Transcript
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2010.6.7 (No.17, 2010)

むスラム金融の課題ずリスク

財囜際通貚研究所 開発経枈調査郚 䞻任研究員

ç³ è°· 英茝 [email protected]

芁 旚

① むスラム金融は投機的な取匕が犁止され、レバレッゞずも無瞁であったため、

䞖界金融危機によっおむスラム銀行が盎接的に受けた圱響は䞀般銀行に比

べれば小さかったず蚀える。 ② しかしむスラム銀行は䞍動産郚門ぞの゚クスポヌゞャヌが高かったこずな

どによっお、流動性の枯枇、䞍動産䟡栌䞋萜ドバむ・ショックなどの䞖

界金融危機の二次的圱響は倧きくなった。 ③ こうした過皋を通じお、むスラム金融の抱える課題も敎理されおきおおり、

銀行、資本垂堎、保険などの金融セクタヌ間でのバランスの取れた成長、流

動性管理手段ずしお、むスラム・マネヌ・マヌケットの創蚭などが急がれお

いる。 ④ むスラム金融は䞀般金融が抱えるリスクに加えお、むスラム金融特有のリス

クがあり、たた䞀般金融ず同様のリスクであっおもリスクが顕珟化した堎合

の圱響などは䞀般金融ずは異なる。 â‘€ むスラム金融特有のリスクずしおは、シャリア・リスクが挙げられ、最近の

スクヌク・デフォルト事䟋では、シャリア・リスクが改めお認識されるこず

になった。

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本 文 䞖界金融危機埌もむスラム金融の拡倧は続いおいるが、金融危機、さらには

スクヌクのデフォルト発生などを受け、むスラム金融の抱える課題ずリスクも

明らかになっおきおいる。本皿では珟圚、取組みが進められおいるむスラム金

融の課題ず珟実化したリスクに぀いお玹介する。

䞖界金融危機で顕珟化したむスラム金融の課題

1䞖界金融危機のむスラム銀行ぞの圱響 むスラム銀行資産は 2007 幎末で 6,600 億ドルを蚘録し、地域別に芋るず、䞭

東湟岞諞囜を䞭心ずした䞭東地域が玄 80のシェアを占めおいる。たたむスラ

ム金融機関䞊䜍 500 行の資産残高は 2008 幎には前幎比で 28.6増加し 8,220 億

ドルずなった。 䞭東湟岞諞囜のむスラム銀行ず䞀般銀行の資産・利益状況を比范すれば、図衚

1 の通りであり、むスラム銀行の成長性、収益力の高さが明確になっおいる。

䞀般銀行 むスラム銀行

資産残高10億ドル 1,135,669 232,189利益10億ドル 22,008 7,666資産䌞び率2007-08 16.3  38.2 利益䌞び率2007-08 △ 6.1  20.1 利益資産 1.9  3.3 

泚䞀般銀行のむスラミック・りィンドりはむスラム銀行に含たず。出所 IFSB, IDB, IRTI, "Islamic Finance and Global Financial Stability", April 2010

図衚1 䞭東湟岞地域におけるむスラム銀行ず䞀般銀行の比范2008幎

たた金融危機前埌の動向を䞀般銀行ずむスラム銀行、それぞれ䞊䜍 10 行を抜

出しお比范するずIFSB, IDB, IRTI, "Islamic Finance and Global Financial Stability", April 2010、

・ 2006 幎から 2008 幎にかけお䞀般銀行の資産額は 36増加し 17.4 兆ドルず

なったが、むスラム銀行の資産増加率は 55に䞊った940 億ドルから

1,470 億ドルぞ。 ・ 䞀般銀行のネット収益は 2006 幎の 1,160 億ドルから 2008 幎には 420 億ド

ルの損倱ぞず急枛したが、むスラム銀行のネット収益は同期間に 420 億ド

ルから 460 億ドルぞず 9の増加を蚘録した。䞀般銀行では 4 行が玔損倱

ずなったが、むスラム銀行では 2008 幎に玔損倱ずなった銀行は䞀行もない。

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・ 䞀般銀行䞊䜍 10 行のうち、半数の 5 行は政府の金融支揎を受けたが、むス

ラム銀行で政府支揎を受けたのは 1 行に留たる。 このように䞖界金融危機によっおむスラム銀行が受けた盎接的な圱響は䞀般

銀行に比べれば小さかったず蚀える。しかしむスラム銀行は未だ揺籃期にあり、

投資察象も限られおいるこずもあっお、特に䞍動産郚門ぞの゚クスポヌゞャヌ

が高いなどの特城がある。このため流動性の枯枇やドバむ・ショック等による

䞍動産䟡栌の急萜など、䞖界金融危機の二次的な圱響をむしろ倧きく受けるこ

ずになった。 図衚 2は䞭東湟岞諞囜の䞻芁なむスラム銀行の収益状況を 2008幎ず 2009幎で

比范したものであるが、2009 幎に収益が倧きく萜ち蟌んでいる状況が窺える。

2009幎 2008幎

Al Rajhi Banking and Investment Corp. サりゞアラビア 1803.74 1739.24 3.71Kuwait Finance House クりェヌト 412.00 544.60 △24.35Qatar Islamic Bank カタヌル 362.83 450.76 △19.51Al Rayan Bank カタヌル 241.68 251.66 △3.97Dubai Islamic Bank UAE 326.64 470.98 △30.65Qatar International Islamic Bank カタヌル 140.33 137.53 2.03Abu Dhabi Islamic Bank UAE 21.24 231.66 △90.83Bank Al Jazeera サりゞアラビア 7.20 59.17 △87.84Sharjah Islamic Bank UAE 70.81 63.04 12.33Al-Khaleej Commercial Bank バヌレヌン 8.20 72.19 △88.65Al Salam Bank バヌレヌン 36.92 67.54 △45.33Emirates Islamic Bank UAE 35.60 109.04 △67.35

出所Global Investment House

ネット収益癟䞇ドル銀行名 囜 名 増枛率

図衚2 䞭東湟岞諞囜むスラム銀行の収益動向

2明らかずなったむスラム金融の課題 䞖界金融危機による盎接的な圱響がむスラム銀行の堎合、䞀般銀行に比范し

お軜埮に留たった芁因ずしお、むスラム金融の特城が指摘される。 むスラム金融の基本的な特城ずしおは、利子の犁止、リスク分担、投機的行

為の犁止䞍確実な取匕も含むなどが指摘される。生産掻動なしにマネヌが

賌買力を高める効果を生んではならず、実䜓経枈の裏付けを持぀金融でなけれ

ばならない。このためむスラム金融では実物資産の裏付けがあるか、金融提䟛

者むスラム銀行も経枈掻動に参加するこずが求められる。たたリスク分担、

生産掻動ぞの参加ずいった芳点から情報公開共有等の契玄䞊の矩務が重芖

される。むスラムが犁止するアルコヌル等の事業に関わるこずも犁じられ、こ

れら党おを勘案した党䜓ずしおのシャリア適栌性が求められる。

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こうしたむスラム金融を、䞀般金融ず比范した堎合に、実䜓経枈掻動の裏付け、

金融の埪環や信甚創造の䜎さずいった特城が挙げられ、このために金融危機の

圱響は盞察的に軜埮なものずなった。しかし金融危機が経枈危機ぞず波及しお

いく過皋で、むスラム金融の抱える課題ずリスクも顕珟化しおいった。 䞖界金融危機ずその察応を受けお、むスラム金融サヌビス委員䌚IFSBIslamic

Financial Services Boardは、むスラム開発銀行Islamic Development Bank、む

スラム研究・教育機関IRTIIslamic Research and Training Instituteず共同で“The Task Force on Islamic Finance and Global Financial Stability”を組織し、むスラム金

融の課題を怜蚌した。2010 幎 4 月に発衚されたその報告曞では、むスラム金融

のむンフラ匷化の課題ずしお、以䞋の 8 点を指摘しおいる。

① IFSBのプルヌデンシャル基準の囜際的な適甚1 ② 流動性管理のむンフラ開発 ③ 匷力な金融セヌフティネットの構築2 ④ 有効な危機管理ず解決に関する枠組みの構築 â‘€ 䌚蚈・監査・情報公開基準の匷化 ⑥ 有効なマクロ・プルヌデンシャル監督枠組みの構築 ⑩ 信頌のおける栌付け機関の蚭立3 ⑧ 金融安定化達成のための各機関の囜際協調ず各囜間の協調 同タスクフォヌスの提蚀を受けお、むスラム金融安定化フォヌラムIFSFThe Islamic Financial Stability Forumが蚭立された。IFSF は監督圓局が共通の課

題を審議し、むスラム金融システムの安定化を達成するための協働に向けた実

働郚隊ずなる。 たた䞖界金融危機を受けお、新たな金融監督芏制の導入が準備されるなか、

これに合わせたむスラム金融の芏制、監督䜓制をどのように敎備しおいくかも、

むスラム金融に関する囜際機関を䞭心に怜蚎が進められおいる。 1 IFSB のプルヌデンシャル基準は BIS 基準をベヌスに、むスラム銀行向けにアレンゞした

ものであるが、銀行の資本構成TierⅠ、Ⅱ等に関しおは特別の基準を蚭けおいないなど

の盞違がある。 2 シャリアに適栌した最埌の貞手機胜、緊急融資メカニズム、預金保険など。 3 珟状では䞀般金融ず同じ栌付け機関ムヌディヌズ、S&P、フィッチ等の囜際的栌付け機

関やマレヌシアの RAM 等の地堎栌付け機関がむスラム金融に関しおも栌付けを行っおい

る。むスラム金融に関する囜際機関の䞀぀ずしお、バヌレヌンに囜際むスラム栌付機関

IIRAInternational Islamic Rating Agencyも蚭立されおいるが、倧半が䞀般金融の

栌付け機関による栌付けを取埗しおいる。

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3むスラム・マネヌ・マヌケット 近幎、むスラム金融の囜際化、クロスボヌダヌ取匕の拡倧が進むなか、むスラ

ム金融システムの倖郚ショックに察する抵抗力を高めるこずが益々重芁になっ

おきおいる。 たたむスラム金融の成長は銀行郚門が極めお倧きなシェアを占めおおり、資本

垂堎や保険などの他の金融郚門ずのバランスが取れおいないのが珟状である

次ペヌゞ図衚 3。このためむスラム銀行による金融は短期に傟斜する傟向に

あり、むスラム金融郚門党䜓でセクタヌ間を跚った資金配分やリスク・ヘッゞ

などの効果は生たれおこない。

銀行

74%

資本垂堎

25%

保険

1%

図衚3 金融郚門別むスラム金融資産シェア2008幎

出所IFSL , "Report on Islamic Finance 2010"

むスラム銀行に関しおは、流動性管理手段が未敎備の状態であり、金融危機を

受けた流動性の枯枇がむスラム銀行に圱響を䞎えるこずになった。流動性管理

手段の開発に぀いおは前述の IFSB等の報告曞でもむスラム金融の課題ずしお指

摘されおいるが、流動性管理手段ぞのアクセスは金融仲介機胜のコストを削枛

し、むスラム金融システムの効率性ず競争力を高める芁因ずもなるものである。 このため 2009 幎には IFSB によっお流動性タスクフォヌスLiquidity Task Forceが蚭立され、実斜に向けおの最終段階に入っおいる。 むスラム金融の流動性管理䟛絊を担うむスラム・マネヌ・マヌケット䞀

般金融の銀行間資金取匕垂堎は未発達であるが、むスラム金融で先行するマ

レヌシア、バヌレヌンでは、スクヌク囜債のレポ取匕の圢態などでむスラム・

マネヌ・マヌケットの敎備が進められおいる。 たたむスラム金融の問題点の䞀぀に、むスラム金融手段による「最埌の貞手」

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が存圚しないこずが指摘されるが、䞭倮銀行を盞手ずしたスクヌク囜債のレポ

取匕は、䞭倮銀行による「最埌の貞手」機胜の提䟛にも繋がるものである。 むスラム金融のリスク

むスラム金融はこれたで、その拡倧ず革新に焊点が圓おられ、むスラム金融の

抱えるリスクに぀いおはその理解ず管理が未だ䞍足しおいるず蚀える。 むスラム金融も金融であるため、䞀般金融が抱えるのず同皮のリスクを内包す

る。しかし同じリスクであっおも、リスクが顕珟化した堎合の圱響は䞀般金融

ずむスラム金融では異なるものである。䟋えば信甚リスクに関しお、䞎信先が

デフォルトに陥った堎合、むスラム金融ではどのような圢態で信甚を䟛䞎しお

いたかによっおその圱響は異なる。損倱負担圢態のムダラバやムシャラカの堎

合文末「むスラム金融の䞻なスキヌム」参照には、むスラム銀行も圓該プ

ロゞェクトに出資ないしは参加しおいるため、䞀般金融に比しお、損倱の床合

いは倧きなものずなりうる。さらにむスラム金融では延滞金利、眰則金利等を

城収するこずはシャリアで犁じられおいるこずにも泚意が必芁である。 たたむスラム銀行では、䞀般銀行に比范しお、手続きが嵩むこずで、その分、

オペレヌショナル・リスクやリヌガル・リスクなどがより倧きなものずなる。 䟋えば建蚭請負契玄で利甚されるむスティスナでは、銀行は建物建蚭の発泚者

ずの契玄ず建蚭の発泚者ずなる建蚭業者ずの契玄をそれぞれ別々に締結せねば

ならないむスラムでは、䞍確実性の芳点から、䞀方が他方の付垯条項ずなる

ような契玄の締結は犁止される。このためそれぞれの契玄でリヌガル・リスク

が発生するほか、その事務凊理に際しお、オペレヌショナル・リスクも発生す

るこずになる事務凊理負担もそれだけ倧きい。 むスラム金融では䞀般金融の抱えるリスクに加えお、シャリア・リスクなどむ

スラム金融特有のリスクも存圚するシャリア・リスクに぀いおは埌述。 さらにむスラム金融は未だ揺籃期にあるずいえ、金融システムや垂堎が未発達

である郚分も倚く、これによっお高たるリスクもある。前述したが、䞭東湟岞

諞囜のむスラム銀行で、融資先が䞍動産郚門に傟斜しおいるこずもこうしたリ

スクず指摘できよう。 珟状、むスラム金融が抱える䞻なリスクは以䞋のように敎理できる。

流動性リスク 前述の通り、むスラム・マネヌ・マヌケットが未発達であるため、今回の䞖

界金融危機のように垂堎の流動性が枯枇した堎合に䞀気に流動性リスクが顕珟

化するこずになる。たたシャリアに埓うこずで流動化できない資産も倚く実

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物資産を裏付けずした債暩は譲枡できない、資産の流動化によっお流動性を調

達するこずもむスラム銀行では難しい。さらにむスラム金融ではシャリア適栌

手段による「最埌の貞手」も存圚しない4。 期間のミスマッチ むスラム銀行では前述のように短期の調達が䞭心であり、長期のプロゞェク

トファむナンス等に察応する堎合、資産・負債で長短の期間ミスマッチが発生

する傟向にある。 収益金利倉動リスク むスラム金融では、負債が倉動収益であるのに察しお、資産には固定収益の郚

分も倚く、資産ず負債の間で収益の固定・倉動が䞍䞀臎の状態にある。加えお

䞀般金融のように金利ヘッゞ手段等がなく、収益倉動リスクは倧きくなる図

è¡š 4 参照。

資 産 負 債

圚庫流動性預金ワディア、カルト

資産裏付け取匕ムラバハ、むゞャラ、むスティスナ、サラム

投資預金ムダラバ、ワカラ

利益分配取匕ムダラバ、ムシャラカ

利益平衡準備金

手数料取匕りシュル等

資 本

泚青郚分が収益金利固定、赀郚分が収益倉動項目。

図衚4 むスラム銀行のバランスシヌト

なお、むスラム銀行の投資預金Restricted & Unrestricted Investment Accounts

は、原則ずしおむスラム銀行の運甚により収益が倉動するものであり、損倱が

発生した堎合には、投資預金が棄損する損倱を負担するこずもありうる。

しかし実際には、むスラム銀行は利益平衡準備金を利甚するこずで、収益の平

準化を図るずずもに、損倱を顧客に負担させるこずを回避する。仮に顧客に負

担させた堎合には、預金を党お倱う事態をも芚悟しなければならないからであ

る。預金収益を期埅しお䞀般銀行預金に比范しお有利であるためむスラム

4 各囜䞭倮銀行は䞀般金融の最埌の貞手ずなっおいるが、むスラム金融に関しおは、シャリ

ア適栌方匏で金融の提䟛を行わねばならず、䞭倮銀行のファむナンス・システムずしお確

立されおいないのが珟状である。

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預金を行う顧客が倚く、むスラム金融の理念に埓い、損倱を受け入れる顧客は

珟実には少ない。 むスラム銀行サむドではこうしたリスクに察応するため、投資預金ずしおでは

なく、顧客ずの契玄を投資信蚗の圢態で行う方策も考えられる。 こうした事態ぞの察応ずしお、バヌレヌンではバヌレヌン䞭倮銀行CBB

Central Bank of Bahrainがムダラバ、ワカラの投資預金のリスク算定資産の 30を資本に積み䞊げる芏定を蚭けおいる。 リヌガル・リスク プロゞェクト参加型融資ムシャラカの堎合、銀行にもプロゞェクトに぀

いお契玄に基づいた関䞎が矩務付けられる。この堎合、銀行が契玄に基づいた

矩務を履行しおいないず蚎えられるリスクが出おくる。 䞍動産䟡栌等倉動リスク 䞭東湟岞諞囜のむスラム銀行では、䞍動産建蚭ブヌムを反映しお、資産の半分

が䞍動産郚門ぞの投資に向けられおいる。たたむスラム銀行では䞀般銀行のロ

ヌンず異なり、䞍動産開発そのものに゚クスポヌゞャヌを持぀圢態ずなる

ためムシャラカ、むスティスナ、䞍動産䟡栌倉動リスクを盎に被るこずにな

る。さらにこうした状況䞋で、事業パヌトナヌがどのような察応を取るか、パ

ヌトナヌの事業運営胜力もリスクずしお被るこずになる。 䞍動産以倖にも、金融の提䟛に圓たっお、裏付け商品等をむスラム銀行が所有

する堎合、むスラム銀行の貞借察照衚䞊では圚庫ずしお蚈䞊されるが、商品䟡

栌の倉動は圚庫の評䟡にも圱響を及がすこずになる。 こうしたリスクの算定には、䟋えば信甚リスクに関する過去のデフォルト発

生事䟋等、過去のデヌタの蓄積がベヌスずなるが、むスラム金融では過去のデ

ヌタは未だ蓄積されおいない。したがっおリスクの算定も難しいのが珟状であ

る。 シャリア・リスク

むスラム金融のリスクずしおもっずも特城的なものはシャリア・リスクである。

むスラム金融のシャリア適栌性に起因するリスクであるが、シャリア・リスク

はむスラム金融取匕の様々な段階で発生するリスクでもある。 むスラム金融取匕開始に圓たっおは、シャリア・ボヌドによるシャリア適栌刀

断を受けなければならないが、䟋えば協調融資等の案件においお、シャリア適

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栌性の刀断たでに時間がかかり実際のビゞネスに参加し損なうリスクが存圚す

る。 たた期䞭でシャリア適栌性が問題ずなるケヌスもある。䞀般的には䞀床、シャ

リア適栌性を刀定したシャリア・ボヌドがその埌に期䞭で芋解を倉曎するケヌ

スは少ない。しかし今埌のシャリア適栌性の刀定には圱響を䞎えるこずになり、

これたでず同様のスキヌムでシャリア適栌性を匕き続き受けられるか吊かは䞍

透明ずなり、新たな察応を考える必芁が生じるリスクも生たれる。 仮にシャリア䞍適栌ずなった堎合には、むスラム銀行ずしおの評刀リスク

Reputation Riskが顕珟化するこずになる。 そしおデフォルト等が発生した堎合には、契玄の解釈を巡り、シャリア適栌

性が新たに問題ずしお提起されるリスクが存圚する。 最近、このリスクがスクヌクのデフォルトに関しお顕珟化した。クりェヌト

最倧の投資䌚瀟である the Investment Dar以䞋、Dar 瀟のスクヌク発行は

SPCがデフォルトを起こし、法的な解決が英囜の裁刀所に持ち蟌たれたthe Investment Dar のスクヌクのスキヌムに぀いおは図衚 5 参照。 その際Dar瀟は、圓該取匕はシャリア䞍適栌であるため認められず、したがっ

おデフォルトによる債務返枈の必芁性のないこずを䞻匵した。スクヌク発行時

にはシャリア適栌ずしお取匕を始めたが、これを䞀転させお、そもそもシャリ

ア䞍適栌であったずシャリア適栌性の刀断をひっくり返したのである5。

投資家

SPC持分を定期的に買取り   スクヌク賌入 SPC持分をDarにリヌス

投資家 SPCスクヌク発行䜓 the Investment Dar

収益分配 持分買取り代金を支払いリヌス料を支払い

投資家      金銭出資    珟物出資

共同事業

図衚5 the Investment Dar 債ムシャラカ・スクヌクのスキヌム

Dar 瀟による䞀皮の法廷闘争戊術であるが、契玄におけるシャリアず䞀般法

英囜のコモン・ロヌずの関係に関する裁刀所の芋解が泚目されるこずにな

った。 同様の法廷闘争は、シャミル銀行事件Beximco Pharmaceuticals vs. Shamil Bank

5 シャリア適栌性の刀断の倉曎に぀いおは、スキヌムずしおはシャリア適栌だが、実際の取

匕がこれを満足しおいなかったずしお、シャリア適栌性の刀断自䜓は倉わっおいないずす

る䞻匵もある。

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of Bahrain & Othersなど過去にも事䟋があったが、これたでの英囜の裁刀所の

刀決は、「シャリアは準拠法ずはなりえない」ずいう刀断であった。 しかし今回の Dar 瀟のケヌスでは、シャリアず䞀般法の関係には螏み蟌たず、

元本の返枈のみを決定し、利息分に぀いおは決定を回避した。 スクヌクのデフォルトが発生した堎合、裏付け資産の所有暩がどうなっおい

るか、担保ずなりえるか、他の債暩者ずの優劣など、法的に未だ䞍明確な点は

数倚い。英囜法を準拠法ずしおいおも、発行䜓であるSPCの所圚地、事業者の所

圚地など、耇数の囜に跚り、倒産法や担保法、あるいは登蚘などの敎備状況も

異なるために準拠法のみの刀断で党おが解決されるものではない。加えお新た

にシャリアの問題が浮䞊しおきたこずで、むスラム金融に関する法制面でのリ

スクは高たったものず蚀えよう6。 2010 幎 5 月 35 日にバヌレヌンで開催された第 7 回むスラム金融サヌビス委

員䌚サミットテヌマは“Global Financial ArchitectureChallenges for Islamic Financeでは、シャリア・リスクに関する議論が戊わされた。䞻にアフリカ諞

囜からむスラム金融におけるシャリア適栌の重芁性が匷調された。 珟状の金融取匕はむスラムの法源であるクルアヌンコヌランやスンナハ

ディヌス預蚀者ムハンマドの蚀行録等に蚀及されおいない郚分が倚く、シ

ャリア適栌性の刀定はシャリアをどう解釈するかによっお異なっおくるもので

ある。これがむスラム金融の最倧の問題ず指摘されるが、実際的な解釈に圓た

っお、出来るだけむスラムの粟神に忠実に解釈を行うか、むスラム金融の拡倧

のために䞀般金融に則した柔軟な解釈を行うか、分れるずころである。埌者の

堎合には、䌌非むスラム金融ずなる危険性を内包しおおり、この点が新興のア

フリカ諞囜等から問題芖されおいるものず芋られる。 アフリカ諞囜等から提起されたむスラム金融のシャリア適栌性は、䞀般金融を

ベヌスに、そこからシャリア適栌性ずいうフィルタヌを通しおむスラム金融を

捉えおいく、これたでの方向性ぞの疑問に基づくものである7。むスラム金融は

䞀般金融の代替的金融取匕手段ではなく、シャリアから掟生する䞀般金融ずは

別の金融手段であり、そもそもシャリア・リスクずいうものは存圚しないずの

芋解である。より根本的なずころからむスラム金融を捉え盎すべきであるず䞻

匵する。

6 圓初の契玄で、準拠法ずシャリアの関係を明確に蚘茉するこずで、のちにシャリア違反ず

されるリスクが枛じられるこずから、これをオペレヌショナル・リスクず捉える芋方もあ

る。 7 むスラム金融取匕の基本的なスキヌムはむスラム䞖界で行われおいた䌝統的な商取匕の

手法を埩興させたり、金融取匕にアレンゞしたりしお䜜り䞊げられたものである。しかし

䞀般金融取匕でも利甚される金融手段であるため、基本的なスキヌムを珟実の取匕ぞ応甚

しおいくに圓たっおは、䞀般金融ず同様の効果を䞊げるこずが意識されおいるず蚀える。

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利子の犁止などの特城を持぀むスラム金融むスラム経枈の目的は、りン

マむスラム共同䜓におけるマスラハ公益の確立である。したがっおむ

スラム金融をその根本から捉え盎すべきずの䞻匵を突き詰めおいけば、むスラ

ム金融ず蚀えるのか吊かは、利子の犁止などより広く、金融取匕がりンマにお

けるマスラハの確立に圹立っおいるかずの疑問が突き付けられる可胜性もなし

ずはしない。むスラム金融が経枈発展段階の䜎い、アフリカ等のむスラム諞囜

に広たっおいくに぀れお、この懞念はより高たっおいくように思われる。オむ

ルマネヌで最い、経枈成長を高める䞭東湟岞諞囜が、むスラム金融の䞭心地ず

しお、むスラム金融取匕を振興しおいけば、それがりンマの地域的アンバラン

ス貧富の栌差等の解消に向かわなければ、むスラム金融の目的を逞脱しお

いるず評䟡されないずも限らない8。 むスラム金融が䞖界のむスラム諞囜に広がりを芋せお行った堎合、シャリ

ア・リスクに関しおは、こうしたむスラムのそもそもの目的にたで遡った留意

が必芁ずなっおくるケヌスもありうる これたで述べおきたように、むスラム金融は未だ倚くの課題を抱えおおり、

課題解決に向けた努力は続けられおいるが、その原因がむスラム金融の特城か

ら掟生しおくる郚分もあるため、解決は容易ではない。リスクに぀いおも同様

であり、抱えおいるリスクをしっかりず認識し、リスク削枛策を地道に远求し

おいくしか察応策はない。むスラム金融の抱えるリスクのなかでも、特にシャ

リア・リスクは、むスラム金融の地域的な拡倧ずずもに、より倧きな問題ずな

っおいくこずも考えられる。むスラム金融が䞀般金融の代替的金融手段ずしお

確立しおいくには、ただ時間を芁するものず思われる。

ムラバハ 売買取匕。売倀ず買倀の差額が利息盞圓ずなる。むゞャラ リヌス取匕。ムダラバ 信蚗取匕。ムシャラカ 共同出資。

むスティスナ補造する商品を銀行が顧客に代わっお補造者に発泚、代金を支払う取匕。補造されたものは顧客に匕き枡され、銀行は顧客から代金をリヌス料などずしお回収する。

サラム売䞻が察象物を埌日匕き枡す玄束で、買䞻が代金を䞀括先払いする先枡し取匕。

ワカラ 代理人を指名し、代理人に業務遂行を任せ、手数料を支払う取匕。

参考むスラム金融の䞻なスキヌム

以 侊

8 むスラム開発銀行が、産油囜のオむルマネヌを非産油囜の開発に充おるこずで、むスラム

諞囜間での資金の再分配を行う機胜を担っおいる。たた䞭東湟岞諞囜では、開発金融機関

を蚭立し、二囜間、倚囜間での開発支揎を行っおいる。

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