掘削後の地形変化,植物の侵入