低炭素が築く社会低炭素が築く社会
グリーン・リカバリーグリーン・リカバリー~日本再生の新シナリオ~~日本再生の新シナリオ~
三橋規宏
千葉商科大学政策情報学部教授
IMF世界経済見通し
2008年 2009年 2010年 世界全体 3・2 ▲1・3 1・9 先進国 0・9 ▲3・8 0・0 日本 ▲0・6 ▲6・2 0・5 米国 1・1 ▲2・8 0・0 ユーロ圏 0・9 ▲4・2 ▲0・4 英国 0・7 ▲4・1 ▲0・4
途上国 6・1 1・6 4・0 アジア 7・7 4・8 6・1 中国 9・0 6・5 7・5
09年4月22日発表、▲はマイナス、%
膨張の時代(1950年―2000年)
1950年 2000年
人口(億人) 25 61(2.4倍)
GDP(兆ドル) 3・8 30・9(8.1倍)
石油(億バレル) 38 276(7.3倍)
発電量(億kw) 1・5 32.4(21倍)
小麦(億トン) 1.4 5.8(4.1倍)
リーマンショック後の世界同時不況の特徴
20世紀支えた石油文明の崩壊
石油をジャブジャブ使って、大量生産、大量消費によって、豊かさを求める経済発展の時代が終わった
①節約型ライフスタイルの定着
②成熟社会に入り、モノよりも心の豊かさ、精神的な落ち着きを人々が求めてきている
③化石燃料依存社会から低炭素社会へ向けた意識変革が進んでいる、環境破壊、資源枯渇化の危機意識強まる
グリーン・リカバリーとは?
グリーン・リカバリーとは?
自然環境破壊、資源収奪型の経済社会の終焉
目指すべき方向
環境保全・資源循環型の低炭素経社会目指す
そのために、環境保全型の公共投資、農林水産業の再生、省エネ、新エネ、省資源、リサイクル分野のイノベーションを通して環境とビジネスを両立させるための仕組み(制度設計)をつくり、経済を回復させること。
キーワードは
デカップリングデカップリング(decoupling)とは、密接な関係(結合)にある二つの要素を引き離すこと。
具体的には・・・
適正な経済成長を維持しながら、一方で温室効果ガスの排出量を削減する経済政策
低炭素社会
経済発展モデルの転換
①化石燃料依存型の経済
③ 低炭素経済
② 縮小経済
経済成長
化石燃料デカップリング
経済発展モデルの転換
低炭素社会
デカップリング
・省エネ技術(軽薄短小化・・・)
・新エネ技術(太陽光、風力、バイオマス、ヒートポンプ・・・)
・電気自動車
・新制度設計(環境税、固定価格買取制度、排出権取引・・・)
・自然再生(農林水産業の復活・・・)
経済成長
化石燃料(CO2)
スウェーデンのデカップリング(1990年比2006年)
-20%
-10%
0%
10%
20%
30%
40%
50% スウェーデン
日 本
GDP
44%
温暖化ガス
-8.7%
GDP
19.3%
温暖化ガス
6.3%
スウェーデンのデカップリング
石油からバイオマスへ転換(スウエーデン・ベクショー市)
環境税によるインセンテイブ(スウエーデン・ベクショー市)
デカップリング政策とは何か
1イノベーション
2制度設計
3自然再生
デカップリング政策1
1イノベーション
・新エネ技術(太陽光、風力、バイオマス、ヒートポンプ、地熱、波力、水素など)、電気自動車、燃料電池自動車、
・省エネ・省資源技術(軽薄短小化、資源生産性向上、材料革命など)
・リサイクル技術(廃棄物処理、再生など)
デカップリング政策2
2制度設計(法律、経済的手法)
・税制(バッズ課税、グッズ減税、様々な環境税、インセンティブ税制など)
・補助金(新エネ、省エネ技術促進などのための助成金など)
・固定価格買取制度(太陽光発電、風力発電など)
・キャップ&トレード(CO2の排出量取引)
・家電のトップランナー方式など
デカップリング政策3
3自然再生
・農林水産業の再生・復活(自給率の向上→食料40%、木材約20%、魚介類55%)
・生活優先・環境配慮型の公共投資(歩道、自転車道などの整備、歩道橋、地下道の廃止など)
・地産地消の奨励(身土不二、フードマイレージなど)
デカップリング政策へのアプローチ1
J・A・シュンペーター(1)
経済発展の原動力は、
企業家精神を持った企業者によるイノベーション(技術革新=創造的破壊)に求めた。
デカップリング政策へのアプローチ1
J・A・シュンペーター(2)
コンドラチェフの波(技術革新の波)
▽18世紀後半から始まる産業革命
蒸気機関、紡績機械など
▽19世紀後半から20世紀初頭の繁栄
鉄道、自動車、プロペラ機、無線通信、製鉄法など
▽戦後の高度成長
ナイロン、プラスチック、ジェットエンジン、レーダー、コンピューター、テレビ、原子力など
デカップリング政策へのアプローチ1
J・A・シュンペーター(3)
コンドラチェフの波(技術革新の波)
▽これからの時代を支える技術
▽新エネルギー
太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱、ヒートポンプ等
▽電気自動車
▽蓄電池産業
▽水素エネルギー(燃料電池自動車、コジェネレーション)
デカップリング政策へのアプローチ(2)
ポーター仮説(1)
「適正に設計された環境規制は、企業の国際競争力を強化させる」
キーワード
イノベーション・オフセット
デカップリング政策へのアプローチ(2)
ポーター仮説(2)
イノベーション・オフセット
環境投資は、初年度はコスト圧迫要因になるが、数年後にイノベーションが起こり、初期投資を相殺し、それ以降は、企業に利益をもたらし、国際競争力の強化に貢献する。
その成功例は?
デカップリング政策へのアプローチ(2)
ポーター仮説(3)
その成功例は?
①78年実施の日本版マスキー法(自動車の排ガス)、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの排出量を10分の1に削減
②99年実施の改正省エネ法
家電類のトップランナー方式を定める
デカップリング政策へのアプローチ(2)
ポーター仮説(4)
ブレークスルーを誘発するイノベーションの3条件
1強力なライバルの出現
2顧客からの厳しい苦情・批判
3価格の急騰
デカップリング政策へのアプローチ(2)
ポーター仮説(5)
ブレークスルーを誘発するイノベーションの3条件に加えて、ポーターは、4番目の条件として、
適正に設計された環境規制
グリーン・リカバリー5
温室効果ガス中期目標
政府の温室効果ガスの中期目標(2020年)
15%減(05年比)、8%減(90年比)
この目標は、現状維持(産業構造、エネルギー構成比の大幅変更なし、環境税の導入なし)が前提。
これでは、ブレークスルーを誘発させるイノベーションが起こらず、日本産業を殺してしまう。
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結論
これからの日本は、デカップリング政策をテコにして、新エネルギー、省エネルギー、さらに、環境重視の公共投資、農林漁業などの内需関連部門でブレークスルーを伴う技術革新の波を引き起こし、100年に1度の大不況を世界の先頭に立って乗り切っていくべきである。
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