令和元年度地熱貯留層掘削技術開発について
2020年6月
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構地熱統括部地熱技術部技術課 塚田康元
令和元年度 地熱統括部事業成果報告会
地熱貯留層掘削技術開発1.技術開発の背景
例:3万kWの地熱発電所建設に係る費用試算例
地表設備(発電 タービンなど)
(71%)[183億円]
地下調査と 探査(28%)
[73億円]
地表調査(3%)[2億円]
坑井掘削(97%)[71億円]
(地開協、第3回調査価格等算定委員会資料より)
地熱発電所 3万kWモデルケース
調査・開発 73億円
うち地表調査 2億円
坑井掘削 71億円
環境影響評価 3億円
地上設備建設 183億円
総額 259億円
・地下の調査・探査に要する費用のうち、坑井掘削にかかる費用が大半を占める。地熱開発促進のためには、坑
井掘削費用を削減することが重要。JOGMECは平成30年度まで実施した「地熱井用PDCビット技術開発」に続き、
小型ハイパワーリグの設計及び制御技術の開発、逸泥対策技術に着目して、掘削期間の20%短縮を目指す。
スケジュールは以下のとおり。
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環境影響評価
(1%)[3億円]
技術開発 H30FY R1FY R2FY
地熱用PDCビット技術開発 現場実証試験
小型ハイパワーリグ設計・開発 リグ設計・ミニチュアリグ製作
電気制御システム設計・試作
実証試験
逸泥対策技術開発 地上試験 現地試験 現地試験
地熱貯留層掘削技術
2.小型ハイパワーリグの設計及び制御技術の開発 (1)技術開発の課題 2課題とリグの小型・ユニット化により期待される効果地熱掘削時には掘削作業の掘削に付帯する作業時間が発生し、コスト増加の一因となっている。以下には各々の作業及び国産技術を用いたリグの小型・ユニット化により期待される効果に関して述べる。
‣ リグ組立・解体時間→ リグを小型・ユニット化し、組立・解体作業時間を効率化することにより、全体の掘削作業日数が削減される。‣ リグ故障に対応する時間→ 国産の電気制御を開発することにより、リグ故障時のダウンタイムが削減される。‣ 林道整備・敷地造成など付帯工事の時間→ トレーラーでしか運搬できない大型リグを分割小型化し、トラックで運搬可能にすることで林道整備日数が短縮される。
その他の付随効果・掘削作業の自動化及び省略化により、人材不足の解消につながる。
・H30年度に開発したミニチュアリグを用いて、電気制御システムの検証・確立を図る。
・実証試験を実施する為、事前に整地されたエリアでリグ(2,000m級)を設置。
・制御システムに接続して主に以下の動作確認を実施予定。
①信号入力による作動確認
(信号操作で巻上機、回転装置の作動、付属機器類の作動、自動・手動ブレーキ作動を確認)
②入力信号パラメータ調整(センサー類の調整) ③不具合箇所の修正等。
リグ仮設全体帝石削井工業(株)成東整備センター
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実証試験:無負荷試験 概念図
地熱貯留層掘削技術
2.小型ハイパワーリグの設計及び制御技術の開発 (2)技術開発の状況
ミニチュアリグ写真
電気制御システムの試作・実証
電気制御室外観
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・泥水添加剤やセメント材の室内試験を実施し、逸泥対策に適用可能と考えられる水中不分離剤を抽出した。・地熱井での現地試験を実施。
今後は、高温度地熱井を用いた現地試験において、実際に逸泥対策で活用できる技術を開発する。
水中不分離剤なし 水中不分離剤あり
界面活性系の水中不分離剤の効果逸泥対策 概念図
地熱貯留層掘削技術
3.逸泥対策技術開発 (1)技術開発の課題と状況
課題地熱井掘削作業において、大規模逸泥が引き起こす掘削障害はコストの増大の一因となっている。
5地熱貯留層掘削技術
3.逸泥対策技術開発 (2)技術開発の状況
水中不分離セメントを使用した地上での模擬試験
水中不分離セメント※を使用した地熱現場での現地試験
逸泥層を模した透明パイプにガラスビーズを充填し、容器内に水を供給することで、地上で逸泥状態を再現(ガラスビーズの粒径を変えることで逸泥規模を再現)。水中不分離セメントを充填すると逸泥が止まることを確認。
ガラスビーズを充填した透明パイプ(模擬逸泥層)
水中不分離セメント※の適用法を確立することを目的として、実際の地熱井を用いた現地試験を実施。地熱井にセメントスラリーを投入し、硬化後のコアを採取・試験することでスラリー挙動、セメント強度、作業性を確認。
セメントスラリー打設後に採取したセメントコア
ガラスビーズを充填した透明パイプ
※水中不分離剤を使用したセメントのこと。
5地熱貯留層掘削技術
4.地熱用PDCビットの開発
地熱用PDCビット
~掘進能率2倍、掘削寿命5倍を達成~
項 目 従来品(トリコンビット)
PDCビ ット数値目標
実 績
掘進能率 60m/日 120m/日(従来品の2倍)
134m/日(2.2倍)
耐久性(ヒ ッ゙トライフ)
150m/丁 750m/丁(従来品の5倍)
743m-1088m/丁(最大7.2倍)
※想定する岩石強度は一軸圧縮強度:100MPa※1日の作業時間を20時間として換算
R1.6.30付日経産業新聞紹介記事
• 開発を進めていたPDCビット(従来品に比べ掘進能率2倍、掘削寿命5倍を達成)は特許を取得(2019年6月:JOGMEC地熱部門で初)。
• PDCビットの実用化に向け、地熱開発事業者等への説明会を開催(2019年9月)。
特許証