LC Technical Report Vol.172015年01号
分離改善のコツ分離を改善するには様々な方法があります。ここでは分離度を示す要素である「理論段数」「分離係数」「保持係数」に着目して、分析条件をどのように変えれば、効果的な分離の改善できるか、その方法を紹介します。
分離改善 分離度 分離係数 保持係数 理論段数 粒子径の変更 カラム長さの変更カラムメーカーの変更 有機溶媒の変更 温度の変更 カラム種類の変更 水比率の変更
Keywords
分離度からみた分離の改善分離度(Resolution: R)は、隣接する二つのピークがどの程度分離しているかを示したものです。分離度を保持時間とピーク幅で示すと、式(1)で定義されます。
■ 理論段数を大きくする理論段数(Theoretical plate number: N )は、カラム効率を表す指標の一つです。Fig.2は分離係数と保持係数が一定のとき、式(2)より得られた分離度と理論段数の関係です。分離度は理論段数の平方根に比例します。
隣接する二つのピーク幅が等しいとき、式(1)を理論段数 N、分離係数 α、保持係数 k、で示すと、式(2)になります。
…(1)
…(2)
Fig.2 分離度と理論段数の関係
0 8 16 24Time (min)
0 4 8 12Time (min)
12
3
4 56 7
1
2
34 5
6 7
[Analytical conditions]Column: L-column2 ODS; Column size:2.1 mm I.D.×150 mm L.
5 μm 2 μm
Fig.3 粒子径の変更(安息香酸エステル)
0 1 2 3 4Time (min)
N7=9300R6,7=1.34
N7=20100R6,7=2.06
[Analytical conditions]Column: L-column2 ODS, 2 μm; Column size: 2.1 mm I.D.
50 mm L. 100 mm L.
0 2 4 6 8Time (min)
Fig.4 カラム長さの変更(安息香酸エステル)
「カラム長さを長くする」理論段数はカラム長さに比例して大きくなります。カラム長さが2倍になれば、2倍の理論段数が得られます(Fig.4)。カラム圧力はカラム長さに比例して高くなります。
[Analytical conditions (Fig.3, Fig4)]Eluent: CH3CN/20 mM H3PO4 (50/50)Flow rate: 0.2 mL/min(5 μm); 0.4 mL/min(2 μm)Temp.: 40℃; Detection: UV 254 nm; Inj. vol.: 0.5 μLSample: 1. 4-Hydroxybenzoic acid; 2. Methyl 4-hydroxybenzoate;
3. Ethyl 4-hydroxybenzoate; 4. Isopropyl 4-hydroxybenzoate;5. Propyl 4-hydroxybenzoate; 6. Isobutyl 4-hydroxybenzoate; 7. Butyl 4-hydroxybenzoate
1
2
3
4 5 6 7
1
2
34
5 6 7
「カラム充填剤の粒子径を小さくする」移動相の最適線速度において、理論段数は粒子径に反比例して大きくなります。5 μmから2 μmへ変えると、約2.5倍の理論段数が得られます(Fig.3)。カラム圧力は粒子径の二乗に比例して高くなります。
(半値幅法)
N7=30600R6,7=2.56
44.6 MPa4.0 MPa
31.0 MPa15.3 MPa
N7=12800R6,7=1.60
R =tR2 - tR1
(W1 + W2) × 12
α - 1α(N√ ) k
k +1( )R = 14
α - 1α(N√ ) k
k +1( )R = 14
2N = 5.54 × W0.5h
tR( )
Fig.1 クロマトグラムを示す係数
W : ピーク幅W0.5h : ピーク半値幅tR : 保持時間t0 : ホールドアップタイム( 同じ単位を用いる )
Peak 1 Peak 2
tR1 tR2t0
…(2)
0 5000 10000 15000 20000理論段数 N
分離
度 R
Time
W0.5h2W0.5h1
W1 W2
「低吸着なカラムに変える」ピーク幅が狭ければ、理論段数は大きくなります。低吸着なL-column2 ODS を使うと、テーリングのないシャープなピークとなり、理論段数が大きくなります(Fig.5, Fig.6)。
12
3
1
2
3
0 5 10 15 20Time (min)
N2=6400R1,2=2.05
N2=14900R1,2=3.99
他社カラム L-column2 ODS
0 5 10 15 20Time (min)
[Analytical conditions]Column: C18, 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: CH3CN/25 mM Phosphate buffer pH 7(35/65)Flow rate: 1 mL/minTemp.: 40℃; Detection: UV 230 nm; Inj. vol.: 2 μLSample: 1. Paroxetine; 2. Citalopram; 3.Fluoxetine
Fig.5 カラムメーカーの変更(抗うつ剤 SSRIs)Application No.L2052
[Analytical conditions]Column: L-column ODS, 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: CH3CN/10 mM CH3COONa in H2O(10/90)
CH3OH/10 mM CH3COONa in H2O(15/85)Flow rate: 1 mL/min; Temp.: 40℃; Detection: UV 254 nmInj. vol.: 0.5 μL; Sample: Sulfonamides
α1,2=1.21R1,2=1.90
アセトニトリル メタノール
Fig.8 有機溶媒の変更(サルファ剤)
1 2
3
1 23
α1,2=1.80R1,2=6.58
0 4 8 12Time (min)
0 4 8 12Time (min)
[Analytical conditions]Column: L-column ODS, 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: CH3CN or CH3OH/20 mM H3PO4(65/35)Flow rate: 1 mL/min; Temp.: 30℃; Detection: UV 254 nmInj. vol.: 5 μL; Sample: 1.Benzoic acid ;2. Phenol
アセトニトリル メタノール
Fig.9 有機溶媒の変更(安息香酸、フェノール)
1
2 12
0 2 4 6 8Time (min)
0 2 4 6 8Time (min)
■ 分離係数を大きくする分離係数(Separation factor: α )は、二つのピークがどの程度離れているかを示したものです。1より大きいと分離していることを示します。Fig.7は理論段数と保持係数が一定のときの式(2)より得られた分離度と分離係数の関係です。分離係数が大きくなれば分離度も大きくなります。
Fig.7 分離度と分離係数の関係
「溶離液の有機溶媒の種類を変える(移動相を変える)」逆相クロマトグラフィーでは、溶離液の有機溶媒にアセトニトリル、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)などが用いられます。有機溶媒の種類及びその比率と保持の関係は、物質により異なります。このため分離係数が変化し、分離を改善することができます。Fig.8は、ピーク1を同じ保持時間に合わせ、アセトニトリルからメタノールに変えたクロマトグラムです。ピーク1とピーク2の分離係数が大きくなり、分離が改善していますが、ピーク2とピーク3のように分離が悪くなることがあります。Fig.9のピーク1とピーク2のように溶出順が変わることがあります。
α - 1α(N√ ) k
k +1( )R = 14
α =k2
k1
tR2 - t0tR1 - t0
=
1
2
3 1
2
3
他社カラム L-column2 ODS
Fig.6 カラムメーカーの変更(ビタミンB12)Application No.L2036
0 2 4 6 8 10Time (min)
0 2 4 6 8 10Time (min)
N1=800
N1=37200
N1=14001
2
3
[Analytical conditions]Column: 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: A: CH3CN; B: 25 mM Phosphate buffer pH 7
A/B, 5/95-30/70 (0-10 min)Flow rate: 1 mL/minTemp.: 40℃; Detection: UV 360 nm; Inj. vol.: 10 μLSample: 1. Hydroxocobalamin; 2. Cyanocobalamin; 3. Methylcobalamin
1 1.2 1.4 1.6 1.8 2分離係数 α
分離
度 R
…(2)
Brand L-1
Brand F-2
Brand D-1
Fig.12 カラム種類の変更(水道法水質管理目標設定項目 農薬類)Application No.L2100
[Analytical conditions]Column: 3 μm or 5 μm; Column size: 2.1 mm I.D.×150 mm L.Eluent: A: CH3CN; B: 0.1% HCOOH in H2O; A/B, 5/95-100/0 (0-40 min); Flow rate: 0.2 mL/minTemp.: 40℃; Detection: ESI-MS(+); Inj. vol.: 10 μL (1 mg/L each)
「カラムの種類を変える(固定相を変える)」逆相クロマトグラフィーでは、様々な長さのアルキル基や、フェニル基やアミノ基などを導入した充填剤があります。
固定相と移動相間との分配平衡に基づいて分離するため、カラムの種類を変えると、同じ組成の溶離液(移動相)で分離挙動が変わることがあります(Fig.11, Fig.12)。
[Analytical conditions]Column: 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: A: CH3CN/CH3OH(50/50); B: 5% CH3COOH in H2O
A/B, 40/60-100/0 (0-20 min)Flow rate: 1 mL/minTemp.: 40℃; Detection: UV 280 nm; Inj. vol.: 5 μLSample: 1. Propyl Gallate(PG); 2. tert-Butylhydroquinone(TBHQ);
3. Butylated hydroxyanisole(BHA); 4. n-Octyl Gallate(OG);5. Butylated hydroxytoluene(BHT); 6. Dodecyl Gallate(DG)
Fig.11 カラム種類の変更(食品添加物 酸化防止剤)
1
2 3
1
23
0 5 10 15 20Time (min)
0 5 10 15 20Time (min)
4 4
55
66
Application No.L2099
オクタデシル基(L-column2 ODS)
フェニルヘキシル基(L-column2 C6-Phenyl)
「温度を変える」分析する温度を変えると、溶離液の粘性、拡散係数、分配係数、pKa等の変化により、保持時間が変わります。一般に分析温度が高くなると保持時間は早くなりますが、解離性物質では保持時間が遅くなることがあります。温度と保持時間の関係は、物質により異なります。このため分離係数が変化し、分離を改善することができます。Fig.10のピーク1とピーク2のように溶出順が変わることがあります。
[Analytical conditions]Column: L-column2 ODS, 3 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: CH3CN/25 mM Phosphate buffer pH 7(35/65)Flow rate: 1 mL/minDetection: UV 230 nm; Inj. vol.: 2 μLSample: 1. Paroxetine; 2. Citalopram; 3.Fluoxetine
Fig.10 温度の変更(抗うつ剤)
温度
40℃
50℃
30℃
2
2
2
1
1
1
3
3
←1,2 3
20℃3
60℃
0 4 8 12 16 20Time (min)
α2,1=1.15R2,1=3.12
α1,2=1.15R1,2=3.85
α1,2=1.30R1,2=8.02
1 23 α1,2=1.41
R1,2=10.98
0 8 16 24 32Time (min)
0 8 16 24 32Time (min)
0 8 16 24 32Time (min)
メソミル アシュラム オキシン銅
ベンスリドフェンチオンカルプロパミドイプロジオン
ダイムロンアゾキシストロビンハロスロフロンメチルシデュロンフラザスルフロンMPP スルホンMPP オキソン
ジウロン プロベナゾール チウラムカルバリル
カルボフランMPP スルホキシドチオジカルブ
MPP オキソンスルホン トリシクラゾール MMP オキソンスルホキシド
オクタデシル基(L-column2 ODS)
フェニルヘキシル基(L-column2 C6-Phenyl)
オクチル基(L-column2 C8)
SiOctadecyl (C18)基
SiOctyl (C8)基
SiPhenyl-Hexyl基
リーフレット内容に関してのお問合せは、東京事業所クロマト技術部又は最寄りの代理店までご連絡ください。
無断転載禁止 2015/04
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ISO9001
■ 保持係数を大きくする保持係数(Retention factor: k )は、試料導入部、検出器、配管接続部などのカラム外容量及びカラムの空隙容量を考慮した上での保持の大きさを示します。Fig.13は理論段数と分離係数が一定のときの式(2)より得られた分離度と保持係数の関係です。保持係数が大きくなれば分離度も大きくなり、3付近から勾配が緩やかになります。
Fig.13 分離度と保持係数の関係
「溶離液の水系比率を増やす」逆相クロマトグラフィーでは、溶離液の水系比率を増やすと保持係数は大きくなります。Fig.14のピーク2とピーク3は、水系比率を75%から85%に増やすと、ほぼ完全分離します。さらに保持係数を大きくしても、分離度はほとんど変わらなくなります。
[Analytical conditions]Column: L-column ODS, 5 μm; Column size: 4.6 mm I.D.×150 mm L.Eluent: CH3OH/10 mM CH3COONa in H2OFlow rate: 1 mL/minTemp.: 40℃; Detection: UV 254 nm; Inj. vol.: 0.5 μLSample: Sulfonamides
Fig.14 水系比率の変更(サルファ剤)
0 4 8 12 16 20Time (min)
水系比率
85%
90%
80%
1
1
1
1 2
2
2
2
6
53
3
3
3
4
4 7
7
8
←5,6
←4,5,67
7
8
89
910
10
11
11
910
←4,5,6
75% k3=0.89R2,3=0.90
k3=1.47R2,3=1.06
k3=2.61R2,3=1.47
k3=5.10R2,3=1.46
■ 分離改善のコツ(まとめ)理論段数は、粒子径を小さくする、カラム長さを長くすることで大きくなります。いずれもカラム圧力の上昇を伴うので、高圧で使用可能なシステムが必要です。分離度を2倍にするためには理論段数を4倍にしなければならないため、この2つでの分離改善には限度があります。ピークを幅を狭くするために、低吸着なカラムの選択は効果的です。分離係数は、わずかな違いで分離度が大きく変わるので、分離改善の重要なファクターになります。様々な要素によって分離係数は変化します。その関係は理論的に説明できないことがあるため、観察と経験に頼ることが多く、分離の最適化には多くの時間を要します。保持係数は、比較的簡単に大きくすることができますが、分析時間が長くなります。保持係数が小さいとき(3以下)に有効です。
補足:高速液体クロマトグラフィー通則や日本薬局方では分離度 R (日本薬局方では Rs)を次の式で定義しています。分離度1.5以上でピークが完全に分離(ベースライン分離)していることを示します。
参考:高速液体クロマトグラフィー通則(JIS K 0124:2011 )分析化学用語(クロマトグラフィー部門)(JIS K 0214:2013)第十六改正日本薬局方
α - 1α(N√ ) k
k +1( )R = 14
tR - t0t0
k =
R = 1.18 × W0.5h1 + W0.5h2
tR2 - tR1( )
実際の分析で得られる「理論段数」「分離係数」「保持係数」は複雑に関係しています。クロマトグラムから得られる数値の意味を理解し、いろいろな角度から分離改善を試みることが大切です。
元のクロマトグラム
分離度に寄与する大きさ
大
小
…(2)
0 2 4 6 8 10保持係数 k
分離
度 R
Fig.15 分離改善のイメージ
分離係数を大きくする
保持時間
分離係数
理論段数理論段数を大きくする
保持係数を大きくする
Time