Technical Overview (QNNZ-103005B) 1/11
Technical Overview
グラフィックス用モニターにおける液晶パネルの温度特性の補正技術
CONTENTS
1.はじめに............................................................................................................................................................................................2
2.液晶モニターの安定性...............................................................................................................................................................2
3.階調特性・輝度の安定性に影響をあたえる要因...........................................................................................................3
4.温度センシング機能と有効性.................................................................................................................................................4
5.まとめ..............................................................................................................................................................................................11
No.10-003 Revision B
作成: 2010 年 4 月
株式会社ナナオ 企画部 商品技術課
Technical Overview (QNNZ-103005B) 2/11
1.はじめに
モニター上で色校正を行うソフトプルーフや写真のレタッチ作業、グラフィックワークの製作など、グラフィックス用
途に使用されるモニターは、高度で正確な色表示品質・性能や、高い表示品質の安定性が求められる。
この文書では、その中でも「表示品質の安定性」について取り上げ、当社独自の輝度を安定させるための「輝度ド
リフト補正機能」、階調特性を安定させるための「温度センシング機能」の概要に関して説明を行う。
2.液晶モニターの安定性
2-1.階調特性の安定性
モニターは通常、環境温度や設定輝度によって階調特性や色味が変化することがある。図1は、実際にあるモニタ
ーの環境温度と輝度設定を変更した場合の、階調特性(ガンマ値)と入力階調の関係をグラフ化したものである。デ
ータ上では、モニターの階調特性は、環境温度やモニターの輝度設定によって理想値(2.2)からのズレが生じてい
る。
実際のグラフィックスワーク作業において、このように輝度や環境温度によって階調特性が変化してしまうと、図 2
のように色付きや階調つぶれが発生する。画像を表示するモニターには正確な色表示が求められるため、この階調
特性の変化は無視できない問題である。
図 1:あるモニターの階調特性
図 2:階調特性の違い
常温時 高温時 高輝度時
Technical Overview (QNNZ-103005B) 3/11
2-2.輝度の安定性
図 3 のグラフは、各社のモニターの輝度ドリフト特性を表している。データ上では、モニターの電源 ON 直後から 30
分までは輝度が安定していない。
モニタープルーフでは、モニターの色表示状態を一定に保つためにキャリブレーションを定期的に行うが、このデー
タからすると、キャリブレーションを行うには最低 30 分はモニターをエージングする必要がある。このように、正確な色
評価を行うためには、輝度が安定するまで待つ必要があり、輝度ドリフト特性は無視できない問題である。
3.階調特性・輝度の安定性に影響をあたえる要因
液晶モニターの階調特性・輝度の安定性に影響をあたえる要因は、設計上としては以下が考えられる。
①液晶モニターはバックライトの光によって表示を行っているが、そのバックライトは発光と同時に発熱しており、
電源ONから徐々に温度が上がってしまうこと
②時間や冷暖房機器による周辺温度の変化
③温度によるカラーフィルターや液晶素子等の特性の変化
完全に安定した特性を持つモニターを実現するのは現在の技術では難しいが、これらの影響を最小限に抑えるた
めに、弊社で搭載している補正技術について、次章にてその原理を説明する。
図 3:あるモニターの輝度特性
Technical Overview (QNNZ-103005B) 4/11
4.温度センシング機能とその有効性
4-1.温度センシング機能による補正
当社では、温度変化に伴うモニターの表示品質を安定させるために、温度センサーをモニターに搭載して表示特
性の変化を補正する、「温度センシング機能」を搭載している。
温度センシング機能とは、温度変化に伴う色味や階調特性の変化をあらかじめ測定しておき、その温度にあった
補正係数を用いてモニターの表示を行うことで、変化を抑える機能である。この温度センシング機能を使用すれば、
環境温度が変化しても最終的なモニターの表示を理想的な色味や階調特性に近づけることができる。
温度センシング機能が搭載されていないモニターでは、環境温度が変化すると、図 4 下段のように、色座標 x、y 値
が変化する。温度センシング機能を利用すると、図5 のように、環境温度の変化による色度変化も小さくなり、ほぼ同
じ色度を保持することができる。さらに、0~255 の全階調による補正を行うことによって、中間調も含む全ての色につ
いて、階調特性はもちろんのこと加法混色性能についても性能が向上している。
温度センシング機能は、当社の一部の ColorEdge シリーズに搭載されている機能であり、ColorEdge CG245W では
中間色も含む全ての階調(0~255)について補正している。
従来は環境温度や設定輝度の変化に関係なく、一律の補正テーブル(ルックアップテーブル:LUT)を使用していた
が、温度センシング機能を搭載したモニターでは、温度に応じて使用する LUT を変更している。
環境温度に応じて LUT を変更させることによって、階調特性はもちろんのこと、加法混色特性についても精度が向
上するため、中間色のカラー表示の正確性が格段に向上することとなった。
図 4:温度センシング機能のイメージ
図 5:温度センシング機能の有無による違い
外気温度変化時の色度変化
-0.012
-0.008
-0.004
0.000
0.004
0.008
0.012
15 25 35
環境温度[℃]
色度
補正なし_x
補正あり_x
補正なし_y補正あり_y
Technical Overview (QNNZ-103005B) 5/11
4-2.温度センシング機能の有効性
図 6、7 のグラフは、728 色のカラーパッチを測定した場合の色の再現性を比較したものである。図 6 では、温度セ
ンシング機能の搭載により、どの輝度・環境温度でも目標値の±5%以内の誤差となっており、階調特性精度が向上
していることが分かる。また、図 7 を見ると、理想値と実測値との差が全体的に小さくなり、その差を表す⊿E が 0.5
以下のパッチの割合が 86.2%から 91.5%に増加しており、精度が向上していることが分かる。
このように、温度センシング機能の利用による階調特性の安定により、加法混色特性が向上し、結果としてモニタ
ーの色再現性が向上する。これにより、より正確なカラーマネージメント環境をモニターにて構築することができる。
温度センシング機能搭載
Gamma 2.2 ±5%
温度センシング機能非搭載 温度センシング機能非搭載
Gamma 2.2 ±5%
EIZO monitor 1
温度センシング機能搭載
図 6-1:温度センシング機能の有無による階調特性の違い(EIZO monitor 1)
Technical Overview (QNNZ-103005B) 6/11
Gamma 2.2 ±5%
温度センシング機能搭載
温度センシング機能非搭載 温度センシング機能非搭載
Gamma 2.2 ±5%
EIZO monitor 2
温度センシング機能搭載
図 6-2:温度センシング機能の有無による階調特性の違い(EIZO monitor 2)
Technical Overview (QNNZ-103005B) 7/11
Temp 15[C] / Brightness 80[cd/m2]
Temp 25[C] / Brightness 160[cd/m2]
Patch number : 729
Temp 35[C] / Brightness Max
Color mixture
Temp 15[C] / Brightness 80[cd/m2]
Temp 25[C] / Brightness 160[cd/m2]
Temp 35[C] / Brightness Max
Color mixture
図 7-1:温度センシング機能の有無による色再現性の違い(EIZO monitor 1)
温度センシング機能非搭載
温度センシング機能搭載
Technical Overview (QNNZ-103005B) 8/11
Temp 15[C] / Brightness 80[cd/m2]
Temp 25[C] / Brightness 160[cd/m2]
Patch number : 729
Temp 35[C] / Brightness Max
Color mixture
Temp 15[C] / Brightness 80[cd/m2]
Temp 25[C] / Brightness 160[cd/m2]
Temp 35[C] / Brightness Max
Color mixture
温度センシング機能非搭載
温度センシング機能搭載
図 7-2:温度センシング機能の有無による色再現性の違い(EIZO monitor 2)
Technical Overview (QNNZ-103005B) 9/11
<温度センシング機能の有無による、理論値と実測値の差>
モニター① モニター②
平均(⊿E) 最大(⊿E) 平均(⊿E) 最大(⊿E)
温度センシング機能非搭載 0.86 5.47 0.34 1.39
温度センシング機能搭載 0.33 1.79 0.28 1.32
非搭載と搭載の差 0.53 3.68 0.06 0.07
4-3.輝度ドリフト補正機能による補正
輝度ドリフト補正機能は、当社のほぼ全てのモニターに搭載されている機能であるが、ColorEdge CG245W ではモ
ニターの電源 ON から 10 分後までの輝度が更に安定するように工夫している。
従来は輝度が安定した時の特性を前提条件に補正を行っていたが、CG245W では輝度が安定する前の特性(変
移時)の補正も行っている。
このように、補正値を適切に変化させることによって、図 8 のグラフのように、電源 ON 直後から起動後 10 分まで
の輝度の安定が格段に早くなっている。
図 8:輝度ドリフト補正機能の有無による輝度安定時間の違い
Technical Overview (QNNZ-103005B) 10/11
4-4.輝度ドリフト補正機能の有効性
図 9 のグラフは、従来の輝度ドリフト補正機能と、改善された輝度ドリフト補正機能を比較したものである。これを
見ると、従来の輝度ドリフト補正では安定までに 20~30 分ほど時間がかかっていたが、改善された輝度ドリフト補正
を搭載したモニターでは、10 分ほどで輝度が安定していることが分かる。
このように、輝度ドリフト補正機能の利用による輝度の安定により、モニターの電源 ON 直後からの色再現が向上
する。これにより、これまではキャリブレーションを行うまでに30 分ほどエージングする必要があったが、今回10 分程
度のエージングでキャリブレーションが可能となるため、正確なカラーマネージメント環境を構築するための作業効率
をアップさせることができる。
従来の輝度ドリフト補正機
能では20~30分後より キャリブレーション可能
改善された輝度ドリフト補正
機能では約10分後より キャリブレーション可能
図 9:輝度ドリフト補正機能の有無による輝度安定時間の違い
Technical Overview (QNNZ-103005B) 11/11
5.まとめ
以上の話をまとめると以下のようになる。
① グラフィックス市場が求める正確な色表示にはモニターの表示特性の安定性が重要である。
② 実際には液晶モニターは環境温度によって階調特性や輝度、色度が変化している。それらが不安定だ
と色を正確に表示させることが難しい。
③ 液晶モニターは電源 ON 直後から輝度が安定するまでに時間がかかる。輝度が安定するまでは正確な
色表示やキャリブレーションの実行が難しい。
④ 環境温度の変化による階調特性や輝度、色度を安定させるには、温度センシング機能での補正が効
果的である。
⑤ モニターの電源 ON 直後の輝度を安定させるには、輝度ドリフト補正機能での補正が効果的である。
以上、温度センシング機能と輝度ドリフと補正機能を搭載した表示特性が安定したモニターを選ぶことが、グラフィ
ックス市場が求める正確なカラーマネージメント環境を提供することになると考える。
記載されている会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。Copyright Ⓒ 2010 株式会社ナナオ All rights reserved.